(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143915
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】光送信装置、遅延制御回路、及び遅延制御方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
G02F1/01 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056863
(22)【出願日】2023-03-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/次世代コンピューティング技術の開発/異種材料集積光エレクトロニクスを用いた高効率・高速処理分散コンピューティングシステム技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】▲角▼田 有紀人
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA02
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA09
2K102DA04
2K102DB04
2K102EA02
2K102EA17
2K102EA25
2K102EB22
(57)【要約】
【課題】光変調器の動作中に駆動信号の入力タイミングずれを自動制御する遅延制御技術を提供する。
【解決手段】光送信装置は、マッハツェンダ干渉計を構成する導波路に沿って分割された3以上の電極セグメントを有する光変調器と、前記光変調器の動作中に前記3以上の電極セグメントに入力される同一信号の入力タイミングを制御する遅延制御回路と、を備え、前記同一信号が入力される前記3以上の電極セグメントは、前記光変調器を通過する光に対して異なる変調量をもち、前記遅延制御回路は、前記3以上の電極セグメントの中の制御対象の電極セグメントの信号入力タイミングを、他の電極セグメントの中で変調量が最大の電極セグメントの入力タイミングにしたがって制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マッハツェンダ干渉計を構成する導波路に沿って、分割された3以上の電極セグメントを有する光変調器と、
前記光変調器の動作中に、前記3以上の電極セグメントに入力される同一信号の入力タイミングを制御する遅延制御回路と、
を備え、
前記同一信号が入力される前記3以上の電極セグメントは、前記光変調器を通過する光に対して異なる変調量をもち、
前記遅延制御回路は、前記3以上の電極セグメントの中の制御対象の電極セグメントの信号入力タイミングを、他の電極セグメントの中で変調量が最大の電極セグメントの入力タイミングにしたがって制御する、
光送信装置。
【請求項2】
前記3以上の電極セグメントは、サイズまたは長さが異なり、
前記サイズまたは前記長さが異なる前記3以上の電極セグメントに、前記同一信号が入力される、
請求項1に記載の光送信装置。
【請求項3】
前記3以上の電極セグメントに入力される前記同一信号は異なる振幅をもつ、
請求項1に記載の光送信装置。
【請求項4】
前記同一信号を異なる増幅率で増幅する増幅回路、
を有する請求項3に記載の光送信装置。
【請求項5】
前記遅延制御回路は、前記3以上の電極セグメントのうち、最も変調量が大きい電極セグメントから順に遅延調整する、
請求項1に記載の光送信装置。
【請求項6】
前記遅延制御回路は、前記光変調器の出力光のパワーが最大に近づくように、前記3以上の電極セグメントに入力される前記同一信号の前記入力タイミングを調整する、
請求項1に記載の光送信装置。
【請求項7】
前記遅延制御回路は、前記光変調器の出力光の検出結果を表す電気信号から所定の周波数成分を抽出する周波数フィルタを有し、
前記周波数フィルタで抽出された前記周波数成分のパワーが最大に近づくように、前記3以上の電極セグメントに入力される前記同一信号の前記入力タイミングを調整する、
請求項6に記載の光送信装置。
【請求項8】
光変調器のマッハツェンダ干渉計の導波路に沿って設けられた異なる変調量の3以上の電極セグメントに入力される同一信号の遅延を調整する遅延回路と、
前記光変調器の出力光のパワーをモニタするモニタと、
前記モニタのモニタ結果に基づいて、前記異なる変調量の前記3以上の電極セグメントに入力される前記同一信号の入力タイミングを制御する制御回路と、
を備える遅延制御回路。
【請求項9】
前記制御回路は、前記モニタでモニタされるパワーが最大になるように、前記3以上の電極セグメントに入力される前記同一信号の前記入力タイミングを制御する、
請求項8に記載の遅延制御回路。
【請求項10】
前記光変調器の出力光の検出結果を表す電気信号から所定の周波数成分を抽出する周波数フィルタ、
前記モニタは、抽出された前記所定の周波数成分のパワーをモニタし、
前記制御回路は、前記所定の周波数成分の前記パワーが最大に近づくように、前記3以上の電極セグメントに入力される前記同一信号の前記入力タイミングを制御する、
請求項9に記載の遅延制御回路。
【請求項11】
光変調器のマッハツェンダ干渉計を構成する導波路に沿って設けられた3以上の電極セグメントに異なる変調量を設定し、
前記異なる変調量の前記3以上の電極セグメントに同一信号を入力し、
前記3以上の電極セグメントの中で、制御対象の電極セグメントの信号入力タイミングを、他の電極セグメントの中で変調量が最大の電極セグメントの入力タイミングにしたがって制御する、
遅延制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光送信装置、遅延制御回路、及び遅延制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光変調器のマッハツェンダ(MZ)干渉計を構成する2本の導波路の一方または両方に沿って複数の信号電極を設け、各電極を独立して駆動する構成が採用されつつある(たとえば、特許文献1及び2参照)。このような構成の光変調器は「セグメント変調器」と呼ばれることがある。長い信号電極を複数の電極に分割し、分割された各電極に個別に駆動電圧を印加することで、素子の容量を低減し、高周波への対応が可能になる。セグメント変調器では、各電極を光が通過するタイミングと、その電極にデータ信号を入力するタイミングとを一致させる遅延制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-24347号
【特許文献2】国際公開第2012/063413号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のセグメント変調器の遅延制御は、主として電気信号の配線長のばらつきに起因する遅延(数ピコ秒から数十ピコ秒)と、光信号の伝搬遅延(50ピコ秒程度)に起因する遅延を制御するものであり、工場出荷時に遅延調整が行われるのが一般的である。近年の通信トラフィックの急激な増大に応じてボーレートが高くなると、光変調器が用いられる環境における温度、湿度などのばらつきや変動で、電子回路側に発生する遅延変動が無視できなくなる。光変調器の動作中に遅延量が変動すると、波形が歪み、通信品質が劣化する。本開示は、光変調器の動作中に駆動信号の入力タイミングずれを自動制御する遅延制御技術を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態において、光送信装置は、
マッハツェンダ干渉計を構成する導波路に沿って、分割された3以上の電極セグメントを有する光変調器と、
前記光変調器の動作中に、前記3以上の電極セグメントに入力される同一信号の入力タイミングを制御する遅延制御回路と、
を備え、
前記同一信号が入力される前記3以上の電極セグメントは、前記光変調器を通過する光に対して異なる変調量をもち、
前記遅延制御回路は、前記3以上の電極セグメントの中の制御対象の電極セグメントの信号入力タイミングを、他の電極セグメントの中で変調量が最大の電極セグメントの入力タイミングにしたがって制御する。
【発明の効果】
【0006】
光変調器の動作中に駆動信号の入力タイミングずれを自動制御する遅延制御技術が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の遅延制御の基本概念を示す図である。
【
図2】ある電極セグメントへの信号入力タイミングずれの調整例を示す図である。
【
図3】ある電極セグメントへの信号入力タイミングずれの調整例を示す図である。
【
図4】実施形態の遅延制御が適用されるデジタルコヒーレント向け光送信器の構成例を示す図である。
【
図6】同じ信号が入力される複数の電極セグメントの構成例を示す図である。
【
図10】変形例の遅延制御の基本概念を示す図である。
【
図11】
図10の遅延制御が適用されるデジタルコヒーレント向け光DAC送信器の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下で、図面を参照して、実施形態の遅延制御の具体的な構成と手法を説明する。以下に示す形態は、本開示の技術思想を具現化するための一例であって、開示内容を限定するものではない。各図面に示される構成要素の大きさ、位置関係等は、発明の理解を容易にするために、誇張して描かれている場合がある。同一の構成要素または機能に同一の名称または符号を付けて、重複する説明を省略する場合がある。
【0009】
実施形態では、光変調器の信号電極を複数の電極セグメントに分割したセグメント光変調器の実動作中に、遅延ずれ、すなわち電極セグメントへの信号入力のタイミングずれを調整し、制御する。工場出荷時や現場での光変調器の立ち上げ時には、通信の開始前にランダムなトレーニング系列などを用いて、電極セグメント間の遅延量を相対的に調整できる。制御対象となる電極セグメントと基準となる電極セグメントの間で相対的に遅延ずれを調整する間、その他の電極セグメントへの信号入力はオフにされる。遅延制御回路は、光変調器の出力光のモニタ結果が、どの電極セグメントと電極セグメントの間での相対的なタイミングずれを表しているのかを認識できる。これに対し、実動作中は光変調器へのデータ信号の入力を停止できない。光変調器を動作させつつ、複数の電極セグメント間の相対的な遅延ずれ、すなわち信号入力のタイミングずれを調整するための工夫が必要である。
【0010】
光変調器の実動作中に、同一の信号が入力される3以上の電極セグメント間での信号入力タイミングを制御するために、同一信号が入力される3以上の電極セグメント間で変調量を異ならせる。変調量は、電極セグメントのサイズを異ならせる、変調強さを異ならせる、などにより変更可能である。同一の信号入力に対して電極セグメントの長さを異ならせると、光と電気の相互作用長が変化して変調量が変わる。変調強さまたは変調度は、搬送波の強度に対する信号の強度で表され、たとえば、電極セグメント間で入力される同一信号の振幅を異ならせることで、変更可能である。
【0011】
3以上の電極セグメントに同一の信号が入力される状態では、変調量の大きい電極セグメントでの影響が最も支配的になる。同一の信号が入力されている3以上の電極セグメントの中のあるひとつの電極セグメントの遅延量を調整するときに、残りの電極セグメントの中で最も変調の影響が大きい電極セグメントの信号入力タイミングに合わせて遅延制御する。
【0012】
<実施形態の遅延制御の基本概念>
図1は、実施形態の遅延制御の基本概念を示す図である。遅延制御の基本概念をわかりやすく示すために、光送信装置1の主要部の一部を簡略化して示している。光送信装置1は、光変調器130と、光変調器130に入力されるデータ信号を生成し出力するデジタル信号プロセッサ(DSP)5と、光変調器130に入力されるデータ信号の遅延量を制御する遅延制御回路10を有する。ここでは、DSP5から出力されるデータ信号のうちの1つの信号に着目して説明する。
【0013】
光変調器130は、並列に接続される2本の導波路141と142でMZ干渉計が形成されるMZ変調器である。導波路141と142の少なくとも一方に沿って、分割された複数の信号電極が設けられている。分割された信号電極の各々を、便宜上「電極セグメント」と呼ぶ。導波路141と142に沿って、電極セグメント138-1、138-2、138-3(以下、「電極セグメント138」と総称する場合がある)が設けられ、これらの電極セグメント138-1、138-2、及び138-3に同一のデータ信号が入力される。
【0014】
電極セグメント138-1、138-2、及び128-3をそれぞれ、「seg.1」、「seg.2」、及び「seg.3」と呼ぶ。電極セグメント138のサイズは、seg.1、seg.2、seg.3の順に大きい。導波路141と142を通る光が、入力されたデータ信号により変調を受けるときに、最も長いseg.1での変調の影響が支配的である。seg.1への信号入力のタイミングに合わせて、各電極セグメントの直下を通る光に作用する信号の入力タイミングが調整されていれば、光変調器130から出力される光信号の強度は高くなる。
【0015】
光変調器130で変調を受けた光信号の一部は分岐され、モニタPD140で検出される。モニタPD140は光検出器の一例である。モニタPD140は、光変調器130から出力される光信号の強度に比例した光電流を出力する。光変調器130の出力光の強度を表す電気信号は、遅延制御回路10に入力される。
【0016】
遅延制御回路10は、遅延回路11と、周波数フィルタ12と、モニタ13と、制御回路15を有する。周波数フィルタ12は、入力された電気信号から特定の周波数成分を抽出するバンドパスフィルタである。モニタ13は、抽出された周波数成分のパワースペクトルをモニタする。電気信号の中から特定の周波数成分を抽出することで、所望の精度で信号入力のタイミングずれを調整できる。電極セグメント138へ信号を入力するタイミングに微小なずれがあると、タイミングずれの量に応じて、高周波領域から光変調器130の出力光の強度が低下する。実動作中の遅延制御の場合、使用環境での温度変動や湿度変動による微小なタイミングずれを制御するので、周波数フィルタ12で高周波成分を取り出してその減衰をモニタすることが有利である。周波数フィルタ12の中心周波数を高く設定することで、制御できるタイミングずれ、すなわち遅延ずれの範囲は狭くなるが、微小な遅延ずれをモニタ13で精度良く検出することができる。
【0017】
制御回路15は、モニタ13のモニタ結果に基づいて、遅延回路11の各遅延調整回路111-1、111-2、及び111-3に設定される調整量を制御する。たとえば、制御対象がseg.1である場合、対応する遅延調整回路111-1の遅延量を制御し、モニタ13のモニタ結果を最大化する遅延量に設定する。seg.1の遅延量、すなわち信号入力タイミングは、seg.2とseg.3のうちの変調の影響が大きい方の信号入力タイミングにしたがって制御される。制御対象の電極セグメントを順次選択し、同様の方式で、他の電極セグメントの中で変調の影響が最も大きい電極セグメントの信号入力タイミングに従って遅延制御する。これにより、同一信号が入力される3以上の電極セグメント138-1、138-2、及び138-3の間で、信号入力を停止することなくタイミングずれを最小にできる。
【0018】
図2は、seg.2のタイミングずれの調整例を示す。seg.2の信号入力タイミング(遅延量)は、seg.1に対して2.0ピコ秒ずれており、seg.3に対してはタイミングがあっている(0ピコ秒のずれ量)。制御回路15は、モニタ13でモニタされたパワーが最大になるようにseg.2の人号入力タイミングを制御したい。同じ大きさの3つの電極セグメントに同じ信号が入力される状態では、seg.2への信号入力タイミングを、seg.1とseg.3に対してどのように合わせるべきか判断できない。これに対し、実施形態では、seg.2の遅延量を、変調量の大きいseg.1の信号入力タイミングに合わせて、seg.2とseg.1の間でタイミングずれが最小になるように制御する。
【0019】
seg.2の信号入力タイミングを、変調量が最大のseg.1との間でタイミングずれが最小になるように調整することで、
図2に示すように、モニタPD140で検出される平均光強度は最大に近づく。続いてseg.3の遅延量を調整する場合も、変調の影響が最も大きいseg.1の信号入力タイミングにしたがって調整することで、3つの電極セグメント138間でのタイミングずれが最小になる。
【0020】
図3は、seg.2の信号入力タイミングずれの別の調整例を示す。
図3の(A)は、seg.2の信号入力タイミングが、seg.1に対してもseg.3に対してもずれていない状態を示す。この場合、遅延調整回路111-2(
図1参照)の遅延量をいずれの方向に変化させても、光変調器130の出力光の強度は減少する。制御回路15は、変調量が最大のseg.1の信号入力タイミングにしたがって、seg.2の現在の遅延量を維持する。
【0021】
図3の(B)では、seg.2への信号入力タイミングが、seg.1に対して4ピコ秒ずれており、seg.3に対して2ピコ秒ずれている。制御回路15は、最大の変調量をもつseg.1との間の信号入力タイミングのずれが最小になるように、遅延調整回路111-2の遅延量を制御する。
【0022】
図1に示す遅延制御は、
図3の(A)のように、seg.1とseg.3の信号入力タイミングにずれがない場合や、
図3の(B)のように、seg.1とseg.3のどちらの信号入力タイミングに合わせても光出力パワーに変化がない場合にも、一律に適用可能である。いずれの場合も、制御対象の電極セグメントの信号入力タイミングは、変調量が最大のseg.1の信号入力タイミングに合わせて制御される。
【0023】
図4は、実施形態の遅延制御が適用されるデジタルコヒーレント向けの光送信装置1Aの構成例を示す。光変調器130は、分波器143と合波器145の間に並列に接続された導波路141と142で形成されるMZ干渉計を有する。導波路141と142に沿って、分割された複数の電極セグメント138aから138g(適宜、「電極セグメント138」を総称する)が設けられている。各電極セグメント138には、対応する遅延調整回路111で遅延調整がされた各ビットの信号が入力される。各電極セグメント138に入力される信号は、デジタルビットを表すNRZ(non-return-to-zero)信号である。
【0024】
光変調器130にnビットの信号が入力される場合、ビット0の信号が入力される電極セグメント138の数は、2^0で1つである。ビット1の信号が入力される電極セグメント138の数は、2^1で2つ、ビット2の信号が入力される電極セグメント138の数は2^2で4つである。最上位ビット(MSB)であるビット(n-1)の信号が入力される電極セグメント138の数は、2^(n-1)個である。nビットの信号は各電極セグメント138に入力されるまではデジタル電気信号であり、光変調器130によりアナログ光信号が生成される。この意味で、光送信装置1Aは「光DAC」送信器と呼ばれることがある。
【0025】
電極セグメント138bと138cにビット1の同じ信号が入力され、2つの電極セグメント138bと138cの間で遅延調整がなされる。ビット1の信号に対しては、常に2つの電極セグメント138間での遅延調整になるので、電極セグメント138bと138cの大きさは同じである。ビット1のデータ変調に必要な長さの信号電極が、ほぼ同じ長さの2つの電極セグメント138bと138cに分割され、容量が低減される。ビット1の信号は、対応する増幅器121によって増幅され、電極セグメント138bと138cに入力される。増幅器121は、データ遷移時にのみ電流が流れるインバータドライバであり、消費電力が低減される
【0026】
ビット2の同じ信号が入力される電極セグメント138d、138e、138f、及び138gは、異なるサイズに形成され、異なる変調量をもつ。電極セグメント138d、138e、138f、及び138gの変調量をトータルすると、ビット2のデータ変調に必要な変調量が得られる。この構成で、電極セグメント138d、138e、138f、及び138gのそれぞれに入力される信号のタイミングは、変調の影響が大きい電極セグメントの信号入力タイミングに合わせて制御される。
【0027】
図5は、比較構成での遅延制御を示す。
図5の(A)は、同じ変調量の3つの電極セグメントseg.1、seg.2、及びseg.3に同一のデータ信号が入力される構成例を示す。光変調器13の出力光のモニタ結果に基づいて遅延制御を行う場合、遅延制御回路10は、モニタ結果にあらわれるパワーの減衰が、制御対象の電極セグメントと、他のいずれの電極セグメントとの間のタイミングずれに起因するものなのか判断できない。
【0028】
図5の(B)で、seg.2への信号入力タイミングは、seg.1に対して2ピコ秒ずれているが、seg.3に対してはタイミングずれがない。モニタ光の強度を最大に維持するには、seg.2の信号入力タイミングを、seg.1の信号入力タイミングとseg.3の信号入力タイミングのいずれかに合わせるべきであるが、制御回路15はどちらの信号入力タイミングに合わせるべきか判断できない。
【0029】
図5の(C)で、seg.2への信号入力タイミングは、seg.1に対して4ピコ秒ずれているが、seg.3に対してはタイミングずれがない。モニタ光の強度が最大になる領域は、seg.1の信号入力タイミングとseg.3の信号入力タイミングの間のどこかにあるが、制御回路15はどちらの信号入力タイミングにどのように合わせるべきか判断できない。
【0030】
これに対し、
図1及び
図4に示す構成で、3つ以上の電極セグメントに同一の信号が入力される構成で、3つ以上の電極セグメントの変調量を異ならせている。制御対象の電極セグメントへの信号入力タイミングを、残りの電極セグメントの中で最も影響力の強い、すなわち最も変調量の多い電極セグメントのタイミングに合わせることで、同一信号が入力される3つ以上の電極セグメント間での相対的な遅延制御が可能になる。
【0031】
図6は、同じ信号が入力される4つの電極セグメントの構成例を示す。光変調器130のMZ干渉計131を構成する導波路141と142に沿って、異なる長さに分割された4つの信号電極が設けられる。分割された信号電極の長さは、seg.1、seg.2、seg.3、seg.4の順に長い。seg.3とseg.4の長さの合計はseg.2の長さよりも長く、seg.1の長さよりも短い(seg.1>seg.3+seg.4>seg.2)。このモデルでの遅延調整の例を、
図7から9を参照して説明する。
【0032】
<遅延調整のケース1>
図7は、
図6のモデルにおける遅延調整のケース1を示す。ケース1は、4つの電極セグメントに入力される同一信号の遅延量の初期値がすべて異なるシナリオである。光変調器130の動作開始後に、4つの電極セグメントに入力される信号のタイミングを順次調整する。たとえば、最初にseg.1を制御対象とする。seg.1を最初に制御することは必須ではないが、変調量が多いセグメントのほうが、光変調器130の出力光の変化量が大きいため、検出が容易である。
【0033】
seg.1の信号入力タイミングを制御する場合、他の3つの電極セグメントの中で変調量が最大の電極セグメントの信号入力タイミングに合わせる。
図6のモデルでは、残りの3つの電極セグメントの中でseg.2の変調量が最も多い。そこで、seg.1の信号入力タイミングを、seg.2の信号入力タイミングに合わせて調整する(ステップ1)。次に、seg.2を制御対象とする。seg.2を除く3つの電極セグメントの中でseg.1の変調量が最大であり、seg.1の信号入力タイミングに合わせる。この場合、seg.1とseg.2の間で信号入力タイミングはすでに揃っているので、seg.2の遅延量はそのまま維持される(ステップ2)。
【0034】
次に、seg.3を制御対象とする。seg.3を除く3つの電極セグメントの中で、seg.1の変調量が最大であり、seg.3の信号入力タイミングをseg.1の信号入力タイミングに合わせて調整する(ステップ3)。
図7の例では、seg.3の遅延量を減らす方向に制御される。最後に、seg.4を制御対象とする。seg.4を除く3つの電極セグメントの中で、seg.1の変調量が最大であり、seg.4信号入力タイミングをseg.1の信号入力タイミングに合わせて調整する。この時点で、4つの電極セグメント間の信号入力タイミング、すなわち遅延量が調整され、光変調器130の出力光のパワーが最大になる。
【0035】
<遅延調整のケース2>
図8は、
図6のモデルにおける遅延調整のケース2を示す。ケース2は、seg.3とseg.4の遅延量の初期値が同じシナリオである。seg.1を制御対象とする。他の3つの電極セグメントの中で、seg.3とseg.4を合わせた電極部分での変調量が、seg.2の変調量よりも多くなる。そこで、seg.1の信号入力タイミングを、seg.3またはseg.4の信号入力タイミングに合わせて調整する(ステップ1)。次に、seg.2を制御対象とする。seg.2の信号入力タイミングを、変調量が最大のseg.1の信号入力タイミングに合わせて調整する(ステップ2)。
【0036】
次に、seg.3を制御対象とする。seg.3の信号入力タイミングをseg.1の信号入力タイミングに合わせる。seg.1とseg.3との間の信号入力タイミングはすでに調整されているので、seg.3の遅延量はそのまま維持される(ステップ3)。次に、seg.4号を制御対象とする。seg.4の信号入力タイミングを、seg.1の信号入力タイミングに合わせる。seg.1とseg.4の間の信号入力タイミングはすでに調整されているので、seg.4の遅延量はそのまま維持される(ステップ4)。この時点で、4つの電極セグメント間の信号入力タイミングが調整されて、光変調器130の出力光のパワーが最大になる。
【0037】
<遅延調整のケース3>
図9は、
図6のモデルにおける遅延調整のケース3を示す。ケース3は、seg.2とseg.3の遅延調整回路の遅延量の初期値が同じシナリオである。seg.2とseg.3の合計の長さは、seg.1よりも長くなる。すなわち、seg.2とseg.3を合わせた電極部分の変調量が最大となる。
【0038】
seg.1を制御対象とすると、他の3つの電極セグメントの中で、seg.2とseg.3を合わせた電極部分での変調の影響が最大になる。seg.1の信号入力タイミングを、seg.2またはseg.3の信号入力タイミングに合わせて調整する(ステップ1)。次に、seg.2を制御対象とする。seg.2とseg.1の間の信号入力タイミングはすでに調整されているので、seg.2の遅延量はそのまま維持される(ステップ2)。
【0039】
次に、seg.3を制御対象とする。seg.3の信号入力タイミングをseg.1の信号入力タイミングに合わせる。seg.1とseg.3との間の信号入力タイミングはすでに調整されているので、seg.3の遅延量はそのまま維持される(ステップ3)。次に、seg.4号を制御対象とする。seg.4の信号入力タイミングを、seg.1の信号入力タイミングに合わせて調整する(ステップ4)。この時点で、4つの電極セグメント間の信号入力タイミングが調整され、光変調器130からの出力光のパワーは最大になる。
【0040】
実施形態の遅延制御は、3以上の電極セグメント間ですべての信号入力タイミングが異なる場合も、2以上の電極セグメント間の信号入力タイミングは一致している場合にも適用される。同一信号が入力される4つの電極セグメント間で、変調の影響が最も支配的になるいずれかの電極部分の信号入力タイミングに合わせればよいので、遅延ずれの向き(符号)や絶対値は問わない。光変調器130の実動作中に、信号入力を中断させずに、遅延量の微小な変動を制御することができる。この遅延制御は、工場出荷時の遅延制御は行われているが、現場での光送信装置の立ち上げ時に遅延量の再調整がない場合に、特に有効である。
【0041】
<変形例>
図10は、変形例の遅延制御の基本概念を示す模式図である。変形例では、3以上の電極セグメント間で変調量を異ならせるために、電極セグメントに入力される同一のデータ信号の振幅、または増幅率を異ならせる。
【0042】
光送信装置1Bは、光変調器130と、光変調器130に入力されるデータ信号を生成し出力するDSP5と、光変調器130に入力されるデータ信号の遅延量を制御する遅延制御回路10と、光変調器130に入力されるデータ信号を増幅する増幅回路120とを有する。ここでは、DSP5から出力されるデータ信号のうちの1つの信号に着目して説明する。増幅回路120は増幅器121a、121b、及び121cを含み、同一のデータ信号を異なる増幅率で増幅する。
【0043】
光変調器130は、並列に接続される2本の導波路141と142でMZ干渉計が形成されるMZ変調器である。導波路141と142の少なくとも一方に沿って、分割された複数の信号電極を有する。分割された信号電極の各々を、便宜上「電極セグメント」と呼ぶ。導波路141と142に沿って、同じ大きさに分割された複数の電極セグメント148が設けられる。複数の電極セグメント148をそれぞれ、「seg.1」、「seg.2」、及び「seg.3」と呼ぶ。
【0044】
電極セグメント148に入力される信号の振幅または増幅率は、seg.1、seg.2、seg.3の順に大きい。導波路141と142を通る光が、入力信号により変調を受けるときに、seg.1での変調量が最も大きく、seg.1での変調の影響が最も支配的である。各電極セグメントの直下を通過する光に作用する信号入力のタイミングが、変調量が最大のseg.1の信号入力タイミングに合わせて調整されていれば、光変調器130から出力される光信号の強度が高くなる。
【0045】
DSP5と光変調器130の間に設けられる遅延制御回路10の構成は、
図1を参照して説明したとおりである。遅延回路11の各遅延調整回路111-1、111-2、及び111-3で遅延調整された同一の信号は、対応する増幅器121a、121b、及び121cで、異なる増幅率で増幅される。遅延調整回路111-1で遅延調整された信号は、増幅器121aで増幅されて、信号S1-1としてseg.1に入力される。遅延調整回路111-2で遅延調整された信号は、増幅器121bにて増幅器121aよりも低い増幅率で増幅され、信号S1-2としてseg.2に入力される。遅延調整回路111-3で遅延調整された信号は、増幅器121cにて増幅器121bよりも低い増幅率で増幅され、信号S1-3としてseg.3に入力される。
【0046】
光変調器130で変調を受けた光信号の一部はモニタPD140で検出され、モニタ結果を表す電気信号が遅延制御回路10に入力される。遅延制御回路10は、入力された電気信号から特定の周波数成分を抽出し、抽出された周波数成分のパワースペクトルをモニタする。制御回路15は、モニタされたパワーが最大に近づくように、遅延調整回路111-1、111-2、及び111-3の調整量を制御する。各遅延調整回路111の遅延量は、変調の影響が最も支配的な他の電極セグメントの信号入力タイミングに合わせて調整される。
【0047】
図11は、
図10の遅延制御が適用されるデジタルコヒーレント向け光DAC送信器の構成例を示す。
図4と同様に、光変調器130にnビットの信号が入力される場合を考える。光変調器130のMZ干渉計を構成する導波路141と142の少なくとも一方に沿って、分割された複数の電極セグメント148aから148gが設けられている。電極セグメント148aから148gのサイズまたは長さは同じである。
【0048】
同一のデータ信号が入力される3以上の電極セグメントを含むブロックとして、ビット2の信号が入力される電極セグメント148dから148gのブロックに着目する。電極セグメント148d、148e、148f、及び148gは同じサイズに形成されているが、入力される同一のデータ信号の振幅が異なる。その結果、電極セグメント148d、148e、148f、及び148gの間で変調量が異なる。電極セグメント148d、158e、168f、及び168gの変調量をトータルすると、ビット2のデータ変調に必要な変調量が得られる。この構成で、電極セグメント148d、148e、148f、及び148gのそれぞれに入力されるの信号のタイミングは、変調量が最大の電極セグメントのタイミングに合わせて制御される。遅延制御の具体例は、
図7から
図9を参照して述べたとおりである。この構成でも、光変調器130の実動作中に、信号の入力を中断せずに微小な遅延ずれを調整することができる。
【0049】
<遅延制御方法>
図12は、実施形態の遅延制御方法のフローチャートである。この制御フローは、光変調器130、すなわち光送信器1の動作中に、遅延制御回路10によって実行される。同一信号が入力される3以上の電極セグメントの中で、最初のセグメントを選択し(S11)、この電極セグメントの遅延調整を開始する(S12)。どの電極セグメントから選択してもよいが、変調量が大きい電極セグメントから選択すると、光変調器130の出力光の変化を検出しやすい。制御対象の電極セグメントの遅延調整回路111の遅延量の設定を切替えて(S13)、遅延量を増加または減少する方向に変化させる(S14)。調整可能な範囲で現在の遅延量から最小または最大に向けて変化させてもよいし、調整可能範囲の中心からいずれかの方向に変化させてもよい。遅延量を最小から最大へ、または最大から最小にスイープしてもよい。
【0050】
光変調器130の出力光のモニタ結果から、所定の周波数成分を抽出し、そのパワースペクトルをモニタして、遅延量の変化に伴うパワーモニタの変化量が閾値以下か否かを判断する(S15)。遅延量の変更にもかかわらず、モニタ結果が閾値以下の範囲でしか変化しない場合(S15でYES)、光変調器130の現在の光出力強度が最大か、または極大にあり、制御対象の電極セグメントへの信号入力タイミングが適正である。この場合、対応する遅延調整回路111の遅延量を、現在の遅延量に固定する(S18)。
【0051】
モニタ結果が閾値を超えて変化した場合(S15でNO)、モニタされたパワーが増加する方向に変化したか否かを判断する(S16)。モニタされたパワーが増加する方向に変化すれば(S16でYES)、遅延の制御の方向が正しいので、同じ制御方向に、遅延量をさらに変化させる(S14)。モニタされるパワーの変動が閾値以下(S15でYES)になるまで、ステップS14からS16を繰り返す。
【0052】
モニタされるパワーの変化の方向が増加方向でない場合(S16でNO)、制御の方向が正しくない。この場合は、遅延量の変化の方向が逆方向になるように(S17)、遅延回路111の設定を切り替えて(S13)、遅延量を変化させる(S14)。遅延量の変化が閾値以下に収束するまで(S15でYES)、ステップS13からS17を繰り返す。モニタされるパワーの変動が閾値以下に収束したら、対応する遅延調整回路111の遅延量を、現在の遅延量に固定する(S18)。この段階で、制御対象の電極セグメントの信号入力タイミングは、同一信号が入力される他の電極セグメントの中で変調量が最大の電極セグメントとの間で相対的にタイミング調整されたことになる。
【0053】
次に、今回の制御対象が最後のセグメントか否か、すなわち、他に制御すべき電極セグメントがあるか否かを判断する。他に制御すべき電極セグメントがある場合(S19でNO)、次の電極セグメントを選択して(S20)、ステップS12からS20を繰り返す。現在の制御対象が最後の電極セグメントである場合(S19でYES)、制御対象のブロックのすべての電極セグメントの間で1サイクルのタイミング調整が終了する。その後、ステップS11に戻って、次の制御サイクルを開始する。
図12の制御動作は、光送信装置1の動作中、繰り返し行われる。
【0054】
この遅延制御方法により、光変調器130の実動作中に、信号入力を中断せずに、同一信号が入力される3以上の電極セグメント間で信号入力のタイミング調整が行われる。
図9のケース3のように、seg.2とseg.3の信号入力タイミングが偶然一致し、seg.2とseg.3のトータルの変調量が、seg.1の変調量よりも大きくなる場合にも対応可能である。
【0055】
以上、特定の構成例に基づいて実施形態の遅延制御の構成と方法を述べてきたが、本開示は上述した構成と手法に限定されない。実施形態の構成と手法は、たとえば、4ビット以上のデータ信号が入力されるときのビット2よりも上位の各ビットのブロック内の遅延制御にも適用できる。実施形態では、光変調器130の出力光のパワーが最大になるように各遅延調整回路の遅延量を調整したが、位相変調の場合、モニタされるパワーが最小になるように遅延調整してもよい。分割された複数の電極セグメントを有する光変調器を、FIR(有限インパルス応答)フィルタと等化と考えると、電極セグメントへの信号入力のタイミングずれ(遅延)の加算により、所定の周波数成分が除去される(デジタルフィルタ)。モニタ13で測定されたパワースペクトルから、除去された周波数成分を検出し、この周波数成分を補う方向に遅延調整してもよい。この場合も、制御対象の電極セグメントと、その他の電極セグメントの中で変調の影響が最大の電極セグメントとの間で相対的に信号入力タイミングが調整される。
【符号の説明】
【0056】
1、1A、1B 光送信装置
5 DSP
10、10 遅延制御回路
11 遅延回路
111、111-1、111-2、111-3 遅延調整回路
13 モニタ
15 制御回路
120 増幅回路
121、121a、121b、121c 増幅器
130 光変調器
131 MZ干渉計
138、138a~138g、148、148a~148g 電極セグメント
140 モニタPD(光検出器)