(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143936
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】薬剤投与支援プログラムおよび薬剤投与支援システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20241004BHJP
G16H 20/17 20180101ALI20241004BHJP
【FI】
A61B5/00 B
G16H20/17
A61B5/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056895
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 和孝
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】榎本 加央里
(72)【発明者】
【氏名】妻木 翔太
(72)【発明者】
【氏名】福田 智弘
【テーマコード(参考)】
4C117
5L099
【Fターム(参考)】
4C117XB01
4C117XB20
4C117XE05
4C117XE16
4C117XK09
4C117XQ13
5L099AA25
(57)【要約】
【課題】静脈炎の発症リスクを正確に判断することができる薬剤投与支援プログラムおよび薬剤投与支援システムを提供すること。
【解決手段】薬剤投与支援プログラムは、コンピュータに、留置針を介して患者の血管に投与される薬剤に関する薬剤情報を取得するステップと、薬剤情報と、血管に関する血管情報、血管に穿刺される留置針に関する留置針情報、並びに患者の血液および留置針の穿刺の少なくともいずれかに関する患者情報の少なくともいずれかと、に基づいて留置針が穿刺される血管の静脈炎の発症リスクを判断する静脈炎リスク判断ステップと、を実行させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
留置針を介して薬剤を投与する医療行為を支援する薬剤投与支援システムのコンピュータによって実行される薬剤投与支援プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記留置針を介して患者の血管に投与される前記薬剤に関する薬剤情報を取得するステップと、
前記薬剤情報と、前記血管に関する血管情報、前記血管に穿刺される前記留置針に関する留置針情報、並びに前記患者の血液および前記留置針の穿刺の少なくともいずれかに関する患者情報の少なくともいずれかと、に基づいて前記留置針が穿刺される前記血管の静脈炎の発症リスクを判断する静脈炎リスク判断ステップと、
を実行させることを特徴とする薬剤投与支援プログラム。
【請求項2】
前記コンピュータに、
前記血管情報を取得するステップと、
前記留置針情報を取得するステップと、
前記患者情報を取得するステップと、
をさらに実行させ、
前記静脈炎リスク判断ステップは、前記血管情報と前記留置針情報と前記薬剤情報と前記患者情報とに基づいて前記静脈炎の発症リスクを判断することを特徴とする請求項1に記載の薬剤投与支援プログラム。
【請求項3】
前記血管情報は、前記血管の径および前記血管を流れる血液の流速の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1に記載の薬剤投与支援プログラム。
【請求項4】
前記留置針情報は、前記留置針の外径および前記留置針のゲージの少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1に記載の薬剤投与支援プログラム。
【請求項5】
前記薬剤情報は、前記薬剤の種類、前記薬剤の粘度、前記薬剤の水素イオン濃度、前記薬剤の浸透圧、前記薬剤の薬理活性、前記薬剤の投与時間、および前記薬剤の投与速度の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1に記載の薬剤投与支援プログラム。
【請求項6】
前記患者情報は、前記血管を流れる血液の検査値、前記留置針が穿刺された箇所、および前記留置針が穿刺されてから経過した時間の少なくともいずれかを含むことを特徴する請求項1に記載の薬剤投与支援プログラム。
【請求項7】
前記コンピュータに、
前記血管情報および前記留置針情報に基づいて前記留置針による流れ阻害リスクを算出するステップと、
前記薬剤情報に基づいて化学刺激リスクを算出するステップと、
前記患者情報および前記薬剤情報に基づいて物理刺激リスクを算出するステップと、
をさらに実行させることを特徴とする請求項1に記載の薬剤投与支援プログラム。
【請求項8】
前記流れ阻害リスクは、前記血管情報および前記留置針情報から導き出された計算結果を記録部データと照合することにより数値化された点数であることを特徴とする請求項7に記載の薬剤投与支援プログラム。
【請求項9】
前記化学刺激リスクは、前記薬剤情報を記録部データと照合することにより数値化され導き出された計算結果としての点数であることを特徴とする請求項7に記載の薬剤投与支援プログラム。
【請求項10】
前記物理刺激リスクは、前記患者情報および前記薬剤情報を記録部データと照合することにより数値化され導き出された計算結果としての点数であることを特徴とする請求項7に記載の薬剤投与支援プログラム。
【請求項11】
前記静脈炎リスク判断ステップは、前記流れ阻害リスクと前記化学刺激リスクと前記物理刺激リスクとの合計結果に基づいて前記静脈炎のリスクを判断することを特徴とする請求項7~10のいずれか1項に記載の薬剤投与支援プログラム。
【請求項12】
前記コンピュータに、
前記静脈炎リスク判断ステップの判断結果に基づいて前記医療行為の推奨処置を提案するステップをさらに実行させることを特徴とする請求項1に記載の薬剤投与支援プログラム。
【請求項13】
留置針を介して薬剤を投与する医療行為を支援する薬剤投与支援システムであって、
前記留置針を介して患者の血管に投与される前記薬剤に関する薬剤情報を記憶する薬剤情報記憶部と、
前記薬剤情報記憶部に記憶された前記薬剤情報と、前記血管に関する血管情報、前記血管に穿刺される前記留置針に関する留置針情報、並びに前記患者の血液および前記留置針の穿刺の少なくともいずれかに関する患者情報の少なくともいずれかと、に基づいて前記留置針が穿刺される前記血管の静脈炎の発症リスクを判断する制御を実行する制御部と、
を備えたことを特徴とする薬剤投与支援システム。
【請求項14】
留置針を介して薬剤を投与する医療行為を支援する薬剤投与支援システムであって、
患者の血管に関する血管情報を記憶する血管情報記憶部と、
前記血管に穿刺される前記留置針に関する留置針情報を記憶する留置針情報記憶部と、
前記留置針を介して前記血管に投与される前記薬剤に関する薬剤情報を記憶する薬剤情報記憶部と、
前記患者の血液および前記留置針の穿刺の少なくともいずれかに関する患者情報を記憶する患者情報記憶部と、
前記血管情報記憶部に記憶された前記血管情報と、前記留置針情報記憶部に記憶された前記留置針情報と、前記薬剤情報記憶部に記憶された前記薬剤情報と、前記患者情報記憶部に記憶された前記患者情報と、に基づいて前記留置針が穿刺される前記血管の静脈炎の発症リスクを判断する制御を実行する制御部と、
を備えたことを特徴とする薬剤投与支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、留置針を介して薬剤を投与する医療行為を支援する薬剤投与支援プログラムおよび薬剤投与支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤を血管(具体的には静脈)に投与する医療行為において、投与された薬剤が血管の内部で滞留すると、静脈炎を起こすリスクがあることが知られている。静脈炎は、静脈壁内膜に炎症が起こった状態であり、薬剤のpHおよび薬剤の浸透圧などの化学的要因、穿刺部位における細菌の侵入などの細菌的要因、および留置針の外径および血管径などの機械的要因の少なくともいずれかによって発生する。
【0003】
特許文献1には、血管病変の発症とその成長リスクをコンピュータシミュレーションにより予測する装置が開示されている。特許文献1に記載された装置は、血流解析部と、血流悪性度計算部と、血管脆弱度計算部と、リスク算出部と、を有する。血流解析部は、入力部から入力された医用データから血管の形状データを取得して数値流体解析を実行し圧力場、速度場を含む血流属性を求める。血流悪性度計算部は、血流解析部で取得した血流属性に基づいて壁面せん断応力ベクトルから血流の性状を判別し、血流悪性度を数値化して求める。血管脆弱度計算部は、入力部から入力された内皮細胞機能についての情報から血管脆弱度を求める。リスク算出部は、血流悪性度計算部で求められた血流悪性度と、血管脆弱度計算部で求められた血管脆弱度から血管病変の発症または成長についてのリスク値を算出する。
【0004】
しかし、前述したように、静脈炎は、血流悪性度および血管脆弱度などの機械的要因だけではなく、薬剤のpHおよび薬剤の浸透圧などの化学的要因によっても発生する。そのため、静脈炎の発症リスクを正確に判断するという点において、特許文献1には改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、静脈炎の発症リスクを正確に判断することができる薬剤投与支援プログラムおよび薬剤投与支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(1)留置針を介して薬剤を投与する医療行為を支援する薬剤投与支援システムのコンピュータによって実行される薬剤投与支援プログラムであって、前記コンピュータに、前記留置針を介して患者の血管に投与される前記薬剤に関する薬剤情報を取得するステップと、前記薬剤情報と、前記血管に関する血管情報、前記血管に穿刺される前記留置針に関する留置針情報、並びに前記患者の血液および前記留置針の穿刺の少なくともいずれかに関する患者情報の少なくともいずれかと、に基づいて前記留置針が穿刺される前記血管の静脈炎の発症リスクを判断する静脈炎リスク判断ステップと、を実行させることを特徴とする薬剤投与支援プログラムである。
【0008】
上記(1)の薬剤投与支援プログラムによれば、まず、留置針を介して患者の血管に投与される薬剤に関する薬剤情報を取得する。続いて、静脈炎リスク判断ステップにおいて、薬剤情報と、患者の血管に関する血管情報、患者の血管に穿刺される留置針に関する留置針情報、並びに患者の血液および留置針の穿刺の少なくともいずれかに関する患者情報の少なくともいずれかと、に基づいて留置針が穿刺される血管の静脈炎の発症リスクを判断する。このように、血管情報および留置針情報の機械的要因だけではなく、薬剤情報の化学的要因、および患者情報に基づいて静脈炎の発症リスクを判断できることにより、静脈炎の発症リスクを正確に判断することができる。また、静脈炎の発症リスクを正確に判断できるため、留置針を介して薬剤を投与する医療従事者の医療行為を支援することができる。また、静脈炎の発症リスクを正確に判断できるため、静脈炎の発生率を低減し、患者が被る苦痛を低減することができる。さらに、静脈炎に対する処置のための工数を低減し、医療従事者の負担を低減することができる。
【0009】
(2)上記(1)の薬剤投与支援プログラムは、前記コンピュータに、前記血管情報を取得するステップと、前記留置針情報を取得するステップと、前記患者情報を取得するステップと、をさらに実行させ、前記静脈炎リスク判断ステップは、前記血管情報と前記留置針情報と前記薬剤情報と前記患者情報とに基づいて前記静脈炎の発症リスクを判断することが好ましい。
【0010】
上記(2)の薬剤投与支援プログラムによれば、静脈炎リスク判断ステップにおいて、血管情報と留置針情報と薬剤情報と患者情報とに基づいて静脈炎の発症リスクを判断することにより、静脈炎の発症リスクをより正確に判断することができる。
【0011】
(3)上記(1)または(2)の薬剤投与支援プログラムにおいて、前記血管情報は、前記血管の径および前記血管を流れる血液の流速の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0012】
上記(3)の薬剤投与支援プログラムによれば、患者の血管の径および患者の血管を流れる血液の流速の少なくともいずれかを含む血管情報に基づいて静脈炎の発症リスクを正確に判断することができる。
【0013】
(4)上記(1)~(3)のいずれかの薬剤投与支援プログラムにおいて、前記留置針情報は、前記留置針の外径および前記留置針のゲージの少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0014】
上記(4)の薬剤投与支援プログラムによれば、留置針の外径および留置針のゲージの少なくともいずれかを含む留置針情報に基づいて静脈炎の発症リスクを正確に判断することができる。
【0015】
(5)上記(1)~(4)のいずれかの薬剤投与支援プログラムにおいて、前記薬剤情報は、前記薬剤の種類、前記薬剤の粘度、前記薬剤の水素イオン濃度、前記薬剤の浸透圧、前記薬剤の薬理活性、前記薬剤の投与時間、および前記薬剤の投与速度の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0016】
上記(5)の薬剤投与支援プログラムによれば、薬剤の種類、薬剤の粘度、薬剤の水素イオン濃度、薬剤の浸透圧、薬剤の薬理活性、薬剤の投与時間、および薬剤の投与速度の少なくともいずれかを含む薬剤情報に基づいて静脈炎の発症リスクを正確に判断することができる。
【0017】
(6)上記(1)~(5)のいずれかの薬剤投与支援プログラムにおいて、前記患者情報は、前記血管を流れる血液の検査値、前記留置針が穿刺された箇所、および前記留置針が穿刺されてから経過した時間の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0018】
上記(6)の薬剤投与支援プログラムによれば、血管を流れる血液の検査値、留置針が穿刺された箇所、および留置針が穿刺されてから経過した時間の少なくともいずれかを含む患者情報に基づいて静脈炎の発症リスクを正確に判断することができる。
【0019】
(7)上記(1)~(6)のいずれかの薬剤投与支援プログラムは、前記コンピュータに、前記血管情報および前記留置針情報に基づいて前記留置針による流れ阻害リスクを算出するステップと、前記薬剤情報に基づいて化学刺激リスクを算出するステップと、前記患者情報および前記薬剤情報に基づいて物理刺激リスクを算出するステップと、をさらに実行させることが好ましい。
【0020】
上記(7)の薬剤投与支援プログラムによれば、血管情報および留置針情報に基づいて留置針による流れ阻害リスクをさらに算出する。また、薬剤情報に基づいて化学刺激リスクをさらに算出する。また、患者情報および薬剤情報に基づいて物理刺激リスクをさらに算出する。これにより、血管情報と留置針情報と薬剤情報と患者情報とに基づいた具体的リスクを流れ阻害リスク、化学刺激リスクおよび物理刺激リスクとして算出して静脈炎の発症リスクを判断することにより、静脈炎の発症リスクをより正確に判断することができる。
【0021】
(8)上記(7)の薬剤投与支援プログラムにおいて、前記流れ阻害リスクは、前記血管情報および前記留置針情報から導き出された計算結果を記録部データと照合することにより数値化された点数であることが好ましい。
【0022】
上記(8)の薬剤投与支援プログラムによれば、血管情報および留置針情報から導き出された計算結果を記録部データと照合することにより数値化された点数を流れ阻害リスクとして算出することにより、静脈炎の発症リスクを正確に判断することができる。
【0023】
(9)上記(7)の薬剤投与支援プログラムにおいて、前記化学刺激リスクは、前記薬剤情報を記録部データと照合することにより数値化され導き出された計算結果としての点数であることが好ましい。
【0024】
上記(9)の薬剤投与支援プログラムによれば、薬剤情報を記録部データと照合することにより数値化され導き出された計算結果としての点数を化学刺激リスクとして算出することにより、静脈炎の発症リスクを正確に判断することができる。
【0025】
(10)上記(7)の薬剤投与支援プログラムにおいて、前記物理刺激リスクは、前記患者情報および前記薬剤情報を記録部データと照合することにより数値化され導き出された計算結果としての点数であることが好ましい。
【0026】
上記(10)の薬剤投与支援プログラムによれば、患者情報および薬剤情報を記録部データと照合することにより数値化され導き出された計算結果としての点数を物理刺激リスクとして算出することにより、静脈炎の発症リスクを正確に判断することができる。
【0027】
(11)上記(7)~(10)のいずれかの薬剤投与支援プログラムにおいて、前記静脈炎リスク判断ステップは、前記流れ阻害リスクと前記化学刺激リスクと前記物理刺激リスクとの合計結果に基づいて前記静脈炎のリスクを判断することが好ましい。
【0028】
上記(11)の薬剤投与支援プログラムによれば、流れ阻害リスクと化学刺激リスクと物理刺激リスクとの合計結果に基づいて静脈炎のリスクを判断することにより、静脈炎の発症リスクをより正確に判断することができる。
【0029】
(12)上記(1)~(11)のいずれかの薬剤投与支援プログラムは、前記コンピュータに、前記静脈炎リスク判断ステップの判断結果に基づいて前記医療行為の推奨処置を提案するステップをさらに実行させることが好ましい。
【0030】
上記(12)の薬剤投与支援プログラムによれば、静脈炎リスク判断ステップの判断結果に基づいて医療行為の推奨処置をさらに提案することにより、留置針を介して薬剤を投与する医療従事者の医療行為をより確実に支援することができる。また、熟練の医療従事者が経験の浅い医療従事者に付き添う回数を減らすことができるため、医療資源の最適化を図ることができる。
【0031】
本発明は、(13)留置針を介して薬剤を投与する医療行為を支援する薬剤投与支援システムであって、前記留置針を介して患者の血管に投与される前記薬剤に関する薬剤情報を記憶する薬剤情報記憶部と、前記薬剤情報記憶部に記憶された前記薬剤情報と、前記血管に関する血管情報、前記血管に穿刺される前記留置針に関する留置針情報、並びに前記患者の血液および前記留置針の穿刺の少なくともいずれかに関する患者情報の少なくともいずれかと、に基づいて前記留置針が穿刺される前記血管の静脈炎の発症リスクを判断する制御を実行する制御部と、を備えたことを特徴とする薬剤投与支援システムである。
【0032】
上記(13)の薬剤投与支援システムによれば、制御部は、薬剤情報記憶部に記憶された薬剤情報と、血管に関する血管情報、血管に穿刺される留置針に関する留置針情報、並びに患者の血液および留置針の穿刺の少なくともいずれかに関する患者情報の少なくともいずれかと、に基づいて留置針が穿刺される血管の静脈炎の発症リスクを判断する制御を実行する。このように、上記(13)の薬剤投与支援システムは、血管情報および留置針情報の機械的要因だけではなく、薬剤情報の化学的要因、および患者情報に基づいて静脈炎の発症リスクを判断できることにより、静脈炎の発症リスクを正確に判断することができる。また、上記(13)の薬剤投与支援システムは、静脈炎の発症リスクを正確に判断できるため、留置針を介して薬剤を投与する医療従事者の医療行為を支援することができる。また、上記(13)の薬剤投与支援システムは、静脈炎の発症リスクを正確に判断できるため、静脈炎の発生率を低減し、患者が被る苦痛を低減することができる。さらに、静脈炎に対する処置のための工数を低減し、上記(13)の薬剤投与支援システムは、医療従事者の負担を低減することができる。
【0033】
本発明は、(14)留置針を介して薬剤を投与する医療行為を支援する薬剤投与支援システムであって、患者の血管に関する血管情報を記憶する血管情報記憶部と、前記血管に穿刺される前記留置針に関する留置針情報を記憶する留置針情報記憶部と、前記留置針を介して前記血管に投与される前記薬剤に関する薬剤情報を記憶する薬剤情報記憶部と、前記患者の血液および前記留置針の穿刺の少なくともいずれかに関する患者情報を記憶する患者情報記憶部と、前記血管情報記憶部に記憶された前記血管情報と、前記留置針情報記憶部に記憶された前記留置針情報と、前記薬剤情報記憶部に記憶された前記薬剤情報と、前記患者情報記憶部に記憶された前記患者情報と、に基づいて前記留置針が穿刺される前記血管の静脈炎の発症リスクを判断する制御を実行する制御部と、を備えたことを特徴とする薬剤投与支援システムである。
【0034】
上記(14)の薬剤投与支援システムによれば、制御部は、血管情報記憶部に記憶された血管情報と、留置針情報記憶部に記憶された留置針情報と、薬剤情報記憶部に記憶された薬剤情報と、患者情報記憶部に記憶された患者情報と、に基づいて留置針が穿刺される血管の静脈炎の発症リスクを判断する制御を実行する。このように、上記(14)の薬剤投与支援システムは、血管情報および留置針情報の機械的要因だけではなく、薬剤情報の化学的要因、および患者情報に基づいて静脈炎の発症リスクを判断できることにより、静脈炎の発症リスクを正確に判断することができる。また、上記(14)の薬剤投与支援システムは、静脈炎の発症リスクを正確に判断できるため、留置針を介して薬剤を投与する医療従事者の医療行為を支援することができる。また、上記(14)の薬剤投与支援システムは、静脈炎の発症リスクを正確に判断できるため、静脈炎の発生率を低減し、患者が被る苦痛を低減することができる。さらに、静脈炎に対する処置のための工数を低減し、上記(14)の薬剤投与支援システムは、医療従事者の負担を低減することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、静脈炎の発症リスクを正確に判断することができる薬剤投与支援プログラムおよび薬剤投与支援システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る薬剤投与支援システムを表すブロック図である。
【
図2】本実施形態に係る薬剤投与支援システムの動作の具体例を説明するフローチャートである。
【
図3】本実施形態に係る薬剤投与支援システムの動作の具体例を説明するフローチャートである。
【
図4】流れ阻害リスク参照データ記憶部に記憶された参照データの具体例を表す表である。
【
図5】化学刺激リスク参照データ記憶部に記憶された参照データの具体例を表す表である。
【
図6】物理刺激リスク参照データ記憶部に記憶された参照データの具体例を表す表である。
【
図7】静脈炎リスク判断部の動作の第1具体例を説明する表である。
【
図8】静脈炎リスク判断部の動作の第2具体例を説明する表である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る薬剤投与支援システムを表すブロック図である。
【
図10】本実施形態に係る薬剤投与支援システムの動作の具体例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0038】
図1は、本発明の第1実施形態に係る薬剤投与支援システムを表すブロック図である。
本実施形態に係る薬剤投与支援システム2は、留置針を介して薬剤を投与する医療行為を支援する薬剤投与支援システムであって、制御部21と、送受信部22と、出力部23と、電源24と、記憶部25と、を備える。薬剤投与支援システム2は、表示器3、測定器4および入力部5に接続されており、送受信部22を介して表示器3、測定器4および入力部5から各種情報を受信したり、送受信部22を介して表示器3、測定器4および入力部5に各種情報を送信したりする。
【0039】
制御部21は、測定器4および入力部5から送受信部22を介して各種情報を取得し、記憶部25に記憶されたプログラムを読み出して種々の演算や処理を実行する。制御部21としては、例えばCPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などが挙げられる。制御部21は、血管情報取得部211と、留置針情報取得部212と、薬剤情報取得部213と、患者情報取得部214と、静脈炎リスク判断部215と、流れ阻害リスク算出部216と、化学刺激リスク算出部217と、物理刺激リスク算出部218と、を有する。
【0040】
記憶部25は、血管情報記憶部251と、留置針情報記憶部252と、薬剤情報記憶部253と、患者情報記憶部254と、流れ阻害リスク参照データ記憶部255と、化学刺激リスク参照データ記憶部256と、物理刺激リスク参照データ記憶部257と、を有する。
【0041】
血管情報取得部211は、測定器4から送受信部22を介して取得した患者の血管の画像に基づいて、患者の血管に関する血管情報を検出あるいは算出する。血管情報は、留置針が穿刺される箇所の患者の血管の径および患者の血管を流れる血液の流速の少なくともいずれかを含む。測定器4としては、超音波検査装置および近赤外(NIR:Near InfraRed)を使用したレーザ血流計などが挙げられる。血管情報取得部211は、検出した血管情報を血管情報記憶部251に格納する。なお、血管情報取得部211は、測定器4により検出あるいは算出された血管情報を送受信部22を介して取得してもよい。
【0042】
留置針情報取得部212は、入力部5から送受信部22を介して取得した留置針に関する留置針情報を取得し、留置針情報記憶部252に格納する。留置針情報は、医療従事者が入力部5を操作することにより入力される情報であり、患者の血管に穿刺される予定(すなわち使用予定)の留置針の外径および留置針のゲージの少なくともいずれか含む。
【0043】
薬剤情報取得部213は、入力部5から送受信部22を介して取得した薬剤に関する薬剤情報を取得し、薬剤情報記憶部253に格納する。薬剤情報は、医療従事者が入力部5を操作することにより入力される情報であり、留置針を介して患者の血管に投与される薬剤に関する情報である。薬剤情報は、薬剤の種類、薬剤の粘度、薬剤の水素イオン濃度、薬剤の浸透圧、薬剤の薬理活性、薬剤の投与時間、および薬剤の投与速度の少なくともいずれかを含む。
【0044】
患者情報取得部214は、入力部5から送受信部22を介して取得した患者に関する患者情報を取得し、患者情報記憶部254に格納する。患者情報は、医療従事者が入力部5を操作することにより入力される情報であり、患者の血液および留置針の穿刺の少なくともいずれかに関する情報である。患者情報は、患者の血管を流れる血液の検査値、留置針が穿刺された箇所、および留置針が穿刺されてから経過した時間の少なくともいずれかを含む。「留置針が穿刺された箇所」としては、患者の肘および手首などの可動部と、患者における留置針の穿刺箇所と、の間の距離などが挙げられる。
【0045】
静脈炎リスク判断部215は、薬剤情報記憶部253に記憶された薬剤情報と、血管情報記憶部251に記憶された血管情報、留置針情報記憶部252に記憶された留置針情報および患者情報記憶部254に記憶された患者情報の少なくともいずれかと、に基づいて留置針が穿刺される血管の静脈炎の発症リスクを判断する。あるいは、静脈炎リスク判断部215は、血管情報記憶部251に記憶された血管情報と、留置針情報記憶部252に記憶された留置針情報と、薬剤情報記憶部253に記憶された薬剤情報と、患者情報記憶部254に記憶された患者情報と、に基づいて留置針が穿刺される血管の静脈炎の発症リスクを判断する。
【0046】
流れ阻害リスク算出部216は、血管情報記憶部251に記憶された血管情報および留置針情報記憶部252に記憶された留置針情報に基づいて、留置針による流れ阻害リスクを算出する。具体的には、流れ阻害リスク算出部216は、まず、以下の式1-1、式1-2および式1-3のいずれかの式を用いて、留置針による薬剤の流れ阻害の程度を計算する。
式1-1:[留置針の外径(OD)]/[血管の径(VD)]
式1-2:[血管の径(VD)]-[留置針の外径(OD)]
式1-3:[留置針の外径(OD)]×[穿刺深さ(PD)]/[血管の径(VD)]
【0047】
続いて、流れ阻害リスク算出部216は、前述した式1-1、式1-2および式1-3のいずれかの式により導き出された計算結果を、流れ阻害リスク参照データ記憶部255に記憶された参照データと照合することにより、流れ阻害リスクを数値化する。本実施形態の「流れ阻害リスク参照データ記憶部255に記憶された参照データ」は、本発明の「記憶部データ」の一例である。流れ阻害リスク参照データ記憶部255に記憶された参照データの具体例については、後述する。このように、流れ阻害リスク算出部216により算出された流れ阻害リスクは、血管情報記憶部251に記憶された血管情報および留置針情報記憶部252に記憶された留置針情報から導き出された計算結果を、流れ阻害リスク参照データ記憶部255に記憶された参照データと照合することにより数値化された点数である。
【0048】
化学刺激リスク算出部217は、薬剤情報記憶部253に記憶された薬剤情報に基づいて化学刺激リスクを算出する。具体的には、化学刺激リスク算出部217は、薬剤情報記憶部253に記憶された薬剤情報を、化学刺激リスク参照データ記憶部256に記憶された参照データと照合し、以下の式2-1、式2-2および式2-3のいずれかの式を用いて化学刺激リスクを計算する。
式2-1:[粘度(Vis)]+[水素イオン濃度(pH)]+[浸透圧(Osm)]+[薬理活性(Pharm)]+[薬剤濃度(conc)]
式2-2:[粘度(Vis)]+3×[水素イオン濃度(pH)]+3×[浸透圧(Osm)]+3×[薬理活性(Pharm)]+[薬剤濃度(conc)]
式2-3:[粘度(Vis)]+2×[水素イオン濃度(pH)]+2×[浸透圧(Osm)]+3×[薬理活性(Pharm)]+2×[薬剤濃度(conc)]
【0049】
式2-1、式2-2および式2-3中の[粘度(Vis)]、[水素イオン濃度(pH)]、[浸透圧(Osm)]、[薬理活性(Pharm)]および[薬剤濃度(conc)]は、それぞれ、使用予定の薬剤の粘度、水素イオン濃度(pH)、浸透圧、薬理活性および薬剤濃度に基づいて算出された点数である。点数の算出方法の例については、後述する。
【0050】
本実施形態の「化学刺激リスク参照データ記憶部256に記憶された参照データ」は、本発明の「記憶部データ」の一例である。化学刺激リスク参照データ記憶部256に記憶された参照データの具体例については、後述する。このように、化学刺激リスク算出部217は、薬剤情報記憶部253に記憶された薬剤情報を、化学刺激リスク参照データ記憶部256に記憶された参照データと照合することにより数値化され導き出された計算結果としての点数である。
【0051】
物理刺激リスク算出部218は、患者情報記憶部254に記憶された患者情報および薬剤情報記憶部253に記憶された薬剤情報に基づいて物理刺激リスクを算出する。具体的には、物理刺激リスク算出部218は、患者情報記憶部254に記憶された患者情報および薬剤情報記憶部253に記憶された薬剤情報を、物理刺激リスク参照データ記憶部257に記憶された参照データと照合し、以下の式3-1、式3-2および式3-3のいずれかの式を用いて物理刺激リスクを計算する。
式3-1:[血中アルブミン値(Alb)]+[投与時間(t)]+[投与速度(v)]+[穿刺箇所(point)]+[インターバル時間(再穿刺の場合,int)]
式3-2:2×[血中アルブミン値(Alb)]+[投与時間(t)]+[投与速度(v)]+[穿刺箇所(point)]+[インターバル時間(再穿刺の場合,int)]
式3-3:[血中アルブミン値(Alb)]+[投与時間(t)]+[投与速度(v)]+2×[穿刺箇所(point)]+2×[インターバル時間(再穿刺の場合,int)]
【0052】
式3-1、式3-2および式3-3中の、[血中アルブミン値(Alb)]、[投与時間(t)]、[投与速度(v)]、[穿刺箇所(point)]および[インターバル時間(再穿刺の場合,int)]は、それぞれ、患者の血中アルブミン値、薬剤の投与時間、投与速度(v)、穿刺箇所、および再穿刺の場合のインターバル時間に基づいて算出された点数である。点数の算出方法の例については、後述する。
【0053】
本実施形態の「物理刺激リスク参照データ記憶部257に記憶された参照データ」は、本発明の「記憶部データ」の一例である。物理刺激リスク参照データ記憶部257に記憶された参照データの具体例については、後述する。このように、物理刺激リスク算出部218は、患者情報記憶部254に記憶された患者情報および薬剤情報記憶部253に記憶された薬剤情報を、物理刺激リスク参照データ記憶部257に記憶された参照データと照合することにより数値化され導き出された計算結果としての点数である。
【0054】
推奨処置提案部219は、静脈炎リスク判断部215の判断結果に基づいて、留置針を介して薬剤を投与する医療行為の推奨処置を提案する。推奨処置提案部219が提案する推奨処置としては、例えば、反対側の血管に留置針を穿刺する処置、使用するカテーテルを末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC:Peripherally Inserted Central Venous Catheter)に変更する処置、薬剤の流量を遅くする処置、静脈炎の起きづらいソフトチューブ製の留置針を使用する処置、および留置針の使用ゲージを変更する(すなわち大きいゲージ数の留置針に変更したり、小さいゲージ数の留置針に変更したりする)処置などが挙げられる。
【0055】
記憶部25には、血管情報取得部211、留置針情報取得部212、薬剤情報取得部213および患者情報取得部214の取得動作および格納動作を制御する取得・格納プログラム、静脈炎リスク判断部215の判断動作を制御する判断プログラム、流れ阻害リスク算出部216、化学刺激リスク算出部217および物理刺激リスク算出部218の算出動作を制御する演算プログラム、ならびに推奨処置提案部219の提案動作を制御する提案プログラムが格納されている。また、記憶部25には、静脈炎リスク判断部215の判断データ、流れ阻害リスク算出部216、化学刺激リスク算出部217および物理刺激リスク算出部218の算出データ、ならびに推奨処置提案部219の提案データなどの各種データが格納される。なお、プログラムは、記憶部25に格納されていることには限定されず、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に予め格納され頒布されてもよく、あるいはネットワークを介して薬剤投与支援システム2にダウンロードされてもよい。
【0056】
記憶部25としては、例えば、薬剤投与支援システム2に内蔵された半導体メモリなどが挙げられる。あるいは、記憶部25としては、例えば、薬剤投与支援システム2に接続可能なCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、RAM(Random access memory)、ROM(Read only memory)、ハードディスク、メモリカードなどの種々の記憶媒体やデータサーバなどが挙げられる。
【0057】
血管情報取得部211、留置針情報取得部212、薬剤情報取得部213、患者情報取得部214、静脈炎リスク判断部215、流れ阻害リスク算出部216、化学刺激リスク算出部217、物理刺激リスク算出部218および推奨処置提案部219は、記憶部25に格納(記憶)されているプログラムを制御部21が実行することにより実現される。なお、血管情報取得部211、留置針情報取得部212、薬剤情報取得部213、患者情報取得部214、静脈炎リスク判断部215、流れ阻害リスク算出部216、化学刺激リスク算出部217、物理刺激リスク算出部218および推奨処置提案部219は、ハードウェアによって実現されてもよく、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現されてもよい。
【0058】
制御部21を含むコンピュータによって実行されるプログラムは、本発明の「薬剤投与支援プログラム」に相当する。ここでいう「コンピュータ」とは、パソコンには限定されず、情報処理機器に含まれる演算処理装置、マイコン等も含み、プログラムによって本発明の機能を実現することが可能な機器、装置を総称している。
【0059】
出力部23は、静脈炎リスク判断部215の判断結果、流れ阻害リスク算出部216、化学刺激リスク算出部217および物理刺激リスク算出部218により数値化された点数、ならびに推奨処置提案部219の提案結果などを送受信部22を介して表示器3に送信して表示させる処理を実行する。
電源24は、制御部21および記憶部25などの薬剤投与支援システム2の全体に対して電源を供給する。
【0060】
表示器3は、出力部23から送受信部22を介して受信した静脈炎リスク判断部215の判断結果、化学刺激リスク算出部217および物理刺激リスク算出部218により数値化された点数、ならびに推奨処置提案部219の提案結果などを表示する。表示器3は、例えば医療従事者の指の接触等を検出可能なタッチパネルを含むディスプレイを有していてもよい。すなわち、表示器3は、タッチパネルを含むディスプレイとして入力部5と一体化されていてもよい。
【0061】
ここで、薬剤を血管(具体的には静脈)に投与する医療行為において、静脈炎の発症リスクを正確に判断することができるプログラムおよびシステムが望まれている。
【0062】
これに対して、本実施形態に係る薬剤投与支援システム2および薬剤投与支援プログラムによれば、薬剤情報取得部213は、留置針を介して患者の血管に投与される薬剤に関する薬剤情報を取得する。続いて、静脈炎リスク判断部215は、薬剤情報記憶部253に記憶された薬剤情報と、血管情報記憶部251に記憶された血管情報、留置針情報記憶部252に記憶された留置針情報および患者情報記憶部254に記憶された患者情報の少なくともいずれかと、に基づいて留置針が穿刺される血管の静脈炎の発症リスクを判断する。
【0063】
このように、静脈炎リスク判断部215は、血管情報および留置針情報の機械的要因だけではなく、薬剤情報の化学的要因、および患者情報に基づいて静脈炎の発症リスクを判断できることにより、静脈炎の発症リスクを正確に判断することができる。また、薬剤投与支援システム2および薬剤投与支援プログラムは、静脈炎の発症リスクを正確に判断できるため、留置針を介して薬剤を投与する医療従事者の医療行為を支援することができる。また、薬剤投与支援システム2および薬剤投与支援プログラムは、静脈炎の発症リスクを正確に判断できるため、静脈炎の発生率を低減し、患者が被る苦痛を低減することができる。さらに、薬剤投与支援システム2および薬剤投与支援プログラムは、静脈炎に対する処置のための工数を低減し、医療従事者の負担を低減することができる。
【0064】
以下では、本実施形態に係る薬剤投与支援システムの具体的な動作を、図面を参照して説明する。
図2および
図3は、本実施形態に係る薬剤投与支援システムの動作の具体例を説明するフローチャートである。
図4は、流れ阻害リスク参照データ記憶部に記憶された参照データの具体例を表す表である。
図5は、化学刺激リスク参照データ記憶部に記憶された参照データの具体例を表す表である。
図6は、物理刺激リスク参照データ記憶部に記憶された参照データの具体例を表す表である。
【0065】
まず、ステップS1において、血管情報取得部211は、測定器4により撮像された患者の血管画像データを送受信部22を介して取得する。続いて、ステップS2において、血管情報取得部211は、取得した血管画像データに基づいて、留置針が穿刺される箇所の患者の血管に関する血管情報を検出する。
図1に関して前述した通り、血管情報は、患者の血管の径および患者の血管を流れる血液の流速の少なくともいずれかを含む。なお、ステップS1およびステップS2において、血管情報取得部211は、測定器4により検出あるいは算出された血管情報を送受信部22を介して取得してもよい。続いて、ステップS3において、血管情報取得部211は、血管情報を血管情報記憶部251に記憶する。ステップS1~ステップS3は、本発明の「血管情報を取得するステップ」の一例である。
【0066】
続いて、ステップS4において、留置針情報取得部212は、医療従事者の操作により入力部5に入力された使用予定の留置針に関する留置針情報を送受信部22を介して取得する。
図1に関して前述した通り、留置針情報は、留置針の外径および留置針のゲージの少なくともいずれかを含む。続いて、ステップS5において、留置針情報取得部212は、留置針情報を留置針情報記憶部252に記憶する。ステップS4~ステップS5は、本発明の「留置針情報を取得するステップ」の一例である。
【0067】
続いて、ステップS6において、流れ阻害リスク算出部216は、血管情報記憶部251に記憶された血管情報および留置針情報記憶部252に記憶された留置針情報に基づいて、
図1に関して前述した式1-1、式1-2および式1-3のいずれかの式を用いて、留置針による薬剤の流れ阻害の程度を計算する。続いて、ステップS7において、流れ阻害リスク算出部216は、計算結果を、流れ阻害リスク参照データ記憶部255に記憶された参照データと照合することにより、流れ阻害リスクを数値化する。ステップS6~ステップS7は、本発明の「流れ阻害リスクを算出するステップ」の一例である。
【0068】
ここで、
図4を参照して、流れ阻害リスク参照データ記憶部255に記憶された参照データを説明する。
図4に表した具体例では、流れ阻害リスク算出部216は、
図1に関して前述した式1-1を用いて留置針による薬剤の流れ阻害の程度を計算している。
図4に表したように、流れ阻害の程度(すなわち[留置針の外径(OD)]/[血管の径(VD)])の計算結果が0.6未満である場合には、流れ阻害リスク算出部216は、流れ阻害リスクに対して点数「0」を設定する。流れ阻害の程度の計算結果が0.6以上、0.8以下である場合には、流れ阻害リスク算出部216は、流れ阻害リスクに対して点数「1」を設定する。流れ阻害の程度の計算結果が0.8よりも大きい場合には、流れ阻害リスク算出部216は、流れ阻害リスクに対して点数「2」を設定する。
【0069】
ステップS7に続くステップS8において、出力部23は、流れ阻害リスクを表示器3に点数で表示する処理を実行する。
【0070】
続いて、ステップS11において、薬剤情報取得部213は、医療従事者の操作により入力部5に入力された薬剤に関する薬剤情報を送受信部22を介して取得する。
図1に関して前述した通り、薬剤情報は、薬剤の種類、薬剤の粘度、薬剤の水素イオン濃度、薬剤の浸透圧、薬剤の薬理活性、薬剤の投与時間、および薬剤の投与速度の少なくともいずれかを含む。
【0071】
また、ステップS11において、患者情報取得部214は、医療従事者の操作により入力部5に入力された患者に関する患者情報を送受信部22を介して取得する。
図1に関して前述した通り、患者情報は、患者の血管を流れる血液の検査値、留置針が穿刺された箇所、および留置針が穿刺されてから経過した時間の少なくともいずれかを含む。
【0072】
続いて、ステップS12において、薬剤情報取得部213は、薬剤情報を薬剤情報記憶部253に記憶する。また、患者情報取得部214は、患者情報を患者情報記憶部254に記憶する。ステップS11~ステップS12は、本発明の「薬剤情報を取得するステップ」および「患者情報を取得するステップ」の一例である。
【0073】
続いて、ステップS13において、化学刺激リスク算出部217は、薬剤情報記憶部253に記憶された薬剤情報および患者情報記憶部254に記憶された患者情報を、化学刺激リスク参照データ記憶部256に記憶された参照データと照合し、
図1に関して前述した式2-1、式2-2および式2-3のいずれかの式を用いて化学刺激リスクを計算する。ステップS13は、本発明の「化学刺激リスクを算出するステップ」の一例である。
【0074】
ここで、
図5を参照して、化学刺激リスク参照データ記憶部256に記憶された参照データを説明する。
図5に表したように、入力部5に入力された薬剤の粘度が4mPa・s未満である場合には、化学刺激リスク算出部217は、薬剤の粘度に対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された薬剤の粘度が4mPa・s以上、6mPa・s以下である場合には、化学刺激リスク算出部217は、薬剤の粘度に対して点数「1」を設定する。入力部5に入力された薬剤の粘度が6mPa・sよりも大きい場合には、化学刺激リスク算出部217は、薬剤の粘度に対して点数「2」を設定する。
【0075】
また、
図5に表したように、入力部5に入力された薬剤の水素イオン濃度(pH)が7以上、8以下である場合には、化学刺激リスク算出部217は、薬剤のpHに対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された薬剤のpHが4以上、6以下あるいは8よりも大きく、9以下である場合には、化学刺激リスク算出部217は、薬剤のpHに対して点数「1」を設定する。入力部5に入力された薬剤のpHが4未満、9よりも大きい場合には、化学刺激リスク算出部217は、薬剤のpHに対して点数「2」を設定する。
【0076】
また、
図5に表したように、入力部5に入力された薬剤の浸透圧が200mOsm/L以上、300mOsm/L以下である場合には、化学刺激リスク算出部217は、薬剤の浸透圧に対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された薬剤の浸透圧が300mOsm/Lよりも大きく、600mOsm/L以下あるいは100mOsm/L以上、200mOsm/L未満である場合には、化学刺激リスク算出部217は、薬剤の浸透圧に対して点数「1」を設定する。入力部5に入力された薬剤の浸透圧が600mOsm/Lよりも大きい、あるいは100mOsm/L未満である場合には、化学刺激リスク算出部217は、薬剤の浸透圧に対して点数「2」を設定する。
【0077】
また、
図5に表したように、入力部5に入力された薬剤の薬理活性が生理食塩水などのように「低」である場合には、化学刺激リスク算出部217は、薬剤の薬理活性に対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された薬剤の薬理活性が輸液剤などのように「中」である場合には、化学刺激リスク算出部217は、薬剤の薬理活性に対して点数「1」を設定する。入力部5に入力された薬剤の薬理活性が抗がん剤および医療用麻酔などのように「高」である場合には、化学刺激リスク算出部217は、薬剤の薬理活性に対して点数「2」を設定する。
【0078】
続いて、化学刺激リスク算出部217は、薬剤の粘度、薬剤の水素イオン濃度、薬剤の浸透圧および薬剤の薬理活性に対して設定した点数と、
図1に関して前述した式2-1、式2-2および式2-3のいずれかの式と、を用いて化学刺激リスクを計算する。
【0079】
ステップS13に続くステップS14において、出力部23は、化学刺激リスクを表示器3に点数で表示する処理を実行する。
【0080】
ステップS15において、物理刺激リスク算出部218は、薬剤情報記憶部253に記憶された薬剤情報および患者情報記憶部254に記憶された患者情報を、物理刺激リスク参照データ記憶部257に記憶された参照データと照合し、
図1に関して前述した式3-1、式3-2および式3-3のいずれかの式を用いて物理刺激リスクを計算する。ステップS15は、本発明の「物理刺激リスクを算出するステップ」の一例である。
【0081】
ここで、
図6を参照して、物理刺激リスク参照データ記憶部257に記憶された参照データを説明する。
図6には表したように、入力部5に入力された患者の血中アルブミン値が3.3g/dLよりも大きい場合には、物理刺激リスク算出部218は、患者の血中アルブミン値に対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された患者の血中アルブミン値が2.7g/dL以上、3.3g/dL以下である場合には、物理刺激リスク算出部218は、患者の血中アルブミン値に対して点数「1」を設定する。入力部5に入力された患者の血中アルブミン値が2.7g/dL未満である場合には、物理刺激リスク算出部218は、患者の血中アルブミン値に対して点数「2」を設定する。
【0082】
また、
図6に表したように、入力部5に入力された薬剤の投与時間が14時間未満である場合には、物理刺激リスク算出部218は、薬剤の投与時間に対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された薬剤の投与時間が14時間以上、22.7時間以下である場合には、物理刺激リスク算出部218は、薬剤の投与時間に対して点数「1」を設定する。入力部5に入力された薬剤の投与時間が22.7時間よりも長い場合には、物理刺激リスク算出部218は、薬剤の投与時間に対して点数「2」を設定する。
【0083】
また、
図6に表したように、入力部5に入力された薬剤の投与速度が0.2mg/hrよりも遅い場合には、物理刺激リスク算出部218は、薬剤の投与速度に対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された薬剤の投与速度が0.2mg/hr以上、4.1mg/hr以下である場合には、物理刺激リスク算出部218は、薬剤の投与速度に対して点数「1」を設定する。入力部5に入力された薬剤の投与速度が4.1mg/hrよりも早い場合には、物理刺激リスク算出部218は、薬剤の投与速度に対して点数「2」を設定する。
【0084】
また、
図6に表したように、入力部5に入力された穿刺箇所(すなわち患者の可動部と穿刺箇所との間の距離)が6cmよりも長い場合には、物理刺激リスク算出部218は、穿刺箇所に対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された穿刺箇所が3cm以上、6cm以下である場合には、物理刺激リスク算出部218は、穿刺箇所に対して点数「1」を設定する。入力部5に入力された穿刺箇所が3cm未満である場合には、物理刺激リスク算出部218は、穿刺箇所に対して点数「2」を設定する。
【0085】
また、
図6に表したように、入力部5に入力された経過時間(すなわち留置針を前回穿刺してから経過した時間)が48時間よりも長い場合には、物理刺激リスク算出部218は、経過時間に対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された経過時間が24時間以上、48時間以下である場合には、物理刺激リスク算出部218は、経過時間に対して点数「1」を設定する。入力部5に入力された経過時間が24時間未満である場合には、物理刺激リスク算出部218は、経過時間に対して点数「2」を設定する。
【0086】
続いて、物理刺激リスク算出部218は、患者の血中アルブミン値、薬剤の投与時間、薬剤の投与速度、穿刺箇所および経過時間に対して設定した点数と、
図1に関して前述した式3-1、式3-2および式3-3のいずれかの式と、を用いて物理刺激リスクを計算する。
【0087】
ステップS15に続くステップS16において、出力部23は、物理刺激リスクを表示器3に点数で表示する処理を実行する。
【0088】
続いて、ステップS17において、静脈炎リスク判断部215は、流れ阻害リスクと化学刺激リスクと物理刺激リスクとを合計して数値化する。ステップS17は、本発明の「静脈炎リスク判断ステップ」の一例である。
【0089】
続いて、ステップS18において、推奨処置提案部219は、静脈炎リスク判断部215の計算結果(すなわち合計結果)に基づいて、医療行為の推奨処置を提案する。
図1に関して前述した通り、医療行為の推奨処置としては、例えば、反対側の血管に留置針を穿刺する処置、使用するカテーテルを末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC:Peripherally Inserted Central Venous Catheter)に変更する処置、薬剤の流量を遅くする処置、静脈炎の起きづらいソフトチューブ製の留置針を使用する処置、および留置針の使用ゲージを変更する(すなわち大きいゲージ数の留置針に変更したり、小さいゲージ数の留置針に変更したりする)処置などが挙げられる。また、出力部23は、推奨処置提案部219により提案された推奨処置を表示器3に表示する処理を実行する。ステップS18は、本発明の「医療行為の推奨処置を提案するステップ」の一例である。
【0090】
本実施形態に係る薬剤投与支援システム2および薬剤投与支援プログラムによれば、静脈炎リスク判断部215は、血管情報と留置針情報と薬剤情報と患者情報とに基づいて静脈炎の発症リスクを判断することにより、静脈炎の発症リスクをより正確に判断することができる。
【0091】
また、流れ阻害リスク算出部216が血管情報と留置針情報とに基づいた具体的リスクを流れ阻害リスクとして算出し、化学刺激リスク算出部217が薬剤情報と患者情報とに基づいた具体的リスクを化学刺激リスクとして算出し、物理刺激リスク算出部218が薬剤情報と患者情報とに基づいた具体的リスクを物理刺激リスクとして算出して、静脈炎リスク判断部215が静脈炎の発症リスクを判断することにより、静脈炎リスク判断部215は、静脈炎の発症リスクをより正確に判断することができる。
【0092】
さらに、推奨処置提案部219は、静脈炎リスク判断部215の判断結果に基づいて医療行為の推奨処置を提案することにより、留置針を介して薬剤を投与する医療従事者の医療行為をより確実に支援することができる。また、熟練の医療従事者が経験の浅い医療従事者に付き添う回数を減らすことができるため、医療資源の最適化を図ることができる。
【0093】
次に、本実施形態の静脈炎リスク判断部215の動作の具体例、すなわち本発明の「静脈炎リスク判断ステップ」の具体例を、図面を参照して説明する。
図7は、静脈炎リスク判断部の動作の第1具体例を説明する表である。
図7(a)は、流れ阻害リスク算出部の動作の具体例、すなわち本発明の「流れ阻害リスクを算出するステップ」の具体例を説明する表である。
図7(b)は、化学刺激リスク算出部の動作の具体例、すなわち本発明の「化学刺激リスクを算出するステップ」の具体例を説明する表である。
図7(c)は、物理刺激リスク算出部の動作の具体例、すなわち本発明の「物理刺激リスクを算出するステップ」の具体例を説明する表である。
【0094】
なお、流れ阻害リスクは、
図7(a)に表したような表ではなくレーダチャートで表示器3に表示されてもよい。化学刺激リスクは、
図7(b)に表したような表ではなくレーダチャートで表示器3に表示されてもよい。物理刺激リスクは、
図7(c)に表したような表ではなくレーダチャートで表示器3に表示されてもよい。
【0095】
本具体例において、患者は、心不全にて定期的に通院している70歳の男性であり、低栄養の所見があるため入院した。脱水症状の所見があるため、医療従事者は、患者に対して補水を行うことにした。使用する留置針のゲージは、20G(外径:0.89mm)である。穿刺予定の血管の径は、2mmである。投与薬剤は、生理食塩水である。血液検査がすでに済んでおり、血中アルブミン値については、2.0g/dL未満であることが判明している。薬剤の投与時間、薬剤の投与速度、穿刺箇所および穿刺からの経過時間は、
図7(c)に表した「入力データ」に記載された通りである。
【0096】
また、本具体例では、流れ阻害リスク算出部216は、
図1に関して前述した式1-1を用いて留置針による薬剤の流れ阻害の程度を計算する。化学刺激リスク算出部217は、
図1に関して前述した式2-1を用いて化学刺激リスクを計算する。物理刺激リスク算出部218は、
図1に関して前述した式3-1を用いて物理刺激リスクを計算する。静脈炎リスク判断部215は、基準点を「6」としたアルゴリズムを使用する。
【0097】
本具体例について詳しく説明すると、まず、流れ阻害リスク算出部216は、使用する留置針のゲージ(20G(外径:0.89mm))および血管の径(2mm)に基づいて、
図1に関して前述した式1-1を用いて、留置針による薬剤の流れ阻害の程度を計算する。
図7(a)に表した「計算結果」に記載されたように、流れ阻害リスク算出部216の計算結果は、「0.45」である。そのため、
図7(a)に表した「判定」に記載されたように、流れ阻害リスク算出部216は、計算結果(0.45)を、
図4に関して前述した参照データと照合し、流れ阻害リスクに対して点数「0」を設定する。
【0098】
続いて、化学刺激リスク算出部217は、入力部5に入力されたデータを、
図5に関して前述した参照データと照合し、
図1に関して前述した式2-1を用いて化学刺激リスクを計算する。すなわち、入力部5に入力された薬剤の粘度が1.0mPa・sであるため、
図7(b)に表した「判定」に記載されたように、化学刺激リスク算出部217は、薬剤の粘度に対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された薬剤の水素イオン濃度(pH)が7.75であるため、
図7(b)に表した「判定」に記載されたように、化学刺激リスク算出部217は、薬剤のpHに対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された薬剤の浸透圧が308mOsm/Lであるため、
図7(b)に表した「判定」に記載されたように、化学刺激リスク算出部217は、薬剤の浸透圧に対して点数「1」を設定する。投与薬剤が生理食塩水であり、入力部5に入力された薬剤の薬理活性が「低」であるため、
図7(b)に表した「判定」に記載されたように、化学刺激リスク算出部217は、薬剤の薬理活性に対して点数「0」を設定する。続いて、化学刺激リスク算出部217は、
図1に関して前述した式2-1を用いて化学刺激リスクに対して「1」を設定する。
【0099】
続いて、物理刺激リスク算出部218は、入力部5に入力されたデータを、
図6に関して前述した参照データと照合し、
図1に関して前述した式3-1を用いて物理刺激リスクを計算する。すなわち、入力部5に入力された血中アルブミン値が2.0g/dL未満であるため、
図7(c)に表した「判定」に記載されたように、物理刺激リスク算出部218は、患者の血中アルブミン値に対して点数「2」を設定する。入力部5に入力された薬剤の投与時間が6時間であるため、物理刺激リスク算出部218は、薬剤の投与時間に対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された薬剤の投与速度が0mg/hrであるため、物理刺激リスク算出部218は、薬剤の投与速度に対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された穿刺箇所が3cm未満であるため、物理刺激リスク算出部218は、穿刺箇所に対して点数「2」を設定する。今回が穿刺の初回であり、入力部5に入力された経過時間が0時間であるため、物理刺激リスク算出部218は、経過時間に対して点数「0」を設定する。続いて、物理刺激リスク算出部218は、式3-1を用いて物理刺激リスクに対して「4」を設定する。
【0100】
続いて、静脈炎リスク判断部215は、流れ阻害リスクの点数「0」と、化学刺激リスクの点数「1」と、物理刺激リスクの点数「4」と、を合計して「5」を算出する。静脈炎リスク判断部215は、基準点を「6」としたアルゴリズムを使用し、合計点数が「5」であるため、静脈炎の発症リスクが「小」であると判断する。これにより、推奨処置提案部219は、予定している処置をそのまま実施する提案を行う。また、出力部23は、予定している処置をそのまま実施する提案を表示器3に表示する処理を実行する。
【0101】
図8は、静脈炎リスク判断部の動作の第2具体例を説明する表である。
図8(a)は、流れ阻害リスク算出部の動作の具体例、すなわち本発明の「流れ阻害リスクを算出するステップ」の具体例を説明する表である。
図8(b)は、化学刺激リスク算出部の動作の具体例、すなわち本発明の「化学刺激リスクを算出するステップ」の具体例を説明する表である。
図8(c)は、物理刺激リスク算出部の動作の具体例、すなわち本発明の「物理刺激リスクを算出するステップ」の具体例を説明する表である。
【0102】
なお、流れ阻害リスクは、
図8(a)に表したような表ではなくレーダチャートで表示器3に表示されてもよい。化学刺激リスクは、
図8(b)に表したような表ではなくレーダチャートで表示器3に表示されてもよい。物理刺激リスクは、
図8(c)に表したような表ではなくレーダチャートで表示器3に表示されてもよい。
【0103】
本具体例において、患者は、非小細胞肺がん治療中であり、通院にて抗がん剤治療を行うために来院した。使用する留置針のゲージは、20G(外径:0.89mm)である。穿刺予定の血管の径は、2mmである。医療従事者は、レジメンを運用し、投与薬剤として、カルボプラチンと、パクリタキセルと、ベバシズマブと、アテゾリズマブと、を併用する療法を行うことにした。血液検査がすでに済んでおり、血中アルブミン値については、3.5g/dLであることが判明している。薬剤の投与時間、薬剤の投与速度、穿刺箇所および穿刺からの経過時間は、
図8(c)に表した「入力データ」に記載された通りである。
【0104】
また、本具体例では、流れ阻害リスク算出部216は、
図1に関して前述した式1-1を用いて留置針による薬剤の流れ阻害の程度を計算する。化学刺激リスク算出部217は、
図1に関して前述した式2-1を用いて化学刺激リスクを計算する。物理刺激リスク算出部218は、
図1に関して前述した式3-1を用いて物理刺激リスクを計算する。静脈炎リスク判断部215は、基準点を「6」としたアルゴリズムを使用する。
【0105】
本具体例について詳しく説明すると、まず、流れ阻害リスク算出部216は、使用する留置針のゲージ(20G(外径:0.89mm))および血管の径(2mm)に基づいて、
図1に関して前述した式1-1を用いて、留置針による薬剤の流れ阻害の程度を計算する。
図8(a)に表した「計算結果」に記載されたように、流れ阻害リスク算出部216の計算結果は、「0.45」である。そのため、
図8(a)に表した「判定」に記載されたように、流れ阻害リスク算出部216は、計算結果(0.45)を、
図4に関して前述した参照データと照合し、流れ阻害リスクに対して点数「0」を設定する。
【0106】
続いて、化学刺激リスク算出部217は、入力部5に入力されたデータを、
図5に関して前述した参照データと照合し、
図1に関して前述した式2-1を用いて化学刺激リスクを計算する。すなわち、入力部5に入力された薬剤の粘度が1.0mPa・sであるため、
図8(b)に表した「判定」に記載されたように、化学刺激リスク算出部217は、薬剤の粘度に対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された薬剤の水素イオン濃度(pH)が3(パクリタキセル)であるため、
図8(b)に表した「判定」に記載されたように、化学刺激リスク算出部217は、薬剤のpHに対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された薬剤の浸透圧が30mOsm/L(カルボプラチン)および1200mOsm/L(パクリタキセル)であるため、
図8(b)に表した「判定」に記載されたように、化学刺激リスク算出部217は、薬剤の浸透圧に対して点数「2」を設定する。入力部5に入力された薬剤の薬理活性が「高」であるため、
図8(b)に表した「判定」に記載されたように、化学刺激リスク算出部217は、薬剤の薬理活性に対して点数「2」を設定する。続いて、化学刺激リスク算出部217は、
図1に関して前述した式2-1を用いて化学刺激リスクに対して「4」を設定する。
【0107】
続いて、物理刺激リスク算出部218は、入力部5に入力されたデータを、
図6に関して前述した参照データと照合し、
図1に関して前述した式3-1を用いて物理刺激リスクを計算する。すなわち、入力部5に入力された血中アルブミン値が3.5g/dLであるため、
図8(c)に表した「判定」に記載されたように、物理刺激リスク算出部218は、患者の血中アルブミン値に対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された薬剤の投与時間が7.75時間であるため、物理刺激リスク算出部218は、薬剤の投与時間に対して点数「0」を設定する。入力部5に入力された薬剤の投与速度が125mg/hrであるため、物理刺激リスク算出部218は、薬剤の投与速度に対して点数「2」を設定する。入力部5に入力された穿刺箇所が3cm以上、6cm以下であるため、物理刺激リスク算出部218は、穿刺箇所に対して点数「1」を設定する。今回が穿刺の初回であり、入力部5に入力された経過時間が0時間であるため、物理刺激リスク算出部218は、経過時間に対して点数「0」を設定する。続いて、物理刺激リスク算出部218は、式3-1を用いて物理刺激リスクに対して「3」を設定する。
【0108】
続いて、静脈炎リスク判断部215は、流れ阻害リスクの点数「0」と、化学刺激リスクの点数「4」と、物理刺激リスクの点数「3」と、を合計して「7」を算出する。静脈炎リスク判断部215は、基準点を「6」としたアルゴリズムを使用し、合計点数が「7」であるため、静脈炎の発症リスクが「大」であると判断する。これにより、推奨処置提案部219は、静脈炎の起きづらいソフトチューブ製の留置針を使用する処置、あるいは使用するカテーテルを末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC:Peripherally Inserted Central Venous Catheter)に変更する処置を提案する。また、出力部23は、推奨処置提案部219による提案を表示器3に表示する処理を実行する。
【0109】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
なお、第2実施形態に係る薬剤投与支援システム2Aの構成要素が、
図1~
図8に関して前述した第1実施形態に係る薬剤投与支援システム2の構成要素と同様である場合には、重複する説明は適宜省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0110】
図9は、本発明の第2実施形態に係る薬剤投与支援システムを表すブロック図である。
本実施形態に係る薬剤投与支援システム2Aは、
図1~
図8に関して前述した第1実施形態に係る薬剤投与支援システム2と比較して、流れ阻害リスク参照データ記憶部255、化学刺激リスク参照データ記憶部256、および物理刺激リスク参照データ記憶部257の代わりに、学習モデル258を記憶部25に有する。
【0111】
学習モデル258は、静脈炎リスク判断部215が静脈炎の発症リスクを判断するための学習モデルである。例えば、学習モデル258は、血管情報に関するラベル付きデータ(すなわち教師データ)、留置針情報に関する教師データ、薬剤情報に関する教師データ、および患者情報に関する教師データを用い、ニューラルネットワーク(NN:Neural Network)などの既知のアルゴリズムにより生成されている。学習モデル258は、多数の患者の血管情報、留置針情報、薬剤情報、患者情報、および投薬後に静脈炎が発生したか否かの情報を機械学習させて作成され、血管情報、留置針情報、薬剤情報および患者情報を入力すると、静脈炎の発生の有無または静脈炎が発生するリスクを出力する学習モデルである。その他の構成は、
図1~
図8に関して前述した第1実施形態に係る薬剤投与支援システム2の構成と同様である。
【0112】
図10は、本実施形態に係る薬剤投与支援システムの動作の具体例を説明するフローチャートである。
【0113】
まず、ステップS21~ステップS23は、
図2に関して前述したステップS1~ステップS3と同様である。続いて、ステップS24において、留置針情報取得部212は、医療従事者の操作により入力部5に入力された使用予定の留置針に関する留置針情報を送受信部22を介して取得する。また、薬剤情報取得部213は、医療従事者の操作により入力部5に入力された薬剤に関する薬剤情報を送受信部22を介して取得する。さらに、患者情報取得部214は、医療従事者の操作により入力部5に入力された患者に関する患者情報を送受信部22を介して取得する。ステップS24は、
図2に関して前述したステップS4および
図3に関して前述したステップS11と同様である。
【0114】
続いて、ステップS25において、留置針情報取得部212は、留置針情報を留置針情報記憶部252に記憶する。また、薬剤情報取得部213は、薬剤情報を薬剤情報記憶部253に記憶する。さらに、患者情報取得部214は、患者情報を患者情報記憶部254に記憶する。ステップS25は、
図2に関して前述したステップS5および
図3に関して前述したステップS12と同様である。
【0115】
続いて、ステップS26において、静脈炎リスク判断部215は、血管情報、留置針情報、薬剤情報および患者情報を学習モデル258に入力する。続いて、ステップS27において、静脈炎リスク判断部215は、学習モデル258の出力に基づいて、静脈炎の発症リスクが高いか否かを判断する。静脈炎の発症リスクが高いと静脈炎リスク判断部215が判断した場合には(ステップS27:YES)、ステップS28において、推奨処置提案部219は、医療の推奨処置を提案する。また、出力部23は、医療の推奨処置を表示器3に表示する処理を実行する。一方で、静脈炎の発症リスクが高くないと静脈炎リスク判断部215が判断した場合には(ステップS27:NO)、ステップS29において、推奨処置提案部219は、予定している処置をそのまま実施する提案を行う。また、出力部23は、「静脈炎発症リスク:低」を表示器3に表示する処理を実行する。
【0116】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0117】
2:薬剤投与支援システム、 2A:薬剤投与支援システム、 3:表示器、 4:測定器、 5:入力部、 21:制御部、 22:送受信部、 23:出力部、 24:電源、 25:記憶部、 211:血管情報取得部、 212:留置針情報取得部、 213:薬剤情報取得部、 214:患者情報取得部、 215:静脈炎リスク判断部、 216:流れ阻害リスク算出部、 217:化学刺激リスク算出部、 218:物理刺激リスク算出部、 219:推奨処置提案部、 251:血管情報記憶部、 252:留置針情報記憶部、 253:薬剤情報記憶部、 254:患者情報記憶部、 255:阻害リスク参照データ記憶部、 256:化学刺激リスク参照データ記憶部、 257:物理刺激リスク参照データ記憶部、 258:学習モデル