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特開2024-143960癒着防止ゲル形成剤セットおよび癒着防止ゲル形成キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143960
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】癒着防止ゲル形成剤セットおよび癒着防止ゲル形成キット
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/04 20060101AFI20241003BHJP
   A61L 31/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61L31/04 120
A61L31/00
A61L31/04 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098525
(22)【出願日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2023053642
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】宮地 麻代
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 基
(72)【発明者】
【氏名】岡田 潤
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC16
4C081CA081
4C081CD011
4C081DA02
4C081DA12
(57)【要約】
【課題】噴霧性およびゲル化特性に優れた癒着防止ゲル形成剤セットを提供する。
【解決手段】本発明の癒着防止ゲル形成剤セットは、スプレー塗布により癒着防止ゲルを形成するために用いる、第一剤と第二剤とを含む癒着防止ゲル形成剤セットであって、第一剤は、2つ以上の水酸基を有する化合物を含み、第二剤は、ホスホリルコリン基およびフェニルボロン酸基を含む高分子を含み、第一剤および第二剤を混合した直後からゲル化するまでのゲル化時間が20秒以下であり、第一剤の粘度が100.0mPa・s以下、および第二剤の粘度が100.0mPa・s以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレー塗布により癒着防止ゲルを形成するために用いる、第一剤と第二剤とを含む癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記第一剤は、2つ以上の水酸基を有する化合物を含み、
前記第二剤は、ホスホリルコリン基およびフェニルボロン酸基を含む高分子を含み、
下記の手順Aに従って測定される、前記第一剤および前記第二剤を混合した直後からゲル化するまでのゲル化時間が、20秒以下であり、
下記の手順Bに従って測定される、前記第一剤の粘度が100.0mPa・s以下、および前記第二剤の粘度が100.0mPa・s以下である、
癒着防止ゲル形成剤セット。
(手順A)
動的粘弾性測定装置を用いて、前記第一剤および前記第二剤を、体積比1:1の割合で混合した混合物について、室温25℃、周波数1Hz、ひずみ振り角1%の条件で粘弾性を測定する。得られた粘弾性スペクトルから、25℃の貯蔵弾性率(G')、25℃の損失弾性率(G'')を求め、測定開始の時点からG''/G'が1.0以下となる時点までの経過時間(秒)をゲル化時間とする。
(手順B)
室温25℃下、コーンロータの角度1°34'、回転速度50rpmの条件にて、コーンプレート型粘度計を用いて、前記第一剤の粘度、および前記第二剤の粘度をそれぞれ測定する。
【請求項2】
請求項1に記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記手順Bに従って測定される、前記第一剤の粘度が1.0mPa・s以上、および前記第二剤の粘度が1.0mPa・s以上である、癒着防止ゲル形成剤セット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
当該癒着防止ゲル形成剤セットが、スプレーデバイスに用いられるものであり、
前記スプレーデバイスが、
前記第一剤を含む第一ノズル付きの第一容器、および前記第二剤を含む第二ノズル付きの第二容器を備えるか、または、
前記第一剤および前記第二剤を含む混合液を含む共通ノズル付きの共通容器を備える、癒着防止ゲル形成剤セット。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記第一剤および前記第二剤を混合してから30分後におけるゲルサンプルについて、前記手順Aに従って測定した25℃の貯蔵弾性率が、10Pa以上1000Pa以下である、癒着防止ゲル形成剤セット。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記第一剤および前記第二剤を混合してから30分後におけるゲルサンプルについて、前記手順Aに従って測定した25℃の貯蔵弾性率をG'、損失弾性率をG''としたとき、G''/G'により算出される損失正接が、0.01以上0.1以下である、癒着防止ゲル形成剤セット。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記手順Bに従って測定した、調製直後の粘度をη1とし、温度80℃、1週間保存した後の粘度をη2とし、粘度変化率を(|η2-η1|/η1)×100と定義したとき、
前記第一剤の前記粘度変化率が0%以上10%以下、および前記第二剤の前記粘度変化率が0%以上10%以下である、癒着防止ゲル形成剤セット。
【請求項7】
請求項1または2に記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記第一剤中の前記2つ以上の水酸基を有する化合物が、単糖類、多糖類、低分子アルコール、および水溶性ポリマーアルコールからなる群から選ばれる一または二以上を含む、癒着防止ゲル形成剤セット。
【請求項8】
請求項1または2に記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記第二剤中の前記高分子が、分子内に、(メタ)アクリレート基を含む癒着防止ゲル形成剤セット。
【請求項9】
請求項1または2に記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記第二剤中の前記高分子が、下記の一般式(1)で表される骨格を備える高分子を含む、癒着防止ゲル形成剤セット。
【化1】
(上記一般式(1)中、Rは、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、Rは炭素数2から12のアルキル基またはオキシエチレン基を示し、Rは炭素数2から4のアルキル基を示し、Xは、単結合または置換基を有していてもよいフェニル基、-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-C(O)NH-もしくは-S-で示される基を表し、Aは、水素原子、ハロゲン原子または任意の有機置換基を表し、n、mおよびlは、それぞれ順に、0.01~0.99、0.01~0.99、および0~0.98を表す(ただし、n、mおよびlの総和は1.00である。))
【請求項10】
請求項1または2に記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記第一剤中の前記2つ以上の水酸基を有する化合物の重量平均分子量が10,000以上50,000以下、および/または
前記第二剤中の前記高分子の重量平均分子量が10,000以上32,000以下である、
癒着防止ゲル形成剤セット。
【請求項11】
請求項1または2に記載の癒着防止ゲル形成剤セットと、スプレーデバイス、とを備える、癒着防止ゲル形成キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癒着防止ゲル形成剤セットおよび癒着防止ゲル形成キットに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで癒着防止技術について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、多価水酸基を有する化合物と、ホスホリルコリン基およびフェニルボロン酸基を含有する高分子とを含む組成物を主成分とする、組織癒着およびまたは関節拘縮防止材が記載されている(特許文献1の請求項1等)。また、同文献の実施例20には、ラットアキレス腱損傷モデルにおける腱癒合・癒着の検討のために、上記組成物を水溶媒中で混合することにより調整した三次元架橋体(BVゲル)を、ラットアキレス腱に粘着させた例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2009/066746号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の関節拘縮防止材において、噴霧性およびゲル化特性の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、第一剤と第二剤とを含む癒着防止ゲル形成剤セットにおいて、第一剤と第二剤との混合物におけるゲル化時間を所定値以下とすることによりゲル化特性を高め、第一剤および第二剤の粘度を所定値以下とすることにより噴霧性を高められるため、スプレー塗布が良好となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明の一態様によれば、以下の癒着防止ゲル形成剤セットおよび癒着防止ゲル形成キットが提供される。
1. スプレー塗布により癒着防止ゲルを形成するために用いる、第一剤と第二剤とを含む癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記第一剤は、2つ以上の水酸基を有する化合物を含み、
前記第二剤は、ホスホリルコリン基およびフェニルボロン酸基を含む高分子を含み、
下記の手順Aに従って測定される、前記第一剤および前記第二剤を混合した直後からゲル化するまでのゲル化時間が、20秒以下であり、
下記の手順Bに従って測定される、前記第一剤の粘度が100.0mPa・s以下、および前記第二剤の粘度が100.0mPa・s以下である、
癒着防止ゲル形成剤セット。
(手順A)
動的粘弾性測定装置を用いて、前記第一剤および前記第二剤を、体積比1:1の割合で混合した混合物について、室温25℃、周波数1Hz、ひずみ振り角1%の条件で粘弾性を測定する。得られた粘弾性スペクトルから、25℃の貯蔵弾性率(G')、25℃の損失弾性率(G'')を求め、測定開始の時点からG''/G'が1.0以下となる時点までの経過時間(秒)をゲル化時間とする。
(手順B)
室温25℃下、コーンロータの角度1°34'、回転速度50rpmの条件にて、コーンプレート型粘度計を用いて、前記第一剤の粘度、および前記第二剤の粘度をそれぞれ測定する。
2. 1.に記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記手順Bに従って測定される、前記第一剤の粘度が1.0mPa・s以上、および前記第二剤の粘度が1.0mPa・s以上である、癒着防止ゲル形成剤セット。
3. 1.又は2.に記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
当該癒着防止ゲル形成剤セットが、スプレーデバイスに用いられるものであり、
前記スプレーデバイスが、
前記第一剤を含む第一ノズル付きの第一容器、および前記第二剤を含む第二ノズル付きの第二容器を備えるか、または、
前記第一剤および前記第二剤を含む混合液を含む共通ノズル付きの共通容器を備える、癒着防止ゲル形成剤セット。
4. 1.~3.のいずれか一つに記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記第一剤および前記第二剤を混合してから30分後におけるゲルサンプルについて、前記手順Aに従って測定した25℃の貯蔵弾性率が、10Pa以上1000Pa以下である、癒着防止ゲル形成剤セット。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記第一剤および前記第二剤を混合してから30分後におけるゲルサンプルについて、前記手順Aに従って測定した25℃の貯蔵弾性率をG'、損失弾性率をG''としたとき、G''/G'により算出される損失正接が、0.01以上0.1以下である、癒着防止ゲル形成剤セット。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記手順Bに従って測定した、調製直後の粘度をη1とし、温度80℃、1週間保存した後の粘度をη2とし、粘度変化率を(|η2-η1|/η1)×100と定義したとき、
前記第一剤の前記粘度変化率が0%以上10%以下、および前記第二剤の前記粘度変化率が0%以上10%以下である、癒着防止ゲル形成剤セット。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記第一剤中の前記2つ以上の水酸基を有する化合物が、単糖類、多糖類、低分子アルコール、および水溶性ポリマーアルコールからなる群から選ばれる一または二以上を含む、癒着防止ゲル形成剤セット。
8. 1.~7.のいずれか一つに記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記第二剤中の前記高分子が、分子内に、(メタ)アクリレート基を含む癒着防止ゲル形成剤セット。
9. 1.~8.のいずれか一つに記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記第二剤中の前記高分子が、下記の一般式(1)で表される骨格を備える高分子を含む、癒着防止ゲル形成剤セット。
【化1】
(上記一般式(1)中、Rは、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、Rは炭素数2から12のアルキル基またはオキシエチレン基を示し、Rは炭素数2から4のアルキル基を示し、Xは、単結合または置換基を有していてもよいフェニル基、-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-C(O)NH-もしくは-S-で示される基を表し、Aは、水素原子、ハロゲン原子または任意の有機置換基を表し、n、mおよびlは、それぞれ順に、0.01~0.99、0.01~0.99、および0~0.98を表す(ただし、n、mおよびlの総和は1.00である。))
10. 1.~9.のいずれか一つに記載の癒着防止ゲル形成剤セットであって、
前記第一剤中の前記2つ以上の水酸基を有する化合物の重量平均分子量が10,000以上50,000以下、および/または
前記第二剤中の前記高分子の重量平均分子量が10,000以上32,000以下である、
癒着防止ゲル形成剤セット。
11. 1.~10.のいずれか一つに記載の癒着防止ゲル形成剤セットと、スプレーデバイス、とを備える、癒着防止ゲル形成キット。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、噴霧性およびゲル化特性に優れた癒着防止ゲル形成剤セット、およびそれを用いた癒着防止ゲル形成キットが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態の癒着防止ゲル形成剤セットの概要を説明する。
【0009】
本実施形態の癒着防止ゲル形成剤セットは、スプレー塗布により癒着防止ゲルを形成するために用いるものである。
【0010】
現在の癒着防止技術において、、フィルム状の癒着防止材を施術組織に貼り付ける手法が大部分を占めている。フィルム状の癒着防止材は、体内に存在する水分により粘着を発揮するものだが、貼り付けた後に移動させ難く、貼り付け部位の調整が難しい点が知られている。
【0011】
これに対して、本実施形態の癒着防止ゲル形成剤セットは、スプレー状の癒着防止材として使用することスプレー用組成物セットである。
スプレー状の癒着防止材は、塗布位置の調整が容易であるから、施術組織周辺に癒着防止ゲルを形成する位置を制御しやすい。また、スプレー状の癒着防止材は、開腹手術に適用できるだけでなく、体内に挿入したノズルを介して組織に塗布できる点を考慮すると、腹腔鏡手術やロボット支援腹腔鏡手術にも好適に用いることが可能である。
【0012】
スプレー状の癒着防止材の場合、第一剤および第二剤の一方を施術組織周辺に塗布した後、他方をその上に塗布する重ね塗り方法、第一剤および第二剤を混合した液体状の溶液を、ゲル化する前に、施術組織周辺に塗布する一括塗布方法、もしくは、スプレー状の第一剤とスプレー状の第二剤とを混合させながら施術組織周辺に塗布する一括塗布方法などが使用できる。ただし、塗布方法は、これらに限定されるものではない。
【0013】
本実施形態の癒着防止ゲル形成剤セットは、第一剤と第二剤とを含み、第一剤は、2つ以上の水酸基を有する化合物を含み、第二剤は、ホスホリルコリン基およびフェニルボロン酸基を含む高分子を含むものである。
このような癒着防止ゲル形成剤セットは、
下記の手順Aに従って測定される、第一剤および第二剤を混合した直後からゲル化するまでのゲル化時間が、20秒以下であり、
下記の手順Bに従って測定される、前記第一剤の粘度が100.0mPa・s以下、および第二剤の粘度が100.0mPa・s以下を満たすものである。
(手順A)
動的粘弾性測定装置を用いて、前記第一剤および前記第二剤を、体積比1:1の割合で混合した混合物について、室温25℃、周波数1Hz、ひずみ振り角1%の条件で粘弾性を測定する。得られた粘弾性スペクトルから、25℃の貯蔵弾性率(G')、25℃の損失弾性率(G'')を求め、測定開始の時点からG''/G'が1.0以下となる時点までの経過時間(秒)をゲル化時間とする。
(手順B)
室温25℃下、コーンロータの角度1°34'、回転速度50rpmの条件にて、コーンプレート型粘度計を用いて、前記第一剤の粘度、および前記第二剤の粘度をそれぞれ測定する。
【0014】
本発明者の知見によれば、癒着防止ゲル形成剤セットに含まれる第一剤および第二剤の粘度を上記上限値以下とすることにより、スプレーデバイスにおけるノズル詰まりを抑制できること、良質なミストを形成できるためスプレー先における第一剤と第二剤との混合均一性を高められることが判明した。
また、ゲル化時間を上記上限値以下とすることにより、第一剤と第二剤とが比較的早く架橋反応(ゲル化反応)が進むため、スプレーにより着弾した先で液だれ等を抑制できることが判明した。
【0015】
ゲル化時間の上限は、20秒以下、好ましくは18秒以下、より好ましくは15秒以下である。これにより、噴霧後の液だれを抑制できる。
一方、ゲル化時間の下限は、特に限定されないが、3秒以上としてもよい。
【0016】
第一剤の粘度の上限は、100.0mPa・s以下、好ましくは80mPa・s以下、より好ましくは70mPa・s以下である。これにより、スプレー時の液滴が細かくなり混合効率を向上できる。
一方、第一剤の粘度の下限は、とくに限定されないが、1.0mPa・s以上としてもよい。
【0017】
第二剤の粘度の上限は、100.0mPa・s以下、好ましくは60mPa・s以下、より好ましくは50mPa・s以下である。これにより、スプレー時の液滴が細かくなり混合効率を向上できる。
一方、第二剤の粘度の下限は、とくに限定されないが、1.0mPa・s以上としてもよい。
【0018】
上記手順Bに従って測定した、調製直後の第一剤または前記第二剤の粘度をη1とし、温度80℃、1週間保存した後の第一剤または第二剤の粘度をη2とし、粘度変化率を(|η2-η1|/η1)×100と定義する。
このとき、第一剤の粘度変化率の上限は、例えば、10%以下、好ましくは9%以下、より好ましくは8%以下である。これにより、噴霧性の経時変化を抑制できる。
一方、第一剤の粘度変化率の下限は、とくに限定されないが、0%以上としてもよい。
【0019】
また、第二剤の粘度変化率の上限は、例えば、10%以下、好ましくは9%以下、より好ましくは8%以下である。これにより、噴霧性の経時変化を抑制できる。
一方、第二剤の粘度変化率の下限は、とくに限定されないが、0%以上としてもよい。
【0020】
第一剤および第二剤を混合してから30分後におけるゲルサンプルについて、上記の手順Aに従って、25℃の貯蔵弾性率(G')、25℃の損失弾性率(G'')を算出する。
このとき、30分後のゲルサンプルにおける貯蔵弾性率の下限は、例えば、10Pa以上、好ましくは30Pa以上、より好ましくは50Pa以上、さらに好ましくは100Pa以上である。
一方、30分後のゲルサンプルにおける貯蔵弾性率の上限は、例えば、1000Pa、好ましくは800Pa以下、より好ましくは500Pa以下Paである。
【0021】
また、30分後のゲルサンプルにおけるG''/G'により算出される損失正接は、例えば、0.01以上0.15以下、好ましくは0.03以上0.13以下、より好ましくは0.04以上0.10以下である。
【0022】
本明細書において、「癒着」とは、ある組織と他の組織と間で生じる、望ましくない臓器間・組織間での連結、融合することを意味する。
【0023】
癒着防止ゲルの用途は、「動物」の腹腔内などの生体組織のいずれかであればよい。
動物としては、哺乳動物、非哺乳動物のいずれでもよいが、哺乳動物が好ましい。哺乳動物としては、例えばヒトなどの霊長類、マウス、モルモット、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、イヌ、ウサギ等が例示される。
【0024】
癒着防止ゲル形成キットは、癒着防止ゲル形成剤セットと、スプレーデバイス、とを備えてもよい。
すなわち、癒着防止ゲル形成剤セットが、スプレーデバイスに用いられるものである。
【0025】
上記スプレーデバイスは、例えば、第一剤を含む第一ノズル付きの第一容器、および第二剤を含む第二ノズル付きの第二容器を備える第一形態を備えてもよく、または、第一剤および第二剤を含む混合液を含む共通ノズル付きの共通容器を備える第二形態を備えてもよい。
【0026】
以下、本実施形態の癒着防止ゲル形成剤セットの各構成を詳述する。
【0027】
癒着防止ゲル形成剤セットは、第一剤と第二剤とを含む。
【0028】
第一剤は、2つ以上の水酸基を有する化合物を少なくとも含む。
2つ以上の水酸基を有する化合物として、水系媒体に溶解するものが使用できる。
第一剤中の2つ以上の水酸基を有する化合物が、単糖類、多糖類、低分子アルコール、および水溶性ポリマーアルコールからなる群から選ばれる一または二以上を含んでもよい。
【0029】
具体的には、単糖類として、例えば、グルコース、グルコサミン等が挙げられる。
多糖類として、例えば、マルトース、ラクトース、アミロース、アミロペクチン、キチン、ヒアルロン酸、セルロース、プルラン、デキストランおよびこれらの誘導体等が挙げられる。
低分子アルコールとして、例えば、合成ジオール、トリオール等が挙げられる。
水溶性ポリマーアルコールとして、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ(2-ヒドロキシエチル(メタ)アククリレート)、ポリ(2,3-ジヒドロキシエチル(メタ)アククリレート)、ポリ((メタ)アクリル酸配糖体)等が挙げられる。
これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、単糖類や多糖類は、天然糖類および人工糖類のいずれでもよい。
これらの中で、好ましくは多糖類および水溶性ポリマーアルコール、より好ましくはポリビニルアルコールである。
【0030】
第二剤は、ホスホリルコリン基およびフェニルボロン酸基を含む高分子を少なくとも含む。
ホスホリルコリン基およびフェニルボロン酸基を含む高分子は、例えば、ホスホリルコリン基を含有する第一のモノマーとフェニルボロン酸基を有する第二のモノマーとを混合し、ラジカル発生剤の存在化でのラジカル重合反応等の重合反応により製造することができる。なお、適宜、第三のモノマーを添加して、生成する高分子の性質を調整してもよい。
【0031】
ホスホリルコリン基を有する第一のモノマーとしては、ビニル基やアリル基などの炭素-炭素二重結合を重合性基として有し、かつホスホリルコリン基を同一分子中に有する化合物から選択することができる。
第一のモノマーとして、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2′-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-2′-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチル-2′-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-2′-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-2′-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-2′-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシブチル-2′-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-2′-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-2′-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-3′-(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-3′-(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチル-3′-(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3′-(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3′-(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-4′-(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチル-4′-(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-4′-(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート及び6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-4′-(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
この中でも、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、MPCと略す。)を用いてもよい。
本明細書中、「(メタ)アクリル」とは、メタクリル及び/またはアクリルを意味する。
【0032】
フェニルボロン酸基を有する第二のモノマーとしては、ビニル基やアリル基などの炭素-炭素二重結合を重合性基として有し、かつフェニルボロン酸基を同一分子中に有する化合物から選択することができる。
第二のモノマーとして、例えば、p-ビニルフェニルボロン酸、m-ビニルフェニルボロン酸、p-(メタ)アクリロイルオキシフェニルボロン酸、m-(メタ)アクリロイルオキシフェニルボロン酸、p-(メタ)アクリルアミドフェニルボロン酸、m-(メタ)アクリルアミドフェニルボロン酸、p-ビニルオキシフェニルボロン酸、m-ビニルオキシフェニルボロン酸、ビニルウレタンフェニルボロン酸等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
この中でも、原料の入手の点で、p-ビニルフェニルボロン酸あるいはm-ビニルフェニルボロン酸が好ましい。
【0033】
添加可能な第三のモノマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ナトリウム、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、N-ビニルピロリドン、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の親水性単量体、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、酢酸ビニル等の疎水性単量体、3-メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-メタクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン、(3-メタクリロイルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、トリメトキシビニルシラン等のアルキルオキシシラン基を有する単量体、シロキサン基を有する単量体、グリシジルメタクリレート等のグリシル基を有する単量体、アリルアミン、アミノエチル(メタ)アクリレート、2-メチルアリルアミン等のアミノ基を有する単量体、カルボキシル、水酸基、アルデヒド、チオール、ハロゲン、メトキシ、エポキシ、スクシンイミド、マレインイミド等の基を有する単量体等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、ブチル(メタ)アクリレートを使用してもよい。
【0034】
重合反応の際に使用する溶媒としては、第一のモノマーおよび第二のモノマーを溶解できるものであればよい。溶媒は、さらに、重合により生成する高分子も溶解させることのできるものがより好ましい。なお、溶媒は単一溶媒でもよく、二種類以上の混合溶媒でもよい。
【0035】
ラジカル発生剤としては、重合反応に使用する溶媒に溶解するものであり、例えば反応温度30℃~90℃の範囲で分解し、ラジカルを発生するものであれば制限なく使用することができる。安全性、安定性の点で、アゾビスイソブチロニトリル、4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸)等の脂肪族アゾ化合物、過酸化ベンゾイルやこはく酸パーオキシド等の過酸化物が好ましい。
さらに、光照射でラジカルを発生する開始剤、原子移動リビングラジカル重合反応、可逆的付加開裂連鎖移動重合法などを利用し、分子構造と分子量の制御を行なうことも妨げない。
【0036】
ホスホリルコリン基およびフェニルボロン酸基を含む高分子が、分子内に、(メタ)アクリレート基を含んでもよい。
【0037】
また、ホスホリルコリン基およびフェニルボロン酸基を含む高分子が、下記の一般式(1)で表される骨格を備える高分子を含んでもよい。
【0038】
【化2】
【0039】
上記一般式(1)中、Rは、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、Rは炭素数2から12のアルキル基またはオキシエチレン基を示し、Rは炭素数2から4のアルキル基を示し、Xは、単結合または置換基を有していてもよいフェニル基、-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-C(O)NH-もしくは-S-で示される基を表し、Aは、水素原子、ハロゲン原子または任意の有機置換基を表し、n、mおよびlは、それぞれ順に、0.01~0.99、0.01~0.99、および0~0.98を表す(ただし、n、mおよびlの総和は1.00である。)
【0040】
第一剤中の2つ以上の水酸基を有する化合物の重量平均分子量(Mw)は、例えば、10,000以上50,000以下、好ましくは12,500以上40,000以下、より好ましくは15,000以上30,000以下である。
また、第一剤中の2つ以上の水酸基を有する化合物の数平均分子量(Mn)は、例えば、5,000以上20,000以下、好ましくは6,000以上19,000以下、より好ましくは7,000以上18,000以下である。
【0041】
一方、第二剤中の高分子の重量平均分子量(Mw)は、例えば、10,000以上32,000以下、好ましくは12,000以上31,000以下、より好ましくは14,000以上30,000以下である。
また、第二剤中の高分子の数平均分子量(Mn)は、例えば、5,000以上15,000以下、好ましくは6,000以上14,000以下、より好ましくは7,000以上13,000以下である。
【0042】
本実施形態では、GPCを用いて標準PEGサンプルによる検量線を基に重量平均分子量、数平均分子量をそれぞれ算出できる。
【0043】
第一剤および第二剤は、それぞれ、例えば、粘度調整剤、湿潤材、乳化剤、滑沢剤、着色剤、放出材、保存剤、抗酸化剤、pH緩衝剤などの添加剤をさらに含んでいてもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
癒着防止ゲルの製造方法は、第一剤と第二剤とを含む癒着防止ゲル形成剤セットを用いて、例えば、第一剤に含まれる2つ以上の水酸基を有する化合物と、第二剤に含まれるホスホリルコリン基およびフェニルボロン酸基を含む高分子と、を混合することにより、三次元架橋体で構成される癒着防止ゲルを形成する方法が挙げられる。
【0045】
三次元架橋体を得るための温度は、用途により制限を受けない場合、例えば、4~90℃であり、生体成分の固定化の際、構造変化や活性の低下を防止する観点から、10~40℃が好ましく、操作上の観点から、好ましくは20~37℃の室温近辺である。
【0046】
第一剤および/または第二剤には、溶媒が含まれていてもよい。
溶媒には、水系溶媒を使用できるが、具体的には、純水、緩衝液、細胞培養溶液、30%以下の有機溶媒を含有する水溶液等を使用してもよい。
【0047】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0048】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0049】
<癒着防止ゲル形成剤セットの製造>
(PMBVの合成)
ガラス製反応容器に30mLの反応溶媒、原料モノマー、および反応開始剤を、表1に示す濃度比率に従って導入し、窒素ガスで混合液を15分間バブリングした後に、60~70℃の表1に示す反応温度の下、約18時間反応させて、反応液を得た。
反応溶媒には、エタノール(試薬、特級グレード)を使用した。
原料モノマーには、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC、試薬、特級グレード)、ブチルメタクリレート(BMA)、およびp-ビニルフェニルボロン酸(VPBA、試薬、特級グレード)を、表1に示す仕込み比率に従って使用した。
反応開始剤には、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN、試薬、特級グレード)を使用した。
続いて、得られた反応液を再沈殿溶媒に滴下してポリマーを析出させ、吸引ろ過と減圧乾燥を経て、白色粉末状のポリマーを得た。
ここで、再沈殿溶媒には、ヘキサン、アセトン、ジエチルエーテル、およびクロロホルムからなる群から選ばれる1種または2種以上を適宜混合したものを使用した。
続いて、得られたポリマー粉末を純水に溶解し、分画分子量が3500の透析膜に封入した後、純水を満たしたガラス容器中で3日間、途中で1日1回ガラス容器内の純水を交換しながら透析精製を行った。3日後、透析膜内の水溶液を凍結乾燥し、収量約5gの白色粉末状のポリマー(PMBV1~3)を得た。
【0050】
【表1】
【0051】
(第一剤の調製)
粘度が表2に示す値になるように、純水に、多価水酸基含有化合物を溶解し、濃度が0.01重量パーセントとなるように着色剤を添加して、表2に示す第一剤を調製した。
多価水酸基含有化合物には、表2に示す分子量を有するポリビニルアルコール(PVA、試薬、特級グレード)を使用した。
着色剤には、ブリリアントブルーFCF(試薬、特級グレード)を使用した。
ただし、比較例1の第一剤にはさらにポリエチレングリコール20000を所定量添加したものを使用した。比較例3の第一剤中のPVA3の濃度は、実施例1の第一剤中のPVA1の濃度(重量%)を0.5倍とした。
なお、動物実験に使用する場合には、フィルターによる濾過滅菌を行った第一剤を使用した。
【0052】
(第二剤の調製)
粘度が表2に示す値になるように、純水に、ホスホリルコリン基およびフェニルボロン酸基を含む高分子を溶解して、表2に示す第二剤を調製した。
ホスホリルコリン基およびフェニルボロン酸基を含む高分子には、上記で合成したPMBV1~3のいずれかを使用した。
ただし、比較例2の第二剤にはさらにポリエチレングリコール20000を所定量添加したものを使用した。比較例3の第二剤は、実施例3の第二剤中のPMBV3の濃度(重量%)を0.33倍とした。
なお、動物実験に使用する場合には、フィルターによる濾過滅菌を行った第二剤を使用した。
【0053】
(分子量分析)
表1で合成されたPMBV1~3(透析精製後の粉末状ポリマー)、表2で使用されるPVA1~2について、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて標準PEGサンプルによる検量線を基に重量平均分子量、数平均分子量をそれぞれ算出した。結果を表2に示す。
GPCの測定には、東ソー製TSKgel SuperAWM-H 1本、TSKgel SuperAW2500 1本、TSKgel guardcolumn SuperAW-H 1本を用い、展開溶媒として、メタノール 70%/HO 30%(10mM LiBr添加)を使用し、カラム温度40℃、流量0.6ml/分の条件を使用した。
【0054】
(組成分析)
表1で合成されたPMBV1~3について、H-NMRのスペクトルから、各モノマーの導入比を算出した。結果を表2に示す。
NMRの測定は日本電子社製JNM-ECA500を用い、重エタノール溶媒、積算回数32回で行った。
【0055】
(粘度)
表2の第一剤および第二剤の粘度について、室温25℃下、コーンロータの角度1°34'、回転速度50rpmの条件にて、コーンプレート型粘度計(東機産業社製、TV-100EH)を用いて測定した。
粘度については、第一剤および第二剤を、調製した直後もの、調製してからそれぞれ80℃で1週間保管した後のものを対象として測定した。調製直後の粘度をη1とし、保管後の粘度をη2としたとき、粘度変化率(%)を(|η2-η1|/η1)×100に基づいて算出した。
【0056】
(貯蔵弾性率、損失弾性率)
動的粘弾性(DMA)測定法を使用して、動的粘弾性測定装置(アントンパール社製、製品名:MCR301)を用いて、第一剤および第二剤を、体積比1:1の割合で混合した混合物について、室温25℃、周波数1Hz、ひずみ振り角1%の条件で粘弾性(ゲル化する過程)を測定した。
粘弾性スペクトルから、25℃の貯蔵弾性率(G')、25℃の損失弾性率(G'')を求め、これを用いて損失正接(G''/G')を算出た。
また、測定開始からG'が徐々に低下しその後上昇した後で、G''/G'が1.0以下となるまでの経過時間(秒)をゲル化時間とした。
【0057】
【表2】
【0058】
上記で得られた第一剤および第二剤を含む癒着防止ゲル形成剤セットを用いて、以下の項目について評価を実施した。
【0059】
<噴霧性>
上記で得られた第一剤および第二剤を、二液混合型のスプレーノズル(ノズル内孔径:Φ0.60mm)を用いて噴霧した際、噴霧粒子がミスト状となり円錐状に拡散する様子が見られた場合を「良好」、ノズルが詰まる場合、液滴として垂れる場合、液滴の連続体が直線状に放出される場合を「不良」とした。
【0060】
<ゲル化特性>
上記で得られた第一剤および第二剤を、二液混合型のスプレーノズルを用いて、30°傾斜面上の紙に噴霧した際、所望の位置にゲルが形成できる場合を「良好」、液滴が垂れてしまい所望の位置でのゲル形成が困難な場合を「不良」とした。
【0061】
<動物の腹腔内における癒着防止効果の評価>
癒着防止ゲル形成剤セットの使用時において、二液混合タイプのスプレーに第一剤、第二剤をそれぞれ接続し、第一剤と第二剤とを体積比1:1の割合で混合して噴霧した。
【0062】
以上の結果により、実施例1~3の癒着防止ゲル形成剤セットは、比較例1,2と比べて噴霧性に優れており、比較例3と比べてゲル化特性に優れることが分かった。
【0063】
試験実施組織における動物実験倫理委員会の承認の下、以下の動物実験を行った。
・一般的な動物実験で多用される系統であるSDラットの雄(受入時8週齢)を使用した。
・イソフルランを用いて麻酔を行い、腹部を正中切開し開腹した。
・盲腸にかかる大網および、脂肪体を切除し、盲腸を創外に露出させ、腹壁側に面する盲腸壁1×2cmを点状出血が生じるまで擦過した。盲腸の位置に応じて、切開創より1cm以上離した左右いずれかの腹壁を1×2cmの領域に切除した。
・盲腸の擦過領域および、腹腔内全体に、上記で得られた第一剤および第二剤を合計1mLになるようにスプレー噴霧しゲル膜を作製した。
・切開部の腹膜-筋層を吸収性縫合糸、皮膚を非吸収性縫合糸で縫合し、閉腹した。
【0064】
(剖検観察・評価)
・処置日から起算し7日後に動物をイソフルラン吸入麻酔(炭酸ガス混合)により安楽死させた。
・処置部位を避けるように開腹し、処置部位を露出させ、処置部に発生した癒着を評価した。
・(盲腸処置部と腹壁処置部の少なくとも一方との間で癒着の発生が認められた動物数)/(実験動物数)×100に基づいて、癒着発生率(%)を算出した。なお、実験動物数は6とした。
【0065】
実施例1~3の癒着防止ゲル形成剤セットを用いて腹腔内の癒着を防止する癒着防止ゲルすることにより、癒着防止ゲル形成剤セットを使用しない場合と比べて、癒着発生率が低減し、癒着防止能に優れる結果が示された。