(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143962
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】半導体レーザ
(51)【国際特許分類】
H01S 5/12 20210101AFI20241003BHJP
H01S 5/11 20210101ALI20241003BHJP
H01S 5/16 20060101ALI20241003BHJP
H01S 5/042 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01S5/12
H01S5/11
H01S5/16
H01S5/042 612
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102676
(22)【出願日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2023054498
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515288122
【氏名又は名称】ルーメンタム オペレーションズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Lumentum Operations LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 厚
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA05
5F173AB15
5F173AB16
5F173AB23
5F173AB73
5F173AL03
5F173AR03
5F173AR14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】半導体レーザの高出力特性と単一波長性の向上。
【解決手段】半導体レーザは、基板と、基板上に形成された活性層と、主λ/4位相シフト部を備え、第1端部から主λ/4位相シフト部までの第1領域及び逆側の第2領域を含む回折格子層と、第1領域と第2領域に共通して設けられた第1及び第2電極と、を備え、第1領域は、ブラッグ波長の光に対して高反射率をもつ回折パターンが配置され、第2領域は、第1領域の位相に対して位相がπシフトしているπシフト領域、副λ/4シフト部、第1領域と位相が同一である同一位相領域、副λ/4シフト部が第2端部に向かってこの順で配置された領域と、πシフト領域を含み、回折格子層が延伸する方向において、πシフト領域は同一位相領域より長く、第1領域の長さは、πシフト領域と同一位相領域の差分より大きく、両側の端面に低反射端面コーティング膜が形成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された活性層と、
主λ/4位相シフト部を備え、第1端部から主λ/4位相シフト部までの第1領域と、前記第1端部の逆側の第2端部から前記主λ/4位相シフト部までの第2領域と、を含む回折格子層と、
前記第1領域と前記第2領域に共通して前記基板の下方に設けられた第1電極と、
前記第1領域と前記第2領域に共通して前記回折格子層の上方に設けられた第2電極と、
を備え、
前記第1領域は、ブラッグ波長の光に対して高反射率をもつ回折パターンが配置され、
前記第2領域は、前記第1領域の位相に対して位相がπシフトしているπシフト領域、副λ/4シフト部、前記第1領域と位相が同一である同一位相領域、副λ/4シフト部が前記第2端部に向かってこの順で配置された領域と、該領域の前記第2端部側に配置された前記πシフト領域と、含み、
前記回折格子層が延伸する方向において、前記πシフト領域の合計の長さは、前記同一位相領域の長さより長く、
前記回折格子層が延伸する方向において、前記第1領域の長さは、前記πシフト領域の合計の長さと前記同一位相領域の長さの差分より大きく、
前記第2端部に近い前方端面と、前記第1端部に近い後方端面には低反射端面コーティング膜が形成される、半導体レーザ。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体レーザであって、
前記第1領域は、前記回折格子層が延伸する方向に同じの長さの第1屈折率領域及び第2屈折率領域が交互に配置され、
前記第2領域の前記πシフト領域は、前記第1領域の位相に対して位相がπシフトするように、前記第1領域と同じ長さの前記第1屈折率領域と前記第2屈折率領域が交互に配置され、
前記第2領域の前記同一位相領域は、前記第1領域の位相と同じ位相となるように、前記第1領域と同じ長さの前記第1屈折率領域と前記第2屈折率領域が交互に配置される、半導体レーザ。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体レーザであって、
前記第1領域の規格化結合係数は、前記第2領域の規格化結合係数より大きい、半導体レーザ。
【請求項4】
請求項1に記載の半導体レーザであって、
前記第1領域と前記第2領域の前記回折格子層が延伸する方向の長さの比は、3:7~9:1である、半導体レーザ。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体レーザであって、
前記第2領域は、前記πシフト領域、前記副λ/4シフト部、前記同一位相領域、前記副λ/4シフト部がこの順で配置された領域を複数含み、
前記πシフト領域の各長さは同一であり、
前記同一位相領域の各長さは同一である、半導体レーザ。
【請求項6】
請求項1に記載の半導体レーザであって、
前記第2領域は、前記πシフト領域、前記副λ/4シフト部、前記同一位相領域、前記副λ/4シフト部がこの順で配置された領域を複数含み、
前記πシフト領域の各長さは異なり、
前記同一位相領域の各長さは異なる、半導体レーザ。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体レーザであって、
前記第1端部と前記後方端面は、略同一箇所であり、
前記第2端部と前記前方端面は、略同一箇所である、半導体レーザ。
【請求項8】
請求項1に記載の半導体レーザであって、
前記第1端部と前記後方端面との間に窓構造を含み、
前記第2端部と前記前方端面との間に窓構造を含む、半導体レーザ。
【請求項9】
請求項2に記載の半導体レーザであって、
前記活性層の上にクラッド層を含み、
前記回折格子層の前記第1屈折率領域は、前記クラッド層より屈折率の高い層であり、
前記回折格子層の前記第2屈折率領域は、前記クラッド層と同じ屈折率である、半導体レーザ。
【請求項10】
請求項1に記載の半導体レーザであって、
前記活性層に電流を注入するためのスルーホールを備える、半導体レーザ。
【請求項11】
請求項10に記載の半導体レーザであって、
前記スルーホールは、前記第1領域および前記第2領域に跨って配置される、半導体レーザ。
【請求項12】
請求項10に記載の半導体レーザであって、
前記スルーホールは、前記第1領域において、離散的に配置される、半導体レーザ。
【請求項13】
請求項12に記載の半導体レーザであって、
前記スルーホールは、前記第1領域において、平面視で、前記第1領域全体の50%以下20%以上の領域に配置される、半導体レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信に用いられる光源として半導体レーザが広く使われている。半導体レーザの一つに、分布帰還型半導体レーザ(DFBレーザ)が知られている。DFBレーザは回折格子を備えている。また特性向上のために、回折格子に位相シフト部を備えた構造が知られている。半導体レーザの両端面に無反射膜(低反射膜)を形成し、回折格子にλ/4シフト部を配置することで安定した単一波長動作が得られる(特許文献1)。
【0003】
また複数のλ/4シフト部を配置した構造が知られている(特許文献2、3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-47685
【特許文献2】特開平1-239892
【特許文献3】特開2018-98419
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
共振器の両端面に低反射膜が形成され、λ/4シフト部が共振器の中央にある場合、単一波長性は非常に高く、例えばサイドモード抑圧比(SMSR)の歩留まりは理論上100%になる。しかし、両端面からの光出力強度は理論上は同一となり、共振器の端面を高反射膜と低反射膜とした半導体レーザと比較すると、低反射膜が配置された端面から出力される光強度が小さい。一方、低反射膜と高反射膜で構成された半導体レーザは、製造上のばらつきによって、端面位相がばらつくために、SMSR歩留まりは両端面が低反射膜の場合と比較して低下する。
【0006】
上記のように高い波長単一性(高いSMSR歩留まり)と高出力特性の両立に課題がある。
【0007】
本発明は、高出力特性と高い単一波長性を両立した半導体レーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の第1態様による半導体レーザは、基板と、前記基板上に形成された活性層と、主λ/4位相シフト部を備え、第1端部から主λ/4位相シフト部までの第1領域と、前記第1端部の逆側の第2端部から前記主λ/4位相シフト部までの第2領域と、を含む回折格子層と、前記第1領域と前記第2領域に共通して前記基板の下方に設けられた第1電極と、前記第1領域と前記第2領域に共通して前記回折格子層の上方に設けられた第2電極と、を備え、前記第1領域は、ブラッグ波長の光に対して高い反射率をもつ回折パターンが配置され、前記第2領域は、前記第1領域の位相に対して位相がπシフトしているπシフト領域、副λ/4シフト部、前記第1領域と位相が同一である同一位相領域、副λ/4シフト部が前記第2端部に向かってこの順で配置された領域と、該領域の前記第2端部側に配置された前記πシフト領域と、含み、前記回折格子層が延伸する方向において、前記πシフト領域の合計の長さは、前記同一位相領域の長さより長く、前記回折格子層が延伸する方向において、前記第1領域の長さは、前記πシフト領域の合計の長さと前記同一位相領域の長さの差分より大きく、前記第2端部に近い前方端面と、前記第1端部に近い後方端面には低反射端面コーティング膜が形成される、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態にかかる半導体レーザの上面図の例である。
【
図2】
図1に示す半導体レーザのII-II線に沿う概略断面図である。
【
図3】
図1に示す半導体レーザのIII-III線に沿う概略断面図である。
【
図4】第1の実施形態の変形例1に係る半導体光レーザのII-II線に沿う概略断面図である。
【
図5】第1の実施形態の変形例2に係る半導体光レーザのII-II線に沿う概略断面図である。
【
図6】第2の実施形態にかかる半導体レーザの上面図の例である。
【
図7】
図6に示す半導体レーザのVII-VII線に沿う概略断面図である。
【
図8】第3の実施形態にかかる半導体レーザの上面図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面に基づき、本発明の実施形態を具体的かつ詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、以下に示す図は、あくまで、実施形態の実施例を説明するものであって、図の大きさと本実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0011】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態にかかる半導体レーザ1の上面図である。
図2は、
図1のII-II線に沿う概略断面図を表す。
図3は、
図1のIII-III線に沿う概略断面図を表す。半導体レーザ1は、裏面に第1電極2、表面に第2電極3を備える。第1電極2は、第1領域20(後述)と第2領域30(後述)に共通して基板5の下方に設けられる。第2電極3は、第1領域20と第2領域30に共通して回折格子層11(後述)の上方に設けられる。第1電極2及び第2電極3は金属層である。第1電極2と第2電極3との間に電流を注入することで、前方端面40(
図1で左側の端面)から光が出射される。前方端面40、および後方端面50(
図1で右側の端面)には低反射端面コーティング膜4が形成されている。
【0012】
半導体レーザ1は、第1導電型の基板5の上に第1導電型光閉じ込め層(SCH層)6、活性層7、第2導電型光閉じ込め層8(SCH層)、第2導電型クラッド層9、第2導電型コンタクト層10の順で半導体層が積層されている。また第2導電型クラッド層9には回折格子層11が形成されている。半導体レーザ1は、DFBレーザである。活性層7は、例えば多重量子井戸層で形成されている。また多重量子井戸層は、真性半導体もしくはn型半導体であってよい。なお、ここでは第1導電型はn型、第2導電型はp型であるが、逆であっても構わない。また、これらの半導体層は、メサ構造15を有している。メサ構造15は、光を取り出す方向(第1方向D1)に延伸している。なおメサ構造15の下部は基板5の一部である。メサ構造15の両側は半絶縁性の埋め込み層12で覆われている。なお埋め込み層12はp型、n型の半導体層の積層体であっても構わない。
図1の点線は、メサ構造15の上部と埋め込み層12の境界の位置を示している。
【0013】
半導体レーザ1は、表面に絶縁膜14を備える。絶縁膜14は一部を除いて半導体レーザ1の表面を覆っている。絶縁膜14は、メサ構造15の上部に相当する領域に開口(スルーホール)18を含む。スルーホール18にて第2電極3と第2導電型コンタクト層10が接続され、メサ構造15に電気信号が印加される(電流が注入される)。ここでスルーホール18は第1方向D1に沿って設けられている。また第1方向D1に垂直な第2方向D2において、スルーホール18の幅はメサ構造15の幅より広い。ただし、両者は同じ幅であっても構わない。
【0014】
具体的には、回折格子層11はフローティング型であり、第2導電型クラッド層9と第2導電型クラッド層9の屈折率とは異なる第1屈折率の領域で構成されている。ここで第2導電型クラッド層9の屈折率を第2屈折率としたとき、回折格子層11は第1屈折率領域11Aと第2屈折率領域11Bが交互に配置された構造である。ここでは第1屈折率は第2屈折率より高い。ただし、屈折率の関係は逆であっても構わない。回折格子層11は、第1方向D1に沿って配置されている。回折格子層11は、回折格子周期が部分的に異なる位相シフト部を複数含む。ここでは5個の位相シフト部13を備え、すべてλ/4位相シフト部である。
【0015】
回折格子層11は、第1端部16から主λ/4位相シフト部13までの第1領域20と、第1端部16の逆側の第2端部17から主λ/4位相シフト部13までの第2領域30を含む。第1領域20は、ブラッグ波長の光に対して高い反射率となる周期の回折パターンが配置され、第2領域30は、第1領域20の位相に対して位相がπシフトしているπシフト領域32、副λ/4シフト部13、第1領域20と位相が同一である同一位相領域、副λ/4シフト部13が第2端部17に向かってこの順で配置された領域と、該領域の第2端部17側に配置されたπシフト領域32と、含む。具体的には、回折格子層11は、後方端面50と後方端面50に最も近い位相シフト部13-1(主λ/4位相シフト部)との間の第1領域20を含む。第1領域20の第1方向D1の長さはL1である。第1領域20は、回折格子層11が延伸する方向に同じの長さの第1屈折率領域11A及び第2屈折率領域11Bが交互に配置される。すなわち、第1領域20の回折格子層は、第1屈折率領域11Aと第2屈折率領域11Bが周期的に配置され均一回折格子構造である。回折格子層11は、位相シフト部13-1から前方端面40までの領域である第2領域30を含む。第2領域30のπシフト領域は、第1領域の位相に対して位相がπシフトするように、第1領域20と同じ長さの第1屈折率領域11Aと第2屈折率領域11Bが交互に配置される。また、第2領域30の同一位相領域は、第1領域20の位相と同じ位相となるように、第1領域20と同じ長さの第1屈折率領域11Aと第2屈折率領域11Bが交互に配置される。具体的には、第2領域30は、複数の位相シフト部13を含む。以下、第2領域30に含まれる位相シフト部13と、第1領域20と第2領域30の間に配置された位相シフト部とは、材料及び長さも同一である例について説明するが、両者を区別するために第2領域30に含まれる位相シフト部13については副位相シフト部(または副λ/4位相シフト部)とも呼称する。位相シフト部13以外の領域は、第1屈折率領域11Aと第2屈折率領域11Bが周期的に配置され均一回折格子構造であり、その格子周期は第1領域20の回折格子構造と同一である。ここで回折格子層11の格子周期は1.3μm帯もしくは1.55μm帯の波長を発振するように設定される。ただし、他の波長帯であっても構わない。ここで位相シフト部13-1から前方端面40側に向かって配置された位相シフト部13を順に、位相シフト部13-2、13-3、13-4、13-5とする。第2領域30には、第1領域20の回折格子の位相に対して、位相がπシフトしたπシフト領域と、位相が2πシフトした同一位相領域が交互に配置されることとなる。同一位相領域は、第1領域20の回折格子の位相に対して位相が2πシフトしているため、第1領域20と位相が同一である。具体的には、位相シフト部13-1と位相シフト部13-2で挟まれる領域はπシフト領域であり、位相シフト部13-2と位相シフト部13-3で挟まれる領域は同一位相領域となる。同様に、位相シフト部13-3と位相シフト部13-4で挟まれる領域がπシフト領域であり、位相シフト部13-4と位相シフト部13-5で挟まれる領域が同一位相領域であり、位相シフト部13-5と前方端面40で挟まれる領域がπシフト領域となる。換言すると、第1領域20から前方端面40に向かって、第1のπシフト領域32-1、第1の同一位相領域34-1、第2のπシフト領域32-2、第2の同一位相領域34-2、第3のπシフト領域32-3の順で並んでいる。ここで、第1のπシフト領域32-1と第2のπシフト領域32-2の第1方向D1の長さはLaであり、第1の同一位相領域34-1と第2の同一位相領域34-2の第1方向D1の長さはLbである。またLaはLbより長い。第3のπシフト領域32-3の長さはLcである。
【0016】
以降、説明の便宜上第1方向D1に沿った方向を前後と表記する。前方向は前方端面40に向かう方向と定義する。半導体レーザ1は、大きく見ると第1領域20と第2領域30とで構成されている。第1領域20のブラッグ波長において、第2領域30でπシフトして反射した光が結合することで半導体レーザ1全体の光特性(波長単一性や光強度)が決定される。ここで、回折格子層11は第1領域20から第2領域30に跨って形成されているが、第1屈折率領域11Aの第1領域20と第2領域30は同じ材料(同じ屈折率)であり、第2屈折率領域11Bの第1領域20と第2領域30は同じ材料(同じ屈折率)である。また第1屈折率領域11Aと第2屈折率領域11Bの面積比(デューティ)は同じである。
【0017】
第1領域20から伝達される光は、第1領域20から見て、第2領域30の第1のπシフト領域32-1で位相がπシフトした反射光として見える。また第1のπシフト領域32-1を通り過ぎた光は第1の同一位相領域34-1で位相が2πシフト、つまり位相反転せずに反射した光と見える。ここで第1の同一位相領域34-1で反射した光と第1のπシフト領域32-1で反射した光の位相は反転しているため打ち消しあう。しかし、第1のπシフト領域32-1は第1の同一位相領域34-1より長いために、第1のπシフト領域32-1で反射した光の全てが打ち消されるわけではなく、LaとLbの長さの差分に対応した領域の反射光が第1領域20に戻ってくる。つまり、第1のπシフト領域32-1において位相シフト部13-2から後方にLb進んだ領域までの間で反射した光は、打ち消される。これは第1領域20から見た時に、反射が発生していない、つまり透過していると等価になる。反射が起こらないということは、第1領域20のブラッグ波長に対して、規格化結合係数κLが0であるとみなすことができる。つまり、位相シフト部13-2を中心に前後にLbだけ進んだ領域のκLは0とみなすことができる。一方、第1のπシフト領域32-1のLaとLbの差分の領域は反射に寄与するため、第1のπシフト領域32-1および第1の同一位相領域34-1全体の規格化結合係数はκ×(La-Lb)と見なすことができる。
【0018】
同様に第2のπシフト領域32-2と第2の同一位相領域34-2は位相シフト部13-4を中心に前後にLbの領域の反射光は打ち消しあう。従って、第2のπシフト領域32-2と第2の同一位相領域34-2全体の規格化結合係数は、κ×(La-Lb)となる。
【0019】
最後に、第3のπシフト領域32-3の規格化結合係数はκ×Lcとなる。第2領域30の全体の規格化結合係数は、κ×(2La-2Lb+Lc)となる。ここで第1領域20の規格化結合係数はκL1であり、第2領域30の規格化結合係数より大きくなるようにL1は設定されている。そのため、前方端面40から出力される光強度は、後方端面50から出力される光強度より大きくすることができる。換言すると、両端面に低反射端面コーティング膜が形成され、中央部にλ/4位相シフト部が配置された半導体レーザと比較して、光出力の前後比を大きくすることができる。
【0020】
さらに、本実施形態では位相シフト部13-1は半導体レーザ1の共振器長(回折格子層11が形成されている第1方向D1の長さ)の中央より、後方端面50側に配置されている点が特徴である。例えば、特許文献1に開示されているように、一つの位相シフト部だけを含む場合は、位相シフト部は前方側に配置したほうが前方側の光出力強度を大きくできる。しかし、複数の位相シフト部と含み、かつ両端面に低反射端面コーティング膜を形成した構造においては、本実施形態のように第1領域と第2領域の境目となる位相シフト部は後方側に配置する方が好ましい。我々がシミュレーションで検討した結果、高光出力特性と高波長単一性を両立するためには、第1領域20と第2領域30の長さの比は、3:7~9:1となるように位相シフト部13-1が配置されていることが好ましい。
【0021】
なお、第5の同一位相領域34の長さLcは、第2領域30全体の規格化結合係数が第1領域20の規格化結合係数より小さくなるのであれば、LaやLbより長くても短くても構わない。波長単一性の観点では、LcはL1より短い方がよい。また第2領域30に含まれる位相シフト部13(副λ/4位相シフト部)の個数も任意である。一つの位相シフト部13の前後において、反射光が打ち消しあう領域と反射光が残る領域があり、第2領域30全体の規格化結合係数が第1領域20の規格化結合係数より小さくなっていれば良い。またLa、Lbの長さも任意である。また
図2では位相シフト部13は第1屈折率領域11Aが連続して配置された構造で示したが、これに限定されず第2屈折率領域11Bが二つ連続した構造であっても構わない。
【0022】
なお、ここでは第1領域20および第2領域30は半導体レーザ1の端面を起点に定義したが、厳密には回折格子層11の端部を起点に定義される。つまり本実施形態では第1領域20は回折格子層11の後方側の端部(第1端部16)から位相シフト部13までの間で定義され、第2領域30は位相シフト部13から前方側の回折格子層11の端部(第2端部17)で定義される。本実施形態においては、回折格子層11の端部は、略前方端面40もしくは後方端面50と略同一の位置である。また回折格子層11は、第1導電型のSCH層(第1導電型光閉じ込め層6)の下側に配置してもよい。
【0023】
[変形例1]
図4は、第1の実施形態の半導体レーザ1の変形例1にかかるII-II線に沿う概略断面図である。第1領域20は第1の実施形態と同じ構造である。第2領域30は、5個の副位相シフト部13-2~13-6を含む。各位相シフト部13はλ/4位相シフト部である。第1の実施形態同様に第2領域30には、第1領域20の回折格子層11の位相に対するπシフト領域と同一位相領域が交互に配置されている。第1のπシフト領域32-1、第2のπシフト領域32-2、そして第3のπシフト領域32-3の第1方向D1の長さはそれぞれ、La1、La2、そしてLa3である。ここでそれぞれの長さは異なる。第1の同一位相領域34-1、第2の同一位相領域34-2、そして第3の同一位相領域34-3の第1方向D1の長さはそれぞれ、Lb1、Lb2、そしてLb3である。ここでそれぞれの長さは異なる。また、La1はLb1より長く、La2はLb2より長く、そしてLa3はLb3より長い。
【0024】
第1の実施形態同様に位相シフト部13の前後で反射波が打ち消しあうため、第2領域30全体の規格化結合係数は、κ×(La1-Lb1+La2-Lb2+La3-Lb3)となる。この規格化結合係数は第1領域20の規格化結合係数κL1より小さい。そのため、前方端面40からの光出力強度を大きくすることができる。さらに両端面が低反射であること及びλ/4シフト構造による高い単一波長性を維持することができる。
【0025】
[変形例2]
図5は、第1の実施形態の半導体レーザ1の変形例2にかかるII-II線に沿う概略断面図である。第1領域20は第1の実施形態と同じ構造である。第2領域30は、6個の副位相シフト部13-2~13-7を含む。各位相シフト部13はλ/4位相シフト部である。第1の実施形態同様に第2領域30には、第1領域20の回折格子層11の位相に対するπシフト領域と同一位相領域が交互に配置されている。第1のπシフト領域32-1、第2のπシフト領域32-2、第3のπシフト領域32-3、そして第4のπシフト領域32-4の第1方向D1の長さはそれぞれ、La1、La2、La3、La4である。第1の同一位相領域34-1、第2の同一位相領域34-2、そして第3の同一位相領域34-3の第1方向D1の長さはそれぞれ、Lb1、Lb2、そしてLb3である。ここでLa1はLb1より短く、La2はLb2より長く、La3とLb3の長さは同じである。位相シフト部13-2の付近だけに着目した場合、πシフトする第1のπシフト領域32-1の長さLaは第1の同一位相領域34-1の長さLbより短いために、第1のπシフト領域32-1からのπシフトした反射光は第1領域20まで戻らない。しかし、第2領域30全体で見た場合は、位相がπシフトしている領域の合計の長さが、位相が同一である領域の合計の長さより長く、かつその差分が第1領域20の長さL1より短ければ本発明の効果を得ることができる。具体的には、第2領域30のπシフトしている領域の合計の長さLatはLa1+La2+La3+La4となる。第2領域30の同一位相の領域(第1領域20の回折格子と同一の位相である領域)の合計の長さLbtはLb1+Lb2+Lb3となる。この時、実効的な第2領域30の規格化結合係数はκ×(Lat-Lbt)となる。ここでLatはLbtより大きい。そして第1領域20の規格化結合係数κL1はκ×(Lat-Lbt)より大きい。
【0026】
[第2の実施形態]
図6は、第2の実施形態にかかる半導体レーザ201の上面図である。
図7は、
図6のVII-VII線に沿う概略断面図を表す。半導体レーザ201は、窓構造60を備えている点で第1の実施形態の半導体レーザ1と異なる。窓構造60は、メサ構造215と前方端面40および後方端面50との間に配置されている。窓構造60は、活性層7より屈折率が低く、前方端面40または後方端面50からの戻り光を低減し、高いSMSR歩留まりを実現する。
【0027】
回折格子層11は、窓構造60に配置されない。回折格子層11の第1端部216は、後方側の窓構造60とメサ構造215が接する位置にある。回折格子層11の第2端部217は、前方側の窓構造60とメサ構造215が接する位置にある。第1領域220は第1端部216から位相シフト部13-1までの間で定義される。また第2領域230は、位相シフト部13-1から第2端部217までの間で定義される。第2領域230は、
図2と同様に、複数の位相シフト部13と、第1領域220の回折格子の位相に対して、位相がπシフトしている領域と同一位相の領域が交互に配置されている。
【0028】
第1領域220の規格化結合係数κL1は、第2領域230の実効的な規格化結合係数はκ×(2La-2Lb+Lc)となる。そして第1領域220の規格化結合係数は第2領域の規格化結合係数より大きい。
【0029】
上記のように、ここでは共振器長は前方端面と後方端面の間の長さで定義されるのではなく、回折格子層11が配置されている長さで定義される。回折格子層11の一方の端部は、回折格子層11と後方側の窓構造60が接する面であり、逆端は回折格子層11と前方側の窓構造60が接する面である。この範囲において、位相シフト部13-1は、中央部より後方側に配置されていることで、高光出力特性と高波長単一性を両立する。
【0030】
[第3の実施形態]
図8は、第4の実施形態にかかる半導体レーザ301の上面図である。スルーホール318の形状以外は、第1の実施形態の半導体レーザ1と同じ構造である。
図8では説明のために、メサ構造315を破線、スルーホール318は二点鎖線で示している。また第2電極3は図示していない。
【0031】
スルーホール318は絶縁膜314に設けられた開口である。スルーホール318は第1領域320において、メサ構造315の上面の一部には配置されていない。換言すると第1領域320においては、メサ構造315の上面の一部には絶縁膜314が配置されている。第2領域330においては、スルーホール318は全体に設けられている。なお第2電極3はスルーホール318全体を覆っている。
【0032】
第1の実施形態で説明したように、第1領域320の規格化結合係数は第2領域330の規格化結合係数より大きい。また第1領域320と第2領域330の境、つまり位相シフト部13(
図8には図示なし)は、半導体レーザ301の中央部より後方側(
図8の右側)に配置されている。そのため、第1領域320の光子密度は第2領域330の光子密度よりも小さくなる。誘導放出によるキャリアの消費は光子密度が大きいほど大きくなるため、第1領域320と第2領域330の注入電流密度が等しい場合は、第1領域320のキャリア密度は第2領域330のキャリア密度より大きくなる。キャリア密度の増大は半導体レーザの特性、例えば相対雑音強度特性を劣化させる要因となる。キャリア密度は注入される電流量に依存する。そこで、本実施形態では、第1領域320において、電流が注入される領域を制限することでキャリア密度の増大を低減する。電流が注入される領域を制限するために、第1領域320のスルーホール318は、メサ構造315の上面全体ではなく、一部に配置されない構造を備える。換言すると第1領域320のメサ構造315の上面は、第1方向D1に沿って開口部(スルーホール318)と非開口部(絶縁膜314)が交互に配置されている。非開口部(絶縁膜314)が配置されている領域には電流は注入されないため、第1領域320全体のキャリア密度を低減することができる。
【0033】
第1領域320全体に対する開口部が設けられた割合は、60%以下が好ましい。より好ましくは50%以下20%以上が好ましい。
【0034】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、実施形態を説明した構成は、実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成で置き換えることができる。また埋め込み型の半導体レーザに限定されず、リッジ型の半導体レーザあっても適用できる。半導体レーザは、CW光源であっても直接変調型レーザあっても構わない。
【0035】
本発明は、位相シフト部を有するDFBレーザにおいて高光出力特性と高波長単一性を両立する。本発明の実施形態は、均一回折格子構造を備える第1領域と、複数のλ/4シフト部を備える第2領域と、第1領域と第2領域をつなぐλ/4位相シフト部を含む構造とすることでこれを達成する。第2領域は、第1領域の回折格子の位相に対して、πシフトしている領域と同一の位相の回折格子が交互に配置されている。πシフト領域の合計の長さは、同一位相領域の合計の長さより長い。また第2領域のπシフト領域と同一位相領域の差分の長さは、第1領域の長さより短い。そのため第1領域の規格化結合係数は、第2領域の規格化結合係数より大きい。第2領域において、各πシフト領域の長さは同一で、かつ各同一位相領域の長さは同一であってもよい。また各πシフト領域の長さは異なり、かつ各同一位相領域の長さは異なっていてもよい。回折格子層と両端面の間に窓構造を備えていてもよい。回折格子層構造は、活性層の上にあっても下にあってもよい。回折格子構造は光閉じ込め層に形成されていてもよいし、光閉じ込め層とは別に形成されていてもよい。半導体レーザは、メサ構造が半導体で埋め込まれた埋め込み型でもよいし、メサ構造が半導体層で埋め込まれていないリッジ型であってもよい。さらに第1領域のキャリア密度を低減することで特性を向上できる。キャリア密度を低減するために、第1領域のスルーホールの開口割合は60%以下、好ましくは50%以下~20%以上がよい。本発明のDFBレーザは1.3μm帯もしくは1.55μm帯の波長を発振する。ただし、他の波長帯であっても構わない。
【符号の説明】
【0036】
1 半導体レーザ
2 第1電極
3 第2電極
4 低反射端面コーティング膜
5 基板
6 第1導電型光閉じ込め層
7 活性層
8 第2導電型光閉じ込め層
9 第2導電型クラッド層
10 第2導電型コンタクト層
11 回折格子層
11A 第1屈折率領域
11B 第2屈折率領域
12 埋め込み層
13 位相シフト部
14 絶縁膜
15 メサ構造
16 第1端部
17 第2端部
18 スルーホール
20 第1領域
30 第2領域
32 πシフト領域
34 同一位相領域
40 前方端面
50 後方端面
60 窓構造
201 半導体レーザ
211 回折格子層
215 メサ構造
216 第1端部
217 第2端部
220 第1領域
230 第2領域
301 半導体レーザ
314 絶縁膜
315 メサ構造
318 スルーホール
320 第1領域
330 第2領域
D1 第1方向
D2 第2方向