(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143967
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ポリマーフィルム及び積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20241003BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241003BHJP
C08L 25/08 20060101ALI20241003BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20241003BHJP
C08L 77/12 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L101/00
B32B27/30 B
C08L25/08
C08L53/02
C08L77/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108855
(22)【出願日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2023051607
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴野 美代子
(72)【発明者】
【氏名】佐々田 泰行
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AB17
4F100AB33
4F100AK04A
4F100AK09A
4F100AK12A
4F100AK28A
4F100AK47A
4F100AK49B
4F100AL02A
4F100AL09A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100GB43
4F100JG05
4F100JG05A
4F100JJ03
4F100JK07
4F100JK07A
4F100YY00A
4J002AA01W
4J002BC04W
4J002BP01W
4J002CC03X
4J002CD00X
4J002CF00W
4J002CH07X
4J002CH09X
4J002CK02W
4J002CL08X
4J002GF00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】段差追従性及び耐熱性に優れるポリマーフィルム及び積層体等の提供。
【解決手段】260℃で液状である材料Aと、260℃で固体である材料Bとを含み、長軸方向の長さが0.01μm以上の空隙を含み、160℃における弾性率が0.60MPa以下であり、誘電正接が0.01以下であるポリマーフィルム及びその応用。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
260℃で液状である材料Aと、260℃で固体である材料Bとを含み、
長軸方向の長さが0.01μm以上の空隙を含み、
160℃における弾性率が0.60MPa以下であり、
誘電正接が0.01以下であるポリマーフィルム。
【請求項2】
前記ポリマーフィルムの全体積に占める前記空隙の割合は、1体積%~15体積%である、請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項3】
前記空隙は、前記長軸方向の長さが0.5μm~10μmである、請求項1又は請求項2に記載のポリマーフィルム。
【請求項4】
前記空隙と前記材料Bとの距離が5μm以下である、請求項1又は請求項2に記載のポリマーフィルム。
【請求項5】
前記材料Aは、スチレンに由来する構成単位を含むエラストマーである、請求項1又は請求項2に記載のポリマーフィルム。
【請求項6】
前記材料Aは、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体、及びスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、並びに、これらの水添物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は請求項2に記載のポリマーフィルム。
【請求項7】
前記材料Bは、芳香族ポリエステルアミドを含む、請求項1又は請求項2に記載のポリマーフィルム。
【請求項8】
層Aと、前記層Aの少なくとも一方の面上に配置された層Bとを含み、
前記層Bは、260℃で液状である材料Aと、260℃で固体である材料Bとを含み、長軸方向の長さが0.01μm以上の空隙を含み、160℃における弾性率が0.60MPa以下であり、誘電正接が0.01以下である、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリマーフィルム及び積層体に関する
【背景技術】
【0002】
近年、通信機器に使用される周波数は非常に高くなる傾向にある。高周波帯域における伝送損失を抑えるため、回路基板に用いられる絶縁材料の比誘電率と誘電正接とを低くすることが要求されている。回路基板を構成する部材として銅張積層板が好適に用いられ、銅張積層板の製造には、フィルムが好適に用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリマー及びフィラーを含み、少なくとも2つの相を含む相分離構造を有し、少なくとも2つの相はいずれも、弾性率が0.01GPa以上である、ポリマーフィルムが記載されている。
特許文献2には、スチレン系ポリマーと、無機フィラーと、硬化剤と、を含む樹脂組成物であって、スチレン系ポリマーが、カルボキシ基を有する酸変性スチレン系ポリマーであり、無機フィラーは、シリカ及び/又は水酸化アルミニウムであり、無機フィラーの粒径は、1μm以下であり、無機フィラーの含有量は、スチレン系ポリマー100質量部に対して20~80質量部である樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2022/202789号
【特許文献2】特開2019-199612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、銅張積層板は、ポリマーフィルムの表面に銅箔を積層することによって製造される。また、配線基板は、銅張積層板と配線基材とを、銅張積層板におけるポリマーフィルムと配線基材とが接するように重ね合わせることによって製造される。配線基板を製造する場合には、密着性の観点から、配線基材の表面に形成されている段差に対してポリマーフィルムが追従して変形することが求められている。
一方、銅張積層板に、配線基材に対する段差追従性に優れるポリマーフィルムを用いた場合に、電子部品を実装する際に行うリフローはんだ付け工程において、層間剥離が生ずる場合があった。このため、配線基材に対する段差追従性を有することと、リフローはんだ付けの際の密着性に優れること(すなわち、耐熱性に優れること)との両立が求められていた。
【0006】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、段差追従性及び耐熱性に優れるポリマーフィルム及び積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1>
260℃で液状である材料Aと、260℃で固体である材料Bとを含み、
長軸方向の長さが0.01μm以上の空隙を含み、
160℃における弾性率が0.60MPa以下であり、
誘電正接が0.01以下であるポリマーフィルム。
<2>
ポリマーフィルムの全体積に占める空隙の割合は、1体積%~15体積%である、<1>に記載のポリマーフィルム。
<3>
空隙は、長軸方向の長さが0.5μm~10μmである、<1>又は<2>に記載のポリマーフィルム。
<4>
空隙と材料Bとの距離が5μm以下である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のポリマーフィルム。
<5>
材料Aは、スチレンに由来する構成単位を含むエラストマーである、<1>~<4>のいずれか1つに記載のポリマーフィルム。
<6>
材料Aは、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体、及びスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、並びに、これらの水添物からなる群より選択される少なくとも1種である、<1>~<5>のいずれか1つに記載のポリマーフィルム。
<7>
材料Bは、芳香族ポリエステルアミドを含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載のポリマーフィルム。
<8>
層Aと、層Aの少なくとも一方の面上に配置された層Bとを含み、
層Bは、260℃で液状である材料Aと、260℃で固体である材料Bとを含み、長軸方向の長さが0.01μm以上の空隙を含み、160℃における弾性率が0.60MPa以下であり、誘電正接が0.01以下である、積層体。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、段差追従性及び耐熱性に優れるポリマーフィルム及び積層体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念で用いられる語であり、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルの両方を包含する概念として用いられる語である。
また、本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
さらに、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様で
ある。
また、本開示における重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、特に断りのない限り、TSKgel SuperHM-H(東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析装置により、溶剤PFP(ペンタフルオロフェノール)/クロロホルム=1/2(質量比)、示差屈折計により検出し、標準物質としてポリスチレンを用いて換算した分子量である。
【0010】
[ポリマーフィルム]
本開示に係るポリマーフィルムは、260℃で液状である材料Aと、260℃で固体である材料Bとを含み、長軸方向の長さが0.01μm以上の空隙を含み、160℃における弾性率が0.60MPa以下であり、誘電正接が0.01以下である。
【0011】
本発明者らが鋭意検討した結果、上記構成をとることにより、段差追従性及び耐熱性に優れるポリマーフィルムを提供できることを見出した。
上記効果が得られる詳細なメカニズムは不明であるが、以下のように推測される。
【0012】
電子部品を実装する際に行うリフローはんだ付け工程においては、高温(例えば、260℃)で加熱されるが、その際、ポリマーフィルムに内在する水が過飽和となって拡散し、気泡核が発生すると考えられる。ポリマーフィルムに、長軸方向の長さが0.01μm以上の空隙が含まれていることにより、水が空隙に入ることができ、気泡の成長が抑制されるため、ポリマーフィルムと金属層との剥離が抑制されると考えられる。すなわち、耐熱性に優れる。
また、160℃における弾性率が0.60MPa以下であるため、ポリマーフィルムは、段差追従性に優れる。
【0013】
これに対して、特許文献1及び特許文献2には、空隙に着目した記載はない。
【0014】
<材料A>
本開示に係るポリマーフィルムは、260℃で液状である材料Aを含む。材料Aは、260℃で液状であれば、低分子化合物であってもよく、高分子化合物であってもよい。
材料Aは、1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
260℃で液状であることは、260℃に昇温した際の粘度が100,000Pa・s以下であることから確認できる。
【0015】
中でも、材料Aは、段差追従性の観点から、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂の未硬化物又は半硬化物、並びに熱硬化性エラストマーの未硬化物又は半硬化物であることが好ましい。
【0016】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、環状オレフィンコポリマーからなる樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂)、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0017】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレンに由来する構成単位を含むエラストマー(ポリスチレン系エラストマー)、ポリエステル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリアクリル系エラストマー、シリコーン系エラストマー、ポリイミド系エラストマー等が挙げられる。なお、熱可塑性エラストマーは、水添物であってもよい。
【0018】
ポリスチレン系エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)ジブロック共重合体(SEP)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレントリブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、及びポリスチレン-ポリ(エチレン/エチレン-プロピレン)-ポリスチレントリブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-イソブチレン―スチレンブロック共重合体(SIBS)、並びに、これらの水添物が挙げられる。
【0019】
中でも、材料Aは、誘電正接及び段差追従性の観点から、熱可塑性エラストマーであることが好ましく、スチレンに由来する構成単位を含むエラストマーであることがより好ましく、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体、及びスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、及び、これらの水添物からなる群より選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。
【0020】
段差追従性と加工適性との両立の観点から、材料Aの含有量は、ポリマーフィルムの全質量に対して、40質量%~95質量%であることが好ましく、60質量%~90質量%であることがより好ましい。
【0021】
材料Aの重量平均分子量は、1,000以上であることが好ましく、10,000以上がより好ましく、30,000以上がさらに好ましい。重量平均分子量の上限値は、例えば、1,000,000である。
【0022】
材料Aは、ポリマーフィルムの製造において、粉末として用いることが好ましい。また、材料Aと粉末とする方法は、材料Aを液状媒体で膨潤させる膨潤工程と、膨潤した材料Aを粉砕する粉砕工程と、を含むことがより好ましい。
【0023】
膨潤工程で用いる液状媒体は、25℃で液状である化合物であれば特に限定されない。また、膨潤工程を加温状態で行う場合には、加温した温度で液状となる化合物を用いることができる。液状媒体としては、例えば、水及び有機溶剤が挙げられる。液状媒体は1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
【0024】
有機溶剤としては、例えば、アルコール、ケトン、アルキルハライド、アミド、スルホキシド類、ヘテロ環化合物、炭化水素、エステル、及びエーテルが挙げられる。
【0025】
中でも、特定ポリマーを液状媒体で膨潤させる観点から、液状媒体の溶解度パラメータと、重量平均分子量1000以上のポリマーとの溶解度パラメータとの差の絶対値は、5MPa1/2~10MPa1/2であることが好ましく、6MPa1/2~8MPa1/2であることがより好ましい。
【0026】
液状媒体が2種以上である場合には、液状媒体の溶解度パラメータは、加重平均値とする。
【0027】
本開示において、溶解度パラメータは、ハンセン(Hansen)溶解度パラメータを用いるものとする。
ハンセン(Hansen)溶解度パラメータは、ヒルデブランド(Hildebrand)によっ
て導入された溶解度パラメータを、分散項δd、極性項δp、水素結合項δhの3成分に分割し、3次元空間に表したものである。本開示においては、溶解度パラメータをδ(単位:MPa1/2)で表し、下記式を用いて算出される値を用いる。
δ(MPa)1/2=(δd2+δp2+δh2)1/2
なお、この分散項δd、極性項δp、及び水素結合項δhは、ハンセンやその研究後継者らにより多く求められており、Polymer Handbook (fourth edition)、VII-698~711に詳しく掲載されている。また、ハンセンの溶解度パラメータの値の詳細については、Charles M.Hansen著の文献「Hansen Solubility Parameters; A Users Handbook (CRC Press,2007)」に記載されている。
なお、ポリマーの溶解度パラメータは、ポリマーの分子構造からPolymer Handbook (fourth edition)に記載のHoy法により計算することができる。
【0028】
膨潤工程において、粉砕によって粒径をより小さくする観点から、膨潤した材料Aの膨潤度は、1%~1000%であることが好ましく、50%~500%であることがより好ましく、100%~250%であることがさらに好ましい。
【0029】
本開示において、膨潤度は、以下の方法で算出される。
ポリマーを液状媒体で膨潤させた後、膨潤したポリマーから、約1gの測定サンプルを採取し、測定サンプルを秤量する。秤量した質量をW1(g)とする。測定サンプルを3時間乾燥させ、乾燥後の測定サンプルを秤量する。秤量した質量をW0(g)とする。膨潤度は、下記式より算出される。なお、測定サンプルを乾燥させる際の乾燥温度は、ポリマーを膨潤させるのに用いた液状媒体の沸点と、ポリマーのガラス転移温度のうち高い方の温度とする。
膨潤度(%)={(W1-W0)/W0}×100
【0030】
材料Aを液状媒体で膨潤させる際、液状媒体の温度は、液状媒体が液状である温度であれば特に限定されず、例えば、10℃~60℃であることが好ましい。
【0031】
膨潤した材料Aを粉砕する手段は特に限定されず、乳鉢と乳棒との組み合わせ、粉砕機(例えば、ボールミル、ビーズミル、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、アトライター等)が挙げられる。
【0032】
材料Aを膨潤させた後、常温のまま粉砕してもよいが、得られる粉末の粒径をより小さくする観点から、膨潤した材料Aを-50℃以下の温度環境下で冷却させた後に粉砕することが好ましい。
【0033】
膨潤した材料Aを冷却する温度は、液状媒体の融点より低い温度であることが好ましく、液状媒体の融点より10℃以上低い温度であることがより好ましい。具体的には、膨潤した材料Aを冷却する温度は、-80℃以下であることがより好ましく、-100℃以下であることがさらに好ましい。
【0034】
<材料B>
本開示に係るポリマーフィルムは、260℃で固体である材料Bを含む。材料Bは、260℃で固体であれば、低分子化合物であってもよく、高分子化合物であってもよい。
材料Bは、1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
260℃で固体であることは、260℃に昇温した際の弾性率が0.1MPa以上であることから確認できる。
【0035】
材料Bとしては、例えば、液晶ポリマー、フッ素樹脂、環状脂肪族炭化水素基とエチレン性不飽和結合を有する基とを有する化合物の重合物、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、芳香族ポリエーテルケトン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂、トリアジン樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0036】
-液晶ポリマー-
誘電正接の観点から、材料Bは、液晶ポリマーを含むことが好ましい。
【0037】
液晶ポリマーの種類は特に限定されず、公知の液晶ポリマーを用いることができる。
また、液晶ポリマーは、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーであってもよく、溶液状態で液晶性を示すリオトロピック液晶ポリマーであってもよい。また、サーモトロピック液晶の場合は、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。
【0038】
液晶ポリマーとしては、例えば、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルにアミド結合が導入された液晶ポリエステルアミド、液晶ポリエステルにエーテル結合が導入された液晶ポリエステルエーテル、及び、液晶ポリエステルにカーボネート結合が導入された液晶ポリエステルカーボネートが挙げられる。
【0039】
また、液晶ポリマーは、液晶性の観点から、芳香環を有するポリマーであることが好ましく、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることがより好ましい。
【0040】
さらに、液晶ポリマーは、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドに、さらにイミド結合、カルボジイミド結合、イソシアヌレート結合等のイソシアネート由来の結合等が導入されたポリマーであってもよい。
【0041】
また、液晶ポリマーは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリマーであることが好ましい。
【0042】
液晶ポリマーとしては、例えば、以下の液晶ポリマーが挙げられる。
1)(i)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、(ii)芳香族ジカルボン酸と、(iii)芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重縮合させてなるもの。
2)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重縮合させてなるもの。
3)(i)芳香族ジカルボン酸と、(ii)芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重縮合させてなるもの。
4)(i)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、(ii)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重縮合させてなるもの。
ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、重縮合可能な誘導体に置き換えてもよい。
【0043】
液晶ポリマーの融点は、260℃超であることが好ましく、260℃超350℃以下であることがより好ましく、260℃超330℃以下であることがさらに好ましい。
【0044】
本開示において、融点は、示差走査熱量分析装置を用いて測定される。例えば、製品名「DSC-60A Plus」(島津製作所製)を用いて測定される。なお、測定における昇温速度は10℃/分とする。
【0045】
液晶ポリマーの重量平均分子量は、1,000,000以下であることが好ましく、3,000~300,000であることがより好ましく、5,000~100,000であることがさらに好ましく、5,000~30,000であることが特に好ましい。
【0046】
液晶ポリマーは、誘電正接をより低下させる観点から、芳香族ポリエステルアミドを含むことが好ましい。芳香族ポリエステルアミドとは、少なくとも1つの芳香環を有し、かつ、エステル結合及びアミド結合を有する樹脂である。中でも、耐熱性の観点から、芳香族ポリエステルアミドは、全芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。
【0047】
芳香族ポリエステルアミドは、結晶性ポリマーであることが好ましい。材料Bは、結晶性の芳香族ポリエステルアミドを含むことが好ましい。芳香族ポリエステルアミドが結晶性であることで、誘電正接がより低下する。
なお、結晶性ポリマーとは、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱量変化ではなく、明確な吸熱ピークを有するものをいう。具体的には、例えば、昇温速度10℃/minで測定した際の吸熱ピークの半値幅が10℃以内であることを意味する。半値幅が10℃を超えるポリマー及び明確な吸熱ピークが認められないポリマーは、非晶性ポリマーとして結晶性ポリマーと区別される。
【0048】
芳香族ポリエステルアミドは、下記式1で表される構成単位、下記式2で表される構成単位、及び下記式3で表される構成単位を含むことが好ましい。
-O-Ar1-CO- …式1
-CO-Ar2-CO- …式2
-NH-Ar3-O- …式3
式1~式3中、Ar1、Ar2、及びAr3はそれぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。
以下、式1で表される構成単位等を、「単位1」等ともいう。
【0049】
単位1は、例えば、原料として芳香族ヒドロキシカルボン酸を用いることにより、導入することができる。
単位2は、例えば、原料として芳香族ジカルボン酸を用いることにより、導入することができる。
単位3は、例えば、原料として芳香族ヒドロキシルアミンを用いることにより、導入することができる。
【0050】
ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、及び芳香族ヒドロキシルアミンはそれぞれ独立に、重縮合可能な誘導体に置き換えてもよい。
【0051】
例えば、カルボキシ基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換することにより、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸を、芳香族ヒドロキシカルボン酸エステル及び芳香族ジカルボン酸エステルに置き換えることができる。
カルボキシ基をハロホルミル基に変換することにより、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸を、芳香族ヒドロキシカルボン酸ハロゲン化物及び芳香族ジカルボン酸ハロゲン化物に置き換えることができる。
カルボキシ基をアシルオキシカルボニル基に変換することにより、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸を、芳香族ヒドロキシカルボン酸無水物及び芳香族ジカルボン酸無水物に置き換えることができる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシ基を有する化合物の重縮合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシ基をアシル化してアシルオキシ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
例えば、ヒドロキシ基をアシル化してアシルオキシ基に変換することにより、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ヒドロキシルアミンをそれぞれ、アシル化物に置き換えることができる。
芳香族ヒドロキシルアミンの重縮合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
例えば、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換することにより、芳香族ヒドロキシアミンをアシル化物に置き換えることができる。
【0052】
式1中、Ar1は、p-フェニレン基、2,6-ナフチレン基、又は4,4’-ビフェニリレン基であることが好ましく、2,6-ナフチレン基であることがより好ましい。
【0053】
Ar1がp-フェニレン基である場合、単位1は、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位である。
Ar1が2,6-ナフチレン基である場合、単位1は、例えば、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位である。
Ar1が,4,4’-ビフェニリレン基である場合、単位1は、例えば、4’-ヒドロキシ-4-ビフェニルカルボン酸に由来する構成単位である。
【0054】
式2中、Ar2は、p-フェニレン基、m-フェニレン基、又は2,6-ナフチレン基であることが好ましく、m-フェニレン基であることがより好ましい。
【0055】
Ar2がp-フェニレン基である場合、単位2は、例えば、テレフタル酸に由来する構成単位である。
Ar2がm-フェニレン基である場合、単位2は、例えば、イソフタル酸に由来する構成単位である。
Ar2が2,6-ナフチレン基である場合、単位2は、例えば、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位である。
【0056】
式3中、Ar3は、p-フェニレン基又は4,4’-ビフェニリレン基であることが好ましく、p-フェニレン基であることがより好ましい。
【0057】
Ar3がp-フェニレン基である場合、単位3は、例えば、p-アミノフェノールに由来する構成単位である。
Ar3が4,4’-ビフェニリレン基である場合、単位3は、例えば、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルに由来する構成単位である。
【0058】
単位1、単位2、及び単位3の合計含有量に対して、単位1の含有量は、30モル%以上であることが好ましく、単位2の含有量は、35モル%以下であることが好ましく、単位3の含有量は35モル%以下であることが好ましい。
単位1の含有量は、単位1、単位2、及び単位3の合計含有量に対して、30モル%~80モル%であることがより好ましく、30モル%~60モル%であることがさらに好ましく、30モル%~40モル%であることが特に好ましい。
単位2の含有量は、単位1、単位2、及び単位3の合計含有量に対して、10モル%~35モル%であることが好ましく、20モル%~35モル%であることがさらに好ましく、30モル%~35モル%であることが特に好ましい。
単位3の含有量は、単位1、単位2、及び単位3の合計含有量に対して、10モル%~35モル%であることが好ましく、20モル%~35モル%であることがさらに好ましく、30モル%~35モル%であることが特に好ましい。
なお、各構成単位の合計含有量は、各構成単位の物質量(モル)を合計した値である。各構成単位の物質量は、芳香族ポリエステルアミドを構成する各構成単位の質量を、各構成単位の式量で割ることにより算出される。
【0059】
単位2の含有量と単位3の含有量との比率は、[単位2の含有量]/[単位3の含有量](モル/モル)で表した場合に、好ましくは0.9/1~1/0.9、より好ましくは0.95/1~1/0.95、さらに好ましくは0.98/1~1/0.98である。
【0060】
なお、芳香族ポリエステルアミドは、単位1~単位3をそれぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、芳香族ポリエステルアミドは、単位1~単位3以外の他の構成単位を有してもよい。他の構成単位の含有量は、全構成単位の合計含有量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0061】
芳香族ポリエステルアミドは、芳香族ポリエステルアミドを構成する構成単位に対応する原料モノマーを溶融重合させることにより製造することが好ましい。
【0062】
芳香族ポリエステルアミドの重量平均分子量は、1,000,000以下であることが好ましく、3,000~300,000であることがより好ましく、5,000~100,000であることがさらに好ましく、5,000~30,000であることが特に好ましい。
【0063】
-フッ素樹脂-
材料Bは、耐熱性、及び、力学的強度の観点から、フッ素樹脂であってもよい。
【0064】
本開示において、フッ素樹脂の種類は特に限定されず、公知のフッ素樹脂を用いることができる。
【0065】
フッ素樹脂としては、フッ素化α-オレフィンモノマー、すなわち、少なくとも1つのフッ素原子を含むα-オレフィンモノマーに由来する構成単位を含むホモポリマー、及び、コポリマーが挙げられる。また、フッ素樹脂としては、フッ素化α-オレフィンモノマーに由来する構成単位と、フッ素化α-オレフィンモノマーに対して反応性の非フッ素化エチレン性不飽和モノマーに由来する構成単位と、を含むコポリマーが挙げられる。
【0066】
フッ素化α-オレフィンモノマーとしては、CF2=CF2、CHF=CF2、CH2=CF2、CHCl=CHF、CClF=CF2、CCl2=CF2、CClF=CClF、CHF=CCl2、CH2=CClF、CCl2=CClF、CF3CF=CF2、CF3CF=CHF、CF3CH=CF2、CF3CH=CH2、CHF2CH=CHF、CF3CF=CF2、及びパーフルオロ(炭素数2~8のアルキル)ビニルエーテル(例えば、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル、及びパーフルオロオクチルビニルエーテル)が挙げられる。中でも、フッ素化α-オレフィンモノマーは、テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)、クロロトリフルオロエチレン(CClF=CF2)、(パーフルオロブチル)エチレン、フッ化ビニリデン(CH2=CF2)、及び、ヘキサフルオロプロピレン(CF2=CFCF3)よりなる群から選ばれた少なくとも1種のモノマーであることが好ましい。
非フッ素化エチレン性不飽和モノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、エチレン性不飽和芳香族モノマー(例えば、スチレン及びα-メチルスチレン)等が挙げられる。
フッ素化α-オレフィンモノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、非フッ素化エチレン性不飽和モノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリ(クロロトリフルオロエチレン-プロピレン)、ポリ(エチレン-テトラフルオロエチレン)(ETFE)、ポリ(エチレン-クロロトリフルオロエチレン)(ECTFE)、ポリ(ヘキサフルオロプロピレン)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、ポリ(テトラフルオロエチレン-エチレン-プロピレン)、ポリ(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン)(FEP)、ポリ(テトラフルオロエチレン-プロピレン)(FEPM)、ポリ(テトラフルオロエチレン-パーフルオロプロピレンビニルエーテル)、ポリ(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル)(PFA)(例えば、ポリ(テトラフルオロエチレン-パーフルオロプロピルビニルエーテル))、ポリビニルフルオリド(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ(フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン)、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロスルホン酸、及びパーフルオロポリオキセタンが挙げられる。
【0068】
フッ素樹脂は、フッ素化エチレン又はフッ素化プロピレンに由来する構成単位を有していてもよい。
フッ素樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0069】
フッ素樹脂は、FEP、PFA、ETFE、又は、PTFEであることが好ましい。
FEPは、デュポン(DuPont)社よりテフロン(登録商標)FEP(TEFLON(登録商標)FEP)の商品名、又は、ダイキン工業(株)よりネオフロンFEP(NEOFLON FEP)の商品名で入手可能である。PFAは、ダイキン工業(株)よりネオフロンPFA(NEOFLON PFA)の商品名、デュポン(DuPont)社よりテフロン(登録商標)PFA(TEFLON(登録商標)PFA)の商品名、又は、ソルベイ・ソレクシス(Solvay Solexis)社よりハイフロンPFA(HYFLON PFA)の商品名で入手可能である。
【0070】
フッ素樹脂は、PTFEを含むことがより好ましい。PTFEは、PTFEホモポリマー、一部が変性されたPTFEホモポリマー、又は、これらの一方若しくは両方を含む組合せであってもよい。一部が変性されたPTFEホモポリマーは、ポリマーの全質量を基準として、テトラフルオロエチレン以外のコモノマーに由来する構成単位を1質量%未満含むことが好ましい。
【0071】
フッ素樹脂は、架橋性基を有する架橋性フルオロポリマーであってもよい。架橋性フルオロポリマーは、従来公知の架橋方法によって架橋させることができる。代表的な架橋性フルオロポリマーの1つは、(メタ)アクリロイルオキシを有するフルオロポリマーである。例えば、架橋性フルオロポリマーは、
式:H2C=CR’COO-(CH2)n-R-(CH2)n-OOCR’=CH2
で表すことができる。式中、Rは、フッ素化α-オレフィンモノマーに由来する構成単位を含むオリゴマー鎖であり、R’はH又は-CH3であり、nは1~4である。Rは、テトラフルオロエチレンに由来する構成単位を含むフッ素系オリゴマー鎖であってもよい。
【0072】
フッ素樹脂上の(メタ)アクリロイルオキシ基を介してラジカル架橋反応を開始するために、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するフルオロポリマーをフリーラジカル源に曝露することによって、架橋フルオロポリマー網目構造を形成することができる。フリーラジカル源は、特に制限はないが、光ラジカル重合開始剤、又は、有機過酸化物が好適に挙げられる。適切な光ラジカル重合開始剤及び有機過酸化物は当技術分野においてよく知られている。架橋性フルオロポリマーは市販されており、例えば、デュポン社製のバイトンBが挙げられる。
【0073】
-環状脂肪族炭化水素基とエチレン性不飽和結合を有する基とを有する化合物の重合物-
材料Bは、環状脂肪族炭化水素基とエチレン性不飽和結合を有する基とを有する化合物の重合物であってもよい。
【0074】
環状脂肪族炭化水素基とエチレン性不飽和結合を有する基とを有する化合物の重合物としては、例えば、ノルボルネン又は多環ノルボルネン系モノマーのような環状オレフィンモノマーに由来する構成単位を有する熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0075】
環状脂肪族炭化水素基とエチレン性不飽和結合を有する基とを有する化合物の重合物は、上記環状オレフィンの開環重合体や2種以上の環状オレフィンを用いた開環共重合体の水素添加物であってもよく、環状オレフィンと、鎖状オレフィン又はビニル基の如きエチレン性不飽和結合を有する芳香族化合物などとの付加重合体であってもよい。また、環状脂肪族炭化水素基とエチレン性不飽和結合を有する基とを有する化合物の重合物には、極性基が導入されていてもよい。
【0076】
環状脂肪族炭化水素基とエチレン性不飽和結合を有する基とを有する化合物の重合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0077】
環状脂肪族炭化水素基の環構造としては、単環であっても、2以上の環が縮合した縮合環であっても、橋掛け環であってもよい。
環状脂肪族炭化水素基の環構造としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロオクタン環、イソホロン環、ノルボルナン環、ジシクロペンタン環等が挙げられる。
環状脂肪族炭化水素基とエチレン性不飽和結合を有する基とを有する化合物としては、特に制限はなく、環状脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレート化合物、環状脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリルアミド化合物、環状脂肪族炭化水素基を有するビニル化合物等が挙げられる。中でも、環状脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレート化合物が好ましく挙げられる。また、環状脂肪族炭化水素基とエチレン性不飽和結合を有する基とを有する化合物は、単官能エチレン性不飽和化合物であっても、多官能エチレン性不飽和化合物であってもよい。
環状脂肪族炭化水素基とエチレン性不飽和結合を有する基とを有する化合物における環状脂肪族炭化水素基の数は、1以上であればよく、2以上有していてもよい。
環状脂肪族炭化水素基とエチレン性不飽和結合を有する基とを有する化合物の重合物は、少なくとも1種の環状脂肪族炭化水素基とエチレン性不飽和結合を有する基とを有する化合物を重合してなる重合体であればよく、2種以上環状脂肪族炭化水素基とエチレン性不飽和結合を有する基とを有する化合物の重合物であってもよいし、環状脂肪族炭化水素基を有しない他のエチレン性不飽和化合物との共重合体であってもよい。
また、環状脂肪族炭化水素基とエチレン性不飽和結合を有する基とを有する化合物の重合物は、シクロオレフィンポリマーであることが好ましい。
【0078】
-ポリフェニレンエーテル-
材料Bは、ポリフェニレンエーテルであってもよい。
ポリフェニレンエーテルは、分子末端のフェノール性水酸基の1分子当たりの平均個数(末端水酸基数)が、誘電正接、及び、耐熱性の観点から、1個~5個であることが好ましく、1.5個~3個であることがより好ましい。
ポリフェニレンエーテルの末端水酸基数は、例えば、ポリフェニレンエーテルの製品の規格値からわかる。また、末端水酸基数は、例えば、ポリフェニレンエーテル1モル中に存在する全てのポリフェニレンエーテルの1分子当たりのフェノール性水酸基の個数の平均値として表される。
ポリフェニレンエーテルは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0079】
ポリフェニレンエーテルとしては、例えば、2,6-ジメチルフェノールと2官能フェノール及び3官能フェノールの少なくともいずれか一方とからなるポリフェニレンエーテル、並びに、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)が挙げられる。
ポリフェニレンエーテルは、より具体的には、式(PPE)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
【0080】
【0081】
式(PPE)中、Xは、炭素数1~3のアルキレン基又は単結合を表し、mは、0~20の整数を表し、nは、0~20の整数を表し、mとnとの合計は、1~30の整数を表す。
上記Xにおける上記アルキレン基としては、例えば、ジメチルメチレン基が挙げられる。
【0082】
ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量(Mw)は、製膜後に熱硬化する場合には、耐熱性、及び、膜形成性の観点から、500~5,000であることが好ましく、500~3,000であることが好ましい。また、熱硬化しない場合には、特に限定されないが、3,000~100,000であることが好ましく、5,000~50,000であることが好ましい。
【0083】
-芳香族ポリエーテルケトン-
材料Bは、芳香族ポリエーテルケトンであってもよい。
【0084】
芳香族ポリエーテルケトンとしては、特に限定されず、公知の芳香族ポリエーテルケトンを用いることができる。
【0085】
芳香族ポリエーテルケトンは、ポリエーテルエーテルケトンであることが好ましい。
【0086】
ポリエーテルエーテルケトンは、芳香族ポリエーテルケトンの1種であり、エーテル結合、エーテル結合、及びカルボニル結合の順に結合が配置されたポリマーである。各結合間は、2価の芳香族基により連結されていることが好ましい。
芳香族ポリエーテルケトンは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0087】
芳香族ポリエーテルケトンとしては、例えば、下記式(P1)で表される化学構造を有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、下記式(P2)で表される化学構造を有するポリエーテルケトン(PEK)、下記式(P3)で表される化学構造を有するポリエーテルケトンケトン(PEKK)、下記式(P4)で表される化学構造を有するポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、及び下記式(P5)で表される化学構造を有するポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)が挙げられる。
【0088】
【0089】
式(P1)~(P5)の各々のnは、機械的特性の観点から、10以上が好ましく、20以上がより好ましい。一方、芳香族ポリエーテルケトンを容易に製造できる点では、nは、5,000以下が好ましく、1,000以下がより好ましい。すなわち、nは、10~5,000が好ましく、20~1,000がより好ましい。
【0090】
また、材料Bは、粒子状であってもよい。材料Bが粒子状である場合、材料Bは、有機粒子であってもよく、無機粒子であってもよい。
なお、ポリマーフィルムが、粒子状の材料Bを含む場合には、粒子状ではない材料Bも含むことが好ましい。
【0091】
有機粒子を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、尿素-ホルマリンフィラー、ポリエステル、セルロース、アクリル樹脂、フッ素樹脂、硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリル樹脂、及び液晶ポリマーが挙げられる。有機粒子を構成する樹脂は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0092】
また、有機粒子は、ナノファイバーのような繊維状であってもよく、中空樹脂粒子であってもよい。
【0093】
中でも、有機粒子としては、誘電正接及び段差追従性の観点から、フッ素樹脂粒子、ポリエステル系樹脂粒子、ポリエチレン粒子、液晶ポリマー粒子、又は、セルロース系樹脂のナノファイバーであることが好ましく、ポリテトラフルオロエチレン粒子、ポリエチレン粒子、又は、液晶ポリマー粒子であることがより好ましく、液晶ポリマー粒子であることが特に好ましい。ここで、液晶ポリマー粒子とは、限定的ではないが、液晶ポリマーを重合させ、粉砕機等で粉砕して、粉末状の液晶としたものをいう。
液晶ポリマー粒子を構成する液晶ポリマーの好ましい態様は、上記液晶ポリマーの好ましい態様と同様である。
【0094】
有機粒子の平均粒径は、誘電正接及び段差追従性の観点から、5nm~20μmであることが好ましく、100nm~10μmであることがより好ましい。
【0095】
無機粒子を構成する化合物としては、例えば、BN、Al2O3、AlN、TiO2、SiO2、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、及び炭酸カルシウムが挙げられる。無機粒子を構成する化合物は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0096】
中でも、無機粒子としては、誘電正接及び段差追従性の観点から、金属酸化物粒子、又は、繊維が好ましく、シリカ粒子、又は、チタニア粒子、又は、ガラス繊維がより好ましく、シリカ粒子、又は、ガラス繊維が特に好ましい。
【0097】
無機粒子の平均粒径は、誘電正接及び段差追従性の観点から、5nm~20μmであることが好ましく、10nm~10μmであることがより好ましく、20nm~1μmであることがさらに好ましく、25nm~500nmであることが特に好ましい。
【0098】
また、材料A及び材料Bには、加熱によって消失したり、加熱によって分解してガスを放出する発泡剤が含まれていてもよい。発泡剤は、有機発泡剤であってもよく、無機発泡剤であってもよい。
【0099】
有機発泡剤としては、例えば、アクリル樹脂を主成分として含む粒子、エチルセルロース樹脂を主成分として含む粒子、ブチラール樹脂を主成分として含む粒子、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)等のニトロソアミン化合物;アゾジカルボンアミド(ADCA)等のアゾ化合物;4,4’-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、ヒドラゾジカルボンアミド(HDCA)等のヒドラジン化合物が挙げられる。
【0100】
無機発泡剤としては、例えば、炭酸水素ナトリウム等の炭酸水素塩;炭酸塩;炭酸水素塩とクエン酸ナトリウム等の有機酸塩との組み合わせが挙げられる。
【0101】
耐熱性の観点から、材料Bの含有量は、ポリマーフィルムの全質量に対して、5質量%~60質量%であることが好ましく、10質量%~40質量%であることがより好ましい。
【0102】
本開示に係るポリマーフィルムは、材料A及び材料B以外に、その他の添加剤を含んでいてもよい。
その他の添加剤としては、公知の添加剤を用いることができる。その他の添加剤としては、例えば、硬化剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤等が挙げられる。
【0103】
<空隙>
本開示に係るポリマーフィルムは、長軸方向の長さが0.01μm以上の空隙を含む。
【0104】
電子部品を実装する際に行うリフローはんだ付け工程においては、高温(例えば、260℃)で加熱されるが、その際、ポリマーフィルムに内在する水が過飽和となって拡散し、気泡核が発生すると考えられる。ポリマーフィルムに、長軸方向の長さが0.01μm以上の空隙が含まれていることにより、水が空隙に入ることができ、気泡の成長が抑制されるため、ポリマーフィルムと金属層との剥離が抑制されると考えられる。
【0105】
耐熱性をより向上させる観点から、空隙は、長軸方向の長さが0.5μm~10μmであることが好ましい。
【0106】
長軸方向の長さとは、空隙の中で最も長い部分の長さを意味する。なお、短軸方向の長さとは、長軸方向と直交する方向であって、最も短い部分の長さを意味する。
【0107】
空隙の短軸方向の長さは特に限定されず、例えば、0.01μm~10μmである。
空隙の形状は特に限定されず、例えば、楕円形、真円形、針状等である。
【0108】
本開示において、空隙における長軸方向の長さは、以下の方法により測定される。
まず、ポリマーフィルムの表面をミクロトームで切削して、フィルム断面サンプルを用意する。断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で、10,000倍で100視野観察する。任意の100個の空隙を選択する。選択した各空隙について、長軸方向の長さを測定し、平均値を採用する。
【0109】
また、耐熱性をより向上させる観点から、ポリマーフィルムの全体積に占める空隙の割合(空隙率)は、1体積%~15体積%であることが好ましく、4体積%~9体積%であることがより好ましい。
【0110】
本開示において、空隙率は、以下の方法により測定される。
空隙における長軸方向の長さを測定する方法と同様に、任意の100個の空隙を選択する。選択した各空隙について、断面積を測定する。空隙率は、以下の式に基づいて算出される。
空隙率={(空隙の断面積の合計)/(ポリマーフィルムの断面積)}×100
【0111】
さらに、耐熱性をより向上させる観点から、空隙と材料Bとの距離は5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。上記距離の下限値は特に限定されないが、例えば、0μmである。
【0112】
材料Bは260℃で固体であることから、空隙と材料Bとの距離が5μm以下であると、材料Bによって、気泡の成長が抑制されるため、ポリマーフィルムと金属層との剥離が抑制されると考えられる。
【0113】
空隙と材料Bとの距離は、以下の方法により測定される。
ポリマーフィルムの表面をミクロトームで切削して、断面サンプルを用意する。断面を、光学顕微鏡で50倍で観察し、材料Bの分布を確認する。同じ断面サンプルを、走査型電子顕微鏡(SEM)で10,000倍で観察し、光学顕微鏡で観察した視野と同じ位置にある空隙を観察する。得られた任意の100個の空隙に対して、最も近い材料Bとの距離を計測し、その平均値を空隙と材料Bとの距離とする。
【0114】
空隙は、例えば、粒子を混合し塗工乾燥させること方法;発泡剤を入れ、高温処理により層内部で発泡させる方法等により、ポリマーフィルムに形成させることができる。
【0115】
<ポリマーフィルムの物性>
本開示に係るポリマーフィルムは、160℃における弾性率が0.60MPa以下であり、500MPa以下であることが好ましく、0.49MPa以下であることがより好ましい。160℃における弾性率の下限値は特に限定されないが、例えば、0.20MPaである。
【0116】
160℃における弾性率が0.60MPa以下であるため、ポリマーフィルムは、段差追従性に優れる。
【0117】
本開示において、ポリマーフィルムの160℃における弾性率は、以下の方法により測定される。
まず、ポリマーフィルムの表面をミクロトームで切削して作製したフィルム断面サンプル(長さ2mm×幅2mm)を用意する。
次に、フィルム断面サンプルの160℃弾性率を、ナノインデンテーション法を用いて、押し込み弾性率として測定する。押し込み弾性率は、微小硬度計(例えば、製品名「DUH-W201」、(株)島津製作所製)を用い、ビッカース圧子により0.28mN/秒の荷重速度で負荷をかけ、最大荷重10mNを10秒間保持した後に、0.28mN/秒の荷重速度で除荷を行うことにより、測定する。
【0118】
本開示に係るポリマーフィルムは、誘電正接が0.01以下であり、0.005以下であることが好ましく、0.003以下であることがより好ましい。誘電正接の下限値は特に限定されないが、例えば、0.0005である。
【0119】
本開示において、誘電正接は、以下の方法により測定される。
誘電正接の測定は、周波数10GHzで共振摂動法により実施する。ネットワークアナライザ(Agilent Tech
nology社製「E8363B」)に10GHzの空洞共振器((株)関東電子応用開発製「CP531」)を接続し、空洞共振器にポリマーフィルムを挿入し、温度25℃、湿度60%RH環境下、96時間の挿入前後の共振周波数の変化から測定する。
【0120】
本開示に係るポリマーフィルムの平均厚みは、特に制限はないが、誘電正接及び段差追従性の観点から、5μm~90μmであることが好ましく、10μm~70μmであることがより好ましく、15μm~50μmであることが特に好ましい。
【0121】
ポリマーフィルムの平均厚みは、任意の5箇所について、接着式の膜厚計、例えば、電子マイクロメータ(製品名「KG3001A」、アンリツ社製)を用いて測定し、それらの平均値とする。
【0122】
[積層体]
本開示に係る積層体は、層Aと、層Aの少なくとも一方の面上に配置された層Bとを含み、層Bは、260℃で液状である材料Aと、260℃で固体である材料Bとを含み、長軸方向の長さが0.01μm以上の空隙を含み、160℃における弾性率が0.60MPa以下であり、誘電正接が0.01以下である。
【0123】
<層A>
本開示に係る積層体は、後述する層Bが設けられる層Aを有する。層Aは、積層体の誘電正接を0.01以下とする観点から、誘電正接が0.01以下であるポリマーを含むことが好ましい。
【0124】
層Aは、誘電正接が0.01以下であるポリマーを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0125】
誘電正接が0.01以下であるポリマーの誘電正接は、積層体の誘電正接の観点から、0.005以下であることが好ましく、0を超え0.003以下であることがより好ましい。
【0126】
誘電正接が0.01以下であるポリマーとしては、例えば、液晶ポリマー、フッ素樹脂、環状脂肪族炭化水素基とエチレン性不飽和結合を有する基とを有する化合物の重合物、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;グリシジルメタクリレートとポリエチレンとの共重合体等のエラストマー;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0127】
積層体の誘電正接の観点から、誘電正接が0.01以下であるポリマーは、液晶ポリマーであることが好ましい。すなわち、層Aは、液晶ポリマーを含むことが好ましい。液晶ポリマーの好ましい態様は、上記ポリマーフィルムに含まれていてもよい液晶ポリマーの好ましい態様と同様である。
【0128】
層Aは、誘電正接が0.01以下であるポリマー以外にフィラーを含んでいてもよい。
【0129】
フィラーとしては、粒子状でも繊維状のものでもよく、無機粒子であってもよく、有機粒子であってもよい。無機粒子及び有機粒子の具体例は上記のとおりである。
【0130】
中でも、層Aに含まれるフィラーは、積層体の誘電正接、耐熱性、及び段差追従性の観点から、有機粒子であることが好ましく、液晶ポリマー粒子であることがより好ましい。
【0131】
層Aは、フィラーを1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。
層Aがフィラーを含む場合、フィラーの含有量は、積層体の誘電正接、耐熱性、及び段差追従性の観点から、層Aの全質量に対し、30質量%~95質量%であることが好ましく、50質量%~90質量%であることがより好ましく、60質量%~80質量%であることが特に好ましい。
【0132】
層Aは、上述した成分以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。
層Aに含まれていてもよいその他の添加剤の好ましい態様は、本開示に係るポリマーフィルムに含まれていてもよいその他の添加剤の好ましい態様と同様である。
【0133】
また、層Aは、その他の添加剤として、誘電正接が0.01以下であるポリマー以外の樹脂を含んでいてもよい。
誘電正接が0.01以下であるポリマー以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリエーテルイミド等の液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂;グリシジルメタクリレートとポリエチレンとの共重合体等のエラストマー;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0134】
層Aにおけるその他の添加剤の総含有量は、誘電正接が0.01以下であるポリマーの含有量100質量部に対して、好ましくは25質量部以下であり、より好ましくは10質量部以下であり、さらに好ましくは5質量部以下である。
【0135】
層Aの平均厚みは、特に制限はないが、積層体の誘電正接、耐熱性、及び配線歪みの抑制の観点から、5μm~90μmであることが好ましく、10μm~70μmであることがより好ましく、15μm~50μmであることが特に好ましい。
【0136】
本開示に係る積層体における各層の平均厚みの測定方法は、以下のとおりである。
【0137】
積層体を、積層体の面方向に垂直な面で切断し、その断面において、5点以上厚みを測定し、それらの平均値を平均厚みとする。
【0138】
積層体の誘電正接を0.01以下とする観点から、層Aの誘電正接は0.01以下であることが好ましく、0.005以下であることがより好ましく、0を超え0.003以下であることがさらに好ましい。
【0139】
<層B>
本開示に係る積層体は、上記層Aの少なくとも一方の面に層Bを有する。層Bは、260℃で液状である材料Aと、260℃で固体である材料Bとを含み、長軸方向の長さが0.01μm以上の空隙を含み、160℃における弾性率が0.60MPa以下であり、誘電正接が0.01以下である。
【0140】
本開示に係る積層体に含まれる材料A、材料B、及び空隙の好ましい態様は、本開示に係るポリマーフィルムに含まれる材料A、材料B、及び空隙の好ましい態様と同様である。260℃で液状である材料Aは260℃における弾性率が0.10MPa以下であることが好ましく、260℃で固体である材料Bは260℃における弾性率が0.10MPaより高い材料であることが好ましい。
【0141】
層Bは、材料A、及び材料B以外に、その他の添加剤を含んでいてもよい。
その他の添加剤としては、本開示に係るポリマーフィルムに含まれていてもよいその他の添加剤と同様のものが挙げられる。
【0142】
層Bの平均厚みは、段差追従性の観点から、5μm~50μmであることが好ましく、10μm~40μmであることがより好ましく、15μm~30μmであることがさらに好ましい。
【0143】
本開示に係る積層体は、金属層との密着性の観点から、上記層A及び上記層Bに加え、層Cをさらに有することが好ましく、上記層Bと、上記層Aと、上記層Cとをこの順で有することがより好ましい。
【0144】
<層C>
層Cは、接着層であることが好ましい。すなわち、層Cは、表面層(最外層)であることが好ましい。
【0145】
層Cは、積層体の誘電正接の観点から、少なくとも1種のポリマーを含むことが好ましい。
【0146】
層Cに用いられるポリマーの好ましい態様は、層Aに用いられる、誘電正接が0.01以下のポリマーの好ましい態様と同様である。
【0147】
層Cに含まれるポリマーは、層A又は層Bに含まれるポリマーと同じであってもよく、異なっていてもよいが、層Aと層Cとの密着性の観点から、層Aに含まれるポリマーと同じであることが好ましい。
【0148】
また、層Cは、金属層と層Aとを接着させるため、エポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0149】
エポキシ樹脂は、多官能エポキシ化合物の架橋体であることが好ましい。多官能エポキシ化合物とは、エポキシ基を2つ以上有する化合物のことをいう。多官能エポキシ化合物におけるエポキシ基の数は、2~4であることが好ましい。
【0150】
特に、層Cは、積層体の誘電正接、及び、金属層との接着性の観点から、芳香族ポリエステルアミド及びエポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0151】
層Cは、フィラーを含んでいてもよい。
層Cに用いられるフィラーの好ましい態様は、層Aに用いられるフィラーの好ましい態様と同様である。
【0152】
層Cは、上記以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。
層Cに用いられるその他の添加剤の好ましい態様は、後述する以外、層Aに用いられるその他の添加剤の好ましい態様と同様である。
【0153】
層Cの平均厚みは、積層体の誘電正接、及び、金属との密着性の観点から、層Aの平均厚みよりも薄いことが好ましい。
【0154】
層Aの平均厚みTAと層Cの平均厚みTCとの比であるTA/TCの値は、積層体の誘電正接、及び、金属層との密着性の観点から、1より大きいことが好ましく、2~100であることがより好ましく、2.5~20であることがさらに好ましく、3~10であることが特に好ましい。
層Bの平均厚みTBと層Cの平均厚みTCとの比であるTB/TCの値は、積層体の誘電正接、及び、金属層との密着性の観点から、1より大きいことが好ましく、2~100であることがより好ましく、2.5~20であることがさらに好ましく、3~10であることが特に好ましい。
【0155】
さらに、層Cの平均厚みは、積層体の誘電正接、及び、金属層との密着性の観点から、0.1μm~20μmであることが好ましく、0.5μm~15μmであることがより好ましく、1μm~10μmであることがさらに好ましく、2μm~8μmであることが特に好ましい。
【0156】
本開示に係る積層体の平均厚みは、強度、及び、金属層との積層体にした際の電気特性(特性インピーダンス)の観点から、6μm~200μmであることが好ましく、12μm~100μmであることがより好ましく、20μm~80μmであることが特に好ましい。
【0157】
積層体の平均厚みは、任意の5箇所について、接着式の膜厚計、例えば、電子マイクロメータ(製品名「KG3001A」、アンリツ社製)を用いて測定し、それらの平均値とする。
【0158】
本開示に係る積層体は、誘電正接が0.01以下であることが好ましく、0.005以下であることがより好ましく、0を超え0.003以下であることがさらに好ましい。
【0159】
<積層体の製造方法>
(製膜)
本開示に係る積層体の製造方法は、特に制限はなく、公知の方法を参照することができる。
【0160】
製膜方法としては、例えば、共流延法、重層塗布法、共押出法等が好適に挙げられる。中でも、製膜方法は、共流延法であることが好ましい。
【0161】
積層体における多層構造を共流延法又は重層塗布法により製造する場合、液晶ポリマー等の各層の成分をそれぞれ溶媒に溶解又は分散した層A形成用組成物、層B形成用組成物、層C形成用組成物等を用いて、共流延法又は重層塗布法を行うことが好ましい。
【0162】
溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1-クロロブタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;p-クロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタフルオロフェノール等のハロゲン化フェノール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;トリエチルアミン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド、テトラメチル尿素等の尿素化合物;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物;ヘキサメチルリン酸アミド、トリ-n-ブチルリン酸等のリン化合物等が挙げられ、それらを2種以上用いてもよい。
【0163】
溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは70質量%~100質量%、特に好ましくは90質量%~100質量%である。また、上記非プロトン性化合物としては、液晶ポリマーを溶解し易いことから、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチルピロリドン等のアミド又はγ-ブチロラクトン等のエステルを用いることが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びN-メチルピロリドンがより好ましい。
【0164】
また、溶媒としては、液晶ポリマーを溶解し易いことから、双極子モーメントが3~5である化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める双極子モーメントが
3~5である化合物の割合は、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは70質量%~100質量%、特に好ましくは90質量%~100質量%である。
上記非プロトン性化合物として、双極子モーメントが3~5である化合物を用いることが好ましい。
【0165】
また、溶媒としては、除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める1気圧における沸点が220℃以下である化合物の割合は、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは70質量%~100質量%、特に好ましくは90質量%~100質量%である。
上記非プロトン性化合物として、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を用いることが好ましい。
【0166】
また、本開示に係る積層体の製造方法は、上記共流延法、重層塗布法及び共押出法等により製造する場合、支持体を使用してもよい。
支持体としては、例えば、金属ドラム、金属バンド、ガラス板、樹脂フィルム又は金属箔が挙げられる。中でも、支持体は、金属ドラム、金属バンド、又は樹脂フィルムが好ましい。
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリイミド(PI)フィルムが挙げられ、市販品の例としては、宇部興産(株)製U-ピレックスS及びU-ピレックスR、東レデュポン(株)製カプトン、並びに、SKCコーロンPI社製IF30、IF70及びLV300等が挙げられる。
また、支持体は、容易に剥離できるように、表面に表面処理層が形成されていてもよい。表面処理層は、ハードクロムメッキ、フッ素樹脂等を用いることができる。
支持体の平均厚みは、特に制限はないが、好ましくは25μm以上75μm以下であり、より好ましくは50μm以上75μm以下である。
【0167】
また、流延、又は、塗布された膜状の組成物(塗膜)から溶媒の少なくとも一部を除去する方法としては、特に制限はなく、公知の乾燥方法を用いることができる。
【0168】
(延伸)
本開示に係る積層体は、分子配向を制御し、熱膨張係数や力学物性を調整する観点で、適宜、延伸を組み合わせることができる。延伸の方法は、特に制限はなく、公知の方法を参照することができ、溶媒を含んだ状態で実施してもよく、乾膜の状態で実施してもよい。溶媒を含んだ状態での延伸は、積層体を把持して伸長してもよく、伸長せずに乾燥による自己収縮を利用して実施してもよい。延伸は、無機フィラー等の添加によってフィルム脆性が低下した場合に、破断伸度や破断強度を改善する目的で特に有効である。
【0169】
<用途>
本開示に係る積層体は、種々の用途に用いることができる、中でも、プリント配線板などの電子部品用フィルムに好適に用いることができ、フレキシブルプリント回路基板により好適に用いることができる。
また、本開示に係る積層体は、金属接着用液晶ポリマーフィルムとして好適に用いることができる。
【実施例0170】
以下に実施例を挙げて本開示をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本開示の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0171】
ポリマーフィルム及び積層体の作製に用いた各材料の詳細は以下のとおりである。
【0172】
<<層A>>
<ポリマー>
・P1:下記製造方法に従って作製した芳香族ポリエステルアミド
【0173】
-芳香族ポリエステルアミドP1の合成-
撹拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計、及び還流冷却器を備えた反応器に、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸940.9g(5.0モル)、イソフタル酸415.3g(2.5モル)、アセトアミノフェン377.9g(2.5モル)、及び無水酢酸867.8g(8.4モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、撹拌しながら、室温(23℃、以下同じ)から140℃まで60分かけて昇温し、140℃で3時間還流させた。
次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から300℃まで5時間かけて昇温し、300℃で30分保持した。その後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状の芳香族ポリエステルアミドP1aを得た。芳香族ポリエステルアミドP1aの流動開始温度は、193℃であった。また、芳香族ポリエステルアミドP1aは、全芳香族ポリエステルアミドであった。
芳香族ポリエステルアミドP1aを、窒素雰囲気下、室温から160℃まで2時間20分かけて昇温し、次いで160℃から180℃まで3時間20分かけて昇温し、180℃で5時間保持することにより固相重合させた後、冷却した。次いで、粉砕機で粉砕して、粉末状の芳香族ポリエステルアミドP1bを得た。芳香族ポリエステルアミドP1bの流動開始温度は、220℃であった。
芳香族ポリエステルアミドP1bを、窒素雰囲気下、室温から180℃まで1時間25分かけて昇温し、次いで180℃から255℃まで6時間40分かけて昇温し、255℃で5時間保持することにより固相重合させた後、冷却して、粉末状の芳香族ポリエステルアミドP1を得た。
芳香族ポリエステルアミドP1の流動開始温度は、302℃であった。また、芳香族ポリエステルアミドP1の融点を、示差走査熱量分析装置を用いて測定した結果、311℃であった。芳香族ポリエステルアミドP1の誘電正接は、0.003であった。
【0174】
<フィラー>
・PP-1:下記製造方法に従って作製した液晶ポリマー粒子
【0175】
-液晶ポリマー粒子PP-1の合成-
撹拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、2,6-ナフタレンジカルボン酸89.18g(0.41モル)、テレフタル酸236.06g(1.42モル)、4,4-ジヒドロキシビフェニル341.39g(1.83モル)及び触媒として酢酸カリウムと酢酸マグネシウムを入れた。反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、無水酢酸(水酸基に対して1.08モル当量)を更に添加した。窒素ガス気流下、撹拌しながら、室温から150℃まで15分かけて昇温し、150℃で2時間還流させた。
次いで、副生した酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から310℃まで5時間かけて昇温し、重合物を取り出して室温まで冷却した。得られた重合物を室温から295℃まで14時間かけて昇温し、295℃で1時間固相重合した。固相重合後、5時間かけて室温冷却し、液晶ポリマー粒子PP-1を得た。液晶ポリマー粒子PP-1は、メジアン径(D50)が7μmであり、誘電正接が0.0007であり、融点が334℃であった。
【0176】
<<層B>>
<材料A>
A1:水添スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体粒子、旭化成ケミカルズ(株)製タフテックM1913の凍結粉砕品(平均粒径5.0μm(D50):50μmのメッシュで粗大粒子を除外した。)
A2:N-メチルピロリドンで膨潤させた水添スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(製品名「SIBSTAR103T-UL」、(株)カネカ製)の凍結粉砕品、平均粒径5.0μm(D50)
【0177】
<材料B>
P1:上記芳香族ポリエステルアミドP1
B1:シリカ粒子、製品名「AEROSIL(登録商標)NX90S」、日本アエロジル株式会社製
B2:発泡剤、製品名「テクポリマーSSX-101」、積水化成品工業株式会社製
<銅箔>
M1:製品名「CF-T9DA-SV-18」、福田金属箔粉工業(株)製、平均厚み18μm
M2:製品名「MT18FL」、三井金属鉱業(株)製、平均厚み1.5μm、キャリア銅18μmつき
M3:製品名「CF-T4X-SV-18」、福田金属箔粉工業(株)製、平均厚み18μm
【0178】
次に、ポリマーフィルム及び積層体を作製するために、層A形成用溶液、層B形成用溶液、層C形成用溶液を調製した。なお、ポリマーフィルムは、層B形成用溶液を用いて作製した。
【0179】
-層A形成用溶液の調製-
表1に記載のポリマー及びフィラーを、表1に記載の含有量(質量%)で混合し、N-メチルピロリドンを加え固形分濃度が25質量%となるように調整し、層A形成用溶液を得た。
【0180】
-層B形成用溶液の調製-
表1に記載の材料A及び材料Bを、表1に記載の含有量(質量%)で混合し、N-メチルピロリドンを加え固形分濃度が20質量%となるように調整し、層B形成用溶液を得た。
【0181】
-層C形成用溶液の調製-
芳香族ポリエステルアミドP1 8質量部を、N-メチルピロリドン92質量部に加え、窒素雰囲気下、140℃4時間撹拌し、芳香族ポリエステルアミド溶液P1(固形分濃度8質量%)を得た。
芳香族ポリエステルアミド溶液P1(10.0質量部)に対して、アミノフェノール型エポキシ樹脂(製品名「jER630」、三菱化学(株)製)0.04質量部を混合し、層C形成用溶液を調製した。
【0182】
[銅層を有するポリマーフィルム(片面銅張積層板)の作製]
-フィルム1~11-
得られた層C形成用溶液、層A形成用溶液、層B形成用溶液を、スライドコーターを装備したスロットダイコーターに送液し、表1に記載の銅箔の処理面上に表1に記載する膜厚になるように流量を調整して3層構成(層C/層A/層B)で塗布した。40℃にて4時間乾燥することにより、塗膜から溶媒を除去した。さらに、窒素雰囲気下で室温(25℃)から300℃まで1℃/分で昇温した。300℃で2時間保持する熱処理を行い、銅箔、層C、層A、層Bの順に積層された積層体(片面銅張積層板)を得た。なお、銅箔がM2、M3の場合には、層Cは形成しなかった。
【0183】
-フィルム12-
支持体(製品名「ニトフロン#900UL」、日東電工(株)製、平均厚み50μm)上に層B形成用溶液を塗布した。40℃にて4時間乾燥することにより、塗膜から溶媒を除去した後、支持体を有するポリマーフィルムを得た。なお、断面評価、160℃弾性率、及び、誘電正接の評価には、支持体を剥離し、更に窒素雰囲気下で室温(25℃)から300℃まで1℃/分で昇温し、300℃で2時間保持する熱処理を行った試料を用いた。
【0184】
-フィルムA-
得られた層C形成用溶液、層A形成用溶液を、スロットダイに送液し、表1に記載の銅箔上に、乾燥後の平均厚みが表1に記載の厚みになるように流量を調整して塗布した。40℃にて4時間乾燥することにより、塗膜から溶媒を除去し、銅層を有するポリマーフィルム(片面銅張積層板)を得た。なお、誘電正接の評価には、更に窒素雰囲気下で室温(25℃)から300℃まで1℃/分で昇温し、300℃で2時間保持する熱処理を行った試料を用いた。
【0185】
-フィルムB-
得られた層A形成用溶液を、スロットダイに送液し、表1に記載の銅箔上に、乾燥後の平均厚みが表1に記載の厚みになるように流量を調整して塗布した。40℃にて4時間乾燥することにより、塗膜から溶媒を除去し、銅層を有するポリマーフィルム(片面銅張積層板)を得た。なお、誘電正接の評価には、更に窒素雰囲気下で室温(25℃)から300℃まで1℃/分で昇温し、300℃で2時間保持する熱処理を行った試料を用いた。
【0186】
-フィルムC-
フィルムCとして、LCPフィルム(製品名「ベクスターCTQ」、(株)クラレ製、平均厚み50μm)を用い、300℃にて表1に記載の銅箔の処理面側を熱圧着機で積層して、銅層を有するポリマーフィルム(片面銅張積層板)を得た。
【0187】
[両面銅張積層板の作製]
表2に記載の銅箔、第1フィルム、及び第2フィルムを、銅箔/第2フィルム/第1フの順に積層した。
実施例1~実施例8、比較例1~3では、銅箔の処理面が、第1フィルムの層Bと接するように、重ね合わせた。
実施例9~実施例11では、真空ラミネータを用いて、第2フィルムの支持体とは反対側を、第1フィルムの銅箔とは反対側に積層し、第2フィルムの支持体を剥離した後、窒素雰囲気下で室温(25℃)から300℃まで1℃/分で昇温し、300℃で2時間保持する熱処理を行い、銅箔、第1フィルム、第2フィルムの順に積層された積層体(片面銅張積層板)を得た。更に、銅箔の処理面が、第2フィルムの層Bと接し、第1フィルムにおける銅箔が最外層となるように、重ね合わせた。
ラミネータ(製品名「真空ラミネータV-130」、ニッコー・マテリアルズ社製)を使用して、140℃及びラミネート圧0.4MPaの条件で1分間のラミネート処理を行い、両面銅張積層板の前駆体を得た。
続いて、熱圧着機(製品名「MP-SNL」、(株)東洋精機製作所製)を用いて、得られた両面銅張積層板を、230℃4MPaにて60分間熱圧着することにより、両面銅張積層板を作製した。
【0188】
[配線基板の作製]
-配線パターン付き基材Aの作製-
銅箔(製品名「CF-T9DA-SV-18」、平均厚み18μm、福田金属箔粉工業(株)製)と、基材として液晶ポリマーフィルム(製品名「CTQ-50」、平均厚み50μm、クラレ社製)を準備した。銅箔の処理面が基材と接するように、銅箔と基材と銅箔とをこの順に重ねた。ラミネータ(製品名「真空ラミネータV-130」、ニッコー・マテリアルズ社製)を使用して、140℃及びラミネート圧0.4MPaの条件で1分間のラミネート処理を行い、両面銅張積層板の前駆体を得た。続いて、熱圧着機(製品名「MP-SNL」、(株)東洋精機製作所製)を用いて、得られた両面銅張積層板の前駆体を、300℃及び4.5MPaの条件で10分間熱圧着することにより、両面銅張積層板を作製した。
上記両面銅張積層板の両面の銅箔に対して表面を粗化し、ドライフィルムレジストを貼合した。配線パターンが残るように露光し、現像した後、エッチングし、更にドライフィルムを除去することで、基材の両側にグランド線及び3対の信号線を含むライン/スペースが100μm/100μmとなる配線パターン付き基材Aを作製した。信号線の長さは50mm、幅は特性インピーダンスが50Ωになるように設定した。
【0189】
-配線パターン付き基材Bの作製-
銅箔(製品名「MT18FL」、平均厚み1.5μm、キャリア銅箔(厚み18μm)付き、三井金属鉱業(株)製)と、基材として液晶ポリマーフィルム(製品名「CTQ-50」、平均厚み50μm、(株)クラレ製)を準備した。銅箔の処理面が基材と接するように、銅箔と基材とをこの順に重ねた。ラミネータ(製品名「真空ラミネータV-130」、ニッコー・マテリアルズ(株)製)を使用して、140℃及びラミネート圧0.4MPaの条件で1分間のラミネート処理を行い、片面銅張積層板の前駆体を得た。続いて、熱圧着機(製品名「MP-SNL」、(株)東洋精機製作所製)を用いて、得られた片面銅張積層板の前駆体を、300℃及び4.5MPaの条件で10分間熱圧着することにより、片面銅張積層板を作製した。片面銅張積層板の基材と反対面にあるキャリア銅箔を剥離し、露出した1.5μmの銅箔に対して表面を粗化し、ドライフィルムレジストを貼合した。パターン露光を行い、現像した後、レジストパターンが配置されていない領域にめっき処理をした。さらに、ドライフィルムレジストを剥離し、剥離工程によって露出した銅をフラッシュエッチングにより除去することで、ライン/スペースが20μm/20μmとなる配線パターン付き基材Bを作製した。
【0190】
-配線基板の作製-
作製した片面銅張積層板の層B側に、作製した配線パターン付き基材を重ね合わせ、160℃及び4MPaの条件で、1時間の熱プレスを行うことにより、配線基板を得た。
得られた配線基板は、配線パターン(グランド線及び信号線)が埋設されており、配線パターン付き基材Aを用いた場合は配線パターンの厚みは18μm、配線パターン付き基材Bを用いた場合は配線パターンの厚みは12μmであった。
【0191】
<<評価>>
作製した配線基板について、下記に示す測定及び評価を行い、結果を表1及び表2に記載した。
【0192】
<<測定方法>>
〔160℃における弾性率〕
両面銅張積層板をエッチングし、層Bを露出させた。次に、露出領域における弾性率を、ナノインデンテーション法を用いて、押し込み弾性率として測定した。押し込み弾性率は、微小硬度計(製品名「DUH-W201」、島津製作所製)を用い、ビッカース圧子により0.28mN/秒の荷重速度で負荷をかけ、最大荷重10mNを10秒間保持した後に、0.28mN/秒の荷重速度で除荷を行うことにより、測定した。
【0193】
〔誘電正接〕
両面銅張積層板の銅箔を塩化第二鉄の水溶液で除去し、純水で洗浄後、乾燥して得られたポリマーフィルムを用いて測定した。
誘電正接の測定は、周波数10GHzで共振摂動法により実施した。ネットワークアナライザ(Agilent Technology社製「E8363B」)に10GHzの空洞共振器((株)関東電子応用開発製「CP531」)を接続し、空洞共振器にポリマーフィルムを挿入し、温度25℃、湿度60%RH環境下、96時間の挿入前後の共振周波数の変化から、ポリマーフィルムの誘電正接を測定した。
【0194】
〔空隙における長軸方向の長さ(表1中、「長さL」)〕
両面銅張積層板をミクロトームで切削して、フィルム断面サンプルを用意した。断面の層Bを、走査型電子顕微鏡(SEM)で、一万倍で100視野観察した。層B中、任意の100個の空隙を選択した。選択した各空隙について、長軸方向の長さを測定し、平均値を採用した。
【0195】
〔空隙と材料Bとの距離(表1中、「距離T」)〕
ポリマーフィルムの表面をミクロトームで切削して、フィルム断面サンプルを用意した。断面を、光学顕微鏡で50倍で観察し、材料Bの分布を確認した。同じフィルム断面サンプルを、走査型電子顕微鏡(SEM)で10,000倍で観察し、光学顕微鏡で観察した視野と同じ位置にある空隙を観察した。得られた任意の100個の空隙に対して、最も近い材料Bの距離を計測し、その平均値を空隙と材料Bとの距離Tとした。
【0196】
〔空隙率〕
空隙における長軸方向の長さを測定する方法と同様に、任意の100個の空隙を選択した。選択した各空隙について、断面積を測定した。空隙率は、以下の式に基づいて算出した。
空隙率={(空隙の断面積の合計)/(ポリマーフィルムの断面積)}×100
【0197】
<<評価方法>>
〔段差追従性〕
配線基板をミクロトームで厚み方向に沿って切削し、断面を光学顕微鏡で観察した。層Bと配線パターン間において面内方向に生じる隙間の長さL1を測定した。10箇所における平均値を算出した。評価基準は以下のとおりである。
A:隙間は確認されなかった。
B:L1の平均値が1μm未満であった。
C:L1の平均値が1μm以上であった。
【0198】
〔耐熱性〕
作製した両面銅張積層板を30mm×30mmサイズに切り出し、評価サンプルとした。評価サンプルを、温度85℃相対湿度85%の恒温恒湿槽にて168時間処理した。その後、260℃に設定したオーブンに、評価サンプルを入れ、15分加熱した。加熱後の評価サンプルを剃刀で切削し、断面を光学顕微鏡で観察し、剥離状態を評価した。
A:層Bと銅箔との間に剥離が認められなかった・
B:層Bと銅箔との間に、1.0mm以下の幅で剥離が認められた。
C:層Bと銅箔との間に、1.0mmより大きい幅で剥離が認められた。
【0199】
測定結果及び評価結果を表1に示す。比較例1では、層Bに空隙が存在しなかったため、空隙に関する欄には「-」を記載した。
【0200】
【0201】
【0202】
表1に示すように、実施例1~実施例11では、260℃で液状である材料Aと、260℃で固体である材料Bとを含み、長軸方向の長さが0.01μm以上の空隙を含み、160℃における弾性率が0.60MPa以下であり、誘電正接が0.01以下であるため、段差追従性及び耐熱性に優れることが分かった。
一方、比較例1では、ポリマーフィルムに空隙が存在せず、耐熱性に劣ることが分かった。
比較例2では、空隙における長軸方向の長さが0.01μm未満であり、耐熱性に劣ることが分かった。
比較例3では、160℃における弾性率が0.60MPa超であり、段差追従性に劣ることが分かった。