(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014398
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】石油化学プロセスのアルカリ性廃液の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/66 20230101AFI20240125BHJP
【FI】
C02F1/66 510R
C02F1/66 522R
C02F1/66 540Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117187
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(71)【出願人】
【識別番号】505112048
【氏名又は名称】ナルコジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】大谷 健人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慶
(57)【要約】
【課題】 一態様において、石油化学プロセスにおいて排出されるアルカリ性廃液の処理において、析出物の発生を抑制可能な方法、及びそれに用いられる廃液処理剤を提供する。
【解決手段】 本開示は、一態様において、石油化学プロセスのアルカリ性廃液の処理において、該廃液にイミダゾリン環を有する化合物を存在させることを含む方法に関する。本開示は、その他の態様において、本開示の方法に用いられる廃液処理剤であって、イミダゾリン環を有する化合物を含有する廃液処理剤に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油化学プロセスのアルカリ性廃液の処理において、該廃液にイミダゾリン環を有する化合物を存在させることを含む、方法。
【請求項2】
前記アルカリ性廃液は、エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液と、硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液とを少なくとも含む混合廃液であり、
前記硫酸による処理は、硫酸による芳香族炭化水素化合物の重合処理、硫酸触媒によるエステル化処理、硫酸法によるアルキル化処理、及びオレフィンの硫酸抽出からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液は、水硫化ナトリウムを含むアルカリ性廃液を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記廃液にイミダゾリン環を有する化合物を存在させることは、下記(1)から(3)の少なくとも一つを含む、請求項2又は3に記載の方法。
(1) 前記混合廃液に前記イミダゾリン環を有する化合物を添加すること。
(2) 前記エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液に前記イミダゾリン環を有する化合物を添加すること。
(3) 前記硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液に前記イミダゾリン環を有する化合物を添加すること。
【請求項5】
石油化学プロセスのアルカリ性廃液の処理における汚れを抑制する方法であって、該廃液にイミダゾリン環を有する化合物を存在させることを含む、方法。
【請求項6】
前記アルカリ性廃液が、エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液と、硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液とを少なくとも含む混合廃液であり、
前記硫酸による処理は、硫酸による芳香族炭化水素化合物の重合処理、硫酸触媒によるエステル化処理、硫酸法によるアルキル化処理、及びオレフィンの硫酸抽出からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1から3、5及び6のいずれかに記載の方法に用いられる廃液処理剤であって、イミダゾリン環を有する化合物を含有する、廃液処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、石油化学プロセスのアルカリ性廃液の処理方法に関する。より詳細には、エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液と硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液とを少なくとも含む混合廃液の処理、石油化学プロセスのアルカリ性廃液の処理における汚れを抑制する方法、及びこれらの方法に用いる廃液処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油化学工業では、石油、天然ガス及び原油随伴ガスを主原料として、石油化学基礎製品をはじめとする、有機工業薬品及び高分子等といった様々な石油化学製品が製造されている。石油化学工場では、大きな敷地に多数の誘導品プラントを配置し、コンビナートとして様々な石油化学製品が製造されている。
【0003】
廃液処理において、石油化学工場には上記のとおり様々なプラントがあり、各プラントから様々な排水が排出される。排水は、各プラントや含有物質や排水経路毎に処理施設が設けられている場合や、様々なプラントから排出される廃液をまとめて処理する場合もある。石油化学工場で排出される廃液の多くはプロセス排水であり、例えば、生産原料、中間生成物及び触媒等が混入した排水、及び酸性又はアルカリ性の洗浄排水等がある。
【0004】
特許文献1は、石油精製工程から排出される有機物質を含むソーダ廃液の処理方法に関し、工場排水で希釈し、塩化第二鉄で中和すること等を含む前処理を行った後、活性汚泥処理を行うことを開示する。特許文献2は、炭化水素熱分解プラントの分解ガスの脱硫工程から排出するアルカリ性廃液の処理法に関し、脱硫工程から排出するアルカリ性廃液に酸を加えて中和し、硫化水素ストリッピングを行うことを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭53-92550号公報
【特許文献2】特開昭48-52674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、石油化学プロセスにおいて排出されるアルカリ性廃液の処理において、汚れを抑制可能な方法、及びそれに用いられる廃液処理剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様として、石油化学プロセスのアルカリ性廃液の処理において、該廃液にイミダゾリン環を有する化合物を存在させることを含む方法に関する。
【0008】
本開示は、一態様として、石油化学プロセスのアルカリ性廃液の処理における汚れを抑制する方法であって、該廃液にイミダゾリン環を有する化合物を存在させることを含む方法に関する。
【0009】
本開示は、一態様として、本開示の方法に用いられる廃液処理剤であって、イミダゾリン環を有する化合物を含有する廃液処理剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、一又は複数の実施形態において、石油化学プロセスにおいて排出されるアルカリ性廃液の処理において、汚れの発生を抑制可能な方法、及び該方法に用いられる廃液処理剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
石油化学工場(石油化学プラント)には、石油精製工場、石油化学基礎製品工場(ナフサ分解工場)、及び様々な石油化学誘導品工場が配置され、コンビナートとして様々な石油化学製品が製造されている。各工場で排出される廃液は、パイプラインを通じて含有物質や成分に応じてまとめて処理されている。
石油化学プロセスで排出されたアルカリ性廃液の廃液処理設備において、析出物が発生し、その析出物に起因する汚れの発生及び汚れを清掃するために多大な手間及びコストがかかる問題となっている。また、汚れは、ストレーナーの閉塞を引き起こす場合があることから、清掃時に高温のアルカリ廃液が被液する可能性があり、安全面や安全を確保するために要するコストも問題となっている。
【0012】
本発明者らは、上記問題を引き起こす原因の一つである上記析出物が、二価の硫黄原子が1個又は2個の有機基で置換された有機化合物(スルフィド化合物及び/又はジスルフィド化合物)であることを見出した。さらに本発明者らは、この析出物が発生する原因の一つが、エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液と硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液との混合にあることを見出した。そしてさらに研究を重ねた過程で、本発明者らは、アルキルイミダゾリン等のイミダゾリン環を有する化合物によって、上記析出物の発生を抑制でき、さらには析出した上記析出物を溶解できうること、さらには上記析出物に起因する汚れを抑制できうることを見出した。本開示は、これらの知見に基づく。
イミダゾリン環を有する化合物によって、上記の効果が奏される理由は明らかではないが、以下のように推定される。
エチレン製造プロセスから排出されるアルカリ性廃液は還元作用が強く、該アルカリ性廃液が、硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液と混合すると、それにより硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液に含まれる硫黄含有化合物が還元作用によって水不溶状態となり、析出する。これに対し、該廃液にイミダゾリン環を有する化合物を存在させることによって、硫黄含有化合物が水不溶状態となるのを抑制でき、その結果、上記析出物の発生を抑制できると考えられる。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定されるものではない。
【0013】
本開示によれば、一態様において、析出物を抑制し、それに起因する汚れを抑制できるため、汚れに係る清掃コストを低減しつつ、石油化学プロセスのアルカリ性廃液を処理することができる。
【0014】
本開示の方法における被処理対象であるアルカリ性廃液は、石油化学プロセスで排出されるアルカリ性廃液である。
本開示における「石油化学プロセス」とは、石油、天然ガス及び原油随伴ガス等の炭化水素を主原料として、石油化学基礎製品をはじめとする各種石油製品、有機工業薬品及び高分子等が製造されるまでの工程の全部又は一部をいう。
本開示における「石油化学プロセスで排出されるアルカリ性廃液」とは、石油化学プロセスで排出されるアルカリ性の廃液であって、そのpHが8.0以上、9.0以上、pH9.5以上、pH9.6以上、pH9.7以上、pH9.8以上、pH9.9以上、又は10.0以上の廃液をいう。pHは、25℃における値であってpHメータを用いて測定できる。具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0015】
被処理対象であるアルカリ性廃液としては、一又は複数の実施形態において、エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液と、硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液とを少なくとも含む混合廃液等が挙げられる。
【0016】
エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液としては、一又は複数の実施形態において、水硫化ナトリウムを含むアルカリ性廃液等が挙げられる。水硫化ナトリウムを含むアルカリ性廃液としては、一又は複数の実施形態において、エチレン製造プロセスにおける酸成分吸収工程で排出されるアルカリ性廃液、及びエチレン製造プロセスの苛性ソーダ洗浄塔から排出されるアルカリ性廃液等が挙げられる。
【0017】
硫酸による処理としては、一又は複数の実施形態において、硫酸による芳香族炭化水素化合物の重合処理、硫酸触媒によるエステル化処理、硫酸法によるアルキル化処理、及びオレフィンの硫酸抽出等が挙げられる。その他の硫酸による処理としては、一又は複数の実施形態において、石油化学基礎製品工場において生成される酸化反応物の急冷塔における反応ガスの冷却、及び未反応アルカリ性物質の硫酸による中和処理等が挙げられる。硫酸による芳香族炭化水素化合物の重合処理としては、一又は複数の実施形態において、ニトロソベンゼンの重合反応、イソペンタンの重合反応、イソブチレンの重合反応、及びジメチルスチレン類とスチレンとの重合反応等が挙げられる。オレフィンの硫酸抽出としては、一又は複数の実施形態において、イソブチレンの硫酸抽出、及びイソブチレンンの分離精製等が挙げられる。硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液としては、一又は複数の実施形態において、上記硫酸による処理で排出される廃液を中和処理した廃液等が挙げられる。
【0018】
被処理対象であるアルカリ性廃液は、一又は複数の実施形態において、二価の硫黄原子が1個又は2個の有機基で置換された有機化合物を含みうる。該有機化合物としては、一又は複数の実施形態において、スルフィド系化合物、及びジスルフィド系化合物等が挙げられる。
【0019】
本開示における「石油化学プロセスのアルカリ性廃液の処理」としては、一又は複数の実施形態において、石油化学プロセスのアルカリ性廃液から有機物質及び/又は汚染物質を除去することを含み、一態様として、環境に影響を及ぼさないレベルにまで有機物質及び/又は汚染物質を除去して排水として排出すること、及び/又は工業用水として再利用することを含みうる。石油化学プロセスのアルカリ性廃液の処理は、一又は複数の実施形態において、エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液と、硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液とを混合すること、及び混合した廃液をバーナー等に噴霧することにより焼却処理すること又は混合した廃液を湿式酸化法により処理すること等を含みうる。アルカリ廃液を湿式酸化法により処理するにより、一又は複数の実施形態において、水硫化物が得られ、それを再利用又は製品化することができる。
【0020】
[アルカリ性廃液の処理方法]
本開示は、一態様において、石油化学プロセスのアルカリ性廃液の処理において、該廃液にイミダゾリン環を有する化合物を存在させることを含む方法に関する。本開示は、その他の態様において、エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液と、硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液とを少なくとも含む混合廃液の処理において、該混合廃液にイミダゾリン環を有する化合物を添加することを含む方法に関する。
【0021】
イミダゾリン環を有する化合物としては、一又は複数の実施形態において、アルキルイミダゾリン類等が挙げられる。
アルキルイミダゾリン類としては、一又は複数の実施形態において、イミダゾリン環の1位又は3位の窒素原子のうち少なくとも一方の窒素原子の置換基がアルキル基又はヒドロキシアルキル基であるアルキルイミダゾリン化合物;イミダゾリン環の2位、4位又は5位の炭素原子のうち少なくとも一つの炭素原子の置換基がアルキル基であるアルキルイミダゾリン化合物;又はイミダゾリン環の1位又は3位の窒素原子のうち少なくとも一方の窒素原子の置換基がアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、かつ、2位、4位又は5位の炭素のうち少なくとも一つの炭素原子の置換基がアルキル基であるアルキルイミダゾリン化合物等が挙げられる。
アルキルイミダゾリン類としては、一又は複数の実施形態において、イミダゾリン環の2位の炭素原子の置換基が飽和アルキル基又は不飽和アルキル基であり、かつ1位の窒素原子の置換基がヒドロキシアルキル基であるイミダゾリン化合物;イミダゾリン環の2位の炭素原子の置換基が飽和アルキル基又は不飽和アルキル基であり、1位の窒素原子の置換基が水素原子であるイミダゾリン化合物;又はイミダゾリン環の2位の炭素原子の置換基が飽和アルキル基又は不飽和アルキル基であり、かつ1位の窒素原子の置換基がポリアミノポリアルキレン基であるイミダゾリン化合物等が挙げられる。
【0022】
その他のアルキルイミダゾリン類としては、一又は複数の実施形態において、式(I)で表される化合物が挙げられる。
【化1】
上記式(I)において、R
1は、H、水酸基、炭素数1-9のヒドロキシアルキル基、又は炭素数1-9のカルボキシアルキル基を示し、R
2は、炭素数1-30の飽和若しくは不飽和のアルキル基、炭素数1-30のヒドロキシアルキル基、炭素数2-30のアルケニル基、炭素数6-30のアリール基、炭素数7-30のアルキルアリール基、炭素数7-30のアリールアルキル基、炭素数1-30のアミノアルキル基、又は炭素数6-30のアミノアリール基を示す。一又は複数の実施形態において、R
1は、炭素数1-9のヒドロキシアルキル基を示し、R
2は、炭素数1-30の飽和若しくは不飽和のアルキル基、炭素数1-30のヒドロキシアルキル基、又は炭素数2-30のアルケニル基を示す。
【0023】
その他のアルキルイミダゾリン類としては、一又は複数の実施形態において、長鎖脂肪酸と、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラアミンからなる群から選択される少なくとも一つとから誘導されるアルキルイミダゾリンが挙げられる。長鎖脂肪酸としては、一又は複数の実施形態において、トール油脂肪酸が挙げられる。該態様におけるアルキルイミダゾリンとしては、一又は複数の実施形態において、トール油ヒドロキシエチルイミダゾリン等が挙げられる。
【0024】
本開示の廃液処理は、石油化学プロセスのアルカリ性廃液にイミダゾリン環を有する化合物を存在させることを含む。石油化学プロセスのアルカリ性廃液にイミダゾリン環を有する化合物を存在させることとしては、一又は複数の実施形態において、石油化学プロセスのアルカリ性廃液にイミダゾリン環を有する化合物を添加すること等が挙げられる。イミダゾリン環を有する化合物の添加は、一又は複数の実施形態において、エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液と硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液とを混合する前であってもよいし、これらの混合と同時であってもよいし、これらを混合した後であってもよい。
【0025】
本開示の廃液処理は、一又は複数の実施形態において、下記(1)から(3)の少なくとも一つを含む。
(1) エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液と、硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液とを少なくとも含む混合廃液に、イミダゾリン環を有する化合物を添加すること。
(2) エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液に、イミダゾリン環を有する化合物を添加すること。
(3) 硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液に、イミダゾリン環を有する化合物を添加すること。
【0026】
本開示の廃液処理は、アルカリ性廃液の処理における析出物の発生をより効率的に抑制し、汚れの発生をより効率的に抑制する点から、一又は複数の実施形態において、エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液と、硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液とを混合する前に、これらのアルカリ性廃液の少なくとも一方にイミダゾリン環を有する化合物を添加することを含むことが好ましく、エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液と、硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液とを混合する前に、エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液にイミダゾリン環を有する化合物を添加することを含むことがより好ましい。これにより、エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液と、硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液との混合により起因して発生しうる析出物をより効率的に抑制でき、その析出物に起因する汚れの発生をより効率的に抑制できる。
【0027】
また、一又は複数の実施形態において、エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液と、硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液とが混合されるタンクに、イミダゾリン環を有する化合物を添加することを含んでもよく、また、該タンクに予めイミダゾリン環を有する化合物が添加されていてもよい。
【0028】
イミダゾリン環を有する化合物の添加量は、一又は複数の実施形態において、5,000ppm~50,000ppmである。析出物の発生より効率的に抑制する点から、好ましくは6,000ppm以上、7,000ppm以上、8,000ppm以上、9,000ppm以上、9,500ppm以上又は10,000ppm以上である。同様の観点から、20,000ppm以下、15,000ppm以下、14,000ppm以下、13,000ppm以下、12,000ppm以下又は11,000ppm以下である。
【0029】
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、イミダゾリン環を有する化合物をアルカリ性廃液に5,000ppm~50,000ppmで存在させることを含む。析出物の発生より効率的に抑制する点から、6,000ppm以上、7,000ppm以上、8,000ppm以上、9,000ppm以上、9,500ppm以上又は10,000ppm以上のイミダゾリン環を有する化合物を、アルカリ性廃液に存在させることを含む。同様の観点から、20,000ppm以下、15,000ppm以下、14,000ppm以下、13,000ppm以下、12,000ppm以下又は11,000ppm以下のイミダゾリン環を有する化合物を、アルカリ性廃液に存在させることを含む。
【0030】
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、効果を妨げない範囲でその他の薬剤を併用してもよい。併用する薬剤としては、特に限定されない一又は複数の実施形態において、消泡剤等が挙げられる。
【0031】
[汚れの抑制方法]
本開示の方法によれば、一又は複数の実施形態において、石油化学プロセスのアルカリ性廃液の処理において生じうる汚れの原因となる析出物の発生抑制や析出した析出物を溶解し、汚れの発生を抑制及び/又は防止することができる。よって、本開示は、その他の態様において、石油化学プロセスのアルカリ性廃液の処理における汚れを抑制する方法であって、該廃液にイミダゾリン環を有する化合物を存在させることを含む方法に関する。
【0032】
本開示における「汚れの抑制」としては、一又は複数の実施形態において、汚れの原因となり得る析出物の発生を抑制又は低減すること、及び発生した析出物を溶解すること等が挙げられる。
【0033】
本開示の汚れの抑制方法におけるイミダゾリン環を有する化合物、その添加量及び添加箇所等は、本開示の方法と同様に行うことができる。
【0034】
[廃液処理剤]
本開示は、その他の態様において、本開示の方法に用いられる廃液処理剤であって、イミダゾリン環を有する化合物を含有する廃液処理剤に関する。
【0035】
本開示の廃液処理剤におけるイミダゾリン環を有する化合物の配合量は、一又は複数の実施形態において、10質量%~100質量%である。
【0036】
本開示の廃液処理剤は、一又は複数の実施形態において、イミダゾリン環を有する化合物と分散媒(例えば、水等)と混合して製剤化することにより製造することができる。必要に応じて、上記のその他の薬剤を混合してもよい。
【0037】
本開示はさらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
[1] 石油化学プロセスのアルカリ性廃液の処理において、該廃液にイミダゾリン環を有する化合物を存在させることを含む、方法。
[2] 前記アルカリ性廃液は、エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液と、硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液とを少なくとも含む混合廃液であり、
前記硫酸による処理は、硫酸による芳香族炭化水素化合物の重合処理、硫酸触媒によるエステル化処理、硫酸法によるアルキル化処理、及びオレフィンの硫酸抽出からなる群から選択される、[1]に記載の方法。
[3] 前記エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液は、水硫化ナトリウムを含むアルカリ性廃液を含む、[2]に記載の方法。
[4] 前記廃液にイミダゾリン環を有する化合物を存在させることは、下記(1)から(3)の少なくとも一つを含む、[2]又は[3]に記載の方法。
(1) 前記混合廃液に前記イミダゾリン環を有する化合物を添加すること。
(2) 前記エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液に前記イミダゾリン環を有する化合物を添加すること。
(3) 前記硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液に前記イミダゾリン環を有する化合物を添加すること。
[5] 石油化学プロセスのアルカリ性廃液の処理における汚れを抑制する方法であって、該廃液にイミダゾリン環を有する化合物を存在させることを含む、方法。
[6] 前記アルカリ性廃液が、エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液と、硫酸による処理を含むプロセスのアルカリ性廃液とを少なくとも含む混合廃液であり、
前記硫酸による処理は、硫酸による芳香族炭化水素化合物の重合処理、硫酸触媒によるエステル化処理、硫酸法によるアルキル化処理、及びオレフィンの硫酸抽出からなる群から選択される、[5]に記載の方法。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の方法に用いられる廃液処理剤であって、イミダゾリン環を有する化合物を含有する、廃液処理剤。
【0038】
以下、実施例及び比較例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例0039】
下記の実施例及び比較例では以下の薬剤を使用した。
[薬剤]
アルキルイミダゾリン:トール油ヒドロキシエチルイミダゾリン(花王株式会社製、製品名:KAOAMIN TO65)
モノエタノールアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製、製品名:2-アミノエタノール)
アンモニア水
ジエチルヒドロキシアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製、製品名:N,N-ジエチルヒドロキシルアミン)
【0040】
[実施例]
下記手順で、アルカリ廃液処理剤のラボテストを行った。
(1)ブランクサンプル
1. 10ml遠沈管に、硫酸を用いたイソブチレンの分離精製で排出された酸性廃液を中和することにより排出されたアルカリ性廃液サンプル(pH10.0)を3ml入れ、そこにエチレン製造プロセスから排出される水硫化ソーダを含むアルカリ性廃液サンプルを3ml加えた。
2. ポイントミキサーで10秒間撹拌した。
3. 前記エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液サンプル(pH10.5)をさらに4ml加え、5回上下反転させて混合した。
4. 1時間静置後、析出量を測定した。
上記pHは、pHメータ(HORIBA製)を用いて測定した廃液サンプルの25℃における値であって、pHメータの電極を測定対象溶液に浸漬して3分後の値である。
【0041】
(2)薬剤サンプル
1. 10ml遠沈管に下記表1に示す薬剤を最終濃度が1%(10,000ppm)となるように加え、硫酸を用いたイソブチレンの分離精製で排出された酸性廃液を中和することにより排出されたアルカリ性廃液サンプル(pH10.0)を3ml加えた。
2. ポイントミキサーで10秒間撹拌した。
3. エチレン製造プロセスから排出される水硫化ソーダを含むアルカリ性廃液サンプル(pH10.5)を3ml加え、再度ポイントミキサーで10秒間撹拌した。
4. 前記エチレン製造プロセスのアルカリ性廃液サンプルをさらに4ml加え、5回上下反転させて混合した。
5. 1時間静置後、析出量を確認し、ブランクに対する抑制率を算出した。その結果を下記表1に示す。
【0042】
[析出量の測定方法]
析出量を遠沈管の目盛りで目視により測定した。
[抑制率の算出方法]
下記式より、抑制率を算出した。
抑制率(%)=100×(1-(薬剤添加時の析出量)÷(ブランクの析出量))
【0043】
【0044】
表1に示すとおり、イミダゾリン環を有する化合物であるアルキルイミダゾリンを添加することにより、アルカリ廃液における析出物の発生を抑制することができた。