(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143982
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】脈波センサ
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
A61B5/02 310M
A61B5/02 310P
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124907
(22)【出願日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】63/493,105
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】原田 高志
(72)【発明者】
【氏名】岡 博之
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA09
4C017AB02
4C017AC03
4C017EE01
4C017FF15
(57)【要約】
【課題】生体信号の検出感度の安定性を向上させることが可能な脈波センサを実現する。
【解決手段】本脈波センサは、測定対象の身体に当接させて使用する脈波センサであって、測定対象側となる第1面、及び前記第1面とは反対側に位置する第2面を備えたガラス製の起歪体と、前記第2面に配置され、前記起歪体のひずみ及び/又は前記起歪体にかかる圧力を検出する検出素子と、を有し、前記検出素子の検出値に基づいて脈波を検出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の身体に当接させて使用する脈波センサであって、
測定対象側となる第1面、及び前記第1面とは反対側に位置する第2面を備えたガラス製の起歪体と、
前記第2面に配置され、前記起歪体のひずみ及び/又は前記起歪体にかかる圧力を検出する検出素子と、を有し、
前記検出素子の検出値に基づいて脈波を検出する、脈波センサ。
【請求項2】
前記起歪体の第1面から突起する負荷部が設けられている、請求項1に記載の脈波センサ。
【請求項3】
前記起歪体は、破壊強度が静圧で20Nより大きい、請求項1又は2に記載の脈波センサ。
【請求項4】
前記起歪体は、化学強化ガラス製である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の脈波センサ。
【請求項5】
前記起歪体の第1面にカバー部材が装着又は成形された、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の脈波センサ。
【請求項6】
前記カバー部材の測定対象側となる面は、前記起歪体の第1面を基準として、前記起歪体の第1面の中央部上が最も高く、前記起歪体の第1面の周辺部に行くほど低くなる曲面である、請求項5に記載の脈波センサ。
【請求項7】
前記カバー部材は、前記起歪体の第1面の側に開口する凹部を有し、前記凹部と前記起歪体の第1面により間隙が形成されている、請求項5又は6に記載の脈波センサ。
【請求項8】
前記カバー部材は、前記起歪体の第1面と対向する面に、前記起歪体の第1面の側に前記凹部よりも突起する凸部を有する、請求項7に記載の脈波センサ。
【請求項9】
前記カバー部材は、前記起歪体の第1面と対向する面の少なくとも一部に、前記凸部として前記第1面の側に湾曲した曲面を有している、請求項8に記載の脈波センサ。
【請求項10】
前記検出素子は、複数のひずみゲージであり、
複数の前記ひずみゲージの抵抗体の抵抗値の変化に基づいて脈波を検出する、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の脈波センサ。
【請求項11】
複数の前記ひずみゲージは、前記起歪体の圧縮ひずみを検出する一対のひずみゲージと、前記起歪体の引張ひずみを検出する他の一対のひずみゲージと、を含み、
一対の前記ひずみゲージ及び他の一対の前記ひずみゲージは、1つのブリッジ回路の各辺を構成するように接続され、
前記脈波を示す信号は、前記ブリッジ回路により生成される、請求項10に記載の脈波センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓が血液を送り出すことに伴い発生する脈波を検出する脈波センサが知られている。一例として、外力の作用により撓み可能に支持されている起歪体と、その起歪体のひずみ、又は起歪体にかかる圧力を検知する検出素子とが設けられた脈波センサが挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、起歪体とひずみゲージを備えた脈波センサが開示されている。この脈波センサの場合、起歪体の裏面に、起歪体のひずみを検出するためのひずみゲージが設けられている。そして、起歪体の表面が、測定対象者の肌に当てられる。これにより、脈波による微弱な圧力を受けた起歪体のひずみを、ひずみゲージで検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したような、起歪体のひずみを検出する脈波センサにおいては、検出素子の出力値(すなわち、生体信号)から脈波を得る上で、できる限り安定した検出感度を維持することが重要である。
【0006】
本開示は、生体信号の検出感度の安定性を向上させることが可能な脈波センサの実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態に係る脈波センサは、測定対象の身体に当接させて使用する脈波センサであって、測定対象側となる第1面、及び前記第1面とは反対側に位置する第2面を備えたガラス製の起歪体と、前記第2面に配置され、前記起歪体のひずみ及び/又は前記起歪体にかかる圧力を検出する検出素子と、を有し、前記検出素子の検出値に基づいて脈波を検出する。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、生体信号の検出感度の安定性を向上させることが可能な脈波センサを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る脈波センサを例示する斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る脈波センサを例示する断面図である。
【
図4】第1実施形態の変形例1に係る脈波センサを例示する断面図である。
【
図5】第1実施形態の変形例1に係る脈波センサの起歪体及びカバー部材を例示する斜視図である。
【
図6】第1実施形態の変形例2に係る脈波センサを例示する断面図である。
【
図7】第1実施形態の変形例3に係る脈波センサを例示する断面図である。
【
図8】第1実施形態の変形例4に係る脈波センサを例示する断面図である。
【
図9】規格化平均脈波及び規格化平均加速度脈波の計測結果を示すグラフである。
【
図10】規格化平均脈波の計測結果を示すグラフである。
【
図11】カバー部材を装着していない脈波センサに荷重をかけた場合のひずみ量を示す図である。
【
図12】カバー部材を装着している脈波センサに荷重をかけた場合のひずみ量を示す図である。
【
図13】脈波センサを測定対象に斜めに当てた様子を示す図である。
【
図14】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図である。
【
図15】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)である。
【
図16】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0011】
本開示に係る脈波センサは、測定対象側となる第1面、及び第1面とは反対側に位置する第2面を備えたガラス製の起歪体と、第2面に配置され、起歪体のひずみ及び/又は圧力を検出する検出素子と、を有し、検出素子の検出値に基づいて脈波を検出する。本開示に係る脈波センサは、さらに起歪体の第1面にカバー部材が装着又は形成されていてもよい。検出素子としては、例えば、ひずみゲージや圧電素子を用いることができる。
【0012】
〈第1実施形態〉
第1実施形態では、本開示に係る脈波センサの一例として脈波センサ1について説明する。
図1は、第1実施形態に係る脈波センサを例示する斜視図である。
図2は、第1実施形態に係る脈波センサを例示する断面図であり、
図1に示すひずみゲージ100
1及び100
2の中心を通る脈波センサ1の縦断面を示している。なお、
図1では、カバー部材50はカット断面を図示している。また、
図2では、測定対象(300)となる被検者の身体とその内部の動脈310を模式的に示している。
【0013】
図1及び
図2を参照すると、脈波センサ1は、筐体10と、起歪体20と、カバー部材50と、複数のひずみゲージ(100
1、100
2、100
3、100
4)とを有している。脈波センサ1において、カバー部材50は、必須の構成要素ではなく、必要に応じて設けることができる。なお、特に区別する必要がない場合は、各ひずみゲージをひずみゲージ100と総称する場合がある。
【0014】
筐体10は、起歪体20を保持する部分である。筐体10は、例えば中空円柱状であって、下面側が塞がれ上面側が開口されている。筐体10は、例えば、金属や樹脂等から形成することができる。筐体10の上面側の開口を塞ぐように、略円板状の起歪体20が接着剤等により固定されている。
【0015】
起歪体20は、測定対象300の動脈310上に直接又は間接的に接する部分である。起歪体20は平板状である。起歪体20は、測定対象側となる第1面20m、及び第1面20mとは反対側に位置する第2面20nを備えている。起歪体20は、基部21と、1つの負荷部22とを有している。起歪体20は、複数の負荷部22を有する構成としてもよい。また、起歪体20は、負荷部22を設けない構成としてもよい。
【0016】
なお、
図1~
図13の説明では、便宜上、
図2のように脈波センサ1を垂直に測定対象に当てたときに、カバー部材50又は起歪体20の測定対象に当たる側を「上側」と称し、上側と逆の側を「下側」と称する。又、各部位の上側に位置する面を「上面」と称し、各部位の下側に位置する面を「下面」と称する。なお、脈波センサ1は前述のように垂直にだけではなく、任意の角度で測定対象に当てることが可能である。又、平面視とは、起歪体20の上面(すなわち、第1面20m)に対する上側から下側への法線と同じ方向で対象物を視ることを指すものとする。そして、平面形状とは、前記法線方向で対象物を視たときの、対象物の形状を指すものとする。
【0017】
起歪体20において、基部21は、例えば、平面視で円形状である。基部21の直径は、例えば、10mm以上15mm以下である。
【0018】
負荷部22は、基部21に設けられている。負荷部22は、例えば、平面視で基部21よりも小径の円形状である。本実施形態では、負荷部22は円柱状であるが、例えば基部21から突起する曲面を設けてこれを負荷部22としてもよい。負荷部22は、例えば、平面視で、その中心が基部21の中心と一致するように配置される。負荷部22は、基部21の上面(すなわち、起歪体20の第1面20m)から突起している。負荷部22を設けると、脈波センサ1を測定対象300に当てた場合に、脈波センサ1に伝播する圧力を負荷部22に集中させることができる。基部21の上面を基準とする負荷部22の突起量は、例えば、0.1mm程度である。基部21は可撓性を有しており、直接又は間接的に負荷が加わると弾性変形する。
【0019】
起歪体20は、ガラス製である。起歪体20に用いるガラスは、未強化のガラスであってもよく、強化ガラスであってもよい。また、強化ガラスは、化学強化ガラスでも物理強化ガラスでもよい。板厚が薄いガラスでも強化できる点では、化学強化ガラスの方が好ましい。化学強化を行ったガラスは、表面の圧縮応力を高めることができるため、未強化のガラスより破壊強度が高くなる。
【0020】
負荷部22を除く起歪体20の厚さtは一定であってよい。厚さtは、従来の金属製の起歪体の厚さ以上であることが望ましい。厚さtは、例えば、0.03mm以上0.3mm以下とすることができる。厚さtが0.03mm以上であれば、必要な破壊強度が得られる。また、厚さtが0.3mm以下であれば、外部からの荷重に対して容易に変形することができる。なお、負荷部22は、例えば、厚さが一定のガラスの片面側をエッチングすることにより形成できる。
【0021】
ガラスのヤング率は、例えば、60GPa以上90GPa以下程度である。これに対して金属製の起歪体に好適に用いられるステンレス鋼(SUS)のヤング率は210GPa程度である。このように、ガラスは、ヤング率が比較的低い材質である。そのため、同形状であれば、ガラス製の起歪体は金属製の起歪体よりも変形し易い(すなわち、ひずみ易い)。したがって、ガラス製の起歪体で金属製の起歪体と同形状の起歪体を作製した場合、脈波によるひずみをより高感度で検出することができる。また、ガラスで金属製の起歪体と同程度の感度の起歪体を作製すればよい場合は、起歪体の厚みを厚くしたり、負荷部を小さくしたり(又は負荷部を無くしたり)することができる。すなわち、起歪体の設計自由度が増す。
【0022】
また、ガラスは塑性変形しづらい材質である。そのため、ガラス製の起歪体20を採用する脈波センサ1では、従来の起歪体(例えば、金属製の起歪体)を採用した場合と比べて、起歪体20の経年的な塑性変形及び突発的な塑性変形を抑えることができる。更に言えば、ガラスは前述のように強化ガラスにすることができるため、強化の種類によっては金属よりも破壊強度を上げることができる。したがって、強化ガラス製の起歪体は経年的及び突発的な塑性変形を更に抑えることができる。
【0023】
したがって、ガラス製の起歪体20を採用する脈波センサ1によれば、生体信号の検出感度の安定性を向上させることができる。ゆえに、上記生体信号に基づき特定されるヘルス及び/又は医療関連の各種パラメータ(例えば、脈波)についても、より誤差の少ない、正確な値を得ることができる。なお、生体信号とは、すなわち、脈波及び/又は脈波を特定する上での中間パラメータである。
【0024】
また、脈波センサ1は、ヤング率が比較的低いガラス製の起歪体20を採用することにより、従来の起歪体(例えば、金属製の起歪体)以上の感度で、起歪体20のひずみ(又は圧力)を検出することができる。すなわち、ガラス製の起歪体20を採用することにより、高感度で生体信号を検出可能な脈波センサ1を実現することができる。
【0025】
起歪体20は、破壊強度が静圧で20Nより大きくなるように大きさ、形状、及び厚さが定められてもよい。このような破壊強度であれば、起歪体20の経年的な塑性変形及び突発的な塑性変形をさらに少なくすることができる。また、起歪体20はスリットの無い構造としてもよいし、スリットを設けスリットにより分断された梁部にひずみゲージ100を配置する構造としてもよい。起歪体20にスリットを設けた場合、起歪体20のひずみ量を大きくすることができる。また、起歪体20にスリットを設けなかった場合、起歪体20の破壊強度を高くすることができる。
【0026】
脈波センサ1の出力信号は、複数のひずみゲージの出力に基づいて生成される。図示の例では、脈波センサ1は、起歪体20の第2面20nにおいて、平面視で、Y方向において負荷部22を挟んで対向して配置された一対のひずみゲージ1001及び1002を有している。また、平面視で、X方向において負荷部22を挟んで対向して配置された他の一対のひずみゲージ1003及び1004を有している。
【0027】
ひずみゲージ100は、起歪体20のひずみを検出する検出素子である。ひずみゲージ1001及び1002は、負荷部22の押圧に伴って生じる起歪体20の圧縮ひずみを検出する。また、ひずみゲージ1003及び1004は、負荷部22の押圧に伴って生じる起歪体20の引張ひずみを検出する。圧縮ひずみを検出するひずみゲージ1001とひずみゲージ1002との間隔は、引張ひずみを検出するひずみゲージ1003とひずみゲージ1004との間隔よりも広い。各ひずみゲージ100をこのように配置することにより、圧縮ひずみと引張ひずみを有効に検出してフルブリッジを構成するブリッジ回路により大きな出力を得ることができる。
【0028】
ひずみゲージ100
1~100
4は、1つのブリッジ回路の各辺を構成するように接続され、脈波センサ1の出力信号は、ブリッジ回路により生成することができる。
図3は、ブリッジ回路の一例である。
図3に示すブリッジ回路では、ひずみゲージ100
1は、左上の一辺を構成している。また、ひずみゲージ100
2は、右下の一辺を構成している。また、ひずみゲージ100
3は、右上の一辺を構成している。また、ひずみゲージ100
4は、左下の一辺を構成している。
【0029】
図3において、左上の辺と左下の辺の接続部と、右上の辺と右下の辺の接続部との間には、直流電圧Eが供給される。これにより、左上の辺と右上の辺の接続部と、左下の辺と右下の辺の接続部との間から、アナログ電圧の出力信号S1を得ることができる。ブリッジ回路は、例えば、筐体10の内側面に貼り付けた配線基板に設けることができる。
【0030】
脈波センサ1において、負荷部22が測定対象の橈骨動脈に当たると、測定対象の脈波に応じて負荷部22に負荷が加わって起歪体20が弾性変形し、ひずみゲージ100の抵抗体の抵抗値が変化する。脈波センサ1は、起歪体20の変形に伴うひずみゲージ100の抵抗体の抵抗値の変化に基づいて脈波を検出できる。脈波は、ブリッジ回路から、周期的な電圧の変化として出力信号S1として検出される。
【0031】
なお、以上では、脈波センサ1が4つのひずみゲージ(ひずみゲージ1001~1004)を有し、4つのひずみゲージをフルブリッジ接続することにより出力信号S1を生成する例を示した。しかし、脈波センサ1がひずみゲージ1001~1004と同様の構成である2つのひずみゲージを有し、ブリッジ回路は前記2つのひずみゲージをハーフブリッジ接続することにより出力信号S1を生成する構成であってもよい。なお、ひずみゲージの構造の具体例については、後述する。
【0032】
脈波センサ1は、ブリッジ回路等と入出力を行うケーブル、シールドケーブル、フレキシブル基板等を有していてもよい。脈波センサ1は、ケーブル等を用いずに、無線等の方法で外部の回路又は装置と通信する形態であってもよい。
【0033】
カバー部材50は、起歪体20の第1面20mを被覆するように起歪体20に装着されている。カバー部材50の形状は特に限定されないが、例えば、起歪体20の第1面20mに対して垂直以外の角度で測定対象の肌が押し当てられた場合に、負荷部22に圧力が比較的均等にかかるような形状に設計されることが好ましい。さらに言えば、カバー部材50に対する測定対象の当たり方(すなわち、カバー部材50を測定対象300に押し当てる押圧力の大きさ、カバー部材50の外側のどの部分が測定対象300に接しているか、及び、カバー部材50を測定対象300に押し当てるときの角度)が変化しても、測定対象300から伝播する圧力が、カバー部材50に比較的均等にかかるように設計されることが望ましい。
【0034】
前述の「圧力が比較的均等にかかるような形状」の好ましい一例として、
図1及び
図2に示すような半球状のカバー部材50が挙げられる。このように、カバー部材50の上面は、起歪体20の第1面20mを基準として、起歪体20の第1面20mの中央部上が最も高く、起歪体20の第1面20mの周辺部に行くほど低くなる曲面とすることができる。
【0035】
カバー部材50の形状の他の例としては、例えば、(A)回転楕円体(半楕円体)、(B)回転スーパー楕円体(回転オーバル楕円体)、(C)卵形体、及び(D)回転放物面を有する形状、などに代表されるような回転円錐曲線を含む面を有しているような形状が挙げられる。例えば、カバー部材50の上面がこのような回転円錐曲線を含む面であってもよい。
【0036】
なお、カバー部材50は、上記(A)~(D)に限定されず、回転円錐曲線に近似されたスプライン曲線を含む面(すなわち、スプライン曲面)を有する形状であってもよいし、回転円錐曲線を含む面を直線と曲線で近似した面を有する形状であってもよい。より広義に定義するならば、カバー部材50は、カバー部材50の上面(すなわち、測定対象の肌に当たるカバー部材50の表面部分)の任意点における垂直線が、起歪体20の第1面20mの中心を通る第1面20mの垂直線と交わるような形状であってよい。
【0037】
このように、カバー部材の構造は、(i)表面(測定対象に当たる面)の形状と、裏面(起歪体に装着される面)及び間隙の形状とから決まる力学的な関係と、(ii)カバー部材の材質から定まる物性(例えば、硬度及び弾性率)とを考慮して定められる。
【0038】
カバー部材50は、例えば、シリコーン製である。脈波センサ1における、カバー部材50の装着又は形成方法は、特に限定されない。例えば、カバー部材50は脈波センサ1の他の部材とは別体として作製され、筐体10にはめ込まれてもよい。すなわち、カバー部材50は起歪体20を覆うキャップのような部材であってもよい。また例えば、カバー部材50は、起歪体20の第1面20mに対し、シリコーンをインサート成形で接合することで形成されてもよい。また、カバー部材50として、第1面20mに、フィルム状のシリコーンを接着してもよい。なお、カバー部材50の材質はシリコーンに限定されない。例えば、カバー部材50は、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂、ならびにポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂であってもよい。この他の材質についても、前述の通りカバー部材50としての機能を達成できる形状及び物性の組合せになっているならば採用可能である。
【0039】
このように、起歪体20の第1面20mにカバー部材50を装着することで、万一、起歪体20が割れてしまったときでも、破片の飛散を防止できる。また、カバー部材50を装着することにより、カバー部材50にかかる圧力を起歪体20の負荷部22に集中させることができる。そのため、圧力の測定可能範囲を拡大することができるとともに、検出精度を向上させることができる。なお、ここで言う「測定可能範囲の拡大」とは、脈波センサを測定対象の動脈上の肌(例えば、手首)に当てたとき、脈波が適切に測定可能な範囲が拡がることを意味する。
【0040】
図4は、第1実施形態の変形例1に係る脈波センサを例示する断面図である。
図5は、第1実施形態の変形例1に係る脈波センサの起歪体及びカバー部材を例示する斜視図である。
図4及び
図5に示す脈波センサ1Aは、カバー部材50Aを装着している。カバー部材50Aは、上面が測定対象に接する外側である。また、カバー部材50Aは起歪体20の第1面20mの側(内側)に開口する凹部51を有している。そして、凹部51と起歪体20の第1面20mにより間隙90(クリアランス)が形成されている。このように、カバー部材50Aと起歪体20との間に間隙90を設けることが好ましい。
【0041】
カバー部材50Aは、平面視で中央部に、起歪体20の第1面20mの側に凹部51よりも突起する凸部52を有してもよい。凸部52は、負荷部22と対向するように設けられてもよい。すなわち、凸部52と負荷部22は、平面視で重なる位置にあってもよい。凹部51は、例えば、平面視で凸部52を囲むようにリング状に形成される。すなわち、間隙90は、例えば、平面視で凸部52を囲むようにリング状に形成される。なお、凸部52は、
図4~
図5に示すように平面から成る突起であってもよいし、曲面から成る突起であってもよい。
【0042】
カバー部材50Aの凸部52は、カバー部材50Aに圧力がかかっていないときに、起歪体20の負荷部22(負荷部22を設けない場合は、起歪体20の基部21)と当接するように設計されてもよい。この場合、凸部52と負荷部22(又は基部21)の接している面又は点は接着されていてもよいし、接着されていなくてもよい。
【0043】
あるいは、カバー部材50Aの凸部52は、カバー部材50Aに圧力がかかっていないときに、凸部52と負荷部22(負荷部22を設けない場合は、基部21)との間に隙間を有するように設計されてもよい。すなわち、凸部52と起歪体20(又は負荷部22)とは、圧力がかかっていない状態において離隔していてもよい。隙間の有無に関わらず、凸部52と負荷部22(又は基部21)とは、カバー部材50Aを測定対象の身体に当てたときの圧力によって、凸部52が負荷部22(又は基部21)と接し圧力を伝達するように設計される。
【0044】
図6は、第1実施形態の変形例2に係る脈波センサを例示する断面図である。
図6に示す脈波センサ1Bは、カバー部材50Bを装着している。
図5に示す脈波センサ1Aでは間隙90を形成する凹部51は傾斜した曲面を含まないが、
図6に示す脈波センサ1Bでは間隙90を形成する凹部51は傾斜した曲面を含んでいる。脈波センサ1Bにおいて、凹部51の傾斜した曲面は連続した曲面であるが、連続した曲面でなくてもよい。例えば、平面が断片的に繋がったような、曲面に近似された形状であってもよい。
【0045】
脈波センサ1A及び1Bのようなカバー部材が凸部52を有する設計とすることにより、測定対象へのカバー部材の当て方が不適切である場合でも、カバー部材にかかる圧力を凸部52に集中させることができる。ここで言う、「測定対象へのカバー部材の当て方が不適切である場合」とは、例えば、測定対象の肌(例えば、手首)にカバー部材を当てるとき、起歪体20の第1面20mに対して垂直な方向で当てるのではなく、多少の角度がついた状態で当てたり、動脈の真上ではなく少しずれた位置に当てたりした場合を示す。このような場合でも、脈波センサ1A及び1Bによれば、圧力を凸部52に集中させることができる。そのため、脈波センサ1A及び1Bによれば、圧力の測定可能範囲を拡大することができる。また、脈波センサ1A及び1Bによれば、前述のようにカバー部材の測定対象への当て方が不適切である場合でも、適切に当てた場合と同様の圧力分布が得られるため、生体信号の検出精度を安定させることができる。
【0046】
なお、凸部52に圧力が最も集中するように設計してあるならば、間隙90自体の形状及び大きさは特に限定されない。
【0047】
図7は、第1実施形態の変形例3に係る脈波センサを例示する断面図である。
図7に示す脈波センサ1Cは、カバー部材50Cを装着している。本開示に係る脈波センサは、脈波センサ1Cのように、起歪体20に負荷部22を設けず、カバー部材50Cの凸部52が起歪体20の第1面20mに接している構成としてもよい。又は、本開示に係る脈波センサは、カバー部材50Cに圧力がかかったときに凸部52が起歪体20の第1面20mに接する構成としてもよい。いずれの場合でも、負荷部22を設けた場合と同様の効果が得られる。なお、脈波センサにおいて凸部52と起歪体20が接している場合は、その接している面又は点を接着しておいてもよい。
【0048】
図8は、第1実施形態の変形例4に係る脈波センサを例示する断面図である。
図8に示す脈波センサ1Dは、カバー部材50Dを装着している。カバー部材50Dは、起歪体20と対向する面において凸部52のような明確に突出した部位が存在しない点で、カバー部材50A等と異なる。なお、カバー部材50Dのその他の点については、カバー部材50A等と同様の構成であってよいし、カバー部材50A、50B、及び50Cと同様の改変を施してもよい。
【0049】
カバー部材50Dは、起歪体20と対向する側の面の少なくとも一部が、起歪体20の側に湾曲した曲面からなる。本変形例に係る脈波センサ1Dでは、カバー部材50Dのこの曲面全体が凸部としてはたらく。
図8の例では、カバー部材50Dは起歪体20と対向する側の面の中央部が起歪体20に向かってなだらかに傾斜した曲面である。このような設計とすることで、カバー部材50Dにかかる圧力を、カバー部材50Dと起歪体20が接する部分(例えば、起歪体20の負荷部22)に集中させることができる。したがって、カバー部材50Dにより、脈波センサ1Dは起歪体20の特定の範囲に応力を集中させることができる。
【0050】
カバー部材50と同様に、カバー部材50A、50B、50C、及び50Dの形状も、半球状には限定されない。例えば、カバー部材50A、50B、50C、及び50Dは、カバー部材50の説明で述べたように、回転円錐曲線を含む面を有する形状であってもよいし、スプライン曲面を有する形状であってもよいし、回転円錐曲線を含む面を直線と曲線で近似した面を有する形状であってもよい。
【0051】
次に、本開示に係る脈波センサの奏する効果について、
図9~
図12に基づいて説明する。しかしながら、本開示に係る脈波センサは、
図9~
図12において例示する構成には限定されない。
【0052】
図9は、脈波センサにカバー部材を装着した場合と、装着していない場合との、規格化平均脈波及び規格化平均加速度脈波の計測結果を示すグラフである。なお、脈波センサの起歪体には、金属製の起歪体を用いている。脈波センサは、測定回ごとに押圧力が異なる場合があるので、出力のレベル電圧が変化してしまう。そのため、出力の最大値と最小値に基づき規格化(ノーマライズ)を行っている。グラフの縦軸は、生体信号波を規格化したものである。グラフの横軸は、脈波の最小値(すなわち、血管の収縮時)からの時間を示している。
【0053】
図9の(a)は規格化平均脈波、
図9の(b)は規格化平均加速度脈波のグラフを示している。これら2つのグラフにおいて、「カバー部材なし」の曲線は、脈波センサにカバー部材を装着していない状態での測定結果を示しており、「カバー部材あり」の曲線は、「カバー部材なし」と同じ脈波センサに、
図2に示すようなシリコーン製のカバー部材を装着した状態での測定結果を示している。なお、測定は脈波センサを適切な位置及び角度で測定対象に当てた状態で行っている。「脈波センサを適切な位置及び角度で測定対象に当てる」とは、
図2のように、測定対象300の動脈310の直上の位置、かつ、測定対象300に対して略垂直な角度で脈波センサを当てることを意味する。
【0054】
図9の(a)及び(b)に示す通り、金属製の起歪体では、カバー部材の装着の有無に関わらず、平均脈波及び平均加速度脈波はほぼ同等の値を示している。つまり、カバー部材で金属製の起歪体を覆っても、カバー部材で覆わない場合と同様の脈波の測定精度が得られている。すなわち、カバー部材の存在によって測定精度が低下することは無いといえる。
【0055】
図10は、金属製の起歪体とガラス製の起歪体に種々の硬さのカバー部材を装着した場合の、規格化平均脈波の計測結果を示すグラフである。なお、測定は脈波センサを適切な位置及び角度で測定対象に当てた状態で行っている。
図10の(a)及び(b)の縦軸及び横軸は、
図9の(a)と同様、縦軸が規格化した生体信号波であり、横軸が脈波の最小値からの時間を示している。
図10の(a)のグラフは金属製の起歪体を用いた場合、
図10の(b)のグラフはガラス製の起歪体を用いた場合の測定結果を示している。また、これら2つのグラフにおける各線は、それぞれカバー部材の硬さをショアA20、40、及び70とした場合の測定結果を示している。なお、
図10の(a)および(b)では、
図6に示した形状を有するシリコーン製のカバー部材を用いている。また、カバー部材なしの場合の測定結果も併せて示している。
【0056】
図10に示す通り、金属製の起歪体の場合、カバー部材の装着の有無及びカバー部材の硬さに関わらず、ほぼ同じ測定結果が得られている。また、ガラス製の起歪体の場合も、カバー部材の装着の有無及びカバー部材の硬さに関わらず、ほぼ同じ測定結果が得られている。このことから、金属製の起歪体であっても、ガラス製の起歪体であっても、カバー部材の存在によって測定精度が低下することはないといえる。また、少なくともショアA20~70の間の硬さでは、カバー部材の硬さは測定精度にほぼ影響しないといえる。
【0057】
次に、カバー部材の有無による起歪体のひずみ量の分布の違いを、
図11及び
図12を用いて示す。なお、
図11および
図12は、それぞれ所定の構成を有する脈波センサに荷重をかけたときの起歪体の状態を数値シミュレーションした結果である。
【0058】
図11は、カバー部材を装着していない脈波センサに荷重をかけた場合のひずみ量を示す図である。なお、
図11の脈波センサは、脈波センサ1からカバー部材50を除いた構成と同様である。
図11の(a)に示す一連の図面は、負荷部周辺の荷重位置P1に所定値の荷重をかけた場合についての図面である。一方、
図11の(b)に示す一連の図面は、負荷部から径方向に少し離れた荷重位置P2において、荷重位置P1にかけた荷重と同じ大きさの荷重をかけた場合の図面である。
図11の(a)及び(b)はそれぞれ、断面図、俯瞰図、分布図、及びグラフの4図から成る。各図の横軸は共通であり、起歪体の中心からの距離を示している。換言すると、これらの4図は、起歪体の中心からの距離を揃えて、上下に並べられている。また、
図11の(a)の4図において荷重位置(P1)は共通である。また、
図11の(b)の4図において荷重位置(P2)は共通である。以下、
図11における各図の見方について説明する。
【0059】
図11の(a)及び(b)における「断面図」は、起歪体を、中心を通る直線で切った断面図である。なお、これらの図における白抜き矢印は、それぞれ起歪体に荷重をかけた位置(荷重位置P1又はP2)を示している。
図11の(a)及び(b)における「俯瞰図」は、平面視での起歪体の一部と、ひずみゲージの貼付け位置P3とを示している。なお、前述の通り、ひずみゲージは実際には起歪体の下面に貼り付けられている。
【0060】
図11の(a)及び(b)における「分布図」は、「俯瞰図」に示した起歪体の荷重位置P1又はP2に所定値の荷重をかけた場合の、起歪体のひずみ量をマッピングしたものである。なお、ここで言う「ひずみ量」とは、引張ひずみも圧縮ひずみも含んだ「相当ひずみ」の大きさである。ひずみ量はハッチングパターンで示し、凡例を付記した。
図11の(a)及び(b)における「グラフ」は、分布図で示したひずみ量を縦軸、起歪体の中心からの距離を横軸に示したグラフである。なお、分布図及びグラフにおいても、俯瞰図と同様に図中にひずみゲージの貼付け位置P3を枠囲みで示している。
【0061】
図12は、
図11と同様の脈波センサにカバー部材を装着して荷重をかけた場合のひずみ量を示す図である。
図12に示す例におけるカバー部材は、
図4に示したカバー部材50Aと同様の形状である。
図12の(a)と
図12の(b)との違い、並びに断面図、俯瞰図、分布図、及びグラフの読み方は、
図11の(a)及び(b)と同様である。ただし、
図12の(a)及び(b)における断面図ではカバー部材を模式的に示し、俯瞰図ではカバー部材の描画を省略している。また、
図11と
図12との間で、荷重位置P1は同じ位置である。同様に、
図11と
図12との間で、荷重位置P2は同じ位置である。更に、
図11と
図12との間で、ひずみゲージの貼付け位置P3は同じ位置である。
【0062】
図11の(a)及び(b)に示す分布図及びグラフを参照すると、起歪体の荷重位置P1に圧力をかけた場合は荷重位置P1の近傍にひずみが集中し(
図11の(a))、荷重位置P2に圧力をかけた場合は荷重位置P2の近傍にひずみが集中している(
図11の(b))。一方、
図12の(a)及び(b)に示す分布図及びグラフを参照すると、起歪体の荷重位置P1に圧力をかけた場合でも(
図12の(a))、荷重位置P2に圧力をかけた場合でも(
図12の(b))、ひずみ量は負荷部の周囲の部分が最も大きく、当該部分から同心円状にひずみ量が下がっていくような分布となっている。なお、起歪体の周縁部分(図中では中心から半径6.5mm以上離れた箇所)は筐体に固定されているため、ひずみ量が特に少なく、また固定されている部分の近傍はひずみ量がやや増加する。しかしながら、固定されている部分およびその近傍以外については、概ね中心から同心円状にひずみ量が下がっていくような分布であることは変わらない。
【0063】
このように、脈波センサにカバー部材を設けることで、脈波センサ(のカバー部材)を適切な位置及び角度で測定対象に当てられなかった場合でも、適切な位置及び角度で当てたときと同じように、負荷部(又は基部の中心)にひずみ量を集中させることができる。このように、脈波センサにカバー部材を設けることで、生体信号検出範囲が拡がっているといえる。
【0064】
したがって、脈波センサを測定対象の身体(例えば、手首)に当てたとき、例えば
図2のように垂直にではなく、
図13のように多少の角度がついた状態で斜めに肌に当てたとしても、動脈310からの圧力を、脈波が検出可能な精度で検出することができる。つまり、カバー部材を装着又は形成した脈波センサによれば、測定可能範囲を拡大することができる。換言すると、カバー部材を装着又は形成した脈波センサによれば、脈波センサの起歪体の部位による検出感度の差を平滑化することができるといえる。
【0065】
また、脈波センサにカバー部材を設けると、身体に当てる角度及び当てる部位が厳密でなくとも適切に脈波を測定することができるため、脈波センサの使用者にとっては、測定がより容易になるという効果がある。また、脈波センサを当てる位置を微調整することが少なくなるため、脈波センサを用いてより手早く脈波が測定可能となる。そのため、全体的に測定にかかる時間を短縮する効果も得られる。また、脈波測定の再現性及び安定性も向上する。
【0066】
[ひずみゲージ100]
次に、ひずみゲージ100について説明する。
図14は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図15は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)であり、
図14のA-A線に沿う断面を示している。
【0067】
図14及び
図15を参照すると、ひずみゲージ100は、基材110と、抵抗体130と、配線140と、電極150と、カバー層160とを有している。カバー層160は、必要に応じて設けることができる。なお、
図14及び
図15では、便宜上、カバー層160の外縁のみを破線で示している。まずは、ひずみゲージ100を構成する各部について詳細に説明する。
【0068】
なお、
図14~
図16を用いて行うひずみゲージの説明は、上面と下面の定義が他の図の場合とは異なる。具体的には、
図14~
図16では、便宜上、ひずみゲージ100において、基材110の抵抗体130が設けられている側を「上側」と称し、抵抗体130が設けられていない側を「下側」と称する。又、各部位の上側に位置する面を「上面」と称し、各部位の下側に位置する面を「下面」と称する。ただし、ひずみゲージ100は天地逆の状態で用いることもできる。又、ひずみゲージ100は任意の角度で配置することもできる。又、
図14~
図16の説明における平面視とは、基材110の上面110aに対する上側から下側への法線方向で対象物を視ることを指すものとする。そして、
図14~
図16の説明における平面形状とは、前記法線方向で対象物を視たときの、対象物の形状を指すものとする。ひずみゲージ100は、基材110が起歪体20の第2面20n側を向くように、起歪体20の第2面20nに貼り付けられる。
【0069】
基材110は、抵抗体130等を形成するためのベース層となる部材である。基材110は可撓性を有する。基材110の厚さは特に限定されず、ひずみゲージ100の使用目的等に応じて適宜決定されてよい。例えば、基材110の厚さは5μm~500μm程度であってよい。なお、起歪体20の第2面20nから受感部へのひずみの伝達性、及び、環境変化に対する寸法安定性の観点から考えると、基材110の厚さは5μm~200μmの範囲内であることが好ましい。また、絶縁性の観点から考えると、基材110の厚さは10μm以上であることが好ましい。
【0070】
基材110は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成される。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、かつ可撓性を有する部材を指す。
【0071】
基材110が絶縁樹脂フィルムから形成される場合、当該絶縁樹脂フィルムには、フィラーや不純物等が含まれていてもよい。例えば、基材110は、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成されてもよい。
【0072】
基材110の樹脂以外の材料としては、例えば、SiO2、ZrO2(YSZも含む)、Si、Si2N3、Al2O3(サファイヤも含む)、ZnO、ペロブスカイト系セラミックス(CaTiO3、BaTiO3)等の結晶性材料が挙げられる。又、前述の結晶性材料以外に非晶質のガラス等を基材110の材料としてもよい。又、基材110の材料として、アルミニウム、アルミニウム合金(ジュラルミン)、チタン等の金属を用いてもよい。金属製の基材110を用いる場合、上面110aを被覆するように絶縁膜が設けられる。
【0073】
抵抗体130は、基材110の上側に所定のパターンで形成された薄膜である。ひずみゲージ100において、抵抗体130は、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体130は、基材110の上面110aに直接形成されてもよいし、基材110の上面110aに他の層を介して形成されてもよい。なお、
図14では、便宜上、抵抗体130を密度の高い梨地模様で示している。
【0074】
抵抗体130は、複数の細長状部が長手方向を同一方向(
図14の例ではA-A線の方向)に向けて所定間隔で配置され、隣接する細長状部の端部が互い違いに連結されて、全体としてジグザグに折り返す構造である。複数の細長状部の長手方向がグリッド方向となり、グリッド方向と垂直な方向がグリッド幅方向(
図14の例ではA-A線と垂直な方向)となる。
【0075】
グリッド幅方向の最も外側に位置する2つの細長状部の長手方向の一端部は、グリッド幅方向に屈曲し、抵抗体130のグリッド幅方向の各々の終端130e1及び130e2を形成する。抵抗体130のグリッド幅方向の各々の終端130e1及び130e2は、配線140を介して、電極150と電気的に接続されている。言い換えれば、配線140は、抵抗体130のグリッド幅方向の各々の終端130e1及び130e2と各々の電極150とを電気的に接続している。
【0076】
抵抗体130は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成することができる。すなわち、抵抗体130は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成することができる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0077】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、及びCr2N等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでいてもよい。
【0078】
抵抗体130の厚さは特に限定されず、ひずみゲージ100の使用目的等に応じて適宜決定されてよい。例えば、抵抗体130の厚さは0.05μm~2μm程度であってよい。特に、抵抗体130の厚さが0.1μm以上である場合、抵抗体130を構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する。また、抵抗体130の厚さが1μm以下である場合、抵抗体130を構成する膜の内部応力に起因する、(i)膜のクラック及び(ii)膜の基材110からの反りが、低減される。
【0079】
横感度を生じ難くすることと、断線対策とを考慮すると、抵抗体130の幅は10μm以上100μm以下であることが好ましい。更に言えば、抵抗体130の幅は10μm以上70μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であるとより好ましい。
【0080】
例えば、抵抗体130がCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上させることができる。又例えば、抵抗体130がCr混相膜である場合、抵抗体130がα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ100のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ここで、「主成分」とは、抵抗体を構成する全物質の50重量%以上を占める成分のことを意味する。ゲージ特性を向上させるという観点から考えると、抵抗体130はα-Crを80重量%以上含むことが好ましい。更に言えば、同観点から考えると、抵抗体130はα-Crを90重量%以上含むことがより好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0081】
又、抵抗体130がCr混相膜である場合、Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nは20重量%以下であることが好ましい。Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nが20重量%以下であることで、ひずみゲージ100のゲージ率の低下を抑制することができる。
【0082】
又、Cr混相膜におけるCrNとCr2Nとの比率は、CrNとCr2Nの重量の合計に対し、Cr2Nの割合が80重量%以上90重量%未満となるようにすることが好ましい。更に言えば、同比率は、CrNとCr2Nの重量の合計に対し、Cr2Nの割合が90重量%以上95重量%未満となるようにすることがより好ましい。Cr2Nは半導体的な性質を有する。そのため、前述のCr2Nの割合を90重量%以上95重量%未満とすることで、TCRの低下(負のTCR)が一層顕著となる。更に、前述のCr2Nの割合を90重量%以上95重量%未満とすることで抵抗体130のセラミックス化を低減し、抵抗体130の脆性破壊が起こりにくくすることができる。
【0083】
一方で、CrNは化学的に安定であるという利点を有する。Cr混相膜にCrNをより多く含むことで、不安定なNが発生する可能性を低減することができるため、安定なひずみゲージを得ることができる。ここで「不安定なN」とは、Cr混相膜の膜中に存在し得る、微量のN2もしくは原子状のNのことを意味する。これらの不安定なNは、外的環境(例えば高温環境)によっては膜外へ抜け出ることがある。不安定なNが膜外へ抜け出るときに、Cr混相膜の膜応力が変化し得る。
【0084】
ひずみゲージ100において、抵抗体130の材料としてCr混相膜を用いた場合、高感度化かつ、小型化を実現することができる。例えば、従来のひずみゲージの出力が0.04mV/2V程度であったのに対して、抵抗体130の材料としてCr混相膜を用いた場合は0.3mV/2V以上の出力を得ることができる。また、従来のひずみゲージの大きさ(ゲージ長×ゲージ幅)が3mm×3mm程度であったのに対して、抵抗体130の材料としてCr混相膜を用いた場合の大きさ(ゲージ長×ゲージ幅)は0.3mm×0.3mm程度に小型化することができる。
【0085】
配線140は、基材110上に設けられている。配線140は、抵抗体130及び電極150と電気的に接続されている。配線140は、直線状には限定されず、任意のパターンとすることができる。また、配線140は、任意の幅及び任意の長さとすることができる。なお、
図14では、便宜上、配線140を抵抗体130よりも密度の低い梨地模様で示している。
【0086】
電極150は、基材110上に設けられている。電極150は、配線140を介して抵抗体130と電気的に接続されている。電極150は、平面視において、配線140よりも拡幅して略矩形状に形成されている。電極150は、ひずみにより生じる抵抗体130の抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極である。電極150には、例えば外部接続用のリード線等が接合される。電極150の上面に、銅等の抵抗の低い金属層、又は、金等のはんだ付け性が良好な金属層を積層してもよい。抵抗体130と配線140と電極150とは便宜上別符号としているが、両者は同一工程において同一材料により一体に形成することができる。なお、
図14では、便宜上、電極150を配線140と同じ密度の梨地模様で示している。
【0087】
カバー層160(保護層)は、必要に応じ、基材110の上面110aに、抵抗体130及び配線140を被覆し電極150を露出するように設けられる。カバー層160の材料としては、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂が挙げられる。なお、カバー層160は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層160の厚さは、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、カバー層160の厚さは2μm~30μm程度とすることができる。カバー層160を設けることで、抵抗体130に機械的な損傷等が生じることを抑制することができる。又、カバー層160を設けることで、抵抗体130を湿気等から保護することができる。
【0088】
[ひずみゲージ100の製造方法]
本実施形態に係るひずみゲージ100では、基材110上に、抵抗体130と、配線140と、電極150と、カバー層160とが形成される。なお、基材110とこれらの部材の層の間に別の層(後述する機能層等)が形成されてもよい。
【0089】
以下、ひずみゲージ100の製造方法について説明する。ひずみゲージ100を製造するためには、まず、基材110を準備し、基材110の上面110aに金属層(便宜上、金属層Aとする)を形成する。金属層Aは、最終的にパターニングされて抵抗体130、配線140、及び電極150となる層である。従って、金属層Aの材料や厚さは、前述の抵抗体130、配線140、及び電極150の材料や厚さと同様である。
【0090】
金属層Aは、例えば、金属層Aを形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜することができる。金属層Aは、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法、蒸着法、アークイオンプレーティング法、又はパルスレーザー堆積法等を用いて成膜されてもよい。基材110の上面110aに金属層Aを成膜後、周知のフォトリソグラフィ法により、金属層Aを
図14の抵抗体130、配線140、及び電極150と同様の平面形状にパターニングする。
【0091】
なお、基材110の上面110aに下地層を形成してから金属層Aを形成してもよい。例えば、基材110の上面110aに、所定の膜厚の機能層をコンベンショナルスパッタ法により真空成膜してもよい。このように下地層を設けることによって、ひずみゲージ100のゲージ特性を安定化させることができる。
【0092】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である金属層A(抵抗体130)の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、基材110に含まれる酸素又は水分による金属層Aの酸化を防止する機能、及び/又は、基材110と金属層Aとの密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0093】
基材110を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むことがあり、また、Crは自己酸化膜を形成することがある。そのため、特に金属層AがCrを含む場合、金属層Aの酸化を防止する機能を有する機能層を成膜することが好ましい。
【0094】
このように、金属層Aの下層に機能層を設けることにより、金属層Aの結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる金属層Aを作製することができる。その結果、ひずみゲージ100において、ゲージ特性の安定性が向上する。又、機能層を構成する材料が金属層Aに拡散することにより、ひずみゲージ100において、ゲージ特性が向上する。
【0095】
機能層の材料としては、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0096】
図16は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)である。
図16は、抵抗体130、配線140、及び電極150の下地層として機能層120を設けた場合のひずみゲージ100の断面形状を示している。
【0097】
機能層120の平面形状は、例えば抵抗体130、配線140、及び電極150の平面形状と略同一にパターニングされてよい。しかしながら、機能層120と抵抗体130、配線140、及び電極150との平面形状は略同一でなくてもよい。例えば、機能層120が絶縁材料から形成される場合には、機能層120を抵抗体130、配線140、及び電極150の平面形状と異なる形状にパターニングしてもよい。この場合、機能層120は例えば抵抗体130、配線140、及び電極150が形成されている領域にベタ状に形成されてもよい。或いは、機能層120は、基材110の上面全体にベタ状に形成されてもよい。
【0098】
抵抗体130、配線140、及び電極150を形成した後、必要に応じ、基材110の上面110aにカバー層160を形成する。カバー層160は抵抗体130及び配線140を被覆するが、電極150はカバー層160から露出していてよい。例えば、基材110の上面110aに、抵抗体130及び配線140を被覆し電極150を露出するように、半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートして、その後に当該絶縁樹脂フィルムを加熱して硬化させることにより、カバー層160を形成することができる。以上の工程により、ひずみゲージ100が完成する。
【0099】
以上の説明では、検出素子の一例としてひずみゲージを用いる例について説明したが、検出素子として圧電素子を用いることもできる。圧電素子の種類は特に限定されない。圧電素子を検出素子として用いる場合、起歪体における圧電素子の配置位置は、圧電素子の検出する力の方向および検出精度に応じて適宜定められてよい。また、圧電素子以外の構成(例えば、起歪体及びカバー部材等)は、圧電素子を用いる場合でも、ひずみゲージを用いる場合と同様の構成であってもよいし、圧電素子の種類に応じて適宜変更してもよい。
【0100】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0101】
1,1A,1B,1C,1D 脈波センサ、10 筐体、20 起歪体、20m 第1面、20n 第2面、21 基部、22 負荷部、50,50A,50B,50C,50D カバー部材、51 凹部、52 凸部、90 間隙、1001,1002,1003,1004 ひずみゲージ、110 基材、110a 上面、130 抵抗体、140 配線、150 電極、160 カバー層、130e1、130e2 終端