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  • 特開-畜肉様組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143987
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】畜肉様組成物
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/00 20060101AFI20241003BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20241003BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20241003BHJP
   A23J 3/14 20060101ALI20241003BHJP
   A23L 35/00 20160101ALN20241003BHJP
【FI】
A23J3/00 503
A23L13/00 Z
A23J3/16
A23J3/14
A23L35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128924
(22)【出願日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2023053382
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】辰見 嘉隆
(72)【発明者】
【氏名】三木 将義
(72)【発明者】
【氏名】井上 一彦
(72)【発明者】
【氏名】畑中 美帆
【テーマコード(参考)】
4B036
4B042
【Fターム(参考)】
4B036LF13
4B036LH10
4B036LH11
4B036LH13
4B036LH14
4B036LH15
4B036LH21
4B036LH22
4B036LH25
4B036LH26
4B036LH29
4B036LH44
4B036LK01
4B042AC05
4B042AC10
4B042AD20
4B042AD36
4B042AK06
4B042AK08
4B042AK09
4B042AK10
4B042AK11
4B042AK13
4B042AK17
4B042AK20
4B042AP04
4B042AP14
4B042AP21
(57)【要約】
【課題】製造時、および成形時の作業性に優れ、さらに食感に優れる畜肉様加工食品を得ることが可能な畜肉様組成物を提供する。
【解決手段】植物性たんぱく質、植物性セルロース化合物、油及び水を含有する畜肉様組成物であって、焼成後のドリップ保持率が95%以上であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性たんぱく質、植物性セルロース化合物、油及び水を含有する畜肉様組成物であって、焼成後のドリップ保持率が95%以上である畜肉様組成物。
【請求項2】
前記油は、全脂肪酸組成中の不飽和脂肪酸の割合が80%以上95%以下である、請求項1記載の畜肉様組成物。
【請求項3】
前記植物性セルロース化合物が、平均重合度100~2500、かつ、結晶化度60~90%である、請求項1または2記載の畜肉様組成物。
【請求項4】
前記植物性たんぱく質が豆由来たんぱく質を含み、前記豆は、大豆、ソラマメ、小豆、エンドウ豆およびひよこ豆からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1または2記載の畜肉様組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性セルロース化合物を含有する畜肉様組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に新興国における人口の増大や所得の拡大に伴い、畜肉原料の需要は拡大し続けており、今後は畜肉原料の供給不足が懸念されている。またさらに、宗教的理由あるいは個人的信条、更には健康訴求なども背景に、大豆素材や穀類などの植物性原料を多く配合した、畜肉原料をほとんどあるいは全く使用しない、畜肉様食品は注目を浴びている。
【0003】
そのような畜肉様食品としては、例えば、特定の組織状大豆蛋白を結着原料と混合し、成形加熱することで得られる畜肉様加工食品が提案されていたり(特許文献1)、澱粉及び大豆蛋白質素材を配合した組織状大豆蛋白質と、分離大豆蛋白質、水及び油脂を配合したエマルジョンを含有する嚥下困難者用ハンバーグ様食品が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/043384号
【特許文献2】特開2016-67250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら従来知られた提案は、結着原料として粉末状大豆蛋白素材を原料として水および油脂を加えて混練したものを用いるものであり、このような結着原料を用いて得られた畜肉様組成物はべたつくため生地のまとまりが悪く、畜肉様組成物を成形する際の作業性に劣るものであった。また、畜肉原料の配合量を低下させると畜肉様の食感を得られなかったり、添加した澱粉によりぬめりや糊感を生じるため改善が望まれていた。
【0006】
そこで本発明では、製造時、および成形時の作業性に優れ、さらに食感に優れる畜肉様加工食品を得ることが可能な畜肉様組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、下記(1)~(4)にて課題を解決できることを見出した。
(1) 植物性たんぱく質、植物性セルロース化合物、油及び水を含有する畜肉様組成物であって、焼成後のドリップ保持率が95%以上である畜肉様組成物。
(2) 前記油は、全脂肪酸組成中の不飽和脂肪酸の割合が80%以上95%以下である、(1)記載の畜肉様組成物。
(3) 前記植物性セルロース化合物が、平均重合度100~2500、かつ、結晶化度60~90%である、(1)または(2)記載の畜肉様組成物。
(4) 前記植物性たんぱく質が豆由来たんぱく質を含み、前記豆は、大豆、ソラマメ、小豆、エンドウ豆およびひよこ豆からなる群より選択される少なくとも一種である、(1)または(2)記載の畜肉様組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造時、および成形時の作業性に優れ、さらに食感に優れる畜肉様加工食品を得ることが可能な畜肉様組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】上から順に、実施例1~3及び比較例1における焼成前の畜肉様組成物、焼成後に得られたミートレスハンバーグ、及び焼成後にミートレスハンバーグを取り除いた後の敷き紙の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明の詳細を説明するが、特に記載のない場合「AA~BB%」等という記載は、「AA%以上BB%以下」をあらわすものとする。
【0011】
<<畜肉様組成物>>
本発明の畜肉様組成物は、植物性たんぱく質、植物性セルロース化合物、油及び水を含有する畜肉様組成物であって、焼成後のドリップ保持率が95%以上である。
【0012】
<植物性たんぱく質>
本発明で用いられる植物性たんぱく質とは、例えば、大豆、ソラマメ、小豆、エンドウ豆、ひよこ豆等の豆由来のたんぱく質素材、菜種、綿実、落花生、ゴマ、サフラワー、向日葵、コーン、ベニバナ、ココナッツ等の油糧種子由来のたんぱく質素材、あるいは、米、大麦、小麦等の穀物種子由来のたんぱく質素材等や、これらの抽出・加工たんぱく、例えば、米グルテリン、大麦プロラミン、小麦プロラミン、小麦グルテン、大豆グロブリン、大豆アルブミン、落花生アルブミン等、これらの熱処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理たんぱく質等が挙げられる。タンパク質含有量や風味の観点から、豆由来たんぱく質を含むことが好ましい。豆としては、大豆、ソラマメ、小豆、エンドウ豆およびひよこ豆からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましく、入手の容易性および経済性等の点では、大豆由来の大豆たんぱく質が好ましい。また、ここでいう大豆たんぱく質は、大豆由来のたんぱく質を含む素材であればよく、丸大豆や半割れ大豆などの全脂大豆や、油脂を除去した減脂大豆や脱脂大豆、含水エタノール洗浄や酸性水洗浄等によりたんぱく質を濃縮した濃縮大豆たんぱく、さらには分離大豆たんぱく質または豆乳、ならびにそれらの加水分解物、オカラ、ホエー等が例示され、これらの少なくとも1種以上を選択できる。これらの内、脱脂大豆が経済性に優れるため特に好ましい。
【0013】
そのような植物性たんぱく質は、その性状も特に制限はなく、粒状・粉末状・ペースト状・繊維状など、畜肉様組成物に求められる性質などにあわせて適宜選択することができる。本発明に用いられる植物性たんぱく質は、畜肉様組成物を用いて得られる畜肉様加工食品の食感の向上や植物性セルロース化合物との相互作用の観点から、粒径10μm以上の粒状物を含むことが好ましく、粒径50μm以上1000μm以下の粒状物(粒状たんぱく)を含むことがより好ましい。このような粒状の大豆たんぱく質としては、市販のものを用いることもできる。
【0014】
<植物性セルロース化合物>
本発明で用いられる植物性セルロース化合物は、植物性のセルロース原料を、塩酸、硫酸、硝酸などの鉱酸で酸加水分解処理した後に粉砕処理して、あるいは酸加水分解処理を施さずにそのまま機械粉砕して得ることができる。本発明で用いられる植物性セルロース化合物の形状は、他材料との相互作用や作業性の観点から、粉末状であることが好ましい。また、植物性のセルロース原料としては、植物由来のパルプが挙げられる。植物由来のパルプとしては、広葉樹由来のパルプ、針葉樹由来のパルプ、リンター由来のパルプ、非木材由来のパルプなどが挙げられ、特に限定されない。
【0015】
また、本発明において、パルプ化法(蒸解法)は特に限定されるものではなく、サルファイト蒸解法、クラフト蒸解法、ソーダ・キノン蒸解法、オルガノソルブ蒸解法などを例示することができるが、これらの中では、環境面の点から、クラフトパルプが好ましい。
【0016】
植物性セルロース化合物の平均粒子径については特に限定されないが、食品に用いた際の保形性が得られ易い観点、及びセルロース繊維特有の繊維感が増すことによる食感の低下を抑制する観点から、平均粒子径は5~75μmであることが好ましい。植物性セルロース化合物の平均粒子径が上記下限値よりも小さい場合は、セルロース繊維が細かいため、食品に用いた際の保形性が得られ難く、上記上限値よりも大きい場合は、セルロース繊維を感じやすくなるため、食感が低下するおそれがある。
【0017】
本発明に用いられる植物性セルロース化合物の粒子径分布については特に限定されないが、粉舞いなどを抑制しハンドリング性を向上させる観点から、粒度分布から算出される蓄積分布で、粒子径100μm以上の植物性セルロース化合物が0~45.0体積%の範囲にあり、粒子径200μm以上の植物性セルロース化合物が0~25.0体積%の範囲にあり、粒子径300μm以上の植物性セルロース化合物が0~12.0体積%以下の範囲にあり、粒子径600μm以上の植物性セルロース化合物が0~2.0体積%以下の範囲にあることが好ましい。
【0018】
植物性セルロース化合物の平均粒子径及び粒子径分布測定は、例えば、レーザー回析式粒度分布測定装置(マスターサイザー2000、スペクトリス株式会社製)を使用して行うことができる。測定原理としてレーザー散乱法を用いるものであり、粒度分布を蓄積分布として表し、蓄積分布が50%となる値を平均粒子径とする。
【0019】
また本発明に用いられる植物性セルロース化合物は、特に限定されないが、平均重合度が100~2500であることが好ましく、結晶化度が60~90%であることが好ましく、さらに平均繊維長が0.1~1.0mmであることが好ましい。
平均重合度は、第16改正日本薬局方解説書、粉末セルロース確認試験(2)記載の銅エチレンジアミンを用いた粘度測定法により求めることができる。
結晶化度は、試料のX線回折を測定することで求めることができる。X線回折の測定は、適当量の試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出は(L.Segal,J.J.Greely,etal,Text.Res.J.,29,786,1959)、および、Kamideらの手法(K.Kamide et al,Polymer J.,17,909,1985)を用いて行い、X線回折図の2θ=10°~30°の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6°の002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
Xc=(I002c―Ia)/I002c×100
Xc=セルロースの結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6°、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5°、アモルファス部分の回折強度
平均繊維長は、例えばファイバーテスター(Lorentzen & Wettre社製)を用いて測定することができる。本発明において、平均繊維長とは、長さ加重平均繊維長のことを示す。
【0020】
本発明に用いられる植物性セルロース化合物は、特に限定されないが、畜肉様組成物において食感改良又は保水性をより効果的に発揮することが可能な観点から、見掛け比重が0.1~0.6g/mLの範囲が好ましく、0.1~0.45g/mLの範囲がより好ましく、0.15~0.4g/mLの範囲がさらに好ましい。見掛け比重は、常法に従い測定すればよい。
【0021】
本発明に用いられる植物性セルロース化合物は、本発明の効果を損なわない範囲で、機能性付与、もしくは機能性向上を目的に、植物性セルロース化合物の原料とその他有機および/または無機成分を単独もしくは2種類以上任意の割合で混合し、粉砕することも可能である。また、原料に使用する天然セルロースの重合度を大幅に損なわない範囲で、化学的処理を施すことも可能である。
【0022】
本発明の畜肉様組成物に対する植物性セルロース化合物の添加量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、畜肉様の食感を得る観点から、畜肉様組成物の全質量に対して植物性セルロース化合物を0.5~5質量%添加することが好ましく、1~4質量%がより好ましい。添加量が上記上限値よりも多すぎる場合は、畜肉様組成物にねちゃつき感が生じるため成形時の作業性に劣る虞があり、また、加熱して得られた畜肉様加工食品は、硬くなりすぎて食感に劣る虞がある。添加量が上記下限値よりも少なすぎる場合は、畜肉様の食感を得られにくくなる恐れがある。
【0023】
<油>
本発明に用いられる油は、食用品に用いられるものであれば特に限定されず、いずれの食用油脂も使用することができる。例えば、菜種油(キャノーラ油)、米油、大豆油、コーン油、べに花油、ひまわり油、綿実油、ごま油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、リンシード油、マカデミア種子油、ツバキ種子油、茶実油、米糠油、ココアバターなどの植物油、乳脂、牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、魚油などの動物油、これら植物性油脂又は動物性油脂の液状又は固体状物を精製や脱臭、分別、硬化、エステル交換といった油脂加工した、硬化ヤシ油、硬化パーム核油などの硬化油脂や加工油脂、更にこれらの油脂を分別して得られる液体油、固体脂等を、1つ、または2つ以上混合した食用油脂などを用いることができる。畜肉様組成物を用いて得られる畜肉様加工食品にソフト感を与える観点では液体油を用いることができ、食感にジューシー感を与え、且つ油脂分の歩留まりを上げる観点からは固体脂を用いることができ、食品の種類によって所望の食感が異なるため、種類に適した配合を選択すればよい。本発明の畜肉様組成物はドリップ保持性に優れる植物性セルロース化合物を含有するため、液体油を使用した際であっても、ジューシーな食感を有する畜肉様加工食品を得ることができる。本発明に用いられる油は、全脂肪酸組成中の不飽和脂肪酸の割合が、風味の観点から、好ましくは80%以上95%以下であり、より好ましくは85%以上95%以下である。このような油としては、菜種油(キャノーラ油)、大豆油、コーン油、べに花油、ひまわり油、ごま油、米油、オリーブ油等が挙げられ、畜肉様組成物が含有する調味料の味を阻害しない観点から、菜種油(キャノーラ油)、大豆油、コーン油、べに花油、ひまわり油、米油を用いることが好ましく、菜種油(キャノーラ油)を用いることがより好ましい。また、本発明においては、得られる畜肉様加工食品に風味を加える観点から、あらかじめ油に風味づけをしたラー油、ネギ油などの香味食用油を使用してもよい。
【0024】
本発明の畜肉様組成物は、得られる畜肉様加工食品にジューシーな食感を付与する観点から、植物性たんぱく質の固形分100質量%に対する油の含有量が5~200質量%であることが好ましく、25~100質量%であることがより好ましい。
【0025】
<水>
本発明に用いられる水としては、水道水の他、蒸留水、イオン交換水など、通常の食品製造用に用いられる水をいずれも用いることができる。水温は特に限定されないが、高温では原材料の混合時にダマになってしまう場合があるため、常温以下とするのが好ましい。冷水ないしは氷水として配合しても良い。
【0026】
本発明の畜肉様組成物は、混練性や成形性の観点から、植物性たんぱく質の固形分100質量%に対する水の含有量が100~800質量%であることが好ましく、150~400質量%であることがより好ましい。
【0027】
本発明の畜肉様組成物は、畜肉素材の含有量が30質量%以下であることが好ましい。
【0028】
本発明における畜肉素材とは、家畜(豚、牛、羊、山羊、馬など)や、家禽(鶏、うずら、アヒル、鴨、合鴨、ガチョウ、七面鳥など)や、鹿、猪などの、鳥獣の食肉素材を意味する。なお、上記畜肉素材は、いわゆる肉(筋肉)だけでなく皮、脂肪、スジ、軟骨、内臓、血液などの一般的に畜肉加工食品に用いられる組織も含む。
【0029】
本発明の畜肉様組成物は、畜肉素材を含まずとも、畜肉様の優れた食感を再現できる。種々の理由で畜肉を口にしない人でも食べることができるというメリットを得るためには、畜肉素材の含有量は出来るだけ少なくすることが好ましく、例えば畜肉素材の含有量が20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。また畜肉素材を一切含まない(畜肉素材の含有量が0質量%)ことがさらに好ましい。しかしながら畜肉素材のコストや供給安定性・品質安定性を一定に保つために、一定以下であれば畜肉素材を含有することもできる。
【0030】
本発明の畜肉様組成物に含まれる植物性たんぱく質と植物性セルロース化合物は、植物性たんぱく質:植物性セルロース化合物=60~99質量%:1~40質量%の範囲が好ましく、植物性たんぱく質:植物性セルロース化合物=70~98質量%:2~30質量%の範囲がより好ましく、植物性たんぱく質:植物性セルロース化合物=80~95質量%:5~20質量%の範囲がさらに好ましい(但し、植物性たんぱく質と植物性セルロース化合物の総質量を100質量%とする)。本範囲を満たすことで、畜肉様の優れた食感をより発揮することができ、また保水性により優れるために作業性などを改善することができる。
【0031】
本発明の畜肉様組成物に用いられる他の原料も、特に制限はなく、通常の畜肉加工食品と同様に、求められる風味・食感・物性・外観などに応じてその他の添加材を用いることができる。例えば、メチルセルロースなどの増粘剤、野菜、畜肉素材を除く動物性たんぱく質(卵、乳製品等)、調味料、パン粉などを含む穀粉類、澱粉類、食物繊維、増粘多糖類、糖類、塩類、香辛料、着色料、保存料などを用いることができる。
このうち、メチルセルロースは畜肉様組成物を用いて得られる畜肉様加工食品に良好な弾力性のある食感を与えることができるため、併用されることが好ましい。
【0032】
そのような畜肉様組成物に含まれるメチルセルロースとしては、植物性セルロース化合物:メチルセルロース=10~90質量%:90~10質量%の範囲となるよう調整することが好ましく、植物性セルロース化合物:メチルセルロース=30~90質量%:70~10質量%となる範囲がより好ましく、植物性セルロース化合物:メチルセルロース=50~90質量%:10~50質量%の範囲であることがさらに好ましい。
本範囲でメチルセルロースを配合することで、本発明の効果を発揮しつつ、より弾力性があり畜肉様の食感を得ることができる。
【0033】
また本発明の畜肉様組成物は、植物性たんぱく質が全固形分量に対して30質量%以上含まれることが好ましく、40質量%以上含まれることがより好ましく、45質量%以上含まれることがさらに好ましい。上限としては90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。畜肉様組成物においては、植物性たんぱく質以外に、前述される添加材を適量用いることで、より畜肉様の食感や風味を再現できるため好ましい。
【0034】
本発明の畜肉様組成物の前述されるそれぞれの原材料を、混練し得ることができる。混練する方法については特に制限はないが、畜肉様の優れた食感と保水性を得るために、特に植物性セルロース化合物が植物性たんぱく質にできるだけ均一になるように混練することが好ましい。
【0035】
<ドリップ保持率>
本発明の畜肉様組成物は、焼成後のパサつきを低減し、ジューシー感を有する畜肉様加工食品を得る観点から、焼成後のドリップ保持率が95%以上、好ましくは96%以上である。上限は特に限定されないが、現実的には、99.9%以下である。ドリップ保持率が上記の下限値より低いと、パサついた食感でジューシー感に劣る畜肉様加工食品となる恐れがある。本発明においてドリップとは、主として熱処理により畜肉様組成物から遊離する液体成分を言う。液体成分は、水分と油分とからなり、水分としては、水に加えて水性の調味料を含み、油分としては、主に油を含む。油分は、おおむね80℃以上で液体状態となるものであれば、常温で固体状態であっても液体成分に含む。
【0036】
ドリップ保持率は、下記式により表すことができる。
ドリップ保持率(%)=(焼成前の畜肉様組成物に含まれる液体成分量-ドリップ量)/液体成分量 × 100
【0037】
本発明の畜肉様組成物は、焼成時の歩留まりが、食感やジューシー感の観点から、84%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、86%以上であることがさらに好ましい。なお、歩留まりは、焼成前の畜肉様組成物の質量に対する、焼成後に得られる畜肉様加工食品の質量の割合を示す。
【0038】
本発明の畜肉様組成物は、ドリップ割合が、食感やパサつきの防止の観点から、4%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2.5%以下であることがさらに好ましく、2%以下であることが特に好ましい。なお、ドリップ割合は、焼成前の畜肉様組成物の質量に対するドリップ量の割合を示す。
【0039】
(畜肉様加工食品)
上記のようにして得られる本発明の畜肉様組成物は、様々な形状に成形が可能であり、加熱処理を行うことで畜肉様加工食品を得ることができる。そのような畜肉様加工食品とは、例えば、ソーセージ、ハンバーグ、肉団子、プレスハム、チョップドハム、サラミ、ナゲット、メンチカツ、ロールキャベツ、ミートローフ、テリーヌ、つくね、肉まん、餃子、シュウマイ、成形肉などが挙げられる。
【0040】
本発明の畜肉様組成物は、植物性セルロース化合物を含むものであり、焼成後のドリップ保持率が95%以上であるため、製造時及び成形時の作業性に優れるものであり、この畜肉様組成物を成形・加熱して得られる畜肉様加工食品は、食感に優れる。
【実施例0041】
以下本発明を、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例における各数値の測定/算出方法が特に記載されていない場合には、明細書中に記載されている方法により測定/算出されたものである。
【0042】
(製造例1)
広葉樹由来パルプを、パルプ濃度5.5%、塩酸濃度0.1Nにおいて95℃で2時間、加水分解反応させた。加水分解反応が終了した後、水酸化ナトリウムで中和し、工業用水で洗浄した後、脱液した。これを、固形分が25%以上になるように脱水し、出口乾燥温度100℃で乾燥機にて送風乾燥し、酸加水分解処理パルプを得た。得られた酸加水分解処理パルプを、ハンマーミル(ホソカワミクロン社製、マイクロパルペライザAP-S型)を用いて機械的に適宜粉砕・分級を行い、平均粒子径39.6μm、平均重合度520、結晶化度83.6%、見掛け比重0.19g/mLの粉末状の植物性セルロース化合物Aを得た。
【0043】
(製造例2)
塩酸濃度を0.15N、出口乾燥温度60℃で乾燥機にて1日送風乾燥とした以外は製造例1に準拠して、酸加水分解処理パルプを得た。得られた酸加水分解処理パルプを、ハンマーミルを用いて機械的に適宜粉砕・分級を行い、平均粒子径35.8μm、平均重合度412、結晶化度89.4%、見掛け比重0.3g/mLの粉末状の植物性セルロース化合物Bを得た。
【0044】
(製造例3)
製造例2に準拠して平均粒子径32.3μm、平均重合度675、結晶化度88.7%、見掛け比重0.3g/mLとなるように適宜酸加水分解、粉砕・分級を行い植物性セルロース化合物Cを得た。
【0045】
(実施例、比較例)
表1に記載の配合比にて原料を計量し、下記に記載する方法で畜肉様組成物を得た。
まず、粒状大豆たん白A(ニューフジニック25N)、粒状大豆たん白B(ニューフジニック43N)、及び水を混合し、粒状大豆たん白の水戻しを行った。また別容器で、キャノーラ油とメチルセルロースを混合し、分散した。さらに別容器で、粉末状大豆たん白、植物性セルロース化合物A~C(比較例では配合せず)、小麦たん白、及びカカオ色素を混合した。
水戻しを行った粒状大豆たん白に、砂糖、グルタミン酸ナトリウム、ブラックペッパーパウダー、野菜ペースト調味料(富士食品工業社製 Gimp05)、及び濃口醤油を加え撹拌を行った。そこへ、キャノーラ油とメチルセルロースの混合物を加え撹拌し、さらに冷水を加え、しっかり撹拌を行った。そこへ、上記で準備した粉末状大豆たん白を含む混合物を加え、粘り気が出るまで撹拌を行った。さらにソテーオニオンを加え撹拌することにより、畜肉様組成物を得た。
得られた畜肉様組成物を、およそ60g/1個に分けて、ハンバーグ形状に成形した。
ハンバーグ形状の畜肉様組成物を、シリコーン樹脂加工耐油紙を敷いた角皿にのせ、スチームコンベクションオーブンに投入し、コンビネーションモード(蒸気、熱風)、温度210℃、スチーム60%の設定で8分間焼成することにより、実施例1~3及び比較例のミートレスハンバーグを得た。
【0046】
【表1】
【0047】
得られた実施例及び比較例のミートレスハンバーグ及び畜肉様組成物について、以下の評価を実施した。
【0048】
(焼成前後の質量変化)
得られたミートレスハンバーグは、焼成完了後すぐに角皿から取り除き、ドリップ量及びミートレスハンバーグの質量を測定した。結果を表2に示す。歩留まりは、焼成前の畜肉様組成物の質量に対する焼成後に得られたミートレスハンバーグの質量の割合を示しており、ドリップ割合は、焼成前の畜肉様組成物の質量に対するドリップ量の割合を示している。
【0049】
【表2】
【0050】
(ドリップ保持率)
ドリップ保持率は、焼成前の畜肉様組成物の液体成分量からドリップ量を引いた値を、液体成分量で除して得られた値に100を乗じた値とした。液体成分は、水分と油分からなり、上記の実施例及び比較例においては、水分は、水、冷水及び濃口醤油であり、油分は、キャノーラ油である。結果を表3に示す。
【0051】
(作業性)
畜肉様組成物の撹拌混合を行う際のミキサーボウル壁面への付着量及び成形時のゴム手袋への付着量を目視確認し、以下の基準で判断した。結果を表3に示す。
◎:撹拌中及び成形中において、畜肉様組成物の適度なべたつきがあり、肉の質感に近い。ミキサーボウル壁面やゴム手袋への付着量は少なく、剥がれも良い。
〇:撹拌中及び成形中において、畜肉様組成物のべたつきや、ミキサーボウル壁面やゴム手袋への付着がややあるが、量は抑えられており、剥がれも良い。
×:撹拌中及び成形中において、畜肉様組成物のべたつきがあり、ミキサーボウル壁面やゴム手袋への付着量が多く、剥がれが悪い。
【0052】
(試食評価)
焼成後に得られたミートレスハンバーグは、粗熱を取った後に冷凍し、完全冷凍後に、袋に入れ冷凍保管した。冷凍保管後のミートレスハンバーグをレンジアップし、試食評価を行った。結果を以下に示す。なお、総合評価は1~10点の範囲で表した。点数が高い方が良い。
実施例1のミートレスハンバーグは、ジューシーで味が濃く感じられた。パサつきはなく、若干ねちゃつく食感があるものの、全体としてはバランスがとれた食感であった。総合評価は7点。
実施例2のミートレスハンバーグは、ジューシーで味が濃く感じられた。パサつきはなく、若干ねちゃつく食感があるものの、繊維感も感じられ肉のような食感がある。また青臭さがあまり気にならず、全体としてはバランスとが取れた食感であった。総合評価は7点。
実施例3のミートレスハンバーグは、ジューシーで味が濃く感じられた。パサつきはなく、若干ねちゃつく食感があるものの、繊維感は実施例2よりも強く、肉のような食感がある。全体としてはバランスとが取れた食感であった。総合評価は7点。
比較例のミートレスハンバーグは、パサついている部分があった。やや青臭く、えぐみが感じられた。総合評価は5点。
【0053】
【表3】
【0054】
表3からわかる通り、本発明の、焼成後のドリップ保持率が95%以上である実施例1~3の畜肉様組成物は、製造時及び成形時の作業性に優れるものであり、この畜肉様組成物を成形・加熱して得られたハンバーグは、パサつきがなく、ジューシーであり食感に優れる。
【0055】
(焼成前後の外観変化)
焼成前後の畜肉様組成物の外観変化を観察するために、実施例1~3及び比較例について焼成前の畜肉様組成物、焼成後に得られたミートレスハンバーグ、及び焼成後にミートレスハンバーグを取り除いた後の敷き紙の写真を撮り、図1に示した。
【0056】
図1からわかる通り、実施例1~3の畜肉様組成物は、比較例と比べて、焼成後のドリップ量が、少ないものであった。

図1