(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144031
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】二酸化炭素の回収方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/62 20060101AFI20241003BHJP
B01D 53/82 20060101ALI20241003BHJP
B01D 53/96 20060101ALI20241003BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20241003BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20241003BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20241003BHJP
【FI】
B01D53/62 ZAB
B01D53/82
B01D53/96
B01D53/14 100
B01J20/22 A
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180872
(22)【出願日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2023052967
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】大岩 正人
(72)【発明者】
【氏名】大塚 優一
(72)【発明者】
【氏名】原田 知典
(72)【発明者】
【氏名】山添 誠司
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4G066
4G146
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002BA03
4D002CA07
4D002DA31
4D002DA34
4D002DA35
4D002DA70
4D002EA06
4D002EA08
4D002GA01
4D002GB12
4D002HA03
4D002HA08
4D002HA09
4D020AA03
4D020BA16
4D020BA19
4D020BA23
4D020BB01
4D020BB07
4D020BC01
4D020CA05
4D020CC06
4D020CC14
4D020DA03
4D020DB20
4G066AA04C
4G066AA05C
4G066AB10B
4G066AB11B
4G066AB13B
4G066AC02C
4G066BA23
4G066BA36
4G066CA35
4G066DA01
4G066GA01
4G146JA02
4G146JB09
4G146JB10
4G146JC08
4G146JC28
4G146JC35
4G146JD03
4G146JD10
(57)【要約】
【課題】より少ないエネルギーで吸収体から吸収済みの二酸化炭素を脱離して回収できる、二酸化炭素の回収方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素の回収方法は、表面に細孔を有する多孔性物質からなる固体材料に、塩基性を示す環状ジアミンを含む二酸化炭素吸収液を前記細孔に担持させることで、二酸化炭素を吸収する前の吸収体である第一吸収体を準備する工程(a)と、前記第一吸収体に二酸化炭素を吸収させて、二酸化炭素を吸収済みの吸収体である第二吸収体を準備する工程(b)と、前記第二吸収体に対して熱を供給する工程(c)と、前記工程(c)を経て前記第二吸収体から脱離した二酸化炭素を回収する工程(d)とを有する。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に細孔を有する多孔性物質からなる固体材料に、塩基性を示す環状ジアミンを含む二酸化炭素吸収液を前記細孔に担持させることで、二酸化炭素を吸収する前の吸収体である第一吸収体を準備する工程(a)と、
前記第一吸収体に二酸化炭素を吸収させて、二酸化炭素を吸収済みの吸収体である第二吸収体を準備する工程(b)と、
前記第二吸収体に対して熱を供給する工程(c)と、
前記工程(c)を経て前記第二吸収体から脱離した二酸化炭素を回収する工程(d)とを有することを特徴とする、二酸化炭素の回収方法。
【請求項2】
前記工程(a)は、前記固体材料の前記細孔に前記二酸化炭素吸収液を担持させる前に、前記細孔に対して、プラズマガスを吹き付けるか又は紫外線を照射する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項3】
前記環状ジアミンはイソホロンジアミンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項4】
前記環状ジアミンは、4,4-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、又は4,4-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項5】
前記多孔性物質は炭素材料であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項6】
前記多孔性物質の平均細孔径は、30nm~0.1μmの範囲であることを特徴とする、請求項5に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項7】
前記環状ジアミンはイソホロンジアミン、4,4-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、又は4,4-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)であることを特徴とする、請求項5に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項8】
前記工程(a)は、前記二酸化炭素吸収液に炭素材料を添加する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項9】
前記多孔性物質はセルロースを含むことを特徴とする、請求項1に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項10】
前記環状ジアミンはイソホロンジアミン、4,4-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、又は4,4-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)であることを特徴とする、請求項8又は9に記載の二酸化炭素の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素吸収性を示す吸収体を介して二酸化炭素を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の二酸化炭素濃度を低下させるために、大気中の二酸化炭素を直接吸収したり、化石燃料の燃焼排ガス等に含有される二酸化炭素を分離して回収する技術が検討されている。
【0003】
二酸化炭素の回収においては、二酸化炭素を吸収体に吸収させ、吸収済みの二酸化炭素を当該吸収体から脱離させる方法が提案されている。例えば、下記、特許文献1には、アミンを吸収材として含む溶液を用いて、燃焼排ガスから二酸化炭素を分離し、その後、当該溶液を加熱することで、二酸化炭素を脱離させて回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、二酸化炭素の吸収体から、吸収済みの二酸化炭素を脱離させて回収するには、加熱などのエネルギーの投入が必要とされている。この脱離のためのエネルギーが大きいと、二酸化炭素回収のコストが大きくなる。吸収体で二酸化炭素を吸収した後、当該吸収体で吸収された二酸化炭素を低エネルギーで脱離して回収することができなければ、二酸化炭素の排出量を総合的に削減することが困難となる。例えば、二酸化炭素の脱離に多大な電力を消費すると、この電力を生成するために二酸化炭素を放出することになるためである。また、二酸化炭素が吸収された後の吸収体の取扱いの問題も生じ得る。
【0006】
一方で、上述したように、二酸化炭素を吸収済みの吸収体から二酸化炭素を脱離回収する際に高いエネルギーが必要である場合には、システムの運転に伴うランニングコストが懸念となる。この点は、二酸化炭素を回収するシステムの導入及び普及にとって足かせとなる。現時点において、地球温暖化問題は世界的に解決すべき問題の一つとされている。地球温暖化の主要因の一つとされている二酸化炭素の排出量を低下させ、ひいては大気中の二酸化炭素濃度を低下させることは、喫緊の課題といえる。
【0007】
以上を踏まえると、二酸化炭素を吸収体で吸収した後に、低コスト、低エネルギーの下で吸収体から二酸化炭素を脱離・回収させることのできるシステムを実現することは、大気中の二酸化炭素濃度を低下させる動きを促進する上で、重要であると考えられる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、より少ないエネルギーで吸収体から吸収済みの二酸化炭素を脱離して回収できる、二酸化炭素の回収方法及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る、二酸化炭素の回収方法は、
表面に細孔を有する多孔性物質からなる固体材料に、塩基性を示す環状ジアミンを含む二酸化炭素吸収液を前記細孔に担持させることで、二酸化炭素を吸収する前の吸収体である第一吸収体を準備する工程(a)と、
前記第一吸収体に二酸化炭素を吸収させて、二酸化炭素を吸収済みの吸収体である第二吸収体を準備する工程(b)と、
前記第二吸収体に対して熱を供給する工程(c)と、
前記工程(c)を経て前記第二吸収体から脱離した二酸化炭素を回収する工程(d)とを有することを特徴とする。
【0010】
本明細書において「回収」とは、吸収体から脱離した二酸化炭素を、吸収体が配置されている領域から他の領域に移送することを意味する。例えば、ボンベ等の貯留槽に二酸化炭素を貯留しても構わないし、配管を介して二酸化炭素の利用施設に送り込むものとしても構わない。前記利用施設としては、例えば植物工場等が挙げられる。
【0011】
また、本明細書において、「第一吸収体」とは、二酸化炭素吸収性を示す吸収体が、二酸化炭素を吸収する前の状態を指す。さらに、「第二吸収体」とは、二酸化炭素吸収性を示す吸収体が二酸化炭素を吸収した状態を指す。なお、第一吸収体には、吸収体が二酸化炭素を吸収して第二吸収体となった後に、熱エネルギーの供給を受けて当該二酸化炭素を脱離した状態も含まれる。
【0012】
本明細書において、「細孔」とは口径が数nm~数十μm程度の微細な孔を意味し、「多孔性物質」とは表面上に無数の細孔を有する物質を指す。
【0013】
前述の通り、二酸化炭素を吸収済みの第二吸収体から、当該二酸化炭素を脱離させるには、第二吸収体に対する熱エネルギーの供給が必要である。つまり、二酸化炭素の回収に要するエネルギーを低減するには、この熱エネルギーの供給で消費されるエネルギーを低減することが肝要である。
【0014】
多孔性物質が有する細孔に二酸化炭素吸収液を担持させることにより、二酸化炭素の吸収体として利用できる。また、当該細孔に二酸化炭素吸収液を担持させることで、処理対象ガスに含まれた二酸化炭素と当該二酸化炭素吸収液が接触する面積を大きくすることができ、効率的に二酸化炭素の吸収が行われる。多孔性物質の比表面積は、10m2/g以上であることが好ましく、50m2/g以上であることがより好ましい。なお、多孔性物質の比表面積は、例えばJIS Z 8830(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に準じた方法で測定することができる。
【0015】
多孔性物質として利用可能な材料としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス材料、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネートなどのエンジニアリングプラスチック材料、活性炭やカーボン繊維などの炭素材料、セルロースを含む樹脂が挙げられる。なお、多孔性物質の形状は特に限定されない。多孔性物質の形状の例としては、粒状、板状、管状、ハニカム状、ペレット状などが挙げられる。
【0016】
本発明では、二酸化炭素吸収液は、二酸化炭素吸収材としての環状ジアミンを、水、ポリエチレングリコール(PEG)、又はジメチルスルホキシド(DMSO)等の溶媒に分散させて調整される。これらの溶媒は複数種類を組み合わせても構わない。また、二酸化炭素吸収液の粘度を低下させて、前記細孔に二酸化炭素吸収液が入り込みやすくするために、例えばメタノール等のアルコールを二酸化炭素吸収液に追加し、前記多孔性物質に含浸させた後に当該アルコールを蒸発させても構わない。
【0017】
二酸化炭素の脱離時に供給される熱エネルギーにおいて、溶媒の温度上昇に消費されるエネルギーを低減し、熱エネルギーの利用効率を高める観点から、二酸化炭素吸収液の濃度が高いことが好ましい。一方で、例えば、吸収体として二酸化炭素吸収液をそのまま用いる場合には、二酸化炭素吸収液の濃度を高めると、粘度が高くなって取り扱いが困難になるという事情があり、当該濃度を高めるには一定の制約がある。特に、粘性が高い材料では、二酸化炭素吸収液の濃度は1%~10%程度となる。これに対し、二酸化炭素吸収液を固体材料に担持させることで、二酸化炭素吸収液の濃度が高い場合でも(例えば数十%)、容易に取り扱いが可能である。つまり、固体状の吸収体を用いることで、二酸化炭素吸収液の濃度を高められる結果、熱エネルギーの利用効率を高められる。吸収体の準備については、「発明を実施するための形態」の項で詳述される。
【0018】
環状ジアミンとは、分子中に1級又は2級のアミノ基を2個有する、環式の化合物を指す。環状ジアミンの例として、イソホロンジアミン、シクロヘキサン-1,2-ジアミン、シクロヘキサン-1,3-ジアミン、4,4-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、4,4-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)などが挙げられる。環状ジアミンは、一種又は混合物として使用することが可能である。
【0019】
以下、イソホロンジアミンを例にとり、二酸化炭素の吸収及び脱離について説明する。イソホロンジアミンが二酸化炭素を吸収する反応として、主に下記(1)式が存在する。
【化1】
【0020】
このように二酸化炭素を吸収したイソホロンジアミンに対し、熱供給によってエネルギーを与え、(1)式に代表される反応の逆反応を起こすことによって、吸収済みの二酸化炭素を脱離することができる。イソホロンジアミンを例に説明したが、環状ジアミンは、4,4-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、4,4-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)であっても構わない。
【0021】
固体材料に対して、環状ジアミンを含む二酸化炭素吸収液を担持させてなる吸収体によって、二酸化炭素の回収を行う効果については、「発明を実施するための形態」の項で詳述される。
【0022】
前記工程(a)は、前記固体材料の前記細孔に前記二酸化炭素吸収液を担持させる前に、前記細孔に対して、プラズマガスを吹き付けるか又は紫外線を照射する工程を含んでも構わない。
【0023】
上記方法によれば、二酸化炭素吸収液に対する細孔表面のぬれ性が向上し、当該細孔に対してより好適に二酸化炭素吸収液を担持させることができる。より詳細には、細孔に対してプラズマガスを吹き付けた場合には、雰囲気中の窒素分子又は酸素分子がプラズマ化され、プラズマ化した活性種が細孔の表面に親水性の官能基(水酸基、カルボニル基又はカルボキシ基等)を形成する。紫外線の照射による場合には、紫外線によって雰囲気中にラジカル(大気中の場合は主に酸素ラジカル)が生成される。また、同時に紫外線の照射によって細孔表面を構成する分子間の結合が切断され、当該切断箇所に対してラジカルが反応する結果、細孔表面に親水性の官能基が形成される。
【0024】
また、前記多孔性物質は炭素材料であっても構わない。詳細は後述するが、固体材料を構成する多孔性物質として炭素材料を用いることで、固体材料が有する細孔に対してより好適に二酸化炭素吸収液を担持させることができる。上記方法は、吸収済み二酸化炭素の脱離のための熱供給に起因する、吸収体の劣化を抑制する効果を奏する。
【0025】
前記多孔性物質の平均細孔径は、30nm~0.1μmの範囲であっても構わない。
【0026】
多孔性物質の平均細孔径(「4V/A」とも表現される。)は、JIS Z 8831-2(粉体(固体)細孔径分布及び細孔特性)に準じて、公知のガス吸着法により測定できる。ここで、Vは細孔容積であり、Aは比表面積である。
【0027】
また、前記工程(a)は、前記二酸化炭素吸収液に炭素材料を添加する工程を含んでも構わない。
【0028】
前記多孔性物質はセルロースを利用した物質としても構わない。固体材料を構成する多孔性物質がセルロースを含むことで、固体材料が有する細孔に対してより好適に二酸化炭素吸収液を担持させることができる。
【0029】
また、熱エネルギーの供給で消費されるエネルギーを低減する観点から、受光した太陽光を熱に変換する太陽光集熱部材を利用して、当該熱由来の熱エネルギーを第二吸収体に対して供給しても構わない。熱エネルギーの供給に太陽光由来の熱を利用することで、当該熱エネルギーの供給で消費されるエネルギーを低減することができる。なお、具体的な実施態様については、「発明を実施するための形態」で後述される。
【0030】
なお、加熱に必要なエネルギーを低減するという観点から、加熱用のヒータ等をいわゆる太陽光発電システムによって駆動する方法も想定される。しかし、現状、太陽光発電システムにおいて、太陽光を吸収する太陽光パネルが利用可能な光の波長範囲には課題がある。特に、太陽光における赤外線の割合は半分以上を占めるが、太陽光パネルは、可視光と一部の紫外線を利用するにとどまる。加えて、太陽光パネルの変換効率、及びヒータ等の投入電力に対する熱効率の影響もあるため、当該方法は、太陽光を有効に利用できるとはいえない。一方で、本発明では、後述するように、特に赤外線を有効に利用できるため、利用可能な光の波長範囲は広域にわたり、例えば太陽光発電システムと比較して、より効率的に太陽光を利用できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、より少ないエネルギーで吸収済みの二酸化炭素を吸収体から脱離できる、二酸化炭素の回収方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1A】二酸化炭素の回収システムの第一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1Aの回収システムを異なる方向に見た図面である。
【
図3】本発明に係る回収方法の一例を示すフロー図である。
【
図4A】二酸化炭素吸収液を担持する基材の構造を模式的に示す断面図である。
【
図4B】第一吸収体の構造を模式的に示す断面図である。
【
図4C】第一吸収体の構造の別の例を模式的に示す断面図である。
【
図6】検証で用いたハロゲンランプのスペクトルである。
【
図7A】検証1の二酸化炭素の脱離結果を示すグラフである。
【
図7B】検証2の二酸化炭素の脱離結果を示すグラフである。
【
図8】回収システムの第二実施形態の構成を模式的に示す図面である。
【
図9】第二実施形態に係る反応槽の構造を模式的に示す断面図である。
【
図10】
図9に係る反応槽において、
図9とは別の場面を示す図面である。
【
図11】第二実施形態に係る熱源の構造を模式的に示す断面図である。
【
図13】回収システムの別実施形態の構成を模式的に示す図面である。
【
図15】回収システムの別構成例を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明に係る二酸化炭素の回収方法(以下、単に「回収方法」という。)について、以下において図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。
【0034】
[第一実施形態]
図1A及び
図1Bは、本発明に係る回収方法を実行可能な二酸化炭素の回収システム(以下、単に「回収システム」という。)の第一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
図1Aは、大気などの処理対象ガスG1が含む二酸化炭素を吸収する工程(後述する工程S2)が実行される場面に対応し、
図1Bは、吸収済みの二酸化炭素を脱離する工程(後述する工程S4)が実行される場面に対応する。
【0035】
また、
図2は、
図1Aの回収システムを異なる方向に見た図面である。
図1A、
図1B及び
図2を参照して、回収システム1の構成について説明した後、回収システム1によって実行される二酸化炭素の回収方法について説明する。
【0036】
以下の各図では、互いに直交するX方向、Y方向及びZ方向からなる、X-Y-Z座標系が適宜併記されている。典型的には、Z方向は鉛直方向である。この定義を基に説明すると、
図2は、
図1Aに係る回収システムをZ方向から見た図面に対応する。なお、後述するように、
図2では、反応槽2の構成の一部の図示が省略されている。
【0037】
図1Aに示すように、回収システム1は、反応槽2と、反応槽2の内部に位置し、二酸化炭素吸収性を示す吸収体3と、吸収体3に熱エネルギーを供給する熱源4とを備える。
【0038】
吸収体3は、前述したように、二酸化炭素を吸収する性質と、熱H1の供給によって吸収済みの二酸化炭素を脱離する性質とを有する二酸化炭素吸収材を含んで構成される。吸収体3は、例えば表面に細孔を有する粒状の多孔性物質からなり、当該細孔に二酸化炭素吸収材が担持されてなる。
【0039】
反応槽2は、吸収体3と、熱源4としての太陽光集熱部材15(以下、単に「集熱部材15」という。)と、集熱部材15の熱H1を効率的に吸収体3に伝達するための伝熱部材19を内部に収容する。また、反応槽2は、集熱部材15が太陽光C2を受光可能な様に+Z側に石英ガラスなどのガラス材料で構成された透光部20を有する(
図1Bも参照)。
【0040】
本実施形態では、
図2に示すように、板状を呈する伝熱部材19が、X方向に関して複数配置される。また、伝熱部材19は、集熱部材15の熱を吸収体3に効率的に伝達する観点から、+Z側において連結され、集熱部材15に対して直接的に配置されている(
図1B参照)。なお、
図2では、図示の便宜上、透光部20と、集熱部材15と、伝熱部材19の連結部分の図示が省略されている。
【0041】
本実施形態では、熱源4が反応槽2の内部に配置された例が示されているが、第二実施形態の項で後述するように、熱源4の配置はこの例に限られない。
【0042】
次に、回収システム1によって実行可能な、回収方法の一例について説明する。
【0043】
図3は、本発明に係る回収方法の一例を示すフロー図である。この回収方法1aは、二酸化炭素を吸収する前の状態である吸収体(以下、便宜上「第一吸収体3a」と称する。)を準備する工程S1と、第一吸収体3aに二酸化炭素を吸収させて、二酸化炭素を吸収済みの状態である吸収体(以下、便宜上「第二吸収体3b」と称する。)を準備する工程S2と、太陽光C2を熱H1に変換する工程S3と、工程S3で得た熱を第二吸収体3bに供給する工程S4と、S4の実行によって第二吸収体3bから脱離した二酸化炭素を含むガス(以下、便宜上、「回収ガスG2」という。)を回収する工程S5を含む。
【0044】
なお、工程S4及び工程S5の実行によって、第二吸収体3bは吸収済みの二酸化炭素を脱離した後、第一吸収体3aとなる。つまり、回収方法1aは、工程S5の実行後に工程S2以降の工程を繰り返すことができる。
【0045】
(工程S1:第一吸収体の準備)
まず、二酸化炭素を吸収する前の状態である吸収体(第一吸収体3a)が準備される。第一吸収体3aは、表面に細孔を有する多孔性物質からなる基材に対し、アミン系材料である環状ジアミンを含む二酸化炭素吸収液が担持されて準備される。環状ジアミンの一例として、イソホロンジアミン(IPDA)が挙げられる。
【0046】
二酸化炭素吸収液は、アミン系材料をPEG等の溶媒に分散させて調整される。一例として、溶媒をPEGとした際の、溶媒とアミン系材料の比率は1:1である。なお、アミン系材料の粘度等に応じて、二酸化炭素吸収液に対して、メタノールなどのアルコールを添加しても構わない。例えばメタノールを混合することにより、PEGとアミン系材料が混合された二酸化炭素吸収液の粘度を低下させることができる。
【0047】
図4Aは、基材10の構造を模式的に示す断面図である。
図4Aに示すように、基材10は、表面に無数の細孔11を有する固体材料である。そして、この基材10に対して、アミン系材料が分散された二酸化炭素吸収液が接触されて、細孔11に二酸化炭素吸収液が担持される。
図4Bは、上記操作を経て準備された第一吸収体3aの構造を模式的に示す断面図である。例えば、細孔11の口径D2は15nm以下とされる。なお、
図4A及び
図4Bでは、図示の便宜上、基材10の粒子径D1に対して、口径D2が誇張されている。
【0048】
また、
図4Cは、
図4Bに倣って、口径D2が比較的大きい場合(例えば数μm程度)の第一吸収体3aの構造を模式的に示す断面図である。口径D2は、例えば、細孔11に担持される二酸化炭素吸収液12の表面張力や、二酸化炭素の吸収能力に応じて適宜設計される。なお。担持された二酸化炭素吸収液12が、細孔11から剥がれ落ちることを抑制する観点から、口径D2は、0.1μm以下であることが好ましい。
【0049】
ここで、口径D2は、基材10の平均細孔径に対応するものとして構わない。
【0050】
また、二酸化炭素吸収液12にメタノールなどのアルコールを加えることで、二酸化炭素吸収液12の粘度が下げられる結果、二酸化炭素吸収液12を細孔11に好適に入り込ませることができる。この場合には、基材10に二酸化炭素吸収液12を担持させた後、基材10を加熱して、アルコールを蒸発させることが好ましい。例えば、メタノールが用いられた際の加熱条件は、60℃程度である。なお、アルコールを蒸発させる際は、基材10は、例えば60kPa程度の減圧雰囲気に置かれることが好ましい。
【0051】
また、基材10に二酸化炭素吸収液12を担持させる前に、基材10に対して、プラズマガスを吹き付けるか又は紫外線を照射してもよい。これにより、基材10に含まれる細孔11の表面の親水性を向上させることができ、二酸化炭素吸収液12を好適に担持させることができる。なお、これらの細孔表面の親水化処理に関しては、後段の[検証]の項で詳述される。
【0052】
上記の操作を経て得られた第一吸収体3aは、反応槽2の内部に投入される(
図1A参照)。
【0053】
このように、第一吸収体3aを準備する工程S1が、工程(a)に対応する。
【0054】
(工程S2:二酸化炭素の吸収工程)
図1Aに示すように、第一吸収体3aが内部に位置する反応槽2に対して、導入口5から二酸化炭素を含む処理対象ガスG1を導入し、第一吸収体3aに接触させる。
図2では、反応槽2内で処理対象ガスG1が通流する態様が模式的に示されている。これにより、第一吸収体3aは、処理対象ガスG1中の二酸化炭素を吸収し、二酸化炭素を吸収済みの第二吸収体3bが得られる。なお、理解を容易にする観点から、各図面において、二酸化炭素を吸収済みの第二吸収体3bに対してハッチングが施されている(
図1B等参照)。二酸化炭素の吸収によって、二酸化炭素濃度が低下した処理対象ガスG1は、排出口6を介して例えば外空間に排出される。
【0055】
なお、後述するように、反応槽2に対しては太陽光C2の照射が想定される(工程S3)。一方で、第一吸収体3aによる二酸化炭素の吸収を効率的に行う観点からは、反応槽2内の雰囲気を低温とすることが好ましい。このため、工程S2においては、図示しない任意の遮蔽部材によって、反応槽2に照射される太陽光C2を遮蔽するものとしても構わない。また、例えば夜間などの太陽光C2の照射が無い、又は少ない時間帯に工程S2を実行するものとしても構わない。
【0056】
処理対象ガスG1の例としては、大気や工場などからの排気ガスが挙げられる。特に処理対象ガスG1が排気ガスである場合には、反応槽2に導入する前に、処理対象ガスG1を冷却したり、処理対象ガスG1に含まれる、二酸化炭素の吸収を阻害する物質をスクリーニングする等の前処理が行われても構わない。
【0057】
このように、第一吸収体3aに対して二酸化炭素を吸収させて、第二吸収体3bを準備する工程S2が、工程(b)に対応する。
【0058】
(工程S3:太陽光を熱に変換する)
前述した通り、吸収済み二酸化炭素を第二吸収体3bから脱離させるためにはエネルギーが必要である。このため、第二吸収体3bに対し、熱H1の供給が行われる。本実施形態では、太陽光C2を変換して熱H1を得る。
【0059】
図1Bに示すように、熱源4は、反応槽2の鉛直上方(+Z側)に配置された集熱部材15で構成される。集熱部材15は、透光部20から取り込まれた太陽光C2を吸収して加熱される。例えば、集熱部材15は、太陽光C2を効率的に吸収する観点から、典型的には黒色のコーティングが施された、アルミニウム、銅等の金属で構成される。また、集熱部材15は、光に対して高い吸収率を示す、グラファイトなどの黒体材料でコーティングされても構わない。
【0060】
図1Bの例では、透光部20は、石英ガラスなどのガラス材料で構成された複数の透明部材21で構成される。また、これらの透明部材21の間には、減圧された低圧空間22が形成されている。低圧空間22の圧力は、例えば10kPa以下であり、典型的にはほぼ0気圧付近である。低圧空間22は、集熱部材15が変換した熱H1が、+Z側に伝わりにくくする観点で設けられているが、本発明は、低圧空間22が形成されるか否かに限定されない。
【0061】
(工程S4:第二吸収体に熱を供給する)
上記工程S3によって得られた熱H1を、第二吸収体3bに供給する。
図1Bに示すように、反応槽2は、集熱部材15の熱H1を第二吸収体3bに対して効率的に供給するための伝熱部材19を有する。典型的には、伝熱部材19は、集熱部材15に対して直接的に配置され、集熱部材15の熱によって加熱される。伝熱部材19としては例えば、アルミニウム、銅、セラミックスなどの熱伝達率が高い材料が利用できる。なお、伝熱部材19は集熱部材15と同じ材料で一体に構成されてもよい。
【0062】
図1Bに示すように、高温となった伝熱部材19が放射する熱H1が第二吸収体3bに供給されて、第二吸収体3bが加熱される。すなわち、本実施形態では、太陽光C2を熱H1に変換する工程S3及び第二吸収体3bに熱H1を供給する工程S4は自動的に実行される。
【0063】
また、二酸化炭素の脱離反応が進む第二吸収体の近傍では、二酸化炭素濃度が局所的に高くなる。二酸化炭素の脱離反応を効率的に進めるには、第二吸収体の近傍の二酸化炭素濃度を低くすることが好ましい。これは、二酸化炭素の脱離反応において、二酸化炭素の生成(脱離)側の系の二酸化炭素濃度を低くすることで、反応系を二酸化炭素の生成側に進みやすくするためである。このため、
図1Bに示すように、熱H1の供給と同時に、大気や窒素ガスなどの脱離促進ガスB1を導入口5から反応槽2の内部に導入しても構わない。
【0064】
なお、工程S4においては、熱H1を第二吸収体3bに供給するために、流体からなる伝熱媒体を用いてもよく、この構成は後段の第二実施形態で詳述される。
【0065】
このように、第二吸収体3bに熱H1を供給する工程S4が、工程(c)に対応する。
【0066】
(工程S5:脱離した二酸化炭素を回収する)
工程S4によって脱離された二酸化炭素を含む回収ガスG2は、例えば、排出口6を介して図示しない配管を介して植物工場等の二酸化炭素利用施設に送られる。ただし、本発明において、回収ガスG2の送出先は限定されない。
【0067】
このように、二酸化炭素を回収する工程S5が、工程(d)に対応する。
【0068】
[検証1]
上述した工程S1~S5を経て、二酸化炭素を効率的に回収できる点につき、実施例を参照して説明する。具体的には、
図1A、
図1B及び
図2を参照して述べた構成を用いて、処理対象ガスG1としての大気から二酸化炭素を回収する検証が行われた。
【0069】
図5は、
図1Bに倣って、本検証で用いた実験系を模式的に示す断面図である。
図5では、工程S3~工程S5の実行場面が図示されている。本実験系に係る反応槽2は、
図1A等を参照して述べたのと共通の構成を有するため、既述の説明については適宜省略する。本検証で用いた反応槽2の内部の寸法は、長さ(X方向)が5cm、幅(Y方向)が2cm、高さ(Z方向)が0.7cmである。
【0070】
集熱部材15として、寸法が長さ5cm、幅2cm、高さ0.2cmであり、黒体材料でコーティングされたアルミニウム製の板状部材が、高さ0.5cmの位置に設置された。
【0071】
本検証では、二酸化炭素吸収材としてイソホロンジアミンが用いられ、その溶媒としてPEGが用いられた。つまり、二酸化炭素吸収液12は、溶媒とするPEGとの体積比が1:1として調整されたイソホロンジアミン溶液である。
【0072】
イソホロンジアミン溶液を担持する固体材料としては、富士シリシア製の粒状のシリカが用いられた。このシリカは、平均粒径が1~5mmであり、比表面積が100~200m2/gである。
【0073】
まず、固体材料1gあたりに対して、イソホロンジアミン溶液の重量が数十wt%となるよう秤量し、当該イソホロンジアミン溶液にメタノールを一定の割合で添加し、混合液を調整した。そして、この混合液に固体材料1gを投入して攪拌した。攪拌は、50kPaの減圧雰囲気で、50℃程度で加熱しながら行われた。このように、イソホロンジアミン溶液を固体材料に含浸させた後、減圧雰囲気下で加熱してメタノールを蒸発させることで、第一吸収体3aを得た。
【0074】
なお、本検証では、第一吸収体3aの調整中に吸収された二酸化炭素を脱離させる観点から、メタノールを蒸発させる処理を行った後、窒素ガス(純度99.9%)を0.5L/分で通流させながら、第一吸収体3aを数時間70℃で加熱した。その後、第一吸収体3aの重量を秤量することで、固体材料に対するイソホロンジアミンの担持量を見積もったところ、18wt%であった。
【0075】
上記の操作を経て得られた第一吸収体3aを数g、反応槽2の内部に配置した。そして、処理対象ガスG1として、大気(二酸化炭素濃度は約400pm)を反応槽2に7.5mL/分の流量で数十時間導入し、二酸化炭素を吸収済みの第二吸収体3bを得た(工程S2)。
【0076】
二酸化炭素が第一吸収体3aに吸収されるため、第一吸収体3aと接触した後の処理対象ガスG1の二酸化炭素濃度は低下する。その後、第一吸収体3aによる二酸化炭素の吸収が終了すると(第二吸収体3b)、反応槽2を通過した処理対象ガスG1の二酸化炭素濃度は、反応槽2に導入される前の状態と同程度となる。したがって、本検証では、排出口6の後段で測定した処理対象ガスG1の二酸化炭素濃度が400ppmとなった時点で、第一吸収体3aが十分に二酸化炭素を吸収したと判断した。
【0077】
また、本検証では、太陽光C2を模擬して、ハロゲンランプ30を用いて集熱部材15に対して光L1を照射した(
図5参照)。
図6に、本検証で用いたハロゲンランプ30のスペクトルを示す。
図6に示すように、本検証で用いたハロゲンランプ30は、1000nm近傍に発光強度が最大となるピーク強度を有し、500nm~2000nmの範囲で、ピーク強度に対して40%以上の光強度を示す。なお、本検証では、ハロゲンランプ30に対する投入電力は50Wとされた。
【0078】
また、ハロゲンランプ30を点灯させて、吸収済み二酸化炭素の脱離を行う際、反応槽2に対して、7.5mL/分の流量で脱離促進ガスB1としての大気を通流させた。
【0079】
図7Aは、本検証の二酸化炭素の脱離結果を示すグラフである。
図7Aでは、横軸にハロゲンランプ30の点灯からの経過時間が示され、縦軸に排出口6の位置で測定された二酸化炭素濃度が示されている。
【0080】
図7Aに示すように、回収ガスG2の二酸化炭素濃度は、典型的な大気の二酸化炭素濃度である400ppm(0.04%)を上回った。これは第二吸収体3bが、光L1の照射によって加熱された集熱部材15から、熱H1の供給を受けて二酸化炭素を脱離したことによる。また、回収ガスG2の二酸化炭素濃度は、最大で約9600ppm(0.96%)に到達した。これは、大気に比べると24倍の二酸化炭素濃度である。この点からも、本検証では、第二吸収体3bから二酸化炭素の脱離が好適に行われたといえる。
【0081】
このように、少なくとも波長500nm~2000nmの範囲の光L1が熱H1に変換され、二酸化炭素の脱離に供されたことが本検証から明らかである。一方で、太陽光C2は特に波長500nmから波長2500nmにかけての強度が大きいことが知られている。つまり、本検証では、ハロゲンランプ30からの光L1が用いられたが、光L1を太陽光C2に置き換えた場合でも、同様に二酸化炭素の脱離が好適に行えることが理解できる。
【0082】
[検証2]
次に、二酸化炭素吸収材としてイソホロンジアミンを用いることで、二酸化炭素を効率的に回収できる点につき、実施例を参照して説明する。本検証では、上記検証1と同様に、処理対象ガスG1としての大気から二酸化炭素を回収する際に、二酸化炭素吸収材を異ならせる検証が行われた。具体的には、二酸化炭素吸収材としてイソホロンジアミンを用いた場合(実施例1)と、比較の例として、二酸化炭素吸収材としてポリエチレンイミンを用いた場合(比較例1)の検証を行った。
【0083】
(実施例1)
二酸化炭素の脱離の際、反応槽2内の温度が約60℃となるように熱の供給がされた点を除き、上記検証1で述べたのと同様の操作で実行された。
【0084】
(比較例1)
イソホロンジアミンに代えて、二酸化炭素吸収材としてポリエチレンイミンが用いられた点を除き、実施例1と同様の条件で実行された。
【0085】
図7Bは、
図7Aに倣って、本検証の二酸化炭素の脱離結果を示すグラフである。
図7Bでは、実施例1の結果が実線で、比較例1の結果が破線で示されている。
図7Bに示すように、実施例1及び比較例1では、回収ガスG2の二酸化炭素濃度が、大気の二酸化炭素濃度(0.04%)を上回った。この点から、両者において、熱の供給によって第二吸収体3bが、二酸化炭素を脱離したことがわかる。また、実施例1及び比較例1は、ともに約4時間の時点で回収ガスG2の二酸化炭素濃度が最大値を示す結果となった。
【0086】
しかし、比較例1では、回収ガスG2の二酸化炭素濃度が最大値を示した後、大気の二酸化炭素濃度(0.04%)に漸近するまでに約25時間以上を要する結果となった。これに対し、実施例1では、約10時間の経過時点で、二酸化炭素濃度が大気のそれに漸近した。回収ガスG2の二酸化炭素濃度が大気の二酸化炭素濃度に漸近するのは、二酸化炭素吸収材が、吸収済み二酸化炭素を脱離する反応を終えたことを示す。つまり、イソホロンジアミンは、ポリエチレンイミンと比べて、より短時間で、吸収済み二酸化炭素を脱離可能であることがわかる。
【0087】
前述したように、二酸化炭素の回収においては、二酸化炭素の吸収工程と脱離工程が繰り返される(
図3参照)。このとき、吸収工程で二酸化炭素を効率的に吸収する観点からは、当該吸収工程の前段の脱離工程で、吸収体から吸収済み二酸化炭素をなるべく多く脱離することが好ましい。
【0088】
この点に鑑みると、イソホロンジアミンは、60℃という比較的低温の温度環境であっても、数時間、遅くとも10時間程度で吸収済み二酸化炭素を脱離できるため、二酸化炭素吸収材として好適である。一方で、ポリエチレンイミンは、60℃の温度環境では二酸化炭素の脱離に長時間を要するため(
図7B)、数時間程度で吸収済み二酸化炭素を脱離するには、80℃~100℃以上の温度が必要であると推察される。このように、二酸化炭素吸収材として、イソホロンジアミンを用いることで、より少ない熱エネルギーで、多くの二酸化炭素の脱離が行うことができる。
【0089】
また、イソホロンジアミンは、1molあたりの二酸化炭素の吸収量が大きいことが分かった。具体的には、イソホロンジアミンの1molあたりの二酸化炭素の吸収量は、実施例1では0.7molであった。ポリエチレンイミンはポリマーであるため、1molあたりの二酸化炭素の吸収量を計算することは容易ではないが、これを考慮しても、イソホロンジアミンに対して1molあたりの二酸化炭素の吸収量は小さい。上記の通り、実施例1と比較例1では、イソホロンジアミンとポリエチレンイミンの体積が等しくされている。理解を容易にする観点から、仮に両者を1Lずつ用いたとして、それぞれの密度から重量を計算すると、イソホロンジアミンが920g、ポリエチレンイミンが1080gとなる。イソホロンジアミンの分子量は170.3g/molであるから、920gのイソホロンジアミンは5.4molである。一方で、ポリエチレンイミンは、分子量43.1g/molのエチレンイミンのポリマーである。これに基づくと、1080gのポリエチレンイミンは25.1molのエチレンイミンと考えることができる。
【0090】
上記に鑑みると、イソホロンジアミンは、ポリエチレンイミンの約1/5程度のモル量であるにもかかわらず、ポリエチレンイミンと比較して、吸収済み二酸化炭素の脱離量は同程度である(
図7B参照)。なお、吸収済み二酸化炭素の脱離が同程度であることは、同等の二酸化炭素の吸収を示すといえる。つまり、上記のモル量に基づくと、イソホロンジアミンの二酸化炭素の吸収量は、ポリエチレンイミンの約5倍であると考えられる。このことからも、イソホロンジアミンは、二酸化炭素の吸収能力が高く、二酸化炭素吸収材として好適であるといえる。なお、従来、二酸化炭素吸収材として知られるモノエタノールアミンの1molあたりの二酸化炭素の吸収量は、0.5mol程度である。これとの比較からも、イソホロンジアミンの二酸化炭素の吸収能力が高いことが理解できる。
【0091】
イソホロンジアミンが多くの二酸化炭素を吸収する点、及びイソホロンジアミンが少ない熱エネルギーで吸収済み二酸化炭素を脱離可能な点について、本発明者らは以下のように推察している。イソホロンジアミンは、前述の(1)式の通り、二酸化炭素と反応することで、カルバミン酸を形成する。ここで、イソホロンジアミンが二酸化炭素と反応して得られたカルバミン酸は、固相としてイソホロンジアミン溶液から析出し、液相と分離するという特徴がある。つまり、二酸化炭素を吸収する反応において、生成されたカルバミン酸が順次、反応系(液相)から除かれるため、反応系内で生成物であるカルバミン酸の濃度が高まりにくくなる結果、(1)式における二酸化炭素の吸収反応が進行しやすいと考えられる。この点が、イソホロンジアミンが優れた二酸化炭素吸収性を示す理由であると推察される。
【0092】
また、吸収済み二酸化炭素の脱離反応においては、熱の供給によって、イソホロンジアミン溶液の液相の温度が上昇する。これにより、固相であったカルバミン酸の溶解度が上昇して、液相中にカルバミン酸が溶解する。当該カルバミン酸は生成した際に固相として分離することから、液相と比較して、固相の状態が安定であると考えられる。これに鑑みると、固相で安定なカルバミン酸は、液相中では不安定となり、反応に要するエネルギーが低減すると予想される。この点が、60℃という比較的低温の温度環境であっても、イソホロンジアミンが二酸化炭素の脱離反応を示す理由であると推察される。
【0093】
なお、本検証では、二酸化炭素吸収材として、イソホロンジアミンが用いられた。しかし、イソホロンジアミンの構造に鑑みれば、環式の化合物であって、分子中に1級又は2級のアミノ基を2個有する環状ジアミンであれば、二酸化炭素と反応した際に固相のカルバミン酸を生成することが推察される。したがって、本検証に基づけば、環状ジアミンを二酸化炭素吸収材として採用することで、二酸化炭素の回収に要するエネルギーを低減できることが理解できる。
【0094】
さらに、前述の第一実施形態や後述する第二実施形態に示すように、二酸化炭素の脱離の際の熱エネルギーを太陽光から得ることで、二酸化炭素の回収に要するエネルギーのさらなる低減が可能である。太陽光の照射量は天候に左右されるという事情があるが、上記の通り、環状ジアミンを二酸化炭素吸収材として採用することで、従来よりも低エネルギーで吸収済み二酸化炭素の脱離が可能となるため、太陽光由来の熱の供給であっても、好適に吸収済み二酸化炭素の脱離が可能となる。
【0095】
[検証3]
前述の通り、二酸化炭素吸収液を固体材料に担持させることで、二酸化炭素吸収液中の環状ジアミンの濃度を高めることができ、より少ないエネルギーで二酸化炭素の脱離が可能となる。この点について、以下の実施例を参照して説明する。
【0096】
(実施例2)
上記実施例1と同様に吸収済み二酸化炭素の脱離を行った後、回収ガスG2の流量と二酸化炭素濃度から、回収された二酸化炭素量を得た。また、当該二酸化炭素量に基づいて、1日当たり100kgの二酸化炭素を回収するために必要なイソホロンジアミン、PEG、及びシリカの量を試算した。また、それぞれの比熱に基づいて、これらの材料から構成される第二吸収体3bの温度を室温から60℃に加熱して、二酸化炭素を脱離するために必要なエネルギー(以下、便宜上「脱離エネルギー」という。)を理論的に計算した。なお、イソホロンジアミン及びPEGの比熱は2.5kJ/kg Kとされ、シリカの比熱は0.92kJ/kg Kとされた。
【0097】
(比較例2)
水を溶媒として、約15wt%のイソホロンジアミン水溶液を調整し、実験用の二酸化炭素ガスをバブリングして、二酸化炭素を吸収させた。より詳細には、追加の二酸化炭素の吸収を示さなくなるまで二酸化炭素を吸収させた後、平衡状態とするために、大気雰囲気で1時間程度静置した。その後、当該水溶液を室温から60℃に加熱することで、二酸化炭素の脱離を行った。
【0098】
イソホロンジアミン水溶液から脱離した二酸化炭素を含むガスの流量及び二酸化炭素濃度から、脱離された二酸化炭素量を得た。そして、実施例2に倣って、1日当たり100kgの二酸化炭素を回収するために必要なイソホロンジアミン水溶液の量を試算した。また、イソホロンジアミン水溶液の比熱に基づいて、当該水溶液の温度を室温から60℃に加熱するために必要な脱離エネルギーを理論的に計算した。
【0099】
(比較例3)
イソホロンジアミン水溶液に代えて、エタノールを溶媒とする約1wt%のアゾベンゼン溶液を二酸化炭素吸収液とし、二酸化炭素の脱離の際の温度を40℃とした点を除き、比較例2と同様の条件で実行された。
【0100】
(検証3の結果)
下記、表1に、実施例2及び比較例2~3の各条件と、本検証で得られた計算結果を示す。
【表1】
【0101】
表1によれば、比較例2に対して、実施例2の脱離エネルギーは半分以下である。これは、実施例2では、イソホロンジアミンを含む二酸化炭素吸収液を固体材料に担持させたことで、二酸化炭素吸収液中のイソホロンジアミンの濃度を高められた結果、溶媒の温度上昇に消費されるエネルギーが低減したことによると考えられる。より詳細には、比較例2では、イソホロンジアミン水溶液の濃度は約15wt%である。これに対し、実施例2では、PEGとイソホロンジアミンに対するイソホロンジアミンの濃度は約50wt%と高い。なお、実施例2では、シリカを含めた場合のイソホロンジアミンの割合(担持量)は約20wt%である。
【0102】
前述の通り、二酸化炭素吸収液の濃度を高めると、粘度が高くなって取り扱いが困難になるという事情がある。しかし、二酸化炭素吸収液を固体材料に担持させることで、二酸化炭素吸収液の濃度が高い場合でも、容易に取り扱いが可能である。つまり、固体状の吸収体とすることで(実施例2)、二酸化炭素吸収液の濃度を高められる結果、熱エネルギーの利用効率が高まり、二酸化炭素の脱離エネルギーが低減される。
【0103】
なお、実施例2は、溶媒がPEGである点で、比較例2と異なる。前述の通り、PEGは水よりも比熱が小さい。つまり、比熱例2に対して実施例2の脱離エネルギーが低減した点について、実施例2の溶媒がPEGとされた影響も少なからず存在する。しかし、上記の通り、実施例2と比較例2は、二酸化炭素吸収液中のイソホロンジアミンの濃度が大きく異なっている。これに鑑みると、比較例2に対して実施例2の脱離エネルギーが低減された要因として、溶媒の比熱が小さくなった効果よりも、イソホロンジアミンの濃度が高められたことにより、熱エネルギーの利用効率が高まった効果が大きいことが理解できる。つまり、上記の議論は、溶媒がPEGであるか、又は水であるかに左右されない。
【0104】
比較例3では、二酸化炭素の脱離の際の温度を約40℃とした時点で、一定程度の二酸化炭素の脱離が確認された。このため、比較例3では、ΔTを20Kとして脱離エネルギーが計算された。また、比較例3は、溶媒として、水よりも比熱が小さいエタノールを用いている。これらの事情に鑑みれば、比較例3の脱離エネルギーは、比較的小さい値になることが想定される。しかし、比較例3の脱離エネルギーは23.2GJと、比較例2に対して大きな値となった。
【0105】
すなわち、表1によれば、二酸化炭素吸収材をイソホロンジアミンとすることで(比較例2)、ΔTが低く、溶媒の比熱が小さい比較例3と比較しても、脱離エネルギーを約1/5程度に低減できることが理解できる。このように、比較例3よりも比較例2の脱離エネルギーが小さくなったのは、比較例2のイソホロンジアミン水溶液の濃度が、比較例3よりも高いためと考えられる。つまり、比較例2及び比較例3の対比によっても、二酸化炭素吸収材の濃度を高めることで、脱離エネルギーが低減されることが理解できる。
【0106】
また、比較例3で用いたアゾベンゼンは、水やエタノールなどの溶媒に対する溶解度が低く、粘性が大きい材料である。このため、アゾベンゼン溶液は、例えば5wt%程度の濃度でも、二酸化炭素の吸収に供するのが困難であった。
【0107】
二酸化炭素吸収材の濃度を高めた状態で二酸化炭素の吸収に供する観点から、アゾベンゼン溶液を固体材料に担持させることも想定される。しかし、固体状の吸収体を容易に調整するためには、固体材料を含浸させる前の二酸化炭素吸収液の濃度が高いことが望ましい。この点、イソホロンジアミンは、比較例2に示すように、例えば約15wt%の濃度で水溶液を容易に調整できる。また、イソホロンジアミン溶液を固体材料に担持することで、溶媒に対するイソホロンジアミンの濃度を数十wt%に高めることも可能である(実施例2)。つまり、アミノ基を有し、溶媒に対する溶解度が大きい点も、イソホロンジアミンなどの環状ジアミンを二酸化炭素吸収材として用いる利点といえる。
【0108】
[検証4]
上述したように、第一吸収体3aを準備する工程S1において、基材10に二酸化炭素吸収液12を担持させる前に、基材10に対してプラズマガスを吹き付けるか又は紫外線を照射してもよい。この基材10に対する紫外線の照射による効果について検証を行ったので、以下において説明する。
【0109】
具体的には、検証1で上述したのと同様の方法で第一吸収体3aを調整する際、混合液に投入する前に、固体材料に対してXeエキシマランプを用いてピーク波長172nm近傍の紫外線を照射した。紫外線の照射は、放射照度が数十mW/cm2とされ、数秒間行われた。
【0110】
その後は、再び検証1で上述したのと同様に、メタノールの蒸発、加熱等の処理を経て、第一吸収体3aの重量を秤量し、固体材料に対するイソホロンジアミンの担持量を見積もった。紫外線を照射していない、検証1で得られた前記担持量との対比結果を下記表1に示す。
【0111】
【0112】
表2によれば、固体材料に対して紫外線を照射することで、固体材料におけるイソホロンジアミンの担持量が、紫外線の照射が無い場合(検証1)の約1.2倍となった。これは、紫外線の照射によって、固体材料の細孔表面に親水性の官能基が形成された結果、イソホロンジアミンを含む二酸化炭素吸収液に対する細孔表面のぬれ性が向上したためと考えられる。
【0113】
固体材料における二酸化炭素吸収材の担持量を増加させることで、吸収体の二酸化炭素吸収能力を高められる。また、細孔表面の二酸化炭素吸収液に対するぬれ性が向上される結果、二酸化炭素の吸収工程及び脱離工程に係る操作を繰り返した際に(
図3参照)、細孔表面からの二酸化炭素吸収液の剥がれ落ちが抑制されると推察される。つまり、固体材料に対する紫外線の照射を行った後に、二酸化炭素吸収液を担持させることで、二酸化炭素の回収が繰り返し行われた場合でも、二酸化炭素吸収液の剥がれ落ちによる吸収体の劣化が抑制される。これにより、回収システム全体を見た時の二酸化炭素の回収能力の維持が期待できる。
【0114】
固体材料の細孔に対してプラズマガスを吹き付けることによっても、細孔表面に親水性の官能基を形成できる。つまり、本検証の結果に基づけば、プラズマガスの吹き付けによっても、細孔表面を親水化し、固体材料における二酸化炭素吸収材の担持量を増加できることが推察される。
【0115】
[検証5]
二酸化炭素吸収材として、イソホロンジアミンとは異なる環状ジアミンを用いた場合を検討したので、以下、実施例3として説明する。
【0116】
(実施例3)
実施例3では、イソホロンジアミンに代えて、二酸化炭素吸収材として、4,4-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)が用いられた。以下、便宜上、当該アミン系材料を「MBMCA」とする。
【0117】
実施例3では、検証3の実施例2に倣って、二酸化炭素の吸収、及び脱離の操作が実行され、実験値から脱離エネルギーが計算された。また、アミン系材料の特徴に鑑みて、二酸化炭素の吸収、及び脱離の操作を繰り返した時の第一吸収体3aの重量変化が評価された。
【0118】
具体的には、検証1の項で述べたのと同様に、固体材料1gあたりに対して、MBMCA溶液の重量が数十wt%となるよう秤量した後、攪拌用に添加したメタノールの蒸発、及び加熱等の処理を経て、第一吸収体3aを得た。
【0119】
次に、上記の操作を経て得られた第一吸収体3aを反応槽2内に配置して、第一吸収体3aに対して二酸化炭素を吸収させた(工程S2)。そして、吸収済み二酸化炭素の脱離のために熱供給が実行された(工程S4)。二酸化炭素の吸収工程S2、及び熱の供給工程S4のそれぞれの操作は、上記検証2の実施例1と同様である。
【0120】
検証3で述べたのと同様の方法で、MBMCAの二酸化炭素の脱離エネルギーを評価したところ、MBMCAの脱離エネルギーは約2GJとなり、イソホロンジアミンの脱離エネルギーとほぼ同等の値となった。また、MBMCAの1molあたりの二酸化炭素の吸収量についても、イソホロンジアミンと同程度の値となった。
【0121】
つまり、イソホロンジアミンに代えて、環状ジアミンであるMBMCAを二酸化炭素吸収材として用いた場合でも、検証3の実施例2で述べたのと同様に、二酸化炭素の脱離エネルギーが低減されることが理解できる。なお、環状ジアミンを用いることで、二酸化炭素の脱離エネルギーを低減できる点に関しては、前述の通りである。
【0122】
また、MBMCAは、分子量が約288g/molと大きく、沸点が約340℃と比較的高いという特徴を有する。これに鑑みて、二酸化炭素の吸収、及び脱離の操作を繰り返した時の第一吸収体3aの重量変化を評価した。
【0123】
ここで、吸収済み二酸化炭素を脱離するための熱供給によって、固体材料に担持された一部のアミン系材料が蒸発してしまう場合がある。より詳細には、二酸化炭素の吸収工程においては、大気等の処理対象ガスG1中の水分が、二酸化炭素と共に第一吸収体3aに吸着され、アミン系材料が局所的に水溶液状態となると想定される。この状態で、二酸化炭素の脱離のための熱供給が行われることで、一部のアミン系材料が上記水分と共に蒸発しやすくなると考えられる。
【0124】
第一吸収体3aからのアミン系材料の蒸発が顕著になると、第一吸収体3aをより早期に交換する必要が生じる。このため、第一吸収体3aの二酸化炭素の回収能力の維持に鑑みると、アミン系材料の蒸発に起因する、第一吸収体3aの重量変化を抑制するのが好ましい。
【0125】
これに対し、MBMCAが担持された第一吸収体3aに対して、二酸化炭素の吸収、及び脱離の操作を所定の回数繰り返したところ、当該第一吸収体3aの重量変化は小さく、1%以下の結果であった。
【0126】
このように、第一吸収体3aの重量変化が1%以下と小さい値に抑制されたのは、MBMCAの沸点が高いことに起因すると考えられる。分子量が大きく、高い沸点を有することに鑑みて、MBMCA等の環状ジアミンを、二酸化炭素吸収材として採用しても構わない。つまり、アミン系材料として、MBMCAを採用することにより、熱供給等によるアミン系材料の蒸発を抑制しつつ、二酸化炭素の吸収量を高めることができると考えられる。
【0127】
また、本検証に鑑みると、二酸化炭素吸収材として、4,4-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)を採用するのも好適である。以下、便宜上、当該アミン系材料を「MBCA」とする。
【0128】
MBCAは、MBMCAと類似の構造を有する環状ジアミンであると共に、分子量が約210g/molと大きく、沸点が約330℃と比較的高いという特徴を有する。これに鑑みると、二酸化炭素吸収材としてMBCAを採用した場合でも、MBMCAと同様に、熱供給等によるアミン系材料の蒸発を抑制しつつ、二酸化炭素の吸収量を高めることができると考えられる。
【0129】
つまり、二酸化炭素の吸収、及び脱離の操作を繰り返した際の、第一吸収体3aの重量変化が抑制されるという点で、MBMCAやMBCAは好適な材料である。これに鑑みて、アミン系材料として、MBMCA、又はMBCA等の環状ジアミンを採用しても構わない。
【0130】
[検証6]
次に、二酸化炭素吸収液12を担持する固体材料を、炭素材料で構成する効果を検証したので、以下において実施例4として説明する。具体的には、検証1で上述したのと同様の方法で第一吸収体3aを調整する際、イソホロンジアミン溶液を担持する固体材料を異ならせた。本検証では、二酸化炭素の吸収、及び脱離の操作を繰り返した時の第一吸収体3aの重量変化が評価された。
【0131】
(実施例4)
イソホロンジアミン溶液を担持する固体材料として、ペレット状の活性炭を用いた点を除き、上記検証1と同様の方法で、第一吸収体3aを調整した。当該活性炭は円柱型状を呈し、平均粒径が1.5mm~3.0mmであり、高さは5mm程度であった。また、比表面積は約3000m
2/gであり、細孔容積は1.47ml/gであった。さらに、当該活性炭が有する細孔11の口径D2は、1.8nmであった(
図4A参照)。
【0132】
検証1の項で述べたのと同様に、固体材料1gあたりに対して、イソホロンジアミン溶液の重量が数十wt%となるよう秤量した後、攪拌用に添加したメタノールの蒸発、及び加熱等の処理を経て、第一吸収体3aを得た。
【0133】
次に、上記の操作を経て得られた第一吸収体3aを反応槽2内に配置して、第一吸収体3aに対して二酸化炭素を吸収させた(工程S2)。そして、吸収済み二酸化炭素の脱離のために熱供給が実行された(工程S4)。二酸化炭素の吸収工程S2、及び熱の供給工程S4のそれぞれの操作は、上記検証2の実施例1と同様である。
【0134】
固体材料が活性炭とされた第一吸収体3aに対して、二酸化炭素の吸収、及び脱離の操作を所定の回数繰り返したところ、当該第一吸収体3aの重量変化は、極めて小さく、0.1%以下であった。
【0135】
本発明者らは、実施例4において、第一吸収体3aの重量変化が0.1%以下と、極めて小さい値に抑制された要因について、以下のように推察している。活性炭等の炭素材料では、炭素原子が構成する六員環、又は五員環の環構造が不規則に積み重なっている。一方で、イソホロンジアミン等の環状ジアミンも環式の化合物であり、構造中に環構造を有する。炭素材料、及び環状ジアミンの両者が、環構造を有するため、両者の環構造の間に、π電子相互作用に由来する結合力が生ずると推察される。
【0136】
つまり、実施例4において、第一吸収体3aの重量変化が極めて小さくなったのは、固体材料が活性炭とされることで、イソホロンジアミンと固体材料との間にπ電子相互作用に由来する結合力が発生し、イソホロンジアミンが固体材料に対してより強固に担持されたためではないかと推察される。
【0137】
また、活性炭等の炭素材料が有する細孔11の内部には、口径D2より小さい微小孔が存在するのが典型的である。当該微小孔が存在することによって生ずるアンカー効果も、固体材料に対するイソホロンジアミンの担持に寄与していると推察される。
【0138】
上記検証5でも述べた通り、第一吸収体3aからのイソホロンジアミンの蒸発が顕著になると、第一吸収体3aをより早期に交換する必要が生じる。このため、第一吸収体3aの二酸化炭素の回収能力を維持する観点から、イソホロンジアミンの蒸発に起因する、第一吸収体3aの重量変化を抑制するのが好ましい。
【0139】
これに対し、実施例4では、第一吸収体3aの重量変化が小さく、イソホロンジアミンの蒸発が抑制されている。つまり、実施例4では、固体材料が活性炭とされることで、固体材料に対してイソホロンジアミンがより強固に担持される結果、イソホロンジアミンの蒸発が抑制されたと推察される。第一吸収体3aの重量変化を抑制するという観点から、二酸化炭素吸収液を担持する固体材料として、活性炭等の炭素材料を採用しても構わない。また、上記においては、アミン系材料がイソホロンジアミンであるものとして述べたが、アミン系材料が例えばMBMCA等の環状ジアミンとされる場合でも、同様の議論が可能である。
【0140】
さらに、活性炭が有する細孔11の口径D2がより大きくなれば、当該細孔に担持された二酸化炭素吸収液12と、処理対象ガスG1に含まれた二酸化炭素とが接触する面積が大きくなり、より効率的に二酸化炭素の吸収が行われると考えられる。
【0141】
ここで、実施例2において、固体材料として用いられたシリカの細孔11の口径D2は50nmであった。また、本発明者らは、一例として、口径D2がそれぞれ10nm、30nmである細孔11を有するシリカに対して、実施例2と同様に二酸化炭素吸収液12を担持させて、二酸化炭素の吸収、及び脱離の操作を実行したところ、細孔11の口径D2が大きくなるにつれて、二酸化炭素の吸収量が大きくなることを確認した。固体材料が有する細孔11の口径D2が大きくなることで、二酸化炭素の吸収が効率的に行われる点については、固体材料が活性炭とされた場合でも、同様であると考えられる。
【0142】
一方で、本発明者らは、シリカに対して二酸化炭素吸収液12を担持させる場合において、当該シリカが有する細孔11の口径D2が0.1μmを超えると、担持された二酸化炭素吸収液12の一部が、細孔11から剥がれ落ちる現象を確認した。この現象は、活性炭が有する細孔11においても同様に起き得ると推察される。
【0143】
上記に鑑みると、活性炭等の炭素材料が有する細孔11の口径D2は、30nm~0.1μmの範囲とされるのが好ましい。
【0144】
つまり、炭素材料で構成された多孔性物質であって、細孔に環状ジアミンが担持された吸収体によれば、熱供給等に起因する環状ジアミンの蒸発を抑制しながら、当該環状ジアミンにより好適に二酸化炭素の吸収、及び脱離を行うことが可能である。また、前述の通り、当該多孔性物質の平均細孔径は、30nm~0.1μmの範囲であることが好ましい。
【0145】
活性炭は、ヤシ殻やおが屑等の木質材料を、従来公知の方法で賦活処理することで製造可能である。一例として、活性炭は、木質材料を水酸化カリウム等の賦活剤を用いて賦活処理(「アルカリ賦活」ともいわれる。)することで製造される。また、活性炭の製造方法としては、木質材料を水蒸気等のガスを用いて賦活処理(「ガス賦活」ともいわれる。)する方法も採用できる。活性炭が有する細孔11の口径D2は、賦活処理の条件を適宜変更することにより、調整が可能である。
【0146】
また、固体材料が炭素材料で構成された場合でも、第一吸収体3aを準備する工程S1において、二酸化炭素吸収液12を担持させる前に、固体材料に対してプラズマガスを吹き付けるか、又は紫外線を照射しても構わない。
【0147】
検証4の項で述べたように、固体材料の細孔11に対して、紫外線の照射、又はプラズマガスの吹き付けを実行することで、細孔表面に親水性の官能基が形成される。当該官能基の具体例は水酸基(-OH)であるが、当該水酸基では、電子が酸素原子に局在化しており、酸素原子が帯電した状態にある。
【0148】
このため、当該細孔に形成された水酸基と、イソホロンジアミン等のアミン系材料中の炭素原子や水素原子との間には、双極子相互作用に由来する結合力が生じると考えられる。当該結合力により、炭素材料の細孔11に対して二酸化炭素吸収液12がより強固に担持されると考えられる。これにより、第一吸収体3aを調整する際の担持割合が増加すると共に、二酸化炭素の脱離の際のアミン系材料の蒸発が抑制されると考えられる。
【0149】
上記に鑑みると、二酸化炭素吸収液12を担持させる前に、活性炭等の炭素材料の細孔11に対して、プラズマガスを吹き付ける、又は紫外線を照射するのが好適である。
【0150】
さらに、第一吸収体3aの調整の際に、炭素材料と環状ジアミンであるアミン系材料とのπ電子相互作用に由来する結合力を利用する態様は、固体材料を炭素材料とする例に限られない。例えば、固体材料がシリカで構成される場合においても、二酸化炭素吸収液12を細孔11に担持する際に固体材料が投入される混合液に対して、例えば繊維状、又は粉末状の炭素材料を添加してもよい。当該炭素材料としては、例えばカーボンナノチューブ等の炭素繊維が挙げられる。一例として、アミン系材料、PEG等の溶媒、及び当該炭素材料の重量比は75:25:100とされる。
【0151】
混合液に添加された炭素材料は、二酸化炭素吸収液12と共に、細孔11内に担持される。この際、当該炭素材料と、二酸化炭素吸収液12中のアミン系材料との間には、前述したπ電子相互作用に由来する結合力が生じる。当該結合力により、炭素材料からのアミン系材料の脱離が抑制される結果、例えば吸収済み二酸化炭素の脱離のために熱が供給されても、当該アミン系材料が細孔11から蒸発しにくくなると考えられる。
【0152】
加えて、上記の議論に鑑みると、固体材料は、セルロースを含む多孔性物質で構成されても構わない。
【0153】
セルロースの分子構造の一例を下記(2)式に示す。(2)式に示すように、セルロースは、炭素原子を含む六員環構造を有するため、π電子相互作用によって、イソホロンジアミン等の環状ジアミンとより強く結合すると考えられる。また、セルロースは、水酸基を多数有するため、セルロースとアミン系材料との間の前述の双極子相互作用に由来する結合力の増大も期待できる。このように、セルロースを含む多孔性物質に対して、二酸化炭素吸収液12を担持させることで、固体材料に対して効率的に二酸化炭素吸収液12を担持させる、又は二酸化炭素の脱離操作による二酸化炭素吸収液12の劣化を抑制することができる。
【化2】
【0154】
セルロースを含む多孔性物質は、木材等から得られる植物繊維(「パルプ」ともいわれる。)を解繊することで得られるセルロースファイバーと、樹脂材料とを混合して製造される。当該樹脂材料としては、例えばポリプロピレン、又はポリエチレン等が挙げられる。
【0155】
より具体的には、セルロースファイバーは、パルプを水溶液中に分散させた状態で、TEMPO酸化等の化学処理や、破砕等の機械処理によりパルプを解繊することで得られる。セルロースファイバーと、樹脂材料とを混合して成形することで、粒状、又はペレット状の固体材料を製造することができる。例えばセルロースファイバーと樹脂材料の比は、7:3とされる。
【0156】
当該固体材料は、繊維状のセルロースファイバー同士の間隙により構成される細孔を有する、多孔性物質である。当該細孔の口径は例えば50nm程度となる。なお、当該細孔の口径は、セルロースファイバーの解繊条件を調整して、セルロースファイバーの太さや長さを変更することで適宜調整可能である。セルロースを含む多孔性物質においても、上記の炭素材料と同様に、細孔の口径は50nm~1μmとされるのが好ましい。
【0157】
セルロースファイバーは、木材等を原材料とするため、排気焼却時に排出される二酸化炭素を吸収しているカーボンニュートラルな素材である。また、セルロースファイバーは、間伐材や、例えばトウモロコシ等の食材の非可食部からも製造することが可能である。つまり、セルロースファイバーを利用することで、二酸化炭素を回収するシステムの稼働に由来する二酸化炭素の排出量を低減でき、好適である。
【0158】
上記の通り、本発明によれば、従来の方法と比較して、投入エネルギー量を低下させながらも二酸化炭素の回収効率を高めることが可能となる。このことは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」にも大きく貢献するものである。
【0159】
[第二実施形態]
以下、二酸化炭素の回収システムの第二実施形態について、第一実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0160】
上記第一実施形態では、熱源4が反応槽2の内部に配置されたが、熱源4は反応槽2の外側において反応槽2とは独立した位置に配置することも可能である。つまり、本実施形態では、熱源4によって加熱された伝熱媒体が、反応槽2の内部に導入され、反応槽2内部の第二吸収体3bに対して熱H1を供給する。
【0161】
図8は、回収システム1の第二実施形態の構成を模式的に示す図面であり、一部の構成要素がブロック図にて示されている。
図8に示すように、本実施形態に係る回収システム1は、反応槽2と、熱源4と、熱源4と反応槽2を連絡する第一流路31と、処理対象ガスG1を反応槽2に導入する第二流路32と、処理対象ガスG1等の通流方向に関して反応槽2の後段に位置する第三流路33を備える。なお、
図8では、工程S4(
図3参照)の場面が図示されており、伝熱媒体A1としての大気が第一流路31から反応槽2に導入される場面が描かれている。
【0162】
本実施形態では、図示しない送風ファンなどの通流機構によって反応槽2に送り込まれる大気が伝熱媒体A1として利用される。また、本実施形態では、処理対象ガスG1は大気である。このため、回収システム1は、第二流路32を通流する大気の流量を制御可能な第一バルブV1と、第一流路31を通流する大気の流量を制御可能な第二バルブV2と、各バルブ(V1,V2)の開閉状態を制御する制御部8を備える。
図8では、第一バルブV1が閉状態とされ、第二バルブV2が開状態とされており、バルブの開閉状態を模式的に表現するために、各バルブの配管に対する位置が異なるように描かれている。
【0163】
また、反応槽2は、反応槽2の内部空間の温度を計測する温度計9を有する。制御部8は、後述するように、温度計9からの反応槽2内の温度情報d0に基づいて、各バルブ(V1,V2)に対して、バルブの開度を調整する信号(d1,d2)を送信可能である。
【0164】
以下、本実施形態の構成について、
図9~
図12を参照しつつ説明する。
図9及び
図10は、反応槽2の構造を模式的に示す断面図であり、
図9が工程S2の場面に対応し、
図10が工程S4の場面に対応する(
図3参照)。また、
図11及び
図12は熱源4の構造を模式的に示す断面図であり、
図12は
図2に倣って、
図11に係る熱源4をZ方向から見た際の図面である。
【0165】
図9に示すように、反応槽2の内部には、前述した工程S1を経て準備された第一吸収体3aが配置される。そして、第二バルブV2が閉状態、第一バルブV1が開状態とされて、処理対象ガスG1としての大気が導入口5bを介して反応槽2に導入される。第一吸収体3aが、処理対象ガスG1に含まれる二酸化炭素を吸収することで、第二吸収体3bが得られる(工程S2)。
【0166】
次に、熱源4によって、工程S3が実行される。
図11に示すように、熱源4は、加熱槽4aと、加熱槽4aの鉛直上方(+Z側)に配置された集熱部材15と、集熱部材15に直接的に配置された伝熱部材19と、太陽光C2を内部に取り込むための透光部20を有する。なお、
図12では、図示の便宜上、透光部20、集熱部材15、及び伝熱部材19の一部が省略されて示されている。熱源4は、第一実施形態に係る反応槽2と共通の構造を有するため、共通部分についての説明は簡略化される。
【0167】
図11に示すように、伝熱媒体A1としての大気が、導入口5を介して加熱槽4aの内部に導入される。そして、集熱部材15が太陽光C2を変換した熱H1によって高温となった伝熱部材19に、伝熱媒体A1が接触し、加熱される。その後、伝熱媒体A1は排出口6から排出され、第一流路31を介して反応槽2に送り込まれる。なお、透光部20については第一実施形態と同様の議論が可能である。
【0168】
伝熱部材19と伝熱媒体A1が接触する面積を増やす観点から、伝熱部材19は、
図12に示すように、例えば板状の部材で構成されて、その主面が伝熱媒体A1の通流方向に関して略垂直になるように配置されても構わない。同様の観点から、Y方向に関して加熱槽4aの内壁と伝熱部材19の間に位置し、伝熱媒体A1が通過する通流部25が、X方向(通流方向)に見た際に伝熱媒体A1の通流方向に関して後段に位置する伝熱部材19の主面に重なる構成とされても構わない。なお、ここでいう「主面」とは、板状の伝熱部材19が有する面のうち、他の面よりも遥かに面積の大きい面を指す。
【0169】
熱源4によって加熱された伝熱媒体A1としての大気が、
図10に示すように、導入口5aを介して第二吸収体3bが位置する反応槽2内部に導入される。この際、典型的には第二バルブV2が開状態とされ、第一バルブV1が閉状態とされる。このように、第二吸収体3bに対して高温の伝熱媒体A1が接触されて、第二吸収体3bに対して熱H1が供給される(工程S4)。
【0170】
熱H1の供給によって第二吸収体3bから脱離した二酸化炭素を含む回収ガスG2は、排出口6aを介して回収される(工程S5)。
【0171】
なお、本実施形態では、伝熱媒体A1として大気が利用されるため、伝熱媒体A1を反応槽2内部に導入することによって、第二吸収体3b近傍の二酸化炭素濃度を低くすることができる。つまり、伝熱媒体A1としての大気は、二酸化炭素の脱離を促進する脱離促進ガスB1としての機能も奏する。
【0172】
伝熱媒体A1としての大気によって、第二吸収体3bを加熱することで、吸収済みの二酸化炭素が脱離されるが、吸収体3を繰り返し利用する観点から(
図3参照)、第二吸収体3bに対する熱影響が低減されることが好ましい。このため、制御部8は、温度計9からの温度情報d0を受信して、反応槽2内の温度が所定値以上である場合には、第一バルブV1に対して開度を調整する信号d1を送信する。第一バルブV1の開度を調整することで、伝熱媒体A1より低温の大気が導入可能なため、反応槽2内の温度を低下させ、第二吸収体3bに対する熱影響を低減できる。つまり、この場合の大気は「冷却ガス」に対応する。また、反応槽2内の温度の冷却を促進する観点から、第二バルブV2に対して信号d2を送信して、第二バルブV2の開度を調整しても構わない。なお、所定値は、一例として吸収体3を構成する二酸化炭素吸収材の沸点などの熱耐性を考慮して決定される値である。所定値は、例えば、100℃以下とされてもよく、好ましくは80℃以下であり、より好ましくは60℃以下である。
【0173】
なお、本実施形態では、制御部8が温度計9からの温度情報d0に基づいて、各バルブ(V1,V2)の開度を調整し、工程S4における反応槽2内の温度を低下させる例を説明した。しかし、制御部8は、例えばV2が開状態とされた累積時間が予め設定された時間に到達した場合に、所定の時間、第一バルブV1を開状態として第二バルブV2を閉状態とする制御を行うものとしても構わない。
【0174】
本実施形態では反応槽2に導入される伝熱媒体A1を加熱する構成を示したが、
図1を参照して述べたように、反応槽2内に配置されて、伝熱媒体A1及び第二吸収体3bを加熱する熱源4の構成を併用しても構わない。
【0175】
[別実施形態]
〈1〉
図13及び
図14は、回収システム1の別実施形態の構成を模式的に示す図面であり、構成の一部がブロック図で示されている。
図13は、工程S2が実行される場面に対応し、
図14は、工程S4及び工程S5が実行される場面に対応する。
【0176】
本実施形態は、伝熱媒体A1としての大気と、反応槽2から回収された二酸化炭素を含む回収ガスG2との間で熱交換を行う熱交換機36を備える(
図14参照)。また、回収システム1は、第三流路33から分岐され、反応槽2を通流した後の処理対象ガスG1が通流する第四流路34と(
図13参照)、第四流路34に配置された第四バルブV4を有する。なお、反応槽2及び熱源4の構成については、
図9~
図12を参照して述べたのと同様の議論が可能である。
【0177】
図13に示すように、工程S2の実行場面では、第二流路32に配置された第一バルブV1及び第四バルブV4が開状態とされて、図示しないファンなどの通流機構によって反応槽2内に処理対象ガスG1が導入される。反応槽2内で、第一吸収体3aによって二酸化炭素が吸収された処理対象ガスG1は、第四流路34を介して例えば外空間に排出される。
【0178】
図14に示すように、工程S4及び工程S5の実行場面では、伝熱媒体A1としての大気が通流する第一流路31に配置された第二バルブV2と、回収ガスG2が通流する第三流路33に配置された第三バルブV3が開状態とされる。本実施形態では、
図14に示すように、伝熱媒体A1として、植物工場35で植物が生育される空間(以下、便宜上、「生育空間35a」という。)における大気を利用する。さらに、反応槽2内の第二吸収体3bから脱離された二酸化炭素を含む回収ガスG2は、生育空間35aで利用可能である。回収ガスG2は、第二吸収体3bを加熱することで脱離された二酸化炭素を含むため、伝熱媒体A1としての大気よりも高い温度を有する。したがって、回収ガスG2と伝熱媒体A1としての大気との間で熱交換を行うことが好ましい。
【0179】
なお、微量ではあるが、熱H1の供給によって、第二吸収体3bに含まれる環状ジアミンが蒸発する場合がある。このため、回収ガスG2は、熱H1の供給よって蒸発した微量の環状ジアミン由来の成分を含むことが想定される。これに鑑みると、回収ガスG2と、植物工場35内の図示しない水耕栽培用の排水との間で熱交換を行い、回収ガスG2を冷却することが好ましい。回収ガスG2を冷却することで、環状ジアミン由来の成分を冷却トラップし、生育空間35a内に環状ジアミン由来の成分が流入することを抑制できる。なお、伝熱媒体A1としての大気に十分な熱を供給するため、冷却トラップとしての熱交換は、当該大気と回収ガスG2との間で熱交換を行った後に実行されることが好ましい。
【0180】
なお、植物工場35では、植物固有の概日リズム(サーカディアンリズム)に合わせて生育用の照明を点灯又は消灯することが想定される。つまり、当該照明が点灯される間は、植物の光合成により、生育空間35aの二酸化炭素濃度が低下する。したがって、前述した脱離促進ガスB1としての効果を高める観点から、生育空間35aにおける大気を伝熱媒体A1として利用することが好ましい。なお、植物の呼吸等によって、生育空間35aの二酸化炭素濃度が高い場合(典型的には生育用の照明が消灯される間)には、例えば外空間などの別の空間の大気を伝熱媒体A1として利用しても構わない。
【0181】
〈2〉 上記第二実施形態では、工程S4において、伝熱媒体A1としての大気が反応槽2の内部空間に導入されるものとした。しかし、
図15に示すように、反応槽2の外側を通流する伝熱媒体A1と、第二吸収体3bが内部に位置する反応槽2との間で熱交換を行っても構わない。
図15は、回収システム1の別構成例の一部を模式的に示す図面である。また、
図16Aは、
図15における熱源4の構成を模式的に示す斜視図であり、
図16Bは、
図16Aの熱源4をX方向から見た際のZY断面図である。なお、
図16A及び
図16Bでは、伝熱媒体A1の通流方向がX方向とされている。
【0182】
図16Aに係る熱源4は、例えば
図16Bに示すようにL字型の断面形状を有し、その内部に伝熱媒体A1としての水が収容されている。熱源4は、外壁面の一部に平板状の集熱部材15を有し、集熱部材15が太陽光C2を吸収することで加熱され、高温の水(以下、「温水」と記載する)を生成する。集熱部材15が効率的に太陽光C2を受光出来るように、熱源4は架台41等の傾斜面に配置されるのが典型的である。温水は、流路40を通流するように構成され、伝熱媒体A1としての温水と、反応槽2との間で熱交換を行うことで、反応槽2内の第二吸収体3bに対して熱H1を供給することができる。
【0183】
なお、この際、反応槽2内の二酸化炭素濃度を低下させ、第二吸収体3bからの吸収済み二酸化炭素の脱離を促進する観点から、例えば第二流路32から脱離促進ガスB1としての大気を反応槽2内に導入しても構わない(
図15参照)。
【0184】
〈3〉 また、
図15では、流路40を通流する伝熱媒体A1としての温水と、反応槽2との間で熱交換を行う例を説明した。しかし、当該温水と、
図8及び
図10を参照して述べた第一流路31を通流する伝熱媒体A1としての大気との間で熱交換を行っても構わない。つまり、当該熱交換によって高温となった大気が反応槽2に導入されることで、第二吸収体3bに熱H1が供給され(
図10参照)、吸収済み二酸化炭素の脱離が行われる。
【0185】
〈4〉 上記実施形態は適宜組み合わせて実現できる。例えば、
図8又は
図15に係る反応槽2の内部に、追加的に熱源4が配置されても構わない。当該反応槽2の構成としては、例えば
図1を参照して述べた構成が利用できる。
【0186】
〈5〉 上記においては、吸収体3が粒状であるものとして説明したが、前述したように吸収体3の形状はこれに限られず、例えば板状であっても構わない。
【0187】
〈6〉 上記においては、第二吸収体3bに対して、太陽光C2を変換した熱H1を供給するものとしたが、本発明において、第二吸収体3bに対する熱の供給方法は限定されない。例えばヒータやボイラーなどを用いて、第二吸収体3bを加熱しても構わない。
【符号の説明】
【0188】
1 : 回収システム
1a : 回収方法
2 : 反応槽
3 : 吸収体
3a : 第一吸収体
3b : 第二吸収体
4 : 熱源
4a : 加熱槽
5,5a,5b : 導入口
6,6a : 排出口
8 : 制御部
9 : 温度計
10 : 基材
11 : 細孔
12 : 二酸化炭素吸収液
15 : 集熱部材
19 : 伝熱部材
20 : 透光部
21 : 透明部材
22 : 低圧空間
25 : 通流部
30 : ハロゲンランプ
31,32,33,34,40 : 流路
35 : 植物工場
35a : 生育空間
36 : 熱交換機
41 : 架台
A1 : 伝熱媒体
B1 : 脱離促進ガス
C1 : 太陽
C2 : 太陽光
G1 : 処理対象ガス
G2 : 回収ガス