(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144058
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】糊剤付き繊維品、糊剤、糊剤付き繊維品を製造する方法、及び繊維品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/09 20060101AFI20241003BHJP
D06M 23/00 20060101ALI20241003BHJP
D06M 10/00 20060101ALI20241003BHJP
D06M 11/00 20060101ALI20241003BHJP
D06B 19/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
D06M15/09
D06M23/00 Z
D06M10/00 Z
D06M11/00 140
D06B19/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023196564
(22)【出願日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2023051368
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/無水・CO2無排出染色加工技術の開発」、委託研究、産業技術力強化法17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】722004388
【氏名又は名称】伊澤タオル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(71)【出願人】
【識別番号】322000270
【氏名又は名称】サステナテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(71)【出願人】
【識別番号】592029256
【氏名又は名称】福井県
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 正司
(72)【発明者】
【氏名】奥林 里子
(72)【発明者】
【氏名】堀 照夫
(72)【発明者】
【氏名】廣垣 和正
(72)【発明者】
【氏名】帰山 千尋
(72)【発明者】
【氏名】伊與 寛史
【テーマコード(参考)】
3B154
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
3B154AA02
3B154AB19
3B154BA05
3B154BB02
3B154BB12
3B154BC01
3B154BC47
3B154BD04
3B154BD15
3B154BD20
3B154DA30
4L031AA02
4L031AB01
4L031AB21
4L031AB31
4L031CB00
4L031DA00
4L033AA02
4L033AB01
4L033AB03
4L033AB04
4L033AC11
4L033CA05
(57)【要約】
【課題】本発明は、繊維の収束性に優れる糊剤付き繊維品を提供することを目的とする。
【解決手段】糊剤付き繊維品であって、前記糊剤がアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種のセルロースエーテル(A)を含む、前記糊剤付き繊維品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糊剤付き繊維品であって、
前記糊剤が、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種のセルロースエーテル(A)を含む、前記糊剤付き繊維品。
【請求項2】
前記セルロースエーテル(A)が、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の糊剤付き繊維品。
【請求項3】
前記アルキルセルロース又は前記ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるアルコキシ基の置換度が1~3である、請求項1又は2に記載の糊剤付き繊維品。
【請求項4】
1重量%又は5重量%の水溶液とした場合のセルロースエーテル(A)の粘度が3~300mPa・sである、請求項1又は2に記載の糊剤付き繊維品。
【請求項5】
前記繊維品が綿糸又は綿生地を含む、請求項1又は2に記載の糊剤付き繊維品。
【請求項6】
前記糊剤付き繊維品に対する前記糊剤の付着率が0.1~10重量%である、請求項1又は2に記載の糊剤付き繊維品。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の糊剤付き繊維品を製造するための、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種のセルロースエーテル(A)を含む糊剤。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の糊剤付き繊維品を製造する方法であって、
前記糊剤を含む流体と繊維品とを接触させて、前記繊維品に糊付けを行う工程を含む、前記方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法であって、
超臨界二酸化炭素を含む流体と前記糊剤付き繊維品とを接触させて、前記糊剤付き繊維品の糊抜きを行う工程を含む、前記方法。
【請求項10】
前記糊抜きを行う工程が、バッチ処理又は連続処理によるものである、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糊剤付き繊維品、糊剤、糊剤付き繊維品を製造する方法、及び繊維品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に綿製品等の織物は、経糸・緯糸の交錯によってつくられる。そこで、織物をつくるには、まず原糸の経糸と緯糸に分けることから始まる。経糸と緯糸に分けられた原糸は様々な工程に通される。それらの工程の中でも経糸の糊付け(サイジング)工程は、織機の能率、製品の品質等に大きな影響を与える。糊付け工程に使用する糊剤(サイジング剤)には、繊維の収束性を高め繊維の毛羽を抑制する、繊維に引張強度、耐摩耗性等の物性を付与する等の様々な機能が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
糊付け工程に使用する糊剤としては、でんぷん糊を含む糊剤が従来から使用されている。しかし、でんぷん糊を含む糊剤では、繊維の収束性、平滑性、柔軟性等を高めるために、主成分のでんぷん(コーンスターチ等)以外の、ワックス、プロピレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)等の成分を添加する必要があり、配合の複雑さやコストの上昇につながっていた。さらに、本発明者らが鋭意検討したところ、後述の比較例1に示すように、上記でんぷん以外の成分を添加したでんぷん糊を糊剤として使用した場合でも、繊維の収束性に改善の余地があることがわかった。
以上のように、繊維の収束性に優れる糊剤付き繊維品の実現が望まれている。
【0004】
本発明は、繊維の収束性に優れる糊剤付き繊維品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究した結果、特定のセルロースエーテルを含む糊剤を用いることで上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。
本発明の具体的態様は以下のとおりである。
【0006】
[1] 糊剤付き繊維品であって、
前記糊剤が、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種のセルロースエーテル(A)を含む、前記糊剤付き繊維品。
[2] 前記セルロースエーテル(A)が、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]に記載の糊剤付き繊維品。
[3] 前記アルキルセルロース又は前記ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるアルコキシ基の置換度が1~3である、[1]又は[2]に記載の糊剤付き繊維品。
[4] 1重量%又は5重量%の水溶液とした場合のセルロースエーテル(A)の粘度が3~300mPa・sである、[1]~[3]のいずれか1つに記載の糊剤付き繊維品。
[5] 前記繊維品が綿糸又は綿生地を含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の糊剤付き繊維品。
[6] 前記糊剤付き繊維品に対する前記糊剤の付着率が0.1~10重量%である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の糊剤付き繊維品。
[7] [1]~[6]のいずれか1つに記載の糊剤付き繊維品を製造するための、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種のセルロースエーテル(A)を含む糊剤。
[8] [1]~[6]のいずれか1つに記載の糊剤付き繊維品を製造する方法であって、
前記糊剤を含む流体と繊維品とを接触させて、前記繊維品に糊付けを行う工程を含む、前記方法。
[9] [1]~[6]のいずれか1つに記載の糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法であって、
超臨界二酸化炭素を含む流体と前記糊剤付き繊維品とを接触させて、前記糊剤付き繊維品の糊抜きを行う工程を含む、前記方法。
[10] 前記糊抜きを行う工程が、バッチ処理又は連続処理によるものである、[9]に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の糊剤付き繊維品は、繊維の収束性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、二酸化炭素の温度-圧力の状態図である。
【
図2】
図2は、糊剤が付着していない綿糸のSEM画像である。
【
図3】
図3は、でんぷん糊が付着した綿糸のSEM画像である。
【
図4】
図4は、セルロースエーテル(1)(メチルセルロース)が付着した綿糸のSEM画像である。
【
図5】
図5は、超臨界二酸化炭素を含む流体による処理に使用する装置の概要を示す図である。
【
図6】
図6の(a)は、生地を巻き付けた状態の治具を示す図である。
図6の(b)は、紙ワイパーを巻き付けた状態の外筒を示す図である。
【
図7】
図7は、綿糸を巻き付けた状態の治具を示す図である。
【
図8】
図8は、セルロースエーテル(3)(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)が付着した生地の、糊抜き処理前の糊剤が付着した状態のSEM画像である。
【
図9】
図9は、セルロースエーテル(3)(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)が付着した生地の、糊抜き処理後の状態のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、「X~Y」を用いて数値範囲を表す際は、その範囲は両端の数値を含むものとする。
【0010】
以下、本発明の糊剤付き繊維品、糊剤、糊剤付き繊維品を製造する方法、及び繊維品を製造する方法について、説明する。
【0011】
1.糊剤付き繊維品
本発明の糊剤付き繊維品は、
前記糊剤が、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種のセルロースエーテル(A)を含む、前記糊剤付き繊維品である。
本発明の糊剤付き繊維品は、繊維の収束性に優れる。
また、場合によっては、本実施形態の糊剤付き繊維品は、糊剤の付着量を過度に増やすことなく繊維の収束性を高めることができ、又は本実施形態の糊剤付き繊維品は、高い引張強度を示すことができ、又は本実施形態の糊剤付き繊維品は、摩擦に対し高い耐久性があり、摩擦試験後でも引張強度の低下が起きにくい。
【0012】
(糊剤)
糊剤は、上記セルロースエーテル(A)以外の成分を更に含んでいてもよく、又は上記セルロースエーテル(A)以外の成分を含まなくてもよい(糊剤が上記セルロースエーテル(A)から構成されていてもよい)。本明細書において、特定の成分を「含まない」とは、当該成分を意図的に添加しないことを意味し、当該成分を不純物として含む形態を排除するものではない。
上記セルロースエーテル(A)以外の成分は、特に限定されないが、コーンスターチ、ワックス、プロピレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)、又はこれらのうちの2種以上の組み合わせを含む又はからなることができる。
一方で、本実施形態の糊剤付き繊維品においては、上記セルロースエーテル(A)以外の成分を添加せずに、糊剤が上記セルロースエーテル(A)からなる場合でも、繊維の収束性を高めることができる。上述のように従来のでんぷん糊を含む糊剤では、繊維の収束性、平滑性、柔軟性等を高めるために、でんぷん以外の成分を添加する必要があり、上記セルロースエーテル(A)は従来のでんぷん糊にはない性能を有している。上記セルロースエーテル(A)以外の成分を添加しなくてもよいため、本実施形態の糊剤付き繊維品においては、配合が複雑にならず製造効率が向上し、また、コスト抑制を図ることができる。
【0013】
糊剤付き繊維品に対する糊剤の付着率(付着量)は、特に限定されないが、0.1~10重量%が好ましく、1~8重量%がより好ましく、3~7重量%が最も好ましい。糊剤の付着率が上記数値範囲内にあると、糸と糸との摩擦又は糸と金属との摩擦によって毛玉になりにくく、糸切れが少なくなるため、製織時の効率が上がる。糊剤付き繊維品に対する糊剤の付着量は、後述の[実施例]の1.の(4-2)に記載の方法及び手順に基づいて算出することができる。
【0014】
糊剤(又は糊剤を含む流体)は、特に限定されないが、色素を含まないことができる。このような色素としては、染料、顔料、又はこれらの混合物が挙げられる。
糊剤は、特に限定されないが、捺染糊(捺染用糊剤)以外の糊剤とすることができる。このような捺染糊以外の糊剤としては、織物の経糸用糊剤が挙げられる。
【0015】
(セルロースエーテル(A))
アルキルセルロースは、セルロースエーテルの1種であり、セルロースをエーテル化剤と反応させることにより製造できる。アルキルセルロースは、セルロースのヒドロキシ基(-OH)の水素原子の一部又は全てをアルキル基(-R)で置換し、アルコキシ基(-OR)に変換した化合物である。アルキル化されていないセルロースは水に溶けないが、アルキル化してヒドロキシ基を減らすとヒドロキシ基間の水素結合が弱くなって水溶性になる。
アルキルセルロースは、特に限定されないが、メチルセルロース、エチルセルロース、又はこれらの組み合わせを含む又はからなることができる。これらのうちでも、メチルセルロースが好ましく、メチルセルロースを使用することにより、水系でのサイジングが可能となり、コストが抑制でき、また、後述の超臨界二酸化炭素により糊抜きがしやすくなる。
【0016】
ヒドロキシアルキルセルロースは、セルロースのヒドロキシ基(-OH)の水素原子の一部又は全てをヒドロキシアルキル基で置換し、ヒドロキシアルコキシ基に変換した化合物である。
ヒドロキシアルキルセルロースは、特に限定されないが、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、又はこれらの組み合わせを含む又はからなることができる。
【0017】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースは、セルロースのヒドロキシ基(-OH)の水素原子の一部又は全てをアルキル基及びヒドロキシアルキル基で置換し、アルコキシ基及びヒドロキシアルコキシ基に変換した化合物である。
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースは、特に限定されないが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、又はこれらの組み合わせを含む又はからなることができる。これらのうちでも、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用することにより、水系でのサイジングが可能となり、コストが抑制でき、また、後述の超臨界二酸化炭素により糊抜きがしやすくなる。
【0018】
上記セルロースエーテル(A)は、特に限定されないが、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種を含む又はからなることができる。これらの化合物のうちの1種又は2種以上の組み合わせをセルロースエーテル(A)として使用できる。
【0019】
アルキルセルロース及び/又はヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるアルコキシ基の置換度(セルロースのグルコース環単位当たりに存在するアルコキシ基の平均個数)は、特に限定されないが、1~3が好ましく、1.2~2.5がより好ましく、1.4~1.9が最も好ましい。アルコキシ基の置換度が上記数値範囲内にあると、糊剤の濃度、付着量ともに最小限としながら、糸への浸透性が良く製織効率の向上につながる。
上記アルコキシ基の置換度は、メトキシ基の置換度とすることができる。
メチルセルロースの場合、メトキシ基の置換度は1.64~1.92が最も好ましい。ヒドロキシプロピルメチルセルロースの場合、メトキシ基の置換度は1.79~2.04が最も好ましい。
【0020】
ヒドロキシアルキルセルロース及び/又はヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるヒドロキシアルコキシ基の置換モル数は、特に限定されないが、0.1~0.5が好ましく、0.15~0.4がより好ましく、0.2~0.35が最も好ましい。ヒドロキシアルコキシ基の置換モル数が上記数値範囲内にあると、糊剤の濃度、付着量ともに最小限としながら、糸への浸透性が良く製織効率の向上につながる。
ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数は0.18~0.34が最も好ましい。
本明細書において、ヒドロキシアルコキシ基の置換モル数は、セルロースのグルコース環単位当たりに付加したヒドロキシアルコキシ基の平均モル数を意味する。
上述のメトキシ基の置換度の数値範囲と、上述のヒドロキシアルコキシ基の置換モル数の数値範囲とは、任意に組み合わせることができる。
【0021】
セルロースエーテル(A)の重量平均分子量は、特に限定されないが、20000~100000が好ましく、30000~90000がより好ましく、50000~80000が最も好ましい。セルロースエーテル(A)の重量平均分子量が上記数値範囲内にあると、糊剤の濃度、付着量ともに最小限としながら、糸への浸透性が良く製織効率の向上につながる。
セルロースエーテル(A)の重量平均分子量は、GPC装置(一体型装置、東ソー株式会社製、HLC(登録商標)-8420GPC)(カラム:SB-806MHQ 40℃、ガードカラム:SB-G6B、いずれも株式会社レゾナック製)を使用して、溶媒、溶離液:0.1M NaNO3 1.0ml/min、注入量:100μlの条件下でGPC法により測定することができる。
【0022】
セルロースエーテル(A)の粘度は、特に限定されないが、1重量%の水溶液とした場合に、3~300mPa・sが好ましく、30~200mPa・sがより好ましく、50~150mPa・sが最も好ましい。メチルセルロースの粘度が上記数値範囲内にあると、糊剤の濃度、付着量ともに最小限としながら、糸への浸透性が良く製織効率の向上につながる。
また、セルロースエーテル(A)の粘度は、特に限定されないが、5重量%の水溶液とした場合に、3~300mPa・sが好ましく、30~200mPa・sがより好ましく、50~150mPa・sが最も好ましい。メチルセルロースの粘度が上記数値範囲内にあると、糊剤の濃度、付着量ともに最小限としながら、糸への浸透性が良く製織効率の向上につながる。
上記1重量%の水溶液とした場合の粘度の数値範囲は、例えばメチルセルロースに適用でき、また、上記5重量%の水溶液とした場合の粘度の数値範囲は、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースに適用できる。
セルロースエーテル(A)の粘度は、後述の[実施例]の1.の(4-1)に記載の方法に基づいて算出することができる。
【0023】
糊剤中のセルロースエーテル(A)の含有量は100重量%(糊剤がセルロースエーテル(A)からなる)とすることもでき、この場合、上述のように、配合を単純にしてコストの抑制を図りながら繊維の収束性を高めることができる。糊剤中のセルロースエーテル(A)の含有量は、80重量%以上、90重量%以上、又は95重量%以上とすることができる。また、糊剤中のセルロースエーテル(A)の含有量は、100重量以下とすることができる。上記の数値範囲は任意に組み合わせることができる。
【0024】
(繊維品)
繊維品としては、特に限定されないが、繊維、糸、生地等が挙げられる。繊維としては、糸となる前のトウ等が挙げられる。糸としては、特に限定されないが、スパン糸、フィラメント糸、これらを混撚した混撚糸や混紡糸等が挙げられる。生地としては、糸を用いた織物や編物、あるいは不織布、フェルト等があげられる。本実施形態においては、繊維品として糸を使用することが好ましく、この場合、当該方法により得られた糊剤を付与した糸を、その後の製織工程にかけることができる。
繊維品は、綿糸又は綿生地を含む又はからなることもできる。
【0025】
糸の種類は、特に限定されないが、例えば、綿、麻等の植物繊維、絹、羊毛等の動物繊維等の天然繊維、ポリエステル、アクリル等の合成繊維、アセテート、トリアセテート、プロミックス等の半合成繊維、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル等の再生繊維、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維等の無機繊維等の化学繊維を用いることができる。これらの糸を2種類以上混紡したものや混撚したものであってもよい。また、これらの糸は、単糸、双糸、三子糸あるいは4本以上の糸を撚り合わせたものでもよい。
本実施形態においては、タオルとしての肌触りの観点から、綿糸を使用することが好ましい。
生地の種類は、特に限定されないが、上記の糸の種類と同様とすることができる。
【0026】
糊剤付き繊維品は、特に限定されないが、糊剤付き糸又は糊剤付き生地とすることができる。
上記糊剤付き糸は、特に限定されないが、織物の経糸とすることができる。
上記糊剤付き生地は、特に限定されないが、上記セルロースエーテル(A)を含む糊剤付き(糊剤が付着した)経糸、及び上記セルロースエーテル(A)を含む糊剤が付着していない緯糸を含む織物とすることができる。ここで、上記セルロースエーテル(A)を含む糊剤が付着していない緯糸とは、当該糊剤を積極的に付着させていない緯糸であることを意味する。したがって、上記セルロースエーテル(A)を含む糊剤が付着していない緯糸には、上記セルロースエーテル(A)を含む糊剤付き経糸が緯糸に接触し、当該経糸の糊剤が緯糸に移行したような態様も含み得る。
【0027】
2.糊剤
本発明の糊剤は、上記1.に記載の糊剤付き繊維品を製造するための、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種のセルロースエーテル(A)を含む糊剤である。
本実施形態の糊剤は、従来のでんぷん糊に比べて、溶液とした際のBOD及び/又はCODの値を低く抑えることができ、水質汚濁を抑制できる。
本実施形態の糊剤において、糊剤、セルロースエーテル(A)、繊維品等の種類、含有量等の各構成は、上記1.に記載の各構成を同様に採用することができる。
【0028】
上記1.で述べたように、糊剤(又は糊剤を含む流体)は、色素を含まないことができる。糊剤は、捺染糊(捺染用糊剤)以外の糊剤とすることができる。このような捺染糊以外の糊剤としては、織物の経糸用糊剤が挙げられる。
【0029】
3.糊剤付き繊維品を製造する方法
本発明の糊剤付き繊維品を製造する方法は、
上記1.に記載の糊剤付き繊維品を製造する方法であって、
前記糊剤を含む流体と繊維品とを接触させて、前記繊維品に糊付けを行う工程を含む。
【0030】
本実施形態の方法において、糊剤、セルロースエーテル(A)、繊維品等の種類、含有量等の各構成は、上記1.に記載の各構成を同様に採用することができる。
【0031】
本実施形態において、糊剤を含む流体を繊維品に接触させる際の処理条件は、特に限定されないが、糊付け性を向上させる観点から、温度としては、0~100℃の範囲を採用でき、好ましくは0~75℃の範囲、最も好ましくは0~55℃の範囲である。また、糊付け性を向上させる観点から、圧力としては、0.01~0.2MPaが好ましい。さらに、糊付け性を向上させる観点から、時間としては、繊維品450kg当たり約60分の処理時間とすることが好ましい。
糊剤を含む流体を繊維品に接触させる工程は、バッチ処理によるものとすることができる。
【0032】
糊剤の使用量は、特に限定されないが、例えば、繊維品として綿糸を使用する場合には、糊付け性を向上させる観点から、1gの綿糸当たり、0.03~0.07gの糊剤を使用することが好ましい。
【0033】
糊剤を含む流体中のセルロースエーテル(A)の含有量は、特に限定されないが、0.1~10重量%が好ましく、0.5~7重量%がより好ましく、1~5重量%が最も好ましい。流体中のセルロースエーテル(A)の含有量が上記数値範囲内にあると、糊剤の濃度、付着量ともに最小限としながら、糸への浸透性が良く製織効率の向上につながる。
【0034】
本実施形態において、糊剤を含む流体は、特に限定されないが、溶媒を更に含むことができる。
上記溶媒は、特に限定されないが、水、グリコールエーテル系溶媒、低級アルコール等の水性溶媒、グルセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、DMSO、DMF、ベンジルアルコール、N-メチル-2-ピロリドン、又はこれらのうちの2種以上の組み合わせを含む又はからなることができる。これらのうちでも水を含むことが好ましい。当該流体が水を含むことにより、溶解性に優れ、適度な粘性が得られる。
上記グリコールエーテル系溶媒は、特に限定されないが、エチレングリコールモノブチルエーテル(2-ブトキシエタノール)(EGME)、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、又はこれらのうちの2種以上の組み合わせを含む又はからなることができる。これらのうちでもEGMEを含むことが好ましい。
上記低級アルコールは、特に限定されないが、メタノール、エタノール、又はこれらの組み合わせを含む又はからなることができる。
糊剤を含む流体中の溶媒の含有量は、特に限定されないが、50~99重量%が好ましく、65~95重量%がより好ましく、80~95重量%が最も好ましい。糊剤を含む流体中の溶媒の含有量が上記数値範囲内にあると、固形分の溶解性が向上する。
【0035】
本実施形態において、溶媒を使用する場合、処理容器内に溶媒を送液することができる。
【0036】
溶媒を使用する場合、糊剤1~5gに対する溶媒の割合(モル)は、特に限定されないが、糊付け性を向上させる観点より、1~6モルが好ましい。
【0037】
本実施形態の方法は、繊維加工の1つである糊付け工程として使用することができ、また、他の繊維加工の工程である、紡績、製織、糊抜き・精錬・漂白、染色、仕上げの各工程と組み合わせて使用することもできる。また、本実施形態の糊剤付き繊維品の製造方法は、後述の糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法と組み合わせて、一つの方法又は製造方法とすることもできる。
【0038】
本実施形態の方法は、上記繊維品に糊付けを行う工程が、上記糊剤を含む流体と糸とを接触させて、前記糸に糊付けを行う工程を含む又はからなることができる。また、この場合、本実施形態の方法は、上記の糊剤付き糸を使用して生地を形成し、糊剤付き生地を形成する工程を更に含むことができる。さらに、この場合、本実施形態の方法は、上記糊剤付き生地を形成する工程が、上記の糊剤付き糸を経糸に使用して織物を形成し、糊剤付き織物を形成する工程を含む又はからなることができる。
【0039】
4.糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法
本発明の糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法は、
上記1.に記載の糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法であって、
超臨界二酸化炭素を含む流体と前記糊剤付き繊維品とを接触させて、前記糊剤付き繊維品の糊抜きを行う工程を含む。
本実施形態の糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法は、糊剤を効率良く除去でき、水濡れ性に優れる繊維品を得ることができる。
【0040】
本実施形態の方法において、糊剤、セルロースエーテル(A)、繊維品等の種類、含有量等の各構成は、上記1.に記載の各構成を同様に採用することができる。
本実施形態においては、タオルとしての肌触りの観点から、繊維として、綿糸を使用することが好ましい。
【0041】
本実施形態において、糊剤付き繊維品としては、特に限定されないが、上記3.の糊剤付き繊維品を製造する方法により得られたものを使用することができる。
【0042】
ここで、超臨界二酸化炭素について説明する。
超臨界二酸化炭素を用いて繊維加工を行うことが知られている。超臨界状態とは、各化合物固有の臨界温度(Tc)、臨界圧力(Tp)を超えた状態で発現する。この状態は超臨界流体と呼ばれ、気体と液体の中間の性質を持つ。
図1に示すように、二酸化炭素のTcは31.1℃、Tpは7.38MPaと比較的温和な条件で超臨界状態を発現することができ、爆破性がなく、無毒で安全性が高く、安価で入手しやすいといった利点がある。また、超臨界二酸化炭素は、(1)臨界温度付近では圧力をわずかに変化させると密度が大きく変動する、(2)低粘度、高拡散性のため、輸送物性に優れ、物質への浸透力が大きい、(3)熱伝導度が大きく、熱移動速度が速い、(4)溶媒和効果より反応速度が速い、(5)水より誘電率が小さく通常の無極性有機溶媒と同程度となるため、無極性有機物質に対して良好な溶媒となる、(6)二酸化炭素を回収し再利用することが可能である、といった特徴を持つ。
【0043】
本実施形態において、超臨界二酸化炭素を含む流体を糊剤付き繊維品に接触させる際の処理条件は、特に限定されないが、糊抜き性を向上させる観点から、温度としては、31~150℃又は40~120℃を使用することができ、また、圧力としては、8~25MPa又は10~25MPa、さらに、時間としては、30~800分又は120~180分を使用することができる。
本実施形態において、上記糊抜きを行う工程は、バッチ処理又は連続処理によるものとすることができる。
【0044】
本実施形態において、超臨界二酸化炭素を含む流体は、共溶媒をさらに含んでもよい。当該流体が共溶媒を含むことにより、糊剤の溶媒(超臨界二酸化炭素と共溶媒とを含む)への溶解性を向上させて糊抜き性を向上させることができる。
共溶媒としては、特に限定されず、上記3.に記載した溶媒を使用することができるが、グリコールエーテル系溶媒、特にEGMEを使用することが好ましい。共溶媒として、上記3.に記載した溶媒を使用することにより、糊剤の溶媒(超臨界二酸化炭素と共溶媒とを含む)への溶解性を向上させて糊抜き性を向上させることができる。特にEGMEを共溶媒として使用する場合に上記効果は顕著である。
【0045】
本実施形態において、共溶媒を使用する場合、処理容器内に超臨界二酸化炭素とは別に共溶媒を送液することができる。
【0046】
本実施形態において、上記糊抜きを行う工程をバッチ処理によるものとし、かつ共溶媒を使用する場合、超臨界二酸化炭素に対する共溶媒の割合(モル%)は、特に限定されないが、糊剤の溶媒への溶解性を向上させて糊抜き性を向上させる観点より、0.1~2モル%が好ましい。
超臨界二酸化炭素と共溶媒との体積比は、特に限定されないが、400:1~10:1が好ましく、300:1~25:1がより好ましく、200:1~40:1が最も好ましい。超臨界二酸化炭素と共溶媒との体積比は、150:1~50:1、100:1~60:1、又は90:1~70:1とすることもできる。
【0047】
本実施形態において、上記糊抜きを行う工程を連続処理によるものとする場合、超臨界二酸化炭素の処理容器への流量は、特に限定されないが、糊剤の溶媒への溶解性を向上させて糊抜き性を向上させる観点より、繊維1gあたり、50ml~2000mlが好ましく、100ml~1500mlがより好ましい。
【0048】
本実施形態において、上記糊抜きを行う工程を連続処理によるものとし、かつ共溶媒を使用する場合、共溶媒の処理容器への流量は、特に限定されないが、繊維1gあたり、1ml~500mlが好ましく、10ml~400mlがより好ましい。
【0049】
本実施形態の方法による糊抜き後の糊剤の除去率(%)は、特に限定されないが、1~99%などとすることができる。糊剤の除去率(%)は、後述の[実施例]の5.の(4-1)に記載の手順及び方法に基づいて算出することができる。
本実施形態の方法における、超臨界二酸化炭素を含む流体への糊剤の溶解度(溶解した糊剤の量(g)/超臨界二酸化炭素を含む流体の体積(ml))は、特に限定されないが、0.0001~0.01g/mlが好ましく、0.001~0.008g/mlがより好ましく、0.002~0.006g/mlが最も好ましい。超臨界二酸化炭素を含む流体への糊剤の溶解度は、特に限定されないが、1×10-5g/ml以上、1×10-4g/ml以上、又は1×10-3g/ml以上とすることができる。超臨界二酸化炭素を含む流体への糊剤の溶解度は、特に限定されないが、1g/ml以下、1×10-1g/ml以下、又は1×10-2g/ml以下とすることができる。上記の数値範囲は任意に組み合わせることができる。
【0050】
本実施形態において、上記糊抜きを行う工程は、糊剤付き繊維品を動力により動かすことを含むことができる。糊剤付き繊維品を動力により動かすことにより、糊剤付き繊維品(生地)全体に揉み効果を与えて糊抜き性を向上させることができる。動力としては、特に限定されないが、風力、電力等を使用することができ、この中でも風力が好ましい。
【0051】
本実施形態の方法は、繊維加工の1つである糊抜き工程として使用することができ、また、他の繊維加工の工程である、紡績、製織、糊付け、精錬・漂白、染色、仕上げの各工程と組み合わせて使用することもできる。また、本実施形態の糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法は、上述の糊剤付き繊維品の製造方法と組み合わせて、一つの方法又は製造方法とすることもできる。
【0052】
以下、本発明について実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例に記載の内容に限定されるものではない。
【実施例0053】
1.糊剤又は糊剤付き繊維品の物性測定又は表面状態の観察
(1)糊剤を含む水溶液の調製
使用した糊剤を以下に示す。
・セルロースエーテル(1):メトローズ(登録商標) SM-1500(メチルセルロース、重量平均分子量:90000、メトキシ基の置換度:1.8、信越化学工業株式会社製)
・セルロースエーテル(2):メトローズ(登録商標) 60SH-06(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、重量平均分子量:80000、メトキシ基の置換度:1.9、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数:0.25、信越化学工業株式会社製)
・でんぷん糊:主成分のでんぷんであるコーンスターチ(重量平均分子量:500000~1000000)及び添加剤(糊全体に対する各成分の含有量:ワックス2重量%、グリセリン1重量%、PVA少量添加)を含む糊
【0054】
[実施例1]
上記セルロースエーテル(1)に対して、セルロースエーテルの重量基準で40倍の希釈倍率となるように沸騰水を加え、得られた希釈液を一定時間撹拌した。撹拌後の希釈液に対して、セルロースエーテルの重量基準で60倍の希釈倍率となるように常温の水を加え、得られた希釈液を一定時間撹拌し、セルロースエーテル(1)の固形分濃度が1.0重量%である水溶液を調製した。
[実施例2]
上記セルロースエーテル(1)に代えて上記セルロースエーテル(2)を使用する以外は上記実施例1と同様にして、セルロースエーテル(2)の固形分濃度が1.0重量%である水溶液を調製した。
[実施例3]
上記セルロースエーテル(2)に対して、セルロースエーテルの重量基準で8倍の希釈倍率となるように沸騰水を加え、得られた希釈液を一定時間撹拌した。撹拌後の希釈液に対して、セルロースエーテルの重量基準で12倍の希釈倍率となるように常温の水を加え、得られた希釈液を一定時間撹拌し、セルロースエーテル(2)の固形分濃度が5.0重量%である水溶液を調製した。
[比較例1]
上記でんぷん糊に水を加えた後、90℃以上に加温して、でんぷん糊を溶解、糊化させて、でんぷん糊の固形分濃度が2.0重量%である水溶液を調製した。
【0055】
(2)装置及び試薬
糊付機(サイジング機)として、ミニサイザー DCI001P(株式会社梶製作所製)及びHGA-357型糊付け機(中国製、糊タンク槽約47L)を準備した。
【0056】
(3)操作手順
[実施例1]
上述の糊付機:ミニサイザー DCI001P内に、上記(1)で得られた実施例1のセルロースエーテルの水溶液2500mlを投入した。
また、チーズボビンから給糸された伊澤タオル株式会社製の綿糸(1)(生糸(生成糸、紡績上がりの糸等)、綿100%、20番手、単糸、撚り係数4.5、平均繊維長約25mm)を糊付機内の上記セルロースエーテルの水溶液中へ投入した。この際、チーズボビンから給糸された、単位長さ当たりの綿糸(1)の重量を測定した。その後、糊液(水溶液)が付着した綿糸を、スクイジングロール(第1通過ロール)を0.04MPa、イマーションロール(第2通過ロール)を0.06MPaの載圧荷重下において通過させ、さらに、温度:110℃、乾燥室長:約3.8mのホットエア乾燥部と、温度110℃、直径100mm×7本のシリンダーロール乾燥部とを、10m/minの速度で通過させることで、糊付け処理を行った。得られた乾燥後(糊付け後)の綿糸(1)について、単位長さ当たりの綿糸(1)の重量を測定した。
【0057】
[比較例1]
上述の糊付機:HGA-357型糊付け機内に、上記(1)で得られた比較例1のでんぷん糊の水溶液35Lを投入した。
また、チーズボビンから給糸された伊澤タオル株式会社製の綿糸(1)(生糸(生成糸、紡績上がりの糸等)、綿100%、20番手、単糸、撚り係数4.5、平均繊維長約25mm)を糊付機内の上記でんぷん糊の水溶液中へ投入した。この際、チーズボビンから給糸された、単位長さ当たりの綿糸(1)の重量を測定した。その後、糊液(水溶液)が付着した綿糸を、約20mの乾燥室を通過させ300℃で乾燥し、次いで、約120℃のシリンダーロールにより余分な糊を落とし、得られた糊付け後の綿糸(1)を製織用ビームに巻き取った。乾燥室及びシリンダーロールにおける綿糸の通過速度は30m/minとした。得られた乾燥後(糊付け後)の綿糸(1)について、単位長さ当たりの綿糸(1)の重量を測定した。
【0058】
[実施例2及び3]
上述の糊付機:ミニサイザー DCI001P内に、上記(1)で得られた実施例2及び3の各セルロースエーテルの水溶液2500mlを投入した。
また、チーズボビンから給糸された伊澤タオル株式会社製の綿糸(2)(生糸、20番手、単糸、長綿使用でコーマ加工されており、上記綿糸(1)に比べて、短繊維が少なく毛羽も少ない糸)を糊付機内の上記セルロースエーテルの各水溶液中へ投入した。この際、チーズボビンから給糸された、単位長さ当たりの綿糸(2)の重量を測定した。その後、上記実施例1の綿糸の糊付け処理と同様にして、糊付け処理を行った。得られた乾燥後(糊付け後)の綿糸(2)について、単位長さ当たりの綿糸(2)の重量を測定した。
【0059】
(4)評価
(4-1)糊剤を含む水溶液の粘度
上記(1)で得られた実施例1及び3のセルロースエーテルの水溶液並びに比較例1のでんぷん糊の水溶液について、BL形粘度計(株式会社トキメック製)を用いて20℃の条件下で粘度(mPa・s)を測定した。
(4-2)糊剤の付着率(付着量)
実施例1~3及び比較例1の各糊付け糸について、上記(3)の糊付け前の綿糸の重量(g)(処理前の重量)及び糊付け後の綿糸の重量(g)(処理後の重量)を用いて、下記式(1)に基づいて、糊剤の付着率(付着量)(Sizing rate S)を算出した。
【0060】
【0061】
(4-3)摩耗強さ(摩擦回数)
実施例1~3及び比較例1の各糊付け糸について、抱合検査機(1065、前田製作所製)を使用し、JIS L 1095:2010(9.10 摩耗強さ B法)に基づいて、摩耗強さの測定を行った。具体的には、下記の試験条件に基づいて摩耗試験を行い、試料20本のうち2本が切断するまでの摩擦回数を測定した。
<試験条件>
・摩擦速度:120回/分
・摩擦角度:110度
・往復距離:2.5cm
・試験長:20cm
・摩擦子:直径0.6mmの硬鋼線
【0062】
(4-4)単糸引張強さ及び伸び率
実施例1~3及び比較例1の各糊付け糸について、引張試験機(オートグラフ AG-Xplus、株式会社島津製作所製)を使用し、JIS L 1095:2010(9.5 単糸引張強さ及び伸び率)に基づいて、つかみ間隔:20cm、引張速度:20cm/分の条件下で、単糸引張強さ及び伸び率の測定を行った。
【0063】
(4-5)走査型電子顕微鏡による観察
卓上顕微鏡(Miniscope(登録商標) TM4000Plus、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を使用して加速電圧15kVにて、糊付け前の綿糸及び実施例1の糊付け後の綿糸の表面の観察を行った。また、超深度マルチアングルレンズ VHX-D510(SEM 200倍、株式会社キーエンス製)を使用して加速電圧0.9kVにて、比較例1の糊付け後の綿糸の表面の観察を行った。
【0064】
実施例1及び比較例1に関する上記(4―1)~(4-4)の評価結果を表1に示し、実施例2及び3に関する上記(4―1)~(4-4)の評価結果を表2に示す。
また、実施例1及び比較例1に関する上記(4-5)のSEMによる観察結果を
図2~4に示す。
図2は糊剤が付着していない綿糸のSEM画像(倍率:150倍)であり、
図3はでんぷん糊が付着した綿糸(比較例1)のSEM画像(倍率:200倍)であり、
図4はセルロースエーテル(1)が付着した綿糸(実施例1)のSEM画像(倍率:150倍)である。
【0065】
【0066】
【0067】
表1の結果より、実施例1のセルロースエーテル(1)を含む水溶液は、比較例1のでんぷん糊を含む水溶液に比べて、粘度が高く適度な粘性を有していた。適度な粘性を有すると、浸透性が良く全体として毛羽も抑えられ収束性を発揮する。したがって、以上の結果より、セルロースエーテル(1)を含む水溶液は、製織時の効率の観点から糊剤に最適であることがわかった。
【0068】
また、表1の結果より、実施例1のセルロースエーテル(1)が付着した綿糸は、比較例1のでんぷん糊が付着した綿糸に比べて、摩擦回数が約120%多く、耐摩耗性に優れていることがわかった。また、実施例1の綿糸の単糸引張強さは、比較例1の綿糸の単糸引張強さに比べて、約3%劣るものの、同等とみなすことができ、糊剤付きの綿糸として実用上問題ないレベルであった。さらに、実施例1の綿糸は、比較例1の綿糸に比べて、伸び率が約20%高く、伸び性に優れることがわかった。
表1に示すように、実施例1の綿糸の糊剤(セルロースエーテル(1))の付着率は、比較例1の綿糸の糊剤(でんぷん糊)の付着率の約1/2であった。このように糊剤の付着率が低いにも関わらず、上述のように、実施例1の綿糸は、比較例1の綿糸と同等又はそれ以上の物性を示すことがわかった。この結果より、本発明のセルロースエーテルを糊剤として使用することにより、糊剤の使用量を減らしてコストや環境負荷を抑制しながら、綿糸に優れた物性を付与できることがわかった。
【0069】
また、上述したように、比較例1で使用したようなでんぷん糊は、主成分のでんぷんであるコーンスターチ以外の、ワックス、プロピレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)等の成分を添加して繊維の収束性、平滑性、柔軟性等を高める必要があり、配合の複雑さやコストの上昇につながってしまう。一方、表1の結果より、実施例1のセルロースエーテル(1)は、セルロースエーテル(1)以外の成分を添加せずに、糊剤がセルロースエーテル(1)からなる場合でも、繊維の収束性、平滑性、柔軟性等を高めることができ、従来のでんぷん糊にはない性能を有していることがわかった。
【0070】
また、
図4のSEM写真より、セルロースエーテル(1)を糊剤として使用した場合、毛羽が抑えられ、全体的に糊剤で固定されていることがわかった。一方、
図3のSEM写真より、でんぷん糊を糊剤として使用した場合、毛羽を完全には抑えられておらず、セルロースエーテル(1)の場合に比べて収束性に劣ることがわかった。
上記の表1及び
図2~4の結果より、本発明のセルロースエーテルは低粘度で含浸性が良く、糊剤の付着率が小さい場合でも収束性に優れることがわかった。
【0071】
また、表2の結果より、セルロースエーテル(2)を含む水溶液は、糊剤として使用可能であることがわかった。表1及び2の結果より、本発明のセルロースエーテル(A)は、その種類に関わらず、糊剤として有用であることがわかった。
【0072】
2.糊剤付き繊維品の製織性の評価
また、上記1.で示したように、実施例1の綿糸は、比較例1の綿糸と同等又はそれ以上の物性を示すことから、実施例1の綿糸と比較例1の綿糸との間で、エアージェット織機で製織することができるスピードは同等(350~400rpm程度)であると試算できる。その結果、実施例1の綿糸と比較例1の綿糸との間で、織物であるタオルの1日(8時間)当たり生産量も同等(約30~50kg)であると試算できる。上述のSEM写真の解析結果でも述べたように、毛羽がほぼ抑えられている実施例1の綿糸では、毛羽が発生している比較例1の綿糸に比べて、製織中に毛玉になりにくく、糸切れの心配も少ない。
以上より、本発明のセルロースエーテルを糊剤として使用することにより、糊剤の使用量を減らしてコストや環境負荷を抑制しながら、織物の生産効率も維持できることがわかった。
【0073】
3.糊付け処理における環境面の評価
比較例1のようにでんぷん糊を使用して付着率:3重量%の条件を採用し、かつ綿糸(20番手、単糸):450kgの糊付け処理を行う場合、使用水量:675L、処理時間:1時間、処理温度:95~120℃の条件下で糊付機を運転する必要があると想定される。
この場合、糊付機を動かす原動機の出力:8kW、電気代:23円/kWh、CO2排出係数:0.47kg/kWhとすると、消費電力は、8(kW)×1(時間)=8(kWh)と算出できる。その結果、糊付機の運転に要する電気代は、23(円/kWh)×8(kWh)=184(円)、糊付機の運転時のCO2排出量は、0.47(kg/kWh)×8(kWh)=4(kg)と算出できる。
また、処理温度:95~120℃まで昇温させるために、608kgの蒸気を使用する必要があると想定される。また、20℃の水に圧力をかけて水蒸気にするために必要な熱量は2607kJ/kgと想定されるから、昇温に必要な熱量は、608(kg)×2607(kg/kg)×1/1000=1584(MJ)と試算できる。蒸気の昇温を都市ガスを使用して行う場合、都市ガスの低位発熱量:40.3MJ/m3、CO2排出係数:2.23kg/m3、燃料代:100円/m3、ボイラー効率:0.9とすると、都市ガスの使用量:1584(MJ)÷0.9÷40.3(MJ/m3)=44(m3)と算出できる。その結果、昇温に要する都市ガス代は、44(m3)×100(円/m3)=4400(円)、昇温時のCO2排出量は、44(m3)×2.23(kg/m3)=97(kg)と算出できる。
【0074】
比較例1のようなでんぷん糊は、常温(20℃)で水に不溶であり、90℃程度まで昇温させて溶解、糊化させる必要があるため、上述の蒸気による昇温の作業が必要となる。
一方、本発明のセルロースエーテルは、熱水等の高温の液体には溶解しにくく、冷水、常温の水等の低温の液体には溶解しやすいという性質を有する。そのため、実施例1のようにメチルセルロースを糊剤として使用する場合、常温(20℃)での糊付けが好ましく、上述の蒸気による昇温の作業が不要となる。したがって、実施例1の場合、昇温の作業に伴う、上述の都市ガス代:4400円、CO2排出量:97kgが不要となり、エネルギー使用量及びCO2排出量を抑えることができ、環境負荷の低減を図ることができる。
【0075】
4.糊剤を含む水溶液のBOD及びCOD測定
上記1.の(1)に記載のセルロースエーテル(1)を使用し、上記1.の(1)と同様の手順に基づいて、セルロースエーテル(1)の固形分濃度が1.0重量%である水溶液を調製した。また、上記1.の(1)に記載のでんぷん糊を使用し、でんぷん糊に水を加えた後、90℃以上に加温して、でんぷん糊を溶解、糊化させて、でんぷん糊の固形分濃度が1.0重量%である水溶液を調製した。
メチルセルロース又はでんぷん糊の各水溶液について、JIS K 0102:2016の(21.生物化学的酸素消費量(BOD))及び(17.100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量(COD))に基づいて、BOD(生物化学的酸素量)及びCOD(化学的酸素量)の測定を行った。結果を表3に示す。
BODは、微生物の分解にどれだけの酸素を必要とするかを示す数値である。CODは、酸化剤(過マンガン酸カリウム)を加えて酸化させる際にどれだけの酸素を必要とするかを示す数値である。BOD及びCODのいずれも、水質汚濁の指標として使用し、その数値が大きいほど水中に汚れの原因となる物質が多く存在することになる。
【0076】
【0077】
表3の結果より、セルロースエーテル(1)の水溶液のBOD及びCODは、でんぷん糊の水溶液のBOD及びCODに比べて、極めて低い数値を示し、糊剤としての本発明のセルロースエーテルは水質汚濁を抑制できることがわかった。
上述の実施例1及び比較例1で示したように、セルロースエーテル(1)を糊剤として使用することにより、従来のでんぷん糊よりも、使用量を減らしても、綿糸に優れた物性を付与できる。上記の表3の試験では、セルロースエーテル(1)及びでんぷん糊の固形分濃度を同一としたが、実際の糊付け時には、セルロースエーテル(1)の使用量を減らして、より水質汚濁を抑制しながら糊付けを行うことができる。
【0078】
5.超臨界二酸化炭素を用いた糊抜き
(1)糊剤が付着した生地及び糊剤が付着した綿糸
(1-1)セルロースエーテル(2)が付着した生地
上記セルロースエーテル(2)に対して、セルロースエーテルの重量基準で約14倍の希釈倍率となるように沸騰水を加え、得られた希釈液を一定時間撹拌した。撹拌後の希釈液に対して、セルロースエーテルの重量基準で約34の希釈倍率となるように常温の水を加え、得られた希釈液を一定時間撹拌し、セルロースエーテル(2)の固形分濃度が3.0重量%である水溶液を調製した。
上記のようにして得られたセルロースエーテル(2)の固形分濃度が3.0重量%である水溶液中に伊澤タオル株式会社製の生糸で製織した綿100%生地を浸漬させた。浸漬させた生地を、上記1.の(2)に示した糊付機:ミニサイザー DCI001Pにおけるスクイジングロール(第1通過ロール)及びイマーションロール(第2通過ロール)を共に0.2MPaの載圧荷重下において通過させ、余分な糊剤を除去し、100~110℃の乾燥機内で30分乾燥させ、セルロースエーテル(2)が付着した生地(上記1.の(4-2)の式(1)に基づいて算出した糊剤の付着率:3.24%)を調製した。
【0079】
(1-2)セルロースエーテル(3)が付着した生地
セルロースエーテル(3):メトローズ(登録商標) 60SH-50(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、重量平均分子量:80000、メトキシ基の置換度:1.9、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数:0.25、信越化学工業株式会社製)を準備し、当該セルロースエーテル(3)に対して、セルロースエーテルの重量基準で約20倍の希釈倍率となるように沸騰水を加え、得られた希釈液を一定時間撹拌した。撹拌後の希釈液に対して、セルロースエーテルの重量基準で約30倍の希釈倍率となるように常温の水を加え、得られた希釈液を一定時間撹拌し、セルロースエーテル(3)の固形分濃度が2.0重量%である水溶液を調製した。
上記のようにして得られたセルロースエーテル(3)の固形分濃度が2.0重量%である水溶液中に伊澤タオル株式会社製の生糸で製織した綿100%生地を浸漬させた。浸漬させた生地を、上記1.の(2)に示した糊付機:ミニサイザー DCI001Pにおけるスクイジングロール(第1通過ロール)及びイマーションロール(第2通過ロール)を共に0.2MPaの載圧荷重下において通過させ、余分な糊剤を除去し、100~110℃の乾燥機内で30分乾燥させ、セルロースエーテル(3)が付着した生地(上記1.の(4-2)の式(1)に基づいて算出した糊剤の付着率:1.69%)を調製した。
【0080】
(1-3)セルロースエーテル(3)が付着した綿糸
また、上記5の(1-2)において得られたセルロースエーテル(3)の固形分濃度が〇重量%である水溶液2500mlを、上記1.の(2)に示した糊付機:ミニサイザー DCI001P内に投入した。そして、上記1.の(3)の[実施例1]に記載の糊付け方法と同様にして、伊澤タオル株式会社製の綿糸(1)(生糸(生成糸、紡績上がりの糸等)、綿100%、20番手、単糸、撚り係数4.5、平均繊維長約25mm)を処理して、セルロースエーテル(3)が付着した綿糸(上記1.の(4-2)の式(1)に基づいて算出した糊剤の付着率:1.6%)を調製した。
【0081】
(2)装置及び試薬
超臨界二酸化炭素を含む流体による処理において使用した装置全体の概要を
図5に示す。
図5の各符号は、1:チラーユニット、2:CO
2供給ポンプ、3:エアー抜弁、4:逆止弁、5:圧力トランスミッター、6:安全弁、7:染色容器、8:容器ドレン弁、9:容器内温度センサー、10:磁力誘導式撹拌機、11:排気流量調整弁、12:容器排気弁、13:制御盤、14:CO
2供給ポンプ用コンセント、15:染色容器加熱ヒーター用コンセント、A:CO
2ボンベを指す。
チラーユニット1として冷却水循環装置 LTC-450α(アズワン株式会社製)、CO
2供給ポンプ2としてダブルプランジャーポンプ NP-KX-500(日本精密科学株式会社製)、染色容器7として高圧容器(株式会社アイテック製、形式:C-04-M-FU、内容量:400ml)をそれぞれ使用した。
二酸化炭素供給源には、液化二酸化炭素ボンベ(株式会社カインドガス、純度99.5%以上)を使用した。
【0082】
(3)操作手順
(3-1)セルロースエーテル(2)が付着した生地
治具(長さ110cm×外径15mmの中空の円筒形、網目構造、金属製)を準備し、当該治具に上記(1-1)に示したセルロースエーテル(2)が付着した生地(約10cm×約10cm、約2g)を巻き付けた。巻き付けた生地が取れないように綿紐をさらに巻き付けて固定した。
図6の(a)に生地を巻き付けた状態の治具を示す。
また、外筒(長さ110cm、内径36mm、外径41mmの中空の円筒形)を準備し、共溶媒である水1mlを全体に偏りなく浸み込ませた紙ワイパー(キムワイプ(登録商標)、120mm×210mm)を当該外筒の外側に巻き付けた。巻き付けた紙ワイパーが取れないように綿紐をさらに巻き付けて固定した。
図6の(b)に紙ワイパーを巻き付けた状態の外筒を示す。
上記の生地を巻き付けた治具を、紙ワイパーを巻き付けた外筒の内部に設置及び固定し、測定試料を得た。得られた測定試料を染色容器7内に設置した。次に、CO
2供給ポンプ2を用いて二酸化炭素200mlを送液速度20~300ml/分にて染色容器7に送り、染色容器7内を加圧した。超臨界二酸化炭素流体により測定試料を処理する条件は、40℃、10MPa、時間120分、バッチ式とし、撹拌はプロペラを使用し、正転60秒、逆転60秒を1セットとし、当該セットを900rpmで120分繰り返した。紙ワイパーに浸み込ませた水は超臨界二酸化炭素と混合された状態となり、超臨界二酸化炭素:水の体積比は200:1となる。超臨界二酸化炭素流体による処理後、染色容器7について、バルブを開放し大気圧まで放圧した。染色容器7を放圧した後、生地を治具から取り出し、2時間、105℃の条件で乾燥し、乾燥後の生地を秤量した。
【0083】
(3-2)セルロースエーテル(3)が付着した生地
上記(3-1)の処理において使用したものと同様の治具を準備し、当該治具に上記(1-2)に示したセルロースエーテル(3)が付着した生地(約10cm×約10cm、約8g)を巻き付けた。巻き付けた生地が取れないように綿紐をさらに巻き付けて固定した。生地を巻き付けた状態の治具は、
図6の(a)の状態と同様である。
また、上記(3-1)の処理において使用したものと同様の外筒を準備し、共溶媒であるEGME(エチレングリコールモノブチルエーテル)5mlを全体に偏りなく浸み込ませた紙ワイパー(キムワイプ(登録商標)、120mm×210mm)を当該外筒の外側に巻き付けた。巻き付けた紙ワイパーが取れないように綿紐をさらに巻き付けて固定した。紙ワイパーを巻き付けた状態の外筒は、
図6の(b)の状態と同様である。
上記の生地を巻き付けた治具を、紙ワイパーを巻き付けた外筒の内部に設置及び固定し、測定試料を得た。得られた測定試料を染色容器7内に設置し、超臨界二酸化炭素流体により測定試料を処理する条件を、40℃、10MPa、時間120分、バッチ式に代えて120℃、25MPa、時間180分、バッチ式とする以外は、上記(3-1)の処理と同様にして、超臨界二酸化炭素流体による測定試料の処理を行った。紙ワイパーに浸み込ませたEGMEは超臨界二酸化炭素と混合された状態となり、超臨界二酸化炭素:生地の体積比は45:1、超臨界二酸化炭素:EGMEの体積比は80:1となる。超臨界二酸化炭素流体による処理後、染色容器7について、バルブを開放し大気圧まで放圧した。染色容器7を放圧した後、生地を治具から取り出し、1時間、100℃の条件で乾燥し、乾燥後の生地を秤量した。
【0084】
(3-3)セルロースエーテル(3)が付着した綿糸
上記(3-1)の処理において使用したものと同様の治具を準備し、当該治具に上記(1-3)に示したセルロースエーテル(3)が付着した綿糸(長さ:約400m、約10g)を巻き付けた。巻き付けた綿糸が取れないように綿紐をさらに巻き付けて固定した。
図7に綿糸を巻き付けた状態の治具を示す。
また、上記(3-1)の処理において使用したものと同様の外筒を準備し、共溶媒であるEGME(エチレングリコールモノブチルエーテル)5mlを全体に偏りなく浸み込ませた紙ワイパー(キムワイプ(登録商標)、120mm×210mm)を当該外筒の外側に巻き付けた。巻き付けた紙ワイパーが取れないように綿紐をさらに巻き付けて固定した。紙ワイパーを巻き付けた状態の外筒は、
図6の(b)の状態と同様である。
上記の綿糸を巻き付けた治具を、紙ワイパーを巻き付けた外筒の内部に設置及び固定し、測定試料を得た。得られた測定試料を染色容器7内に設置し、上記(3-2)の処理と同様にして、超臨界二酸化炭素流体による測定試料の処理を行った。紙ワイパーに浸み込ませたEGMEは超臨界二酸化炭素と混合された状態となり、超臨界二酸化炭素:綿糸の体積比は40:1、超臨界二酸化炭素:EGMEの体積比は80:1となる。超臨界二酸化炭素流体による処理後、染色容器7について、バルブを開放し大気圧まで放圧した。染色容器7を放圧した後、綿糸を治具から取り出し、1時間、110℃の条件で乾燥し、乾燥後の綿糸を秤量した。
【0085】
(4)評価
(4-1)糊剤の除去率
まず、糊付け及び糊抜きの処理を行う前の生地又は綿糸の重量(g)並びに糊抜き処理後の生地又は綿糸の重量(g)を用いて、上記1.の(4-2)に記載の上述の式(1)に基づいて、生地又は綿糸における、糊抜き処理後のセルロースエーテル(2)又はセルロースエーテル(3)(糊剤)の各付着率を算出した。
そして、糊付き生地又は綿糸(糊付け処理後及び糊抜き処理前の生地又は綿糸)の糊剤の付着率(%)(上述の3.24%、1.69%、又は1.6%)並びに上記の糊抜き処理後の生地又は綿糸の糊剤の付着率(%)を用いて、下記式(2)に基づいて、糊剤の除去率(Desizing rate D)を算出した。
【0086】
【0087】
生地に関して、得られたセルロースエーテル(2)(糊剤)の除去率の算出結果は約12%であった。この結果より、超臨界二酸化炭素による糊抜き処理により、セルロースエーテル(2)を除去できることがわかった。撹拌効率の向上、バッチ回数の増加等の改善を通じて、糊剤の除去率をさらに上げることは可能であると推察される。
また、超臨界二酸化炭素流体(超臨界二酸化炭素と水との合計)へのセルロースエーテル(2)(糊剤)の溶解度(溶解したセルロースエーテル(2)(糊剤)の量(g)/超臨界二酸化炭素流体の体積(ml))を算出したところ、3.7×10-5g/mlであった。
【0088】
生地に関して、得られたセルロースエーテル(3)(糊剤)の除去率の算出結果は約98%であった。この結果より、共溶媒としてEGMEを使用した超臨界二酸化炭素による糊抜き処理により、セルロースエーテル(3)を極めて高い除去率で除去できることがわかった。
また、EGMEの添加量を増やして同様に糊抜き処理を行ったところ、EGMEの体積に対する超臨界二酸化炭素の体積の比(超臨界二酸化炭素の体積/EGMEの体積)を低くしても、セルロースエーテル(3)(糊剤)の除去率が向上することがわかった。
さらに、超臨界二酸化炭素流体(超臨界二酸化炭素とEGMEとの合計)へのセルロースエーテル(3)(糊剤)の溶解度(溶解したセルロースエーテル(3)(糊剤)の量(g)/超臨界二酸化炭素流体の体積(ml))を算出したところ、3.1×10-3g/mlであった。
【0089】
綿糸に関して、得られたセルロースエーテル(3)(糊剤)の除去率の算出結果は約96%であった。また、超臨界二酸化炭素流体(超臨界二酸化炭素とEGMEとの合計)へのセルロースエーテル(3)(糊剤)の溶解度(溶解したセルロースエーテル(3)(糊剤)の量(g)/超臨界二酸化炭素流体の体積(ml))を算出したところ、3.5×10-3g/mlであった。
これらの綿糸における結果と上述の生地におけるセルロースエーテル(3)(糊剤)の結果との比較より、糊抜きの対象として生地及び綿糸のいずれを用いた場合でも、セルロースエーテル(3)(糊剤)の除去率及び溶解度に変化がなく、セルロースエーテル(3)を極めて効率良く除去できることがわかった。
【0090】
(4-2)走査型電子顕微鏡による観察
卓上顕微鏡(Miniscope(登録商標) TM4000Plus、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を使用して加速電圧15kVにて、上記(3-2)のセルロースエーテル(3)が付着した生地について、糊抜き処理前の糊剤が付着した状態の生地及び糊抜き処理後の生地のそれぞれの表面の観察を行った。
SEMによる観察結果を
図8及び9に示す。
図8は糊抜き処理前の糊剤が付着した状態の生地のSEM画像(倍率:200倍)であり、
図9は糊抜き処理後の生地のSEM画像(倍率:200倍)である。
図8及び9の比較より、糊抜き処理前(
図8)では糊剤により収束していたが、糊抜き処理後(
図9)では生地を構成する糸が広がっており、収束が弱くなっていることがわかった。
【0091】
(4-3)水濡れ性(吸水性)
上記(3-2)のセルロースエーテル(3)が付着した生地について、糊抜き処理前の糊剤が付着した状態の生地及び糊抜き処理後の生地のそれぞれの水濡れ性(吸水性)の評価を行った。
生地の水濡れ性は、「JIS L 1907繊維製品の吸水性試験方法」の滴下法に従って測定を行った。
図10に、水濡れ性の評価後の生地の写真を示す。
図10の左側の生地が糊抜き処理前の糊剤が付着した状態の生地であり、
図10の右側が糊抜き処理後の生地である。
図10からわかるように、糊抜き処理前の糊剤が付着した状態の生地では、生地表面に水滴がそのまま残っており、ほとんど吸水性が見られなかった。一方、糊抜き処理後の生地では、生地表面から水が吸収され表面に水滴が存在しない状態となっていた。これらの結果より、超臨界二酸化炭素による糊抜き処理により、糊剤であるセルロースエーテルが十分に除去され、生地の吸水性を発揮できることがわかった。
【0092】
以上より、本発明の糊剤付き繊維品は、繊維の収束性に優れることがわかった。
また、以上の結果より、以下の点も確認できた。
・本実施形態の糊剤付き繊維品は、糊剤の付着量を過度に増やすことなく繊維の収束性を高めることができ、又は本実施形態の糊剤付き繊維品は、高い引張強度を示すことができ、又は本実施形態の糊剤付き繊維品は、摩擦に対し高い耐久性があり、摩擦試験後でも引張強度の低下が起きにくい。
・本実施形態の糊剤は、従来のでんぷん糊に比べて、溶液とした際のBOD及び/又はCODの値を低く抑えることができ、水質汚濁を抑制できる。
本実施形態の糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法は、糊剤を効率良く除去でき、水濡れ性に優れる繊維品を得ることができる。