(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014407
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 9/16 20060101AFI20240125BHJP
B29B 9/06 20060101ALI20240125BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C08J9/16 CES
B29B9/06
B29C44/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117212
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100109601
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 邦則
(72)【発明者】
【氏名】益本 恭志
【テーマコード(参考)】
4F074
4F201
4F214
【Fターム(参考)】
4F074AA24
4F074AB03
4F074AC32
4F074AC33
4F074AD15
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4F201AA11
4F201AB02
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4F214UA01
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4F214UB01
4F214UK31
(57)【要約】
【課題】 本発明は、養生工程を省略しても、所望の形状を有し、外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体を得ることができる発泡粒子を提供するものである。
【解決手段】 本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子1は、貫通孔11を有し、
貫通孔11の平均孔径dが1mm以下であり、
発泡粒子1の独立気泡率が85%以上であり、
発泡粒子1の平均気泡径Laが50μm以上300μm以下であり、
発泡粒子1の内周面側の内面層を有しており、
発泡粒子1の内周面側の内面層の平均気泡径Liが5μm以上150μm以下であるとともに、内面層の平均気泡径Liが発泡粒子11の平均気泡径Laよりも小さいことを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子であって、
前記貫通孔の平均孔径dが1mm以下であり、
前記発泡粒子の独立気泡率が85%以上であり、
前記発泡粒子の平均気泡径Laが50μm以上300μm以下であり、
前記発泡粒子の内周面側の内面層の平均気泡径Liが5μm以上150μm以下であるとともに、該内面層の平均気泡径Liが前記発泡粒子の平均気泡径Laよりも小さいことを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項2】
前記内面層の平均気泡径Liが30μm以上100μm以下である、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項3】
前記発泡粒子の平均気泡径Laに対する前記内面層の平均気泡径Liの比Li/Laが0.65以下である、請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項4】
前記発泡粒子の平均外径Dに対する前記発泡粒子の貫通孔の平均孔径dの比d/Dが0.4以下である、請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項5】
前記発泡粒子の見掛け密度が10kg/m3以上150kg/m3以下である、請求項1又2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項6】
前記発泡粒子が、発泡状態のポリプロピレン系樹脂発泡芯層と該発泡芯層を被覆するポリオレフィン系樹脂被覆層とを有する多層発泡粒子である、請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子が型内成形されてなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通孔を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子及び該発泡粒子の型内成形により得られる発泡粒子成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体は、軽量で、緩衝性、剛性等に優れるため種々の用途に用いられている。ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法としては、たとえば、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を成形型内に充填し、スチームで加熱することにより、発泡粒子を二次発泡させると共にその表面を溶融させて相互に融着させて、所望の形状を賦形し、成形型内で水や空気等で冷却した後、成形型から離型するという型内成形法が挙げられる。
【0003】
しかし、型内成形後の発泡粒子成形体を常温で保管すると、型内成形時に発泡粒子成形体の気泡内へ流入し、残留していたスチームが気泡中で凝縮し、気泡内が負圧となり、発泡粒子成形体に体積収縮が生じて、成形体が大きく変形することがある。そのため、発泡粒子成形体を離型した後に、たとえば60℃から80℃程度の温度に調整された高温雰囲気下に所定時間静置させて発泡粒子成形体の形状を回復させるという養生工程が通常は必要である。
【0004】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の製造工程において、養生工程を省略することができれば、生産性を著しく向上させることができる。たとえば、特許文献1には、発泡芯層と被覆層とからなる多層発泡粒子を粒子間に空隙を維持したまま融着させる技術が開示されており、特許文献1には、養生工程を省略できることが記載されている。また、特許文献2には、特定の融点、メルトフローインデックス、及びZ平均分子量等を有するポリプロピレン系樹脂を用いた発泡粒子を型内成形する技術が開示されており、特許文献2には養生時間を短縮できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-39565号公報
【特許文献2】特開2000-129028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術は、養生工程を省略できるものの、成形体の発泡粒子間に多数の空隙が形成されるため、得られる発泡粒子成形体の外観が著しく悪く、剛性が不十分で用途によっては使用することができなかった。特許文献2に記載された技術は、養生工程を短縮できるものの、特殊な原料を使用しなければならないことから、原料調達面等において改善の余地を残すものであった。また、養生工程を短縮できるものの、依然として養生工程を必要としていた。特許文献2に記載された技術において、養生工程を省略した場合には、得られる発泡粒子成形体が著しく収縮、変形してしまい、所望形状を有する発泡粒子成形体を得ることが困難であった。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、養生工程を省略しても、所望の形状を有し、外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体を得ることができる発泡粒子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示すポリプロピレン系樹脂発泡粒子が提供される。
[1]貫通孔を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子であって、
前記貫通孔の平均孔径dが1mm以下であり、
前記発泡粒子の独立気泡率が85%以上であり、
前記発泡粒子の平均気泡径Laが50μm以上300μm以下であり、
前記発泡粒子の内周面側の内面層の平均気泡径Liが5μm以上150μm以下であるとともに、該内面層の平均気泡径Liが前記発泡粒子の平均気泡径Laよりも小さいことを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[2]前記内面層の平均気泡径Liが30μm以上100μm以下である、前記[1]に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[3]前記発泡粒子の平均気泡径Laに対する前記内面層の平均気泡径Liの比Li/Laが0.65以下である、前記[1]又は[2]に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[4]前記発泡粒子の平均外径Dに対する前記発泡粒子の貫通孔の平均孔径dの比d/Dが0.4以下である、前記[1]~[3]のいずれか一に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[5]前記発泡粒子の見掛け密度が10kg/m3以上150kg/m3以下である、前記[1]~[4]のいずれか一に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[6]前記発泡粒子が、発泡状態のポリプロピレン系樹脂発泡芯層と該発泡芯層を被覆するポリオレフィン系樹脂被覆層とを有する多層発泡粒子である、前記[1]~[5]のいずれか一に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[7]前記[1]~[6]のいずれか一に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成形してなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子によれば、養生工程を省略しても、所望の形状を有し、外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体を型内成形することが可能である。また、本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、成形サイクルが短いので生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の発泡粒子の斜視図を示す外観模式図である。
【
図2】
図2は、発泡粒子の貫通孔の貫通方向に対して垂直に発泡粒子を切断した垂直断面を示す発泡粒子断面写真である。
【
図3】
図3は、発泡粒子の貫通孔の貫通方向と平行に発泡粒子を等分した切断面を示す発泡粒子断面写真である。
【
図4】
図4は、発泡粒子のDSC曲線の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子について詳細に説明する。
本明細書において、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子のことを適宜「発泡粒子」といい、発泡粒子成形体のことを適宜「成形体」という。
本発明の発泡粒子は、その多数を成形型内に充填し、スチーム等の加熱媒体を供給して発泡粒子を相互に融着させる型内成形を行うことにより、発泡粒子成形体を得ることができる。即ち、発泡粒子を型内成形することにより、成形体を得ることができる。
【0012】
本発明の発泡粒子は、ポリプロピレン系樹脂から構成される発泡層を有する。本明細書において、ポリプロピレン系樹脂とは、プロピレン単量体の単独重合体及びプロピレンに由来する構成単位を50質量%以上含むプロピレン系共重合体をいう。ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンと他のモノマーとが共重合したプロピレン系共重合体であることが好ましい。プロピレン系共重合体としては、エチレン-プロピレン共重合体、ブテン-プロピレン共重合体、ヘキセン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体等のプロピレンと炭素数4~10のα-オレフィンとの共重合体が好ましく例示される。これらの共重合体は、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等であり、ランダム共重合体であることが好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂は、複数の種類のポリプロピレン系樹脂を含有していてもよい。
【0013】
発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂は、前記の中でも、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体等のプロピレン系ランダム共重合体であることが好ましく、共重合体中のコモノマー成分の含有量が0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。なお、プロピレン系ランダム共重合体中のコモノマー成分とプロピレン成分との合計が100質量%である。この場合には、より低い成形加熱温度で剛性に優れる良好な成形体を成形することが可能となる。
【0014】
より剛性に優れるとともに、養生工程を省略した場合における変形や収縮のより小さい成形体を得るという観点からは、発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂がプロピレン-エチレンランダム共重合体であり、該プロピレン-エチレンランダム共重合体中のエチレン成分の含有量は、0.5質量%以上2.0質量%未満であることが好ましい。一方、発泡粒子の成形性を高めるとともに、エネルギー吸収特性に優れた成形体を得る観点からは、発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂がプロピレン-エチレンランダム共重合体であり、該プロピレン-エチレンランダム共重合体中のエチレン成分の含有量は、2.0質量%を超え4.5質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以上4.0質量%以下であることがより好ましく、2.8質量%以上3.5質量%以下であることがさらに好ましい。なお、IRスペクトル測定による公知の方法により共重合体中のコモノマー成分の含有量を求めることができる。なお、本明細書において例えば、プロピレン-エチレン共重合体のエチレン成分、プロピレン成分は、プロピレン-エチレン共重合体におけるプロピレン由来の構成単位、エチレン由来の構成単位をそれぞれ意味する。また、共重合体中の各モノマー成分の含有量は、共重合体中の各モノマー由来の構成単位の含有量を意味するものとする。
【0015】
発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂は、本発明の目的、効果を阻害しない範囲でポリプロピレン系樹脂以外の他の重合体を含んでいてもよい。他の重合体としては、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂等のポリプロピレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマー等が例示される。発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂中の他の重合体の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、0、つまり発泡粒子が重合体としてポリプロピレン系樹脂のみを含むことが特に好ましい。
【0016】
発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcは、155℃以下であることが好ましい。この場合には、より低い成形温度(低い成形圧)で外観や剛性に優れる成形体を成形することができる。低い成形圧での成形が可能であるという観点から、発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcは153℃以下であることがより好ましい。一方、成形体の耐熱性や機械的強度等がより向上することから、発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcは、135℃以上であることが好ましく、138℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることがさらに好ましい。
【0017】
ポリプロピレン系樹脂の融点は、JIS K7121:1987に基づき求められる。具体的には、状態調節としては「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」を採用し、状態調節された試験片を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱することによりDSC曲線を取得し、該融解ピークの頂点温度を融点とする。なお、DSC曲線に複数の融解ピークが表れる場合は、最も面積の大きな融解ピークの頂点温度を融点とする。
【0018】
発泡性や成形性をより高めるためには、発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は5g/10分以上であることが好ましく、6g/10分以上であることがより好ましく、7g/10分以上であることがさらに好ましい。一方、成形体の剛性をより高めることができることから、MFRは12g/10分以下であることが好ましく、10g/10分以下であることがより好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂のMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトマスフローレイトの値である。
【0019】
発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は800MPa以上1600MPa以下であることが好ましい。成形体の剛性を高めることができ、養生工程を省略した場合であっても寸法変化をより確実に抑制するためには、発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、800MPa以上であることが好ましく、850MPa以上であることがより好ましく、900MPa以上であることがさらに好ましい。一方、より低い成形温度で外観や剛性に優れる成形体を成形することができる上に、エネルギー吸収性に優れる発泡粒子成形体を得ることができることから、発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、1200MPa未満であることが好ましく、1100MPa以下であることがより好ましく、1000MPa以下であることがさらに好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、JIS K7171:2008に基づき、求めることができる。
従来においては、特に曲げ弾性率1200MPa未満のポリプロピレン系樹脂から構成される発泡粒子を型内成形した場合には、離型後の収縮・変形に対する抵抗力が小さいためか、養生工程を省略した場合には、成形体が著しく収縮・変形する傾向があった。本発明の発泡粒子によれば、たとえば1200MPa未満の曲げ弾性率を有するポリプロピレン系樹脂から構成される場合であっても、養生工程を省略することができる。
【0020】
次に、本発明の発泡粒子の特徴的な形状、気泡径などについて説明する。
本発明の発泡粒子は、球状、円柱状等の公知の形状の発泡粒子に貫通孔が形成されたものである。発泡粒子の全体の形状は、製造が容易であることから、円柱、角柱等の柱状が好ましい。
【0021】
貫通孔は、柱状の発泡粒子の軸方向を貫通する筒孔を少なくとも1つ形成されていることが好ましい。発泡粒子が円柱状であり、その軸方向に貫通する一の筒孔が形成されていることがより好ましい。
【0022】
本発明の発泡粒子は、貫通孔に加えて、後述するように特定の気泡構造を有している。このような発泡粒子を型内成形することにより、養生工程を省略しても、所望の形状を有する、外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体を得ることができる。同様に、養生工程において、養生温度を従来よりも低く設定した場合や、養生時間を従来よりも短く設定した場合であっても、所望の形状を有する、外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体を得ることができる。養生工程を省略する場合には、例えば、離型後の成形体をたとえば23℃の環境中で12時間静置することにより、成形体の形状を安定させることができる。本明細書において、前記のように発泡粒子の型内成形において養生工程を省略して成形体を得ることを無養生成形ともいう。
【0023】
図1~
図3に、本発明の発泡粒子の形状を例示する。但し、本発明はこれらの図面に限定されるものではない。
図1~
図3に示されるように、本発明の発泡粒子1は、筒形状であり、貫通孔11を有する。さらに、発泡粒子は、
図2及び
図3に示されるように、発泡粒子の内周面側の内面層が所定の平均気泡径Liを有している。本明細書において、発泡粒子の内面層とは、発泡粒子の内周面(つまり、貫通孔の外周縁)から外表面に向けて300μmまでの部分をいう。
【0024】
発泡粒子に貫通孔が形成されていることにより、発泡粒子間の間隙に加え、貫通孔による新たな通路が形成されるので、型内成形時に、水蒸気などの加熱媒体が発泡粒子全体に容易に流入しやすくなる。その結果、加熱媒体による伝熱効率が向上し、加熱時間、加熱媒体使用量などを低減することができ、生産効率が向上する。さらに、成形サイクルが短縮され、養生工程の省略が可能となり、生産効率が更に向上する。
【0025】
発泡粒子に貫通孔が形成されていない場合には、養生工程を省略すると、成形体の著しい収縮・変形が生じるおそれがある。一方、発泡粒子に貫通孔が形成されている場合であっても、平均孔径dが大きすぎる場合には、得られる成形体において貫通孔が閉塞されにくく、成形体の外観や剛性が低下するおそれがある。かかる理由により、発泡粒子の平均孔径dは1mm以下であることを要する。養生工程を省略しても、所望形状を有する成形体が得られると共に、より外観及び剛性に優れた成形体を得ることができるという観点から、発泡粒子の平均孔径dは、0.9mm以下であることが好ましく、0.8mm以下であることがさらに好ましく、0.7mm以下であることが特に好ましい。なお、発泡粒子の平均孔径dの下限は、養生工程を省略した場合における成形体の収縮・変形をより確実に抑制することができるという観点から0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上がより好ましい。
【0026】
発泡粒子に孔径の小さな貫通孔が形成されていると、養生工程を省略した場合であっても、収縮・変形等がなく良好な発泡粒子成形体を得ることができる。その理由としては、明らかではないが、次のように考えられる。本発明の発泡粒子を型内成形することにより得られる成形体は、成形体の外部と連通した微小な空隙が形成されやすいと考えられる。そのため、離型後速やかに成形体内部の気泡まで空気が流入し、成形体全体の内圧が高められる結果、成形体の寸法が早期に安定化しやすくなると考えられる。また、貫通孔が形成されていると、型内成形時にスチーム等の加熱媒体が貫通孔を通って成形体内部に流入しやすくなるので、より低い成形蒸気圧で成形することができる。これらの現象が複合して起きる結果、養生工程を省略した場合であっても、収縮・変形等がなく良好な発泡粒子成形体を得ることができる。
なお、前記成形体に形成される微小な空隙は、発泡粒子間の空隙が連通した空隙、完全に閉塞されなかった貫通孔による空隙が連通した空隙、貫通孔による空隙と発泡粒子間の空隙とが繋がって連通した空隙、内面層の気泡が破泡したことに由来する発泡粒子の連続気泡部分などが複雑につながって形成される。
【0027】
発泡粒子の平均孔径dは、後述する樹脂粒子における貫通孔の孔径drを調整することのほか、発泡粒子の見掛け密度や高温ピーク熱量を調整することにより調整することもできる。また、発泡粒子を二段発泡法により二段発泡粒子として製造することにより、平均孔径dをより容易に小さな値に調整することができる。
【0028】
発泡粒子の貫通孔の平均孔径dは、以下のように求められる。発泡粒子を、切断面の面積が概ね最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断する。各発泡粒子の切断面の写真撮影をし、貫通孔部分の断面積(具体的には、開口面積)を求め、その面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、一の発泡粒子の貫通孔の孔径とする。この操作を、発泡粒子群から無作為に選択した50個以上の発泡粒子について行い、得られた測定値の算術平均値を平均孔径dとする。なお、各発泡粒子の貫通孔の孔径が、貫通方向に一様でない場合であっても、各発泡粒子の貫通孔の孔径は、前記のように発泡粒子の切断面の面積が概ね最大となる位置での測定によって定められる。
【0029】
本明細書において、発泡粒子を切断面の面積が概ね最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断する際、当該位置の特定が困難である場合には、以下の方法により切断面を得ることができる。まず、発泡粒子の貫通孔の貫通方向長さを4等分する位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断して3つの切断面を得る。得られた切断面の内、切断面の面積が最大となる切断面を測定対象とすることができる。
【0030】
発泡粒子の平均気泡径Laは50μm以上300μm以下である。発泡粒子の平均気泡径Laがこの範囲内であることにより、発泡粒子の二次発泡性、型内成形時の加熱に対する耐熱性が適度に調整され、発泡粒子の型内成形性が良好となる。また、得られる発泡粒子成形体の機械的物性が優れるものとなる。かかる観点から、発泡粒子の平均気泡径Laは、80μm以上280μm以下であることが好ましく、100μm以上250μm以下であることがより好ましい。
【0031】
発泡粒子の平均気泡径Laは、次のようにして測定される。発泡粒子を切断面の面積が概ね最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断する。切断された発泡粒子の片方の切断面の写真を撮影し、該垂直断面写真において、発泡粒子の最表面から貫通孔の中心部を通って反対側の最表面まで、等角度(即ち、45°)で4本の線を引く。次に、各線と交差する気泡の数をそれぞれ計測する。そして、計測対象とした気泡と交差する部分の線分の長さの合計長さを、計測された気泡数の合計数で割算することにより、発泡粒子の気泡径を求める。この操作を、発泡粒子群から無作為に選択した50個以上の発泡粒子について行い、得られた測定値の算術平均値を発泡粒子の平均気泡径Laとする。
【0032】
本発明の発泡粒子の内周面側の内面層の平均気泡径Liが所定範囲であるとともに、前記平均気泡径Laよりも小さい。即ち、本発明においては、前記したように、小さな孔径の貫通孔が形成されていることに加え、微細な気泡径を有する内面層が、発泡粒子の内周面側に形成されている。そのため、得られる成形体の外観が良くなり、剛性がさらに向上し、養生工程を省略しても、成形体の著しい収縮・変形が防止される。発泡粒子の内面層の平均気泡径Liが所定範囲であるとともに、前記平均気泡径Laよりも小さいことにより外観、剛性がさらに向上する理由は、明らかではないが、型内成形後に貫通孔がより閉塞されやすいためであると考えられる。成形体において発泡粒子の貫通孔が閉塞されていると、貫通孔に起因する凹凸が目立たなくって外観が向上するとともに、剛性の低下が抑制される。
【0033】
内面層を構成している気泡の平均気泡径Liは、5μm以上150μm以下である。平均気泡径Liがこの範囲内であれば、型内成形後に貫通孔がより確実に閉塞されやすく、剛性や外観により優れる成形体を得ることができる。また、成形体はエネルギー吸収特性にも優れる。かかる観点から、発泡粒子の内面層の平均気泡径Liは100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましい。一方、内面層の気泡が過度に破泡することを抑制する観点からは、内面層を構成している気泡の平均気泡径Liは、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましい。
【0034】
また、内面層の平均気泡径Liは発泡粒子の平均気泡径Laよりも小さいことを要する。内面層の平均気泡径Liが発泡粒子の平均気泡径La以上である場合、前記した外観が良くなるという効果、剛性がさらに向上するという効果、養生工程を省略しても、成形体の著しい収縮・変形が抑制されるという効果が十分に得られないおそれがある。
【0035】
なお、従来においては、貫通孔を有する発泡粒子を使用した場合、型内成形後、得られた成形体は貫通孔に由来する多数の空隙が形成され、これが成形体の圧縮強度等の機械的物性や外観の低下の原因となっていた。この問題を、本発明の発泡粒子は、貫通孔の平均孔径dが所定以下であることに加えて、貫通孔の周囲に形成される内面層の平均気泡径を所定範囲とすることにより解決することができた。
【0036】
内面層の平均気泡径Liは、次のようにして測定される。発泡粒子を切断面の面積が概ね最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断する。前記切断された発泡粒子の片方の切断面の写真を撮影し、該垂直断面写真において、発泡粒子の最表面から貫通孔の中心部を通って反対側の最表面まで、等角度(即ち、45°)で4本の線を引く。各線において、貫通孔の外周縁から300μmまでの部分(即ち、各線のうち、貫通孔の外周縁から発泡粒子の外表面に向かって長さ300μmの部分)と交差する気泡の数をそれぞれ計測する。そして、計測対象とした気泡と交差する部分の線分の長さの合計長さを、計測された気泡数の合計数で割算することにより、内面層の気泡径を求める。この操作を、発泡粒子群から無作為に選択した50個以上の発泡粒子について行い、得られた測定値の算術平均値を内面層の平均気泡径Liとする。
【0037】
内面層の平均気泡径Liが前記のように微細な範囲内である発泡粒子は、たとえば後述する樹脂粒子の造粒工程において、樹脂粒子の貫通孔側に強く配向がかかるような形状を有するダイを用いることにより製造することができる。このような製造工程により得られる樹脂粒子は、貫通孔側の気泡膜に樹脂配向が与えられて結晶化が促進されるため、発泡時において結晶化した樹脂が核点として作用して気泡径が小さくなりやすいと考えられる。
【0038】
養生工程を短縮又は省略した場合において、発泡粒子の型内成形性をより良好なものとしつつ、発泡粒子成形体の外観や剛性をより確実に高めるためには、前記発泡粒子の平均気泡径Laに対する前記内面層の平均気泡径Liの比Li/Laが0.65以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好ましく、0.55以下であることがより好ましい。比Li/Laの下限は概ね0.2であり、好ましくは0.4である。
【0039】
発泡粒子の独立気泡率は、85%以上である。該独立気泡率がこの範囲内であれば、発泡粒子の良好な型内成形性が確保され、発泡粒子の外観、剛性が良好になる。かかる観点から、発泡粒子の独立気泡率は92%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0040】
発泡粒子の独立気泡率は、ASTM-D2856-70手順Cに基づき空気比較式比重計を用いて測定することができる。具体的には、次のようにして測定される。状態調節後の嵩体積約20cm3の発泡粒子を測定用サンプルとし、下記の通りエタノール没法により正確に見掛けの体積Vaを測定する。見掛けの体積Vaを測定した測定用サンプルを十分に乾燥させた後、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、空気比較式比重計により測定される測定用サンプルの真の体積の値Vxを測定する。そして、これらの体積値Va及びVxを基に、下記の式(1)により独立気泡率を計算し、サンプル5個(N=5)の算術平均値を発泡粒子の独立気泡率とする。
【0041】
独立気泡率(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ)・・・(1)
ただし、
Vx:前記方法で測定される発泡粒子の真の体積、即ち、発泡粒子を構成する樹脂の体積と、発泡粒子内の独立気泡部分の気泡全容積との和(単位:cm3)
Va:発泡粒子を、エタノールの入ったメスシリンダーに沈めた際の水位上昇分から測定される発泡粒子の見掛けの体積(単位:cm3)
W:発泡粒子測定用サンプルの重量(単位:g)
ρ:発泡粒子を構成する樹脂の密度(単位:g/cm3)
【0042】
発泡粒子の平均外径Dは、好ましくは2mm以上、より好ましくは2.5mm以上、更に好ましくは3mm以上である。平均外径Dがこの範囲であれば、筒形状の発泡粒子の二次発泡性や得られる成形体の剛性が良好となる。
一方、該平均外径Dは、好ましくは5mm以下、より好ましくは4.5mm以下、更に好ましくは4.3mm以下である。平均外径Dがこの範囲であれば、成形時の成形型内への充填性が良好となる。
【0043】
発泡粒子の平均外径Dに対する前記平均孔径dの比d/Dは、0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.25以下であることがさらに好ましい。なお、比d/Dの下限は、0.1であることが好ましい。比d/Dがこの範囲内であれば、筒形状の発泡粒子の肉厚が十分に確保され、発泡粒子の二次発泡性が良好となり、得られる成形体の外観及び剛性が良好となる。
【0044】
発泡粒子の平均外径Dは、以下のように求められる。発泡粒子を、切断面の面積が概ね最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断する。各発泡粒子の切断面の写真撮影をし、発泡粒子の断面積(具体的には、貫通孔の開口部分も含む断面積)を求め、その面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、発泡粒子の外径とする。この操作を、発泡粒子群から無作為に選択した50個以上の発泡粒子について行い、得られた測定値の算術平均値を平均外径Dとする。
なお、各発泡粒子の外径が、貫通方向において一様ではない場合であっても、各発泡粒子の外径は前記のように貫通方向と垂直方向での発泡粒子の切断面の面積が概ね最大となる位置での測定によって定められる。
【0045】
発泡粒子の肉厚tの平均値は1mm以上2mm以下であることが好ましい。肉厚tの平均値がこの範囲内であれば、発泡粒子の肉厚が十分に厚いため、型内成形時の二次発泡性がより向上する。また、外力に対して発泡粒子がより潰れにくくなり、成形体の剛性がより向上する。かかる観点から、発泡粒子の平均肉厚tは、より好ましくは1.1mm以上である。
【0046】
発泡粒子の平均肉厚tは、発泡粒子の表面(外表面)から貫通孔の外周縁(発泡粒子の内表面)までの距離であり、下記式(2)により求められる値である。
t=(D-d)/2 ・・・(2)
d:貫通孔の平均孔径(mm)
D:発泡粒子の平均外径(mm)
【0047】
また、発泡粒子の平均外径Dに対する平均肉厚tの比t/Dは0.35以上0.5以下であることが好ましい。t/Dがこの範囲内であれば、発泡粒子の型内成形において、発泡粒子の充填性が良好であるとともに、二次発泡性がより向上する。したがって、外観や剛性に優れる成形体をより低い成形加熱温度で製造することができる。
【0048】
発泡粒子の見掛け密度は、10kg/m3以上150kg/m3以下であることが好ましく、より好ましくは15kg/m3以上100kg/m3以下、さらに好ましくは20kg/m3以上80kg/m3以下であり、特に好ましくは25kg/m3以上60kg/m3以下である。該見掛け密度がこの範囲内であれば、得られる成形体が、軽量性と剛性とのバランスがよいものとなる。
【0049】
従来、特に見掛け密度の小さい発泡粒子を用いて成形体を製造する場合には、成形体が離型後に著しく変形しやすく、養生工程を省略することは困難であった。これに対し、本発明によれば、見掛け密度の小さい発泡粒子を用いて低密度の成形体を製造する場合であっても、養生工程を省略することが可能であり、無養生であっても寸法変化が小さく、剛性や外観に優れる成形体を製造することができる。
【0050】
発泡粒子の見掛け密度は、23℃のアルコール(例えばエタノール)を入れたメスシリンダー内に、相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて1日放置した発泡粒子群(発泡粒子群の重量W(g))を、金網などを使用して沈め、水位の上昇分から発泡粒子群の体積V(cm3)を求め、発泡粒子群の重量を発泡粒子群の体積で除し(W/V)、単位換算することにより求めることができる。
【0051】
発泡粒子の嵩密度に対する発泡粒子の見掛け密度の比(見掛け密度/嵩密度)は、好ましくは1.7以上である。該比がこの範囲内であれば、養生工程を省略しても、成形体の著しい収縮、変形をより抑制することができる。
一方、比(見掛け密度/嵩密度)は、好ましくは2.1以下、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.9以下である。該比がこの範囲内であれば、成形体の剛性をより高めることができ、外観をより良好にすることができる。
【0052】
発泡粒子の嵩密度は、以下のように求められる。発泡粒子群から発泡粒子を無作為に取り出して容積1Lのメスシリンダーに入れ、自然堆積状態となるように多数の発泡粒子を1Lの目盛まで収容し、収容された発泡粒子の質量W2[g]を収容体積V2(1000cm3)で除し(W2/V2)、単位換算することにより、発泡粒子の嵩密度が求められる。
【0053】
次に、本発明の発泡粒子の示差走査熱量測定(DSC)により解析される結晶構造について説明する。
該発泡粒子は、加熱速度10℃/分で23℃から200℃まで加熱した際に得られるDSC曲線に、ポリプロピレン系樹脂に固有の融解ピーク(固有ピーク)と、その高温側に1以上の融解ピーク(高温ピーク)とが現れる結晶構造を有することが好ましい。DSC曲線は、発泡粒子1~3mgを試験サンプルとして用い、JIS K7121:1987に準拠した示差走査熱量測定(DSC)により得られる。
【0054】
前記固有ピークとは、発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂に固有の吸熱ピークであり、ポリプロピレン系樹脂が本来有する結晶の融解時の吸熱によるものであると考えられる。一方、固有ピークの高温側の吸熱ピーク(高温ピーク)とは、DSC曲線で固有ピークよりも高温側に現れる吸熱ピークである。この高温ピークが現れる場合、樹脂中に二次結晶が存在するものと推定される。なお、10℃/分の加熱速度で23℃から200℃までの加熱(第1回目の加熱)を行った後、10℃/分の冷却速度で200℃から23℃まで冷却し、その後再び10℃/分の加熱速度で23℃から200℃までの加熱(第2回目の加熱)を行ったときに得られるDSC曲線においては、固有ピークのみが見られるため、固有ピークと高温ピークとを見分けることができる。この固有ピークの頂点の温度は、第1回目の加熱と第2回目の加熱とで多少異なる場合があるが、通常、その差は5℃以内である。
【0055】
発泡粒子の高温ピークの融解熱量は、5J/g以上40J/g以下であることが好ましい。高温ピークの融解熱量がこの範囲内であれば、発泡粒子の成形性をより向上させることができると共に、剛性により優れる成形体を得ることができる。かかる理由により、高温ピークの融解熱量は、より好ましくは7J/g以上30J/g以下、更に好ましくは10J/g以上20J/g以下である。
【0056】
また、高温ピークの融解熱量と、DSC曲線の全融解ピークの融解熱量の比(高温ピークの融解熱量/全融解ピークの融解熱量)は、好ましくは0.05以上0.3以下、より好ましくは0.1以上0.28以下、更に好ましくは0.15以上0.25以下である。
高温ピークの融解熱量及び全融解ピークの融解熱量との比をこのような範囲にすることで、高温ピークとして表れる二次結晶の存在により、発泡粒子は特に機械的強度に優れると共に、型内成形性に優れるものになると考えられる。
ここで、全融解ピークの融解熱量とは、DSC曲線の全ての融解ピークの面積から求められる融解熱量の合計をいう。
【0057】
発泡粒子のDSC曲線の各ピークの融解熱量は、次のようにして求められる値である。まず、発泡粒子群から1個の発泡粒子を採取する。この発泡粒子を試験片として用い、試験片を示差熱走査熱量計によって23℃から200℃まで加熱速度10℃/分で加熱させたときのDSC曲線を得る。
図4にDSC曲線の一例を示す。
図4に例示されるように、DSC曲線には、固有ピークΔH1と、固有ピークΔH1の頂点よりも高温側に頂点を有する高温ピークΔH2とが現れる。
次いで、DSC曲線上における温度80℃での点αと、発泡粒子の融解終了温度Tの点βとを結び直線L1を得る。次に、固有ピークΔH1と高温ピークΔH2との間の谷部に当たるDSC曲線上の点γからグラフの縦軸と平行な直線L2を引き、直線L1と直線L2との交わる点をδとする。なお、点γは、固有ピークΔH1と高温ピークΔH2との間に存在する極大点ということもできる。
固有ピークΔH1の面積は、DSC曲線の固有ピークΔH1部分の曲線と、線分α-δと、線分γ-δとによって囲まれる部分の面積であり、これを固有ピークの融解熱量とする。
高温ピークΔH2の面積は、DSC曲線の高温ピークΔH2部分の曲線と、線分δ-βと、線分γ-δとによって囲まれる部分の面積であり、これを高温ピークの融解熱量(高温ピーク熱量)とする。
全融解ピークの面積は、DSC曲線の固有ピークΔH1部分の曲線と高温ピークΔH2部分の曲線と、線分α-β(直線L1)とによって囲まれる部分の面積であり、これを全融解ピークの融解熱量とする。
【0058】
本発明の発泡粒子は、公知の型内成形法により成形することができ、養生工程を省略しても、著しい収縮、変形等が抑制され、所望形状を有する、外観及び剛性に優れた成形体を得ることができる。その理由は、前記した通りである。具体的には、本発明の発泡粒子を型内成形してなる成形体は、成形体の外部と連通した微小な空隙を有するものとなる。このような微小な空隙構造は、発泡粒子間の空隙、完全に閉塞されなかった貫通孔に由来する空隙、貫通孔に由来する空隙と発泡粒子間の空隙とが繋がった空隙、内面層の気泡が破壊された結果生じる連続気泡部分などが、複雑につながって形成される。したがって、離型後速やかに成形体内部の気泡まで空気が流入し、成形体全体の内圧が高められる結果、成形体の寸法が早期に安定化するため、養生工程を省略した場合であっても、成形体の著しい収縮・変形を抑制できると考えられる。
【0059】
本発明の発泡粒子は、発泡状態の発泡芯層と該発泡芯層を被覆する被覆層を有する多層構造の多層発泡粒子とすることができる。すなわち、多層発泡粒子は、前記したポリプロピレン系樹脂から構成される発泡芯層と、該発泡芯層を被覆する被覆層とからなる。被覆層は、ポリオレフィン系樹脂から構成されることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン系樹脂等が挙げられる。発泡芯層との接着性に優れることから、ポリオレフィン系樹脂は、好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂であり、より好ましくは、ポリプロピレン系樹脂である。ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン-エチレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン共重合体、プロピレン単独重合体等が挙げられ、中でもプロピレン-エチレン共重合体又はプロピレン-エチレン-ブテン共重合体が好ましい。
【0060】
被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tmsは、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcよりも低いことが好ましい。即ち、Tms<Tmcであることが好ましい。この場合には、発泡粒子の融着性が向上し、より低温での成形が可能になる。さらに、この場合には、養生工程を省略した場合の著しい収縮・変形をより抑制しやすくなる。この理由は明らかではないが、低い成形加熱温度で型内成形を行うと、発泡粒子がスチーム等の加熱媒体から受ける熱量をより低く抑えることができ、成形体の熱収縮による寸法変化がより抑制されるためと考えられる。融着性がより向上し、より低温での成形が可能になることから、Tmc-Tms≧5(℃)であることが好ましく、Tmc-Tms≧6(℃)であることがより好ましく、Tmc-Tms≧8(℃)であることがさらに好ましい。発泡芯層と被覆層との剥離や、発泡粒子間の互着等を抑制する観点からは、Tmc-Tms≦35(℃)であることが好ましく、Tmc-Tms≦20(℃)であることがより好ましく、Tmc-Tms≦15(℃)であることがさらに好ましい。
【0061】
被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tmsは、120℃以上145℃以下であることが好ましく、125℃以上140℃以下であることがより好ましい。融点Tmsがこの範囲内であれば、成形時の発泡粒子の融着性をより高めることができる。被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点は、JIS K7121:1987に基づき求められる。具体的には、前述の発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂の融点と同様の条件、方法により求められる。
【0062】
被覆層を構成するポリオレフィン系樹脂のMFRは、発泡芯層を構成するポリプロピレン系樹脂のMFRと同程度であることが好ましい。具体的には2g/10分以上15g/10分以下であることが好ましく、3g/10分以上12g/10分以下であることがより好ましく、4g/10分以上10g/10分以下であることがさらに好ましくい。該MFRがこの範囲内であれば、発泡芯層と被覆層との剥離を確実に抑制することができる。
なお、ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である場合には、そのMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトマスフローレイトの値であり、ポリオレフィン系樹脂がポリエチレン系樹脂である場合には、そのMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトマスフローレイトの値である。
【0063】
被覆層は、発泡状態であってもよく、非発泡状態であってもよいが、実質的に非発泡状態であることが好ましい。被覆層が実質的に非発泡状態であれば、融着性を高め、成形温度を低下させるという効果を発揮させやすくなる。
「実質的に非発泡」とは、「非発泡状態」とは、被覆層が発泡せず、気泡が含まれない状態と、発泡後に気泡が消失した状態とを含み、被覆層内にほとんど気泡構造がないことを意味する。被覆層の厚みは、例えば0.5μm以上100μm以下である。また、発泡芯層と被覆層との間にさらに中間層を設けてもよい。
【0064】
発泡芯層を構成する樹脂と被覆層を構成する樹脂との質量比(質量%の比)は、好ましくは99.5:0.5~80:20であり、より好ましくは99:1~85:15、さらに好ましくは97:3~90:10である。該質量比がこの範囲内であれば、成形体の剛性を維持しつつ、成形性を高めることができる。
質量比は、比「発泡芯層を構成する樹脂:被覆層を構成する樹脂」で表される。
【0065】
次に、本発明の発泡粒子の製造方法について説明する。
発泡粒子は、たとえば、ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とするポリプロピレン系樹脂粒子を製造し、得られた樹脂粒子を分散媒(例えば、水)に分散させ、樹脂粒子に発泡剤を含浸させ、発泡剤を含む樹脂粒子を分散媒とともに低圧下に放出する方法(分散媒放出発泡方法)により製造することができる。
分散媒放出発泡方法においては、樹脂粒子を、密閉容器内で分散媒に分散させ、加熱後、発泡剤を圧入して樹脂粒子に発泡剤を含浸させることが好ましい。その後、一定温度にて二次結晶を成長させる保持工程を経た後、密閉容器内の内容物を低圧下に放出することにより発泡剤を含む樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を得ることができる。なお、被覆層を有する多層発泡粒子を製造する場合には、発泡芯層形成用の芯層と、芯層を被覆する被覆層とを有する多層構造の多層樹脂粒子を製造し、少なくとも芯層を発泡させることにより、発泡状態の発泡芯層と、発泡芯層を被覆する被覆層とを有する多層構造の多層発泡粒子を得ることができる。
【0066】
樹脂粒子は、例えば、次のようにして製造される。まず、押出機内に基材樹脂となるポリプロピレン系樹脂と、必要に応じて供給される気泡核剤等の添加剤を供給し、加熱、混練して樹脂溶融混練物とする。その後、押出機先端に付設されたダイの小孔から、樹脂溶融混練物を、貫通孔を有する筒形状のストランド状に押し出し、冷却してカットすることにより樹脂粒子を得ることができる。貫通孔を有する筒形状のストランドは、押出機の先端に付設されたダイの小孔から溶融樹脂混練物を押出す際に、ダイ先端に設けられた金具により、貫通孔を有する樹脂粒子の断面形状に対応する断面形状を有する流路が形成されたダイを用い、該流路に溶融樹脂混練物を通すことにより形成される。押出物は例えばペレタイザーで切断(カット)される。カット方式は、ストランドカット方式、ホットカット方式、水中カット方式等から選択することができる。このようにして、貫通孔を有する筒状の樹脂粒子を得ることができる。なお、被覆層を形成する場合には、芯層形成用押出機と被覆層形成用押出機を用いてそれぞれの原料の樹脂溶融混練物を得、各溶融混練物をダイ中に押出し、ダイ内で合流させて、非発泡状態の筒状の芯層形成用の溶融樹脂混練物と、該筒状の芯層形成用の溶融樹脂混練物の外周表面を被覆する非発泡状態の被覆層形成用の溶融樹脂混練物とからなる鞘芯型の複合溶融樹脂混練物を形成し、押出機先端に付設された口金の細孔から複合溶融樹脂混練物をストランド状に押し出しながら冷却させてカットすることにより多層樹脂粒子を得ることができる。
【0067】
樹脂粒子の粒子径は、好ましくは0.1mm以上3.0mm以下、より好ましくは0.3mm以上1.5mm以下である。また、樹脂粒子の長さ/外径比は、好ましくは0.5以上5.0以下、より好ましくは1.0以上3.0以下である。また、1個当たりの平均質量(無作為に選んだ200個の粒子の質量から求める)は、0.1mg以上20mg以下となるように調製されることが好ましく、より好ましくは0.2mg以上10mg以下、更に好ましくは0.3mg以上5mg以下、特に好ましくは0.4mg以上2mg以下である。多層樹脂粒子の場合における芯層と被覆層の質量比率は、好ましくは99.5:0.5~80:20であり、より好ましくは99:1~85:15、さらに好ましくは97:3~90:10である。質量比率は、芯層の質量:被覆層の質量で表される。
【0068】
発泡粒子の貫通孔の平均孔径dは、樹脂粒子の貫通孔の孔径drを調整することにより、所望の範囲に調整することができる。貫通孔の孔径drは、たとえば貫通孔を形成するためのダイの小孔の孔径(ダイの内径)により調整することができる。また、樹脂粒子の粒子径、平均質量を調整することにより、発泡粒子の平均外径、平均肉厚を前記所望の範囲に調整することができる。
【0069】
樹脂粒子の貫通孔の平均孔径drは0.25mm未満であることが好ましく、0.24mm未満であることがより好ましく、0.22mm以下であることが更に好ましい。平均孔径drがこの範囲内であれば、貫通孔の平均孔径dが1mm以下であり、さらに平均外径Dに対する平均孔径dの比d/Dが0.4以下である発泡粒子をより確実に製造することができる。樹脂粒子の貫通孔の平均孔径drは0.1mm以上であることが好ましい。平均孔径drがこの範囲内であれば、貫通孔を有する樹脂粒子の製造安定性が確保される。
【0070】
また、前記した発泡粒子についてと同様の理由により、樹脂粒子の平均外径Drに対する平均孔径drの比dr/Drは0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.25以下であることが更に好ましく、0.2以下であることが特に好ましい。樹脂粒子の平均外径Drに対する平均孔径drの比dr/Drは0.1以上であることが好ましい。
【0071】
樹脂粒子の貫通孔の平均孔径drは、以下のように求められる。樹脂粒子を、切断面の面積が概ね最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断する。各樹脂粒子の切断面の写真撮影をし、貫通孔部分の断面積(具体的には、開口面積)を求め、その面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらを算術平均した値を、一の樹脂粒子の貫通孔の孔径とする。この操作を、発泡粒子群から無作為に選択した50個以上の発泡粒子について行い、得られた測定値の算術平均値を平均孔径drとする。
なお、各樹脂粒子の貫通孔の大きさが、貫通孔径が貫通方向に一様でない場合には、各樹脂粒子の貫通孔径は、前記のように樹脂粒子の切断面の面積が概ね最大となる位置での測定によって定められる。
【0072】
樹脂粒子の平均外径Drは、以下のように求められる。一の樹脂粒子を、切断面の面積が概ね最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断する。各樹脂粒子の切断面の写真撮影をし、樹脂粒子の断面積(具体的には、貫通孔の開口部分も含む断面積)を求め、その面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、一の樹脂粒子の外径とする。この操作を、発泡粒子群から無作為に選択した50個以上の発泡粒子について行い、得られた測定値の算術平均値を平均外径Drとする。
なお、各樹脂粒子の外径が、貫通方向において一様ではない場合には、各樹脂粒子の外径は前記のように貫通方向と垂直方向での樹脂粒子の切断面の面積が概ね最大となる位置での測定によって定められる。
【0073】
なお、ストランドカット法における、樹脂粒子の粒子径、長さ/外径比や平均質量の調製は、樹脂溶融混練物を押出す際に、押出速度、引き取り速度、カッタースピードなどを適宜変えて切断することにより行うことができる。
【0074】
前記のようにして得られた樹脂粒子を分散媒放出発泡方法により発泡させることにより、発泡粒子を得ることができる。分散媒放出発泡方法においては、密閉容器内で分散させるための分散媒(具体的には液体)としては水性分散媒が用いられる。水性分散媒は、水を主成分とする分散媒(具体的には液体)である。水性分散媒における水の割合は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。水性分散媒中の水以外の分散媒としては、エチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0075】
樹脂粒子には、必要に応じて、気泡調製剤、結晶核剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、導電性フィラー、抗菌剤等の添加剤を添加できる。気泡調製剤としては、タルク、マイカ、ホウ酸亜鉛、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、石膏、ゼオライト、ホウ砂、水酸化アルミニウム、カーボン等の無機粉体;リン酸系核剤、フェノール系核剤、アミン系核剤、ポリフッ化エチレン系樹脂粉末等の有機粉体が挙げられる。気泡調製剤を添加する場合、気泡調製剤の含有量は、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上1質量部以下である。
【0076】
分散媒放出発泡方法においては、容器内で加熱された樹脂粒子同士が互いに融着しないように、分散媒体中に分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては、樹脂粒子の容器内での融着を防止するものであればよく、有機系、無機系を問わず使用可能であるが、取り扱いの容易さから微粒状無機物が好ましい。分散剤としては、例えば、アムスナイト、カオリン、マイカ、クレー等の粘土鉱物が挙げられる。粘土鉱物は、天然のものであっても、合成されたものであってもよい。また、分散剤としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、酸化鉄等が挙げられる。分散剤は、1種または2種以上が使用される。これらの中でも分散剤としては粘土鉱物を用いることが好ましい。分散剤は、樹脂粒子100質量部当たり0.001質量部以上5質量部程度添加することが好ましい。
【0077】
なお、分散剤を使用する場合、分散助剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤を併用することが好ましい。分散助剤の添加量は、前記樹脂粒子100質量部当たり、0.001質量部以上1質量部以下とすることが好ましい。
【0078】
樹脂粒子を発泡させるための発泡剤としては、物理発泡剤を用いることが好ましい。物理発泡剤は、無機物理発泡剤と有機物理発泡剤が挙げられ、無機物理発泡剤としては、たとえば二酸化炭素、空気、窒素、ヘリウム、アルゴンが挙げられる。また、有機物理発泡剤としては、たとえばプロパン、ブタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン等のハイドロフルオロオレフィン等のハロゲン化炭化水素が挙げられる。なお、物理発泡剤は単独で用いても、あるいは二種以上を用いてもよい。また、無機物理発泡剤と有機物理発泡剤とを併用することもできる。環境に対する負荷や取扱い性に優れることから、無機物理発泡剤が好ましく、より好ましくは二酸化炭素が用いられる。有機物理発泡剤を用いる場合には、ポリプロピレン系樹脂への溶解性、発泡性に優れることから、n-ブタン、i-ブタン、n-ペンタン、i-ペンタンを使用することが好ましい。
【0079】
樹脂粒子100質量部に対する発泡剤の添加量は、好ましくは0.1質量部以上30質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上15質量部以下である。
【0080】
分散媒放出発泡方法において、樹脂粒子に発泡剤を含浸させる方法としては、樹脂粒子を密閉容器内の水性分散媒中に分散させ、加熱しながら、発泡剤を圧入し、樹脂粒子に発泡剤を含浸させる方法が好ましく用いられる。
【0081】
発泡時の密閉容器内圧は0.5MPa(G:ゲージ圧)以上であることが好ましい。一方、密閉容器内圧は4.0MPa(G)以下であることが好ましい。この範囲内であれば、密閉容器の破損や爆発等のおそれがなく安全に発泡粒子を製造することができる。
【0082】
分散媒放出発泡方法における水性分散媒の昇温は、1℃/分以上5℃/分以下で行うことで、発泡時の温度も適切な範囲とすることができる。
【0083】
熱流束示差走査熱量測定(DSC)によるDSC曲線に、前記固有ピークと前記高温ピークとが現れる結晶構造を有する発泡粒子は、例えば、次のようにして得られる。
【0084】
分散媒放出発泡方法における加熱時に、(ポリプロピレン系樹脂の融点-20℃)以上、(ポリプロピレン系樹脂の融解終了温度)未満の温度で十分な時間、好ましくは10分以上60分以下保持する一段保持工程を行う。その後、(ポリプロピレン系樹脂の融点-15℃)から(ポリプロピレン系樹脂の融解終了温度+10℃)の温度に調節する。そして、必要により、その温度でさらに十分な時間、好ましくは10分以上60分以下保持する二段保持工程を行う。次いで、発泡剤を含む発泡性樹脂粒子を密閉容器内から低圧下に放出して発泡させることにより、前記の結晶構造を有する発泡粒子を得ることができる。発泡は、密閉容器内の温度が(ポリプロピレン系樹脂の融点-10℃)以上で行われることが好ましく、(ポリプロピレン系樹脂の融点)以上(ポリプロピレン系樹脂の融点+20℃)以下で行われることがより好ましい。
【0085】
特に見掛け密度の低い発泡粒子の製造にあたっては、前記分散媒放出発泡方法により得られた発泡粒子(一段発泡粒子)を加圧可能な密閉容器に投入し、空気等の加圧気体を該容器内に圧入することにより加圧処理をして発泡粒子の内圧を高め、発泡粒子を容器内でスチーム等の加熱媒体を用いて所定の時間加熱すること(二段発泡)により、特に見掛け密度の低い発泡粒子を得ることができる。
【0086】
成形体は、前記したように発泡粒子を型内成形すること(型内成形法)により得ることができる。型内成形法は、発泡粒子を成形型内に充填し、加熱媒体を成形型内に導入し、加熱することにより行われる。具体的には、発泡粒子を成形型内に充填した後、成形型内に加熱媒体を導入することにより、発泡粒子を加熱して二次発泡させると共に、相互に融着させて成形空間の形状が賦形された成形体を得ることができる。加熱媒体としては、たとえばスチームが挙げられる。
【0087】
本発明の発泡粒子から得られる発泡粒子成形体は、前記発泡粒子を型内成形して得られるものであり、相互に融着した多数の発泡粒子から構成されている。
【0088】
発泡粒子成形体の密度は10kg/m3以上100kg/m3以下であることが好ましい。該密度がこの範囲内であれば、成形体の軽量性と剛性とをバランスよく向上させることができる。成形体の剛性をより向上させるためには、成形体の密度は20kg/m3以上であることがより好ましい。成形体をより軽量にするためには、成形体の密度は80kg/m3以下であることがより好ましく、50kg/m3以下であることがさらに好ましい。成形体の密度は、成形体の重量(g)を成形体の外形寸法から求められる体積(cm3)で除して算出される。なお、例えば成形体が少なくとも部分的に複雑な形状を有し、成形体の外形寸法から体積を求めることが容易でない場合には、水没法により成形体の体積を求めることができる。従来、密度の小さい成形体を製造する場合、離型後に成形体が著しく変形しやすいため、養生工程を省略することは特に困難であった。これに対し、本発明によれば、密度が小さい場合であっても、養生工程を省略することが可能であり、無養生でも所望形状を有し、外観、剛性に優れた成形体を得ることができる。この効果を有効に発揮させるという観点からも、成形体の密度を前記範囲内にすることが好ましい。
【0089】
養生工程を省略しても寸法変化をより十分抑制する観点からは、成形体の空隙率は4%以上であることが好ましく、4.5%以上であることがより好ましく、5%以上であることがさらに好ましい。一方、剛性や外観をより向上させるためには、成形体の空隙率は12%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、8%以下であることがさらに好ましい。
【0090】
成形体の空隙率は、例えば次のようにして測定、算出される。具体的には、まず、成形体の中心部分から直方体形状(縦20mm×横100mm×高さ20mm)の試験片を切り出す。次いで、この試験片を、エタノールを入れたメスシリンダー中に沈めてエタノールの液面の上昇分から試験片の真の体積Vc[L]を求める。一方、試験片の外形寸法から外形の体積Vd[L]を求める。求められる真の体積Vcと外形の体積Vdから下記式(3)により成形体の空隙率を求めることができる。
空隙率(%)=[(Vd-Vc)/Vd]×100・・・(3)
【0091】
成形体の50%圧縮応力(kPa)をその測定に供した成形体の密度(kg/m3)で除した値が7.0以上(kPa/(kg/m3))であることが好ましく、7.5(kPa/(kg/m3))以上であることがより好ましい。該値がこの範囲内であれば、成形体が剛性に優れるものとなる。
また、成形体の50%圧縮応力に対する25%圧縮応力の比は、0.65以上であることが好ましく、0.70以上であることがより好ましい。この場合には、広いひずみ量範囲にわたって、エネルギー吸収性能の変化が少なくなるため、例えば衝撃吸収材として様々な用途により好適に使用することが可能となる。
成形体の25%圧縮応力及び50%圧縮応力は、JIS K6767:1999に基づき測定することができる。
【0092】
本発明の発泡粒子成形体は、自動車などの車両分野、建築分野等の種々の分野における吸音材、衝撃吸収材、緩衝材等として用いることができる。
【実施例0093】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。但し、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0094】
実施例、比較例に使用した樹脂、得られた発泡粒子、得られた成形体について、以下の物性測定及び評価を行った。発泡粒子の物性測定及び評価は、発泡粒子を相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて24時間静置して状態調節した後に行った。また、成形体の物性測定及び評価は、型内成形後に養生を行わなかった成形体を用いて行った。具体的には、後述するように発泡粒子の型内成形を行い、離型して得られた成形体を相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて12時間静置して状態調節した後に物性測定及び評価を行った。
【0095】
<ポリプロピレン系樹脂>
表1に、発泡粒子の製造に使用したポリプロピレン系樹脂の各種物性等を示す。
【0096】
【0097】
(ポリプロピレン系樹脂のモノマー成分含有量)
ポリプロピレン系樹脂(具体的には、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレン-ブテンランダム共重合体)のモノマー成分含有量は、IRスペクトルによる公知の方法により求めた。
【0098】
(ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率)
ポリプロピレン系樹脂を230℃でヒートプレスして厚さ4mmのシートを作製し、このシートから長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの試験片を切り出した。この試験片の曲げ弾性率を、JIS K7171:2008に準拠して測定した。なお、圧子の半径R1及び支持台の半径R2は共に5mmであり、支点間距離は64mmであり、試験速度は2mm/minである。
【0099】
(ポリプロピレン系樹脂の融点)
ポリプロピレン系樹脂の融点は、JIS K7121:1987に基づき求めた。具体的には、状態調節として「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」を採用し、状態調節された試験片を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱することによりDSC曲線を得、該融解ピークの頂点温度を融点とした。なお、測定装置は、熱流束示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製、型番:DSC7020)を用いた。
【0100】
(ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイト)
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイト(MFR)は、JIS K7210-1:2014に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0101】
表2に、得られた多層樹脂粒子の組成、多層発泡粒子の製造方法、物性等を示す。表3に、得られた成形体の製造方法、物性等を示す。
【0102】
【0103】
【0104】
<発泡粒子>
(貫通孔の平均孔径d)
発泡粒子の貫通孔の平均孔径は、以下のように求めた。状態調節後の発泡粒子群から無作為に選択した100個の発泡粒子について、切断面の面積が概ね最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断した。各発泡粒子の切断面の写真撮影をし、断面写真における貫通孔部分の断面積(開口面積)を求めた。具体的には、断面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらを算術平均した値を、発泡粒子の貫通孔の平均孔径(d)とした。
【0105】
(平均外径D)
発泡粒子の平均外径は、以下のように求めた。状態調節後の発泡粒子群から無作為に選択した100個の発泡粒子について、切断面の面積が概ね最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断した。各発泡粒子の切断面の写真撮影をし、発泡粒子の断面積(貫通孔の開口部も含む)を求めた。具体的には、断面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらを算術平均した値を、発泡粒子の平均外径(D)とした。
【0106】
(平均肉厚t)
発泡粒子の平均肉厚は、下記式(2)により求めた。
平均肉厚t=(平均外径D-平均孔径d)/2・・・(2)
【0107】
(嵩密度)
発泡粒子の嵩密度は、以下のように求めた。状態調節後の発泡粒子群から発泡粒子を無作為に取り出して容積1Lのメスシリンダーに入れ、自然堆積状態となるように多数の発泡粒子を1Lの目盛まで収容し、収容された発泡粒子の質量W2[g]を収容体積V2(1000[cm3])で除して(W2/V2)、単位換算することにより発泡粒子の嵩密度を求めた。
【0108】
(見掛け密度)
発泡粒子の見掛け密度は、以下のように求めた。まず、温度23℃のエタノールが入ったメスシリンダーを用意し、状態調節後の任意の量の発泡粒子群(発泡粒子群の質量W1[g])をメスシリンダー内のエタノール中に金網を使用して沈めた。そして、金網の体積を考慮し、水位上昇分より読みとられる発泡粒子群の容積V1[cm3]を測定した。メスシリンダーに入れた発泡粒子群の質量W1[g]を容積V1[cm3]で除して(W1/V1)、単位換算することにより発泡粒子の見掛け密度を求めた。
【0109】
(独立気泡率)
発泡粒子の独立気泡率は、ASTM-D2856-70手順Cに基づき空気比較式比重計を用いて測定した。具体的には、次のようにして求めた。状態調節後の嵩体積約20cm3の発泡粒子を測定用サンプルとし、下記の通りエタノール没法により正確に見掛けの体積Vaを測定した。見掛けの体積Vaを測定した測定用サンプルを十分に乾燥させた後、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、島津製作所社製アキュピックII1340により測定される測定用サンプルの真の体積の値Vxを測定した。測定圧力は5kPa(G)とした。そして、これらの体積値Va及びVxを基に、下記の式(1)により独立気泡率を計算し、サンプル5個(N=5)の算術平均値を発泡粒子の独立気泡率とした。
独立気泡率(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ)・・・(1)
ただし、
Vx:前記方法で測定される発泡粒子の真の体積、即ち、発泡粒子を構成する樹脂の体積と、発泡粒子内の独立気泡部分の気泡全容積との和(単位:cm3)
Va:発泡粒子を、エタノールの入ったメスシリンダーに沈めた際の水位上昇分から測定される発泡粒子の見掛けの体積(単位:cm3)
W:発泡粒子測定用サンプルの重量(単位:g)
ρ:発泡粒子を構成する樹脂の密度(単位:g/cm3)
【0110】
(高温ピーク熱量)
前記した状態調節を行った後の発泡粒子群から1個の発泡粒子を採取した。この発泡粒子を試験片として用い、試験片を熱流束示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製、型番:DSC7020)によって23℃から200℃まで加熱速度10℃/分で加熱させたときのDSC曲線を得た。DSC曲線において、高温ピークの面積を求め、これを高温ピーク熱量とした。
この測定を5個の発泡粒子について行い、算術平均した値を表2に示した。
【0111】
(平均気泡径La)
発泡粒子の平均気泡径Laは、次のようにして測定した。発泡粒子を切断面の面積が概ね最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断した。切断された発泡粒子の片方の切断面の写真を撮影し、該垂直断面写真において、発泡粒子の最表面から貫通孔の中心部を通って反対側の最表面まで、等角度(即ち、45°)で4本の線を引いた。次に、各線と交差する気泡の数をそれぞれ計測した。そして、計測対象とした気泡と交差する部分の線分の長さの合計長さを、計測された気泡数の合計数で割算することにより、発泡粒子の気泡径を求めた。この測定を50個の発泡粒子について行い各測定値の算術平均値を平均気泡径Laとした。
【0112】
(内面層の平均気泡径Li)
内面層の平均気泡径Liは、次のようにして測定した。発泡粒子を切断面の面積が概ね最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断した。切断された発泡粒子の片方の切断面の写真を撮影し、該垂直断面において、発泡粒子の最表面から貫通孔の中心部を通って反対側の最表面まで、等角度(即ち、45°)で4本の線を引いた。各線において、貫通孔の外周縁から300μmまでの部分(即ち、各線のうち、貫通孔の外周縁から発泡粒子の外表面に向かって長さ300μmまでの部分)と交差する気泡の数をそれぞれ計測した。そして、計測対象とした気泡と交差する部分の線分の長さの合計長さを、計測された気泡の合計数で割算することにより、内面層の気泡径を求めた。この測定を50個の発泡粒子について行い各測定値の算術平均値を内面層の平均気泡径Liとした。
【0113】
<発泡粒子成形体>
(成形体密度)
成形体密度(kg/m3)は、成形体の重量を成形体の外形寸法から求められる体積で除して単位換算することにより算出した。
【0114】
(25%圧縮応力及び50%圧縮応力)
成形体の表面にあるスキン層が試験片に含まれないように、成形体の中心部から縦50mm×横50mm×厚み25mmの試験片を切り出した。JIS K6767:1999に基づき、圧縮速度10mm/分にて圧縮試験を行い成形体の25%圧縮応力及び50%圧縮応力を求めた。なお、25%圧縮応力及び50%圧縮応力の測定に用いた試験片の密度を前記成形体密度の測定と同様の方法により求め、「切り出し密度)」として表2に表示した。
【0115】
(空隙率)
成形体の空隙率は、成形体の中心部分から直方体形状(縦20mm×横100mm×高さ20mmの試験片を切り出した。次いで、この試験片を、エタノールを入れたメスシリンダー中に沈めてエタノールの液面の上昇分から試験片の真の体積Vc[L]を求めた。また、試験片の外形寸法から外形の体積Vd[L]を求めた。求めた真の体積Vcと外形の体積Vdから下記式(3)により成形体の空隙率を求めた。
空隙率(%)=[(Vd-Vc)/Vd]×100・・・(3)
【0116】
(外観)
成形体の表面を目視観察し、下記基準に基づいて成形体の外観を評価した。
A+:成形体の表面に粒子間隙が極めて少なく、かつ貫通孔に起因する凹凸がほとんど目立たない非常に良好な表面状態を示す。
A:成形体の表面に粒子間隙が十分に小さく、かつ貫通孔に起因する凹凸があまり目立たない良好な表面状態を示す。
B:成形体の表面に粒子間隙および/または貫通孔に起因する凹凸がやや認められる。
C:成形体の表面に粒子間隙および/または貫通孔に起因する凹凸が著しく認められる。
【0117】
(成形サイクル)
後述する成形体の製造において、加熱終了後、成形型内の成形体を水により冷却し、成形型内を放圧し、成形型内面に取付けられた面圧計の値が0.04MPa(G)に低下するまでに要した時間(即ち、水冷時間)を測定し、測定された水冷時間をもとに以下の基準で評価した。
A:水冷時間が50秒以下
B:水冷時間が50秒超120秒以下
C:水冷時間が120秒超
【0118】
(無養生成形性)
無養生成形性の評価は、次のように行った。成形体を成形金型から離型した後に、60℃から80℃程度の温度に調整された高温雰囲気下で所定時間静置させるという養生を行うことなく、成形体の融着性及び回復性の評価を行った。具体的には、後述する成形体の製造において、離型後に23℃で12時間静置した成形体を用いて後述の融着性、回復性の評価を行い、融着性及び回復性の評価結果がいずれも合格である成形体が得られた場合を「良:○」と評価し、その他の場合を「不良:×」と評価した。なお、比較例2及び比較例3については、外観が不良であったため、無養生成形性の評価は実施しなかった。
【0119】
(融着性)
成形体を折り曲げて破断させ、破断面に存在する発泡粒子の数C1と、破壊した発泡粒子の数C2とを求め、破断面に存在する発泡粒子の数に対する破壊した発泡粒子の数の比率(材料破壊率)を算出した。材料破壊率は、C2/C1×100という式から算出される。この測定を異なる試験片を用いて5回行い、材料破壊率をそれぞれ求めた。材料破壊率の算術平均値が90%以上である場合を合格とし、比が90%未満である場合を不合格とした。
【0120】
(回復性)
縦300mm、横250mm、厚み60mmの平板形状の金型を用いて得られた成形体における四隅部付近(具体的には、角より中心方向に10mm内側)の厚みと、中心部(縦方向、横方向とも2等分する部分)の厚みをそれぞれ計測した。次いで、計測した箇所のうち最も厚みの厚い箇所の厚みに対する最も厚みの薄い箇所の厚みの比(単位:%)を算出した。厚みの比が95%以上である場合を合格とし、95%未満である場合を不合格とした。
【0121】
実施例1~4、比較例1~3において、発泡粒子及びその成形体を次のように製造した。
(実施例1)
<ポリプロピレン系多層樹脂粒子の製造>
ポリプロピレン系樹脂(略称PP1)を芯層形成用押出機内で最高設定温度245℃にて溶融混練して芯層形成用樹脂溶融物を得た。また、ポリプロピレン系樹脂(略称PP4)を被覆層形成用押出機内で最高設定温度245℃にて溶融混練して被覆層形成用樹脂溶融物を得た。次いで、これらの樹脂溶融物を、共押出ダイに導入し、ダイ内で、芯層形成用樹脂溶融物を芯層、被覆層形成用樹脂溶融物を鞘層とする鞘芯状に合流させた。そして、この鞘芯状の樹脂溶融物を共押出ダイから管状のストランド状に押し出し、ストランド状物を引取ながら水冷した後、ペレタイザーで質量が約1.5mgとなるように切断した。このようにして、貫通孔を有する円筒状の芯層と該芯層の外周面を被覆する被覆層とからなる多層樹脂粒子を得た。なお、多層樹脂粒子の製造に際し、芯層形成用押出機に気泡調整剤としてのホウ酸亜鉛を供給し、ポリプロピレン系樹脂中にホウ酸亜鉛500質量ppmを含有させた。
なお、多層樹脂粒子の貫通孔は、次のように形成した。ダイから前記鞘芯状の樹脂溶融物を押出す際に、ダイ先端側の流路に設けられた金具により、貫通孔を有する多層樹脂粒子の断面形状を形成可能な断面形状を有する流路が形成されたダイを用い、該流路に前記鞘芯状の樹脂溶融物を通すことにより、貫通孔を形成した。
【0122】
貫通孔を有する多層樹脂粒子を製造するために、実施例1、実施例2、実施例3の樹脂粒子の製造においては、ダイ1を用い、実施例4においては、ダイ2を用い、比較例1においては、ダイ3を用い、比較例2、比較例3においては、ダイ4を用いた。
ダイ1は、貫通孔の平均孔径dが小さい発泡粒子であると共に、微細な気泡からなる内面層を有する発泡粒子を製造するために設計されたダイであり、ダイ2は、貫通孔の平均孔径dが小さい樹脂粒子を製造するために設計されたダイであり、ダイ3は、貫通孔を有しない樹脂粒子を製造するために設計されたダイであり、ダイ4は、貫通孔の平均孔径dが大きい樹脂粒子を製造するために設計されたダイである。
【0123】
なお、ダイ1は、ダイの先端側の流路に設けられた貫通孔形成用の金具の押出方向の長さ(貫通孔形成用の金具の上流側の端点からダイ先端、つまり、樹脂溶融物の出口までの距離)が長く設計されている。具体的には、ダイの先端側の流路に設けられた貫通孔形成用の金具の押出方向の長さは、ダイ2、ダイ4のダイの先端側の流路に設けられた貫通孔形成用の金具の押出方向の長さと比較して1.4倍である。ダイ1は、貫通孔を有する樹脂粒子を製造するために従来使用されているダイ2やダイ4と比べて樹脂粒子の貫通孔側に強く配向がかかるよう設計されたものである。
【0124】
<ポリプロピレン系多層発泡粒子の製造>
前記した多層樹脂粒子1kgを、分散媒としての水3Lともに5Lの密閉容器内に仕込み、更に多層樹脂粒子100質量部に対し、分散剤としてカオリン0.3質量部、界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.004質量部を密閉容器内に添加した。発泡剤として二酸化炭素を密閉容器内に添加した後、密閉容器を密閉し、密閉容器内を攪拌しながら表2の発泡温度の欄に記載の温度まで加熱した。このときの容器内圧力(発泡剤含浸圧力、二酸化炭素圧力)は表2に示す値であった。この発泡温度を15分保持した後、容器内容物を大気圧下に放出して多層発泡粒子を得た。この多層発泡粒子を23℃で24時間乾燥させた。
【0125】
<成形体の製造>
成形体の製造には、多層発泡粒子を23℃で24時間乾燥させたものを用い、成形前に内圧付与を行った。具体的には、多層発泡粒子を密閉容器内に入れ、圧縮空気により多層発泡粒子を加圧し、成形前の多層発泡粒子に予め表3に示す内圧を付与した。
なお、多層発泡粒子の内圧は、以下のようにして測定される値である。成形型内に充填する直前の、内圧が高められた状態の多層発泡粒子群の重量をQ(g)とし、48時間経過後の多層発泡粒子群の重量をU(g)として、該重量Q(g)とU(g)の差を増加空気量W(g)とし、式P=(W÷M)×R×T÷Vにより多層発泡粒子の内圧P(MPa(G))を計算した。ただし、式中、Mは空気の分子量、Rは気体定数、Tは絶対温度、Vは多層発泡粒子群の見掛け体積から発泡粒子群中に占める基材樹脂の体積を差し引いた体積(L)を意味し、本例では、M=28.8(g/mol)、R=0.0083(MPa・L/(K・mol))、T=296(K)である。
【0126】
次いで、クラッキング量を表3に記載の量に調節した、縦300mm×横250mm×厚さ60mmの平板成形金型に多層発泡粒子を充填し、型締めして金型両面からスチームを5秒供給して予備加熱する排気工程を行った。その後、所定の成形圧より0.08MPa(G)低い圧力に達するまで、金型の一方の面側からスチームを供給して一方加熱を行った。次いで、所定の成形圧より0.04MPa(G)低い圧力に達するまで金型の他方の面側よりスチームを供給して一方加熱を行った後、表3に記載の成形圧に達するまで加熱(本加熱)を行った。加熱終了後、放圧し、成形体の発泡力による表面圧力が0.04MPa(G)になるまで水冷した後、型から離型して成形体を得た。
【0127】
(実施例2)
発泡芯層を構成する基材樹脂としてポリプロピレン系樹脂2(略称PP2)を使用したこと、発泡温度及び発泡剤含浸圧力を表2に示す値に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により多層発泡粒子を製造した。得られた多層発泡粒子を用いて、表3に示す成形条件とした以外は実施例1と同様の方法により発泡粒子成形体を製造した。
【0128】
(実施例3)
発泡芯層を構成する基材樹脂としてポリプロピレン系樹脂3(略称PP3)を使用したこと、発泡温度及び発泡剤含浸圧力を表2に示す値に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により多層発泡粒子を製造した。得られた多層発泡粒子を用いて、実施例1と同様の方法により発泡粒子成形体を製造した。
【0129】
(実施例4)
ダイ2を使用したこと以外は実施例1と同様の方法により多層発泡粒子を製造した。また、得られた多層発泡粒子を用いて、実施例1と同様の方法により成形体を製造した。
ダイ2は、貫通孔を形成するためにダイの先端に設けられた金具のダイ先端までの距離がダイ1と比較して短いこと以外はダイ1と同様の形状を有している。
【0130】
(比較例1)
ダイ3を用いて貫通孔を有さない多層樹脂粒子を製造し、発泡温度、発泡剤含浸圧力を表2に示す値に変更した以外は実施例1と同様にして、多層発泡粒子を得た。また、得られた多層発泡粒子を用いて、表3に示す成形条件とした以外は実施例1と同様の方法により発泡粒子成形体を製造した。
【0131】
(比較例2)
多層樹脂粒子の製造時に、ダイ4を使用し、発泡温度、発泡剤含浸圧力を表2に示す値に変更した以外は実施例1と同様にして多層発泡粒子を得た。また、得られた多層発泡粒子を用いて、表2に示す成形条件とした以外は実施例1と同様の方法により発泡粒子成形体を製造した。
ダイ4は、ダイの先端に設けられた金具のダイ先端までの距離がダイ1と比較して短いこと、得られる樹脂粒子の貫通孔の孔径が大きくなるようダイの小孔の内径が変更されていること以外はダイ1と同様の形状を有している。
【0132】
(比較例3)
比較例2と同様の発泡粒子を用いて、成形工程において、成形条件を表3に示す条件に変更して発泡粒子成形体を得た。
【0133】
実施例1の発泡粒子の貫通孔の貫通方向に対する垂直断面写真を
図2に示す。また、実施例1の発泡粒子の貫通方向に沿った切断面の断面写真を
図3に示す。
図2及び
図3に示されているように、発泡粒子の内周面(つまり、貫通孔の外周縁)側に微細な気泡径を有する内面層が形成されている。
表3により理解されるように、実施例1~4によれば、養生工程を省略しても、所望形状を有する、外観及び剛性に優れた成形体を製造することができる。
実施例4は、実施例1と比べて発泡粒子の内面層の平均気泡径Liがやや大きい(表2)。そのため、成形体の外観及び圧縮応力が実施例1の成形体と比べてやや劣っていた。
【0134】
一方、表2、表3より理解されるように、比較例1では、貫通孔を有していない多層発泡粒子を用いて成形体を製造したため、無養生成形では、成形体の著しい収縮・変形が生じ(回復性が不合格)、良好な成形体を得ることができなかった。また、成形サイクルが著しく長くなった。
比較例2では、貫通孔の平均孔径dが大きすぎるとともに、内面層の平均気泡径が大きすぎる多層発泡粒子を用いて成形体を製造したため、成形体の外観が悪く、剛性も低下した。
比較例3は、比較例2に対して成形条件を変更し、成形体の外観及び剛性を改善しようとした例である。比較例3では、外観は改善したものの不十分であり、また、成形サイクルが長くなった。