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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144074
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼板
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C23C26/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023209631
(22)【出願日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2023056062
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 志周
(72)【発明者】
【氏名】秦 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 武士
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA21
4K044BB01
4K044BC07
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】自動車や建材用の強度部材に適した鋼板であって、優れた耐遅れ破壊特性を有するとともに、皮膜密着性にも優れた高強度鋼板を提供する。
【解決手段】所定の引張強度を有する高強度鋼板の表面に、アゾール化合物、ピリジン化合物、チオカルボニル化合物、メルカプト化合物、スルフィド化合物の中から選ばれる少なくとも1種からなる有機化合物(x)と有機樹脂(y)を含む皮膜(A)が形成され、この皮膜(A)は、有機化合物(x)と有機樹脂(y)を所定の付着量及び割合で含むとともに、所定の膜厚を有する。鋼板表面に有機樹脂皮膜である皮膜(A)を形成することで、大気中で付着する塩化物イオンを遮断するとともに、その皮膜(A)中に有機化合物(x)を含有させることで、塗装欠陥部での腐食が抑制されて優れた耐遅れ破壊特性が得られ、さらに皮膜(A)が有機樹脂皮膜であるため皮膜密着性にも優れる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1180MPa以上の引張強度を有する鋼板の表面に、アゾール化合物、ピリジン化合物、チオカルボニル化合物、メルカプト化合物、スルフィド化合物の中から選ばれる少なくとも1種からなる有機化合物(x)と有機樹脂(y)を含む皮膜(A)を有し、
該皮膜(A)は、有機化合物(x)の付着量[x]が100~2000mg/m、有機樹脂(y)の付着量[y]が200~3800mg/m、有機化合物(x)と有機樹脂(y)の合計付着量[x]+[y]に対する有機化合物(x)の付着量[x]の割合[x]/([x]+[y])が0.05~0.5であり、膜厚が0.3~4.0μmであることを特徴とする高強度鋼板。
【請求項2】
有機樹脂(y)が、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼板。
【請求項3】
引張強度が1180MPa以上の鋼板の遅れ破壊を抑制するための皮膜を鋼板の表面に形成するための表面処理液であって、
アゾール化合物、ピリジン化合物、チオカルボニル化合物、メルカプト化合物、スルフィド化合物の中から選ばれる少なくとも1種からなる有機化合物(x)と有機樹脂(y)を含むことを特徴とする表面処理液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や建材用の強度部材に適した高強度鋼板であって、耐遅れ破壊性に優れた引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に用いられる鋼板は、自動車のCO排出量の低減及び安全性確保の観点から、高強度化が図られており、引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板の適用も進められている。しかしながら、鋼材の強度を高めていくと、遅れ破壊という現象が生じやすくなることが知られている。遅れ破壊とは、高強度鋼材が静的な負荷応力(引張強度未満の負荷応力)を受けた状態で、一定時間が経過したとき、塑性変形を伴うことなく、突然脆性的な破壊が生じる現象である。遅れ破壊は、鋼材強度の増大とともに生じやすくなり、特に引張強度が1180MPa以上の高強度鋼でより顕著となる。
【0003】
鋼板の遅れ破壊は、プレス加工により所定の形状に成形したときの残留応力と、応力集中部における鋼の水素脆性により生じるものであることが知られている。非特許文献1には、水素脆性感受性は鋼材強度の増大とともに激しくなり、添加合金元素の増減に関わりなく、引張強度1200MPa以上の高強度鋼で顕著となることが報告されている。また、非特許文献2には、引張強度が1180Mpa級の高強度冷延鋼板において、水素割れが発生することが報告されている。この水素脆性の原因となる水素は、ほとんどの場合、外部環境から鋼中に侵入、拡散した水素であると考えられており、代表的には、鋼板の腐食の際に発生した水素が鋼中に侵入、拡散したものである。
【0004】
高強度鋼板におけるこのような遅れ破壊を防止するために、例えば、特許文献1では、鋼板の組織や成分を調整することにより、遅れ破壊感受性を弱める検討がなされている。また、特許文献2では、鋼板にNiまたはNi合金めっきを施すことにより、鋼板内部への水素侵入を低減することで、遅れ破壊を抑制する技術が開示されている。さらに、特許文献3には、鋼板に導電性高分子皮膜を形成することにより、鋼板内部への水素侵入を低減することで、耐遅れ破壊特性を改善する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-231992号公報
【特許文献2】特開平7-54194号公報
【特許文献3】特開2018-44240号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】松山晋作著、「遅れ破壊」、日刊工業新聞社、1989年
【非特許文献2】田路勇樹、外4名、「高強度薄鋼板の耐水素脆化特性評価法」、鉄と鋼、日本鉄鋼協会、2009年、Vol.95、No.12、p.887-894
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の手法では、外部環境から鋼板内部に侵入する水素量は変化しないため、遅れ破壊の発生を遅らせることは可能であるが、遅れ破壊の抑制効果は十分ではない。また、特許文献2の手法では、鋼板を加工した際にめっきの損傷が生じ、この損傷部からの水素侵入を低減できない可能性が考えられる。さらに特許文献3の手法は、皮膜と鋼板の密着性(以下、「皮膜密着性」という。)に課題があり、皮膜密着性と耐遅れ破壊特性を両立するためには、皮膜付与工程の前に鋼板を酸洗する工程が必要となる。
【0008】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、自動車や建材用の強度部材に適した引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板であって、優れた耐遅れ破壊特性を有し、しかも皮膜密着性に優れるとともに、皮膜付与工程前に酸洗などの特別な工程を実施することなく製造することができる高強度鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、使用環境中における鋼板の遅れ破壊を防止するために、鋼板内部へ侵入する水素量を低減する手段について鋭意検討および研究を重ねた。その結果、鋼板表面に形成する有機樹脂皮膜中に、アゾール化合物、ピリジン化合物などの特定の有機化合物を含有させることにより、良好な皮膜密着性を担保しつつ鋼板内部への水素侵入と鋼板の遅れ破壊を抑制できることを見出した。
本発明は、以上のような知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0010】
[1]1180MPa以上の引張強度を有する鋼板の表面に、アゾール化合物、ピリジン化合物、チオカルボニル化合物、メルカプト化合物、スルフィド化合物の中から選ばれる少なくとも1種からなる有機化合物(x)と有機樹脂(y)を含む皮膜(A)を有し、
該皮膜(A)は、有機化合物(x)の付着量[x]が100~2000mg/m、有機樹脂(y)の付着量[y]が200~3800mg/m、有機化合物(x)と有機樹脂(y)の合計付着量[x]+[y]に対する有機化合物(x)の付着量[x]の割合[x]/([x]+[y])が0.05~0.5であり、膜厚が0.3~4.0μmであることを特徴とする高強度鋼板。
【0011】
[2]上記[1]の高強度鋼板において、有機樹脂(y)が、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする高強度鋼板。
[3]引張強度が1180MPa以上の鋼板の遅れ破壊を抑制するための皮膜を鋼板の表面に形成するための表面処理液であって、
アゾール化合物、ピリジン化合物、チオカルボニル化合物、メルカプト化合物、スルフィド化合物の中から選ばれる少なくとも1種からなる有機化合物(x)と有機樹脂(y)を含むことを特徴とする表面処理液。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高強度鋼板は、鋼板内部への水素の侵入が抑制されるため優れた耐遅れ破壊性を有し、しかも皮膜密着性に優れるとともに、皮膜付与工程前に酸洗などの特別な工程を実施することなく製造することができる。このため本発明の高強度鋼板は、特に自動車や建材用の強度部材に好適な鋼板であり、自動車分野、建材分野に適用する強度部材の重量削減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例で用いた遅れ破壊評価用試験片を模式的に示す図面
図2】実施例において行った複合サイクル腐食試験の工程を示す説明図
図3】実施例で用いた水素透過係数を測定する装置を模式的に示す図面
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の耐遅れ破壊性に優れた鋼板の基材(基質)となる鋼板は、引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板であり、引張強度が1470MPa以上の高強度鋼板であることがより好ましい。引張強度が低い鋼板は、遅れ破壊が生じにくい。本発明の効果は、引張強度が低い鋼板でも発現されるが、引張強度が1180MPa以上の鋼板で顕著に発現され、引張強度が1470MPa以上の鋼板でより顕著に発現されるためである。その化学組成や鋼組織は特に限定されない。しかしながら、このうち、自動車分野や建材分野などで用いられる、特に自動車分野などで多く用いられる引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板が好ましく、引張強度が1470MPa以上の高強度鋼板がさらに好ましい。
【0015】
本発明において好ましく用いられる高強度鋼板は、所望の引張強度を有するものであれば、いかなる組成及び組織を有するものでもよい。したがって、機械特性などの諸特性を向上させるために、例えば、以下のような組織的ないし構造的改質を単独で又は複数を組み合わせて行ったものでもよい。
・C、Nなどの侵入型固溶元素及びSi、Mn、P、Crなどの置換型固溶元素の添加による固溶体強化
・Ti、Nb、V、Alなどの炭・窒化物による析出強化
・W、Zr、Hf、Co、B、Cu、希土類元素などの強化元素の添加などの化学組成的改質
・再結晶の起こらない温度で回復焼きなましすることによる強靭化あるいは完全に再結晶させずに未再結晶領域を残す部分再結晶強化
・ベイナイトやマルテンサイト単相化あるいはフェライトとこれら変態組織の複合組織化といった変態組織による強化
・フェライト粒径をdとしたときのHall-Petchの式:σ=σ+kd-1/2(式中σ:応力、σ,k:材料定数)で表される細粒化強化
・圧延などによる加工強化
【0016】
このような高強度鋼板の組成としては、例えば、C:0.1~0.4質量%、Si:0~2.5質量%、Mn:1~3.5質量%、P:0~0.05質量%、S:0~0.01質量%、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成が挙げられる。さらに、これに、Cu:1.0質量%以下、Ti:0.2質量%以下、V:0.5質量%以下、Al:0.1質量%以下、Cr:1.0質量%以下、Nb:0.2質量%以下、W:0.5質量%以下、Zr:0.1質量%以下、B:0.005質量%以下、N:0.0005~0.0100質量%、Ni:0.01~2.00質量%、Mo:0.005~2.000質量%、Ca:0.0002~0.0050質量%、Mg:0.0001~0.0020%、REM:0.0002~0.0050質量%、Sb:0.002~0.200質量%、Sn:0.002~0.200質量%からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含んでもよい。一般に、C、Si、Mn、P、S以外として示したこれらの元素は、合計で4質量%程度を限度に添加されることが好ましい。また、各元素の含有量の下限としては、Si、Al及びCrについては0.01質量%、Cu、Ti、V、Nb、W及びZrについては0.005質量%、P:0.001質量%、B及びSについては0.0001質量%程度がそれぞれ好ましい。
【0017】
また、高強度鋼板として商業的に入手可能なものとしては、例えば、JFE-CA1180、JFE-CA1320、JFE-CA1470、JFE-CA1180SF、JFE-CA1180Y1、JFE-CA1180Y2(以上、JFEスチール(株)製)、SAFC1180D(新日鐵住金(株)製)などが非限定的に例示できる。また、高強度鋼板は、冷延鋼板、熱延鋼板のいずれであってもよい。
また、高強度鋼板は、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき等の亜鉛系めっきを施した亜鉛系めっき鋼板であってよい。また、溶融亜鉛めっきの場合は、合金化処理が施されていてもよい。
また、基質である高強度鋼板の板厚も特に限定されないが、一般には0.8~5mm程度、より好ましくは1.0~2.0mm程度が適当である。
【0018】
本発明者らの研究及び検討結果によれば、腐食過程における鋼板内部への水素侵入は、乾燥・湿潤が繰り返される大気腐食環境下において、環境から鋼板表面に付着した塩分が大きく寄与していると考えられる。大気環境で鋼板に付与される塩分としては、海水からの飛来塩分や路面の凍結防止剤として付与される融雪塩などが挙げられる。この塩分が湿度上昇や路面水の付着により吸水することで水膜を形成し、鋼板を腐食させる。鋼板表面に形成された水膜中では、酸素の還元反応及び鉄の酸化反応が生じる。酸素の還元反応では、水酸化物イオンが発生するためpHが上昇するが、酸化反応により溶出した鉄イオンは、塩化物イオン濃度が高いと、さらに加水分解反応が進み、オキシ水酸化鉄と水素イオンが発生するためpHが低下する。湿度低下に伴い水膜が減少し、塩化物濃度が高くなると鉄イオンの加水分解反応が促進されるためpHは低下し、鋼板への水素侵入量が増加する。すなわち、水素の侵入を抑制するためには、腐食過程でのpH低下を引き起こす塩分の鋼板への付着を遮断することが重要である。
【0019】
このため本発明では、1180MPa以上の引張強度を有する鋼板の表面に、有機樹脂皮膜である皮膜(A)(以下、「有機樹脂皮膜(A)」という場合がある)を形成することで、大気中で付着する塩化物イオンを遮断するとともに、その有機樹脂皮膜(A)中にアゾール化合物、ピリジン化合物、チオカルボニル化合物、メルカプト化合物、スルフィド化合物の中から選ばれる少なくとも1種からなる有機化合物(x)を含有させることで塗装欠陥部での腐食を抑制するものであり、これにより遅れ破壊を抑制可能とする特性を具備できる。また、有機化合物(x)が有機樹脂皮膜(A)に保持されることで、高い皮膜密着性が得られる。
【0020】
ここで、皮膜(A)中の上記有機化合物(x)は、塗装欠陥部において鋼板表面に形成された水膜中に溶出することで鋼板上に吸着するものと考えられる。上記有機化合物(x)に含まれる窒素や硫黄は、有機化合物中で極性基を形成しており、非共有電子対を有している。この非共有電子対が鋼板中の鉄原子の空のオービタルに入り、金属と極性基の両方が電子対をもつ配位結合が形成されることで有機化合物が金属表面に吸着して分子膜を形成し、この分子膜が塩化物イオンを遮断するバリア層の役割を果たすと考えられる。
塩化物濃度が高い水膜中では鉄イオンが加水分解することによってpHが低下し、水膜中は弱酸性になると考えられる。この弱酸性(pH5以下)の水溶液において鋼板に吸着して分子膜を形成するアゾール化合物、ピリジン化合物、チオカルボニル化合物、メルカプト化合物、スルフィド化合物としては、例えば、下記のようなものが挙げられる。
また、これらのなかでもピリジン化合物は、水膜中に溶出し、水膜のpHを高めて腐食を抑制する効果を有するため、特に好ましい。ピリジン化合物が腐食抑制効果を有する理由は、次のように考えられる。すなわち、ピリジン化合物に含まれる窒素原子上の孤立電子対は非局在化されていないため、水膜中の鉄イオンが加水分解しても、ピリジン化合物がpHを高め、水膜が中性~弱アルカリ性に保たれる。その結果、水酸化物イオンが生じるカソード反応が起きにくくなるためと考えられる。
【0021】
アゾール化合物としては、2-N,N-ジエチルチオベンゾチアゾール、2-Nメルカプトベンゾチアゾール、ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、3-メチル-5-ピラゾロン、3-アミノ-5-メチルピラゾール、1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール、3-メルカプト1,2,4-トリアゾール、5-アミノ-3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、2,3-ジヒドロ-3-オキソ-1,2,4-トリアゾール、5-アミノ-2-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、5-フェニル-1,2,3,4-テトラゾール、5-メルカプト-1-フェニル-1,2,3,4-テトラゾール、1H-ベンゾトリアゾール、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(1水和物)等が挙げられる。
【0022】
ピリジン化合物としては、ピリジン、4-メチルピリジン、4-エチルピリジン、4-プロピルビリジン、4-ブチルピリジン、4-ペンチルピリジン、キノリン、イソキノリン、4-メトキシピリジン、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジン等が挙げられる。
チオカルボニル化合物としては、チオ尿素、チオセミカルバジド、フェニルチオ尿素、トリルチオ尿素、N-メチルチオ尿素、ジメチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素、ジフェニールチオ尿素、2-メルカプトベンゾイミダゾール等が挙げられる。
メルカプト化合物としては、イソブチルメルカプタン、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、2-メルカプトイミダゾリン等が挙げられる。
スルフィド化合物としては、メルカプトベンゾチアジルスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等が挙げられる。
【0023】
有機化合物(x)は、これを有機樹脂皮膜(A)に含有させることで鋼板表面に保持することができ、皮膜密着性が向上する。これは、鋼板表面と有機樹脂皮膜(A)に含まれる分子の種々の基との間で化学的相互作用が生じるためである。
自動車用鋼板の場合、プレス加工により所定の形状に加工された後、スポット溶接により鋼板どうしを組み付け、最後に塗装される。このとき、皮膜(A)が厚すぎると溶接時の電流が流れず溶接不良となる場合があるため、皮膜(A)の膜厚は4.0μm以下とする。一方、皮膜(A)の膜厚が薄すぎると、腐食環境を遮断するバリア層の機能を発揮しにくくなるため、膜厚は0.3μm以上とする。また、遅れ破壊を引き起こす水素は腐食により発生するため、遅れ破壊抑制の観点からも膜厚は0.3μm以上とする必要がある。
【0024】
大気腐食環境下において遅れ破壊の発生を抑制する効果を十分に発現させるために、皮膜(A)中での有機化合物(x)の付着量[x]は100mg/m以上とする。一方、遅れ破壊を抑制する観点からは付着量が多くても問題はないが、付着量が多すぎると皮膜(A)と鋼板との密着性が低下し、特に自動車用途の鋼板としては好ましくないので、有機化合物(x)の付着量[x]は2000mg/m以下とする。また、皮膜(A)中での有機樹脂(y)の付着量[y]は、腐食因子を遮断するバリア性付与の観点、すなわち、遅れ破壊抑制の観点から200mg/m以上、3800mg/m以下とする。また、有機樹脂(y)の付着量[y]は、溶接性の観点からも3800mg/m以下とすることが好ましい。
また、有機化合物(x)と有機樹脂(y)の合計付着量[x]+[y]に対する有機化合物(x)の付着量[x]の割合[x]/([x]+[y])は0.05~0.5とする。[x]/([x]+[y])が0.05未満では、遅れ破壊の発生を抑制する効果が低下する場合がある。この遅れ破壊抑制の観点から[x]/([x]+[y])は0.3以上とするのが好ましい。一方、[x]/([x]+[y])が0.5を超えると、皮膜密着性が低下する場合がある。
【0025】
有機樹脂皮膜(A)に用いる有機樹脂の種類に特に制限はなく、例えば、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系樹脂、エチレン樹脂(ポリオレフィン樹脂)、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アミノ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。また、これらのなかでも、腐食因子である水分や塩化物をバリアする効果が高いことから、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン系樹脂が特に好ましい。
【0026】
高強度鋼板が有する皮膜による水素侵入抑制効果は、皮膜を有する鋼板の腐食時における最大水素透過係数Hと皮膜を有しない鋼板の腐食時における最大水素透過係数Hとの比(H/H)で評価することができる。このH/Hは、皮膜による水素侵入抑制効果の程度を表している。皮膜を有しない鋼板で測定したHに対して皮膜を有する鋼板で測定したHが半分以下であれば、すなわち、H/Hが下記(1)式を満たせば、鋼中への水素侵入を効果的に抑制し得る皮膜であると評価できる。後述する実施例にも示される通り、本発明の高強度鋼板は下記(1)式を満たす優れた特性を有する。
/H≦0.50 …(1)
【0027】
ここで、最大水素透過係数Hは、以下のようにして算出される。試験片のうち皮膜を有する鋼板面(鋼板の一方の面)を水素侵入面とし、鋼板の他方の面にパラジウムめっきを施して水素検出面とする。水素侵入面を大気腐食環境を模擬した腐食試験に供して腐食させるとともに、水素検出面に設置した電気化学セルにより水素侵入面から鋼中へ侵入する水素に起因して発生する電流を検出して水素透過電流(J)を算出する。この水素透過電流に試験片の板厚(L)を乗じて水素透過係数(JL)を算出し、測定中におけるこの水素透過係数の最大値を最大水素透過係数Hとする。また、最大水素透過係数Hは、以下のようにして算出される。試験片のうち皮膜を有しない鋼板面(鋼板の一方の面)を水素侵入面とし、鋼板の他方の面にパラジウムめっきを施して水素検出面とする。そして、この試験片を上記と同様の腐食試験に供し、上記と同様の手法で水素透過係数(JL)を算出し、測定中におけるこの水素透過係数の最大値を最大水素透過係数Hとする。
【0028】
本発明の高強度鋼板は、皮膜(A)の下層や上層に他の皮膜を設け、複層被覆としてもよい。また、皮膜(A)を2層以上からなる複層構造としてもよい。
皮膜(A)の膜厚は、皮膜断面を観察し、任意視野の複数箇所(例えば3箇所)で皮膜の厚さ(基材鋼板面から皮膜(A)の表面までの厚さ)を測定し、それらの平均値をもって膜厚とする。断面加工の方法は特に限定されないが、例えばFIB加工などが挙げられる。
皮膜(A)中の有機化合物(x)の付着量は、例えば、蛍光X線分析で測定することができる。具体的には、皮膜表面にX線を照射し、有機化合物(x)に含まれる元素(例えば窒素や硫黄)の蛍光X線の強度を測定し、検量線と比較することで付着量を算出することができる。
また、皮膜(A)中の有機樹脂(y)の付着量は、例えば、皮膜が付着した状態と皮膜が付着していない状態の鋼板重量を測定し、その測定量の差分を鋼板面積で除した値から有機化合物(x)の付着量を差し引くことで算出することができる。
【0029】
皮膜(A)を鋼板面に形成するには、有機樹脂(y)を溶媒(水及び/又は有機溶剤)に溶解及び/又は分散させた処理液(樹脂溶液)に有機化合物(x)を添加し、この処理液を鋼板面にコーティングした後、加熱乾燥させる方法が採られる。
処理液(樹脂溶液)を鋼板表面にコーティングする方法は特に制限はなく、公知の方法、例えば、塗布方式、浸漬方式、スプレー方式のいずれでもよい。塗布方式では、ロールコーター(3ロール方式、2ロール方式など)、バーコーター、スクイズコーター、ダイコーターなどのいずれの塗布手段を用いてもよい。また、スクイズコーターなどによる塗布処理、浸漬処理、スプレー処理の後に、エアナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行うことも可能である。コーティングした処理液を加熱乾燥する方法は任意であり、例えば、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉等の手段を用いることができる。
【0030】
本発明において基材として使用される鋼板の製造方法は特に限定されない。本発明の理解を容易にするために、製鋼からの一連のプロセスについて、一例を挙げて簡単に説明する。但し、基材となる鋼板の製造工程としては、以下の例示に限定されるものではない。
所定の成分組成の鋼を溶製し、常法に従い連続鋳造でスラブとする。次いで、得られたスラブを加熱炉中で1100~1300℃の温度で加熱し、750~950℃の仕上げ温度で熱間圧延を行い、500~650℃にて巻き取る。これに続いて酸洗後、圧下率30~70%の冷間圧延を行う。その後、必要に応じて、常法に従い清浄化処理(すなわち、アルカリ又はアルカリと界面活性剤及び鋼板に吸着して分子膜を形成する窒素や硫黄を含む有機化合物との混合溶液による洗浄、電解洗浄、温水洗浄、乾燥を行う清浄化処理)を行った後、650~900℃にて加熱処理し、急速冷却を行い、鋼板の引張強度の調整を行う。さらに必要に応じて、常法に従い0.01~0.5%程度の調質圧延を行うことで所望の引張強度を有する冷延鋼板を得る。
【0031】
本発明の処理液(表面処理液)は、上述したように、引張強度が1180MPa以上の鋼板の遅れ破壊を抑制するための皮膜(A)を鋼板の表面に形成するための表面処理液であり、アゾール化合物、ピリジン化合物、チオカルボニル化合物、メルカプト化合物、スルフィド化合物の中から選ばれる少なくとも1種からなる有機化合物(x)と有機樹脂(y)を含むものである。これら有機化合物(x)及び有機樹脂(y)の機能・作用効果、具体例などについては、さきに説明した通りである。また、処理液は、鋼板面に塗布して皮膜(A)を形成した際に上述した皮膜構成(付着量[x],[y]及び[x]/([x]+[y]))を満足することができるように、有機化合物(x)と有機樹脂(y)の濃度が調整される。
【実施例0032】
素材鋼板には、冷延鋼板と合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA鋼板)を用いた。このうち冷延鋼板(冷間圧延ままの鋼板)は、C:0.19質量%、Si:0.8質量%、Mn:1.8質量%、P:0.011質量%、S:0.001質量%、残部Fe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、引張強度が1470MPa、板厚が1.6mmである。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA鋼板)は、下地鋼板がC:0.22質量%、Si:1.2質量%、Mn:3.0質量%、P:0.007質量%、S:0.0005質量%、残部Fe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、引張強度が1580MPa、板厚が1.4mmである。この合金化溶融亜鉛めっき鋼板(両面めっき鋼板)は、めっき付着量が片面当たり44g/m、亜鉛めっき皮膜のFe含有率が14質量%である。以上の各素材鋼板をトルエンに浸漬して5分間超音波洗浄を行って防錆油を除去した後、表面に有機樹脂皮膜を形成した(但し、一部の比較例では有機樹脂皮膜を形成せず)。
【0033】
有機樹脂皮膜用の有機樹脂(y)として下記A1~A5を用い、いずれかの有機樹脂(y)と所定の有機化合物(x)を含む処理液(一部の比較例では有機樹脂のみを含む処理液)を、鋼板表面に塗布方式(バーコート)、スプレー方式、浸漬方式(およびロール絞り)のいずれかで塗布した後、到達板温が120℃となるようにインダクションヒーターで加熱することで有機樹脂皮膜を形成した。
A1:アクリル系樹脂(DIC(株)製、商品名:40-418EF)
A2:エポキシ系樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名:jER1009)
A3:ウレタン系樹脂(大日本塗料(株)製、商品名:VトップRCクリヤー)
A4:エチレン系樹脂(三井・ダウポリケミカル(株)製、商品名:ハイラミン)
A5:フッ素系樹脂(旭硝子(株)製、商品名:ルミフロン LF552)
【0034】
上記のようにして皮膜が形成された発明例および比較例の高強度鋼板について、以下のようにして耐遅れ破壊性、皮膜密着性及び塗装後耐食性を評価するとともに、最大水素透過係数H,H及びH/Hを算出した。その結果を、製造条件とともに表1及び表2に示す。
なお、有機樹脂皮膜の膜厚の測定では、FIB加工により得られた断面をSEM観察し、任意視野の3箇所で有機樹脂皮膜の厚さ(基材鋼板面から有機樹脂皮膜の表面までの厚さ)を測定し、それらの平均値を膜厚とした。
有機樹脂皮膜中の有機化合物(x)の付着量[x]は、蛍光X線を用いて皮膜付与前後のN量及びS量を測定し、その測定量の差分を検量線と比較することで算出した。また、有機樹脂(y)の付着量[y]は、皮膜が付着した状態と皮膜が付着していない状態の鋼板重量を測定し、その測定量の差分を鋼板面積で除した値から有機化合物(x)の付着量[x]を差し引くことで算出した。
また、純水中に有機化合物(x)を1mol/L投入した際のpHを測定し、有機化合物(x)のpHとした。
【0035】
(1)耐遅れ破壊性の評価
板厚1.4mmの発明例及び比較例の鋼板をそれぞれ幅35mm×長さ100mmにせん断した後、せん断時の残留応力を除去するために幅が30mmとなるまで研削加工を施し、試験片を作製した。作製した試験片を曲率半径10mmRで90°曲げ加工して曲げ試験片とし、図1に示すように、この曲げ試験片1の形状をナット2(サイズ:M8)とSUS製治具3およびボルト4(サイズ:M8)で拘束して試験片形状を固定し、耐遅れ破壊性評価用試験片を得た。なお、この試験片の作製では、フランジ端の内側間隔が、拘束前(図1の試験片1a)に対して拘束後(ボルト・ナット等で締め付けて試験片形状を固定した後)に14mm狭くなるようにした。
【0036】
このようにして作製した耐遅れ破壊性評価用試験片に対し、図2に示す複合サイクル腐食試験を、最大40サイクルまで実施した。このサイクル試験は、試験温度一定(50℃)とし、湿度サイクルは相対湿度30%のDryステップ(乾燥工程)、相対湿度90%のWetステップ(湿潤工程)と湿度増減ステップ(移行期間)の計4ステップを1サイクルとした。各ステップは2hごとに切り替え、1サイクル8hを繰り返して試験を行った。また、週2回Dryステップ開始時に純水で洗浄後に塩分濃度8.1mass%の食塩水を耐遅れ破壊性評価用試験片に噴霧することで塩化物を付与した(付着塩分量:片面あたり3000mg/m)。ここで、週2回とは1回目の処理後に3日若しくは4日の間を空けて処理することを指す。例えば、月曜に1回目の処理を行った場合、2回目の処理は木曜日若しくは金曜日となる。以後これを繰り返す。各サイクルのDryステップ開始時に、目視によって耐遅れ破壊性評価用試験片の曲げ加工部での割れ発生の有無を確認し、割れが発生するまでのサイクル数を調べた。また、3サイクル毎(1日毎)の結果(割れ発生の有無)に基づき、割れが発生するまでの日数(表1,2の「割れ日数」)を調べた。
【0037】
本試験は、各鋼板3検体ずつ実施し、その平均値をもって評価を行った。評価はサイクル数から、以下の基準により評価した。なお、表1及び表2中の割れ発生サイクル数が40超とは、本実施例の結果では、割れが発生しなかったことを示す。
◎:40サイクル超
〇:30サイクル以上、40サイクル以下
△:10サイクル以上、30サイクル未満
×:10サイクル未満
【0038】
(2)最大水素透過係数H,H及びH/Hの算出(水素侵入量の評価)
最大水素透過係数Hを次のようにして算出した。板厚1.4mmの発明例及び比較例の鋼板(有機樹脂皮膜を鋼板の片面(おもて面)にのみ形成した試験片)の裏面をそれぞれ研削加工後、化学研磨を施すことで板厚を0.5mmにまで加工した。さらに、電気めっきによって金属Pdを裏面上に形成させた。すなわち、試験片は、有機樹脂皮膜を形成した鋼板おもて面が水素侵入面(腐食試験の対象面)、Pbめっきを施した鋼板裏面が水素検出面(腐食によって鋼中に侵入する水素に起因して発生する電流の検出面)となる。図3で示すように、Pdめっき面を電流検出用のセル6(6a~6d)に接するように試料5(試験片)を固定し、窒素ガスで脱気した0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を各セル6に注入した。試料5の一部を保護膜9で覆うことで基準セル6a上の試料を腐食させないように保護した。各セル6を参照電極に対して+0.2Vとなるように定電位分極しながら、図2に示す腐食試験に供し、試料5表面を40サイクルまで腐食させることで、鋼中へ侵入する水素に起因して発生する電流を検出した。この時、各セルで測定された電流値と基準セルで測定された電流値との差を求めることで、正味の水素透過電流(J)を算出した。さらに、水素透過電流に試験片の板厚(L)を乗じて水素透過係数(JL)を算出した。この水素透過係数の測定中における最大値を最大水素透過係数Hとした。また、最大水素透過係数Hを次のようにして算出した。有機樹脂皮膜を形成していない板厚1.4mmの鋼板(試験片)を上記と同様に加工およびPbめっきし、有機樹脂皮膜を有しない鋼板おもて面を水素侵入面とし、Pbめっきを施した鋼板裏面を水素検出面とする試験片とした。この試験片を上記と同様の腐食試験に供し、上記と同様の手法で水素透過係数(JL)を算出し、この水素透過係数の測定中における最大値を最大水素透過係数Hとした。以上のようにして得られた最大水素透過係数Hを最大水素透過係数Hで除すことでH/Hを算出し、H/H≦0.50の場合を合格と評価した。
なお、鋼板面に有機樹脂皮膜を形成しない一部の比較例については、最大水素透過係数Hのみを算出した。
【0039】
(3)皮膜密着性の評価
上記耐遅れ破壊特性の評価試験と同様に曲げ加工した試験片を作製し、曲げ加工後の曲げ内側部の皮膜を、JIS K5600に準拠した方法により、幅35mm×長さ20mmの面積で碁盤目状にカットし、テープ剥離試験を行った。この試験における皮膜剥離面積率を下式により求めた(剥離前の皮膜面積:35mm×20mm)。
皮膜剥離面積率=(C/Cо)×100
ここで C:剥離してテープに付着した皮膜面積
о:剥離前の皮膜面積
この皮膜剥離面積率から以下の基準で皮膜密着性を評価し、○を良好、×を不良とした。
〇:皮膜剥離面積率5%未満
×:皮膜剥離面積率5%以上
【0040】
(4)塗装後耐食性の評価
発明例及び比較例の亜鉛めっき鋼板を、それぞれ150mm×70mmのサイズにせん断して平板試験片とし、耐食性試験用試験片とした。この耐食性試験用試験片に、日本パーカライジング(株)製「パルボンド」を用い、標準条件(35℃、120秒)で浸漬による化成処理を施した。次いで、関西ペイント(株)製の電着塗料「GT-150T」を用いた電着塗装と焼付処理を行った。電着塗装の塗膜厚は15μmとし、市販の電磁膜厚計を用いて膜厚の測定を行った。塗装後の試験片にカッターナイフを用いて素地に達するXカット(交差角60°~90°)を入れ、JIS Z2371で定められた塩水噴霧試験を840時間行った。試験後の試験片のクロスカットからの最大さび幅を計測し、この最大さび幅に基づいて耐食性を次のように評価した。すなわち、鋼板ままの最大さび幅を1とした場合の各試験片の最大さび幅Aを算出して、以下の基準で評価し、◎、○を合格とした。
◎:A≦0.8
○:0.8<A≦0.95
△:0.95<A≦1.2
×:1.2<A
【0041】
表1及び表2において、No.1は、有機樹脂皮膜を形成していない冷延鋼板ままの比較例であり、腐食時の最大水素透過係数Hは30μA/cmと比較的高く、早期に遅れ破壊が発生しており、耐遅れ破壊性が低いことが判る。No.2は、有機樹脂皮膜を形成していない合金化溶融亜鉛めっき鋼板ままの比較例である。腐食時の最大水素透過係数Hは300μA/cmとNo.1の冷延鋼板ままの比較例よりも大幅に高く、耐遅れ破壊特性が低いことが判る。これは、亜鉛系めっきの腐食過程では亜鉛が優れた犠牲防食作用を示す一方で、冷延鋼板の腐食過程よりも多くの水素を発生させるためである。
【0042】
No.3は、有機樹脂(y)のみを含む皮膜を冷延鋼板に形成した比較例であり、腐食時の最大水素透過係数H及び割れ発生サイクル数はNo.1よりも改善しているものの、30サイクル未満で割れが発生している。また、No.4~6、13~15は、冷延鋼板に本発明条件を満足しない皮膜を形成した比較例である。このうちNo.4~6、13、14は、No.3と同様に30サイクル未満で割れが発生している。また、No.15は、有機化合物(x)の付着量が過剰であるため、皮膜密着性が劣っている。一方、No.7~12、16~37は、冷延鋼板又は合金化溶融亜鉛めっき鋼板に本発明条件を満足する皮膜を形成した発明例であり、割れ発生サイクル数が30以上となり、高い耐遅れ破壊性が得られており、皮膜密着性、塗装後耐食性も良好である。なかでも有機化合物(x)としてピリジン化合物を用いたNo.7~12、16~20、25~37は、特に優れた塗装後耐食性が得られている。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【符号の説明】
【0045】
1 試験片
1a 試験片(応力負荷前)
2 ナット
3 SUS製治具
4 ボルト
5 試料(鋼板)
6a~6d セル
7 参照電極
8 対極
9 保護膜
図1
図2
図3