(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144081
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ステータの製造装置及びステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/085 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
H02K15/085
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023213364
(22)【出願日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】202310310808.9
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英司
(72)【発明者】
【氏名】松本 豊
(72)【発明者】
【氏名】落合 順也
(72)【発明者】
【氏名】辻井 杜夢
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP13
5H615QQ02
5H615QQ06
5H615QQ12
5H615SS09
5H615SS10
(57)【要約】
【課題】拡張前の巻回状態の帯状コイルを安定した形状に保持することができるステータ製造装置を提供する。
【解決手段】中心の軸孔に向けて開口する複数のスロットを有するステータコアに対して、軸孔に配置される巻回状態の帯状コイルを拡張させることによって、帯状コイルの複数の直線部を複数のスロットに挿入するステータの製造装置であって、ステータコアの軸孔に挿入可能に構成され、外周に帯状コイルを巻回するコイル巻取治具を備え、コイル巻取治具は、複数の直線部を収容して帯状コイルを巻回可能な複数の櫛歯状溝と、複数の櫛歯状溝に収容される複数の直線部のうちの少なくとも一部の直線部を、巻回状態の帯状コイルの内側から半径方向の外側に向けて押圧可能な押部材と、を有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心の軸孔に向けて開口する複数のスロットを有するステータコアに対して、前記軸孔に配置される巻回状態の帯状コイルを拡張させることによって、前記帯状コイルの複数の直線部を前記複数のスロットに挿入するステータの製造装置であって、
前記ステータコアの前記軸孔に挿入可能に構成され、外周に前記帯状コイルを巻回するコイル巻取治具を備え、
前記コイル巻取治具は、
前記複数の直線部を収容して前記帯状コイルを巻回可能な複数の櫛歯状溝と、
前記複数の櫛歯状溝に収容される前記複数の直線部のうちの少なくとも一部の前記直線部を、巻回状態の前記帯状コイルの内側から半径方向の外側に向けて押圧可能な押部材と、を有する、ステータの製造装置。
【請求項2】
前記帯状コイルは、長さ方向の少なくとも一方の端部に、前記帯状コイルの長さ方向の他の部位よりも厚みが小さい部位を有し、
前記押部材は、前記コイル巻取治具において、前記複数の櫛歯状溝に収容される前記複数の直線部のうち、少なくとも前記帯状コイルの前記厚みが小さい部位に配置される前記直線部を押圧可能な位置に設けられる、請求項1に記載のステータの製造装置。
【請求項3】
前記押部材は、前記直線部を前記櫛歯状溝の内部において押圧するように設けられる、請求項1又は2に記載のステータの製造装置。
【請求項4】
前記押部材は、一端が前記コイル巻取治具に固定される固定端であり、他端が前記櫛歯状溝の内部に配置可能な自由端である板ばねによって構成される、請求項3に記載のステータの製造装置。
【請求項5】
中心の軸孔に向けて開口する複数のスロットを有するステータコアに対して、前記軸孔に配置される巻回状態の帯状コイルを拡張させることによって、前記帯状コイルの複数の直線部を前記スロットに挿入するステータの製造方法であって、
前記ステータコアの前記軸孔に挿入可能に構成され、前記帯状コイルの前記複数の直線部を収容可能な複数の櫛歯状溝を有するコイル巻取治具の外周に、前記帯状コイルを巻回した後、
巻回状態の前記帯状コイルを拡張させるまでの間、前記複数の櫛歯状溝に収容される前記複数の直線部のうちの少なくとも一部の前記直線部を、押部材によって、巻回状態の前記帯状コイルの内側から半径方向の外側に向けて押圧する、ステータの製造方法。
【請求項6】
前記帯状コイルは、長さ方向の少なくとも一方の端部に、前記帯状コイルの長さ方向の他の部位よりも厚みが小さい部位を有し、
前記押部材は、前記複数の櫛歯状溝に収容される前記複数の直線部のうち、少なくとも前記帯状コイルの前記厚みが小さい部位に配置される前記直線部を押圧する、請求項5に記載のステータの製造方法。
【請求項7】
前記押部材は、前記直線部を前記櫛歯状溝の内部において押圧する、請求項5又は6に記載のステータの製造方法。
【請求項8】
前記押部材は、一端が前記コイル巻取治具に固定される固定端であり、他端が前記櫛歯状溝の内部に配置可能な自由端である板ばねによって構成される、請求項7に記載のステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータの製造装置及びステータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータコアの中心の軸孔に、治具の外周に巻き取られた巻回状態の帯状コイルを配置させ、帯状コイルを拡張させることによって、帯状コイルの直線部をステータコアのスロットに挿入する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
巻回状態の帯状コイルを拡張することによってステータコアに装着する場合、巻回状態の帯状コイルの形状がばらついていると、帯状コイルの各直線部をスロット内の適正位置に収容することができず、一部の直線部がスロットからステータコアの軸孔側にはみ出してしまうおそれがある。そのため、治具に巻き取られた帯状コイルが拡張されるまでの間、巻回状態の帯状コイルを安定した形状に保持しておくことが望まれる。しかし、上記従来技術には、巻回状態の帯状コイルの形状を安定化させることについて、開示されていない。
【0005】
本発明は、拡張前の巻回状態の帯状コイルを安定した形状に保持することができるステータ製造装置及びステータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明に係るステータ製造装置は、中心の軸孔(例えば、後述の軸孔20)に向けて開口する複数のスロット(例えば、後述のスロット22)を有するステータコア(例えば、後述のステータコア2)に対して、前記軸孔に配置される巻回状態の帯状コイル(例えば、後述の帯状コイル100)を拡張させることによって、前記帯状コイルの複数の直線部(例えば、後述の直線部101)を前記複数のスロットに挿入するステータ(例えば、後述のステータ200)の製造装置(例えば、後述のステータ製造装置1)であって、前記ステータコアの前記軸孔に挿入可能に構成され、外周に前記帯状コイルを巻回するコイル巻取治具(例えば、後述のコイル巻取治具4)を備え、前記コイル巻取治具は、前記帯状コイルの前記複数の直線部を収容可能な複数の櫛歯状溝(例えば、後述の櫛歯状溝43)と、前記複数の櫛歯状溝に収容される前記複数の直線部のうちの少なくとも一部の前記直線部を、巻回状態の前記帯状コイルの内側から半径方向の外側に向けて押圧可能な押部材(例えば、後述の押部材45)と、を有する。
【0007】
(2) 上記(1)に記載のステータ製造装置において、前記帯状コイルは、長さ方向の少なくとも一方の端部に、前記帯状コイルの長さ方向の他の部位よりも厚みが小さい部位(例えば、後述の先頭端部104)を有し、前記コイル巻取治具において、前記押部材は、前記複数の櫛歯状溝に収容される前記複数の直線部のうち、少なくとも前記帯状コイルの前記厚みが小さい部位に配置される前記直線部を押圧可能な位置に設けられる。
【0008】
(3) 上記(1)又は(2)に記載のステータ製造装置において、前記押部材は、前記直線部を前記櫛歯状溝の内部において押圧するように設けられる。
【0009】
(4) 上記(3)に記載のステータ製造装置において、前記押部材は、一端が前記コイル巻取治具に固定される固定端(例えば、後述の固定端45a)であり、他端が前記櫛歯状溝の内部に配置可能な自由端(例えば、後述の自由端45b)である板ばねによって構成される。
【0010】
(5) 本発明に係るステータの製造方法は、中心の軸孔(例えば、後述の軸孔20)に向けて開口する複数のスロット(例えば、後述のスロット22)を有するステータコア(例えば、後述のステータコア2)に対して、前記軸孔に配置される巻回状態の帯状コイル(例えば、後述の帯状コイル100)を拡張させることによって、前記帯状コイルの複数の直線部(例えば、後述の直線部101)を前記複数のスロットに挿入するステータ(例えば、後述のステータ200)の製造方法であって、前記ステータコアの前記軸孔に挿入可能に構成され、前記帯状コイルの前記複数の直線部を収容可能な複数の櫛歯状溝(例えば、後述の櫛歯状溝43)を有するコイル巻取治具(例えば、後述のコイル巻取治具4)の外周に、前記帯状コイルを巻回した後、巻回状態の前記帯状コイルを拡張させるまでの間、前記複数の櫛歯状溝に収容される前記複数の直線部のうちの少なくとも一部の前記直線部を、押部材(例えば、後述の押部材45)によって、巻回状態の前記帯状コイルの内側から半径方向の外側に向けて押圧する。
【0011】
(6) 上記(5)に記載のステータの製造方法において、前記帯状コイルは、長さ方向の少なくとも一方の端部に、前記帯状コイルの長さ方向の他の部位よりも厚みが小さい部位(例えば、後述の先頭端部104)を有し、前記押部材は、前記複数の櫛歯状溝に収容される前記複数の直線部のうち、少なくとも前記帯状コイルの前記厚みが小さい部位に配置される前記直線部を押圧する。
【0012】
(7) 上記(5)又は(6)に記載のステータの製造方法において、前記押部材は、前記直線部を前記櫛歯状溝の内部において押圧する。
【0013】
(8) 上記(7)に記載のステータの製造方法において、前記押部材は、一端が前記コイル巻取治具に固定される固定端(例えば、後述の固定端45a)であり、他端が前記櫛歯状溝の内部に配置可能な自由端(例えば、後述の自由端45b)である板ばねによって構成される。
【発明の効果】
【0014】
上記(1)及び上記(5)によれば、コイル巻取治具に巻き取られた帯状コイルは、巻回状態の帯状コイルの内側から半径方向の外側に向けて押圧され続けるため、巻回状態の帯状コイルの形状が半径方向の内側に向けて乱れることを防止できる。そのため、拡張前の巻回状態の帯状コイルを安定した形状に保持し続けることができる。
【0015】
上記(2)及び上記(6)によれば、巻回状態の帯状コイルにおいて形状の乱れが発生し易い厚みが小さい部位が押圧されるため、拡張前の巻回状態の帯状コイルの形状をより安定して保持し続けることができる。
【0016】
上記(3)及び上記(7)によれば、押部材は、櫛歯状溝によって周方向の両側からガイドされるため、櫛歯状溝に収容された直線部を確実に半径方向の外側に向けて押圧することができる。
【0017】
上記(4)及び上記(8)によれば、簡単な構造の押部材で、櫛歯状溝に収容された直線部を確実に押圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】ステータコアを有するステータコア固定治具と帯状コイルを巻き取ったコイル巻取治具とを分解して示す斜視図である。
【
図3】ステータコア固定治具の一部を示す拡大図である。
【
図4】ステータコアのスロットを拡大して示す斜視図である。
【
図5】ステータコアにコイル巻取治具が挿入された状態を示す拡大図である。
【
図10】帯状コイルの製造工程を説明する図である。
【
図12】コイル巻取治具に帯状コイルを巻き取る様子を示す平面図である。
【
図13】帯状コイルを巻き取ったコイル巻取治具を示す平面図である。
【
図14】帯状コイルを巻き取ったコイル巻取治具を示す斜視図である。
【
図15】帯状コイルを巻き取ったコイル巻取治具の一部を拡大して示す斜視図である。
【
図16】帯状コイルを巻き取ったコイル巻取治具を示す断面図である。
【
図17】ステータコアに挿入されたコイル巻取治具に対してコイル拡張機構部を装着する様子を断面で示すステータ製造装置の側面図である。
【
図18】縮径状態のコイル拡張機構部を示す斜視図である。
【
図19】縮径状態のコイル拡張機構部のコイル拡張部を示す側面図である。
【
図20】縮径状態のコイル拡張機構部のコイル拡張部を示す正面図である。
【
図21】拡張状態のコイル拡張機構部を示す斜視図である。
【
図22】拡張状態のコイル拡張機構部のコイル拡張部を示す側面図である。
【
図23】拡張状態のコイル拡張機構部のコイル拡張部を示す正面図である。
【
図24】カフスガイドがスロット内の絶縁紙を支持された状態を示す拡大図である。
【
図25】拡張された帯状コイルがステータコアのスロット内に挿入された状態を示す拡大図である。
【
図26】ステータコア固定治具のステータを示す拡大図である。
【
図27】帯状コイルの直線部が適正位置に収容されたステータの一部を示す断面図である。
【
図28】コイル巻取治具の押部材の有無と帯状コイルの直線部のズレ量との関係を示すグラフである。
【
図29】帯状コイルにおける
図28中のスロット位置を説明する図である。
【
図31】帯状コイルの形状が乱れたコイル巻取治具の一部を示す斜視図である。
【
図32】形状が乱れた帯状コイルの直線部が収容されたステータの一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るステータ製造装置1を示す。ステータ製造装置1は、ステータコア2(
図2及び
図3参照)と、ステータコア2を固定するステータコア固定治具3と、ステータコア2の軸孔20(
図2及び
図3参照)内に挿入され、帯状コイル100を円環状に巻き取ったコイル巻取治具4と、コイル巻取治具4に巻き取られた巻回状態の帯状コイル100を拡張させるコイル拡張機構部5と、を備える。
【0020】
ステータコア2は、
図2及び
図3に示すように、例えば、薄肉のコアプレートが複数積層された積層体からなる円環部21を有する。円環部21の中心には、軸方向に貫通する軸孔20が設けられる。ステータコア2は、ステータコア2の軸方向に貫通する複数のスロット22を有する。スロット22は、円環部21の周方向に沿って一定の間隔で放射状に配列される。スロット22は、軸孔20に向けて開口する開口部22aを有する。ステータコア2の円環部21の外周には、一定の間隔で突出する6つの耳部23が設けられる。
【0021】
ステータコア固定治具3は、
図1~
図3に示すように、ステータコア2の軸方向の寸法に略等しい軸方向の寸法を有する六角柱形状を有する。ステータコア固定治具3の中央には、ステータコア2を挿入して配置可能なステータコア挿入孔31が設けられる。本実施形態のステータ製造装置1において、ステータコア固定治具3は、ステータコア挿入孔31内に固定されたステータコア2の軸方向が水平方向になるように、ステータ製造装置1の基台11の中央部に固定される。
【0022】
ステータコア固定治具3は、ステータコア挿入孔31内のステータコア2を所定の位置及び姿勢に固定する。詳しくは、ステータコア固定治具3は、
図2及び
図3に示すように、ステータコア2の6つの耳部23の位置に対応する6つのコア押さえブロック32を有する。各コア押さえブロック32は、ステータコア挿入孔31内に対して突出及び後退するように移動可能に設けられる。コア押さえブロック32は、ステータコア挿入孔31内にステータコア2が挿入された後、図示しないシリンダ等のアクチュエータの駆動によって、それぞれステータコア挿入孔31内に向けて突出し、ステータコア2の耳部23を把持する。これによって、ステータコア固定治具3は、ステータコア挿入孔31内のステータコア2を所定の位置及び姿勢に固定する。
【0023】
ステータコア2のスロット22内には、
図3及び
図4に示すように、それぞれスロット22の内面形状に沿うように折り曲げられた絶縁紙24が装着されている。絶縁紙24は、
図4に示すように、スロット22からステータコア2の軸方向に所定の高さで突出するカフス部24aを有する。カフス部24aは、スロット22からステータコア2の軸方向の両外側にそれぞれ突出している。
【0024】
図2に示すように、ステータコア固定治具3の軸方向の両端面3a,3aには、それぞれ複数のカフスガイド33が周方向に沿って一定の間隔で放射状に配列するように取り付けられている。カフスガイド33は、それぞれ図示しないシリンダ等のアクチュエータの駆動によって、ステータコア2の径方向に沿って移動可能に設けられる。なお、
図3では、コア押さえブロック32の説明の理解を容易にするため、カフスガイド33は図示を省略している。
【0025】
カフスガイド33は、ステータコア2の径方向に沿って長尺な薄板状に形成される。
図5に示すように、カフスガイド33の内端33a側には、ガイド溝331がカフスガイド33の長さ方向に沿って設けられる。ガイド溝331は、ステータコア固定治具3の内方に向けて開口し、絶縁紙24のカフス部24aを両側から支持する。ガイド溝331は、ステータコア2のスロット22の周方向に沿う幅よりも僅かに狭い切り欠き幅を有してコ字状に切り欠かれている。カフスガイド33のガイド溝331よりも外端33b側には、カフスガイド33の径方向の移動範囲を規制する長孔332が設けられる。
【0026】
ステータコア固定治具3の両端面3a,3aには、内径側規制ピン34a及び外径側規制ピン34bが設けられる。内径側規制ピン34a及び外径側規制ピン34bは、カフスガイド33にそれぞれ対応して一対ずつ設けられる。一対の内径側規制ピン34a及び外径側規制ピン34bは、カフスガイド33の長孔332の内側に係合している。
【0027】
内径側規制ピン34aは、カフスガイド33がステータコア固定治具3の径方向内側に向けて移動した際に、長孔332の外端部332bに当接する。これによって、カフスガイド33は、最も径方向内側のガイド位置に位置決めされる。このとき、カフスガイド33の内端33aは、コイル巻取治具4よりも径方向外側に配置される(
図24参照)。
【0028】
外径側規制ピン34bは、カフスガイド33がステータコア固定治具3の径方向外側に向けて移動した際に、長孔332の内端部332aに当接する。これによって、カフスガイド33は、最も径方向外側の非ガイド位置に位置決めされる。非ガイド位置では、カフスガイド33の内端33aは、ステータコア挿入孔31よりも径方向の外側に配置される(
図25参照)。
【0029】
なお、ステータコア2は、ステータコア固定治具3のステータコア挿入孔31に、軸方向のいずれか一方側から挿入される。そのため、ステータコア2の挿入側と反対側に配置されるカフスガイド33の内端33aは、
図5に示すように、ステータコア2の円環部21に干渉するように配置されていてもよい。しかし、内径側規制ピン34a及び外径側規制ピン34bは、ステータコア固定治具3の内部に設けた図示しない進退機構によって、ステータコア固定治具3の表面に対する突出及び陥没を選択可能に構成されてもよい。必要に応じて、内径側規制ピン34a及び外径側規制ピン34bをステータコア固定治具3の表面に対して陥没させることによって、カフスガイド33をさらに径方向外側に移動させ、
図2に示すように、ステータコア2の円環部21から完全に退避させることができる。
【0030】
カフスガイド33は、ステータコア固定治具3の径方向内側に移動してガイド位置に位置決めされた際に、隣り合うカフスガイド33,33間の内端33a側の周方向の離隔距離が、カフスガイド33のガイド溝331の切り欠き幅に一致するように配置される。
【0031】
次に、コイル巻取治具4について、
図6及び
図7を参照して説明する。コイル巻取治具4は、略円筒状の治具本体41と、治具本体41の外周に放射状に突出する複数の櫛歯部42と、周方向に隣り合う櫛歯部42,42の間の複数の櫛歯状溝43と、治具本体41の中心に開口する軸孔44と、治具本体41の外周に取り付けられる複数の押部材45と、を有する。
【0032】
櫛歯部42及び櫛歯状溝43は、治具本体41の軸方向の両端部にそれぞれ設けられる。治具本体41の両端部の櫛歯部42及び櫛歯状溝43のそれぞれの位相は、軸方向に揃えられている。治具本体41の周方向に配列される櫛歯状溝43の数は、ステータコア2に設けられるスロット22の数に一致している。コイル巻取治具4は、ステータコア2の軸孔20内に挿入可能である。すなわち、櫛歯部42の先端の位置によって規定されるコイル巻取治具4の外径は、ステータコア2の内径と同一もしくは僅かに小径である。
【0033】
押部材45は、治具本体41に取り付けられた弾性部材からなり、コイル巻取治具4に巻き取られる帯状コイル100と治具本体41との間に配置される。押部材45は、巻回状態の帯状コイル100を、帯状コイル100の内側から半径方向の外側に向けて弾性的に押圧する。本実施形態に示す押部材45は、細い長尺な板状に形成された板ばねによって構成される。
【0034】
板ばねからなる押部材45の長さ方向の一端は固定端45aであり、他端は自由端45bである。固定端45aは、治具本体41の外周面41aに、ねじによって固定される。詳しくは、固定端45aは、治具本体41の軸方向の一方端側(
図6における下端側)に配列される櫛歯状溝43の近傍の治具本体41の外周面41aに、ねじによって固定されている。自由端45bは、治具本体41に固定されていない。
図6及び
図7は、押部材45に圧縮力が作用していない定常状態を示している。このときの自由端45bは、固定端45aから治具本体41の軸方向の他方端側に配列される櫛歯状溝43に向かい、且つ、コイル巻取治具4の半径方向の外側に向けて斜めに延びている。自由端45bは、治具本体41の軸方向の他方端側(
図6における上端側)に配列される櫛歯状溝43に近接している。具体的には、自由端45bは、櫛歯状溝43よりも治具本体41の半径方向のやや外側に配置されている。
【0035】
押部材45は、コイル巻取治具4の周方向に放射状に配列される複数の櫛歯状溝43のうちの少なくとも一部に対応するように設けられる。
図7に示すコイル巻取治具4は、1周当たり48か所の櫛歯状溝43を有する。これに対して、押部材45は、12本設けられている。12本の押部材45の固定端45aは、櫛歯状溝43の配列ピッチに一致するように、治具本体41の周方向に取り付けられている。12本の押部材45は、隣接する12か所の櫛歯状溝43に対応している。したがって、押部材45が、固定端45aを支点にしてコイル巻取治具4の半径方向の内側に向けて弾性的に変形したとき、自由端45bは、対応する櫛歯状溝43の内部に嵌合する(
図12~
図16参照)。
【0036】
コイル巻取治具4の櫛歯状溝43には、図示しないステータコア2に装着するための帯状コイル100が円環状に巻き取られる。帯状コイル100は、
図8に示すように、複数の直線部101と複数のコイルエンド部102とを有する。直線部101は、ステータコア2のスロット22内に挿入される部位であり、一定の間隔で平行に配置される。コイルエンド部102は、隣り合う直線部101の一方端部同士と他方端部同士とを山型状に交互に連結する。コイルエンド部102は、帯状コイル100がステータコア2のスロット22に装着された際に、スロット22からステータコア2の軸方向にそれぞれ突出するように配置される。本実施形態の帯状コイル100は、6本の導体線110を用いて、複数の直線部101と複数のコイルエンド部102とを折り曲げ成形することによって、長尺なシート状に形成される。
【0037】
帯状コイル100を構成する導体線110のそれぞれは、
図9に示すように、略矩形の断面を有する銅線等の金属線からなる複数本の平角線111によって構成される。平角線111の表面は、図示しない樹脂製の絶縁被膜で覆われている。本実施形態の導体線110は、2本の平角線111,111が密接するように導体線110の幅方向Xに並列している。すなわち、導体線110は、それぞれ2本の平角線111,111が並列した分割線である。
【0038】
ここで、図中に示す帯状コイル100の方向について次のように定義する。X方向は、帯状コイル100を構成する導体線110の幅方向である。このX方向は、ステータコア2及びコイル巻取治具4の周方向に対応する。Y方向は、帯状コイル100を構成する導体線110の長さ方向である。このY方向は、ステータコア2及びコイル巻取治具4の周方向に対応する。Z方向は、帯状コイル100及び導体線110の厚み方向である。このZ方向は、ステータコア2及びコイル巻取治具4の半径方向に対応する。
【0039】
帯状コイル100は、
図10に示すように、それぞれU字状に折り曲げ成形された6本の導体線110を、導体線110の厚み方向に複数回折り返すことによって形成される。詳しくは、それぞれのU字部110aを内側と外側とに二重に配置された2本ずつの導体線110,110の組が、幅方向Xに一定の間隔をおいて並列するように3組重ねられる。合計6本のU字状の導体線110は、ステータコア2のスロット22内に収容される直線部101を残して、幅方向Xに折り曲げられる。これによって斜行部103が形成される。斜行部103は、導体線110の厚み方向Zに折り返されることによって、山型状に成形される。同様にして、直線部101を残した斜行部103の折り曲げ成形工程及び斜行部103の折り返し成形工程が複数回繰り返し実行されることによって、
図8に示す長尺なシート状の帯状コイル100が形成される。
【0040】
帯状コイル100は、導体線110が折り返されて成形されることによって、2本ずつの直線部101,101が重なり合った2層構造を有する。しかし、帯状コイル100は、導体線110のU字部110a側から順次折り曲げ成形されるため、
図8、
図10及び
図11に示すように、6本のU字部110aを有する帯状コイル100の先頭端部104に配置される12本の直線部101のうちの複数本の直線部101は重なり合っておらず、1層構造を有する。帯状コイル100の先頭端部104において1層構造の直線部101が配置される領域104aは、帯状コイル100の長さ方向の他の部位(2層構造の部位)よりも厚みが小さい部材である。
【0041】
コイル巻取治具4は、ステータコア2の内側に挿入される前に、
図12に示すように、巻き取り方向Dに沿って回転しながら、帯状コイル100の直線部101を櫛歯状溝43内にそれぞれ順次挿入することによって、帯状コイル100を多重に巻き取っている。帯状コイル100は、先頭端部104側から、コイル巻取治具4に巻き取れられる。詳しくは、先頭端部104の最も端部に配置される直線部101が、押部材45の位置に対応する櫛歯状溝43に挿入される。この櫛歯状溝43は、複数本の押部材45のうち、巻き取り方向Dの最も先頭側に配置される押部材45の位置に対応する櫛歯状溝43である。すなわち、押部材45は、コイル巻取治具4の櫛歯状溝43に収容される帯状コイル100の複数の直線部101のうち、帯状コイル100の厚みが小さい部位である先頭端部104に配置される直線部101を押圧可能な位置に設けられる。その後、帯状コイル100の直線部101は、コイル巻取治具4の各櫛歯状溝43内に順次挿入される。
【0042】
これによって、帯状コイル100は、
図13~
図16に示すように、コイル巻取治具4の外周に巻回される。コイル巻取治具4に巻き取られた帯状コイル100の直線部101は、治具本体41の両端部の同位相の櫛歯状溝43,43に亘って収容される。多重に巻き取られた帯状コイル100のコイルエンド部102は、櫛歯状溝43から治具本体41の軸方向の外側にそれぞれ円筒状に突出する。なお、
図15及び
図16に示すように、帯状コイル100は、先頭端部104における各導体線110のU字部110aが、押部材45の自由端45b側に配置されるように、コイル巻取治具4に巻き取られている。
【0043】
このように帯状コイル100がコイル巻取治具4の櫛歯状溝43に巻き取られる際、先頭端部104に配置される直線部101は、押部材45を弾性的に圧縮しながら櫛歯状溝43内に収容される。そのため、先頭端部104の直線部101は、押部材45の押圧力を受けて、導体線110を構成する2本の平角線111,111の並列状態が維持された状態で、櫛歯状溝43内に収容される。その結果、
図15に示すように、各直線部101を構成する導体線110の2本の平角線111,111が、コイル巻取治具4の周方向に並列するように配置される。
【0044】
各押部材45は、治具本体41と巻回状態の帯状コイル100との間に配置され、帯状コイル100によって圧縮される。これによって、各押部材45は、治具本体41の外周面41aに沿うように弾性的に変形し、櫛歯状溝43内の直線部101の並列する2本の平角線111,111を、帯状コイル100の内側から半径方向の外側に向けて弾性的に押圧し続ける。そのため、導体線110の2本の平角線111,111がばらつくことなく、巻回状態の帯状コイル100は安定した形状を維持する。
【0045】
圧縮された各押部材45の自由端45bは、それぞれ櫛歯状溝43内に嵌合している。これによって、各押部材45は、櫛歯状溝43によって両側がガイドされた状態で、櫛歯状溝43内の直線部101を押圧する。そのため、各押部材45は、櫛歯状溝43に収容された直線部101を確実に半径方向の外側に向けて押圧することができる。
【0046】
帯状コイル100において、先頭端部104の他の部位に配置される直線部101は2層構造であるのに対し、先頭端部104に配置される直線部101は1層構造である。そのため、帯状コイル100を巻き取ったコイル巻取治具4において、先頭端部104に配置される直線部101が収容される櫛歯状溝43は、他の2層構造の直線部101のみが収容される櫛歯状溝43に比べて、コイル巻取治具4の半径方向の内側に隙間が生じる。この隙間によって、先頭端部104に配置される直線部101を構成する導体線110の半角線111,111が分離し、コイル巻取治具4の半径方向の内側に向けて位置ずれし易い。平角線111の位置ずれが発生すると、その半径方向外側の直線部101にも位置ずれが伝播することによって、巻回状態の帯状コイル100の形状に乱れが発生する。しかし、本実施形態のコイル巻取治具4は、押部材45によって、帯状コイル100の少なくとも先頭端部104に配置される1層構造の直線部101を、半径方向の外側に向けて押圧し続けるため、直線部101を構成する導体線110の2本の平角線111,111の並列状態が適正状態に維持される。そのため、コイル巻取治具4に巻き取られた巻回状態の帯状コイル100の形状は安定化され、乱れは生じない。
【0047】
押部材45が発生する弾性的な押圧力(押圧荷重)の上限は、巻き取られた帯状コイル100の直線部101が櫛歯状溝43から抜け出ることのない程度に設定される。押圧力(押圧荷重)の下限は、直線部101を構成する2本の平角線111,111が櫛歯状溝43内で分離することなく、コイル巻取治具4の周方向に沿う並列状態を維持し得る程度に設定される。
【0048】
このようにして帯状コイル100が円環状に巻き取られたコイル巻取治具4は、
図1、
図2及び
図3に示すように、ステータコア固定治具3に固定されたステータコア2の内側に、例えば、図示しないロボットの動作によって挿入される。なお、
図1では、コイル巻取治具4の帯状コイル100は図示を省略している。
【0049】
ステータコア2の内側に挿入されたコイル巻取治具4は、ステータコア固定治具3を間に挟んでその両側にそれぞれ配置される一対のコイル拡張機構部5によって、所定の位置及び姿勢に保持される。本実施形態のコイル拡張機構部5は、略円柱状の外観形状を有し、ステータコア2の内側に挿入されたコイル巻取治具4に対して軸方向から対向している。
【0050】
図1に示すように、ステータコア固定治具3を固定する基台11上には、ステータコア固定治具3を挟んで対面するように、一対のコイル拡張機構部5に対応する一対の支持基板12が立設される。コイル拡張機構部5は、支持基板12からステータコア2の内側に挿入されるコイル巻取治具4に向けて水平方向に突出している。コイル拡張機構部5は、支持基板12が図示しないモータ等の駆動によって基台11上を直線的に移動することによって、コイル巻取治具4に対して当接する方向及び離隔する方向にそれぞれ移動可能に設けられる。
【0051】
コイル拡張機構部5は、
図17に示すように、支持基板12からステータコア2の内側に挿入されたコイル巻取治具4に向けて延びる主軸部51を中心に有する。主軸部51の先端には、ステータコア2の内側においてコイル巻取治具4を所定の位置及び姿勢に保持する保持部52が設けられる。保持部52は、主軸部51の先端に配置される円形状の端板部521の中心から突出する軸突部522を有する。保持部52は、コイル巻取治具4の軸孔44に嵌合し、ステータコア固定治具3に固定されるステータコア2のスロット22の位相と、ステータコア2の内側に挿入されたコイル巻取治具4の櫛歯状溝43の位相とが一致するように保持する。
【0052】
コイル拡張機構部5は、主軸部51の外周側にコイル拡張部53を有する。コイル拡張部53は、主軸部51の外周側に嵌合する可動筒部531と、可動筒部531のさらに外周側に配置される複数の可動腕部532と、可動腕部532の先端にそれぞれ設けられる複数の駒部材533と、を有する。
【0053】
可動筒部531は、主軸部51の長さよりも短い長さを有し、支持基板12の後方に配置されるシリンダ等のアクチュエータ54の駆動によって、主軸部51の軸方向に沿って摺動可能に設けられる。
【0054】
可動腕部532は、主軸部51の軸方向に沿って延び、可動筒部531の外周側において周方向に一定の間隔をおいて複数配置される。本実施形態のコイル拡張部53は、主軸部51の周方向に沿って配列される12本の可動腕部532を有する。支持基板12の表面には、主軸部51を中心にして径方向外側に向けて放射状に配列される12本のガイドレール121が設けられる。可動腕部532の後端532bは、それぞれガイドレール121に沿って移動可能に取り付けられる。可動腕部532は、ガイドレールから可動筒部531の軸方向に沿って屈曲して保持部52の外周近傍まで延びている。可動腕部532の先端532aは、それぞれ回動可能に取り付けられる2つずつのリンク部534を介して、可動筒部531の先端側の外周面に連結される。
【0055】
駒部材533は、略扇形状を有し、可動腕部532の先端にそれぞれ1つずつ設けられる。したがって、本実施形態のコイル拡張部53は、12個の駒部材533を有する。
図19及び
図22に示すように、駒部材533は、周方向の一方端部に一対の係合突片533aをそれぞれ有し、周方向の他方端部に、係合突片533aと係合する一対の係合溝533bをそれぞれ有する。一対の係合突片533aは、コイル拡張部53の軸方向に平行に配置され、それぞれコイル拡張部53の周方向に向けて平行に突出している。12個の駒部材533は、周方向に隣り合う駒部材533,533の一対の係合突片533aと一対の係合溝533bとが互いに係合し合うことによって、保持部52の外周側に円環状に配列される。
【0056】
図18に示すコイル拡張機構部5は、コイル拡張部53の可動筒部531が主軸部51の後端側(支持基板12側)に後退した状態を示す。このとき、可動腕部532は、それぞれ放射状のガイドレール121の内方端側に移動し、可動筒部531の外周面に最も近接するように配置される。これによって、コイル拡張部53は、
図18~
図20に示すように、12個の駒部材533を互いに密接させるように最も縮径する。コイル拡張部53が最も縮径したときの外径は、帯状コイル100が巻き取られたコイル巻取治具4から軸方向に円筒状に突出するコイルエンド部102の内径よりも僅かに小さい。コイル拡張機構部5は、コイル拡張部53が縮径した状態で、コイル巻取治具4の軸方向に円筒状に突出するコイルエンド部102に挿入され、保持部52によってコイル巻取治具4を保持する。
【0057】
次に、アクチュエータ54の駆動によって、可動筒部531が、主軸部51に沿ってコイル巻取治具4に向けて前進すると、可動筒部531に連結されるリンク部534が、それぞれ可動筒部531の径方向外側に向けて張り出すように回動する。これによって、12本の可動腕部532は、ガイドレールに沿ってそれぞれ外側に平行移動し、可動筒部531から径方向外側に離隔する。このとき、コイル拡張部53は、
図21~
図23に示すように、隣り合う駒部材533間の距離を互いに広げるように移動させて拡張する。最も拡張したコイル拡張部53の外径は、コイル巻取治具4の外径よりもやや大きい。
【0058】
なお、
図22及び
図23に示すように、コイル拡張部53が最も拡張した際、隣り合う駒部材533,533同士は離隔する。しかし、駒部材533,533間には係合溝533bから離れた一対の係合突片533aが周方向に張り出しているため、コイル拡張部53を周方向に見た場合、隣り合う駒部材533,533の間は一対の係合突片533aによって連続する。そのため、コイル拡張部53が拡張した際、拡張したコイル拡張部53は周方向に連続し、拡張時に帯状コイル100の直線部101が嵌り込んでしまうような溝部は形成されない。
【0059】
次に、ステータ製造装置1において、コイル巻取治具4に巻き取られた帯状コイル100を、ステータコア固定治具3に固定されたステータコア2の内側からスロット22に挿入する方法について説明する。
【0060】
帯状コイル100が円環状に巻き取られたコイル巻取治具4がステータコア固定治具3に固定されたステータコア2の内側に挿入された後、カフスガイド33が、図示しないアクチュエータの駆動によって径方向内側に向けて移動する。これによって、
図24に示すように、カフスガイド33のガイド溝331が、スロット22内の絶縁紙24のカフス部24aを挟み込んで支持する。このとき、周方向に隣り合うカフスガイド33,33の内端33a,33a同士の間も、ガイド溝331と同様にして、カフスガイド33,33間に配置される絶縁紙24のカフス部24aを挟み込んで支持する。カフスガイド33によるカフス部24aの支持動作は、ステータコア固定治具3にステータコア2が固定された後で、後述するコイル拡張部53の動作によって帯状コイル100がステータコア2のスロット22内に挿入される前までの適宜のタイミングで行われる。
【0061】
ステータコア2の内側に挿入されたコイル巻取治具4は、
図17に示すように、コイル拡張部53を縮径させた状態の一対のコイル拡張機構部5が、コイル巻取治具4に向けて軸方向の両側からそれぞれ移動することによって、コイル拡張機構部5の保持部52によって保持される。
【0062】
さらに、カフスガイド33によってスロット22内の絶縁紙24が位置決めされた後、
図21~
図23に示すように、コイル拡張機構部5のコイル拡張部53がそれぞれアクチュエータ54の駆動によって拡張する。これによって、コイル拡張部53は、
図25に示すように、巻回状態の帯状コイル100のコイルエンド部102を、帯状コイル100の内側から半径方向の外側に向けて拡張させるように押圧する。コイル拡張部53によって押圧された帯状コイル100は徐々に拡張する。これに伴い、直線部101は、櫛歯状溝43にガイドされながら、櫛歯状溝43と連通するステータコア2のスロット22に向けて移動する。
【0063】
これによって、帯状コイル100の直線部101は、ステータコア2のスロット22に干渉することなく、スロット22の開口部22aからスロット22内に挿入される。このとき、スロット22内の絶縁紙24は、それぞれカフスガイド33によって所定の位置に位置決めされるため、帯状コイル100の直線部101が絶縁紙24をかみ込むことは抑制される。
【0064】
2つのコイル拡張機構部5のコイル拡張部53がそれぞれ最も拡張すると、コイル巻取治具4の帯状コイル100の直線部101は、
図25に示すように、ステータコア2のスロット22内にそれぞれ完全に挿入される。これによって、帯状コイル100はステータコア2のスロット22内に装着される。一対のコイル拡張機構部5のコイル拡張部53は、同時に拡張するように動作してもよいし、直線部101がスロット22の開口部22aに対して径方向に斜めに挿入されるように、時間差を設けて順次拡張するように動作してもよい。
【0065】
その後、カフスガイド33は、径方向外側に移動する。さらに、コイル拡張部53がそれぞれ縮径した後、コイル拡張機構部5がそれぞれコイル巻取治具4から離隔する。これによって、
図26に示すように、ステータコア2のスロット22内に帯状コイル100が装着されたステータ200が得られる。
【0066】
コイル巻取治具4に巻き取られた帯状コイル100は、ステータコア2のスロット22内に拡張挿入される直前まで、コイル巻取治具4の押部材45によって、帯状コイル100の内側から半径方向の外側に向けて押圧され続けている。そのため、直線部101を構成する導体線110の2本の平角線111,111の並列状態が適正状態に維持され、巻回状態の帯状コイル100の形状に乱れは生じない。ステータコア2のスロット22に拡張挿入された帯状コイル100の各直線部101は、
図27に示すように、導体線110を構成する2本の平角線111,111がステータコア2の周方向に並列した適正状態を維持して、各スロット22内に規則正しく配列され、安定した状態で収容される。
【0067】
ここで、以上のように拡張挿入されたスロット22内の直線部101に発生する平角線111,111のズレ量を、押部材45を備えた本実施形態のコイル巻取治具4を用いた場合と、押部材45を備えないコイル巻取治具4を用いた場合とで比較した結果を
図28に示す。
図28において、横軸の番号は、
図29に示す帯状コイル100の先頭端部104側から直線部101が収容されるスロット22の位置を示す。
図29中の番号は、
図28の横軸の番号に対応している。縦軸は、直線部101を構成する導体線110の2本の平角線111,111のズレ量を示す。ズレ量は、
図30に示すように、2本の平角線111,111がステータコア2の半径方向(導体線110の厚み方向Z)の相対的に位置ずれ量Lを示す。導体線110の厚み方向Zに沿う各平角線111,111の寸法は、2.45mmである。
【0068】
図28に示すように、押部材45を備えるコイル巻取治具4を用いた場合、スロット22内の帯状コイル100の直線部101のズレ量は、極めて小さい。これに対して、押部材45を備えないコイル巻取治具4を用いた場合、押部材45を備えるコイル巻取治具4を用いた場合に比較して極めて大きなズレ量を有することがわかる。押部材45を備えないコイル巻取治具4を用いた場合、
図31に示すように、導体線110を構成する平角線111,111が分離してばらつくことによって、櫛歯状溝43内の直線部101には乱れが発生している。その結果、
図32に示すように、拡張挿入後のスロット22内の直線部101は、一部の平角線111がスロット22からはみ出すように収容され、各直線部101がスロット22内の適正位置に配置されない状態が発生する。
【0069】
以上の実施形態に示すコイル巻取治具4は、帯状コイル100の先頭端部104に配置される12本の直線部101に対応する12本の板ばねからなる押部材45を有する。しかし、押部材45の数はこれに限定されない。コイル巻取治具4には、少なくとも先頭端部104における1層構造の直線部101の数に対応する数の押部材45が設けられていればよい。
【0070】
コイル巻取治具4に設けられる押部材45は、櫛歯状溝43内に収容される直線部101を、帯状コイル100の内側から半径方向の外側に向けて押圧可能な構成であれば、板ばねに限定されず、その他の様々な弾性構造体を用いることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 ステータ製造装置
2 ステータコア
20 軸孔
22 スロット
200 ステータ
4 コイル巻取治具
43 櫛歯状溝
45 押部材
45a 固定端
45b 自由端
100 帯状コイル
101 直線部
104 先頭端部(他の部位よりも厚みが小さい部位)