(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144084
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】容器入り製剤および包装体
(51)【国際特許分類】
A61K 9/08 20060101AFI20241003BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20241003BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241003BHJP
A61K 38/36 20060101ALI20241003BHJP
A61K 38/22 20060101ALI20241003BHJP
A61K 38/21 20060101ALI20241003BHJP
A61K 38/43 20060101ALI20241003BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20241003BHJP
A61K 38/28 20060101ALI20241003BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20241003BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20241003BHJP
A61K 38/38 20060101ALI20241003BHJP
A61J 1/05 20060101ALI20241003BHJP
A61J 1/10 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61K9/08
A61K31/7088
A61K39/395 A
A61K39/395 H
A61K38/36
A61K38/22
A61K38/21
A61K38/43
A61K38/19
A61K38/28
A61K38/18
A61K38/02
A61K38/38
A61K39/395 U
A61K39/395 T
A61J1/05 311
A61J1/10 331A
A61J1/05 353
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023213932
(22)【出願日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2023054135
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】中島 真実
(72)【発明者】
【氏名】井上 真路
(72)【発明者】
【氏名】宝谷 洋平
(72)【発明者】
【氏名】藤村 太
【テーマコード(参考)】
4C047
4C076
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C047AA01
4C047AA05
4C047AA11
4C047AA24
4C047AA27
4C047BB12
4C047BB25
4C047GG02
4C047GG04
4C047GG14
4C076AA12
4C076BB11
4C076FF51
4C076FF63
4C084AA01
4C084BA03
4C084DA01
4C084DA21
4C084DA36
4C084DB01
4C084DB34
4C084DB56
4C084DC01
4C084DC10
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA03
4C085AA13
4C085AA14
4C085CC22
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4C086AA01
4C086AA10
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA66
4C086NA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は収容される製剤中の有効成分の変性を抑制することができる容器入り製剤および包装体を提供するものである。
【解決手段】医療用容器内に製剤を収容した、容器入り製剤であって、前記医療用容器が、炭素原子数が2~20のα-オレフィン由来の構成単位(A)と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、を有する環状オレフィン系共重合体(P)を含み、前記医療用容器における、特定の方法で測定した有機ラジカル量が10.00×1013spins/mg以下である、容器入り製剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用容器内に製剤を収容した、容器入り製剤であって、
前記医療用容器が、
炭素原子数が2~20のα-オレフィン由来の構成単位(A)と、
芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、
芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、
を有する環状オレフィン系共重合体(P)を含み、
前記医療用容器における、下記(方法1)で測定した有機ラジカル量が10.00×1013spins/mg以下である、容器入り製剤。
(方法1)
まず、前記医療用容器に50kGyのガンマ線を照射したのち、25℃にて12日間静置してから電子スピン共鳴装置にてESRスペクトルを測定する。
次いで、既知濃度の標準試料のESRスペクトルから作成した検量線を用いて、前記医療用容器1mgあたりの有機ラジカル量を求める。
【請求項2】
前記医療用容器が放射線滅菌されたものである、請求項1に記載の容器入り製剤。
【請求項3】
前記環状オレフィン系共重合体(P)中の前記構成単位(A)、前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記環状オレフィン系共重合体(P)中の前記構成単位(C)の含有量が0.1モル%以上50.0モル%以下である、請求項1または2に記載の容器入り製剤。
【請求項4】
前記環状オレフィン系共重合体(P)中の前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記環状オレフィン系共重合体(P)中の前記構成単位(C)の含有量が5.0モル%以上95.0モル%以下である、請求項1または2に記載の容器入り製剤。
【請求項5】
前記環状オレフィン系共重合体(P)中の前記構成単位(A)、前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記環状オレフィン系共重合体(P)中の前記構成単位(A)の含有量が10.0モル%以上80.0モル%以下である、請求項1または2に記載の容器入り製剤。
【請求項6】
前記医療用容器において、
前記芳香環を有さない環状オレフィンが、下記式(B-1)で示される化合物を含む、請求項1または2に記載の容器入り製剤。
【化1】
前記式(B-1)中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R
1~R
18ならびにR
aおよびR
bは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R
15~R
18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR
15とR
16とで、またはR
17とR
18とでアルキリデン基を形成していてもよい。ただし、芳香環を含まない。
【請求項7】
前記芳香環を有する環状オレフィンが、下記式(C-1)で示される化合物、下記式(C-2)で示される化合物、および下記式(C-3)で示される化合物からなる群から選択される一種または二種以上を含む、請求項1または2に記載の容器入り製剤。
【化2】
前記式(C-1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2であり、R
1~R
17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R
10~R
17のうち一つは結合手であり、またq=0のときR
10とR
11、R
11とR
12、R
12とR
13、R
13とR
14、R
14とR
15、R
15とR
10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=1または2のときR
10とR
11、R
11とR
17、R
17とR
17、R
17とR
12、R
12とR
13、R
13とR
14、R
14とR
15、R
15とR
16、R
16とR
16、R
16とR
10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。
【化3】
前記式(C-2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R
18~R
31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
28とR
29、R
29とR
30、R
30とR
31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
28とR
28、R
28とR
29、R
29とR
30、R
30とR
31、R
31とR
31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。
【化4】
前記式(C-3)中、qは1、2または3であり、R
32~R
39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
36とR
36、R
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39、R
39とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。
【請求項8】
示差走査熱量計(DSC)で測定される、前記環状オレフィン系共重合体(P)のガラス転移温度(Tg)が70℃以上180℃以下である、請求項1または2に記載の容器入り製剤。
【請求項9】
前記環状オレフィン系共重合体(P)の135℃デカリン中で測定される極限粘度[η]が0.05dl/g以上5.00dl/g以下である、請求項1または2に記載の容器入り製剤。
【請求項10】
前記芳香環を有する環状オレフィンが、ベンゾノルボルナジエン、インデンノルボルネンおよびメチルフェニルノルボルネンからなる群から選択される一種または二種以上を含む、請求項1または2に記載の容器入り製剤。
【請求項11】
前記医療用容器が、シリンジ、バイアル、輸液バッグ、カートリッジ、アンプル、ボトル、パウチまたはブリスターパックである、請求項1または2に記載の容器入り製剤。
【請求項12】
前記製剤が核酸製剤またはタンパク質製剤である、請求項1または2に記載の容器入り製剤。
【請求項13】
前記製剤がタンパク質製剤であり、
前記タンパク質製剤が、抗体、血液凝固因子、ペプチドホルモン、タンパク質ホルモン、インターフェロン、酵素、サイトカイン、インスリン、エリスロポエチン、受容体Fc融合タンパク質およびアルブミンからなる群から選択される一種または二種以上を含む、請求項12に記載の容器入り製剤。
【請求項14】
前記抗体が、キメラ抗体、ヒト抗体およびヒト化抗体、ならびにこれらのドメイン抗体からなる群から選択される一種または二種以上を含む、請求項13に記載の容器入り製剤。
【請求項15】
プレフィルドシリンジまたはプレフィルドカートリッジである、請求項1または2に記載の容器入り製剤。
【請求項16】
製剤中の有効成分が変性することを抑制できる、請求項1または2に記載の容器入り製剤。
【請求項17】
製剤中の有効成分が酸化することを抑制できる、請求項16に記載の容器入り製剤。
【請求項18】
請求項1または2に記載の容器入り製剤を、酸素難透過性の包装材で密封包装した包装体。
【請求項19】
ブリスター包装の形態をなしている請求項18に記載の包装体。
【請求項20】
医療用容器内に製剤を収容した、容器入り製剤を製造する方法であって、
前記医療用容器が、
炭素原子数が2~20のα-オレフィン由来の構成単位(A)と、
芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、
芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、
を有する環状オレフィン系共重合体(P)を含み、
前記医療用容器に10kGy以上のガンマ線を照射する工程を含む、容器入り製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器入り製剤および包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用容器の分野では、重くて破損し易いガラス製の医療用容器に代えて、軽くて破損しにくくて、取り扱い性に優れるプラスチック製の容器が、近年、広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、環状ポリオレフィン(A)からなる医療用成形体であって、該環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位および少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、および、前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、医療用成形体が記載されている。
そして、特許文献1には、特許文献1にかかる特定の環状ポリオレフィンからなる医療用成形体は、透明性、低吸着性、耐放射線性に優れ、医療用成形体として好適であると記載されている。
【0004】
また、医療の分野では、タンパク質製剤、核酸製剤などの製剤をシリンジ、カートリッジなどの容器に収容した容器入り製剤が、従来から用いられている。
【0005】
特許文献2には、タンパク質溶液製剤を収容するための医療用容器であって、環状オレフィン系重合体から形成され、高圧蒸気滅菌されており、当該医療用容器内に収容されるタンパク質溶液製剤中のタンパク質におけるアミノ酸残基の酸化を抑制することを特徴とする、タンパク質溶液製剤を収容するための医療用容器が記載されている。
そして、特許文献2には、特許文献2にかかる医療用容器にタンパク質溶液製剤を収容して保存しても、タンパク質の変性、特にタンパク質中のアミノ酸残基の酸化などのタンパク質の変性が生じないと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-180301号公報
【特許文献2】特開2020-022809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、収容される製剤中の有効成分の変性を抑制することができる容器入り製剤および包装体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す容器入り製剤および包装体が提供される。
【0009】
[1]
医療用容器内に製剤を収容した、容器入り製剤であって、
前記医療用容器が、
炭素原子数が2~20のα-オレフィン由来の構成単位(A)と、
芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、
芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、
を有する環状オレフィン系共重合体(P)を含み、
前記医療用容器における、下記(方法1)で測定した有機ラジカル量が10.00×10
13spins/mg以下である、容器入り製剤。
(方法1)
まず、前記医療用容器に50kGyのガンマ線を照射したのち、25℃にて12日間静置してから電子スピン共鳴装置にてESRスペクトルを測定する。
次いで、既知濃度の標準試料のESRスペクトルから作成した検量線を用いて、前記医療用容器1mgあたりの有機ラジカル量を求める。
[2]
前記医療用容器が放射線滅菌されたものである、上記[1]に記載の容器入り製剤。
[3]
前記環状オレフィン系共重合体(P)中の前記構成単位(A)、前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記環状オレフィン系共重合体(P)中の前記構成単位(C)の含有量が0.1モル%以上50.0モル%以下である、上記[1]または[2]に記載の容器入り製剤。
[4]
前記環状オレフィン系共重合体(P)中の前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記環状オレフィン系共重合体(P)中の前記構成単位(C)の含有量が5.0モル%以上95.0モル%以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の容器入り製剤。
[5]
前記環状オレフィン系共重合体(P)中の前記構成単位(A)、前記構成単位(B)および前記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、前記環状オレフィン系共重合体(P)中の前記構成単位(A)の含有量が10.0モル%以上80.0モル%以下である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の容器入り製剤。
[6]
前記医療用容器において、
前記芳香環を有さない環状オレフィンが、下記式(B-1)で示される化合物を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の容器入り製剤。
【化1】
前記式(B-1)中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R
1~R
18ならびにR
aおよびR
bは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R
15~R
18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR
15とR
16とで、またはR
17とR
18とでアルキリデン基を形成していてもよい。ただし、芳香環を含まない。
[7]
前記芳香環を有する環状オレフィンが、下記式(C-1)で示される化合物、下記式(C-2)で示される化合物、および下記式(C-3)で示される化合物からなる群から選択される一種または二種以上を含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の容器入り製剤。
【化2】
前記式(C-1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2であり、R
1~R
17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R
10~R
17のうち一つは結合手であり、またq=0のときR
10とR
11、R
11とR
12、R
12とR
13、R
13とR
14、R
14とR
15、R
15とR
10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=1または2のときR
10とR
11、R
11とR
17、R
17とR
17、R
17とR
12、R
12とR
13、R
13とR
14、R
14とR
15、R
15とR
16、R
16とR
16、R
16とR
10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。
【化3】
前記式(C-2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R
18~R
31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
28とR
29、R
29とR
30、R
30とR
31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
28とR
28、R
28とR
29、R
29とR
30、R
30とR
31、R
31とR
31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。
【化4】
前記式(C-3)中、qは1、2または3であり、R
32~R
39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
36とR
36、R
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39、R
39とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。
[8]
示差走査熱量計(DSC)で測定される、前記環状オレフィン系共重合体(P)のガラス転移温度(Tg)が70℃以上180℃以下である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の容器入り製剤。
[9]
前記環状オレフィン系共重合体(P)の135℃デカリン中で測定される極限粘度[η]が0.05dl/g以上5.00dl/g以下である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の容器入り製剤。
[10]
前記芳香環を有する環状オレフィンが、ベンゾノルボルナジエン、インデンノルボルネンおよびメチルフェニルノルボルネンからなる群から選択される一種または二種以上を含む、上記[1]~[9]のいずれかに記載の容器入り製剤。
[11]
前記医療用容器が、シリンジ、バイアル、輸液バッグ、カートリッジ、アンプル、ボトル、パウチまたはブリスターパックである、上記[1]~[10]のいずれかに記載の容器入り製剤。
[12]
前記製剤が核酸製剤またはタンパク質製剤である、上記[1]~[11]のいずれかに記載の容器入り製剤。
[13]
前記製剤がタンパク質製剤であり、
前記タンパク質製剤が、抗体、血液凝固因子、ペプチドホルモン、タンパク質ホルモン、インターフェロン、酵素、サイトカイン、インスリン、エリスロポエチン、受容体Fc融合タンパク質およびアルブミンからなる群から選択される一種または二種以上を含む、上記[12]に記載の容器入り製剤。
[14]
前記抗体が、キメラ抗体、ヒト抗体およびヒト化抗体、ならびにこれらのドメイン抗体からなる群から選択される一種または二種以上を含む、上記[13]に記載の容器入り製剤。
[15]
プレフィルドシリンジまたはプレフィルドカートリッジである、上記[1]~[14]のいずれかに記載の容器入り製剤。
[16]
製剤中の有効成分が変性することを抑制できる、上記[1]~[15]のいずれかに記載の容器入り製剤。
[17]
製剤中の有効成分が酸化することを抑制できる、上記[16]に記載の容器入り製剤。
[18]
上記[1]~[17]のいずれかに記載の容器入り製剤を、酸素難透過性の包装材で密封包装した包装体。
[19]
ブリスター包装の形態をなしている上記[18]に記載の包装体。
[20]
医療用容器内に製剤を収容した、容器入り製剤を製造する方法であって、
前記医療用容器が、
炭素原子数が2~20のα-オレフィン由来の構成単位(A)と、
芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、
芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、
を有する環状オレフィン系共重合体(P)を含み、
前記医療用容器に10kGy以上のガンマ線を照射する工程を含む、容器入り製剤の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、収容される製剤中の有効成分の変性を抑制することができる容器入り製剤および包装体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」および「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限および上限を含む数値範囲を意味する。
また、数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限および下限は任意に組み合わせることができる。
また、本実施形態に係る環状オレフィン系(共)重合体を構成する各モノマーは、化石原料から得られるモノマーであってもよく、動植物系原料から得られるモノマーであってもよい。
本明細書においては、環状オレフィン由来の構造単位と環状オレフィン以外の化合物由来の構造単位とを含む重合体を環状オレフィン系共重合体と呼び、環状オレフィン由来の構造単位からなる重合体を環状オレフィン系重合体と呼ぶ。また、両者を環状オレフィン系(共)重合体と総称する。
【0012】
1.容器入り製剤
以下、本実施形態に係る容器入り製剤について説明する。
【0013】
本実施形態に係る容器入り製剤は、医療用容器内に製剤を収容した、容器入り製剤であって、前記医療用容器が、炭素原子数が2~20のα-オレフィン由来の構成単位(A)と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、を有する環状オレフィン系共重合体(P)を含み、前記医療用容器における、下記(方法1)で測定した有機ラジカル量が10.00×1013spins/mg以下であり、好ましくは9.00×1013spins/mg以下であり、より好ましくは8.00×1013spins/mg以下である。
(方法1)
まず、前記医療用容器に50kGyのガンマ線を照射したのち、25℃にて12日間静置してから電子スピン共鳴装置にてESRスペクトルを測定する。
次いで、既知濃度の標準試料のESRスペクトルから作成した検量線を用いて、前記医療用容器1mgあたりの有機ラジカル量を求める。
【0014】
医療用容器の分野では、放射線による滅菌が一般的におこなわれている。しかし、放射線滅菌した医療用容器に製剤を収容すると、製剤中の有効成分の変性が生じることが知られている。なかでも、当該製剤がタンパク質製剤である場合は、これを放射線滅菌した医療用容器に収容するとタンパク質中のアミノ酸残基の酸化、タンパク質の高分子量化、タンパク質のアニオン化などのタンパク質の変性が生じる。タンパク質の変性は、タンパク質の本来の生理活性の低下や消失につながる恐れがあり、望ましくない。
【0015】
医療用容器に収容した製剤中の有効成分が変性するメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のメカニズムが考えられている。
医療用容器に放射線を照射すると、医療用容器を構成する樹脂中の化学結合が切断され、ラジカルが発生する。放射線照射により発生したラジカルの量は、放射線照射終了後、時間経過とともに減衰していくが、一部は残存し、この残存したラジカルが製剤中の有効成分の変性の原因の一つであると考えられている。
【0016】
本発明者らは、放射線照射終了後のラジカル量の減衰スピードと、減衰後のラジカルの残存量について検討をおこなった。その結果、本実施形態に係る容器入り製剤によると、ラジカル量の減衰スピードが速くなり、さらに、減衰後のラジカル残存量も低減されることを見出した。本実施形態に係る容器入り製剤においてこのような現象が起こるメカニズムは明らかではないが、本実施形態に係る医療用容器を構成する環状オレフィン系樹脂が特定の化学構造を有することが、ラジカル残存量の低減に寄与していることが予想される。
【0017】
<環状オレフィン系共重合体(P)>
以下、本実施形態に係る容器入り製剤を構成する医療用容器に含まれる環状オレフィン系共重合体(P)について説明する。
【0018】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)は、炭素原子数が2~20のα-オレフィン由来の構成単位(A)と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、を有する。
【0019】
(構成単位(A))
本実施形態に係る構成単位(A)は炭素原子数が2~20のα-オレフィン由来の構成単位である。
【0020】
本実施形態に係る炭素原子数が2~20のα-オレフィンは、直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等の炭素原子数が2~20の直鎖状α-オレフィン;3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン等の炭素原子数が4~20の分岐状α-オレフィンからなる群から選択される一種または二種以上を含み、好ましくは炭素原子数が2~4の直鎖状α-オレフィンを含み、より好ましくはエチレンを含む。
【0021】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(A)、上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(A)の含有量は、医療用容器の耐熱性や寸法安定性を向上させる観点から、好ましくは10.0モル%以上、より好ましくは20.0モル%以上、さらに好ましくは30.0モル%以上、さらに好ましくは40.0モル%以上、さらに好ましくは50.0モル%以上、さらに好ましくは60.0モル%以上、さらに好ましくは63.5モル%以上であり、そして、得られる医療用容器の成形性等を向上させる観点から、好ましくは80.0モル%以下、より好ましくは75.0モル%以下、さらに好ましくは70.0モル%以下、さらに好ましくは65.0モル%以下である。
特に、環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(A)の含有量が63.5~65.0モル%であると、医療用容器の耐熱性や寸法安定性がより向上するため、特に好ましい。
【0022】
本実施形態において、各構成単位の含有量は、例えば、1H-NMRまたは13C-NMRによって測定することができる。
【0023】
(構成単位(B))
本実施形態に係る構成単位(B)は芳香環を有さない環状オレフィン由来の構成単位である。
【0024】
本実施形態に係る芳香環を有さない環状オレフィンは、医療用容器の屈折率をさらに向上させる観点、および収容される製剤中の有効成分の変性をより一層抑制する観点から、好ましくは下記式(B-1)で示される化合物由来の構成単位を含む。
【0025】
【0026】
前記式(B-1)中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R1~R18ならびにRaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R15~R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。ただし、芳香環を含まない。
【0027】
本実施形態に係る芳香環を有さない環状オレフィンは、より好ましくはビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンおよびヘキサシクロ[6,6,1,13,6,110,13,02,7,09,14]ヘプタデセン-4からなる群から選択される一種または二種以上を含み、より好ましくはビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンおよびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンからなる群から選択される一種または二種を含み、さらに好ましくはテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンを含む。
【0028】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(A)、上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(B)の含有量は、収容される製剤中の有効成分の変性をより一層抑制する観点から、好ましくは10.0モル%以上、より好ましくは20.0モル%以上、さらに好ましくは27.0モル%以上、さらに好ましくは28.5モル%以上であり、そして、収容される製剤中の有効成分の変性をより一層抑制する観点から、好ましくは70.0モル%以下、より好ましくは60.0モル%以下、さらに好ましくは50.0モル%以下、さらに好ましくは40.0モル%以下、さらに好ましくは33.0モル%以下である。
特に、環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(B)の含有量が28.5モル%以上であると、製剤中の有効成分の変性がより一層抑制できるため、特に好ましい。
【0029】
(構成単位(C))
本実施形態に係る構成単位(C)は芳香環を有する環状オレフィン由来の構成単位である。
【0030】
本実施形態に係る環状オレフィンは、収容される製剤中の有効成分の変性をより一層抑制する観点から、下記式(C-1)で示される化合物、下記式(C-2)で示される化合物、および下記式(C-3)で示される化合物からなる群から選択される一種または二種以上を含む。
【0031】
【0032】
前記式(C-1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2であり、R1~R17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R10~R17のうち一つは結合手であり、またq=0のときR10とR11、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=1または2のときR10とR11、R11とR17、R17とR17、R17とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR16、R16とR16、R16とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。
【0033】
本実施形態に係る環状オレフィンは、収容される製剤中の有効成分の変性をより一層抑制する観点から、前記(C-1)で示される化合物の中でも、下記式(C-1A)で示される化合物を含むことが好ましい。式(C-1A)におけるnおよびR1~R14の定義は、式(C-1)における定義と同じである。
【0034】
【0035】
【0036】
前記式(C-2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R18~R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。
【0037】
【0038】
前記式(C-3)中、qは1、2または3であり、R32~R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。
【0039】
炭素原子数1~20の炭化水素基は、それぞれ独立に、例えば、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基および芳香族炭化水素基からなる群から選択される一種または二種以上を含む。
【0040】
具体的には、炭素原子数1~20のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基からなる群から選択される一種または二種以上を含む。
【0041】
具体的には、炭素原子数3~15のシクロアルキル基は、例えば、シクロヘキシル基を含む。
【0042】
具体的には、芳香族炭化水素基は、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェニルエチル基等のアリール基、ならびにアラルキル基からなる群から選択される一種または二種以上を含み、好ましくはベンゾノルボルナジエン、インデンノルボルネンおよびメチルフェニルノルボルネンからなる群から選択される一種または二種以上を含む。
【0043】
なお、これらの炭化水素基はフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0044】
本実施形態に係る芳香環を有する環状オレフィンは、収容される製剤中の有効成分の変性をより一層抑制する観点から、好ましくはベンゾノルボルナジエン、インデンノルボルネンおよびメチルフェニルノルボルネンからなる群から選択される一種または二種以上を含み、より好ましくはベンゾノルボルナジエンを含む。
【0045】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(A)、上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(C)の含有量は、収容される製剤中の有効成分の変性をより一層抑制する観点から、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは1.0モル%以上、さらに好ましくは3.0モル%以上であり、そして、収容される製剤中の有効成分の変性をより一層抑制する観点から、好ましくは50.0モル%以下、より好ましくは40.0モル%以下、さらに好ましくは30.0モル%以下、さらに好ましくは20.0モル%以下、さらに好ましくは15.0モル%以下、さらに好ましくは10.0モル%以下、さらに好ましくは8.0モル%以下、さらに好ましくは7.5モル%以下である。
特に環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(C)の含有量が7.5モル%以下であると、製剤中の有効成分の変性がより一層抑制できるため、特に好ましい。
【0046】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(B)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(C)の含有量は、収容される製剤中の有効成分の変性をより一層抑制する観点から、好ましくは1.0モル%以上、より好ましくは5.0モル%以上、さらに好ましくは9.0モル%以上であり、そして、収容される製剤中の有効成分の変性をより一層抑制する観点から、好ましくは95.0モル%以下、より好ましくは70.0モル%以下、さらに好ましくは50.0モル%以下、さらに好ましくは30.0モル%以下、さらに好ましくは21.0モル%以下である。
【0047】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)の共重合タイプは特に限定されないが、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等を挙げることができる。本実施形態においては、透明性や耐熱性に優れる医療用容器を得ることができる観点から、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)としてはランダム共重合体であることが好ましい。
【0048】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)は、例えば、特開昭60-168708号公報、特開昭61-120816号公報、特開昭61-115912号公報、特開昭61-115916号公報、特開昭61-271308号公報、特開昭61-272216号公報、特開昭62-252406号公報、特開昭62-252407号公報、特開2007-314806号公報、特開2010-241932号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0049】
示差走査熱量計(DSC)で測定される、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)のガラス転移温度(Tg)は、得られる医療用容器の透明性を良好に保ちつつ、耐熱性をより向上させる観点から、好ましくは70℃以上180℃以下であり、より好ましくは120℃以上180℃以下、さらに好ましくは125℃以上170℃以下、さらに好ましくは130℃以上165℃以下である。
【0050】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)の極限粘度[η](135℃デカリン中)は、例えば0.05dl/g以上5.00dl/g以下、好ましくは0.20dl/g以上4.00dl/g以下、さらに好ましくは0.30dl/g以上2.00dl/g以下、さらに好ましくは0.40dl/g以上1.00dl/g以下である。
極限粘度[η]が上記下限値以上であると、医療用容器の機械的強度を向上させることができる。また、極限粘度[η]が上記上限値以下であると、成形性を向上させることができる。
【0051】
<医療用容器>
以下、本実施形態に係る容器入り製剤を構成する医療用容器について説明する。
【0052】
本実施形態に係る医療用容器は、環状オレフィン系共重合体(P)を含む。本実施形態に係る医療用容器中の環状オレフィン系共重合体(P)の含有量は、当該医療用容器の全体を100質量%としたとき、収容される製剤中の有効成分の変性をより一層抑制する観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、そして、例えば100質量%以下、例えば98質量%以下、例えば95質量%以下である。
【0053】
本実施形態に係る医療用容器には、必要に応じて、本実施形態に係る医療用容器の良好な物性を損なわない範囲内で任意成分として公知の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、フェノール系安定剤、高級脂肪酸金属塩、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、塩酸吸収剤、金属不活性化剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、スリップ剤、核剤、可塑剤、難燃剤、リン系安定剤等を本発明の目的を損なわない程度に配合することができ、その配合割合は適宜量である。
しかし、本実施形態に係る医療用容器中のフェノール系安定剤、ヒンダードアミン系光安定剤およびリン系安定剤等の安定剤の合計含有量は、環状オレフィン系共重合体(P)100質量部に対して0.0001質量部未満であることが好ましく、より好ましくは前記安定剤を含有しない。
【0054】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)を成型して医療用容器を得る方法としては特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。その用途および形状にもよるが、例えば、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等が適用できる。これらの中でも、成形性、生産性の観点から射出成形法が好ましい。また、成形条件は使用目的、または成形方法により適宜選択されるが、例えば射出成形における樹脂温度は、例えば150℃以上400以下℃、好ましくは200℃以上350℃以下、より好ましくは230℃以上330℃以下の範囲で適宜選択される。
【0055】
本実施形態に係る医療用容器は、好ましくは放射線滅菌されたものである。放射線の種類は特に限定されないが、例えば、ガンマ線、X線、紫外線などの電磁放射線、アルファ線、ベータ線、電子線、陽子線、中性子線、重粒子線などの粒子放射線、太陽宇宙線、銀河宇宙線であり、好ましくはガンマ線、X線、紫外線などの電磁放射線であり、より好ましくはガンマ線またはX線である。
【0056】
また、照射線量は特に限定されないが、例えば5キログレイ(kGy)以上、好ましくは10kGy以上、より好ましくは25kGy以上、さらに好ましくは30kGy以上、さらに好ましくは35kGy以上、さらに好ましくは40kGy以上、さらに好ましくは45kGy以上であり、そして、例えば100kGy以下、または例えば80kGy以下である。
【0057】
本実施形態に係る医療用容器の種類は特に限定されないが、例えば、シリンジ(注射筒)、バイアル、輸液バッグ、ペン型注入器などに用いるカートリッジ、アンプル、ボトル、パウチまたはブリスターパックである。
【0058】
<製剤>
以下、本実施形態に係る容器入り製剤を構成する製剤について説明する。
【0059】
本実施形態に係る容器入り製剤は、上記の医療用容器内に製剤を収容したものである。
【0060】
本実施形態に係る容器入り製剤を構成する製剤としては、化学合成により得られる低分子医薬品を有効成分として含む製剤(以下、化学医薬品製剤と呼ぶことがある)、ならびに、核酸製剤およびタンパク質製剤などのバイオ医薬品を特に制限なく用いることができる。なかでも、前記製剤は核酸製剤またはタンパク質製剤であることが好ましく、タンパク質製剤であることがより好ましい。
ここで、本明細書においてタンパク質とは、アミノ酸がアミド結合(ペプチド結合とも言う)によって鎖状に多数連結(重合)してできた単一若しくは複数の高分子化合物を意味し、構成要素であるアミノ酸の数に限定されない。したがって、いわゆるペプチドも本発明のタンパク質に含まれる。また、糖とタンパク質が結合した糖タンパク質、脂質とタンパク質が結合したリポタンパク質も本発明のタンパク質に含まれる。
また、当該アミノ酸は天然型のまたは非天然型のα-もしくはβ-アミノ酸であることができ、L型とD型の両方が含まれる。すなわち、天然アミノ酸は、アラニン、ロイシン、アルギニン、リシン、アスパラギン、メチオニン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、システイン、プロリン、グルタミン、セリン、グルタミン酸、トレオニン、グリシン、トリプトファン、ヒスチジン、チロシン、イソロイシンおよびバリンである。また、非天然型アミノ酸は、例えば、ノルバリン、ノルロイシン、ホモフェニルアラニンおよびフェニルグリシンなどが挙げられる。
さらに、当該核酸は、一本鎖DNA、二本鎖DNA、一本鎖RNAおよび二本鎖RNAのいずれであってもよく、鎖状であってもアプタマーであってもよい。
【0061】
核酸製剤およびタンパク質製剤などのバイオ医薬品にとって、有効成分として配合されているタンパク質および核酸の変性を抑制することは重要である。なぜなら、タンパク質および核酸が変性してしまうと、タンパク質および核酸の3次元的な構造が失われるなどして生理活性が失われてしまうことがあるためである。
【0062】
本実施形態に係る容器入り製剤によると、製剤中の有効成分の変性を抑制することができる。そのため、本実施形態に係る容器入り製剤は、タンパク質製剤および核酸製剤などのバイオ医薬品を収容するという用途に好適であり、タンパク質製剤を収容するという用途により好適である。
【0063】
製剤中におけるタンパク質および核酸などの有効成分の濃度は、0.01mg/mL以上であることが好ましく、0.1mg/mL以上であることがより好ましく、そして、100mg/mL以下であることが好ましく、10mg/mL以下であることがより好ましい。有効成分の濃度が0.01mg/mL以上であれば、製剤を人体などに投与した際に所期の効果を十分に得ることができ、有効成分の濃度が100mg/mL以下であれば、容器入り製剤を長期保存した際に、製剤中におけるタンパク質および核酸などの有効成分の凝集を更に抑制することができる。
【0064】
製剤がタンパク質製剤である場合、本実施形態に係るタンパク質製剤の種類は特に限定されないが、例えば、抗体、血液凝固因子、ペプチドホルモン、タンパク質ホルモン、インターフェロン、酵素、サイトカイン、インスリン、エリスロポエチン、受容体Fc融合タンパク質およびアルブミンからなる群から選択される一種または二種以上を含む。
【0065】
前記抗体は、例えば、キメラ抗体、ヒト抗体およびヒト化抗体、ならびにこれらのドメイン抗体からなる群から選択される一種または二種以上を含む。
前記抗体としては、例えば、トラスツズマブ、ペルツズマブ、リツキシマブ、オファツムマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、アレムツズマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、イブリツモマブチウキセタン、トラスツズマブエムタンシン、ブレンツキシマブベドチンなどの抗腫瘍抗体;インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブペゴル、トシリズマブ、オマリズマブ、エクリズマブ、バシリキシマブ、ナタリズマブ、モガムリズマブ、ニボルマブなどの免疫調節抗体;ウステキヌマブ、カナキヌマブ、セクキヌマブなどの抗インターロイキン抗体;ベバシズマブなどの抗心血管系調節抗体;デノスマブなどの抗骨関連分子抗体;パリビズマブなどの抗ウイルス抗体;ラニビズマブなどのその他の抗体を挙げることができる。
前記アルブミンとしては、例えば、ヒト血清アルブミンを挙げることができる。
【0066】
本実施形態に係る製剤の剤形は特に限定されず、例えば、溶液状、ゲル状または凍結乾燥粉末などの粉末状である。
【0067】
製剤は、非イオン性界面活性剤を含有してもよい。このような非イオン性界面活性剤は、特に限定されないが、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート80)およびモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート20)など)、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンラノリン誘導体およびポリオキシエチレン脂肪酸アミドが挙げられる。
なお、非イオン性界面活性剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
製剤に任意に含まれる非イオン性界面活性剤以外のその他の成分としては、製剤の調製に用いられる既知の成分が挙げられる。このような既知の成分としては、例えば、安定化剤(上述した非イオン性界面活性剤を除く)、希釈剤、溶解補助剤、等張化剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、緩衝剤、含硫還元剤、酸化防止剤などが挙げられる。さらに、その他の成分としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩;クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの有機塩なども挙げられる。
【0069】
製剤のpHは、特に限定されないが、3.0以上8.0以下とすることができる。
【0070】
本実施形態に係る容器入り製剤は、好ましくはプレフィルドシリンジまたはプレフィルドカートリッジである。プレフィルドシリンジとは、薬剤があらかじめ充填されているシリンジ形状の製剤であり、1種類の薬剤が充填されたシングルチャンバータイプと2種の薬剤が充填されたダブルチャンバータイプがある。プレフィルドカートリッジとは、薬剤があらかじめ充填されているカートリッジ形状の製剤であり、ペン型注入器などに装着して用いられる。プレフィルドカートリッジにも、プレフィルドシリンジと同様にシングルチャンバータイプとダブルチャンバータイプがある。
なお、上述の通り、本実施形態に係る製剤は溶液状でも粉末状でもよいため、本実施形態に係るプレフィルドシリンジおよびプレフィルドカートリッジは、1種類の溶液が充填されたシングルチャンバータイプでもよいし、2種類の溶液が充填された液・液タイプのダブルチャンバータイプでもよいし、粉末とその溶解液からなる粉・液タイプのダブルチャンバータイプでもよい。
【0071】
本実施形態に係る容器入り製剤によると、製剤中の有効成分が変性すること、特に酸化することを抑制できる。この効果は、製剤が核酸製剤やタンパク質製剤の場合に顕著であり、タンパク質製剤の場合にはより顕著である。
【0072】
2.包装体
以下、本実施形態に係る包装体について説明する。
【0073】
本実施形態に係る包装体は、上記の容器入り製剤を、酸素難透過性の包装材で密封包装したものである。
【0074】
本実施形態に係る酸素難透過性の包装材は特に限定されず、一般に汎用されている酸素難透過性のフィルムやシートを使用することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、塩化ビニリデン・塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン・アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコールおよびポリアミドからなる群から選択される一種または二種以上を含むフィルム、シート、多層フィルムまたは多層シートを用いることができる。
【0075】
また、本実施形態に係る酸素難透過性の包装材は、製剤中の有効成分の変性をより一層抑制する観点から、酸素難透過性に加えて遮光性を有することが好ましい。酸素難透過性に加えて遮光性を有する包装材は、例えば、上記で挙げたフィルム、シート、多層フィルムまたは多層シートの表面または層間に、アルミ箔層、アルミ蒸着層、酸化アルミ蒸着層または酸化ケイ素蒸着層などの遮光能を有する層を設けることにより得ることができる。
【0076】
本実施形態に係る包装体はブリスター包装の形態をなしていることが好ましい。
ブリスター包装とは、内容物を収容するための凹部を備えた本体部と、本体部の凹部に収容された内容物と、内容物が収容された本体部の上部を覆う被覆部と、を含む包装である。本体部の凹部は、例えば、真空成型などの手法により成形することができる。
ブリスター包装体によると、袋などの包装体に比べて、輸送時などの振動が製剤に伝わりにくいため、タンパク質溶液製剤にかかる物理的なストレスが軽減され、製剤中の有効成分の変性をより一層抑制することができる。また、本体部に透明樹脂を用いた場合、内容物の視認性を向上させることができる。
【0077】
3.容器入り製剤の製造方法
以下、本実施形態に係る容器入り製剤の製造方法について説明する。
【0078】
本実施形態に係る容器入り製剤の製造方法は、医療用容器内に製剤を収容した、容器入り製剤を製造する方法であって、本実施形態の医療用容器が、炭素原子数が2~20のα-オレフィン由来の構成単位(A)と、芳香環を有さない環状オレフィンから導かれる構成単位(B)と、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、を有する環状オレフィン系共重合体(P)を含み、本実施形態の医療用容器に10kGy以上のガンマ線を照射する工程を含む。
【0079】
本実施形態に係る容器入り製剤の製造方法は、収容される製剤中の有効成分の変性をより一層抑制することができる観点から、好ましくは25kGy以上、より好ましくは30kGy以上、さらに好ましくは35kGy以上、さらに好ましくは40kGy以上、さらに好ましくは45kGy以上のガンマ線を照射する工程を含む。
【0080】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例0081】
以下、実施例および比較例を挙げて本開示を更に詳細に説明するが、本開示は何らこれに制約されるものではない。
【0082】
<環状オレフィン系(共)重合体の製造>
【0083】
本実施例においては、環状オレフィン由来の構造単位と環状オレフィン以外の化合物由来の構造単位とを含む重合体を環状オレフィン系共重合体と呼び、環状オレフィン由来の構造単位からなる重合体を環状オレフィン系重合体と呼ぶ。また、両者をまとめて環状オレフィン系(共)重合体と呼ぶ。
【0084】
[環状オレフィン系(共)重合体の製造]
[製造例1:環状オレフィン系共重合体(P-1)]
攪拌装置を備えた容積500mlのガラス製反応容器に不活性ガスとして窒素を100Nl/hrの流量で30分間流通させた後、シクロヘキサン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(以下、TDと呼ぶ。)(11mmol)、およびベンゾノルボルナジエン(以下、BNBDと呼ぶ。)(19mmol)を加えた。
次いで回転数600rpmで重合溶媒を攪拌しながら溶媒温度を50℃に昇温した。
溶媒温度が所定の温度に達した後、流通ガスを窒素からエチレンに切り替え、エチレンを90Nl/hr、水素を0.2Nl/hrの供給速度で反応容器に流通させ、10分経過した後に、メチルアルミノキサン(以下、MMAOと呼ぶ。)(0.30mmol)、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(以下、化合物1と呼ぶ。)(0.0040mmol)、3,5-ビスメチルエチル-1-ピラゾレート-t-ブチルシクロペンタジエニルチタニウムジクロリド(以下、金属化合物1と呼ぶ。)(0.00013mmol)をガラス製反応容器に添加し、重合を開始させた。
10分間経過した後、イソブチルアルコールを5ml添加して重合を停止させ、エチレン、TDおよびBNBDの共重合体を含む重合溶液を得た。
その後、重合溶液を別に用意した容積2Lのビーカーに移液し、さらに濃塩酸5mlと攪拌子を加え、強攪拌下で2時間接触させ脱灰操作を行った。この重合溶液に対して体積で約3倍のアセトンを入れたビーカーに脱灰後の重合溶液を攪拌下加えて共重合体を析出させ、さらに析出した共重合体を濾過により濾液と分離した。得られた溶媒を含む重合体を130℃で10時間減圧乾燥を行ったところ、白色パウダー状のエチレン・TD・BNBD共重合体0.18gが得られた。
以上により、環状オレフィン系共重合体(P-1)を得た。得られた共重合体(P-1)中の各構成単位の含有量(mol%)は後述の方法で測定した。
【0085】
[製造例2:環状オレフィン系共重合体(P-2)]
化合物1を使用せず、金属化合物1を以下の金属化合物2に変更し、原料の使用量を調整した以外は製造例1と同様にして環状オレフィン系共重合体(P-2)を得た。得られた共重合体(P-2)中の各構成単位の含有量(mol%)は後述の方法で測定した。
金属化合物2:ビス-[N-(3-フェニルサリチリデン)-4-t-ブチルアニリネート]チタニウムジクロリド
【0086】
[製造例3:環状オレフィン系重合体(P-3)]
内部を窒素置換した重合反応器に、単量体混合物(TD40.0mol%、ジシクロペンタジエン40.0mol%、インデンノルボルネン20.0mol%)7質量部、脱水シクロヘキサン1600質量部、1‐ヘキセン0.6質量部、ジイソプロピルエーテル1.3質量部、イソブチルアルコール0.33質量部、トリイソブチルアルミニウム0.84質量部、六塩化タングステンのシクロヘキサン溶液(濃度:0.66%)30質量部を入れ、全量を55℃で10分撹拌した。
次いで、撹拌を継続しながら、55℃で上記単量体混合物693質量部と六塩化タングステンのシクロヘキサン溶液(濃度:0.77%)72質量部を、各々150分かけて連続的に滴下した。
滴下終了後、さらに30分間撹拌を継続した後、イソプロピルアルコール1.0質量部を添加して重合反応を停止させ、TD、ジシクロペンタジエンおよびインデンノルボルネンの共重合体を含む重合溶液を得た。
次いで、上記重合体を含有する重合反応溶液300質量部を、撹拌器付きオートクレーブに移し、シクロヘキサン100質量部、珪藻土担持ニッケル触媒(ニッケル担持率58%)2.0質量部を加えた。オートクレーブ内を水素で置換した後、180℃、4.5MPaの水素圧力下で6時間、水素化反応を行った。
水素化反応終了後、珪藻土を濾過床として、加圧濾過器を使用し、圧力0.25MPaで加圧濾過して、無色透明な溶液を得た。得られた溶液に対して3倍のアセトンを入れたビーカーに溶液を撹拌下加えて開環重合体を析出させ、製造例1に記載の方法と同様にして環状オレフィン系重合体(P-3)を得た。得られた環状オレフィン系重合体(P-3)中の各構成単位の含有量(mol%)は後述の方法で測定した。
【0087】
[ペレット化]
2軸押出機を用いて、上記の方法により得られた環状オレフィン系(共)重合体を280℃で混錬して押し出し、樹脂ペレットを得た。
【0088】
[各構成単位の含有量]
各構成単位の含有量は、日本電子社製「ECA500型」核磁気共鳴装置を用い、上記の方法により得られた環状オレフィン系(共)重合体を下記条件で測定することにより行った。
溶媒:重テトラクロロエタン
サンプル濃度:50~100g/l-solvent
パルス繰り返し時間:5.5秒
積算回数:6000~16000回
測定温度:120℃
上記の条件で測定した13C-NMRスペクトルにより、各構成単位の組成をそれぞれ定量した。結果を表1に示す。
【0089】
[ガラス転移温度Tg(℃)]
島津サイエンス社製、DSC-6220を用いてN2(窒素)雰囲気下で環状オレフィン系(共)重合体のガラス転移温度Tgを測定した。環状オレフィン系(共)重合体を常温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で-20℃まで降温した後に5分間保持した。そして10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際の吸熱曲線から環状オレフィン系(共)重合体のガラス転移点(Tg)を求めた。結果を表1に示す。
【0090】
[極限粘度[η](dl/g)]
移動粘度計(離合社製、タイプVNR053U型)を用い、環状オレフィン系(共)重合体の0.25~0.30gを25mlのデカリンに溶解させたものを試料とした。ASTM J1601に準じ135℃にて環状オレフィン系(共)重合体の比粘度を測定し、これと濃度との比を濃度0に外挿して環状オレフィン系(共)重合体の極限粘度[η]を求めた。
【0091】
【0092】
<医療用容器>
[医療用容器の製造]
(実施例1~6および比較例1~6)
上記で得られた樹脂ペレットを、ニイガタマシンテクノ社製「MD‐30SIV、スクリュー径14mm」を用いて射出成形し、厚み1mmのISO11040に準拠したシリンジ様容器を得た。
【0093】
[ガンマ線照射]
得られた容器にガンマ線を50kGy照射した。
【0094】
[ガンマ線照射12日後の有機ラジカル量]
ガンマ線照射12日後の試料の有機ラジカル量は、電子スピン共鳴法(Electron Spin Rssonance(ESR))により測定した。
具体的には、医療用容器に50kGyの線量のガンマ線を照射したのち、25℃にて12日間静置してから試験片を容器から切り出し、それを試験管(詳細は以下)に入れて、以下条件でESRスペクトルを測定した。
【0095】
・装置:日本電子製電子スピン共鳴装置 JES-TE200
・共振周波数:9.2GHz
・マイクロ波入力:0.1~2.0mW
・掃引範囲:30mT
・変調振幅:1mT
・標準試料:TEMPOL Free Rasical(東京化成工業製)
・測定温度:室温
・測定雰囲気:大気
【0096】
上記条件下でESRスペクトルを測定し、既知濃度の標準試料(TEMPOL Free Rasical)のESRスペクトルから作成した検量線を用いて、試験片1mgあたりの有機ラジカル量(spins/mg)を求めた。結果を表2~4に示す。
【0097】
<容器入りタンパク質製剤>
[タンパク質製剤の調整]
まず、以下に記載のタンパク質製剤(アダリムマブ溶液、リツキシマブ溶液およびヒト血清アルブミン溶液)を調製した。
【0098】
[アダリムマブ溶液]
ヒュミラ皮下注80mgシリンジ0.8mg(エーザイ株式会社製)から陽イオン交換カラムを用いた精製によりポリソルベート80を除去した後、1mg/mLアダリムマブ溶液(20mMリン酸、150mM塩化ナトリウム、pH7.0)を調製した。調製したアダリムマブ溶液は、無菌環境下で0.22μmフィルターによる滅菌処理を行った。
【0099】
[リツキシマブ溶液]
リツキサン点滴静注(全薬工業社製)から陽イオン交換カラムを用いた精製によりポリソルベート80を除去した後1mg/mLリツキシマブ溶液(20mMリン酸、150mM塩化ナトリウム、pH7.0および5.0)を調整した。調整したリツキシマブ溶液は、無菌環境下で0.22μmフィルターによる滅菌処理を行った。
【0100】
[ヒト血清アルブミン溶液]
アルブミン ヒト血清由来(Sigma-Aldrich社製)を溶媒(20mMリン酸、150mM塩化ナトリウム)に溶解し、2mg/mLのヒト血清アルブミン溶液を調整した。調整したヒト血清アルブミン溶液は22μmフィルターによる滅菌処理を行った。
【0101】
[実施例1]
環状オレフィン系共重合体(P-1)を原料として上記の条件で容器を製造し、さらに上記の条件でガンマ線照射をおこない23℃で12日間静置した。このようにしてシリンジ様容器を9本用意し、それぞれにタンパク質溶液としてアダリムマブ溶液(0.5mL)を充填した。容器開口部をゴム栓で蓋をし、さらにパラフィルムを巻いて密封した。充填した検体は25±2℃、暗所にて3本は4週間、他3本は12週間、残りの3本は24週間保管した。
次いで、保管後の容器から溶液を回収し、溶液中のアダリムマブ中のメチオニン残基(Met256)の酸化率を下記の方法で測定し、3個の試料の平均値をメチオニン残基の酸化率とした。結果を表2に示す。
【0102】
(メチオニン残基の酸化率)
上記方法で調製、滅菌したアダリムマブ溶液(1mg/mL抗体溶液)30μLに、12.5μLのMiLLi-Q水、2.5μLの重炭酸アンモニウム(1M)、2.5μLの2質量%RapiGest SF(Waters)、および2.5μLのTCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)(100mM)を加えて、60℃で30分間インキュベートした後、25℃に降温した。降温後、1.5μLのヨードアセトアミド(500mM)をさらに加えて、25℃暗所で30分間インキュベートした。インキュベート後、1.5μLのTrpsin/Lys-C(1mg/mL)をさらに加えて37℃で12時間インキュベートした。インキュベート後、トリフルオロ酢酸(TFA)を最終濃度1体積%となるようにさらに加えた。このようにしてアダリムマブを変性、還元し、さらにアダリムマブの重鎖内メチオニン(Met256)のうち未酸化のものだけをアルキル化した。
次いで、Trypsin/Lys-Cを用いて消化し、溶液中のアダリムマブをフラグメント化した。
次いで、溶液を遠心分離し、遠心分離後の上清をLC-MS/MS(HPLC)で分析した。すなわち、Met256を含むフラグメントのうち、アルキル化されていないものを「酸化フラグメント」、アルキル化されたものを「未酸化フラグメント」とし、それぞれのフラグメントに対応するピークの面積から、以下の式で酸化率を算出した。
酸化率[%]={(酸化フラグメントのピーク面積)/(酸化フラグメントのピーク面積)+(未酸化フラグメントのピーク面積)}×100
【0103】
[LC-MS/MS(HPLC)条件]
・移動相A:0.1vol%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液
・移動相B:0.1vol%TFA含有アセトニトリル
・カラム:ACQUITY UPLC Protein BEH C4 Column,300Å,1.7μm,1mm×100mm,186005590,Waters製
・カラム温度:80℃
・注入量:100μL
・測定波長:210nm
【0104】
[比較例1]
環状オレフィン系共重合体(P-1)を環状オレフィン系重合体(P-3)に変更した以外は実施例1と同様にして酸化率を算出した。結果を表2に示す。
【0105】
【0106】
酸化抑制の効果は下記の式により算出した。当該パーセンテージの値が小さいほど、メチオニン残基の酸化抑制効果が比較例よりも優れていることを示す。
酸化抑制の効果(%)
=実施例のメチオニン残基の酸化率の変化量×100/(比較例のメチオニン残基の酸化率の変化量)
【0107】
実施例1と比較例1を比較すると、ガンマ線滅菌後のラジカル量を低減した環状オレフィン系共重合体(P-1)製の容器に保存したタンパク質製剤は、4週、12週間保管後のメチオニン残基の酸化率が抑制された。
【0108】
[実施例2]
環状オレフィン系共重合体(P-1)を環状オレフィン系共重合体(P-2)に変更したこと、タンパク質溶液をリツキシマブ溶液(pH7.0)に変更したこと、および保管期間を3週間と6週間に変更したこと以外は実施例1と同様にしてメチオニン残基の酸化率を算出した。結果を表3に示す。
【0109】
[比較例2]
環状オレフィン系共重合体(P-2)を環状オレフィン系重合体(P-3)に変更した以外は実施例2と同様にして酸化率を算出した。結果を表3に示す。
【0110】
【0111】
実施例2と比較例2を比較すると、ガンマ線滅菌後のラジカル量を低減した環状オレフィン系共重合体(P-2)製の容器に保存したタンパク質製剤は、3週、6週間保管後のメチオニン残基の酸化率が抑制された。
【0112】
[実施例3]
タンパク質溶液をヒト血清アルブミン溶液に変更したこと、タンパク質製剤の変性、還元、アルキル化方法を以下の通り変更したこと、および分析対象のメチオニン残基をMet329としたこと以外は実施例2と同様にしてメチオニン残基の酸化率を算出した。結果を表4に示す。
(アルブミンの変性、還元、アルキル化)
ヒト血清アルブミン溶液(2mg/mL)37.2μLに、65.6μLのグアニジン塩酸塩(8M)、および13.0μLのDTT((±)ジチオトレイトール)(250mM)を加えて、25℃で30分インキュベートした。インキュベート後、8.1μLのヨードアセトアミド(100mM)をさらに加えて、25℃暗所にて15分インキュベートした。インキュベート後、4.8μLのDTT(100mM)を加えた後、スピン脱塩カラム(Thermo Scientific製ZebaSpin、カタログ番号89883)を用いてTris-HCl(100mM、pH8.0)に溶媒置換した。溶媒置換した溶液110μLのうち45μLに1.5μLのTrpsin/Lys-C(1mg/mL)を加えて37℃、2時間インキュベートした後、TFAを最終濃度1体積%となるように添加した。このようにしてアルブミンを変性、還元し、さらにアルブミン内のメチオニン(Met329)のうち未酸化のものだけをアルキル化した。
アルブミンのフラグメント化方法および酸化率の算出方法は、アダリムマブ溶液の場合と同様である。
【0113】
[比較例3]
環状オレフィン系共重合体(P-2)を環状オレフィン系重合体(P-3)に変更した以外は実施例3と同様にして酸化率を算出した。
【0114】
【0115】
実施例3と比較例3を比較すると、ガンマ線滅菌後のラジカル量を低減した環状オレフィン系共重合体(P-2)製の容器に保存したタンパク質製剤は、3週、6週間保管後のメチオニン残基の酸化率が抑制された。
【0116】
[実施例4]
充填後保管温度を5±2℃に変更したこと、保管期間を24週のみにしたこと以外は実施例1と同様にしてメチオニン残基の酸化率を算出した。結果を表5に示す。
【0117】
[比較例4]
環状オレフィン系共重合体(P-1)を環状オレフィン系共重合体(P-3)に変更したこと以外は実施例4と同様にしてメチオニン残基の酸化率を算出した。結果を表5に示す。
【0118】
【0119】
実施例4と比較例4を比較すると、ガンマ線滅菌後のラジカル量を低減した環状オレフィン系共重合体(P-1)製の容器に保存したタンパク質製剤は、24週間保管後のメチオニン残基の酸化率が抑制された。
【0120】
[実施例5]
充填後保管温度を40±2℃に変更したこと、保管期間を4週のみにしたこと以外は実施例1と同様にしてメチオニン残基の酸化率を算出した。結果を表6に示す。
【0121】
[比較例5]
環状オレフィン系共重合体(P-1)を環状オレフィン系共重合体(P-3)に変更したこと以外は実施例5と同様にしてメチオニン残基の酸化率を算出した。結果を表6に示す。
【0122】
【0123】
実施例5と比較例5を比較すると、ガンマ線滅菌後のラジカル量を低減した環状オレフィン系共重合体(P-1)製および(P-2)製の容器に保存したタンパク質製剤は、4週間保管後のメチオニン残基の酸化率が抑制された。
【0124】
[実施例6]
タンパク質溶液のpHを5.0に変更したこと以外は実施例2と同様にしてメチオニン残基の酸化率を算出した。結果を表7に示す。
【0125】
[比較例6]
環状オレフィン系共重合体(P-2)を環状オレフィン系重合体(P-3)に変更した以外は実施例6と同様にして酸化率を算出した。結果を表7に示す。
【0126】
【0127】
実施例6と比較例6を比較すると、ガンマ線滅菌後のラジカル量を低減した環状オレフィン系共重合体(P-2)製の容器に保存したタンパク質製剤は、3週、6週間保管後のメチオニン残基の酸化率が抑制された。
【0128】
上記の通り、本実施例の容器入り製剤によると、製剤の酸化を抑制することができた。このことから、本実施形態に係る容器入り製剤によると、製剤の酸化を抑制できることがわかる。
【0129】
なお、本実施例では酸化を評価対象としたが、本実施形態に係る容器入り製剤では、放射線滅菌後のラジカル量が抑制されているため、酸化以外の変性、例えば、高分子量化やアニオン化も抑制されていることが予想される。このことから、本実施形態に係る容器入り製剤によると、製剤の変性を抑制できると考えられる。
【0130】
本実施形態に係る容器入り製剤によると、製剤の変性を抑制できると考えられるため、本実施形態に係る容器入り製剤は、製剤の長期保存に適していると考えられる。