(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144087
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】歯科用研磨器具
(51)【国際特許分類】
A61C 3/06 20060101AFI20241003BHJP
A61C 17/18 20060101ALI20241003BHJP
A61C 17/24 20060101ALI20241003BHJP
A61C 17/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61C3/06
A61C17/18
A61C17/24
A61C17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214952
(22)【出願日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2023052704
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】武久 純也
(72)【発明者】
【氏名】鳥田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】弓山 直輝
(72)【発明者】
【氏名】石田 さやか
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA10
4C052AA15
4C052BB01
4C052DD01
4C052DD06
(57)【要約】
【課題】歯科用修復物または歯面に対する研磨において、歯科用研磨器具と別に歯科用研磨ペースト等の研磨材を併用する必要が無く、効果的かつ持続的な研磨が可能な歯科用研磨器具を提供する。
【解決手段】歯科用研磨器具は、多孔質基材(A)と、多孔質基材に保持されている、砥粒(B)と水溶性結合材(C)とを含む研磨組成物と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材(A)と、
前記多孔質基材に保持されている、砥粒(B)と水溶性結合材(C)とを含む研磨組成物と、
を備える、歯科用研磨器具。
【請求項2】
前記研磨組成物は、水又はアルコールを含む液体との接触により前記多孔質基材から前記砥粒が放出される、請求項1に記載の歯科用研磨器具。
【請求項3】
前記水溶性結合材(C)は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸塩、ポリエチレングリコール、アルギン酸塩、プルラン、カラギーナン、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の歯科用研磨器具。
【請求項4】
前記多孔質基材(A)単体の乾燥時の重量を1とした場合に、前記研磨組成物は、重量比0.4以上である、請求項1に記載の歯科用研磨器具。
【請求項5】
JIS K6400―2硬さA法に準じた、前記多孔質基材(A)単体に圧縮荷重をかけた際の硬さ40%が、3~18Nの範囲である、請求項1に記載の歯科用研磨器具。
【請求項6】
前記多孔質基材は、砲弾形状、紡錘形状、円柱形状、円錐形状、放物回転体形状、カップ形状のいずれかの形状を有する、請求項1に記載の歯科用研磨器具。
【請求項7】
請求項1に記載の歯科用研磨器具を歯科用修復物または歯面に接触させる工程と、
前記歯科用研磨材に水又はアルコールを含む液体を供給しながら前記歯科用修復材を研磨する工程と、
を含む、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンポジットレジン、セラミックスおよび金属等の歯科修復物の研磨や、歯面付着物の清掃除去を行うための歯科用研磨器具に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、一般に歯にう蝕などの疾患がある場合は、う蝕部位の歯質を取り除き、コンポジットレジン、セラミックスおよび金属など、様々な材料で製作された歯科修復物を用いて修復治療が行われている。
【0003】
これらの歯科修復物は、表面性状が粗い場合、もしくは表面に傷がある場合は、着色や歯垢付着の原因となる可能性がある。よって、歯科修復物を充填又は装着する際には、形態修正および咬合調整後に表面を滑沢にするために研磨を行う必要がある。歯科修復物の表面が滑沢でない場合、天然歯と同様な自然感が得られず、また、高い審美性を得ることができない。更に、歯科修復物の表面状態に違和感があると患者の舌感が悪く、不快に感じられ、口腔粘膜や舌の正常な運動が妨げられることもある。以上のことから、歯科修復物を滑沢に研磨することは非常に重要であり、この目標を達成する為に、様々な歯科用研磨器具が用いられている。
【0004】
最終的に滑沢な面に仕上げる工程においては、細かい砥粒が配合された歯科用研磨ペースト等の研磨材を用いて仕上げ研磨することが有効とされている。主な使用方法は、歯科用フェルトや歯科用ブラシ等の器具に、これらの研磨材を適量塗布し、回転させながら被研磨体に接触させて研磨を行う、遊離砥粒研磨が一般的である。
【0005】
また歯科医院では、着色や歯垢、歯石などの歯面の付着物を除去することを目的とした、Professional Mechanical Tooth Cleaning(PMTC)と呼ばれる、歯科医師、歯科衛生士等の専門家(術者)による歯面清掃が行われる。歯面の付着物除去は、う蝕や歯周病の予防に有効であり、口腔内の健康維持において大きく寄与する。また歯面の付着物を除去することは、歯面を本来の美しい状態に回復させることが可能となり、審美的な目的においても重要である。
【0006】
歯面の付着物除去を目的とした歯面清掃においても、専用の歯科用研磨ペースト等の研磨材を、歯科用ブラシや歯科用プロフィーチップなどの回転式の器具に塗布し、遊離砥粒研磨が行われている。
【0007】
しかしながら、これらの遊離砥粒研磨においては、歯科用フェルト等の器具に対して、併用する歯科用研磨ペースト等の研磨材の塗布作業が必要となる。また、これらの器具表面に塗布された研磨材は、回転時の遠心力により、一部が口腔内で飛散してしまうことがあり、研磨に必要な量が不足し、再度研磨材を塗布しなければならない場合がある。以上のことから、術者による作業が煩雑であり、研磨作業に要する時間が増加することから、術者の負担が大きいものとなっていた。したがって、研磨作業時間の短縮化のために、別途研磨材を併用しなくても、効果的かつ持続的な研磨が可能となる歯科用研磨器具が求められている。
【0008】
特許文献1には、砥粒やその他各種成分が内部に含まれる親水性スポンジを用いることで、別途研磨材を併用する必要がない、歯科清掃研磨用のプロフィーチップの技術について開示されている。特許文献1では、親水性スポンジを水で濡らした状態で研磨することで、回転摩擦及び圧接により、スポンジ内部に含まれる砥粒などの成分が水に溶解して放出され、遊離砥粒研磨が可能となる。
【0009】
しかし、特許文献1の機構では、研磨を行う際に、親水性スポンジの含水によって放出された砥粒を保持するのみであり、砥粒そのものを内部からじわじわと徐放しているわけではなく、研磨効果を十分に持続させることが出来ない。また多孔質基材であるスポンジの硬さについて、特に最適化されていないことから、臼歯の咬合面のような形状に対して、適度に変形しながら効果的に研磨可能かは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、歯科用修復物または歯面に対する研磨において、歯科用研磨器具と別に歯科用研磨ペースト等の研磨材を併用する必要が無く、効果的かつ持続的な研磨が可能な歯科用研磨器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を克服するために鋭意検討を重ねた結果、本発明に至ることができた。即ち、本発明に係る歯科用研磨器具は、多孔質基材(A)と、多孔質基材に保持されている、砥粒(B)と水溶性結合材(C)とを含む研磨組成物と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る歯科用研磨器具によって、別途歯科用研磨ペースト等の研磨材の塗布作業を行うことなく、効果的かつ持続的な研磨ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)は、実施の形態1に係る歯科用研磨器具の形状を示す概略図であり、(b)は、(a)の部分の断面構造を示す拡大断面図である。
【
図2】JIS K6400―2硬さA法に準じた、多孔質基材の硬さ40%の測定方法を示す概略斜視図である。
【
図3】(a)は、実施の形態2に係る軸を含む歯科用研磨器具の概略斜視図であり、(b)は、実施の形態2の変形例に係る歯科用研磨器具の軸を分離した状態を示す歯科用研磨器具の概略斜視図である。
【
図4】(a)は、
図3(a)の歯科用研磨器具の概略正面図であり、(b)は、
図3(b)の歯科用研磨器具の概略正面図である。
【
図5】研磨性の評価に用いた試験片の形状を示す概略斜視図である。
【
図6A】砲弾形状の多孔質基材を示す概略正面図である。
【
図6B】紡錘形状の多孔質基材を示す概略正面図である。
【
図6C】カップ形状の多孔質基材を示す概略正面図である。
【
図7】実施例および比較例で使用した水溶性結合材(C)の溶液に用いた水溶性結合材の種類、濃度、及び、溶媒を示す表1である。
【
図8】研磨組成物スラリーの組成および配合比、多孔質基材(A)の材料を示す表2である。
【
図9】実施例1~11および比較例1において、使用した多孔質基材(A)の硬さ40%、砥粒(B)、水溶性結合材(C)とその溶液を示す表3である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下に例示されるものに関して特に限定されるものではない。
【0016】
第1の態様に係る歯科用研磨器具は、多孔質基材(A)と、多孔質基材に保持されている、砥粒(B)と水溶性結合材(C)とを含む研磨組成物と、を備える。
【0017】
第2の態様に係る歯科用研磨器具は、上記第1の態様において、水又はアルコールを含む液体との接触により多孔質基材から砥粒が放出されてもよい。
【0018】
第3の態様に係る歯科用研磨器具は、上記第1又は第2の態様において、水溶性結合材(C)は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸塩、ポリエチレングリコール、アルギン酸塩、プルラン、カラギーナン、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【0019】
第4の態様に係る歯科用研磨器具は、上記第1から第3のいずれかの態様において、多孔質基材(A)単体の乾燥時の重量を1とした場合に、研磨組成物は、重量比0.4以上であってもよい。
【0020】
第5の態様に係る歯科用研磨器具は、上記第1から第4のいずれかの態様において、JIS K6400―2硬さA法に準じた、多孔質基材(A)単体に圧縮荷重をかけた際の硬さ40%が、3~18Nの範囲であってもよい。
【0021】
第6の態様に係る歯科用研磨器具は、上記第1から第5のいずれかの態様において、多孔質基材は、砲弾形状、紡錘形状、円柱形状、円錐形状、放物回転体形状、カップ形状のいずれかの形状を有してもよい。
【0022】
第7の態様に係る研磨方法は、水分を含む環境下において、上記第1の態様に係る歯科用研磨器具を歯科用修復物または歯面に接触させる工程と、歯科用研磨材に水又はアルコールを含む液体を供給しながら歯科用修復材を研磨する工程と、を含む。
【0023】
以下、実施の形態に係る歯科用研磨器具について、添付図面を参照しながら説明する。なお、図面において、実質的に同一の部材には同一の符号を付している。
【0024】
(実施の形態1)
図1(a)は、実施の形態1に係る歯科用研磨器具1の形状を示す概略図であり、(b)は、(a)の歯科用研磨器具1の部分の断面構造を示す拡大断面図である。
実施の形態1に係る歯科用研磨器具1は、多孔質基材2(A)と、多孔質基材2に保持されている、砥粒3(B)と水溶性結合材4(C)とを含む研磨組成物と、を備える。
この歯科用研磨器具1によれば、水又はアルコールを含む液体との接触により、水溶性結合材4が該液体に溶解し、多孔質基材2から砥粒3が徐々に放出され、継続して研磨を行うことができる。
【0025】
以下に、この歯科用研磨器具を構成する構成部材について説明する。
【0026】
<多孔質基材>
多孔質基材(A)の材料は、任意であるが、例えばナイロン、ポリエチレンテレフタラート、ポリウレタン、アラミド、羊毛や不織布などの繊維から形成されたものを使用することが好ましい。またそのほかの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリメチルメタクリレートなどのプラスチックからなる多孔質体などが挙げられる。
【0027】
図2は、JIS K6400―2硬さA法に準じた、多孔質基材の硬さ40%の測定方法を示す概略斜視図である。
臼歯咬合面のような複雑形状に対して、効果的な研磨をするためには、適度な柔軟性が必要であり、多孔質基材(A)単体に圧縮荷重をかけた際の硬さ40%は、3~18Nの範囲が好ましく、特に好ましくは3~12Nの範囲である。硬さ40%とは、Φ5~6×高さ6~7mmの円柱状の試験片5に、
図2に示す通りに、ロードセル16等によって、100mm/minの印加速度で圧縮荷重をかけ、直径の40%まで圧縮し、その状態で30秒静置した後の荷重値である。この硬さ40%の荷重値を硬さの指標とした。なお、本試験の印加速度や圧縮量、圧縮後の静置時間は、JIS K6400―2硬さA法に記載の条件を使用した。硬さ40%が3N未満の場合は、柔らかすぎて研磨時の回転に耐えられない。また硬さ40%が18Nを超える場合は、硬すぎて研磨時に臼歯咬合面のような複雑な形状に沿って、適度に変形することができず、一度にわずかな面積しか研磨できず、研磨効率が低下する。
【0028】
多孔質基材(A)の形状は、特に指定されないが、前歯部や隣接面ではディスク形状およびカップ形状などが好ましく使用でき、臼歯咬合面のような複雑形状の研磨を行う用途では、一般的に砲弾形状(
図6A)、円錐形状、円柱形状、紡錘形状(
図6B)およびカップ形状(
図6C)などの形状を使用できる。また、歯科用研磨器具は、一般的に回転させて使用する場合が多いので、歯科用研磨器具の外形を構成する多孔質基材は、回転軸6について回転対称であってもよい。さらに、多孔質基材は、回転軸6についての最大径は、例えば、2~10mm、回転軸6の方向に沿った長さである高さは、例えば、5~30mmの範囲から選択されることが好ましい。また、多孔質基材(A)の表面形状は、特に限定されるものではなく、研磨組成物の保持性の向上等を目的にスリットやディンプル、突起等の立体的な形状が付与されていてもよい。
【0029】
<研磨組成物>
研磨組成物は、
図1(b)に示すように、砥粒3と水溶性結合材4とを含む。多孔質基材2(A)への研磨組成物の保持方法は任意である。
図1(b)では、多孔質基材2の孔内部の表面に研磨組成物が保持されている状態を例示しているが、これに限られない。多孔質基材2の表面、孔の内部の表面および多孔質基材自体の内部に研磨組成物が均一に保持されていてもよい。例えば、水又はアルコールを含む溶媒中に砥粒3と水溶性結合材4とを含む研磨組成物が溶解および分散された研磨組成物のスラリーに、多孔質基材2(A)を浸すことで、多孔質基材2の表面、孔内部、又は、多孔質基材自体の内部に研磨組成物を含浸させる。その後、溶媒を揮発除去することで、研磨組成物を多孔質基材に保持させてもよい。またその他の方法としては、研磨組成物のスラリーを、多孔質基材(A)の孔内部又は多孔質基材自体の内部にシリンジ等を用いて直接注入したり、スプレーコートにより表面から孔内部または多孔質基材自体の内部に浸透させたりした後、同様に溶媒を揮発除去するといった方法などが挙げられる。
【0030】
<砥粒(B)>
砥粒(B)の種類は、被研磨体の材質特性や、仕上げ研磨や付着物除去などの目的によって選択され、特に限定はされないが、歯科修復物の仕上げ研磨においては、例えば、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、ダイヤモンド、窒化ホウ素、酸化セリウムの群の中から一つ以上選ぶことが好ましい。歯面清掃においては、例えば、無水ケイ酸、沈降性シリカ、シリカゲル、アルミノシリケート、ジルコノシリケート等のシリカ系砥粒や、第2リン酸カルシウム・2水和物または無水和物、第1リン酸カルシウム、第3リン酸カルシウム、第4リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸カルシウム等のリン酸カルシウム系化合物、炭酸カルシウム、珪藻土、水酸化アルミニウム、酸化チタンの群の中から一つ以上選ぶことが好ましい。
【0031】
砥粒(B)の粒子径は、歯科修復物の最終研磨工程である仕上げ研磨や、歯面の付着物除去による清掃などを目的とする場合、平均粒子径30μm以下が好ましく、特に好ましい平均粒子径は15μm以下である。平均粒子径が30μmを超える場合は、粒子径が大きすぎて新たな傷をつけてしまうため、滑沢な表面が得られないというデメリットがある。ここで、平均粒子径とはメジアン径(d50)を指し、一般的な粒度分布測定装置などにより求めることが出来る。粒度分布測定装置は、様々な測定原理のものがあるが、例えば電気抵抗法による粒度分布測定装置が挙げられる。なお、砥粒(B)の粒子形状は、特に限定されない。
【0032】
砥粒は、例えば、水溶性結合材に付着していてもよい。あるいは、マトリクスである水溶性結合材中に砥粒が分散していてもよい。さらに、砥粒は、水溶性結合材の外面から内側に向かって深さ方向に均一に分散していてもよい。これによって、水溶性結合材が水又はアルコールを含む液体に溶解する際に、砥粒が継続して徐々に放出される効果を奏することができる。
【0033】
<水溶性結合材>
水溶性結合材(C)は、多孔質基材(A)の内部に砥粒(B)を保持あるいは固定することと、水又はアルコールを含む液体と接触した際に溶解することによって、多孔質基材(A)の外部に、砥粒(B)とともに徐々に放出されることとの、2つの役割がある。これら両方を満たすためには、水溶性結合材は、40℃以下で固体であり、かつ水溶性を示すことが好ましい。水溶性結合材(C)が、40℃以下で半固形もしくは液状である場合、多孔質基材(A)の内部に砥粒(B)を保持あるいは固定する力が不足し、研磨組成物が脱離しやすく、べたつき等が生じることで保管性が悪くなる。また水溶性結合材(C)が水溶性でない場合、研磨時の注水や唾液によって溶解せず、多孔質基材(A)の外部に砥粒(B)を徐放することができなくなる。
【0034】
水溶性結合材(C)は、前記条件を満たしていれば特に指定されないが、特にポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸塩、ポリエチレングリコール、アルギン酸塩、プルラン、カラギーナン、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースなどが好ましい。
【0035】
水溶性結合材(C)は、40℃以下において固体であることが好ましいが、砥粒(B)とともに多孔質基材(A)に含浸する際には、溶液として扱うことが好ましい。その際に使用する溶媒としては、水溶性結合材(C)が溶解できるものであれば特に指定されない。例えば、水又はアルコールを含む液体、具体的には、水、またはエタノール、1ープロパノール、2ープロパノール、1-ブタノール、1-メトキシー2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールなどの一般的なアルコール系溶媒の群から選ばれる少なくとも一つを含んでいればよい。
【0036】
水溶性結合材(C)の溶液中の濃度は、特に指定されないが、例えば、1~20wt%が好ましい。水溶性結合材(C)の溶液中の濃度が1wt%未満の場合、砥粒(B)を混合したスラリーの粘度が低く、砥粒(B)の沈降が生じて、砥粒(B)の安定した含浸ができにくくなる。また、濃度が20wt%を超える場合、スラリーの粘度が高くなり、多孔質基材(A)の内部に、砥粒(B)と水溶性結合材(C)とが含浸できにくくなり、研磨に寄与するための研磨組成物の含浸量が不足する。
【0037】
<その他>
多孔質基材(A)に含浸させる研磨組成物として、水溶性結合材(C)と砥粒(B)とに加えて、その他の公知成分を本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて配合できる。例えば、粘調剤、界面活性剤、分散剤、着色剤、甘味料、防腐剤、香料、薬効成分などを配合できる。なお、配合方法は特に限定されないが、水溶性結合材(C)の溶液に併せて溶解させておくか、砥粒(B)を加える際に併せて配合することが好ましい。
【0038】
<歯科用研磨器具の製造方法>
本発明において、多孔質基材(A)の内部に、水溶性結合材(C)と砥粒(B)からなる研磨組成物が、含浸固定されている構成の歯科用研磨器具が得られれば、特に作製方法は限定されないが、例えば、以下のようにして製造できる。
(1)水溶性結合材(C)の溶液に砥粒(B)を均一に混合して研磨組成物のスラリーを得る。
(2)次に、研磨組成物のスラリーに多孔質基材(A)を浸すことで、多孔質基材の中に研磨組成物のスラリーを含浸させる。
(3)次いで、熱風乾燥機で溶媒を揮発除去して、多孔質基材の中に、砥粒と水溶性結合材とを含む研磨組成物を保持した歯科用研磨器具を得る。
【0039】
多孔質基材(A)の内部の、水溶性結合材(C)と砥粒(B)とを含む研磨組成物の含有量は、乾燥時の多孔質基材(A)単体の重量を1とした場合に、重量比0.4以上であることが好ましく、特に好ましくは重量比1.1以上である。
【0040】
乾燥時の多孔質基材(A)単体の重量を1とした場合の、含有される研磨組成物の重量比は、次式によって算出される。
含有される研磨組成物の重量比=(歯科用研磨器具の重量-多孔質基材(A)単体の重量)/多孔質基材(A)単体の重量
【0041】
(実施の形態2)
図3(a)は、実施の形態2に係る軸7を含む歯科用研磨器具1aの概略斜視図であり、(b)は、実施の形態2の変形例に係る歯科用研磨器具1bの軸9を分離した状態を示す歯科用研磨器具の概略斜視図である。
図4(a)は、
図3(a)の歯科用研磨器具1aの概略正面図であり、(b)は、
図3(b)の歯科用研磨器具1bの概略正面図である。
実施の形態2に係る歯科用研磨器具1aは、多孔質基材と歯科用ハンドピース(図示せず)に取り付けるための軸7とが一体となったものである。また、変形例に係る歯科用研磨器具1bは、軸9の着脱が可能な、軸着脱部8を有する。実施の形態2に係る歯科用研磨器具1aへの軸7の固定方法は特に指定されないが、例えば、予め多孔質基材(A)の底面に軸7を挿入し、圧着もしくは接着材等で固定しておく方法が挙げられる。また、変形例に係る歯科用研磨器具1bにおいて、軸9を着脱可能な様式とする場合は、多孔質基材(A)の内部に、挿入する軸9と相似形の空孔を有する軸着脱部8を形成しておき、使用時に軸9を適宜着脱することができる。
【実施例0042】
以下、本発明の実施の形態の一例について、実施例を用いて説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明を限定するものではない。
【0043】
<歯科用研磨器具の作製>
実施例および比較例に係る歯科用研磨器具について、以下の通りに作製した。
(1-1)まず、水溶性結合材(C)を溶媒に溶解させ、水溶性結合材(C)の溶液を調製した。
(1-2)次に、水溶性結合材(C)の溶液に砥粒(B)を均一に混合し、研磨組成物のスラリーを作製した。
(2)次いで、予め底面に軸を挿入し、固定した多孔質基材(A)を、研磨組成物のスラリーに10秒間浸して多孔質基材の中に研磨組成物のスラリーを含浸させた。
(3)その後、熱風乾燥機によって溶媒が揮発するまで乾燥させ、研磨組成物が内部に含浸固定された歯科用研磨器具を作製した。
【0044】
<実施例および比較例>
実施例1では、砥粒(B)である酸化アルミニウム150重量部と、水溶性結合材(C)であるポリビニルピロリドンの溶液1(濃度10wt%、溶媒:1―メトキシー2-プロパノール)100重量部とを均一に混合して、研磨組成物のスラリーを得た。
次に、得られた研磨組成物のスラリーを、硬さ40%が12Nであるナイロンで形成された砲弾形状の多孔質基材(A)に含浸させ、130℃で乾燥させることで歯科用研磨器具を得た。なお、その他の実施例および比較例で使用した水溶性結合材(C)の溶液についても同様の方法で作製しており、組成については
図7の表1に示した。また、研磨組成物スラリーの組成および配合比、多孔質基材(A)の材料については
図8の表2に示した。
【0045】
実施例1~11および比較例1において、使用した多孔質基材(A)の硬さ40%、砥粒(B)、水溶性結合材(C)とその溶液を
図9の表3に示した。
【0046】
<研磨持続性の評価>
義歯床用レジン(松風アーバン、株式会社松風)を、通法により硬化させて作製した直径40mm、厚み3mmの円板状の試験片に、イオン交換水を滴下して濡らした後、作製した歯科用研磨器具で研磨試験を行い、研磨面の表面粗さを測定した。なお研磨試験は、研磨時間30秒、回転速度5000回転/分の条件で行った。
前記研磨試験を繰り返し行い、研磨面の表面粗さが0.25μm以下を達成できた研磨試験回数を確認した。達成できた研磨試験回数を、研磨持続性の評価基準とした。
表面粗さが0.25μmを超えた場合は、研磨が出来ていないことを意味している。すなわち研磨組成物の放出が持続できず、放出量が減少することで研磨性が低下し、表面粗さの値が高くなっていく現象が起こる。
【0047】
なお、表面粗さは、JIS B0681―2:2018に記載されている、輪郭曲面の算術平均高さSaに準拠した。研磨持続性を以下に示した4段階の基準により評価し、結果を
図9の表3に示した。得られた研磨持続性について、Aが非常に優れており、Bが十分であり、Cがやや効果は小さいが許容可能であり、Dが許容不可と判断した。
A:10回以上
B:6~9回
C:3~5回
D:2回以下
【0048】
<研磨性の評価>
図5は、下顎第一大臼歯の咬合面を模した、カーブした斜面と、溝部からなる天面を有する形状の試験片を示す概略斜視図である。歯科充填用コンポジットレジン(ビューティフィルフロープラスX、株式会社松風)を通法により硬化させて、上記試験片を作製した。
得られた試験片の天面全体を、耐水研磨紙#1000で前研磨した後に、油性インクで着色した。試験片天面の溝部に対して、イオン交換水を滴下して濡らした後、天面の溝部に歯科用研磨器具を接触させた状態で揺動させながら研磨試験を行った。なお研磨試験は、研磨時間60秒、回転速度5,000回転/分の条件で行った。臼歯咬合面を模した
図5の試験片のカーブした斜面に、歯科用研磨器具が追従して接触し、広範囲を効果的に研磨できているかの指標として、研磨面積を評価した。
【0049】
研磨面積は、歯科用研磨器具の接触により油性インクが除去された面積を、光学顕微鏡で取得した画像データから算出し、以下に示した4段階の基準により評価し、結果を
図9の表3に示した。得られた研磨面積について、Aが非常に優れており、Bが十分であり、Cがやや効果は小さいが許容可能であり、Dが許容不可と判断した。
A:12.0mm
2以上
B:9.0mm
2以上、12.0mm
2未満
C:6.0mm
2以上、9.0mm
2未満
D:6.0mm
2未満
【0050】
<実施例および比較例の評価結果>
実施例1~7、9~11は、いずれも、請求項の範囲を全て満たす実施例であり、研磨持続性および研磨性の評価において、AもしくはBの評価結果が得られた。従ってこれらの実施例は、臼歯咬合面のような複雑形状に対して、特に効果的かつ持続的な研磨が可能であった。多孔質基材(A)の硬さ40%が29Nと硬い実施例8では、研磨性の評価がCであった。水溶性結合材を含まない比較例1は、研磨持続性の評価がDであり、許容不可であった。
本発明に係る歯科用研磨器具は、歯科用修復物又は歯面に対する研磨において、歯科用研磨ペースト等の研磨材を併用する必要が無く、効果的かつ持続的な研磨ができる。