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特開2024-144109不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144109
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/887 20060101AFI20241003BHJP
   B01J 23/888 20060101ALI20241003BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20241003BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20241003BHJP
   C07C 45/35 20060101ALI20241003BHJP
   C07C 47/22 20060101ALI20241003BHJP
   C07C 51/25 20060101ALI20241003BHJP
   C07C 57/045 20060101ALI20241003BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
B01J23/887 Z
B01J23/888 Z
B01J37/04 102
B01J37/08
C07C45/35
C07C47/22 A
C07C51/25
C07C57/045
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024006491
(22)【出願日】2024-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2023050701
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥村 成喜
(72)【発明者】
【氏名】日野 由美
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA15
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BB01C
4G169BC01A
4G169BC02A
4G169BC03A
4G169BC05A
4G169BC06A
4G169BC06B
4G169BC08A
4G169BC09A
4G169BC10A
4G169BC12A
4G169BC13A
4G169BC15A
4G169BC16A
4G169BC17A
4G169BC18A
4G169BC19A
4G169BC20A
4G169BC21A
4G169BC22A
4G169BC23A
4G169BC24A
4G169BC25A
4G169BC25B
4G169BC26A
4G169BC26B
4G169BC27A
4G169BC30A
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC32A
4G169BC34A
4G169BC35A
4G169BC38A
4G169BC42A
4G169BC43A
4G169BC44A
4G169BC49A
4G169BC50A
4G169BC51A
4G169BC53A
4G169BC54A
4G169BC54B
4G169BC55A
4G169BC56A
4G169BC58A
4G169BC59A
4G169BC59B
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169BC61A
4G169BC62A
4G169BC65A
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BC69A
4G169BC72A
4G169BD01C
4G169BD03A
4G169BD05A
4G169BD06C
4G169BD08A
4G169BD09A
4G169BD10A
4G169CB10
4G169CB17
4G169DA05
4G169FB06
4G169FB30
4G169FB57
4G169FB61
4G169FC08
4H006AA02
4H006AC45
4H006AC46
4H006BA02
4H006BA13
4H006BA14
4H006BA19
4H006BA20
4H006BA21
4H006BA30
4H006BB61
4H006BB62
4H006BE30
4H006BS10
4H039CA62
4H039CA65
4H039CC40
(57)【要約】
【課題】
本発明は、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する方法に使用される触媒の製造方法であって、目的化合物の選択率が高く、また収率も高く、安定な触媒の製造方法を提案するものである。
【解決手段】
触媒活性成分の組成が下記一般式(1A)または(1B)で表され、
Moa1Bib1Nic1Cod1Fee1f1g1h1i1・・・(1A)
Mo12CuSb・・・(1B)
モリブデン原料として使用されるヘプタモリブデン酸アンモニウムの保管条件が以下条件1を含む不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
条件1:
遮光性かつ非透湿性の容器にて保管され、全ての保管期間の履歴の中で下記式(2)を満たす条件
exp(保管温度[℃]-50)×保管日数[日]≦5200・・・(2)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒活性成分の組成が下記一般式(1A)または(1B)で表され、
Moa1Bib1Nic1Cod1Fee1f1g1h1i1・・・(1A)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、およびタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、X、およびY以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、およびi1はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a1=12としたとき、0<b1≦7、0≦c1≦10、0<d1≦10、0<c1+d1≦20、0<e1≦5、0≦f1≦2、0≦g1≦3、0≦h1≦5、およびi1=各元素の酸化状態によって決まる値である)、
Mo12CuSb・・・(1B)
(式中、Mo、V、W、Cu、Sb、およびOはそれぞれ、モリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を示し、Xはアルカリ金属、およびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Zはビスマス、テルル、銀、セレン、ケイ素、アルミニウム、ホウ素、ニオブ、セリウム、すず、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、サマリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、チタン、クロム、タンタル、鉛、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、ランタン、および砒素からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をそれぞれ示す。またa、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素の原子比を示し、モリブデン原子12に対して、aは0<a≦10.0、bは0≦b≦10.0、cは0<c≦6.0、dは0≦d≦10.0、eは0≦e≦0.50、fは0≦f≦1.0、gは0≦g<6.0を表す。また、hは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子数である)、
モリブデン原料として使用されるヘプタモリブデン酸アンモニウムの保管条件が以下条件1を含む不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
条件1:
遮光性かつ非透湿性の容器にて保管され、全ての保管期間の履歴の中で下記式(2)を満たす条件
exp(保管温度[℃]-50)×保管日数[日]≦5200・・・(2)
ただし、遮光性容器とは、可視光および/または紫外線の遮光率(JISL 1055に準ずる方法で測定)が95%以上の容器であり、非透湿性容器とは、24時間あたりに容器を透過する水分量(透湿度)が5g/(m・24時間)を下回る容器である。また、保管温度とは、保管されたモリ安自体の温度を、保管期間内で平均したものである。
【請求項2】
触媒活性成分の組成が下記一般式(1A)または(1B)で表され、
Moa1Bib1Nic1Cod1Fee1f1g1h1i1・・・(1A)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、およびタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、X、およびY以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、およびi1はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a1=12としたとき、0<b1≦7、0≦c1≦10、0<d1≦10、0<c1+d1≦20、0<e1≦5、0≦f1≦2、0≦g1≦3、0≦h1≦5、およびi1=各元素の酸化状態によって決まる値である)、
Mo12CuSb・・・(1B)
(式中、Mo、V、W、Cu、Sb、およびOはそれぞれ、モリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を示し、Xはアルカリ金属、およびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Zはビスマス、テルル、銀、セレン、ケイ素、アルミニウム、ホウ素、ニオブ、セリウム、すず、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、サマリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、チタン、クロム、タンタル、鉛、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、ランタン、および砒素からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をそれぞれ示す。またa、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素の原子比を示し、モリブデン原子12に対して、aは0<a≦10.0、bは0≦b≦10.0、cは0<c≦6.0、dは0≦d≦10.0、eは0≦e≦0.50、fは0≦f≦1.0、gは0≦g<6.0を表す。また、hは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子数である)、
モリブデン原料として使用されるヘプタモリブデン酸アンモニウムの保管条件が以下条件2を含む不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
条件2:
期間中の保管温度が45℃以下かつ非透湿性の容器にて保管され、全ての保管期間の履歴の中で下記式(3)を満たす条件
保管期間中の累積の全天日射量[MJ/m]≦345・・・(3)
【請求項3】
触媒活性成分の組成が下記一般式(1A)または(1B)で表され、
Moa1Bib1Nic1Cod1Fee1f1g1h1i1・・・(1A)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、およびタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、X、およびY以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、およびi1はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a1=12としたとき、0<b1≦7、0≦c1≦10、0<d1≦10、0<c1+d1≦20、0<e1≦5、0≦f1≦2、0≦g1≦3、0≦h1≦5、およびi1=各元素の酸化状態によって決まる値である)、
Mo12CuSb・・・(1B)
(式中、Mo、V、W、Cu、Sb、およびOはそれぞれ、モリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を示し、Xはアルカリ金属、およびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Zはビスマス、テルル、銀、セレン、ケイ素、アルミニウム、ホウ素、ニオブ、セリウム、すず、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、サマリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、チタン、クロム、タンタル、鉛、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、ランタン、および砒素からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をそれぞれ示す。またa、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素の原子比を示し、モリブデン原子12に対して、aは0<a≦10.0、bは0≦b≦10.0、cは0<c≦6.0、dは0≦d≦10.0、eは0≦e≦0.50、fは0≦f≦1.0、gは0≦g<6.0を表す。また、hは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子数である)、
モリブデン原料として使用されるヘプタモリブデン酸アンモニウムの保管条件が以下条件3を含む不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
条件3:
遮光性容器にて保管され、すべての保管期間の履歴の中で下記式(4)を満たす条件
保管絶対湿度[g/m]×保管日数[日]≦12.0・・・(4)
【請求項4】
前記条件1乃至3の内、2以上の条件を含む保管条件によって、モリブデン原料として使用されるヘプタモリブデン酸アンモニウムが保管された触媒の製造方法であって、以下式(5)を満たす請求項1乃至3のいずれか1項に記載の不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
exp(保管温度[℃]-50)×保管日数[日]/5200+保管期間中の累積の全天日射量[MJ/m]/345+保管絶対湿度[g/m]×保管日数[日]/12.0 ≦ 1.0
・・・(5)
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の保管条件で保管されたヘプタモリブデン酸アンモニウムと水の混合物を調製し、その他の原料を加え、水溶液または水性スラリーを得る方法を経ることを特徴とする不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の水溶液または水性スラリーに対して、以下工程(a)~(c)を経由することを特徴とする不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
(a)水溶液または水性スラリーを乾燥して乾燥体を得る工程、
(b)工程(a)で得られたスラリー乾燥体を成型して成形物を得る工程、
(c)工程(b)で得られた成型物を制御された酸素濃度雰囲気下で焼成する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高収率に目的物を得られる新規触媒に関するものであり、特に不飽和アルデヒド、又は不飽和カルボン酸を酸化的に製造する際に、高収率を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する方法は工業的に広く実施されており、その収率の向上や触媒活性を改善する手段として多くの報告がなされている(例えば特許文献1等)。
【0003】
例えば、特許文献2では、触媒の特定の性状に着目し、具体的には触媒活性成分のCu-Kα線を用いたX線回折パターンにおいて2θ=26.5±0.1°に現れるCoMoOの回折ピーク(h)の強度Phに対する、2θ=27.76±0.1°に現れるβ-BiMoの回折ピーク(i)の強度Piの比Ri=Pi/Phを0.4以上2.0以下の範囲に制御することにより、高収率および高選択な触媒が得られることが記載されている。また同様に、特許文献3には触媒活性成分のCu-Kα線を用いたX線回折分析によって測定される2θ=5°以上90°以下の範囲の結晶化度Tを4%以上18%以下の範囲に制御することにより、触媒活性、選択率等の触媒性能を向上させることが出来ると記載されている。
【0004】
また、特許文献4では原料として用いるヘプタモリブデン酸アンモニウム(本明細書中モリブデン酸アンモニウム、またはモリ安と省略表記する場合がある)水溶液について、その濁度を特定の範囲とすることで、これを使用して製造される触媒の収率を改善する工夫が開示されている。さらに、特許文献5では原料のモリ安のうち特定の物性を示すものを選択し、使用することで、触媒の収率を改善する方法が開示されている。
【0005】
上記のような手段をもって改良をはかっても、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等の部分酸化反応により対応する不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造において、さらなる収率向上や触媒活性の改善が求められている。例えば、目的生成物の収率は、製造に要するプロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール、およびブテン類等の使用量を左右し製造コストに多大な影響を与える。また、触媒活性は目的生成物を製造する際の反応浴温度を左右し、活性の低い触媒を使用した場合には目的生成物の収量を保つために反応浴温度を上げざるを得ない。すると、触媒が熱的ストレスを受けることとなり、選択率や収率の低下が引き起こされ、触媒寿命の低下を招くことにもなる。
さらに触媒に使用される原料として、上述の特許文献5の通りモリ安の示す物性と、このモリ安を使用して製造される触媒の性能に関しては一定の知見があったものの、この方法は工業触媒の製造方法としてふさわしくない。というのも、特許文献5の製造方法は特定の物性を示さないモリ安を除外して使用しないことを意味し、特定の物性を示さないモリ安の廃棄にかかるコスト、および製造直前にモリ安が特定の物性を示さないと判明した場合に製造スケジュールを変更するコストが発生し、非効率的である。すなわち、従来の公知文献にあるような最適なモリ安の選定ではなく、モリ安の保管条件を明確化し、これを遵守することが潜在的に求められていた。モリ安の保管条件として、SDSには一般的な工業原料または試薬と同様に「保管場所には危険・有害物を貯蔵し、又は取り扱うために必要な照明及び換気の設備を設ける。直射日光を避け、冷暗所に保管する。」との記載がある(非特許文献2)。しかしながら、このような従来の保管条件には以下改善点がある。まず、上記の保管条件の各因子(照明の照度、保管温度、周囲環境の換気量、保管湿度、さらにこれら因子と保管期間を含めた関係)のうちどれが重要であるか、更にはこれら因子において、定量的に各々の数値範囲をどのように制御すれば、触媒の性能を悪化させず及び/または安定に触媒を製造できるのかについて、当業者にとっては不明のままであった。更に、工業触媒としての製造コストの観点からすると、必要以上に保管条件を改良することは好ましくない。たとえば、上記SDSの記載より冷暗所にてモリ安を保管すれば、モリ安は劣化せず最終製品としての触媒の性能も問題ないと考えられていたが、このような保管条件は、最終製品としての触媒コストの増大につながること、および後述するように保管温度が低すぎる場合もモリ安が劣化するため好ましくないことが、本発明者らによって初めて明らかにされた。このように従来のSDS記載の保管条件のみでは、触媒用のモリ安の工業的利用には不完全であったが、本発明者らは重要な保管条件の因子(保管温度と保管期間のパラメーター、保管絶対湿度と保管期間のパラメーター、累積の全天日射量)を見出し、更にこれらの制御されるべき数値範囲を見出し、本発明を創出するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2016/136882号
【特許文献2】特開2017-024009号公報
【特許文献3】国際公開2010/038677号
【特許文献4】特開2015-147188号公報
【特許文献5】日本特許第7024194号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hort Science,No.18,6 P818-822 (1983)
【非特許文献2】厚生労働省.“安全データシート モリブデン酸アンモニウム”.職場のあんぜんサイト.2019/03/15.https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/12027-67-7.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する方法に使用される触媒の製造方法であって、目的化合物の選択率が高く、また収率も高く、安定な触媒の製造方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らの研究によれば、モリブデン原料として用いるモリブデン酸アンモニウムの保管を特定の条件下で制御することによって、最終的な触媒の性能、特に選択率と収率が向上することを発見し、更に安定に触媒を製造できることを見出し、本発明を完成させるに行ったものである。
【0010】
即ち、本発明は以下1)~6)に関する。
1)
触媒活性成分の組成が下記一般式(1A)または(1B)で表され、
Moa1Bib1Nic1Cod1Fee1f1g1h1i1・・・(1A)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、およびタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、X、およびY以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、およびi1はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a1=12としたとき、0<b1≦7、0≦c1≦10、0<d1≦10、0<c1+d1≦20、0<e1≦5、0≦f1≦2、0≦g1≦3、0≦h1≦5、およびi1=各元素の酸化状態によって決まる値である)、
Mo12CuSb・・・(1B)
(式中、Mo、V、W、Cu、Sb、およびOはそれぞれ、モリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を示し、Xはアルカリ金属、およびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Zはビスマス、テルル、銀、セレン、ケイ素、アルミニウム、ホウ素、ニオブ、セリウム、すず、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、サマリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、チタン、クロム、タンタル、鉛、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、ランタン、および砒素からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をそれぞれ示す。またa、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素の原子比を示し、モリブデン原子12に対して、aは0<a≦10.0、bは0≦b≦10.0、cは0<c≦6.0、dは0≦d≦10.0、eは0≦e≦0.50、fは0≦f≦1.0、gは0≦g<6.0を表す。また、hは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子数である)、
モリブデン原料として使用されるヘプタモリブデン酸アンモニウムの保管条件が以下条件1を含む不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
条件1:
遮光性かつ非透湿性の容器にて保管され、全ての保管期間の履歴の中で下記式(2)を満たす条件
exp(保管温度[℃]-50)×保管日数[日]≦5200・・・(2)
ただし、遮光性容器とは、可視光および/または紫外線の遮光率(JISL 1055に準ずる方法で測定)が95%以上の容器であり、非透湿性容器とは、24時間あたりに容器を透過する水分量(透湿度)が5g/(m・24時間)を下回る容器である。また、保管温度とは、保管されたモリ安自体の温度を、保管期間内で平均したものである。
2)
触媒活性成分の組成が下記一般式(1A)または(1B)で表され、
Moa1Bib1Nic1Cod1Fee1f1g1h1i1・・・(1A)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、およびタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、X、およびY以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、およびi1はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a1=12としたとき、0<b1≦7、0≦c1≦10、0<d1≦10、0<c1+d1≦20、0<e1≦5、0≦f1≦2、0≦g1≦3、0≦h1≦5、およびi1=各元素の酸化状態によって決まる値である)、
Mo12CuSb・・・(1B)
(式中、Mo、V、W、Cu、Sb、およびOはそれぞれ、モリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を示し、Xはアルカリ金属、およびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Zはビスマス、テルル、銀、セレン、ケイ素、アルミニウム、ホウ素、ニオブ、セリウム、すず、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、サマリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、チタン、クロム、タンタル、鉛、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、ランタン、および砒素からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をそれぞれ示す。またa、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素の原子比を示し、モリブデン原子12に対して、aは0<a≦10.0、bは0≦b≦10.0、cは0<c≦6.0、dは0≦d≦10.0、eは0≦e≦0.50、fは0≦f≦1.0、gは0≦g<6.0を表す。また、hは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子数である)、
モリブデン原料として使用されるヘプタモリブデン酸アンモニウムの保管条件が以下条件2を含む不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
条件2:
期間中の保管温度が45℃以下かつ非透湿性の容器にて保管され、全ての保管期間の履歴の中で下記式(3)を満たす条件
保管期間中の累積の全天日射量[MJ/m]≦345・・・(3)
3)
触媒活性成分の組成が下記一般式(1A)または(1B)で表され、
Moa1Bib1Nic1Cod1Fee1f1g1h1i1・・・(1A)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、およびタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、X、およびY以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、およびi1はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a1=12としたとき、0<b1≦7、0≦c1≦10、0<d1≦10、0<c1+d1≦20、0<e1≦5、0≦f1≦2、0≦g1≦3、0≦h1≦5、およびi1=各元素の酸化状態によって決まる値である)、
Mo12CuSb・・・(1B)
(式中、Mo、V、W、Cu、Sb、およびOはそれぞれ、モリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を示し、Xはアルカリ金属、およびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Zはビスマス、テルル、銀、セレン、ケイ素、アルミニウム、ホウ素、ニオブ、セリウム、すず、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、サマリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、チタン、クロム、タンタル、鉛、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、ランタン、および砒素からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をそれぞれ示す。またa、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素の原子比を示し、モリブデン原子12に対して、aは0<a≦10.0、bは0≦b≦10.0、cは0<c≦6.0、dは0≦d≦10.0、eは0≦e≦0.50、fは0≦f≦1.0、gは0≦g<6.0を表す。また、hは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子数である)、
モリブデン原料として使用されるヘプタモリブデン酸アンモニウムの保管条件が以下条件3を含む不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
条件3:
遮光性容器にて保管され、すべての保管期間の履歴の中で下記式(4)を満たす条件
保管絶対湿度[g/m]×保管日数[日]≦12.0・・・(4)
4)
前記条件1乃至3の内、2以上の条件を含む保管条件によって、モリブデン原料として使用されるヘプタモリブデン酸アンモニウムが保管された触媒の製造方法であって、以下式(5)を満たす上記1)乃至3)のいずれか1項に記載の不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
exp(保管温度[℃]-50)×保管日数[日]/5200+保管期間中の累積の全天日射量[MJ/m]/345+保管絶対湿度[g/m]×保管日数[日]/12.0 ≦ 1.0
・・・(5)
5)
上記1)乃至3)のいずれか一項に記載の保管条件で保管されたヘプタモリブデン酸アンモニウムと水の混合物を調製し、その他の原料を加え、水溶液または水性スラリーを得る方法を経ることを特徴とする不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
6)
上記5)に記載の水溶液または水性スラリーに対して、以下工程(a)~(c)を経由することを特徴とする不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
(a)水溶液または水性スラリーを乾燥して乾燥体を得る工程、
(b)工程(a)で得られたスラリー乾燥体を成型して成形物を得る工程、
(c)工程(b)で得られた成型物を制御された酸素濃度雰囲気下で焼成する工程。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造法による触媒は、気相接触酸化反応における触媒の性能、特に収率や選択率の向上に非常に有効であり、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する酸化触媒として特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[へプタモリブデン酸アンモニウムの保管条件]
本発明の触媒の製造に用いられるヘプタモリブデン酸アンモニウムは、以下条件1を含むように保管されたものであることを特徴とする。ここで、前記「含む」とは実質的に条件1で保管されたものが、本発明の技術的範囲に入ることを意味し、例えば一時的に条件1以外の条件におかれたことをもって、技術的範囲から外れるものではないことを意味する。また条件2または3を含むように保管されたものである場合も同様に好ましい。
【0013】
<条件1>
条件1は、モリ安の周囲の温度に関するものであり、遮光性かつ非透湿性の容器にて保管され、全ての保管期間の履歴の中で下記式(2)を満たす条件である。
[式(2)]
exp(保管温度[℃]-50)×保管日数[日]≦5200・・・(2)
本条件を満たしたモリ安を使用して製造された触媒は、気相接触酸化反応における触媒の性能、特に収率や選択率の向上に非常に有効である。式(2)は経験的に得られたものであり、その詳細なメカニズムは不明であるが、exp(保管温度[℃]-50)の項は、モリ安の劣化の反応速度の形式と読み解くこともできる。すなわち、保管環境の温度が高温であれば劣化は指数関数的に速くなり、また当該環境での保管日数が長くなればなるほど劣化程度は線形に進行することを意味し、これらを避けるようにモリ安を保管するべきである。なお本発明において保管温度とは、保管されたモリ安自体の温度を、保管期間内での平均したものとなる。例えば、モリ安が保管された環境において平均気温が50℃であるものの、遮光性かつ非透湿性の容器に保管されたモリ安そのものの温度が、保管期間内の平均で25℃であれば、式(2)に入力する保管温度は25℃となる。このような保管温度は、モリ安に設置された熱電対や温度ロガー、また簡易的には熱履歴を記録するシールや塗料などによって測定される。ただ上記算出の例外として、保管期間内のモリ安の最高温度が50℃を超える場合、式(2)における保管温度は50℃を超えた保管期間内におけるモリ安自体の温度を平均したものとし、式(2)における保管日数はモリ安自体の温度が50℃を超えた保管期間と定義する。
(exp(保管温度[℃]-50)×保管日数)の上限は5200日であるが、好ましい順に5000日、4600日、4300日、4000日、3700日、3300日、3500日、3000日、2700日、2500日、2300日、2000日、1700日、1500日、1300日であり、特に好ましくは1000日であり、最も好ましくは100日である。下限は0日、すなわち50℃より低い温度で保管すれば良い。
保管温度には下限値があり、好ましくは0℃である。下限値としてより好ましい順に、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃であり、最も好ましくは10℃である。従来、モリ安の保管条件として冷暗所保管が公知な情報であったが、本発明者らの検討の結果、冷暗保管を満たす条件であっても、保管温度が低すぎるとかえってモリ安が劣化し、このモリ安を使用し製造された触媒の性能も悪化することが明らかになった。保管温度を必要以上に低く設定すると、モリ安の保管コストが高くなり、結果として触媒の製造コストも高くなってしまう点からも、保管温度には下限値が設定されるべきである。この保管温度の下限値は、後述する条件2、条件3にも適用されるものとなる。
本発明書において保管期間とは、保管対象となる触媒原料が製造されてから輸送、荷受け、保管され、触媒原料として製造工程に使用されるまでの期間を意味する。また本発明において「全ての保管期間の履歴の中で条件○を満たす」とは、保管期間中の全てまたは一部において、○で明示された条件(条件1~3)として満たしていることを意味し、条件○の算出には保管期間中の累積値も含むものとする。すなわち、上述の条件1を例にあげると、モリ安の全ての保管期間の中で、時期Aにおいて遮光性かつ非透湿性の容器にて、保管温度が55℃で13.5日(すなわち、時期Aにおいて条件1におけるexp(保管温度[℃]-50)×保管日数が2004日)であり、その後50℃より低い気温にて温度管理がされ、次に時期Bにおいて遮光性かつ非透湿性の容器にて、保管温度が56℃で10日(すなわち、時期Bにおいて条件1におけるexp(保管温度[℃]-50)×保管日数が4034日)となれば、条件1における累積のexp(保管温度[℃]-50)×保管日数は6038日となり、条件1を満たさないと判断されることとなる。同様の考え方は、以下の条件2、条件3でも適用されるものとする。
式(2)より、保管期間にもよるものの現実的なモリ安の保管温度として50℃未満であれば、触媒性能に影響を与えることはないこと、およびSDS記載のように冷暗所が必須という訳ではなく、たとえば5℃で冷蔵保管する必要はない(したがって冷蔵コストをかける必要はない)ことが数値計算により理解できる。このように触媒性能の観点から、工業触媒としての現実的な保管コストの範囲内での保管温度の臨界的数値は、本発明により初めて明らかにされるものである。
【0014】
<条件2>
条件2は、モリ安が受ける光量に関するものであり、期間中の保管温度が45℃以下かつ非透湿性の容器にて保管され、全ての保管期間の履歴の中で下記式(3)を満たす条件である。
[式(3)]
保管期間中の累積の全天日射量[MJ/m]≦345・・・(3)
本条件を満たしたモリ安を使用して製造された触媒は、気相接触酸化反応における触媒の性能、特に収率や選択率の向上に非常に有効である。式(3)は経験的に得られたものであり、その詳細なメカニズムは不明であるが、保管時の累積の全天日射量が高くなるということは、日中の高温および/または紫外線によるモリ安の分解、および日中と夜間の寒暖差によるモリ安の分解を促進することになると考えられ、これを避けるようにモリ安を保管するべきである。
(保管期間中の累積の全天日射量)の上限は345MJ/mであるが、好ましい順に320MJ/m、300MJ/m、280MJ/m、260MJ/m、240MJ/m、220MJ/m、200MJ/m、180MJ/m、160MJ/m、140MJ/m、120MJ/m、100MJ/m、75MJ/m、50MJ/mであり、最も好ましくは50MJ/mである。下限は10MJ/m程度、すなわち、上述の可視光が遮蔽される容器にてほぼ完全に遮光された保管条件で良い。ここでは全天日射量の単位としてMJ/m、すなわち放射照度の時間積分値としての数値を記載したが、適宜単位換算した場合も、本願に含まれるものとする。すなわち、非特許文献1に従い、光量子束密度の時間積分値に変換する場合は、全天日射量[MJ/m]に4.57を乗じることで単位がmol/m・sの量子束密度の時間積分値となり、照度の時間積分値に変換する場合は、全天日射量[MJ/m]を54で除することで単位がMlux・sの照度の時間積分値となる。
式(3)より、現実的なモリ安の保管の際の照度として例えば0.1lux程度(満月の夜空)の照度にて丸2年保管したとしても、その全天日射量は341MJ/mであり本発明によれば触媒性能には影響せず、安定に触媒を製造することができる。すなわちSDS記載のように冷暗所とはいえ、完全な暗室で保管する必要は必ずしもなく、現実的には金属製のスチールドラムまたはアルミパウチとファイバードラムなどの工業触媒原料として現実的なコストでの保管で十分であることが数値計算により理解できる。このように触媒性能の観点から、工業触媒としての現実的な保管コストの範囲内での全天日射量の臨界的数値は、本発明により初めて明らかにされるものである。
【0015】
<条件3>
条件3は、モリ安の周囲の温度及び湿度に関するものであり、遮光性容器にて保管され、すべての保管期間の履歴の中で下記式(4)を満たす条件である。
[式(4)]
保管絶対湿度[g/m]×保管日数[日]≦12.0・・・(4)
本条件を満たしたモリ安を使用して製造された触媒は、気相接触酸化反応における触媒の性能、特に収率や選択率の向上に非常に有効である。式(4)は経験的に得られたものであり、その詳細なメカニズムは不明であるが、保管絶対湿度が高くなるということは、モリ安の吸湿による分解、および上述の条件1との各々独立の寄与によりモリ安の分解を促進することになると考えられ、これを避けるようにモリ安を保管するべきである。なお本発明において保管絶対湿度とは、保管されたモリ安のごく近傍の絶対湿度を、保管期間内で平均したものであり、モリ安が何らかの容器に入れられた場合には容器内の絶対湿度となる。例えば、モリ安が保管された環境において平均絶対湿度が10g/mであるものの、遮光性容器に保管されたモリ安において容器内の絶対湿度が、保管期間内の平均で1.0g/mであれば、式(4)に入力する保管絶対湿度は1.0g/m程度となる。このような平均絶対湿度は、容器内またはモリ安に設置された湿度ロガー、また簡易的には湿度履歴を記録するシールや塗料などによって測定される。
[保管絶対湿度[g/m]×保管日数[日]]の上限は12.0g/m・日であるが、好ましい順として11.0g/m・日、10.0g/m・日、9.0g/m・g/m・日、8.0g/m・日、7.0g/m・日、6.0g/m・日、5.0g/m・日、4.0g/m・日、3.0g/m・日であり、最も好ましくは2.0g/m・日である。下限は1.0g/m・日程度で良い。
式(4)より、保管期間にもよるものの現実的なモリ安の保管条件としては非透湿性容器にモリ安を入れ容器内の死容積(モリ安が充填されていない空間)が十分少なければ、容器内の絶対温度は、保管期間内の平均で1.0g/m程度となり、触媒性能に影響を与えることはないこと、すなわち必ずしも湿度管理した部屋での保管が必須という訳ではない(したがって保管コストをかける必要はない)ことが数値計算により理解できる。このように触媒性能の観点から、工業触媒としての現実的な保管コストの範囲内での保管絶対湿度の臨界的数値は、本発明により初めて明らかにされるものである。
【0016】
また、全ての保管期間の履歴の中で条件1~3を2条件以上併用する場合は、上限に対する割合に換算して、技術的範囲の該否を判断するものとする。例えば、条件1において、式(2)の値が2600日となる保管をし、次いで/または同じ時期において、条件3において式(4)の値が6.0g/日・mとなる保管をした場合、2600日/5200日+6.0g/m・日/12.0g/m・日=1.0となる為、本発明の技術的範囲に入る保管ということになる。同様の例として、保管温度60度で非遮光性容器で保管し、かつ式(2)の値が2600日となる保管をし、同じ時期に式(3)の値が172MJ/mとなる保管をした場合、2600日/5200日+172MJ/m/345MJ/m=1.0となる為、本発明の技術的範囲に入る保管ということになる。本発明のように各々の保管条件でのモリ安の劣化程度を数値化することにより、たとえば高温条件にてモリ安を輸送してしまったことが判明した場合、その後の保管工程において保管温度や全天日射量を本発明の範囲内に入るよう予め注意することで、それ以上のモリ安の劣化を抑制することができ、この点も従来の知見にはなかったといえる。
モリ安の保管条件として、SDSには一般的な工業原料または試薬と同様に「保管場所には危険・有害物を貯蔵し、又は取り扱うために必要な照明及び換気の設備を設ける。直射日光を避け、冷暗所に保管する。」との記載がある。しかしながらモリ安は原料として受け入れ、触媒製造に使用されるまでの保管だけではなく、原料として製造され、使用されるまでの全工程の中での保管(本発明における保管)する条件が重要であると言える。ただし、これら保管条件の因子(照明の照度、保管温度、周囲環境の換気量、保管湿度)のうちどれが重要であるか、更にはこれら重要な因子において、最終製品としての触媒の性能に影響を及ぼす臨界的な数値範囲がどのようなものなのかは、当業者にとって不明のままであった。また、工業触媒としての製造コストおよび製造設備仕様の観点からすると、必要以上に保管条件を改良することは好ましくない。
すなわち、本願の本質は工業触媒原料として現実的なコストで触媒の性能を担保できるモリ安の保管条件を提供することにある。言い換えると、保管のための容器の仕様、保管において規定すべき因子(保管温度、保管時にモリ安が受けた照度(保管期間中の累積の全天日射量)、および保管中にモリ安が受けた湿度(保管絶対湿度))、さらにはこれら因子の数値範囲を工業触媒としてふさわしい現実的な範囲で規定し、提供することにある。
本発明者らの知見によれば、触媒メーカーがモリ安を受け入れ、これを保管する際の条件として冷暗所で保管したとしても、その前後の工程すなわち輸送や仕込み前において一時的にモリ安が高温にさらされた場合、そのモリ安を使用した触媒は性能が不十分であったり調製時にトラブルが発生しうることが分かった。すなわちモリ安は原料として受け入れ、触媒製造に使用されるまでの保管だけではなく、原料として製造され、使用されるまでの全工程の中での保管(=本発明における保管)条件の検討が必要であると言える。
モリ安の公知な保管条件として、SDSには一般的な工業原料または試薬と同様に「保管場所には危険・有害物を貯蔵し、又は取り扱うために必要な照明及び換気の設備を設ける。直射日光を避け、冷暗所に保管する。」との記載がある(非特許文献2)。しかしながら、このような従来の保管条件では、保管条件における各因子(照明の照度、保管温度、周囲環境の換気量、保管湿度)のうちどれが重要であるか不明であり、さらに前記の各因子に保管期間を加味したパラメーターにおいて、その定量的閾値をどのように制御すれば、触媒の性能を悪化させず及び/または安定に触媒を製造できるのかについて、当業者にとっては不明であった。これに対し本発明者らは鋭意検討の結果、重要な保管条件の因子(保管温度と保管期間のパラメーター、保管絶対湿度と保管期間のパラメーター、累積の全天日射量)を見出し、更にこれらの制御されるべき数値範囲を見出し、本発明を創出するに至った。また本発明者らの検討の結果、初めて明らかにされた別の側面として、工業触媒としての製造コストの観点から適切な保管条件を見出せた点が挙げられる。すなわち上述の通り、保管温度が低ければよいという訳ではなく、保管温度が低すぎる場合にモリ安が劣化するため好ましくないことが、本発明者らによって初めて明らかにされた。このように従来のSDS記載の保管条件のみでは、本発明の触媒のためのモリ安の工業的利用には不完全であったが、本発明者らはモリ安の保管条件として時間を含めた新規なパラメーターとその制御されるべき数値範囲を定量的に見出し、本発明を創出するに至った。
【0017】
以下では、上述の条件1から条件3における容器について記載する。本発明において遮光性容器とは、可視光および/または紫外線の遮光率(JISL 1055に準ずる方法で測定)が95%以上の容器であり、具体的にはアルミパウチなどの金属が蒸着された後述するビニール袋や、スチールドラムやステンレスドラムなどの各種金属製のドラム、および厚みが3mm以上の各種色付けされたプラスチック(たとえば、高密度ポリエチレン)や木材、琺瑯、陶磁器で製造された容器であり、かつ光が入るような1mm以上の隙間がない容器あれば、その形状や色を問わず全ての容器が本願に含まれるものとする。なお、遮光性容器の特殊な例として、周囲の光が仮に容器内に侵入しても、これを吸収できるよう容器内部の一部または全体を黒色物質で内張りしたビニール袋および容器も、本発明の遮光性容器の範疇に属するものとする。さらに、窓がなく周囲から可視光及び/または紫外光が入らない環境において、遮光性のない容器に保管する場合も、遮光性容器での保管に含めるものとする。すなわち、本発明における遮光性容器での保管とは、モリ安が可視光及び/または紫外光のほとんどない環境下で保管されることを含む。
本発明における非透湿性容器とは、24時間あたりに容器を透過する水分量(透湿度)が5g/(m・24時間)を下回る容器であり、その材質はたとえばアクリル樹脂、ポリスチレン、PET、AS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、フェノール樹脂およびこれらのアルミパウチされたものであり、好ましくはポリエチレンまたはアルミパウチされたポリエチレンであり、ビニール袋の厚みも上述の透湿度を満たすのであればその詳細を問わないが、好ましくは0.01mm以上0.1mm以下であり、その形状は問わないものである。また、周囲の雰囲気、特に水分が仮に容器内に混入しても、これを除去できるようなガス吸着剤や脱湿剤が設置されたビニール袋および容器も、本発明の容器の範疇に属する。同様に、水分を除去できるようガス吸着装置や脱湿装置が設置された環境内にて保管する場合も、モリ安がどのような容器に入るかに関わらず、非透湿性容器にて保管されたものとする。すなわち、本発明における非透湿性容器での保管とは、モリ安が低湿度環境下で保管されることを含む。
【0018】
[式(1A)の触媒組成]
本発明の製造方法で製造される触媒として不飽和アルデヒド製造用触媒においては、下記式(1A)で表される触媒活性成分の組成を有する。
[式(1A)]
Moa1Bib1Nic1Cod1Fee1f1g1h1i1・・・(1A)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、およびタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、X、およびY以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、およびi1はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a1=12としたとき、0<b1≦7、0≦c1≦10、0<d1≦10、0<c1+d1≦20、0<e1≦5、0≦f1≦2、0≦g1≦3、0≦h1≦5、およびi1=各元素の酸化状態によって決まる値である)
【0019】
上記式(1A)において、a1=12としたときのb1~h1の好ましい範囲は以下である。
b1の下限としては好ましい順に、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5であり、上限としては好ましい順に、6、5、4、3、2である。すなわちb1として最も好ましい範囲は、0.5以上2以下である。
c1の下限としては好ましい順に、0.2、0.5、0.8、1.0、1.5、1.8、2.0、2.5であり、上限としては好ましい順に、8、7、6、5、4、3.5である。すなわちc1として最も好ましい範囲は、2.5以上3.5以下である。
d1の下限としては好ましい順に、1、2、3、4、5、6であり、上限としては好ましい順に、9.5、9、8.5、8、7.5、7である。すなわちd1として最も好ましい範囲は、6以上7以下である。
c1+d1の下限としては好ましい順に、1.2、2.0、4.0、6.0、8.0、8.3であり、上限としては好ましい順に、20.0、15.0、12.5、11.0、10.0、9.0である。すなわち、c1+d1の範囲としては好ましい順に、1.2以上20.0以下、2.0以上15.0以下、4.0以上12.5以下、6.0以上11.0以下、8.0以上10.0以下であり、最も好ましい範囲は、8.3以上9.0以下である。
c1+d1の下限としては好ましい順に、1.2、2.0、4.0、6.0、8.0、8.3であり、上限としては好ましい順に、20.0、15.0、12.5、11.0、10.0、9.0である。すなわち、c1+d1の範囲としては好ましい順に、1.2以上20.0以下、2.0以上15.0以下、4.0以上12.5以下、6.0以上11.0以下、8.0以上10.0以下であり、最も好ましい範囲は、8.3以上9.0以下である。
e1の下限としては好ましい順に、0.1、0.2、0.5、0.8、1.0、1.5であり、上限としては好ましい順に、4.5、4、3.5、3、2.5、2、2.5である。すなわちe1として最も好ましい範囲は、1.5以上2.5以下である。
f1の上限としては好ましい順に、1.8、1.5、1.0、0.8、0.5であり、下限としては、0が好ましい。すなわちf1としてより好ましい範囲は、0以上0.5以下であり、0が最も好ましい。
g1の下限としては好ましい順に、0.01、0.015、0.02であり、上限としては好ましい順に、2、1、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.05である。すなわちg1として最も好ましい範囲は、0.02以上0.05以下である。
h1の上限としては好ましい順に、4、3、2、1.8、1.5、1.0、0.8、0.5であり、下限としては、0が好ましい。すなわちh1としてより好ましい範囲は、0以上0.5以下であり、0が最も好ましい。
【0020】
式(1A)におけるXとしては、タングステン、アンチモン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、セリウムが好ましく、アンチモン、亜鉛が特に好ましい。
式(1A)におけるYとしては、ナトリウム、カリウム、セシウムが好ましく、カリウム、セシウムが更に好ましい。
式(1A)におけるZとしては、バナジウム、銅、ニオブ、ジルコニウム、カルシウム、ベリリウム、ストロンチウム、バリウム、鉛、リンが好ましい。
【0021】
[式(1A)で記載した組成の触媒の製造方法等について]
以降では、式(1A)で記載した組成の触媒の製造方法について記載する。
本発明の触媒の製造方法では、まず上記モリブデン酸アンモニウムと水との混合物(調合液)を調製し、ビスマス成分原料、および鉄成分原料を加え、水溶液または水性スラリーを得る方法を経ることが好ましい。
各元素の出発原料としては、上記モリブデン酸アンモニウムに関するものを除き、特に制限されるものではないが、例えば次のようなものを用いることができる。
【0022】
ビスマス成分原料としては硝酸ビスマス、次炭酸ビスマス、硫酸ビスマス、酢酸ビスマスなどのビスマス塩、三酸化ビスマス、金属ビスマスなどを用いることができるが、より好ましくは硝酸ビスマスであり、これを使用した場合に高性能な触媒が得られる。鉄、コバルト、ニッケル及びその他の元素の原料としては通常は酸化物あるいは強熱することにより酸化物になり得る硝酸塩、炭酸塩、有機酸塩、水酸化物等又はそれらの混合物を用いることができる。例えば、鉄成分原料とコバルト成分原料及び/又はニッケル成分原料を所望の比率で10~80℃の条件下にて水に溶解混合し、20~90℃の条件下にて別途調合されたモリブデン成分原料およびZ成分原料水溶液もしくはスラリーと混合し、20~90℃の条件下にて1時間程度加熱撹拌した後、ビスマス成分原料を溶解した水溶液と、必要に応じX成分原料、Y成分原料とを添加して触媒成分を含有する水溶液またはスラリーを得る。以降、両者をまとめて調合液(A)とも称する。
【0023】
ここで、調合液(A)は必ずしもすべての触媒活性成分構成元素を含有する必要は無く、その一部の元素または一部の量を以降の工程で添加してもよい。また、調合液(A)を調合する際に各成分原料を溶解する水の量や、溶解のために硫酸や硝酸、塩酸、酒石酸、酢酸などの酸を加える場合には、原料が溶解するのに十分な水溶液中の酸濃度が、例えば5質量%~99質量%の範囲で調合に適していないと、調合液(A)の形態が粘土状の塊となる場合がある。この場合では、優れた触媒が得られない。調合液(A)の形態としては水溶液またはスラリーが、優れた触媒が得られるため、好ましい。
【0024】
調合液(A)は、各活性成分含有化合物と水とを均一に混合して得ることができる。調合液(A)における水の使用量は、用いる化合物の全量を完全に溶解できるか、または均一に混合できる量であれば特に制限はない。乾燥方法や乾燥条件を勘案して、水の使用量を適宜決定すれば良い。通常、スラリー調製用化合物の合計質量100質量部に対して、100質量部以上2000質量部以下である。水の量は多くてもよいが、多過ぎると乾燥工程のエネルギーコストが高くなり、又完全に乾燥できない場合も生ずるなどデメリットが多い。あるいは、スラリー液における水の使用量は、モリブデン酸アンモニウムの使用量を1として質量比で3.0倍から4.5倍、好ましくは3.4倍から4.2倍となる。また、モリブデン酸アンモニウムの投入時の水温は70℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく、80℃以上が最も好ましい。
【0025】
上記各成分元素の供給源化合物の調合液(A)は上記の各供給源化合物を、(イ)一括して混合する方法、(ロ)一括して混合後、熟成処理する方法、(ハ)段階的に混合する方法、(ニ)段階的に混合・熟成処理を繰り返す方法、および(イ)~(ニ)を組み合わせた方法により調製することが好ましい。ここで、上記熟成とは、「工業原料もしくは半製品を、一定時間、一定温度などの特定条件のもとに処理して、必要とする物理性、化学性の取得、上昇あるいは所定反応の進行などをはかる操作」のことをいう。なお、本発明において、上記の一定時間とは、5分以上24時間以下の範囲をいい、上記の一定温度とは室温以上の水溶液ないし水分散液の沸点以下の範囲をいう。このうち最終的に得られる触媒の活性及び収率の面で好ましいのは(ハ)段階的に混合する方法であり、更に好ましいのは段階的に母液に混合する各原料は全溶した溶液とする方法であり、最も好ましいのはモリブデン原料を調合液または水性スラリーとした母液に、アルカリ金属溶液、硝酸塩の各種混合液を混合する方法である。ただし、この工程で必ずしもすべての触媒構成元素を混合する必要はなく、その一部の元素または一部の量を以降の工程で添加してもよい。
【0026】
本発明において、必須活性成分を混合する際に用いられる攪拌機の攪拌翼の形状は特に制約はなく、プロペラ翼、タービン翼、パドル翼、傾斜パドル翼、スクリュー翼、アンカー翼、リボン翼、大型格子翼などの任意の攪拌翼を1段あるいは上下方向に同一翼または異種翼を2段以上で使用することができる。また、反応槽内には必要に応じてバッフル(邪魔板)を設置しても良い。
【0027】
このようにして得られた調合液(A)は、以下工程(a)~(c)を経由して、触媒とする場合が好ましい製造方法である。
【0028】
<(a)調合液(A)を乾燥して乾燥体を得る工程>
乾燥工程で用いられる方法は、調合液(A)が完全に乾燥できる方法であれば特に制約はないが、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固などが挙げられる。これらのうち本発明においては、調合液(A)を短時間に粉末又は顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が特に好ましい。噴霧乾燥の乾燥温度は調合液(A)の濃度、送液速度等によって異なるが、概ね乾燥機の出口における温度が70℃以上150℃以下であり、入口温度が出口温度より高くなる。また、この際得られる調合液(A)の乾燥体の平均粒径が10~700μmとなるように乾燥するのが好ましい。本明細書においては、乾燥体は乾燥粉体と表現する場合もある。
なおこの乾燥体は、そのまま被覆用混合物に供することができるが、予め焼成すると成形性が向上する場合があり好ましい(予備焼成工程)。焼成方法や焼成条件は特に限定されず、公知の処理方法および条件を適用することができる。焼成の最適条件は、使用する触媒原料、触媒組成、調製法等によって異なるが、焼成温度は通常100~350℃、好ましくは150~300℃、焼成時間は1~20時間である。なお、焼成は、通常空気雰囲気下に行われるが、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気下での焼成後に必要に応じて更に空気雰囲気下で焼成を行ってもよい。このようにして得られた焼成後の固体は成形前に粉砕されることが好ましい。粉砕方法として特に制限はないが、ボールミルを用いると良い。予備焼成工程および/またはその後の粉砕工程により、触媒前駆体顆粒を得ることができる。
【0029】
<(b)工程(a)で得られたスラリー乾燥体を成型して成形物を得る工程>
本発明の製造方法で製造される触媒の形状は特に制約はなく、酸化反応において反応ガスの圧力損失を小さくするために、柱状物、錠剤、リング状、球状等に成形し使用する。このうち選択性の向上や反応熱の除去が期待できることから、不活性担体に触媒活性成分固体を担持し、担持触媒とするのが特に好ましい。この担持は以下に述べる転動造粒法が好ましい。この方法は、例えば固定容器内の底部に、平らなあるいは凹凸のある円盤を有する装置中で、円盤を高速で回転することにより、容器内の担体を自転運動と公転運動の繰返しにより激しく攪拌させ、ここにバインダーと触媒活性成分固体並びに、必要により、これらに他の添加剤例えば成形助剤、強度向上剤を添加した担持用混合物を担体に担持する方法である。バインダーの添加方法は、1)前記担持用混合物に予め混合しておく、2)担持用混合物を固定容器内に添加するのと同時に添加、3)担持用混合物を固定容器内に添加した後に添加、4)担持用混合物を固定容器内に添加する前に添加、5)担持用混合物とバインダーをそれぞれ分割し、2)~4)を適宜組み合わせて全量添加する等の方法が任意に採用しうる。このうち5)においては、例えば担持用混合物の固定容器壁への付着、担持用混合物同士の凝集がなく担体上に所定量が担持されるようオートフィーダー等を用いて添加速度を調節して行うのが好ましい。バインダーは、水やエタノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニールアルコール、結晶性セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース類、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、セルロース類及びエチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等が好ましく、特にグリセリンの濃度5質量%以上の水溶液が好ましい。これらバインダーの使用量は、担持用混合物100質量部に対して通常2~60質量部、好ましくは10~50質量部である。
【0030】
上記担持における担体の具体例としては、炭化珪素、アルミナ、シリカアルミナ、ムライト、アランダム等の直径1~15mm、好ましくは2.5~10mmの球形担体等が挙げられる。これら担体は通常は10~70%の空孔率を有するものが用いられる。担体と担持用混合物の割合は通常、担持用混合物/(担持用混合物+担体)=10~75質量%、好ましくは15~60質量%となる量を使用する。担持用混合物の割合が大きい場合、担持触媒の反応活性は大きくなるが、機械的強度が小さくなる傾向にある。逆に、担持用混合物の割合が小さい場合、機械的強度は大きいが、反応活性は小さくなる傾向がある。なお、前記において、必要により使用する成形助剤としては、シリカゲル、珪藻土、アルミナ粉末等が挙げられる。成形助剤の使用量は、触媒活性成分固体100質量部に対して通常1~60質量部である。また、更に必要により触媒活性成分固体及び反応ガスに対して不活性な無機繊維(例えば、セラミックス繊維又はウィスカー等)を強度向上剤として用いることは、触媒の機械的強度の向上に有用であり、ガラス繊維が好ましい。これら繊維の使用量は、触媒活性成分固体100質量部に対して通常1~30質量部である。なお、第一段目の触媒の成形においては、添加される成形助剤、細孔形成剤、担体はいずれも、原料を何らかの別の生成物に転換する意味での活性の有無にかかわらず、本発明における活性成分の構成元素として考慮しないものとする。成形工程により、本発明の成形物を得る。
【0031】
<(c)工程(b)で得られた成型物を焼成する工程>
上記のようにして得られた成型物はそのまま触媒として気相接触酸化反応に供することができるが、焼成すると触媒活性が向上する場合があり好ましい。焼成方法や焼成条件は特に限定されず、公知の処理方法および条件を適用することができる。焼成の最適条件は、使用する触媒原料、触媒組成、調製法等によって異なるが、焼成温度は通常200~600℃、好ましくは400~600℃、より好ましくは500℃~600℃であり、焼成時間は1~20時間である。なお、焼成は、通常空気雰囲気下に行われるが、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気下での焼成後に必要に応じて更に空気雰囲気下で焼成を行ってもよい。
【0032】
<触媒の使用>
本発明の製造方法によって得られる触媒は、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する反応に使用される。特にプロピレンを分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化してアクロレイン、アクリル酸を製造する反応に使用する場合において、触媒活性の向上、および収率の向上をすることができ、公知の方法と比較して製品の価格競争力の向上に非常に有効である。また、ホットスポット温度の低減のような発熱を伴う部分酸化反応のプロセス安定性にも向上効果が期待できる。更に、本発明の触媒は、環境や最終製品の品質に悪影響の生じる副生成物、たとえば一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO)、アセトアルデヒドや酢酸、ホルムアルデヒドの低減にも有効である。
【0033】
例えばプロピレンを、分子状酸素含有ガスを用いて気相接触酸化して、アクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する際に使用する場合において、原料ガスの流通方法は、通常の単流通法でもあるいはリサイクル法でもよく、一般に用いられている条件下で実施することができ特に限定されない。たとえば出発原料物質としてのプロピレンが1~10容量%、好ましくは4~9容量%、分子状酸素が3~20容量%、好ましくは4~18容量%、水蒸気が0~60容量%、好ましくは4~50容量%、二酸化炭素、窒素等の不活性ガスが20~80容量%、好ましくは30~60容量%からなる混合ガスを反応管中に充填した本発明の触媒上に250~450℃で、常圧~10気圧の圧力下で、空間速度300~5000h-1で導入し反応を行う。
【0034】
[式(1B)の触媒組成]
本発明の触媒の別の触媒組成として不飽和カルボン酸製造用触媒においては、以下式(1B)で表される組成を有することが好ましい。
[式(1B)]
Mo12CuSb・・・(1B)
(式中、Mo、V、W、Cu、Sb、およびOはそれぞれ、モリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を示し、Xはアルカリ金属、およびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Zはビスマス、テルル、銀、セレン、ケイ素、アルミニウム、ホウ素、ニオブ、セリウム、すず、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、サマリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、チタン、クロム、タンタル、鉛、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、ランタン、および砒素からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をそれぞれ示す。またa、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素の原子比を示し、モリブデン原子12に対して、aは0<a≦10.0、bは0≦b≦10.0、cは0<c≦6.0、dは0≦d≦10.0、eは0≦e≦0.50、fは0≦f≦1.0、gは0≦g<6.0を表す。また、hは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子数である。)
【0035】
上記式(1B)において、a~gの好ましい範囲は以下の通りである。
aの下限は望ましい順に、0.20、0.50、0.80、1.0、1.5、2.0、2.2、2.5であり、最も望ましくは2.8であり、aの上限は望ましい順に、9.0、8.0、7.0、6.0、5.0、4.5、4.0、3.5であり、最も望ましくは3.2である。すなわちaの最も好ましい範囲は、2.8≦a≦3.2である。
bの下限は望ましい順に、0.10、0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90であり、最も望ましくは1.0であり、bの上限は望ましい順に、9.0、8.0、7.0、6.0、5.0、4.0、3.0、2.5、2.0、1.5であり、最も望ましくは1.4である。すなわちaの最も好ましい範囲は、1.0≦b≦1.4である。
cの下限は望ましい順に、0.10、0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90であり、最も望ましくは1.0であり、cの上限は望ましい順に、5.0、4.0、3.0、2.5、2.0、1.5であり、最も望ましくは1.4である。すなわちaの最も好ましい範囲は、1.0≦c≦1.4である。
dの下限は望ましい順に、0.11、0.15、0.18、0.20、0.25、0.30、0.35であり、最も望ましくは0.40であり、dの上限は望ましい順に、9.0、8.0、7.0、6.0、5.0、4.0、3.0、2.5、2.0、1.5、1.0であり、最も望ましくは0.70である。すなわちaの最も好ましい範囲は、0.40≦d≦0.70である。
eの上限は望ましい順に、0.40、0.30、0.20、0.10である。すなわちeの最も好ましい範囲は、0≦e≦0.10である。
fの上限は望ましい順に、0.80、0.50、0.20、0.15であり、最も望ましくは0.10である。すなわちfの最も好ましい範囲は、0≦g1≦0.10である。
gの上限は望ましい順に、5.0、4.0、3.0、2.0、1.0、0.050、0.025、0.015である。すなわちgの最も好ましい範囲は、0≦g≦0.015である。
なお、e、f、gは0である場合が特に好ましい態様である。
【0036】
[式(1B)で記載した組成の触媒の製造方法等]
以降では、式(1B)で記載した組成の触媒の製造方法について記載する。
工程a)調合
一般に触媒を構成する各元素の原料は、モリブデン成分原料としてはモリブデン酸アンモニウムを使用した場合に高性能触媒が得られる。
タングステン、バナジウム、アンチモン、銅及びその他の元素の原料としては通常は酸化物あるいは強熱することにより酸化物になり得るアンモニウム塩、炭酸塩、有機酸塩、水酸化物等又はそれらの混合物を用いることができる。例えば、バナジウム成分原料とモリブデン成分原料及びアンチモン成分原料を所望の比率で、20~95℃の条件下にて別途調合されたタングステン成分原料およびZ成分原料水溶液もしくはスラリーと混合し、20~90℃の条件下にて1時間程度加熱撹拌した後、銅成分原料を溶解した水溶液と、必要に応じX成分原料、Y成分原料とを添加して触媒成分を含有する水溶液またはスラリーを得る。以降、両者をまとめて調合液(A)と称する。ここで、調合液(A)は必ずしもすべての触媒構成元素を含有する必要は無く、その一部の元素または一部の量を以降の工程で添加してもよい。また、調合液(A)を調合する際に各成分原料を溶解する水の量や、溶解のために硫酸や硝酸、塩酸、酒石酸、酢酸などの酸を加える場合には、原料が溶解するのに十分な水溶液中の酸濃度が例えば5質量%~99質量%の範囲の中で適していないと調合液(A)の形態が粘土状の塊となる場合があり、これは優れた触媒にはならない。よって得られる調合液(A)の形態としては水溶液またはスラリーであることが、優れた触媒が得られる点で好ましい。また、スラリー液における水の使用量は、モリブデン酸アンモニウムの使用量を1として質量比で4.4倍から6.0倍、好ましくは4.7倍から5.7倍となる。また、モリブデン酸アンモニウムの投入時の水温は85℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましく、95℃以上が最も好ましい。
【0037】
工程b)乾燥
次いで上記で得られた調合液(A)を乾燥し、乾燥粉体とする。乾燥方法は、調合液(A)を完全に乾燥できる方法であれば特に制限はないが、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固等が挙げられる。これらのうち本発明においては、スラリーから短時間に粉体又は顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が特に好ましい。噴霧乾燥の乾燥温度はスラリーの濃度、送液速度等によって異なるが概ね乾燥機の出口における温度が70~150℃である。また、この際得られる乾燥粉体の平均粒径が20~700μmとなるよう乾燥することが好ましい。こうして乾燥粉体(B)を得る。
【0038】
工程c)予備焼成
得られた乾燥粉体(B)は空気流通下で200℃から500℃で、好ましくは300℃から400℃で焼成することで触媒の成型性、機械的強度、触媒性能が向上する傾向がある。焼成時間は1時間から12時間が好ましい。こうして予備焼成体(C)を得る。
【0039】
工程d)粉砕
得られた予備焼成体(C)は予備焼成により乾燥粉体(B)が凝集した固形物(D)として得られる。次の成型工程で必要となる予備焼成粉体(E)を得るため、固形物(D)を粉砕する。粉砕方法は、特に制限はないが、例えば、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、回転ミル、振動ミル等が挙げられる。この際得られる予備焼成粉体(E)の平均粒子径(予焼メジアン径)が10μm以上100μm以下であることが好ましく、20μm以上80μm以下がより好ましく、30μm以上50μm以下であることが更に好ましく、35μm以上45μm以下であることが特に好ましい。
なお、本願明細書においては、粉砕後の予備焼成粉体(E)を触媒前駆体として記載するが、予備焼成体(C)の段階において、凝集がなく、粉砕工程を経なくても使用可能である場合には、予備焼成体(C)を触媒前駆体として用いてもよい。
【0040】
工程e)成型
成型方法に特に制限はないが円柱状、リング状に成型する際には打錠成型機、押し出し成型機などを用いた方法が好ましい。さらに好ましくは、球状に成型する場合であり、成型機で予備焼成粉体(E)を球形に成型しても良いが、予備焼成粉体(E)(必要により成型助剤、強度向上剤を含む)を不活性なセラミック等の担体に担持させる方法が好ましい。ここで担持方法としては転動造粒法、遠心流動コーティング装置を用いる方法、ウォッシュコート方法等が広く知られており、予備焼成粉体(E)が担体に均一に担持できる方法で有れば特に限定されないが、触媒の製造効率や調製される触媒の性能を考慮した場合、より好ましくは固定円筒容器の底部に、平らな、あるいは凹凸のある円盤を有する装置で、円盤を高速で回転させることにより、容器内にチャージされた担体を、担体自体の自転運動と公転運動により激しく撹拌させ、ここに予備焼成粉体(E)並びに必要により、成型助剤および/または強度向上剤、細孔形成剤を添加することにより粉体成分を担体に担持させる方法が好ましい。尚、担持に際して、バインダーを使用するのが好ましい。用いうるバインダーの具体例としては、水やエタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニルアルコール、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、エタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコールが好ましく、エチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等がより好ましい。グリセリン水溶液を適量使用することにより成型性が良好となり、機械的強度の高い、高性能触媒が得られ、具体的にはグリセリンの濃度5質量%以上の水溶液を使用した場合に特に高性能触媒が得られる。これらバインダーの使用量は、予備焼成粉体(E)100質量部に対して通常2~80質量部である。不活性担体は、通常2~8mm程度のものを使用し、これに予備焼成粉体(E)を担持させるが、その担持率は触媒使用条件、たとえば反応原料の空間速度、原料濃度などの反応条件を考慮して決定されるものであるが、通常20質量%から80質量%である。ここで担持率は、成型に使用した成型助剤や強度向上剤等がある場合、以下の式(4)のように表記される。こうして成型体(F)を得る。
本発明の製造方法では、担持成型時に不活性な無機繊維を強度向上剤として添加することが好ましく、ガラスファイバーを用いることが特に好ましい。これら繊維の使用量は、触媒活性成分固体100質量部に対して通常1~30質量部である。
なお不活性担体の材質としてはアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、ニオビア、シリカアルミナ、炭化ケイ素、炭化物、およびこれらの混合物など公知の物を使用でき、さらにその粒径、吸水率、機械的強度、各結晶相の結晶化度や混合割合なども特に制限はなく、最終的な触媒の性能、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲が選択されるべきである。
【0041】
[式(6)]
担持率(質量%)
=100×〔成型に使用した予備焼成粉体(E)の質量/(成型に使用した予備焼成粉体(E)の質量+成型に使用した不活性担体の質量)〕
なお、使用する成型助剤、強度向上剤等の添加剤が本焼成後も触媒中に残存することが明らかな場合には、総量(分母)に算入する。
【0042】
工程f)本焼成
成型体(F)は100~450℃の温度で1~12時間程度焼成することで触媒活性、有効収率が向上する傾向にある。焼成温度は270℃以上420℃以下が好ましく、350℃以上400℃以下がより好ましい。流通させるガスとしては空気が簡便で好ましいが、その他に不活性ガスとして窒素、二酸化炭素、還元雰囲気にするための窒素酸化物含有ガス、アンモニア含有ガス、水素ガスおよびそれらの混合物を使用することも可能である。こうして触媒(G)を得る。
【0043】
不飽和カルボン酸の製造方法において原料ガスの流通方法は、通常の単流通法でもあるいはリサイクル法でもよく、一般に用いられている条件下で実施することができ特に限定されない。たとえば出発原料物質としての不飽和アルデヒドが1~10容量%、好ましくは4~9容量%、分子状酸素が3~20容量%、好ましくは4~18容量%、水蒸気が0~60容量%、好ましくは4~50容量%、二酸化炭素、窒素等の不活性ガスが20~80容量%、好ましくは30~60容量%からなる混合ガスを反応管中に充填した本発明の触媒上に240~450℃で、常圧~10気圧の圧力下で、空間速度300~5000h-1で導入し反応を行う。
【実施例0044】
以下、具体例を挙げて実施例を示したが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り実施例に限定されるものではない。
【0045】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例において、転化率、有効収率、有効選択率、担持率は以下の式に従って算出した。
プロピレン転化率(%)=(反応したプロピレンのモル数)/(供給したプロピレンのモル数)×100
有効収率(%)=(生成したアクロレインおよびアクリル酸の合算モル数)/(供給したプロピレンのモル数)×100
有効選択率(%)=(生成したアクロレインおよびアクリル酸の合算モル数)/(反応したプロピレンのモル数)×100
担持率(質量%)=(成形に使用した予備焼成粉体の質量)/{(成形に使用した予備焼成粉体の質量)+(成形に使用した担体の質量)}×100
【0046】
[実施例1]
(触媒1の調製)
触媒活性成分の酸素を除いた組成比が、原子比でMo:Bi:Fe:Co:Ni:Cs=12:1.0:2.0:6.5:3.0:0.03となるように、以降に示す方法で触媒1を作製した。蒸留水を加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム(保管温度25℃の環境下で90日間、厚さ0.2mmのビニール袋に入れ、遮光率99.99%のスチールドラム缶で密閉して保管。条件1におけるexp(保管温度[℃]-50)×保管日数=1.3×10-9日)と硝酸カリウムを溶解して水溶液(調合液1)を得た。ここで、蒸留水はモリブデン酸アンモニウムの3.5倍の質量分を使用し、モリブデン酸アンモニウムの投入時の水温は85℃であった。別に、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、硝酸第二鉄を蒸留水に溶解して水溶液(調合液2)を、また、濃硝酸を加えて酸性にした蒸留水に硝酸ビスマスを溶解して水溶液(調合液3)をそれぞれ調製した。上記水溶液(調合液1)に(調合液2)、(調合液3)を順次、激しく攪拌しながら 混合し、生成した懸濁液を、スプレードライヤーを用いて乾燥し、得られた顆粒を440℃で6時間焼成し予備焼成粉末を得た。その後、予備焼成粉末に結晶セルロースを混合した粉末を不活性担体(アルミナ、シリカを主成分とする直径4.5mmの球状物質)に、上記式で定義される担持率が50質量%になるように、成型に使用する担体質量および予備焼成粉末質量を調整した。33質量%グリセリン水溶液をバインダーとして使用し、直径5.2mmの球状に担持成型して担持触媒を得た。この担持触媒を、焼成温度530℃で、4時間空気雰囲気下で焼成することで触媒1を得た。
【0047】
[実施例2]
(触媒2の調製)
実施例1において、モリブデン酸アンモニウムの保管条件を保管温度35℃の環境下で180日間、厚さ0.2mmのビニール袋に入れ、遮光率99.99%のスチールドラム缶で密閉とした(条件1におけるexp(保管温度[℃]-50)×保管日数=5.5×10-5日)以外は全く同様に触媒を作製し、触媒2を得た。
【0048】
[比較例1]
(触媒3の調製)
実施例1において、モリブデン酸アンモニウムの保管条件を保管温度60℃の環境下で6時間、厚さ0.2mmのビニール袋に入れ、遮光率99.99%のスチールドラム缶で密閉とした(条件1におけるexp(保管温度[℃]-50)×保管日数=5507日)以外は全く同様に触媒を作製し、触媒3を得た。
【0049】
[比較例2]
実施例1において、モリブデン酸アンモニウムの保管条件を保管温度60℃の環境下で9時間、厚さ0.2mmのビニール袋に入れ、遮光率99.99%のスチールドラム缶で密閉とした(条件1におけるexp(保管温度[℃]-50)×保管日数=8260日)以外は全く同様に触媒を作製したが、調合液を乾燥のためスプレードライヤーに送液時、配管内でモリブデン酸アンモニウムの不溶分とみられる残渣による目詰まりが発生し、それ以降触媒を製造することができなかった。
【0050】
[参考比較例1]
(触媒4の調製)
実施例1において、モリブデン酸アンモニウムの保管条件を保管温度35℃かつ1日の平均全天日射量が27MJ/mの環境下で14日間(条件2における累積の全天日射量が380MJ/m)、透湿度が4.8g/(m・24時間)の透明ビニール袋に入れた以外は全く同様に触媒を作製し、触媒4を得た。
【0051】
[参考比較例2]
(触媒5の調製)
実施例1において、モリブデン酸アンモニウムの保管条件を保管温度35℃かつ絶対湿度が20g/mの遮光された環境下で15時間ビニール袋に入れなかった(条件3における(保管絶対湿度[g/m])×保管日数[日]=12.5日・g/m)以外は全く同様に触媒を作製し、触媒5を得た。
【0052】
[参考比較例3]
実施例1において、モリブデン酸アンモニウムの保管条件を保管温度35℃かつ1日の平均全天日射量が29MJ/mの遮光された環境下で30日間(条件2における累積の全天日射量が857MJ/m)、透湿度が4.8g/(m・24時間)の透明ビニール袋に入れた以外は全く同様に触媒を作製したが、調合液を乾燥のためスプレードライヤーに送液時、配管内でモリブデン酸アンモニウムの不溶分とみられる残渣による目詰まりが発生し、それ以降触媒を製造することができなかった。
【0053】
[参考比較例4]
実施例1において、モリブデン酸アンモニウムの保管条件を保管温度35℃かつ絶対湿度が19g/mの遮光された環境下で46時間ビニール袋に入れなかった条件3における(保管絶対湿度[g/m]×保管日数[日]=36.4日・g/m)以外は全く同様に触媒を作製したが、スプレードライヤー内のアトマイザー周辺にて、調合液の不溶分とみられる残渣による目詰まりが発生し、それ以降触媒を製造することができなかった。
【0054】
触媒1から触媒5を用いて、以下の方法によりプロピレンの酸化反応を実施し、原料転化率および有効収率を求めた。内径22mmステンレス鋼反応管に触媒を47.8mL充填し、ガス体積比率がプロピレン:酸素:水蒸気:窒素=1.00:1.65:1.27:9.53の混合ガスを反応管内の全触媒に対するプロピレン空間速度110hr-1で導入し、プロピレンの酸化反応を実施した。反応浴温度315℃にて反応開始から20時間以上のエージング反応後、反応浴温度320℃における反応管出口ガスの分析より、表1に示す原料転化率および有効収率を求めた。
【0055】
【表1】
【0056】
表1より、モリブデン酸アンモニウムの保管条件が本発明の範囲にある触媒1、触媒2は、優位に高い有効収率を示すことがわかる。このようなモリブデン酸アンモニウムの保管条件が、最終製品としての触媒の性能や安定な触媒製造方法と関連していることは、当業者にとって公知ではなく、本発明者らによって明らかにされたと言える。
【0057】
[実施例3]
(触媒6の調製)
触媒活性成分の酸素を除いた組成比が、原子比でMo:Bi:Fe:Co:Ni:Cs=12:1.7:1.8:7.2:0.8:0.2となるよう、以降に示す方法で触媒9を作製した。ヘプタモリブデン酸アンモニウム(保管温度25℃の環境下で75日間、厚さ0.2mmのビニール袋に入れ、遮光率99.99%のドラム缶で密閉して保管。条件1におけるexp(保管温度[℃]-50)×保管日数=1.0×10-9日)を80℃に加温した純水に完全溶解させた(母液1)。ここで、蒸留水はモリブデン酸アンモニウムの3.6倍の質量分を使用し、モリブデン酸アンモニウムの投入時の水温は82℃であった。次に、硝酸セシウムを純水に溶解させて、母液1に加えた。次に、硝酸第二鉄、硝酸コバルト及び硝酸ニッケルを60℃に加温した純水に溶解させ、母液1に加えた。続いて、硝酸を60℃に加温した純水に硝酸(60質量%)を加えて調製した硝酸水溶液に溶解させ、母液1に加えた。この母液1をスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥粉体を440℃、5時間の条件で予備焼成した。こうして得られた予備焼成粉体(上述の組成比を有する)に結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして33質量%グリセリン溶液を予備焼成粉体に対して用い、不活性の担体に担持率が40質量%となるように球状に担持成形した。こうして得られた粒径4.4mmの球状成形品を、520℃、5時間の条件で焼成し、本発明の触媒6を得た。
【0058】
触媒6を、以下の方法により反応評価した。触媒量として34mlをステンレス鋼反応管に充填し、ガス体積比率がイソブチレン:酸素:窒素:水蒸気=1:2.2:12.5:1.0の混合ガスを用い、出口圧力50kPaG下、GHSV1500hr-1の条件で、反応浴温度350℃にてTOS20時間以上のエージング反応後、反応管出口で、コンデンサーにより凝縮液成分とガス成分を分離し、ガスおよび凝縮液中の各成分を各々水素炎イオン化検出器と熱伝導検出器が装着されたガスクロマトグラフで定量分析した。ガスクロマトグラフにより得られた各データはファクター補正し原料転化率、有効収率を算出した。
触媒6の反応成績として、350℃のエージング後に反応浴温度:345℃にてイソブチレン転化率:99.1%、有効収率:82.3%であった。
【0059】
[実施例4]
(触媒7の調製)
触媒活性成分の酸素を除いた組成比が、原子比でMo12V3.0W1.3Cu1.2Sb0.5となるよう、以降に示す方法で触媒7を作製した。パラタングステン酸アンモニウムを95℃に加温した蒸留水に完全溶解させた。ここで、蒸留水はモリブデン酸アンモニウムの4.8倍の質量分を使用し、モリブデン酸アンモニウムの投入時の水温は98℃であった。この溶液を撹拌しながら、次に、メタバナジン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム(保管温度25℃の環境下で90日間、厚さ0.2mmのビニール袋に入れ、遮光率99.99%のドラム缶で密閉して保管。条件1におけるexp(保管温度[℃]-50)×保管日数=1.3×10-9日)、酢酸アンチモンを徐々に加え、十分に撹拌した。次に、80℃に加温した純水に硫酸銅を加え完全溶解させた溶液を上記溶液に加え、撹拌混合した。この調合液(A)をスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥粉体(B)を350℃、4時間の条件で予備焼成し、予備焼成粉体(C)を得た。得られた予備焼成粉体(C)を振動ミルで粉砕し、予備焼成粉体(E)を得た。予備焼成粉体(E)に対して結晶性セルロース及び、強度助剤を添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして20質量%グリセリン溶液を用い、シリカとアルミナの混合物から成る不活性の球状担体に、担持率が33質量%となるように、球状に担持成型した。次に375℃、4時間の条件で本焼成を行って、本発明の球状の触媒7を得た。
【0060】
得られた触媒7をもちいて酸化反応を行った。触媒7、67.6mlを内径28.4mmの反応管に充填し、モリブデン―ビスマス系触媒を用いてプロピレンを気相接触酸化して得られたガスに酸素と窒素を追加した下記組成のガスを導入し、SV(空間速度;単位時間当たりの原料ガスの流量/充填した触媒の見かけ容量)を1020/hr、反応浴温度260℃で反応を行った。
アクロレイン 5.9vol%
未反応プロピレン+その他有機化合物 1.7vol%
酸素4.7vol% 17.2vol%
窒素含有不活性ガス 70.5vol%
触媒7の反応成績として、アクロレイン転化率は99.4%、アクリル酸選択率は96.7%であった。
【0061】
実施例3および実施例4記載の通り、イソブチレンからメタクロレインの製造およびアクロレインからアクリル酸の製造においても、本発明の条件で保管されたモリ安を使用することにより、優位な触媒性能を発現できることが分かった。
以上より、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造触媒において、本願の保管条件を満たすモリ安を使用した触媒は、工業触媒として現実的な保管条件において優位かつ安定な性能を発現できることが分かった。
【0062】
[実施例5]
(触媒8の調製)
実施例1において、モリブデン酸アンモニウムの保管条件を保管温度60℃の環境下で5時間、厚さ0.2mmのビニール袋に入れ、遮光率99.99%のスチールドラム缶で密閉とした(条件1におけるexp(保管温度[℃]-50)×保管日数=4589日)以外は全く同様に触媒を作製し、触媒8を得た。
【0063】
[実施例6]
(触媒9の調製)
実施例1において、モリブデン酸アンモニウムの保管条件を保管温度35℃かつ1日の平均全天日射量が6.3MJ/mの環境下で25日間(条件2における累積の全天日射量が158MJ/m)、透湿度が4.8g/(m・24時間)の透明ビニール袋に入れた以外は全く同様に触媒を作製し、触媒9を得た。
【0064】
[実施例7]
(触媒10の調製)
実施例1において、モリブデン酸アンモニウムの保管条件を保管温度22℃かつ絶対湿度が13g/mの遮光された環境下で8時間ビニール袋に入れなかった(条件3における(保管絶対湿度[g/m])×保管日数[日]=4.4日・g/m)以外は全く同様に触媒を作製し、触媒10を得た。
【0065】
[実施例8]
(触媒11の調製)
実施例1において、モリブデン酸アンモニウムの保管条件を保管温度4℃の環境下で28日間、厚さ0.2mmのビニール袋に入れ、遮光率99.99%にて冷蔵庫内で保管した(条件1におけるexp(保管温度[℃]-50)×保管日数=2.9×10-19日)以外は全く同様に触媒を作製し、触媒11を得た。
【0066】
[実施例9]
(触媒12の調製)
実施例1において、モリブデン酸アンモニウムの保管条件を保管温度22℃かつ絶対湿度が5.4g/mの遮光された環境下で2時間ビニール袋に入れなかった(条件3における(保管絶対湿度[g/m])×保管日数[日]=0.5日・g/m)以外は全く同様に触媒を作製し、触媒12を得た。
【0067】
[実施例10]
(触媒13の調製)
実施例1において、モリブデン酸アンモニウムの保管条件を保管温度22℃かつ絶対湿度が13g/mの遮光された環境下で20.5時間ビニール袋に入れなかった(条件3における(保管絶対湿度[g/m])×保管日数[日]=11.2日・g/m)以外は全く同様に触媒を作製し、触媒13を得た。
【0068】
触媒8から触媒13を用いて、触媒1から触媒5と全く同様にプロピレンの酸化反応を実施し、原料転化率および有効収率を求めた。実施例1および実施例2、比較例1および比較例2、および参考比較例1から参考比較例4までの保管条件とあわせ、実施例5から実施例10までの原料転化率、有効収率、および有効選択率を求めた結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2より、表1における条件1の知見に加え、条件2および条件3により製造された触媒9、触媒10、触媒12、触媒13も、優位に高い有効選択率を示すことがわかる。このようなモリブデン酸アンモニウムの保管条件が、最終製品としての触媒の性能や安定な触媒製造方法と関連していることは、当業者にとって公知ではなく、本発明者らによって明らかにされたと言える。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のモリブデン酸アンモニウムの保管条件により、モリブデンを必須の活性成分とした不飽和アルデヒド、および不飽和カルボン酸製造用触媒において、安定な触媒製造が可能となり、さらに高収率な触媒性能を得ることが可能である。