(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144117
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】コイル成形装置及びコイル成形方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/04 20060101AFI20241003BHJP
H02K 15/085 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H02K15/04 A
H02K15/085
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024011020
(22)【出願日】2024-01-29
(31)【優先権主張番号】202310320196.1
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】落合 順也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英司
(72)【発明者】
【氏名】松本 豊
(72)【発明者】
【氏名】辻井 杜夢
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP14
5H615QQ03
5H615QQ06
5H615QQ12
5H615SS04
5H615SS10
(57)【要約】
【課題】帯状コイルをコイル巻取治具に巻き取るに際し、帯状コイルを、既定の外径寸法の維持が阻害されないように成形することができるコイル成形装置を提供すること。
【解決手段】複数の直状部6と複数の直状部6の両端それぞれに連なる側端部7とを有する帯状コイル2を、案内部材17により側端部を案内して旋回軌跡を描くように搬送するコイル搬送機構4と、コイル搬送機構により旋回搬送区間を搬送される帯状コイルを、複数の直状部を複数の櫛歯状溝15に挿入することによって巻き取るように回動するコイル巻取治具3と、回動する帯状コイルの側端部に、回動に関する外周側から自己の矯正面25で摺接するように配され、矯正面は搬送方向に直交する幅方向の側端部を収める幅を有し、当該摺接する側端部の姿勢を、対応する直状部の仮想延長線よりも外周側の領域に入り込まない姿勢となるように矯正する矯正部材18とを備えた。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の直状部と、前記複数の直状部の両端それぞれに連なる側端部と、を有する帯状コイルを、所定の旋回搬送区間では、案内部材により前記側端部を案内して旋回軌跡を描くように搬送するコイル搬送機構と、
前記コイル搬送機構により前記旋回搬送区間を搬送される前記帯状コイルを、前記複数の直状部を複数の櫛歯状溝にそれぞれ挿入することによって巻き取るように回動するコイル巻取治具と、
前記コイル巻取治具に巻き取られて回動する前記帯状コイルにおける前記側端部に、回動に関する外周側から自己の矯正面で摺接するように配され、前記矯正面は前記側端部の搬送方向に直交する幅方向の端部を収める幅を有し、当該摺接する側端部の姿勢を、対応する前記直状部の仮想延長線よりも外周側の領域に入り込まない姿勢となるように矯正する矯正部材を備えたことを特徴とするコイル成形装置。
【請求項2】
複数の直状部と、前記複数の直状部の両端それぞれに連なる側端部と、を有する帯状コイルを、所定の旋回搬送区間では、案内部材により前記側端部を案内して旋回軌跡を描くように搬送するコイル搬送工程と、
前記コイル搬送工程により前記旋回搬送区間を搬送される前記帯状コイルを、前記複数の直状部を、回動するコイル巻取治具の複数の櫛歯状溝にそれぞれ挿入することによって巻き取るコイル巻取工程と、
前記コイル巻取工程により前記コイル巻取治具に巻き取られて回動する前記帯状コイルにおける前記側端部に、その回動に関する外周側から矯正部材の矯正面を、前記側端部の搬送方向に直交する幅方向の端部を収めるように摺接させて、当該摺接する側端部の姿勢を、対応する前記直状部の仮想延長線よりも外周側の領域に入り込まない姿勢となるように矯正する矯正工程とを含むことを特徴とするコイル成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル成形装置及びコイル成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機のステータは、巻回状態の帯状コイルを有する。帯状コイルは、予め、ステータコアの内径よりも小径の略円筒状の巻回状態に成形され、ステータコアの内側に挿入される。巻回状態の帯状コイルは、ステータコアの内側で拡径され、帯状コイルの直状部をステータコアのスロットに挿入することによって装着される。
【0003】
従来、帯状コイルを、円柱状のコイル巻取治具に対して1ピッチずつ送り込みながらコイル巻取治具に巻き取ることによって、略円筒状の巻回状態に成形することが知られている(例えば、特許文献1参照)。コイル巻取治具にコイルを巻き取って巻回状態に成形する際、複数の直状部が位置ずれしないように精度よく巻き取ることが重要である。上記従来技術は、帯状コイルの搬送経路上のコイル巻取治具の直前の位置において、隣り合う直状部間に予備整列部材を挿入することによって、コイル巻取治具に巻き取られる直前の直状部の重ね合わせを揃えるようにしている。
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、帯状コイルをどのようにしてコイル巻取治具まで搬送して巻き取るのかについての具体的な開示はなく、特に、コイル巻取治具に巻き取るに際し、帯状コイルに対してコイル巻取治具の外周に沿うように円弧状に癖付けするための方途については別段の視点が示されない。この癖付けが良好に行われないと、帯状コイルは仕様どおりの巻回状態に到れず、品質不良を来すおそれがある。品質不良の発生は材料消費の増加を招来し、資源の無駄な消費につながる。また、計画した生産数量を達成するに要する製造装置の運転時間が延長され、電力消費が増加する。このため、ひいては、地球環境に悪影響を及ぼすこととなる。
【0005】
本件出願人は、上記事情に鑑み、帯状コイルをコイル巻取治具に巻き取るに際し、帯状コイルに対してコイル巻取治具の外周に沿うように的確に円弧状に癖付けして、所定の巻回状態に容易に成形することができる技術を開発し、日本国にて特許を取得している(特許文献2)。十分に円弧状に癖付けされた帯状コイルは、回転電機のステータコアのスロットに挿入されると、それ自体のスプリングバックにより、スロット内で帯状コイルの複数の線状導体がばらけずに整列した状態を維持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4953032号公報
【特許文献2】特許第7222007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、発明者等は、円弧状に癖付けされた帯状コイルの側端部では、コイル導体が重なり合っており、直状部の延長方向から曲がった形状を呈してしまう現象があるという知見を得た。この現象が発生すると、帯状コイルは、回転電機のステータコアのスロットに挿入する際の外径寸法に関する仕様を満たさなくなってしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、帯状コイルをコイル巻取治具に巻き取るに際し、帯状コイルを、既定の外径寸法の維持が阻害されないように成形することができるコイル成形装置及びコイル成形方法を提供することを目的とする。帯状コイルを、不良品を出すことなく高い歩留まりで所定の巻回状態に加工することができれば、資源の無駄な消費を抑制し、製造装置の運転時間を抑えて、電力エネルギーを節約できるため、地球環境の保全に寄与することになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 本開示に係るコイル成形装置(例えば、後述するコイル成形装置1)は、複数の直状部(例えば、後述する直状部6)と、前記複数の直状部の両端それぞれに連なる側端部(例えば、後述する側端部7)と、を有する帯状コイル(例えば、後述する帯状コイル2)を、所定の旋回搬送区間(例えば、後述する旋回搬送区間S2を含む区間)では、案内部材(例えば、後述する案内部材17)により前記側端部を案内して旋回軌跡を描くように搬送するコイル搬送機構(例えば、後述するコイル搬送機構4)と、前記コイル搬送機構により前記旋回搬送区間を搬送される前記帯状コイルを、前記複数の直状部を複数の櫛歯状溝(例えば、後述する櫛歯状溝15)にそれぞれ挿入することによって巻き取るように回動するコイル巻取治具(例えば、後述するコイル巻取治具3)と、前記コイル巻取治具に巻き取られて回動する前記帯状コイルにおける前記側端部に、回動に関する外周側から自己の矯正面(例えば、後述する矯正面25)で摺接するように配され、前記矯正面は前記側端部の搬送方向に直交する幅方向の端部を収める幅を有し、当該摺接する側端部の姿勢を、対応する前記直状部の仮想延長線(例えば、後述する仮想延長線Lv)よりも外周側の領域に入り込まない姿勢となるように矯正する矯正部材(例えば、後述する矯正部材18)を備えたことを特徴とする。
【0010】
(2) 本発明に係るコイル成形方法は、複数の直状部(例えば、後述する直状部6)と、前記複数の直状部の両端それぞれに連なる側端部(例えば、後述する側端部7)と、を有する帯状コイル(例えば、後述する帯状コイル2)を、所定の旋回搬送区間(例えば、後述する旋回搬送区間S2を含む区間)では、案内部材(例えば、後述する案内部材17)により前記側端部を案内して旋回軌跡を描くように搬送するコイル搬送工程と、前記コイル搬送工程により前記旋回搬送区間を搬送される前記帯状コイルを、前記複数の直状部を、回動するコイル巻取治具(例えば、後述するコイル巻取治具3)の複数の櫛歯状溝(例えば、後述する櫛歯状溝15)にそれぞれ挿入することによって巻き取るコイル巻取工程と、前記コイル巻取工程により前記コイル巻取治具に巻き取られて回動する前記帯状コイルにおける前記側端部に、その回動に関する外周側から矯正部材(例えば、後述する矯正部材18)の矯正面(例えば、後述する矯正面25)を、前記側端部の搬送方向に直交する幅方向の端部を収めるように摺接させて、当該摺接する側端部の姿勢を、対応する前記直状部の仮想延長線(例えば、後述する仮想延長線Lv)よりも外周側に屈曲しないように矯正する矯正工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記(1)に記載のコイル成形装置によれば、帯状コイルの側端部が、矯正部材の矯正面で摺接して押圧されることにより、その姿勢が、対応する前記直状部の仮想延長線よりも外周側の領域に入り込まない姿勢となるように矯正される。これにより、概略円筒状に成形された帯状コイルを回転電機のステータ内へ挿入して組付けるに際し、帯状コイルの側端部が他部品と干渉してしまうことを防止でき、高品質なステータコイルを提供することができる。
【0012】
上記(2)に記載のコイル成形方法によれば、帯状コイルの側端部が、矯正部材の矯正面で摺接して押圧されることにより、その姿勢が、対応する前記直状部の仮想延長線よりも外周側の領域に入り込まない姿勢となるように矯正される。これにより、概略円筒状に成形された帯状コイルを回転電機のステータ内へ挿入して組付けるに際し、帯状コイルの側端部が他部品と干渉してしまうことを防止でき、高品質なステータコイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示のコイル成形装置を示す側面図である。
【
図2】
図1のコイル成形装置で成形する帯状コイルを示す図である。
【
図3】
図1のコイル成形装置におけるコイル巻取治具を示す模式図である。
【
図4】
図3のコイル巻取治具に帯状コイルを巻き取った様子を示す模式図である。
【
図5】
図1のコイル成形装置における矯正部材周りの構成を示す図である。
【
図6】
図1のコイル成形装置の部分を左側から正面視した様子を示す図である。
【
図7】
図1のコイル成形装置の部分を右側から正面視した様子を示す図である。
【
図8】
図1のコイル成形装置における矯正部材の作用を説明する模式図である。
【
図10】
図1のコイル成形装置における矯正部材の作用を説明する模式図である。
【
図11】
図5の矯正部材で姿勢を矯正された帯状コイルの部分を右側から正面視した様子を示す図である。
【
図12】
図5の矯正部材で姿勢を矯正された帯状コイルを左側から正面視した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示のコイル成形装置について図面を参照して説明する。
図1は、本開示のコイル成形装置1を示す側面図である。
図2は、コイル成形装置1で成形する帯状コイル2を示す図である。
図1では、帯状コイル2を除いた状態でのコイル成形装置1が示されている。コイル成形装置1で帯状コイル2を成型するに際しては、
図2に示されるように、コイル成形装置1のコイル搬送機構4における搬送体5により帯状コイル2を把持した状態で、コイル搬送機構4の直線搬送区間S1から、この区間に続く旋回搬送区間S2にわたって帯状コイル2を搬送する過程で、帯状コイル2を円弧状に癖付けしながらコイル巻取治具3に巻き取らせる。
図3に、コイル巻取治具3が模式的な斜視図として示され、
図4に、コイル巻取治具3に帯状コイル2を巻き取った様子が模式的な斜視図として示されている。
【0015】
図2には、コイル搬送機構4の直線搬送区間S1において帯状コイル2が把持された状態が示される。帯状コイル2は、外表面に絶縁層を有する断面形状が略矩形状の導体線条体であるコイル導体2aにより構成され、所定の型巻コイルの成形処理により長尺な波型帯状を呈している。帯状コイル2は、複数の平行な直状部6と、複数の直状部6の両端それぞれに連なる側端部7とを有し、直状部6に直交する方向に帯状に延びている。直状部6は、図示しない回転電機のステータコアの内周に設けられるスロット内に挿入される部位であり、それぞれ同一方向に直線状をなし、一定の間隔で平行に延びている。側端部7は、直状部6の延び方向の両端部にそれぞれ連なる。
【0016】
側端部7それぞれは、2本の直状部6と2本の側端部7で形成されるループ形状における、隣り合う直状部6の一方端部同士と他方端部同士とを山型状に交互に連結する形態で、直状部6のピッチでずれて重なっている。側端部7は、帯状コイル2が回転電機のステータコアのスロットに装着された際に、スロットからステータコアの軸方向にそれぞれ突出するコイルエンド部を構成する。
【0017】
コイル搬送機構4は、搬送体5の移動によって帯状コイル2を搬送する。搬送体5は、概略矩形の板状をなす同一構造の複数の駒部材8がその厚み方向に沿って重ねて連結されて構成される。複数の駒部材8それぞれは、平行な一対の搬送レール9に案内されて、積層状に整列して移動する。一対の搬送レール9は、コイル搬送機構4の直線搬送区間S1から旋回搬送区間S2を経て直線逆搬送区間S3にわたって設けられ、一定の幅寸法を有する板状の部材で構成される。
【0018】
搬送レール9は、
図1における側面視で、直線搬送区間S1から旋回搬送区間S2を経て直線逆搬送区間S3にわたる、横向きU字状の搬送経路を形成している。複数の駒部材8それぞれは、それらの上端面に第1把持爪10及び第2把持爪11が厚み方向に離隔して突設されている。搬送体5において、積層状に整列して隣り合う駒部材8相互の、一方の駒部材8の第1把持爪10と他方の駒部材8の第2把持爪11との間に、帯状コイル2の直状部6を把持する把持溝12が形成される。
【0019】
コイル搬送機構4は、搬送体5におけるこの把持溝12に直状部6を把持して、帯状コイル2を直線搬送区間S1から旋回搬送区間S2へと搬送する。なお、複数の駒部材8それぞれは、それらの下端面近傍に、把持溝12の延び方向である幅方向の両側に突設された不図示のガイド突起を有する。駒部材8それぞれは、そのガイド突起が、一対の搬送レール9それぞれの対向面に搬送レール9の延び方向に沿って設けられた不図示のガイド溝に摺動可能に収容されて案内される。なお、
図2では、帯状コイル2を部分的に表しているが、本開示の帯状コイル2は、コイル巻取治具3に複数回にわたり巻回される長さを有する。
【0020】
上述の、直線搬送区間S1、旋回搬送区間S2、直線逆搬送区間S3は、駒部材8の搬送における搬送区間の区分であるが、直線搬送区間S1および旋回搬送区間S2は、そのまま帯状コイル2の搬送経路の区分に対応している。直線搬送区間S1では、帯状コイル2を把持した駒部材8の連なりがコイル巻取治具3に向けて直線的に搬送される。直線搬送区間S1に続く旋回搬送区間S2では、駒部材8の連なりが円弧状に旋回搬送される過程で、後述する案内部材17によって、駒部材8に把持されていた帯状コイル2が、コイル巻取治具3に順次移されて巻き取られる。旋回搬送区間S2に続く直線逆搬送区間S3では、帯状コイル2を手放した後の駒部材8の連なりが、直線搬送区間S1とは逆向きに、直線状に搬送される。
【0021】
コイル搬送機構4のコイル巻取治具3が、
図3および
図4に示されている。コイル巻取治具3は、略円筒状の治具本体13と、治具本体13の外周に放射状に突出する複数の櫛歯部14と、周方向に隣り合う櫛歯部14の間に設けられる複数の櫛歯状溝15と、治具本体13の中心に開口する軸孔16と、を有する。櫛歯部14及び櫛歯状溝15は、治具本体13の軸方向の両端部にそれぞれ設けられる。治具本体13の一方端部の櫛歯部14及び櫛歯状溝15と他方端部の櫛歯部14及び櫛歯状溝15との周方向の位相は揃えられている。本開示のコイル巻取治具3は、治具本体13の軸方向の両端部に、それぞれ72個ずつの櫛歯状溝15を有する。この櫛歯状溝15の数は、帯状コイル2が装着される回転電機におけるステータコアのスロットの数に一致している。
【0022】
治具本体13の一方端部の櫛歯部14及び櫛歯状溝15と他方端部の櫛歯部14及び櫛歯状溝15との間の離隔距離は、帯状コイル2の直状部6の延び方向の長さに略等しい。したがって、帯状コイル2の直状部6は、治具本体13の一方端部の櫛歯状溝15と他方端部の櫛歯状溝15とに亘って収容可能である。
【0023】
コイル巻取治具3は、回転電機のステータコアの内側に挿入可能となるように、櫛歯部14の放射方向の長さによって規定されるコイル巻取治具3の外径が、ステータコアの内径以下となるように形成される。コイル巻取治具3は、コイル成形装置1の所定の部位に配置され、図示しないモータによって駆動され、軸孔16を中心にして、
図1における側面視で時計方向に回転可能に設けられる。
図4に示すように、帯状コイル2は、略円筒状の巻回状態に成形される。巻回状態の帯状コイル2は、その側端部7のコイル導体2aが櫛歯状溝15からその延び方向に突出する一方、直状部6のコイル導体2aが櫛歯状溝15内に収容されているため、位置ずれするおそれはない。したがって、帯状コイル2は、略円筒状の巻回状態を安定して保持することができる。本開示の帯状コイル2は、コイル巻取治具3の複数回の回転により、コイル巻取治具3に多重巻きされる。
【0024】
図1に、
図5、
図6および
図7を併せ参照して、コイル搬送機構4において帯状コイル2の側端部7を案内する案内部材17と、コイル巻取治具3に巻き取られる際の帯状コイル2の側端部7の姿勢を矯正する矯正部材18周りの構成について説明する。
図5は、
図1のコイル成形装置1における矯正部材18周りの構成を拡大して示す図である。
図6は、
図1のコイル成形装置1の部分を左側から正面視した様子を示す図である。
図7は、
図1のコイル成形装置1の部分を右側から正面視した様子を示す図である。
図5、
図6および
図7において、
図1との対応部には同一の符号が附されている。案内部材17は、帯状コイル2の搬送に係る直線搬送区間S1から旋回搬送区間S2に移行する旋回開始位置P1から、帯状コイル2を、次第に旋回半径方向内向きに向かう旋回軌跡を描くように案内して搬送する部材である。矯正部材18は、自己の下面の部分である摺接面23で、帯状コイル2に対し側面視で円弧状の癖付けをすると共に、自己の上面の部分である矯正面25で、帯状コイル2の側端部7の姿勢を矯正する部材である。
【0025】
案内部材17は、
図2の一対の搬送レール9の両外側に設けられた一対の板状の部材であり、コイル成形装置1を側面視した
図1では、手前側の案内部材17が示される。
図1における側面視にて奥側の案内部材17は手前側の案内部材17と同形同寸法で、かつ、面対称に配置される。このため、これ以降、案内部材17に関しては、
図1に表された手前側の案内部材17について代表的に説明する。
【0026】
本開示のコイル成形装置1における案内部材17は、旋回搬送区間S2に対応する領域に配置された第1案内部材19の部分と、旋回搬送区間S2に時計回りに連なる領域に配置された第2案内部材20の部分とを含む。第1案内部材19は、旋回搬送区間S2の全域に対応して、
図1における側面視で、コイル巻取治具3の外周近傍における左側の半円弧状の領域に配置される。
【0027】
第1案内部材19は、旋回搬送区間S2の旋回開始位置P1から終端位置P2までの区間における、側面視で時計回りに次第に旋回半径方向内向きに向かう曲線状の第1案内面部21を有する。第1案内面部21は、その一部または全部の領域で、帯状コイル2を、次第に旋回半径方向内向きに向かう旋回軌跡を描くように案内する。第1案内面部21は、旋回搬送区間S2を旋回搬送される過程の帯状コイル2を、摺接して押圧し、搬送体5側からコイル巻取治具3側に移す。
【0028】
詳細には、搬送体5における一連の複数の駒部材8間に形成された把持溝12それぞれに直状部6が把持されて搬送体5に把持された形態で旋回搬送中の帯状コイル2に対し、第1案内部材19が次のように作用する。第1案内部材19における側面視で時計回りに次第に旋回半径方向内向きに向かう曲線状の第1案内面部21が、側端部7のコイル導体2aを摺接して押圧する。第1案内面部21によるこの摺接と押圧で、直状部6のコイル導体2aが把持溝12から離脱してコイル巻取治具3側の櫛歯状溝15に次々に移される。このようにして、帯状コイル2が搬送体5の駒部材8から離脱して、コイル巻取治具3側に巻き取られる。
【0029】
第2案内部材20は、
図1における側面視で、旋回搬送区間S2の終端位置P2から、コイル巻取治具3の右側の外周近傍における半円弧状の領域の全域にわたって、自己の第2案内面部22が位置するように配置される部材である。第2案内部材20は、右半円弧状の第2案内面部22を左端部とし、第2案内面部22からその背後側、即ち、
図1における右側に一定の広がりを持ち、直線搬送区間S1および直線逆搬送区間S3と直交する直線状の部分を右端部20aとする板状の部材である。第2案内部材20の上端部と下端部は、搬送レール9における直線逆搬送区間S3と直線搬送区間S1との間の領域に位置する。
【0030】
第2案内面部22は、上述の第1案内部材19の第1案内面部21によって、搬送体5の駒部材8から離脱して、コイル巻取治具3側に巻き取られた帯状コイル2の側端部7のコイル導体2aに対し、摺接して押圧するように作用する。即ち、第2案内部材20の第2案内面部22は、第2案内部材20における側面視で時計回りに次第に旋回半径方向内向きに向かう曲線状の第2案内面部22が、コイル巻取治具3の回転に伴い、側端部7のコイル導体2aを摺接して押圧する。これにより、第1案内面部21によって搬送体5側からコイル巻取治具3の櫛歯状溝15における最外周の位置に移された順次の直状部6のコイル導体2aが、次の周回で重ねられたコイル導体2aを介して最外周から2番目の外周位置へと押圧されて、櫛歯状溝15に既定の深さまで入り込む。この結果、帯状コイル2は、直状部6のコイル導体2aが櫛歯状溝15に多重に重ねて押し込まれた正規の形態でコイル巻取治具3に巻き付けられる(
図4)。
【0031】
第2案内部材20の下端近傍に、矯正部材18が設けられる。矯正部材18は、第2案内部材20の厚み方向(即ち、
図1の紙面に垂直な方向)を自己の幅方向とし、第2案内部材20の右端部20a側から直線搬送区間S1の延長方向に延びた、平面視で矩形の板状部材である。矯正部材18は、旋回開始位置P1を含む直線搬送区間S1と旋回搬送区間S2にまたがる領域で、搬送される帯状コイル2に対向して摺接する摺接面23を有する。
図1において、摺接面23は、矯正部材18の下面である。
図6に示されるように、帯状コイル2は、一対の平行な直状部6,6とそれらに連なって直状部6,6を結ぶ側端部7のコイル導体2aが、自己の直下に位置するコイル導体2aと重畳して交差する状態で、摺接面23と第1案内面部21とに挟まれて移動する。摺接面23は、帯状コイル2の搬送方向における端部24で側端部7のコイル導体2aに摺接し、この摺接部位を力点としてコイル導体2aに曲げ応力を作用させて、側端部7を円弧状にたわませ、癖付けする。
【0032】
矯正部材18における摺接面23とは反対側の面である上面には、部分的に端部24に向けて厚み寸法が小さくなる、側面視で円弧状の凹面である矯正面25が形成されている。矯正面25の凹面曲率は、正規に巻回された状態での帯状コイル2における側端部7の周方向の包絡線の曲率に対応している。矯正面25は、帯状コイル2の側端部7の搬送方向に直交する幅方向の端部を収めるようにその幅と位置とが選択されている。矯正面25は、コイル巻取治具3に巻き取られて回動する帯状コイル2における側端部7のコイル導体2aに、当該回動に関する外周側から摺接して、側端部7のコイル導体2aの姿勢を、対応する直状部6のコイル導体2aの延長方向から外周側に入り込まないように矯正する。
【0033】
図6を参照すると、帯状コイル2の側端部7のコイル導体2aが、第1案内部材19により、
図6にて紙面の奥側に案内されて、帯状コイル2のそれぞれの直状部6が、コイル巻取治具3の初回の周回で櫛歯部14間に移されて一重巻きされた後、さらなる周回で、多重巻きされた状態にある。
【0034】
図7を参照すると、コイル巻取治具3の初回の周回に伴って、コイル巻取治具3の最外周位置に一重巻きされた直状部6が、次の周回で最外周に位置する直状部6を介して最外周から2番目の位置に押し込まれて、コイル巻取治具3に多重巻きされた状態にある。この押し込みは、帯状コイル2の側端部7のコイル導体2aが、第2案内部材20により
図7にて紙面の奥側に案内されて行われる。
図6および
図7において、コイル巻取治具3に巻回された帯状コイル2から、直状部6のコイル導体2aの延長方向と同方向に複数の口出し線7aが延び出している。
【0035】
帯状コイル2は、
図1および
図5を参照して説明したように、円弧状に癖付けされ、その上でコイル巻取治具3の外周近傍に多重巻きされる。この多重巻きに際して、帯状コイル2の側端部7では、コイル導体2aが重なり合っており、直状部6の仮想延長線Lvよりも外周側にはみ出した部分あるような曲がった姿勢を呈してしまう。本開示のコイル成形装置1では、帯状コイル2の側端部7において、このように直状部6の仮想延長線Lvよりも外周側にはみ出そうとする側端部7のコイル導体2aの部分を、矯正部材18の矯正面25により摺接して押圧し、姿勢を矯正している。
【0036】
上述したように、矯正面25は、帯状コイル2の側端部7の搬送方向に直交する幅方向の端部を収めるようにその幅と位置とが選択されている。このため、矯正面25は、側端部7のコイル導体2aを、その搬送方向に直交する幅方向の端部まで含むように摺接して押圧する。このため、側端部7の姿勢に関する十全な矯正が行われる。
【0037】
次に、
図8、
図9および
図10を参照して、矯正部材18の作用を説明する。
図8は、
図1と同じ側面視で矯正部材18の作用を説明する模式図である。
図9は、
図8のサークルC1の部分に対応する部分拡大図である。
図10は、右側からの正面視で矯正部材18の作用を説明する模式図である。
図8、
図9および
図10において、
図1との対応部には同一の符号が附されている。
【0038】
帯状コイル2のコイル導体2aは、第1案内部材19の第1案内面部21に案内されて旋回搬送されるに際して、矯正部材18下面の摺接面23で円弧状に癖付けされる。癖付けされたコイル導体2aは、コイル巻取治具3の時計方向の回動と共に第1案内面部21に案内されて、櫛歯状溝15に順次入り込む。櫛歯状溝15内のコイル導体2aは、コイル巻取治具3の時計方向の回動により、第2案内部材20による案内を受ける領域に持ち来される。
【0039】
第2案内部材20の第2案内面部22は、櫛歯状溝15内のコイル導体2aを、時計回りの周回に伴って次第に旋回半径方向内向きに案内して、櫛歯状溝15内に深く入り込ませる。厳密には、コイル導体2aが第2案内面部22に案内されるフェーズでは、コイル導体2aは
図10に示されたように、櫛歯状溝15の深さ方向に多重に重ねられた姿で案内されるが、
図8および
図9の模式図では簡略化されて描かれている。
【0040】
側端部7のコイル導体2aが重ねられた部位では、何らの対策も取られない場合には、
図10の左側部分に仮想線で示すコイル導体2aが、下方、即ち、コイル巻取治具3の外周方向に曲がった姿勢を呈することになる。本開示のコイル成形装置1の場合は、
図10の右側部分に実線で示すコイル導体2aが、矯正部材18の矯正面25により摺接して押圧されるため、上述のように姿勢が曲がることがないように未然に矯正される。
【0041】
この結果、側端部7のコイル導体2aは、対応する直状部6の仮想延長線Lvよりも外周側の領域に入り込まない姿勢をとるようになる。上述のように矯正部材18が作用するため、コイル巻取治具3に多重に巻き取られた帯状コイル2のコイル導体2aは、
図11および
図12に示すように、側端部7の姿勢が、対応する直状部6の仮想延長線Lvよりも外周側の領域に入り込まない、正規の仕様を満たす形状に合致したものとなる。
【0042】
図11は、矯正部材18で姿勢を矯正された帯状コイル2の部分を右側から正面視した様子を示す図である。
図12は、矯正部材18で姿勢を矯正された帯状コイル2の部分を左側から正面視した様子を示す図である。
図11および
図12において、
図1および
図5との対応部には同一の符号が附されている。
図11および
図12に示されるように、コイル巻取治具3に多重に巻き取られた帯状コイル2は、側端部7の姿勢における外周側の輪郭が、対応する直状部6の仮想延長線Lvに略揃った姿勢を呈し、仮想延長線Lvよりも外周側の領域に入り込まないものとなる。
【0043】
図11および
図12の形態の帯状コイル2は、側端部7がこの種のステータコイルとしての仕様における外径要件を満たしたものとなる。これにより、概略円筒状に成形された帯状コイル2を回転電機のステータコア内へ挿入して組付けるに際し、帯状コイル2の側端部7が他部品と干渉してしまうことを防止でき、高品質なステータコイルを提供することができる。
【0044】
次に、このコイル成形装置1によって、帯状コイル2の側端部7の姿勢がこの種のステータコイルとしての仕様における外径要件を満たしたものとなるように矯正するコイル成形方法について説明する。コイル成形方法は、コイル搬送工程と、コイル巻取工程と、矯正工程と、を含む。
【0045】
コイル搬送工程では、複数の直状部6と、複数の直状部6の両端それぞれに連なる側端部7と、を有する帯状コイル2を、所定の旋回搬送区間S2では、案内部材17により側端部7を案内して旋回軌跡を描くように搬送する。
【0046】
コイル巻取工程では、コイル搬送工程により旋回搬送区間S2を搬送される帯状コイル2を、複数の直状部6を、回動するコイル巻取治具3の複数の櫛歯状溝15にそれぞれ挿入することによって巻き取る。
【0047】
矯正工程では、コイル巻取工程によりコイル巻取治具3に巻き取られて回動する帯状コイル2における側端部7に、その回動に関する外周側から矯正部材18の矯正面25を、側端部7の搬送方向に直交する幅方向の端部を収めるように摺接させて、当該摺接する側端部7の姿勢を、対応する直状部6の仮想延長線Lvよりも外周側に屈曲しないように矯正する。
【0048】
本開示のコイル成形方法により、帯状コイル2の側端部7が、矯正部材18の矯正面25で摺接して押圧されることにより、その姿勢が、対応する直状部6の仮想延長線Lvよりも外周側の領域に入り込まない姿勢となるように矯正される。これにより、概略円筒状に成形された帯状コイル2を回転電機のステータ内へ挿入して組付けるに際し、帯状コイル2の側端部7が他部品と干渉してしまうことを防止でき、高品質なステータコイルを提供することができる。
【0049】
以上、本開示のコイル成形装置の一態様について説明したが、本開示の技術思想はこれに限られない。本開示の技術思想の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。例えば、上述の例では、同じ矯正部材18の上面側に矯正面25が設定され、下面側に癖付けに作用する端部24を有する摺接面23が設定される態様をとったが、これに替えて、矯正面25を有する部材と摺接面23を有する部材とを別部材で構成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
Lv…仮想延長線
P1…旋回開始位置
P2…終端位置
S1…直線搬送区間
S2…旋回搬送区間
S3…直線逆搬送区間
1…コイル成形装置
2…帯状コイル
2a…コイル導体
3…コイル巻取治具
4…コイル搬送機構
5…搬送体
6…直状部
7…側端部
7a…口出し線
8…駒部材
9…搬送レール
10…第1把持爪
11…第2把持爪
12…把持溝
13…治具本体
14…櫛歯部
15…櫛歯状溝
16…軸孔
17…案内部材
18…矯正部材
19…第1案内部材
20…第2案内部材
20a…右端部
21…第1案内面部
22…第2案内面部
23…摺接面
24…端部
25…矯正面