(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144118
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】RNA溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20241003BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALN20241003BHJP
【FI】
C12N15/10 110Z
C12Q1/6837 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024011423
(22)【出願日】2024-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2023054577
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀口 深雪
(72)【発明者】
【氏名】黒田 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】宮野 敦子
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ03
4B063QQ52
4B063QR58
4B063QR90
4B063QS15
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】検出対象となるRNA溶液の製造方法を提供することによって、生物試料に含まれるRNAの検出において、検出シグナルを安定させ、シグナル強度のばらつきを低減させることを目的とする。
【解決手段】生物試料からRNAを抽出して粗抽出物溶液を単離回収する工程、単離回収した粗抽出物溶液中のRNAを核酸結合性担体に吸着させる工程、当該担体をカオトロピック物質含有洗浄液、カオトロピック物質を含まない洗浄液で特定の回数洗浄する工程および当該担体からRNAを溶出する工程を含み、得られたRNA溶液が一定量のカオトロピック物質を含むことを特徴とする、RNA溶液の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物試料に含まれるRNAの検出において、当該検出の対象となるRNAを含む溶液を、当該生物試料を精製工程に付すことによって製造する方法であって、当該精製工程が、
生物試料からRNAを抽出し、粗抽出物溶液として単離回収する抽出工程、
単離回収した当該粗抽出物溶液を、核酸結合性担体と接触させることで、粗抽出物溶液中のRNAを当該担体に吸着させる吸着工程、
当該担体を、カオトロピック物質含有洗浄液で1回、カオトロピック物質を含まない洗浄液で3回以上4回以下洗浄する洗浄工程、及び
RNAが吸着した当該担体からRNAを溶出してRNAを含む溶液を得る溶出工程、
を含み、
当該精製工程を経た後のRNAを含む溶液のカオトロピック物質濃度が0.5mM以上50mM以下である、方法。
【請求項2】
前記カオトロピック物質がグアニジン塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生物試料が生物の体液成分である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記体液成分が血清又は血漿である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記抽出工程が、前記生物試料にフェノールを含む抽出液を加えて混合し、得られた混合物からRNAを含む水層を粗抽出物溶液として単離回収することによって行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記カオトロピック物質含有洗浄液のカオトロピック物質濃度が0.25M以上0.4M以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記核酸結合性担体がシリカである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記RNAがマイクロRNAである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の方法で製造されたRNAを含む溶液を用いることを特徴とする、RNAの検出方法。
【請求項10】
前記検出が蛍光強度測定法又はマイクロアレイ法によるものである、請求項9に記載のRNAの検出方法。
【請求項11】
生物試料に含まれるRNAの検出において当該検出の対象となる、当該生物試料を精製してなるRNAを含む溶液であって、カオトロピック物質濃度が0.5mM以上50mM以下であることを特徴とする、RNAを含む溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNA溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAに書き込まれた遺伝情報は多種多様な組み合わせでRNAに転写され、生物は複雑な表現型を示している。RNAは種類、発現量をもって生物の表現型に寄与していることが明らかとなっており、遺伝子発現分析のためには、様々な生物材料からRNAを純度高く単離することが重要である。この目標を達成するために、これまで多くのRNA単離方法が開発されている。
【0003】
一般的なRNA単離の方法としては、抽出、固相抽出、フェノール/クロロホルム抽出、クロマトグラフィー、沈殿およびその組み合わせ等が挙げられる。例えば、シリカ粒子等の核酸結合性固相担体とカオトロピック剤を用いて、生体材料からより簡便に核酸を抽出する方法が、Boomらにより報告された(非特許文献1)。シリカ等の核酸結合性固相担体とカオトロピック剤を用いて核酸を担体に吸着させ、抽出する方法は、カオトロピック剤存在下で核酸結合性固相担体に核酸を吸着させる工程(吸着工程)、核酸以外の夾雑物及びカオトロピック剤を除去するために洗浄液にて核酸の吸着した担体を洗浄する工程(洗浄工程)、水または低塩濃度の緩衝液にて核酸を担体から溶出させる工程(溶出工程)からなる。しかし、フェノール、カオトロピック剤が単離されたRNAに残存・残留した場合、単離されたRNAの品質が悪く、DNAオリゴヌクレオチドアレイ、RT-PCR、マイクロアレイ、RNAシークエンスに影響する。そのため、血清からのsmall RNA抽出には、グアニジン濃度(UV260nm)低減のため、extra spin stepの追加、あるいはグリコーゲン添加等の工程の追加を行う技術が知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】R.Boom et al,J.Clin.Microbiol.,vol.28 No.3,p.495-503(1990)
【非特許文献2】S.Khoury et al,J.Vis.Exp.Vol.88 No.51443(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先行技術文献の内容を踏まえ、核酸結合性担体を用いて生物試料からRNAを検出する方法において、吸着工程および洗浄工程で用いたカオトロピック塩を、洗浄によって除去してからRNAを溶出する工程を経てRNAを検出する方法を検討した。しかし、カオトロピック塩を除去することによって、RNAに由来するシグナル値が低下するという課題が生じた(比較例1、4)。
【0006】
そこで、生物試料からRNA溶液を製造する方法において、安定して高いRNA由来シグナルを得られるような、RNA溶液を調製する方法を提供することを課題として、本発明者らは検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、生物試料を精製する工程の、カオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数および精製後のRNAを含む溶液中のカオトロピック物質濃度を規定することで、生物試料に含まれるRNAの検出においてシグナルが安定し、ばらつきを低減する効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は次の(1)~(11)から構成される。
(1)生物試料に含まれるRNAの検出において、当該検出の対象となるRNAを含む溶液を、当該生物試料を精製工程に付すことによって製造する方法であって、当該精製工程が、
生物試料からRNAを抽出し、粗抽出物溶液として単離回収する抽出工程、
単離回収した当該粗抽出物溶液を、核酸結合性担体と接触させることで、粗抽出物溶液中のRNAを当該担体に吸着させる吸着工程、
当該担体を、カオトロピック物質含有洗浄液で1回、カオトロピック物質を含まない洗浄液で3回以上4回以下洗浄する洗浄工程、及び
RNAが吸着した当該担体からRNAを溶出してRNAを含む溶液を得る溶出工程、
を含み、
当該精製工程を経た後のRNAを含む溶液のカオトロピック物質濃度が0.5mM以上50mM以下である、方法。
(2)前記カオトロピック物質がグアニジン塩である、(1)に記載の方法。
(3)前記生物試料が生物の体液成分である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記体液成分が血清又は血漿である、(3)に記載の方法。
(5)前記抽出工程が、前記生物試料にフェノールを含む抽出液を加えて混合し、得られた混合物からRNAを含む水層を粗抽出物溶液として単離回収することによって行われる、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記カオトロピック物質含有洗浄液のカオトロピック物質濃度が0.25M以上0.4M以下である、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)前記核酸結合性担体がシリカである、(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8)前記RNAがマイクロRNAである、(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9)(1)~(8)のいずれかに記載の方法で製造されたRNAを含む溶液を用いることを特徴とする、RNAの検出方法。
(10)前記検出が蛍光強度測定法又はマイクロアレイ法によるものである、(9)に記載のRNAの検出方法。
(11)生物試料に含まれるRNAの検出において当該検出の対象となる、当該生物試料を精製してなるRNAを含む溶液であって、カオトロピック物質濃度が0.5mM以上50mM以下であることを特徴とする、RNAを含む溶液。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、生物試料を精製する工程の洗浄回数および精製工程を経て得られる検出対象となるRNAを含む溶液中のカオトロピック物質濃度を一定範囲内にすることによって、生物試料に含まれるRNAの検出においてシグナルが安定し、ばらつきを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、生物試料に含まれるRNAの検出において、当該検出の対象となるRNAを含む溶液を、当該生物試料を精製工程に付すことによって製造する方法であって、当該精製工程が、
生物試料からRNAを抽出し、粗抽出物溶液として単離回収する抽出工程、単離回収した当該粗抽出物溶液を、核酸結合性担体と接触させることで、粗抽出物溶液中のRNAを当該担体に吸着させる吸着工程、当該担体を、カオトロピック物質含有洗浄液で1回、カオトロピック物質を含まない洗浄液で3回以上4回以下洗浄する洗浄工程、及びRNAが吸着した当該担体からRNAを溶出してRNAを含む溶液を得る溶出工程、を含むこと、ならびに当該精製工程を経た後のRNAを含む溶液のカオトロピック物質濃度が0.5mM以上50mM以下であることを特徴としている。
【0011】
1.試料について
本発明における「生物試料」は、検出対象となるRNAを含むと期待されるものであれば、特に制限されない。例えば、培養細胞、培養細胞の培養液、手術切片や生検サンプル等の生体組織、生体細胞、血液、血液成分(血清、血漿)、尿、唾液、涙等の体液が好ましい試料として挙げられるが、これらに限られず、検出対象となるRNAの含まれる任意の試料を使用し得る。生物試料が細胞ペレットや組織片である場合には、PBSや水で希釈してもよいが、RNAの分解を避けるため、希釈する場合にはより好ましくは生物試料のホモジェネートを作成してから水やPBSで希釈することが好ましい。さらに、上記の例示的な生物試料のいずれかから得られる溶解物、抽出物もしくは材料も試料という用語の範囲内である。好ましくは、生物試料は、細胞、組織、血液、血漿、血清、尿、髄液などの体液または生検である。特に、低侵襲的な方法で容易に採取できて、種々のRNAを含んでおり、RNAの検出によって種々の情報を取得できることが期待される、血液、血漿または血清が好ましい生物試料である。
【0012】
RNAは、生物試料において細胞膜、細胞壁、小胞、リポソーム、ミセル、リボソーム、ヒストン、核膜、ミトコンドリア、ウイルスのキャプシド、ウイルスのエンベロープ、エンドソーム、エクソソーム、マイクロベシクル等に内包されていたり、これらが相互作用していたりすることが多い。このため、生物試料に対して、必要に応じて以下のような前処理をしてもよい。検出の対象となるRNAをより収率よく回収するために、これらから遊離させることを目的とした処理を行ってもよい。
【0013】
具体的には、エクソソームが含まれている生物試料からの検出対象となるRNAの回収効率を高めるために以下のような処理を行うことができる。例えば、エクソソームが含まれる生物試料に対して、市販されているMagCapture(商標)Exosome Isolation Kit PS Ver.2(富士フイルム和光純薬株式会社)を用いてエクソソームを回収して溶液とすることができる。このようにして得られたエクソソーム含有溶液を精製工程に付すことができる。
【0014】
また、生物試料に含まれるRNAの分解を抑制するために、市販されているRNasin Plus Ribonuclease Inhibitor(プロメガ株式会社)、Ribonuclease Inhibitor(タカラバイオ株式会社)、RNase inhibitor(東洋紡株式会社)等をRNA分解酵素の阻害剤として生物試料に添加した後に、得られた溶液を精製工程に付すことができる。
【0015】
2.RNAについて
本発明における「RNA」は、複数のリボヌクレオチドがホスホジエステル結合したリボ核酸であって、その分子量、塩基数や由来によって限定されない。一般に、RNAは、機能分類上、mRNA(メッセンジャーRNA)、tRNA(トランスファーRNA)、rRNA(リボソームRNA)、stRNA(低分子一過性RNA)を含むncRNA(ノンコーディングRNA)、snRNA(核内低分子RNA)、snoRNA(核小体低分子RNA)、hnRNA、lncRNA(長鎖非コードRNA)、lincRNA(長鎖遺伝子間非コードRNA)、miRNA(マイクロRNA)、siRNA(低分子干渉RNA)、piRNA(piwi干渉RNA)、tiRNA(転写開始RNA)、PASR(プロモーター関連RNA)等に分類されるが、いずれも本発明におけるRNAに含まれる。また、本発明のRNAは細胞外液RNA、循環RNAのほか、生物試料中に存在し得る微生物、寄生生物またはRNAウイルスから得られるRNAも含む。これらのRNAにおいては、化学構造的には分子量(塩基数)以外に差は知られておらず、いずれも本発明におけるRNAに含まれる。さらに、本発明のRNAには、生物試料中に加えられる合成核酸も含まれる。ここでいう合成核酸には、ヌクレオチド類似体を含有するものも含有しないものも含まれる。ここでいう合成核酸配列を「加える」操作には、少量加える操作も、過剰量加える、いわゆる「スパイクする」操作も含まれる。好ましくは、RNAは、ncRNA、miRNA、siRNA群から選択される。より好ましくは、RNAはncRNA、miRNAから選択される。特に、RNAを含む溶液を調製する段階で分解しやすく、検出感度の低下に繋がりやすいmiRNA(マイクロRNA)については、本発明によって安定して高いRNAシグナルを得られるようになるという顕著な効果が得られる。
【0016】
3.精製工程について
本発明における「精製工程」は、上記生物試料から、検出対象であるRNA以外の物質の一部を除去することで、カオトロピック物質濃度を0.5mM以上50mM以下の濃度で含む、後述のRNAの検出に直接用いるためのRNAを含む溶液を取得する工程である。本発明の精製工程は、抽出工程、吸着工程、洗浄工程および溶出工程から成る。
【0017】
3-1.抽出工程について
本発明の「抽出工程」は、固体、固体を含む懸濁液、分散液、コロイド等の不均一系又は溶液の形態を成している生物試料から、検出対象となるRNAを含む溶液を取り出す操作を指す。
【0018】
本発明の「粗抽出物溶液」は、上記生物試料に含まれる、前記検出対象となるRNAを含む成分を溶液中に抽出したものである。本発明における粗抽出物溶液は、例えば検出対象以外の核酸、タンパク質、脂質その他の物質が含まれていてもよい。当該その他の物質は、生物試料に元から入っていてもよく、あるいは生物試料から検出対象となるRNAを抽出する際に単離されたものでもよい。
【0019】
本発明における「生物試料からRNAを抽出」する方法としては、検出対象となるRNAを溶液中に抽出できる方法であればよく、特に制限はない。
【0020】
抽出の方法としては、検出対象となるRNAを含む溶液とそれ以外の生物試料を分けて、検出対象となるRNAを含む溶液を生物試料と別の容器に移す、あるいは空間的に別にすることができれば、特に制限はない。例えば、生物試料に抽出液を添加し、生物試料を上下層に物理的に分けて、検出対象となるRNAを含む層の粗抽出物溶液を、器具を用いて別の生物試料容器に移すことができる。上記操作は1回でもよく、複数回繰り返すこともできる。
【0021】
例えば、フェノール/クロロホルム法、及びその変法、PCI(Phenol/Chloroform/Isoamyl alcohol)法、AGPC(acid guanidinium thiocyanate-phenol-chloroform extraction)法、グアニジンチオシアネートとフェノールをあらかじめ混合しておくAGPC変法などにしたがって、生物試料から検出対象となるRNAを抽出することができる。あるいは、市販のRNA抽出用試薬(例えば、TRIzol(登録商標)Reagent、QIAzol Lysis Reagent、ISOGEN、RNeasy Mini Kit、3D-Gene(登録商標)RNA extraction reagent from liquid sample kit等)を用いて生物試料から検出対象となるRNAを抽出することができる。
【0022】
具体的には、3D-Gene(登録商標)RNA extraction reagent from liquid sample kit(東レ株式会社)を使用する場合は、同社の定めるプロトコールに従って、酸性条件下で実施することにより、RNAは水層、それ以外は中間層あるいは有機層に分離され、水層を単離回収することにより検出対象となるRNAを含む粗抽出物溶液を得られる。
【0023】
具体的には、AGPC法を使用する場合は、生物試料に酸を添加して酸性にした後、フェノール、クロロホルム等の無極性溶媒を加えて、混和し、遠心分離あるいは静置することにより、RNAを水層に分離し、水層を単離回収することで検出対象となるRNAを含む粗抽出物溶液を得られる。
【0024】
抽出工程においては、検出対象のRNAと結合しているタンパク質を変性させ、当該RNAとの結合を解消させることによって抽出効率を向上させるために、生物試料に対して後述のカオトロピック物質を添加してから抽出を行ってもよい。この場合、後述の吸着工程、洗浄工程、溶出工程を経た後の、検出対象となるRNAを含む溶液における当該カオトロピック物質の濃度は、0.5mM以上50mM以下となっていればよい。
【0025】
一度抽出工程を経て粗抽出物溶液が得られた後は、当該溶液を濃縮して液体、固体、ゾル、ゲル、アモルファスなどの形態を経てから次の吸着工程を行ってもよい。
【0026】
3-2.吸着工程について
本発明の「吸着工程」は、単離回収した当該粗抽出物溶液を、核酸結合性担体と接触させることで、粗抽出物溶液中のRNAを当該担体に吸着させる工程である。
【0027】
本発明における「核酸結合性担体」は、検出対象となるRNAを吸着させるための担体である。粗抽出物溶液中の検出対象となるRNAが吸着できればよく、可逆的な物理的結合により保持することができる固体であればよい。例えば、ガラス、石英ウール、シリカ(シリカゲル、シリカメンブレン等)、酸化アルミニウム、ゼオライト等の無機材料、ポリマー、イオン交換樹脂等の有機材料、あるいはこれらを化学的修飾により表面処理を施したものでもよく、磁性体、それらの複合体などが使用できる。化学的修飾により表面処理を施す場合は、粗抽出溶液中のRNAとの可逆的な結合を妨げない程度に、適度な電荷を帯びさせてもよい。好ましくは、シリカ、イオン交換樹脂、ガラス膜、酸化アルミニウムあるいはこれらを化学的修飾により表面処理を施した群から選択される。より好ましくは、シリカ、酸化アルミニウムあるいはこれらを化学的修飾により表面処理を施したものから選択される。
【0028】
上記、核酸結合性担体の形態としては、粒子、ビーズ、フィルター、メンブレン(膜)、織布、繊維、中空糸等が挙げられるが特に制限はなく、容器(カートリッジ、チップ、カラムなど)等に充填または固定化されていてもよい。容器に充填または固定化されている形態の例としては、カラム、真空フィルターホルダー、シリンジフィルターなどが挙げられる。例えば、容器に充填または固定化される核酸結合性担体を使用する場合、当該容器は少なくとも2つの開口部を有し、断面形状は円形、円筒形、角形、角筒形、不均一形などがあるが、とくに制限はなく、より好ましくは円形、円筒形である。2つの開口部を有するカラムの態様としては、濾過液レシーバーとなる容器と組み合わせることでスピンカラムを構成したものも含まれる。カラムに粗抽出溶液をアプライする場合、一方方向に通過することが好ましい。具体的な担体の例には、ガラスやシリカゲルの粒子、シリカメンブレン、ガラス膜等が含まれる。
【0029】
本発明における「接触」は、核酸結合性担体と粗抽出物溶液が直接的に触れることを指す。具体的には、前記容器を使用する場合、粗抽出物溶液を、核酸結合性担体を含むカラムに通液することを指し、粗抽出物溶液中に含まれる検出対象となるRNAを核酸結合性担体に吸着し、それ以外の物質をフロースルー側に排出することを意図する。粗抽出物溶液と核酸結合性担体の接触時間、接触温度に特に制限はなく、粗抽出物溶液中に含まれる検出対象となるRNAが核酸結合性担体に吸着できればよい。
【0030】
生物試料を前記担体が充填または固定化された容器に対して通過させる方法としては、2つの開口部のうちの一つに陽圧または陰圧をかける方法、生物試料にかかる重力を利用して、残渣である液体画分を落下させる方法、スピンカラムに対して遠心操作を行うことで残渣である液体画分を溶出させる方法等が挙げられる。陽圧又は陰圧をかける方法としては、ポンプによって圧力をかける方法や、カラムをシリンジの中に設けた形態であるシリンジカラムにおいてプランジャーを作動させる方法等が挙げられる。例えば、遠心力がスピンカラムに加えられた場合には、粗抽出溶液が遠心力の方向に通過し、RNAは当該担体に吸着し、残渣である液体画分がスピンカラムの底に排出される。
【0031】
複数のスピンカラムを並列に並べたカラムにあたるマルチウェルプレートは、複数の生物試料を一度の遠心操作で処理できることから、より好ましい。
【0032】
また、前記2つの開口部を有する容器に核酸結合性担体を充填または固定化したカラム又はフィルターを用いた場合は、当該容器の一方の開口部に接続した生物試料を含む溶液に陽圧をかける、又は溶出させる開口部に陰圧をかけることによって、当該溶液を当該担体に接触させることでRNAを吸着させることができる。
【0033】
また、開口部を一つのみ有するチューブに、生物試料と、粒子状、ビーズ状等の核酸結合性担体を投入し、混合後に遠心処理を行うことで、RNAの結合した当該担体をチューブの底に沈殿させ、残渣である液体画分としての上清を除去することによっても吸着工程を行うことができる。 吸着工程を行う温度は特に限定されないが、5℃以上50℃以下が好ましく、10℃以上40℃以下がさらに好ましく、20℃以上30℃以下が最も好ましい。
【0034】
3-3.洗浄工程について
本発明の「洗浄工程」は、前述の担体を、カオトロピック物質含有洗浄液で1回、カオトロピック物質を含まない洗浄液で3回以上4回以下洗浄することで行われる。
【0035】
本発明における「カオトロピック物質含有洗浄液」は、後述のカオトロピック物質を含有する水溶液である。カオトロピック物質含有洗浄液は、アルコールを含有する水溶液であってもよい。アルコールとしては、分子生物学実験で一般的に用いられるエタノールが好ましい。カオトロピック物質含有洗浄液によって洗浄することにより、3-2.吸着工程において前述の核酸結合性担体に吸着した検出対象となるRNAが、当該担体上に保持される。
【0036】
本発明のカオトロピック物質含有洗浄液には、カオトロピック物質を含む洗浄液中にカオトロピック物質と緩衝剤を含有させることが好ましい。緩衝剤としては、一般的に使用されるものであれば、特に限定されないが、pH3以上pH6以下の範囲のいずれかのpHにおいて緩衝能を有するものが好ましい。例えば、酢酸ナトリウムと酢酸、クエン酸三ナトリウムとクエン酸等が挙げられ、使用濃度としては1以上500mM以下、pH3以上pH6以下の範囲が好ましい。
【0037】
本発明における「カオトロピック物質」は、一般的にカオトロピック物質として知られているような疎水性分子の水溶性を増加させる作用を有しているものである。例えば、グアニジンチオシアン酸塩、グアニジン塩酸塩、グアニジンイソチオシアン酸塩のようなグアニジン塩のほか、尿素、チオウレア、よう化ナトリウム、よう化カリウム、過塩素酸ナトリウム等が挙げられる。グアニジン塩は、RNAを分解するリボヌクレアーゼに対する阻害効果が高いため好ましく、さらに好ましくはグアニジンチオシアン酸塩またはグアニジン塩酸塩であり、最も好ましくはグアニジンチオシアン酸塩である。
【0038】
カオトロピック物質含有洗浄液におけるカオトロピック物質の濃度は、例えば、グアニジンチオシアン酸塩を使用する場合は、0.1M以上5.5M以下の範囲となるように使用するのが好ましい。より好ましくは、0.1M以上1M以下であり、さらに好ましくは0.1M以上0.5M以下であり、特に好ましくは0.25M以上0.4M以下である。
【0039】
カオトロピック物質含有洗浄液による洗浄回数は1回以上であれば制限はないが、カオトロピック物質が単離されるRNA溶液中に残存残留して、後工程のRNAの検出に影響を与えることから1回が好ましい。
【0040】
本発明における「カオトロピック物質を含まない洗浄液」は、前述のカオトロピック物質を含まない水溶液である。カオトロピック物質を含まない洗浄液は、アルコールを含有する水溶液であってもよい。アルコールとしては、分子生物学実験で一般的に用いられるエタノールが好ましい。本発明のカオトロピック物質を含まない洗浄液は、核酸結合性担体とRNAの結合を維持し、且つ、核酸結合性担体に結合した不純物を除去し、前述のとおり生物試料に添加したカオトロピック物質、吸着工程で添加したカオトロピック物質、またはカオトロピック物質含有洗浄液に由来するカオトロピック物質の残存量を低減できる溶液であり、エタノールを含む溶液が好ましい。エタノールの使用濃度としては、一般的に使用されている濃度であれば、特に限定されないが、70%(v/v)以上90%(v/v)以下の範囲が好ましい。より好ましくは、80%(v/v)以上90%(v/v)以下である。核酸結合性担体に結合した不純物を除去できる溶液としては、一般的に使用されるものであれば、特に限定されないが、DNaseフリー及び/又はRNaseフリーの水、緩衝液、低塩濃度の溶液が好ましい。例えば、塩としては塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられ、緩衝液としては酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、トリス-HClなどが挙げられる。カオトロピック物質を含まない洗浄液の塩濃度は一般的に20mM以上200mM以下、緩衝液濃度は一般的に10mM以上1000mM以下の範囲が好ましい。
【0041】
本発明の洗浄回数については、RNAを吸着した核酸結合性担体に洗浄液を接触させ、使用済みの洗浄液を除去する一連の作業を以て「1回」と数えるものとする。
【0042】
前記カオトロピック物質を含まない洗浄液による洗浄回数は3回以上4回以下である。3回洗浄後にカオトロピック物質濃度が好ましい範囲よりも高い場合は、4回目の洗浄を行うことによって当該濃度を好ましい範囲とすることができる。
【0043】
本発明の洗浄工程における担体に対するカオトロピック物質含有洗浄液またはカオトロピック物質を含まない洗浄液の接触は、前述の吸着工程において担体と生物試料を接触させる方法と同様に行うことができる。すなわち、前記容器に充填または固定化される核酸結合性担体を使用する場合、洗浄液のアプライ後に、2つの開口部のうちの一つに陽圧又は陰圧をかける方法、重力によって洗浄液を落下させる方法、遠心操作による方法が使用できるほか、開口部を一つのみ有するチューブに入っている前記粒子状、ビーズ状等の核酸結合性担体に洗浄液を加え、混合後に遠心処理を行った後に上清を分離することで使用済みの洗浄液を除去することもできる。
【0044】
洗浄工程を行う温度は特に限定されないが、5℃以上50℃以下が好ましく、10℃以上40℃以下がさらに好ましく、20℃以上30℃以下が最も好ましい。
【0045】
3-4.溶出工程について
本発明の「溶出工程」は、検出対象となるRNAが吸着した担体から当該RNAを溶出して当該RNAを含む溶液を得る工程である。
【0046】
本発明における「RNAを含む溶液を得る溶出工程」で使用する溶出液は、核酸結合性担体からRNAを溶出できればよく、一般的に使用されるものであれば、特に限定されないが、例えば、DNaseフリー及び/又はRNaseフリーの水、さらに塩及び/又は緩衝液などが挙げられる。例えば、塩としては塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられ、緩衝液としてはトリス-HCl、HEPESなどが挙げられる。
【0047】
本発明の溶出工程における担体に対する溶出液の接触は、前述の吸着工程において担体と生物試料を接触させる方法と同様に行うことができる。すなわち、前記容器に充填または固定化される核酸結合性担体を使用する場合、溶出液のアプライ後に、2つの開口部のうちの一つに陽圧又は陰圧をかける方法、重力によって溶出液を落下させる方法、遠心操作による方法が使用できるほか、開口部を一つのみ有するチューブに入っている前記粒子状、ビーズ状等の核酸結合性担体に溶出液を加え、混合後に遠心処理を行った後に上清を分離することでRNAを含む溶液を取得することもできる。
【0048】
溶出工程を行う温度は特に限定されないが、5℃以上50℃以下が好ましく、10℃以上40℃以下がさらに好ましく、20℃以上30℃以下が最も好ましい。
【0049】
4.RNAを含む溶液におけるカオトロピック物質の濃度について
本発明における溶出工程で得られたRNA溶液中に含まれるカオトロピック物質濃度は、0.5mM以上50mM以下である。当該濃度は、好ましくは0.5mM以上30mM以下であり、さらに好ましくは0.5mM以上20mM以下であり、最も好ましくは1mM以上10mM以下である。当該濃度は溶出工程を経て得られた検出対象となるRNAを含む溶液におけるカオトロピック物質濃度が当該範囲にある場合、検出対象のRNAを感度良く検出できるという効果が得られる。
【0050】
グアニジン塩の定量は、通常用いられている難溶性重金属塩、ピクレート法に代表されるような沈殿法、ニトロプルシドソーダ・フェリシアン化カリ試薬を用いた比色定量法、さらにこれらにイオン交換樹脂を組み合わせた方法、イオンクロマトグラフィー等により行える。溶液中に230nmの吸収をもつ物質がなければ、230nmにおける吸光度を測定することでグアニジン塩濃度を定量できる。例えば、イオンクロマトグラフィーで定量する場合、Thermo Fisher Scientific製INTEGRIONを用いて、IONPac CS14の分離カラムで、メタンスルホン酸の溶離液を分析時間に比例して濃度勾配をかけることで、得られた電気信号を電気伝導度計で測定することで定性・定量できる。
【0051】
5.RNAの検出について
本発明における「RNAの検出」の例としては、吸光度測定、蛍光強度測定、発光測定、電気泳動、PCR、RT-PCR、RT-qPCR、DNAアレイまたはRNAアレイを使用した解析、シーケンサーを使った解析、これらを組み合わせた解析などが挙げられる。好ましくは、吸光度測定、蛍光強度測定、PCR、RT-PCR、RT-qPCR、DNAアレイ、RNAアレイ等である。より好ましくは、蛍光強度測定、RT-PCR、RT-qPCR、DNAアレイ、RNAアレイ解析から選択される。RT-PCRはReverse Transcription PCr、RT-qPCRは、定量的逆転写PCR等とも呼ばれ、PCRによる増幅を経時的に測定することで、増幅率に基づいて鋳型となるRNAまたはDNAの定性と定量を行える。すなわち、逆転写酵素(Reverse Transcriptase)を用いてRNAを相補的なDNA(cDNA)に転換した後に、PCRでcDNAを増幅し、増幅反応を評価することで、特定の微量RNAまたはDNAを高感度に定量的に解析する。定量は、反応液の中に蛍光標識プローブまたは蛍光色素等を添加し検出することでできる。増幅反応の評価は、Cq値、Tm値、非特異増幅の有無等の値に基づいて行うことができ、これらの値は1種類を単独で評価に用いてもよく、2種類以上を組み合わせて評価に用いてもよい。Cq値はCt値(Threshhold Cycle)と同義であり、一定の増幅産物量になるPCRサイクル数を意味する。Cq値が小さいことは鋳型となるRNAまたはDNAが多いことを示し、Cq値が大きいことは鋳型となるRNAまたはDNAが少ないことを示す。DNAアレイあるいはRNAアレイには、DNAマクロアレイあるいはRNAマクロアレイとDNAマイクロアレイあるいはRNAマイクロアレイが包含されるが、本明細書ではチップといった場合、これらのDNAアレイまたはRNAアレイを含むものとする。DNAチップとしては3D-Gene(登録商標)Human miRNA Oligo chip(東レ株式会社)を用いることができるが、これに限られない。非修飾の核酸であれば、260nmにおける吸光度を測定することで核酸を定量することができる。また、蛍光色素が修飾された核酸であれば、その蛍光色素に由来する蛍光強度を、濃度既知の溶液における蛍光強度と比較することで核酸量を定量できる。
【0052】
6.RNAの検出方法、RNAを含む溶液について
本発明は、前述の方法で製造されたRNAを含む溶液を用いることを特徴とする、RNAの検出方法をも含む。当該検出の工程は、前述の「RNAの検出」に用いることのできる検出方法で行えばよい。
【0053】
また、本発明は、前述の検出における検出の対象となる、当該生物試料を精製してなるRNAを含む溶液であって、グアニジン塩濃度が0.5mM以上50mM以下であることを特徴とする、RNAを含む溶液をも含む。当該RNAを含む溶液は、例えば生物試料を前述の精製工程に付すことによって得ることができる。
【実施例0054】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
<材料>
グアニジンチオシアナートは東京化成工業株式会社から、Quant-it(商標) RiboGreen RNA Assay Kit(商標)はThermo Fisher Scientificから購入した。
【0056】
<検体の採取>
インフォームドコンセントを得た健常体からベノジェクトII真空採血管VP-AS109K60(テルモ株式会社)を用いて血清を採取した。
【0057】
<RNAを含む溶液の製造>
以下の実施例1~20および比較例1~9においては、RNAを含む溶液の製造は以下のA.~D.の工程からなる方法で行った。
【0058】
A.抽出工程
検出対象のRNAと結合しているタンパク質を変性させ、当該結合を解消させるために、表1または表2に記載の濃度になるようにグアニジンチオシアン酸塩を血清300μLに添加してから、3D-Gene(登録商標)RNA extraction reagent from liquid sample kit(東レ株式会社)中のRNA抽出用試薬を用いて、同社の定めるプロトコールに従って水層からRNAを抽出し、RNAを含む粗抽出物溶液300μLを得た。
【0059】
B.吸着工程
得られた粗抽出物溶液300μLにエタノール450μLを添加し、混和後、Whatman(商標)96-well Deep Well Polypropylene UniPlate(商標)Microplates(Cytiva)に全量アプライし、1500G、25℃、3分間遠心した。これにより、アプライされた溶液を、プレートに固定されたシリカメンブレンに対して通過させ、溶液中のRNAを当該メンブレンに吸着させ、溶出液は除去した。
【0060】
C.洗浄工程
B.吸着工程において前記メンブレンに吸着した検出対象となるRNAを、当該メンブレン上に保持させるために、カオトロピック物質含有洗浄液([グアニジンチオシアン酸塩濃度37.59%(w/w)+クエン酸濃度0.67%(w/w)]水溶液:99.5%エタノール=1:2で混合した溶液)700μLを添加し、1500G、25℃、3分間遠心することで当該メンブレンに前記洗浄液を通過させて洗浄し、溶出液を除去した。カオトロピック物質を含まない洗浄液(トリス-HCl(Sigma-Aldrich)濃度0.61%(w/w)水溶液:99.5%エタノール=1:4で混合した溶液)500μLを添加し、1500G、25℃、3分間遠心することで当該メンブレンに前記洗浄液を通過させて洗浄し、溶出液を除去した。カオトロピック物質を含まない洗浄液による洗浄操作を全部で表1に記載の回数繰り返した。
【0061】
D.溶出工程
1500G、25℃、2分間遠心した。RNaseフリー水(Thermo Fisher Scientific)80μLを添加し、1500G、25℃、2分間遠心することで、RNA溶液を得た。得られたRNAを含む溶液80μLを乾固し、RNaseフリー水5μLに再溶解した。
【0062】
<RNA濃度の測定(RNAの検出)>
以下の実施例1~6および比較例1、2においては、以下のとおり蛍光強度測定による方法でRNA濃度を測定した。
【0063】
血清300μLから得たRNA溶液に対して、Quant-it(商標)RiboGreen RNA Assay Kit(商標)(Thermo Fisher Scientific)を用いて同社が定めるプロトコールに基づいてmiRNAを蛍光標識した。検量線を作製するため、Quant-it(商標)RiboGreen RNA Assay Kit(商標)に同封されている濃度既知のrRNAを同社が定めるプロトコールに基づいて蛍光標識した。蛍光標識したmiRNA及びrRNAの蛍光強度をNanoDrop(商標)3300蛍光光度計(Thermo Fisher Scientific)のRiboGreen RNA メソッドを用いて測定した。濃度既知のrRNAの蛍光強度から検量線を作成し、得られたmiRNAの蛍光強度を比較してRNA濃度を算出した。
【0064】
<遺伝子発現量の測定>
以下の実施例7~11および比較例3においては、以下のとおりDNAアレイ(ハイブリダイゼーション)による方法でhsa-miR-483-5pの発現量を測定した。
【0065】
血清300μLから得たRNA溶液に対して、3D-Gene(登録商標)miRNA Labeling kit(東レ株式会社)を用いて同社が定めるプロトコール(ver2.20)に基づいてmiRNAを蛍光標識した。オリゴDNAチップとして、miRBase release 22に登録されているmiRNAの中で、2,632種のmiRNAと相補的な配列を有するプローブを搭載した3D-Gene(登録商標)Human miRNA Oligo chip(東レ株式会社)を用い、同社が定めるプロトコールに基づいてストリンジェントな条件でハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーション後の洗浄を行った。DNAチップを3D-Gene(登録商標)スキャナー(東レ株式会社)を用いてスキャンし、画像を取得して3D-Gene(登録商標)Extraction(東レ株式会社)にて蛍光強度を数値化した。数値化された蛍光強度を、底が2の対数値に変換して遺伝子発現量とし、ブランク値の減算を行った。その結果、血清300μLに対する、網羅的なmiRNAの遺伝子発現量を得た。数値化されたmiRNAの遺伝子発現量を用いた計算及び統計解析は、R言語4.0.3(R Development Core Team (2013). R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing, URL https://www.r-project.org/)を用いて実施した。
【0066】
以下の実施例12~14および比較例4、5においては、RT-PCRによってhsa-miR-24-3pの発現量を測定した。同様に、実施例15~17および比較例6、7においてはRT-PCRによってhsa-miR-484の発現量を、実施例18~20および比較例8、9においてはRT-PCRによってhsa-miR-191-5pの発現量を測定した。
【0067】
血清300μLから得たRNA溶液に対して、TaqMan(登録商標)Advanced miRNA cDNA Synthesis Kit (Thermo Fisher SCIENTIFIC,Inc.)を用いて、同社が定めるプロトコールに基づいてtotal RNA中のmiRNAを逆転写し、cDNAを取得後、得られたcDNAに対して、増幅反応を行った。増幅されたcDNAに対して、TaqMan(登録商標)Fast Advanced Master Mix for qPCR (Thermo Fisher SCIENTIFIC,Inc.)およびTaqMan(登録商標)Advanced miRNA Assays (Thermo Fisher SCIENTIFIC,Inc.)を用い、同社が定めるプロトコールに基づいて、リアルタイムPCRシステム(CFX96、Bio-Rad Laboratories,Inc.)によるリアルタイムPCRを実施した。リアルタイムPCR反応終了後、解析ソフトウェアCFXマネージャーソフトウェア(Bio-Rad Laboratories,Inc.)を使用してCq値を算出した。Taqman(登録商標)Advanced miRNA Assays (Thermo Fisher SCIENTIFIC,Inc.)には、配列番号1~3の各塩基配列に対するTaqman(登録商標)Advanced miRNA Assays (Thermo Fisher SCIENTIFIC,Inc.)を用いた。すなわち、hsa-miR-24-3p(配列番号1)、hsa-miR-484(配列番号2)、hsa-miR-191-5p(配列番号3)である。
【0068】
<グアニジウムイオン濃度の測定>
以下の実施例1~11および比較例1~3においては、グアニジウムイオン濃度を、イオンクロマトグラフィー(Thermo Fisher Scientific)により以下の条件により測定した。
装置:INTEGRION ICS-6000(Thermo Fisher Scientific)
カラム:Dionex(商標)IonPac(商標)CS14 ICカラム(Thermo Fisher Scientific)
溶離液:メタンスルホン酸(流速1.0mL/min)
検出方法:電気伝導度。
【0069】
(実施例1) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を1mM含むRNA溶液のRNA濃度
表1に記載の通り、A.抽出工程において前記検体の採取方法で採取した血清にグアニジンチオシアン酸塩を10mMとなるように添加し、C.洗浄工程においてカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数を合計4回として、RNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジウムイオン濃度を前記グアニジウムイオン濃度の測定方法で測定した結果、グアニジンチオシアン酸塩濃度が1mMであった。各RNA溶液のRNA濃度を前記RNA濃度の測定方法で、RNA溶液に含まれるRNA由来の蛍光強度を元にRNA濃度を算出した。結果を表1(a)に示す。
【0070】
(実施例2) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を5mM含むRNA溶液のRNA濃度
実施例1において、A.抽出工程において血清に添加したグアニジンチオシアン酸塩の添加後濃度を10mMから50mMに変更したこと以外は、実施例1と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は5mMであった。蛍光強度に基づくRNA溶液のRNA濃度算出結果を、表1(b)に示す。
【0071】
(実施例3) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を10mM含むRNA溶液のRNA濃度
実施例1において、A.抽出工程において血清に添加したグアニジンチオシアン酸塩の添加後濃度を10mMから100mMに変更したこと以外は、実施例1と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は10mMであった。蛍光強度に基づくRNA溶液のRNA濃度算出結果を、表1(c)に示す。
【0072】
(実施例4) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を20mM含むRNA溶液のRNA濃度
実施例1において、A.抽出工程において血清に添加したグアニジンチオシアン酸塩の添加後濃度を10mMから200mMに変更したこと以外は、実施例1と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は20mMであった。蛍光強度に基づくRNA溶液のRNA濃度算出結果を、表1(d)に示す。
【0073】
(実施例5) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を30mM含むRNA溶液のRNA濃度
実施例1において、A.抽出工程において血清に添加したグアニジンチオシアン酸塩の添加後濃度を10mMから300mMに変更し、C.洗浄工程においてカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数を合計4回から合計3回に変更したこと以外は、実施例1と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は30mMであった。蛍光強度に基づくRNA溶液のRNA濃度算出結果を、表1(e)に示す。
【0074】
(実施例6) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を50mM含むRNA溶液のRNA濃度
実施例1において、A.抽出工程において血清に添加したグアニジンチオシアン酸塩の添加後濃度を10mMから1000mMに変更し、C.洗浄工程においてカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数を合計4回から合計3回に変更したこと以外は、実施例1と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は50mMであった。蛍光強度に基づくRNA溶液のRNA濃度算出結果を、表1(f)に示す。
【0075】
(比較例1) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を0.2mM含むRNA溶液のRNA濃度
実施例1において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は0.20mMであった。蛍光強度に基づくRNA溶液のRNA濃度算出結果を、表1(g)に示す。
【0076】
(比較例2) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を100mM含むRNA溶液のRNA濃度
実施例1において、A.抽出工程において血清に添加したグアニジンチオシアン酸塩の添加後濃度を10mMから1000mMに変更し、C.洗浄工程においてカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数を合計4回から合計2回に変更したこと以外は、実施例1と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は100mMであった。蛍光強度に基づくRNA溶液のRNA濃度算出結果を、表1(h)に示す。
【0077】
【表1】
表1のとおり、C.洗浄工程におけるカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数が合計3または4回、且つ、D.溶出工程を終えた後のRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度が0.5mM以上50mM以下の場合(実施例1~6)、C.洗浄工程におけるカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数が合計2回である、または、D.溶出工程を終えた後のRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度が0.5mM未満もしくは50mMより高い場合と比較して(比較例1、2)、算出されたRNA濃度の値が高いことが示された。これは、本発明の方法を用いることによって、RNA由来シグナルの検出感度が向上したことに起因するものと考えられる。
【0078】
(実施例7) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を0.5mM含むRNA溶液のhsa-miR-483-5p量
表2に記載の通り、A.抽出工程において前記検体の採取方法で採取した血清にグアニジンチオシアン酸塩を添加することなく、C.洗浄工程においてカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数を合計4回として、RNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジウムイオン濃度を前記グアニジウムイオン濃度の測定方法で測定した結果、グアニジンチオシアン酸塩濃度が0.5mMであった。RNA溶液のhsa-miR-483-5p量を、前記遺伝子発現量の測定方法に基づき、hsa-miR-483-5p由来の蛍光強度を元に算出した。結果を表2(a)に示す。
【0079】
(実施例8) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を2mM含むRNA溶液のhsa-miR-483-5p量
実施例7において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩を、添加後濃度が100mMとなるように添加したこと以外は、実施例7と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度が2mMであった。蛍光強度に基づく各RNA溶液のhsa-miR-483-5p量算出結果を、表2(b)に示す。
【0080】
(実施例9) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を10mM含むRNA溶液のhsa-miR-483-5p量
実施例7において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩を、添加後濃度が200mMとなるように添加したこと以外は、実施例7と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は、10mMであった。蛍光強度に基づくRNA溶液のhsa-miR-483-5p量算出結果を、表2(c)に示す。
【0081】
(実施例10) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を20mM含むRNA溶液のhsa-miR-483-5p量
実施例7において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩を、添加後濃度が200mMとなるように添加し、C.洗浄工程においてカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数を合計4回から合計3回に変更したこと以外は、実施例7と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は、20mMであった。蛍光強度に基づくRNA溶液のhsa-miR-483-5p量測定結果を、表2(d)に示す。
【0082】
(実施例11) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を50mM含むRNA溶液のhsa-miR-483-5p量
実施例7において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩を、添加後濃度が500mMとなるように添加し、C.洗浄工程においてカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数を合計4回から合計3回に変更したこと以外は、実施例7と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は、50mMであった。蛍光強度に基づくRNA溶液のhsa-miR-483-5p量測定結果を、表2(e)に示す。
【0083】
(比較例3) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を100mM含むRNA溶液のhsa-miR-483-5p量
実施例7において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩を、添加後濃度が1000mMとなるように添加し、C.洗浄工程においてカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数を合計4回から合計2回に変更したこと以外は、実施例7と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は、100mMであった。蛍光強度に基づくRNA溶液のhsa-miR-483-5p量測定結果を、表2(f)に示す。
【0084】
【表2】
表2のとおり、C.洗浄工程におけるカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数が合計3または4回、且つ、RNA溶液中のD.溶出工程を終えた後のグアニジンチオシアン酸塩濃度が0.5mM以上50mM以下の場合(実施例7~11)、C.洗浄工程におけるカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数が合計2回、または、D.溶出工程を終えた後のRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度が50mMより高い場合と比較して(比較例3)、得られたRNA溶液において算出されたhsa-miR-483-5p量の値が高いことが示された。これは、本発明の方法を用いることによって、hsa-miR-483-5p由来シグナルの検出感度が向上したことに起因するものと考えられる。
【0085】
(実施例12) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を1mM含むRNA溶液のhsa-miR-24-3p量
表3に記載の通り、A.抽出工程において前記検体の採取方法で採取した血清にグアニジンチオシアン酸塩を添加後濃度が1×10mMとなるように添加し、C.洗浄工程においてカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数を合計4回として、RNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジウムイオン濃度を前記グアニジウムイオン濃度の測定方法で測定した結果、グアニジンチオシアン酸塩濃度が1mMであった。RNA溶液のhsa-miR-24-3p量を、前記遺伝子発現量の測定方法に基づき、Cq値を発現量とみなした。結果を表3(a)に示す。
【0086】
(実施例13) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を5mM含むRNA溶液のhsa-miR-24-3p量
実施例12において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩を、添加後濃度を1×10mMから5×10mMに変更したこと以外は、実施例12と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は、5mMであった。蛍光強度に基づくRNA溶液のhsa-miR-24-3p量算出結果を、表3(b)に示す。
【0087】
(実施例14) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を1×10mM含むRNA溶液のhsa-miR-24-3p量
実施例12において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩を、添加後濃度を1×10mMから1×102mMに変更したこと以外は、実施例12と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は、1×10mMであった。Cq値に基づくRNA溶液のhsa-miR-24-3p量測定結果を、表3(c)に示す。
【0088】
(比較例4) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を0.2mM含むRNA溶液のhsa-miR-24-3p量
実施例12において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩を添加しなかったこと以外は、実施例12と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は0.2mMであった。Cq値に基づくRNA溶液のhsa-miR-24-3p量測定結果を、表3(d)に示す。
【0089】
(比較例5) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を1×102mM含むRNA溶液のhsa-miR-24-3p量
実施例12において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩を、添加後濃度を1×10mMから1×103mMに変更し、C.洗浄工程においてカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数を合計4回から合計2回に変更したこと以外は、実施例12と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は、1×102mMであった。Cq値に基づくRNA溶液のhsa-miR-24-3p量測定結果を、表3(e)に示す。
【0090】
【表3】
表3のとおり、実施例12~14のようにC.洗浄工程におけるカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数が合計3または4回、且つ、RNA溶液中のD.溶出工程を終えた後のグアニジンチオシアン酸塩濃度が0.5mM以上50mM以下の場合、比較例4、5の場合と比較して、得られたRNA溶液において算出されたhsa-miR-24-3p量のCq値が低い、すなわち検出量が多いことが示された。これは、本発明の方法を用いることによって、hsa-miR-24-3p由来シグナルの検出感度が向上したことに起因するものと考えられる。
【0091】
(実施例15) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を1mM含むRNA溶液のhsa-miR-484量
表4に記載の通り、A.抽出工程において前記検体の採取方法で採取した血清にグアニジンチオシアン酸塩を添加後濃度が1×10mMとなるように添加し、C.洗浄工程においてカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数を合計4回として、RNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジウムイオン濃度を前記グアニジウムイオン濃度の測定方法で測定した結果、グアニジンチオシアン酸塩濃度が1mMであった。RNA溶液のhsa-miR-484量を、前記遺伝子発現量の測定方法に基づき、Cq値を発現量とみなした。結果を表4(a)に示す。
【0092】
(実施例16) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を5mM含むRNA溶液のhsa-miR-484量
実施例15において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩を、添加後濃度を1×10mMから5×10mMに変更したこと以外は、実施例15と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は、5mMであった。蛍光強度に基づくRNA溶液のhsa-miR-484量算出結果を、表4(b)に示す。
【0093】
(実施例17) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を1×10mM含むRNA溶液のhsa-miR-484量
実施例15において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩を、添加後濃度を1×10mMから1×102mMに変更し、実施例15と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は、1×10mMであった。Cq値に基づくRNA溶液のhsa-miR-484量測定結果を、表4(c)に示す。
【0094】
(比較例6) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を0.2mM含むRNA溶液のhsa-miR-484量
実施例15において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩を添加しなかったこと以外は、実施例15と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は0.2mMであった。Cq値に基づくRNA溶液のhsa-miR-484量測定結果を、表4(d)に示す。
【0095】
(比較例7) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を1×102mM含むRNA溶液のhsa-miR-484量
実施例15において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩を、添加後濃度を1×10mMから1×103mMに変更し、C.洗浄工程においてカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数を合計4回から合計2回に変更したこと以外は、実施例15と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は、1×102mMであった。Cq値に基づくRNA溶液のhsa-miR-484量測定結果を、表4(e)に示す。
【0096】
【表4】
表4のとおり、実施例15~17のように、C.洗浄工程におけるカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数が合計3または4回、且つ、RNA溶液中のD.溶出工程を終えた後のグアニジンチオシアン酸塩濃度が0.5mM以上50mM以下の場合、比較例6、7の場合と比較して、得られたRNA溶液において算出されたhsa-miR-484量のCq値が低い、すなわち検出量が多いことが示された。これは、本発明の方法を用いることによって、hsa-miR-484由来シグナルの検出感度が向上したことに起因するものと考えられる。
【0097】
(実施例18) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を1mM含むRNA溶液のhsa-miR-191-5p量
表5に記載の通り、A.抽出工程において前記検体の採取方法で採取した血清にグアニジンチオシアン酸塩を添加後濃度が1×10mMとなるように添加し、C.洗浄工程においてカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数を合計4回として、RNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジウムイオン濃度を前記グアニジウムイオン濃度の測定方法で測定した結果、グアニジンチオシアン酸塩濃度が1mMであった。RNA溶液のhsa-miR-191-5p量を、前記遺伝子発現量の測定方法に基づき、Cq値を発現量とみなした。結果を表5(a)に示す。
【0098】
(実施例19) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を5mM含むRNA溶液のhsa-miR-191-5p量
実施例18において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩の添加後濃度を、1×10mMから5×10mMに変更したこと以外は、実施例18と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は、5mMであった。蛍光強度に基づくRNA溶液のhsa-miR-191-5p量算出結果を、表5(b)に示す。
【0099】
(実施例20) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を1×10mM含むRNA溶液のhsa-miR-191-5p量
実施例18において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩の添加後濃度を、1×10mMから1×102mMに変更したこと以外は、実施例18と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は、1×10mMであった。Cq値に基づくRNA溶液のhsa-miR-191-5p量測定結果を、表5(c)に示す。
【0100】
(比較例8) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を0.2mM含むRNA溶液のhsa-miR-191-5p量
実施例18において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩を添加しなかったこと以外は、実施例18と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は0.2mMであった。Cq値に基づくRNA溶液のhsa-miR-191-5p量測定結果を、表5(d)に示す。
【0101】
(比較例9) RNA溶液中にグアニジンチオシアン酸塩を100mM含むRNA溶液のhsa-miR-191-5p量
実施例18において、A.抽出工程において血清にグアニジンチオシアン酸塩の添加後濃度を、1×10mMから1×103mMに変更し、C.洗浄工程においてカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数を合計4回から合計2回に変更したこと以外は、実施例18と同様の条件でRNA溶液を得た。D.溶出工程によって得られたRNA溶液中のグアニジンチオシアン酸塩濃度は、1×102mMであった。Cq値に基づくRNA溶液のhsa-miR-191-5p量測定結果を、表5(e)に示す。
【0102】
【表5】
表5のとおり、実施例18~20のように、C.洗浄工程におけるカオトロピック物質を含まない洗浄液での洗浄回数が合計3または4回、且つ、RNA溶液中のD.溶出工程を終えた後のグアニジンチオシアン酸塩濃度が0.5mM以上50mM以下の場合、比較例8、9の場合と比較して、得られたRNA溶液において算出されたhsa-miR-191-5p量のCq値が低い、すなわち検出量が多いことが示された。これは、本発明の方法を用いることによって、hsa-miR-191-5p由来シグナルの検出感度が向上したことに起因するものと考えられる。