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特開2024-144123ガス拡散電極の微多孔層形成用のペースト組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144123
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ガス拡散電極の微多孔層形成用のペースト組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20241003BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241003BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/88 C
H01M4/86 H
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024012637
(22)【出願日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2023054729
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹内 孝
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 将道
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB12
5H018EE08
5H018EE16
5H018EE19
5H018HH00
5H018HH01
5H018HH05
5H018HH08
5H018HH09
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】カーボンブラックおよび撥水剤の分散性を向上させ、泡噛みを減少させることができる微多孔層形成用のペースト組成物、また、これらのペースト組成物を塗布した均一で平滑性の高い微多孔層を備えたガス拡散電極、および発電性能に優れた燃料電池を提供することを課題とする。
【解決手段】ガス拡散電極の微多孔層形成用のペースト組成物であって、カーボンブラックと撥水剤と水とノニオン性界面活性剤とを含み、前記ノニオン性界面活性剤の0.1質量%水溶液の表面張力が20.0mN/m以上32.0mN/m以下であるペースト組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス拡散電極の微多孔層形成用のペースト組成物であって、カーボンブラックと撥水剤と水とノニオン性界面活性剤とを含み、前記ノニオン性界面活性剤の0.1質量%水溶液の表面張力が20.0mN/m以上32.0mN/m以下であるペースト組成物。
【請求項2】
ガス拡散電極の微多孔層形成用のペースト組成物であって、カーボンブラックと撥水剤と水とノニオン性界面活性剤とを含み、固形分0.1質量%分散液となるように前記ペースト組成物を希釈したときの表面張力が20.0mN/m以上32.0mN/m以下であるペースト組成物。
【請求項3】
前記ペースト組成物を固形分0.1質量%分散液となるように希釈したときの起泡力が120mm未満である請求項1または2に記載のペースト組成物。
【請求項4】
前記ノニオン性界面活性剤の0.1質量%水溶液の起泡力が120mm未満である請求項1または2に記載のペースト組成物。
【請求項5】
前記ペースト組成物がさらに消泡剤を含み、前記消泡剤がポリアルキレングリコール系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、およびシリコーン系消泡剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの消泡剤である請求項1または2に記載のペースト組成物。
【請求項6】
前記カーボンブラックの質量を100質量部としたとき、前記消泡剤の質量が0.01質量部以上10質量部以下である請求項5に記載のペースト組成物。
【請求項7】
前記ノニオン性界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、およびポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む請求項1または2に記載のペースト組成物。
【請求項8】
前記ノニオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む請求項1または2に記載のペースト組成物。
【請求項9】
前記ノニオン性界面活性剤のHLB値が10.0以上15.0以下である請求項1または2に記載のペースト組成物。
【請求項10】
前記ノニオン性界面活性剤の曇点が30℃以上である請求項1または2に記載のペースト組成物。
【請求項11】
請求項1または2に記載のペースト組成物を、炭素繊維を含む導電性多孔質基材に塗布する工程と、前記ペースト組成物を塗布した導電性多孔質基材を焼結する工程を有するガス拡散電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いられるガス拡散電極の微多孔層形成用のペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質形燃料電池に使用される電極は、高分子電解質形燃料電池において2つのセパレータで挟まれてその間に配置されるもので、高分子電解質膜の両面において、高分子電解質膜の表面に形成される触媒層と、この触媒層の外側に形成されるガス拡散層とからなる構造を有する。上記ガス拡散層を形成するための個別の部材として、ガス拡散電極が流通している。上記ガス拡散電極に求められる性能としては、ガス拡散性、触媒層で発生した電気を集電するための導電性、および触媒層表面に発生した水分を効率良く除去するための排水性等が挙げられる。上記の性能を満足するガス拡散電極を得るため、一般的に導電性多孔質基材が用いられる。
【0003】
導電性多孔質基材としては、炭素繊維からなるカーボンフェルト、カーボンペーパーおよびカーボンクロス等が用いられ、中でも機械的強度等の点からカーボンペーパーが最も好ましいとされる。
【0004】
また、燃料電池は水素と酸素が反応し、水が生成する際に生じるエネルギーを電気的に取り出すシステムであるため、電気的な負荷が大きくなると、すなわち電池外部へ取り出す電流を大きくすると、多量の水(水蒸気)が発生する。この水蒸気が低温では凝縮して水滴になり、ガス拡散電極の細孔を塞いでしまうと、ガス(酸素あるいは水素)の触媒層への供給量が低下していき、最終的に全ての細孔が塞がれてしまうことにより、発電が停止することになる(この現象をフラッディングという)。
【0005】
フラッディングを可能な限り発生させないように、ガス拡散電極には上記の通り排水性が求められる。排水性を高める手段として、通常、導電性多孔質基材に撥水処理を施したガス拡散電極基材を用いる手段がある。
【0006】
上記のような撥水処理された導電性多孔質基材をそのままガス拡散電極として用いると、その繊維の目が粗いため、水蒸気が凝縮して大きな水滴が発生し、フラッディングを起こしやすい。このため、撥水処理を施した導電性多孔質基材の上に、カーボンブラック等の導電性微粒子を分散した塗液を塗布し乾燥焼結することにより、微多孔層と呼ばれる層(マイクロポーラスレイヤーともいう)を設ける場合がある。微多孔層には導電性多孔質基材の粗さを電解質膜に転写させないための化粧直し効果もある。
【0007】
微多孔層は、一般に炭素質粉末とそのバインダーであるフッ素樹脂粒子、界面活性剤が水中に分散した微多孔層形成用のペースト組成物を乾燥および焼結して形成する。ここで、当該ペースト組成物中の炭素質粉末の分散が悪いと、塗布時に配管の目詰まりや液切れを生じ、塗膜の均一性が不良となる。また、ペースト組成物を攪拌する際に気泡が発生しやすいと、気泡がペーストに含まれたまま導電性多孔質基材に塗布され、気泡の存在する部分に塗膜が形成されずに塗布抜けが生じるため、微多孔層の機能が失われてしまう。
【0008】
そこで、優れた塗布性を有するペースト組成物を得る方法として、いくつかの方法が提案されている。特許文献1においては、高分子電解質膜を中心として構成される固体高分子形燃料電池のガス拡散層を形成するためのガス拡散層用撥水ペーストであって、カーボンブラックスラリーと、フッ素樹脂ディスパージョンと、界面活性剤とを混合してなり、25℃における降伏値が6Pa~20Paの範囲内で、かつ、10℃における降伏値が0.1Pa~5Paの範囲内であることを特徴とするガス拡散層用撥水ペーストが提案されている。
【0009】
また、特許文献2においては、導電性粒子および撥水性樹脂を含む、ガス拡散電極の微多孔層を形成するための塗液の製造方法であって、減圧下で脱泡可能な手段を備える脱泡装置を用いて、前記装置内に封入された塗液に付与される圧力を、絶対圧で30kPa以下、前記液の溶媒の脱泡処理中の液温における蒸気圧以上として、かつ、前記装置の設定温度または前記装置内の液温を、15度以下0度より大きい範囲から選ばれるものとする、塗液の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009-301792号公報
【特許文献2】特開2019-215993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1では、ガス拡散層用撥水ペーストの10℃における降伏値が上記範囲内とし、充填時にガス拡散層用撥水ペーストを冷却することによって、塗布ヘッド等に充填する際にエアーを巻き込む事態を防止することができるとあるが、ガス拡散用撥水ペーストを塗布する前に冷却する工程が増えるため、製造工程が複雑となってしまう。また、降伏値と撥水ペーストの分散性は無関係であるため、上記の工程を行ったとしても、均一な塗膜が得られるとは限らないという課題がある。
【0012】
また、特許文献2に記載された技術においては、脱泡装置によって塗料に含まれる気泡の除去を行う必要があり、同様に工程が増えることにより製造工程が複雑となる。
【0013】
そこで、本発明においては、工程を増やすことなく、分散性と塗布性に優れたガス拡散電極の微多孔層形成用のペースト組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記の課題を解決するため、次のような手段を採用するものである。
(1)ガス拡散電極の微多孔層形成用のペースト組成物であって、カーボンブラックと撥水剤と水とノニオン性界面活性剤とを含み、前記ノニオン性界面活性剤の0.1質量%水溶液の表面張力が20.0mN/m以上32.0mN/m以下であるペースト組成物。
(2)ガス拡散電極の微多孔層形成用のペースト組成物であって、カーボンブラックと撥水剤と水とノニオン性界面活性剤とを含み、固形分0.1質量%分散液となるように前記ペースト組成物を希釈したときの表面張力が20.0mN/m以上32.0mN/m以下であるペースト組成物。
(3)前記ペースト組成物を固形分0.1質量%分散液となるように希釈したときの起泡力が120mm未満である(1)または(2)に記載のペースト組成物。
(4)前記ノニオン性界面活性剤の0.1質量%水溶液の起泡力が120mm未満である(1)~(3)のいずれかに記載のペースト組成物。
(5)前記ペースト組成物がさらに消泡剤を含み、前記消泡剤がポリアルキレングリコール系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、およびシリコーン系消泡剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの消泡剤である(1)~(4)のいずれかに記載のペースト組成物。
(6)前記カーボンブラックの質量を100質量部としたとき、前記消泡剤の質量が0.01質量部以上10質量部以下である(5)に記載のペースト組成物。
(7)前記ノニオン性界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、およびポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくても1つを含む(1)~(6)のいずれかに記載のペースト組成物。
(8)前記ノニオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む(1)~(7)のいずれかに記載のペースト組成物。
(9)前記ノニオン性界面活性剤のHLB値が10.0以上15.0以下である(1)~(8)のいずれかに記載のペースト組成物。
(10)前記ノニオン性界面活性剤の曇点が30℃以上である(1)~(9)のいずれかに記載のペースト組成物。
(11)(1)~(10)のいずれかに記載のペースト組成物を、炭素繊維を含む導電性多孔質基材に塗布する工程と、前記ペースト組成物を塗布した導電性多孔質基材を焼結する工程を有するガス拡散電極の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、カーボンブラックおよび撥水剤の分散性を向上させ、泡噛みを減少させた微多孔層形成用ペースト組成物を提供でき、また均一で平滑性の高い微多孔層を備えたガス拡散電極を提供することが可能となる。また、これらのペースト組成物を塗布したガス拡散電極を備える、発電性能に優れた燃料電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0017】
本発明のペースト組成物は、ガス拡散電極の微多孔層形成用のペースト組成物であって、カーボンブラックと撥水剤と水とノニオン性界面活性剤とを含む。
【0018】
本発明のペースト組成物は、コストが低く、製品の品質の安定性の点から、炭素質粉末としてカーボンブラックを用いる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック等が挙げられる。カーボンブラックの中でも、不純物が少なく、ガス拡散電極とした際に触媒の活性を低下させにくいという点でアセチレンブラックが好適に用いられる。またカーボンブラックの不純物の含有量の目安として灰分が挙げられるが、灰分が0.1質量%以下のカーボンブラックを用いることが好ましい。なお、カーボンブラック中の灰分は少ないほど好ましく、灰分が0質量%のカーボンブラック、つまり灰分を含まないカーボンブラックが特に好ましい。
【0019】
本発明のペースト組成物に含まれるカーボンブラックの一次粒径は20~39nmの範囲内であることが好ましい。一次粒径が20nm以上であると、微多孔層を形成した際に微多孔層の細孔モード径が大きくなり、微多孔層のガス拡散性が高くなるため、この微多孔層を用いた燃料電池の発電性能が高くなりやすい。これらのことから、一次粒径は23nm以上であることがより好ましく、26nm以上であることがさらに好ましい。また、一次粒径が39nm以下であると、微多孔層の細孔モード径が小さくなり、微多孔層が潰れにくくなるため、短絡が起こりにくくなる。また、微多孔層の細孔モード径が小さくなることで、水蒸気の凝集の起点となりにくくなるためフラッディングを生じにくい。また、微多孔層上に触媒塗液を塗布して触媒層を形成するプロセスを採用する場合は、触媒塗液が微多孔層にしみこみにくく、均一に塗布できる。これらのことから、一次粒径は37nm以下がより好ましく、35nm以下がさらに好ましい。
【0020】
ここで、カーボンブラックの一次粒径はイオンミリング装置を用いて作製した断面観察用サンプルを走査型電子顕微鏡等の顕微鏡で、20万倍以上に拡大して写真撮影を行い、無作為に選んだ一次粒子の直径を100個測定し、平均することで得られる。イオンミリング装置としては、例えば、IM4000((株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いることができる。
【0021】
本発明のペースト組成物におけるカーボンブラックの含有量は特に限定されないが、ペースト組成物100質量%中に5質量%以上25質量%以下が好ましい。カーボンブラックの含有量が5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であることで、粘度が高くなり塗布性が向上する。また、カーボンブラックの含有量が25質量%以下、より好ましくは20質量%以下であることでパーコレーションを防ぎ、ペーストの流動性を確保することができる。
【0022】
本発明のペースト組成物は、必要に応じてその他の導電性物質を含んでもよい。その他の導電性物質としては、例えば、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維のチョップドファイバー、グラフェン等が挙げられる。
【0023】
本発明のペースト組成物は、微多孔層としたときに排水性を向上させるために撥水剤を含む。撥水剤は微多孔層に撥水性を付与する成分で、ガス拡散電極において液水の排出を促す効果がある。撥水剤は、耐腐食性に優れていることからフッ素樹脂を用いることが好ましい。ペースト組成物中に含まれる撥水剤としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)(例えば“テフロン(登録商標)”(ケマーズ社製))、FEP(四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体)、PFA(ペルフルオロアルコキシフッ化樹脂)、ETFE(エチレン四フッ化エチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVF(ポリフッ化ビニル)、PFPE(パーフルオロポリエーテル)等が上げられる。撥水性が特に高いという点でPTFEまたはFEPが好ましい。
【0024】
本発明で用いる撥水剤は350℃における溶融粘度が10Pa・s以下であることが好ましく、10Pa・s以下であることがより好ましく、10Pa・s以下であることがさらに好ましい。350℃における溶融粘度が小さいことにより、焼結工程で導電性多孔質基材表面へぬれ広がる速度が早く、短い焼結時間で均一に撥水加工を施すことができる。均一な撥水加工によって、水蒸気が凝集することを抑制し、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【0025】
本発明のペースト組成物における撥水剤の含有量は特に限定されないが、ペースト組成物100質量%中に0.1質量%以上20.0質量%以下が好ましい。含有量が0.1質量%より少ないと微多孔層を形成してガス拡散電極とした際に撥水性が十分に発揮されないことがある。また、含有量が20.0質量%を超えるとガスの拡散経路あるいは排水経路となる細孔を塞いでしまったり、電気抵抗が上がったりする場合がある。
【0026】
本発明のペースト組成物は、カーボンブラックおよび撥水剤を分散させるための分散媒として水を含む。その他の分散媒として、水以外に、例えばアルコール等の水溶性有機溶媒を含んでもよい。
【0027】
本発明のペースト組成物はカーボンブラックおよび撥水剤の分散性を向上させるため、分散剤としてノニオン性界面活性剤を含む。ノニオン性界面活性剤は、カーボンブラックへの吸着性が高く、ペースト組成物中でのカーボンブラックの分散性を向上させる効果が高い。また、これによりペースト組成物中の粘度の経時変化や濃度勾配を減少させ、ペースト組成物を塗布した際に、ムラや欠点を少なくすることができる。さらに、ノニオン性界面活性剤は金属イオンをほとんど含まないため、燃料電池とした際に電解質膜の劣化を抑制し、燃料電池の耐久性を高くすることができる。
【0028】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンナフチルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミド、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセロールエーテル等が挙げられ、これらを1種または2種以上用いることができる。中でも、カーボンブラックの分散性が良い点からポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、およびポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。また、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの中でも、分解温度が低くガス拡散電極中に残留しにくい点からポリオキシエチレンアルキルエーテルがより好ましい。
【0029】
ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルの市販品としては、例えば、“ブラウノン(登録商標)”N-506、N-507、N-508、N-5085、N-509、N-5095(以上、青木油脂工業(株)製)、“ノニポール(登録商標)”60、85、100、(以上、三洋化成工業(株)製)“ニューコール(登録商標)”560、564、565(以上、日本乳化剤(株)製)、“TRITON(登録商標)”N-57、NP-7、NP-8、NP-9、NP-9.5、X-45(以上、Dow Inc.社製)等が挙げられる。
【0030】
ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルの市販品としては、例えば、“エマルゲン(登録商標)”409PV、“ラテムル(登録商標)”PD-420(以上、花王(株)製)、“エマルミン(登録商標)”40、50、70(以上、三洋化成工業(株)製)、“ニューコール(登録商標)”1204、1210(以上、日本乳化剤(株)製)等が挙られる。
【0031】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの市販品としては、“セフティカット(登録商標)”LI-3050、LI-3055、LI-3062、LI-3075、LI-3085、“ワンダサーフ(登録商標)”NDR-800、NDR-1000、NDR-1400、80、100、RL-80、RL-100、S-800、S-1000、“ファインサーフ(登録商標)”NDB-800、NDB-1000、TDP-0633K、TDE-1033、TDE-1055、D-1303、D-1305、D-1307、D-1310、D-35、D-45、D-60、D-65、D-85、TD-30、TD-50、TD-70、TD-75、TD-80、TD-90、“アルフリー(登録商標)”30、40、50、70、S-45、S-60、S-65、S-85(以上、青木油脂工業(株)製)、“ノイゲン(登録商標)”XL-70、XL-80、XL-100、TDS-80、TDS-100、TDS-120、TDX-80、TDX-100、TDX-120、SD-60、SD-70、SD-80、LP-70、LP-80、LP-100、ET-149、DKS NL-70、NL-80、NL-90(以上、第一工業製薬(株)製)、“エマルゲン(登録商標)”109P、320P、707、909、1108、LS-106(以上、花王(株)製)、“ナロアクティー(登録商標)”CL-50、CL-70、CL-85、CL-95、CL-100、ID-60、“エマルミン(登録商標)”FL-80、FL-100、HL-100、“サンノニック(登録商標)”FN-80、FN-100、SS-30、SS-50、“セドラン(登録商標)”FF-180(以上、三洋化成工業(株)製)、“ニューコール(登録商標)”2302、2305、2307、2308、2310、NT-3、NT-5、NT-7、NT-9、1305、1606、1607、2502-A、3504-C、2303-Y、2304-YM、2304-Y、2306-Y、2306-HY(以上、日本乳化剤(株)製)、“TERGITOL(登録商標)”EH-3、EH-6、CA-30、CA-60、CA-90、26-L-7、26-L-9、15-S-7、SA-7、SA-9、XDLW、TMN-3、TMN-6、TMN-100X、TMN-10(以上、Dow Inc.社製)、“Lutensol(登録商標)”A7N、A9N、AO3、AO5、AO7、AO8、AO11、TO5、TO6、TO7、TO8、TO10、TO12、ON30、ON50、ON60、ON70、XL40、XL50、XL60、XL70、XL80、XL90、XL100、XP30、XP40、XP50、XP60、XP70、XP80、XP90(以上、BASF SE社製)等が挙げられる。
【0032】
本発明の第1の態様において、本発明のペースト組成物に含まれるノニオン性界面活性剤は、0.1質量%水溶液の表面張力が20.0mN/m以上32.0mN/m以下である。ノニオン性界面活性剤の0.1質量%水溶液の表面張力が20.0mN/m以上であると、界面活性剤と分散媒との親和性が高くなり、ペースト組成物中で界面活性剤が吸着したカーボンブラックの分散媒への分散性が向上する。また、ペースト組成物と導電性多孔質基材との界面張力が高くなり、ペースト組成物が導電性多孔質基材へしみこむのを防ぎ、ガス拡散電極とした際のガス拡散性が向上する。ノニオン性界面活性剤の0.1質量%水溶液の表面張力は、好ましくは23.0mN/m以上であり、より好ましくは25.0mN/m以上である。ノニオン性界面活性剤の0.1質量%水溶液の表面張力が32.0mN/m以下であると、界面活性剤のカーボンブラックへの吸着性が高くなり、ペースト組成物中でのカーボンブラックの分散を保持しやすくなる。また、ペースト組成物と導電性多孔質基材との界面張力が低くなり、ペースト組成物の導電性多孔質基材への濡れ性を高め、塗布の際に均一に塗布することができる。ノニオン性界面活性剤の0.1質量%水溶液の表面張力は、好ましくは30.0mN/m以下であり、より好ましくは28.0mN/m以下である。上記の上限のいずれかと下限のいずれかの組み合わせによる範囲であってもよい。表面張力は、測定温度25℃でウィルヘルミー法(JIS K 2241:2017)やペンダントドロップ法に従って測定することができる。
【0033】
本発明の第2の態様において、本発明のペースト組成物を固形分0.1質量%分散液となるように希釈したときの表面張力は20.0mN/m以上32.0mN/m以下である。ペースト組成物を固形分0.1質量%分散液となるように希釈してから測定することでペースト組成物の粘度の影響を排除することができ、安定的に表面張力を測定できる。ペースト組成物の固形分0.1質量%分散液の表面張力が20.0mN/m以上であると、ペースト組成物中でカーボンブラックが分散媒中によく分散するため、このペースト組成物を用いて塗布を行った際に均一な塗膜を形成でき、塗膜の光沢度を向上させることができる。ペースト組成物の固形分0.1質量%分散液の表面張力は、好ましくは23.0mN/m以上であり、より好ましくは25.0mN/m以上である。ペースト組成物の固形分0.1質量%水溶液の表面張力が32.0mN/m以下であると、ペースト組成物と導電性多孔質基材間の界面張力が低くなり、ペースト組成物の導電性多孔質基材への濡れ性を高め、このペースト組成物を用いて塗布を行った際に均一に塗布することができ、塗膜の光沢度を向上させることができる。ペースト組成物の固形分0.1質量%分散液の表面張力は、好ましくは30.0mN/m以下であり、より好ましくは28.0mN/m以下である。上記の上限のいずれかと下限のいずれかの組み合わせによる範囲であってもよい。ペースト組成物の固形分0.1質量%分散液は、固形分が0.1質量%となるようにペースト組成物に分散媒を添加し、必要に応じて攪拌することで得ることができる。なお、ペースト組成物中の固形分とは、ペースト組成物の分散媒以外の成分のことを指す。ペースト組成物を恒温乾燥機等で分散媒が揮発する温度で十分に加熱したときの加熱後に残った成分の質量を測定することで元のペースト組成物中の固形分の濃度を算出できる。これをもとに、元のペースト組成物を適切な量の分散媒で希釈することで固形分0.1質量%分散液を調製することができる。また、固形分0.1質量%分散液の表面張力は測定温度25℃でウィルヘルミー法(JIS K 2241:2017)やペンダントドロップ法に従って測定することができる。
【0034】
本発明のペースト組成物は、固形分0.1質量%分散液となるように希釈したときの起泡力が120mm未満であることが好ましい。固形分0.1質量%分散液の起泡力が120mm未満、より好ましくは110mm未満、さらに好ましくは100mm未満であると、ペースト組成物を送液する際の泡立ちを抑えることができ、ペースト組成物に微小気泡が混入することによる粘度変化を防ぎ、ペースト組成物の取扱性が向上する。また、このペースト組成物を用いて塗布を行った際に、混入した気泡が塗膜中で破泡することによって生じるピンホールやハジキといった欠点を生じにくく、収率が向上する。固形分0.1質量%分散液の起泡力は、測定温度25℃でロスマイルス法(JIS K 3362:2008)に従って測定したときの、起泡直後の泡の高さを示す。
【0035】
本発明のペースト組成物に含まれるノニオン性界面活性剤の0.1質量%水溶液の起泡力は120mm未満であることが好ましい。0.1質量%水溶液の起泡力が120mm未満、より好ましくは110mm未満、さらに好ましくは100mm未満であると、ペースト組成物を作製する際の消泡性に優れ、泡噛みの少ないペースト組成物を得ることができる。また、得られたペースト組成物を用いて導電性多孔質基材上に塗布を行うことで欠点の少ないガス拡散電極を作製することができ、収率が向上する。ノニオン性界面活性剤の0.1質量%水溶液の起泡力は、測定温度25℃でロスマイルス法(JIS K 3362:2008)に従って測定したときの、起泡直後の泡の高さを示す。
【0036】
また、本発明のペースト組成物に含まれるノニオン性界面活性剤のHLB値は10.0以上15.0以下であることが好ましい。HLB値は、分子内の親油性と親水性のバランスを表す値であり、下記の計算式で算出できる。
HLB値=(親水部の式量の総和)/(分子量)×20。
【0037】
HLB値が10.0以上、より好ましくは11.0以上であると、ノニオン性界面活性剤と水の親和性が高くなることでカーボンブラックの凝集を防ぐことができる。また、HLB値が15.0以下、より好ましくは14.0以下であると、ノニオン性界面活性剤がカーボンブラックに十分に吸着されることでペースト組成物中のカーボンブラックの分散性を向上させる効果がある。
【0038】
本発明のノニオン性界面活性剤が曇点を持つ場合、その曇点は30℃以上であることが好ましい。ノニオン性界面活性剤の曇点が30℃以上、より好ましくは50℃以上であると室温に近い温度範囲で粘度が安定するため、塗液の安定性を高くすることができる。曇点とは、温度の上昇とともに界面活性剤がミセルを形成し、界面活性剤溶液が不透明化する温度のことをいう。また、ノニオン性界面活性剤が曇点を持たない場合も、温度による粘度上昇が起こらず好ましい。曇点は、ノニオン性界面活性剤の1質量%水溶液を攪拌しながら加熱し、濁りを生じさせた後、攪拌しながら徐々に冷却し、ノニオン性界面活性剤の1質量%水溶液が透明になったときの温度とする。
【0039】
本発明のペースト組成物におけるノニオン性界面活性剤の含有量は、カーボンブラックを100質量部としたとき、10質量部以上500質量部以下であることが好ましい。含有量が10質量部以上、より好ましくは50質量部以上であると、ペースト組成物中のカーボンブラックの分散性が高く、粘度が安定する。また、ペースト組成物を用いて塗布を行った際に均一に塗布することができ、塗膜の光沢度を向上させることができる。含有量が500質量部以下、より好ましくは300質量部以下であると、ペースト組成物中の固形分濃度が低下するため、ペースト組成物の流動性が高くなり、取り扱いが容易になる。
【0040】
また、界面活性剤は起泡作用を有するため、界面活性剤含有量を少なくすることによって、ペースト組成物の起泡力を低減させ、泡噛みの少ないペースト組成物を得ることができる。得られたペースト組成物を用いて導電性多孔質基材上に塗布を行うことで欠点の少ないガス拡散電極を作製することができ、収率が向上する。
【0041】
本発明のペースト組成物は、カーボンブラック、撥水剤、水およびノニオン性界面活性剤に加え、さらに消泡剤を含むことが好ましい。消泡剤をペースト組成物に含むことで、混合した際に発生した泡を速やかに消す破泡効果や発泡を抑制する抑泡効果があり、ペースト組成物を塗布する際に気泡が混入し欠点が生じることを防ぐことができる。消泡剤としては、低級アルコール系消泡剤、鉱物油系消泡剤、ポリアルキレングリコール系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、シリコーン系消泡剤等が挙げられる。中でも消泡性が高く、カーボンブラックの分散を阻害しないという点で、ポリアルキレングリコール系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、およびシリコーン系消泡剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの消泡剤を含むことが好ましい。
【0042】
ポリアルキレングリコール系消泡剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。
【0043】
脂肪酸エステル系消泡剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0044】
シリコーン系消泡剤としては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルヒドロシロキサン、ポリトリフルオロプロピルシロキサン等のポリオルガノシロキサン、ポリエーテル変性ポリオルガノシロキサン、ポリオルガノシロキサンとシリカ粒子の組み合わせ等が挙げられる。
【0045】
本発明のペースト組成物における消泡剤の含有量は、カーボンブラックの質量を100質量部としたとき、0.01質量部以上10.0質量部以下であることが好ましい。含有量が0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であることで消泡効果が十分に発揮され、泡噛みの少ないペースト組成物を得ることができる。10.0質量部以下、より好ましくは5.0質量部以下であることでカーボンブラックの凝集を防ぎ、ペースト組成物の安定性を高くすることができる。さらに、ペースト組成物を用いて塗布を行った際に均一に塗布することができ、塗膜の光沢度を向上させることができる。また、本発明のペースト組成物は、カーボンブラックおよび撥水剤の分散を損なわない範囲で必要に応じて増粘剤等の他の物質を加えてもよい。
【0046】
増粘剤としては、例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリ乳酸、グアーガム、キサンタンガム、ゼラチン、デンプン等の水溶性高分子を用いることができる。
【0047】
本発明のペースト組成物の粘度は、せん断速度1/sにおいて少なくとも10Pa・s以上であることが好ましい。ペースト組成物の粘度が10Pa・s未満だと、ペースト組成物が導電性多孔質基材やフィルムの表面上で流れ、所望の厚みを確保できないことがあったり、導電性多孔質基材の細孔にペースト組成物が流入して裏抜けを起こしてしまったりすることがある。逆に、高粘度にしすぎると、塗布性が低下することがあるため、500Pa・s以下であることが好ましい。ペースト組成物のより好ましい粘度は、30Pa・s以上200Pa・s以下、さらに好ましくは50Pa・s以上150Pa・s以下である。上記の上限のいずれかと下限のいずれかの組み合わせによる範囲であってもよい。粘度はシアレート・シアストレス制御型レオメーター等でペースト組成物が23℃になるように温度調整することで、せん断速度1/sにおけるペースト組成物の粘度を測定できる。
【0048】
本発明のペースト組成物を用いてガス拡散電極を作製するためには、導電性多孔質基材上に本発明のペースト組成物を塗布すること、もしくはフィルムに塗布した後、剥離することが好ましい。ペースト組成物を塗布する方法としては、市販されている各種の塗布装置を用いて行うことができ、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、スプレー噴霧、凹版印刷、グラビア印刷、ダイコーター印刷、バー塗布、ブレード塗布、ナイフコーター等が挙げられる。上記方法で塗布することで、導電性多孔質基材と微多孔層の密着性が向上し、表面品位が高く、耐久性の高いガス拡散電極を作製できる。
【0049】
導電性多孔質基材としては、炭素繊維からなるカーボンフェルト、カーボンペーパーおよびカーボンクロス等が好ましく、中でも機械的強度等の点からカーボンペーパーが特に好ましい。
【0050】
本発明のペースト組成物を塗布した後、必要に応じ、ペースト組成物中の水を乾燥除去する。塗布後の乾燥の温度は、分散媒が水の場合、室温(20℃前後)から150℃以下が好ましく、さらに好ましくは60℃以上120℃以下が好ましい。上記の上限のいずれかと下限のいずれかの組み合わせによる範囲であってもよい。この分散媒の乾燥は後の焼結工程において一括して行ってもよい。
【0051】
ペースト組成物を塗布した後、ペースト組成物中のノニオン性界面活性剤を除去する目的および撥水剤を一度溶解してカーボンブラックに結着させる目的で、焼結を行うことが一般的である。焼結の温度は、添加されているノニオン性界面活性剤の沸点あるいは分解温度にもよるが、250℃以上400℃以下で行うことが好ましい。焼結の温度が上記の範囲であると、界面活性剤の除去が十分に達成でき、かつ撥水剤の分解が起こる可能性も低い。
【0052】
ペースト組成物をフィルムに塗布した後、剥離することによってガス拡散電極を作製する場合、焼結を行うためにフィルムには高耐熱性が求められ、例えばポリイミドフィルムが用いられる。
【0053】
本発明において、上記のガス拡散電極を、両面に触媒層を有する固体高分子電解質膜の少なくとも片面に接合することにより、膜電極接合体を形成することができる。触媒層側にガス拡散電極の微多孔層を配置することにより、生成水の逆拡散が起こりやすくなることに加え、触媒層とガス拡散電極の接触面積が増大し、接触電気抵抗を低減させることができるため好ましい。
【0054】
本発明の燃料電池は、本発明のガス拡散電極を含むものである。つまり上記の膜電極接合体の両側にセパレータを有するものである。すなわち、上記の膜電極接合体の両側にセパレータを配することにより燃料電池を構成する。通常、このような膜電極接合体の両側にガスケットを介してセパレータで挟んだものを複数個積層することによって固体高分子形燃料電池を構成する。触媒層は、固体高分子電解質と触媒担持炭素を含む層からなる。触媒としては、通常、白金が用いられる。固体高分子電解質膜には、プロトン伝導性、耐酸化性および耐熱性の高い、パーフルオロスルホン酸系の高分子材料を用いることが好ましい。このような燃料電池ユニットや燃料電池の構成自体は、よく知られているところである。
【0055】
また、本発明の燃料電池は自動車、船舶、鉄道、航空機といった輸送用機器の電力供給源として用いることができる。
【実施例0056】
以下に実施例及び比較例を用いて本発明を説明する。
【0057】
[測定方法]
(1)表面張力
接触角計(協和界面科学(株)製DMo-501)を用いて、試料をシリンジに充填し、ペンダントドロップ法で測定した。ノニオン性界面活性剤の表面張力を測定する場合は、上記試料はノニオン性界面活性剤の0.1質量%水溶液とした。ペースト組成物の表面張力を測定する場合は、上記試料はペースト組成物を固形分が0.1質量%となるように精製水で希釈した分散液とした。なお、ここでいう固形分とは、ペースト組成物中の分散媒以外の成分のことを指す。
【0058】
(2)起泡力
JIS K3362:2008に従って、試料200mLを25℃で900mmの高さから30秒間で液面上に落下させたときに生じる泡の起泡直後の高さを起泡力として測定した。ノニオン性界面活性剤の起泡力を測定する場合は、上記試料はノニオン性界面活性剤の0.1質量%水溶液とした。ペースト組成物の起泡力を測定する場合は、上記試料はペースト組成物を固形分が0.1質量%となるように精製水で希釈した分散液とした。なお、ここでいう固形分とは、ペースト組成物中の分散媒以外の成分のことを指す。
【0059】
(3)ペースト組成物の光沢度
ペースト組成物をガラス上にフィルムアプリケーターを用いてペースト膜厚150μmとなるように100mm/sの速度で塗布し、塗布後30秒以内にグロスメーター(スガ試験機(株)製GM-1)を用いて、塗布した面を上にした状態で、JIS K5600-4-7:1999で規定される入射角85°の入射光に対する鏡面光沢度(D85)を任意の5点で測定を実施し、その平均値をペースト組成物の光沢度とした。
【0060】
(4)微多孔層表面の欠点数
デジタルマイクロスコープ(ライカマイクロシステムズ(株)製M205C)を用いて、ガス拡散電極の微多孔層表面を4.5mm×6.0mmの視野で任意の10点で観察し、50μm以上の長径を持つ円形または楕円形のダマや塗布抜けと200μm以上の長さを持つ線状の亀裂を欠点として数え、1cmあたりに換算した欠点の個数から下記の基準に基づいて判定した。
A:1cmあたりに換算した欠点の個数が0個/cm以上25個/cm未満
B:1cmあたりに換算した欠点の個数が25個/cm以上100個/cm未満
C:1cmあたりに換算した欠点の個数が100個/cm以上200個/cm未満
D:1cmあたりに換算した欠点の個数が200個/cm以上。
【0061】
[実施例1]
厚み150μm、空隙率85%のカーボンペーパーを撥水性樹脂ディスパージョンで満たした浸漬槽に浸漬して撥水処理を行い、100℃に設定した乾燥機で乾燥して、撥水処理した導電性多孔質基材を得た。この際、撥水性樹脂ディスパージョンとしてPTFEディスパージョン(“ポリフロン(登録商標)”D-210C;ダイキン工業(株)製;分散媒(水)中にPTFEを60質量%含む)を用いて、カーボンペーパーへのPTFEの付着量が5質量%となるようにPTFEディスパージョンを精製水で薄めた液を浸漬に用いた。
【0062】
次に、アセチレンブラック(“デンカ ブラック(登録商標)”;デンカ(株)製)、ノニオン性界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルの“ファインサーフ(登録商標)”NDB-800(青木油脂工業(株)製)(HLB:12.3、曇点:34℃)、撥水剤としてPTFEディスパージョン(“ポリフロン(登録商標)”D-210C;ダイキン工業(株)製)、および精製水をプラネタリーミキサーを用いて混合し、ペースト組成物を作製した。このとき、アセチレンブラック/ノニオン性界面活性剤/PTFE固形分/精製水の質量比が6.0質量部/10.0質量部/5.0質量部/79.0質量部となるように調整して作製した。上記の測定方法に従って、ノニオン性界面活性剤の表面張力ならびに起泡力、ペースト組成物を固形分0.1質量%分散液となるように希釈したときの表面張力ならびに起泡力、およびペースト組成物の光沢度を測定した結果は表1の通りであった。
【0063】
上記のペースト組成物を、撥水処理した導電性多孔質基材上にスリットダイコーターで固形分の目付量が20g/mとなるように塗布し、120℃で乾燥し、続いて350℃で焼結することでガス拡散電極を得た。このとき、上記の測定方法に従って微多孔層表面の欠点数を測定した結果は表1の通りであった。
【0064】
[実施例2]
アセチレンブラック/ノニオン性界面活性剤/PTFE固形分/精製水の質量比が6.0質量部/2.0質量部/5.0質量部/87.0質量部となるように調整した以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極を得た。結果は表1の通りであった。
【0065】
[実施例3]
ノニオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルの“エマルミン(登録商標)”70(三洋化成工業(株)製)(HLB:10.8、曇点:20℃未満)を用いた以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極を得た。結果は表1の通りであった。
【0066】
[実施例4]
アセチレンブラック/ノニオン性界面活性剤/PTFE固形分/精製水の質量比が6.0質量部/30.0質量部/5.0質量部/59.0質量部となるように調整した以外は実施例3と同様にして、ガス拡散電極を得た。結果は表1の通りであった。
【0067】
[実施例5]
ノニオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルの“ファインサーフ(登録商標)”D-1305(青木油脂工業(株)製)(HLB:11.9、曇点:45℃)を用いた以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極を得た。結果は表1の通りであった。
【0068】
[実施例6]
ペースト組成物を作製する際に、さらに消泡剤としてポリアルキレングリコール系のSNデフォーマー265(サンノプコ(株)製)を用いてペースト組成物を作製した。このとき、アセチレンブラック/ノニオン性界面活性剤/PTFE固形分/消泡剤/精製水の質量比が6.0質量部/10.0質量部/5.0質量部/1.0質量部/78.0質量部となるように調整して作製した。それ以外は実施例1と同様にしてガス拡散電極を得た。結果は表1の通りであった。
【0069】
[実施例7]
消泡剤としてシリコーン系のKF-6701(信越化学工業(株)製)を用いた以外は実施例6と同様にして、ガス拡散電極を得た。結果は表1の通りであった。
【0070】
[実施例8]
消泡剤として脂肪酸エステル系の“リョートー(登録商標)”シュガーエステルCA-H1(三菱ケミカル(株)製)を用いた以外は実施例6と同様にして、ガス拡散電極を得た。結果は表2の通りであった。
【0071】
[実施例9]
アセチレンブラック/ノニオン性界面活性剤/PTFE固形分/消泡剤/精製水の質量比が6.0質量部/10.0質量部/5.0質量部/5.0質量部/74.0質量部となるように調整した以外は実施例6と同様にして、ガス拡散電極を得た。結果は表2の通りであった。
【0072】
[実施例10]
ノニオン性界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルの“ワンダサーフ(登録商標)”140(青木油脂工業(株)製)(HLB:14.2、曇点:81℃)を用い、さらに消泡剤としてKF-6701を用い、アセチレンブラック/ノニオン性界面活性剤/PTFE固形分/消泡剤/精製水の質量比が6.0質量部/10.0質量部/5.0質量部/1.0質量部/78.0質量部となるように調整して作製した以外は実施例1と同様にしてガス拡散電極を得た。結果は表2の通りであった。
【0073】
[比較例1]
ノニオン性界面活性剤として“ワンダサーフ(登録商標)”140を用いた以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極を得た。結果は表2の通りであった。
【0074】
[比較例2]
ノニオン性界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルの“ファインサーフ(登録商標)”TD-120(青木油脂工業(株)製)(HLB:13.4、曇点:91℃)を用いた以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極を得た。結果は表2の通りであった。
【0075】
[比較例3]
ノニオン性界面活性剤としてポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテルの“ニューコール(登録商標)”CMP-11(日本乳化剤(株)製)(HLB:13.9、曇点:78℃)を用いた以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極を得た。結果は表2の通りであった。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のペースト組成物により、燃料電池に用いられるガス拡散電極を得ることができる。得られたガス拡散電極は、燃料電池の中でも特に燃料電池車や燃料電池航空機等の輸送用機器の電源として使用される高分子電解質形燃料電池の電極として好適に用いられる。