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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144126
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】電流センサ及び測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/18 20060101AFI20241003BHJP
   G01R 15/24 20060101ALI20241003BHJP
   G01R 15/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01R15/18 C
G01R15/24 F
G01R15/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024014083
(22)【出願日】2024-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2023051932
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中根 嵩幸
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 英雄
(72)【発明者】
【氏名】外谷 彰悟
(72)【発明者】
【氏名】横関 貴史
(72)【発明者】
【氏名】丸山 貴史
(72)【発明者】
【氏名】夏 沛宇
【テーマコード(参考)】
2G025
【Fターム(参考)】
2G025AA01
2G025AA13
2G025AB02
2G025AC01
(57)【要約】
【課題】電流センサの検出特性について漏れ磁束に起因する線形性の悪化を抑制する。
【解決手段】検出対象に流れる電流を検出する電流センサ10は、検出対象が挿通される環状の磁気コア11と、磁気コア11に配置され、磁束の大きさを検出する磁気検出素子とを含む。また、電流センサ10は、磁気コア11に配置された磁気シールド14と、磁気コア11のポロイダル方向Yに沿って磁気コア11及び磁気シール14に巻かれ、一端13aに磁気検出素子の出力が接続された巻線として負帰還巻線13を含む。そして負帰還巻線13の一端13aには、磁気コア11及び磁気シールド14に生じる磁束を打ち消すように生成される負帰還電流Ifが入力され、負帰還巻線13の他端13bから、検出対象に流れる電流の大きさに応じた検出量を示す信号が出力される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象に流れる電流を検出する電流センサであって、
前記検出対象が挿通される環状の磁気コアと、
前記磁気コアに配置され、磁束の大きさを検出する磁気検出素子と、
前記磁気コアに配置された磁気シールドと、
前記磁気コアのポロイダル方向に沿って前記磁気コア及び前記磁気シールドに巻かれ、一端に前記磁気検出素子の出力が接続された巻線と、を含み、
前記巻線の一端には、前記磁気コア及び前記磁気シールドに生じる磁束を打ち消すように生成される負帰還電流が入力され、
前記巻線の他端から、前記電流の大きさに応じた検出量を示す信号が出力される、
電流センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の電流センサであって、
前記磁気検出素子は、ホール素子である、
電流センサ。
【請求項3】
請求項1に記載の電流センサであって、
前記磁気検出素子は、フラックスゲートである、
電流センサ。
【請求項4】
請求項1に記載の電流センサであって、
前記磁気シールドは、前記磁気コアに対して前記環状の径方向外側に配置される、
電流センサ。
【請求項5】
請求項4に記載の電流センサであって、
前記磁気シールドは、前記磁気コアのトロイダル方向の全周に亘って配置される、
電流センサ。
【請求項6】
請求項1に記載の電流センサであって、
前記磁気シールドは、前記磁気コアに対して前記環状の径方向内側に配置される、
電流センサ。
【請求項7】
請求項6に記載の電流センサであって、
前記磁気シールドは、前記磁気コアのトロイダル方向の全周に亘って配置される、
電流センサ。
【請求項8】
請求項1に記載の電流センサであって、
前記磁気シールドは、前記挿通される方向の一方又は両方に配置される、
電流センサ。
【請求項9】
請求項1に記載の電流センサであって、
前記磁気シールドは、前記磁気検出素子の一部又は全部を覆うように配置される、
電流センサ。
【請求項10】
請求項1に記載の電流センサであって、
前記磁気コアを収容する収容部は、非磁性の導体により構成される、
電流センサ。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の電流センサと、
前記電流センサから出力される前記信号に基づいて前記検出対象についての測定量を演算する演算手段と、
を含む測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流センサ及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、環状の磁気コア内の磁束を検出するホール素子の出力信号に基づき生成される負帰還電流を、磁気コアに生成されるコイルに供給する電流センサが開示されている。この電流センサには、コイル及びホール素子の近傍にシールド部材が配設され、そのシールド部材にはギャップが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-114558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の電流センサでは、環状の磁気コアに検出対象が挿通され、検出対象に流れる電流によって磁気コアに磁束が生じる。このときシールド部材にも磁束が生じ、このシールド部材のギャップから磁束が漏れ、この漏れ磁束が磁気コア内に混入してしまう。
【0005】
検出対象に流れる電流が大きくなるにつれて磁気コアに混入する漏れ磁束の磁束量も線形的に増加するが、検出対象に流れる電流がある程度まで大きくなると、シールド部材において磁気飽和が起こってしまう。この状態では、検出対象に流れる電流がさらに大きくなったとしても磁気コアに混入する漏れ磁束の磁束量は殆ど変化しない。
【0006】
このように、シールド部材の磁気飽和によって、検出対象に流れる電流と磁気コアに混入する漏れ磁束との線形的な関係が崩れてしまうため、電流センサの検出特性における線形性が悪くなるという問題がある。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、電流センサの検出特性について漏れ磁束に起因する線形性の悪化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によれば、検出対象に流れる電流を検出する電流センサは、前記検出対象が挿通される環状の磁気コアと、前記磁気コアに配置されて磁束の大きさを検出する磁気検出素子と、前記磁気コアに配置された磁気シールドと、を含む。さらに電流センサは、前記磁気コアのポロイダル方向に沿って前記磁気コア及び前記磁気シールドに巻かれ、一端に前記磁気検出素子の出力が接続された巻線と、を含む。そして前記巻線の一端には、前記磁気コア及び前記磁気シールドに生じる磁束を打ち消すように生成される負帰還電流が入力され、前記巻線の他端から、前記電流の大きさに応じた検出量を示す信号が出力される。
【発明の効果】
【0009】
この態様によれば、磁気コアとともに磁気シールドを纏めて巻線で巻くことにより、巻線には、磁気コア及び磁気シールドの双方に生じる磁束を打ち消すための負帰還電流が流れる。この巻線に流れる負帰還電流により、磁気コアに生じる磁束だけでなく、磁気シールドに生じる磁束も打ち消されるので、磁気シールドから磁気コアに入り込む磁束を低減することができる。
【0010】
したがって、電流センサの検出特性に関して漏れ磁束に起因する線形性の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第一実施形態に係る電流センサを備える測定装置の構成を示す図である。
図2図2は、第一実施形態に係る電流センサの構造を模式的に示す図である。
図3図3は、図2に示したIII-III線に沿った断面図である。
図4図4は、電流センサ及び測定部の接続構成の一例を示す図である。
図5図5は、第二実施形態に係る電流センサの構造を模式的に示す図である。
図6図6は、図5に示したVI-VI線に沿った断面図である。
図7図7は、第三実施形態に係る電流センサの構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の各実施形態について説明する。本明細書においては、全体を通じて、同一又は同等の要素には同一の符号を付する。
【0013】
(第一実施形態)
図1は、第一実施形態に係る電流センサを備える測定装置の構成を示す図である。図1では、電流センサのトロイダル方向をX方向とし、ポロイダル方向をY方向とする。
【0014】
測定装置100は、測定対象Lmについての物理量を測定するための装置である。測定対象Lmは、例えば、直流又は交流の測定電流Imが流れる電路であり、この電路としては、例えば、単相又は三相の電源ケーブルなどが挙げられる。また、測定対象Lmについての物理量としては、電流の大きさを示す電流値、磁束の大きさを示す磁束量、又は電力の大きさを示す電力値などの測定量が挙げられる。
【0015】
第一実施形態において、測定装置100は、測定対象Lmに流れる測定電流Imの大きさを測定する。測定装置100は、電流センサ10及び測定部20を備える。電流センサ10と測定部20との間は、信号ケーブルLsにより接続される。
【0016】
電流センサ10は、測定対象Lmに流れる測定電流Imを検出するセンサであり、ゼロフラックス方式(磁気平衡方式)を採用する。測定対象Lmは、電流センサ10にとっての検出対象であり、以下では検出対象とも称する。
【0017】
電流センサ10は、一又は複数の巻線が設けられた磁気コアによって構成され、磁気コアには磁気検出素子が配置されている。具体的には、磁気コアの間隙(ギャップ)の中に磁気検出素子の一種であるホール素子が配置されている。ホール素子は、磁気検出素子として用いられるフラックスゲートに比べてノイズレベルが低い。このため、磁気検出素子としてホール素子を用いることによって、フラックスゲートを用いた場合に比べ、電流センサ10を低ノイズの電流センサにすることができる。なお、ホール素子は、磁気コアの間隙の近傍に配置されていてもよい。
【0018】
上述のように構成される電流センサ10は、測定電流Imによって作られる磁束の磁束量を検出して得られる電気信号を、測定電流Imの大きさを示す検出量として出力する。
【0019】
電流センサ10の構造は、測定対象Lmをクランプする開閉可能なクランプ型の構造でもよく、測定対象Lmを挿通する貫通型の構造であってもよい。第一実施形態の電流センサ10は、センサ下部10bに対しセンサ上部10aを平行にスライドさせることによって開閉される。
【0020】
測定部20は、電流センサ10の検出量を示す出力信号に基づいて、測定対象Lmについての測定量を演算する演算手段として機能する。測定部20は、例えば、電流測定器、電力解析器、又は磁界測定器により実現される。
【0021】
第一実施形態では、測定部20は、電流センサ10のホール素子の出力信号を増幅する増幅回路と、電流センサ10の巻線から出力される電流の検出量を電圧値に変換するIV変換回路と、を含む。なお、増幅回路及びIV変換回路の一方又は両方は、測定部20に代えて電流センサ10に配置されてもよい。
【0022】
測定部20は、測定電流Imによって作られる磁束の磁束量に振幅が比例する電圧信号を上記のIV変換回路から取得し、取得した電圧信号の電圧値に基づいて測定電流Imの電流値を測定量として演算する。
【0023】
続いて、電流センサ10の構成について図2及び図3を参照して説明する。
【0024】
図2は、第一実施形態に係る電流センサ10の内部構造を模式的に示す図であり、測定対象Lmが挿通される挿通方向に対して直交する方向に電流センサ10の収容部16を切断した断面図である。図3は、図2に示したIII-III線に沿った断面図である。
【0025】
電流センサ10は、磁気コア11と、ホール素子12と、負帰還巻線13と、磁気シールド14と、遮断部15と、収容部16と、を備える。
【0026】
図2に示すように、磁気コア11の全体は、測定対象Lmが挿通可能となるよう環状に形成される。ここにいう環状には、円形状、楕円形状、矩形状、及び多角形状などが含まれる。第一実施形態では磁気コア11が矩形状に形成されている。磁気コア11は、センサ上部10aのコア上部11aと、センサ下部10bのコア下部11bと、によって構成される。
【0027】
図3に示すように、磁気コア11の断面は、矩形状に形成されている。しかしながら、磁気コア11の断面形状は、円形状、楕円形状又は多角形状などに形成されてもよい。磁気コア11は、例えば、フェライト又はパーマロイ等の磁性体により構成され、第一実施形態ではフェライトによって形成されている。
【0028】
磁気コア11には、測定電流Imによって磁気コア11のトロイダル方向Xに磁束が生じる。以下では、測定電流Imによって磁気コア11内に生じる磁束のことを「測定磁束」と称する。
【0029】
図2に示すように、ホール素子12は、測定磁束をゼロに収束されるための負帰還電流を生成する目的で磁気コア11に取り付けられる。第一実施形態のホール素子12は、磁気コア11においてトロイダル方向に形成された間隙にホール素子12が配置されている。
【0030】
ホール素子12は、測定対象Lmに流れる測定電流Imによって磁気コア11内に生じる磁束の磁束量を検出する素子である。ホール素子12は、磁気コア11内の磁束量に応じて振幅が変化する電圧信号を出力する。
【0031】
第一実施形態のホール素子12の出力端12aは、負帰還電流を生成する負帰還回路の入力端に接続され、ホール素子12は出力信号を負帰還回路に供給する。負帰還回路は、例えば増幅回路により実現される。
【0032】
磁気シールド14は、磁気コア11の外部から侵入する磁束を抑制する機能を有する。磁気シールド14は、フェライト又はパーマロイ等の高透磁率の磁性体であり、例えば、パーマロイにより形成される。磁気シールド14は、センサ上部10aのシールド上部14aと、センサ下部10bのシールド下部14bと、によって構成される。磁気シールド14の厚みは、例えば数ミリ[m]程度である。
【0033】
磁気シールド14は、磁気コア11に配置される。具体的には、磁気シールド14は、少なくとも磁気コア11と負帰還巻線13の内周との間に設けられる。
【0034】
第一実施形態の磁気シールド14は、磁気コア11に対して環状の径方向外側に配置される。ここにいう環状の径方向外側とは、測定対象Lmを環状の磁気コア11内に挿通した状態においては、測定対象Lmから見て遠い方の側のことをいう。
【0035】
例えば、磁気コア11のトロイダル方向Xの断面が多角形である場合は、磁気コア11のうち測定対象Lmの径方向外側の多角形を作る面、すなわち測定対象Lmから遠い方の面に沿って磁気シールド14が配置される。磁気コア11のトロイダル方向Xの断面が円形、楕円形を含む非多角形である場合は、磁気コア11の環状の径方向外側の表面に沿って磁気シールド14が配置される。
【0036】
磁気シールド14は、一例として磁気コア11の外側面112に沿って配置されている。磁気コア11の外側面112は、磁気コア11の面のうち環状の径方向外側の面に該当する。さらに磁気シールド14は、ホール素子12の一部又は全部を覆うように配置されてもよい。
【0037】
第一実施形態の磁気シールド14は、磁気コア11に対し、環状の径方向外側に対して反対側の径方向内側には配置されていない。ここにいう環状の径方向内側とは、測定対象Lmを環状の磁気コア11内に挿通した状態において、測定対象Lmから見て近い方の側のことをいう。なお、図2及び図3では、磁気コア11の環状の径方向の一例として、磁気コア11の負帰還巻線13が巻かれた部位の径方向Uが示されている。
【0038】
また、磁気シールド14は、磁気コア11のトロイダル方向Xに沿って設けられる。第一実施形態の磁気シールド14は、磁気コア11の外側面112のトロイダル方向Xの全周に沿って配設されている。これにより、磁気シールド14は、ホール素子12の一部を覆うように配置される。
【0039】
遮断部15は、磁気コア11の外側面112と磁気シールド14との間に配置され、磁気コア11と磁気シールド14との間の磁気的結合を低減する。遮断部15は、磁気コア11の透磁率に対しておおむね1/100又はそれ以下の透磁率にする。例えば、遮断部15は、空気や樹脂材料などの非磁性体で形成する。このように、遮断部15は、磁気コア11と磁気シールド14との磁気的結合を実質的に遮断する機能を有する。
【0040】
また、遮断部15は、電流が流れないよう絶縁体により形成してもよい。絶縁体としては、例えば、ガラス、ゴム、非導電性樹脂などが挙げられる。
【0041】
遮断部15自体に電流が流れてしまうと、これに起因してノイズが発生したり、感電したりするおそれがある。この対策として遮断部15を絶縁体で形成することにより、ノイズ及び感電の発生を回避することができる。
【0042】
遮断部15は、磁気シールド14と磁気コア11との間に間隙を形成して間隙中の空気を遮断部15として利用してもよい。遮断部15は、センサ上部10aの遮断上部15aと、センサ下部10bの遮断下部15bと、によって構成される。
【0043】
負帰還巻線13は、磁気コア11のポロイダル方向Yに沿って磁気コア11及び磁気シールド14に巻かれる巻線である。また、負帰還巻線13は、磁気コア11内の測定磁束の向きと反対方向に磁束を発生させるように配置される。
【0044】
以下では、主にホール素子12によって磁束を検出する低域側の周波数帯域のことを「低周波帯域」と称し、主に負帰還巻線13によって磁束を検出する低周波帯域よりも高い周波数帯域のことを「高周波帯域」と称する。
【0045】
具体的には、負帰還巻線13は、高周波帯域において磁気コア11及び磁気シールド14に生じる磁束の磁束量を検出し、検出した磁束量の磁束を打ち消すように負帰還電流を誘導する。
【0046】
負帰還巻線13の一端13aには、ホール素子12の出力端12aが直接的又は間接的に接続される。第一実施形態では、負帰還巻線13の一端13aには、ホール素子12の出力端12aが間接的に接続されている。具体的には、負帰還巻線13の一端13aには、上記の負帰還回路の入力端がホール素子12の出力端12aに接続された負帰還回路の出力端が接続されている。
【0047】
また、負帰還巻線13の一端13aには、ホール素子12及び負帰還巻線13のうち少なくとも一方によって検出される磁束を打ち消すように生成される負帰還電流が入力される。
【0048】
例えば、低周波帯域においては、ホール素子12によって検出される磁気コア11の磁束を打ち消すような負帰還電流が負帰還巻線13の一端13aに入力される。一方、高周波帯域においては、負帰還巻線13により検出される磁気コア11及び磁気シールド14の両磁束を打ち消すように生成される負帰還電流が負帰還巻線13の一端13aに入力される。
【0049】
また、負帰還巻線13の他端13bからは、測定電流Imの電流値に応じた検出量を示す信号が出力される。以下では、負帰還巻線13の他端13bから出力される信号のことを「検出信号」と称する。
【0050】
第一実施形態において、負帰還巻線13の他端13bは、入力電流をその電流値に比例する振幅の電圧に変換するIV変換回路の入力端に接続され、負帰還巻線13は、上記の検出信号をIV変換回路に供給する。この検出信号は、IV変換回路に代えてデジタル回路を用いて数値化されてもよい。
【0051】
IV変換回路は、例えばシャント抵抗により実現される。この場合、負帰還巻線13の他端13bは、シャント抵抗の一端に接続され、シャント抵抗の他端が基準電位に接続される。
【0052】
負帰還巻線13を構成する導線は、隣接する導線同士が導通しないよう絶縁性を有する絶縁膜により被覆されている。第一実施形態の負帰還巻線13は、トロイダル方向Xに沿ってセンサ下部10bに収容される磁気コア11の一部に巻かれている。
【0053】
負帰還巻線13は、図1に示したセンサ下部10bに収容されるコア下部11bのうち負帰還巻線13に対向する部分にも同様に巻かれてもよく、センサ上部10aに収容されるコア上部11aに巻かれてもよい。または、電流センサ10を貫通型の構造で実現する場合には、負帰還巻線13は、磁気コア11のトロイダル方向Xの全部に巻かれてもよい。
【0054】
図3に示すように、負帰還巻線13は、巻き崩れ及び巻きズレなどの発生を抑制するためのボビン131に収容される。ボビン131は、負帰還巻線13を磁気コア11のポロイダル方向Yに巻くための筒であり、樹脂などの絶縁性を有する材料によって形成される。
【0055】
収容部16は、磁気コア11、ホール素子12、負帰還巻線13、磁気シールド14及び遮断部15を収容する。収容部16は、センサ上部10aの収容部16aと、センサ下部10bの収容部16bと、によって構成される。収容部16は、例えば、磁性体又は非磁性体により形成される。
【0056】
第一実施形態において、収容部16は、電磁シールド効果が得られるよう、非磁性の導体、例えば非磁性の金属により構成される。なお、収容部16は、静電シールド効果が得られるよう、基準電位としてグランド電位に接続されてもよい。
【0057】
また、収容部16を非磁性で非導体のプラスチック等により形成してもよい。
【0058】
図4は、第一実施形態に係る測定部20の構成例を示す図である。
【0059】
測定部20は、負帰還回路としての増幅回路21と、IV変換回路としてのシャント抵抗22と、演算部23と、を備える。
【0060】
増幅回路21においては、入力端子がホール素子12の出力端12aに接続され、出力端子が負帰還巻線13の一端13aに接続されている。増幅回路21は、ホール素子12又は負帰還巻線13の出力信号を増幅することにより、磁気コア11及び磁気シールド14に生じる磁束を打ち消すための負帰還電流Ifを生成する。増幅回路21は、生成した負帰還電流Ifを負帰還巻線13の一端13aに供給する。
【0061】
シャント抵抗22においては、一端が負帰還巻線13の他端13bに接続され、他端が基準電位としてグランド電位Gに接続されている。シャント抵抗22は、負帰還巻線13の他端13bから出力される検出信号Idにより生じる電圧降下によって、検出信号Idの電流値に振幅が比例する検出電圧信号Vdを生成する。シャント抵抗22は、生成した検出電圧信号Vdを演算部23に出力する。
【0062】
演算部23は、シャント抵抗22の一端に生じる検出電圧信号Vdを用いることにより、測定量として測定対象Lmに流れる測定電流Imの電流値を算出する。また、演算部23は、検出電圧信号Vdを用いて測定対象Lmについての電力値又は磁束量を算出するものであってもよい。
【0063】
続いて、第一実施形態に係る電流センサ1の動作について説明する。
【0064】
ここでは、測定対象Lmに流れる測定電流Imの周波数が高周波帯域に該当する場合における電流センサ1の動作について説明する。
【0065】
まず、測定対象Lmに流れる測定電流Imにより磁気コア11に測定磁束が生じる。これと共に磁気シールド14においても測定電流Imにより磁束が生じる。以下では、測定電流Imにより磁気シールド14に生じる磁束のことを「シールド磁束」と称する。
【0066】
このとき、負帰還巻線13においては、測定電流Imにより磁気コア11に生じる測定磁束に対し、測定電流Imにより磁気シールド14に生じる磁束が加味された磁束の合成量が検出される。これにより、磁気コア11及び磁気シールド14の各々に生じる磁束を打ち消すように負帰還電流Ifが誘導され、増幅回路21から負帰還電流Ifが入力される。
【0067】
負帰還電流Ifが負帰還巻線13に入力されることにより、測定磁束及びシールド磁束の両者を打ち消すための反磁束が磁気コア11に生じる。これにより、負帰還巻線13内において測定磁束及びシールド磁束と反磁束とが合成され、負帰還巻線13に鎖交する磁束がほぼゼロに収束する。
【0068】
すなわち、電流センサ10は、測定電流Imが測定対象Lmに流れている状態において、電流の大きさにかかわらず、磁気コア11に生じる磁束がほぼゼロに収束するとともに、磁気シールド14に生じる磁束もほぼゼロに収束するように負帰還動作を行う。
【0069】
そして、負帰還巻線13の他端13bからは反磁束の磁束量に振幅が比例する検出信号が出力される。反磁束の磁束量は、測定磁束とシールド磁束との合成量と同等であり、測定磁束とシールド磁束とは、いずれも測定電流Imの電流値(振幅)に比例して変化する。このため、測定磁束及びシールド磁束の両者を打ち消すための反磁束の磁束量も測定電流Imの電流値に比例する。
【0070】
したがって、負帰還巻線13の他端13bからは、測定電流Imの電流値に振幅が比例する電流値を示す検出信号Idが出力される。これにより、電流センサ10において検出特性のリニアリティが確保される。
【0071】
続いて、測定対象Lmに流れる測定電流Imの周波数が低周波帯域に該当する場合における電流センサ1の動作について簡単に説明する。
【0072】
ホール素子12は、検出した磁束の磁束量に振幅が比例する電圧信号を出力する。第一実施形態のホール素子12は、測定磁束の磁束量に比例する電圧信号を増幅回路21に出力する。
【0073】
次に、第一実施形態による作用効果について説明する。
【0074】
第一実施形態において、検出対象としての測定対象Lmに流れる電流を検出する電流センサ10は、測定対象Lmが挿通される環状の磁気コア11と、磁気コア11に取り付けられて磁束の大きさを検出する磁気検出素子と、を含む。また、電流センサ10は、磁気コア11に配置された磁気シールド14と、磁気コア11のポロイダル方向Yに沿って磁気コア11及び磁気シールド14に巻かれ、一端13aに磁気検出素子の出力が接続された負帰還電流Ifが供給される負帰還巻線13と、を含む。
【0075】
そして、負帰還巻線13の一端13aには、磁気コア11及び磁気シールド14に生じる磁束を打ち消すように生成される負帰還電流Ifが入力される。一方、負帰還巻線13の他端13bは、測定対象Lmに流れる電流の大きさに応じた検出量を示す検出信号Idを出力する。
【0076】
この構成によれば、磁気コア11とともに磁気シールド14を纏めて負帰還巻線13で巻くことにより、負帰還巻線13には、磁気コア11及び磁気シールド14の双方に生じる磁束を打ち消すための負帰還電流Ifが流れる。この負帰還巻線13に流れる負帰還電流Ifにより、磁気コア11に生じる磁束だけでなく、磁気シールド14に生じる磁束も打ち消されるので、磁気シールド14から磁気コア11に入り込む磁束を低減することができる。
【0077】
したがって、電流センサ1の検出特性について漏れ磁束に起因する線形性の悪化を抑制できる。
【0078】
また、第一実施形態において上記の磁気検出素子は、ホール素子12により構成される。これにより、磁気検出素子としてフラックスゲートを用いる場合に比べて電流センサ10に生じるノイズを低減することができる。
【0079】
また、第一実施形態の磁気シールド14は、磁気コア11に対して環状の径方向外側に該当する外側面112に配置される。これにより、電流センサ10の検出特性における線形性を維持しつつ、電流センサ10の外側面112から磁気コア11へ侵入する磁気ノイズを抑制することができる。
【0080】
さらに、第一実施形態の磁気シールド14は、磁気コア11の外側面112のトロイダル方向Xの全周に亘って配置されている。これにより、電流センサ10の外側から磁気コア11の外側面112へ侵入する磁気ノイズを抑制する効果を高めることができる。
【0081】
また、第一実施形態の磁気シールド14は、ホール素子12の一部又は全部を覆うように配置される。これにより、ホール素子12に侵入する外部からの磁気ノイズが低減されるので、ホール素子12の出力信号のうち外部ノイズ成分を抑制することができる。それゆえ、電流センサ10において、ゼロフラックス動作が精度よく行われる。
【0082】
また、第一実施形態の収容部16は、図2に示すように、磁気コア11を収容するものであり、非磁性の導体により構成される。
【0083】
例えば、収容部16が磁性体により構成される場合は、外部から侵入する磁気ノイズにより収容部16の表面に渦電流が生じて収容部16が発熱することがある。この対策として、第一実施形態によれば、収容部16が非磁性の導体によって構成されるため、収容部16が電磁シールドとなると共に収容部16の発熱を抑制することができる。さらに収容部16を接地することにより、静電ノイズを抑制することができる。
【0084】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態に係る電流センサについて図5及び図6を参照して説明する。第二実施形態においては、第一実施形態の電流センサ10の構成に加えて磁気コア11の内側面111に磁気シールドが配置されている点が異なる。磁気コア11の内側面111は、磁気コア11の面のうち環状の径方向内側の面に該当する。
【0085】
図5は、第二実施形態に係る電流センサ10Aの内部構造を模式的に示す図であり、図6は、図5に示したVI-VI線に沿った断面図である。図5では、便宜的にホール素子12の出力端12aが省略されている。また、図5及び図6には、図2及び図3と同様、磁気コア11の環状の径方向の一例として、磁気コア11の負帰還巻線13が巻かれた部位の径方向Uが示されている。
【0086】
電流センサ10Aは、第一実施形態の電流センサ10の構成に加え、磁気シールド24及び遮断部25を備えている。以下では、主に磁気シールド24及び遮断部25について説明し、他の構成については電流センサ10と同一又は同等の構成であるため、ここでの説明を省略する。
【0087】
磁気シールド24は、磁気コア11と負帰還巻線13の内周との間に設けられ、第一実施形態の磁気シールド14と同一又は同等の機能を有する。第二実施形態の磁気シールド24は、磁性体であり、磁気シールド14と同一の部材により形成されている。
【0088】
図5に示すように、磁気シールド24は、磁気コア11の内側面111に配置され、一例として磁気コア11の内側面111に沿って配置されている。さらに磁気シールド24は、ホール素子12の一部又は全部を覆うように配置されてもよい。
【0089】
また、磁気シールド24は、磁気コア11のトロイダル方向Xに沿って設けられる。第二実施形態の磁気シールド24は、センサ上部10aのシールド上部24aと、センサ下部10bのシールド下部24bと、によって構成され、磁気コア11の内側面111のトロイダル方向Xの全周に沿って配設されている。すなわち、磁気シールド24は、ホール素子12の一部を覆うように配置される。
【0090】
図6に示すように、遮断部25は、磁気コア11の内側面111と磁気シールド24との間に配置され、磁気コア11と磁気シールド24との間の磁気的結合を低減する。遮断部25は、磁気コア11の透磁率に対しておおむね1/100又はそれ以下の透磁率であり、第一実施形態の遮断部15と同一の部材により形成されている。
【0091】
図5に示すように、遮断部25は、センサ上部10aの遮断上部25aと、センサ下部10bの遮断下部25bと、によって構成される。
【0092】
以上のように、第二実施形態の電流センサ10Aでは磁気コア11の外側面112に配置される磁気シールド14に加えて磁気コア11の内側面111に磁気シールド24が配置されているが、磁気シールド14を配置することなく磁気シールド24のみが配置されてもよい。
【0093】
なお、磁気コア11のトロイダル方向Xの断面が多角形である場合は、磁気コア11の環状の径方向内側の面、すなわち測定対象Lmから近い方の面に沿って磁気コア11が配置される。磁気シールド14のトロイダル方向Xの断面が、円形、楕円形を含む非多角形である場合は、磁気コア11の環状の径方向の内側、又はその近傍を含む内側の面に沿って磁気シールド14が配置される。
【0094】
次に、第二実施形態による作用効果について説明する。
【0095】
第二実施形態の電流センサ10Aは、第一実施形態の電流センサ10と同一又は同等の構成を有し、これらの構成については、第一実施形態の電流センサ10と同一又は同等の作用効果を奏することができる。
【0096】
また、第二実施形態の磁気シールド24は、磁気コア11に対して環状の径方向内側に該当する内側面111に配置される。これにより、環状の磁気コア11の内側である測定対象Lm側から磁気コア11の内側面111へ侵入する磁気ノイズを抑制することができる。
【0097】
さらに磁気シールド24は、磁気コア11の内側面111のうちトロイダル方向Xの全周に亘って配置される。これにより、測定対象Lmから磁気コア11の内側面111へ侵入する磁気ノイズを抑制する効果を高めることができる。
【0098】
(第三実施形態)
次に、第三実施形態に係る電流センサについて図7を参照して説明する。第三実施形態においては、第二実施形態の電流センサ10Aの磁気シールド14及び磁気シールド24に代えて、これらを一体として形成する点が異なる。
【0099】
図7は、第三実施形態に係る電流センサ10Bの内部構造を模式的に示す図である。図7には、図6と同様の断面視において、磁気コア11、負帰還巻線13、磁気シールド34及び遮断部35が示されている。
【0100】
以下では、主に磁気シールド34及び遮断部35について説明し、他の構成については電流センサ10Aと同一又は同等の構成であるため、ここでの説明を省略する。
【0101】
図7に示すように、磁気シールド34は、負帰還巻線13と磁気コア11との間に配置され、磁気コア11のポロイダル方向Yに周回するように形成される。第三実施形態の磁気シールド34は、磁気コア11のポロイダル方向Yに間隙を有する。なお、磁気シールド34は、間隙がなく一周する構成であってもよい。
【0102】
遮断部35は、磁気コア11の内側面111と磁気シールド34との間に配置され、磁気コア11と磁気シールド34との間の磁気的結合を低減する。遮断部35は、磁気コア11の透磁率に対しておおむね1/100又はそれ以下の透磁率であり、第二実施形態の遮断部15及び遮断部25と同一の部材により形成されている。
【0103】
このように、磁気シールド34は、磁気コア11の内側面111及び外側面112に沿って配置されるとともに測定対象Lmの挿通方向Zの両方の側面側にも配置される。なお、磁気シールド34は、磁気コア11の四つの側面のうち測定対象Lmの挿通方向Zの一方又は両方の側面側にのみ配置されてもよい。
【0104】
次に、第三実施形態による作用効果について説明する。
【0105】
第三実施形態の磁気シールド34は、遮断部35により磁気コア11と磁気シールド34との間の磁気的結合が低減されるよう磁気コア11との接触が遮断された状態で磁気コア11の径方向内側及び外側に配置されている。これにより、電流センサ10Bの内側及び外側の双方から侵入する磁気ノイズを抑制することができる。
【0106】
また、第三実施形態の磁気シールド34は、磁気コア11の径方向の内側及び外側に加え、測定対象Lmの挿通方向Zの一方又は両方に配置される。これにより、挿通方向Zの一方又は両方から侵入する磁気ノイズを抑制することができる。
【0107】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0108】
例えば、上記実施形態では、磁気検出素子としてホール素子12を用いたが、これに代えてフラックスゲートなどを用いてもよい。磁気検出素子としてフラックスゲートを用いることによって、ホール素子を用いた場合に比べ、電流センサ10、10A及び10Bをオフセットドリフトが少ない電流センサにすることができる。
【符号の説明】
【0109】
10、10A、10B 電流センサ
11 磁気コア
12 ホール素子(磁気検出素子)
13 負帰還巻線
14、24、34 磁気シールド
15、25、35 遮断部
20 測定部(演算手段)
100 測定装置
Lm 測定対象(検出対象)
Im 測定電流
U 径方向
X トロイダル方向
Y ポロイダル方向
Z 挿通方向(挿通される方向)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7