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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144132
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】半導体基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20241003BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B25/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】43
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024018156
(22)【出願日】2024-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2023056394
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023056407
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100133514
【弁理士】
【氏名又は名称】寺山 啓進
(74)【代理人】
【識別番号】100135714
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 一生
(74)【代理人】
【識別番号】100167612
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 直行
(72)【発明者】
【氏名】高村 誠
(72)【発明者】
【氏名】前川 拓滋
(72)【発明者】
【氏名】森本 満
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BA02
4G077BA03
4G077BE08
4G077DB04
4G077DB05
4G077DB07
4G077EA02
4G077EB01
4G077ED06
4G077FF01
4G077FJ03
4G077HA06
4G077HA12
4G077TA04
4G077TA07
4G077TB02
4G077TB03
4G077TK01
4G077TK08
(57)【要約】
【課題】低コストかつ高品質の半導体基板の製造方法を提供する。
【解決手段】半導体基板の製造方法は、SiC単結晶基板11のSi面にグラフェン層12を形成し、グラフェン層12上にSiCエピタキシャル成長層13を形成し、SiCエピタキシャル成長層13上にストレス層14を形成し、ストレス層14上に黒鉛基板19を貼り付け、SiCエピタキシャル成長層13とグラフェン層12とを剥離し、グラフェン層12を剥離したSiCエピタキシャル成長層13のC面にSiC多結晶成長層16を形成し、黒鉛基板19を除去し、ストレス層14は、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との間に剥離が容易になるような応力を発生させる。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC単結晶基板のSi面にグラフェン層を形成する工程と、
前記グラフェン層上にSiCエピタキシャル成長層を形成する工程と、
前記SiCエピタキシャル成長層上にストレス層を形成する工程と、
前記ストレス層上に仮基板を貼り付ける工程と、
前記グラフェン層と前記SiCエピタキシャル成長層とを剥離する工程と、
前記グラフェン層を剥離した前記SiCエピタキシャル成長層のC面にSiC多結晶成長層を形成する工程と、
前記仮基板を除去する工程と
を含み、
前記ストレス層は、前記グラフェン層と前記SiCエピタキシャル成長層との間に剥離が容易になるような応力を発生させる半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記ストレス層は、前記グラフェン層と前記SiCエピタキシャル成長層との間に、前記グラフェン層と前記SiCエピタキシャル成長層との間の密着エネルギーに近似した応力を発生させる請求項1に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記ストレス層は、前記SiC単結晶基板、前記グラフェン層、前記SiCエピタキシャル成長層、前記ストレス層及び前記仮基板の積層構造によって前記グラフェン層と前記SiCエピタキシャル成長層とを剥離する応力を発生させる請求項2に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記ストレス層は、炭素膜又は窒化ケイ素膜を含む請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記炭素膜は、多結晶ダイヤモンド膜又はダイヤモンドライクカーボン膜を含む請求項4に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記ストレス層を燃焼又は研削により除去する工程をさらに含む請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記仮基板は、黒鉛で構成された請求項1に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項8】
前記仮基板は、前記SiC単結晶基板よりも大きな外形サイズを有する請求項7に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項9】
前記仮基板は、表面に形成されたガラス状カーボン被膜を含む請求項7に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項10】
前記仮基板を除去する工程は、前記仮基板を燃焼させて除去する請求項7から9のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項11】
前記ストレス層上に前記仮基板を貼り付ける工程は、前記ストレス層と前記仮基板とをカーボン接着剤による接着層を介して貼り付ける請求項1に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項12】
前記接着層を燃焼させて除去する工程をさらに含む請求項11に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項13】
前記仮基板を除去する工程の前に、前記SiC多結晶成長層を形成する工程において前記仮基板、前記ストレス層及び前記SiCエピタキシャル成長層を含む複合体の外周に突出した前記SiC多結晶成長層及び前記仮基板を研削して除去し、前記仮基板の外周を露出させる工程をさらに含む請求項1に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項14】
前記仮基板を除去する工程の前に、前記SiC多結晶成長層を形成する工程において前記仮基板の外周に突出した前記SiC多結晶成長層とともに、前記仮基板をその主面に平行な面で二つに切断し、前記仮基板の切断面を露出させる工程をさらに含む請求項1に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項15】
前記SiCエピタキシャル成長層の前記SiC多結晶成長層と接するC面上に、前記SiCエピタキシャル成長層よりも高不純物濃度の高濃度ドープ層を形成する工程をさらに含む請求項1に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項16】
前記高濃度ドープ層を形成する工程は、イオン注入工程又はエピタキシャル成長のオートドーピング工程を含む請求項15に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項17】
SiC単結晶基板と、
前記SiC単結晶基板のSi面上に配置されたグラフェン層と、
前記グラフェン層を介して前記SiC単結晶基板の上方に配置されたSiCエピタキシャル成長層と、
前記SiCエピタキシャル成長層のSi面上に配置されたストレス層と
を含み、
前記ストレス層は、前記グラフェン層とSiCエピタキシャル成長層との間に剥離が容易になるような応力を発生させる半導体基板。
【請求項18】
SiC単結晶基板のSi面にSiCエピタキシャル成長層を形成する工程と、
前記SiCエピタキシャル成長層のSi面を仮基板に貼り付ける工程と、
前記SiCエピタキシャル成長層を前記SiC単結晶基板から取り外す工程と、
前記仮基板に貼り付けた前記SiCエピタキシャル成長層のC面に第1SiC多結晶成長層を形成する工程と、
前記第1SiC多結晶成長層上にグラフェン層を形成する工程と、
前記グラフェン層上に第2SiC多結晶成長層を形成する工程と、
前記仮基板を除去する工程と
を含む半導体基板の製造方法。
【請求項19】
前記SiC単結晶基板のSi面に他のグラフェン層を形成する工程をさらに含み、前記SiCエピタキシャル成長層を形成する工程は、前記SiC単結晶基板のSi面に前記他のグラフェン層を介して前記SiCエピタキシャル成長層を形成する請求項18に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項20】
前記SiCエピタキシャル成長層を前記SiC単結晶基板から取り外す工程は、前記SiCエピタキシャル成長層を前記他のグラフェン層から剥離する請求項19に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項21】
前記SiCエピタキシャル成長層を前記他のグラフェン層とから剥離する応力を発生するストレス層を前記SiCエピタキシャル成長層のSi面に形成する工程をさらに含み、前記SiCエピタキシャル成長層のSi面を前記仮基板に貼り付ける工程は、前記仮基板に前記ストレス層を介して前記SiCエピタキシャル成長層のSi面を貼り付ける請求項20に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項22】
前記SiC単結晶基板のSi面から所定の深さに水素イオン注入層を形成する工程をさらに含み、前記SiC単結晶基板から前記SiCエピタキシャル成長層を取り外す工程は、前記水素イオン注入層を脆化して、前記SiC単結晶基板から前記水素イオン注入層で分断された薄化SiC単結晶層とともに前記SiCエピタキシャル成長層を剥離する請求項18に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項23】
前記SiCエピタキシャル成長層とともに剥離した前記薄化SiC単結晶層のC面を研磨する工程をさらに含む請求項22に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項24】
前記仮基板は、黒鉛で構成された請求項18に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項25】
前記仮基板は、前記SiC単結晶基板よりも大きな外形サイズを有する請求項24に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項26】
前記仮基板は、表面に形成されたガラス状カーボン被膜を含む請求項24に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項27】
前記仮基板を除去する工程は、前記仮基板を燃焼させて除去する請求項24から26のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項28】
前記SiCエピタキシャル成長層のC面に前記仮基板を貼り付ける工程は、前記SiCエピタキシャル成長層と前記仮基板とをカーボン接着剤による接着層を介して貼り付ける請求項27に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項29】
前記仮基板を除去する工程は、前記仮基板とともに前記接着層も燃焼させて除去する請求項28に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項30】
前記SiCエピタキシャル成長層の前記第1SiC多結晶成長層と接するC面上に、前記SiCエピタキシャル成長層よりも高不純物濃度の高濃度ドープ層を形成する工程をさらに含む請求項18に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項31】
前記高濃度ドープ層を形成する工程は、イオン注入工程又はエピタキシャル成長のオートドーピング工程を含む請求項30に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項32】
請求項18に記載の半導体基板の製造方法を含み、
前記半導体基板の前記SiCエピタキシャル成長層のC面に半導体素子を構成する構造の少なくとも一部を形成する工程
をさらに含む半導体装置の製造方法。
【請求項33】
前記半導体素子は、SiCショットキーバリアダイオード、SiC-MOSFET、SiCバイポーラトランジスタ、SiCダイオード、SiCサイリスタ及びSiC絶縁ゲートバイポーラトランジスタの少なくとも一つを含む請求項32に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項34】
前記半導体素子の構造を形成した前記半導体基板において、前記グラフェン層から前記第2SiC多結晶成長層を剥離する工程をさらに含む請求項32に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項35】
前記グラフェン層から前記第2SiC多結晶成長層を剥離する工程は、前記第2SiC多結晶成長層のSi面を加熱する工程をさらに含む請求項34に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項36】
前記グラフェン層から前記第2SiC多結晶成長層を剥離する工程は、前記第2SiC多結晶成長層のSi面を冷却する工程をさらに含む請求項34に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項37】
前記グラフェン層から前記第2SiC多結晶成長層を剥離する工程は、前記第2SiC多結晶成長層のSi面を超音波発振子で走査する工程をさらに含む請求項34に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項38】
前記グラフェン層から前記第2SiC多結晶成長層を剥離する工程は、前記グラフェン層と前記第2SiC多結晶成長層との間に劈開ブレードを押し込んで劈開を発生させる工程をさらに含む請求項34に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項39】
SiCエピタキシャル成長層と、
SiCエピタキシャル成長層のSi面上に配置された第1SiC多結晶成長層と、
前記第1SiC多結晶成長層上に配置されたグラフェン層と、
前記グラフェン層上に配置された第2SiC多結晶成長層と
を含む半導体基板。
【請求項40】
前記グラフェン層は、グラフェンの単層構造又は複数層積層化された構造を有する請求項39に記載の半導体基板。
【請求項41】
前記SiCエピタキシャル成長層は、C面に前記SiCエピタキシャル成長層よりも高不純物濃度の高濃度ドープ層をさらに有する請求項39に記載の半導体基板。
【請求項42】
請求項39に記載の半導体基板の前記SiCエピタキシャル成長層のC面に半導体素子の構造が形成された半導体装置。
【請求項43】
前記半導体素子は、SiCショットキーバリアダイオード、SiC-MOSFET、SiCバイポーラトランジスタ、SiCダイオード、SiCサイリスタ及びSiC絶縁ゲートバイポーラトランジスタの少なくともいずれか一つを含む請求項42に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力制御の用途にショットキーバリアダイオード(Schottky barrier diode:SBD)、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(metal-oxide-semiconductor field effect transistor:MOSFET)、IGBT(insulated gate bipolar transistor)のようなSiC製のデバイスが提供されている。このようなSiC製のデバイスが形成されるSiC半導体基板は、製造コストを低減したり所望の物性を提供したりするために、多結晶のSiC半導体基板に単結晶のSiC半導体基板を貼り合わせて作製されることがあった。特許文献1には、多結晶のSiC半導体基板に貼り付けた単結晶のSiC半導体基板の上にエピタキシャル層を成長させるため、単結晶のSiC半導体基板を多結晶のSiC半導体基板に無欠陥で貼り付ける技術が記載されている。
【0003】
炭化ケイ素(SiC)は今最も注目を集めている半導体材料の一つであり、電力制御の用途にショットキーバリアダイオード(Scotty barrier diode:SBD)、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(metal-oxide-semiconductor field effect transistor:MOSFET)、IGBT(insulated gate bipolar transistor)等のSiC系のパワーデバイスが提供されている。SiCウェハに作製したパワーデバイスは、現状のシリコンを基板としたものよりも内部損失を桁違いに低減できるため、限られたエネルギーを有効に活用することのできる省エネルギーパワーデバイスとして様々な応用が期待されている。
【0004】
このようなデバイスが形成される単結晶SiC半導体ウェハは、製造コストを低減したり所望の物性を提供したりするために、多結晶SiC半導体基板に単結晶SiC半導体層を貼り合わせて作製されることもあった。また、パワーデバイスには大きな電流を流すため、基板の電気抵抗等により大きなジュール熱が発生するため、その対策として裏面研磨によりウェハの厚みを100μm以下まで3分の1に薄化して電気抵抗と熱抵抗を低減する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第8916451号明細書
【特許文献2】国際公開第2022/158078公報
【特許文献3】国際公開第2022/158085公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、単結晶のSiC半導体基板を多結晶のSiC半導体基板に常温接合や拡散接合で貼り付けるために必要な表面粗さを確保する研磨加工が高コストになり、接合界面に発生する欠陥により歩留まりが低下することがあった。また、SiCはダイヤモンドに次ぐ硬度を有するため、従来の研削や研磨といった機械的加工方法では高能率な加工が困難であり、裏面薄化加工には高い加工コストが必要となり、実用化の一つの障壁になっていた。
【0007】
本開示は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、低コストかつ高品質の半導体基板及びその製造方法を提供することを目的とする。また、低コストかつ高品質のSiC系の半導体基板及び半導体装置並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様によれば、半導体基板の製造方法は、SiC単結晶基板のSi面にグラフェン層を形成する工程と、グラフェン層上にSiCエピタキシャル成長層を形成する工程と、SiCエピタキシャル成長層上にストレス層を形成する工程と、ストレス層上に仮基板を貼り付ける工程と、グラフェン層とSiCエピタキシャル成長層とを剥離する工程と、グラフェン層を剥離したSiCエピタキシャル成長層のC面にSiC多結晶成長層を形成する工程と、仮基板を除去する工程とを含み、ストレス層は、グラフェン層とSiCエピタキシャル成長層との間に剥離が容易になるような応力を発生させる。
【0009】
本開示の他の態様によれば、半導体基板は、SiC単結晶基板と、SiC単結晶基板のSi面上に配置されたグラフェン層と、グラフェン層を介してSiC単結晶基板の上方に配置されたSiCエピタキシャル成長層と、SiCエピタキシャル成長層のSi面上に配置されたストレス層とを含み、ストレス層は、グラフェン層とSiCエピタキシャル成長層との間に剥離が容易になるような応力を発生させる。
【0010】
本開示の他の態様の半導体基板の製造方法は、SiC単結晶基板のSi面にSiCエピタキシャル成長層を形成する工程と、SiCエピタキシャル成長層のSi面を仮基板に貼り付ける工程と、SiCエピタキシャル成長層をSiC単結晶基板から取り外す工程と、仮基板に貼り付けたSiCエピタキシャル成長層のC面に第1SiC多結晶成長層を形成する工程と、第1SiC多結晶成長層上にグラフェン層を形成する工程と、グラフェン層上に第2SiC多結晶成長層を形成する工程と、仮基板を除去する工程とを含む。
【0011】
本開示の他の態様の半導体基板は、SiCエピタキシャル成長層と、SiCエピタキシャル成長層のSi面上に配置された第1SiC多結晶層と、第1SiC多結晶成長層上に配置されたグラフェン層と、グラフェン層上に配置された第2SiC多結晶層とを含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、低コストかつ高品質の半導体基板及びその製造方法を提供することができる。また、SiC系の半導体基板を低コストかつ高品質に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1はSiC単結晶基板の断面図を示す。
図2A図2AはSiCウェハの結晶面を説明する平面図を示す。
図2B図2BはSiCウェハの結晶面を説明する側面図を示す。
図3A図3Aは4H-SiC結晶のユニットセルの俯瞰図を示す。
図3B図3Bは4H-SiC結晶の2層部分の構成図を示す。
図3C図3Cは4H-SiC結晶の4層部分の構成図を示す。
図4図4図3Aに示した4H-SiC結晶のユニットセルを(0001)面の真上から見た構成図を示す。
図5図5はSiC単結晶基板上にグラフェン層を形成した構造の断面図を示す。
図6図6はグラフェン層であって、複数層積層化された構成を備える例の俯瞰図を示す。
図7図7はグラフェン層上にSiCエピタキシャル成長層を形成した構造の断面図を示す。
図8図8はSiCエピタキシャル成長層上にストレス層を形成した構造の断面図を示す。
図9A図9Aは応力を発生するメカニズムの説明図であって、ストレス層を形成した断面構造における層間剥離モードの説明図を示す。
図9B図9Bは応力を発生するメカニズムの説明図であって、ストレス層を形成した断面構造における他の層間剥離モードの説明図を示す。
図9C図9Cは応力を発生するメカニズムの説明図であって、ストレス層を形成した断面構造における剥離モード又は破砕モードの説明図を示す。
図10図10は応力を発生するメカニズムの説明図であって、剥離又は破砕される部分の表面からの距離と応力との関係を示す。
図11図11はストレス層上に接着層を介して黒鉛基板を貼り合わせた構造の断面図を示す。
図12A図12A図11の構造をグラフェン層とSiCエピタキシャル成長層との界面で剥離した構造のSiCエピタキシャル成長層側の断面図を示す。
図12B図12B図11の構造をグラフェン層とSiCエピタキシャル成長層との界面で剥離した構造のグラフェン層側の断面図を示す。
図13図13は黒鉛基板の両面に図12Aの剥離構造を貼り付けて、アニール処理により接着層を炭化した構造の断面図を示す。
図14図14はCVD法によりSiC多結晶成長層を形成した構造の断面図を示す。
図15図15はSiC多結晶成長層の外周の一部を研削した構造の断面図を示す。
図16図16はアニール処理により黒鉛基板及び炭化した接着層を除去した構造の断面図を示す。
図17図17図14の構造において仮基板をA-A線で示す面で切断して上下に分離した断面図を示す。
図18図18は外周のSiC多結晶成長層、ストレス層を除去した構造の断面図を示す。
図19図19はSiC複合基板の断面図を示す。
図20図20はSiC複合基板(ウェハ)の俯瞰図を示す。
図21図21はSiCエピタキシャル成長層のSiC多結晶成長層との界面に高濃度ドープ層を備える構造の断面図を示す。
図22図22はショットキーバリアダイオードの断面図を示す。
図23図23はトレンチゲート型TMOSFETの断面図を示す。
図24図24はプレーナゲート型MOSFETの断面図を示す。
図25図25はSiC単結晶基板の断面図を示す。
図26A図26AはSiCウェハの結晶面を説明する平面図を示す。
図26B図26BはSiCウェハの結晶面を説明する側面図を示す。
図27A図27Aは4H-SiC結晶のユニットセルの俯瞰図を示す。
図27B図27Bは4H-SiC結晶の2層部分の構成図を示す。
図27C図27Cは4H-SiC結晶の4層部分の構成図を示す。
図28図28図27Aに示した4H-SiC結晶のユニットセルを(0001)面の真上から見た構成図を示す。
図29図29はSiC単結晶基板上に第1グラフェン層を形成した構造の断面図を示す。
図30図30はグラフェン層であって、複数層積層化された構成を備える例の俯瞰図を示す。
図31図31は第1グラフェン層上にSiCエピタキシャル成長層を形成した構造の断面図を示す。
図32図32はSiCエピタキシャル成長層上にストレス層を形成した構造の断面図を示す。
図33A図33Aは応力を発生するメカニズムの説明図であって、ストレス層を形成した断面構造における層間剥離モードの説明図を示す。
図33B図33Bは応力を発生するメカニズムの説明図であって、ストレス層を形成した断面構造における他の層間剥離モードの説明図を示す。
図33C図33Cは応力を発生するメカニズムの説明図であって、ストレス層を形成した断面構造における剥離モード又は破砕モードの説明図を示す。
図34図34はストレス層上に接着層を介して黒鉛基板を貼り合わせた構造の断面図を示す。
図35A図35Aはストレス層上に接着層を介して黒鉛基板を貼り合わせ、SiCエピタキシャル成長層と第1グラフェン層との界面で剥離した構造のSiCエピタキシャル成長層側の断面図を示す。
図35B図35Bはストレス層上に接着層を介して黒鉛基板を貼り合わせ、SiCエピタキシャル成長層と第1グラフェン層との界面で剥離した構造の第1グラフェン層側の断面図を示す。
図36図36は黒鉛基板の両面に図11Aの剥離構造を貼り付けて、アニール処理により接着層を炭化した構造の断面図を示す。
図37図37はCVD法により第1SiC多結晶成長層を形成した構造の断面図を示す。
図38図38は第2グラフェン層を形成した構造の断面図を示す。
図39図39はCVD法により第2SiC多結晶成長層を形成した構造の断面図を示す。
図40図40は第2SiC多結晶成長層、第2グラフェン層及び第1SiC多結晶成長層の外周の一部を研削した構造の断面図を示す。
図41図41は燃焼により黒鉛基板及び炭化した接着層を除去した構造の断面図を示す。
図42図42図39の構造において仮基板をA-A線で示す面で切断して上下に分離した断面図を示す。
図43図43は外周の第2SiC多結晶成長層、第2グラフェン層及び第1SiC多結晶成長層、ストレス層を除去し、SiC複合基板とした構造の断面図を示す。
図44図44は黒鉛基板のザグリ穴の底面に接着層を介してストレス層を貼り合わせた構造の断面図を示す。
図45図45はSiC単結晶基板及び第1グラフェン層を剥離した後の構造の断面図を示す。
図46図46はCVD法により第1SiC多結晶成長層を形成した構造の断面図を示す。
図47図47は第2グラフェン層を形成した構造の断面図を示す。
図48図48はCVD法により第2SiC多結晶成長層を形成した構造の断面図を示す。
図49図49は外周の第2SiC多結晶成長層、第2グラフェン層及び第1SiC多結晶成長層を研削した構造の断面図を示す。
図50図50はSiC複合基板の断面図を示す。
図51図51はSiC複合基板(ウェハ)の俯瞰図を示す。
図52図52はSiCエピタキシャル成長層の第1SiC多結晶成長層との界面に高濃度ドープ層を備える構造の断面図を示す。
図53図53はショットキーバリアダイオードの一部を構成する半導体装置の断面図を示す。
図54図54はトレンチゲート型MOSFETの一部を構成する半導体装置の断面図を示す。
図55図55はプレーナゲート型MOSFETの一部を構成する半導体装置の断面図を示す。
図56図56は第2グラフェン層と第2SiC多結晶成長層とを剥離した状態の断面図である。
図57図57は第2グラフェン層と第2SiC多結晶成長層との間にクラック起点を形成する方法を示す断面図である。
図58図58は第2グラフェン層と第2SiC多結晶成長層との間にクラック起点を形成する他の方法を示す断面図である。
図59図59は第2グラフェン層と第2SiC多結晶成長層との間でクラックを進展させる方法を示す断面図である。
図60図60は第2グラフェン層と第2SiC多結晶成長層との間でクラックを進展させる他の方法を示す断面図である。
図61図61はショットキーバリアダイオードの断面図を示す。
図62図62はトレンチゲート型MOSFETの断面図を示す。
図63図63はプレーナゲート型MOSFETの断面図を示す。
図64図64はSiC単結晶基板のSi面に水素イオン注入層を形成した構造の断面図を示す。
図65図65は水素イオン注入層のアニール処理により、水素イオン注入層を脆弱化して単結晶SiC薄化層を形成後、単結晶SiC薄化層のSi面にSiCエピタキシャル成長層を形成した構造の断面図を示す。
図66図66はSiCエピタキシャル成長層のSi面に接着層を介して黒鉛基板を貼り付けた構造の断面図を示す。
図67図67は脆弱化アニールを行って形成した単結晶SiC薄化層を介してSiC単結晶基板と剥離・分離した構造の断面図を示す。
図68図68は単結晶SiC薄化層の剥離面を平滑化した構造の断面図を示す。
図69図69はCVD法により第1SiC多結晶成長層を形成した構造の断面図を示す。
図70図70は第2グラフェン層を形成した構造の断面図を示す。
図71図71はCVD法により第2SiC多結晶成長層を形成した構造の断面図を示す。
図72図72は外周の第2SiC多結晶成長層、第2グラフェン層及び第1SiC多結晶成長層を研削した構造の断面図を示す。
図73図73は接着層及び黒鉛基板を除去して得られたSiC複合基板の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して、実施の形態について説明する。以下に説明する図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。図面は模式的なものである。また、以下に示す実施の形態は、技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、部品の材質、形状、構造、配置等を特定するものではない。実施の形態は、種々の変更を加えることができる。
【0015】
(第1の実施の形態)
最初に第1の実施の形態について説明する。第1の実施の形態は、SiC単結晶基板にグラフェン層を介して形成したSiCエピタキシャル成長層にストレス層を積層し、ストレス層がグラフェン層とSiCエピタキシャル成長層との間に剥離が容易になるような応力を発生するものである。
【0016】
(半導体基板の製造方法)
第1の実施の形態に係る半導体基板の製造方法を説明する。図1は種基板となるSiC単結晶基板(SiCSB)11の断面図である。SiC単結晶基板11は、例えば、4H-SiC基板であり、その厚さは、例えば約300μm~600μm程度である。なお、図1において、[C]はSiCのC面であることを示し、[S]はSiCのSi面であることを示す。以下の図でも同様である。
【0017】
図2は、SiC単結晶基板11として適用可能なSiCウェハ100の結晶面を説明する図である。図2Aの平面図には1次オリフラ(orientation flat)101及び2次オリフラ102が形成されたSiCウェハ100のSi面103が示されている。図2Bの[-1100]の方位から見た側面図では、上面に[0001]の方位のSi面103が形成され、下面に[000-1]の方位のC面104が形成されている。
【0018】
第1の実施の形態で適用可能な4H-SiC結晶のユニットセルの模式的俯瞰構成は、図3Aに示すように表され、4H-SiC結晶の2層部分の模式的構成は、図3Bに示すように表され、4H-SiC結晶の4層部分の模式的構成は、図3Cに示すように表される。また、図3Aに示す4H-SiCの結晶構造のユニットセルを(0001)面の真上から見た模式的構成は、図4に示すように表される。
【0019】
図3A図3Cに示したように、4H-SiCの結晶構造は、六方晶系で近似することができ、1つのSi原子に対して4つのC原子が結合している。4つのC原子は、Si原子を中央に配置した正四面体の4つの頂点に位置している。これらの4つのC原子は、1つのSi原子がC原子に対して[0001]軸方向に位置し、他の3つのC原子がSi原子に対して[000-1]軸側に位置している。図3Aにおいて、オフ角θは例えば、約4度以下である。
【0020】
[0001]軸及び[000-1]軸は六角柱の軸方向に沿い、この[0001]軸を法線とする面(六角柱の頂面)が(0001)面(Si面)である。一方、[000-1]軸を法線とする面(六角柱の下面)が(000-1)面(C面)である。また、[0001]軸に垂直であり、かつ(0001)面の真上から見た場合において六角柱の互いに隣り合わない頂点を通る方向がそれぞれ、a1軸[2-1-10]、a2軸[-12-10]及びa3軸[-1-120]である。
【0021】
図4に示したように、a1軸とa2軸との間の頂点を通る方向が[11-20]軸であり、a2軸とa3軸との間の頂点を通る方向が[-2110]軸であり、a3軸とa1軸との間の頂点を通る方向が[1-210]軸である。六角柱の各頂点を通る上記6本の軸の各間において、その両側の各軸に対して30°の角度で傾斜していて、六角柱の各側面の法線となる軸がそれぞれ、a1軸と[11-20]軸との間から時計回りに順に、[10-10]軸、[1-100]軸、[0-110]軸、[-1010]軸、[-1100]軸及び[01-10]軸である。これらの軸を法線とする各面(六角柱の側面)は、(0001)面及び(000-1)面に対して直角な結晶面である。
【0022】
次に、図5に示すように、SiC単結晶基板11の(0001)Si面に数分子層までのグラフェン層(GR)12を形成する。グラフェン層12は、SiC単結晶基板11を例えば、大気圧アルゴンガス雰囲気中において約1700℃程度でアニール処理することでSiC単結晶基板11のSi面上に熱分解により形成可能である。また、グラフェン層12は、SiC単結晶基板11上にCVDで積層して形成してもよい。
【0023】
第1の実施の形態に適用可能なグラフェン層12は、図6に示すように表される。グラフェン層12は、グラファイトシート121・122・123・…・12nの積層構造を備える。n層からなる各面のグラファイトシート121・122・123・…・12nは、1つの積層結晶構造の中に多数の六方晶系の炭素(C)の共有結合を有し、各面のグラファイトシート121・122・123・…・12n間がファンデルワールス力によって結合される。第1の実施の形態では、バッファ層としての0層、又は単層構造であってもよい。
【0024】
図7に示すように、グラフェン層12上にSiCエピタキシャル成長層(SiC-epi)13を形成する。SiCエピタキシャル成長層13は、SiC単結晶基板11のSi面に形成したグラフェン層12上に遠隔エピタキシャル成長法により形成される。SiCエピタキシャル成長層13は、単結晶SiC薄膜である。SiCエピタキシャル成長層13のグラフェン層12と接する面はC面となり、SiCエピタキシャル成長層13の表面はSi面となる。
【0025】
図8に示すように、SiCエピタキシャル成長層13上にストレス層14を形成する。ストレス層14は、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との間に応力を発生させて、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との剥離を容易にさせるものである。
【0026】
第1の実施の形態のストレス層14は、炭素膜又は窒化珪素膜で構成される。炭素膜は、多結晶ダイヤモンド膜又はダイヤモンドライクカーボン膜で構成される。炭素膜は、多結晶ダイヤモンド膜の場合、マイクロ波化学気相成長(CVD)装置などにより、ダイヤモンドライクカーボン膜は、RFプラズマ化学気相成長(CVD)装置などにより得られる。また、いずれの膜を成膜する際も、成膜の初期段階において成膜基板側にマイナス電位を印加することにより、イオン衝撃を与えながら成膜することにより、必要な膜密着性が得られる。
【0027】
次の表1に、ストレス層14の炭素膜又は窒化珪素膜、SiC単結晶基板11及び他の層の物性代表値を示す。第1の実施の形態に用いるストレス層14の材料は、後工程でSiC多結晶成長層16を形成する工程を経るため、1500℃以上の耐熱性を有する必要がある。
【0028】
【表1】
【0029】
ストレス層14が応力を発生するメカニズムについて図9A図9Cを参照して説明する。図9A図9Cに示す例では、ストレス層の内部応力T0は引張応力であり、内部応力T0の大きさは図9A図9B図9Cと進むにしたがい次第に増加している。第1の実施の形態において、ストレス層14が発生する内部応力T0には、成膜時に各物質の特性によって発生する真応力と、SiC単結晶基板11などとストレス層14との熱膨張率の差によって発生する熱応力と、成膜後の熱処理で膜中水素脱離により膜密度変化などストレス層14の膜質変化による応力との三種類の成分が含まれている。ストレス層14の内部応力T0が圧縮応力又は引張応力のいずれであるか、また、どれだけの大きさであるかは、これらの三種類の成分に基づいている。
【0030】
真応力は、成膜時の膜厚及び温度に依存する。また、ストレス層14の成膜後の熱処理による膜中の水素の遊離により膜密度が変化し、圧縮応力は緩和し、引張応力は増加する。また、ストレス層が発生する応力は、SiC単結晶基板11、グラフェン層12、SiCエピタキシャル成長層13、ストレス層14、さらに後述する接着層15及び黒鉛基板19という積層構造にも依存する。
【0031】
図10はストレス層14が応力を発生するメカニズムの説明図であって、剥離又は破砕され得る部分の表面からの距離と応力との関係を示す。図10において、横軸は図9A図9B図9CにおいてSiCエピタキシャル成長層13、グラフェン層12又はSiC単結晶基板11が剥離又は破砕され得る位置における応力T1、T2、T3の大きさをそれぞれ示し、縦軸のD1、D2、D3は剥離又は破砕された部分の表面からの距離をそれぞれ示している。これらの応力T1、T2、T3は、ストレス層14の内部応力T0に起因する引張応力であり、図9A図9B図9Cと進むにつれて増加する内部応力T0にしたがって増加している。また、剥離又は破砕の態様も、ストレス層14とSiCエピタキシャル成長層13との界面における層間剥離モード、SiCエピタキシャル成長層13とグラフェン層12との界面における他の層間剥離モード、SiC単結晶基板11内における剥離モード又は破砕モードと次第に激しくなっている。
【0032】
第1の実施の形態においては、ストレス層14の内部応力T0により発生する応力がグラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との密着エネルギーとに近似するように調節している。そして、図9Bに示したように、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との界面で剥離するようになるような応力T2を発生している。このために、ストレス層14を多結晶ダイヤモンド膜若しくはダイヤモンドカーボン膜からなる炭素膜又は窒化珪素膜など特定の材料で構成し、膜厚、成膜温度などの成膜条件を調整して形成することにより、ストレス層14における内部応力T0を適切に設定している。このように、第1の実施の形態においては、ストレス層14により発生する応力をグラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との密着エネルギーに近似するように設定することにより、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との剥離を容易にしている。
【0033】
次に、図11に示すように、ストレス層14上に接着層15を形成し、SiC単結晶基板11よりも一回り外形サイズの大きな仮基板の黒鉛基板19の片面もしくは両面に、接着層15の塗布面を重ねて貼付けて第1の複合体(11(SiCSB)、12(GR)、13(SiC-epi)、14、15、19)を形成する。接着層15には、例えば、カーボン接着剤を用いてもよい。カーボン接着剤は、フェノール樹脂を含み、接着剤自体が炭素化することで高温でも結合力を維持することができるような接着剤である。一回り外形サイズの大きな仮基板としては、例えば直径約10cmのSiC単結晶基板11であれば、約10mm程度大きな外形サイズの直径約11cmの黒鉛基板19を用いる。例えば直径約15cmのSiC単結晶基板11であれば、外形サイズの直径約16cmの黒鉛基板19を用いる。SiC単結晶基板11よりも一回りサイズの大きい仮基板(黒鉛基板19)は、バッチ式縦型CVD炉のウェハボート溝に挿入して整列した際に、ウェハボート支柱跡を基板有効エリア外にするメリットがある。
【0034】
そして、第1の複合体を真空アニール炉などで加熱して接着層15を乾燥硬化させる。黒鉛基板19は、表面にガラス状カーボン被膜を有していてもよい。ガラス状カーボン被膜はカーボン接着剤との接着力が強いため、SiCエピタキシャル成長層13をグラフェン層12及びSiC単結晶基板11からの剥離を容易にすることができ、歩留まりの向上を図ることができる。なお、図11においては、黒鉛基板19の片面に接着層15を貼り付けて第1の複合体を形成する例を示しているが、黒鉛基板19の両面に接着層15を貼り付けて第1の複合体を形成してもよい。
【0035】
図12に示すように、図11の第1の複合体を硬化後、第1の複合体の片面または両面において、粘着性のある剥離用テープ、デボンダー装置などを用いて、SiCエピタキシャル成長層13をグラフェン層12界面から物理的に剥離して分離する。図12A図11に示した第1の複合体からSiCエピタキシャル成長層13側に剥離した構造の断面図であり、図12Bはグラフェン層12側に剥離した構造の断面図である。図12Aに示したSiCエピタキシャル成長層13側の剥離した構造は、第2の複合体(13(SiC-epi)、14、15、19)を形成する。第1の実施の形態においては、グラフェン層12はファンデルワールス力で結合され、しかもストレス層14により発生する応力はグラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との密着エネルギーに近似するような大きさに調整されているため、せん断方向に力を加えることによりグラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との界面における剥離を容易に発生させることができる。
【0036】
図12Bに示したグラフェン層12側に剥離した構造において、SiC単結晶基板11上のグラフェン層12をエッチングまたは研磨により除去する。グラフェン層12のエッチング工程では、例えば酸素プラズマによるプラズマアッシャーを適用可能である。酸素プラズマによりグラフェン層12がエッチングされたSiC単結晶基板11のSi面は、表面が酸化されるため、フッ化水素(HF)によるウェットエッチングを実施する。また、グラフェン層12の研磨工程では、例えば化学的機械的研磨法(CMP:Chemical Mechanical Polishing)によりグラフェン層12の除去を実施する。ここで、SiC単結晶基板11のSi面は、上記のウェットエッチング工程による、表面の平均粗さRaは、例えば、約1nm以下である。この結果、SiC単結晶基板11は再利用可能となる。
【0037】
図13は、黒鉛基板19の両面に図12Aの剥離構造を貼り付け、両面にSiCエピタキシャル成長層131、132を有する例を示す。この場合、第2の複合体(131(SiC-epi)、141、151、19、152、142、132(SiC-epi))を真空熱アニール炉内で加熱して、炭化した接着層151、152を形成する。
【0038】
図14に示すように、第2の複合体の片面または両面に設けられたSiCエピタキシャル成長層131、132の(000-1)C面上に、SiC多結晶成長層16を形成する。SiC多結晶成長層16は、例えば、CVD技術により形成可能である。SiC多結晶成長層16は、3C(立方晶)構造を有する。SiCエピタキシャル成長層131、132のC面に対して、SiC多結晶成長層16を形成することによって、デバイスウェハ構造のサブストレート層を形成している。SiCエピタキシャル成長層131、132のC面は、デバイスウェハ構造の裏面になるため、表面の平坦性はあまり要求されない。このため、簡単な研磨処理でSiC多結晶成長層16を形成することができる。
【0039】
SiC多結晶成長層16は、SiC系半導体装置の基板として必要な機械的強度が得られる厚みまで堆積し、第3の複合体(16(SiC-poly CVD)、131(SiC-epi)、141、151、19、152、142、132(SiC-epi)、16(SiC-poly CVD))を形成する。SiC多結晶成長層16の膜厚は約150μm~500μm程度が望ましく、完成したSiC複合基板(SiC多結晶成長層16+SiCエピタキシャル成長層131、132)の板厚が必要に応じて約150μm~500μm程度になるように調節する。SiC多結晶成長層16の膜厚を薄くすることで、熱伝導性が向上する。また、SiC多結晶成長層16の堆積温度は、1300℃~1600℃までの範囲が望ましい。
【0040】
図15に示すように、第3の複合体の外周にから突出したSiC多結晶成長層16及び仮基板の黒鉛基板19の不要な部分を外周研削装置により研削して除去し、仮基板(黒鉛基板19)を露出させる。
【0041】
図16に示すように、図15に示した外周研削した第3の複合体を、空気もしくは酸素雰囲気の熱アニール炉において、第3の複合体の内部の黒鉛基板19及び炭化した接着層151、152を酸化燃焼して除去する。ストレス層141、142が多結晶ダイヤモンド膜又はダイヤモンドライクカーボン膜のような炭素膜で構成されている場合には、ストレス層141、142も一緒に酸化燃焼して除去し、第4の複合体(16(SiC-poly CVD)、131(siC-epi)、132(SiC-epi)、16(SiC-poly CVD))として取り出す。図16には、炭素膜から構成されたストレス層141、142を除去した第4の複合体を示した。
【0042】
ストレス層141、142が窒化珪素から構成されている場合は、ストレス層141、142は黒鉛基板19及び炭化した接着層151、152を除去した後に残る。このため、第4の複合体(16(SiC-poly CVD)、131(siC-epi)、141、142、132(siC-epi)、16(SiC-poly CVD))として取り出す。
【0043】
図17に示すように、第3の複合体の外周から突出した不要なSiC多結晶成長層16及び黒鉛基板19を外周研削装置により除去する代わりに、仮基板(黒鉛基板19)を図15のA-A線に示す主面と平行な面で二つにカットして第3の複合体を上下に分離し、仮基板(黒鉛基板19)の切断面を露出させてもよい。分離技術としては、例えばワイヤーソー或いはダイヤモンドワイヤーソーなどを用いることができる。この場合にも、第3の複合体の内部の黒鉛基板19及び炭化した接着層151、152を酸化燃焼して除去して、図16に示したような第4の複合体として取り出すことができる。
【0044】
図18に示すように、第4の複合体の外周のSiC多結晶成長層16を研削及び研磨して除去する。第4の複合体に図16に示した窒化珪素で構成されたストレス層141、142が残っている場合には、フッ化炭素系ガスプラズマによるドライエッチング又は熱リン酸によるウェットエッチングにより除去する。さらに、SiC複合基板10として必要な寸法及び表面状態に加工する。
【0045】
図19に、SiC複合基板10の断面図を示す。このSiC複合基板10は、図18に示したように第4の複合体を加工した上下のブロックとして得られたものである。図20に、SiC複合基板10の俯瞰図を示す。SiC複合基板10は、SiCエピタキシャル成長層13と、SiCエピタキシャル成長層13のC面上に配置されたSiC多結晶成長層16とを備える。
【0046】
SiC複合基板10において、SiCエピタキシャル成長層13の表面は、4H-SiCの[0001]方位のSi面であり、C面は、4H-SiCの[000-1]方位の面である。SiC多結晶成長層16の厚さは、例えば、約150μm~約500μmであり、SiCエピタキシャル成長層13の厚さは、例えば、約4μm~約100μmである。
【0047】
なお、図21に示すように、SiCエピタキシャル成長層13においては、SiC多結晶成長層16に接するSiCエピタキシャル成長層13のC面に向けて、高濃度ドープ層13aを形成してもよい。高濃度ドープ層13aにより、SiCエピタキシャル成長層13中に広がる空乏層の広がりを抑制し、かつSiCエピタキシャル成長層13のC面に形成されるSiC多結晶成長層16とのオーミックコンタクトを容易に形成することができる。
【0048】
高濃度ドープ層13aは、例えば高ドーズ量のイオン注入技術を用いて形成可能である。高濃度ドープ層13aは、例えばn型半導体の場合、ハイドーズ量でリン(P)のイオン注入で形成される。Pイオン注入で形成する場合には、SiCエピタキシャル成長層13のPイオン注入されたC面の結晶性への影響は存在するが、デバイス面となるSi面は、既に形成されており、Si面の結晶性は温存される。
【0049】
高濃度ドープ層13aは、図7に示された、SiCエピタキシャル成長層(SiC-epi)13の形成時に、初期段階で高濃度窒素(N)ドープのエピタキシャル成長層を形成することで、形成してもよい。高濃度窒素(N)ドープのエピタキシャル成長層では、格子定数の不整合により結晶性への影響は存在するが、エピタキシャル成長の初期段階でオートドーピングにより形成されるため、工程は容易である。
【0050】
(半導体基板)
第1の実施の形態に係る半導体基板は、図8に示したように、SiC単結晶基板(SiCSB)11、SiC単結晶基板11のSi面上に配置されたグラフェン層(GR)12、グラフェン層12を介してSiC単結晶基板11の上方に配置されたSiCエピタキシャル成長層(SiC-epi)13、SiCエピタキシャル成長層13のSi面上に配置されたストレス層14を備える。ストレス層14は、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との間に応力を発生させて、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との剥離を容易にさせるものである。
【0051】
ストレス層14は、炭素膜又は窒化珪素膜で構成される。炭素膜は、多結晶ダイヤモンド膜又はダイヤモンドライクカーボン膜で構成される。ストレス層14は、内部応力により発生する応力がグラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との密着エネルギーとに近似するように調節している。また、ストレス層が発生する応力は、SiC単結晶基板11、グラフェン層12、SiCエピタキシャル成長層13、ストレス層14、さらに後述する接着層15及び仮基板19という積層構造にも依存する。ストレス層14を多結晶ダイヤモンド膜若しくはダイヤモンドカーボン膜からなる炭素膜又は窒化珪素膜など特定の材料で構成し、膜厚、成膜温度などの成膜条件を調整して形成することにより、ストレス層14における内部応力を適切に設定している。このことによって、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との剥離を容易にしている。
【0052】
第1の実施の形態に係る半導体基板は、図11に示したように、ストレス層14上に配置された仮基板として黒鉛基板19をさらに備えていてもよい。黒鉛基板19は、SiC単結晶基板11よりも外形サイズが一回り大きいものである。黒鉛基板19は、ストレス層14にカーボン接着剤による接着層15を介して接続される。カーボン接着剤は、フェノール樹脂を含み、接着剤自体が炭素化することで高温でも結合力を維持することができるような接着剤である。
【0053】
黒鉛基板19は、表面にガラス状カーボン被膜を有していてもよい。ガラス状カーボン被膜はカーボン接着剤との接着力が強いため、SiCエピタキシャル成長層13をグラフェン層12及びSiC単結晶基板11からの剥離を容易にすることができる。第1の実施の形態に係る半導体基板は、図13に示すように、図12Aに示された半導体基板を黒鉛基板19GSの両面に配置された構成を備えていてもよい。
【0054】
実施の第1の形態の半導体基板は、図14に示したように、SiCエピタキシャル成長層131、132のC面上にSiC多結晶成長層16が形成されたものであってもよい。SiCエピタキシャル成長層131、132は、SiC多結晶成長層16に転写される。また、図19に示したように、SiCエピタキシャル成長層13において、SiC多結晶成長層16に接するSiCエピタキシャル成長層13のC面に向けて、高濃度ドープ層13aが形成されていてもよい。図6に示したように、グラフェン層12は積層構造を有してもよいし、バッファ層としての0層、又は単層構造であってもよい。
【0055】
(半導体素子)
第1の実施の形態に係る半導体基板の製造方法によって作製したSiC複合基板10又は第1の実施の形態に係る半導体基板から作製したSiC複合基板10は、例えば、各種SiC系半導体素子の製造に利用することができる。以下では、それらの一例として、SiC-SBD、SiCトレンチゲート(T:Trench)型TMOSFET、及びSiCプレーナゲート型MOSFETの例を説明する。
【0056】
(SiC-SBD)
SiC複合基板を用いて作製した半導体装置として、SiC-SBD21は、図22に示すように、SiC多結晶成長層(SiC-poly CVD)16とSiCエピタキシャル成長層(SiC-epi)13とからなるSiC複合基板10を備える。なお、SiC多結晶成長層16とSiCエピタキシャル成長層13との間に、高濃度ドープ層13aを介在させてもよい。ここで、高濃度ドープ層13aにより、SiCエピタキシャル成長層13中に広がる空乏層の広がりを抑制し、かつSiCエピタキシャル成長層13のC面に形成されるSiC多結晶成長層16とのオーミックコンタクトを容易に形成することができる。SiCエピタキシャル成長層13はドリフト層、高濃度ドープ層13aはバッファ層、SiC多結晶成長層16はサブストレート層となる。
【0057】
SiC多結晶成長層16は、n+型(不純物密度が、例えば、約1×1018cm-3~約1×1021cm-3)にドーピングされ、SiCエピタキシャル成長層13は、n-型(不純物密度が、例えば、約5×1014cm-3~約5×1016cm-3)にドーピングされている。高濃度ドープ層13aは、SiCエピタキシャル成長層13よりも高濃度にドーピングされている。
【0058】
また、SiCエピタキシャル成長層13は、4H-SiC、6H-SiC、又は2H-SiCのいずれかの結晶構造を備えていてもよい。
【0059】
n型ドーピング不純物としては、例えば、N(窒素)、P(リン)、As(ひ素)等を適用可能である。
【0060】
p型ドーピング不純物としては、例えば、B(ボロン)、Al(アルミニウム)等を適用可能である。
【0061】
SiC多結晶成長層16の裏面((000-1)C面)は、その全域を覆うようにカソード電極21を備え、カソード電極21はカソード端子Kに接続される。
【0062】
また、SiCエピタキシャル成長層13の表面13b(例えば、(0001)Si面)は、SiCエピタキシャル成長層13の一部を活性領域22として露出させるコンタクトホール23を備え、活性領域22を取り囲むフィールド領域24には、フィールド絶縁膜25が形成されている。
【0063】
フィールド絶縁膜25は、SiO2(酸化シリコン)からなるが、窒化シリコン(SiN)等、他の絶縁物からなっていてもよい。このフィールド絶縁膜25上には、アノード電極26が形成され、アノード電極26はアノード端子Aに接続される。
【0064】
SiCエピタキシャル成長層13の表面13b近傍(表層部)には、アノード電極26に接するようにp型のJTE(Junction Termination Extension)構造27が形成されている。JTE構造27は、フィールド絶縁膜25のコンタクトホール23の内外に跨るように、コンタクトホール23の輪郭に沿って形成されている。
【0065】
(SiC-TMOSFET)
第1の実施の形態に係るSiC複合基板10を用いて作製した半導体装置として、トレンチゲート型TMOSFET30は、図23に示すように、SiC多結晶成長層16とSiCエピタキシャル成長層13とからなるSiC複合基板10を備える。なお、SiC多結晶成長層16SiCエピタキシャル成長層13との間に、高濃度ドープ層13aを介在させてもよい。ここで、高濃度ドープ層13aにより、SiCエピタキシャル成長層13中に広がる空乏層の広がりを抑制し、かつSiCエピタキシャル成長層13のC面に形成されるSiC多結晶成長層16とのオーミックコンタクトを容易に形成することができる。SiCエピタキシャル成長層13はドリフト層、高濃度ドープ層13aはバッファ層、SiC多結晶成長層16はサブストレート層となる。
【0066】
SiC多結晶成長層16は、n+型(不純物密度が、例えば、約1×1018cm-3~約1×1021cm-3)にドーピングされ、SiCエピタキシャル成長層13は、n-型(不純物密度が、例えば、約5×1014cm-3~約5×1016cm-3)にドーピングされている。高濃度ドープ層13aは、SiCエピタキシャル成長層13よりも高濃度にドーピングされている。
【0067】
また、SiCエピタキシャル成長層13は、4H-SiC、6H-SiC、又は2H-SiCのいずれかの結晶構造を備えていてもよい。
【0068】
n型ドーピング不純物としては、例えば、N(窒素)、P(リン)、As(ひ素)等を適用可能である。
【0069】
p型ドーピング不純物としては、例えば、B(ボロン)、Al(アルミニウム)等を適用可能である。
【0070】
SiC多結晶成長層16の裏面((000-1)C面)は、その全域を覆うようにドレイン電極31を備え、ドレイン電極31はドレイン端子Dに接続される。
【0071】
SiCエピタキシャル成長層13の表面13b((0001)Si面)近傍(表層部)には、p型(不純物密度が、例えば、約1×1016cm-3~約1×1019cm-3)のボディ領域32が形成されている。SiCエピタキシャル成長層13において、ボディ領域32に対してSiC多結晶成長層16側の部分は、SiCエピタキシャル成長層13のままの状態が維持された、n-型のドレイン領域33(13)である。
【0072】
SiCエピタキシャル成長層13には、ゲートトレンチ34が形成されている。ゲートトレンチ34は、SiCエピタキシャル成長層13の表面13bからボディ領域32を貫通し、その最深部がドレイン領域33(13)に達している。
【0073】
ゲートトレンチ34の内面及びSiCエピタキシャル成長層13の表面13bには、ゲートトレンチ34の内面全域を覆うようにゲート絶縁膜35が形成されている。そして、ゲート絶縁膜35内側を、たとえばポリシリコンで充填することによって、ゲートトレンチ34内にゲート電極36が埋設されている。ゲート電極36には、ゲート端子Gが接続されている。
【0074】
ボディ領域32の表層部には、ゲートトレンチ34の側面の一部を形成するn+型のソース領域37が形成されている。
【0075】
また、SiCエピタキシャル成長層13には、その表面13bからソース領域37を貫通し、ボディ領域32に接続されるp+型(不純物密度が、例えば、約1×1018cm-3~約1×1021cm-3)のボディコンタクト領域38が形成されている。
【0076】
SiCエピタキシャル成長層13には、SiO2からなる層間絶縁膜41が形成されている。層間絶縁膜41に形成されたコンタクトホール42を介して、ソース電極43がソース領域37及びボディコンタクト領域38に接続されている。ソース電極43には、ソース端子Sが接続されている。
【0077】
ソース電極43とドレイン電極31との間(ソース-ドレイン間)に所定の電位差を発生させた状態で、ゲート電極36に所定の電圧(ゲート閾値電圧以上の電圧)を印加することにより、ゲート電極36からの電界によりボディ領域32におけるゲート絶縁膜35との界面近傍にチャネルを形成することができる。これにより、ソース電極43とドレイン電極31との間に電流を流すことができ、SiC-TMOSFET31をオン状態にさせることができる。
【0078】
(SiCプレーナゲート型MOSFET)
SiC複合基板10を用いて作製した半導体装置として、プレーナゲート型MOSFET50は、図24に示すように、SiC多結晶成長層16とSiCエピタキシャル成長層13とからなるSiC複合基板10を備える。なお、SiC多結晶成長層16とSiCエピタキシャル成長層13との間に、高濃度ドープ層13aを介在させてもよい。ここで、高濃度ドープ層13aにより、SiCエピタキシャル成長層13中に広がる空乏層の広がりを抑制し、かつSiCエピタキシャル成長層13のC面に形成されるSiC多結晶成長層16とのオーミックコンタクトを容易に形成することができる。SiCエピタキシャル成長層13はドリフト層、高濃度ドープ層13aはバッファ層、SiC多結晶成長層16はサブストレート層となる。
【0079】
SiC多結晶成長層16は、n+型(不純物密度が、例えば、約1×1018cm-3~約1×1021cm-3)にドーピングされ、SiCエピタキシャル成長層13は、n-型(不純物密度が、例えば、約5×1014cm-3~約5×1016cm-3)にドーピングされている。
【0080】
また、SiCエピタキシャル成長層13は、4H-SiC、6H-SiC、又は2H-SiCのいずれかの結晶構造を備えていてもよい。
【0081】
n型ドーピング不純物としては、例えば、N(窒素)、P(リン)、As(ひ素)等を適用可能である。
【0082】
p型ドーピング不純物としては、例えば、B(ボロン)、Al(アルミニウム)等を適用可能である。
【0083】
SiC複合基板10の裏面((000-1)C面)には、全域を覆うようにドレイン電極51が形成され、ドレイン電極51には、ドレイン端子Dが接続されている。
【0084】
SiCエピタキシャル成長層13の表面13b((0001)Si面)近傍(表層部)には、p型(不純物密度が、例えば、約1×1016cm-3~約1×1019cm-3)のボディ領域52がウェル状に形成されている。SiCエピタキシャル成長層13において、ボディ領域52に対してSiC複合基板10側の部分は、エピタキシャル成長後のままの状態が維持された、n-型のドレイン領域53(13)である。
【0085】
ボディ領域52の表層部には、n+型のソース領域54がボディ領域52の周縁と間隔を空けて形成されている。
【0086】
ソース領域54の内側には、p+型(不純物密度が、例えば、約1×1018cm-3~約1×1021cm-3)のボディコンタクト領域55が形成されている。ボディコンタクト領域55は、ソース領域54を深さ方向に貫通し、ボディ領域52に接続されている。
【0087】
SiCエピタキシャル成長層13の表面13bには、ゲート絶縁膜56が形成されている。ゲート絶縁膜56は、ボディ領域52におけるソース領域54を取り囲む部分(ボディ領域52の周縁部)及びソース領域54の外周縁を覆っている。
【0088】
ゲート絶縁膜56上には、たとえばポリシリコンからなるゲート電極57が形成されている。ゲート電極57は、ゲート絶縁膜56を挟んでボディ領域52の周縁部に対向している。ゲート電極57には、ゲート端子Gが接続される。
【0089】
SiCエピタキシャル成長層13上には、SiO2からなる層間絶縁膜58が形成されている。層間絶縁膜58に形成されたコンタクトホール61を介して、ソース電極62がソース領域54及びボディコンタクト領域55に接続されている。ソース電極62には、ソース端子Sが接続されている。
【0090】
ソース電極62とドレイン電極51との間(ソース-ドレイン間)に所定の電位差を発生させた状態で、ゲート電極57に所定の電圧(ゲート閾値電圧以上の電圧)を印加することにより、ゲート電極57からの電界によりボディ領域52におけるゲート絶縁膜56との界面近傍にチャネルを形成することができる。これにより、ソース電極62とドレイン電極51との間に電流を流すことができ、プレーナゲート型MOSFET50をオン状態にさせることができる。
【0091】
以上説明したように、第1の実施の形態によれば、CVDによるSiC多結晶成長層16を形成する前に、SiC単結晶基板11を分離し、高耐熱の黒鉛基板19による仮基板に替えることにより、SiC単結晶基板11への多結晶SiCの不要な付着を防止し、SiC単結晶基板11の再利用性を最大限まで高めることができ、さらなる低コスト化が可能になる。
【0092】
第1の実施の形態によれば、ストレス層14を炭素系膜(多結晶ダイヤモンド膜若しくはダイヤモンドライクカーボン膜)又は窒化珪素膜によって形成することにより、膜内部応力及び熱応力を利用し、グラフェン層12からSiCエピタキシャル成長層13を剥がしやすい状態にするようにした。また、これにより金属ストレッサー膜を使用時に問題になる金属汚染が回避できる。炭素系膜又は窒化珪素膜形成は、下地との密着性が良く、高耐熱性に優れ、大きな応力を得られる特長がある。
【0093】
第1の実施の形態によれば、黒鉛基板19をSiC単結晶基板11より一回り大きなサイズとすることにより、バッチ式縦型管状炉などのエピタキシャル成長装置を用いて、片面または両面エピタキシャル成長が可能になり、無理に成長速度を上げることなく、高スループットかつ低コスト生産が実現できる。また、黒鉛基板19及び炭化した接着層15は、酸化炉等で焼成するだけで安価に除去することができる。
【0094】
第1の実施の形態によれば、SiC単結晶基板上に形成したグラフェンを介してSiCの遠隔エピタキシャル成長を行い、その上に直接CVD法により、SiC多結晶成長層を形成するため、基板接合が不要となり、基板接合に起因する欠陥を無くすことができる。また、グラフェンを介してエピタキシャル成長層を形成するためSiC単結晶基板とエピタキシャル成長層との分離が容易となり、プロセス工程が簡易となり、また、イオン注入剥離法になどの高価なプロセスも不要になる。
【0095】
第1の実施の形態によれば、SiC単結晶基板が除去された後、高耐熱のハンドル基板ごと高温LP-CVD装置に入れて、エピタキシャル成長層上に直接SiC多結晶成長層を成長させるようにしたことにより、膜厚数μmのエピタキシャル成長層をハンドル基板から支持基板に輸送する工程及び、支持基板と接合する工程が無くなり、薄膜輸送と接合に起因するしわ、結晶転移、ボイドなどの不良を回避できる。
【0096】
第1の実施の形態によれば、SiC単結晶基板11上に形成したグラフェン層は転写せず、そのままその上にエピタキシャル成長を行うようにしている。これにより、グラフェンの転写に起因するしわ、クラックなどの不良を回避できる。
【0097】
第1の実施の形態によれば、SiC単結晶基板11をベースに用いるため、結晶性の低下の少ない六方晶SiCが得られる。また、研磨又はエッチングによる除去が困難で高価なSiC単結晶基板11であるが、グラフェン層12を介した遠隔エピタキシャル成長を用いることにより、得られた高性能な単結晶であるSiCエピタキシャル成長層13の分離が容易であり、研磨又はエッチングによる除去が不要となる。高価なSiC単結晶基板11を分離後に再利用できるためコスト的にも大きなメリットが得られる。
【0098】
以上、第1の実施の形態を説明したが、他の形態で実施することもできる。例えば、図示は省略するが、SiC複合基板10を用いてMOSキャパシタを製造することもできる。MOSキャパシタでは、歩留まり及び信頼性を向上させることができる。
【0099】
また、図示は省略するが、SiC複合基板10を用いてバイポーラトランジスタを製造することもできる。その他、第1の実施の形態に係るSiC複合基板10は、SiC-pnダイオード、SiCIGBT、SiC相補型MOSFET等の製造に用いることもできる。SiC複合基板1は、例えばLED(light emitting diode)、半導体光増幅器(Semiconductor Optical Amplifier:SOA)のような他の種類のデバイスにも適用することができる。
【0100】
SiCエピタキシャル成長層13は、IV族元素半導体、III―V族化合物半導体、及びII-VI族化合物半導体の群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類を備えていてもよい。
【0101】
また、SiC複合基板10及びSiCエピタキシャル成長層13は、4H-SiC、6H-SiC、又は2H-SiCのいずれかの材料で構成されていてもよい。
【0102】
また、SiC単結晶基板11及びSiCエピタキシャル成長層13は、SiC以外の他の材料系としては、GaN、BN、AlN、Al23、Ga23、ダイヤモンド、カーボン、及びグラファイトの群から選ばれる少なくとも1種類を備えていてもよい。
【0103】
SiC複合基板10を備える半導体装置は、SiC系以外では、GaN系、AlN系、酸化ガリウム系のIGBT、ダイオード、MOSFET、サイリスタのいずれかを備えていてもよい。
【0104】
SiC複合基板10を備える半導体装置は、ワンインワンモジュール、ツーインワンモジュール、フォーインワンモジュール、シックスインワンモジュール、セブンインワンモジュール、エイトインワンモジュール、トゥエルブインワンモジュール、又はフォーティーンインワンモジュールのいずれかの構成を備えていてもよい。
【0105】
SiC複合基板10によれば、基板材料としては、高コストなSiC単結晶基板11の代わりに例えば、低コストなSiC多結晶成長層16も利用可能である。
【0106】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、種結晶となるSiC単結晶基板の表面にグラフェン層を介してSiCエピタキシャル成長層を形成することにより、グラフェン層を介して転写したSiCエピタキシャル成長層の剥離を可能にするリモートエピタキシャル法を使用する。
【0107】
(半導体基板の製造方法)
図25は種基板となるSiC単結晶基板(SiCSB)11の断面図である。第2の実施の形態では、SiC単結晶基板11は4H-SiC基板を例にとって説明するが、六方晶系(4H、6H)、立方晶系(3C)のいずれであってもよい。SiC単結晶基板11の厚さは、例えば約300μm~600μm程度であってもよい。なお、図25において、[C]はSiCのC面であることを示し、[S]はSiCのSi面であることを示す。以下の図でも同様である。
【0108】
図26A及び図26Bは、SiC単結晶基板11として適用可能なSiCウェハ110の結晶面を説明する図である。図26Aの平面図には1次オリフラ(orientation flat)111及び2次オリフラ112が形成されたSiCウェハ110のSi面113が示されている。図26Bの[-1100]の方位から見た側面図では、上面に[0001]の方位のSi面113が形成され、下面に[000-1]の方位のC面114が形成されている。
【0109】
4H-SiC結晶のユニットセルの模式的俯瞰構成は、図27Aに示すように表され、4H-SiC結晶の2層部分の模式的構成は、図27Bに示すように表され、4H-SiC結晶の4層部分の模式的構成は、図27Cに示すように表される。また、図27Aに示す4H-SiCの結晶構造のユニットセルを(0001)面の真上から見た模式的構成は、図28に示すように表される。
【0110】
図27A図27Cに示したように、4H-SiCの結晶構造は、六方晶系で近似することができ、1つのSi原子に対して4つのC原子が結合している。4つのC原子は、Si原子を中央に配置した正四面体の4つの頂点に位置している。これらの4つのC原子は、1つのSi原子がC原子に対して[0001]軸方向に位置し、他の3つのC原子がSi原子に対して[000-1]軸側に位置している。図27Aにおいて、オフ角θは例えば、約4度以下である。
【0111】
[0001]軸及び[000-1]軸は六角柱の軸方向に沿い、この[0001]軸を法線とする面(六角柱の頂面)が(0001)面(Si面)である。一方、[000-1]軸を法線とする面(六角柱の下面)が(000-1)面(C面)である。また、[0001]軸に垂直であり、かつ(0001)面の真上から見た場合において六角柱の互いに隣り合わない頂点を通る方向がそれぞれ、a1軸[2-1-10]、a2軸[-12-10]及びa3軸[-1-120]である。
【0112】
図28に示したように、a1軸とa2軸との間の頂点を通る方向が[11-20]軸であり、a2軸とa3軸との間の頂点を通る方向が[-2110]軸であり、a3軸とa1軸との間の頂点を通る方向が[1-210]軸である。六角柱の各頂点を通る上記6本の軸の各間において、その両側の各軸に対して30°の角度で傾斜していて、六角柱の各側面の法線となる軸がそれぞれ、a1軸と[11-20]軸との間から時計回りに順に、[10-10]軸、[1-100]軸、[0-110]軸、[-1010]軸、[-1100]軸及び[01-10]軸である。これらの軸を法線とする各面(六角柱の側面)は、(0001)面及び(000-1)面に対して直角な結晶面である。
【0113】
次に、図29に示すように、SiC単結晶基板11の(0001)Si面に数分子層までの第1グラフェン層(GR)12を形成する。第1グラフェン層12は、SiC単結晶基板11を例えば、大気圧アルゴンガス雰囲気中において約1700℃程度でアニール処理することでSiC単結晶基板11のSi面上に熱分解により形成可能である。また、第1グラフェン層12は、SiC単結晶基板11上にCVDで積層して形成してもよい。
【0114】
第1グラフェン層12は、図30に示すように表される。第1グラフェン層12は、グラファイトシート121・122・123・…・12nの積層構造を備える。n層からなる各面のグラファイトシート121・122・123・…・12nは、1つの積層結晶構造の中に多数の六方晶系の炭素(C)の共有結合を有し、各面のグラファイトシート121・122・123・…・12n間がファンデルワールス力によって結合される。第1グラフェン層12は、バッファ層としての0層、又は単層構造であってもよい。
【0115】
図31に示すように、第1グラフェン層12上にSiCエピタキシャル成長層(SiC-epi)13を形成する。SiCエピタキシャル成長層13は、SiC単結晶基板11のSi面に形成した第1グラフェン層12上に遠隔エピタキシャル成長法により形成される。SiCエピタキシャル成長層13は、単結晶SiC薄膜である。SiCエピタキシャル成長層13の第1グラフェン層12と接する面はC面となり、SiCエピタキシャル成長層13の表面はSi面となる。
【0116】
図32に示すように、SiCエピタキシャル成長層13上にストレス層14を形成する。ストレス層14は、ニッケル(Ni)薄膜で構成される。ニッケル薄膜は、蒸着で形成してもよいし、めっきで形成してもよい。ストレス層14は、層内の内部応力などによって第1グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との間に応力を発生させて、第1グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との剥離を容易にさせるものである。
【0117】
ストレス層14が応力を発生するメカニズムについて図33A図33Cを参照して説明する。図33A図33Cに示す例では、ストレス層の内部応力T0は引張応力であり、内部応力T0の大きさは図33A図33B図33Cと進むにしたがい次第に増加している。内部応力T0の増加に応じて、図33Aではストレス層14とSiCエピタキシャル成長層13との界面における剥離、図33BではSiCエピタキシャル成長層13と第1グラフェン層12との界面における剥離、3CではSiC単結晶基板11内における破砕と進んでいる。ストレス層の内部応力T0を適切に調整することにより、図33BのようにSiCエピタキシャル成長層13と第1グラフェン層12との界面における剥離を可能にすることができる。
【0118】
次に、図34に示すように、ストレス層14上に接着層15を形成し、SiC単結晶基板11よりも一回り外形サイズの大きな仮基板の黒鉛基板19の片面もしくは両面に、接着層15の塗布面を重ねて貼付けて第1の複合体(11(SiCSB)、12(GR)、13(SiC-epi)、14、15、19)を形成する。接着層15には、例えば、カーボン接着剤を用いてもよい。カーボン接着剤は、フェノール樹脂を含み、接着剤自体が炭素化することで高温でも結合力を維持することができるような接着剤である。黒鉛基板19は、円板状又は矩形板状であってもよい、一回り外形サイズの大きな黒鉛基板19としては、SiC単結晶基板11よりも1mm以上大きな外形サイズであればよく、例えば直径約10cmのSiC単結晶基板11であれば、約10mm程度大きな外形サイズの直径約11cmの黒鉛基板19を用いてもよい。例えば直径約15cmのSiC単結晶基板11であれば、外形サイズの直径約16cmの黒鉛基板19を用いてもよい。
【0119】
そして、熱アニール炉などで第1の複合体を不活性ガス雰囲気中で加熱して接着層15を炭化させる。このとき、接着層15のカーボン接着剤の分解時に発生するガスが緩やかに離脱できるような温度勾配で徐々に加熱することにより、接着層15が炭化するときに接着面が剥離しないようにする。黒鉛基板19は、表面にガラス状カーボン被膜を有していてもよい。ガラス状カーボン被膜は接着層15のカーボン接着剤との接着力が強いため、SiCエピタキシャル成長層13を第1グラフェン層12及びSiC単結晶基板11からの剥離を容易にすることができ、歩留まりの向上を図ることができる。なお、図34においては、黒鉛基板19の片面に接着層15を貼り付けて第1の複合体を形成する例を示しているが、黒鉛基板19の両面に接着層15を貼り付けて第1の複合体を形成してもよい。
【0120】
図35に示すように、図34の第1の複合体を炭化させた後、第1の複合体の片面または両面において、粘着性のある剥離用テープ、デボンダー装置などを用いて、SiCエピタキシャル成長層13を第1グラフェン層12界面から物理的に剥離して分離する。図35A図34に示した第1の複合体からSiCエピタキシャル成長層13側に剥離した構造の断面図であり、図35Bは第1グラフェン層12側に剥離した構造の断面図である。図35Aに示したSiCエピタキシャル成長層13側の剥離した構造は、第2の複合体(13(SiC-epi)、14、15、19)を形成する。第1グラフェン層12はファンデルワールス力で結合され、しかもストレス層14により発生する応力は第1グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との剥離を容易にするような大きさに調整されているため、せん断方向に力を加えることにより第1グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との界面における剥離を容易に発生させることができる。
【0121】
図35Bに示した第1グラフェン層12側に剥離した構造において、SiC単結晶基板11上の第1グラフェン層12をエッチングまたは研磨により除去する。第1グラフェン層12のエッチング工程では、例えば酸素プラズマによるプラズマアッシャーを適用可能である。酸素プラズマにより第1グラフェン層12がエッチングされたSiC単結晶基板11のSi面は、表面が酸化されるため、フッ化水素(HF)によるウェットエッチングを実施する。また、第1グラフェン層12の研磨工程では、例えば化学的機械的研磨法(CMP:Chemical Mechanical Polishing)により第1グラフェン層12の除去を実施する。ここで、SiC単結晶基板11のSi面は、上記のウェットエッチング工程による、表面の平均粗さRaは、例えば、約1nm以下である。この結果、SiC単結晶基板11は再利用可能となる。
【0122】
図36は、黒鉛基板19の両面に図35Aの剥離構造を貼り付け、両面にSiCエピタキシャル成長層131、132を有する例を示す。この場合には、第2の複合体(131(SiC-epi)、141、151、19、152、142、132(SiC-epi))を熱アニール炉内で加熱して、接着層151、152を炭化する。
【0123】
図37に示すように、第2の複合体の片面または両面に設けられたSiCエピタキシャル成長層131、132の(000-1)C面上に、第1SiC多結晶成長層16を形成する。第1SiC多結晶成長層16は、CVD技術により形成可能である。CVD炉内に第2の複合体を設置後に真空引きを行い、1400℃~1500℃程度まで加熱したら、材料ガスとして、例えばSiCl(四塩化珪素)ガスと、CH(メタン)ガスと、H(水素)ガスを同時に流して圧力を調整して第1SiC多結晶成長層16を堆積させる。第1SiC多結晶成長層16は、3C(立方晶)構造を有する。SiC単結晶基板11よりも一回りサイズの大きい仮基板(黒鉛基板19)は、バッチ式縦型CVD炉のウェハボート溝に挿入して整列した際に、ウェハボート支柱跡を基板有効エリア外にするメリットがある。
【0124】
第1SiC多結晶成長層16の厚さは、薄化したいSiC複合基板の厚みに設定する。例えば、薄化後のウェハ全体の板厚を100μmにする場合は、例えば、SiCエピタキシャル成長層13の膜厚が10μmの場合なら、第1多結晶SiCバルク層の体積膜厚を90μmとする。
【0125】
図38に示すように、第1SiC多結晶成長層16が形成された第2の複合体のSiCエピタキシャル成長層131、132の(000-1)C面上に、数分子層までの第2グラフェン層(GR)17を形成する。第2グラフェン層17は、CVDで積層して形成してもよいし、熱分解法により形成してもよい。熱分解法による場合には、熱アニール炉内に第1SiC多結晶成長層16を堆積した第2の複合体を設置し、例えば、1×10-5パスカル程度まで高真空引きを行って大気成分を十分に除去した後に、6N程度の高純度アルゴンガスを導入し、5×10-5パスカルから1×10+5パスカルまでの間で圧力を調整し、その後1250℃~1750℃の範囲まで加熱し、第1SiC多結晶成長層16の表面に第2グラフェン層17を形成する。第2グラフェン層17は、図30に示した第1グラフェン層12と同様に、グラファイトシートの積層構造を備え、各面のグラファイトシートの間がファンデルワールス力によって結合される。第2グラフェン層17は、バッファ層としての0層、又は単層構造であってもよい。
【0126】
図39に示すように、第1SiC多結晶成長層16及び第2グラフェン層17が積層された第2の複合体のSiCエピタキシャル成長層131、132の(000-1)C面上に、第2SiC多結晶成長層18をさらに形成する。第2SiC多結晶成長層18も、第1SiC多結晶成長層16と同様に、CVD技術により形成可能である。CVD技術による場合、CVD炉内に第1SiC多結晶成長層16及び第2グラフェン層17が積層された第2の複合体を設置後に十分な真空引きを行い、1400℃~1500℃程度まで加熱したら、材料ガスとして、例えばSiCl(四塩化珪素)ガスと、CH(メタン)ガスと、H(水素)ガスを同時に流して圧力を調整して第2SiC多結晶成長層18の堆積を行う。この際、堆積する膜厚は、SiC複合基板10の最終形態の厚みに応じて設定する。例えば、SiC複合基板10全体の板厚を350μmにする場合は、例えば、SiCエピタキシャル成長層13の膜厚が10μm、第1SiC多結晶成長層16の堆積膜厚が90μmであれば、第2SiC多結晶成長層18の堆積膜厚は250μmに設定すればよい。
【0127】
第2の複合体に第1SiC多結晶成長層16、第2グラフェン層17及び第2SiC多結晶成長層18が堆積することで、第3の複合体(18(2nd SiC-poly CVD)、17、16(1st SiC-poly CVD)、131(SiC-epi)、141、151、19、152、142、132(SiC-epi)、16(1st SiC-poly CVD)、17、18(2nd SiC-poly CVD))が形成される。
【0128】
図40に示すように、第3の複合体の外周から突出した第2SiC多結晶成長層18、第2グラフェン層17、第1SiC多結晶成長層16及び仮基板の黒鉛基板19の不要な部分を外周研削装置により研削して除去し、仮基板(黒鉛基板19)を露出させる。
【0129】
図41に示すように、図40に示した外周研削した第3の複合体を、大気雰囲気で加熱できる大気炉において、大気を流しながら900℃~1000℃程度に加熱して第3の複合体の内部の黒鉛基板19及び炭化した接着層151、152を燃焼させて完全に除去する。そして、第4の複合体(181(2nd SiC-poly CVD)、171、161(1st SiC-poly CVD)、131(siC-epi)、141、142、132(SiC-epi)、162(1st SiC-poly CVD)、172、182(2nd SiC-poly CVD))として取り出す。
【0130】
なお、第3の複合体の外周から突出した不要な第2SiC多結晶成長層18、第2グラフェン層17、第1SiC多結晶成長層16及び黒鉛基板19を外周研削装置により除去する代わりに、図42に示すように仮基板(黒鉛基板19)を図39のA-A線に示した黒鉛基板19の主面と平行な面で二つにカットして第3の複合体を上下に分離し、仮基板(黒鉛基板19)の切断面を露出させてもよい。分離技術としては、例えばワイヤーソー或いはダイヤモンドワイヤーソーなどを用いることができる。この場合にも、第3の複合体の内部の黒鉛基板19及び炭化した接着層151、152を酸化燃焼して除去して、図41に示したような第4の複合体として取り出すことができる。
【0131】
図43に示すように、第4の複合体の外周の第2SiC多結晶成長層181、182、第2グラフェン層171、172及び第1SiC多結晶成長層161、162をべべリング装置によって研削及び研磨して除去し、ストレス層141、142をエッチング又は研磨によって除去することにより、第2SiC多結晶成長層181、第2グラフェン層171、第1SiC多結晶成長層161及びSiCエピタキシャル成長層131が積層して構成されたSiC複合基板10と、SiCエピタキシャル成長層132、第1SiC多結晶成長層162、第2グラフェン層172及び第2SiC多結晶成長層182が積層して構成されたSiC複合基板10とが得られる。さらに、これらのSiC複合基板10を必要な寸法及び表面状態に加工する。
(変形例)
ここで、第2の実施の形態の半導体基板の製造方法の変形例について説明する。変形例の製造方法は、図32に示したようなSiCエピタキシャル成長層13上にストレス層14が積層した積層体を形成する工程までは上述の第2の実施の形態と同様であるが、片面にザグリ穴が形成された黒鉛基板19にこの積層体を嵌め込んで固定する工程以降において相違している。以下では、第2の実施の形態と相違する前記積層体を黒鉛基板19のザグリ穴に嵌め込む工程以降について説明する。なお、変形例で形成する各層の構成等は第2の実施の形態と同様であるため、第2の実施の形態と共通する点については省略することもある。
【0132】
図44に示すように、ストレス層14上に接着層15を形成した積層体を、SiC単結晶基板11よりも一回り外形サイズの大きな仮基板である黒鉛基板19のザグリ穴に嵌め込み、ザグリ穴の底面に接着層15の塗布面を重ねて貼り付けて第5の複合体(19、15、14、13(SiC-epi)、12(GR)、11(SiCSB))を形成する。第5の複合体において、接着層15、ストレス層14及びSiCエピタキシャル成長層13は黒鉛基板19のザグリ穴内にあり、第1グラフェン層12及びSiC単結晶基板11は黒鉛基板19の表面より外にある。接着層15には、第2の実施の形態と同様にカーボン接着剤を用いる。そして、第5の複合体を熱アニール炉などで加熱して接着層15を炭化させる。第2の実施の形態と同様に、黒鉛基板19は表面にガラス状カーボン被膜を有していてもよい。
【0133】
図45に示すように、図44の第5の複合体の接着層15を炭化後、粘着性のある剥離用テープ、デボンダー装置などを用いてSiC単結晶基板11及び第1グラフェン層12を剥離して取り外して、第6の複合体(19、15、14、13(SiC-epi))を形成する。第1グラフェン層12はファンデルワールス力で結合され、しかもストレス層14により発生する応力は第1グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との剥離を容易にするような大きさに調整されているため、せん断方向に力を加えることにより第1グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との界面における剥離を容易に発生させることができる。取り外したSiC単結晶基板11及び第1グラフェン層12からなる構造は、第1グラフェン層12をエッチングまたは研磨により除去することにより、再利用可能なSiC単結晶基板11とされる。
【0134】
図46に示すように、第6の複合体のザグリ穴に嵌め込まれたSiCエピタキシャル成長層13の(000-1)C面上に、第1SiC多結晶成長層16を形成する。第1SiC多結晶成長層16は、例えば、CVD技術により形成可能である。第1SiC多結晶成長層16は、3C(立方晶)構造を有する。
【0135】
図47に示すように、第1SiC多結晶成長層16が形成された第6の複合体のSiCエピタキシャル成長層13の(000-1)C面上に、数分子層までの第2グラフェン層(GR)17を形成する。第2グラフェン層17は、CVDで積層して形成してもよいし、熱分解により形成してもよい。
【0136】
図48に示すように、第1SiC多結晶成長層16及び第2グラフェン層17が積層された第6の複合体のSiCエピタキシャル成長層13の(000-1)C面上に、第2SiC多結晶成長層18をさらに形成する。第2SiC多結晶成長層18も、第1SiC多結晶成長層16と同様に、CVD技術により形成可能である。第2SiC多結晶成長層18は、第1SiC多結晶成長層16と同様に、3C(立方晶)構造を有する。
【0137】
図49に示すように、第6の複合体の外周の第2SiC多結晶成長層18、第2グラフェン層17及び第1SiC多結晶成長層16を研削及び研磨して除去する。さらに、黒鉛基板19及び接着層15を燃焼して完全に除去する。ストレス層14をエッチング又は研磨によって除去すると、SiCエピタキシャル成長層13、第1SiC多結晶成長層161、第1SiC多結晶成長層162及び第2グラフェン層171が積層したSiC複合基板が得られる。なお、黒鉛基板19及び接着層15の除去により分離した第1SiC多結晶成長層16、第2グラフェン層17及び第2SiC多結晶成長層18の積層体は、SiC複合基板10と同様の形状及びサイズを有するため、ダミー基板として利用することができる。
【0138】
(半導体基板)
第2の実施の形態に係る半導体基板であるSiC複合基板10について説明する。SiC複合基板10は、上述のような第2の実施の形態に係る半導体基板の製造方法によって作製されたものである。
【0139】
図50に示すように、SiC複合基板10は、第2SiC多結晶成長層(2nd SiC-poly CVD)18、第2グラフェン層17、第1SiC多結晶成長層(1st SiC-poly CVD)16及びSiCエピタキシャル成長層(SiC-epi)13が積層して構成されている。図51は、SiC複合基板(ウェハ)10の模式的俯瞰構成である。SiC複合基板10において、SiCエピタキシャル成長層13の表面は4H-SiCの[0001]方位のSi面であってもよく、第1SiC多結晶成長層16と接するのは4H-SiCの[000-1]方位のC面であってもよい。第2グラフェン層17は、図30に示したように、グラフェンの単層構造又は複数層積層化された構造を有すものであり、第2グラフェン層17と第2SiC多結晶成長層18との剥離を容易にさせる。
【0140】
なお、図52に示すように、SiCエピタキシャル成長層13においては、第1SiC多結晶成長層16に接するSiCエピタキシャル成長層13のC面に向けて、高濃度ドープ層13aを形成してもよい。高濃度ドープ層13aにより、SiCエピタキシャル成長層13中に広がる空乏層の広がりを抑制し、かつSiCエピタキシャル成長層13のC面に形成される第1SiC多結晶成長層16とのオーミックコンタクトを容易に形成することができる。
【0141】
高濃度ドープ層13aは、例えば高ドーズ量のイオン注入技術を用いて形成可能である。高濃度ドープ層13aは、例えばn型半導体の場合、ハイドーズ量でリン(P)のイオン注入で形成される。Pイオン注入で形成する場合には、SiCエピタキシャル成長層13のPイオン注入されたC面の結晶性への影響は存在するが、デバイス面となるSi面は、既に形成されており、Si面の結晶性は温存される。
【0142】
高濃度ドープ層13aは、図31に示された、SiCエピタキシャル成長層(SiC-epi)13の形成時に、初期段階で高濃度窒素(N)ドープのエピタキシャル成長層を形成することで、形成してもよい。高濃度窒素(N)ドープのエピタキシャル成長層では、格子定数の不整合により結晶性への影響は存在するが、エピタキシャル成長の初期段階でオートドーピングにより形成されるため、工程は容易である。
【0143】
(半導体装置)
第2の実施の形態に係る半導体基板であるSiC複合基板10には、デバイス面となるSiCエピタキシャル成長層13のSi面に各種SiC系半導体素子の主要部など半導体素子の一部の構造を形成した半導体装置として提供することができる。このような半導体装置は、後述するように第2SiC多結晶成長層18及び第2グラフェン層17を取り除いた後、第1SiC多結晶成長層16の表面へ電極などを形成することで、半導体素子に形成することができる。以下では、このような半導体装置の例として、SiC-SBD、SiCトレンチゲート(T:Trench)型TMOSFET、及びSiCプレーナゲート型MOSFETの主要部を構成した半導体装置を説明する。
【0144】
(SiC-SBD)
SiC複合基板10にSiC-SBDの主要部の構造を形成したSiC-SBD構造を有する半導体装置120は、図53に示すように、第2SiC多結晶成長層(2nd SiC-poly CVD)18、第2グラフェン層(GR)17、第1SiC多結晶成長層(1st SiC-poly CVD)16及びSiCエピタキシャル成長層(SiC-epi)13とからなるSiC複合基板10を備える。なお、第1SiC多結晶成長層16とSiCエピタキシャル成長層13との間に、高濃度ドープ層13aを介在させてもよい。ここで、高濃度ドープ層13aにより、SiCエピタキシャル成長層13中に広がる空乏層の広がりを抑制し、かつSiCエピタキシャル成長層13のC面に形成される第1SiC多結晶成長層16とのオーミックコンタクトを容易に形成することができる。SiCエピタキシャル成長層13はドリフト層、高濃度ドープ層13aはバッファ層、第1SiC多結晶成長層16はサブストレート層となる。
【0145】
第1SiC多結晶成長層16は、n+型(不純物密度が、例えば、約1×1018cm-3~約1×1021cm-3)にドーピングされ、SiCエピタキシャル成長層13は、n-型(不純物密度が、例えば、約5×1014cm-3~約5×1016cm-3)にドーピングされている。高濃度ドープ層13aは、SiCエピタキシャル成長層13よりも高濃度にドーピングされている。
【0146】
また、SiCエピタキシャル成長層13は、4H-SiC、6H-SiC、又は2H-SiCのいずれかの結晶構造を備えていてもよい。
【0147】
n型ドーピング不純物としては、例えば、N(窒素)、P(リン)、As(ひ素)等を適用可能である。
【0148】
p型ドーピング不純物としては、例えば、B(ボロン)、Al(アルミニウム)等を適用可能である。
【0149】
また、SiCエピタキシャル成長層13の表面100(例えば、(0001)Si面)は、SiCエピタキシャル成長層13の一部を活性領域22として露出させるコンタクトホール23を備え、活性領域22を取り囲むフィールド領域24には、フィールド絶縁膜25が形成されている。
【0150】
フィールド絶縁膜25は、SiO2(酸化シリコン)からなるが、窒化シリコン(SiN)等、他の絶縁物からなっていてもよい。このフィールド絶縁膜25上には、アノード電極26が形成されている。
【0151】
SiCエピタキシャル成長層13の表面13b近傍(表層部)には、アノード電極26に接するようにp型のJTE(Junction Termination Extension)構造27が形成されている。JTE構造27は、フィールド絶縁膜25のコンタクトホール23の内外に跨るように、コンタクトホール23の輪郭に沿って形成されている。
【0152】
(SiC-TMOSFET)
SiC複合基板10にトレンチゲート型TMOSFETの主要部を構成したトレンチゲート型TMOSFET構造を有する半導体装置130は、図54に示すように、第2SiC多結晶成長層(2nd SiC-poly CVD)18、第2グラフェン層(GR)17、第1SiC多結晶成長層(1st SiC-poly CVD)16及びSiCエピタキシャル成長層(SiC-epi)13とからなるSiC複合基板10を備える。なお、第1SiC多結晶成長層16SiCエピタキシャル成長層13との間に、高濃度ドープ層13aを介在させてもよい。ここで、高濃度ドープ層13aにより、SiCエピタキシャル成長層13中に広がる空乏層の広がりを抑制し、かつSiCエピタキシャル成長層13のC面に形成される第1SiC多結晶成長層16とのオーミックコンタクトを容易に形成することができる。SiCエピタキシャル成長層13はドリフト層、高濃度ドープ層13aはバッファ層、第1SiC多結晶成長層16はサブストレート層となる。
【0153】
第1SiC多結晶成長層16は、n+型(不純物密度が、例えば、約1×1018cm-3~約1×1021cm-3)にドーピングされ、SiCエピタキシャル成長層13は、n-型(不純物密度が、例えば、約5×1014cm-3~約5×1016cm-3)にドーピングされている。高濃度ドープ層13aは、SiCエピタキシャル成長層13よりも高濃度にドーピングされている。
【0154】
また、SiCエピタキシャル成長層13は、4H-SiC、6H-SiC、又は2H-SiCのいずれかの結晶構造を備えていてもよい。
【0155】
n型ドーピング不純物としては、例えば、N(窒素)、P(リン)、As(ひ素)等を適用可能である。
【0156】
p型ドーピング不純物としては、例えば、B(ボロン)、Al(アルミニウム)等を適用可能である。
【0157】
SiCエピタキシャル成長層13の表面13b((0001)Si面)近傍(表層部)には、p型(不純物密度が、例えば、約1×1016cm-3~約1×1019cm-3)のボディ領域32が形成されている。SiCエピタキシャル成長層13において、ボディ領域32に対して第1SiC多結晶成長層16側の部分は、SiCエピタキシャル成長層13のままの状態が維持された、n-型のドレイン領域33(13)である。
【0158】
SiCエピタキシャル成長層13には、ゲートトレンチ34が形成されている。ゲートトレンチ34は、SiCエピタキシャル成長層13の表面13bからボディ領域32を貫通し、その最深部がドレイン領域33(13)に達している。
【0159】
ゲートトレンチ34の内面及びSiCエピタキシャル成長層13の表面13bには、ゲートトレンチ45の内面全域を覆うようにゲート絶縁膜35が形成されている。そして、ゲート絶縁膜35内側を、たとえばポリシリコンで充填することによって、ゲートトレンチ34内にゲート電極36が埋設されている。
【0160】
ボディ領域32の表層部には、ゲートトレンチ34の側面の一部を形成するn+型のソース領域37が形成されている。
【0161】
また、SiCエピタキシャル成長層13には、その表面13bからソース領域37を貫通し、ボディ領域32に接続されるp+型(不純物密度が、例えば、約1×1018cm-3~約1×1021cm-3)のボディコンタクト領域38が形成されている。
【0162】
SiCエピタキシャル成長層13には、SiO2からなる層間絶縁膜41が形成されている。層間絶縁膜41に形成されたコンタクトホール42を介して、ソース電極43がソース領域37及びボディコンタクト領域38に接続されている。
【0163】
(SiCプレーナゲート型MOSFET)
SiC複合基板10にプレーナゲート型MOSFETの主要部の構造を形成したプレーナゲート型MOSFET構造を有する半導体装置150は、図55に示すように、第2SiC多結晶成長層(2nd SiC-poly CVD)18、第2グラフェン層(GR)17、第1SiC多結晶成長層(1st SiC-poly CVD)16及びSiCエピタキシャル成長層(SiC-epi)13とからなるSiC複合基板10を備える。なお、第1SiC多結晶成長層16とSiCエピタキシャル成長層13との間に、高濃度ドープ層13aを介在させてもよい。ここで、高濃度ドープ層13aにより、SiCエピタキシャル成長層13中に広がる空乏層の広がりを抑制し、かつSiCエピタキシャル成長層13のC面に形成される第1SiC多結晶成長層16とのオーミックコンタクトを容易に形成することができる。SiCエピタキシャル成長層13はドリフト層、高濃度ドープ層13aはバッファ層、第1SiC多結晶成長層16はサブストレート層となる。
【0164】
第1SiC多結晶成長層16は、n+型(不純物密度が、例えば、約1×1018cm-3~約1×1021cm-3)にドーピングされ、SiCエピタキシャル成長層13は、n-型(不純物密度が、例えば、約5×1014cm-3~約5×1016cm-3)にドーピングされている。
【0165】
また、SiCエピタキシャル成長層13は、4H-SiC、6H-SiC、又は2H-SiCのいずれかの結晶構造を備えていてもよい。
【0166】
n型ドーピング不純物としては、例えば、N(窒素)、P(リン)、As(ひ素)等を適用可能である。
【0167】
p型ドーピング不純物としては、例えば、B(ボロン)、Al(アルミニウム)等を適用可能である。
【0168】
SiCエピタキシャル成長層13の表面100((0001)Si面)近傍(表層部)には、p型(不純物密度が、例えば、約1×1016cm-3~約1×1019cm-3)のボディ領域52がウェル状に形成されている。SiCエピタキシャル成長層13において、ボディ領域52に対してSiC複合基板10側の部分は、エピタキシャル成長後のままの状態が維持された、n-型のドレイン領域53(13)である。
【0169】
ボディ領域52の表層部には、n+型のソース領域54がボディ領域52の周縁と間隔を空けて形成されている。
【0170】
ソース領域54の内側には、p+型(不純物密度が、例えば、約1×1018cm-3~約1×1021cm-3)のボディコンタクト領域55が形成されている。ボディコンタクト領域55は、ソース領域54を深さ方向に貫通し、ボディ領域52に接続されている。
【0171】
SiCエピタキシャル成長層13の表面100には、ゲート絶縁膜56が形成されている。ゲート絶縁膜56は、ボディ領域52におけるソース領域54を取り囲む部分(ボディ領域52の周縁部)及びソース領域54の外周縁を覆っている。
【0172】
ゲート絶縁膜56上には、たとえばポリシリコンからなるゲート電極57が形成されている。ゲート電極57は、ゲート絶縁膜56を挟んでボディ領域52の周縁部に対向している。
【0173】
SiCエピタキシャル成長層13上には、SiO2からなる層間絶縁膜58が形成されている。層間絶縁膜58に形成されたコンタクトホール61を介して、ソース電極62がソース領域54及びボディコンタクト領域55に接続されている。
【0174】
(第2SiC多結晶成長層及び第2グラフェン層の除去)
図56に示すように、SiC複合基板10において、第2グラフェン層17と第2SiC多結晶成長層18との界面を剥離することにより、SiC複合基板10から第2SiC多結晶成長層18を取り外すことができる。第2グラフェン層17は、図30に示したように、グラファイトシートの積層構造を備え、各面のグラファイトシートの間がファンデルワールス力によって結合されているため、剥離することができる。第2SiC多結晶成長層18を取り外した後で、第2グラフェン層17をエッチングまたは研磨により除去することにより、第1SiC多結晶成長層16及びSiCエピタキシャル成長層13が積層されてなる薄化SiC複合基板70が得られる。
【0175】
第2グラフェン層と第2SiC多結晶成長層とを剥離するために、第2グラフェン層と第2SiC多結晶成長層との間のクラックの起点を形成する。図57に示すように、SiC複合基板10の第2SiC多結晶成長層18の表面にホットプレート等の加熱体191を接触させる。そして、加熱体191により急速に加熱してSiC複合基板10の端部の第2グラフェン層17と第2SiC多結晶成長層18との界面に熱応力による応力集中を生じさせ、クラックの起点を発生させることができる。ホットプレート等の加熱体191に代えて、ハロゲンランプなどで光線を照射して第2SiC多結晶成長層18を加熱してもよい。
【0176】
図58に示すように、SiC複合基板10の第2SiC多結晶成長層18の表面を液体窒素等の冷却材193で冷却し、急速な冷却により発生した熱応力のSiC複合基板10の端部の第2グラフェン層17と第2SiC多結晶成長層18との界面への集中によりクラックの起点を発生させてもよい。このとき、SiC複合基板10のSiCエピタキシャル成長層13の表面に保温プレート192を接触させてSiCエピタキシャル成長層13の表面を保温し、SiC複合基板10内に温度勾配が確保されるようにしてもよい。
【0177】
図59に示すように、端面の第2グラフェン層17と第2SiC多結晶成長層18との界面にクラックの起点が形成されたSiC複合基板10において、第2SiC多結晶成長層18の表面を超音波発振子194で走査する。第2グラフェン層17と第2SiC多結晶成長層18との界面に沿って収束された超音波の焦点による加熱領域が移動し、加熱による熱応力によってクラックの起点から第2グラフェン層17と第2SiC多結晶成長層18との界面に沿ってクラックが進展する。このとき、超音波発振子の発振エネルギーは、クラックを進展させるような最小限の大きさとすることにより、界面における欠陥の発生及び基板の反りを抑制するようにしてもよい。また、SiC複合基板10のSiCエピタキシャル成長層13の表面に保温プレート192を接触させてSiCエピタキシャル成長層13を保温し、SiC複合基板10内に温度勾配が確保されるようにしてもよい。なお、超音波発振子194に代わってSiC複合基板10の第2SiC多結晶成長層18の表面をレーザ光で走査することによって、第2グラフェン層17と第2SiC多結晶成長層18との界面に加熱領域を移動させるようにしてもよい。
【0178】
図60に示すように、端面の第2グラフェン層17と第2SiC多結晶成長層18との界面にクラックの起点が形成されたSiC複合基板10において、端面のクラックの起点に劈開ブレード196を押し込むことによって、クラックの起点から第2グラフェン層17と第2SiC多結晶成長層18との界面に沿ってクラックが機械的に進展するようにしてもよい。このとき、SiC複合基板10のSiCエピタキシャル成長層13の表面を真空吸着ステージ195に載置して吸着することにより、SiC複合基板10を固定するようにしてもよい。
【0179】
(半導体素子)
第2の実施の形態の半導体装置は、上述のようにSiC複合基板10においてSiCエピタキシャル成長層13のSi面にSiC系半導体素子の主要部の構造が形成されたものである。このため、上述のように半導体装置を構成するSiC複合基板10から第2SiC多結晶成長層18及び第2グラフェン層17を除去して薄化SiC複合基板70とした後、第1SiC多結晶成長層16の表面に電極の形成などの加工を施すことによって、半導体素子を得ることができる。以下では、半導体装置の例として挙げた、SiC-SBD、SiCトレンチゲート型TMOSFET、及びSiCプレーナゲート型MOSFETについて説明する。
【0180】
(SiC-SBD)
図61は、半導体素子のSiC-SBDを示す。図53に示したSiC-SBD構造を有する半導体装置120を構成するSiC複合基板10から第2SiC多結晶成長層18及び第2グラフェン層17を除去して薄化SiC複合基板70とする。そして、この薄化SiC複合基板70の第1SiC多結晶成長層16の裏面((000-1)C面)に、その全域を覆うようにカソード電極21を形成し、カソード電極21をカソード端子Kに接続する。また、アノード電極26をアノード端子Aに接続する。このようにして、図61に示すようなSiC-SBD20を形成することができる。
【0181】
(SiC-TMOSFET)
図62は、SiC-TMOSFET30を示す。図54に示したSiC-TMOSFET構造を有する半導体装置130を構成するSiC複合基板10から第2SiC多結晶成長層18及び第2グラフェン層17を除去して薄化SiC複合基板70とする。そして、この薄化SiC複合基板70の第1SiC多結晶成長層16の裏面((000-1)C面)に、その全域を覆うようにドレイン電極31を形成し、ドレイン電極31をドレイン端子Dに接続する。また、ゲート電極36をゲート端子Gに、ソース電極43をソース端子Sにそれぞれ接続する。このようにして、図62に示すようなSiC-TMOSFET30を形成することができる。
【0182】
SiC-TMOSFET30においては、ソース電極43とドレイン電極31との間(ソース-ドレイン間)に所定の電位差を発生させた状態で、ゲート電極36に所定の電圧(ゲート閾値電圧以上の電圧)を印加することにより、ゲート電極36からの電界によりボディ領域32におけるゲート絶縁膜35との界面近傍にチャネルを形成することができる。これにより、ソース電極43とドレイン電極31との間に電流を流すことができ、SiC-TMOSFET30をオン状態にさせることができる。
【0183】
(SiCプレーナゲート型MOSFET)
図63は、SiCプレーナゲート型MOSFET50を示す。図55に示した半導体装置150を構成するSiC複合基板10から第2SiC多結晶成長層18及び第2グラフェン層17を除去して薄化SiC複合基板70とする。そして、この薄化SiC複合基板70の第1SiC多結晶成長層16の裏面((000-1)C面)に、その全域を覆うようにドレイン電極51を形成する。また、ドレイン電極51をドレイン端子Dに、ゲート電極57をゲート端子Gにそれぞれ接続する。このようにして、図63に示すようなSiCプレーナゲート型MOSFET50を形成することができる。
【0184】
SiCプレーナゲート型MOSFET50においては、ソース電極62とドレイン電極51との間(ソース-ドレイン間)に所定の電位差を発生させた状態で、ゲート電極57に所定の電圧(ゲート閾値電圧以上の電圧)を印加することにより、ゲート電極57からの電界によりボディ領域52におけるゲート絶縁膜56との界面近傍にチャネルを形成することができる。これにより、ソース電極62とドレイン電極51との間に電流を流すことができ、SiCプレーナゲート型MOSFET50をオン状態にさせることができる。
【0185】
以上説明したように、第2の実施の形態によれば、SiC複合基板10の端面において第2グラフェン層17と第2SiC多結晶成長層18との界面に剥離する起点が形成され、その後は機械的、及び/または、熱的な操作を行うことにより、界面に沿ってクラックを伝播させることで、SiC複合基板10における界面全体にクラックを伸展させ、第2グラフェン層17と第2SiC多結晶成長層18とを容易に剥離することができる。
【0186】
また、第2グラフェン層17と第2SiC多結晶成長層18とを剥離することにより第2SiC多結晶成長層18が除去された薄化SiC複合基板70において、第2グラフェン層17が積層された第1SiC多結晶成長層16の表面は成膜時の表面粗さをそのまま維持しており、特別に研磨などによる平坦化加工の必要が無い限り、そのまま次工程へ進めることができる。その際、表面に残ったグラフェンは酸素プラズマなどにより除去してもよい。他の技術手法により薄化した場合は、薄化された加工面は必ず粗面化してしまうため、研磨などによる平坦化加工が少なからず必要になるが、第2の実施の形態による薄化操作では薄化後の研磨が不要な上に、高価な単結晶SiC層の加工ロスが全く生じないため、SiC複合基板としてのトータルコストをさらに低減することができる。また、剥離した第2SiC多結晶成長層18はそのままダミー基板などに再利用することができ経済的である。同様に、変形例で発生した第1SiC多結晶成長層16、第2グラフェン層17及び第2SiC多結晶成長層18の積層体も、ダミー基板として再利用することができる。
【0187】
さらに、第2の実施の形態によれば、CVD法による第1SiC多結晶成長層16の形成前に、SiC単結晶基板11を分離し、高耐熱の仮基板である黒鉛基板19に替えることにより、SiC単結晶基板11へのSiC多結晶の不要な付着を防止し、SiC単結晶基板11の再利用性を高め、低コスト化が可能になる。
【0188】
第2の実施の形態によれば、SiC単結晶基板11より一回り大きなサイズの高耐熱の仮基板である黒鉛基板19を用いることにより、バッチ式縦型管状炉などのエピタキシャル成長装置を用いて、片面または両面エピタキシャル成長が可能になり、成長速度を上げることなく、高スループットかつ低コスト生産を実現することができる。
【0189】
第2の実施の形態によれば、黒鉛基板19などの高耐熱基板及び接着層の炭化により、黒鉛基板19の両面に形成した半導体基板構造を酸化炉等で焼成するだけで安価に分離することができる。
【0190】
第2の実施の形態によれば、SiC単結晶基板11上に形成したグラフェンを介してSiCの遠隔エピタキシャル成長を行い、その上に直接CVD法により、第1SiC多結晶成長層16などを形成するため、基板接合が不要となり、基板接合に起因する欠陥を無くすことができる。また、第1グラフェン層12を介してエピタキシャル成長層を形成するためSiC単結晶基板11とSiCエピタキシャル成長層13との分離が容易となり、プロセス工程が簡易となる。
【0191】
第2の実施の形態によれば、SiC単結晶基板が除去された後、高耐熱のハンドル基板である黒鉛基板19ごと高温LP-CVD装置に入れて、SiCエピタキシャル成長層13上に直接に第1SiC多結晶成長層16などを成長させるようにしたことにより、膜厚数μmのエピタキシャル成長層をハンドル基板から支持基板に輸送する工程及び、支持基板と接合する工程が無くなり、薄膜輸送と接合に起因するしわ、結晶転移、ボイドなどの不良を回避できる。
【0192】
第2の実施の形態によれば、SiC単結晶基板11上に形成した第1グラフェン層12は転写せず、そのままその上にエピタキシャル成長を行うようにしている。これにより、グラフェンの転写に起因するしわ、クラックなどの不良を回避できる。
【0193】
第2の実施の形態によれば、SiC単結晶基板11をベースに用いるため、結晶性の低下の少ない六方晶SiCが得られる。また、研磨又はエッチングによる除去が困難で高価なSiC単結晶基板11であるが、第1グラフェン層12を介した遠隔エピタキシャル成長を用いることにより、得られた高性能な単結晶層の分離が容易であり、研磨又はエッチングによる除去が不要となる。高価なSiC単結晶基板11を分離後に再利用できるためコスト的にも大きなメリットが得られる。
【0194】
以上、第2の実施の形態を説明したが、他の態様で実施することもできる。例えば、図示は省略するが、SiC複合基板10を用いてMOSキャパシタを製造することもできる。MOSキャパシタでは、歩留まり及び信頼性を向上させることができる。
【0195】
また、図示は省略するが、SiC複合基板10を用いてバイポーラトランジスタを製造することもできる。その他、第2の実施の形態に係るSiC複合基板10は、SiC-pnダイオード、SiCIGBT、SiC相補型MOSFET等の製造に用いることもできる。半導体複合基板1は、例えばLED(light emitting diode)、半導体光増幅器(Semiconductor Optical Amplifier:SOA)のような他の種類のデバイスにも適用することができる。
【0196】
SiCエピタキシャル成長層13は、IV族元素半導体、III―V族化合物半導体、及びII-VI族化合物半導体の群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類を備えていてもよい。
【0197】
また、SiC単結晶基板11及びSiCエピタキシャル成長層13は、4H-SiC、6H-SiC、又は2H-SiCのいずれかの材料で構成されていてもよい。
【0198】
また、SiC単結晶基板11及びSiCエピタキシャル成長層13は、SiC以外の他の材料系としては、GaN、BN、AlN、Al23、Ga23、ダイヤモンド、カーボン、及びグラファイトの群から選ばれる少なくとも1種類を備えていてもよい。
【0199】
SiC複合基板10を備える半導体装置は、SiC系以外では、GaN系、AlN系、酸化ガリウム系のIGBT、ダイオード、MOSFET、サイリスタのいずれかを備えていてもよい。
【0200】
SiC複合基板10を備える半導体装置は、ワンインワンモジュール、ツーインワンモジュール、フォーインワンモジュール、シックスインワンモジュール、セブンインワンモジュール、エイトインワンモジュール、トゥエルブインワンモジュール、又はフォーティーンインワンモジュールのいずれかの構成を備えていてもよい。
【0201】
SiC複合基板10は、デバイス面となるSi面に高コストなSiC単結晶基板11の代わりに、低コストの第1SiC多結晶成長層16及び第2SiC多結晶成長層18を利用している。
【0202】
(第3の実施の形態)
次に、第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態は、SiC単結晶基板に水素イオンを注入して脆化層を形成することにより表面の薄化層の剥離を可能にする水素イオン注入剥離法を使用する。第3の実施の形態は、半導体基板の製造方法において水素イオン注入剥離法を使用する点を除いて第2の実施の形態と同様であるため、以下の第3の実施の形態では半導体基板の製造方法についてのみ説明する。第3の実施の形態の半導体の製造方法により作製したSiC複合基板10を半導体装置及び半導体素子に適用することができるのは、第2の実施の形態と同様である。なお、簡単のため、以下の第3の実施の形態の説明においては、第2の実施の形態と共通する部材については共通の参照番号を付して説明を省略することもある。
【0203】
(半導体基板の製造方法)
図25に示したSiC単結晶基板(SiCSB)11のSi面にイオン注入剥離法のために水素イオンを注入して、規定の深さ(例えば約1μm)を有する水素イオン注入層11cを形成する。図64は、水素イオン注入層11cを形成したSiC単結晶基板11である。ここで、イオン注入条件として、加速エネルギーは例えば、約100keV程度、ドーズ量は例えば、約2.0×1017/cm2程度としてよい。続いて、水素イオン注入層11cを高温処理して、水素イオン注入層11cを脆化する。水素イオン注入後に水素マイクロバブルを発生させ水素イオン注入層11cを破断しやすくするための脆化熱アニールが必要である。
【0204】
図65に示すように、水素イオン注入層11cのSi面にCVD法によりSiCエピタキシャル成長層13を形成する。そして、図66に示すように、SiCエピタキシャル成長層13のSi面をカーボン接着剤による接着層15を介して仮基板となる黒鉛基板19を貼り付け、熱アニール炉などで加熱して接着層15を炭化させる。
【0205】
図66のB-B線に示した剥離面により脆化処理された水素イオン注入層11cを分断し、SiC単結晶基板11を取り除く。図67に示すように、分断された水素イオン注入層11cのSiCエピタキシャル成長層13に接する側は、SiC単結晶基板11が薄化された薄化SiC単結晶層11dを形成する。一方、水素イオン注入層11cで分断されたSiC単結晶基板11の本体のSi面に剥離により形成された凹凸構造は、機械的研磨法、機械化学的研磨法などにより平滑化される。SiC単結晶基板11のSi面は、上記工程により、表面の平均粗さRaは、例えば、約1nm以下にされる。この結果、SiC単結晶基板11は再利用可能となる。
【0206】
図68に示すように、黒鉛基板19に接着した薄化SiC単結晶層11dとSiCエピタキシャル成長層13との積層体の剥離面は、凹凸構造が機械研磨、機械化学研磨法などにより平滑化される。図68に示した構造は、第7の複合体(19、15、13(SiC-epi)、11d)を形成する。
【0207】
図69に示すように、第7の複合体の薄化SiC単結晶層11dのC面上に、CVD技術により第1SiC多結晶成長層16を形成する。図70に示すように、第1SiC多結晶成長層16が形成された第7の複合体の薄化SiC単結晶層11dのC面上に、第2グラフェン層(GR)17を形成する。図71に示すように、第1SiC多結晶成長層16及び第2グラフェン層17が積層された第7の複合体の薄化SiC単結晶層11dのC面上に、第2SiC多結晶成長層18をさらに形成する。
【0208】
図72に示すように、図71に示した第1SiC多結晶成長層16、第2グラフェン層17及び第2SiC多結晶成長層18が積層された第7の複合体の外周の第2SiC多結晶成長層18、第2グラフェン層17及び第1SiC多結晶成長層16を研削及び研磨して除去する。図72に示す構造は、第8の複合体(18(2nd SiC-poly SVD)、17(GR)、16(1st SiC-poly SVD)、19、15、13(SiC-epi)、11c、16(1st SiC-poly SVD)、17(GR)、18(2nd SiC-poly SVD))を形成する。
【0209】
図73に示すように、第8の複合体の内部の黒鉛基板19及び炭化した接着層15を酸化燃焼して除去することによって、SiCエピタキシャル成長層13、薄化SiC単結晶層11d、第1SiC多結晶成長層16、第2グラフェン層17及び第2SiC多結晶成長層18が積層したSiC複合基板10が得られる。この第2の実施の形態のSiC複合基板10は、SiCエピタキシャル成長層13と第1SiC多結晶成長層の間に薄化SiC単結晶層11dが介在している点を除いて第2の実施の形態のSiC複合基板10と同様である。
【0210】
ここで、SiCエピタキシャル成長層13はSiC単結晶基板11と同様の結晶構造を有するため、図73に示した第3の実施の形態のSiC複合基板10は、第2の実施の形態のSiC複合基板10と同様の構造を有するものである。なお、黒鉛基板19及び接着層15を酸化燃焼することによって、第2SiC多結晶成長層18、第2グラフェン層17及び第1SiC多結晶成長層16の積層体が得られる。この積層体は、SiC複合基板10と同様の形状及びサイズを有するため、ダミー基板として利用することもできる。
【0211】
以上説明したように、第3の実施の形態の半導体基板の製造方法によって、第2の実施の形態と同様にSiC複合基板10を作製することができる。このため、第2の実施の形態においても、第2の実施の形態と同様の効果が得られる。さらに、第3の実施の形態においては、SiC単結晶基板11のSi面にグラフェン層を介することなく直接にエピタキシャル成長させているため、良好な結晶構造を有するSiCエピタキシャル成長層13を形成することができる。また、第3の実施の形態によると、SiC複合基板10と同時にダミー基板を作製することができる。
【0212】
(その他の実施の形態)
上記のように、いくつかの実施の形態について記載したが、開示の一部をなす論述及び図面は例示的なものであり、限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。このように、実施の形態は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含む。
【0213】
(付記1)
半導体基板であるSiC複合基板10の製造方法は、SiC単結晶基板11のSi面にグラフェン層12を形成する工程と、グラフェン層12上にSiCエピタキシャル成長層13を形成する工程と、SiCエピタキシャル成長層13上にストレス層14を形成する工程と、ストレス層14上に仮基板の黒鉛基板19を貼り付ける工程と、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13とを剥離する工程と、グラフェン層12を剥離したSiCエピタキシャル成長層13のC面にSiC多結晶成長層16を形成する工程と、黒鉛基板19を除去する工程とを含み、ストレス層14は、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との間に剥離が容易になるような応力を発生させる。グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との間の剥離を容易にする。
【0214】
(付記2)
付記1に記載の半導体基板の製造方法であって、ストレス層14は、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との間に、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との間の密着エネルギーに近似した応力を発生させる。グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との間の界面での剥離を可能にする。
【0215】
(付記3)
付記2に記載の半導体基板の製造方法であって、ストレス層14は、SiC単結晶基板11、グラフェン層12、SiCエピタキシャル成長層13、ストレス層14及び黒鉛基板19の積層構造によってグラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13とを剥離する応力を発生させる。発生する応力の大きさの調整を可能にする。
【0216】
(付記4)
付記1から3のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法であって、ストレス層14は、炭素膜又は窒化ケイ素膜を含む。金属を含まないため、金属による汚染を回避することができる。
【0217】
(付記5)
付記4に記載の半導体基板の製造方法であって、炭素膜は、多結晶ダイヤモンド膜又はダイヤモンドライクカーボン膜を含む。比較的容易に形成することができ、高熱に耐えることができる。
【0218】
(付記6)
付記1から3に記載の半導体基板の製造方法であって、ストレス層14を燃焼又は研削により除去する工程をさらに含む。ストレス層14を容易に除去することができる。
【0219】
(付記7)
付記1に記載の半導体基板の製造方法であって、仮基板の黒鉛基板19は、黒鉛で構成された。仮基板である黒鉛基板19の燃焼による除去を可能にする。
【0220】
(付記8)
付記7に記載の半導体基板の製造方法であって、黒鉛基板19は、SiC単結晶基板11よりも大きな外形サイズを有する。バッチ式縦型CVD炉のウェハボート溝に挿入して整列した際に、ウェハボート支柱跡を基板有効エリア外にすることができる。
【0221】
(付記9)
付記7に記載の半導体基板の製造方法であって、黒鉛基板19は、表面に形成されたガラス状カーボン被膜を含む。ガラス状カーボン被膜は接着層15のカーボン接着剤との接着力が強いため、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13とを剥離を容易に剥離することができる。
【0222】
(付記10)
付記7から9のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法であって、黒鉛基板19を除去する工程は、黒鉛基板19を燃焼させて除去する。黒鉛基板19は、大気雰囲気中などで燃焼させて除去することができる。
【0223】
(付記11)
付記1に記載の半導体基板の製造方法であって、ストレス層14上に黒鉛基板19を貼り付ける工程は、ストレス層14と黒鉛基板19とをカーボン接着剤による接着層を介して貼り付ける。カーボン接着剤は、接着剤自体が炭素化することで高温でも結合力を維持することができる。
【0224】
(付記12)
付記11に記載の半導体基板の製造方法であって、接着層15を燃焼させて除去する工程をさらに含む。接着層15は、大気雰囲気中などで黒鉛基板19とともに燃焼させて除去することができる。
【0225】
(付記13)
付記1に記載の半導体基板の製造方法であって、黒鉛基板19を除去する工程の前に、SiC多結晶成長層16を形成する工程において黒鉛基板19、ストレス層14及びSiCエピタキシャル成長層13を含む複合体の外周に突出したSiC多結晶成長層16及び黒鉛基板19を研削して除去し、黒鉛基板19の外周を露出させる工程をさらに含む。黒鉛基板19の燃焼による除去を可能にする。
【0226】
(付記14)
付記1に記載の半導体基板の製造方法であって、黒鉛基板19を除去する工程の前に、SiC多結晶成長層16を形成する工程において黒鉛基板19の外周に突出したSiC多結晶成長層16とともに、黒鉛基板19をその主面に平行な面で二つに切断し、黒鉛基板19の切断面を露出させる工程をさらに含む。黒鉛基板19の燃焼による除去を可能にする。
【0227】
(付記15)
付記1に記載の半導体基板の製造方法であって、SiCエピタキシャル成長層13のSiC多結晶成長層16と接するC面上に、SiCエピタキシャル成長層13よりも高不純物濃度の高濃度ドープ層13aを形成する工程をさらに含む。高濃度ドープ層13aにより、SiCエピタキシャル成長層13中に広がる空乏層の広がりを抑制し、かつSiCエピタキシャル成長層13のC面に形成されるSiC多結晶成長層16とのオーミックコンタクトを容易に形成することができる。
【0228】
(付記16)
付記15に記載の半導体基板の製造方法であって、高濃度ドープ層13aを形成する工程は、イオン注入工程又はエピタキシャル成長のオートドーピング工程を含む。高濃度ドープ層13aを容易に形成することができる。
【0229】
(付記17)
半導体基板であるSiC複合基板10は、SiC単結晶基板11と、SiC単結晶基板11のSi面上に配置されたグラフェン層12と、グラフェン層12を介してSiC単結晶基板11の上方に配置されたSiCエピタキシャル成長層13と、SiCエピタキシャル成長層13のSi面上に配置されたストレス層14とを含み、ストレス層14は、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との間に剥離が容易になるような応力を発生させる。グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との間の剥離を容易にする。
【0230】
(付記18)
付記17に記載の半導体基であって、ストレス層14は、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との間に、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との間の密着エネルギーに近似した応力を発生させる。グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13との間の界面での剥離を可能にする。
【0231】
(付記19)
付記17又は18に記載の半導体基板であって、ストレス層14は、炭素膜又は窒化ケイ素膜を含む。金属を含まないため、金属による汚染を回避することができる。
【0232】
(付記20)
付記19に記載の半導体基板であって、炭素膜は、多結晶ダイヤモンド膜又はダイヤモンドライクカーボン膜を含む。比較的容易に形成することができ、高熱に耐えることができる。
【0233】
(付記21)
付記17に記載の半導体基板であって、ストレス層14上に配置された黒鉛基板19をさらに含む。ストレス層14を黒鉛基板19に固定することができる。
【0234】
(付記22)
付記21に記載の半導体基板であって、仮基板の黒鉛基板19は、黒鉛で構成された。仮基板である黒鉛基板19の燃焼による除去を可能にする。
【0235】
(付記23)
付記22に記載の半導体基板であって、ストレス層14と黒鉛基板19とは、カーボン接着剤からなる接着層15によって貼り付けられた。カーボン接着剤は接着力が強いため、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13とを容易に剥離することができる。
【0236】
(付記24)
付記22に記載の半導体基板であって、黒鉛基板19は、表面に形成されたガラス状カーボン被膜を含む。ガラス状カーボン被膜は接着層15のカーボン接着剤との接着力が強いため、グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13とを容易に剥離することができる。
【0237】
(付記25)
付記22から24のいずれか一項に記載の半導体基板であって、黒鉛基板19は、SiC単結晶基板よりも大きな外形サイズを有する。バッチ式縦型CVD炉のウェハボート溝に挿入して整列した際に、ウェハボート支柱跡を基板有効エリア外にすることができる。
【0238】
(付記26)
付記17に記載の半導体基板であって、SiCエピタキシャル成長層13のC面上に配置されたSiC多結晶成長層16をさらに含む。SiC多結晶成長層16は、CVDにより容易に形成することができる。
【0239】
(付記27)
付記26に記載の半導体基板であって、SiCエピタキシャル成長層13は、SiC多結晶成長層16と接する面にSiCエピタキシャル成長層13よりも高不純物濃度の高濃度ドープ層13aをさらに有する。高濃度ドープ層13aにより、SiCエピタキシャル成長層13中に広がる空乏層の広がりを抑制し、かつSiCエピタキシャル成長層13のC面に形成されるSiC多結晶成長層16とのオーミックコンタクトを容易に形成することができる。
【0240】
(付記28)
付記17に記載の半導体基板であって、グラフェン層12は、グラフェンの単層構造又は複数層積層化された構造を有する。グラフェン層12における剥離を可能にする。
【0241】
(付記29)
半導体基板であるSiC複合基板10の製造方法は、SiC単結晶基板11のSi面にSiCエピタキシャル成長層13を形成する工程と、SiCエピタキシャル成長層13のSi面を仮基板の黒鉛基板19に貼り付ける工程と、SiCエピタキシャル成長層13をSiC単結晶基板11から取り外す工程と、黒鉛基板19に貼り付けたSiCエピタキシャル成長層13のC面に第1SiC多結晶成長層16を形成する工程と、第1SiC多結晶成長層16上にグラフェン層である第2グラフェン層17を形成する工程と、第2グラフェン層17上に第2SiC多結晶成長層18を形成する工程と、黒鉛基板19を除去する工程とを含む。第2グラフェン層17と第2SiC多結晶成長層18とを剥離することが可能になる。
【0242】
(付記30)
付記29に記載の半導体基板の製造方法であって、SiC単結晶基板11のSi面に他のグラフェン層として第1グラフェン層12を形成する工程をさらに含み、SiCエピタキシャル成長層13を形成する工程は、SiC単結晶基板11のSi面に第1グラフェン層12を介してSiCエピタキシャル成長層13を形成する。第1グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13とを剥離することが可能になる。
【0243】
(付記31)
付記30に記載の半導体基板の製造方法であって、SiCエピタキシャル成長層13をSiC単結晶基板11から取り外す工程は、SiCエピタキシャル成長層13を第1グラフェン層12から剥離する。第1グラフェン層は、グラファイトシートがファンデルワールス力によって結合しているため、剥離することが可能になる。
【0244】
(付記32)
付記31に記載の半導体基板の製造方法であって、SiCエピタキシャル成長層13を第1グラフェン層12とから剥離する応力を発生するストレス層14をSiCエピタキシャル成長層13のSi面に形成する工程をさらに含み、SiCエピタキシャル成長層13のSi面を黒鉛基板19に貼り付ける工程は、黒鉛基板19にストレス層14を介してSiCエピタキシャル成長層13のSi面を貼り付ける。黒鉛基板19により、SiCエピタキシャル成長層13及びSiC単結晶基板11を含む積層体を固定することができる。
【0245】
(付記33)
付記29に記載の半導体基板の製造方法であって、SiC単結晶基板11のSi面から所定の深さに水素イオン注入層11cを形成する工程をさらに含み、SiC単結晶基板11からSiCエピタキシャル成長層13を取り外す工程は、水素イオン注入層11cを脆化して、SiC単結晶基板11から水素イオン注入層11cで分断された薄化SiC単結晶層11dとともにSiCエピタキシャル成長層13を剥離する。SiC単結晶基板11の水素イオン注入層11cを脆化することで、分断を可能にする。
【0246】
(付記34)
付記33に記載の半導体基板の製造方法であって、SiCエピタキシャル成長層13とともに剥離した薄化SiC単結晶層11dのC面を研磨する工程をさらに含む。水素イオン注入層11cが分断して形成された凹凸構造を平滑化することができる。
【0247】
(付記35)
付記29に記載の半導体基板の製造方法であって、仮基板の黒鉛基板19は、黒鉛で構成された。仮基板である黒鉛基板19の燃焼による除去を可能にする。
【0248】
(付記36)
付記35に記載の半導体基板の製造方法であって、黒鉛基板19は、SiC単結晶基板11よりも大きな外形サイズを有する。バッチ式縦型CVD炉のウェハボート溝に挿入して整列した際に、ウェハボート支柱跡を基板有効エリア外にすることができる。
【0249】
(付記37)
付記35に記載の半導体基板の製造方法であって、黒鉛基板19は、表面に形成されたガラス状カーボン被膜を含む。ガラス状カーボン被膜は接着層15のカーボン接着剤との接着力が強いため、第1グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13とを確実に剥離することができる。
【0250】
(付記38)
付記35から37のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法であって、黒鉛基板19を除去する工程は、黒鉛基板19を燃焼させて除去する。黒鉛基板19は、大気雰囲気中などで燃焼させて除去することができる。
【0251】
(付記39)
付記38に記載の半導体基板の製造方法であって、SiCエピタキシャル成長層13のC面に黒鉛基板19を貼り付ける工程は、SiCエピタキシャル成長層13と黒鉛基板19とをカーボン接着剤による接着層を介して貼り付ける。カーボン接着剤は接着力が強いため、第1グラフェン層12とSiCエピタキシャル成長層13とを確実に剥離することができる。
【0252】
(付記40)
付記39に記載の半導体基板の製造方法であって、黒鉛基板19を除去する工程は、黒鉛基板19とともに接着層15も燃焼させて除去する。接着層15は、大気雰囲気中などで黒鉛基板19とともに燃焼させて除去することができる。
【0253】
(付記41)
付記29に記載の半導体基板の製造方法であって、SiCエピタキシャル成長層13の第1SiC多結晶成長層16と接するC面上に、SiCエピタキシャル成長層13よりも高不純物濃度の高濃度ドープ層13aを形成する工程をさらに含む。高濃度ドープ層13aにより、SiCエピタキシャル成長層13中に広がる空乏層の広がりを抑制し、かつSiCエピタキシャル成長層13のC面に形成される第1SiC多結晶成長層16とのオーミックコンタクトを容易に形成することができる。
【0254】
(付記42)
付記41に記載の半導体基板の製造方法であって、高濃度ドープ層13aを形成する工程は、イオン注入工程又はエピタキシャル成長のオートドーピング工程を含む。高濃度ドープ層13aを確実に形成することができる。
【0255】
(付記43)
付記29に記載の半導体基板の製造方法を含む半導体装置の製造方法であって、SiC複合基板10のSiCエピタキシャル成長層13のC面に半導体素子を構成する構造の少なくとも一部を形成する工程をさらに含む。第2SiC多結晶成長層18を剥離することにより、SiC複合基板10を容易に薄化することができる。
【0256】
(付記44)
付記43に記載の半導体装置の製造方法であって、半導体素子は、SiCショットキーバリアダイオード、SiC-MOSFET、SiCバイポーラトランジスタ、SiCダイオード、SiCサイリスタ及びSiC絶縁ゲートバイポーラトランジスタの少なくとも一つを含む。有用な各種のSiC系半導体素子を提供することができる。
【0257】
(付記45)
付記43に記載の半導体装置の製造方法であって、半導体素子の構造を形成したSiC複合基板10において、グラフェン層から第2SiC多結晶成長層18を剥離する工程をさらに含む。SiC複合基板10の薄化を研削することなく第2SiC多結晶成長層18の剥離により達成することができる。
【0258】
(付記46)
付記45に記載の半導体装置の製造方法であって、第2グラフェン層17から第2SiC多結晶成長層18を剥離する工程は、第2SiC多結晶成長層18のSi面を加熱する工程をさらに含む。ホットプレートを用いて容易に加熱することができる。
【0259】
(付記47)
付記45に記載の半導体装置の製造方法であって、第2グラフェン層17から第2SiC多結晶成長層18を剥離する工程は、第2SiC多結晶成長層18のSi面を冷却する工程をさらに含む。液体窒素などを用いて容易に冷却することができる。
【0260】
(付記48)
付記45に記載の半導体装置の製造方法であって、第2グラフェン層17から第2SiC多結晶成長層18を剥離する工程は、第2SiC多結晶成長層18のSi面を超音波発振子で走査する工程をさらに含む。超音波発振子で照射する超音波の焦点を調整することで、クラックを発生させる位置を制御することができる。
【0261】
(付記49)
付記45に記載の半導体装置の製造方法であって、第2グラフェン層17から第2SiC多結晶成長層18を剥離する工程は、第2グラフェン層17と第2SiC多結晶成長層18との間に劈開ブレード106を押し込んで劈開を発生させる工程をさらに含む。劈開ブレード106による機械的な劈開の発生を確実に制御することができる。
【0262】
(付記50)
半導体基板であるSiC複合基板10は、SiCエピタキシャル成長層13と、SiCエピタキシャル成長層13のSi面上に配置された第1SiC多結晶成長層16と、第1SiC多結晶成長層16上に配置された第2グラフェン層17と、第2グラフェン層17上に配置された第2SiC多結晶成長層18とを含む。第2SiC多結晶成長層18を剥離することにより、SiC複合基板10を容易に薄化することができる。
【0263】
(付記51)
付記50に記載のSiC複合基板10であって、第2グラフェン層17は、グラフェンの単層構造又は複数層積層化された構造を有する。第2グラフェン層17は、グラファイトシートがファンデルワールス力によって結合しているため、剥離することが可能になる。
【0264】
(付記52)
付記50に記載のSiC複合基板10であって、SiCエピタキシャル成長層13は、C面にSiCエピタキシャル成長層13よりも高不純物濃度の高濃度ドープ層13aをさらに有する。高濃度ドープ層13aにより、SiCエピタキシャル成長層13中に広がる空乏層の広がりを抑制し、かつSiCエピタキシャル成長層13のC面に形成される第1SiC多結晶成長層16とのオーミックコンタクトを容易に形成することができる。
【0265】
(付記53)
付記50に記載のSiC複合基板10であって、SiCエピタキシャル成長層13のC面に半導体素子の構造が形成された半導体装置。SiC複合基板10を容易に薄化することができるため、半導体素子の作製が容易になる。
【0266】
(付記54)
付記50に記載のSiC複合基板10であって、半導体素子は、SiCショットキーバリアダイオード、SiC-MOSFET、SiCバイポーラトランジスタ、SiCダイオード、SiCサイリスタ及びSiC絶縁ゲートバイポーラトランジスタの少なくともいずれか一つを含む。有用な各種のSiC系半導体素子を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0267】
本開示は、IGBTモジュール、ダイオードモジュール、MOSモジュール(SiC、GaN、AlN、酸化ガリウム)等の各種の半導体モジュール技術に利用することができ、電気自動車(ハイブリッド車を含む)・電車・産業用ロボット等の動力源として利用される電動モータを駆動するインバータ回路用パワーモジュール、また、太陽電池・風力発電機その他の発電装置(とくに自家発電装置)が発生する電力を商用電源の電力に変換するインバータ回路用パワーモジュール等幅広い応用分野に適用可能である。
【符号の説明】
【0268】
10 SiC複合基板
11 SiC単結晶基板
11c 水素イオン注入層
11d 薄化SiC単結晶層
12 グラフェン層、第1グラフェン層
13 SiCエピタキシャル成長層
14 ストレス層
15 接着層
16 SiC多結晶成長層、第1SiC多結晶成長層
17 第2グラフェン層
18 第2SiC多結晶成長層
19 黒鉛基板
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26A
図26B
図27A
図27B
図27C
図28
図29
図30
図31
図32
図33A
図33B
図33C
図34
図35A
図35B
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47
図48
図49
図50
図51
図52
図53
図54
図55
図56
図57
図58
図59
図60
図61
図62
図63
図64
図65
図66
図67
図68
図69
図70
図71
図72
図73