(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144150
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】めっき鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241003BHJP
C21D 9/48 20060101ALI20241003BHJP
C21D 1/76 20060101ALI20241003BHJP
C21D 1/74 20060101ALI20241003BHJP
C21D 9/56 20060101ALI20241003BHJP
C21D 1/26 20060101ALI20241003BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20241003BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/00 301T
C21D9/48 S
C21D1/76 G
C21D1/74 H
C21D9/56 101B
C21D1/26 E
C22C38/60
C21D9/46 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024022773
(22)【出願日】2024-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2023056175
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100221589
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 俊博
(72)【発明者】
【氏名】羽田 佳哲
(72)【発明者】
【氏名】村田 忠夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 宗朗
(72)【発明者】
【氏名】中山 啓太
【テーマコード(参考)】
4K037
4K043
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA15
4K037EA16
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4K043AB11
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4K043BA01
4K043BA03
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4K043BB04
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4K043BB06
4K043BB07
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4K043EA04
4K043FA03
4K043FA09
4K043FA12
4K043FA13
4K043HA04
(57)【要約】
【課題】より容易に製造でき、高強度であって車体の軽量化に寄与でき、且つ高加工性を示すめっき鋼板を提供する。
【解決手段】鋼板と、該鋼板の表面に配置されためっき層とを含み、引張強さが1150MPa以上であるめっき鋼板であって、前記めっき鋼板に含まれる前記鋼板は、C:0.150~0.250質量%、Si:0.80~2.20質量%、Mn:1.50~2.80質量%、Cr:0.15~1.50質量%、Ti:0.012~0.100質量%、B:0.0015~0.0100質量%、P:0.100質量%以下(0質量%を含む)、S:0.050質量%以下(0質量%を含む)、Al:0.005~1.000質量%、N:0.0100質量%以下(0質量%を含む)、および残部:鉄および不可避不純物からなる成分組成を有し、且つベイナイトと焼戻しマルテンサイトの合計が95面積%以下であり、残留オーステナイトが5体積%以上であり、ポリゴナルフェライトとベイニティックフェライトの合計が5面積%以下であり、残部組織が5面積%以下である、金属組織を有する、めっき鋼板。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、該鋼板の表面に配置されためっき層とを含み、引張強さが1150MPa以上であるめっき鋼板であって、
前記めっき鋼板に含まれる前記鋼板は、
C :0.150~0.250質量%、
Si:0.80~2.20質量%、
Mn:1.50~2.80質量%、
Cr:0.15~1.50質量%、
Ti:0.012~0.100質量%、
B :0.0015~0.0100質量%、
P :0.100質量%以下(0質量%を含む)、
S :0.050質量%以下(0質量%を含む)、
Al:0.005~1.000質量%、
N :0.0100質量%以下(0質量%を含む)、および
残部:鉄および不可避不純物からなる成分組成を有し、且つ
ベイナイトと焼戻しマルテンサイトの合計が95面積%以下であり、残留オーステナイトが5体積%以上であり、ポリゴナルフェライトとベイニティックフェライトの合計が5面積%以下であり、残部組織が5面積%以下である、金属組織を有する、
めっき鋼板。
【請求項2】
板厚方向において、
炭素濃度(質量%)がバルク炭素濃度の50%である位置は、前記鋼板表面から板厚の0.2%以上の領域にある、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項3】
板厚方向における前記鋼板表面から20μmまでの領域の炭素濃度(質量%)の最大値は、バルク炭素濃度の70%未満である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項4】
前記残留オーステナイトは、
固溶C量が0.9質量%以下である第1残留オーステナイトを10~50体積%含み、且つ
固溶C量が0.9質量%超1.1質量%以下である第2残留オーステナイトを10~50体積%含む、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項5】
請求項1に記載の成分組成を有する鋼を熱間圧延して、圧延板を得る工程と、
前記圧延板を850℃以上の第1加熱温度に加熱する工程と、
前記加熱する工程後、前記第1加熱温度で50秒以上保持する工程と、
前記保持する工程後、200~350℃の冷却停止温度まで冷却する工程であって、前記第1加熱温度から550℃までの平均冷却速度は5℃/秒以上であり、かつ550℃から前記冷却停止温度までの平均冷却速度は1℃/秒以上である工程と、
前記冷却する工程後、300℃~450℃の第2加熱温度に加熱して50~1000秒保持して鋼板を得る工程と、
前記鋼板上にめっき層を形成する工程と、
を含む、請求項1~4のいずれか1つに記載のめっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記圧延板を得る工程後、酸素濃度0.1~2%、到達温度650~750℃の条件で酸化処理することを含み、
前記保持する工程は、露点が-35~-15℃である第1還元処理を経た後、露点が-25~0℃であって第1還元処理よりも露点の高い第2還元処理を経る、還元処理することを含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記冷却する工程は、400℃~前記冷却停止温度までの平均冷却速度が40℃/秒以下である、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はめっき鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両における乗員の安全性向上が求められており、係る目的のために車体の材料の強度を向上させてきた。他方、地球温暖化問題等の深刻化を背景に、自動車の燃費改善の動きが加速している。燃費改善には車体の軽量化が有効であることが知られている。
【0003】
自動車車体に使用されるめっき鋼板には、車体軽量化を実現すべく高強度(例えば1150MPa以上の引張強さ)が求められている。さらに、めっき鋼板に加工を施して部品形状とする必要性から、めっき鋼板には、高加工性(延びELが高い、穴広げ率λが高い等)が求められている。
【0004】
特許文献1および2は、C、SiおよびMnを必須成分とし、且つ所定の金属組織を有することにより、高延性および高強度を示すめっき鋼板を開示している。
特許文献3は、C、Si、Mn、AlならびにV、Mo、TiおよびNbから選択される少なくとも一種を必須成分とし、且つ所定の金属組織を有することにより、高延性および高加工性(高λ等)を示すめっき鋼板を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開番号WO2020/080402
【特許文献2】国際公開番号WO2020/080401
【特許文献3】国際公開番号WO2019/159771
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3では、所望の性能を得るために、製造方法、特に熱間圧延後(および冷間圧延後)に再加熱してからの冷却を厳密に制御している。
例えば特許文献1では、少なくとも6つの温度範囲(810~700℃、700~490℃、490~405℃、405~310℃、315~255℃、255℃~冷却停止温度(254~220℃)で冷却速度を制御するか、又は保持する必要がある。
特許文献2では、少なくとも5つの温度範囲(810~650℃、650~505℃、505~405℃、405~315℃、315~冷却停止温度(310~255℃))で冷却速度を制御するか、又は保持する必要がある。
特許文献3では、少なくとも4つの温度範囲(830~550℃以下、Ac1+60℃~550℃、550~400℃、375~150℃)で冷却速度を制御するか、又は保持する必要がある。
以上のように、特許文献1~3に開示されるようなめっき鋼板では、高強度および高加工性にするための製造方法が複雑であり、例えば安定して生産できないなどのおそれがあった。また強度および加工性についても改善の余地があった。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、より容易に製造でき、高強度であって車体の軽量化に寄与でき、且つ高加工性を示すめっき鋼板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1は、
鋼板と、該鋼板の表面に配置されためっき層とを含み、引張強さが1150MPa以上であるめっき鋼板であって、
前記めっき鋼板に含まれる前記鋼板は、
C :0.150~0.250質量%、
Si:0.80~2.20質量%、
Mn:1.50~2.80質量%、
Cr:0.15~1.50質量%、
Ti:0.012~0.100質量%、
B :0.0015~0.0100質量%、
P :0.100質量%以下(0質量%を含む)、
S :0.050質量%以下(0質量%を含む)、
Al:0.005~1.000質量%、
N :0.0100質量%以下(0質量%を含む)、および
残部:鉄および不可避不純物からなる成分組成を有し、且つ
ベイナイトと焼戻しマルテンサイトの合計が95面積%以下であり、残留オーステナイトが5体積%以上であり、ポリゴナルフェライトとベイニティックフェライトの合計が5面積%以下であり、残部組織が5面積%以下である、金属組織を有する、
めっき鋼板である。
【0009】
本発明の態様2は、
板厚方向において、
炭素濃度(質量%)がバルク炭素濃度の50%である位置は、前記鋼板表面から板厚の0.2%以上の領域にある、態様1に記載のめっき鋼板である。
【0010】
本発明の態様3は、
板厚方向における前記鋼板表面から20μmまでの領域の炭素濃度(質量%)の最大値は、バルク炭素濃度の70%未満である、態様1または2に記載のめっき鋼板である。
【0011】
本発明の態様4は、
前記残留オーステナイトは、
固溶C量が0.9質量%以下である第1残留オーステナイトを10~50体積%含み、且つ
固溶C量が0.9質量%超1.1質量%以下である第2残留オーステナイトを10~50体積%含む、態様1~3のいずれか1つに記載のめっき鋼板である。
【0012】
本発明の態様5は、
態様1に記載の成分組成を有する鋼を熱間圧延して、圧延板を得る工程と、
前記圧延板を850℃以上の第1加熱温度に加熱する工程と、
前記加熱する工程後、前記第1加熱温度で50秒以上保持する工程と、
前記保持する工程後、200~350℃の冷却停止温度まで冷却する工程であって、前記第1加熱温度から550℃までの平均冷却速度は5℃/秒以上であり、かつ550℃から前記冷却停止温度までの平均冷却速度は1℃/秒以上である工程と、
前記冷却する工程後、300℃~450℃の第2加熱温度に加熱して50~1000秒保持して鋼板を得る工程と、
前記鋼板上にめっき層を形成する工程と、
を含む、態様1~4のいずれか1つに記載のめっき鋼板の製造方法である。
【0013】
本発明の態様6は、
前記圧延板を得る工程後、酸素濃度0.1~2%、到達温度650~750℃の条件で酸化処理することを含み、
前記保持する工程は、露点が-35~-15℃である第1還元処理を経た後、露点が-25~0℃であって第1還元処理よりも露点の高い第2還元処理を経る、還元処理することを含む、態様5に記載の製造方法である。
【0014】
本発明の態様7は、
前記冷却する工程は、400℃~前記冷却停止温度までの平均冷却速度が40℃/秒以下である、態様5または6に記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態によれば、より容易に製造でき、高強度であって車体の軽量化に寄与でき、且つ高加工性を示すめっき鋼板およびその製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、第2還元処理時の均熱帯中央の露点と、R/tの関係を示したグラフである。
【
図3】
図3は、実施例で得られた炭素濃度プロファイルの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、板厚方向における炭素濃度(質量%)がバルク炭素濃度の50%である位置と、R/tの関係を示したグラフである。
【
図5】
図5は、バルク炭素濃度に対する、鋼板表面から20μmまでの領域の炭素濃度(質量%)の最大値の割合と、R/tの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、より容易に製造でき、且つ高強度(引張強さTSが1150MPa以上、降伏応力YSが850MPa以上)および高加工性(延びELが14%以上、穴広げ率λが30%以上)を示すめっき鋼板を実現するべく、様々な角度から検討した。その結果、所定の成分組成、特にCr、TiおよびBを必須成分として所定量含有させ、さらに所定の金属組織を有する鋼板を用いることにより、高強度および高加工性を示すめっき鋼板を実現できた。また当該めっき鋼板は、熱間圧延後(および冷間圧延後)に再加熱してからの冷却において、従来技術よりも少ない2つの温度範囲(第1加熱温度~550℃、550℃~冷却停止温度)で冷却速度を制御すればよいという、より容易な製造方法により製造できることも同時に見出した。
以下に、本発明の実施形態が規定する各要件の詳細を示す。
【0018】
<1.めっき鋼板>
本発明の実施形態に係るめっき鋼板は、鋼板と、該鋼板の表面に配置されためっき層とを含む。めっき層としては、溶融亜鉛めっき層、合金化溶融亜鉛めっき層または電気亜鉛めっき層などの亜鉛系めっき層、溶融アルミめっき層などのアルミめっき層等であってもよい。亜鉛系めっき層として、例えば亜鉛-Ni、亜鉛-Fe、及び亜鉛-Al等の、亜鉛系合金めっき層であってもよい。めっき層は、鋼板の少なくとも一面(例えば圧延面)に形成されていてもよく、対向する両面に形成されていてもよく、鋼板の全面に形成されていてもよい。
前記亜鉛系めっき層を含むめっき鋼板として、具体的に、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)等が挙げられる。
【0019】
<2.めっき鋼板に含まれる鋼板の成分組成>
本発明の実施形態に係るめっき鋼板に含まれる鋼板(例えばめっき鋼板からめっき層を除いた部分であり得る)は、C:0.150~0.250質量%、Si:0.80~2.20質量%、Mn:1.50~2.80質量%、Cr:0.15~1.50質量%、Ti:0.012~0.100質量%、B:0.0015~0.0100質量%、P:0.100質量%以下(0質量%を含む)、S:0.050質量%以下(0質量%を含む)、Al:0.005~1.000質量%、N:0.0100質量%以下(0質量%を含む)を含み、さらに、残部が鉄および不可避不純物であることが好ましい。
以下、各成分について詳述する。
【0020】
(C:0.150~0.250質量%)
Cは、鋼の強度向上に重要な元素である。また、Cは、オーステナイトを安定化させて残留γを確保するためにも重要な元素である。更にCは、高温からの冷却中にポリゴナルフェライトの生成を抑制する効果も奏する。この効果を発揮させるため、C含有量は、0.150質量%以上とし、好ましくは0.170質量%以上、より好ましくは0.190質量%以上である。一方、Cを過剰に含有させると溶接性が劣化するため、C含有量は0.250質量%以下とし、好ましくは0.240質量%以下、より好ましくは0.230質量%以下である。
【0021】
(Si:0.80~2.20質量%)
Siは、固溶強化元素として鋼の高強度化に寄与する元素である。Siは、焼戻し軟化抵抗を向上し、焼戻し時のマルテンサイトの軟化を抑制する効果も奏する。また、Siは、炭化物の生成を抑える効果を奏し、オーステナイト中にCを凝縮させて安定化させ、残留γの確保するために重要な元素である。この効果を発揮させるため、Si含有量は0.80質量%以上とし、好ましくは1.00質量%以上、より好ましくは1.20質量%以上である。一方、Siを過剰に含有させると、熱間圧延時に多量のスケールが形成されて、鋼板表面にスケール跡疵が付くなど表面状態が悪化する。そのため、Si含有量は2.20質量%以下とし、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.80質量%以下である。
【0022】
(Mn:1.50~2.80質量%)
Mnは、鋼の強度を高めるだけでなく、オーステナイトの安定化に直接寄与する重要な元素である。また、焼入れ性向上元素でもあり、ポリゴナルフェライトの生成抑制の効果も奏する元素である。この効果を発揮させるため、Mn含有量は1.50質量%以上とし、好ましくは1.70質量%以上、より好ましくは1.90質量%以上である。一方、Mnを過剰に含有させると、鋳片割れが生じる等の悪影響を引き起こすため、Mn含有量は2.80質量%以下とし、好ましくは2.70質量%以下、より好ましくは2.60質量%以下、さらに好ましくは2.20質量%以下である。
【0023】
(Cr:0.15~1.50質量%)
Crは、高温からの冷却中にポリゴナルフェライトおよびベイティックフェライトが生成するのを抑制する元素である。さらに、Crは、焼戻し軟化抵抗を向上し、焼戻し時のマルテンサイトの軟化および合金化処理時の残留γ分解を抑制する効果も奏するため、重要元素の1つである。前述の効果を発揮させるため、Cr含有量は0.15質量%以上とし、好ましくは0.17質量%以上、より好ましくは0.20質量%以上である。一方、Crを過剰に含有させると、効果が飽和するだけでなく、成形性が劣化するため、Cr含有量は1.50質量%以下とし、好ましくは1.20質量%以下、より好ましくは1.00質量%以下である。
【0024】
(Ti:0.012~0.100質量%)
Tiは金属組織を微細化して鋼板の強度と靭性の向上に寄与する。さらに、固溶Nと結びつきBNの生成を防ぐ効果も奏する重要元素の1つである。前述の効果を発揮させるために、Ti含有量は、0.012質量%以上とし、好ましくは0.014質量%以上であり、より好ましくは0.016質量%以上である。一方、Tiを過剰に含有させると、上記効果が飽和するだけでなく、降伏比が上昇して形状凍結性が劣化するため、Ti含有量は0.100質量%以下とし、好ましくは0.080質量%以下であり、より好ましくは0.060質量%以下である。
【0025】
(B:0.0015~0.0100質量%)
Bは、高温からの冷却中にポリゴナルフェライトおよびベイティックフェライトが生成するのを抑制する重要元素の1つである。前述の効果発揮させるためB含有量は、0.0015質量%以上とし、好ましくは0.0017質量%以上、より好ましくは0.0020質量%以上である。一方、Bを過剰に含有させると、効果が飽和するだけでなく、成形性が劣化するため、B含有量は、0.0100質量%以下とし、好ましくは0.0080質量%以下、より好ましくは0.0060質量%以下である。
【0026】
(P:0.100質量%以下(0質量%を含む))
Pは、不純物元素として不可避的に存在する元素である。Pは、粒界偏析による粒界脆化を助長して成形性を劣化させる元素である。よってPは少ない方がよく、P含有量は0.100質量%以下とし、好ましくは0.080質量%以下であり、より好ましくは0.050質量%以下である。
なお、本明細書において「0質量%を含む」とは、意図的に添加しない実施形態、すなわち不可避不純物レベル以下の含有量である場合を包含する(意図的に添加した場合を排除するものではない)ことを意味する。
【0027】
(S:0.050質量%以下(0質量%を含む))
Sは、不純物元素として不可避的に存在する元素である。Sは、MnSなどの硫化物系介在物を形成し、これが割れの起点となって成形性を劣化させる元素である。よってSは少ない方がよく、S含有量は0.050質量%以下とし、好ましくは0.030質量%以下であり、より好ましくは0.020質量%以下である。
【0028】
(Al:0.005~1.000質量%)
Alは、脱酸材として作用する元素であり、こうした作用を発揮させるため、Al含有量は0.005質量%以上とし、好ましくは0.010質量%以上、より好ましくは0.020質量%以上、さらに好ましくは0.030質量%以上である。一方、Alを過剰に含有させると、鋼板中にアルミナなどの介在物が多く生成し、成形性が劣化するため、Al含有量は1.000質量%以下とし、好ましくは0.800質量%以下、より好ましくは0.500質量%以下である。
【0029】
(N:0.0100質量%以下(0質量%を含む))
Nは、不純物元素として不可避的に存在する元素である。Nは、窒化物を形成し、この窒化物が割れの起点となって成形性を劣化させる元素である。よって、Nは少ない方がよく、N含有量は0.0100質量%以下とし、好ましくは0.0080質量%以下であり、より好ましくは0.0060質量%以下である。
【0030】
本発明の実施形態に係るめっき鋼板に含まれる鋼板は、上記の成分組成を含み、本発明の1つの実施形態では、残部は鉄および不可避不純物であることが好ましい。不可避不純物として、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素の混入が許容される。なお、例えば、P、SおよびNのように、通常、含有量が少ないほど好ましく、従って不可避不純物であるが、その組成範囲について上記のように別途規定している元素がある。このため、本明細書において、残部を構成する「不可避不純物」は、別途その組成範囲が規定されている元素を除いた概念である。
【0031】
<3.めっき鋼板に含まれる鋼板の金属組織>
本発明の実施形態に係るめっき鋼板に含まれる鋼板の金属組織は、ベイナイトと焼戻しマルテンサイトの合計が95面積%以下であり、残留オーステナイトが5体積%以上であり、ポリゴナルフェライトとベイニティックフェライトの合計が5面積%以下であり、残部組織が5面積%以下である。以下、各組織について説明する。
【0032】
(ベイナイトと焼戻しマルテンサイトの合計が95面積%以下)
ベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトは強度確保のために必要な金属組織である。ただし、それら金属組織を過剰に含むと伸びなどの加工性が低下するため、ベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトの合計を95面積%以下とし、好ましくは92面積%以下、より好ましくは90面積%以下である。当該組織の合計の下限については、50面積%以上であることが好ましく、60面積%以上であることがより好ましく、70面積%以上であることがさらに好ましい。
【0033】
(残留オーステナイトが5体積%以上)
残留オーステナイト(以下「残留γ」とも記載することがある)は、主に金属組織のラス間に存在するが、ラス状組織の集合体(例えば、ブロックまたはパケット)および旧γの粒界上に塊状に存在することもある。この残留γは、鋼板が歪みを受けて変形する際にマルテンサイトに変態することで高伸び等の高加工性を発揮する。つまり、残留γを含むことにより、歪みを受けて変形する部分の硬化が促され、歪みの集中を防ぐことができる。これらの効果は、一般的に、TRIP効果と呼ばれ、高強度および高加工性のバランスの発現に寄与する。
TRIP効果を発揮させるために、残留γは金属組織全体に対して5体積%以上とし、好ましくは6体積%以上、より好ましくは7体積%以上である。当該組織の上限は特に限定されないが、40面積%以下であってもよく、30面積%以下であってもよく、20面積%以下であってもよい。
【0034】
残留γ中の固溶C量は、変形時に残留γがマルテンサイト変態する安定度に影響する指標であり得、固溶C量が比較的低い残留γと、固溶C量が比較的多い残留γとを共に所定量含むことにより、所望の伸びを達成しやすくなる。本発明の一実施形態によれば、残留γは、固溶C量が0.9質量%以下である残留γ(以下「第1残留γ」とも称する)を10~50体積%含み、且つ固溶C量が0.9質量%超1.1質量%以下である残留γ(以下「第2残留γ」とも称する)を10~50体積%含むことが好ましい。より好ましくは、残留γが、第1残留γおよび第2残留γを共に15~50体積%含むことである。
【0035】
(ポリゴナルフェライトとベイニティックフェライトの合計が5面積%以下)
ポリゴナルフェライトおよびベイニティックフェライトは軟質であり、強度低下を招き、場合によっては、穴広げ率λも低下させ得る組織である。そのため、当該組織の合計は、金属組織全体に対して5面積%以下とし、好ましくは3面積%以下、より好ましくは1面積%以下である。当該組織の合計の下限値は特に限定されず、0面積%であってもよい。
【0036】
(残部組織が5面積%以下)
高強度かつ高加工性を確保するためには、フレッシュマルテンサイト、パーライトなどの残部組織を合計で5面積%以下にする必要がある。残部組織の下限値は特に限定されず、0面積%であってもよい。
【0037】
上記金属組織の面積率(または体積率)の測定方法は、後述の実施例で記載する方法とする。
【0038】
<4.めっき鋼板の機械的特性>
本実施形態に係るめっき鋼板は、高強度(高引張強さ、高降伏応力)および高加工性(高伸び、高穴広げ率)を示すことができる。本明細書において、引張強さTSが1150MPa以上で、かつ降伏応力YSが850MPa以上のものを高強度のめっき鋼板とする。また、本明細書において、伸びELが14%以上で、かつ穴広げ率λが30%以上のものを、高加工性のめっき鋼板とする。
引張強さは、好ましくは1180MPa以上である。降伏応力は、好ましくは900MPa以上である。伸びELは、好ましくは15%以上である。穴広げ率λは、好ましくは35%以上である。
【0039】
本実施形態に係るめっき鋼板に含まれる鋼板の板厚は特に限定されない。本実施形態に係るめっき鋼板に含まれる鋼板の板厚は、例えば0.8mm以上、2.3mm以下であり得る。実施形態に係るめっき鋼板のめっき付着量は特に限定されず、例えば、片面あたり10~100g/m2程度とすることが挙げられる。
【0040】
<5.めっき鋼板に含まれる鋼板表層の脱炭層>
本実施形態に係るめっき鋼板に含まれる鋼板は、
(I)板厚方向において、炭素濃度(質量%)がバルク炭素濃度の50%である位置は、鋼板表面から板厚の0.2%以上の領域にあることが好ましい。前記位置は、曲げ性に寄与する脱炭層の厚さに関する。前記位置が、鋼板表面から板厚の0.2%以上の領域にあり、曲げ性に寄与する脱炭層を一定以上の厚さ確保することによって、曲げ加工で優れた曲げ性を確実に発揮させることができる。前記炭素濃度(質量%)がバルク炭素濃度の50%である位置は、鋼板表面から板厚の更に0.5%以上、更には1.0%以上の領域にあってもよい。
【0041】
本実施形態に係るめっき鋼板に含まれる鋼板は、
(II)板厚方向における鋼板表面から20μmまでの領域の炭素濃度(質量%)の最大値が、バルク炭素濃度の70%未満であることが好ましい。本発明者らが、従来のめっき鋼板に含まれる鋼板ついて確認したところ、鋼板表層に炭素濃度の著しく高い領域が存在し、これが曲げ性劣化の原因であることをまず見出した。そして、後述の通り鋼板の製造条件について検討し、鋼板表層の脱炭を促進させて鋼板表層の炭素濃度を抑制する、詳細には、板厚方向における鋼板表面から20μmまでの領域の炭素濃度(質量%)の最大値を、バルク炭素濃度の70%未満に抑えれば、優れた曲げ性が得られることを見出した。前記炭素濃度の最大値は、バルク炭素濃度の65%以下であることが好ましく、より好ましくはバルク炭素濃度の60%以下である。
【0042】
本実施形態に係るめっき鋼板は、優れた曲げ性を示す観点から、上記(I)と(II)のうちの少なくとも1つを満たすことが好ましく、より好ましくは上記(I)と(II)の両方を満たしていることである。
【0043】
前記「鋼板表面」とは、めっき層と鋼板の界面の位置をいう。前記めっき層と鋼板の界面の位置は、例えば亜鉛系めっきの場合、後述する実施例で測定するGD-OESでめっき層の表面からめっき層の厚さ方向にZnの分析を行ったときに、該めっき層を構成するZnが検出されなくなる(Znの分析値が0となる)点をいい、この点を、鋼板表面からの距離(深さ)の始点とする。
【0044】
本実施形態に係るめっき鋼板は、高引張強さ(1150MPa以上)、高降伏応力(850MPa以上)高伸び(14%以上)および高穴広げ率(30%以上)に加え、さらに後述する実施例に示す曲げ試験を行ったときに、R/tが2.5未満の優れた曲げ性を示し得る。
【0045】
<6.めっき鋼板の製造方法>
本発明の実施形態に係るめっき鋼板の製造方法は、
(A)上述した成分組成を有する鋼を熱間圧延して、圧延板を得る工程と、
(B)前記圧延板を850℃以上の第1加熱温度に加熱する工程と、
(C)前記第1加熱温度で50秒以上保持する工程と、
(D)前記保持する工程後、200~350℃の冷却停止温度まで冷却する工程であって、前記第1加熱温度から550℃までの平均冷却速度は5℃/秒以上であり、かつ550℃から前記冷却停止温度までの平均冷却速度は1℃/秒以上である工程と、
(E)前記冷却する工程後、300℃~450℃の第2加熱温度に加熱して50~1000秒保持して鋼板を得る工程と、
(F)前記鋼板上にめっき層を形成する工程と、
を含む。以下、各工程について詳述する。
【0046】
(A)圧延板を得る工程
上述の成分組成を有する鋼の溶製および鋳造を、通常行われる方法で行い、当該鋼(鋼スラブ)に、通常行われる方法で、熱間圧延工程を施して圧延板を得ることができる。一例としては、連続鋳造法、インゴット法、薄スラブ鋳造法などで鋳造した上述の成分組成を有する鋼(鋼スラブ)を、1150~1300℃程度に再加熱し、850~950℃程度の仕上げ圧延温度となるように熱間圧延を行い、500~700℃程度で巻き取ることで、圧延板を得てもよい。
【0047】
必要に応じて、表面スケールを除去するよう圧延板を通常行われる方法で酸洗してもよい。また、必要に応じて、圧延板に、通常行われる方法で、さらに冷間圧延を施してもよい。
【0048】
(B)圧延板を第1加熱温度に加熱する工程
上記圧延板を850℃以上の第1加熱温度に加熱する。第1加熱温度を850℃以上とすることにより、再結晶を進め、金属組織を均一化できる。第1加熱温度の上限は特に制限されないが、例えば1000℃以下であってもよい。
【0049】
(C)第1加熱温度で保持するする工程
圧延板を第1加熱温度で50秒以上保持する。第1加熱温度で50秒以上保持することにより、再結晶を進め、金属組織を均一化できる。保持時間の上限は特に制限されず、生産性の観点から、例えば30分以下としてもよい。
【0050】
なお、工程(A)後、酸素濃度0.1~2%、到達温度650~750℃の条件で酸化処理すること(以下「工程(B1)」とも称する)を含み、工程(C)は、露点が-35~-15℃である第1還元処理を経た後、露点が-25~0℃であって第1還元処理よりも露点の高い第2還元処理を経る、還元処理すること(以下「工程(C1)」とも称する)を含むことが好ましい。例えば、工程(B1)の酸化処理は、工程(A)後、工程(B)の前に行ってもよく、工程(B)の第1加熱温度への昇温中に行ってもよい(すなわち、工程(B)が工程(B1)の酸化処理を含んでいてもよい)。工程(C1)の還元処理は、工程(C)の第1加熱温度での保持中に行うことができる。
【0051】
鋼板の表面に、工程(B1)の酸化処理を施すことによって、鋼板の表面に酸化Fe層を形成することができる。次いで、還元性の雰囲気下で、工程(C1)の還元処理を行うことにより、鋼板表層に、脱炭層を形成させつつ、例えばめっき層を良好に形成することのできる還元Fe層を形成することができる。本発明者らが検討を行ったところ、前記の通り酸化処理を行うと共に、この還元処理において、第1還元処理と第2還元処理の各露点の範囲を定め、かつ、第2還元処理の露点を第1還元処理の露点よりも高くすることによって、高引張強さ、高降伏応力、高伸びおよび高穴広げ率に加え、優れた曲げ性を実現可能な、前述の鋼板表層の炭素濃度を容易に確保できることを見出した。以下、酸化処理と還元処理の各処理について説明する。
【0052】
(B1)酸化処理
酸化処理では、酸素濃度0.1~2%の条件で行うことが好ましい。酸素濃度は、優れためっき外観を得る観点から0.1%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.15%以上、更に好ましくは0.2%以上である。一方、酸素濃度が高すぎると、過剰な酸化により炉内ロールに酸化スケールが付着し鋼板に押し疵が発生する、いわゆるピックアップと呼ばれる不良が生じやすい。該不良の発生を抑制する観点から、酸素濃度は、2%以下とすることが好ましく、より好ましくは1.7%以下、更に好ましくは1.5%以下である。酸素以外の元素の濃度は特に限定されない、例えば上記濃度の酸素と共に、CO2、N2、H2O、その他不可避的不純物を含むガス雰囲気とすることが挙げられる。例えば酸化処理は、DFF(Direct Fired Furnace)型の焼鈍炉等において、コークス炉ガス(COG:Cokes Oven Gas)、液化石油ガス(LPG:Liquefied Petroleum Gas)等の燃焼ガス中で、未燃焼のO2濃度を制御したガス雰囲気下において行うことができる。
【0053】
酸化処理では、到達温度650~750℃の条件で行うことが好ましい。例えばDFF型の焼鈍炉内の酸化加熱帯で、到達温度650~750℃の範囲内に加熱することが挙げられる。到達温度750℃以下にすることによって、特に鋼板の板幅方向エッジ近傍表面におけるSiO2と酸化処理により生じるFeOとの反応を抑制することができ、鋼板と、めっき層との密着性を向上させることができる。
【0054】
本明細書において、酸化処理工程における加熱時の「到達温度」とは、酸化加熱帯において加熱制御される圧延板の最高到達板温を意味する。
【0055】
酸化処理における到達温度は、より好ましくは730℃以下、更に好ましくは720℃以下、一層好ましくは700℃以下である。一方、酸化処理における鋼板温度は、上記ガス雰囲気で酸化Fe層を形成する観点から650℃以上とすることが好ましい。酸化処理における鋼板温度は、より好ましくは670℃以上である。
【0056】
酸化処理における昇温時間は、特に限定されず、過度に長すぎることで酸化処理によって、例えばめっき性に悪影響を及ぼすファイアライト層が形成しないように調整すればよい。具体的には、酸化処理における昇温時間は、熱間圧延の条件(特に巻き取り温度)、酸洗前の焼鈍条件、酸洗条件および酸化処理における加熱時の鋼板温度を考慮した上で、適切に調整すればよい。例えば、酸化処理における昇温時間は、好ましくは10秒以上、より好ましくは15秒以上である。また、例えば、酸化処理における昇温時間は、好ましくは120秒以下、より好ましくは90秒以下である。なお上記では、酸化処理を、昇温させながら行う場合について説明したが、酸化処理の態様はこれに限定されず、到達温度まで昇温させ、該到達温度で保持すること等により酸化処理を行ってもよい。
【0057】
(C1)還元処理
還元処理では、鋼板表層に、脱炭層を形成させつつ、例えばめっき層を良好に形成することのできる還元Fe層を形成する。本実施形態に係る製造方法では、前記還元処理は、露点が-35~-15℃である第1還元処理を経た後、露点が-25~0℃であって第1還元処理よりも露点の高い第2還元処理を経るようにすることが好ましい。以下、第1還元処理と第2還元処理のそれぞれについて説明する。
【0058】
(C1a)第1還元処理
第1還元処理では、露点を-35~-15℃の範囲とすることが好ましい。露点が-15℃を上回ると、必要以上に脱炭が進行しやすく強度の低下を招くおそれがある。また、還元処理が進みにくくなり、酸化処理で生成した酸化鉄がロールに接着し鋼板に押し疵を引き起こすピックアップと呼ばれる不良が生じやすくなる。よって露点は-15℃以下とすることが好ましい。露点はより好ましくは-20℃以下である。一方、追加の設備やコストを抑制する観点から、第1還元処理での露点は-35℃以上とすることが好ましい。露点はより好ましくは-30℃以上である。
【0059】
前記露点として、第1還元処理を行う還元帯前段の中央部の雰囲気中の露点が上記範囲内であることが挙げられる。なお第1還元処理と後述する第2還元処理における露点の制御は、例えば、水蒸気ガスを投入し炉内で雰囲気ガスと混合する方法、雰囲気ガスをバブリングし、水蒸気を混入させる方法等によって行うことができる。
【0060】
前記第1還元処理の雰囲気は、上記露点を満たし、N2、H2、CO、H2O、O2、その他不可避不純物を含む雰囲気とすることが挙げられる。前記第1還元処理では、前記雰囲気で、鋼板の到達温度が800℃に到達後、850~920℃の温度範囲で、例えば60~240秒加熱することが挙げられる。前記「保持」には、一定温度とする他、前記温度範囲で変動する場合が含まれる。
【0061】
(C1b)第2還元処理
次に、第2還元処理の露点について説明する。
図1は、後述する参考例を用いて作成したグラフであり、第2還元処理時の均熱帯中央の露点と、R/tの関係を示したグラフである。この
図1から、R/tが2.5未満の優れた曲げ性を達成するには、第2還元処理における露点を-25℃以上とする必要があることがわかる。一方、第2還元処理における露点の上限は、より高強度を示す観点で0℃以下とすることが好ましい。第2還元処理における露点は、より好ましくは-15℃以下である。
【0062】
前記第2還元処理の雰囲気は、上記露点を満たし、N2、H2、CO、H2O、O2、その他不可避不純物を含む雰囲気とすることが挙げられる。前記第2還元処理では、前記雰囲気で、鋼板の到達温度が850~920℃となる温度範囲で、例えば60~240秒加熱することが挙げられる。前記「保持」には、一定温度とする他、前記温度範囲で変動する場合が含まれる。
【0063】
前記第1還元処理と第2還元処理は、上記の通り露点の異なる雰囲気に分かれていればよく、その具体的態様は限定されない。例えば、第1還元処理、第2還元処理のそれぞれを行う還元炉を設ける他、鋼板がめっき鋼板である場合には、連続溶融めっきラインの還元帯の途中に、第1還元処理を行うための前段領域と第2還元処理を行うための後段領域を、例えば開口面積率が20%以下である隔壁を設置して分けることが挙げられる。
【0064】
第1還元処理と第2還元処理の間に、本実施形態に係る鋼板の脱炭状態の確保に悪影響を及ぼさない限り、例えば、第1還元処理の少なくともいずれかの条件(露点等)を保持する保持工程等が入ることも許容される。好ましくは、前記第1還元処理に引き続いて第2還元処理を行うことである。
【0065】
酸化処理および還元処理は、公知の任意の単数または複数の設備を用いて実施すればよい。好ましくは、製造効率、コスト面および品質保持の観点から、連続溶融亜鉛めっきライン(CGL:Continuous Galvanizing Line)の設備が用いられる。連続溶融亜鉛めっきラインを用いることによって、酸化還元法による酸化処理および還元処理と、例えば鋼板として、亜鉛めっき鋼板を製造する際に、溶融亜鉛めっき処理および合金化処理とを、一連の製造ラインで連続して行うことができる。さらに具体的には、酸化還元法による酸化処理および還元処理は、例えばDFF型の連続溶融亜鉛めっきラインにおける焼鈍炉を用いて行うことが挙げられる。酸化処理は、例えば前述の通り、DFF型の焼鈍炉内の加熱帯において行うことが挙げられる。また、還元処理は、例えばDFF型の焼鈍炉内の均熱帯において行うことが挙げられる。
【0066】
(D)工程(C)後、冷却停止温度まで冷却する工程
工程(C)後、200~350℃の冷却停止温度まで所定の冷却速度で冷却する。
まず、前記第1加熱温度から550℃までの平均冷却速度(以下「第1平均冷却速度」とも称する)は5℃/秒以上とする。第1平均冷却速度が5℃/秒未満だと、ポリゴナルフェライトが過剰に生成するおそれがある。第1平均冷却速度は、好ましくは7℃/秒以上である。第1平均冷却速度の上限は特に制限されないが、制御しやすさの観点で、例えば100℃/秒以下であってもよい。
【0067】
次に、550℃から冷却停止温度(200~350℃)の平均冷却速度(以下「第2平均冷却速度」とも称する)は1℃/秒以上とする。第2平均冷却速度が1℃/秒未満だと、ベイニティックフェライトが過剰に生成するおそれがある。第2平均冷却速度は、好ましくは2℃/秒以上である。第2平均冷却速度の上限は特に制限されないが、制御しやすさの観点で、例えば100℃/秒以下であってもよい。また、冷却停止温度が200℃未満であると、マルテンサイト量が過剰となり、残留オーステナイト量を十分に確保できないおそれがあり、350℃超であると、マルテンサイト量を十分に確保できなくなり、フレッシュマルテンサイト、パーライトなどの残部組織が過剰となるおそれがある。
【0068】
さらに、400℃~上記冷却停止温度までの平均冷却速度(以下「第3平均冷却速度」とも称する)が40℃/秒以下であることが好ましい。これにより、ベイナイト変態による未変態オーステナイトへのC濃化が促進されて残留γが安定化し、比較的不安定な固溶C量の低い第1残留γを所定量確保しやすくなる。
【0069】
(E)工程(D)後、第2加熱温度に加熱して鋼板を得る工程
工程(D)後、300℃~450℃の第2加熱温度に加熱(再加熱)して50~1000秒保持して、本発明の実施形態に係るめっき鋼板に使用される鋼板を得る。本工程により、ベイナイト変態を進め、未変態オーステナイト中へのC濃化を促進させることで、残留オーステナイト量を十分に確保でき、さらには比較的安定な固溶C量の高い第2残留γを所定量確保しやすくなる。第2加熱温度が上記温度範囲から外れたり、その保持時間が50秒未満であると、残留オーステナイト量を十分に確保できないおそれがある。一方で当該保持時間は、長すぎても上記効果が飽和するため、1000秒以下とするのがよい。
主に工程(D)および工程(E)を経ることにより、本発明の実施形態で規定する金属組織が得られる。
【0070】
(F)前記鋼板上にめっき層を形成する工程
上記鋼板の表面に、上述しためっき層を形成する。めっき層の形成条件は特に限定されず、常法のめっき処理を採用できる。例えば、溶融亜鉛めっき層を形成する場合、溶融亜鉛めっきは、例えば、上記鋼板を300℃以上550℃以下の溶融亜鉛めっき浴に浸漬させて溶融亜鉛めっき処理を行えばよい。めっき時間は、所望のめっき付着量を確保できるように適宜調整すればよく、例えば、1~10秒とすることが好ましい。
【0071】
合金化溶融亜鉛めっきは、上記溶融亜鉛めっき後に、合金化処理を行えばよい。合金化処理温度は特に限定されないが、合金化処理温度が低すぎると合金化が十分に進行しないため、450℃以上が好ましく、より好ましくは460℃以上、さらに好ましくは480℃以上である。しかし、合金化処理温度が高温となりすぎると、合金化が過度に進行してめっき層中のFe濃度が過剰となり、めっき密着性が劣化する。こうした観点から、合金化処理温度は550℃以下が好ましく、より好ましくは540℃以下、更に好ましくは530℃以下である。合金化処理時間は特に限定されず、溶融亜鉛めっきが合金化するように調整すればよい。合金化処理時間は、例えば、10~60秒である。
【0072】
本発明の実施形態に係るめっき鋼板の製造方法は、本開示の目的を逸脱しない範囲で他の工程を含んでもよい。
【実施例0073】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【0074】
表1に示す成分組成を有する鋼(鋼スラブ)を、1250℃で30分加熱した後、圧下率約90%、仕上げ圧延温度920℃となるように熱間圧延を行い、660℃まで冷却して巻き取り、その後室温まで冷却して板厚1.8~2.6mmの圧延板を得た。表面スケールを除去するよう、得られた圧延板を酸洗した後、冷間圧延を行い、板厚を1.0~1.6mmとした。
なお、表1について、「-」は意図的に添加していないことを示す。また以下の表について、*を付した数値は本発明の実施形態の範囲から外れていることを示す。
【0075】
【0076】
上記圧延板について、上述の工程(B1)および工程(B)~(F)を行い、試験No.1~17のめっき鋼板を得た。各工程の条件を表2に示す。なお、表2に示していないが、試験No.11~14において、工程(B1)は、工程(B)の第1加熱温度への昇温中に行い、酸素濃度は0.1~2%、到達温度は650~750℃、酸化処理における昇温時間は10秒以上120秒以下とした。工程(C)は、露点が-35~-15℃である第1還元処理(C1a)を経た後、第1還元処理よりも露点の高い第2還元処理(C1b)を経る、還元処理する工程(C1)を含んでおり、第1還元処理および第2還元処理の加熱時間(保持時間)はそれぞれ60秒以上であった。また、表2に示していないが、試験No.1~17において、工程(F)において、公知の方法で合金化溶融亜鉛めっき層を形成した。具体的には、工程(F)において、鋼板を300℃以上550℃以下の溶融亜鉛めっき浴に浸漬させて溶融亜鉛めっき処理(めっき時間1~10秒)した後、合金化処理を行っており、合金化処理温度は480~500℃、合金化処理時間は20~25秒とした。
【0077】
【0078】
上述の試験No.1~17の鋼板について、下記評価を行った。
【0079】
<金属組織評価>
圧延方向および厚さ方向と垂直方向(板幅方向)の中央部から試験片を採取し、当該試験片から、圧延方向および板幅方向に平行であって、鋼板表面から板厚の1/4の位置の断面を、電解研磨等により露出させた。当該断面をSEMにより観察し、ポリゴナルフェライト、ベイニティックフェライト、MAおよびパーライトの面積率を測定した。ベイナイトの面積率と焼戻しマルテンサイトの面積率との和は、100面積%から、ポリゴナルフェライト、ベイニティックフェライト、MAおよびパーライトの面積率の和を差し引くことで求めた。
【0080】
鋼板を構成する金属組織中の残留γの体積率は、X線回析法で測定した。具体的には、上記断面から、X線源:Co-Kαを用いてX線回折パターンを取得し、公知の方法(ISIJ Int.Vol.33.(1993),No.7,P.776)に基づいて、金属組織全体に対する残留γの体積率を測定した。
【0081】
残部組織中のフレッシュマルテンサイトの面積率は、上記残留γの体積率を面積率とみなして、MAの面積率から、上記残留γの体積率(≒面積率)を差し引くことで求めた。また、全残留γに対する、第1残留γおよび第2残留γの割合は、以下のようにして求めた。
【0082】
まず、残留γの炭素濃度の分布を、上記X線回折装置で測定した(200)γ 、(220)γ、および(311)γ の3つの回折ピークを用いて求めた。
図2はX線回折パターンの模式図である。(200)γ 、(220)γ 、および(311)γの3つの回折ピークについて、
図2に示すように、それぞれ、回折強度が最大となる2θ(2θ
avg(hkl))とその半価幅Δ2θ(hkl)を求めた。ここで、(hkl)は、(200)、(220)または(311)を意味するものとする(以下も同じ)。
【0083】
次いで、上記2θavg(hkl)から、ブラッグ条件:λ=2dsinθ(d:格子面
間隔、λ:Co-Kα線の波長)を用いて、下記式(1)より、d(hkl)を求めた。
d(hkl)=λ/{2sin(2θavg(hkl)/2)} ・・・(1)
【0084】
下記式(2)により、各格子定数a0(hkl)を求め、それらを算術平均して格子定数a0とした。
a0(hkl)=d(hkl)√(h2+k2+l2) ・・・(2)
【0085】
下記式(3)を用いて炭素濃度%Cavg(単位:質量%)を求めた。
%Cavg =(1/0.033)×(a0-3.572) ・・・(3)
【0086】
次に、残留γの炭素濃度分布の半価幅Δ%Cを以下の手順で求めた。
【0087】
まず、各ピークの回折角度2θ(hkl)の半価幅Δ2θ(hkl)の上下限における回折角度を、下記式(4)および式(5)で求めた(
図2参照)。
2θL(hkl)=2θ
avg(hkl)-Δ2θ(hkl)/2 ・・・(4)
2θH(hkl)=2θ
avg(hkl)+Δ2θ(hkl)/2 ・・・(5)
【0088】
上記2θL(hkl)および2θH(hkl)をそれぞれ用いて、上記と同様の手順でブラッグ条件および上記式(1)~式(3)を用いることで、炭素濃度分布の半価幅の上下限値%CLおよび%CHを求めた。そして、炭素濃度分布の半価幅Δ%Cを下記式(6)で求めた。
Δ%C=%CH-%CL ・・・(6)
【0089】
炭素濃度分布が正規分布であると仮定して、以下のようにして、上記半価幅Δ%Cから標準偏差σ%Cを算出した。すなわち、正規分布の確率密度関数f(x)は、平均値uと標準偏差σから、下記式(7)で表される。
f(x)={1/√(2πσ2)}×exp{-(x-u)2/(2σ2)}・・・(7)
【0090】
平均値における確率f(u)は、上記式(7)にx=uを代入することで下記式(8)にて求めた。
f(u)=1/√(2πσ2) ・・・(8)
【0091】
平均値u=%Cavgから半価幅Δ%Cの1/2だけ上下に移動した値(%Cavg
±Δ%C/2)での確率密度f(%Cavg±Δ%C/2)は、平均値u=%Cavgでの確率f(u)=f(%Cavg)の1/2になるので、上記式(7)および上記式(8)より、下記式(9)の関係が得られる。
{1/√(2πσ%C2)}×exp{-(Δ%C/2)2/(2σ%C2)}=1/{2
√(2πσ%C2)} ・・・(9)
【0092】
上記式(9)を変形することで、半価幅Δ%Cから標準偏差σ%Cを求める式として下記式(10)が導出されるので、この式(10)に半価幅Δ%Cを代入することで標準偏差σ%Cを算出した。
σ%C=√{(Δ%C/2)2/(2ln2)} ・・・(10)
【0093】
上記のようにして求めた残留γ中の炭素濃度分布の平均値%Cavgと標準偏差σ%Cを用いて、下記式(11)に示す累積分布関数g(x)により、金属組織全体に対する、炭素濃度が1.0質量%以下の残留γの体積率VγR(C≦1.0%)を求める式として下記式(12)を導出し、この式(12)を用いてVγR(C≦1.0%)を算出した。
g(x)=(1/2)×[1+erf{(x-u)/√(2σ2)}]・・・(11)
VγR(C≦1.0%)=VγR×g(1.0)=VγR×(1/2)×[1+erf{(1.0-%Cavg)/√(2σ%C2)}] ・・・(12)
【0094】
上記のようにして求めた残留γ中の炭素濃度分布の平均値%Cavgと標準偏差σ%Cを用いて、上記式(11)に示す累積分布関数g(x)により、金属組織全体に対する、炭素濃度が0.9質量%以下および0.9質量%超1.1質量%以下の残留γの体積率VγR(C≦0.9%)およびVγR(0.9%<C≦1.1%)を求める式としてそれぞれ下記式(13)、(14)を導出し、この式(13)、(14)を用いてVγR(C≦0.9%)を算出した後、それぞれの全残留γ体積率に対する割合を求めた。
VγR(C≦0.9%)=VγR×g(0.9)=VγR×(1/2)×[1+erf{(0.9-%Cavg)/√(2σ%C2)}]・・・(13)
VγR(0.9%<C≦1.1%)=VγR×g(1.2)-VγR(C≦0.9%)=VγR×(1/2)×[1+erf{(1.1-%Cavg)/√(2σ%C2)}]-VγR×(1/2)×[1+erf{(0.9-%Cavg)/√(2σ%C2)}]・・・(14)
【0095】
なお、残部組織について、フレッシュマルテンサイトおよびパーライト以外の組織は認められなかった。
【0096】
<脱炭挙動の測定手段:GD-OESによる炭素プロファイルの測定>
下記の通り、GD-OES(Glow discharge optical emission spectrometry、グロー放電発光分析)による炭素プロファイルの測定を行い、脱炭挙動について調べた。
【0097】
(試料の調整)
サイズが50mm×40mm×板厚または30mm×30mm×板厚の材料を採取した。その後、常法の通り脱脂を行って試料を用意した。そして該試料を用い、以下の条件でGD-OESにて各元素の質量%の濃度測定を行った。
【0098】
(測定条件)
使用装置:堀場製作所製 マーカス型高周波グロー放電発光表面分析装置(rf-GD-OES)GD-Profiler2
スパッタ方式:ノーマルスパッタ
測定範囲:φ4mm
ガスの種類:Ar
分析対象元素:B,C,O,Al,Si,Ti,Cr,Mn,Fe,Zn,P,S,N(本実施例では、これらの元素を対象に評価を行ったが、上記以外の元素が例えばめっき層及び/又は鋼板に含まれている場合、上記以外の元素も分析対象とする)
【0099】
(測定方法)
試料のめっきが形成されている面について、板厚方向に深さが150μmに到達するまでGD-OES測定を行った。
【0100】
(解析方法)
上記装置はスパッタレートがほぼ一定であるので、分析終了後の試料のスパッタクレータ深さを測定し、横軸をその値(スパッタ深さ)とした。
【0101】
測定した各元素の発光強度を濃度換算するための検量線法の詳細を以下に示す。
【0102】
元素iの単位時間当たりのスパッタ重量Wi(g/sec)と発光強度Iiの関係は、検量線の傾きa,切片bを用いて、下記式(15)で表される。
Wi=aIi+b・・・・・(15)
上記元素iの単位時間当たりのスパッタ重量Wiは、濃度Ci(wt.%)、密度ρ(g/cm3)、スパッタ速度Δd(cm/sec)が既知の参照試料では、スパッタ面積S(cm2)を用い、下記式(16)により求められる。
Wi=Ci×ρ×Δd×S・・・・・(16)
【0103】
Wiが既知の2種類以上の参照試料を用いて発光強度Iiを測定し、上記式(15)の傾きa、切片bを求めて、横軸が発光強度で、縦軸がスパッタ重量である検量線を作成した。用いた参照試料を下記表3に示す。作成した検量線を用いて、対象とした各元素の発光強度からスパッタ重量を求め、その重量比より濃度に換算した。なお、O濃度の換算に使用した検量線は、SiO2を用いてSiとOの濃度比が1:2になるように補正を行った。
【0104】
【0105】
そして、炭素について分析した結果を用い、炭素プロファイルを得た。その一例を
図3に示す。
図3では、試験No.12および試験No.14の炭素プロファイルを、示している。
上記
図3において、いずれの材料の炭素プロファイルも、表層20μm以内(詳細には内部酸化層中)で、炭素濃度のピークを有するが、試験No.14ではバルク炭素濃度よりも高くなっているのに対し、試験No.12ではバルク炭素濃度よりも十分低く抑えられていることがわかる。
【0106】
得られた板厚方向における炭素濃度プロファイルから、炭素濃度(質量%)がバルク炭素濃度の50%である位置と、鋼板表面から20μmまでの領域の炭素濃度(質量%)の最大値を求めた。なお、バルク炭素濃度は、GD-OESで測定した十分深い位置(120~150μm)の炭素濃度が、通常の鉄鋼分析で得られた値となるよう補正して解析に用いた。例えば、鉄鋼分析値が0.22%であって、GD-OESでの分析値が0.25%の場合には、GD-OESでの分析値を0.22/0.25倍として解析に用いた。
【0107】
<引張強さ、降伏応力および伸び評価>
鋼板の冷間圧延の圧延面と平行な面における圧延方向と直角な方向が試験片の長手となるように、JIS5号試験片(板状試験片)を採取した。当該試験片を用いて引張試験を行い、引張強さTS、降伏応力YSおよび伸びELを測定した。引張強さTSが1150MPa以上となる例を十分であると評価し、1150MPa未満となる例を不十分であると評価した。降伏応力YSが850MPa以上となる例を十分であると評価し、850MPa未満となる例を不十分であると評価した。伸びELが14%以上となる例を十分であると評価し、14%未満となる例を不十分であると評価した。
【0108】
<穴広げ率評価>
上記冷延鋼板から各板厚×90mm×90mmの試験片を採取した。当該試験片を用いて、JIS Z 2256:2010に基づいて穴広げ試験を行い、穴広げ率λを測定した。そして、穴広げ率λが30%以上となる例を十分であると評価し、30%未満となる例を不十分であると評価した。
【0109】
<曲げ性(R/t)評価>
鋼板の曲げ性については、下記の手順によって評価した。圧延方向と直角方向に長軸をとって幅:40mm×長さ:100mmの試験片を作製し、JIS Z 2248:2014に準拠したVブロック法で曲げ試験を行い、そのときの曲げ半径を0~7mmまで種々変化させ、材料が破断せずに曲げ加工ができる最小の曲げ半径を求め、これを曲げ半径R(mm)として、曲げ半径R(mm)/板厚t(mm)を算出した。そして、曲げ半径R(mm)/板厚t(mm)が2.5未満となる例を曲げ性に優れる(〇)と評価し、2.5以上の例を曲げ性に劣る(×)と評価した。
【0110】
結果を表4に示す。表4において、「PF+BF」はポリゴナルフェライトの面積率とベイニティックフェライトの面積率との和であり、「B+M」はベイナイトの面積率と焼戻しマルテンサイトの面積率との和であり、「残留γ」は全残留オーステナイトの体積率であり、「第1残留γ/残留γ」は、全残留γに対する第1残留γの割合(体積%)であり、「第2残留γ/残留γ」は、全残留γに対する第2残留γの割合(体積%)であり、「残部組織」は残部組織の面積率であり、「表層炭素濃度の最大値」は、板厚方向における前記鋼板表面から20μmまでの領域の炭素濃度(質量%)の最大値である。また、表4に示す成分組成は、試験No.1~17の違いが明確になるよう表1に示す成分組成の一部を抜粋したものである。また、残部組織は、フレッシュマルテンサイトおよびパーライトであった。
【0111】
【0112】
表4の結果より、次のように考察できる。表4の試験No.1~14は、いずれも本発明の実施形態で規定する要件を満足しており、より容易に製造でき、且つ高強度および高加工性を示した。また、試験No.11~14を比較すると、試験No.11~13は、本発明の実施形態で規定する好ましい要件を満たしており、曲げ性に優れていた。
一方、表4の試験No.15~17は、いずれも本発明の実施形態で規定する要件を満たしておらず、強度及び/又は加工性が不十分であった。
【0113】
試験No.15は、Si含有量が0.80質量%未満であり、残留γが5体積%未満であったため、引張強さが1150MPa未満となり、伸びが14%未満であった。
【0114】
試験No.16は、Cr含有量が0.15質量%未満であり、ポリゴナルフェライトとベイニティックフェライトの合計が5面積%超であったため、引張強さが1150MPa未満となった。
【0115】
試験No.17は、Bを含有しておらず、ポリゴナルフェライトとベイニティックフェライトの合計が5面積%超であったため、引張強さが1150MPa未満となり、降伏応力が850MPa未満となり、穴拡げ率λが30%未満であった。
【0116】
[参考例]
以下、上述の(I)と(II)の要件と、曲げ性との関係性についてより詳細に調査した参考例について説明する。
焼鈍用サンプルとして、成分組成が、バルク炭素濃度、すなわち鋼板(原板)のC含有量が0.22質量%(0.22質量%C)、Si含有量が1.7質量%、Mn含有量が2.0質量%、Cr含有量が0.5質量%、Al量が0.04質量%であって、残部がFeおよび不可避不純物(なお、ここでの「不可避不純物」には、P:0質量%超、0.1質量%以下、S:0質量%超、0.05質量%以下、およびN:0質量%超、0.01質量%以下が含まれ得る)であり、組織がフェライト+パーライトであって強度が700~800MPaの原板を用意した。
【0117】
前記焼鈍用サンプルに対し、実機で酸化処理と還元処理を行った。詳細には、表5に示す酸素濃度、到達温度で酸化処理を行い、その後、表5に示す第1還元処理(加熱帯)と第2還元処理(均熱帯)をこの順に、表5に示す各条件(到達温度、露点)で行った。
【0118】
前記第2還元処理後の鋼板を、460℃まで冷却した後に、0.08~0.13質量%のAlを含むAl-Znのめっき浴(Alは有効Al%、めっき浴温は460~480℃)に浸漬して亜鉛めっきを施した。めっきの付着量はガスワイピングで40g/m2以上90g/m2以下に制御し、その後、480~490℃で20~30秒間合金化処理を行って、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得た。
【0119】
【0120】
得られためっき鋼板に対し、上述のGD-OESによる炭素プロファイル測定を行った。
得られた板厚方向における炭素濃度プロファイルから、炭素濃度(質量%)がバルク炭素濃度の50%である位置と、鋼板表面から20μmまでの領域の炭素濃度(質量%)の最大値を求めた。なお、バルク炭素濃度は、GD-OESで測定した十分深い位置(120~150μm)の炭素濃度が、通常の鉄鋼分析で得られた値となるよう補正して解析に用いた。例えば、鉄鋼分析値が0.22%であって、GD-OESでの分析値が0.25%の場合には、GD-OESでの分析値を0.22/0.25倍として解析に用いた。
【0121】
さらに、得られためっき鋼板に対し、下記限界曲げ性(R/t)の評価を行った。
【0122】
[限界曲げ性(R/t)の評価]
鋼板の曲げ性は、下記の手順によって評価した。圧延方向と直角方向を長軸とし幅:40mm×長さ:100mmの試験片を作製し、JIS Z 2248:2014に準拠したVブロック法で曲げ試験を行った。該曲げ試験において、曲げ半径を0~7mmまで種々変化させ、材料が破断せずに曲げ加工ができる最小の曲げ半径を求め、これを限界曲げ半径R(mm)として、限界曲げ半径R(mm)/板厚t(mm)を算出した。そして、限界曲げ半径R(mm)/板厚t(mm)が2.5未満の場合を曲げ性に優れると評価し、2.5以上の場合を曲げ性に劣ると評価した。
【0123】
【0124】
上記表6の結果をもとに、板厚方向における炭素濃度(質量%)がバルク炭素濃度の50%である位置と、R/tの関係を示したグラフを
図4に示す。この
図4から、R/tが2.5未満の優れた曲げ性を達成するには、板厚方向における炭素濃度(質量%)がバルク炭素濃度の50%である位置が、鋼板表面から板厚の0.20%以上の領域にあるようにすればよいことがわかる。
【0125】
上記表6の結果をもとに、バルク炭素濃度に対する、鋼板表面から20μmまでの領域の炭素濃度(質量%)の最大値の割合と、R/tの関係を示したグラフを
図5に示す。この
図5から、R/tが2.5未満の優れた曲げ性を達成するには、バルク炭素濃度に対する、鋼板表面から20μmまでの領域の炭素濃度(質量%)の最大値の割合を、70%未満とするのがよいことがわかる。