(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144153
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】溶銑温度の推定方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/28 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C21C5/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024023742
(22)【出願日】2024-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2023052248
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】中野 敬太
(72)【発明者】
【氏名】千代原 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】井上 暢
(72)【発明者】
【氏名】岩城 陽三
(72)【発明者】
【氏名】井上 周大
【テーマコード(参考)】
4K070
【Fターム(参考)】
4K070AC02
(57)【要約】
【課題】 溶銑搬送容器に鉄スクラップを入れ置いて放散熱の回収を図る場合に、搬送された溶銑を払い出すときの溶銑の温度を、少数のパラメータにより高い精度で推定できる、溶銑温度の推定方法を提供する。
【解決手段】 鉄スクラップを入れ置いた溶銑搬送容器に溶銑を受け入れ、前記鉄スクラップが溶解した後の前記溶銑の温度を推定する溶銑温度の推定方法であって、前記溶銑搬送容器に入れ置いた前記鉄スクラップの量、前記溶銑搬送容器に受け入れた前記溶銑の量、前記溶銑搬送容器に前記溶銑を受け入れたときの前記溶銑の温度、前記溶銑搬送容器に前記溶銑を受け入れたときから前記溶銑を払い出すときまでの経過時間を入力値とする関数を用いて、前記溶銑を前記転炉装入鍋に払い出すときの溶銑の温度の推定値を取得する、溶銑温度の推定方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄スクラップを入れ置いた溶銑搬送容器に溶銑を受け入れ、前記鉄スクラップが溶解した後の前記溶銑の温度を推定する溶銑温度の推定方法であって、
前記溶銑搬送容器に入れ置いた前記鉄スクラップの量、前記溶銑搬送容器に受け入れた前記溶銑の量、前記溶銑搬送容器に前記溶銑を受け入れたときの前記溶銑の温度、前記溶銑搬送容器に前記溶銑を受け入れたときから前記溶銑を払い出すときまでの経過時間を入力値とする関数を用いて、前記溶銑を払い出すときの溶銑の温度の推定値を取得する、溶銑温度の推定方法。
【請求項2】
前記入力値として、さらに、前記溶銑搬送容器から溶銑を前回払い出したときから、前記溶銑搬送容器に前記溶銑を今回受け入れるまでの経過時間、前記溶銑搬送容器による前記溶銑の搬送中に溶銑予備処理を施した時間、および前記溶銑予備処理に用いた副原料の量を用いる、請求項1に記載の溶銑温度の推定方法。
【請求項3】
前記入力値を説明変数とし、前記溶銑を払い出すときの溶銑の温度の実測値を目的変数とする重回帰モデルについて、過去の操業実績を用いて重回帰分析を行うことにより、前記関数を設定する、請求項1または2に記載の溶銑温度の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉から出銑された溶銑を溶銑搬送容器で受け入れ、鉄スクラップが溶解した後の溶銑の温度を推定する溶銑温度の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉から出銑された溶銑は、混銑車や高炉鍋などの溶銑搬送容器で受銑され、直接転炉に搬送されるか、必要に応じて、脱珪処理、脱硫処理、脱燐処理などの溶銑予備処理を施して転炉に搬送される。搬送された溶銑は、溶銑搬送容器から転炉装入鍋に払い出し、この転炉装入鍋から転炉に装入される。転炉で溶銑の脱炭吹錬を行うにあたり、吹錬前の溶銑の温度は、吹錬計算を行う際の重要な因子であり、溶銑を転炉に装入する前に、転炉装入鍋内の溶銑に消耗型の測温プローブを浸漬させて、溶銑の温度を測定している。
【0003】
また、転炉には、溶銑を装入する前に鉄スクラップが装入され、鉄源として再利用されている。しかし、過剰に鉄スクラップを装入すると、溶銑の温度が低下し、生石灰などの媒溶剤の滓化が進まなかったり、吹錬後の溶鋼温度を目標値に合わせるために過剰に酸素ガスが必要になったりして、結果的に成分外れや吹錬延長といった弊害が発生する。このため、転炉に装入される溶銑の温度に基づいて、鉄スクラップの装入量を適切に調整する必要がある。
【0004】
しかし、鉄スクラップの装入量を決定する時点では、溶銑搬送容器が転炉にまだ到着していない場合が多いため、上述のように転炉装入鍋内で測定される溶銑の温度は、鉄スクラップの装入量の決定には用いることができない。このため、溶銑を溶銑搬送容器から転炉装入鍋に払い出す時点での溶銑の温度を推定し、この推定値に基づいて、鉄スクラップの装入量を決定するのが一般的である。
【0005】
溶銑を溶銑搬送容器から転炉装入鍋に払い出す時点での溶銑の温度を推定する方法として、特許文献1には、出銑温度および出銑時刻から吹錬予定時刻までの時間を用いて溶銑の温度の推定値を算出する、溶銑温度推定式が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、出銑時の溶銑温度、溶銑搬送容器への溶銑注入量、出銑時の溶銑成分、溶銑搬送容器から転炉装入鍋に溶銑を払い出すまでの受銑後からの経過時間の4つの物理量を要素とする溶銑到着条件ベクトルを定義する。次いで、使用予定の溶銑の溶銑到着条件ベクトルを求め、これに類似した過去の溶銑の溶銑到着条件ベクトルを選択し、選択した過去の複数の溶銑の溶銑到着条件ベクトルに基づいて溶銑温度を推定するための溶銑温度算出モデルを作成する。そして、作成した溶銑温度算出モデルを用いて、使用予定の溶銑を溶銑搬送容器から転炉装入鍋に払い出す際の溶銑温度を推定している。
【0007】
また、昨今の製鉄業では、カーボンニュートラルに向けた低銑配操業が求められている。特許文献3には、溶銑を排出した後の溶銑搬送容器内にスクラップを入れ置き、さらに溶銑搬送容器に溶銑を受け入れることによってスクラップを溶解させる、スクラップの消化方法が開示されている。これによれば、前回の溶銑の払い出し後の溶銑搬送容器からの放散熱をスクラップに吸収させて回収し、熱量を有効利用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5-171244号公報
【特許文献2】特開2012-214850号公報
【特許文献3】特開昭54-142116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、特許文献3に記載の技術を用いる場合には、溶銑搬送容器に鉄スクラップを入れ置いて、溶銑中に溶解させることにより、溶銑を溶銑搬送容器から転炉装入鍋に払い出す時点での溶銑の温度に少なからず影響する。しかし、特許文献3では、この溶銑の温度への影響が考慮されていない。特許文献1および特許文献2に開示される溶銑温度の推定方法でも、溶銑搬送容器に鉄スクラップを入れ置くことによる、溶銑の温度への影響が考慮されていない。
【0010】
溶銑搬送容器に鉄スクラップを入れ置いて放散熱の回収を図る場合に、溶銑を溶銑搬送容器から転炉装入鍋に払い出す時点での溶銑の温度の推定精度を確保すべく、溶銑温度推定式の入力値として用いるパラメータの数を増やすことも考えられる。しかし、溶銑温度推定式の入力値として用いるパラメータの数を増やすと、いずれかのパラメータが得られない場合に温度推定ができない状況が発生しやすくなる。
【0011】
本発明は、溶銑搬送容器に鉄スクラップを入れ置いて放散熱の回収を図る場合に、搬送された溶銑を払い出すときの溶銑の温度を、少数のパラメータにより高い精度で推定できる、溶銑温度の推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は以下の特徴を有する。
【0013】
[1] 鉄スクラップを入れ置いた溶銑搬送容器に溶銑を受け入れ、前記鉄スクラップが溶解した後の前記溶銑の温度を推定する溶銑温度の推定方法であって、前記溶銑搬送容器に入れ置いた前記鉄スクラップの量、前記溶銑搬送容器に受け入れた前記溶銑の量、前記溶銑搬送容器に前記溶銑を受け入れたときの前記溶銑の温度、前記溶銑搬送容器に前記溶銑を受け入れたときから前記溶銑を前記転炉装入鍋に払い出すときまでの経過時間を入力値とする関数を用いて、前記溶銑を払い出すときの溶銑の温度の推定値を取得する、溶銑温度の推定方法。
【0014】
[2] 前記入力値として、さらに、前記溶銑搬送容器から溶銑を前回払い出したときから、前記溶銑搬送容器に前記溶銑を今回受け入れるまでの経過時間、前記溶銑搬送容器による前記溶銑の搬送中に溶銑予備処理を施した時間、および前記溶銑予備処理に用いた副原料の量を用いる、[1]に記載の溶銑温度の推定方法。
【0015】
[3] 前記入力値を説明変数とし、前記溶銑を払い出すときの溶銑の温度の実測値を目的変数とする重回帰モデルについて、過去の操業実績を用いて重回帰分析を行うことにより、前記関数を設定する、[1]または[2]に記載の溶銑温度の推定方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の溶銑温度の推定方法によれば、溶銑を払い出すときの溶銑の温度の推定値を取得するのに用いられる関数の入力値に、溶銑搬送容器に入れ置いた鉄スクラップの量が含まれる。よって、搬送された溶銑を転炉装入鍋に払い出すときの溶銑の温度の推定値に、入れ置いた鉄スクラップによる抜熱が加味される。これにより、溶銑搬送容器に鉄スクラップを入れ置いて放散熱の回収を図る場合に、搬送された溶銑を払い出すときの溶銑の温度を、少数のパラメータにより高い精度で推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)および
図1(b)はそれぞれ、本発明の溶銑温度の推定方法により推定された溶銑の温度の推定精度を示す図である。
【
図2】
図2は、溶銑搬送容器に入れ置いた鉄スクラップの量の影響を考慮せずに推定された溶銑の温度の推定精度を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の溶銑温度の推定方法を適用した場合の銑配量を、従来の溶銑温度の推定方法を適用した場合の銑配量と比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の溶銑温度の推定方法の実施形態について、詳細に説明する。
【0019】
本実施形態の溶銑温度の推定方法は、鉄スクラップを入れ置いた溶銑搬送容器に溶銑を受け入れて、溶銑搬送容器内で鉄スクラップを溶銑中に溶解させ、溶銑搬送容器により搬送された溶銑を転炉装入鍋に払い出すときの溶銑の温度を推定するものである。
【0020】
具体的には、溶銑搬送容器に入れ置いた鉄スクラップの質量、溶銑搬送容器に受け入れた溶銑の質量、溶銑搬送容器に溶銑を受け入れたときの溶銑の温度、溶銑搬送容器に溶銑を受け入れたときから溶銑を払い出すときまでの経過時間を入力値として用いる。そして、これらの入力値を関数に入力することにより、溶銑を払い出すときの溶銑の温度の推定値を取得する。
【0021】
溶銑iを払い出すときの溶銑の温度の推定値Test,i(℃)を取得するための関数を数式で表現すると、例えば下記(1)式のとおりである。
【0022】
【0023】
ここで、Tini,i(℃)は、溶銑搬送容器に溶銑iを受け入れたときの溶銑iの温度、すなわち、溶銑iの出銑温度である。また、SCRi(ton)は、溶銑iを搬送する溶銑搬送容器に入れ置いた鉄スクラップの質量であり、Wi(ton)は、溶銑搬送容器に受け入れた溶銑iの質量である。また、LTi(min)は、溶銑搬送容器に溶銑iを受け入れたとき、すなわち溶銑iの出銑時から、溶銑を転炉装入鍋に払い出すときまでの経過時間である。kSCR(℃)およびkLT(℃/min)は係数であり、A(℃)は定数である。
【0024】
また、入力値として、さらに、溶銑搬送容器から溶銑を前回払い出したときから、溶銑搬送容器に溶銑を今回受け入れるまでの経過時間、溶銑搬送容器による溶銑の搬送中に脱珪処理、脱硫処理、脱燐処理などの溶銑予備処理を施した時間、および溶銑予備処理に用いた副原料の量を用いてもよい。
【0025】
この場合は、溶銑iを払い出すときの溶銑の温度の推定値Test,i(℃)を取得するための関数を数式で表現すると、例えば下記(2)式のとおりである。
【0026】
【0027】
ここで、ETi(min)は、前回、溶銑搬送容器から溶銑を転炉装入鍋に払い出したときから、溶銑搬送容器に溶銑iを今回受け入れるまでの経過時間であり、PTi(min)は、溶銑搬送容器による溶銑iの搬送中に溶銑予備処理を施した時間である。SWi,l(kg/ton)は、溶銑予備処理に用いた副原料lの原単位質量である。k´SCR(℃)、k´LT(℃/min)、k´ET(℃/min)、k´PT(℃/min)、ml(℃/(kg/ton))は、それぞれ係数であり、B(℃)は定数である。
【0028】
上記(2)式により、溶銑を払い出すときの溶銑の温度を推定する場合には、溶銑搬送容器から溶銑を前回払い出したときから溶銑を今回受け入れるまでの経過時間、および溶銑予備処理による抜熱が加味される。よって、上記(1)式を用いる場合よりも、溶銑を払い出すときの溶銑の温度の推定値の精度を高めることができる。
【0029】
なお、上記(2)式における入力値、溶銑搬送容器から溶銑を前回払い出したときから、溶銑搬送容器に溶銑を今回受け入れるまでの経過時間、溶銑搬送容器による溶銑の搬送中に脱珪処理、脱硫処理、脱燐処理などの溶銑予備処理を施した時間、溶銑予備処理に用いた副原料の量の全てを用いず、そのうちの一部を省略してもよい。
【0030】
上記(1)式および上記(2)式における各係数は、次のような値に設定することが好ましい。すなわち、係数kSCRおよびk´SCRは、700~900℃、係数kLTおよびk´LTは0.15~0.25℃/min、係数k´ETは0.05~0.15℃/min、係数k´PTは0.1~0.4℃/minの範囲に設定することが好ましい。係数mlは、-0.01~0.01℃/(kg/ton)の範囲に設定することが好ましい。定数AおよびBは50~200℃の範囲に設定することが好ましい。
【0031】
また、上記(1)式および上記(2)式、特に上記各係数および各定数は、上述の各入力値を説明変数とし、溶銑を払い出すときの溶銑の温度の実測値を目的変数とする重回帰モデルについて、過去の操業実績を用いて重回帰分析し、当該重回帰モデルのパラメータを求めることにより、決定することが好ましい。
【0032】
本実施形態の溶銑温度の推定方法によれば、溶銑を払い出すときの溶銑の温度の推定値を取得するのに用いられる関数の入力値に、溶銑搬送容器に入れ置いた鉄スクラップの量が含まれる。よって、搬送された溶銑を転炉装入鍋に払い出すときの溶銑の温度の推定値に、入れ置いた鉄スクラップによる抜熱が加味される。これにより、溶銑搬送容器に鉄スクラップを入れ置いて放散熱の回収を図る場合に、搬送された溶銑を払い出すときの溶銑の温度を、少数のパラメータにより高い精度で推定できる。
【0033】
本実施形態の溶銑温度の推定方法を転炉操業に適用する場合、オペレータは、溶銑搬送容器による各搬送ごとに、上記入力量を取得する。すなわち、上記(1)式を用いる場合には、溶銑搬送容器に入れ置いた鉄スクラップの質量、溶銑搬送容器に受け入れた溶銑の質量、溶銑搬送容器に溶銑を受け入れたときの溶銑の温度、溶銑搬送容器に溶銑を受け入れたときから溶銑を払い出すときまでの経過時間を取得する。また、上記(2)式を用いる場合には、さらに、溶銑搬送容器から溶銑を前回払い出したときから、溶銑搬送容器に溶銑を今回受け入れるまでの経過時間、溶銑搬送容器による溶銑の搬送中に脱珪処理、脱硫処理、脱燐処理などの溶銑予備処理を施した時間、および溶銑予備処理に用いた副原料の量を取得する。
【0034】
そして、これら入力値を、上記(1)式または上記(2)式に入力することにより、溶銑を払い出すときの溶銑の温度の推定値を取得する。そして、このように取得した溶銑の温度の推定値に合わせて、転炉に装入する鉄スクラップの適正な量を決定することができる。
【実施例0035】
本発明の溶銑温度の推定方法により、溶銑を払い出すときの溶銑の温度の推定値を取得し、溶銑を払い出すときの溶銑の温度の実測値と比較することにより、溶銑の温度の推定値の精度について確認したので、これについて以下に説明する。なお、本実施例では、溶銑搬送容器による溶銑の搬送中に、副原料としてCaO、Al、スラグ、ダスト、スクラップを用いる溶銑予備処理を施している。
【0036】
図1(a)に、上記実施形態の溶銑温度の推定方法において、(1)式を用いて推定された溶銑の温度の推定値を、溶銑の温度の実測値と対比して示す。また、
図1(b)に、上記実施形態の溶銑温度の推定方法において、(2)式を用いて推定された溶銑の温度の推定値を、溶銑の温度の実測値と対比して示す。
【0037】
また、
図2に、溶銑搬送容器に入れ置いた鉄スクラップの量の影響を考慮せずに推定された溶銑の温度の推定値を、溶銑の温度の実測値と対比して示す。
図2に示す溶銑の温度の推定値は、上記実施形態の溶銑温度の推定方法の(1)式の右辺のうち、溶銑iを搬送する溶銑搬送容器に入れ置いた鉄スクラップの量の影響を反映する項である(k
SCR×SCR
i/W
i)を除いた、下記(1´)式を用いて算出した。
【0038】
【0039】
なお、上記(1)式および上記(2)式、ならびに上記(1´)式中の各係数および定数は、(1)式および上記(2)式、ならびに上記(1´)式中の各入力値を説明変数とし、溶銑を払い出すときの溶銑の温度の実測値を目的変数とする重回帰モデルについて、過去の操業実績を用いて重回帰分析し、当該重回帰モデルのパラメータを求めることにより設定した。具体的には、係数kSCR=820℃、係数kLT=0.20℃/min、係数k´SCR=809℃、係数k´LT=0.19℃/min、係数k´ET=0.083℃/min、係数k´PT=0.19℃/minとした。また、上記(1)式中の係数A=130℃、上記(1´)式中の係数B=99℃、上記(1´)式中の係数A=154℃とした。
【0040】
また、上記(2)式では、副原料lとして、CaO、Al、slag(スラグ)、dust(ダスト)、Scr(スクラップ)を考慮した。そして、係数mlは、それぞれmCaO=0.0023℃/(kg/t)、mAl=-0.0022℃/(kg/t)、mslag=0.0003℃/(kg/t)、mdust=0.0016℃/(kg/t)、mScr=0.0003℃/(kg/t)とした。
【0041】
溶銑を払い出すときの溶銑の温度の推定値の取得に上記(1)式を用いた場合には、重回帰分析における決定係数R2が0.67となり、上記(1)式による溶銑の温度の推定値の精度が十分に高いことを確認できた。また、溶銑を払い出すときの溶銑の温度の推定値の取得に上記(2)式を用いた場合には、重回帰分析における決定係数R2が0.77となり、上記(2)式による溶銑の温度の推定値の精度は、上記(1)式を用いる場合よりもさらに高いことを確認できた。これに対し、溶銑を払い出すときの溶銑の温度の推定値の取得に上記(1´)を用いた場合、すなわち、溶銑搬送容器に入れ置いた前記鉄スクラップの量の影響を考慮しない場合には、重回帰分析における決定係数R2が0.26となり、溶銑の温度の推定値の精度が低くなることが確認された。
【0042】
また、本発明の溶銑温度の推定方法により、溶銑を払い出すときの溶銑の温度の推定値を取得し、これに基づいて転炉への鉄スクラップの装入量を決定することによって得られる効果を検証したので、これについて以下に説明する。
【0043】
図3に、溶銑を払い出すときの溶銑の温度の推定値の取得に上記(1)式を用いた場合と、上記(1)式を用いない場合の、転炉内に装入される銑配率を、対比して示す。ただし、
図3中の溶銑熱量は、溶銑の温度、溶銑中のSi含有量、溶銑予備処理に使用したスラグ量から算出された原単位熱量であり、溶銑熱量(Mcal/ton)=溶銑温度(℃)×0.215((Mcal/ton)/℃)+溶銑Si(%)×83((Mcal/ton)/%)-スラグ量原単位(kg/ton)×0.4(Mcal/kg)と定義される。また、銑配率は、転炉内に装入された鉄源のうち、溶銑搬送容器から払い出された溶銑が占める割合であり、銑配率(%)=溶銑量(ton)/(溶銑量(ton)+スクラップ量(ton))×100と定義される。
【0044】
図3に示すように、従来の方法により、溶銑の温度の推定値を取得し、これに基づいて転炉への鉄スクラップの装入量を決定した場合、溶銑熱量290Mcal/tonにおける銑配率が92.0%であった。ここで、従来の方法とは、転炉型脱燐予備処理のうち、装入鉄源にスクラップが含まれた全チャージ(1437チャージ)を指し、本発明の溶銑温度の推定方法は適用せず、直近の1~5チャージの溶銑温度の実績の平均値をもとに転炉への鉄スクラップの装入量を決定したものである。これに対し、本発明の溶銑温度の推定方法を適用して、上記(1)式により溶銑の温度の推定値を取得し、これに基づいて転炉への鉄スクラップの装入量を決定した場合は、溶銑熱量290Mcal/tonにおける銑配率が89.9%まで低減した。すなわち、本発明の溶銑温度の推定方法によって溶銑の温度の推定値を取得し、これに基づいて転炉への鉄スクラップの装入量を決定することにより、転炉操業において鉄スクラップの利用度を従来以上に向上できることが確認された。