(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144155
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ポリアリレート樹脂ならびにそれを含む塗膜および積層体
(51)【国際特許分類】
C08G 63/199 20060101AFI20241003BHJP
C08G 63/195 20060101ALI20241003BHJP
C08G 63/181 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08G63/199
C08G63/195
C08G63/181
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024024774
(22)【出願日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2023051979
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】前田 幸史朗
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AB01
4J029AB04
4J029AC02
4J029AD01
4J029AD07
4J029AD10
4J029AE03
4J029BB13A
4J029BD09A
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029FA07
4J029HB05
4J029JA093
4J029JC091
4J029JF033
4J029KE11
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性、屈曲性、引張破壊ひずみ特性、耐熱性、およびフィルム化成形性のバランスに優れたポリアリレート樹脂を提供すること。
【解決手段】(A)2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン;(B)1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン;(C)テレフタル酸;および(D)イソフタル酸を含有するポリアリレート樹脂であって、前記成分(A)と前記成分(B)の含有比率((A)/(B))が72/28~95/5(モル%)であり、前記ポリアリレート樹脂のインヘレント粘度(ηinh)が1.00dl/gより大きく1.30dl/g未満であることを特徴とするポリアリレート樹脂。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン;
(B)1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン;
(C)テレフタル酸;および
(D)イソフタル酸
を含有するポリアリレート樹脂であって、
前記成分(A)と前記成分(B)の含有比率((A)/(B))が72/28~95/5(モル%)であり、
前記ポリアリレート樹脂のインヘレント粘度(ηinh)が1.00dl/gより大きく1.30dl/g未満であることを特徴とするポリアリレート樹脂。
【請求項2】
前記成分(C)と前記成分(D)の含有比率((C)/(D))が90/10~10/90(モル%)である、請求項1に記載のポリアリレート樹脂。
【請求項3】
前記ポリアリレート樹脂から構成される厚み5μmのフィルムが、JIS K7204に基づく摩耗試験において、1.0mg以下の摩耗量を示す、請求項1に記載のポリアリレート樹脂。
【請求項4】
前記ポリアリレート樹脂から構成される厚み5μmのフィルムが、100%以上の引張破壊ひずみを示す、請求項1に記載のポリアリレート樹脂。
【請求項5】
ガラス転移温度が200~245℃である、請求項1に記載のポリアリレート樹脂。
【請求項6】
前記成分(A)と前記成分(B)の含有比率((A)/(B))が76/24~85/15(モル%)であり、
前記成分(C)と前記成分(D)の含有比率((C)/(D))が80/20~10/90(モル%)であり、
前記インヘレント粘度(ηinh)が1.03~1.29dl/gである、請求項1に記載のポリアリレート樹脂。
【請求項7】
前記成分(A)と前記成分(B)の含有比率((A)/(B))が76/24~85/15(モル%)であり、
前記成分(C)と前記成分(D)の含有比率((C)/(D))が80/20~10/90(モル%)であり、
前記インヘレント粘度(ηinh)が1.03~1.18dl/gである、請求項1に記載のポリアリレート樹脂。
【請求項8】
前記ポリアリレート樹脂は末端封止剤をさらに含有し、前記末端封止剤の含有量が、フェノール成分に対して、0.30モル%超2.00モル%未満である、請求項1に記載のポリアリレート樹脂。
【請求項9】
界面重合法により、請求項1~8のいずれかに記載のポリアリレート樹脂を製造する、ポリアリレート樹脂の製造方法。
【請求項10】
以下の原料を用いる、請求項9に記載のポリアリレート樹脂の製造方法。
(A)2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン;
(B)1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン;
(C’)テレフタル酸ジクロリド;および
(D’)イソフタル酸ジクロリド。
【請求項11】
重合触媒として1種類の第四級アンモニウム塩を用いる、請求項9に記載のポリアリレート樹脂の製造方法。
【請求項12】
請求項1~8のいずれかに記載のポリアリレート樹脂を含む塗膜。
【請求項13】
請求項1~8のいずれかに記載のポリアリレート樹脂を含む層を含む積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性、屈曲性、引張破壊ひずみ特性、耐熱性、フィルム化成形性に優れたポリアリレート樹脂ならびにそれを含む塗膜および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリレート樹脂は、耐熱性、屈曲性、寸法安定性、透明性に優れていることから、電気電子分野や自動車分野で射出成形の用途で広く用いられている。近年では、透明性、耐熱性、屈曲性に優れることから押出成形や溶液加工によりフィルム化し、ガラス基板材料やフォルダブル用途向け材料として期待されている。ガラス基板材料では耐摩耗性や耐傷つき性が要求され、フォルダブル用途では屈曲性や引張破壊ひずみ特性や耐熱性が要求されることが多い。しかも、これらの要求特性は、さらに高い水準で求められることが増えてきた。
【0003】
溶液加工でのフィルム化に関しては、例えば特許文献1、2、3に記載がある。特許文献1、2、3では、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンの配合量が25mol%以上と多くすることで、溶媒への溶解性を上げ、溶液加工でフィルム化する技術が記載されている。
【0004】
インヘレント粘度の高いポリアリレート樹脂の溶媒への溶解性に関しては、例えば特許文献4がある。
【0005】
シクロヘキサン環構造を有するビスフェノールおよびイソプロピリデン骨格を有するビスフェノールからなるポリアリレート樹脂としては、特許文献5がある。
【0006】
機械的物性を上げながら、フィルム化成形性を上げる方法として、ポリアリレート樹脂ではない非晶性ポリエステル樹脂を配合するような特許文献6がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2016/163462号パンフレット
【特許文献2】特開2013-173928号公報
【特許文献3】特開2015-174908号公報
【特許文献4】特開2011-246551号公報
【特許文献5】特開2009-167291号公報
【特許文献6】特開2020-50877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2、3に関しては、実際に実施例1記載の樹脂組成物を検討したところ、近年要求されるような耐摩耗性や屈曲性を満たさないことが確認された。このような特性を上げる場合、分子量に相当するインヘレント粘度などを高めることが一般的に知られている。特許文献1、2、3に記載の樹脂組成物では、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンの配合量が多い影響でガラス転移点が高くなりすぎ、溶媒乾燥時の熱収縮によるカールの発生や、押出成形の際の熱収縮によるカール発生の問題が生じた。このような問題は、耐摩耗性および屈曲性を上げる以前の問題として、フィルム化成形性に非常に劣るという問題を露呈させた。
【0009】
特に、特許文献3では、芳香族炭化水素を溶媒に含むことが記載されているが、芳香族炭化水素は乾燥性が悪く樹脂塗膜中に残存しやすいため溶媒が樹脂塗膜中に多く残る場合があり、耐摩耗性および/または屈曲性を低下させることがあった。
【0010】
特許文献4では、フェノール成分が2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンからなるため、インヘレント粘度を上げたとしてもガラス転移点が210℃以下となり、耐熱性に劣る場合があった。
特許文献5では、インヘレント粘度が低く、耐摩耗性、屈曲性に劣る問題があった。また特許文献5には触媒を併用することも記載されているが、触媒種が増えることで重合性だけではなく、成形後の分解性が高くなり、耐摩耗性および/または屈曲性の低下につながりやすいなどの問題もあった。近年では、重合時の溶媒中のポリマー濃度を低くしたり、撹拌効率を上げたり、末端封鎖剤量を変更することで、触媒1種類でも重合を上げることが可能である。
特許文献6では、ガラス転移点が200℃以下となり、耐熱性に劣る場合があった。
【0011】
本発明は、耐摩耗性、屈曲性、引張破壊ひずみ特性、耐熱性、およびフィルム化成形性のバランスに優れたポリアリレート樹脂を提供することを目的とする。
本発明はまた、耐摩耗性、屈曲性、引張破壊ひずみ特性、耐熱性、およびフィルム化成形性のいずれの特性にも優れたポリアリレート樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討の結果、特定組成のポリアリレート樹脂を特定のインヘレント粘度で用いることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
本発明の要旨は以下のとおりである。
<1> (A)2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン;
(B)1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン;
(C)テレフタル酸;および
(D)イソフタル酸
を含有するポリアリレート樹脂であって、
前記成分(A)と前記成分(B)の含有比率((A)/(B))が72/28~95/5(モル%)であり、
前記ポリアリレート樹脂のインヘレント粘度(ηinh)が1.00dl/gより大きく1.30dl/g未満であることを特徴とするポリアリレート樹脂。
<2> 前記成分(C)と前記成分(D)の含有比率((C)/(D))が90/10~10/90(モル%)である、<1>に記載のポリアリレート樹脂。
<3> 前記ポリアリレート樹脂から構成される厚み5μmのフィルムが、JIS K7204に基づく摩耗試験において、1.0mg以下の摩耗量を示す、<1>または<2>に記載のポリアリレート樹脂。
<4> 前記ポリアリレート樹脂から構成される厚み5μmのフィルムが、100%以上の引張破壊ひずみを示す、<1>~<3>のいずれかにに記載のポリアリレート樹脂。
<5> ガラス転移温度が200~245℃である、<1>~<4>のいずれかにに記載のポリアリレート樹脂。
<6> 前記成分(A)と前記成分(B)の含有比率((A)/(B))が76/24~85/15(モル%)であり、
前記成分(C)と前記成分(D)の含有比率((C)/(D))が80/20~10/90(モル%)であり、
前記インヘレント粘度(ηinh)が1.03~1.29dl/gである、<1>~<5>のいずれかに記載のポリアリレート樹脂。
<7> 前記成分(A)と前記成分(B)の含有比率((A)/(B))が76/24~85/15(モル%)であり、
前記成分(C)と前記成分(D)の含有比率((C)/(D))が80/20~10/90(モル%)であり、
前記インヘレント粘度(ηinh)が1.03~1.18dl/gである、<1>~<6>のいずれかに記載のポリアリレート樹脂。
<8> 前記ポリアリレート樹脂は末端封止剤をさらに含有し、前記末端封止剤の含有量が、フェノール成分に対して、0.30モル%超2.00モル%未満である、<1>に記載のポリアリレート樹脂。
<9> 界面重合法により、<1>~<8>のいずれかに記載のポリアリレート樹脂を製造する、ポリアリレート樹脂の製造方法。
<10> 以下の原料を用いる、請求項9に記載のポリアリレート樹脂の製造方法。
(A)2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン;
(B)1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン;
(C’)テレフタル酸ジクロリド;および
(D’)イソフタル酸ジクロリド。
<11> 重合触媒として1種類の第四級アンモニウム塩を用いる、<9>または<10>に記載のポリアリレート樹脂の製造方法。
<12> <1>~<8>のいずれかに記載のポリアリレート樹脂を含む塗膜。
<13> <1>~<8>のいずれかに記載のポリアリレート樹脂を含む層を含む積層体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定組成のポリアリレート樹脂を特定のインヘレント粘度とすることにより、耐摩耗性、屈曲性、引張破壊ひずみ(特性)、耐熱性、フィルム化成形性のいずれの特性にも優れたポリアリレート樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリアリレート樹脂は二価フェノール成分と芳香族ジカルボン酸成分とを含有し、かつ、水酸基(例えばフェノール系水酸基またはアルコール系水酸基)を有する成分(構成モノマー成分)の合計を100モル%としたときに二価フェノール成分を75~100モル%(特に90~100モル%、好ましくは100モル%)で含むポリエステル樹脂のことである。本発明のポリアリレート樹脂はまた、カルボキシル基を有する成分(構成モノマー成分)の合計を100モル%としたときに芳香族ジカルボン酸成分を75~100モル%(特に90~100モル%、好ましくは100モル%)で含むことが好ましい。なお、本発明において、ポリアリレート樹脂には、いわゆる、メソゲン基を有する液晶性高分子は含まない。
【0016】
本発明のポリアリレート樹脂は、二価フェノール成分として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA(BisA))(以下、「成分(A)」ということがある)と1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(BisTMC)(以下、「成分(B)」ということがある)を含む。成分(A)または(B)のうち少なくとも一方の成分が含有されない場合、耐熱性、耐摩耗性、および引張破壊ひずみ特性が低下する。
【0017】
本発明のポリアリレート樹脂は、芳香族ジカルボン酸成分として、テレフタル酸(TPA)(以下、「成分(C)」ということがある)とイソフタル酸(IPA)(以下、「成分(D)」ということがある)を含む。成分(C)が含有されない場合引張破壊ひずみ特性およびフィルム化成形性が低下する。成分(D)が含有されない場合、屈曲性、引張破壊ひずみ特性およびフィルム化成形性が低下する。
【0018】
従って、本発明のポリアリレート樹脂は、少なくとも成分(A)~(D)をモノマー成分または共重合成分として含有する。詳しくは、本発明のポリアリレート樹脂は、少なくとも成分(A)~(D)の残基を含有する。このため、成分(C)~(D)については、ポリアリレート樹脂はテレフタル酸(TPA)とイソフタル酸(IPA)の残基を含有する、と表現することもできる。
【0019】
本明細書中、耐摩耗性は、JIS K7204に基づく摩耗試験において、ポリアリレート樹脂の摩耗量がより少ない特性のことである。
屈曲性は、JIS P 8115に基づく耐折強度(MIT)試験において、ポリアリレート樹脂の破断がより起こり難い特性のことである。
引張破壊ひずみ特性は、JIS K7127に基づく引張試験において、ポリアリレート樹脂の引張破壊ひずみがより大きい特性のことである。
耐熱性は、ポリアリレート樹脂のガラス転移温度がより高い特性のことである。
フィルム化成形性は、押出成形および溶液加工において製造されたポリアリレート樹脂フィルムにカールがより生じ難い特性のことである。カールとは、フィルムが自ずから端部から丸味を帯びつつ巻回する現象のことである。
【0020】
ポリアリレート樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)および(B)以外の他のジオール成分、例えば、成分(A)および(B)以外の二価フェノール(例えば、4,4’-シクロヘキシリデンビスフェノール)、脂肪族ジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等)、および脂環族ジオール(例えば、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール等)を含んでもよい。他のジオール成分は、成分(A)および(B)以外の二価フェノールが好ましい。他のジオール成分の含有比率は、ジオール成分の合計量100モル%に対して、通常は20モル%以下であり、10モル%以下とすることが好ましく、0モル%とすることがより好ましい。ポリアリレート樹脂が当該他のジオール成分を2種以上で含む場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。ジオール成分とは、1分子中、2つの水酸基を有するモノマー成分のことである。
【0021】
ポリアリレート樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(C)および(D)以外の他のジカルボン酸成分、例えば、成分(C)および(D)以外の芳香族ジカルボン酸(例えば、4,4’-オキシジベンゾイルクロリド等)、脂肪族ジカルボン酸(例えば、セバシン酸等)、および脂環族ジカルボン酸(例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等)を含有してもよい。他のジカルボン酸成分は、成分(C)および(D)以外の芳香族ジカルボン酸が好ましい。他のジカルボン酸成分の含有比率は、ジカルボン酸成分の合計量100モル%に対して、通常は20モル%以下であり、10モル%以下とすることが好ましく、0モル%とすることがより好ましい。ポリアリレート樹脂が当該他のジカルボン酸成分を2種以上で含む場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。ジカルボン酸成分とは、1分子中、2つのカルボキシル基を有するモノマー成分のことである。
【0022】
成分(A)と成分(B)の含有比率は、(A)/(B)(モル%)で、72/28~95/5であり、耐摩耗性、屈曲性、引張破壊ひずみ特性、耐熱性、およびフィルム化成形性のさらなる向上の観点から、76/24~85/15とすることが好ましく、77/23~83/17とすることがより好ましく、78/22~82/18とすることがさらに好ましく、80/20とすることが最も好ましい。当該含有比率において、成分(A)の割合が少なすぎると、耐摩耗性が低下する。一方、成分(A)の割合が多すぎると、耐摩耗性および引張破壊ひずみ特性が低下する。当該含有比率は、各成分の残基の含有比率である。
【0023】
成分(C)と成分(D)の含有比率は、特に限定されず、(C)/(D)(モル%)で、通常は10/90~90/10であり、耐摩耗性、屈曲性、引張破壊ひずみ特性、耐熱性、およびフィルム化成形性のさらなる向上の観点から、20/80~90/10とすることが好ましく、20/80~80/20とすることがより好ましく、25/75~75/25とすることがさらに好ましく、30/70~70/30とすることが十分に好ましく、35/65~65/35とすることがより十分に好ましく、40/60~60/40とすることがより特に好ましく、50/50とすることが最も好ましい。当該含有比率は、各成分の残基の含有比率である。
【0024】
成分(A)および(B)の合計量と成分(C)および(D)の合計量との比率は特に限定されず、「(A)+(B)」/「(C)+(D)」(モル%)で、通常は90/100~110/100であり、耐摩耗性、屈曲性、引張破壊ひずみ特性、耐熱性、およびフィルム化成形性のさらなる向上の観点から、95/100~105/100とすることが好ましく、98/100~102/100とすることがより好ましく、100/100とすることが最も好ましい。当該比率は、各成分の残基の比率である。
【0025】
ポリアリレート樹脂のインヘレント粘度(ηinh)は1.00dl/gより大きく1.30dl/g未満であり、耐摩耗性、屈曲性、引張破壊ひずみ特性、耐熱性、およびフィルム化成形性のさらなる向上の観点から、1.03~1.29dl/gであることが好ましく、1.03~1.25dl/gであることがより好ましく、1.03~1.22dl/gであることがさらに好ましく、1.03~1.18dl/gであることが十分に好ましく、1.03~1.15dl/gであることがより十分に好ましく、1.08~1.15dl/gであることが特に好ましく、1.08~1.12dl/gであることが最も好ましい。当該粘度が1.00dl/g以下であると、耐摩耗性、引張破壊ひずみ特性および/または屈曲性に劣る。当該粘度が1.30dl/g以上であると、樹脂粘度の高さから生産性に課題が残る。
【0026】
本明細書中、インヘレント粘度は、1,1,2,2-テトラクロロエタンを溶媒として、濃度1g/dLおよび温度25℃の条件で測定された相対粘度(ηrel)に基づいて算出される値を用いている。当該インヘレント粘度は、あらゆる配合剤を含まないポリアリレート樹脂のインヘレント粘度であってもよい。なお、ポリアリレート樹脂の物性規定において、配合剤はポリアリレート樹脂の重合後に配合または添加される材料であり、ポリアリレート樹脂の重合時に添加される後述の末端封止剤、酸化防止剤および重合触媒等の添加剤は含まれない。
【0027】
ポリアリレート樹脂のガラス転移温度は200~245℃であることが好ましく、205~240℃であることがより好ましく、210~235℃であることがさらに好ましく、215~230℃であることが十分に好ましく、215~220℃であることが最も好ましい。
【0028】
本明細書中、ガラス転移温度は、示差走査熱分析装置を用いて、昇温速度10℃/分で30℃から400℃まで昇温したときに得られた昇温曲線中の、固体状態から溶融状態に転移することにより発生する吸熱変化の開始温度をガラス転移温度とした。当該ガラス転移温度は、あらゆる配合剤を含まないポリアリレート樹脂のガラス転移温度であってもよい。
【0029】
ポリアリレート樹脂は、耐摩耗性、屈曲性、引張破壊ひずみ特性、耐熱性、およびフィルム化成形性のさらなる向上の観点から、摩耗試験において、1.0mg以下の摩耗量を示すことが好ましく、0.8mg以下の摩耗量を示すことがより好ましく、0.5mg以下の摩耗量を示すことがさらに好ましく、0.2mg以下の摩耗量を示すことが十分に好ましい。当該摩耗量は通常、0.05mg以上である。
【0030】
本明細書中、摩耗量は、ポリアリレート樹脂の厚み5μmのフィルムを、JIS K7204に基づく摩耗試験に供して測定された値を用いている。当該摩耗量は、あらゆる配合剤を含まないポリアリレート樹脂のみのフィルムの摩耗量であってもよい。厚みは任意の100点の平均厚みであってもよい。
【0031】
ポリアリレート樹脂は、耐摩耗性、屈曲性、引張破壊ひずみ特性、耐熱性、およびフィルム化成形性のさらなる向上の観点から、引張試験において、100%以上の引張破壊ひずみを示すことが好ましく、120%以上の引張破壊ひずみを示すことがより好ましく、130%以上の引張破壊ひずみを示すことがさらに好ましく、133%以上の引張破壊ひずみを示すことが十分に好ましい。当該引張破壊ひずみは通常、150%以下である。
【0032】
本明細書中、引張破壊ひずみは、ポリアリレート樹脂の厚み5μmのフィルムを、JIS K7127に基づく引張試験に供して測定された値を用いている。当該引張破壊ひずみは、あらゆる配合剤を含まないポリアリレート樹脂のみのフィルムの引張破壊ひずみであってもよい。厚みは任意の100点の平均厚みであってもよい。
【0033】
ポリアリレート樹脂は、あらゆる形状を有していてもよく、通常、微粒子形状を有する。微粒子形状とは、粒状という意味である。その長径は通常、5mm以下(特に2mm以上5mm以下)である。長径とは、微粒子形状の最大長のことである。
【0034】
本明細書中、長径は任意の100個のポリアリレート樹脂微粒子の平均値を用いている。
【0035】
ポリアリレート樹脂の嵩密度は通常、嵩密度が0.1~0.5g/ml、特に0.15~0.30g/mlである。
【0036】
本明細書中、嵩密度は以下の方法により測定された値を用いている。
ポリアリレート樹脂を1000mlの容器に充填し、質量(g)を測定する。「質量(g)÷1000(ml)」で嵩密度を計算する。
【0037】
ポリアリレート樹脂を製造する方法としては、特に限定されず、界面重合法、溶液重合法等が挙げられる。界面重合法は溶液重合法と比較すると、反応が速いため、酸ハライドの加水分解を抑えることができ、結果として高分子量のポリマーを得ることができる。界面重合法としては、ジカルボン酸成分のハライドを、水と相溶しない有機溶媒に溶解させた溶液(有機相)を、ジオール成分、末端封止剤、酸化防止剤および重合触媒等の添加剤を含むアルカリ水溶液(水相)に混合し、50℃以下(特に20℃以下)の温度で1~8時間(特に1~3時間)撹拌しながら重合反応をおこなう方法が挙げられる。有機相に用いる溶媒としては、水と相溶せずポリアリレート樹脂を溶解する溶媒が好ましい。このような溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム等が挙げられ、製造上使用しやすいことから、塩化メチレンが好ましい。界面重合法において、成分(C)および(D)としてのテレフタル酸およびイソフタル酸はそれぞれ、原料として、テレフタル酸ジクロリドおよびイソフタル酸ジクロリドを用いる。原料として、テレフタル酸およびイソフタル酸を用いると、界面重合法を実施することができない。
【0038】
末端封止剤としては、一価フェノール、一価酸クロライド、一価アルコール、一価カルボン酸が挙げられる。
一価フェノールとしては、例えば、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール〔PTBP〕、o-フェニルフェノール、m-フェニルフェノール、p-フェニルフェノール、o-メトキシフェノール、m-メトキシフェノール、p-メトキシフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール、2-フェニル-2-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2-フェニル-2-(2-ヒドロキシフェニル)プロパン、2-フェニル-2-(3-ヒドロキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
一価酸クロライドとしては、例えば、ベンゾイルクロライド、安息香酸クロライド、メタンスルホニルクロライド、フェニルクロロホルメート等が挙げられる。
一価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ドデシルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等が挙げられる。
一価カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、フェニル酢酸、p-tert-ブチル安息香酸、p-メトキシフェニル酢酸等が挙げられる。
末端封止材は、中でも、反応性や熱安定性が高いことから、PTBPが好ましい。
【0039】
末端封止剤の含有量は、特に限定されず、例えば、フェノール成分に対して、0.30モル%超であって2.00モル%未満であってもよく、耐摩耗性、屈曲性、引張破壊ひずみ特性、耐熱性、およびフィルム化成形性のさらなる向上の観点(特に、より低いインヘレント粘度での耐摩耗性のさらなる向上の観点)から、好ましくは0.30~1.90モル%、より好ましくは0.40~1.80モル%、さらに好ましくは0.50~1.70モル%、十分に好ましくは0.60~1.60モル%、より十分に好ましくは0.70~1.50モル%、特に好ましくは0.80~1.30モル%、最も好ましくは0.90~1.20モル%である。
【0040】
酸化防止剤としては、例えば、ハイドロサルファイトナトリウム、L-アスコルビン酸、エリソルビン酸、カテキン、トコフェノール、ブチルヒドロキシアニソールが挙げられ、速やかに水溶することから、ハイドロサルファイトナトリウムが好ましい。当該酸化防止剤は、ポリアリレート樹脂の重合時に添加・使用されるものであり、ポリアリレート樹脂の重合後、ポリアリレート樹脂組成物の製造時に添加・使用される配合剤としての後述の酸化防止剤とは、その種類が相違する。
【0041】
重合触媒としては、例えば、トリ-n-ブチルベンジルアンモニウムハライド、テトラ-n-ブチルアンモニウムハライド、トリメチルベンジルアンモニウムハライド、トリエチルベンジルアンモニウムハライド等の第四級アンモニウム塩;トリ-n-ブチルベンジルホスホニウムハライド、テトラ-n-ブチルホスホニウムハライド、トリメチルベンジルホスホニウムハライド、トリエチルベンジルホスホニウムハライド等の第四級ホスホニウム塩が挙げられる。中でも、高分子量で低末端酸価のポリマーを得ることができることから、トリ-n-ブチルベンジルアンモニウムハライド、トリメチルベンジルアンモニウムハライド、テトラ-n-ブチルアンモニウムハライド、トリ-n-ブチルベンジルホスホニウムハライド、テトラ-n-ブチルホスホニウムハライドが好ましい。重合触媒は成形後樹脂の分解による分子量の低下による耐熱性、耐摩耗性、屈曲性、引っ張り破壊ひずみ特性の低下防止の観点から、上記重合触媒(特に第四級アンモニウム塩)からなる群から選択される1種類の化合物、を用いて製造することが好ましい。
【0042】
本発明のポリアリレート樹脂は、本発明の効果を損なわない限り、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、微粒子無機フィラー、顔料、染料、ポリアリレート樹脂以外の他の樹脂ポリマー等の配合剤を含むポリアリレート樹脂組成物の形態を有していてもよい。本明細書中、ポリアリレート樹脂に、当該ポリアリレート樹脂の重合後、上記の配合剤を添加し、溶融・混練して得られたものをポリアリレート樹脂組成物と呼ぶものとする。ポリアリレート樹脂組成物は通常、ペレット形態を有していてもよい。
ポリアリレート樹脂の重合後に添加される酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、燐系酸化防止剤等が挙げられる。
難燃剤としては、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、例えば、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、サリチル酸オクチル、オクトクリレン、t-ブチルメトキシベンゾイルメタン等が挙げられ、目的とする吸収波長によって使い分けることができる。
流動性改質剤としては、例えば、三菱ケミカル社製メタブレン、各種可塑剤等が挙げられる。
微粒子無機フィラーとしては、例えば、ジルコニア系、シリカ系、シリコン-アクリル系、メラミン系、アクリル系、炭酸カルシウムなどの無機フィラーが挙げられる。
顔料としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック等が挙げられる。
染料としては、例えば、天然染料、油溶染料、塩基性染料、酸性染料等が挙げられる。
他の樹脂ポリマーとしては、例えば、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドが挙げられる。他の樹脂ポリマーとして、本発明のポリアリレート樹脂以外のポリアリレート樹脂を用いてもよい。
【0043】
本発明のポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物は塗膜(またはフィルム)もしくは層の形態を有していてもよい。このような塗膜(またはフィルム)もしくは層は、電気電子分野および自動車分野におけるガラス基板材料およびフォルダブル用途向け材料として有用である。本発明のポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物が層の形態を有するとき、本発明は当該層を基材上に有する積層体を構成していてもよい。基材としては、例えば、ポリエステルフィルム、金属等が挙げられる。
【0044】
ガラス基板材料とは、詳しくは、電気電子分野および自動車分野において、ガラス繊維製の布に含浸するエポキシ樹脂と併用して使用するポリマー材料のことである。
フォルダブル用途向け材料とは、詳しくは、電気電子分野において、画面部分を構成する透明ポリマー材料のことである。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0046】
1.測定方法
(1)インヘレント粘度(ηinh)
1,1,2,2-テトラクロロエタンを溶媒として、濃度1g/dL、温度25℃の条件で、ポリアリレート樹脂の相対粘度(ηrel)を測定した。得られた相対粘度および下記式よりインヘレント粘度を算出した。下記式中、「c」は濃度のことである。
ηinh=ln(ηrel)/c
【0047】
(2)ポリアリレート樹脂の組成
NMR測定装置(日本電子社製JNM-LA400型)を用い、1H-NMR測定を行って、それぞれの組成を求めた。なお、測定溶剤としては、重水素化トリフルオロ酢酸を用いた。
【0048】
(3)ガラス転移温度
示差走査熱分析装置(パーキンエルマー社製Diamond DSC)を使用し、ポリアリレート樹脂を昇温速度10℃/分で30℃から400℃まで昇温し、得られた昇温曲線中の、固体状態から溶融状態に転移することにより発生する吸熱変化の開始温度をガラス転移温度とした。
【0049】
(4)耐熱性
上記(3)で測定したガラス転移温度を、以下の基準で評価した。
◎:210℃以上である。
〇:205℃以上、210℃未満である。
△:200℃以上、205℃未満である。
×:200℃未満である。
【0050】
(5)評価サンプルの作製
ポリアリレート樹脂をクロロホルムに固形分濃度が10wt%になるように溶解し、ポリエステルフィルム(厚み75μm)上に被膜を形成させ評価した。耐摩耗性、引張破壊ひずみ特性、フィルム化成形性(溶液加工)については、乾燥後の膜厚が5μmになるように作製した。屈曲性評価については、乾燥後の膜厚が50μmになるように作製した。
【0051】
(6)耐摩耗性
上記(5)に記載された方法で作製したフィルムを、JIS K7204記載の摩耗試験を実施し試験前後のフィルムの重量減少(mg)を以下の基準で評価した。摩耗輪はCS-10F,荷重は250gで実施した。
◎:摩耗量が0.5mg以下である。
○:摩耗量が0.5より多く0.8mg以下である。
△:摩耗量が0.8より多く1.0mg以下である
×:摩耗量が1.0mgより多い。
【0052】
(7)屈曲性
上記(5)に記載された方法で作製したフィルムを、JIS P 8115記載の耐折強度(MIT)試験を実施しフィルムが破断した回数を以下の基準で評価した。
◎:10000回以上;
○:9000回以上10000回未満;
△:7000回以上9000回未満;
×:7000回未満。
【0053】
(8)引張破壊ひずみ特性
上記(5)に記載された方法で作製したフィルムを、JIS K7127記載の引張試験を実施し、引張破壊ひずみを以下の基準で評価した。試験サンプルは幅10mmで切り出し、試験速度500mm/minで実施した。
◎:130%以上である。
○:120%以上130%未満である。
△:100%以上120%未満である。
×:100%未満である。
【0054】
(9)フィルム化成形性(押出成形)
ポリアリレート樹脂を50mm径単軸押出機(L/D=30)を用いて、厚み100μmのフィルム押出成形を実施した。得られたフィルムについて、以下の基準で評価した。
◎:カール無し。
○:カールが見られるが、カールの起点がフィルム端部から1cm以内にある。
△:カールが見られるが、カールの起点がフィルム端部から3cm以内にある。
×:カールが見られ、カールの起点がフィルム端部から3cmより内側にある。
【0055】
(10)フィルム化成形性(溶液加工)
上記(5)に記載された方法で作製したフィルムを、100℃、5分乾燥させたときの端部のカール具合を、以下の基準で評価した。
◎:カール無し。
○:カールが見られるが、カールの起点がフィルム端部から3cm以内にある。
△:カールが見られるが、カールの起点がフィルム端部から5cm以内にある。
×:カールが見られ、カールの起点がフィルム端部から5cmより内側にある。
【0056】
(11)総合評価
全ての塗膜性能で最も悪い評価結果を総合評価結果として採用した。
【0057】
実施例1
パドル型二枚羽の攪拌装置を備えた2Lの反応容器中に、二価フェノール成分としてBisTMC 14.1質量部、BisA 41.4質量部、末端封止剤としてPTBP 0.3質量部、アルカリとして水酸化ナトリウム(NaOH)32.6質量部、重合触媒としてトリ-n-ブチルベンジルアンモニウムクロライド〔TBBAC〕の50質量%水溶液を1.0質量部、酸化防止剤としてハイドロサルファイトナトリウム0.3質量部を仕込み、水1040質量部に溶解した(水相)。また、これとは別に、塩化メチレン910質量部に、テレフタル酸ジクロリド(TPC)23.0質量部と、イソフタル酸ジクロリド(IPC)23.0質量部を溶解した(有機相)。仕込み組成比率は以下の通りであった。BisTMC:BisA:TPC:IPC:PTBP:TBBAC:NaOH=20.0:80.0:50.0:50.0:1.0:0.68:360(モル%)。水相と有機相の合計量は、1Lであった。水相をあらかじめ400rpmで攪拌しておき、攪拌数を維持しながら有機相を水相中に添加し、15℃で2時間、界面重合法で重合をおこなった。この後、攪拌を停止し、水相と有機相をデカンテーションして分離した。水相を除去した後、塩化メチレン500質量部、純水2000質量部と酢酸2質量部を添加して反応を停止し、15℃で30分間攪拌した。その後、有機相を純水で10回洗浄し、有機相をメタノール中に添加してポリマーを沈殿させた。沈殿させたポリマーを濾過し、乾燥し、ポリアリレート樹脂(長径3mm)を得た。
【0058】
実施例2~18および比較例1~15
表1に示すように、モノマーの仕込み比を変更すること、および所定のインヘレント粘度を有するように界面重合法での末端封止剤(PTBP)の量を調整すること以外は、実施例1と同様の方法により、ポリアリレート樹脂の重合およびフィルムの作製を行った。
特に実施例13および14ならびに比較例7~10においては表1に記載のモノマーを表1に記載の比率で用いた。
【0059】
表1に、ポリアリレート樹脂の組成ならびにその特性値および評価結果を示す。
【0060】
【0061】
なお、表1における略語は、それぞれ以下のものを示す。
TPC:テレフタル酸ジクロリド
IPC:イソフタル酸ジクロリド
OBC:4,4’-オキシジベンゾイルクロリド
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
OBA:4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル
BisA:2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン
BisTMC:1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン
BisZ:4,4’-シクロヘキシリデンビスフェノール
【0062】
表1において、実施例1~14のポリアリレート樹脂は、耐摩耗性、屈曲性、引張破壊ひずみ特性、耐熱性およびフィルム化成形性に優れるものであった。
【0063】
一般的に、ポリマーは分子量が小さいほど、そのインヘレント粘度は低くなり、当該ポリマーの耐摩耗性は低下することが予想されるところ、以下の事象(1)およ(2)が明らかとなった;
事象(1):実施例1,3,4および9~12と実施例2および5との比較より、ポリアリレート樹脂の成分(A)と成分(B)の含有比率((A)/(B))がモル比率で76/24~85/15(特に77/23~83/17)であり、かつ成分(C)と成分(D)の含有比率((C)/(D))がモル比率で80/20~10/90であるとき、インヘレント粘度が比較的広い範囲(例えば1.03~1.29dl/g)でも、より良好な耐摩耗性(◎)を呈する。
【0064】
事象(2):実施例1,3,4および9~10と実施例2および5(特に実施例2)との比較より、ポリアリレート樹脂の成分(A)と成分(B)の含有比率((A)/(B))がモル比率で76/24~85/15(特に77/23~83/17)であり、かつ成分(C)と成分(D)の含有比率((C)/(D))がモル比率で80/20~10/90であるとき、インヘレント粘度が比較的低い範囲(例えば1.03~1.18dl/g、特に1.03~1.15dl/g)でも、より良好な耐摩耗性(◎)を呈することが明らかとなった。
【0065】
表1において、比較例1は、成分(B)としての1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンの配合量が少なく、耐摩耗性に劣る結果となった。
比較例2は、成分(B)としての1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンの配合量が多く、耐摩耗性に劣る結果となった。
耐摩耗性が発現するメカニズムは不明であるが、成分(A)/成分(B)のモル比率が95/5超または72/28未満では耐摩耗性が劣る結果となった。
【0066】
比較例3は、インヘレント粘度が低く、屈曲性に劣る結果となった。
比較例4はインヘレント粘度が高く、フィルム化成形性に劣る結果となった。
比較例5は、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを配合していないため、耐熱性、耐摩耗性、引張破壊ひずみ特性に劣る結果となった。
比較例6は、成分(A)と成分(B)の質量比率が本発明の規定の範囲ではなかったため、耐摩耗性や屈曲性が劣る結果となった。
比較例7は、テレフタル酸ジクロライドではなく4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテルを配合したため、フィルム加工性が劣る結果となった。
比較例8は、イソフタル酸ジクロライドではなく4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテルを配合したため、屈曲性や引張破壊ひずみやフィルム化成形性が劣る結果となった。
比較例9は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンではなく4,4’-シクロヘキシリデンビスフェノールを配合したため、耐摩耗性が劣る結果となった。
比較例10は、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンはなく4,4’-シクロヘキシリデンビスフェノールを配合したため、耐摩耗性や引張は破壊積みが劣る結果となった。
比較例11は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを配合しなかったため、耐摩耗性が劣る結果となった。
比較例12は、イソフタル酸クロライドを配合しなかったため、耐摩耗性や屈曲性や引張破壊ひずみやフィルム化成形性が劣る結果となった。
比較例13は、テレフタル酸クロライドを配合しなかったため、耐摩耗性や引張破壊ひずみやフィルム化成形性が劣る結果となった。
比較例14は、イソフタル酸クロライドを配合しなかったため、屈曲性や引張破壊ひずみが劣る結果となった。
比較例15は、テレフタル酸クロライドを配合しなかったため、耐摩耗性や引張破壊ひずみが劣る結果となった。
本発明のポリアリレート樹脂およびポリアリレート樹脂組成物は、耐摩耗性、屈曲性、引張破壊ひずみ特性、耐熱性、およびフィルム化成形性が要求されるあらゆる用途に有用である。そのような用途として、例えば、電気電子分野および自動車分野におけるガラス基板材料およびフォルダブル用途向け材料が挙げられる。