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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144157
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】溶銑の予備処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/28 20060101AFI20241003BHJP
   C21C 5/32 20060101ALI20241003BHJP
   C21C 1/02 20060101ALI20241003BHJP
   C21C 1/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C21C5/28 H
C21C5/32
C21C1/02 110
C21C1/04 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024025113
(22)【出願日】2024-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2023055868
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 真慧
(72)【発明者】
【氏名】松葉 透
(72)【発明者】
【氏名】池田 拓之
【テーマコード(参考)】
4K014
4K070
【Fターム(参考)】
4K014AA01
4K014AA03
4K014AB03
4K014AB04
4K070AB02
4K070AB03
4K070AB06
4K070BA12
4K070BB02
4K070BC11
(57)【要約】
【課題】地金付きトラブルの発生を抑制し、経済的にも有利な精錬が可能な溶銑の予備処理方法を提供する。
【解決手段】転炉型精錬炉内の溶銑に上吹きランスから気体酸素源を供給して溶銑を脱珪・脱燐処理する第1吹錬工程と、該第1吹錬工程で生成したスラグの少なくとも一部を前記転炉型精錬炉から排出する排滓工程と、該排滓工程後、前記転炉型精錬炉内にCaO系媒溶剤を添加し、前記上吹きランスから気体酸素源を供給して残留させた溶銑を脱燐・脱炭処理する第2吹錬工程と、を含む溶銑の予備処理方法であって、前記第2吹錬工程では、上吹きランスから溶銑浴面への気体酸素源の供給に際し、所定の関係式により求められる酸素衝突圧Pを58800Pa以下となるように吹錬する方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉型精錬炉内の溶銑に上吹きランスから気体酸素源を供給して溶銑を脱珪・脱燐処理する第1吹錬工程と、
該第1吹錬工程で生成したスラグの少なくとも一部を前記転炉型精錬炉から排出する排滓工程と、
該排滓工程後、前記転炉型精錬炉内にCaO系媒溶剤を添加し、前記上吹きランスから気体酸素源を供給して残留させた溶銑を脱燐・脱炭処理する第2吹錬工程と、を含む溶銑の予備処理方法であって、
前記第2吹錬工程では、上吹きランスから溶銑浴面への気体酸素源の供給に際し、下記式(1)~(3)により求められる酸素衝突圧Pを58800Pa以下となるように吹錬する、溶銑の予備処理方法。
=ρ・V/2 (1)
V/(V-Vloss)=d/(2・C・Z) (2)
C=0.016+18600/(P-P) (3)
ここで、P:浴面への酸素衝突圧(Pa)、
ρ:気体酸素源のガス密度(1.43kg/m)、
V:気体酸素源の中心流速(m/s)、
:ノズル出口噴出流速(m/s)、
loss:不適正膨張による流速ロス(m/s)、
:ノズル出口径(m)、
C:定数、
Z:ランス高さ(m)、
:ノズル絶対圧力(Pa)、
:雰囲気圧(Pa)
を表す。
【請求項2】
前記第2吹錬工程は、気体酸素源の供給について、吹錬開始からの累積送酸量が総送酸量の30%未満の範囲では、前記酸素衝突圧Pを10800~11800Paの範囲とし、累積送酸量が総送酸量の30%以上70%未満の範囲では、前記酸素衝突圧Pを14700~15700Paの範囲とし、その残りの累積送酸量が総送酸量の70%以上の範囲では、前記酸素衝突圧Pを49000~50000Paの範囲とする、請求項1に記載の溶銑の予備処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉または転炉形式の精錬炉を使用する製鋼法とそのための溶銑の脱珪・脱燐・脱炭処理を含む溶銑の予備処理方法に関する。以下の記載において、質量の単位である「t」は10kgを表す。また、気体の体積の単位に付す「N」は気体の標準状態での体積を表し、標準状態を0℃、101325Paとする。本明細書中で、数値範囲をあらわす「x~y」は、x以上y以下を表し、境界値を含む。
【背景技術】
【0002】
従来の脱珪・脱燐・脱炭処理工程を含む溶銑の予備処理方法では、溶銑の脱珪・脱燐・脱炭処理を行うために、上吹きランスから気体酸素源を供給している。脱珪・脱燐・脱炭処理を効率的に行うために、送酸速度、ランス高さ、底吹ガス流量の3つの数値を変化させる処理方法が行われている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、転炉型精錬炉を用いて溶銑の脱珪処理と脱燐処理とを、途中の排滓工程を挟んで連続して行う溶銑の予備処理方法が開示されている。脱珪処理後の排滓工程において十分な量のスラグを迅速に炉外に排出することができ、次工程の脱燐処理では、コスト面及び品質面から十分な脱燐処理を行うことを可能とする、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-159632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術には、以下の問題があった。
特許文献1に開示の技術は、送酸速度、ランス高さ、底吹ガス流量の具体的数値が確立していない。そのため、脱燐・脱炭処理工程において、脱燐処理の品質は改善された。一方、吹錬中に噴出・発生した地金が転炉設備のフード部分に付着・落下する場合があった。そして、その地金を除去するために操業コストが増加するのを改善する余地があった。
【0006】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであって、吹錬中に発生した地金が転炉設備のフード部分に付着・落下するトラブルの発生を抑制し、経済的にも有利な精錬が可能な溶銑の予備処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる溶銑の予備処理方法は、転炉型精錬炉内の溶銑に上吹きランスから気体酸素源を供給して溶銑を脱珪・脱燐処理する第1吹錬工程と、該第1吹錬工程で生成したスラグの少なくとも一部を前記転炉型精錬炉から排出する排滓工程と、該排滓工程後、前記転炉型精錬炉内にCaO系媒溶剤を添加し、前記上吹きランスから気体酸素源を供給して残留させた溶銑を脱燐・脱炭処理する第2吹錬工程と、を含む溶銑の予備処理方法であって、前記第2吹錬工程では、上吹きランスから溶銑浴面への気体酸素源の供給に際し、下記式(1)~(3)により求められる酸素衝突圧Pを58800Pa以下となるように吹錬することを特徴とする。
=ρ・V/2 (1)
V/(V-Vloss)=d/(2・C・Z) (2)
C=0.016+18600/(P-P) (3)
ここで、P:浴面への酸素衝突圧(Pa)、
ρ:気体酸素源のガス密度(1.43kg/m)、
V:気体酸素源の中心流速(m/s)、
:ノズル出口噴出流速(m/s)、
loss:不適正膨張による流速ロス(m/s)、
:ノズル出口径(m)、
C:定数、
Z:ランス高さ(m)、
:ノズル絶対圧力(Pa)、
:雰囲気圧(Pa)
を表す。
【0008】
なお、本発明にかかる溶銑の予備処理方法は、前記第2吹錬工程は、気体酸素源の供給について、吹錬開始からの累積送酸量が総送酸量の30%未満の範囲では、前記酸素衝突圧Pを10800~11800Paの範囲とし、累積送酸量が総送酸量の30%以上70%未満の範囲では、前記酸素衝突圧Pを14700~15700Paの範囲とし、その残りの累積送酸量が総送酸量の70%以上の範囲では、前記酸素衝突圧Pを49000~50000Paの範囲とすることがより好ましい解決手段になり得る。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸素吹錬中の酸素衝突圧を適正に管理したので、吹錬中に発生した地金が転炉設備のフード部分に付着・落下するトラブルの発生を抑制し、経済的にも有利な溶銑の予備処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(A)~(E)は、本発明の一実施形態にかかる溶銑の予備処理方法を工程順に示す概略図である。
図2】本発明の吹錬のパターン図である。
図3】本発明範囲外の吹錬のパターン図である。
図4】本発明法と本発明範囲外での地金によるトラブル発生件数の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための設備や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
図1(A)~(E)に、本発明の一実施形態にかかる溶銑の予備処理方法を工程順に概略図で示す。本実施形態では、まず、装入鍋14から転炉型精錬炉1内に新たな溶銑9aを受け(図1(A))、転炉型精錬炉1内の溶銑9に上吹きランス2から気体酸素源としての酸素含有ガス12を供給して溶銑9を脱珪・脱燐処理する第1吹錬工程(図1(B))を行う。次いで、第1吹錬工程で生成したスラグ10の少なくとも一部を転炉型精錬炉1から排出する排滓工程(図1(C))を行う。次いで、排滓工程後、転炉型精錬炉1内にCaO系媒溶剤を添加し、上吹きランス2から気体酸素源としての酸素含有ガス12を供給して残留させた溶銑9を脱燐・脱炭処理する第2吹錬工程(図1の(D))を行う。次いで吹錬完了後の溶銑9を出湯する。(図1(E))
【0013】
本実施形態では、第2吹錬工程の酸素吹錬中の酸素衝突圧Pを管理して、吹錬中の地金の飛散を抑制するように制御する。上吹きランス2からの酸素衝突圧は下記式(1)~(3)によって求めることができる。
=ρ・V/2 (1)
V/(V-Vloss)=d/(2・C・Z) (2)
C=0.016+18600/(P-P) (3)
ここで、P:浴面への酸素衝突圧(Pa)、
ρ:気体酸素源のガス密度(1.43kg/m)、
V:気体酸素源の中心流速(m/s)、
:ノズル出口噴出流速(m/s)
loss:不適正膨張による流速ロス(m/s)
:ノズル出口径(m)、
C:定数、
Z:ランス高さ(m)、
:ノズル絶対圧力(Pa)、
:雰囲気圧(Pa)
を表す。
【0014】
第2吹錬工程では、脱燐効率向上のために単位時間当たりの送酸量を高め、上吹きランスの高さを低くして酸素衝突圧Pを高める吹錬が行われる。その場合、酸素衝突圧Pが58800Paを超えると酸素噴流によって溶銑9表面から大量の粒鉄が飛散することになる。その粒鉄が転炉設備のフード部分に堆積して地金付きとなったり、落下して周辺設備を損傷させたりするトラブルが頻発するおそれがある。したがって、第2吹錬工程における上吹きランス2から溶銑に吹き付ける酸素含有ガス12の酸素衝突圧Pは最大でも58800Paに制限する。
【0015】
一方、酸素衝突圧を下げ過ぎると、脱燐効率が低減し、処理時間の延長等の弊害が起こる。そのため、第2吹錬工程中の酸素衝突圧Pは少なくとも9800Pa以上とすることが好ましい。
【0016】
本実施形態にかかる溶銑の予備処理方法について詳細に説明する。
転炉型精錬炉1を用いる本実施形態にかかる溶銑の予備処理方法は、図1のフローに示すように、(A)溶銑装入工程、(B)第1吹錬工程、(C)排滓工程、(D)第2吹錬工程、(E)出湯工程、の順に行なうものであり、特に、同一炉においてこれらの工程を繰返し実施することにより、効率的な溶銑の予備処理が可能となるので好ましい。
【0017】
[溶銑装入工程]
まず、溶銑装入工程(A)について説明する。この工程(A)では、転炉型精錬炉1内に前回の溶銑の予備処理において生成した第2吹錬工程終了後のスラグ(以下、単に「脱燐・脱炭処理後スラグ」という)17を残留させたまま、装入鍋14より新たな溶銑9aを装入することが好ましい。一方で、前回の溶銑の予備処理後の転炉型精錬炉1の炉壁には脱燐・脱炭処理後スラグが付着していることが多い。また、溶銑装入前に鉄スクラップなどの冷鉄源11を装入した後に溶銑9aを装入する。予め装入する冷鉄源11としては、日本鉄源協会の「鉄スクラップ検収統一規格」に規定されている鉄スクラップの他、直接還元鉄、冷銑などの鉄を主成分とするものでもよい。
【0018】
ここで、次回の精錬に備え、精錬炉1内に残留させておく、または、炉壁に付着残留した前回の脱燐・脱炭処理後スラグ17は、後に続く第1吹錬工程時のスラグ塩基度を調節する目的で使用されるものである。この脱燐・脱炭処理後スラグの塩基度、つまり、質量基準でスラグ中の(SiO)に対する(CaO)の濃度比(CaO)/(SiO)(以下、単に「塩基度」という)は1.2以上が好ましく、より好ましくは1.4以上とする。その理由は、この前回の第2吹錬工程終了時の脱燐・脱炭処理後スラグ17の塩基度が1.2未満では、このスラグを残留させても第1吹錬工程における塩基度調節には不十分なおそれがあるからである。そのため、第1吹錬工程の脱珪処理で多量の石灰系媒溶材を添加することが必要になるからである。なお、上記脱燐・脱炭処理後スラグの塩基度の上限については特に限定しない。通常は、溶銑の脱燐・脱炭処理でのスラグの塩基度を3.0程度以下とする。そこで、これ以上に塩基度を高める必要はない。
【0019】
また、炉内に残留させておく前回の脱燐・脱炭処理後スラグ17の量は、塩基度の調節を効果的に行なうためには、前回の溶銑の脱燐・脱炭処理時に生成したスラグ量の30質量%以上が好ましい。60質量%以上とすることがより好ましい。本実施形態では第2吹錬工程を経て出湯した後、炉内に残留させたスラグの全量を新たな溶銑の脱珪処理に活用すれば脱珪処理での塩基度調節にさらに効果的である。その上、このような方法を継続的に行えば、排出される予備処理スラグは第1吹錬工程後のスラグのみで均質なものとなる。したがって、予備処理スラグに塩基度の高い脱燐・脱炭処理後スラグが混入しない。そのため、水和反応によるスラグの膨張やアルカリの溶出といった問題も生じない。ゆえに、スラグの利材化を図る上でも本実施形態は極めて有効である。
【0020】
なお、上記脱燐・脱炭処理後スラグは、比較的高塩基度で、比較的高融点であり、比較的低温(1350℃程度以下)であることから流動性は小さい。そのため、この脱燐・脱炭処理後スラグ上に冷鉄源を装入しても、冷鉄源がスラグにくるまれて溶解が遅れるようなことはない。いわゆる脱炭スラグを炉内に残留させておくときのように多量の冷却材を添加して固化させるような、熱収支上および物質収支上非効率的な操作は必要なくなる。また、この脱燐・脱炭処理後スラグは、上記の特性から固相に富んで流動性が低いことから、組織内に大量の微細な金属鉄分を含有している。そのため、スラグを固化し、粉砕後磁選処理した後でも、10質量%程度以上の金属鉄分を含んでいる。従来、このスラグを系外に排出していた。本実施形態によれば、この脱燐・脱炭処理後スラグを次回の精錬処理に持ち越すことができるので、この脱燐・脱炭処理後スラグ中の金属鉄分の大部分を溶銑中に回収して、鉄損失を削減する効果もある。一方、第1吹錬工程後のスラグについては、流動性が比較的高いため、該スラグ中の金属鉄分が粗大化しやすい。したがって、このようなスラグは、スラグの粉砕および磁選処理後に回収されずにスラグ中に残留するような金属鉄分は少ない。それゆえ、本実施形態では、溶銑の予備処理全体を通じてスラグ中への鉄損失を削減できる。
【0021】
[第1吹錬工程]
次に、図1(B)に示す第1吹錬工程(B)について説明する。この工程(B)は、転炉型精錬炉1を直立させ、送酸ランス2を介して溶銑9に気体酸素源としての酸素含有ガス12を供給し、脱珪・脱燐を行なう処理である。この第1吹錬工程においては、ホッパーに収容されたSi源およびホッパーに収容された石灰系媒溶材を、それぞれシュートを介して転炉型精錬炉1内に添加することができる。そのほか、熱源となる炭材やSi源あるいは酸素源となる酸化鉄なども同様に添加することができる。脱珪・脱燐処理のための酸素源としては、多量の冷鉄源11を溶解させる観点からは、吸熱量の大きい酸化鉄を用いずに酸素含有ガス12のみを用いることが好ましい。特に純酸素を用いることが好ましい。底吹き羽口3から底吹きガス13を吹き込んで撹拌することが好ましい。
【0022】
この脱珪処理において、溶銑9a中に含まれるSiあるいはSi源および冷鉄源11に含有していて溶解により溶銑中に移行するSiは、酸素源と反応(Si+O→SiO)して脱珪される。そのため、その後の第2吹錬工程における脱燐反応効率を高めるのに役立つ。また、溶銑9a中に含まれるPが同時に脱燐される。この第1吹錬工程ではケイ素やリンの酸化熱が発生し、この酸化熱で溶湯温度が上昇して溶銑中の冷鉄源11の溶解が促進される。この第1吹錬工程でのスラグの組成は、炉内に予め残留させた前回の脱燐・脱炭処理後スラグ17の量およびその組成の推定値と、上記反応により生成するSiOの生成量とを考慮して決定する。
【0023】
すなわち、第1吹錬工程中のスラグの塩基度は、0.8以上1.5以下に調整することが好ましい。その理由は、第1吹錬工程中のスラグ塩基度が0.8よりも小さいと、溶銑中の[Si](質量%)濃度によっては、脱燐・脱炭処理後スラグ17の脱燐能低下によって復燐する現象、つまり溶銑中の[P]濃度の上昇が見られるからである。一方、このスラグ塩基度が1.5よりも大きいと、未滓化CaOの増大による固相率が上昇するために、第1吹錬工程中のスラグの流動性が悪くなり、このスラグを排滓できない場合が生じる。好ましいスラグの塩基度の上限は1.2程度である。
【0024】
次に、第1吹錬工程終了時のスラグの塩基度は、0.5以上1.5以下になるように調節することが好ましい。この段階でのスラグの塩基度が0.5未満では、スラグの粘性が高くなり、次工程の排滓工程で良好な排滓率を確保することができないおそれがある。したがって、第1吹錬工程終了時のスラグの塩基度は0.5以上が好ましく、より好ましくは0.8以上とする。また、この段階でのスラグ塩基度が1.5より高くなると、スラグの流動性が低下するため、次の排滓工程時の排滓量が少なくなったり排滓量の制御が難しかったりする問題がある。それは、石灰系媒溶材を削減するうえでも効率的でない。したがって、第1吹錬工程終了時のスラグ塩基度は1.5以下が好ましく、より好ましくは1.2以下とする。なお、塩基度の調節には、生石灰や石灰石、ドロマイトなどの石灰系媒溶材の他、脱炭スラグや脱リンスラグ、取鍋スラグなどから選ばれる製鋼スラグを媒溶材として用いることができる。
【0025】
第1吹錬工程終了時の溶湯温度は、1240℃以上1400℃以下に調節することが好ましい。それは1400℃よりも高温になると、炉内に残留させた、または、残留した脱燐・脱炭処理後スラグ17から復燐を起こして溶銑中[P]濃度の上昇を招くからである。そのため、後工程での脱燐負荷が大きくなって効率的ではない。それだけでなく、内張りのマグネシアカーボンレンガの損耗を防止するためにスラグ中のマグネシア(MgO)濃度を上昇させることも必要となってコスト高となるからである。より好ましくは1350℃以下とする。一方、1240℃未満では、スラグの流動性が低下し、次の排滓工程時の排滓量が少なくなったり排滓量の制御が困難になったりする問題がある。くわえて、スクラップの溶解速度が低下するからである。より好ましくは1260℃以上とする。
【0026】
また、この段階での溶湯温度というのは、のちの第2吹錬工程において、脱燐を効率よく行なうためにも制御することが必要である。たとえば、第1吹錬工程終了時の溶湯温度を1350℃以下とすれば、第2吹錬工程において温度調節のために添加する鉄鉱石などの冷却材を大幅に削減することができる。なお、同一炉において脱珪・脱燐処理と脱燐・脱炭処理を続けて行なう場合、脱燐・脱炭処理前にもスクラップを添加することは作業時間の点で困難であるという事情もある。また、処理中に炉上から添加できる冷鉄源は、整粒された高価なものであったり、製鉄所内で発生する地金など量的に限られたものであったりする。そのため、冷鉄源を脱燐・脱炭処理時に定常的に大量に使用することは難しい。実際には炉上投入装置で使用できる副原料の種類数も制約される。その場合、冷鉄源を炉上から添加しないこともある。要するに、従来、脱燐・脱炭処理工程において利用している冷却材は、鉄鉱石などの酸化鉄に限られていて、スクラップなどの安価な冷鉄源を十分に活用できないのが普通である。
【0027】
なお、第1吹錬工程後の溶湯温度は、熱電対等による測定値を用いてもよいし、熱収支からの推算値を用いてもよい。熱収支からの推算方法では、個別の装置条件や操業条件に応じて係数を調節したり、変数を追加あるいは削除したりして適用することができる。なお、脱珪・脱燐処理後にスクラップの溶け残りがあると、測定値の方が推算値よりも若干高くなる傾向はあるが、誤差程度であって使用に差し支えない。
【0028】
添加物中にはその他に炭素を含有してもよい。この炭素としては、コークスあるいは土状黒鉛などの炭材の他、前述の炭化Siなどの炭化物中の炭素が用いられる。また、媒溶材としては、生石灰や軽焼ドロマイト、マグネシアクリンカなどの副原料が使用される。その他、脱リンスラグ、脱炭スラグ、取鍋スラグなどのスラグも酸化カルシウム源あるいは酸化マグネシウム源として使用できる。また、安価な副原料の例としては、カルシウムあるいはマグネシウムの炭酸化物や水酸化物などを利用してもよい。ただし、これらは吸熱量が大きいため大量に使用する場合は他の媒溶材と区別して熱収支の推算値を修正することが好ましい。
【0029】
添加するSi源としては、フェロシリコンを用いることができる。また、より安価な炭化Siを主成分とする炭化Siブリケットや炭化Siを主成分とする廃棄耐火物などを使用することが好ましい。なお、熱源としてこのSi源のみを使用する必要はなく、生産性が低下しない範囲で炭材などの他の熱源を併用してもよい。その炭材は、第1吹錬工程終了時の溶銑中[C]濃度が3.3質量%以上となるように、脱炭量等を予測して添加することが好ましい。それは3.3質量%未満では、その後に続く脱燐および脱炭の工程において熱源が不足するからである。それと共に、スクラップ等の冷鉄源表面での浸炭速度が低下し、冷鉄源の溶解速度の低下を招くからである。
【0030】
なお、後で詳述するが、第1吹錬工程後のスラグ10の排滓性を高めるためには、転炉型精錬炉1内でスラグに適度なフォーミングを起こさせることが好ましい。そのためには溶銑中の炭素とスラグ中の酸化鉄の反応によって発生するCOガスの発生速度を高めることが有効である。したがって、次の排滓工程において安定した排滓率を得るためには、溶銑中および添加したSi源中のSiを酸化するのに必要な化学量論以上の酸素を供給することが好ましい。
【0031】
第1吹錬工程中に溶銑に供給する酸素の原単位は、化学量論的に脱珪に必要な量に2Nm/t-溶銑以上、より好ましくは4Nm/t-溶銑以上を加えた量とすることが好適である。本実施形態では、このような送酸を行なって第1吹錬工程終了時における溶銑中[Si]濃度を0.2質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下とする。このことによって、第1吹錬工程後に排滓する際にもフォーミング状態を維持して排滓性を良好に保つことができる。それと共に、スラグから溶銑への復燐を抑制することができるようになる。脱珪処理のための酸素吹錬は、上吹き送酸速度が1~2Nm/(min・t-溶銑)が好ましい。上吹きランス高さZは2.2~3.3mが好ましい。前記関係式で求めた酸素衝突圧Pを10800Pa以下とすることが好ましい。同時に、底吹きガスの吹き込み速度は0.02~0.2Nm/(min・t-溶銑)程度のときに、前記の効果が得られることを確認している。
【0032】
なお、溶銑中の[Si]濃度の制御は、上記のスラグの塩基度の制御および溶湯温度の制御と組み合わせることが好ましい。そうすることによって、前回の処理における脱燐・脱炭処理後スラグを全量炉内に残したまま第2吹錬工程を行なっても、復燐を招くことなく脱燐・脱炭処理後スラグ中の石灰分を有効に活用することができる。また、この溶銑中の[Si]濃度、スラグの塩基度および溶湯温度の制御を組み合わせると共に、前回の処理における脱燐・脱炭処理後スラグを炉内に残留させることによって、スラグ中の(P)濃度を高めることができる。このことによってもスラグのフォーミングは促進される。とくに、このスラグ中の(P)はスラグの表面張力を低下させる効果があり、溶銑との反応や微細気泡の分散を促進する。そのことから、全鉄濃度(T.Fe)が10質量%程度といった比較的低い酸化鉄濃度においても、スラグのフォーミングを維持して排滓性を良好に保つことができるものと考えられる。
【0033】
[排滓工程]
次に、図1(C)に示す排滓工程(C)について説明する。本実施形態にかかる溶銑の予備処理方法では、上述した第1吹錬工程の後に排滓処理を行う。つまり、前記第1吹錬工程時に発生した大量のSiOを含む低塩基度の処理後スラグを該転炉型精錬炉1から排出する排滓処理を行なう。処理後スラグ10の排滓は、次工程の第2吹錬工程において、適切なスラグ塩基度に調節するための石灰系媒溶材の使用量を低減するために有効である。また、本実施形態では、前回の溶銑の予備処理時に生成した脱燐・脱炭処理後スラグを大量に炉内に残留させたまま新たな溶銑の脱珪・脱燐処理を行なう。その場合、スラグから溶銑への復燐を防止するように脱珪・脱燐処理するため、スラグ中の(P)濃度が従来よりも高くなる。処理後スラグを大量に残留させた場合、次の第2吹錬工程における炉内スラグ中の(P)量が過大になって脱燐効果が低下することから、これを防止する上でも重要である。
【0034】
本実施形態にかかる溶銑の予備処理方法において特徴的なことは、前述した(A)~(E)の処理を繰返し連続して実施する場合において、第1吹錬工程後のスラグの排出が不十分だと(P)の炉内への蓄積が進むことから注意を要する。それは、脱燐・脱炭処理段階において炉内スラグ中の(P)量が多くなりすぎると、スラグ中の(P)濃度の上昇により脱リン反応効率が低下して処理後の溶銑中[P]濃度が上昇するからである。くわえて、脱燐反応のために必要な石灰系媒溶材の使用量が増大するからである。
【0035】
そこで、本実施形態において、第1吹錬工程後のスラグの排滓率は、少なくとも40質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上とすることである。ここで、排滓率(質量%)は排出スラグの質量を第1吹錬工程終了時炉内スラグの質量で除した値の百分率とする。排滓率が40質量%未満では、上記のように次工程の脱リン処理における石灰系媒溶材の使用量が増大するからである。また、これによってスラグ量が増大するとスラグフォーミングを抑制することができなくなり、脱リン処理時に炉口からのスラグ噴出が発生し、スラグ噴出による操業障害を招くことがある。
【0036】
このように、本実施形態にかかる溶銑の予備処理方法では、第1吹錬工程終了時のスラグの塩基度を0.5~1.5の範囲内となるように、第1吹錬工程終了時の溶湯温度が1240℃以上1400℃以下となるようにすることが好ましい。さらに酸素原単位を適性化してスラグフォーミングを促進するようにすれば、良好なスラグの流動性とガスホールドアップを確保することができる。そして、第1吹錬工程終了後に炉体を傾動して炉口からスラグを流出させるだけで良好な排滓率を得ることができるようになる。溶銑を流出させないように炉体の傾動角度を調節してスラグを流出させる場合、ある程度のスラグ量は炉内に残留させざるを得ない。ただし、フォーミングしているスラグの容積率は1/10程度であり真比重に比べて嵩比重が低下している。そのため、炉内に残留するスラグ量を低めに制御できる。なお、スラグのフォーミングが沈静化してしまった場合、スラグの排滓率の低下を招くため、第1吹錬工程終了から排滓のための炉体傾動開始までの時間は4分以内で行なうことが好ましい。
【0037】
この排滓工程の段階において求められる第1吹錬工程終了時のスラグの塩基度は、0.5未満ではスラグの粘性が高くなり、良好な排滓率を確保することができないおそれがある。一方、この第1吹錬工程終了時のスラグの塩基度が1.5を超えると、固相スラグが生じてスラグの流動性が低下し、排滓率が低下するおそれがある。このように、スラグの排滓性および排滓率を確保するという観点からは、スラグの塩基度を0.5~1.5程度にすることが好ましい。ただし、第1吹錬工程におけるスラグからの復燐防止や石灰系媒溶材の使用量を削減させるという観点からは、スラグの塩基度を0.8~1.2の範囲に調整することがより好ましい。
【0038】
また、排滓工程の段階における第1吹錬工程終了時のスラグ中の全鉄(T.Fe)、すなわち酸化鉄と溶銑またはスラグ中に懸濁する炭素を含有する粒鉄との反応により生成する微細なCO気泡によってスラグフォーミングが進行する。適正な(T.Fe)濃度範囲を検証するため、別途確認したところ、全鉄(T.Fe)が5質量%未満の場合、スラグフォーミングが不十分であることがわかった。そのため、転炉傾動によりスラグ排出する際の駆動力が小さく、十分な排出が困難であった。一方、全鉄(T.Fe)が25質量%超えの場合、流滓中のCO気泡発生が急激に進行し、突沸現象が確認されたため、スラグ排出作業を中断するなどを余儀なくされた。このようにして、第1吹錬工程終了時、すなわち排滓工程におけるスラグ中の全鉄(T.Fe)の適正範囲を、5~25質量%とすることが好ましい。
【0039】
また、この排滓工程の排滓処理において、第1吹錬工程終了時のスラグの温度が低い、たとえば、1240℃未満であると固相スラグの生成に伴うスラグ粘性の上昇、液相スラグの粘性上昇を招く。そして、スラグの流動性が低下して排滓率の低下を招く。したがって、使用する溶銑の初期条件によって、冷鉄源原単位を調節すると共に、炭化Siやフェロシリコンなどの熱源添加量および酸素原単位のうち少なくとも一つを調節することが好ましい。そして、第1吹錬工程終了時の溶湯温度を1240℃以上とすることにより、スラグ温度も1240℃以上となる。より好ましくは、溶湯温度を1260℃以上とすることである。
【0040】
ただし、生成した第1吹錬工程後のスラグのすべてを排滓してしまうと、次工程の脱燐・脱炭処理において新たに添加する石灰系媒溶材の滓化が遅れる。そして、脱燐反応の阻害要因となる。これに対し、蛍石を添加して滓化を促進させることができる。しかし、それでは、上述したように、スラグの用途が制約を受け、スラグの利用が阻害されることになる。また、鉄鉱石などの酸化鉄を添加して滓化を促進する方法もある。ただし、この方法だと酸化鉄の分解吸熱反応による熱損失が大きい。そのため、冷鉄源の溶解に利用できる熱量が減少するので得策ではない。
【0041】
したがって、脱燐・脱炭処理段階において蛍石や酸化鉄を使用しないで石灰系媒溶材の滓化を促進するには、炉内に適度な量の好ましい組成・温度の第1吹錬工程後のスラグ10を残留させることが好ましい。そのスラグ中のSiOや酸化鉄を利用して滓化を促進することが有効である。なお、第1吹錬工程後のスラグを排出する際には、炉体の傾転角度を調節することにより4~20kg/t-溶銑の第1吹錬工程後のスラグが炉内に残留するように排出することが好ましい。好適スラグ排滓率40質量%以上、より好ましくは60質量%以上を維持することができる。これにより、第2吹錬工程段階で酸化鉄を使用しなくても脱燐反応を効率よく促進できる。そして、酸化鉄の分解吸熱による反応熱分を間接的に第1吹錬工程での冷鉄源溶解のための熱として活用することが可能となる。この点、第1吹錬工程後のスラグの残留量が4kg/t-溶銑未満では、次の第2吹錬工程において石灰系媒溶材の滓化促進のために酸化鉄を使用することが必要となる。一方、これが20kg/t-溶銑を超えると、石灰系媒溶材の使用量が増大したり、第2吹錬工程の操業が阻害されたりするおそれがある。
【0042】
[第2吹錬工程]
次に、図1(D)に示す第2吹錬工程(D)について説明する。排滓工程(C)の後は、同じ転炉型精錬炉1内に残留させた溶銑9に石灰系媒溶材を添加すると共に、気体酸素源となる酸素吹錬を行なって、溶銑9の脱燐・脱炭処理を行なう。この第2吹錬工程において使用する酸素源は、送酸ランス2からの酸素含有ガス12のみを使用することが熱ロスを低減するうえで好ましい。底吹き羽口3から底吹きガス13を吹き込んで撹拌することが好ましい。溶銑中の[P]は、供給される酸素源中の酸素により酸化されて燐酸化物(P)となる。この燐酸化物が、石灰系媒溶材の滓化によって生成するスラグ中に安定的に取り込まれて、溶銑の脱燐が進行する。脱燐反応を効率よく進めるには、第2吹錬工程後のスラグ(当該予備処理時の脱燐・脱炭処理後スラグ17)の塩基度は1.2以上3.0以下となるように石灰系媒溶材を添加し、かつ送酸によって第2吹錬工程終了後の溶湯温度が1280℃以上1360℃以下となるようにして第2吹錬工程を行なうことが好ましい。より好ましくは、スラグの塩基度を1.4以上とする。
【0043】
この第2吹錬工程時に生成した脱燐・脱炭処理後スラグ17のスラグ塩基度が1.2未満あるいは溶湯温度が1360℃超えでは、スラグの脱リン能が低下して、処理後の溶銑中[P]濃度を十分に低下できない場合がある。一方、そのスラグ塩基度が3.0を超えると石灰系媒溶材の滓化が困難となり、石灰系媒溶材の利用効率が低下し、コストが上昇するおそれがある。溶湯温度が1280℃未満でも、やはり石灰系媒溶材の滓化が困難となり、脱燐能が低下するほか、後工程の脱炭処理時の熱量が不足するおそれがある。そして、脱炭工程の段階における熱量を十分に確保するには、第2吹錬工程終了後の溶湯温度を1280℃以上1360℃以下とすることが好ましい。それと共に、第2吹錬工程終了時の溶銑中炭素濃度が2.5質量%以上となるように、第1吹錬工程および第2吹錬工程での酸素使用量や炭素添加量を調節することが好ましい。
【0044】
本実施形態に従う操業を行なうに当たり、溶銑の[Si]濃度、[P]濃度、溶湯温度が変化し、第1吹錬工程終了時の溶湯温度が低いケース、もしくは溶銑の[P]濃度が高く脱リン負荷が大きいケースが生じる。その場合、第2吹錬工程における石灰の溶解促進を図るため、粉状の石灰もしくは炭酸カルシウム等の石灰源を送酸ランスからまたは別途設置したランスから酸素ガスもしくは不活性ガスにより溶湯面に吹付けることが有効である。上吹き酸素が溶湯面に照射された領域では、直接脱炭反応や鉄酸化が生じることにより、2000℃程度の高温になっており、その領域に粉状の石灰源が添加されることで、溶融が促進される。
【0045】
本実施形態に従う溶銑の予備処理方法では石灰の溶融に寄与するSiO含有スラグを第1吹錬工程後に排出するため、粉状石灰源の投射による早期溶解が有効となる。また、この方法では、溶銑中のSiの酸化熱を利用し、冷鉄源の溶解を促進される。したがって、溶銑中のスクラップの溶解速度については、より高温での操業が好ましい。しかし、第2吹錬工程中の復燐の防止および脱燐反応の促進について、高温処理はむしろ不利になる。そこで、本実施形態では上記の上吹き酸素が噴射される領域に粉状の酸化鉄を同時に上吹きすることにより、酸化鉄の分解反応(吸熱反応)によって反応領域のみを局所的に冷却することが好ましい。そして、マクロ的には高温である条件において、脱燐の促進もしくは復燐の抑制を図ることが可能となる。ここで、石灰や炭酸カルシウムを含有する副原料としては、それぞれ単体だけでなく、転炉脱炭吹錬時に発生するスラグなどの再利用物等でも構わない。また、酸化鉄についても鉄鉱石等の単体だけでなく、圧延スケール、焼結鉱粉、集塵ダストなどの再利用物を使用してもよい。
【0046】
本実施形態では、酸素噴流が粒鉄を飛散させるトラブル防止のために、第2吹錬工程の酸素衝突圧Pを58800Pa以下となるようにして吹錬する。一方で脱燐効率の観点から、第2吹錬工程中の酸素衝突圧Pは少なくとも9800Pa以上とすることが好ましい。上記したように、第2吹錬工程では、当初第1吹錬工程後に残留したスラグがフォーミングしており、石灰系媒溶材の添加とともにフォーミングが沈静化し、上吹きランスの酸素ジェットの溶銑への到達が顕著になる。たとえば、第2吹錬工程の総送酸量に対する累積送酸量の比で30%未満の範囲では、酸素衝突圧Pを10800~11800Paの範囲とし、累積送酸量が総送酸量の30%以上70%未満の範囲では、酸素衝突圧Pを14700~15700Paの範囲とし、その残りの累積送酸量が総送酸量の70%以上の範囲では、酸素衝突圧Pを49000~50000Paの範囲とすることが好ましい。この範囲であれば、吹錬中に発生した地金が転炉設備のフード部分に付着・落下するトラブルの発生を抑制し、経済的にも有利な精錬が可能である。加えて、従来よりも溶銑中の[P]濃度を低位に安定して処理することができる。また、第2吹錬工程の送酸速度は2.2~2.6Nm/(min/t-溶銑)が好ましい。底吹きガス流量は0.04~0.15Nm/(min/t-溶銑)が好ましい。
【0047】
[出湯工程]
次に、図1(E)に示す出湯工程(E)について説明する。この工程(E)では、上記の第2吹錬工程を経て溶銑中の[P]濃度が所定の値にまで低下したとき、該転炉型精錬炉1を出湯口が設置された側に傾転させて、転炉型精錬炉内の溶銑を溶湯保持容器(図示せず)に出湯する。なお、前記所定の[P]濃度としては、0.030質量%以下とすることが好ましい。出湯工程では容器内にスラグの塩基度が1.2以上である脱燐・脱炭処理後スラグのうち30質量%以上を残留させることが好ましい。
【0048】
以上説明したように、本実施形態に係る溶銑の予備処理方法においては、酸素吹錬における酸素衝突圧Pを適切に制御することで吹錬中に発生した地金が転炉設備のフード部分に付着・落下するトラブルの発生を抑制し、経済的にも有利な精錬が可能な溶銑の予備処理を実現できる。
【0049】
くわえて、本実施形態では第2吹錬工程時に添加する石灰系媒溶材の量を必要最小限とすることができる。溶銑の精錬処理全体の副原料原単位の削減に寄与する。
【実施例0050】
(実施例1)
図2に本発明にかかる吹錬パターンを示す。図2(a)が第1吹錬工程の吹錬パターンであり、図2(b)が第2吹錬工程の吹錬パターンである。表1はこの発明例にかかる吹錬時期(総送酸量に対する累積送酸量の比率)における各種吹錬諸元の値をまとめた。あわせて、冶金特性および地金付きを評価して併記した。評価基準は以下のとおりである。
(1)冶金特性(対従来例)
溶銑中[P]濃度が従来例より悪化しているかどうかで下記評価を行った。
〇:従来例の溶銑中[P]濃度より、低位
△:従来例の溶銑中P濃度と同等、または、低位
×:従来例の溶銑中[P]濃度より高位
(2)地金付(対従来例)
転炉設備のフード部分に地金が付着するか否かを基準に下記評価を行った。
小:フード地金付きなく、地金によるトラブルなし
中:フード地金付きあるが、地金によるトラブルなし
大:フード地金付きあり、かつ、地金によるトラブルあり
【0051】
図3に従来例にかかる吹錬パターンを示す。図3(a)が第1吹錬工程の吹錬パターンであり、図3(b)が第2吹錬工程の吹錬パターンである。表2はこの従来例にかかる吹錬時期(総送酸量に対する累積送酸量の比率)における各種吹錬諸元の値をまとめた。あわせて、冶金特性および地金付を評価して併記した。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
図4に発明例および従来例の転炉設備のフードの地金付きトラブル発生頻度を比較して示す。図4では、発明例の場合の地金付きトラブル発生頻度を1に基準化して比較した。従来例は発明例の14倍の頻度で地金付きトラブルが発生していた。
【0055】
(実施例2)
表3および表4に各種吹錬条件を示し、あわせて、冶金特性および地金付を評価して併記した。その吹錬条件で操業した結果を以下にまとめる。表3および表4中でStep1~4および5~8の累積送酸量/総送酸量(%)は表1および2と同じである。
処理No.1および2は、第2吹錬工程の酸素衝突圧が好適範囲内で低位にあり、地金付きなく操業できた発明例である。溶銑中[P]濃度は従来と同等または低位であった。
処理No.3は、第2吹錬工程の酸素衝突圧の最高値を好適範囲内で処理No.1および2より高めた発明例である。フード地金付きはあったが地金トラブルはなかった。溶銑中[P]濃度は従来より低位であった。
処理No.4、5は、第2吹錬工程が好適範囲にあり、第1吹錬工程の酸素衝突圧Pが高すぎて、フォーミング過多となった発明例である。フード地金付きはあったが地金トラブルはなかった。溶銑中[P]濃度は従来と同等または低位であった。
処理No.6は、第2吹錬工程の酸素衝突圧Pが高すぎて、地金付きによるトラブルが頻発した比較例である。溶銑中[P]濃度は従来より高位であった。
処理No.7は、第2吹錬工程が好適範囲にあり、フード地金付きもなく、最も経済的に溶銑の予備処理を操業できた発明例である。溶銑中[P]濃度は従来より低位であった。
処理No.8は、第2吹錬工程の初期段階(Step5)および最終段階(Step8)での酸素衝突圧Pが低い発明例である。フード地金付きもなく、溶銑中[P]濃度は従来と同等または低位であった。
処理No.9は、第2吹錬工程の初期段階(Step5)の酸素衝突圧Pが低く、最終段階(Step8)での酸素衝突圧Pが高めで、粒鉄の飛散が観察された発明例である。フード地金付きはあったが地金トラブルはなかった。溶銑中[P]濃度は従来と同等または低位であった。
処理No.10は、第2吹錬工程のStep5~7の酸素衝突圧Pが低めで、脱燐効率が低くなり、処理時間が延びる結果となった発明例である。フード地金付きはなく、溶銑中[P]濃度は従来と同等または低位であった。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【符号の説明】
【0058】
1 転炉型精錬炉
2 送酸ランス(上吹きランス)
3 底吹き羽口
4 出湯口
9 溶銑
9a 溶銑
10 (脱珪・脱燐処理後、第1吹錬工程後)スラグ
11 冷鉄源
12 酸素含有ガス(気体酸素源)
13 底吹きガス
14 装入鍋
17 (第2吹錬工程後の)脱燐・脱炭処理後スラグ
図1
図2
図3
図4