(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144172
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】合成皮革
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20241003BHJP
D06N 3/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
D06N3/00
D06N3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028553
(22)【出願日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2023053606
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】廣川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】紅林 聖
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA13
4F055CA07
4F055DA13
4F055DA14
4F055DA16
4F055EA23
4F055FA08
4F055GA02
4F055GA11
4F055HA10
(57)【要約】
【課題】機械的強度を損なうことなく、意匠性を付与した合成皮革を提供すること。
【解決手段】表面側から、合成樹脂層、繊維布帛基材の順で設けられてなる合成皮革であって、合成樹脂層は少なくとも、合成皮革の表面側に位置する表皮層(10)と、前記表皮層(10)よりも繊維布帛基材側に位置する内層(20)の2以上の層からなり、前記内層(20)の厚み方向中間部を底とし、表面側において開口する閉塞孔(50)を複数形成する。たとえば前記表皮層(10)と前記内層(20)の色相を変えることで、より意匠性が際立つ合成皮革を提供することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側から、合成樹脂層、繊維布帛基材の順で設けられてなる合成皮革であって、合成樹脂層は少なくとも、合成皮革の表面側に位置する表皮層と、前記表皮層よりも繊維布帛基材側に位置する内層の2以上の層からなり、
前記内層の厚み方向中間部を底とし、前記表面側において開口する閉塞孔が複数形成されてなることを特徴とする合成皮革。
【請求項2】
前記表皮層と前記内層の色相が異なることを特徴とする請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
前記内層の厚みが100μm以上600μm以下であることを特徴とする請求項1また2に記載の合成皮革。
【請求項4】
前記表皮層と前記内層との色差ΔEが、10以上である請求項1または2に記載の合成皮革。
【請求項5】
前記表皮層の厚みAと、前記閉塞孔の底面から前記内層の上端までの厚みBの比率[厚みA/厚みB]が2以下である請求項1または2に記載の合成皮革。
【請求項6】
前記表皮層の波長領域400nm以上800nm以下における光線反射率が20%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の合成皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成皮革に関するものであり、特に意匠性に優れた合成皮革に関するものである。
【0002】
天然皮革は古くより日常生活に密着するものとして利用されており、皮革生地の有する性状により吸湿、耐熱、耐寒特性と共に強靭な材料として様々な用途で利用されてきた。しかしながら、天然皮革は、供給に限界があり、膨潤に伴う脆弱化や変色等の問題を有するため、これに代わるものとして、合成皮革が用いられている。
合成皮革は天然皮革に似せたものであるが、天然皮革と比べて軽量で取り扱いやすいため、座席シート等の車輌用内装材、ソファーや椅子の座面などの家具用途、カバン或いはジャケット、コートなどの衣料用途等、多岐にわたって使用されている。
【0003】
合成皮革に意匠性を付与する目的で穿孔加工(パーフォレーション加工)を施して、厚み方向に貫通する貫通孔を設けた合成皮革が知られている(特許文献1等)。
しかしながら、貫通孔を設けると合成皮革の機械的強度を担保することが難しい。
これを解決すべく、合成樹脂層のみからなる合成皮革半製品を穿孔加工(パーフォレーション加工)して貫通孔を設け、その後、当該貫通孔を設けた半製品の裏面側に接着剤を用いて織物を積層させることによって、機械的強度を付与した合成皮革も知られている。しかしながら、穿孔加工後に積層工程を有する製造方法によれば、製造工程が増えるため生産性に課題がある(特許文献2等)。また、そのように製造された合成皮革では、接着剤を用いて基材である織物を積層させるため、孔の底面に接着層が形成されることになる。その結果、かかる合成皮革では、孔の底面の色味が不鮮明になり、あるいは底面に露出する接着層が光の反射により意図しないテカリを発生する場合があり、好ましい意匠性が発現しにくい問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-256483号公報
【特許文献2】特開2017-165209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、機械的強度を損なうことなく、意匠性を付与した合成皮革を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討し、機械的強度を損なうことなく、意匠性を付与した合成皮革を発明した。
【0007】
本発明は以下を要旨とする。
表面側から、合成樹脂層、繊維布帛基材の順で設けられてなる合成皮革であって、合成樹脂層は少なくとも、合成皮革の表面側に位置する表皮層と、前記表皮層よりも繊維布帛基材側に位置する内層の2以上の層からなり、前記内層の厚み方向中間部を底とし、前記表面側において開口する閉塞孔が複数形成されてなることを特徴とする合成皮革。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、内層の厚み方向中間部を底とする閉塞孔を設けることで、機械的強度を損なうことなく、意匠性を付与した合成皮革を提供することができる。特に接着剤層に被覆されることなく、閉塞孔から内層が露出するため、当該内層の色相が鮮明である。そのため、本発明の合成皮革は、スタイリッシュなデザインとすることができる。
そのため、本発明の合成皮革は種々の用途に好適であり、デザイン性と高い機械的強度が求められる車両の内装材用として特に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の合成皮革の一実施形態の平面模式図である。
【
図2】本発明の合成皮革の一実施形態の断面模式図である。
【
図3】本発明の合成皮革の一実施形態の断面模式図の部分拡大図である。
【
図4】従来の穿孔加工(パーフォレーション加工)の合成皮革の断面模式図である。
【
図5】本発明の合成皮革の他の実施形態の断面模式図の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の合成皮革について、
図1~4を用いて説明する。
図2、4は、いずれも合成皮革の厚み方向に切断した際の断面図を示す。
図3は
図2の部分拡大図である。
図4は従来例である。また後段に
図5を用いて本発明の合成皮革の他の実施形態について説明する。
図5は、本発明の合成皮革の他の実施形態の断面模式図の部分拡大図である。
【0011】
図に示すとおり、本発明の合成皮革(100)は、表面側から、合成樹脂層、繊維布帛基材(30)の順で設けられてなり、合成樹脂層は少なくとも、合成皮革(100)の表面側に位置する表皮層(10)と、表皮層(10)よりも繊維布帛基材(30)側に位置する内層(20)の2以上の層からなり、内層(20)の厚み方向中間部を底(底面(52))とし表面側において開口する閉塞孔(50)が複数形成されてなる。つまり、
図2に示すとおり合成皮革(100)は、閉塞孔の底面(52)が、内層(20)で構成されており、表皮層(10)側からの平面視において内層(20)が視認される。また閉塞孔の端面(53)は、表皮層(10)と内層(20)とで構成されている。したがって、合成皮革(100)を斜め方向から観察した際、閉塞孔の端面(53)を構成する内層(20)が視認され得る。
これにより、本発明は孔を有するものであるが、当該孔は合成皮革(100)の基材である繊維布帛基材(30)を貫通するものではなく、かつ当該孔の底に内層(20)が視認されるため、意匠性に優れかつ機械的強度を担保した合成皮革(100)を提供することが可能となる。
なお、本明細書において、「内層の厚み方向中間部」とは、内層の厚み方向の中央である必要はなく、内層内に孔の底面があればよい。
【0012】
[合成樹脂層]
本発明において、合成樹脂層は、合成皮革(100)の表面側に位置する表皮層(10)と、前記表皮層(10)よりも繊維布帛基材(30)側に設けられる内層(20)の2以上の層からなる。
なお、本発明において、表皮層(10)と繊維布帛基材(30)との間の層が一層である場合は当該層が内層(20)である。合成樹脂層と繊維布帛基材(30)層とを接着させるための層(接着層)は内層(20)には含めないが、当該層が発泡させた層(発泡接着層)の場合は、内層(20)に含めるものとする。以下では、内層(20)が一層である態様を主として説明し、後段において複数の層からなる内層(20)を備える態様(変形例)について説明する。
【0013】
合成樹脂層を構成する合成樹脂は、通常、合成皮革(100)に用いられ得る樹脂であればいずれのものでも使用できるが、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂が好適である。合成樹脂層を構成する表皮層(10)および内層(20)は、同種の樹脂を用いて形成されてもよいし異なる樹脂を用いて形成されてもよい。
【0014】
前記ポリウレタン系樹脂としては、具体的には、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカプロラクトン系ポリウレタン樹脂、ポリエステル/ポリエーテル共重合系ポリウレタン樹脂、ポリアミノ酸/ポリウレタン共重合樹脂、ポリカーボネートジオール成分と無黄変型ジイソシアネート成分及び低分子鎖伸長剤等を反応させて得られる無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂などからなる群から選択される1種の樹脂または2種以上の混合樹脂が挙げられる。また、合成皮革(100)としての諸物性を損なわない範囲であれば、前記のポリウレタン樹脂にポリ塩化ビニル樹脂や合成ゴムなどを混合しても差し支えない。
【0015】
前記塩化ビニル系樹脂としては、具体的には、ポリ塩化ビニル、塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、またはこれら樹脂のブレンド等が使用できる。 前記塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、マレイン酸、フマル酸アクリロニトリル等からなる群から選択される1種の樹脂または2種以上の混合樹脂が挙げられる。
【0016】
合成樹脂層をポリ塩化ビニル系樹脂で構成する場合、天然皮革に似た柔軟性をより効果的に発揮させるために、ポリ塩化ビニル系樹脂と併せて可塑剤が配合される。可塑剤としては、フタル酸ジオクチルエステル(DOP)、フタル酸ジイソノニルエステル(DINP)、フタル酸ブチルベンジルエステル(BBP)、フタル酸ジイソデシルエステル(DIDP)、フタル酸ジウンデシルエステル(DUP)などに代表される一般のフタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸ジオクチル(DOA)、セバシン酸ジオクチルエステル(DOS)、アゼライン酸ジオクチルエステル(DOZ)に代表される一般の脂肪酸エステル系可塑剤、トリメリット酸トリオクチルエステル系可塑剤、ポリプロピレンアジペート等に代表されるアジピン酸ポリエステル系可塑剤などの高分子系可塑剤、セバシン酸系可塑剤、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤等からなる群から選択される1種または2種以上の混合材が挙げられる。
【0017】
前記の他に、合成樹脂層には、顔料、フィラー、分散剤、消泡剤、艶消し剤、滑剤などの各種添加剤を含有してもよい。
【0018】
合成樹脂層を構成する表皮層(10)と内層(20)とは、同じ色相であってもよいが、色相が異なることが好ましい。表皮層(10)と内層(20)の色相を変えることで、閉塞孔の底面(52)および閉塞孔の端面(53)から見える内層(20)が差し色となって、合成皮革(100)の意匠性が増す効果がある。ここで色相とは、色味を指す。
例えば、表皮層(10)を暗色系の色相にし、内層(20)を明度の高い色相にすれば、スタイリッシュな印象を与える合成皮革(100)となる。
また、より優れた意匠性を提示しうるという観点から、表皮層(10)と内層(20)との色差ΔEが、10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。ここで色差とは、下記式(1)で測定される。
[式1]
ΔE={(ΔL)2+(Δa)2+(Δb)2}×1/2・・・・・(1)
(式中、
ΔL=(表皮層における明度:L1*値)-(内層における明度:L2*値)
Δa=(表皮層における色相:a1*値)-(内層における色相:a2*値)
Δb=(表皮層における彩度:b1*値)-(内層における彩度:b2*値)
を意味する。)
色差の測定は、色彩色差計を使用し測定される。色彩色差計としては、たとえば商品名:CR-200B コニカミノルタ社製の測定装置が挙げられるがこれに限定されない。
表皮層(10)は、可視光線の反射率が低いほうが好ましい。可視光線の反射率が高いと、合成皮革(100)の表面を反射した光が目に映り、内層(20)の色味を視認しにくくなる。特に晴天下においては、表皮層(10)が眩しく感じられるため、内層(20)の色味の視認性は低下する。すなわち、表皮層(10)の波長領域400nm以上800nmにおける光線反射率は、20%以下、さらに好ましくは10%以下であることが好ましい。
【0019】
合成樹脂層のうち、表皮層(10)よりも繊維布帛基材(30)側に位置する内層(20)の厚みは、100μm以上600μm以下であることが好ましく、更に好ましくは150μm以上500μm以下であり、より更に好ましくは200μm以上500μm以下である。内層(20)の厚みが100μm未満であると、以下に詳述する閉塞孔の底面(52)の位置を、確実に内層(20)の厚み方向中間部にすることが困難となり、閉塞孔の底面(52)において部分的に内層(20)以外の層(表皮層(10)や後述の繊維布帛基材(30)等)が露出しやすくなる。一方で、内層(20)の厚みが600μmを超えると、合成皮革(100)の重量が増加するだけでなく、風合いが悪くなる傾向にある。
合成樹脂層のうち、表皮層(10)の厚みは、50μm以上300μm以下であることが好ましく、100μm以上200μm以下であることがより好ましい。表皮層(10)の厚みが、50μm未満であると、合成皮革の強度を損なう場合がある。一方で、表皮層(10)の厚みが、300μmを超えると、閉塞孔(50)において内層(20)の色味や質感が視認し難い場合がある。
尚、本発明において、表皮層(10)の厚みおよび内層(20)の厚みとは、測定サンプルである合成皮革(100)を厚み方向に切断して切断面を形成し、当該切断面において無作為に5箇所を選択し、選択された箇所における表皮層(10)の厚みおよび内層(20)の厚みをそれぞれ実測し、得られた測定値を算術平均することにより示される値である。
【0020】
前記の事情から、本発明の合成皮革(100)の内層(20)及び/又は表皮層(10)は適度な厚さであることが好ましい。そのため、合成皮革(100)の軽量化の観点から、内層(20)を発泡層とすることが好適である。内層(20)を発泡層とする手段としては、機械攪拌による物理的発泡、発泡剤の添加による化学的発泡、中空微粒子の添加による擬似発泡などが挙げられる。
前記発泡層の発泡倍率は1.3~2.0倍であることが好ましい。発泡倍率が1.3倍未満の場合、内層(20)を発泡層とする効果が発現しにくい。発泡倍率が2.0倍を超える場合は、発泡層に顔料を添加した際に彩度が低くなる傾向にあるため、表皮層(10)と内層(20)の色相のコントラストがはっきりせずに意匠性が損なわれる可能性がある。
【0021】
合成樹脂層は、前記表皮層(10)と内層(20)のほかに、内層(20)と繊維布帛基材(30)とを接着する接着層を設けてもよい。
【0022】
[繊維布帛基材]
繊維布帛基材(30)を構成する布帛は特に限定されず、編布、織布、不織布など、繊維を利用した布帛であればいずれのものであってもよい。繊維布帛基材(30)を形成する繊維は、特に限定されず、合成繊維、天然繊維などをあげることができる。合成繊維の材質としては、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ナイロンなどを例示することができるがこれに限定されない。天然繊維の材質としては、綿、麻、レーヨンなどを例示することができるがこれに限定されない。
繊維布帛基材(30)の厚みは特に限定されないが、合成皮革(100)の機械的強度や風合い等を考慮すれば、当該厚みは、100μm以上2000μm以下であることが好ましく、300μm以上1200μm以下であることがより好ましい。繊維布帛基材(30)の目付けについても特に限定されないが、前記厚みと同様に、合成皮革(100)の機械的強度や風合い等を考慮すれば、10g/m2以上500g/m2以下であることが好ましく、100g/m2以上400g /m2以下であることがより好ましい。
【0023】
[表面処理層]
本発明の合成皮革(100)は、合成樹脂層上に表面処理層を設けてもよい。
表面処理層は、合成皮革(100)の艶出し/艶消し、耐摩耗性の付与、触感の付与、防汚性の付与等の目的で設けられる。表面処理層は、例えばポリウレタン樹脂を主剤とし、有機溶媒や水に分散させた塗工液を表皮層(10)の表面にコーティングすることにより設けることができる。
表面処理層を設ける場合には、たとえば表皮層(10)の表面に表面処理層を形成し、次いで閉塞孔(50)を後述のとおり形成することができる。
【0024】
表面処理層と合成樹脂層との間に、両者の密着性を向上させるためにプライマー層を設けてもよい。
表面処理層およびプライマー層には、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、触媒、シリカなどの無機微粒子、有機フィラーなど公知の添加剤を添加してもよい。
【0025】
[閉塞孔]
本発明の合成皮革(100)は内層(20)の厚み方向中間部を底とする閉塞孔(50)が複数形成されてなる。閉塞孔(50)は、ドリリング、放電、レーザー照射など、従来公知の手段により形成することができる。
合成皮革(100)の平面視における閉塞孔(50)の占める割合(以下、「開孔率」ともいう)は、2%以上20%以下であることが好ましい。開孔率は、閉塞孔(50)が設けられた合成皮革(100)の領域の面積に対する、当該領域に設けられた閉塞孔(50)の開孔面積の合計の比率を指す。
閉塞孔(50)の形状は特に限定されず、円形、楕円形、多角形等、任意の形状が選択されるが、耐摩耗性の観点から、角のない円形、楕円形であることが好ましい。また開口部は規則性をもって配置されてもよいし、ランダムに配置されてもよい。
図1では、平面視において整然配列された閉塞孔(50)が設けられた態様を示したが、たとえば閉塞孔(50)の連続により示されるラインで、所定の図形や文字などを表すこともできる(図示省略)。
また、閉塞孔(50)一個あたりの開口部の大きさは限定されないが、意匠性や加工性、耐久性を考慮すると、0.4mm
2以上7.0mm
2以下であることが好ましい。 開口部の面積は、無作為に選択した5個の閉塞孔(50)の開口部の面積を測定し、得られた測定値を算術平均することにより求められる。
また、閉塞孔(50)の深さは180μm以上500μm以下であることが好ましい。閉塞孔(50)の深さは、以下のとおり求められる。即ち、開口部の中心をとおり合成皮革の厚み方向に切断してなる切断面において、孔の深さを測定する。かかる測定を、無作為に選択した5個の閉塞孔において実施し、得られた値を算術平均して閉塞孔の深さを求めることができる。
【0026】
一態様として、閉塞孔(50)は、合成皮革(100)1m2あたり2,000個以上60,000個以下であることが好ましい。前記下限以上とすることで、良好な意匠性が発現される傾向にある。また、前記上限以下とすることで、合成皮革(100)としての機械的強度を充分に担保できる。
【0027】
従来の合成皮革として、たとえば
図4に示すとおり、厚み方向に貫通する貫通孔(51)が複数設けられた合成皮革(200)が知られる。これに対し本発明の合成皮革(100)における閉塞孔(50)は、合成皮革(100)の基材である繊維布帛基材(30)を貫通するものではないため、意匠性に優れかつ機械的強度を担保した合成皮革(100)を提供することが可能となる。特に本発明の合成皮革(100)は、合成樹脂層である内層(20)が閉塞孔の底面(52)として現れるため、発色が良く、閉塞孔の底面(52)の色相が鮮明となる。
合成皮革の厚み方向を完全に貫通しない閉塞孔を形成する他の手段としては、例えば、繊維布帛基材の中間部を底面とする方法や、予め合成樹脂層のみからなる合成皮革半製品に貫通孔を形成し、その後、半製品の裏面側に接着剤を用いて繊維布帛基材を積層する方法がある。しかしながら、前者にあっては、閉塞孔の底面が繊維布帛基材であるため、孔が毛羽立ちやすく、また合成皮革の表面から閉塞孔の底面までの距離があるため、孔の底面の色相が不鮮明になりやすい。後者にあっては、閉塞孔の底面に接着剤が塗工されているため、やはり孔の底面の色相が不鮮明になる傾向にある。
本発明の合成皮革(100)は前記のような不具合がなく、閉塞孔(50)の底面が鮮明に現れるため、非常に意匠性に優れたものと言える。
【0028】
本発明の合成皮革(100)は、例えばキャスティング法、カレンダー法によって製造することができる。
キャスティング法とは、シボが形成された離型紙上に、合成樹脂層を一層ずつ形成し、繊維布帛基材(30)を貼り合わせ、適宜乾燥させた後、離型紙を剥離して合成皮革(100)を得る方法である。カレンダー法とは、合成樹脂層をカレンダー成形機にて指定厚みとなるように形成し、その後、繊維布帛基材(30)と貼り合わせて積層体を得た後、エンボス加工をして合成樹脂層にシボを形成して合成皮革(100)を得る方法である。
本発明においては、キャスティング法により形成された合成皮革(100)であることが好ましい。キャスティング法は、予めシボが形成された離型紙上に合成樹脂層を形成するため、合成樹脂層を構成する各層の界面が平滑になりやすい。そのため、閉塞孔(50)を形成する際、底面を確実に内層(20)の厚み方向の中間部にすることが可能となる。また、内層(20)の厚みが比較的薄くても、閉塞孔(50)の底面を内層(20)の厚み方向の中間部に設けることができる。
一方で、カレンダー法により形成された合成皮革(100)は、合成樹脂層と繊維布帛基材(30)とを貼り合わせた後にエンボス加工をして合成樹脂層にシボを形成するため、内層(20)の界面が平滑になりにくい。そのため、閉塞孔(50)を形成する際、閉塞孔の底面(52)を確実に内層(20)の厚み方向の中間部とすることが難しい場合があり、閉塞孔の底面(52)において部分的に内層(20)以外の層(表皮層(10)や繊維布帛基材(30)等)が露出しやすくなる場合がある。特に内層(20)の厚みが比較的薄い場合は、高精度の孔開け加工技術を適用するなどの配慮がなされることが好ましい。
【0029】
また、
図3に示すとおり、表皮層(10)の厚みAと、閉塞孔の底面(52)から内層(20)の上端までの厚みBの比率[厚みA/厚みB]は特に限定されないが、前記比率が2以下、特に1以下となるよう調整されることによって、内層(20)の色味が閉塞孔(50)の開口より充分に視認され優れた意匠性を示す観点で好ましい。
【0030】
<変形例>
以下に
図5を用いて上述する本発明の一実施態様の一部を変更した他の実施態様について説明する。
図5に示す当該他の実施態様は、内層(20)が多層形成されている点で、
図1~
図3に示す態様とは相違する。本発明における内層(20)は、一層であってもよいし、2以上の層から構成されてもよい。
図5には具体的には、表皮層(10)側に設けられた内層(20a)および繊維布帛基材(30)側に設けられた内層(20b)の2層よりなる内層(20)を備える態様を示している。このように内層(20)が多層形成されることによって、さらに意匠性が向上しうる。尚、内層(20)が多層構成である態様において、内層(20)の明度、色相、彩度は、閉塞孔の底面(52)を構成する層(
図5では内層(20b))の色が参照される。
【0031】
以上、本発明の合成皮革の一実施態様である合成皮革(100)および他の実施態様について説明した。本発明の合成皮革は、上述の説明に限定されることなく本発明の技術思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。本発明は合成皮革として種々の用途に用いることができるが、意匠性と高い機械的強度が求められる車両の内装材用として好適である。
【実施例0032】
以下に本発明を実施例に基づいて、詳細に説明する。本発明は、これら実施例に限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0033】
(実施例1)
キャスティング法にて、合成皮革を製造した。
離型紙上に黒色顔料および可塑剤を含有した表皮層用の塩化ビニルペースト((株)カネカ製の塩化ビニル 商品名:PSH24)を、乾燥厚みが200μmとなるように塗布し、温度180℃で2分間加熱してゲル化(樹脂化)を行い、表皮層を形成した。
次に、発泡剤、赤色顔料および可塑剤を含有した塩化ビニルペースト(新第一塩ビ(株)製の塩化ビニル 商品名:PQHPN)を、乾燥厚みが200μmとなるように塗布し、温度200℃で2分間加熱してゲル化(樹脂化)と発泡を行い、内層を形成した。
次に、内層上に可塑剤を含有した接着層用の塩化ビニルペースト(新第一塩ビ(株)製の塩化ビニル 商品名:PQHPN)を、100g/m2塗布し、直後にメリヤス生地(厚み500μm)を貼り合せ、温度180℃で2分間加熱してゲル化(樹脂化)を行った後、離型紙を剥離し、合成皮革を得た。
得られた合成皮革に対し、表皮層側からドリリング加工を施し、複数の閉塞孔を形成した。閉塞孔は、合成皮革の内層を底面とするものであり、孔径は1.6mm、ドリリングの深さは表面から300μm、合成皮革の単位面積あたりの開孔率が8%となるようにした。
【0034】
(実施例2)
内層の厚みを400μmとし、ドリリングの深さを400μmとした以外は、実施例1と同様の方法にて合成皮革を得た。
【0035】
(実施例3)
内層を構成する塩化ビニルペーストから発泡剤を除き、内層の乾燥厚みが80μmになるように塗布し、ドリリング深さを240μmとした以外は、実施例1と同様の方法にて合成皮革を得た。
【0036】
(実施例4)
表皮層の厚みを100μm、ドリリングの深さを200μmとした以外は、実施例1と同様の方法にて合成皮革を得た。
【0037】
(実施例5)
カレンダー法にて、合成皮革を製造した。
発泡剤、赤色顔料および可塑剤を含有した塩化ビニル樹脂((株)カネカ製の塩化ビニル 商品名:S1001N)を、発泡後の厚みが200μmとなるように温度150℃で圧延し内層に相当するシートIを得た。その後、前記シートIを接着加工されたメリヤス生地(厚み500μm)と貼り合せて塩化ビニル未発泡層付き生地を形成した。
次に、黒色顔料および可塑剤を含有した塩化ビニル樹脂((株)カネカ製の塩化ビニル 商品名:S1001N)を厚みが200μmとなるように温度150℃で圧延し表皮層に相当するシートIIを得た。その後、前記シートIIを前記塩化ビニル未発泡層付き生地の塩化ビニル未発泡層面に貼り合せて積層シートを得た。
次に、前記積層シートを200℃で2分間加熱することで塩化ビニル未発泡層を発泡させ、加熱直後にシボ付きのロールでエンボス加工をすることで表面に柄を形成し、合成皮革を得た。
得られた合成皮革に対し、表皮層側からドリリング加工を施し、複数の閉塞孔を形成した。閉塞孔は、合成皮革の内層を底面とするものであり、孔径は1.6mm、ドリリングの深さは表面から300μmとし、合成皮革の単位面積あたりの開孔率が8%となるようにした。
【0038】
(実施例6)
表皮層の厚み100μm、内層の厚みを300μmとし、ドリリングの深さを300μmとした以外は、実施例1と同様の方法にて合成皮革を得た。
【0039】
(実施例7)
表皮層をベージュに調色した以外は、実施例1と同様の方法にて合成皮革を得た。
【0040】
(実施例8)
内層をグレーに調色した以外は、実施例1と同様の方法にて合成皮革を得た。
【0041】
(実施例9)
内層を青に調色した以外は、実施例1と同様の方法にて合成皮革を得た。
【0042】
(実施例10)
表皮層を赤に調色し、内層をグレーに調色した以外は、実施例1と同様の方法にて合成皮革を得た。
【0043】
(比較例1)
表皮層の厚みを200μm、内層の厚みを200μm、ドリリングの深さを400μmとした以外は、実施例1と同様の方法にて合成皮革を得た。
【0044】
(比較例2)
ドリリングの深さを900μm以上とし、表面側から裏面側まで貫通する貫通孔とした以外は、実施例1と同様の方法にて合成皮革を得た。
【0045】
(比較例3)
メリヤス生地を赤色に染色し、ドリリングの深さを600μmとして生地を底面とする閉塞孔とした以外は、実施例1と同様の方法にて合成皮革を得た。
【0046】
(比較例4)
離型紙上に黒色顔料および可塑剤を含有した表皮層用塩化ビニルペースト((株)カネカ製の塩化ビニル 商品名:PSH24)を、乾燥厚みが200μmなるように塗布し、温度180℃で2分間加熱してゲル化(樹脂化)を行い、表皮層を形成した。
次に発泡剤、赤色顔料および可塑剤を含有した塩化ビニルペースト(新第一塩ビ(株)製の塩化ビニル商品名:PQHPN)を、乾燥厚みが200μmとなるように塗布し、温度200℃で2分間加熱してゲル化(樹脂化)と発泡を行い、内層を形成した。
表皮層と内層の積層シートに対し、表面側からドリリング加工を施し、複数の貫通孔を形成した。孔径は1.6mm、ドリリングの深さは表面から裏面まで貫通させるように4
00μmとし、合成皮革の単位面積あたりの開孔率が8%となるようにした。
次に、前記得られた貫通孔有り積層シートとメリヤス生地(厚み500μm)をポリウレタン接着剤で貼り合せて、合成皮革を得た。
【0047】
実施例1~10、比較例1~4で得られた合成皮革について、表皮層の光線反射率および表皮層と内層の色差ΔEを以下の方法で測定した。
測定結果は表1、2に示す。
また実施例に関し、表皮層の厚みAと、閉塞孔の底面から内層の上端までの厚みBの比率[厚みA/厚みB]を算出し、表1、2に示した。尚、比較例については閉塞孔の底面が内層の中間部に形成されていないことから上記比率は算出不可とした。
【0048】
〔光線反射率〕
光線反射率は、400nm以上800nm以下の領域における平均反射率であり、分光光度計(島津製作所社製 商品名:UV-3600)を用いて測定したときの各波長での反射率を相加平均し算出した。
【0049】
〔色差ΔE〕
色差ΔEは、色彩色差計(コニカミノルタ社製 商品名:CR-200B)を用いて表皮層および内層のLab値を算出し、以下の式に当てはめて算出した。
式1]
ΔE={(ΔL)2+(Δa)2+(Δb)2}×1/2・・・・・(1)
ΔL=(表皮層における明度:L1*値)-(内層における明度:L2*値)
Δa=(表皮層における色相:a1*値)-(内層における色相:a2*値)
Δb=(表皮層における彩度:b1*値)-(内層における彩度:b2*値)
【0050】
実施例1~10、比較例1、3、4で得られた合成皮革について、以下の評価を行った。評価結果を表1、2に示す。
【0051】
〔意匠性1(鮮明さ)〕
得られた合成皮革をA4サイズにカットし、室内にて30cmの距離から目視にて表面外観を観察し、以下の基準で意匠性1を評価した。
◎:孔の色相が鮮明であって、表面層と孔の色彩のコントラストがはっきりと認識された。
〇:孔の色相が鮮明であって、表面層と孔の色彩のコントラストが認識された。
×:孔の色相が不鮮明である。
【0052】
〔意匠性2(ばらつき)〕
実施例1~10、比較例1で得られた合成皮革の1000個の孔の底面を目視にて観察し、以下の基準で意匠性2を評価した。
○:内層以外の色味も観察される孔は1%未満である。
△:1%以上10%未満の孔において、内層以外の色味も観察される。
×:10%以上の孔において、内層以外の色味も観察される。
【0053】
〔意匠性3(斜め方向からの視認性)〕
得られた合成皮革をA4サイズにカットし、30cmの距離から合成皮革に対し、平面視を0°としたときに、-45°以上+45°以下の範囲において、角度を変えながら目視にて観察し、以下の基準で意匠性3を評価した。
◎:観察範囲の角度において閉塞孔の端面を構成する内層が十分に視認され、種々の角度において優れた意匠性が示された。
〇:観察範囲の角度において閉塞孔の端面を構成する内層が概ね視認され、種々の角度において優れた意匠性が示された。
△:観察角度0°からずれた角度で観察した場合、内層の色味が確認し難かった。
【0054】
〔意匠性4(直射日光下の視認性)〕
得られた合成皮革をA4サイズにカットし、晴れた日の屋外にて30cmの距離から目視にて表面外観を観察し、以下の基準で意匠性4を評価した。
〇:孔の色相が見えやすい。
△:孔の色相が見えにくい。
【0055】
〔引張強度〕
得られた合成皮革について、JIS K 6772に記載の方法に準拠して、引張り強度を測定した。評価基準は以下のとおりである。
○:引張強度の値が、タテ方向とヨコ方向それぞれ200N/3cm以上であった。
×:引張強度の値が、タテ方向とヨコ方向いずれも200N/3cm未満であった。
【0056】
【0057】
【0058】
実施例、比較例の結果から、本発明の合成皮革は、機械的強度を損なうことなく、意匠性を有することがわかる。
【0059】
以上に説明する本発明は、以下の技術思想を包含する。
(1)表面側から、合成樹脂層、繊維布帛基材の順で設けられてなる合成皮革であって、合成樹脂層は少なくとも、合成皮革の表面側に位置する表皮層と、前記表皮層よりも繊維布帛基材側に位置する内層の2以上の層からなり、
前記内層の厚み方向中間部を底とし、前記表面側において開口する閉塞孔が複数形成されてなることを特徴とする合成皮革。
(2)前記表皮層と前記内層の色相が異なることを特徴とする前記(1)に記載の合成皮革。
(3)前記内層の厚みが100μm以上600μm以下であることを特徴とする前記(1)また(2)に記載の合成皮革。
(4)前記表皮層と前記内層との色差ΔEが、10以上である前記(1)から(3)のいずれか一項に記載の合成皮革。
(5)前記表皮層の厚みが100μm以上200μm以下である前記(1)から(4)のいずれか一項に記載の合成皮革。
(6)前記表皮層の厚みAと、前記閉塞孔の底面から前記内層の上端までの厚みBの比率[厚みA/厚みB]が2以下である前記(1)から(5)のいずれか一項に記載の合成皮革。
(7)前記表皮層の波長領域400nm以上800nm以下における光線反射率が20%以下である前記(1)から(6)のいずれか一項に記載の合成皮革。