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特開2024-144178セメント混和材及びその製造方法、セメント組成物、セメント硬化物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144178
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】セメント混和材及びその製造方法、セメント組成物、セメント硬化物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20241003BHJP
   C04B 28/04 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20241003BHJP
   B28B 11/24 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B28/04
C04B40/02
B28B11/24
C04B22/08 Z
C04B18/14 F
C04B22/14 B
C04B22/14 A
C04B22/10
C04B24/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024031253
(22)【出願日】2024-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2023055052
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023055139
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】長塩 靖祐
(72)【発明者】
【氏名】丸田 浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 久美子
(72)【発明者】
【氏名】島田 涼平
【テーマコード(参考)】
4G055
4G112
【Fターム(参考)】
4G055AA01
4G055BA02
4G112MB00
4G112MB26
4G112PA29
4G112PB05
4G112PB08
4G112PB10
4G112PB11
4G112PB17
4G112RA02
(57)【要約】

【課題】 十分な可使時間が確保されるとともに、良好な強度発現性を有するセメント混和材を提供するとともに、セメント混和材の製造において、省エネルギーやCO削減を実現することを目的とする。
【解決手段】 カルシウムアルミネート系物質の粉末を含んでなるセメント混和材。 ここで、前記粉末が、金属精錬時に副産物として発生する、化学成分としてCaOとAlとの含有モル比(CaO/Al)が0.9~1.5であるカルシウムアルミネートスラグを含み、前記粉末の少なくとも一部が加水処理されたものである。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムアルミネート系物質の粉末を含んでなるセメント混和材であって、
前記粉末が、金属精錬時に副産物として発生する、化学成分としてCaOとAlとの含有モル比(CaO/Al)が0.9~1.5であるカルシウムアルミネートスラグを含み、かつ、
前記粉末の少なくとも一部が加水処理されたものであることを特徴とするセメント混和剤。
【請求項2】
前記粉末中のカルシウムアルミネートスラグの含有量が30~100質量%であり、
前記粉末中の加水処理された粉末の割合が50~100質量%である、請求項1に記載のセメント混和物。
【請求項3】
石膏類をさらに含んでなり、前記セメント混和剤中の前記粉末の含有量が20~80質量%であり、前記石膏類の含有量が80~20質量%である、請求項1又は2に記載のセメント混和材。
【請求項4】
アルミニウム硫酸塩、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属炭酸塩の群から選択される一種以上の金属塩をさらに含有する、請求項1又は2に記載のセメント混和材。
【請求項5】
有機酸又はその塩から選ばれる一種以上の遅延剤をさらに含有する、請求項1又は2に記載のセメント混和材。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のセメント混和物と、セメントと、を含有することを特徴とする、セメント組成物。
【請求項7】
前記セメントがポルトランドセメントである、請求項6に記載のセメント組成物。
【請求項8】
前記セメント混和材の含有量が、前記セメントと前記セメント混和材との合計100質量部に対して10~30質量部である、請求項6に記載のセメント組成物。
【請求項9】
凝結遅延剤をさらに含んでなる、請求項6に記載のセメント組成物。
【請求項10】
請求項6に記載のセメント組成物が硬化してなることを特徴とする、セメント硬化体。
【請求項11】
前記セメント硬化体の中性化速度が、0.3mm/日以上である、請求項10に記載のセメント硬化体。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のセメント混和材、セメント、水及び骨材を混練して、セメント混練物を調製するセメント混練物調製工程と、
前記セメント混練物を型枠内に打設する打設工程と、
前記型枠内に打設された前記セメント混練物が硬化した後に、前記セメント混練物の硬化体を前記型枠から脱型する脱型工程と、
前記型枠から脱型した前記セメント混練物の硬化体を、二酸化炭素を含む雰囲気で養生する炭酸化養生工程と
を具備することを特徴とする、セメント硬化体の製造方法。
【請求項13】
カルシウムアルミネート系物質の粉末を含むセメント混和材の製造方法であって、
(A)前記粉末が、金属精錬時に副産物として発生する、化学成分としてCaOとAlとの含有モル比(CaO/Al)が0.9~1.5であるカルシウムアルミネートスラグをを、前記粉末中、30~100質量%となるよう調製するカルシウムアルミネートスラグ含有量調製工程と、
(B)前記粉末を加水処理する加水処理工程と、
(C)前記セメント混和材中の、加水処理された粉末の割合が50~100質量%となるよう調製する加水割合調製工程と
を具備することを特徴とする、セメント混和材の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント混和材及びその製造方法に関する。本発明は、さらにそのセメント混和材を含むセメント組成物、そのセメント混和材を用いたセメント硬化物およびその製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の問題が世界的な重要課題になってきており、二酸化炭素の排出量を如何に低減するかが各分野において求められている。モルタルコンクリートに使用されるセメントは、製造時に多量の二酸化炭素を排出することが知られている。このため、セメントの一部を高炉スラグ粉末やフライアッシュに代替した混合セメントを使用することが方策の一つとして検討されているが、混合セメントを使用したモルタルコンクリートは、強度発現性が遅く、また、乾燥収縮が大きいこと等問題があることが指摘されている。さらに、フライアッシュは、石炭火力発電時の副産物として生成するものであるが、石炭火力発電自体が、多量の二酸化炭素を排出するものであるという問題があり、今後は石炭火力発電所が減少することが予想される。
【0003】
一方で、モルタルコンクリートの硬化体は少しずつ空気中の二酸化炭素を吸収し、いわゆる中性化していくことが知られている。そこで、モルタルコンクリートの硬化体の養生過程において、積極的に二酸化炭素を吸収させることによって、モルタルコンクリートの製造時に排出される二酸化炭素の総量を低減させる手法が検討されている。例えば、特許文献1には、粉体成分として二酸化炭素を吸収する特性を有するγ-CSを配合し、炭酸化養生を行うことによって、表面から深さ20mm以上の部位に炭酸化領域を形成してなるCO吸収プレキャストコンクリートが提案されている。また、特許文献2には、ムライトとアノーサイトのいずれか一方又は両方を含むセメント混合用粉末を用い、脱型後炭酸化養生を行うことにより、20℃程度で養生を行った場合であっても、二酸化炭素の排出量を大幅に低減できるセメント質硬化体に関する技術が提案されている。
【0004】
他方で、金属精錬時に副産物としてカルシウムアルミネート系のスラグが発生することが知られている。例えば、ステンレス鋼の製鋼工程において副産される鉄鋼スラグにおいて、鉄鋼の脱酸剤としてアルミニウムを使用した時に、カルシウムアルミネートスラグが発生することが知られている。また、酸化クロム、アルミニウム、及び石灰を装入する工程を含む金属クロムの製造方法において、その一次スラグとしてカルシウムアルミネートが生成することが開示されている(特許文献3)。さらに、特許文献4によれば、脱硫廃触媒等の使用済触媒よりV、Ni、Mo等の有用金属とカルシウムアルミネートをシンプルなプロセスにより安価に製造する方法が提案されている。このような副産物として発生するカルシウムアルミネートスラグは、製鉄会社等の精練工程で蛍石代替の焙溶剤として、あるいは精練スラグの成分調整として広く利用されている。この他、有効活用方法として、アルミナセメントの製造時のCaO及びAl原料として使用することが提案されている(特許文献5)。副産物であるカルシウムアルミネートの有効利用は、省エネルギーの点からも、またCO削減の点からも、現在求められている重要な技術である。
【0005】
本発明は、このようなカルシウムアルミネートスラグの新たな利用方法を検討したものであり、セメント硬化体への有効利用を見出したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-168436号公報
【特許文献2】特開2016-153357号公報
【特許文献3】国際公開WO2013/187348
【特許文献4】特開2004-35995号公報
【特許文献5】特開2006-282486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セメント用の急硬性材料の主成分としてカルシウムアルミネートを用いることが一般的に行われている。そこで、本発明者らは、カルシウムアルミネートに代えてカルシウムアルミネートスラグを使用した混和材を作製し、これをモルタルコンクリートに添加して検討を行った。しかしながら、カルシウムアルミネートスラグを用いた混和材を使用した場合、モルタルコンクリートの凝結が速くなる。凝結調整剤を多量に添加した場合は、十分な施工時間(可使時間)を確保した場合において、初期強度発現性が低下することが判明した。本発明の課題は、カルシウムアルミネートスラグを有効に利用することによって、省エネルギーやCO削減を行いながら、十分な可使時間と、良好な強度発現性とを実現できるセメント混和材、およびそれを用いたセメント組成物やセメント硬化体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意検討した結果、適切なCaOとAlとの含有モル比を有するカルシウムアルミネートスラグを含むカルシウムアルミネート系物質の粉末を加水処理することによって、十分な可使時間が確保されるとともに、良好な強度発現性を有するセメント混和材が得られることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は〔1〕~〔12〕に示すものである。
[1]
カルシウムアルミネート系物質の粉末を含んでなるセメント混和材であって、
前記粉末が、金属精錬時に副産物として発生する、化学成分としてCaOとAlとの含有モル比(CaO/Al)が0.9~1.5であるカルシウムアルミネートスラグを含み、かつ、
前記粉末の少なくとも一部が加水処理されたものであることを特徴とするセメント混和剤。
[2]
前記粉末中のカルシウムアルミネートスラグの含有量が30~100質量%であり、
前記粉末中の加水処理された粉末の割合が50~100質量%である、[1]に記載のセメント混和物。
[3]
石膏類をさらに含んでなり、前記セメント混和剤中の前記粉末の含有量が20~80質量%であり、前記石膏類の含有量が80~20質量%である、[1]又は[2]に記載のセメント混和材。
[4]
アルミニウム硫酸塩、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属炭酸塩の群から選択される一種以上の金属塩をさらに含有する、[1]~[3]のいずれかに記載のセメント混和材。
[5]
有機酸又はその塩から選ばれる一種以上の遅延剤をさらに含有する、[1]~[4]のいずれかに記載のセメント混和材。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載のセメント混和物と、セメントと、を含有することを特徴とする、セメント組成物。
[7]
前記セメントがポルトランドセメントである、[6]に記載のセメント組成物。
[8]
前記セメント混和材の含有量が、前記セメントと前記セメント混和材との合計100質量部に対して10~30質量部である、[6]又は[7]に記載のセメント組成物。
[9]
凝結遅延剤をさらに含んでなる、[6]~[8]のいずれかに記載のセメント組成物。
[10]
[6]~[9]のいずれかに記載のセメント組成物が硬化してなることを特徴とする、セメント硬化体。
[11]
前記セメント硬化体の中性化速度が、0.3mm/日以上である、[10]に記載のセメント硬化体。
[12]
[1]~[5]のいずれかに記載のセメント混和材、セメント、水及び骨材を混練して、セメント混練物を調製するセメント混練物調製工程と、
前記セメント混練物を型枠内に打設する打設工程と、
前記型枠内に打設された前記セメント混練物が硬化した後に、前記セメント混練物の硬化体を前記型枠から脱型する脱型工程と、
前記型枠から脱型した前記セメント混練物の硬化体を、二酸化炭素を含む雰囲気で養生する炭酸化養生工程と
を具備することを特徴とする、セメント硬化体の製造方法。
[13]
カルシウムアルミネート系物質の粉末を含むセメント混和材の製造方法であって、
(A)前記粉末が、金属精錬時に副産物として発生する、化学成分としてCaOとAlとの含有モル比(CaO/Al)が0.9~1.5であるカルシウムアルミネートスラグを、前記粉末中、30~100質量%となるよう調製するカルシウムアルミネートスラグ含有量調製工程と、
(B)前記粉末を加水処理する加水処理工程と、
(C)前記セメント混和材中の、加水処理された粉末の割合が50~100質量%となるよう調製する加水割合調製工程と
を具備することを特徴とする、セメント混和材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、十分な可使時間が確保されるとともに、良好な強度発現性を有するセメント混和材が得られる。これにより、金属精錬時の副産物であるカルシウムアルミネートスラグを有効に活用し、セメント混和材の製造において、省エネルギーやCO削減を実現することができる。さらにそのセメント混和材を利用することによって、強度発現性が良好であり、中性化速度が速いセメント硬化体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<セメント混和材>
本発明におけるセメント混和材は、加水処理してなるカルシウムアルミネート系物質の粉末を含み、前記カルシウムアルミネート系物質は、金属精錬時に副産物として発生するカルシウムアルミネートスラグを含む。以下、このセメント混和材について詳しく説明する。
【0011】
(カルシウムアルミネート系物質の粉末)
本発明におけるカルシウムアルミネート系物質の粉末は、CaO及びAlを構成成分とするカルシウムアルミネート化合物を主成分とする物質である。カルシウムアルミネート化合物としては、CaO・2Al、CaO・Al、12CaO・7Al、3CaO・Al等のカルシウムアルミネートが挙げられる。また、CaO及びAl以外の成分を少量含むカルシウムアルミネート化合物として、CaO、Al及びFeからなる化合物である4CaO・Al・Fe、2CaO・Al・Fe等のカルシウムアルミノフェライト、カルシウムアルミネートにハロゲンが固溶又は置換した3CaO・3Al・CaF、11CaO・7Al・CaF等のカルシウムフロロアルミネート、ナトリウムが一部置換した8CaO・NaO・3Al等のカルシウムナトリウムアルミネート、SiOが一部固溶又は置換したカルシウムアルミノシリケート等が挙げられる。加えて、カルシウムアルミネート系物質として、工業的に製造されているアルミナセメント、副産物として発生するカルシウムアルミネートスラグが含まれる。
【0012】
上記カルシウムアルミネート系物質は、結晶質のもの、非晶質のもの及び非晶質と結晶質が混在したもののいずれも使用可能である。また、カルシウムアルミネート系物質には、不純物成分として、KO、TiO、MgO、SrO、MnO等が含まれていても構わない。これらの不純物成分は、カルシウムアルミネート系物質を製造する際に使用する、石灰石、ボーキサイト等の天然原料に由来する。
【0013】
本発明におけるカルシウムアルミネート系物質は、金属精錬時に副産物として発生するカルシウムアルミネートスラグ(詳細は後記する)を含むものであるが、それ以外のカルシウムアルミネート系物質を含むことができる。カルシウムアルミネートスラグ以外のカルシウムアルミネート系物質としては、アルミナセメントが好ましい。アルミナセメントは、CaO・2Al、CaO・Alを主体とするカルシウムアルミネートを含むセメントであり、広く不定形耐火物用途に使用されている。本発明のセメント混和材に使用するものとしては、旧JIS区分の第3種に該当し、アルミナセメント1号として製造販売されているものが好ましい。
【0014】
本発明におけるカルシウムアルミネート系物質は、可使時間の確保及び強度発現性の点から、化学成分としてCaOとAlの含有モル比(CaO/Alモル比)が0.9~1.7であることが好ましく、0.95~1.4であることがより好ましく、1.0~1.3であることが特に好ましい。また、粉末度としては、ブレーン比表面積で3000~8000cm/gであることが好ましく、3500~7000cm/gであることがより好ましい。
【0015】
カルシウムアルミネート系物質は、生石灰、石灰石等のCaO源、ボーキサイト、バンド頁岩等のAl源の原料及びその他原料を所定の配合で混合し、電気炉、ロータリーキルン、溶融炉等で1400~2000℃の温度で焼成又は溶融することによって製造することができる。焼成物又は溶融物は冷却後、粉砕されてカルシウムアルミネート系物質の粉末が得られる。
【0016】
(カルシウムアルミネートスラグ)
本発明におけるカルシウムアルミネート系物質は、金属精錬時に副産物として発生するカルシウムアルミネートスラグを含むことを特徴とする。このカルシウムアルミネートスラグの含有量は、カルシウムアルミネート系物質中、30~100質量%であることが好ましく、40~95質量%であることがより好ましく、50~90質量%であることが特に好ましい。30質量%未満の場合、初期の強度発現性が低下する虞がある。
【0017】
本発明におけるカルシウムアルミネートスラグとして、具体的には、ニッケル、モリブデン、バナジウム等、あるいは鉄との合金であるフェロニッケル、フェロバナジウム等の精錬時に生成するカルシウムアルミネートスラグが挙げられる。化学成分としては、CaO/Alモル比は0.9~1.5であることが好ましく、0.95~1.4であることがより好ましく、1.0~1.3であることが特に好ましいい。CaO/Alモル比が0.9未満の場合は初期の強度発現性が十分に得られない虞がある。一方、CaO/Alモル比が1.5を超える場合は、可使時間を十分に確保することが困難になる虞がある。
【0018】
本発明におけるカルシウムアルミネートスラグは、鉱物相として、クロタイト(CaO・Al)、マイエナイト(12CaO・7Al)、ゲーレナイト(2CaO・Al・SiO)、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al・Fe)、ペリクレース(MgO)、オケルマナイト(2CaO・MgO・2SiO)等が挙げられる。これらの中で、クロタイトを主成分(50質量%以上)として含むものが好ましい。
【0019】
さらに、初期の強度発現性の点から、マイエナイトを含むことが好ましい。マイエナイトは、初期の水和活性が高く初期の強度発現に寄与する。しかしながら、多量に含むと、モルタルコンクリートの凝結を速め、可使時間の確保を困難にする虞がある。このため、含有量としては1~20質量%であることが好ましく、2~10質量%がより好ましく、3~8質量%がさらに好ましい。なお、マイエナイトの含有量は、X線回折装置を用い、検量線法、リートベルト法等により測定することができる。
【0020】
この他、カルシウムアルミネートスラグには、少量の金属及び金属酸化物が含まれていてもかまわない。例えば、鉄、ニッケル、モリブデン、バナジウム、クロム、コバルト等の金属及び金属酸化物が挙げられる。金属及び金属酸化物の含有量としては、金属酸化物換算で5質量%以下であることが好ましい。
【0021】
なお、カルシウムアルミネートスラグの強熱減量は通常増加(+表記)になる。ここで、強熱減量とは、大気中で950℃1時間加熱処理した場合の減量値である。強熱減量が増加になるのは、含まれる遷移金属が金属の状態、あるいは価数の低い化合物の状態で存在していることに起因するものと考えられる。
【0022】
また、カルシウムアルミネートスラグは、通常、自然放冷されることから、生成物は結晶質であり、非晶質のカルシウムアルミネートはほとんど含まれない。ガラス化率については、特に限定されるものではないが、通常のカルシウムアルミネートスラグのガラス化率は20%未満である。ガラス化率については、X線回折装置を用いた検量線法、リートベルト法で測定することができる。
【0023】
カルシウムアルミネートスラグは、通常、数mm~数十cmの塊状物として得られるため、これを粉砕してカルシウムアルミネートスラグ粉末とする。カルシウムアルミネートスラグ粉末の粉末度としては、ブレーン比表面積で3000~8000cm/gであることが好ましく、3500~7000cm/gであることがより好ましい。
【0024】
(加水処理)
本発明のセメント混和材に使用するカルシウムアルミネート系物質は、加水処理してなるカルシウムアルミネート系物質の粉末を含むものである。これにより、粉末粒子表面にカルシウムアルミネート水和物の被覆層が形成されるため、接水時の水和反応が抑制され、モルタルやコンクリートに使用した場合でも、十分な可使時間(例えば40分以上)を確保することが可能となる。カルシウムアルミネート系物質中、加水処理してなるカルシウムアルミネート系物質の粉末の割合は、好ましくは50~100質量%であり、60~95質量%であることがより好ましく、70~90質量%が特に好ましい。50質量%未満の場合は、十分な可使時間を確保することができない虞がある。
【0025】
カルシウムアルミネート系物質の粉末粒子表面に被覆形成される水和物は特に限定されず、例えば、CaO・Al・10HO、2CaO・Al・8HO、3CaO・Al・6HO、3CaO・Al・8HO、4CaO・Al・13HO、4CaO・Al・19HO、CaO・HO、Al・HO、Al・3HO、3CaO・Al・CaSO・12HO、3CaO・Al・3CaSO・32HO、3CaO・Al・CaCO・12HO、3CaO・Al・3CaCO・30HO等が挙げられる。
【0026】
本発明のセメント混和材は、上記した加水処理してなるカルシウムアルミネート系物質の粉末に加えて、石膏類を含むことができる。
【0027】
上記石膏類としては、無水石膏、二水石膏又は半水石膏であれば特に限定されないが、強度増進作用の観点から無水石膏が好ましい。また、天然、副産品として生成する化学石膏いずれも使用することができる。石膏類のブレーン比表面積は3000~12000cm/gが好ましく、4000~10000cm/gがより好ましい。本発明によるセメント混和材が石膏類を含む場合、セメント混和剤中の前記粉末の含有量が20~80質量%であり、前記石膏類の含有量が80~20質量%であることが好ましい。また、石膏類の配合量は、カルシウムアルミネート系物質100質量部に対して、20~150質量部が好ましく、30~100質量部がより好ましい。
【0028】
また本発明によるセメント混和材は、さらにアルミニウム硫酸塩、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属炭酸塩の群から選択される1種以上の金属塩を含むことが好ましい。上記アルミニウム硫酸塩としては、硫酸アルミニウム及びその水和物を使用することができる。例えば、市販されている硫酸バンド(硫酸アルミニウムの14~17水塩)を使用することができる。アルミニウム硫酸塩の配合量としては、配合する場合には、カルシウムアルミネート系物質100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、2~8質量部がより好ましい。
【0029】
上記アルカリ金属硫酸塩としては、硫酸リチウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。アルカリ金属硫酸塩の配合量としては、配合する場合には、カルシウムアルミネート系物質100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、2~8質量部がより好ましい。
【0030】
上記アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。アルカリ金属炭酸塩の配合量としては、配合する場合には、カルシウムアルミネート系物質100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、2~8質量部がより好ましい。
本発明によるセメント混和材は、上記した石膏類と、金属塩とは、両方を同時に配合することもできる。
【0031】
また、本発明によるセメント混和材は、さらに有機酸又はその塩から選ばれる一種以上の遅延剤を含むことができる。有機酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸等が挙げられ、その塩としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、ロッシェル塩等が挙げられる。カルシウムアルミネート系物質(カルシウムアルミネートスラグ)に対する遅延効果並びに強度発現性との相性の点から、特にクエン酸、酒石酸、あるいはそれらのアルカリ金属塩が好ましい。遅延剤の配合量は、セメント混和材中0.5~5質量%が好ましく、1~3質量%がより好ましい。
【0032】
<セメント組成物>
本発明のセメント組成物は、セメントと、上記セメント混和材とを含む組成物である。セメントとしては、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、並びにこれらポルトランドセメントに、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム又は石灰石微粉末等を混合した各種混合セメント、エコセメント等が挙げられ、これらを一種単独で又は二種以上併用して用いることができる。セメント混和材の混和量は、強度発現性や混錬物のフレッシュ性状の点から、セメント100質量部に対して、20~100質量部が好ましく、30~80質量部がより好ましい。また、ひとつの態様として、セメント混和材の含有量が、セメントとセメント混和材の合計100質量部に対して10~30質量部であることが好ましい。セメント混和材の含有量が過度に低い場合、初期強度発現性が悪く、かつ中性化が進み難くなる虞がある。一方、過度に高い場合は、セメント混錬物の流動性の確保が困難になる虞があるとともに、初期強度発現後の強度の伸びが悪くなる虞がある。さらに、セメント組成物には、適宜、骨材、水が添加される。セメント組成物に、適宜、骨材、水が添加され、練り混ぜられたものがセメント混錬物である。
【0033】
(セメント)
本発明で用いるセメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば普通、早強、超早強、中庸熱、低熱等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメント、エコセメント等が挙げられる。中でも、強度発現性やコストの観点から、普通ポルトランドセメント又は早強ポルトランドセメントが好ましい。
【0034】
(骨材)
本発明で用いる骨材としては、細骨材、粗骨材が挙げられる。これらの骨材は特に限定されるものではなく、一般にモルタルコンクリートで使用される骨材を用いることができる。細骨材としては、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂又はこれらの混合物等を使用することができる。また、粗骨材としては、川砂利、山砂利、陸砂利、砕石又はこれらの混合物等を使用することができる。
【0035】
骨材の配合量(細骨材と粗骨材を併用する場合はその合計量)は、流動性、ひび割れ防止、材料分離防止の点から、セメントとセメント混和材の合計100質量部に対して、200~700質量部が好ましく、200~600質量部がより好ましい。また、細骨材と粗骨材を併用する場合の細骨材率は、5~60%が好ましい。
【0036】
(水)
本発明で用いる水としては、特に限定されるものではなく、水道水等を使用することができる。上記セメント混練物において、セメントとセメント混和材の合計100質量部に対する水の配合比は、好ましくは30~100質量部、より好ましくは40~70質量部である。
【0037】
本発明のセメント組成物には、可使時間を調整するために、凝結遅延剤が含まれることが好ましい。凝結遅延剤としては、例えばクエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸などの有機酸又はその塩、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、リン酸塩、糖類等が挙げられる。凝結遅延剤の添加量は、セメントとセメント混和材の合計100質量部に対して、0.1~5.0質量部の範囲で適宜調整される。
【0038】
本発明のセメント組成物には、セメント及び上記のセメント混和材の他に、その添加剤及び骨材を、本発明の特長が損なわれない範囲で併用することができる。このような添加剤としては、例えば減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤等のセメント分散剤、強度促進材、セメント混和用ポリマー、発泡剤、起泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、増粘剤、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤、消泡剤、繊維、シリカヒューム、炭酸カルシウム微粉末等が挙げられる。
【0039】
<セメント硬化体>
本発明のセメント硬化体は、上記セメント組成物が硬化してなるセメント硬化体である。セメント硬化体としては、モルタル、コンクリートが含まれる。本発明におけるセメント硬化体は、材齢初期の強度発現性が良好であり、かつ材齢14日における強度発現性も良好である。セメント混和材を使用せず、セメントのみを用いた場合に比べても、ほとんど圧縮強度の低下はみられない。材齢14日における圧縮強度は、セメントのみを用いた場合に比べて90%以上である。
【0040】
そして、本発明におけるセメント硬化体は、中性化速度が速いことを特徴とする。具体的には、二酸化炭素ガス濃度5%で炭酸化養生した場合の中性化深さの進行速度(中性化速度)が0.3mm/日以上である。特に好ましい配合では、0.5mm/日以上である。
【0041】
このように、本発明におけるセメント硬化体は、副産物として発生するカルシウムアルミネートスラグを使用するものであって、良好な強度発現性を有し、かつ二酸化炭素を速やかに吸収し、中性化を速やかに促進することができる。そして、硬化後の二酸化炭素吸収量も考慮した総排出量として、セメント硬化体の製造に際して排出される二酸化炭素の総量を大幅に低減することができる。
【0042】
<セメント硬化体の製造方法>
本発明のセメント硬化体の製造方法は、上記したセメント混和材と、セメント、水及び骨材の各材料を混練して、セメント混練物を調製するセメント混練物調製工程と、前記セメント混練物を型枠内に打設する打設工程と、前記型枠内のセメント混練物が硬化した後に、セメント混練物の硬化体を型枠から脱型する脱型工程と、型枠から脱型した前記セメント混練物の硬化体を、二酸化炭素を含む雰囲気で養生する炭酸化養生工程とを具備する。
【0043】
セメント混練物調製工程は、本発明におけるセメント混和材、セメント、水及び骨材の各材料を混練して、セメント混練物を調製する工程である。各材料を混練する方法は特に限定されるものではない。また、混練に用いる装置も特に限定されるものではないが、一般的なモルタルコンクリートの混錬に用いるパン型ミキサー、二軸練りミキサー、傾胴ミキサ等の慣用のミキサーを使用することができる。
【0044】
打設工程は、セメント混錬物を型枠内に打設する工程である。打設方法としては、特に限定されるものではなく、一般のモルタルコンクリート製造時においてなされる慣用の方法によって打設される。セメント混練物を型枠内に打設した後、脱型するまでの養生方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、気中養生、水中養生、封緘養生及び蒸気養生等の一般的な養生方法を採用することができる。
【0045】
脱型工程は、型枠内の上記セメント混練物が硬化した後に、前記セメント混練物の硬化体を型枠から脱型する工程である。脱型時の強度は、7.5N/mm以上であることが好ましい。
【0046】
炭酸化養生工程は、二酸化炭素を含む雰囲気でセメント硬化体を養生する工程である。二酸化炭素を含む雰囲気とは、セメント硬化体の炭酸化(中性化と同義)が進行するための二酸化炭素を含む雰囲気であれば特に限定されるものではないが、二酸化炭素ガス濃度が1%以上であれば、セメント硬化体の二酸化炭素の吸収量を大きくすることができる。好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上、特に好ましくは5%以上である。二酸化炭素ガスの濃度の上限は、特に限定されるものではなく、二酸化炭素ガスの濃度が高いほど、二酸化炭素の吸収量を増加させることができるが、養生設備等のコストを低くする観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは70%以下、特に好ましくは50%以下である。
【0047】
また、炭酸化養生工程における温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは5~80℃である。また、上記炭酸化養生工程における相対湿度は、特に限定されるものではないが、好ましくは30~90%である。
【0048】
<セメント混和材の製造方法>
本発明のセメント混和材の製造方法は、加水処理してなるカルシウムアルミネート系物質の粉末を含むセメント混和材の製造方法であって、前記カルシウムアルミネート系物質として、金属精錬時に副産物として発生するカルシウムアルミネートスラグを含み、(A)~(C)の工程を具備する。各工程について、以下に詳しく説明する。
【0049】
(A)カルシウムアルミネートスラグ含有量調製工程
本工程は、カルシウムアルミネート系物質中に含まれるカルシウムアルミネートスラグの含有量を調製する工程である。カルシウムアルミネートスラグの粉末と、カルシウムアルミネートスラグ以外のカルシウムアルミネート系物質の粉末を、所定の割合で混合し、調製する。混合方法は特に限定されるものではなく、粉体混合機を用いて混合することができる。粉体混合機としては、レーディゲミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、VH粉体混合機等を使用することができる。混合時間は、混合量や装置に応じて適宜調整されるが、2~30分が好ましい。また、カルシウムアルミネート系物質として塊状物を用いる場合は、カルシウムアルミネートスラグと混合粉砕することによって、カルシウムアルミネートスラグの含有量を調製することもできる。この場合の粉砕方法も特に限定されるものではなく、ボールミル、振動ミル等の粉砕装置を用いて粉砕することができる。
【0050】
(B)加水処理工程
本工程は、カルシウムアルミネートスラグを含むカルシウムアルミネート系物質の粉末を加水処理する工程である。これにより粉末粒子表面に水和物の被覆層が形成される。加水処理の方法としては、何ら限定されるものではないが、例えば、粉体混合機を用いて、所定量の水を噴霧器で少しずつ噴霧添加して混合することが、比較的均一に水和物相を被覆できるので望ましい。粉体混合機としては、レーディゲミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、VH粉体混合機等を使用することができる。混合時間は、混合量や装置に応じて適宜調整されるが、2~30分が好ましい。水の噴霧量としては、カルシウムアルミネート系物質の重量に対して、0.2~3.5質量%が好ましい。なお、噴霧添加する水の代わりに、カルシウムアルミネートと反応し水和物を形成するものであれば、他の液体(含水有機溶媒、炭酸水等)でも使用することができる。
【0051】
(C)加水割合調製工程
本工程は、カルシウムアルミネート系物質中、加水処理してなるカルシウムアルミネート系物質の粉末の割合(加水割合)を調製する工程である。具体的には、加水割合が50~100質量%となるよう、加水処理したカルシウムアルミネート系物質の粉末と加水処理していない未加水のカルシウムアルミネート系物質の粉末とを配合して混合することによって調製する。混合方法は特に限定されるものではなく、粉体混合機を用いて混合することができる。粉体混合機としては、レーディゲミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、VH粉体混合機等を使用することができる。混合時間は、混合量や装置に応じて適宜調整されるが、2~30分が好ましい。
【0052】
さらに、必要に応じて、石膏類と、アルミニウム硫酸塩、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属炭酸塩の群から選択される1種又は2種以上を混合し、セメント混和材が作製される。混合方法は特に限定されるものではなく、粉体混合機を用いて混合することができる。粉体混合機としては、レーディゲミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、VH粉体混合機等を使用することができる。混合時間は、混合量や装置に応じて適宜調整されるが、2~30分が好ましい。
【実施例0053】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
〔実施例1〕
(1)カルシウムアルミネートスラグ(記号:CAS)
金属精錬時に発生するカルシウムアルミネートスラグとして、フェロバナジウムを精錬後のスラグとして生成したカルシウムアルミネートスラグを使用した。カルシウムアルミネートスラグの化学組成を表1に示す。このカルシウムアルミネートスラグは、バナジウムを酸化物換算で0.66質量%含むものであった。また、CaO/Alモル比は1.1、強熱減量は+0.25質量%(増量)であった。鉱物組成としては、クロタイトを80質量%、マイエナイトを5質量%、ゲーレナイトを10質量%、ペリクレースを2質量%含むものであった。また、ガラス化率は2%であった。鉱物の含有量及びガラス化率についてはX線回折装置を用いリートベルト法により算出した。このカルシウムアルミネートスラグを粗粉砕後、ボールミルで粉砕し、ブレーン比表面積が5020cm/gの粉末とした。
【0055】
【表1】
【0056】
(2)カルシウムアルミネート系物質の調製
カルシウムアルミネートスラグ以外のカルシウムアルミネート系物質としては、市販のアルミナセメント1号品を用いた。このアルミナセメントは、CaO/Alモル比が1.2であり、鉱物組成としてクロライトを主成分とするものであった。マイエナイトの含有量はX線回折を用いて測定した結果、0.3質量%であった。粉末度は、ブレーン比表面積が4100cm/gであった。カルシウムアルミネートスラグの粉末とアルミナセメントをレーディゲミキサーで混合し、カルシウムアルミネート系物質におけるカルシウムアルミネートスラグの含有量を調製した。
【0057】
(3)加水処理
調製したカルシウムアルミネート系物質の粉末50kgをレーディゲミキサーに投入し、ミキサーを回転しながら250gの水を噴霧器によって噴霧添加した。10分間混合し、加水処理してなるカルシウムアルミネート系物質の粉末を得た。
【0058】
(4)セメント混和材の作製
上記の加水処理を行ったカルシウムアルミネート系物質の粉末と、加水処理していないカルシウムアルミネート系物質の粉末を所定の割合(加水割合)で配合し、レーディゲミキサーで10分間混合した。さらに各種無機塩を加えて10分間混合し、セメント混和材を作製した。無機塩は、カルシウムアルミネート系物質100質量部に対して、無水石膏(市販品;ブレーン比表面積7100cm/g)100質量部、硫酸ナトリウム(試薬;関東化学社製)6質量部、炭酸リチウム(試薬;関東化学社製)6質量部配合した。
【0059】
(5)モルタル試験体の作製
作製したセメント混和材(記号:AD)を使用して、モルタル試験体を作製した。使用材料を下記に示す。また、モルタル配合を表2に示す。モルタル試験体の作製及び養生は20℃環境下で実施した。凝結遅延剤は、セメントとセメント混和材の合計量に対して0.6質量%添加した。
【0060】
(使用材料)
(1)セメント(C):普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製、密度:3.16g/cm
(2)細骨材(S):JIS標準砂
(3)水(W):上水道水
(4)凝結遅延剤:クエン酸(市販試薬1級)
【0061】
【表2】
【0062】
(試験方法)
試験方法を下記に示す。
(1)可使時間
JIS A 1147「コンクリートの凝結時間試験方法」に準じ、始発時間を測定し、その始発時間を可使時間とした。
(2)圧縮強度
土木学会基準JSCE- G541「充填モルタルの圧縮強度試験方法」に準じ、各時間材齢の圧縮強度を測定した。
【0063】
(試験結果)
試験結果を表3に示す。
20℃環境下において、加水割合が100質量%および50質量%の場合は、可使時間の確保ができ、かつ材齢4時間からの初期強度発現性が良好であることが確認された。ただし、CAS含有量が15質量%の場合は、材齢4時間の圧縮強度が低くなった。加水割合が0質量%の場合は、可使時間が30分未満となり、施工工程に必要な時間が確保できないことが確認された。
【0064】
【表3】
【0065】
〔実施例2〕
モルタル試験体の作製及び養生を、5℃環境下で実施した。凝結遅延剤の添加量は、加水割合100質量%の水準ではセメントとセメント混和材の合計量に対して0.16質量%、加水割合50質量%の水準では同0.25質量%とした。それ以外は、実施例1と同様に試験を実施した。
【0066】
試験結果を表4に示す。
5℃環境下において、加水割合が100質量%および50質量%の場合は、可使時間の確保ができ、かつ材齢4時間からの初期強度発現性が良好であることが確認された。ただし、CAS含有量が100質量%および15質量%の場合は、材齢4時間の圧縮強度が低くなった。また、加水割合100質量%とし、CAS含有量100質量%の場合は、材齢6時間強度も低くなった。加水割合0質量%の場合は、可使時間が30分未満となり、施工工程に必要な時間が確保できないことが確認された。
【0067】
【表4】
【0068】
〔実施例3〕
(1)カルシウムアルミネート系物質の調製
本実施例では、カルシウムアルミネート系物質として、実施例1において作製したカルシウムアルミネートスラグの粉末を使用した。この粉末50kgをレーディゲミキサーに投入し、ミキサーを回転しながら250gの水を噴霧器によって噴霧添加し加水処理を行い、表面が水和物で被覆されたカルシウムアルミネートスラグ粉末を得た。
【0069】
(2)セメント混和材の作製
加水処理した水和物被覆カルシウムアルミネートスラグ粉末と無水石膏(市販品、ブレーン比表面積7100cm/g)を混合し、セメント混和材とした。各セメント混和材の配合を表5に示す。比較例として、未加水のカルシウムアルミネートスラグ粉末を使用した水準(B)、カルシウムアルミネートスラグの代わりにアルミナセメント(市販品)を使用した水準(C)を試験した。
【0070】
【表5】
【0071】
(3)モルタルの作製
表5のセメント混和材と、普通セメント(太平洋セメント社製、密度:3.16g/cm)、細骨材(JIS標準砂)及び水(上水道水)を使用して、セメント混錬物(モルタル)を作製した。セメント混和材の含有量に応じて調製したモルタル配合を表6に示す。混練方法は、モルタルミキサーを用い、3分間混練し、各種試験に供した。試験方法を以下に示す。
【0072】
【表6】
【0073】
(試験方法)
(1)モルタルフロー
JIS R 5201「モルタルの物理試験」に準拠して試験した。
(2)圧縮強度試験
土木学会基準JSCE- G541「充填モルタルの圧縮強度試験方法」に準じ、材齢1及び14日の圧縮強度を試験した。養生温度は試験直前まで20℃とした。
(3)圧縮強度
(4)中性化深さ
JIS A 1152「コンクリートの中性化深さの測定方法」に準拠して試験した。
材令3日まで封かん養生し、その後脱型し温度20℃、湿度60%、CO濃度5%の中性化槽で材齢28日間試験を実施した。
【0074】
(試験結果)
試験結果を表7に示す。本発明におけるセメント硬化体は、セメント混練物の流動性(モルタルフロー)が良好であり、強度発現性(材齢1日及び材齢4日の圧縮強度)も良好であることが分かる。表中の圧縮強度比(材齢14日)は、セメント混和材無添加のモルタルの圧縮強度(試験No.18)に対する強度比を示している。実施例の試験水準は、いずれも0.90以上となっている。また、材齢28日における中性化深さから計算された中性化速度は、いずれの実施例も0.3mm/日以上となっている。
【0075】
【表7】
【0076】
〔実施例4〕
(1)カルシウムアルミネート系物質の調製
実施例3と同様に、カルシウムアルミネート系物質として、実施例1において作製したカルシウムアルミネートスラグの粉末を使用した。実施例3と同様にして加水処理されたカルシウムアルミネートスラグの粉末と、未加水のカルシウムアルミネートスラグの粉末を表8に示す割合で混合して、カルシウムアルミネートスラグの粉末混合物を調製した。
【0077】
(2)セメント混和材の作製
調製したカルシウムアルミネートスラグの粉末混合物と無水石膏(市販品、ブレーン比表面積7100cm/g)を混合し、セメント混和材とした。各セメント混和材の配合を表8に示す。
【0078】
【表8】
【0079】
(3)モルタルの作製
表8のセメント混和材と、普通セメント(太平洋セメント社製、密度:3.16g/cm)、細骨材(JIS標準砂)及び水(上水道水)を使用して、モルタルを作製した。セメント混和材の含有量に応じて調製したモルタル配合を表9に示す。混練方法は、モルタルミキサーを用い、3分間混練し、各種試験に供した。試験方法を以下に示す。
【0080】
(試験方法)
(1)モルタルフロー
JIS R 5201「モルタルの物理試験」に準拠して試験した。
(2)圧縮強度試験
土学会基準JSCE- G541「充填モルタルの圧縮強度試験方法」に準じ、材齢18時間及び14日の圧縮強度を試験した。養生温度は試験直前まで20℃とした。
【0081】
【表9】
【0082】
(試験結果)
各モルタルのモルタルフローと圧縮強度について試験した。試験結果を表10に示す。本発明におけるセメント混和材を使用したモルタルは、流動性(調製直後および60分後のモルタルフロー)が良好であり、強度発現性(材齢18時間及び材齢14日の圧縮強度)も良好であることが分かる。
【0083】
【表10】
【0084】
〔実施例5〕
(1)セメント混和材の作製
実施例4と同様に調製したカルシウムアルミネートスラグの粉末混合物と無水石膏(市販品、ブレーン比表面積7100cm/g)に加えて、遅延剤としてクエン酸(市販試薬1級)を混合し、セメント混和材とした。各セメント混和材の配合を表11に示す。
【0085】
【表11】
【0086】
(2)モルタルの作製
表11のセメント混和材と、普通セメント(太平洋セメント社製、密度:3.16g/cm)、細骨材(JIS標準砂)及び水(上水道水)を使用して、実施例4と同様に、モルタルを作製し、各種試験に供した。
【0087】
(試験結果)
各モルタルのモルタルフローと圧縮強度について試験した。試験結果を表12に示す。遅延剤を含むセメント混和材を使用したモルタルの流動性は良好であり、特に60分後の流動性が良好であり、かつ材齢18時間後の強度発現性も良好であることが分かる。
【0088】
【表12】
【手続補正書】
【提出日】2024-04-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意検討した結果、適切なCaOとAlとの含有モル比を有するカルシウムアルミネートスラグを含むカルシウムアルミネート系物質の粉末を加水処理することによって、十分な可使時間が確保されるとともに、良好な強度発現性を有するセメント混和材が得られることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は〔1〕~〔12〕に示すものである。
[1]
カルシウムアルミネート系物質の粉末を含んでなるセメント混和材であって、
前記粉末が、金属精錬時に副産物として発生する、化学成分としてCaOとAlとの含有モル比(CaO/Al)が0.9~1.5であるカルシウムアルミネートスラグを含み、かつ、
前記粉末の少なくとも一部が加水処理されたものであることを特徴とするセメント混和材
[2]
前記粉末中のカルシウムアルミネートスラグの含有量が30~100質量%であり、
前記粉末中の加水処理された粉末の割合が50~100質量%である、[1]に記載のセメント混和材
[3]
石膏類をさらに含んでなり、前記セメント混和材中の前記粉末の含有量が20~80質量%であり、前記石膏類の含有量が80~20質量%である、[1]又は[2]に記載のセメント混和材。
[4]
アルミニウム硫酸塩、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属炭酸塩の群から選択される一種以上の金属塩をさらに含有する、[1]~[3]のいずれかに記載のセメント混和材

[5]
有機酸又はその塩から選ばれる一種以上の遅延剤をさらに含有する、[1]~[4]のいずれかに記載のセメント混和材。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載のセメント混和材と、セメントと、を含有することを特徴とする、セメント組成物。
[7]
前記セメントがポルトランドセメントである、[6]に記載のセメント組成物。
[8]
前記セメント混和材の含有量が、前記セメントと前記セメント混和材との合計100質量部に対して10~30質量部である、[6]又は[7]に記載のセメント組成物。
[9]
凝結遅延剤をさらに含んでなる、[6]~[8]のいずれかに記載のセメント組成物。
[10]
[6]~[9]のいずれかに記載のセメント組成物が硬化してなることを特徴とする、セメント硬化体。
[11]
前記セメント硬化体の中性化速度が、0.3mm/日以上である、[10]に記載のセメント硬化体。
[12]
[1]~[5]のいずれかに記載のセメント混和材、セメント、水及び骨材を混練して、セメント混練物を調製するセメント混練物調製工程と、
前記セメント混練物を型枠内に打設する打設工程と、
前記型枠内に打設された前記セメント混練物が硬化した後に、前記セメント混練物の硬化体を前記型枠から脱型する脱型工程と、
前記型枠から脱型した前記セメント混練物の硬化体を、二酸化炭素を含む雰囲気で養生する炭酸化養生工程と
を具備することを特徴とする、セメント硬化体の製造方法。
[13]
カルシウムアルミネート系物質の粉末を含むセメント混和材の製造方法であって、
(A)前記粉末が、金属精錬時に副産物として発生する、化学成分としてCaOとAlとの含有モル比(CaO/Al)が0.9~1.5であるカルシウムアルミネートスラグを、前記粉末中、30~100質量%となるよう調製するカルシウムアルミネートスラグ含有量調製工程と、
(B)前記粉末を加水処理する加水処理工程と、
(C)前記セメント混和材中の、加水処理された粉末の割合が50~100質量%となるよう調製する加水割合調製工程と
を具備することを特徴とする、セメント混和材の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0027
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0027】
上記石膏類としては、無水石膏、二水石膏又は半水石膏であれば特に限定されないが、
強度増進作用の観点から無水石膏が好ましい。また、天然、副産品として生成する化学石
膏いずれも使用することができる。石膏類のブレーン比表面積は3000~12000c
/gが好ましく、4000~10000cm/gがより好ましい。本発明によるセ
メント混和材が石膏類を含む場合、セメント混和材中の前記粉末の含有量が20~80質
量%であり、前記石膏類の含有量が80~20質量%であることが好ましい。また、石膏
類の配合量は、カルシウムアルミネート系物質100質量部に対して、20~150質量
部が好ましく、30~100質量部がより好ましい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムアルミネート系物質の粉末を含んでなるセメント混和材であって、
前記粉末が、金属精錬時に副産物として発生する、化学成分としてCaOとAlとの含有モル比(CaO/Al)が0.9~1.5であるカルシウムアルミネートスラグを含み、かつ、
前記粉末の少なくとも一部が加水処理されたものであることを特徴とするセメント混和材
【請求項2】
前記粉末中のカルシウムアルミネートスラグの含有量が30~100質量%であり、
前記粉末中の加水処理された粉末の割合が50~100質量%である、請求項1に記載のセメント混和材
【請求項3】
石膏類をさらに含んでなり、前記セメント混和材中の前記粉末の含有量が20~80質量%であり、前記石膏類の含有量が80~20質量%である、請求項1又は2に記載のセメント混和材。
【請求項4】
アルミニウム硫酸塩、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属炭酸塩の群から選択される一種以上の金属塩をさらに含有する、請求項1又は2に記載のセメント混和材。
【請求項5】
有機酸又はその塩から選ばれる一種以上の遅延剤をさらに含有する、請求項1又は2に記載のセメント混和材。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のセメント混和材と、セメントと、を含有することを特徴とする、セメント組成物。
【請求項7】
前記セメントがポルトランドセメントである、請求項6に記載のセメント組成物。
【請求項8】
前記セメント混和材の含有量が、前記セメントと前記セメント混和材との合計100質量部に対して10~30質量部である、請求項6に記載のセメント組成物。
【請求項9】
凝結遅延剤をさらに含んでなる、請求項6に記載のセメント組成物。
【請求項10】
請求項6に記載のセメント組成物が硬化してなることを特徴とする、セメント硬化体。
【請求項11】
前記セメント硬化体の中性化速度が、0.3mm/日以上である、請求項10に記載のセメント硬化体。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のセメント混和材、セメント、水及び骨材を混練して、セメント混練物を調製するセメント混練物調製工程と、
前記セメント混練物を型枠内に打設する打設工程と、
前記型枠内に打設された前記セメント混練物が硬化した後に、前記セメント混練物の硬化体を前記型枠から脱型する脱型工程と、
前記型枠から脱型した前記セメント混練物の硬化体を、二酸化炭素を含む雰囲気で養生する炭酸化養生工程と
を具備することを特徴とする、セメント硬化体の製造方法。
【請求項13】
カルシウムアルミネート系物質の粉末を含むセメント混和材の製造方法であって、
(A)前記粉末が、金属精錬時に副産物として発生する、化学成分としてCaOとAlとの含有モル比(CaO/Al)が0.9~1.5であるカルシウムアルミネートスラグ前記粉末中、30~100質量%となるよう調製するカルシウムアルミネートスラグ含有量調製工程と、
(B)前記粉末を加水処理する加水処理工程と、
(C)前記セメント混和材中の、加水処理された粉末の割合が50~100質量%となるよう調製する加水割合調製工程と
を具備することを特徴とする、セメント混和材の製造方法。