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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144202
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ガス拡散電極基材および燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20241003BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241003BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M4/96 B
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024036763
(22)【出願日】2024-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2023053082
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】亀田 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】片山 豊
(72)【発明者】
【氏名】榛葉 陽一
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB06
5H018DD06
5H018EE05
5H018EE08
5H018EE19
5H018HH02
5H018HH03
5H018HH04
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】燃料電池において、保湿性および排水性に優れ、低電流密度および高電流密度での良好な発電性能を有するガス拡散電極基材を提供する。
【解決手段】導電性多孔質基材の少なくとも一方の面に微多孔層を有するガス拡散電極基材であって、前記微多孔層中に平均直径10~60μmの球状の空孔を有し、前記微多孔層の断面全体に形成された空孔の面積率が10~50%であり、前記微多孔層の前記導電性多孔質基材を有さない側の表面全体に形成された空孔の面積率が5~25%であり、球状の空孔の平均直径が前記微多孔層の厚さよりも大きいガス拡散電極基材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性多孔質基材の少なくとも一方の面に微多孔層を有するガス拡散電極基材であって、前記微多孔層中に平均直径10~60μmの球状の空孔を有し、前記微多孔層の断面全体に形成された空孔の面積率が10~50%であり、前記微多孔層の前記導電性多孔質基材を有さない側の表面全体に形成された空孔の面積率が5~25%であり、球状の空孔の平均直径が前記微多孔層の厚さよりも大きいガス拡散電極基材。
【請求項2】
前記微多孔層の表面の算術平均粗さSaが6~20μmである請求項1に記載のガス拡散電極基材。
【請求項3】
前記微多孔層の表面のF/C比が0.4~0.6である請求項1または2に記載のガス拡散電極基材。
【請求項4】
前記微多孔層の表面の接触角が5~50°である請求項1または2に記載のガス拡散電極基材。
【請求項5】
前記微多孔層の厚さが5~55μmである請求項1または2に記載のガス拡散電極基材。
【請求項6】
前記導電性多孔質基材がカーボンペーパーである請求項1または2に記載のガス拡散電極基材。
【請求項7】
請求項1または2に記載のガス拡散電極基材を含む燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、特に固体高分子型燃料電池に用いられるガス拡散電極基材、および当該ガス拡散電極基材を含む燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素を含む燃料ガスをアノードに供給し、酸素を含む酸化ガスをカソードに供給して、両極で起こる電気化学反応によって起電力を得る固体高分子型燃料電池は、一般的に、セパレータ、ガス拡散電極基材、触媒層、電解質膜、触媒層、ガス拡散電極基材、およびセパレータを順に積層して構成されている。上記のガス拡散電極基材には、セパレータから供給されるガスを触媒層へと拡散するための高いガス拡散性と、電気化学反応に伴って生成する水をセパレータへ排出するための高い排水性、および発生した電流を取り出すための高い導電性が必要である。そのため、炭素繊維などからなる炭素シートを基材としてその表面に微多孔層を形成したガス拡散電極基材が広く用いられている。
【0003】
しかしながら、このようなガス拡散電極基材の課題として、(1)固体高分子型燃料電池を低電流密度領域において作動させる場合、生成水が少なくドライ条件となるため、電解質膜が乾燥してプロトン伝導性が低下する結果、発電性能が低下する問題と、(2)高電流密度領域において作動させる場合、逆に生成水が多くウェット条件となるため、ガス拡散電極基材が生成水によって閉塞し、ガスの供給が不足する結果、発電性能が低下する問題がある。そのため、ガス拡散電極基材には、低電流密度領域での高い保湿性と高電流密度領域での高い排水性の両立が求められる。これを解決するため、ガス拡散電極基材の表面に微多孔層を形成し、その微多孔層内に空孔を形成して、ガスの拡散性と排水性を向上させる方法がとられている。
【0004】
たとえば、微多孔層の厚さよりも大きい空孔を形成して、高い空孔率を有するガス拡散電極基材が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、厚さ方向に貫通した柱状の空孔を形成したガス拡散電極基材が提案されている(特許文献2)。
【0006】
また、微多孔層に繊維状の空孔を形成したガス拡散電極基材が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-15226号公報
【特許文献2】特開2007-179870号公報
【特許文献3】特開2006-120506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、高い排水性を実現可能だが、空孔率が高すぎるため保湿性との両立に乏しく、微多孔層の耐久性にも不安がある構造である。また、特許文献2に記載の技術は、貫通孔によりガス拡散性および排水性の向上が可能だが、保湿性の点では効果が乏しい。また、特許文献3に記載の技術は、繊維状の空孔のため、空孔サイズが小さく十分な排水性が得られない。
【0009】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の背景に鑑み、従来困難であった保湿性および排水性を両立し、低電流密度および高電流密度での発電性能に優れるガス拡散電極基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態は、以下の通りである。
(1)導電性多孔質基材の少なくとも一方の面に微多孔層を有するガス拡散電極基材であって、前記微多孔層中に平均直径10~60μmの球状の空孔を有し、前記微多孔層の断面全体に形成された空孔の面積率が10~50%であり、前記微多孔層の表面全体に形成された空孔の面積率が5~25%であり、球状の空孔の平均直径が前記微多孔層の厚さよりも大きいガス拡散電極基材。
(2)前記微多孔層の表面の算術平均粗さSaが6~20μmである(1)に記載のガス拡散電極基材。
(3)前記微多孔層の表面のF/C比が0.4~0.6である(1)または(2)に記載のガス拡散電極基材。
(4)前記微多孔層の表面の接触角が5~50°である(1)~(3)のいずれかに記載のガス拡散電極基材。
(5)前記微多孔層の厚さが5~55μmである(1)~(4)のいずれかに記載のガス拡散電極基材。
(6)前記導電性多孔質基材がカーボンペーパーである(1)~(5)のいずれかに記載のガス拡散電極基材。
(7)(1)~(6)のいずれかに記載のガス拡散電極基材を含む燃料電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来困難であった保湿性および排水性を両立し、低電流密度および高電流密度での発電性能に優れるガス拡散電極基材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、導電性多孔質基材の少なくとも一方の面に微多孔層を有するガス拡散電極基材であって、前記微多孔層中に平均直径10~60μmの球状の空孔を有し、前記微多孔層の断面全体に形成された空孔の面積率が10~50%であり、前記微多孔層の前記導電性多孔質基材を有さない側の表面全体に形成された空孔の面積率が5~25%であり、球状の空孔の平均直径が前記微多孔層の厚さよりも大きいガス拡散電極基材である。
【0013】
以下、本発明のガス拡散電極基材を構成する導電性多孔質基材、微多孔層、および燃料電池について詳細に説明する。
【0014】
[導電性多孔質基材]
本発明における導電性多孔質基材としては、炭素繊維を含む多孔質基材や金属多孔体が一般的に用いられる。その中でも、本発明では、炭素繊維織物、炭素繊維抄紙体、カーボンフェルト、カーボンペーパーなどの炭素繊維を含む多孔質基材が好ましく用いられる。ここで、カーボンペーパーとは、炭素繊維抄紙体を樹脂炭化物などの結着材で結着してなるシートを指すものとする。これらの中でも、耐腐食性が優れ、電解質膜の厚さ方向の寸法変化を吸収する特性、すなわち「ばね性」に優れることから、カーボンペーパーを用いることがより好ましい。
【0015】
導電性多孔質基材に好ましく用いられ得る炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系やピッチ系、レーヨン系などが挙げられる。中でもPAN系炭素繊維とピッチ系炭素繊維が、機械強度に優れていることから好ましく用いられる。また、レーヨン繊維やアクリル繊維、セルロース繊維などの天然繊維や合成繊維を混合してもよい。
【0016】
炭素繊維の単繊維の平均直径は3~20μmであることが好ましい。平均直径が3μm以上であると、導電性多孔質基材の細孔径が大きくなりガス拡散性や排水性が向上するので燃料電池の発電性能が向上する。一方、平均直径が20μm以下であると、水蒸気拡散性が小さくなり、電解質膜や触媒層が乾燥して性能が下がることを抑制することができる。すなわち保湿性が向上する。炭素繊維の単繊維の平均直径が5~10μmであるとこれらの効果が高まるのでより好ましい。
【0017】
導電性多孔質基材として炭素繊維抄紙体やカーボンペーパーを用いる場合、炭素繊維の単繊維の平均長さは3~20mmであることが好ましい。平均長さが3mm以上であると、導電性多孔質基材の機械強度、導電性、熱伝導性が良好となる。一方、平均長さが20mm以下であると、抄紙の際の炭素繊維の分散性が良好となり、均質な導電性多孔質基材が得られる。炭素繊維の単繊維の平均長さが5~15mmであるとこれらの効果が高まるのでより好ましい。
【0018】
導電性多孔質基材の単位面積当たりの質量(目付)は20~50g/mであることが好ましい。目付が20g/m以上であると、導電性多孔質基材の機械強度や導電性が向上する。一方、目付が50g/m以下であると、導電性多孔質基材のガス拡散性が良好となる。導電性多孔質基材の目付が30~40g/mであるとこれらの効果が高まるのでより好ましい。
【0019】
導電性多孔質基材の目付の調整は、導電性多孔質基材の構成材料である、炭素繊維や樹脂炭化物などの量を制御することにより行うことができる。
【0020】
導電性多孔質基材としては、撥水処理により撥水性樹脂が内部に付着したものが好ましく用いられる。撥水性樹脂としては、フルオロアルキル鎖を有するフッ素樹脂などが好ましい。上記フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PVF(ポリフッ化ビニル)などが挙げられるが、高い撥水性を発現するPTFE、あるいはFEPが好ましい。
【0021】
撥水性樹脂の量は特に限定されないが、導電性多孔質基材全体の質量100質量%中に、0.1~20質量%含まれることが好ましい。この範囲であると、撥水性が十分に発揮される一方、撥水性樹脂がガス拡散経路となる細孔を塞いだり、電気抵抗が上がったりすることを抑制できる。
【0022】
固体高分子型燃料電池において、ガス拡散電極基材は、セパレータから供給されるガスを触媒へと拡散させるための高いガス拡散性および電気化学反応に伴って生成する水をセパレータへ排出するための高い排水性が要求される。このため、導電性多孔質基材は、10~100μmに細孔径のピークを有することが好ましい。細孔径とその分布は、水銀ポロシメーターによる細孔径分布測定により求めることができる。導電性多孔質基材の細孔径を求めるためには、導電性多孔質基材のみを測定してもよいし、微多孔層形成後のガス拡散電極基材を測定してもよい。ガス拡散電極基材を測定する場合、ガス拡散電極基材の厚さ方向に平行な断面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察により各層構造を確認し、SEM像によって導電性多孔質基材の細孔の径を概略求める。続いて、水銀ポロシメーターによって得られる複数の細孔径のピークと、上記SEM像による概略値との対応付けをしながら、導電性多孔質基材の細孔径を決める。
【0023】
本発明においては、導電性多孔質基材の空隙率が80~95%であることが好ましい。空隙率が80%以上であるとガス拡散性が高まり発電性能が向上する。一方、空隙率が95%以下であると導電性多孔質基材の機械強度が高まり、導電性も向上する。導電性多孔質基材の空隙率が85~90%であるとこれら効果が高まるのでより好ましい。導電性多孔質基材の空隙率は、比重計などを用いて測定することができる。
【0024】
本発明の導電性多孔質基材の厚さは90~180μmであることが好ましい。ここで、導電性多孔質基材の厚さとは両表面を0.15MPaの圧力で挟んだときの厚さである。厚さが90μm以上であると、機械強度が保たれ製造工程でのハンドリングが容易である。また、ばね性が高くなり燃料電池使用時の電解質膜の膨張・収縮による寸法変化をガス拡散電極基材が吸収できることや、面内方向のガス拡散性が良好となることから、発電性能が向上する。一方、導電性多孔質基材の厚さが180μm以下であると、厚さ方向のガス拡散性が高まること、および、厚さ方向の導電経路が短くなり導電性が良好となることから、発電性能が向上する。導電性多孔質基材の厚さが110~150μmであるとこれらの効果が高まるのでより好ましい。
【0025】
[微多孔層]
次いで、微多孔層について説明する。本発明のガス拡散電極基材は導電性多孔質基材の少なくとも一方の面に微多孔層を有するが、導電性多孔質基材の一方の面のみに微多孔層を有することが好ましい。微多孔層の役割としては、電解質膜や触媒層の保湿や生成水の排出といった水管理、触媒層とガス拡散電極基材との界面電気抵抗の低減、導電性多孔質基材から突き出した炭素繊維による電解質膜の破損抑制、などが挙げられる。保湿性および排水性向上のため本発明における微多孔層は空孔を有する。また、本発明における微多孔層は炭素微粒子と撥水性樹脂とを含む層であることが好ましい。
【0026】
本発明の微多孔層は、平均直径10~60μmの球状である空孔を有する。空孔が球状であることにより線状や扁平状よりも燃料電池セル内での微多孔層に加わる圧力に対して空孔の形状が保たれるため、水蒸気をより閉じ込めることができ、保湿性向上につながる。また、球状である空孔の平均直径が10μm以上であると排水性が高まり高電流密度での発電性能が向上する。一方、平均直径が60μm以下であると保湿性が高まり低電流密度での発電性能が向上する。平均直径が30~50μmであるとこれらの効果が高まるので好ましい。
【0027】
本発明において、球状である空孔とは、空孔の長径と短径の比で求められるアスペクト比が1.0~1.3の範囲である空孔を指す。ここで長径とは空孔内の2点間を結んだ線分のうち最も長い線分を指し、短径は長径と直交する線分のうち、最も長いものとする。
【0028】
上記アスペクト比の測定方法を説明する。イオンミリング装置を用い、ガス拡散電極基材を厚さ方向に平行に切断した断面観察用サンプルを無作為に10個作製する。このとき、ガス拡散電極基材の切断位置は特に限定されず、上記断面観察用サンプルの大きさは、5mm(断面切断部の幅)×12mmとする。次に、走査型電子顕微鏡を用い、サンプルの任意の場所の微多孔層の断面を1,000倍に拡大した画像を取得し、画像解析ソフト「ImageJ」にて、画像中の微多孔層に存在するそれぞれの空孔の長径と短径を計測してアスペクト比を求め、平均値を算出する。10個のサンプルの画像について同様に行い、全体の算術平均値を空孔のアスペクト比とする。
【0029】
本発明において、球状の空孔の平均直径とは、球状の空孔の円相当径の平均値を意味する。測定方法としては、上記と同様に、イオンミリング装置を用いてガス拡散電極基材を厚さ方向に平行に切断したサンプルの断面を走査型電子顕微鏡を用いて1,000倍に拡大して画像を取得し、画像解析ソフト「ImageJ」にて、画像中の微多孔層に存在するそれぞれの球状の空孔の面積を計測し、以下式より円相当径を算出する。得られた円相当径のうち、1μm以上のものの平均値を算出する。10個のサンプルの画像について同様に行い、全体の算術平均値を球状の空孔の平均直径とする。
【0030】
【数1】
【0031】
本発明の微多孔層においては、微多孔層の断面全体に形成された空孔の面積率(以下、断面空孔率と記載する)が10~50%であり、微多孔層の表面全体に形成された空孔の面積率(以下、表面空孔率と記載する)が5~25%である。断面空孔率が10%以上および表面空孔率が5%以上であると排水性が高まり高電流密度での発電性能が向上する。一方、断面空孔率が50%以下および表面空孔率が25%以下であると保湿性が高まり低電流密度での発電性能が向上する。断面空孔率が15~30%および表面空孔率が8~15%であるとこれら効果が高まるので好ましい。
【0032】
上記断面空孔率とは、微多孔層を厚さ方向に平行に切断したサンプルの断面全体に占める空孔の面積率である。測定方法としては、走査型電子顕微鏡にて断面を1,000倍に拡大して画像を取得し、画像解析ソフト「ImageJ」にて円相当径1μm以上の空孔部分の面積を計測し、微多孔層の断面全体の面積に対する空孔部分の面積の比を求め、断面空孔率とする。サンプルとしては10枚切り出し、10枚それぞれの断面空孔率の算術平均値を微多孔層の断面空孔率とする。
【0033】
上記表面空孔率とは、微多孔層の導電性多孔質基材を有さない側の表面全体に占める空孔の面積率である。測定方法としては、走査型電子顕微鏡にてサンプルの任意の場所の微多孔層表面を1,000倍に拡大した画像を取得し、画像解析ソフト「ImageJ」にて、画像中の円相当径1μm以上の空孔部分の面積を計測し、微多孔層全体の面積に対する空孔部分の面積の比を求め、表面空孔率とする。任意の10か所の画像を取得し、10か所それぞれの表面空孔率の算術平均値を微多孔層の表面空孔率とする。
【0034】
また、本発明においては、微多孔層に存在する球状の空孔の平均直径が、微多孔層の厚さよりも大きい。こうすることで微多孔層を貫通する孔が多く形成し、排水性が高まり高電流密度での発電性能が向上する。ここでいう微多孔層の厚さとは、ガス拡散電極基材の厚さから導電性多孔質機材の厚さを引いた値を指し、すなわち微多孔層が導電性多孔質基材に浸みこんでいる分の厚さは考えないものとする。
【0035】
微多孔層の厚さを測定する方法としては、導電性多孔質基材を平滑な定盤にのせ、圧力0.15MPaをかけた状態での導電性多孔質基材の厚さを測定し、次に、微多孔層が形成されたガス拡散電極基材の厚さを同様に測定し、ガス拡散電極基材の厚さから導電性多孔質基材の厚さを引くことで求めることができる。ガス拡散電極基材から当該厚さを測定する場合は、微多孔層を空気中500℃で1時間加熱した後擦り落とすことで除去して、導電性多孔質基材のみを取り出し、微多孔層を除去する前後の厚さの差より算出できる。
【0036】
本発明の空孔の形成方法としては、後述するカーボン塗液に造孔剤を配合し、当該カーボン塗液を導電性多孔質基材に塗工した後、焼結して造孔剤を焼失させる方法等を用いることができる。
【0037】
上記造孔剤の形状は空孔の形状と同様、球状であることが好ましい。造孔剤の材料としては、ガス拡散電極基材の焼結条件で焼失または縮小して、微多孔層内に空孔を形成する材料であれば特に限定されないが、例えばアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、でんぷん、ポリ乳酸樹脂、昇華性低分子体、マイクロバルーンなどを用いることができる。ここで昇華性低分子体とは通常分子量が1,000以下の低分子有機物粉体であり、焼結温度において昇華して焼失するものである。昇華性低分子体の一例としてアントラセンやペンタセン、フェナントレンなどが挙げられる。また、マイクロバルーンは中空状の粒子で、加熱により大きく膨らみ、周囲に空孔を形成し、最終的には樹脂部が熱分解または縮小して空孔だけが残るものであり、種々の材料が上市されている。その例としては“マツモトスフィア(登録商標)”(松本油脂製薬(株)製)や“Expancel(登録商標)”(日本フィライト(株)製)などが挙げられる。マイクロバルーンのように加熱により膨張する造孔剤の場合、本発明においては、加熱時の膨張最大径を造孔剤の直径とする。
【0038】
造孔剤としては、一般的な焼結条件である380℃における炭化収率が20%以下である材料が好ましい。炭化収率が20%より大きな造孔剤を用いると、焼結後に親水性の炭化物が残り、空孔そのものに水を溜め込み排出を阻害する場合がある。この条件を満たす材料としては、例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)が挙げられる。炭化収率は、例えばSII社製EXTRA TGA6200のようなTGA装置を用いて測定することができる。具体的には当該装置を用いて、大気中にて50℃から2℃/minの昇温速度で380℃まで温度を上昇させ、380℃にて10min保持する。この後380℃にて保持された後の質量をもとの質量で除して100をかけたものを380℃における炭化収率とする。
【0039】
カーボン塗液における造孔剤の配合量は、炭素微粒子の配合量を100質量部としたとき、10~500質量部であることが好ましく、30~200質量部であることがより好ましい。造孔剤の配合量が10質量部未満であると十分な空孔が得られず、排水が不十分となる場合がある。造孔剤の配合量が500質量部を超えると空孔率が過剰になり、微多孔層の機械強度や導電率・熱伝導率が低下し、十分な発電性能が得られない場合がある。
【0040】
上記微多孔層が好ましく含む炭素微粒子としては、具体的にはカーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェンなどが用いられる。なかでも安価なカーボンブラックが好適に用いられる。
【0041】
上記炭素微粒子の比表面積は20~40m/gであることが好ましい。比表面積の測定方法は特に限定されないが、例えば窒素吸着法により求めることができる。窒素吸着法とは、脱気した炭素微粒子を液体窒素温度に冷却した容器内に窒素とともに封入し、平衡時における炭素微粒子表面に吸着した窒素量を測定し、この値から比表面積を算出する手法のことである。炭素微粒子の比表面積が20m/g以上であると炭素微粒子の後述するカーボン塗液中での分散性が高まるので均一な微多孔層を形成できる。また、微多孔層の保湿性や排水性が高まるので発電性能が向上する。また、炭素微粒子の比表面積が40m/g以下であると、カーボンの酸化腐食反応が抑制されるので燃料電池の耐久性が高まる。
【0042】
微多孔層中の撥水性樹脂および炭素微粒子の含有量は質量分析(Mass Spectrometry)により測定できる。撥水性樹脂の含有量は、微多孔層をヘリウム雰囲気中1,000℃まで加熱して樹脂成分を分解除去する際の脱ガス成分分析により測定できる。炭素微粒子の含有量は、上記加熱分解処理の残留物の質量から測定できる。
【0043】
また、カーボンナノファイバーやカーボンナノチューブなどの繊維状の炭素微粒子は、微多孔層内部に導電経路を形成するので、微多孔層の電気抵抗を下げる効果がある。
【0044】
上記微多孔層が好ましく含む撥水性樹脂としては、化学的な安定性、撥水性などの点からフルオロアルキル鎖を有するフッ素樹脂が好適であり、導電性多孔質基材を撥水処理する際に好適に用いられるフッ素樹脂と同様、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)などが挙げられる。
【0045】
一般にフッ素樹脂は水や有機溶剤などに対して不溶であるため、カーボン塗液を製造する際には、微粒子状に加工された撥水性樹脂の分散液を用いることが好ましい。微粒子状の撥水性樹脂の分散液としては、“ポリフロン(登録商標)”D-210C、ND-110(以上、ダイキン工業(株)製)、120-JRB、31-JR(以上、三井・ケマーズフロロプロダクツ(株)製)、などが挙げられる。
【0046】
撥水性樹脂としてシロキサン結合を有するシリコーンを用いることもできる。
【0047】
また、撥水性樹脂以外に、熱硬化性樹脂を含有してもよい。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリレート樹脂、フラン樹脂などが挙げられる。
【0048】
さらに、微多孔層には、保湿性を高めるために、親水性を有する粒子を含有してもよい。親水性を有する粒子の成分としては、フェノール樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂、エーテル樹脂などの有機高分子が好ましいが、導電性を保持するために高炭化収率のフェノール樹脂粒子がより好ましい。また、水素欠乏時の逆電位状態において、水の電気分解を促進する酸化イリジウムや酸化ルテニウム、酸化チタンなどの微粒子を含有してもよい。さらに、アノード電極で発生する水酸化物ラジカルを不活性化するための、酸化セリウムや酸化マンガンなどの微粒子を含有してもよい。
【0049】
本発明の微多孔層の目付は5~35g/mであることが好ましい。微多孔層の目付が5g/m以上であると、導電性多孔質基材の表面から突き出した炭素繊維を覆うので、炭素繊維が電解質膜を傷つけることを抑えることができる。また、ガス拡散電極基材と触媒層との接触抵抗を下げることや電解質膜の乾燥を防ぐことができる。また、微多孔層の目付が35g/m以下であると、排水性が良好となる。微多孔層の目付が、10~25g/mであるとこれらの効果が高まるのでより好ましい。
【0050】
また、微多孔層の厚さは5~55μmが好ましい。厚さが5μm以上であると導電性多孔質基材の表面から突き出した炭素繊維を覆うので、炭素繊維が電解質膜を傷つけることを抑えることができ、さらに保湿性が向上する。一方、厚さが55μm以下であるとガス拡散電極基材の導電性が高まり、さらに排水性が向上する。厚さが15~40μmであるとこれら効果が高まるのでより好ましい。
【0051】
微多孔層の厚さを測定する方法としては、導電性多孔質基材を平滑な定盤にのせ、圧力0.15MPaをかけた状態での導電性多孔質基材の厚さを測定し、次に、微多孔層が形成されたガス拡散電極基材の厚さを同様に測定し、ガス拡散電極基材の厚さから導電性多孔質基材の厚さを引くことで求めることができる。ガス拡散電極基材から当該厚さを測定する場合は、微多孔層を空気中500℃で1時間加熱した後擦り落とすことで除去して、導電性多孔質基材のみを取り出し、微多孔層を除去する前後の厚さの差より算出できる。
【0052】
本発明の微多孔層の表面の算術平均粗さSaは6~20μmが好ましい。Saが6μm以上であると表面の凹凸性が大きく、水蒸気が留まりやすくなり保湿性が高まり低電流密度での発電性能が向上する。一方、Saが20μm以下であると微多孔層と触媒層との接着性が向上し、また微多孔層自体の機械特性や耐久性が向上する。Saが7~15μmであるとこれら効果が高まるのでより好ましい。
【0053】
本発明の微多孔層の表面のフッ素原子/炭素原子比(F/C比)は0.4~0.6が好ましい。F/C比が0.4以上であると表面の撥水性が高まり、排水性が向上する。一方、F/C比が0.6以下であると保湿性が向上する。
【0054】
本発明の微多孔層の表面の接触角は5~50°が好ましい。接触角が5°以上であると表面の撥水性が高まり、排水性が向上する。一方、接触角が50°以下であると保湿性が向上する。接触角が10~30°であるとこれら効果が高まるのでより好ましい。
【0055】
微多孔層は、導電性多孔質基材の少なくとも一方の面に、前述の造孔剤や炭素微粒子を含むカーボン塗液を塗工することなどによって形成することができる。
【0056】
カーボン塗液は、水や有機溶媒などの分散媒を含んでもよく、界面活性剤などの分散助剤を含有させることもできる。分散媒としては水が好ましく、分散助剤にはノニオン性の界面活性剤を用いることが好ましい。
【0057】
カーボン塗液の導電性多孔質基材への塗工は、市販されている各種の塗工装置を用いて行うことができる。塗工方式としては、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、スプレー噴霧、凹版印刷、グラビア印刷、ダイコーター塗工、バー塗工、およびブレード塗工などの塗工方式を使用することができる。本塗工方法はあくまでも例示であり、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0058】
カーボン塗液の導電性多孔質基材への塗工後、80~180℃の温度で塗液を乾かすことが好ましい。すなわち、微多孔層前駆体を形成した導電性多孔質基材を、80~180℃の温度に設定した乾燥機に投入し、2~30分の範囲で乾燥することが好ましい。乾燥風量は適宜決めることができるが、急激な乾燥は、表面の微小クラックを誘発する場合がある。当該乾燥の後、マッフル炉や焼成炉または高温型の乾燥機に投入し、好ましくは300~380℃の温度で5~20分間焼結して、撥水性樹脂を溶融し、炭素微粒子同士のバインダーにして微多孔層を形成することが好ましい。また、当該焼結において、造孔剤が、熱分解や溶融揮発、昇華することにより焼失して空孔を形成することが好ましい。当該空孔は焼失した粒子の形状を保った空孔となる。
【0059】
[ガス拡散電極基材]
本発明のガス拡散電極基材の厚さは、130~190μmであることが好ましい。ここで、ガス拡散電極の厚さは両表面を0.15MPaの圧力で挟んだときの厚さである。ガス拡散電極基材の厚さが130μm以上であると、機械強度が保たれ、製造工程でのハンドリングが容易である。一方、ガス拡散電極基材の厚さが190μm以下であると、ガス拡散性が高まり、電気抵抗が低減するので、燃料電池の発電性能が向上する。ガス拡散電極基材の厚さは、導電性多孔質基材と微多孔層のそれぞれの厚さを適宜調整することで調整することができる。
【0060】
[膜電極接合体]
本発明において、前述したガス拡散電極基材を、両面に触媒層を有する固体高分子電解質膜の少なくとも片面に接合することにより、膜電極接合体を形成することができる。固体高分子電解質膜としては、プロトン伝導性および耐酸化性が高く、ガスクロスオーバーが小さいものが好ましく、フッ素系ポリマーや炭化水素系ポリマーからなるものが挙げられる。また、触媒層としては、白金やパラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウムなどの貴金属あるいはそれらの酸化物である触媒微粒子が炭素粒子に担持されている触媒担持炭素粒子およびプロトン伝導性ポリマーの混合物からなるものが好ましく適用される。
【0061】
ガス拡散電極基材を、触媒層を有する固体高分子電解質膜と接合する際、触媒層側にガス拡散電極基材の微多孔層側を配置することにより、電解質膜や触媒層の保湿や生成水の排出といった水管理、触媒層とガス拡散電極基材との界面電気抵抗の低減、導電性多孔質基材から突き出した炭素繊維などによる電解質膜の破損抑制、などの効果が発現される。
【0062】
[燃料電池]
本発明の燃料電池は、本発明のガス拡散電極基材を含むものである。つまり本発明の燃料電池は、前述の膜電極接合体の両側にセパレータを有するものである。すなわち、前述の膜電極接合体の両側にセパレータを配することにより燃料電池を構成する。通常、このような膜電極接合体の両側にガスケットを介してセパレータで挟んだもの(燃料電池セル)を複数個積層することによって固体高分子型燃料電池を構成する。例えば、燃料電池セルを200~500個用意し、これらを直列に接続することにより、40~200kVの高電圧を発生させることができ、このような燃料電池スタックを燃料電池自動車などの動力源として使用することができる。
【実施例0063】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に制限されるものではない。
【0064】
[原料]造孔剤
・PMMAビーズMBX-40球状(積水化成品工業(株)製、平均粒径(カタログ値):40μm、アスペクト比:1.0、380℃で10分加熱後の炭化収率0.5%以下)
・PMMAビーズMBX-12球状(積水化成品工業(株)製、平均粒径(カタログ値):12μm、アスペクト比:1.0、380℃で10分加熱後の炭化収率0.5%以下)
・PMMAビーズMBX-60球状(積水化成品工業(株)製、平均粒径(カタログ値):60μm、アスペクト比:1.0、380℃で10分加熱後の炭化収率0.5%以下)
・PMMAビーズMBX-8球状(積水化成品工業(株)製、平均粒径(カタログ値):8μm、アスペクト比:1.0、380℃で10分加熱後の炭化収率0.5%以下)
・PMMAビーズMBX-80球状(積水化成品工業(株)製、平均粒径(カタログ値):80μm、アスペクト比:1.0、380℃で10分加熱後の炭化収率0.5%以下)
・PMMAビーズMBX-20球状(積水化成品工業(株)製、平均粒径(カタログ値):20μm、アスペクト比:1.0、380℃で10分加熱後の炭化収率0.5%以下)
・PMMAビーズMBX-5球状(積水化成品工業(株)製、平均粒径(カタログ値):5μm、アスペクト比:1.0、380℃で10分加熱後の炭化収率0.5%以下)
・ADCA“ビニホール(登録商標)”不定形(永和化成工業(株)製、粒子長径:30μm(カタログ値)、アスペクト比1.5、380℃で10分加熱後の炭化収率0.5%以下)
<微多孔層の目付測定>
導電性多孔質基材の質量[g]を精密はかりを用いて10cm角の正方形の形状にて測定した。次に、微多孔層が形成されたガス拡散電極基材の質量[g]を同様に10cm角の正方形の形状にて測定した。ガス拡散電極基材の質量から導電性多孔質基材の質量を引き、サンプル面積(0.01m)で除した数値を微多孔層の目付[g/m]とした。
【0065】
<微多孔層の厚さ測定>
導電性多孔質基材を平滑な定盤にのせ、圧力0.15MPaをかけた状態での測定物(導電性多孔質基材)が有る場合から無い場合の高さの差を測定した。異なる部位にて10箇所サンプリングを行い、高さの差の測定値を平均したものを厚さとし、導電性多孔質基材の厚さとした。次に、微多孔層が形成されたガス拡散電極基材の厚さを同様に測定した。ガス拡散電極基材の厚さから導電性多孔質基材の厚さを引き、微多孔層の厚さ[μm]とした。
【0066】
<球状の空孔の平均直径の測定>
まず、イオンミリング装置IM4000((株)日立ハイテク製)を用い、ガス拡散電極基材を厚さ方向に平行に切断した断面観察用サンプルを無作為に10個作製した。このとき、ガス拡散電極基材の切断位置は特に限定されず、上記断面観察用サンプルの大きさは、5mm(断面切断部の幅)×12mmとした。次に、走査型電子顕微鏡SU8010((株)日立ハイテク製)を用い、サンプルの任意の場所の微多孔層の断面を1,000倍に拡大した画像を取得し、画像解析ソフト「ImageJ」にて画像中の微多孔層に存在するそれぞれの球状の空孔の面積を計測し、以下式より円相当径を算出した。得られた円相当径のうち、1μm以上のものの平均値を算出した。10個のサンプルの画像について同様に行い、全体の算術平均値を球状の空孔の平均直径とした。
【0067】
【数2】
【0068】
<断面空孔率の測定>
上記<球状の空孔の平均直径の測定>と同様にして、ガス拡散電極基材を厚さ方向に平行に切断した断面観察用サンプルを無作為に10個作製し、走査型電子顕微鏡SU8010((株)日立ハイテク製)を用い、それぞれの任意の場所の微多孔層の断面を1,000倍に拡大した画像を取得した。このとき、画像解析ソフト「ImageJ」にて<空孔の平均直径の測定>に示した円相当径1μm以上の空孔部分の面積を計測し、微多孔層全体の面積に対する空孔部分の面積の比を求めた。10個のサンプルの画像について同様に行い、全体の算術平均値を算出して断面空孔率[%]とした。
【0069】
<表面空孔率の測定>
まず、ガス拡散電極基材のサンプル300mm×300mmから無作為に10か所選定し、走査型電子顕微鏡SU8010((株)日立ハイテク製)を用い、微多孔層側表面を1,000倍に拡大して画像を取得した。次に、画像解析ソフト「ImageJ」にて<空孔の平均直径の測定>に示した円相当径1μm以上の空孔部分の面積を計測し、微多孔層全体の面積に対する空孔部分の面積の比を求めた。10か所の画像について同様に行い、全体の算術平均値を算出して表面空孔率[%]とした。
【0070】
<表面の算術平均粗さSaの測定>
ガス拡散電極基材の微多孔層側表面の8.4mm×6.0mmの面積における算術平均粗さ(Sa)をレーザー顕微鏡VK-X100((株)キーエンス製)を用いて測定した。30mm×30mmのサンプルの任意の4か所においてSaを測定し、その平均値を算出した。
【0071】
<表面F/C比の測定>
X線光電子分光分析装置(XPS)モデル5400(アルバック・ファイ(株)製)を用い、ガス拡散電極基材の微多孔層側表面を無作為に5か所、元素分析を行った。フッ素(F)および炭素(C)の元素濃度[%]を定量し、F/C比を求め、5か所の平均値を算出した。
【0072】
<接触角の測定>
温度23℃、湿度50%の環境で、ガス拡散電極基材の微多孔層側表面の無作為に選択した10か所に、エタノールと水とを75:25の質量比で混合した5μLの液滴を、それぞれ滴下して、自動接触角計DM-501(協和界面科学(株)製)で測定した平均値を接触角[°]とした。
【0073】
<発電特性の評価>
白金担持炭素(田中貴金属工業(株)製、白金担持量:50質量%)1.00gと、精製水1.00g、“Nafion(登録商標)”溶液(シグマアルドリッチ社製“Nafion(登録商標)”5.0質量%)8.00gと、イソプロピルアルコール(ナカライテスク(株)製)18.00gとを順に加えることにより、触媒液を作製した。
【0074】
次に、50mm×50mmにカットした“ナフロン(登録商標)”PTFEテープ“TOMBO(登録商標)”No.9001(ニチアス(株)製)に、触媒液をスプレーで塗布し、常温で乾燥させ、白金量が0.3mg/cmの触媒層付きPTFEシートを作製した。続いて、“Nafion(登録商標)”の10質量%分散液(シグマアルドリッチ社製)を用いて固体高分子電解質膜(膜厚:10μm)を作製し、80mm×80mmにカットした。得られた固体高分子電解質膜を2枚の触媒層付きPTFEシートで挟み、平板プレスで5MPaに加圧しながら130℃の温度で5分間プレスし、固体高分子電解質膜に触媒層を転写した。プレス後、PTFEシートを剥がし、触媒層付き固体高分子電解質膜を作製した。
【0075】
次に、触媒層付き固体高分子電解質膜を、50mm×50mmにカットした2枚のガス拡散電極基材で挟み、平板プレスで3MPaに加圧しながら130℃の温度で5分間プレスし、膜電極接合体を作製した。ガス拡散電極基材は、微多孔層を有する面が触媒層側と接するように配置した。
【0076】
得られた膜電極接合体を燃料電池評価用単セルに組み込み、電流密度を変化させた際の電圧を測定した。また、アノード側には無加圧の水素を、カソード側には無加圧の空気を供給し、評価を行った。
【0077】
セル温度を65℃に設定して、供給する水素と空気はともに60℃の温度に設定した加湿ポットにより加湿することにより、セル内の湿度を80%にし、水素と空気中の酸素の利用率は、それぞれ70%、40%とした。電流密度0.5A/cmまたは2.0A/cmの出力電圧を測定し、ドライ性能(保湿性)およびウェット性能(排水性)の指標として用いた。
【0078】
<導電性多孔質基材の製造方法>
東レ(株)製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ(登録商標)”T300(平均繊維径:7μm)を6mmの長さにカットし、水中に分散させて連続的に抄紙し、さらにポリビニルアルコールの10質量%水溶液をスプレーコーティングし、乾燥し、目付が30g/mの、炭素繊維からなる長尺の抄紙体を得た。当該抄紙体100質量部に対して、付着したポリビニルアルコールの付着量は15質量部だった。
【0079】
次に、鱗片状黒鉛(平均粒子径:5μm)とフェノール樹脂(レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂の質量比1:1の混合物)、メタノールを5:10:85の質量比で混合した樹脂組成物溶液を用意した。そして、導電性多孔質基材中の炭素繊維100質量部に対してフェノール樹脂と鱗片状黒鉛の合計が130質量部になるように、上記抄紙体上に樹脂組成物溶液をスプレーコーティングにて連続的に塗布し、100℃で5分間乾燥した。
【0080】
次いで、プレス成型機にて樹脂組成物を付着させた抄紙体を上下の熱板から挟み込んで、180℃で5分間加熱圧縮処理した。ここで、抄紙体と熱板の間には離型紙を介し熱板と抄紙体基材が接着しないようにし、また、上下の熱板の周縁部にはスペーサーを配置して加熱圧縮後の導電性多孔質基材の厚さ調整を行った。その後、加熱炉にて、窒素雰囲気で2,400℃の加熱を行い炭化させた。
【0081】
さらに、FEP樹脂(“ネオフロン(登録商標)”FEPディスパージョンND-110(ダイキン工業(株)製))5質量部とイオン交換水95質量部を混合した撥水性樹脂分散液をスプレーコーティングして、100℃で5分間乾燥させ、0.15MPaでの厚さが150μm、目付が40g/mの導電性多孔質基材を得た。
【0082】
(実施例1)
造孔剤としてPMMAビーズMBX-40球状、炭素微粒子として“デンカブラック(登録商標)”粉状品(デンカ(株)製)、撥水性樹脂としてフッ素樹脂であるPTFE、分散剤として“TRITON(登録商標)”X-100(ナカライテスク(株)製)、分散媒として水を用い、表1に示す配合比にて混合し、カーボン塗液を調製した。なお、ここでPTFE粒子が水に分散した分散液“ポリフロン(登録商標)”D-210C(ダイキン工業(株)製)をPTFEの供給源として使用した。また、塗液の調製の際には、プラネタリーミキサーを用いて塗液組成が均一になるように原料を分散させた。
【0083】
上記<導電性多孔質基材の製造方法>の通りに製造した導電性多孔質基材上に、上記カーボン塗液を、ダイコーターを用いて塗工し、120℃で10分間乾燥した後、380℃で10分間加熱して撥水性樹脂と炭素微粒子の接着促進と分散剤などの分解除去、および造孔剤の焼失除去を行い、ガス拡散電極基材を作製した。ここで、加熱後の微多孔層の目付が19g/mとなるように塗工量を調整した。得られたガス拡散電極基材の厚さは180μmであった。また、上記<微多孔層の目付測定>、<微多孔層の厚さ測定>、<球状の空孔の平均直径の測定>、<断面空孔率の測定>、<表面空孔率の測定>、<表面の算術平均粗さSaの測定>、<表面F/C比の測定>、<接触角の測定>の通りに評価した結果は表1の通りであった。
【0084】
次いで、上記<発電特性の評価>の通りに発電性能を評価した。発電性能は表1に示す通り良好だった。
【0085】
(実施例2)
造孔剤としてPMMAビーズMBX-12球状を使用し、表1に示す目付、厚さとした以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極基材を作製し、各種評価を行った。
【0086】
(実施例3)
造孔剤としてPMMAビーズMBX-60球状を使用した以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極基材を作製し、各種評価を行った。
【0087】
(実施例4、5)
微多孔層の塗液組成を表1に示す通りにした以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極基材を作製し、各種評価を行った。
【0088】
(実施例6)
造孔剤としてPMMAビーズMBX-60球状を使用し、表1に示す目付、厚さとした以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極基材を作製し、各種評価を行った。
【0089】
(実施例7)
造孔剤としてPMMAビーズMBX-12球状を使用し、表1に示す目付、厚さとした以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極基材を作製し、各種評価を行った。
【0090】
(比較例1)
造孔剤としてPMMAビーズMBX-8球状を使用し、表2に示す目付、厚さとした以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極基材を作製し、各種評価を行った。このガス拡散電極基材は空孔の平均直径が7μmと小さく、排水性が不十分であり、特に高電流密度側の発電特性が低下した。
【0091】
(比較例2)
造孔剤としてPMMAビーズMBX-80球状を使用した以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極基材を作製し、各種評価を行った。このガス拡散電極基材は空孔の平均直径が76μmと大きく、保湿性が不十分であり、特に低電流密度側の発電特性が低下した。
【0092】
(比較例3、4)
カーボン塗液の組成を表2に示す通りにした以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極基材を作製し、各種評価を行った。比較例3のガス拡散電極基材は断面空孔率および表面空孔率が小さく、排水性が不十分であり、特に高電流密度側の発電特性が低下した。比較例4のガス拡散電極基材は断面空孔率および表面空孔率が大きく、保湿性が不十分であり、特に低電流密度側の発電特性が低下した。
【0093】
(比較例5)
造孔剤としてPMMAビーズMBX-20球状を使用した以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極基材を作製し、各種評価を行った。このガス拡散電極基材は空孔の平均直径19μmに対し、微多孔層の厚さが30μmと大きく、貫通孔が形成しにくいため、排水性が不十分であり、特に高電流密度側の発電特性が低下した。
【0094】
(比較例6)
造孔剤としてPMMAビーズMBX-5球状を使用し、表2に示す目付、厚さとした以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極基材を作製し、各種評価を行った。このガス拡散電極基材は空孔の平均直径が5μmと小さく、排水性が不十分であり、特に高電流密度側の発電特性が著しく低下した。
【0095】
(比較例7)
造孔剤としてPMMAビーズMBX-80球状を使用し、表2に示す目付、厚さとした以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極基材を作製し、各種評価を行った。このガス拡散電極基材は空孔の平均直径が76μmと大きく、保湿性が不十分であり、特に低電流密度側の発電特性が低下した。
【0096】
(比較例8)
造孔剤としてADCA“ビニホール(登録商標)”不定形を使用し、表2に示す厚さとした以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極基材を作製し、各種評価を行った。このガス拡散電極基材は空孔が球状ではなく、保湿性が不十分であり、また貫通孔が形成しにくいため、排水性も不十分であり、低電流密度側、高電流密度側ともに発電特性が低下した。
【0097】
(比較例9)
造孔剤を配合せず、微多孔層の塗液組成を表2に示す通りにした以外は実施例1と同様にして、ガス拡散電極基材を作製し、各種評価を行った。このガス拡散電極基材は造孔剤による空孔が形成されないため、保湿性、排水性ともに不十分であり、低電流密度側、高電流密度側ともに発電特性が低下した。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のガス拡散電極基材は、保湿性および排水性に優れ、これを用いた燃料電池は、低電流密度および高電流密度での良好な発電性能を有することから、有用である。