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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144211
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】コークス炉の補修方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 29/06 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C10B29/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024038289
(22)【出願日】2024-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2023052132
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】亀村 崇也
(72)【発明者】
【氏名】福島 康雅
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 勝
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 保
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 政章
(72)【発明者】
【氏名】川口 泰弘
(57)【要約】
【課題】複数の隣接する燃焼室を同時に解体するコークス炉の積み替え補修において、非補修部のレンガの損傷を防ぐ補修方法を提供する。
【解決手段】複数の燃焼室および炭化室が交互に並ぶ配列を有するコークス炉において、前記燃焼室のうち、隣り合う4列以上の燃焼室を構成するレンガを撤去した後、該レンガの撤去によって発生した空間部の、前記空間部に隣接する燃焼室の前記配列方向の中心からの距離が、前記燃焼室個々の前記配列方向の幅および炭化室個々の前記配列方向の幅の合計の4倍以下である位置に、前記コークス炉の炉頂部に設置された装炭車軌条を支持する支柱を設置し、次いで、前記空間部に、新たなレンガによるレンガ構造体を再構築する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃焼室および炭化室が交互に並ぶ配列を有するコークス炉において、前記燃焼室を構成するレンガ構造体につき、該レンガ構造体の構成レンガを撤去して新たな構成レンガに更新するレンガの積み替えを行う、コークス炉の補修方法であって、
前記燃焼室のうち、隣り合う4列以上の燃焼室を構成するレンガを撤去した後、該レンガの撤去によって発生した空間部の、前記空間部に隣接する燃焼室の前記配列方向の中心からの距離が、前記燃焼室個々の前記配列方向の幅および炭化室個々の前記配列方向の幅の合計の4倍以下である位置に、前記コークス炉の炉頂部に設置された装炭車軌条を支持する支柱を設置し、
次いで、前記空間部に、新たなレンガによるレンガ構造体を再構築する、
コークス炉の補修方法。
【請求項2】
前記支柱によって支持される前記装炭車軌条の支持部分の高さと、前記空間部に隣接する非補修部の前記配列方向端部における前記装炭車軌条の高さとの差が、±5mm以下となるように、前記支柱の頂部の高さを調節する、請求項1に記載のコークス炉の補修方法。
【請求項3】
前記支柱と前記非補修部とにおける、前記装炭車軌条を装炭車が通過する際の最大応力の差が、±5%以下になるように、前記支柱の頂部の高さを調節する、
請求項1または2に記載のコークス炉の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコークス炉の補修方法に関し、特に燃焼室を構成するレンガ構造体の積替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉はレンガで構成された構造体である。例えば、水平室炉式のコークス炉では、石炭が装入される炭化室と、炭化室に熱を供給する燃焼室が交互に配置され、炭化室と燃焼室の下部には、燃焼排ガスから熱を回収し、燃焼用の空気や燃料ガスを予熱する蓄熱室が設けられている、構造が一般的である。
【0003】
燃焼室は、その両側を炭化室に挟まれている。該燃焼室は全体がレンガで構成されており、燃焼室の炭化室内の空間部分に面したレンガが炭化室の炉壁となる。燃焼室では、内部にあるレンガで構成されたフリュー内で燃料ガスが燃焼し、燃焼室の温度を約1000~1300℃にすることにより、燃焼熱を炭化室に面した燃焼室のレンガ(炭化室の炉壁レンガ)を介して両側の炭化室に装入された石炭に供給し、その熱で石炭が乾留される。
【0004】
コークス炉は、一旦加熱を開始すると停止することなく30年以上にわたって操業を継続することになる。この継続操業において徐々にレンガは劣化していくため、レンガの劣化が大きい場合には燃焼室自体が使用できなくなることもある。
【0005】
そのため、コークス炉操業の安定継続のため、劣化の進んだレンガを新たなレンガに積み替える補修が行われる。このレンガの積み替えとは、劣化した部分に対応する燃焼室の燃焼を停止して冷却後、古いレンガを解体して除去し、そこに新たなレンガで解体前と同様の構造にて構築する補修方法であり、例えば特許文献1に示す方法が知られている。
【0006】
すなわち、特許文献1には、補修作業を効率化するため、複数の隣接する燃焼室構造を同時に積み替える方法が開示されている。特許文献1に記載の技術は、窯口すなわち燃焼室の押し出し機側またはコークス出口側の端部のみを積み替える方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-31581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
複数の隣接する燃焼室を同時に解体して積み替える、特許文献1に記載の方法は、作業スペースが広がり効率的な作業が行えることや、解体されない非補修部の温度を高温に維持するための保温を効果的に行うことができるなどの利点がある。ところで、近年では、炭化室に挟まれた燃焼室の全体、すなわち押し出し機側からコークス出口側に至る全体を解体し、そこに新たな燃焼室を構築するレンガ積み替え補修も行われている。かように、1つの燃焼室の解体部分が大きくなり、しかも連続する4列以上の燃焼室を同時に解体するような場合に、解体部分に近い非補修部のレンガの損傷が進むことが、新たな問題点になってきている。このレンガの損傷は、解体部に近い非補修部の温度が低下しやすいことが原因になることもあるが、非補修部の断熱を強化して温度低下を抑止してもなお、レンガの損傷を防げないことが多かった。
【0009】
すなわち、本発明の目的は、複数の隣接する燃焼室を同時に解体するコークス炉の積み替え補修において、非補修部のレンガの損傷を防ぐ補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1.複数の燃焼室および炭化室が交互に並ぶ配列を有するコークス炉において、前記燃焼室を構成するレンガ構造体につき、該レンガ構造体の構成レンガを撤去して新たな構成レンガに更新するレンガの積み替えを行う、コークス炉の補修方法であって、
前記燃焼室のうち、隣り合う4列以上の燃焼室を構成するレンガを撤去した後、該レンガの撤去によって発生した空間部の、前記空間部に隣接する燃焼室の前記配列方向の中心からの距離が、前記燃焼室個々の前記配列方向の幅および炭化室個々の前記配列方向の幅の合計の4倍以下である位置に、前記コークス炉の炉頂部に設置された装炭車軌条を支持する支柱を設置し、
次いで、前記空間部に、新たなレンガによるレンガ構造体を再構築する、
コークス炉の補修方法。
【0011】
2.前記支柱によって支持される前記装炭車軌条の支持部分の高さと、前記空間部に隣接する非補修部の前記配列方向端部における前記装炭車軌条の高さとの差が、±5mm以下となるように、前記支柱の頂部の高さを調節する、前記1に記載のコークス炉の補修方法。
【0012】
3.前記支柱と前記非補修部とにおける、前記装炭車軌条を装炭車が通過する際の最大応力の差が、±5%以下になるように、前記支柱の頂部の高さを調節する、
前記1または2に記載のコークス炉の補修方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の補修方法によれば、複数の隣接する燃焼室を同時に解体するコークス炉の積み替え補修においても、非補修部のレンガの損傷を防ぐことができるようになった。その結果、多燃焼室を同時に施工することで工期の短縮、費用の安価化が可能になった他に、一つの炉団の、非補修部ではコークスの製造を行いながら、複数の隣接する燃焼室を同時に解体する積み替え補修を行うことが可能となり、コークスの生産量を増やすことができる、という効果も得られるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】従来のコークス炉の積み替え補修の態様を示す図である。
図2】本発明に従うコークス炉の積み替え補修の態様を示す図である。
図3】支柱の構造を示す図である。
図4】経過日数毎の軌条の高さレベルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明者らは、複数の隣接する燃焼室を構成する、複数のレンガ構造体を同時に解体するコークス炉の積み替え補修において、非補修部のレンガの損傷が発生する原因を検討した。その結果、非補修部のレンガの損傷は、4列以上の隣接する燃焼室を同時に解体する場合に顕著となり、しかも、解体部の上を装炭車が通過する場合に顕著となることが明らかとなった。
【0016】
さて、水平室炉式のコークス炉は、50~100窯程度の炭化室と、各炭化室の間に配置される燃焼室とを有し、炭化室と燃焼室とが隣接して交互に連続して並ぶ配列構造となっており、この全体が1つの炉団と呼ばれる。コークス炉にはさらに、各炭化室に供給するための石炭を貯留しておく石炭塔が1つの炉団あたり通常1~2ヶ所設けられている。この石炭塔から石炭を受け取った装炭車がコークス炉の炉頂に敷設された軌条の上を走行して各炭化室の直上に移動し、各炭化室の天井に設けられた装入孔を通じて装炭車から石炭を炭化室内に装入する構造となっている。装炭車が走行する軌条は通常、コークス炉の炉頂に炭化室と燃焼室が交互に連続する配列方向(炉団方向)に2本設けられており、装炭車の四隅の近傍にそれぞれ複数の車輪を設けて、車輪が軌条の上に載り、装炭車の荷重を支え、軌条の上を走行できるようになっている。
【0017】
コークス炉の燃焼室を構成するレンガの積み替え補修を行う場合、1つの炉団の中央部で積み替えを行うことがある。この場合、補修部の両側には非補修部が存在し、多くの場合、非補修部では加熱を継続してコークスの製造を行いながら補修部の積み替えを行っている。
【0018】
燃焼室を構成するレンガ構造体(以下、燃焼室と総称する)を解体撤去すると、その上部に設置されている軌条は支えとなるレンガ構造体を失うので、通常は軌条の下に軌条に沿って補強桁を入れ、解体部分の周囲の非補修部の天井レンガの上の受台を介して装炭車の荷重を支えるようにしている。この状態を図1に模式的に示す。
【0019】
すなわち、図1において、同図の左右方向が配列方向(炉団方向)であり、同図の上下方向は炉高方向と呼ばれ、その2つの方向に直交する図面に垂直な方向が炉長方向と呼ばれる。ここで、図1は、コークス炉の垂直断面図であり、炭化室1と燃焼室2とが交互に並んで列をなす配列構造を有する。図1では、燃焼室2にNo.1~No.10の番号を付し、これら燃焼室No.1~No.10のうちのNo.5~No.7の燃焼室を撤去した状態を示している。すなわち、撤去した燃焼室は破線で囲んで示している。各燃焼室は炉長方向に延在していて、本発明では、その炉長方向に並ぶ全てのレンガを積み替える補修方法が対象となるが、補修対象の燃焼室における劣化の少ない一部のレンガを積み替えない、あるいは再利用する補修方法も対象とする。本発明は、燃焼室の全てのレンガを積み替える補修方法を対象とする場合に、最も効果を発揮する。
【0020】
また、炭化室1および燃焼室2の底部の下には、レンガ構造体からなる蓄熱室(図示せず)がある。一方、炭化室1および燃焼室2の上部には天井レンガ3があり、その上に軌条4があり、軌条4の荷重は天井レンガ3の一部に設けられた受台5で支えている。通常のコークス炉では、軌条4の荷重は軌条4の下に設置した通常桁6を介して各燃焼室の天井部に設けられた受台5で支えている。ここで解体した燃焼室No.5~7の部分は天井レンガ部も解体しており、軌条4と通常桁6は支持のない宙吊りの状態となっている。そのため、その部分に補強桁7を追加し、あるいは、通常桁6をより強度および剛性の高い補強桁7に交換し、その荷重を非補修部の複数の受台5で支えるようにしている。
【0021】
発明者らは、上記した従来の補修態様において燃焼室の撤去部分を増やしていくと、非補修部の端に位置する燃焼室にレンガの損傷が発生しやすくなることを知見した。すなわち、図1の例でいうと、図1より広い範囲にわたって燃焼室を解体した場合、例えば、No.4~No.7の4列の燃焼室を撤去すると、非補修部の端にあるNo.3およびNo.8にレンガに損傷が発生しやすくなる。発明者らの知見では、隣接する4列以上の燃焼室を撤去した場合に非補修部分の損傷が増加する。
【0022】
この理由を検討した結果、撤去部分の燃焼室配列方向(炉団方向)の長さが長くなると、装炭車の四隅の近傍で荷重を支える複数の車輪のすべてが、宙吊りになった軌条部分の上に載る時間が長くなり、さらに、軌条の宙吊り部分の長さが長くなって装炭車の荷重によって発生するモーメントが大きくなることが原因と考えられた。例えば、撤去部分が燃焼室1列分であれば、装炭車の四隅近傍で荷重を支える複数の車輪のすべてが軌条の宙吊り部に載ることはないため、装炭車の荷重は非補修部で支えやすくなる。しかし、装炭車の車輪がすべて軌条の宙吊り部に載ると、非補修部の端に荷重が集中する可能性があるためと考えられる。
【0023】
例えば、本発明の方法を試験したコークス炉では、炭化室の配列(炉団)方向の平均幅は435mm、燃焼室の幅は960mmであり、両者の合計は1395mmである。一方この炉で用いている装炭車は、1本の軌条あたり、進行方向の前方側と後方側にそれぞれ3個の車輪を有しており、前記3個の車輪の両端の進行方向(炉団方向)での間隔は約2770mmである。従って、隣接する複数の燃焼室を撤去して、撤去部分の炉団方向の長さが長くなれば、装炭車の3個の車輪が同時に空間部の上に位置する時間が無視できないほど長くなる。
【0024】
以上の知見に基づき、発明者らは、4列以上の燃焼室を解体する場合には、解体後の空間部に、軌条を支える支柱を設けることによって、非補修部のレンガの損傷を防ぐことのできる方途を鋭意究明した。その結果、軌条を支える支柱の軌条を支持する位置と、この空間部に隣接する燃焼室の同配列方向の中心との距離が、燃焼室個々の配列方向の幅および炭化室個々の配列方向の幅の合計(以下、燃焼室および炭化室の合計幅とも示す)の4倍以下である位置に、軌条を支える支柱を新たに設置すれば、非補修部のレンガの損傷を防げることを見出すに到った。この支柱設置位置の規定は、非補修部のレンガの損傷が抑制されている3列の燃焼室を撤去した場合を基準にしている。すなわち、3列の撤去部分を挟む両側の非補修部の燃焼室の中心間の距離(図1の例では、No.4燃焼室の中心とNo.8燃焼室の中心の距離)が、個々の燃焼室幅と個々の炭化室幅の合計の4倍となることに基づいている。このように支柱と非補修部の燃焼室との距離を個々の燃焼室幅と個々の炭化室幅の合計の4倍以下とすれば、従来の実績から非補修部のレンガの損傷は発生しないことが保証される。
【0025】
ここで、燃焼室の解体部分(空間部)に複数の支柱を設ける場合には、支柱間の距離は非補修部分のレンガの損傷に影響しないので特に規定する必要はない。軌条を支えることが可能な位置に適宜設ければよい。
【0026】
上記に従って支柱を設置した後、解体した燃焼室の部分に新たな燃焼室を構築するためのレンガ積みを行う。そして、レンガの積み替え後に支柱を撤去し、順次燃焼室を再構築する。あるいは、非補修部の燃焼室の中心位置とこれに最も近い支柱が軌条を支持する当該支持位置(軌条と当接する支柱頂部の配列方向中心位置)との距離が燃焼室および炭化室の合計幅の4倍以下となる状態および、空間部に隣接する非補修部の燃焼室の中心位置同士の距離が燃焼室および炭化室の合計幅の4倍以下となる状態のいずれかの状態が維持されていれば、支柱を撤去し、順次燃焼室を再構築してもよい。
以上に従って支柱を設ける施工の典型例について、図2を参照して説明する。
【0027】
すなわち、図2図1と同じコークス炉において、No.2~No.7の6列の燃焼室を撤去し、No.2、No.3、No.4の位置に軌条4を支える支柱8を設けた例である。支柱8が軌条4を支える位置は、撤去した各燃焼室の(配列方向)中心位置と同じ位置とした。ここで、No.4燃焼室の中心位置の支柱とNo.8の燃焼室の中心との距離は、個々の燃焼室幅と個々の炭化室幅の合計の4倍である。また、No.2位置の支柱とNo.1の燃焼室の中心間の距離は個々の燃焼室幅と個々の炭化室幅の合計の1倍である。
【0028】
図2の例においては、3本の支柱8を設置したが、支柱はNo.4の位置に設置するのみとしてもよい。その場合は、No.4位置の支柱とNo.1燃焼室の中心間の距離は個々の燃焼室幅と個々の炭化室幅の合計の3倍となり、非補修部のレンガの損傷は防ぐことができる。
【0029】
次に、支柱8の一例の模式図を図3に示す。図3(a)は炉長方向からの支柱8の側面図、同(b)は配列(炉団)方向からの支柱8の側面図である。この支柱8はそれぞれ1本の軌条4を支持する構造になっている。すなわち、支柱8は、図3に示す通り、ジャッキ部8aが2組の支柱脚9a、9bの上に設置され、ジャッキ部8aの上には受台支持部10が、さらに受台支持部10の上には受台5が設置されて、受台5で補強桁7を支持する構造となっている。
【0030】
支持脚9a、9bはそれぞれ、底部に支持脚基部部材20、支持柱部材21、上部支持部材22を備え、支持柱部材同士が第1の接続部材23で接続され、2組の支柱脚9a、9b同士が第2の接続部材24により接続されている。これらの部材には型鋼や厚板を用いることができ、接続は溶接やボルト固定などで行うことができる。
【0031】
ジャッキ部8aには、上下方向に伸縮可能なジャッキ30、および上下方向の長さを調整可能な第3の接続部材25が設置される。支柱8の高さの調節が不要な場合は、ジャッキ部8aは設けなくてもよく、またジャッキ30を設けず、第3の接続部材25は長さ方向の調節機能は有していなくてもよい。
【0032】
支持脚9a、9bの上にそれぞれ設置されるジャッキ30によって、ジャッキ部8aの上に設けられた受台支持部10および受台5の高さ方向の位置が調節できる。受台支持部10の上に設置される受台5は、2本の支持脚9a、9bの上にそれぞれ設置される2つの受台支持部10をかけ渡すように設置され、受台5は補強桁7を介して軌条4を支持する。2つの受台支持部10を接続する第4の接続部材26を設けてもよい。
【0033】
なお、2本の軌条4を支持する2本の支柱8は、配列(炉団)方向の位置を同じくしてもよいし、配列(炉団)方向の位置を異ならせてもよい。その場合も、支柱8が軌条4を支える支持位置と非補修部分の端の燃焼室中心位置の距離の最も広くなる箇所で、その間隔が個々の燃焼室幅と個々の炭化室幅の合計の4倍以下となるようにすればよい。
【0034】
支柱8は、炭化室1または燃焼室2の底部を構成するレンガ上に設置されるため、支柱8の荷重が炉底部レンガの特定の位置に集中しないようにすることが好ましい。そのためには、例えば、支柱8の下部に鉄板などを敷いて荷重を分散させることが好ましい。
【0035】
図2に示したように、支柱8を配列(炉団)方向に隣接して設置する場合には、支柱間に鋼材を渡して溶接固定を行えば、支柱8の配列(炉団)方向への傾きを抑えられるため、より確実に軌条4を支持できる。
【0036】
また、支柱8の一部に支柱の頂部の高さを調節可能なジャッキ部8aを設けておくと、支柱8の設置を行う際には支柱8の高さを下げて軌条4の下に支柱8を設置し、支柱8の頂部をジャッキ部8aにてジャッキアップして軌条4を支持することができ、支柱8の設置が容易になる。
【0037】
なお、軌条4を支える支柱8に支柱の頂部の高さを調節可能なジャッキを設置すると、設置後にも支柱8の高さを調節できるようになる。例えば、支柱によって支持される部分の前記装炭車軌条4の高さと、非補修部の端部における軌条4の高さとの差が、±5mm以下となるように、支柱8の頂部の高さを調節することにより、燃焼室レンガへの荷重の集中を軽減でき、さらに有効に非補修部のレンガの損傷を防止することができる。
【0038】
さらに、支柱8の頂部の受台5と補強桁7の間または支柱8の設置位置における補強桁7と前記装炭車軌条4との間、非補修部の端の燃焼室における軌条4と軌条を支持する通常桁6(または補強桁7)との間または、通常桁6(または補強桁7)と受台5の間、に荷重測定器(図示せず)を設置して、支柱8が受ける部分の応力を非補修部が受ける応力と近い値になるように、支柱8の頂部の高さを調節することもできる。例えば、装炭車通過時における、支柱8での最大応力と非補修部での最大応力との差または、装炭車が通過していないときの両者の、平均応力の差が、±5%以下になるように、支柱の頂部の高さを調節することが好ましい。
【0039】
上記支柱8での最大応力の測定方法は特に限定するものではないが、支柱8に歪みゲージを設け、コークス炉を操業した際に歪みゲージによって測定される最大の応力として測定してもよい。支柱8での応力が最大となるのは、支柱8の直上の軌条4を装炭車が通過した際に測定される。一方、非補修部での最大応力も同様に測定できる。
【実施例0040】
図2に示したコークス炉における、連続する6列の燃焼室No.2~No.7のレンガを解体してレンガの積み替え補修を行うに際して、解体部分に支柱8を設置した。すなわち、No.2~No.7の燃焼室を解体後、2本の装炭車軌条4のそれぞれに、図2に示す位置に、1本の軌条当たり3本の支柱8を設置し、同一軌条を支える支柱間は配列(炉団)方向に鋼材(補強桁7)を渡して溶接して連結した。
【0041】
この状態で、解体部分の両側に位置する非補修部分のコークス炉操業を継続しながら、支柱8を設置していない区域(図2のNo.5~7の位置)の燃焼室の積み替えを行った。この状態で、撤去部に隣接するNo.4位置に設置した支柱8と非補修部分の端(No.8位置)の距離は個々の燃焼室幅と個々の炭化室幅の合計の4倍である。非補修部分の操業のため、装炭車は補修部分の上部の軌条を1日に約20~30往復で通過した。この状態で、支柱を設置しなかった区域(図2のNo.5~7の位置)の燃焼室の積み替えを完了した後、支柱8を撤去し、支柱8を設置していた区域(図2のNo.2~4の位置)の燃焼室の積み替えを行った。この状態で撤去部に隣接する燃焼室相互(No.1とNo.5)の間隔は、個々の燃焼室幅と個々の炭化室幅の合計の4倍である。
【0042】
上記の積み替え期間において、補修完了部と非補修部のレンガには損傷は発生していなかった。従って、支柱を用いて支柱と非補修部または補修完了部と非補修部、の間隔を燃焼室幅と炭化室幅の合計の4倍以下とすることによって、非補修部のレンガの損傷が防止できることが明らかとなった。
【0043】
次に、支柱8を設置した図2に示した状態において非補修部でのコークス炉操業を継続した際に、その継続期間にわたり、各支柱の支持部での軌条の高さレベルおよび非補修部での軌条の高さレベルをレーザー距離計で計測した。その計測結果について、支柱8設置後の操業の経過日数と、各支柱の支持部での軌条の高さレベルおよび非補修部での軌条の高さレベルの差と、の関係にして図4に示す。なお、高さレベルの差は、支柱毎に示してある。この図4に示す通り、上記レベル差は±5mm以内であった。ここに、支柱を用いて軌条のレベルを非補修部の軌条レベルに対して±5mm以下とすれば、非補修部のレンガの損傷が確実に防止できることが明らかとなった。また、図4からは、経過日数が増えるとわずかながらレベル差が大きくなる傾向も観察される。従って、レベル差が±5mm以内となるように、ジャッキ等を用いて支柱部での軌条の高さレベルを調整することが好ましい。一方で、軌条の高さレベルは急激には変化しないため、短期間であれば、軌条の高さレベルの調整は必須ではないこともわかる。
【0044】
また、上記のコークス炉操業の継続期間にわたり、装炭車通過時に軌条から受ける応力をNo.4位置の支柱およびNo.8位置の非補修部で計測したところ、最大応力は支柱で2.4kgf/mmおよび非補修部2.3kgf/mmであり、支柱部分と非補修部分の応力の差は5%以内であった。ここに、支柱を用いて支柱部分での軌条から受ける最大応力を非補修部±5%以下とすれば、非補修部のレンガの損傷がより確実に防止できることが明らかとなった。
【0045】
以上、隣接する4列以上の燃焼室を同時に解体して積み替えるコークス炉の補修において、解体部に支柱を設置して支柱と燃焼室間の距離が所定値を超えないようにして積み替えを行えば、解体部の上部を装炭車が通過する条件であっても非補修部のレンガの損傷を抑止して積み替え補修を行うことができる。
【符号の説明】
【0046】
1 炭化室
2 燃焼室
3 天井レンガ
4 軌条
5 受台
6 通常桁
7 補強桁
8 支柱
9a、9b 支柱脚
10 受台支持部
20 支持脚基部部材
21 支持柱部材
22 上部支持部材
23 第1の接続部材
24 第2の接続部材
25 第3の接続部材
26 第4の接続部材
30 ジャッキ
図1
図2
図3
図4