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特開2024-144223ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子、および押出発泡粒子成形体と成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144223
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子、および押出発泡粒子成形体と成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/16 20060101AFI20241003BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20241003BHJP
   B29B 9/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08J9/16 CFD
B29C44/00 E
B29B9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024041552
(22)【出願日】2024-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2023054817
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】天野 正樹
【テーマコード(参考)】
4F074
4F201
4F214
【Fターム(参考)】
4F074AA70
4F074AA70A
4F074AA98
4F074AB04
4F074AD11
4F074AG02
4F074BA32
4F074CA38
4F074CA49
4F074DA02
4F074DA12
4F074DA32
4F074DA33
4F074DA35
4F074DA57
4F201AA28
4F201AB02
4F201AB07
4F201AG20
4F201BA02
4F201BC01
4F201BD05
4F201BK02
4F201BL08
4F201BL43
4F214AA28
4F214AB02
4F214AB07
4F214AG20
4F214AR06
4F214UC02
4F214UD09
4F214UD13
4F214UG04
4F214UG22
4F214UJ10
4F214UK31
(57)【要約】      (修正有)
【課題】融着性が高く成形性に優れたポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート系樹脂と、可塑剤として数平均分子量1000以下のエステル化合物を含む発泡倍率3~15倍のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子であって、エステル化合物の含有量が、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対し0.1~4重量部であるポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂と、可塑剤として数平均分子量1000以下のエステル化合物を含む発泡倍率3~15倍のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子であって、前記エステル化合物の含有量が、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対し0.1~4重量部であるポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子。
【請求項2】
前記エステル化合物が、ジカルボン酸のジエステルであることを特徴とする、請求項1に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子。
【請求項3】
前記ジカルボン酸のジエステルが、セバシン酸のジエステルであることを特徴とする、請求項2に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子。
【請求項4】
前記押出発泡粒子の連続気泡率が20%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子。
【請求項5】
前記ポリカーボネート系樹脂は、直鎖状ポリカーボネート系樹脂および分岐状ポリカーボネート系樹脂を含有する、請求項1または2に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子。
【請求項6】
請求項1または2に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を成形してなるポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子成形体。
【請求項7】
ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を130~170℃の金型温度で成形する、請求項6に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子成形体の製造方法。
【請求項8】
ポリカーボネート系樹脂と、可塑剤として数平均分子量1000以下のエステル化合物と発泡剤を含むポリカーボネート系樹脂組成物を、押出機で溶融混練し、押出機よりも低圧の雰囲気下に押し出す、発泡倍率3~15倍のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の製造方法であって、前記エステル化合物の含有量が、前記ポリカーボネート系樹脂100重量部に対し0.1~4重量部である押出発泡粒子の製造方法。
【請求項9】
前記発泡剤が二酸化炭素である、請求項8に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の製造方法。
【請求項10】
前記低圧雰囲気が、大気中である請求項8または9に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子および押出発泡粒子の成形体と、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂発泡粒子を成形して得られる発泡成形体は、形状の任意性、緩衝性、軽量性および断熱性等に優れるという特徴を有し、すでにポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体等が市場において汎用されている。
一方、市場においては、より高い機能・性能を有する樹脂発泡粒子成形体への要求が引き続き存在し、新たな技術開発が必要となってきている。
【0003】
中でも、ポリカーボネート系樹脂は、高いガラス転移点Tgに基づく、比較的高温域までの良好な寸法安定性を有すること、耐候性に優れること、難燃化が比較的容易なことなど、他の種類の樹脂に対し、数多くのユニークな特徴を有し、発泡成形体として様々な用途が期待される素材である。このような観点から、これまでにもポリカーボネート系樹脂を基材とした発泡粒子が提案されている。例えば、特許文献1には、ポリカーボネート系樹脂粒子に二酸化炭素を圧入して作成した発泡性粒子を得、それを水蒸気で加熱することにより得られた予備発泡粒子が記載され、さらに該予備発泡粒子に再び二酸化炭素を圧入したのち、金型中で加熱水蒸気により加熱成形して得られた発泡成形体が記載されている。しかしながら、ここに記載された方法においては、ポリカーボネート系樹脂粒子から発泡性粒子を得る段階、さらには成形するための予備発泡粒子を得る段階において、高圧かつ長時間の圧入工程が必要であり、極めて生産性に劣るという問題があった。
【0004】
また例えば、特許文献2には、特定の粘弾性特性を示すポリカーボネート系樹脂を押出発泡することによりポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を得る製造方法が記載されている。ここに記載されている方法の場合、押出発泡法を採用しているため、生産性により優れている。しかしながら、当該文献には、押出発泡法で得られた嵩倍率4倍程度までの押出発泡粒子が2倍強の2次発泡性を示すことが記載されているに過ぎず、得られた押出発泡粒子の成形性については不明である。
【0005】
さらに、例えば特許文献3には、特許文献1に類似の方法で得られた予備発泡粒子を加熱成形する際の予備発泡粒子間の融着を改良するため、加熱成形に先立って、予備発泡粒子の表面に特定の可塑剤を塗布する方法が記載されている。しかしながら、これらに記載された方法においても、ポリカーボネート系樹脂粒子から発泡性粒子を得る段階、さらには成形するための予備発泡粒子を得る段階において、高圧かつ長時間の圧入工程が必要であり、極めて生産性に劣るという問題がある。
【0006】
さらに、成形品において満足な融着状態を得るために予備発泡粒子表面に可塑剤を塗布する方法も、そのための一工程が必要なことから生産性を損なう要因となることに加え、各予備発泡粒子表面への可塑剤の付着量にムラができやすく、製品の品質を安定させることが困難であるという問題も有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6―100724号公報
【特許文献2】特開2021-54959号公報
【特許文献3】特開2016-160400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の課題を鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の製造方法によれば、生産性に優れる押出発泡法により、連続気泡率が低く抑えられているポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子が得られる。加えて、本発明の押出発泡粒子は、汎用されている蒸気成形法により容易に融着性に優れた成形体とすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の課題を克服する目的で、ポリカーボネート系樹脂のガラス転移点Tgに着目した。
【0010】
汎用されているポリカーボネート系樹脂は、一般に143~150℃程度のTgを有しており、加熱された際、この温度を境に当該樹脂はガラス状からゴム状の状態に変化するとともに、更なる温度上昇に伴って軟化していくことが知られている。
【0011】
一方で、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子やポリスチレン系樹脂発泡粒子を蒸気成形するために汎用されている成形機で利用できる蒸気圧は0.45MPa程度、温度にして150℃前後が限界であり、必ずしもポリカーボネート系樹脂を融着可能な程度にまで軟化させるには十分ではない。
【0012】
そこで、ポリカーボネート系樹脂を押出発泡して押出発泡粒子を得る際、基材の一部として可塑剤を含有させることで、ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子のTgを下げ、蒸気成形に適した範囲に調節することを本発明者は試みた。
【0013】
その結果、ポリカーボネート系樹脂に対し、特定範囲の量で可塑剤を含有させて押出発泡を行うことで、連続気泡率が低く、蒸気成形法により成形可能であり、さらには成形した際の融着性に優れたポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1).ポリカーボネート系樹脂と、可塑剤として数平均分子量1000以下のエステル化合物を含む発泡倍率3~15倍のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子であって、エステル化合物の含有量が、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対し0.1~4重量部であるポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子、
(2).前記エステル化合物が、ジカルボン酸のジエステルであることを特徴とする、(1)に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子、
(3).前記ジカルボン酸のジエステルが、セバシン酸のジエステルであることを特徴とする、(2)に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子、
(4).前記押出発泡粒子の連続気泡率が20%以下であることを特徴とする、(1)または(2)に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子、
(5).
前記ポリカーボネート系樹脂は、直鎖状ポリカーボネート系樹脂および分岐状ポリカーボネート系樹脂を含有する、請求項1または2に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子、
(6).(1)または(2)に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を成形してなるポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子成形体、
(7).ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を130~170℃の金型温度で成形する、(6)に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子成形体の製造方法、
(8).ポリカーボネート系樹脂と、可塑剤として数平均分子量1000以下のエステル化合物と発泡剤を含むポリカーボネート系樹脂組成物を、押出機で溶融混練し、押出機よりも低圧の雰囲気下に押し出す、発泡倍率3~15倍のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の製造方法であって、前記エステル化合物の含有量が、前記ポリカーボネート系樹脂100重量部に対し0.1~4重量部である押出発泡粒子の製造方法、
(9).前記発泡剤が二酸化炭素である、請求項8に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の製造方法、
(10).前記低圧雰囲気が、大気中である請求項8または9に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、融着性が高く成形性に優れたポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0017】
本発明は、ポリカーボネート系樹脂と、可塑剤として数平均分子量1000以下のエステル化合物を含む発泡倍率3~15倍のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子であって、エステル化合物の含有量が、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対し0.1~4重量部である、押出発泡粒子に関する。
【0018】
<ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子>
本実施形態のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子は、ポリカーボネート系樹脂とエステル系化合物を含む。
【0019】
[ポリカーボネート系樹脂]
本実施形態に係る押出発泡粒子は、ポリカーボネート系樹脂を主成分とする。ポリカーボネート系樹脂は-[-O-X-O-C(=O)-]-で示される炭酸結合を有する基本構造のポリマーである。上記式中、Xは連結基を表し、一般には炭化水素基であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。本実施形態のポリカーボネート系樹脂は、ポリカーボネートの繰り返し単位を、ポリカーボネート系樹脂全体の繰り返し単位を100重量%とした場合に、80重量%以上含有するのが好ましく、90重量%以上含有するのがより好ましい。本実施形態のポリカーボネート系樹脂は、上記 の範囲内でポリカーボネート以外の繰り返し単位を含有しても良い。
【0020】
ポリカーボネート系樹脂としては一般に、脂肪族ポリカーボネート系樹脂と芳香族ポリカーボネート系樹脂が知られている。脂肪族ポリカーボネート系樹脂は熱分解温度が低いものの、耐衝撃性、軽量性、透明性、耐熱性等の物性が良好である。一部の脂肪族ポリカーボネート系樹脂は生分解性であり、環境負荷が低い利点を有する。芳香族ポリカーボネート系樹脂は、耐熱性、透明性、衛生性、電気特性、および機械特性等の諸物性が優れており、種々の用途に広く使用されている。本実施形態においても、芳香族ポリカーボネート系樹脂を使用することが好ましい。
【0021】
芳香族ポリカーボネート系樹脂は、例えば二価フェノールとホスゲンや炭酸ジエステル等のカーボネート前駆体とを反応させて得ることができる。反応方法としては、例えば界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
【0022】
ポリカーボネート系樹脂の製造に使用される二価フェノールの代表的な例としては、ヒドロキノン、レゾルシノール;4,4’-ビフェノール、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3、5-ジメチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド等のビスフェノール等が挙げられるが、これらに限定されない。これらは単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの内、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAに基づくポリカーボネート系樹脂は、機械強度、断熱性、難燃性、緩衝性等がバランス良く優れており、本実施形態において特に好ましく使用することができる。
【0023】
ポリカーボネート系樹脂の製造に使用される炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、およびジブチルカーボネート等が挙げられ、中でもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0024】
ポリカーボネート系樹脂の粘度平均分子量に特に制限はないが、好ましくは5000~50000、より好ましくは7000~45000、特に好ましくは10000~40000の範囲である。平均分子量が5000~50000の範囲であれば、耐熱性や機械特性等の物性と成形性とのバランスに優れ、表面外観の良好な発泡体を、特に容易に得ることができる。
【0025】
本実施形態のポリカーボネート系樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ粘度計を用い、20℃の温度条件下、ポリカーボネート系樹脂のメチレンクロライド溶液の粘度を測定して固有粘度([η])を求め、以下の粘度式から算出される値を示す。
[η]=1.23×10- 4 Mv0.83
本実施形態のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子は、上記のようなポリカーボネート系樹脂を含有するポリカーボネート系樹脂組成物を、少なくとも含む。また、当該ポリカーボネート系樹脂組成物は、直鎖状ポリカーボネート系樹脂および分岐状ポリカーボネート系樹脂の、少なくとも2種のポリカーボネート系樹脂を含有するのが、発泡倍率が高い押出発泡粒子が得られるため好ましい。以下ではこれらのポリカーボネート系樹脂について説明する。
【0026】
(直鎖状ポリカーボネート系樹脂)
本実施形態における直鎖状ポリカーボネート系樹脂は、専ら直鎖構造を有するポリカーボネート系樹脂である。なお直鎖状のポリカーボネート系樹脂を製造する過程で、分岐構造が混入する場合があるが、本実施形態においてはこうした少量、例えば0.1%以下、望ましくは0.05%以下の分岐構造を有するポリカーボネート系樹脂も、直鎖状ポリカーボネート系樹脂として取り扱う。
【0027】
直鎖状ポリカーボネート系樹脂は、上記のように例えば二価フェノールとホスゲンやカーボネート前駆体とから製造することができ、種々の品種が市販されている。本実施形態においては、どのような直鎖状ポリカーボネート系樹脂をも使用することができる。例えば住化ポリカーボネート株式会社製のSD POLYCA(登録商標)、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製のユーピロン(登録商標)、ノバレックス(登録商標)、ザンター(登録商標)等が挙げられるが、これらに限定されない。複数の直鎖状ポリカーボネート系樹脂を、併用することも可能である。
【0028】
直鎖状ポリカーボネート系樹脂の品種は多岐に亘り、例えば300℃、1.2kgfでのメルトフローレート(MFR)に着目しても、大よそ1~65g/10分の範囲に亘る様々な樹脂が市販されている。本実施形態においては、直鎖状ポリカーボネート系樹脂として、MFR(300℃、1.2kgf)が40g/10分以上、さらには52~70g/10分、特に55~65g/10分程度の樹脂を使用することが好ましい。こうした、ポリカーボネート系樹脂の内でも比較的メルトフローレートの高い樹脂であれば、後記する分岐状ポリカーボネート系樹脂と組み合わせ、発泡させた際に、発泡倍率の高い押出発泡粒子を形成することが、さらに容易となる。
【0029】
直鎖状ポリカーボネート系樹脂の粘度平均分子量に特に制限はないが、好ましくは5000~30000、より好ましくは7000~25000、特に好ましくは10000~20000の範囲である。平均分子量が5000~30000の範囲であれば、耐熱性や機械特性等の物性と成形性とのバランスに優れ、表面外観の良好な発泡体を、特に容易に得ることができる。
【0030】
(分岐状ポリカーボネート系樹脂)
本実施形態における分岐状ポリカーボネート系樹脂は、分岐構造を有するポリカーボネート系樹脂である。分岐構造は、上記したようなポリカーボネート系樹脂原料と、三官能以上の例えば多官能性芳香族化合物とを、共重合させることによって製造することができる。また、溶融エステル交換反応時の副反応を利用して製造することも可能である。
【0031】
分岐状ポリカーボネート系樹脂の原料となる多官能性化合物としては、4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキジフェニル)ヘプテン-2、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、4-{4-[1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル]-α,α-ジメチルベンジル}フェノール等のトリスフェノール、フロログルシン、フロログルシド、テトラ(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4-ビス(4,4-ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、およびこれらの酸クロライド等が例示される。中でも、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンおよび1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0032】
分岐状ポリカーボネート系樹脂における分岐構造、すなわち多官能性化合物から誘導される構成単位は、例えばポリカーボネート系樹脂分子中の全構成単位100モル%中、0.03~1モル%程度、さらには0.07~0.7モル%程度、特に0.1~0.4モル%であることが好ましい。分岐構造の比率が0.03~1モル%程度であれば、分岐状ポリカーボネート系樹脂は高い溶融張力と流動性とをバランス良く兼ね備え、また、上記した直鎖状ポリカーボネート系樹脂と組み合わされて、適切な発泡形態のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を形成することが容易となる。なお、分岐構造の割合は、例えばH-NMRにより測定することができる。
【0033】
分岐状ポリカーボネート系樹脂としても、例えばMFR(300℃、1.2kgf)が0.1~20g/10分に亘る、種々の品種が知られている。本実施形態ではこうした分岐状ポリカーボネート系樹脂のいずれを用いてもよく、また、複数種を併用することもできる。好ましくは、MFR(300℃、1.2kgf)が10g/10分以下、特に1~10g/10分の分岐状ポリカーボネート系樹脂を使用する。こうしたMFRの分岐状ポリカーボネート系樹脂であれば、前記の直鎖状ポリカーボネート系樹脂と組み合わせ、発泡させた際に、平均セル径が300μm超1000μm以下であり、連続気泡率が0.1%以上30%以下である押出発泡粒子を形成することがより容易となる。特に、MFR(300℃、1.2kgf)が40g/10分以上の直鎖状ポリカーボネート系樹脂と組み合わせた場合、発泡形態が適正な押出発泡粒子を、さらに容易に製造することが可能となる。
【0034】
分岐状ポリカーボネート系樹脂の粘度平均分子量に特に制限はないが、好ましくは10000~50000、より好ましくは20000~40000、さらに好ましくは25000~35000の範囲である。平均分子量が10000~50000の範囲であれば、耐熱性や機械特性等の物性と成形性とのバランスに優れ、表面外観の良好な発泡体を、特に容易に得ることができる。
【0035】
分岐状ポリカーボネート系樹脂の溶融張力は、特に限定されないが、通常、直鎖状ポリカーボネート系樹脂の溶融張力と比較して高くなり得る。分岐状ポリカーボネート系樹脂の例えば280℃における溶融張力は、2.0cN以上であることが好ましく、3.0cN以上であることがより好ましい。分岐状ポリカーボネート系樹脂の溶融張力が例えば280℃で2.0cN以上であれば、ポリカーボネート系樹脂組成物は溶融状態でもより高い強度が保持され、発泡セルの破壊が生じ難くなる。その結果、得られるポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の発泡倍率をさらに高めることができる。特に、MFR(300℃、1.2kgf)が40g/10分以上の直鎖状ポリカーボネート系樹脂と組み合わせる場合には、分岐状ポリカーボネート系樹脂の溶融張力は例えば4.0cN以上、さらには5.0以上であることが好ましい。溶融張力の上限は、15cN以下、特に10cN以下であることが好ましい。15cN以下であれば、発泡セルの微細化や高連泡化を抑制し易くなる。
【0036】
本明細書における溶融張力の測定方法について以下に説明する。本明細書では、溶融張力は、例えばキャピログラフ(登録商標)1D(株式会社東洋精機製作所製)を用いて測定することができる。具体的には、以下(1)~(4)の通りである:(1)試験温度(例えば280℃)に加熱された径9.55mmのバレルに測定用の試料樹脂(分岐状ポリカーボネート系樹脂)を充填する;(2)次いで、試料樹脂を10分間、試験温度(例えば280℃)に加熱されたバレル内で加熱する;(3)次いで、キャピラリーダイ(口径1.0mm、長さ10mm)から、一定に保持したピストン降下速度(10mm/分)にて、試料樹脂を紐状に出しながら、この紐状物を前記キャピラリーダイの下方350mmに位置する張力検出のプーリーに通過させた後、巻取りロールを用い、紐状物の巻取り速度を10m/分として巻取りを開始する;(4)紐状物の引き取りが安定した後のロードセル付きプーリーにかかる荷重を溶融張力として測定する。
【0037】
(エステル化合物)
本実施形態のエステル化合物としては、数平均分子量1000以下のエステル結合を有する化合物であれば特に限定されず、低分子量エステル化合物を挙げることができる。
【0038】
低分子エステル化合物としては、数平均分子量50~1000、なかんずく50~500の化合物が好ましく、例えば、モノカルボン酸やジカルボン酸とアルコールとのエステル化合物を挙げることができる。モノカルボン酸としては、ギ酸や、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸などの脂肪族モノカルボン酸;安息香酸やサリチル酸、ナフタレンカルボン酸などの芳香族カルボン酸を挙げることができる。ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;フタル酸(о―フタル酸)、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を挙げることができる。エステル化合物を形成するアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、2―エチルヘキサノールを挙げることができる。低分子エステル化合物の中でも、ジカルボン酸とアルコールとのジエステルが好ましく、セバシン酸やアゼライン酸とアルコールとのジエステルがより好ましく、セバシン酸と2―エチルヘキサノールとのジエステルが、ポリカーボネート系樹脂との相溶性が高いため好ましい。
【0039】
エステル化合物の含有量は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、0.1~4重量部が押出発泡粒子の成形性が向上するため好ましく、0.5~3.5重量部がさらにより好ましい。
【0040】
(発泡核剤)
ポリカーボネート系樹脂組成物はまた、タルク、クレー、シリカ等の発泡核剤(造核剤)を含有していてもよい。発泡核剤の存在により、ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の発泡倍率を、さらに高めることができる。発泡核剤の含有量は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して0.01~2重量部が好ましく、0.05~1重量部がより好ましい。
【0041】
(他成分)
ポリカーボネート系樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記の成分に加えて、ポリカーボネート系樹脂以外のポリマー、安定剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、数平均分子量1000以下のエステル化合物以外の可塑剤、吸水剤、酸化防止剤、劣化防止剤、色剤、および/または輻射抑制剤などの添加剤が更に含まれ得る。これら成分の種類や配合量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定することができ、例えばポリカーボネート系樹脂100重量部に対して0.01~5重量部、特に0.1~1重量部とし得る。
【0042】
ポリカーボネート系樹脂以外のポリマーとしては、ポリオレフィン系樹脂、AS樹脂やABS樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、さらにはSBR、NBR、SBS、SIS、SEBS、EPDM、フッ素ゴム等のエラストマーが挙げられるが、これらに限定されない。こうしたポリマーを例えばポリカーボネート系樹脂の合計100重量部に対して1~5重量部添加することによって、ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の機械特性や成形性等を改善することもできる。但し、本発明の効果を奏し易いという観点から、ポリカーボネート系樹脂組成物はこうした他のポリマーを含有せず、ポリカーボネート系樹脂のみからなることが好ましい。
【0043】
[発泡剤(発泡ガス)]
本実施形態のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を作製するための発泡剤としては、物理型発泡剤および化学型発泡剤からなる群から選択される1種以上の発泡剤を使用することができる。
【0044】
物理型発泡剤の具体例としては、例えば、プロパン、n-ブタン、i-ブタン、n-ペンタン、i-ペンタン、ネオペンタン、シクロペンタンなどの炭化水素;1,1-ジフルオロエタン、1,2-ジフルオロエタン、1,1,1-トリフルオロエタン、1,1,2-トリフルオロエタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,2,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン、ジフルオロメタン、トリフルオロメタンなどのフッ素化炭化水素;二酸化炭素、窒素、水、アルゴン、ヘリウムなどの無機ガス;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、n-ブチルエーテル、ジイソアミルエーテルなどのエーテル類などが挙げられる。これらの中から、1種、または2種以上を混合して使用することができる。
【0045】
化学型発泡剤の具体例としては、例えば、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p,p’-オキシビス-ベンゼンスルホニルヒドラジド、ヒドラゾジカルボンアミド、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、アゾジカルボンアミド、テレフタルアジド、5-フェニルテトラゾール、p-トルエンスルホニルセミカルバジドなどが挙げられる。これらの中から、1種、または2種以上混合して使用することができる。
【0046】
上記した物理型発泡剤および化学型発泡剤の中でも特に、二酸化炭素を発泡剤として使用することが好ましい。二酸化炭素は、不燃性であり、かつヒトを含む生物に無害な物質である。ゆえに、二酸化炭素を発泡剤として使用することで、安全性および環境適合性を向上させることができる。なお、発泡剤として用いられる二酸化炭素は、気体または液体のいずれの状態であってもよい。
【0047】
発泡剤の使用量は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して0.1~10重量部が低い連続気泡率の押出発泡粒子が得られるため好ましく、特に0.5~7重量部がより好ましい。
【0048】
<ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子>
本実施形態のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子は、後述する押出発泡工程、ならびに造粒工程において発泡し、かつ粒子形状とされたものである。
【0049】
[発泡倍率]
本実施形態のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子においては、発泡倍率が3~15倍、特に4倍~8倍である。発泡倍率を上記の数値範囲とすることで、ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を用いて発泡成形体を作製した際に、軽量かつ高強度な発泡成形体を提供することができる。
【0050】
ここで、発泡倍率は、ポリカーボネート系樹脂組成物の密度d2(g/l)、およびポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の嵩密度d1(g/l)から求めることができる。より具体的には、下記の式(3)によって算出することができる。
発泡倍率=d1/d2 ・・・式(3)
[嵩密度]
上記の嵩密度d1は、例えば以下の手順で測定したポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の嵩V(l)とその重量W(g)から、下記の式(4)によって算出することができる:押出発泡樹脂粒子を、体積V(l)が既知である容器、例えばメスシリンダー、ビーカー、バケツ等へ、容器からあふれるまで入れる;容器の粉面(上端)を擦切り、容器内の押出発泡樹脂粒子の重量W(g)を測定する。
嵩密度d1(g/l)=W/V ・・・式(4)
なお、本実施形態に係るポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の嵩密度は、80~240g/l、特に110~180g/lであることが好ましい。嵩密度を上記の数値範囲とすることで、ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の粒径をより小さくすることができ、ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を用いて作製した発泡成形体の表面ではポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子間の隙間が小さくなる。その結果、発泡成形体全体の融着性および外観をさらに向上させることができる。
【0051】
[連続気泡率]
本実施形態のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の連続気泡率は、20%以下が外観が良い成形体が得られるため好ましく、10%以下がより好ましく、7%以下がさらにより好ましい。
【0052】
<ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の製造方法>
本実施形態に係るポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子は、以下のような方法で製造することが可能である:押出機内において、ポリカーボネート系樹脂とエステル化合物を含有するポリカーボネート系樹脂樹組成物に発泡剤を混練する発泡剤混練工程と、発泡剤を混練したポリカーボネート系樹脂組成物を、押出機内よりも低圧の雰囲気下に押し出して発泡させる押出発泡工程と、押し出されたポリカーボネート系樹脂組成物を切断して、ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を造粒する造粒工程と、を少なくとも含む製造方法。
【0053】
本発明の1つの実施形態に係るポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の製造方法は、例えば、発泡剤混練工程[工程1]と、押出発泡工程[工程2]と、造粒工程[工程3]とを少なくとも含む。また、発泡剤混練工程の前工程として、同じ押出機または異なる混練機での樹脂混練工程[工程0]を含むことが好ましい。各工程について、以下に詳述する。
【0054】
(i)樹脂混練工程[工程0]樹脂混練工程[工程0]では、ポリカーボネート系樹脂と数平均分子量1000以下のエステル化合物を混合、好ましくは溶融混練してポリカーボネート系樹脂組成物を得る。この工程では、必要に応じて、造核剤、安定剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、エステル化合物以外の可塑剤、吸水剤、酸化防止剤、劣化防止剤、色剤、および/または輻射抑制剤などの添加剤を添加してもよい。
【0055】
ここで、直鎖状ポリカーボネート系樹脂:分岐状ポリカーボネート系樹脂の重量比は、60:40~95:5、好ましくは65:35~92:8、より好ましくは70:30~90:10である。直鎖状ポリカーボネート系樹脂はMFR(300℃、1.2kgf)が40g/10分以上である樹脂が好ましく、分岐状ポリカーボネート系樹脂はMFR(300℃、1.2kgf)が、10g/10分以下である樹脂が好ましい。
【0056】
樹脂混練工程[工程0]は、[工程1]以降で使用する押出機と同一の装置で行うことが、作業効率上好ましいが、混練用の別の押出機や、バッチ式の密閉型ミキサー、例えばバンバリーミキサーや加圧ニーダーを用いて行ってもよい。また、樹脂の混練を次に説明する発泡剤混練工程[工程1]で発泡剤の混練と同時に行い、[工程0]を事実上省略することもできる。
【0057】
(ii)発泡剤混練工程[工程1]発泡剤混練工程[工程1]では、押出機内において、ポリカーボネート系樹脂組成物に発泡剤を混練する。発泡剤は、押出機に設けられた混合設備などによってポリカーボネート系樹脂組成物の溶融混練物に溶解および分散させることが可能である。
【0058】
この[工程1]では、発泡剤として上記した物理型発泡剤および化学型発泡剤を使用することができる。特に、二酸化炭素を発泡剤として使用することが好ましい。二酸化炭素は、不燃性であり、かつヒトを含む生物に無害な物質である。ゆえに、二酸化炭素を発泡剤として使用することで、安全性および環境適合性を向上させることができる。
【0059】
この[工程1]において、二酸化炭素や他の発泡剤をポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、0.1~10重量部使用することが好ましい。発泡剤の使用量を上記の数値範囲とすることで、ポリカーボネート系樹脂組成物におけるガス分散性がよく、樹脂組成物の発泡性を向上させることができる。
【0060】
発泡剤として用いられる二酸化炭素は、気体または液体のいずれの状態であってもよい。ポリカーボネート系樹脂組成物への溶解性、浸透性、拡散性などを考慮すると、臨界温度以上および臨界圧力以上の超臨界状態の二酸化炭素を使用することが好ましい。
【0061】
(iii)冷却工程(任意的工程)発泡剤を混練した前記ポリカーボネート系樹脂組成物は、次に押出発泡工程[工程2]に付されるが、その間に所望により冷却工程を加えることが好ましい。この任意的な冷却工程では、発泡剤を混練したポリカーボネート系樹脂組成物を、混練に用いた押出機(一段目押出機)よりも温度の低い押出機(二段目押出機)に移して冷却する。ここで、限定されないが、例えば、一段目押出機内部の温度は240~320℃、特に260~300℃に設定されてもよく、また二段目押出機内での冷却は、180~220℃、特に185~210℃で行なわれてもよい。特に、二段目押出機内での冷却の温度を、上記の数値範囲に設定することで、ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の発泡倍率を高め、連続気泡率を低下させることが容易となる。
【0062】
(iv)押出発泡工程[工程2]
押出発泡工程[工程2]では、発泡剤を混練したポリカーボネート系樹脂組成物を、前記押出機内よりも低圧の雰囲気下に押し出して発泡させる。押出機内は例えば5~20MPa程度、通常は10~18MPa程度の圧となっているので、押出口(ダイスまたはダイ)から押出機の外部、例えば大気中や水中へと押し出すことにより、ポリカーボネート系樹脂組成物は押出機内よりも低圧の雰囲気下に曝され、発泡することとなる。
【0063】
ここで、ポリカーボネート系樹脂組成物を大気中に押し出した場合、続く造粒工程[工程3]において、ポリカーボネート系樹脂組成物の冷却が比較的緩やかに進行するため、十分に発泡させることが可能となる。よって、押出発泡工程[工程2]においては、ポリカーボネート系樹脂組成物を、押出機から大気中に押し出すことが好ましい。なお、押出発泡工程[工程2]におけるポリカーボネート系樹脂組成物の温度は、200℃以下であることが好ましい。また、その際のダイスの温度は、180~220℃、特に185~210℃程度とすることが好ましい。
【0064】
(v)造粒工程[工程3]
造粒工程[工程3]では、押し出されたポリカーボネート系樹脂組成物を切断して、ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を造粒する。造粒工程[工程3]は、上記の押出発泡工程[工程2]と同じ環境下(大気中または水中)、もしくは異なる環境下(大気中または水中)で行なうことができ、押し出す環境の違いから、次の3方式に分けられる。すなわち、アンダーウォータカット(以下、UWCと称する場合もある)法、ウォータリングカット(以下、WRCと称する場合もある)法、およびホットカット(以下、HCと称する場合もある)法である。
【0065】
UWC法は、ダイ先端に取り付けたチャンバー内に所定圧力に調整された冷却水をダイの樹脂吐出面に接するように充満し、ダイの孔から押出された組成物を水中で切断する方法である。また、WRC法は、ダイに連結された冷却ドラムの内周面に沿って冷却水が流れる冷却ドラムをダイから下流側に配置し、空気中にて前記カッターで切断された組成物が発泡しながら、もしくは発泡後に前記冷却水中で冷却される方法である。HC法は、空気中にて組成物をカッターで切断し、切断された組成物が発泡しながら、もしくは発泡後に、空気中にて冷却される方法である。これらの中では、大気中で造粒を行なうHC法やWRC法が好ましい。
【0066】
<ポリカーボネート系樹脂発泡成形体>
本実施形態のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を加工して、ポリカーボネート系樹脂発泡成形体とすることができる。本発明はまた、上記のいずれかのポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を成形してなるポリカーボネート系樹脂発泡成形体を包含する。
【0067】
本実施形態のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子からポリカーボネート系樹脂発泡成形体を加工する方法として、ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を耐圧容器内に仕込み、昇温してポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を型内成形する、いわゆるビーズ法型内成形法が挙げられるが、これに限定されない。本実施形態のポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子は低い成形温度で成形することができ、成形温度としては130~170℃が好ましく、140~160℃がより好ましい。
【0068】
ポリカーボネート系樹脂発泡成形体は、住宅用および自動車用の断熱材の他、工業用の緩衝材、および保冷剤などとしても利用することができる。ポリカーボネート系樹脂発泡成形体は耐熱性に優れるので、自動車のエンジン周りや工場配管用の断熱材や防音材、緩衝材等として好適である。ポリカーボネート系樹脂発泡成形体はまた、機械特性も優れるため、パイプラインやLNG保冷船等の断熱材としても有用である。
【実施例0069】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
<実施例および比較例の製造>
以下の実施例および比較例においては、下記の原材料を使用した。
[ポリカーボネート系樹脂]
・直鎖状ポリカーボネート系樹脂:三菱エンジニアリング製ユーピロン(登録商標)H-4000、MFR(300℃、1.2kgf):63g/10分
・分岐状ポリカーボネート系樹脂:三菱エンジニアリング製ノバレックス(登録商標)M7027BF/NA、MFR(300℃、1.2kgf):2.4g/10分
[エステル化合物]
・セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)(新日本理化製 サンソサイザーDOS)。
【0071】
<測定>
上記したポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度、並びに、各実施例および比較例におけるポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の特性は、以下のようにして測定した。
【0072】
・発泡倍率:
以下の方法によって、ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の発泡倍率を算出した:

まず、以下の(1)~(3)の手順に従い、ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子の嵩密度を測定した。
(1)押出発泡粒子を、あらかじめ内容積vk(l)を正確に測定した計量カップへ、計量カップからあふれるまで入れる;(2)カップの上面をすりきり、その状態で計量カップ内の押出発泡粒子の重量wb(g)を測定する。(3)以下の式により、押出発泡粒子の嵩密度ρ1を算出する。
嵩密度ρ1(g/l)=wb(g)/vk(l)
次に、下記の手順で作製した戻し樹脂をサンプルとし、以下の(4)~(6)の手順に従い、戻し樹脂の密度を測定した。
(4)戻し樹脂の重量wr(g)を測定する;(5)次に、重量の測定に用いた戻し樹脂を、メスシリンダー中に入っているエタノール 中に沈め、メスシリンダーの液面位置の上昇分に基づき戻し樹脂の体積vr(l)を測定する;(6)以下の式により、戻し樹脂(ポリカーボネート系樹脂組成物)の密度ρ2を算出する。
戻し樹脂の密度ρ2(g/l)=wr(g)/vr(l)
得られたρ1、ρ2の値を用い、以下の式により、発泡倍率を算出した。
発泡倍率(倍)=ρ2/ρ1
・戻し樹脂の作製方法:
ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を樹脂戻しして得られる樹脂塊の密度を、ポリカーボネート系樹脂組成物の密度と見做した。以下(f1)~(f5)を順に行い、得られた樹脂塊を押出発泡粒子の戻し樹脂とした:(f1)押出発泡粒子を、温度を260℃に調整した乾燥機に入れた;(f2)次いで、5~10分かけて真空ポンプを使用して、前記乾燥機内の圧力を-0.05MPa(ゲージ圧)~-0.10MPa(ゲージ圧)になるまで減圧した;(f3)その後、前記乾燥機内で30分間、押出発泡粒子を放置し、樹脂塊(戻し樹脂)を調製した;(f4)次いで、乾燥機内の温度を室温まで冷却した後、乾燥機内の圧力を常圧まで戻した;(f5)その後、乾燥機から前記樹脂塊を取り出した。
【0073】
・連続気泡率:
押出発泡粒子の連続気泡率は、空気比較式比重計[東京サイエンス(株) 製、モデル1000]を用いて、ASTM D2856-87の手順C(PROSEDURE C)に記載の方法に従って、測定した。押出発泡粒子の連続気泡率は、具体的には、以下(1)~(3)を順に実施して算出した:(1)空気比較式比重計を用いて押出発泡粒子の体積Vc(cm)を測定した;(2)次いで、Vcを測定後の押出発泡粒子の全量を、メスシリンダーに入っているエタノール中に沈めた;(3)その後、メスシリンダーにおけるエタノールの位置の上昇量から、押出発泡粒子の見かけ上の体積Va(cm)を求めた;(4)以下の式により、押出発泡粒子の連続気泡率を算出した:
連続気泡率(%)=((Va-Vc)/Va)×100。
【0074】
・ガラス転移温度:
上述の樹脂戻しをして得られたポリカーボネート系樹脂組成物の樹脂塊のガラス転移温度を、JIS K7121:2012(ISO 3146:2000)に準拠し、示差走査熱量測定(DSC)法によって測定した。
【0075】
・成形性:
得られた型内発泡成形体に対して下記の(x1)~(x6)の評価を行い、全てを満たしたものを評価〇とし、いずれか1つでも満たさない場合は評価×とした。(x1)ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子同士の融着が十分であり、(x2)ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子間の隙間が十分に埋まっており、(x3)表面が美麗であり、(x4)表面がメルトしておらず、(x5)圧縮強度が十分であり、かつ(x6)収縮することなく、型内発泡成形に使用した型(金型)の形状が転写されている、ポリカーボネート系樹脂型内発泡成形体。
【0076】
・融着率:
ポリカーボネート系樹脂発泡成形体の一つの角から約100mmの場所から、反対側の約100mmの点までナイフ等で約5mmの切り込みを入れ、切り込みを入れた部分と一つの角で囲まれる部分をハンマー等で叩き、切り込み部を破断させた。破断面を目視し、破断面に存在する全押出発泡粒子数と、破断面において押出発泡粒子内で破断している押出発泡粒子の数とを、それぞれ数えた。破断面に存在する全押出発泡粒子数に対する、破断面において押出発泡粒子内で破断している押出発泡粒子の数の比率(%)を算出し、当該比率が60%以上のものを良「〇」とし、60%未満40%以上のものを可「△」とし、40%未満のものを不可「×」とした。
【0077】
[実施例1]
上記の直鎖状ポリカーボネート系樹脂と分岐状ポリカーボネート系樹脂とエステル化合物とを、重量比80:20:1.5で混合した混合物を、ホッパーから0.6kg/時で一段目の二軸押出機(テクノベル社製、スクリュー径:15mm、L/D=30)に投入し、260℃で混練してポリカーボネート系樹脂組成物を調製した。一段目押出機途中に設けた圧入部より、発泡剤として二酸化炭素(炭酸ガス)を、溶融したポリカーボネート系樹脂組成物中に、直鎖状ポリカーボネート系樹脂と分岐状ポリカーボネート系樹脂の合計100重量部に対して1.7重量部の量で圧入した。
【0078】
さらに、前記の混練物を、二軸押出機先端に接続され、195℃に設定されたメルトクーラーを通過させて冷却した後、メルトクーラーの先端に装着された直径1.2mmのダイより、大気圧下に押出して発泡させるとともに、カッター回転数600rpmで切断したのち、大気中で冷却し、造粒することで実施例1に係るポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を製造した。なお、このときのダイス温度は192℃とした。
【0079】
得られたポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子について、発泡倍率、連続気泡率、およびガラス転移温度を評価した。表1に記す。さらに、得られたポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を、150℃の飽和水蒸気で加熱し型内発泡成形することより、ポリカーボネート系押出発泡粒子の成形体を得、成形性と融着率を評価した。表1に記す。
【0080】
【表1】
[実施例2~3、比較例1~2]
使用する原材料の種類および量を後記する表1のように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子および型内発泡成形体を作製し評価した。評価結果を表1に示す。
【0081】
[比較例3]
比較例2で得られたポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子100重量部と、エステル化合物を1重量部とをハンドブレンドし展着させた後に型内成形を行った以外は、比較例2と同様の操作を行った。
【0082】
実施例1~3では、連続気泡率が低い押出発泡粒子を得ることができ、成形性や融着率に優れた型内発泡成形体を得ることができた。一方、エステル化合物を5重量部用いた比較例1は、ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を得ることができたが、連続気泡率は87%と高く、型内発泡成形体を作製することができなかった。エステル化合物を用いなかった比較例2は、ポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子を得ることはできたが、型内発泡成形体の押出発泡粒子同士の融着率は低く成形性に劣るものだった。比較例3では、エステル化合物をポリカーボネート系樹脂押出発泡粒子に展着させたが、十分な成形性を得ることはできなかった。