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  • 特開-セルロース繊維成形体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014423
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】セルロース繊維成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21J 3/00 20060101AFI20240125BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20240125BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
D21J3/00
D21H11/18
D21H15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117237
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】591008199
【氏名又は名称】ビューテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 知人
(72)【発明者】
【氏名】宇野 正志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 寛人
(72)【発明者】
【氏名】三好 隆裕
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA03
4L055AC06
4L055AF09
4L055AF10
4L055AF46
4L055BF08
4L055EA03
4L055EA04
4L055EA25
(57)【要約】
【課題】製造効率に優れるセルロース繊維成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】セルロース繊維を含むスラリーを型枠10に注入する工程と、型枠10内のスラリーを液透過部材13を通して脱水する工程とを備え、注入を0.1~0.7mPaの圧力で行い、注入の際のスラリーを、セルロース繊維の50~95質量%を微細繊維とし、かつセルロース繊維の濃度を1~5質量%としておくセルロース繊維成形体の製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を含むスラリーを型枠に注入する工程と、前記型枠内のスラリーを液透過部材を通して脱水する工程とを備え、
前記注入を0.1~0.7mPaの圧力で行い、
前記注入の際のスラリーを、前記セルロース繊維の50~95質量%を微細繊維とし、かつ前記セルロース繊維の濃度を1~5質量%としておく、
ことを特徴とするセルロース繊維成形体の製造方法。
【請求項2】
前記注入を900秒以内に行う、
請求項1に記載のセルロース繊維成形体の製造方法。
【請求項3】
前記注入の際のスラリーを、Ti値2~20、B型粘度(23℃で回転数60rpm)500~10000mPa・sとしておく、
請求項1又は請求項2に記載のセルロース繊維成形体の製造方法。
【請求項4】
前記注入の際のスラリーを、Ti値2~20、保水性800~3000g/m2としておく、
請求項1又は請求項2に記載のセルロース繊維成形体の製造方法。
【請求項5】
前記型枠は、少なくとも底面及び側面を有し、少なくとも前記型枠の底面に前記液透過部材が備わる構成とされ、
前記型枠の側面から前記スラリーを注入し、注入したスラリーを上方から加圧して前記液透過部材を通して脱水する、
請求項3に記載のセルロース繊維成形体の製造方法。
【請求項6】
前記型枠の底面に備わる液透過部材の面積/注入口の全面積が1~1000となるように、前記注入を1又は複数の注入口を通して行う、
請求項5に記載のセルロース繊維成形体の製造方法。
【請求項7】
前記液透過部材は、開口率が5~50%で、かつ平均開口径が0.03~0.13mmである、
請求項5に記載のセルロース繊維成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維成形体の製造方法としては、特許文献1が開示するものが存在する。この方法においては、「少なくとも一部に蒸気透過手段を使用してなる型にCNF含有スラリーを充填し、前記型及び/又は前記型とは別の蒸気透過手段によってCNF含有スラリーに荷重を加えると共に濃縮することを特徴とする」方法を提案し、この提案の具体例を同文献中に記載している。
【0003】
しかしながら、同文献に記載された方法では製造効率が悪く、また、同文献は当該問題の解決方法を示唆してもいない。例えば、同文献は、「少なくとも一部に蒸気透過手段を使用してなる型にCNF含有スラリーを充填し、前記型及び/又は前記型とは別の蒸気透過手段によってCNF含有スラリーに荷重を加えると共に加熱及び/又は減圧する工程と、前記型にCNF含有スラリーを補充する工程とを反復して行うことを特徴とする」、つまり充填及び成形の繰り返しで成形体を製造するなどとしており、製造効率に関する問題にまで認識が及んでいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-94683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、製造効率に優れるセルロース繊維成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は、
セルロース繊維を含むスラリーを型枠に注入する工程と、前記型枠内のスラリーを液透過部材を通して脱水する工程とを備え、
前記注入を0.1~0.7mPaの圧力で行い、
前記注入の際のスラリーを、前記セルロース繊維の50~95質量%を微細繊維とし、かつ前記セルロース繊維の濃度を1~5質量%としておく、
ことを特徴とするセルロース繊維成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、製造効率に優れるセルロース繊維成形体の製造方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本形態の型枠の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0010】
本形態のセルロース繊維成形体の製造方法においては、セルロース繊維を含むスラリーを型枠に注入する工程と、前記型枠内のスラリーを多孔質部材を通して脱水する工程とが備わる。そして、スラリーの注入は、0.1~0.7mPaの圧力で行い、また、注入の際のスラリーは、セルロース繊維の50~95質量%を微細繊維とし、かつセルロース繊維の濃度を1~5質量%としておく。以下、詳細に説明する。
【0011】
(型枠)
型枠の例を図1に示した。本形態の型枠10は底面11及び側面12を有し、少なくとも型枠10の底面11に液透過部材13が積層(載置)された構成とされている。また、特に本形態においては、型枠10の上面が蓋材14で閉じられており、この蓋材14にも液透過部材13が積層されている。このようにして、本形態の型枠10は、内面形状が直方体状とされている。ただし、この直方体状との形状は任意のものであり、他の形状とすることもできる。
【0012】
型枠10は、例えば、金属、セラミック、樹脂、木材等で構成可能であるが、好ましくは高い圧力に対する耐久性等の観点から金属で構成される。特に、型枠10において乾燥等のために加熱を行う場合においては、この加熱の温度が80~180℃になるため、型枠10の耐熱温度は、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、特に好ましくは240℃以上である。
【0013】
また、型枠10の熱伝導率は、加熱による乾燥を効率的に行うために、好ましくは10W/m・k以上、より好ましくは15W/m・k以上、特に好ましくは20W/m・k以上である。
【0014】
さらに、型枠10の液透過部材13と接する面には脱水孔が存在するのが好ましく、この場合、孔径は、好ましくは0.05~3.0mm、より好ましくは0.07~2.8mm、特に好ましくは1.0~2.5mmである。孔径が0.05mm未満であると、セルロース繊維、特に微細繊維が詰まるおそれがある。他方、孔径が3.0mmを超えると、脱水マークが付き、得られる成形体が部分的に厚くなるおそれがある。
【0015】
液透過部材13は、例えば、シート、板材、あるいは任意の形状の立体構造体で、かつ多数の孔が形成されてなる多孔質部材、線材が織り込まれる等してなるメッシュ部材などで構成される。液透過部材13の材質は、例えば、金属、樹脂、繊維等を例示することができる。つまり、例えば、液透過部材13がメッシュ部材である場合は、ろ布等で構成することもでき、また、メッシュの形状は平織、綾織、畳織、綾畳織等を例示可能である。
【0016】
液透過部材は、開口率が5~50%で、かつ平均開口径が0.03~0.13mmであるのが好ましく、開口率が5~50%で、かつ平均開口径が0.03~0.12mmであるのがより好ましく、開口率が5~50%で、かつ平均開口径が0.03~0.10mmであるのがより好ましい。
【0017】
開口率が5%未満であると、脱水効率が低下して本形態の趣旨(製造効率の向上)を減殺するうえに、局所的に過剰に脱水する箇所と脱水しない箇所とが顕著となるため、成形物の厚みにバラつきが生じやすくなる。ある。他方、開口率が50%を超えると、セルロース繊維の流出を抑えることができなくなるおそれがある。もっとも、このように開口率が以上の範囲内であったとしても、平均開口径が0.03mm未満であると、脱水効率が低下するおそれがある。他方、平均開口径が0.13mmを超えると、セルロース繊維が流出するおそれがある。
【0018】
ちなみに、液透過部材13がメッシュ部材である場合においては、メッシュ部材(通常はシート状。)の目数の下限は、200メッシュが好ましく、220メッシュがより好ましい。他方、目数の上限は、500メッシュが好ましく、400メッシュがより好ましい。
【0019】
また、液透過部材13がメッシュ部材である場合においては、各線材の線径の下限は、10μmが好ましく、20μmがより好ましい。他方、線径の上限は、100μmが好ましく、80μmがより好ましい。
【0020】
(注入)
以上の型枠10内には、セルロース繊維のスラリーを注入する。
この注入は、0.1~0.7mPaの圧力で行うのが好ましく、0.13~0.65mPaの圧力で行うのがより好ましく、0.15~0.6mPaの圧力で行うのが特に好ましい。以上の範囲未満では、製造効率の観点で好ましくないばかりでなく、注入中に原料の流動性が低下し所望の形状の成形体が得られなくなる可能性がある。他方、以上の範囲を超えると、本形態のスラリーはセルロース繊維の濃度が5%以下と低濃度であるため、セルロース繊維の偏在や部分的な脱水が生じるおそれがある。部分的な脱水は、得られる成形体の厚みむら等の原因になる可能性がある。
【0021】
また、スラリーの注入を以上の圧力で行う場合においては、図示例のように型枠10の側面から注入を行うのが好ましい。側面から注入を行うことでセルロース繊維が液透過部材13を通り抜けてしまうのを可及的に防止することができる。
【0022】
さらに、スラリーの注入は、900秒以内に行うのが好ましく、1~720秒で行うのがより好ましく、5~600秒で行うのが特に好ましい。本形態のように注入圧力が高い場合においては、注入時間が長くなると、セルロース繊維の偏在が生じ易くなり、また、意図しない脱水につながる可能性がある。
【0023】
注入時間を短くする方法としては、例えば、注入口の面積を広げる、あるいは注入口を1つではなく2以上の複数に増やす等の方法等が存在する。ただし、特に型枠10の底面に備わる液透過部材13の面積/注入口の全面積が1~1000(の比)となるようにするのが好ましく、5~500となるようにするのがより好ましく、10~250となるようにするのが特に好ましい。
【0024】
以上のように、スラリーの注入に種々の工夫を凝らすことで、以下に示す本形態のスラリーを使用することが可能になっている。
【0025】
(スラリー)
型枠10に注入するスラリーは、セルロース繊維全体の50~95質量%を微細繊維とし、かつセルロース繊維の濃度を1~5質量%としておくのが好ましく、セルロース繊維全体の55~90質量%を微細繊維とし、かつセルロース繊維の濃度を1.0~4.5質量%としておくのがより好ましく、セルロース繊維全体の60~85質量%を微細繊維とし、かつセルロース繊維の濃度を1.0~4.5質量%としておくのが特に好ましい。微細繊維がセルロース繊維全体の50質量%未満の場合においては、スラリーの脱水性が高くなり、注入直後から部分的に脱水し、所望の形状の成形体が得られないおそれがある。他方、微細繊維がセルロース繊維全体の95質量%より大きい場合においては、脱水効率が低下するおそれがある。
【0026】
微細繊維としては、平均繊維径0.6~10μmのマイクロ繊維セルロース(MFC)を使用することもできるが、平均繊維径0.003~0.5μmのセルロースナノファイバー(CNF)を使用するのがより好ましい。なお、微細繊維は、変性がなされていなくても(未変性繊維)、TEMPO酸化、リン酸、亜リン酸等のリンのオキソ酸による変性、カルバメート変性等の化学変性がなされていても(変性繊維)よい。
【0027】
微細繊維は、パルプを原料とする。このパルプ原料としては、例えば、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ・バガス・綿・麻・じん皮繊維等を原料とする非木材パルプ、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。なお、以上の各種原料は、例えば、セルロース系パウダーなどと言われる粉砕物(粉状物)の状態等であってもよい。
【0028】
ただし、不純物の混入を可及的に避けるために、原料パルプとしては、木材パルプを使用するのが好ましい。木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0029】
広葉樹クラフトパルプは、広葉樹晒クラフトパルプであっても、広葉樹未晒クラフトパルプであっても、広葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。同様に、針葉樹クラフトパルプは、針葉樹晒クラフトパルプであっても、針葉樹未晒クラフトパルプであっても、針葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。
【0030】
機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0031】
微細繊維は、パルプ原料(セルロース繊維)を解繊(微細化)することで得ることができる。ただし、セルロース繊維は、解繊する前に、例えば、水系で化学的又は機械的な前処理を行うのが好ましい。前処理を行うと、解繊のエネルギーが低減される。
【0032】
微細繊維を解繊するにあたっては、当該微細繊維をスラリー状にしておくのが好ましい。このスラリーの固形分濃度は、好ましくは0.1~7質量%、より好ましくは0.5~6質量%、特に好ましくは1.0~5.0質量%である。固形分濃度が上記範囲内であれば、効率的に解繊することができる。
【0033】
セルロース繊維の解繊は、例えば、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、高速回転式ホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、コニカルリファイナー、ディスクリファイナー等のリファイナー、一軸混練機、多軸混練機、各種バクテリア等の中から1種又は2種以上の手段を選択使用して行うことができる。
【0034】
微細繊維の解繊は、得られるセルロースナノファイバーの平均繊維幅、平均繊維長等が、下記のに示す所望の値又は評価となるように行うのが好ましい。
【0035】
微細繊維がセルロースナノファイバーである場合において、平均繊維径(単繊維の平均直径)は、好ましくは3~500nm、より好ましくは10~250nm、特に好ましくは20~100である。平均繊維径が3nm未満であると、スラリーの脱水性が悪化するおそれがある。他方、平均繊維径が500nmを超えると、注入時に脱水が始まり、所望の形状の成形体が得られなくなるおそれがある。
【0036】
なお、セルロースナノファイバーは、セルロース結晶(セルロースI型)の構造を残しつつ微細化された繊維である。したがって、例えば、セルロース粉末とε-カプロラクトン/ラクチド溶液とを混合し、重合反応させて得たセルロース系組成物は、セルロースI型結晶のピークが微小に存在するのみであり、セルロースナノファイバーとは異なる。また、セルロースナノファイバーと似て非なるものとしてナノ結晶性セルロース粒子が存在するが、ナノ結晶性セルロース粒子は繊維ではなく針状結晶であり、セルロースナノクリスタル(CNC)とも呼ばれる。このセルロースナノクリスタルは、パルプ等を微細化する過程で、セルロース結晶のみを残すように酸加水分解処理等して製造する。これに対し、セルロースナノファイバーは、結晶でない部分も残しつつ微細化するため、繊維形状を保っており、樹脂との複合化による強度物性の向上に適する。
【0037】
セルロースナノファイバーの平均繊維径は、例えば、セルロース繊維の選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0038】
セルロースナノファイバーの平均繊維径は、電子顕微鏡を使用して次のように測定する。
まず、固形分濃度0.01~0.1質量%のセルロースナノファイバーの水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて5000倍、10,000倍又は30,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。この観察においては、観察画像に2本の対角線を引き、更に対角線の交点を通過する直線を任意に3本引く。そして、この3本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。この計測値の中位径を繊維幅(径)とする。
【0039】
セルロースナノファイバーの平均繊維長(単繊維の長さ)は、好ましくは5~500μm、より好ましくは7~300μm、特に好ましくは10~200μmである。平均繊維長が5μm未満であると、繊維が短すぎることから、脱水時に液透過部材より繊維が流出するおそれがある。他方、平均繊維長が500μmを超えると、添加物等を加えた際に繊維がフロックを形成しやすくなるおそれがある。
【0040】
セルロースナノファイバーの平均繊維長は、例えば、セルロース繊維の選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0041】
セルロースナノファイバーの平均繊維長は、平均繊維径の場合と同様にして、各繊維の長さを目視で計測する。計測値の中位長を平均繊維長とする。
【0042】
セルロースナノファイバーの軸比(繊維長/繊維幅)は、好ましくは10~150000、より好ましくは20~50000、特に好ましくは50~25000である。軸比が10未満であると、繊維同士の絡み合い(ネットワーク)が形成されにくく、成形体としたときに十分な機械特性が得られないおそれがある。他方、軸比が150000を超えると、組成物(スラリー)の粘度が高くなり過ぎるおそれがある。
【0043】
セルロースナノファイバーの擬似粒度分布曲線におけるピーク値は、1つのピークであるのが好ましい。1つのピークである場合、セルロースナノファイバーは、繊維長及び繊維径の均一性が高く、製造される成形体が緻密な構造を形成しやすく、物性に優れたものとなる。
【0044】
擬似粒度分布曲線におけるピークとなる粒径(最頻径)は、5~60μmが好ましい。ピークが当該範囲内であれば、セルロースナノファイバーの繊維サイズが十分に小さいため、成形体としたときに緻密な構造を形成し、物性に優れたものとなる。
【0045】
セルロースナノファイバーのピークの半値幅は、100μm以下であるのが好ましく、70μm以下であるのがより好ましく、50μm以下であるのが特に好ましい。ピークの半値幅が100μmを超えていると繊維の均一性に欠ける。
【0046】
セルロースナノファイバーのピーク値は、ISO-13320(2009)に準拠して測定する。より詳細には、粒度分布測定装置(株式会社セイシン企業のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を使用してセルロースナノファイバーの水分散液における体積基準粒度分布を調べる。そして、この分布からセルロースナノファイバーの最頻径を測定する。この最頻径をピーク値とする。
【0047】
セルロースナノファイバーの結晶化度は、好ましくは50~95%、より好ましくは55~90%、特に好ましくは60~85%である。結晶化度が50%未満であると、繊維自体の強度が低下するため、成形体としたときに強度や耐熱性が低下するおそれがある。他方、結晶化度が95%を超えると、セルロース繊維の微細化する結晶部分が破壊されず、ナノサイズまで微細化されていない可能性がある。
【0048】
結晶化度は、例えば、セルロース繊維の選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
【0049】
結晶化度は、JIS-K0131(1996)の「X線回折分析通則」に準拠して、X線回折法により測定した値である。なお、セルロースナノファイバーは、非晶質部分と結晶質部分とを有しており、結晶化度はセルロースナノファイバー全体における結晶質部分の割合を意味する。
【0050】
溶液中のセルロースナノファイバーの固形分濃度を1質量%とした場合における分散液のB型粘度の下限は、1cpsが好ましく、3cpsがより好ましく、5cpsが特に好ましい。分散液のB型粘度が1cps未満であると、脱水時に液透過部材より繊維が流出するおそれがある。他方、分散液のB型粘度の上限は、7000cpsが好ましく、6000cpsがより好ましく、5000cpsが特に好ましい。分散液のB型粘度が7000cpsを超えると、注入時に十分に流動せず、所望の形状の成形体が得られないおそれがある。
【0051】
分散液のB型粘度(固形分濃度1%)は、JIS-Z8803(2011)の「液体の粘度測定方法」に準拠して測定した値である。B型粘度は分散液を攪拌したときの抵抗トルクであり、高いほど攪拌に必要なエネルギーが多くなることを意味する。
【0052】
セルロースナノファイバーのパルプ粘度の下限は、1cpsが好ましく、2cpsがより好ましい。パルプ粘度が1cps未満であると、成形体としたときに十分な機械特性が得られないおそれがある。
【0053】
セルロースナノファイバーのパルプ粘度の上限は、10cpsが好ましく、9cpsがより好ましい。パルプ粘度が10cpsを超えると、シートが強直になりすぎて、折り曲げ加工が困難になる可能性がある。
【0054】
パルプ粘度は、JIS-P8215(1998)に準拠して測定する。なお、パルプ粘度が高いほどセルロースの重合度が高いことを意味する。
【0055】
セルロースナノファイバーの保水度は、好ましくは600~200%、より好ましくは550~250%、特に好ましくは500~300%である。保水度が200%未満であると、十分にナノ化されておらず、ナノ繊維としての特性を充分に発揮できなくなるおそれがある。他方、保水度が600%を超えると、溶媒置換や乾燥の効率が低下するため、製造コストの増加につながるおそれがある。
【0056】
セルロースナノファイバーの保水度は、例えば、セルロース繊維の選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0057】
セルロースナノファイバーの保水度は、JAPAN TAPPI No.26(2000)に準拠して測定した値である。
【0058】
スラリーが必要により含む微細繊維以外のセルロース繊維としては、微細繊維より繊維長が長い繊維や、繊維径が太い繊維であって、微細繊維と水素結合可能な繊維を使用するのが好ましい。このような繊維をスラリー中に含有させておくことで、この繊維表面とセルロースナノファイバーとが相互作用し、セルロースナノファイバーの流出が抑制され、効率的な脱水を行うことができる。
【0059】
このような繊維としては、例えば、パルプ、綿繊維、絹繊維、麻、羊毛、獣毛、レーヨン繊維、キュプラ繊維等を挙げることができるが、パルプが好ましい。パルプは、セルロースナノファイバーと同様にセルロースを主成分とするものであり、セルロースナノファイバーと高い親和性を有する。したがって、パルプを使用することで、セルロースナノファイバーの流出をより効果的に抑えることができる。また、パルプを含むことでパルプが芯材となり、強度に優れる成形体を得ることができる場合がある。なお、パルプの繊維径は通常、1μm超であり、好ましくは10μm以上である。
【0060】
上記パルプとしては、LKP及びNKPが好ましい。なお、セルロースナノファイバー(CNF)の原料となっているパルプを上記繊維として用いることも好ましい。例えば、LKPを原料としたCNFとLKPとを組み合わせて用いること、あるいはNKPを原料としたCNFとNKPとを組み合わせて用いることが好ましい。このようにCNFの原料となっているパルプを用いることで、CNFとパルプとの親和性がより高まり、CNFの流出をより抑制することができる。
【0061】
上記パルプは未叩解パルプであってもよいし、叩解パルプであってもよい。未叩解パルプを用いることで、脱水効率を高めることができる。一方、叩解パルプを用いることで、CNFが絡まりやすくなりCNFの流出をより抑制することができ、かつ、水素結合点の増加により得られる成形体の高強度化を図ることができる。
【0062】
以上の他、スラリーには、分散媒として水等が含まれ、また、その他の成分が含まれていてもよい。ただし、スラリーは、Ti値2~20で、B型粘度(23℃で回転数60rpm)500~10000mPa・sとしておくのが好ましく、Ti値3~18で、B型粘度(23℃で回転数60rpm)750~9500mPa・sとしておくのがより好ましく、Ti値4~15で、B型粘度(23℃で回転数60rpm)1000~9000mPa・sとしておくのが特に好ましい。この点、スラリーは、注入時においては低粘度であって型枠10内全域に行き渡り易くなければならず、他方、注入後においては脱水等に際し、流れずに型枠10内に留まらなければならない。しかるに、注入圧力が0.1~0.7mPaであってセルロース繊維の50~95質量%が微細繊維であり、かつセルロース繊維の濃度が1~5質量%である本形態においては、Ti値が以上の範囲内であれば、スラリーが上記の状態になる。
【0063】
もっとも、Ti値が以上の範囲内にあったとしても、非常に低い粘度だと、セルロース繊維が部分的に流出する可能性がある。そこで、B型粘度を上記範囲内とする必要がある。
【0064】
同様の理由から、スラリーは、Ti値2~20、保水性800~3000g/m2としておくのが好ましく、Ti値3~18で、保水度1000~2900g/m2としておくのがより好ましく、Ti値4~15で、保水度1200~2800g/m2としておくのが特に好ましい。
【0065】
ここで以上においてTi値とはチキソトロピーインデックスであり、23℃とした場合における6rpmのB型粘度を60rpmのB型粘度で除した値である。つまり、
Ti値(23℃)=(6rpmのB型粘度)/(60rpmのB型粘度)
である。
【0066】
また、B型粘度は、JIS-Z8803(2011)の「液体の粘度測定方法」に準拠して測定した値である。
【0067】
さらに、保水性は、原料にエアー圧をかけた時の脱水度合いの指標で、数値が大きいほど水が抜けやすいことを意味する。この保水性は、TAPPI T 701 pm-01に準拠して測定した値である。
【0068】
(脱水・加熱等)
以上の注入により型枠10内に充填されたスラリーには、必要により液透過部材13を介して蓋材14が載せられる。これにより、型枠10内は実質的に密閉されることになる。ただし、本形態においては、側面から注入を行う形態としており、蓋材14は予め取り付けられている。つまり、本形態においては、密閉空間にスラリーを注入する形態を採用している。
【0069】
蓋材14の材質は特に限定されるものではなく、金属、樹脂、木材等を挙げることができるが、高い圧力に対する耐久性等の観点からは金属が好ましい。
【0070】
次いでスラリーの脱水を行う。以下、脱水の手順を具体的に詳説する。
この脱水(脱水工程)においては、スラリーに対する加圧力を段階的又は連続的に高めるのが好ましい。この脱水工程において、スラリー中の水分は、液透過部材13を通して型枠10の底面から流出していく。脱水工程において脱水させながら加圧力を高めると、当初の圧力は非常に弱く、スラリーは高粘度に保たれ、CNFの流出を抑えることができる。脱水が進むとスラリーの濃度が上昇し、流動性が低下するため、ある程度圧力を高めてもCNFは流出し難くなり、次第に圧力を高めていくことで、CNFの流出を抑えながら、効率的に脱水を行うことができる。
【0071】
なお、加圧力を段階的に高める場合、この段数は特に限定されず、2段階以上であれば良い。段数の上限も特に限定されず、100段階の制御を行ってもよく、10段階であってもよく、3段階であってもよい。また、連続的に加圧力を高める場合、一定の比率で加圧力を高めなくてもよく、一定の加圧力で保持された時間があってもよい。
【0072】
型枠10内にスラリーを充填して脱水を行うことで、脱水と共に所望する形状への成形を容易に行うことができる。本形態においては、直方体の成形体が得られる。
【0073】
脱水工程は、まず、2.5kPa以下で加圧を行う初期工程を有することが好ましい。初期に2.5kPaを超える圧力をかけると、CNFが流出し易くなる。この初期工程における加圧は実質的に0kPa、あるいは大気圧であってよい。また、蓋材14の自重のみによる加圧であってもよい。
【0074】
加圧力の制御方法は特に限定されず、公知のプレス機で制御してもよいし、蓋材14に重しを載せていくことによって行うなどしてもよい。また、脱水の進行度(脱水量)に応じて加圧力を高めていってもよいし、スラリーの組成と加圧力との関係等をデータベース化しておき、時間によって加圧力を制御してもよい。
【0075】
脱水工程においては、加圧力を高めていき、最終工程として、20MPa以上で加圧を行うことが好ましく、30MPa以上がより好ましく、40MPa以上が特に好ましい。この最終工程を経ることで、十分に脱水がなされたCNF成形体を得ることができる。なお、この最終工程の加圧力の上限としては、例えば200MPaとすることができ、100MPaであってもよい。
【0076】
以上の脱水工程の後は、更なる脱水を施してもよい。更なる脱水としては、得られた成形体(脱水されたスラリー)を型枠11から取り出し、加熱しながらプレス機によりプレスする方法、乾燥機により乾燥する方法などが挙げられる。これらの中でも、加熱しながらプレスする方法が好ましい。これにより、CNF成形体の更なる高密度化及び高強度化を図ることができる。
【0077】
ただし、型枠10を利用してそのまま加熱すると、つまり、加熱させながら脱水(加圧)を行うと好適である。本形態においては、この方法を採用している。
【0078】
加熱させながら脱水する場合においては、効率的に加熱乾燥させるうえで、80~180℃で加熱することが好ましい。加熱温度が80℃未満では乾燥に時間がかかりすぎるため、製造効率の観点から好ましくない。加熱温度が180℃を超すと、水分の急激な蒸発や収縮により、成形体に亀裂などの異常が発生するおそれがある。
【0079】
また、加熱は1段階であってもよいが、2段階加熱や3段階加熱など、多段的に加熱を行ってもよい。多段的に加熱を行うことで、熱による急激な収縮を抑えることができる。3段階加熱をする場合、例えば1段目:80~90℃、2段目:90~100℃、3段目:100~120℃などとしてもよい。
【実施例0080】
次に、本発明の実施例について、説明する。
まず、下記の製造手順により、セルロース繊維のスラリーを調製した。
【0081】
次に、内側に液透過部材を設けた型枠とそれに嵌合する上蓋を用いて閉鎖空間を作り、乾燥後のシート厚みが0.5mmとなるように、エア駆動ダイヤフラムポンプを用いて調製したセルロース繊維のスラリーを所定の圧力で注入した。
【0082】
原料注入後、上下方向に圧力を段階的にかけて脱水し、さらに130℃の温度で約30分加熱乾燥させて、シートを得た。
【0083】
(スラリーの調製)
(1)まず、セルロース繊維としてパルプ、セルロース微細繊維(LBKP-CNF及び亜リン酸基が導入された変性セルロース微細繊維(以下、「変性セルロース微細繊維」ともいう。))を用いてセルロース繊維のスラリーを作製した。変性セルロース微細繊維及びLBKP-CNFの原料パルプ、並びにパルプとしては、紙パルプであるLBKPを使用した。
【0084】
(2)LBKP-CNFは、原料パルプ(水分率97質量%)をリファイナーで予備叩解して得た。
【0085】
(3)変性セルロース微細繊維は、原料パルプ(水分率97質量%)にホスホン酸及び尿素を添加して加熱した後、洗浄して亜リン酸変性パルプを得て、これをリファイナーで予備叩解して得た。
【0086】
変性セルロース微細繊維及びLBKP-CNFは、高圧ホモジナイザーで解繊して得た。変性セルロース微細繊維は、固形分基準で濃度1質量%の水分散液であった。得られた変性セルロース微細繊維は、平均繊維径3nm、結晶化度60%であった。LBKP-CNFは、固形分基準で濃度3質量%の水分散液であった。LBKP-CNFは、平均繊維径30nm、結晶化度75%であった。
【0087】
(4)上記(3)で得られたLBKP-CNF水分散液とパルプとを攪拌機にて混合した混合物を遠心分離機(HITACHI、冷却遠心分離機CR22N)で8500rpm、10分間、遠心分離して濃縮混合物を得た。この濃縮混合物は、固形分濃度が10質量%であった。
【0088】
(5)上記(4)で得られた濃縮混合物に、LBKP-CNF、変性セルロース微細繊維水分散液、希釈水を加えて混合し、セルロース繊維のスラリーを調製した。
【0089】
(実施例1~8)
まず、原料を統一(濃度1.5%)し、脱水基材を変更して注入圧力が注入の均一性に及ぼす影響、及び液漏れに及ぼす影響を確認する試験を行った。
【0090】
具体的には、液透過部材を設置し、LBKP-CNF:LBKP=80:20の配合率の固形分濃度1.5%のセルロース繊維のスラリーを注入し、上記に従って脱水・加圧加熱したうえでシートを得た。液透過部材の仕様は、表1に示した。
【0091】
(評価:容器内への均等な注入)
所定量のスラリーを注入した際に金型の側面に設けた複数の脱気孔から容器内部を確認し、スラリーを均等に充填できているか否かを評価した。すべての脱気孔からスラリーが確認できれば○、スラリーが一部でも確認できない場合は、均等に充填できていないため×とすることにした。
【0092】
(評価:液漏れの有無)
スラリー注入直後の液漏れ状態を評価した。注入直後に液体が漏れており、かつ、目視で確認できるレベルで液体が透明でない場合(つまり、セルロースナノファイバーが漏れている場合)を×、液体が漏れており、かつ、目視で確認できるレベルで液体が透明な場合を△、液体が漏れていない場合は〇とした。結果は、表1に示した。
【0093】
【表1】
【0094】
(実施例9~16、比較例1~2)
次に、脱水基材(ステンレスメッシュ#300)を統一し、原料及び注入圧力を変更してシート成形性を確認した。
【0095】
具体的には、上記製造条件に従って、表2のセルロース繊維配合率、固形分濃度のセルロース繊維のスラリーを調製した。液透過部材としてステンレスメッシュ(#300)を用いて、表2の条件で調製したセルロース繊維のスラリーを注入し、上記に従って脱水・加熱加圧したうえでシートを得た。
【0096】
(比較例3)
上記製造条件に従って、表2のセルロース繊維配合率、固形分濃度のセルロース繊維のスラリーを調製した。液透過部材としてステンレスメッシュ(#300)を用いて、表2の条件で調製したセルロース繊維のスラリーを注入しようとしたが、スラリーが流動せずに注入できなかった。
【0097】
(評価:シートの成形性)
得られたシートの厚みムラの有無を目視で確認し、明らかに薄い部分がある場合は×、無い場合は○とした。結果は、表2に示した。
【0098】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、セルロース繊維成形体の製造方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0100】
10 型枠
11 底面(底板)
12 側面
13 液透過部材
14 蓋材
図1