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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144231
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】熱伝達抑制シート及び組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/658 20140101AFI20241003BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M10/658
H01M10/625
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024042573
(22)【出願日】2024-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2023053783
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】韓 明旭
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031EE03
5H031EE04
5H031KK02
(57)【要約】
【課題】断熱性をより一層向上させることができるとともに、熱暴走時に飛散物による破損を抑制し、断熱性を維持することができる熱伝達抑制シート及びこの熱伝達抑制シートを有する組電池を提供する。
【解決手段】熱伝達抑制シート50は、無機粒子4と、有機繊維1又は無機繊維15と、を有する断熱材10と、断熱材10における厚さ方向に直交する第1面10a及び第2面10bのうち、少なくとも一方に積層されたマイカシート51と、を有する。また、組電池100は、複数の電池セル20a,20b,20cと、上記熱伝達抑制シート50を有し、複数の電池セル20a,20b,20cが直列又は並列に接続される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子と、有機繊維又は無機繊維と、を有する断熱材と、
前記断熱材における厚さ方向に直交する第1面及び第2面のうち、少なくとも一方に積層されたマイカシートと、を有することを特徴とする、熱伝達抑制シート。
【請求項2】
前記断熱材は、複数の三次元的に連結した空孔を有することを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項3】
前記断熱材において前記有機繊維を含む場合に、前記有機繊維は、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部を有し、前記無機粒子の少なくとも一部は、前記溶着部により前記有機繊維に溶着されていることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項4】
前記断熱材は、前記無機繊維を必須として有することを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項5】
前記無機繊維は、シリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維及びガラス繊維から選択された少なくとも1種であることを特徴とする、請求項4に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項6】
前記断熱材は、前記第1面及び前記第2面の少なくとも一部に、複数の前記有機繊維同士の少なくとも一部が前記溶着部により溶着されてなる繊維層を有することを特徴とする、請求項3に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項7】
前記断熱材は、前記無機繊維を必須として有し、
前記繊維層は、前記無機繊維を含むことを特徴とする、請求項6に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項8】
前記断熱材において、前記有機繊維は第1の有機材料からなり、前記溶着部は第2の有機材料を含み、
前記第2の有機材料の融点は、前記第1の有機材料の融点よりも低いことを特徴とする、請求項3に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項9】
前記断熱材において、前記第2の有機材料の融点は、前記第1の有機材料の融点よりも60℃以上低いことを特徴とする、請求項8に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項10】
前記断熱材において、前記第1の有機材料は、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種であり、
前記第2の有機材料は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種であることを特徴とする、請求項8に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項11】
前記断熱材において、前記無機粒子は、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種の無機材料からなる粒子であることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項12】
前記断熱材において、前記無機粒子は、乾式シリカ粒子及びシリカエアロゲルから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、請求項11に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項13】
前記断熱材において、前記無機粒子は、さらに、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、請求項12に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項14】
複数の電池セルと、請求項1~13のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝達抑制シート及び該熱伝達抑制シートを有する組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車等の開発が盛んに進められている。この電気自動車又はハイブリッド車等には、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池が搭載されている。
【0003】
また、この電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池等に比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられている。そして、電池の内部短絡や過充電等が原因で、ある電池セルが急激に昇温し、その後も発熱を継続するような熱暴走を起こした場合、熱暴走を起こした電池セルからの熱が、隣接する他の電池セルに伝播することで、他の電池セルの熱暴走を引き起こすおそれがある。
【0004】
上記のような熱暴走を起こした電池セルからの熱の伝播を抑制する方法として、電池セル間に断熱性を有する部材を介在させる方法が一般的に行われている。
例えば、特許文献1には、蓄電素子(電池セル)と、蓄電素子の側方に配置され、互いの面が対向するように配置された第一板材及び第二板材と、第一板材と第二板材との間に配置された低熱伝導層と、を有する蓄電装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-211013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の蓄電装置においては、第1板材と第2板材との間に、例えば空気のような低熱伝導層が形成されている。しかし、上記蓄電装置のように、空気による低熱伝導層では、蓄電素子が高温になった場合に、空気の対流が発生して十分な断熱性を得ることができない。したがって、蓄電素子が破損して、飛散が生じた場合であっても、優れた断熱性を維持することができる熱伝達抑制シートが要求されている。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、断熱性をより一層向上させることができるとともに、熱暴走時に飛散物による破損を抑制し、断熱性を維持することができる熱伝達抑制シート及びこの熱伝達抑制シートを有する組電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、熱伝達抑制シートに係る下記[1]の構成により達成される。
【0009】
[1] 無機粒子と、有機繊維又は無機繊維と、を有する断熱材と、
前記断熱材における厚さ方向に直交する第1面及び第2面のうち、少なくとも一方に積層されたマイカシートと、を有することを特徴とする、熱伝達抑制シート。
【0010】
また、熱伝達抑制シートに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[13]に関する。
【0011】
[2] 前記断熱材は、複数の三次元的に連結した空孔を有することを特徴とする、[1]に記載の熱伝達抑制シート。
【0012】
[3] 前記断熱材において前記有機繊維を含む場合に、前記有機繊維は、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部を有し、前記無機粒子の少なくとも一部は、前記溶着部により前記有機繊維に溶着されていることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の熱伝達抑制シート。
【0013】
[4] 前記断熱材は、前記無機繊維を必須として有することを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0014】
[5] 前記無機繊維は、シリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維及びガラス繊維から選択された少なくとも1種であることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0015】
[6] 前記断熱材は、前記第1面及び前記第2面の少なくとも一部に、複数の前記有機繊維同士の少なくとも一部が前記溶着部により溶着されてなる繊維層を有することを特徴とする、[3]又は[4]に記載の熱伝達抑制シート。
【0016】
[7] 前記断熱材は、前記無機繊維を必須として有し、
前記繊維層は、前記無機繊維を含むことを特徴とする、[6]に記載の熱伝達抑制シート。
【0017】
[8] 前記断熱材において、前記有機繊維は第1の有機材料からなり、前記溶着部は第2の有機材料を含み、
前記第2の有機材料の融点は、前記第1の有機材料の融点よりも低いことを特徴とする、[3]~[7]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0018】
[9] 前記断熱材において、前記第2の有機材料の融点は、前記第1の有機材料の融点よりも60℃以上低いことを特徴とする、[8]に記載の熱伝達抑制シート。
【0019】
[10] 前記断熱材において、前記第1の有機材料は、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種であり、
前記第2の有機材料は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種であることを特徴とする、[8]又は[9]に記載の熱伝達抑制シート。
【0020】
[11] 前記断熱材において、前記無機粒子は、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種の無機材料からなる粒子であることを特徴とする、[1]~[10]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0021】
[12] 前記断熱材において、前記無機粒子は、乾式シリカ粒子及びシリカエアロゲルから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、[11]に記載の熱伝達抑制シート。
【0022】
[13] 前記断熱材において、前記無機粒子は、さらに、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、[12]に記載の熱伝達抑制シート。
【0023】
また、本発明の上記目的は、組電池に係る下記[14]の構成により達成される。
【0024】
[14] 複数の電池セルと、[1]~[13]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。
【発明の効果】
【0025】
本発明の熱伝達抑制シートは、無機粒子と、有機繊維又は無機繊維と、を含む断熱材を有するため、優れた断熱性を得ることができる。また、断熱材にマイカシートが積層されているため、例えば電池セルが破損して飛散が生じた場合に、マイカシートによって断熱材が保護される。したがって、飛散物により断熱材が破損することを防止することができ、断熱性を維持することができる。
【0026】
本発明の組電池は、上記のように高い断熱性を有するとともに、電池セルが破損して飛散が生じた場合であっても高い断熱性を維持することができる熱伝達抑制シートを有するため、組電池における電池セルの熱暴走や、電池ケースの外側への炎の拡大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートを示す模式的断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートを有する組電池を模式的に示す断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用される断熱材の構造例1を示す図面代用写真である。
図4図4は、図3に示す断熱材の一部を拡大して示す図面代用写真である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用される断熱材の構造例2を示す図面代用写真である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用される断熱材の構造例3を示す模式図である。
図7図7は、図6の一部を拡大して示す模式図である。また、図8は、図6に示す断熱材を示す図面代用写真である。
図8図8は、図6に示す断熱材を示す図面代用写真である。
図9図9は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用される断熱材の構造例4を示す図面代用写真である。
図10図10は、図9に示す断熱材の構造を拡大して示す図面代用写真である。
図11図11は、図9に示す断熱材の断面を示す図面代用写真である。
図12図12は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用される断熱材の構造例5を示す模式図である。
図13図13は、図12に示す断熱材のA部を拡大して示す模式図である。
図14図14は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用される断熱材の構造例6を示す図面代用写真である。
図15図15は、図14に示す断熱材の他の領域を示す図面代用写真である。
図16図16は、図14及び図15に示す断熱材の断面を示す図面代用写真である。
図17図17は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用される断熱材の構造例7を示す図面代用写真である。
図18図18は、図17に示す断熱材の一部を拡大して示す図面代用写真である。
図19図19は、繊維束の長さを規定する方法の一例を示す模式図である。
図20図20は、図17に示す断熱材の他の構造例を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者は、無機粒子と、有機繊維又は無機繊維と、を含む断熱材、並びに、この断熱材に積層されたマイカシートを有する熱伝達抑制シートを構成することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0029】
以下、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シート、その製造方法及び組電池について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。まず、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートについて、説明する。
【0030】
[熱伝達抑制シート]
図1は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートを示す模式的断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る熱伝達抑制シート50は、断熱材10と、断熱材10における厚さ方向に直交する第1面10a及び第2面10bに積層されたマイカシート51と、を有する。断熱材10は、不図示の無機粒子と、有機繊維又は無機繊維と、を有する。断熱材10については、後に詳細に説明する。マイカシート51は、マイカを含むマイカシート材料をシート状に加工したものである。
【0031】
上記熱伝達抑制シート50の具体的な使用形態としては、図2に示すように、複数の電池セル20a,20b,20cの間に、熱伝達抑制シート50を介在させるように使用することができる。そして、複数の電池セル20a,20b,20cが直列又は並列に接続された状態(接続された状態は図示を省略)で、電池ケース30に格納されて組電池100が構成される。なお、電池セル20a,20b,20cは、例えば、リチウムイオン二次電池が好適に用いられるが、特にこれに限定されず、その他の二次電池にも適用され得る。
【0032】
このように構成された本実施形態に係る熱伝達抑制シート50においては、無機粒子と、有機繊維又は無機繊維と、を有する断熱材10を有するため、優れた断熱性を得ることができる。したがって、例えば、電池セル20aに異常が発生し、温度が上昇した場合に、電池セル20bへの熱の伝播を十分に抑制することができる。
【0033】
また、本実施形態において、断熱材10の第1面10a及び第2面10bには、マイカシート51が積層されている。マイカは、耐熱性及び絶縁性に優れており、さらにマイカを含む材料をシート状に加工したマイカシート51は、耐衝撃性にも優れている。したがって、例えば、電池セル20aが高温により破裂し、飛散物が発生した場合に、マイカシート51によって断熱材10が保護されているため、断熱材10が破損することを抑制することができる。その結果、電池セル20aと電池セル20bとの間で高い断熱性を維持することができる。
【0034】
なお、本実施形態においては、断熱材10の第1面10a及び第2面10bに、マイカシート51が積層されているが、本発明はこのような構成に限定されない。熱伝達抑制シート50の一方の面のみからの衝撃に対して、断熱材10を保護したい場合には、断熱材10の第1面10a及び第2面10bの少なくとも一方の面にマイカシート51が配置されていればよい。また、一対の断熱材10の間に、マイカシート51を介在させるように配置してもよい。いずれの構成であっても、飛散物等により、断熱材やその他の隣接する電池セル等に影響を及ぼすことを抑制することができるとともに、高い断熱性を得ることができ、その断熱性を維持することができる。
【0035】
本実施形態において、断熱材10は、無機粒子と、有機繊維又は無機繊維(すなわち、有機繊維及び無機繊維のうち少なくとも一方)と、を有するものであればよいが、より一層優れた断熱性を有する断熱材10の例について、以下に詳細に説明する。
【0036】
<断熱材(構造例1)>
図3は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用される断熱材の構造例1を示す図面代用写真であり、図4は、図3に示す断熱材の一部を拡大して示す図面代用写真である。
【0037】
図3及び図4に示すように、断熱材(構造例1)に係る断熱材10は、無機粒子4と有機繊維1とを有する。また、断熱材10は、無機粒子4及び有機繊維1の間に、複数の三次元的に連結した空孔7を有する。なお、有機繊維1は、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部5を有し、無機粒子4の少なくとも一部は、溶着部5により有機繊維1の表面に溶着されている。これにより、有機繊維1の表面は無機粒子4で覆われた構成となっている。
【0038】
このように構成された断熱材10においては、複数の三次元的に連結した空孔7を有するため、空気断熱による効果が得られ、断熱性能を向上させることができる。また、断熱材10は、高い柔軟性を有する有機繊維1を含んでいるため、断熱材10の柔軟性を高めることができるとともに、有機繊維1同士が絡まりやすくなり、シート強度を向上させる効果を得ることができる。さらに、断熱材10に空孔7が存在することにより、シート全体のクッション性が向上するため、電池セル20a,20b,20cが充放電時に膨張した際に、断熱材10は、電池セルの膨張分を吸収できる。したがって、このような断熱材10を有する熱伝達抑制シートの破壊を抑制することができる。
【0039】
さらにまた、本実施形態においては、上記空孔7の少なくとも一部が断熱材10の表面に連通しており、外方に向けて開口していることが好ましい。空孔7がこのように構成されていると、隣接する電池セル20a,20b,20cが熱暴走した際に、断熱材10が高温になり、有機繊維1等が分解された場合であっても、その分解ガスがシート内部にとどまることなく、空孔7を介して外部に放出される。したがって、この点からも、シートの破壊を防止する効果を得ることができる。
【0040】
また、有機繊維1の外周面における溶着部5が、無機粒子4を有機繊維1に固着させていると、無機粒子4の脱落(粉落ち)を抑制する効果を得ることができる。したがって、例えば、電池セル20a,20b,20cの一部が膨張して熱伝達抑制シート50に圧縮応力や衝撃が与えられた場合でも、断熱材10の形状を保持する効果をより一層高めることができ、断熱材10の圧縮変形による断熱効果の低下を防止することができる。
【0041】
本明細書において、溶着部5とは、有機繊維1の表面が溶融した後、再度固化した箇所を示し、後述する断熱材10の製造工程において形成されるものである。本実施形態においては、有機繊維1の表面に、溶着部5により無機粒子4が溶着されているため、有機繊維1の見かけ上の繊維径が太くなって断熱材10の形状を支持し、高い強度を得ることができる。
【0042】
なお、溶着部5は有機繊維1の外周面を完全に被覆している必要はなく、部分的に溶着部5が存在しない領域があってもよい。断熱材10においては、有機繊維1の材料として、後述する芯鞘構造のバインダ繊維を使用することができるが、製造工程において鞘部が剥離すると、部分的に芯部である有機繊維1が露出されることがある。このような場合であっても、無機粒子4を保持する効果を十分に得ることができる。
【0043】
また、断熱材(構造例1)に係る断熱材10は、更に無機繊維を含むことが好ましい。無機繊維を含むことにより得られる効果については、以下の「断熱材(構造例2)」において説明する。
【0044】
<断熱材(構造例2)>
図5は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用される断熱材の構造例2を示す図面代用写真である。図5に示す構造例2において、図3及び図4に示す構造例1と同一物には同一符号を付して、詳細な説明は省略する。なお、図5に示す断熱材40は、図1に示す熱伝達抑制シート50の断熱材10に代えて使用することができる。
【0045】
図5に示すように、断熱材40は、無機繊維15を有する。また、断熱材40は、その厚さ方向に直交する第1面40a及び不図示の第2面における少なくとも一部に、繊維層11が形成されている。繊維層11は、複数の有機繊維1同士の少なくとも一部が溶着部により溶着され、断熱材40の表面(第1面及び第2面)に層状に形成されたものである。すなわち、繊維層11は、10以上の有機繊維1が断熱材40の表面に集合することにより形成された層であり、表面に略平行な方向に、例えば筋状に延びている。
【0046】
さらに、繊維層11と、無機粒子4及び有機繊維1を含む基層13との間には、繊維層11の一部と無機粒子4の一部とが混在した不図示の複合層が形成されている。具体的に、複合層は、溶着部により少なくとも一部が互いに溶着された複数の有機繊維1と、溶着部により有機繊維1に溶着された無機粒子4とを含む領域である。
【0047】
なお、図5に示す断熱材40において、無機繊維15は、無機粒子4及び有機繊維1を含む基層13中に含まれているが、繊維層11中に含まれていてもよい。図5においては、繊維層11中の無機繊維15を区別することができないため、示していない。
【0048】
さらにまた、断熱材40は、複数の有機繊維1同士の少なくとも一部が溶着部5により溶着されることにより形成された繊維束6を有する。繊維束6とは、10以上の有機繊維1が互いに交絡し、一部で有機繊維1同士が互いに溶着されることにより形成されたものであり、断熱材40中において、任意の方向に配置されている。
【0049】
このように構成された断熱材40は、高温でも分解しにくい無機繊維15を含んでいる。したがって、例えば、電池セル20aが熱暴走し、電池セル20aに隣接して配置されている熱伝達抑制シート50が高温に晒された場合に、仮に断熱材40中の有機繊維1が分解しても、無機繊維15が残存するため、断熱材40の形状を確実に保持することができる。
また、比較的硬い無機繊維15に、柔軟性を有する有機繊維1が絡まりやすく、無機繊維15と有機繊維1とにより立体的な骨格が形成されるため、断熱材40の強度をより一層向上させることができる。
なお、「断熱材(構造例2)」においては、断熱材40が、無機繊維15に加え、有機繊維1も有しているが、有機繊維1を有さず、無機粒子4及び無機繊維15のみを有する場合であっても、上記したような、無機繊維15が残存し、断熱材40の形状を確実に保持することができるという効果が得られることは言うまでもない。
【0050】
また、断熱材40が、有機繊維1及び無機繊維15の双方を有する場合には、「高い柔軟性を有する有機繊維1を含んでいるため、断熱材10の柔軟性を高めることができるとともに、有機繊維1同士が絡まりやすくなり、シート強度を向上させる効果を得ることができる」という効果と、「熱伝達抑制シート50が高温に晒された場合に、仮に断熱材40中の有機繊維1が分解しても、無機繊維15が残存するため、断熱材40の形状を確実に保持することができる」という効果を同時に奏することができるため、特に好ましい。
【0051】
さらに、断熱材40は、その表面に繊維層11を有するとともに、内部に繊維束6を有すると、有機繊維1が分散して配置されている場合と比較して、より一層高い強度を得ることができる。なお、繊維層11は、単に基層13の上に配置されているのではなく、繊維層11と基層13との間に、繊維層11の一部と無機粒子4の一部とが混在した複合層を有するため、繊維層11は断熱材40の表面に確実に拘束されている。したがって、繊維層11のみが脱落することはなく、高い強度を有する断熱材40を得ることができ、この断熱材40にマイカシートが積層されているため、より一層優れた強度を得ることができる。
【0052】
さらにまた、断熱材40の表面に繊維層11が形成されていると、この繊維層11が、断熱材40に対して与えられる衝撃を吸収することができるため、断熱材40に含まれる無機粒子の脱落を防止する効果を得ることができる。
【0053】
<断熱材(構造例3)>
図6は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用される断熱材の構造例3を示す模式図であり、図7は、図6の一部を拡大して示す模式図である。また、図8は、図6に示す断熱材を示す図面代用写真である。図6図8に示す構造例3において、図3及び図4に示す構造例1と同一物には同一符号を付して、詳細な説明は省略する。なお、図6図8に示す断熱材60は、図1に示す熱伝達抑制シート50の断熱材10に代えて使用することができる。
【0054】
図6図8に示すように、本実施形態に係る断熱材60は、無機粒子4と、第1の有機材料からなる有機繊維1と、この有機繊維1の外周面を被覆する溶着部5と、を有する。上述のとおり、溶着部5は、第1の有機材料の融点よりも低い融点を有する第2の有機材料17と、無機粒子4と、を含んでいる。なお、本実施形態においては、有機繊維として、芯部と芯部の外周面を被覆する鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維3を使用しており、有機繊維1が芯部に相当する。また、溶着部5は、芯鞘構造を有するバインダ繊維3の鞘部が加熱により一旦溶融した後、冷却されて形成されたものである。さらに、図8に示すように、有機繊維1と無機粒子4を含む溶着部5とにより繊維部16が構成されており、複数の繊維部16の間には、無機粒子を含む母材部18が形成されている。また、溶融した鞘部が冷却される際に、隣接している有機繊維1同士が接触部31において互いに融着され、立体的な骨格が形成されている。
【0055】
このように構成された断熱材60においては、有機繊維1及び溶着部5が骨格として作用するため、優れた強度及び形状保持性を得ることができる。また、断熱材60の表面側及び中心側のいずれにおいても、有機繊維の外周面を被覆する溶着部5が、無機粒子4を有機繊維1に固着させているため、粉落ちを抑制することができる。したがって、例えば、複数の電池セルの間に、本実施形態に係る熱伝達抑制シート50が配置され、電池セルが膨張して熱伝達抑制シート50に圧縮応力や衝撃が与えられた場合でも、優れた断熱性能を維持することができる。
【0056】
上記断熱材60において、無機粒子4の脱落(粉落ち)を抑制することができるメカニズムについては定かではないが、有機繊維1及び溶着部5が立体的で強固な骨格を形成しており、断熱材60の形状が保持されるため、断熱材60の変形又は圧縮が抑制されることが理由の一つであると考えられる。また、断熱材60の表面におけるマイカシート51の有無にかかわらず、断熱材60の表面に露出している繊維部16が、断熱材60に対して与えられる衝撃を吸収することができることも、無機粒子4が保持されている理由になっていると考えられる。
【0057】
なお、図8に示すように、断熱材60において、溶着部5は有機繊維1の外周面を完全に被覆している必要はなく、部分的に有機繊維1が露出されていてもよい。断熱材60には、芯鞘構造のバインダ繊維3が使用されているため、断熱材60の製造工程において鞘部が剥離することがあるが、部分的に有機繊維1が露出されている場合であっても、本発明の効果を十分に得ることができる。
【0058】
<断熱材(構造例4)>
図9は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用される断熱材の構造例4を示す図面代用写真であり、図10は、図9に示す断熱材の構造を拡大して示す図面代用写真である。図11は、図9に示す断熱材の断面を示す図面代用写真である。図9図11に示す構造例4において、図3及び図4に示す構造例1と同一物には同一符号を付して、詳細な説明は省略する。なお、図9図11に示す断熱材70は、図1に示す熱伝達抑制シート50の断熱材10に代えて使用することができる。
【0059】
図9及び図10に示すように、断熱材70は、無機粒子4を含むマトリックス14と、このマトリックス14中に3次元的に配向された有機繊維1と、を有する。そして、有機繊維1は、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部5を有し、有機繊維1同士が溶着部5により溶着されている。同様に、無機粒子4も有機繊維1の表面に溶着されており、これにより、有機繊維1の表面は無機粒子4で覆われた構成となっている。
【0060】
また、図11の断面図に示すように、断熱材70のマトリックス14中には、複数の空孔7が形成されている。さらに、マトリックス14中に、複数の有機繊維1同士の少なくとも一部が、図11では図示していない溶着部5により溶着されることにより、繊維束6が形成されており、繊維束6を構成する複数の有機繊維1の間には、空隙部8が形成されている。
【0061】
さらに、断熱材70の厚さ方向に直交する第1面70a及び不図示の第2面における少なくとも一部に、繊維層11が形成されている。繊維層11は、複数の有機繊維1同士の少なくとも一部が溶着部5により溶着され、断熱材70の表面(第1面及び第2面)に層状に形成されたものである。また、繊維層11と、マトリックス14及び有機繊維1を含む基層13との間には、複合層12が形成されている。複合層12は、繊維層11の一部とマトリックス14の一部とが混在した層である。具体的に、複合層12は、溶着部5により少なくとも一部が互いに溶着された複数の有機繊維1と、溶着部5により有機繊維1に溶着された無機粒子4とを含む領域である。
【0062】
なお、繊維束6は、10以上の有機繊維1が互いに交絡し、一部で有機繊維1同士が互いに溶着されることにより形成されたものであり、断熱材70のマトリックス14中において、任意の方向に配置されている。一方、繊維層11は、10以上の有機繊維1が断熱材70の表面に集合することにより形成された層であり、表面に略平行な方向に、例えば筋状に延びている。
【0063】
このように構成された断熱材70においては、有機繊維1同士がマトリックス14中に3次元的に配向されており、有機繊維1は、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部5を有する。溶着部5とは、有機繊維1の表面が溶融した後、再度固化した箇所を示し、断熱材70の製造工程において形成されるものである。断熱材70においては、3次元的に配向された有機繊維1同士が溶着部5により溶着されているため、この構造が骨格となって断熱材70の形状を支持し、高い強度を得ることができる。
【0064】
同様に、断熱材70において、有機繊維1の外周面における溶着部5は、無機粒子4も有機繊維1に固着させているため、より一層高い粉落ち抑制効果を得ることができる。したがって、例えば、電池セル20a,20b,20cの充放電時に、その一部が膨張して熱伝達抑制シート50に圧縮応力や衝撃が与えられた場合でも、断熱材70の形状を保持することができる。その結果、無機粒子4の脱落(粉落ち)を抑制することができるとともに、断熱材70の圧縮変形による断熱効果の低下を防止することができる。
【0065】
断熱材70において、シート表面からの無機粒子4の脱落を抑制することができるメカニズムとしては、上記構造例3の断熱材60と同様であると考えられる。
【0066】
なお、断熱材70においても、溶着部5は有機繊維1の外周面を完全に被覆している必要はなく、部分的に溶着部5が存在しない領域があってもよい。このような場合であっても、無機粒子4を保持する効果を十分に得ることができる。
【0067】
また、断熱材70は、高い柔軟性を有する有機繊維1を含んでいるため、断熱材70の柔軟性を高めることができるとともに、有機繊維1同士が絡まりやすくなり、シート強度を向上させる効果を得ることができる。
【0068】
さらに、断熱材70においては、マトリックス14中に複数の空孔7を有するとともに、繊維束6を構成する複数の有機繊維1の間に空隙部8を有するため、断熱性能を向上させることができる。また、空隙部8の存在により、有機繊維1はマトリックス14中に拘束されにくくなるため、断熱材70の柔軟性及び強度をより一層向上させることができる。空隙部8は、複数の有機繊維1の間の全領域に形成されている必要はなく、有機繊維1の間の少なくとも一部に空隙部8が形成されていれば、伝熱の抑制効果を得ることができる。
【0069】
さらにまた、断熱材70は、繊維束6及び繊維層11を有するため、有機繊維1が分散して配置されている場合と比較して、より一層高い強度を得ることができる。また、繊維層11は、単に基層13の上に配置されているのではなく、繊維層11と基層13との間に、繊維層11の一部とマトリックス14を構成する無機粒子4の一部とが混在した複合層12を有するため、繊維層11は断熱材70の表面に確実に拘束されている。したがって、高い強度を有する断熱材70を得ることができる。
【0070】
<断熱材(構造例5)>
図12は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用される断熱材の構造例5を示す模式図であり、図13は、図12に示す断熱材のA部を拡大して示す模式図である。図12及び図13に示す構造例5において、図3及び図4に示す断熱材の構造例1と同一物には同一符号を付して、詳細な説明は省略する。なお、図12図13に示す断熱材80は、図1に示す熱伝達抑制シート50の断熱材10に代えて使用することができる。
【0071】
図12及び図13に示すように、断熱材80は、無機粒子4を含むマトリックス14と、マトリックス14中に分散した無機繊維15と、有機繊維1と、を有する。そして、有機繊維1と無機繊維15とは、互いに交絡して3次元ウエッブ構造を形成している。なお、本実施形態においては、無機繊維15の周囲における一部に、空気層28が形成されている。また、有機繊維1は、表面の一部に溶着部5を有しており、無機繊維15の少なくとも一部が、溶着部5により有機繊維1に溶着されている。さらに、無機粒子4の少なくとも一部が、溶着部5により有機繊維1に溶着されている。
【0072】
なお、本明細書において、無機繊維15が「分散する」とは、無機繊維15が極端に偏在することなく、全体的に広がって配置されている様子を示す。
【0073】
このように構成された断熱材80においては、有機繊維1と無機繊維15とが互いに交絡して3次元ウエッブ構造を形成しており、この構造が骨格となるため、高い強度を得ることができる。したがって、電池セル20a,20b,20cの充放電時に、電池セルの膨張により熱伝達抑制シート50が圧縮された場合であっても、断熱材80の形状を保持することができる。その結果、無機粒子4の脱落(粉落ち)を抑制することができるとともに、断熱材80の圧縮変形による断熱効果の低下を防止することができる。
【0074】
また、断熱材80は、高い柔軟性を有する有機繊維1を含んでいるため、断熱材80の柔軟性を高めることができるとともに、有機繊維1が無機繊維15に絡まって3次元ウエッブ構造を形成しやすくなり、強度も向上させることができる。一方、断熱材80に無機繊維15が含まれていないと、例えば、電池セル20aが熱暴走し、電池セル20aに隣接して配置されている熱伝達抑制シートが高温に晒された場合に、有機繊維1が分解し、熱伝達抑制シートの形状を保持することができない。したがって、断熱材80が、高い柔軟性を有する有機繊維1と、高温でも分解しない無機繊維15とを有することにより、柔軟性と強度との両方をバランスよく有する熱伝達抑制シートを得ることができる。
【0075】
さらに、本実施形態においては、マトリックス14中に分散して配置された無機繊維15の周囲に空気層28を有する。無機繊維15は、有機繊維1と比較して熱伝導率が高いが、上述のとおり、無機繊維15の周囲に空気層28が形成されていることにより、無機繊維15とマトリックス14との間の伝熱を抑制することができる。なお、空気層28は、断熱材80の製造工程において形成されるものであるが、無機繊維15の周囲全域に空気層28が形成されている必要はなく、無機繊維15の外周面の少なくとも一部に空気層28が形成されていれば、伝熱の抑制効果を得ることができる。
無機繊維15がマトリックス14中に一様に分散していると、マトリックス14中の空気層28も一様に分散して配置されるため、断熱材80は、ムラなく高い断熱性を得ることができる。
【0076】
さらにまた、断熱材80において、有機繊維1は、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部5を有する。溶着部5とは、有機繊維1の表面が溶融した後、再度固化した箇所を示し、断熱材80の製造工程において形成される。無機繊維15の少なくとも一部が、溶着部5により有機繊維1に溶着されていると、互いに交絡した有機繊維1と無機繊維15とが固定されるため、より一層高強度の断熱材80を得ることができる。
【0077】
同様に、本実施形態において、有機繊維1の外周面における溶着部5は、無機粒子4も有機繊維1に固着させているため、より一層高い粉落ち抑制効果を得ることができる。したがって、例えば、電池セル20a,20b,20cの一部が膨張して熱伝達抑制シートに圧縮応力や衝撃が与えられた場合でも、優れた断熱性能を維持することができる。
【0078】
本実施形態において、シート表面からの無機粒子4の脱落を抑制することができるメカニズムとしては、有機繊維1と無機繊維15とが、溶着部5によって溶着されて立体的で強固な骨格を形成しており、断熱材80の形状が保持され、熱伝達抑制シートの変形又は圧縮が抑制されるためであると考えられる。また、断熱材80の表面におけるマイカシート51の有無にかかわらず、断熱材80の表面に有機繊維1や無機繊維15が露出していると、断熱材80に対して与えられる衝撃を吸収することができ、無機粒子4が保持されると考えられる。
【0079】
なお、断熱材80においても、溶着部5は有機繊維1の外周面を完全に被覆している必要はなく、部分的に溶着部5が存在しない領域があってもよい。このような場合であっても、無機粒子4を保持する効果を十分に得ることができる。
【0080】
<断熱材(構造例6)>
図14は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用される断熱材の構造例6を示す図面代用写真であり、図15は、図14に示す断熱材の他の領域を示す図面代用写真である。また、図16は、図14及び図15に示す断熱材の断面を示す図面代用写真である。図14図16に示す構造例6において、図9図11に示す断熱材の構造例4と同一物には同一符号を付して、詳細な説明は省略する。なお、図14図16に示す断熱材90は、図1に示す熱伝達抑制シート50の断熱材10に代えて使用することができる。
【0081】
図14に示すように、断熱材90は、無機粒子4と、有機繊維1と、を有する。また、少なくとも一部の有機繊維1は、基部32と、基部32から延びる支部33と、からなる分岐構造を有する。本実施形態においては、基部32から方向D1、方向D2、方向D3、方向D4の4方向に支部33が延びている。そして、基部32と複数の支部33とにより、骨格が形成されている。
【0082】
また、図15に示す断熱材90の他の領域においても、基部32と、基部32から延びる支部33とからなる分岐構造を有する有機繊維1を含んでいる。なお、図15に示す有機繊維1は、基部32と、基部32から方向D1、方向D2、方向D3、方向D4、方向D5の5方向に延びる支部33とを有し、基部32は複数の支部33と比較して、太くなっている。
【0083】
さらに、図14及び図15に示すように、本実施形態において、有機繊維1の表面には無機粒子4が溶着されており、これにより、有機繊維1の表面は無機粒子4で覆われた構成となっている。
【0084】
また、図16の断面図に示すように、断熱材90中には、複数の空孔7が形成されている。さらに、断熱材90中において、複数の有機繊維1同士の少なくとも一部が溶着されることにより、繊維束6が形成されており、繊維束6を構成する複数の有機繊維1の間には、空隙部8が形成されている。なお、図16においても、基部32と、基部32から3方向に延びる支部33とからなる分岐構造を有する有機繊維1を確認することができる。
【0085】
さらに、断熱材90の厚さ方向に直交する第1面及び第2面における少なくとも一部には、繊維層11が形成されている。繊維層11は、複数の有機繊維1同士の少なくとも一部が互いに溶着され、断熱材90の表面(第1面及び第2面)に層状に形成されたものである。また、繊維層11と、無機粒子4及び有機繊維1を含む基層13との間には、複合層12が形成されている。複合層12は、繊維層11の一部と無機粒子4の一部とが混在した層である。具体的に、複合層12は、互いに溶着された複数の有機繊維1と、この有機繊維1に溶着された無機粒子4とを含む領域である。
【0086】
なお、繊維束6は、10以上の有機繊維1が互いに交絡し、一部で有機繊維1同士が互いに溶着されることにより形成されたものであり、断熱材90の内部において、任意の方向に配置されている。一方、繊維層11は、10以上の有機繊維1が断熱材90の表面に集合することにより形成された層であり、表面に略平行な方向に、例えば筋状に延びている。
【0087】
このように構成された断熱材90においては、有機繊維1の少なくとも一部が、基部32と支部33とからなる分岐構造を有しているため、有機繊維1が骨格となって断熱材90の形状を保持することができる。本実施形態において、基部32は、有機繊維1同士が互いに融着された融着部により構成されている。具体的に、基部32は、複数の有機繊維1の一部が接触して互いに溶融した後に固化した部分であるため、支部33よりも太くなっている。したがって、基部32により骨格全体を強固に支持することができるため、断熱材90の強度を著しく向上させることができる。
【0088】
断熱材90において、有機繊維1の少なくとも一部は、基部32と、基部32から少なくとも3方向に延びる支部33とからなる分岐構造を有する。分岐構造は、断熱材90の断面写真等においても確認することができるが、より簡単に分岐構造を確認する方法としては、断熱材90を、その厚さ方向に直交する面方向に引き裂いた断面を観察する方法が挙げられる。このように、断面を観察することにより、基部32と、基部32から少なくとも3方向に延びる支部33とからなる分岐構造を有する有機繊維1を容易に確認することができる。基部32及び支部33について、以下により詳細に説明する。
【0089】
(基部(融着部))
融着部は、断熱材90の材料として芯鞘構造のバインダ繊維を使用した場合に、複数のバインダ繊維が互いに接触している部分において、バインダ繊維の鞘部が加熱により一旦溶融した後、冷却されることにより形成されたものである。断熱材90の材料として、芯鞘構造のバインダ繊維を使用すると、融着部は、鞘部を構成する第2の有機材料を含むものとなる。
このように、熱伝達抑制シート50の製造工程において、加熱により複数のバインダ繊維の接触している領域における鞘部が溶融すると、1本のバインダ繊維の鞘部が溶融する場合よりも溶融する鞘部(第2の有機材料)の量が多くなり、冷却後には太い融着部(基部32)が形成される。その結果、基部32により骨格が強固に支持される。
【0090】
(支部)
支部33は、基部32から少なくとも3方向に延びており、無機粒子4を保持する効果を有する。また、基部32と支部33とにより骨格が形成されるため、熱伝達抑制シート50の強度を向上させることもできる。これにより、高い粉落ち抑制効果を得ることができる。
有機繊維1として芯鞘構造のバインダ繊維を使用した場合に、支部33は芯鞘構造のバインダ繊維の一部であり、第1の有機材料からなる芯部と、第2の有機材料からなる鞘部とを有するものとなる。
【0091】
基部32から延びる支部33は、少なくとも3方向に延びていれば、有機繊維1からなる骨格を形成することができる。また、これらの複数の支部33は、それぞれ異なる3次元の方向に延びていることが好ましく、これにより、立体的で強固な骨格を形成することができる。
【0092】
上記断熱材90においては、基部32から複数の支部33が伸びているため、これら複数の支部33により無機粒子4を保持することができ、骨格形成によるシート強度の向上効果との相乗効果により、高い粉落ち抑制効果を得ることができる。したがって、例えば、電池セル20a,20b,20cの充放電時に、その一部が膨張して熱伝達抑制シートに圧縮応力や衝撃が与えられた場合でも、断熱材90の形状を保持することができる。その結果、無機粒子4の脱落(粉落ち)を抑制することができるとともに、断熱材90の圧縮変形による断熱効果の低下を防止することができる。
【0093】
断熱材90の表面からの無機粒子4の脱落を抑制することができるメカニズムとしては、上記構造例3の断熱材60と同様の効果の他に、支部33による無機粒子4の保持効果もあるからであると考えられる。さらに、有機繊維1の表面に無機粒子4が溶着されていると、有機繊維1は、見かけ上太い繊維径を有するものとなるため、有機繊維1のみの強度よりも高強度になるとともに、無機粒子4の高い保持効果を得ることができる。
【0094】
なお、断熱材90では、有機繊維1の外周面に部分的に無機粒子4が溶着されていない領域があってもよい。このような場合であっても、無機粒子4を保持する効果を十分に得ることができる。
【0095】
また、断熱材90は、高い柔軟性を有する有機繊維1を含んでいるため、断熱材90の柔軟性を高めることができるとともに、有機繊維1同士が絡まりやすくなり、シート強度を向上させる効果を得ることができる。
【0096】
さらに、断熱材90は、複数の空孔7を有するとともに、繊維束6を構成する複数の有機繊維1の間に空隙部8を有するため、空気断熱の効果により断熱性能を向上させることができる。また、空隙部8の存在により、有機繊維1は完全に拘束されていない状態となるため、断熱材90の柔軟性及び強度をより一層向上させることができる。空隙部8は、
複数の有機繊維1の間の全領域に形成されている必要はなく、有機繊維1の間の少なくとも一部に空隙部8が形成されていれば、伝熱の抑制効果を得ることができる。
【0097】
さらにまた、断熱材90は、繊維束6及び繊維層11を有するため、有機繊維1が分散して配置されている場合と比較して、より一層高いシート強度を得ることができる。また、繊維層11は、単に基層13の上に配置されているのではなく、繊維層11と基層13との間に、繊維層11の一部と無機粒子4の一部とが混在した複合層12を有するため、繊維層11は断熱材90の表面に確実に拘束されている。したがって、断熱材90の強度を向上させることができる。
【0098】
<断熱材(構造例7)>
図17は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用される断熱材の構造例7を示す図面代用写真であり、図18は、図17に示す断熱材の一部を拡大して示す図面代用写真である。図17及び図18に示す構造例7において、図5に示す断熱材の構造例2と同一物には同一符号を付して、詳細な説明は省略する。なお、図17及び図18に示す断熱材110は、図1に示す熱伝達抑制シート50の断熱材10に代えて使用することができる。
【0099】
図17及び図18に示すように、断熱材110は、無機粒子4と、有機繊維1と、を有する。断熱材110の表面には、複数の有機繊維1からなる筋状の繊維束47を有する第1領域42と、繊維束47が存在しない第2領域43と、が形成されている。本明細書において、繊維束47とは、10以上の有機繊維1が互いに交絡したものであり、断熱材110の表面に略平行な方向に筋状に延びている。
【0100】
すなわち、断熱材110の表面を観察した場合に、図18に示すように、第1領域42においては、複数の有機繊維1が交絡している様子が観察される。一方、第2領域43においては、数本の有機繊維1が観察される箇所もあるが、複数の有機繊維1が交絡した繊維束47は観察されない。
なお、本実施形態において、第1領域42と第2領域43とは海島構造となっており、海部に相当する第1領域42に取り囲まれるように、島部に相当する第2領域43が形成されている。
【0101】
断熱材110においては、有機繊維1が交絡した繊維束47が、断熱材110の表面に筋状に延びるように存在しているため、断熱材110の強度を向上させることができる。また、表面の全面が繊維束47で覆われているわけではなく、繊維束47が存在する第1領域42と、繊維束47が存在しない第2領域とが存在するため、断熱材110の柔軟性も優れたものとなる。さらに、断熱材110の表面に上記繊維束47が存在するため、断熱材110に対して衝撃や圧力が与えられた場合であっても、この衝撃や押圧力を繊維束47が吸収し、緩和することができる。したがって、無機粒子4の脱落(粉落ち)を抑制することができ、断熱材110の断熱性能の低下を防止することができる。
【0102】
なお、断熱材110において、有機繊維1及び有機繊維1が交絡した繊維束47は、断熱材110の表面のみでなく、内部にも存在する。これにより、さらに優れた強度を得ることができる。
【0103】
断熱材110の表面に延びるように形成されている繊維束47の長さは、ある程度長い方が好ましい。繊維束47の長さを規定する方法の一例を、図19を用いて説明する。
図19に示すように、断熱材110の表面において、筋状に延びる繊維束47に沿って、矩形状の仮想枠21を配置する。本実施形態において、仮想枠21のサイズは、5mm四方とし、この仮想枠21同士が連続するように配置するものとする。このとき、連続する少なくとも3つの仮想枠21を貫通する繊維束47が存在していれば、断熱材110の強度を向上させる効果を十分に有するものと判断することができる。
【0104】
また、単に筋状に延びる繊維束47の長さを測定することもできる。例えば、繊維束47に沿って、紐等を断熱材110の表面に配置し、その後、紐の長さを測定する方法を使用することができる。連続する繊維束47の長さを測定した場合に、長さが20mm以上の繊維束47が存在していれば、断熱材110の強度を向上させる効果を十分に得ることができる。
【0105】
さらに、図20に示すように、断熱材110は、その表面において繊維束47が網目状に連なっていると、より一層シート強度を向上させることができる。
【0106】
以上、断熱材の構造例1~構造例7について説明したが、断熱材の構造はこれに限定されず、種々の構造を有する断熱材を使用することができる。具体的には、上記構造例1~構造例7の断熱材は、優れた断熱効果を有するとともに、粉落ちを抑制する効果、強度をより一層向上させる効果、形状を保持する効果等、種々の特性を有している。したがって、図1に示すように、上記断熱材にマイカシート51を積層することにより、より一層優れた耐衝撃性を有する熱伝達抑制シートを得ることができる。
【0107】
以下、本実施形態に係る熱伝達抑制シート50を構成する材料について説明する。まず、断熱材を構成する材料について説明する。
【0108】
<有機繊維>
有機繊維1は、断熱材に柔軟性を与えるとともに、その表面に無機粒子4及び他の有機繊維1が溶着されることにより、シートの強度及び形状を保持する効果を有する。断熱材における有機繊維1の材料として、単成分の有機繊維を使用することもできるが、芯鞘構造のバインダ繊維を使用することが好ましい。芯鞘構造のバインダ繊維は、繊維の長手方向に延びる芯部と、芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有するものである。また、芯部は第1の有機材料からなり、鞘部は第2の有機材料からなり、第1の有機材料の融点は、第2の有機材料の融点よりも高いものとする。芯鞘構造のバインダ繊維を材料として使用した場合に、上記断熱材において、芯部は有機繊維1に相当する。また、断熱材の製造時に、鞘部を構成する第2の有機材料が溶融した後、再度固化するため、断熱材において、鞘部は溶着部5となる。
【0109】
有機繊維1の材料として、芯鞘構造のバインダ繊維を使用する場合に、芯部、すなわち有機繊維1を構成する第1の有機材料は、有機繊維1の外周面に存在する鞘部、すなわち第2の有機材料の融点よりも高いものであれば、特に限定されない。第1の有機材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種が挙げられる。
【0110】
(有機繊維の含有量)
本実施形態において、断熱材における有機繊維1の含有量が適切に制御されていると、骨格の補強効果を十分に得ることができる。
有機繊維1の含有量は、断熱材の全質量に対して2質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましい。また、有機繊維1の含有量が多くなりすぎると、無機粒子4の含有量が相対的に減少するため、所望の断熱性能を得るためには、有機繊維の含有量は、断熱材の全質量に対して10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。
【0111】
(有機繊維の繊維長)
有機繊維1の繊維長については特に限定されないが、成形性や加工性を確保する観点から、有機繊維の平均繊維長は10mm以下とすることが好ましい。
一方、有機繊維1を骨格として機能させ、断熱材の圧縮強度を確保する観点から、有機繊維1の平均繊維長は0.5mm以上とすることが好ましい。
【0112】
<溶着部>
溶着部5は、有機繊維1の表面、又は芯鞘構造を有するバインダ繊維の鞘部が加熱により一旦溶融した後、冷却されて形成されたものであり、無機粒子4を有機繊維1の表面に溶着させるとともに、有機繊維1同士を溶着させるものでもある。有機繊維1の材料として、芯鞘構造のバインダ繊維を使用した場合に、溶着部5は、鞘部を構成する第2の有機材料を含むものとなる。
【0113】
(第2の有機材料)
第2の有機材料は、上記有機繊維1を構成する第1の有機材料の融点よりも低いものであれば、特に限定されない。第2の有機材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種が挙げられる。
なお、第2の有機材料の融点は、90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。また、第2の有機材料の融点は、150℃以下であることが好ましく、130℃以下であることがより好ましい。
【0114】
<無機粒子>
無機粒子として、単一の無機粒子を使用してもよいし、2種以上の無機粒子を組み合わせて使用してもよい。無機粒子の種類としては、熱伝達抑制効果の観点から、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種の無機材料からなる粒子を使用することが好ましく、酸化物粒子を使用することがより好ましい。また、形状についても特に限定されないが、ナノ粒子、中空粒子及び多孔質粒子から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、具体的には、シリカナノ粒子、金属酸化物粒子、マイクロポーラス粒子や中空シリカ粒子等の無機バルーン、熱膨張性無機材料からなる粒子、含水多孔質体からなる粒子等を使用することもできる。
【0115】
無機粒子の平均二次粒子径が0.01μm以上であると、入手しやすく、製造コストの上昇を抑制することができる。また、200μm以下であると、所望の断熱効果を得ることができる。したがって、無機粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0116】
なお、2種以上の熱伝達抑制効果が互いに異なる無機粒子を併用すると、発熱体を多段に冷却することができ、吸熱作用をより広い温度範囲で発現できる。具体的には、大径粒子と小径粒子とを混合使用することが好ましい。例えば、一方の無機粒子として、ナノ粒子を使用する場合に、他方の無機粒子として、金属酸化物からなる無機粒子を含むことが好ましい。以下、小径の無機粒子を第1の無機粒子、大径の無機粒子を第2の無機粒子として、無機粒子についてさらに詳細に説明する。
【0117】
<第1の無機粒子>
(酸化物粒子)
酸化物粒子は屈折率が高く、光を乱反射させる効果が強いため、第1の無機粒子として酸化物粒子を使用すると、特に異常発熱などの高温度領域において輻射伝熱を抑制することができる。酸化物粒子としては、シリカ、チタニア、ジルコニア、ジルコン、チタン酸バリウム、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を使用することができる。すなわち、無機粒子として使用することができる上記酸化物粒子のうち、1種のみを使用してもよいし、2種以上の酸化物粒子を使用してもよい。特に、シリカは断熱性が高い成分であり、チタニアは他の金属酸化物と比較して屈折率が高い成分であって、500℃以上の高温度領域において光を乱反射させ輻射熱を遮る効果が高いため、酸化物粒子としてシリカ及びチタニアを用いることが最も好ましい。
【0118】
(酸化物粒子の平均一次粒子径:0.001μm以上50μm以下)
酸化物粒子の粒子径は、輻射熱を反射する効果に影響を与えることがあるため、平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。
すなわち、酸化物粒子の平均一次粒子径が0.001μm以上であると、加熱に寄与する光の波長よりも十分に大きく、光を効率よく乱反射させるため、500℃以上の高温度領域において断熱材内における熱の輻射伝熱が抑制され、より一層断熱性を向上させることができる。
一方、酸化物粒子の平均一次粒子径が50μm以下であると、圧縮されても粒子間の接点や数が増えず、伝導伝熱のパスを形成しにくいため、特に伝導伝熱が支配的な通常温度域の断熱性への影響を小さくすることができる。
【0119】
なお、本発明において平均一次粒子径は、顕微鏡で粒子を観察し、標準スケールと比較し、任意の粒子10個の平均をとることにより求めることができる。
【0120】
(ナノ粒子)
本発明において、ナノ粒子とは、球形又は球形に近い平均一次粒子径が1μm未満のナノメートルオーダーの粒子を表す。ナノ粒子は低密度であるため伝導伝熱を抑制し、第1の無機粒子としてナノ粒子を使用すると、更に三次元的に連結した空孔7が微細化し、対流伝熱を抑制する優れた断熱性を得ることができる。このため、通常の常温域の電池使用時において、隣接するナノ粒子間の熱の伝導を抑制することができる点で、ナノ粒子を使用することが好ましい。
さらに、酸化物粒子として、平均一次粒子径が小さいナノ粒子を使用すると、電池セルの熱暴走に伴う膨張によって断熱材が圧縮され、内部の密度が上がった場合であっても、断熱材の伝導伝熱の上昇を抑制することができる。これは、ナノ粒子が静電気による反発力で粒子間に細かな空隙ができやすく、かさ密度が低いため、クッション性があるように粒子が充填されるからであると考えられる。
【0121】
なお、本発明において、第1の無機粒子としてナノ粒子を使用する場合に、上記ナノ粒子の定義に沿ったものであれば、材質について特に限定されない。例えば、シリカナノ粒子は、断熱性が高い材料であることに加えて、粒子同士の接点が小さいため、シリカナノ粒子により伝導される熱量は、粒子径が大きいシリカ粒子を使用した場合と比較して小さくなる。また、一般的に入手されるシリカナノ粒子は、かさ密度が0.1(g/cm)程度であるため、例えば、断熱材の両側に配置された電池セルが熱膨張し、断熱材に対して大きな圧縮応力が加わった場合であっても、シリカナノ粒子同士の接点の大きさ(面積)や数が著しく大きくなることはなく、断熱性を維持することができる。したがって、ナノ粒子としてはシリカナノ粒子を使用することが好ましい。シリカナノ粒子としては、湿式シリカ、乾式シリカ及びエアロゲル等が挙げられるが、本実施形態に特に好適であるシリカナノ粒子について、以下に説明する。
【0122】
一般的に、湿式シリカは粒子が凝集しているのに対し、乾式シリカは粒子を分散させることができる。300℃以下の温度範囲において、熱の伝導は伝導伝熱が支配的であるため、粒子を分散させることができる乾式シリカの方が、湿式シリカと比較して、優れた断熱性能を得ることができる。
なお、本実施形態に係る断熱材は、材料を含む混合物を、乾式法によりシート状に加工する製造方法を用いることが好ましい。したがって、無機粒子としては、熱伝導率が低い乾式シリカ、シリカエアロゲル等を使用することが好ましい。
【0123】
(ナノ粒子の平均一次粒子径:1nm以上100nm以下)
ナノ粒子の平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。
すなわち、ナノ粒子の平均一次粒子径を1nm以上100nm以下とすると、特に500℃未満の温度領域において、断熱材内における熱の対流伝熱及び伝導伝熱を抑制することができ、断熱性をより一層向上させることができる。また、圧縮応力が印加された場合であっても、ナノ粒子間に残った空隙と、多くの粒子間の接点が伝導伝熱を抑制し、断熱材の断熱性を維持することができる。
なお、ナノ粒子の平均一次粒子径は、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることが更に好ましい。一方、ナノ粒子の平均一次粒子径は、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。
【0124】
(無機水和物粒子)
無機水和物粒子は、発熱体からの熱を受けて熱分解開始温度以上になると熱分解し、自身が持つ結晶水を放出して発熱体及びその周囲の温度を下げる、所謂「吸熱作用」を発現する。また、結晶水を放出した後は多孔質体となり、無数の空気孔により断熱作用を発現する。
無機水和物の具体例として、水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化亜鉛(Zn(OH))、水酸化鉄(Fe(OH))、水酸化マンガン(Mn(OH))、水酸化ジルコニウム(Zr(OH))、水酸化ガリウム(Ga(OH))等が挙げられる。
【0125】
例えば、水酸化アルミニウムは約35%の結晶水を有しており、下記式に示すように、熱分解して結晶水を放出して吸熱作用を発現する。そして、結晶水を放出した後は多孔質体であるアルミナ(Al)となり、断熱材として機能する。
2Al(OH)→Al+3H
【0126】
なお、本実施形態に係る熱伝達抑制シート50は、例えば、電池セル間に介在されることが好適であるが、熱暴走を起こした電池セルでは、200℃を超える温度に急上昇し、700℃付近まで温度上昇を続ける。したがって、無機粒子としては熱分解開始温度が200℃以上である無機水和物からなることが好ましい。
上記に挙げた無機水和物の熱分解開始温度は、水酸化アルミニウムは約200℃、水酸化マグネシウムは約330℃、水酸化カルシウムは約580℃、水酸化亜鉛は約200℃、水酸化鉄は約350℃、水酸化マンガンは約300℃、水酸化ジルコニウムは約300℃、水酸化ガリウムは約300℃であり、いずれも熱暴走を起こした電池セルの急激な昇温の温度範囲とほぼ重なり、温度上昇を効率よく抑えることができることから、好ましい無機水和物であるといえる。
【0127】
(無機水和物粒子の平均二次粒子径:0.01μm以上200μm以下)
また、第1の無機粒子として、無機水和物粒子を使用した場合に、その平均粒子径が大きすぎると、断熱材の中心付近にある第1の無機粒子(無機水和物)が、その熱分解温度に達するまでにある程度の時間を要するため、シート中心付近の第1の無機粒子が熱分解しきれない場合がある。このため、無機水和物粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0128】
(熱膨張性無機材料からなる粒子)
熱膨張性無機材料としては、バーミキュライト、ベントナイト、雲母、パーライト等を挙げることができる。
【0129】
(含水多孔質体からなる粒子)
含水多孔質体の具体例としては、ゼオライト、カオリナイト、モンモリロナイト、酸性白土、珪藻土、湿式シリカ、乾式シリカ、エアロゲル、マイカ、バーミキュライト等が挙げられる。
【0130】
(無機バルーン)
本発明に用いる断熱材は、第1の無機粒子として無機バルーンを含んでいてもよい。
無機バルーンが含まれると、500℃未満の温度領域において、断熱材内における熱の対流伝熱又は伝導伝熱を抑制することができ、断熱材の断熱性をより一層向上させることができる。
無機バルーンとしては、シラスバルーン、シリカバルーン、フライアッシュバルーン、バーライトバルーン、およびガラスバルーンから選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0131】
(無機バルーンの含有量:断熱材全質量に対して60質量%以下)
無機バルーンの含有量としては、断熱材全質量に対し、60質量%以下が好ましい。
【0132】
(無機バルーンの平均粒子径:1μm以上100μm以下)
無機バルーンの平均粒子径としては、1μm以上100μm以下が好ましい。
【0133】
<第2の無機粒子>
断熱材に2種の無機粒子が含有されている場合に、第2の無機粒子は、第1の無機粒子と材質や粒子径等が異なっていれば特に限定されない。第2の無機粒子としては、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子、無機水和物粒子、シリカナノ粒子、金属酸化物粒子、マイクロポーラス粒子や中空シリカ粒子等の無機バルーン、熱膨張性無機材料からなる粒子、含水多孔質体からなる粒子等を使用することができ、これらの詳細については、上述のとおりである。
【0134】
なお、ナノ粒子は伝導伝熱が極めて小さいとともに、断熱材に圧縮応力が加わった場合であっても、優れた断熱性を維持することができる。また、チタニア等の金属酸化物粒子は、輻射熱を遮る効果が高い。さらに、大径の無機粒子と小径の無機粒子とを使用すると、大径の無機粒子同士の隙間に小径の無機粒子が入り込むことにより、より緻密な構造となり、熱伝達抑制効果を向上させることができる。したがって、上記第1の無機粒子として、例えばナノ粒子を使用した場合に、さらに、第2の無機粒子として、第1の無機粒子よりも大径である金属酸化物からなる粒子を、断熱材に含有させることが好ましい。
金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、ジルコン、酸化ジルコニウム等を挙げることがでる。特に、酸化チタン(チタニア)は他の金属酸化物と比較して屈折率が高い成分であり、500℃以上の高温度領域において光を乱反射させ輻射熱を遮る効果が高いため、チタニアを用いることが最も好ましい。
【0135】
第1の無機粒子として、乾式シリカ粒子及びシリカエアロゲルから選択された少なくとも1種の粒子を使用し、第2の無機粒子として、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を使用する場合に、300℃以下の温度範囲内において、優れた断熱性能を得るためには、第1の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。また、第1の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0136】
一方、300℃を超える温度範囲内において、優れた断熱性能を得るためには、第2の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、第2の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0137】
(第2の無機粒子の平均一次粒子径)
金属酸化物からなる第2の無機粒子を断熱材に含有させる場合に、第2の無機粒子の平均一次粒子径は、1μm以上50μm以下であると、500℃以上の高温度領域で効率よく輻射伝熱を抑制することができる。第2の無機粒子の平均一次粒子径は、5μm以上30μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが最も好ましい。
【0138】
(無機粒子の含有量)
本実施形態において、断熱材中の無機粒子4の合計の含有量が適切に制御されていると、断熱材の断熱性を十分に確保することができる。
無機粒子4の合計の含有量は、断熱材の全質量に対して60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。また、無機粒子4の合計の含有量が多くなりすぎると、有機繊維の含有量が相対的に減少するため、骨格の補強効果及び無機粒子の保持効果を十分に得るためには、無機粒子4の合計の含有量は、断熱材の全質量に対して95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
【0139】
なお、断熱材中の無機粒子4の含有量は、例えば、断熱材を800℃で加熱し、有機分を分解後、残部の質量を測定することにより、算出することができる。
【0140】
<無機繊維>
無機繊維15として、単一の無機繊維を使用してもよいし、2種以上の無機繊維を組み合わせて使用してもよい。無機繊維としては、例えば、シリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、ジルコニア繊維、カーボンファイバ、ソルブルファイバ、リフラクトリーセラミック繊維、エアロゲル複合材、マグネシウムシリケート繊維、アルカリアースシリケート繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウムウィスカ繊維等のセラミックス系繊維、ガラス繊維、グラスウール、スラグウール等のガラス系繊維、及びこれらの繊維以外の天然鉱物系繊維である、ロックウール、バサルトファイバ、ウォラストナイト、ムライト繊維等が挙げられる。
これらの無機繊維は、耐熱性、強度、入手容易性などの点で好ましい。無機繊維のうち、取り扱い性の観点から、特にシリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維及びガラス繊維から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0141】
無機繊維の断面形状は、特に限定されず、円形断面、平断面、中空断面、多角断面、芯断面などが挙げられる。中でも、中空断面、平断面又は多角断面を有する異形断面繊維は、断熱性が若干向上されるため好適に使用することができる。
【0142】
無機繊維の平均繊維長の好ましい下限は0.1mmであり、より好ましい下限は0.5mmである。一方、無機繊維の平均繊維長の好ましい上限は50mmであり、より好ましい上限は10mmである。無機繊維の平均繊維長が0.1mm未満であると、無機繊維同士の絡み合いが生じにくく、断熱材の機械的強度が低下するおそれがある。一方、50mmを超えると、補強効果は得られるものの、無機繊維同士が緊密に絡み合うことができなったり、単一の無機繊維だけで丸まったりし、それにより連続した空隙が生じやすくなるので断熱性の低下を招くおそれがある。
【0143】
無機繊維の平均繊維径の好ましい下限は1μmであり、より好ましい下限は2μmであり、更に好ましい下限は3μmである。一方、無機繊維の平均繊維径の好ましい上限は15μmであり、より好ましい上限は10μmである。無機繊維の平均繊維径が1μm未満であると、無機繊維自体の機械的強度が低下するおそれがある。また、人体の健康に対する影響の観点より、無機繊維の平均繊維径が3μm以上であることが好ましい。一方、無機繊維の平均繊維径が15μmより大きいと、無機繊維を媒体とする固体伝熱が増加して断熱性の低下を招くおそれがあり、また、断熱材の成形性及び強度が悪化するおそれがある。
【0144】
(無機繊維の含有量)
本実施形態において、断熱材が、無機繊維を含む場合に、無機繊維の含有量は、断熱材の全質量に対して3質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0145】
また、無機繊維の含有量は、断熱材の全質量に対して、5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。このような含有量にすることにより、無機繊維による保形性や押圧力耐性、抗風圧性や、無機粒子の保持能力がバランスよく発現される。また、無機繊維の含有量を適切に制御することにより、有機繊維1及び無機繊維が互いに絡み合って3次元ネットワークを形成するため、無機粒子4、及び後述する他の配合材料を保持する効果をより一層向上させることができる。
【0146】
<他の配合材料>
なお、本実施形態に係る断熱材は、さらに、必要に応じて、結合材、着色剤等を含有させることができる。これらはいずれも断熱材の補強や成形性の向上等を目的とする上で有用であり、断熱材の全質量に対して合計量で、10質量%以下とすることが好ましい。
【0147】
<マイカシート>
マイカシート51は、マイカを含むマイカシート材料をシート状に加工したものである。マイカシート材料としては、マイカの他に、酸化物系粒子、酸化物系繊維等が含まれることが好ましい。具体的には、SiO、Al、Ti等が挙げられるが、本発明はこれらの材料に限定されない。なお、天然鉱物で構成されるマイカシートを使用することがより好ましい。シート形状は通常、孔のないフラットなシートであっても、孔を有していてもよい。ただし、電池セルが膨張収縮する際に、マイカシートが亀裂を生じることなく電池セルに追従できるように、マイカシートの中心部又は他の領域の少なくとも一部に、孔を設けたものも使用することができる。
【0148】
[熱伝達抑制シートの製造方法]
本実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法について、特に、構造例2の断熱材を使用した例について以下に詳細に説明する。
例えば、芯鞘構造を有するバインダ繊維(図示せず)、無機粒子4及び無機繊維15を所定の割合でV型混合機などの混合機に投入し、混合物を作製する。
なお、上述のとおり、バインダ繊維としては、第1の有機材料からなる芯部と、第2の有機材料からなる鞘部とを有する芯鞘構造の繊維を使用することが好ましい。この場合に、第1の有機材料の融点は、第2の有機材料の融点よりも高いものとする。
【0149】
その後、得られた混合物を所定の型内に投入し、プレス機等により加圧して、得られた成形体を加熱することにより、バインダ繊維の鞘部が溶融する。その後、加熱された成形体を冷却することにより、溶融していた鞘部を構成する第2の有機材料と、バインダ繊維の周囲に存在していた無機粒子4とが、芯部(有機繊維1)に溶着されるとともに、バインダ繊維同士が接触していた領域においても互いに溶着される。これにより、シート状に加工された断熱材40を得ることができる。
【0150】
その後、予め準備しておいた一対のマイカシート51の間に、断熱材40を配置して、両者を固定する。断熱材40とマイカシート51とを互いに固定する方法としては特に限定されず、接着剤等で接着する方法、糸などを使用して縫合する方法、固定治具により挟持して固定する方法、フィルム等で被覆する方法、熱圧縮性フィルムで被覆した後に、加熱してフィルムを収縮させて固定する方法等、種々の方法を使用することができる。
【0151】
なお、無機繊維15を含まない断熱材10や、有機繊維1を含まない断熱材についても、その製造方法は上記断熱材40と同様にして得ることができ、有機繊維1や無機繊維15の使用については、任意に選択することができる。
【0152】
なお、上記断熱材の材料を混合し、これを加圧するとともに加熱すると、表面に露出している交絡した有機繊維1が加熱され、断熱材40の表面に繊維層11として形成される。このようにして得られた繊維層11は、断熱材40の強度を向上させるとともに、断熱材40の表面への衝撃を緩和する効果を有する。
【0153】
上述の断熱材は、乾式法により製造されることが好ましい。乾式法を使用する場合、乾式法に適した無機粒子4を使用し、上記混合物には、湿式法により成形する際に必要な水等の溶媒を添加しないものとする。ただし、断熱材の製造時に、無機粒子4等の粉体が舞って、原料の取り扱いが困難になることを防止するため、乾式法とされる範囲内で少量の水などの溶媒を添加することもできる。例えば、混合物に水などの少量の溶媒を添加することにより、製造時における無機粒子の飛散を抑制することができる。
【0154】
また、断熱材は、芯鞘構造のバインダ繊維を材料として用いており、芯部を構成する第1の有機材料の融点が、鞘部を構成する第2の有機材料の融点よりも高いため、混合物を加熱する際に、芯部を残して鞘部を溶融させることができる。そして、冷却後に、芯部(有機繊維1)の外周面は、無機粒子4を含んだ第2の有機材料により被覆されるため、無機粒子4を保持することができる。無機粒子4が溶着した有機繊維1は、見かけ上太い繊維径を有するものとなるため、有機繊維1のみの強度よりも高強度となる。さらに、混合物中には、バインダ繊維が不規則な方向で存在しているため、バインダ繊維同士が接触している領域で、有機繊維1同士が溶着され、立体的な骨格が形成される。その結果、断熱材全体の形状をより一層高強度に保持することができる。
【0155】
なお、バインダ繊維として、芯鞘構造を有さない有機繊維を使用した場合であっても、温度設定によっては、有機繊維の中心部を残して表面のみを溶融させ、表面に無機粒子を被着させたり、有機繊維同士を溶着させることは可能である。ただし、断熱材の製造時には、厚さ方向に直交する片面側又は両面側から加熱することが一般的であり、断熱性能が高い材料を使用するため、シートの表面側と厚さ方向の中心側とにおいて、同程度の温度に上昇させるためには、厳密な温度管理が必要である。
【0156】
これに対して、芯部を構成する第1の有機材料の融点が、鞘部を構成する第2の有機材料の融点よりも高い芯鞘構造のバインダ繊維を使用すると、極めて容易に芯部を残し、鞘部を溶融させるための温度を設定することができる。その結果、得られた断熱材は、表面側及び中心側のいずれにおいても、有機繊維1同士が溶着してシートの強度を保持する骨格となり、有機繊維1の表面に無機粒子4を含む溶着部5が形成された理想的な構造を有するものとなる。したがって、断熱材の材料として、上記のような芯鞘構造を有するバインダ繊維を使用することが好ましい。
【0157】
なお、上述のとおり、断熱材とマイカシート51とを積層した後、これらの積層体の表面をフィルム等で被覆してもよい。高分子フィルムとしては、ポリイミド、ポリカーボネート、PET、p-フェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、架橋ポリエチレン、難燃クロロプレンゴム、ポリビニルデンフロライド、硬質塩化ビニル、ポリブチレンテレフタレート、PTFE、PFA、FEP、ETFE、硬質PCV、難燃性PET、ポリスチレン、ポリエーテルサルホン、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド等からなるフィルムが挙げられる。なお、表面をフィルムで被覆する方法については特に限定されず、接着剤等により貼付する方法や、断熱材及びマイカシート51をフィルムで包む方法、袋状のフィルムに断熱材及びマイカシート51を収容する方法等が挙げられる。
【0158】
次に、本実施形態に係る熱伝達抑制シート50の製造方法において、使用することが好ましいバインダ繊維及び加熱条件、並びにその他のバインダ材料について、説明する。
【0159】
<バインダ繊維>
本実施形態において、芯鞘構造のバインダ繊維3を使用する場合に、芯部を構成する第1の有機材料の融点が、鞘部を構成する第2の有機材料の融点よりも高いものであれば、特に限定されない。芯部となる第1の有機材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種を選択することができる。また、鞘部となる第2の有機材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種を選択することができる。
【0160】
芯部を構成する第1の有機材料の融点が、鞘部を構成する第2の有機材料の融点よりも十分に高いと、加熱する工程における加熱温度の設定裕度を広げることができ、より一層所望の構造を得るための温度設定を容易にすることができる。例えば、第1の有機材料の融点は、第2の有機材料の融点よりも60℃以上高いことが好ましく、70℃以上高いことがより好ましく、80℃以上高いことがさらに好ましい。
【0161】
なお、上記のような芯鞘構造を有するバインダ繊維3は、一般的に市販されており、芯部と鞘部を構成する材質は、同一でも互いに異なっていてもよい。芯部及び鞘部が同一の材質であって、異なる融点を有するバインダ繊維の例としては、例えば、芯部及び鞘部がポリエチレンテレフタレートからなるもの、ポリプロピレンからなるもの、ナイロンからなるもの等が挙げられる。芯部及び鞘部が互いに異なる材質からなるバインダ繊維の例としては、芯部がポリエチレンテレフタレートからなり、鞘部がポリエチレンからなるもの、芯部がポリプロピレンからなり、鞘部がポリエチレンからなるもの等が挙げられる。
【0162】
本実施形態において、バインダ繊維3の鞘部を構成する第2の有機材料の融点とは、第2の有機材料が融解変形し始める融解温度を表すが、形状変化を伴う軟化も、融解変形の1種と判断する。バインダ繊維の鞘部の融点は、例えば、以下の方法により測定することができる。
測定対象とするバインダ繊維を、より融点が高いガラス繊維と接するように配置し、室温から5℃/分の昇温速度で、例えば200℃まで加熱して、その後室温まで冷却する。このとき、バインダ繊維の表面が融解変形して、ガラス繊維と接している部分で融着しているか、又は、バインダ繊維の断面形状が変化していれば、鞘部を構成する第2の有機材料の融点が200℃以下であると判断することができる。本実施形態においては、加熱温度を種々に変化させて、上記の方法で冷却後のバインダ繊維とガラス繊維との融着状態、又はバインダ繊維の断面形状を観察することにより、鞘部を構成する第2の有機材料の融点を特定することができる。
【0163】
(バインダ繊維の含有量)
本実施形態において、材料として芯鞘構造のバインダ繊維3を使用する場合に、混合物中のバインダ繊維の含有量が適切に制御されていると、得られる断熱材における骨格の補強効果を十分に得ることができる。
バインダ繊維3の含有量は、混合物の全質量に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、バインダ繊維3の含有量が多くなりすぎると、無機粒子4の含有量が相対的に減少するため、所望の断熱性能を得るためには、バインダ繊維3の含有量は、混合物の全質量に対して25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0164】
(ホットメルトパウダー)
本実施形態においては、上記バインダ繊維3、無機粒子4の他に、混合物中にバインダ材料としてホットメルトパウダーを含有させてもよい。ホットメルトパウダーは、例えば上記第1の有機材料及び第2の有機材料とは異なる第3の有機材料を含有し、加熱により溶融する性質を有する粉体である。混合物中にホットメルトパウダーを含有させ、加熱することにより、ホットメルトパウダーは溶融し、その後冷却すると、周囲の無機粒子4を含んだ状態で硬化する。したがって、断熱材からの無機粒子4の脱落をより一層抑制することができる。
【0165】
ホットメルトパウダーとしては、種々の融点を有するものが挙げられるが、使用するバインダ繊維の芯部及び鞘部の融点を考慮して、適切な融点を有するホットメルトパウダーを選択すればよい。具体的に、ホットメルトパウダーを構成する成分である第3の有機材料は、上記有機繊維を構成する第1の有機材料の融点よりも低いものであれば、芯部を残して、鞘部及びホットメルトパウダーを溶融させるための加熱温度を設定することができる。例えば、ホットメルトパウダーの融点が、鞘部の融点以下であると、製造時の加熱温度は、芯部の融点と鞘部の融点との間で設定すればよいため、より一層容易に加熱温度を設定することができる。
【0166】
一方、ホットメルトパウダーの融点が、芯部の融点と鞘部の融点との間となるように、使用するホットメルトパウダーの種類を選択することもできる。このような融点を有するホットメルトパウダーを使用すると、鞘部及びホットメルトパウダーがともに溶融した後、冷却されて硬化する際に、先に有機繊維(芯部)1とその周囲の溶融した鞘部、及び無機粒子4の隙間に存在するホットメルトパウダーが硬化する。その結果、有機繊維1の位置を固定することができ、その後、溶融していた鞘部が有機繊維に溶着することにより、立体的な骨格が形成されやすくなる。したがって、シート全体の強度をより一層向上させることができる。
【0167】
ホットメルトパウダーを構成する第3の有機材料の融点が、芯部を構成する第1の有機材料の融点よりも十分に低いと、加熱する工程における加熱温度の設定裕度を広げることができ、より一層所望の構造を得るための温度設定を容易にすることができる。例えば、第1の有機材料の融点は、第3の有機材料の融点よりも60℃以上高いことが好ましく、70℃以上高いことがより好ましく、80℃以上高いことがさらに好ましい。
【0168】
なお、ホットメルトパウダー(第3の有機材料)の融点は、80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。また、ホットメルトパウダー(第3の有機材料)の融点は、180℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。ホットメルトパウダーを構成する成分としては、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、エチレン酢酸ビニル等が挙げられる。
【0169】
(ホットメルトパウダーの含有量)
無機粒子の脱落を抑制するために、混合物中にホットメルトパウダーを含有させる場合に、その含有量は微量でも粉落ち抑制の効果を得ることができる。したがって、ホットメルトパウダーの含有量は、混合物全質量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。
一方、ホットメルトパウダーの含有量を増加させると、無機粒子4等の含有量が相対的に減少するため、所望の断熱性能を得るためには、ホットメルトパウダーの含有量は、混合物の全質量に対して5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。
【0170】
<加熱条件>
断熱材の材料として、芯鞘構造のバインダ繊維を使用する場合に、加熱する工程における加熱温度は、鞘部を構成する第2の有機材料の融点よりも高く、芯部を構成する第1の有機材料の融点よりも低い温度とすることが好ましい。このような加熱温度に設定することにより、上述のとおり、シートの表面側及び中心側のいずれにおいても、芯部によりシートの強度を確保することができるとともに、溶着部5により無機粒子4を保持することができる。
【0171】
具体的に、加熱する工程における加熱温度は、鞘部を構成する第2の有機材料の融点よりも10℃以上高く設定することが好ましく、20℃以上高く設定することがより好ましい。一方、加熱温度は、芯部を構成する第1の有機材料の融点よりも10℃以上低く設定することが好ましく、20℃以上低く設定することがより好ましい。
【0172】
加熱時間については特に限定されないが、鞘部を十分に溶融させることができるための加熱時間を設定することが好ましい。例えば、3分以上15分以内に設定することができる。
【0173】
断熱材の材料としてホットメルトパウダーを含む場合に、加熱する工程における加熱温度は、鞘部を構成する第2の有機材料の融点、及びホットメルトパウダーを構成する第3の有機材料の融点のいずれか高い方よりも10℃以上高く設定することが好ましく、20℃以上高く設定することがより好ましい。一方、加熱温度は、芯部を構成する第1の有機材料の融点よりも10℃以上低く設定することが好ましく、20℃以上低く設定することがより好ましい。このような加熱温度に設定することにより、強固な骨格を形成することができ、シートの強度をより一層向上させることができるとともに、溶着部5等により無機粒子4の脱落を防止することができる。
【0174】
<熱伝達抑制シートの厚さ>
本実施形態に係る熱伝達抑制シートの厚さは特に限定されないが、0.05mm以上10mm以下であることが好ましい。厚さが0.05mm以上であると、充分な圧縮強度を得ることができる。一方、厚さが10mm以下であると、熱伝達抑制シートの良好な断熱性を得ることができる。
【0175】
[組電池]
本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シート50を適用した組電池の例は、上記図2に例示したとおりである。ここで、組電池の構成及び効果について、図2を用いて具体的に説明する。なお、上述のとおり、図2に示す熱伝達抑制シート50における断熱材10は、上記種々の構造を有する断熱材の他、本発明の範囲内で他の断熱材に代えることもできる。
【0176】
図2に示すように、組電池100は、複数の電池セル20a、20b、20cと、本実施形態に係る熱伝達抑制シート50と、を有し、該複数の電池セルが直列又は並列に接続されたものである。例えば、本実施形態に係る熱伝達抑制シート50は、電池セル20aと電池セル20bとの間、及び電池セル20bと電池セル20cとの間に介在されている。さらに、電池セル20a、20b、20c及び熱伝達抑制シート50は、電池ケース30に収容されている。
なお、熱伝達抑制シート50については、上述したとおりである。
【0177】
このように構成された組電池100においては、ある電池セル20aが高温になった場合でも、電池セル20bとの間には、熱伝達抑制効果を有する熱伝達抑制シート50が存在しているため、電池セル20bへの熱の伝播を抑制することができる。
また、本実施形態に係る熱伝達抑制シート50は、マイカシート51を有しているため、電池セル20aが高温により破裂し、飛散物が発生した場合に、マイカシート51によって断熱材10や隣接する電池セル20bが保護される。したがって、飛散物によって電池セル20bに影響が及ぼされることを抑制することができるとともに、断熱材10が破損することを抑制することができ、電池セル20aと電池セル20bとの間で高い断熱性を維持することができる。
【0178】
なお、本実施形態の組電池100は、図2に例示した組電池に限定されない。例えば、熱伝達抑制シート50は、電池セル20aと電池セル20bとの間、及び電池セル20bと電池セル20cとの間のみでなく、電池セル20a、20b、20cと電池ケース30との間に配置されたり、電池ケース30の内面に貼り付けられるものであってもよい。
【0179】
このように構成された組電池100においては、ある電池セルが発火した場合に、電池ケース30の外側に炎が広がることを抑制することができる。例えば、本実施形態に係る組電池100は、電気自動車(EV:Electric Vehicle)等に使用され、搭乗者の床下に配置されることがある。この場合に、仮に電池セルが発火しても、搭乗者の安全を確保することができる。
また、熱伝達抑制シート50を、各電池セル間に介在させるだけでなく、電池セル20a、20b、20cと電池ケース30との間に配置することができるため、新たに防炎材等を作製する必要がなく、容易に低コストで安全な組電池100を構成することができる。
【0180】
本実施形態の組電池において、電池セル20a、20b、20cと電池ケース30との間に配置された熱伝達抑制シート50と、電池セルとは、接触していても、隙間を有していてもよい。ただし、熱伝達抑制シート50と電池セル20a、20b、20cとの間に隙間を有していると、複数ある電池セルのうち、いずれかの電池セルの温度が上昇し、体積が膨張した場合であっても、電池セルの変形を許容することができる。
【0181】
なお、本実施形態に係る熱伝達抑制シート50は、その製造方法によって、種々の形状に作製することができる。したがって、電池セル20a、20b、20c及び電池ケース30の形状に影響されず、どのような形状のものにも対応させることができる。具体的には、角型電池の他、円筒形電池、平板型電池等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0182】
1 有機繊維
3 バインダ繊維
4 無機粒子
5 溶着部
6,47 繊維束
7 空孔
8 空隙部
10,40,60,70,80,90,110 断熱材
11 繊維層
12 複合層
13 基層
14 マトリックス
15 無機繊維
16 繊維部
17 第2の有機材料
18 母材部
20a,20b,20c 電池セル
28 空気層
30 電池ケース
31 接触部
32 基部
33 支部
42 第1領域
43 第2領域
50 熱伝達抑制シート
51 マイカシート
100 組電池
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