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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144262
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用電極組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20241003BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024045910
(22)【出願日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2023054087
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石賀 絢香
(72)【発明者】
【氏名】川岸 萌
(72)【発明者】
【氏名】草野 亮介
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB20
5H050CB29
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA18
5H050EA22
5H050EA23
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】セル性能(電気抵抗値、クーロン効率、容量維持率)の優れたリチウムイオン電池用電極を得られるリチウムイオン電池用電極組成物を提供すること。
【解決手段】電極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用電極組成物であって、前記分散剤が、フェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物であり、前記分散剤における芳香環骨格を構成する炭素原子と炭素原子に結合した水素原子の合計重量の割合が、前記分散剤の重量を基準として55重量%以下であるリチウムイオン電池用電極組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用電極組成物であって、
前記分散剤が、フェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物であり、
前記分散剤における芳香環骨格を構成する炭素原子と炭素原子に結合した水素原子の合計重量の割合が、前記分散剤の重量を基準として55重量%以下であり、
前記電極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として78~97重量%であり、前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として1~20重量%であり、前記導電助剤の重量割合が、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として1~5重量%であり、
前記分散剤の重量割合が、前記導電助剤の重量を基準として2~20重量%であることを特徴とするリチウムイオン電池用電極組成物。
【請求項2】
前記分散剤の水酸基濃度が、前記分散剤の重量を基準として0.5~10重量%である請求項1に記載のリチウムイオン電池用電極組成物。
【請求項3】
前記分散剤の重量平均分子量が1,000~10,000である請求項1に記載のリチウムイオン電池用電極組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用電極組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高電圧、高エネルギー密度という特長を持つことから、携帯情報機器分野などにおいて広く利用され、携帯電話、ノート型パソコンを始めとする携帯端末用標準電池としての地位が確立されている。その用途は拡大する一方で、従来用途に加えてハイブリッド自動車や電気自動車などへの適用も検討されており一部では既に実用化されている。これらの更なる普及のためにも二次電池の高容量化、高出力化が求められており様々な技術の適用が試みられている。
【0003】
リチウムイオン電池を高容量化するには、電極における活物質の割合を増やす必要があり、その他の構成要素であるバインダー樹脂や導電助剤等の使用量は少ない方が好ましい。しかし、単純にこれらの使用量を減らすと、得られる電極の強度や電子伝導性が担保されず電池性能が悪化することから、電池性能を維持しつつバインダー樹脂や導電助剤等の使用量を減らすことができる添加剤(主に分散剤)の検討がなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、ポリマー系分散剤としてメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが使用されている。しかし、これらの分散剤、特にポリビニルピロリドンは、正極電位域(3~5V)においてそれ自身が分解反応を起こし、電池性能を低下させてしまう懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-181140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みて為されたものであり、セル性能(電気抵抗値、クーロン効率、容量維持率)の優れたリチウムイオン電池用電極を得られるリチウムイオン電池用電極組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
本発明は、電極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用電極組成物であって、前記分散剤が、フェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物であり、前記分散剤における芳香環骨格を構成する炭素原子と炭素原子に結合した水素原子の合計重量の割合が、前記分散剤の重量を基準として55重量%以下であり、前記電極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として78~97重量%であり、前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として1~20重量%であり、前記導電助剤の重量割合が、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として1~5重量%であり、前記分散剤の重量割合が、前記導電助剤の重量を基準として2~20重量%であることを特徴とするリチウムイオン電池用電極組成物、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、セル性能(電気抵抗値、クーロン効率、容量維持率)の優れたリチウムイオン電池用電極を得られるリチウムイオン電池用電極組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のリチウムイオン電池用電極組成物は、電極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用電極組成物である。
本発明のリチウムイオン電池用電極組成物は、電極活物質を含む。
前記電極活物質は、正極活物質であっても、負極活物質であってもよい。本発明のリチウムイオン電池用電極組成物は、電極活物質が正極活物質である場合、リチウムイオン電池用正極組成物として用いることができ、電極活物質が負極活物質である場合、リチウムイオン電池用負極組成物として用いることができる。
【0010】
正極活物質としては、リチウムイオン電池の正極活物質として用いることができるものであれば特に制限されない。
例えば、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiAlMnO、LiMnO及びLiMn等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO、LiNi1-xCo、LiMn1-yCo、LiNi1/3Co1/3Al1/3及びLiNi0.8Co0.15Al0.05)及び金属元素が3種以上である複合酸化物[例えばLiMM’M’’(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO、LiCoPO、LiMnPO及びLiNiPO)、遷移金属酸化物(例えばMnO及びV)、遷移金属硫化物(例えばMoS及びTiS)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0011】
前記正極活物質の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01~100μmであることが好ましく、0.1~35μmであることがより好ましく、2~30μmであることがさらに好ましい。
【0012】
なお、本明細書において、体積平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法である。なお、体積平均粒子径の測定には、日機装(株)製のマイクロトラック等を用いることができる。
【0013】
負極活物質は、リチウムイオン電池の負極活物質として用いることができるものであれば特に制限されない。負極活物質を構成する材料としては、例えば、炭素系材料、珪素系材料等が挙げられる。なかでも、負極活物質は、炭素系材料からなることが好ましい。
【0014】
炭素系材料としては、例えば、黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)等が挙げられる。導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物)及び金属合金(リチウム-スズ合金、リチウム-アルミニウム合金、アルミニウム-マンガン合金等)等と炭素系材料との混合物であってもよい。内部にリチウム又はリチウムイオンを含まない材料については、内部の一部又は全部に、リチウム又はリチウムイオンを含ませるプレドープ処理を施していてもよい。
【0015】
珪素系材料としては、例えば、酸化珪素(SiO)、Si-C複合体、Si-Al合金、Si-Li合金、Si-Ni合金、Si-Fe合金、Si-Ti合金、Si-Mn合金、Si-Cu合金及びSi-Sn合金からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
Si-C複合体としては、炭化珪素、炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、並びに、珪素粒子、酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの等が含まれる。
珪素系材料からなる粒子は、単一の粒子(一次粒子ともいう)であっても、一次粒子が凝集して得られる複合粒子(すなわち、珪素系材料からなる一次粒子が凝集して得られた二次粒子)を形成していてもよい。複合粒子は、珪素系材料からなる粒子の一次粒子がその吸着力によって凝集している場合と、一次粒子が他の材料を介して吸着することで凝集している場合がある。一次粒子が他の材料を介して結着することで複合粒子を形成する方法としては、例えば、珪素系材料からなる粒子の一次粒子と、被覆膜を構成する高分子化合物とを混合する方法が挙げられる。
【0016】
負極活物質の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.1~100μmであることが好ましく、1~50μmであることがより好ましく、2~20μmであることがさらに好ましい。
【0017】
本発明のリチウムイオン電池用電極組成物はバインダー樹脂を含む。
バインダー樹脂は、バインダー機能(粘着力)を有する樹脂であれば特に制限されない。
バインダー樹脂としては、デンプン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレン及びポリプロピレン等が挙げられる。
バインダー樹脂は広義に増粘剤を含み、増粘剤としてはカルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
【0018】
本発明のリチウムイオン電池用電極組成物は、導電助剤を含む。導電助剤としては、導電性を有する材料であれば特に制限はない。
導電助剤としては、金属[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト(薄片状黒鉛(UP))、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びサーマルランプブラック等)及びカーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)等]、及びこれらの混合物等が挙げられる。
これらの導電助剤は1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物が用いられてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアセチレンブラックが好ましい。
【0019】
なお、炭素系材料は負極活物質としても導電助剤としても使用されるが、本願においては、体積平均粒子径が15μm以上のものを負極活物質として、体積平均粒子径が15μm未満のものを導電助剤としてみなすこととする。
【0020】
本発明のリチウムイオン電池用電極組成物は、分散剤を含む。
前記分散剤は、フェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物である。
フェノール化合物としては、単環式フェノール化合物(フェノール及びクレゾール等)、ビスフェノール化合物(ビスフェノールA、ビスフェノールF及びビスフェノールS等)、多環式フェノール化合物(トリベンジルフェノール、ジベンジルフェノール、ベンジルフェノール、2,4-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェノール及びフェノールフタレイン等)が挙げられる。
これらのうち、導電助剤の分散性等の観点から、好ましいのはビスフェノール化合物及び多環式フェノール化合物であり、特に好ましいのは多環式フェノール化合物である。
【0021】
前記フェノール化合物に付加させるアルキレンオキサイド(以下、AOと略記)としては、炭素数2~4のAO、例えば、エチレンオキサイド(以下、EOと略記)、1,2-プロピレンオキサイド(以下、POと略記)、1,3-プロピレンオキサイド、1,2-、1,3-又は2,3-ブチレンオキサイド及びテトラヒドロフラン(以下、THFと略記)等が挙げられる。
これらのうち、導電助剤の分散性の観点から、好ましいのはEO又はPOである。
【0022】
前記分散剤における芳香環骨格を構成する炭素原子と炭素原子に結合した水素原子の合計重量の割合が、前記分散剤の重量を基準として55重量%以下である。
導電助剤の分散性の観点から、前記分散剤における芳香環骨格を構成する炭素原子と炭素原子に結合した水素原子の合計重量の割合は、前記分散剤の重量を基準として52重量%以下であるのが好ましく、35重量%以下であるのがより好ましい。
【0023】
本発明において、前記分散剤における芳香環骨格を構成する炭素原子と炭素原子に結合した水素原子の合計重量の割合は、前記分散剤であるフェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物を合成する際の反応に用いたフェノール化合物の重量と付加したアルキレンオキサイドのモル数とから求めることができる。また、前記分散剤についてH-NMRを測定することにより、算出することも可能である。H-NMRにより測定する場合、具体的には、下記の測定条件及び解析方法により求めることができる。
【0024】
<サンプル調製方法>
NMRチューブに測定対象物を100mg及び内部標準物質(例えばテトラメチルシラン)を10mg測り取り、重水素化溶媒(例えば重クロロホルム)を0.45ml加えて溶解させ、以下の測定条件で測定を行う。
H-NMR測定条件>
装置:ブルカーバイオスピン社製「AVANCE III HD400」
積算回数:4回
<解析方法>
芳香環骨格を構成する炭素原子と炭素原子に結合した水素原子由来のピークと内部標準物質のメチル基由来のプロトンのピークの積分比から芳香環骨格を構成する炭素原子に結合した水素原子の重量割合(重量%)を算出する。すなわち、化学シフト6.5~7.5ppm付近の芳香環骨格を構成する炭素原子に結合した水素原子由来のプロトンの積分比、化学シフト0ppmの内部標準物質のメチル基由来のプロトンの積分比、サンプル及び内部標準物質の仕込み重量から、芳香環骨格を構成する炭素原子と炭素原子に結合した水素原子の合計重量割合(重量%)を算出する。
芳香環骨格を構成する炭素原子と炭素原子に結合した水素原子の合計重量割合(重量%)=Aa/(Ai/Pi)×Ma/Mi×Wi/Ws×100
ただし、Aaは芳香環骨格を構成する炭素原子に結合した水素原子由来のプロトンのピークの積分比、Aiは内部標準物質のメチル基由来のプロトンのピークの積分比、Piは内部標準物質のプロトン数、Maは分散剤の分子量、Miは内部標準物質の分子量、Wiは内部標準物質の仕込み重量(mg)、Wsはサンプルの仕込み重量(mg)である。
前記分散剤における芳香環骨格を構成する炭素原子と炭素原子に結合した水素原子の合計重量割合は、付加させるアルキレンオキサイドの分子量、付加モル数で調整することができる。
【0025】
前記分散剤の水酸基濃度は、前記分散剤の重量を基準として0.5~10重量%であることが好ましく、1~7重量%であることが更に好ましい。本発明において、前記分散剤の水酸基濃度は、前記分散剤であるフェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物を合成する際の反応に用いたフェノール化合物の重量と付加したアルキレンオキサイドのモル数とから求めることができる。また、前記分散剤についてH-NMRを測定することにより、算出することも可能である。H-NMRにより測定する場合、具体的には、下記の測定条件及び解析方法により求めることができる。
【0026】
<サンプル調製方法>
NMRチューブに測定対象物を100mg及び内部標準物質(例えばテトラメチルシラン)を10mg測り取り、重水素化溶媒(例えば重クロロホルム)を0.45ml加えて溶解させ、以下の測定条件で測定を行う。
H-NMR測定条件>
装置:ブルカーバイオスピン社製「AVANCE III HD400」
積算回数:4回
<解析方法>
水酸基由来のピークと内部標準物質のメチル基由来のプロトンのピークの積分比から水酸基の濃度(重量%)を算出する。すなわち、化学シフト3.5~4.5ppm付近の水酸基由来のプロトンの積分比、化学シフト0ppmの内部標準物質のメチル基由来のプロトンの積分比、サンプル及び内部標準物質の仕込み重量から、水酸基の濃度(重量%)を算出する。
水酸基濃度(重量%)=Ab/(Ai/Pi)×Ma/Mi×Wi/Ws×100
ただし、Abは水酸基由来のプロトンのピークの積分比、Aiは内部標準物質のメチル基由来のプロトンのピークの積分比、Piは内部標準物質のプロトン数、Maは分散剤の分子量、Miは内部標準物質の分子量、Wiは内部標準物質の仕込み重量(mg)、Wsはサンプルの仕込み重量(mg)である。
水酸基の含有量の調整は、前記分散剤を構成する原料の組成や仕込み当量を、適宜調整すればよい。
【0027】
前記分散剤の重量平均分子量は、導電助剤の分散性の観点から1,000~10,000であることが好ましく、1,000~3,000であることが更に好ましい。
前記分散剤の重量平均分子量は、以下の条件でGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。なお、試料となる分散剤をオルトジクロロベンゼン、N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)等の溶媒に溶解して0.25重量%の溶液を調製し、不溶解分を口径1μmのPTFEフィルターで濾過したものを試料溶液とする。
装置:AllianceGPC V2000(Waters社製)
溶媒:オルトジクロロベンゼン、DMF、THF
標準物質:ポリスチレンサンプル
濃度:3mg/ml
カラム固定相:PLgel 10um,MIXED-B 2本直列(ポリマーラボラトリーズ社製)
カラム温度:135℃
【0028】
前記分散剤は、前記フェノール化合物に公知の方法でアルキレンオキサイドを付加させる反応を行うことによって製造することができる。
【0029】
本発明のリチウムイオン電池用電極組成物は、電極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用電極組成物であって、前記電極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として78~97重量%である。前記電極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として78重量%未満であると得られる電池の容量が少なくなり、97重量%を超えると得られる電極の導電性が悪化する。前記電極活物質の重量割合は、電池容量と導電性のバランスの観点から、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として89~92重量%であることが好ましい。
なお、「リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量」とは、後述する有機溶媒等の揮発成分を除いた材料の重量(電極活物質、バインダー樹脂、導電助剤、及び、分散剤等の重量の合計値)を意味する。具体的には、リチウムイオン電池用電極組成物を100℃8時間加熱した時の残分の重量を固形分重量とする。
【0030】
本発明のリチウムイオン電池用電極組成物において、前記バインダー樹脂の重量割合は、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として1~20重量%である。前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として1重量%未満であると得られる電極の強度が不足し、20重量%を超えると得られる電池の容量が少なくなる。前記バインダー樹脂の重量割合は、電極強度と電池容量のバランスの観点から、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として3~10重量%であることが好ましい。
【0031】
本発明のリチウムイオン電池用電極組成物において、前記導電助剤の重量割合は、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として1~5重量%である。前記導電助剤の重量割合が、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として1重量%未満であると得られる電極の導電性が悪化し、5重量%を超えると得られる電池の容量が少なくなる。前記導電助剤の重量割合は、電池容量と導電性のバランスの観点から、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として2~5重量%であることが好ましい。
【0032】
本発明のリチウムイオン電池用電極組成物において、前記分散剤の重量割合は、前記導電助剤の重量を基準として2~20重量%である。前記分散剤の重量割合が、前記導電助剤の重量を基準として2重量%未満であると得られる電極の導電性が悪化し、20重量%を超えると副反応が生じ電池性能に悪影響を与えることがある。前記分散剤の重量割合は、電池性能の観点から、前記リチウムイオン電池用導電助剤の重量を基準として5~20重量%であることが好ましい。
【0033】
本発明のリチウムイオン電池用電極組成物は、必要に応じて有機溶媒を含んでもよい。
有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられる。
【0034】
本明細書には、以下の事項が開示されている。
【0035】
本開示(1)は、電極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用電極組成物であって、前記分散剤が、フェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物であり、前記分散剤における芳香環骨格を構成する炭素原子と炭素原子に結合した水素原子の合計重量の割合が、前記分散剤の重量を基準として55重量%以下であり、前記電極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として78~97重量%であり、前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として1~20重量%であり、前記導電助剤の重量割合が、前記リチウムイオン電池用電極組成物の固形分重量を基準として1~5重量%であり、前記分散剤の重量割合が、前記導電助剤の重量を基準として2~20重量%であることを特徴とするリチウムイオン電池用電極組成物である。
【0036】
本開示(2)は、前記分散剤の水酸基濃度が、前記分散剤の重量を基準として0.5~10重量%である本開示(1)に記載のリチウムイオン電池用電極組成物である。
【0037】
本開示(3)は、前記分散剤の重量平均分子量が1,000~10,000である本開示(1)又は(2)に記載のリチウムイオン電池用電極組成物である。
【実施例0038】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。
【0039】
(製造例1:分散剤1の製造)
トリベンジルフェノールに対してエチレンオキサイド(EO)を付加させて、フェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物を製造した。EOの平均付加モル数は14であった。
前記アルキレンオキサイド付加物を500部及び予め窒素気流下で粉砕しておいた固形水酸化カリウム98部を密閉容器に仕込み、攪拌下80℃に昇温した。次いで塩化メチレン74部を約30分かけて投入し、80℃で約3時間反応させた。
この反応物をトルエン500部にて希釈し、水酸化カリウム、塩化カリウムを濾別し、減圧下で揮発分を除去することにより分散剤1を得た。重量平均分子量は1,000であった。
反応に用いたフェノール化合物(トリベンジルフェノール)の重量とフェノール化合物(トリベンジルフェノール)に付加したエチレンオキサイドの重量とから、芳香環骨格を構成する炭素原子と炭素原子に結合した水素原子の合計重量のアルキレンオキサイド付加物の合計重量に対する割合、及びアルキレンオキサイド付加物における水酸基濃度を計算し表1に記載した。
【0040】
(製造例2:分散剤2の製造)
ビスフェノールAに対してエチレンオキサイド(EO)を付加させて、フェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物を製造した。EOの平均付加モル数は18であった。
前記アルキレンオキサイド付加物を500部及び予め窒素気流下で粉砕しておいた固形水酸化カリウム98部を密閉容器に仕込み、攪拌下80℃に昇温した。次いで塩化メチレン74部を約30分かけて投入し、80℃で約3時間反応させた。
この反応物をトルエン500部にて希釈し、水酸化カリウム、塩化カリウムを濾別し、減圧下で揮発分を除去することにより分散剤2を得た。重量平均分子量は1,020であった。
反応に用いたビスフェノールAの重量とビスフェノールAに付加したエチレンオキサイドの重量とから、芳香環骨格を構成する炭素原子と炭素原子に結合した水素原子の合計重量のアルキレンオキサイド付加物の合計重量に対する割合、及びアルキレンオキサイド付加物における水酸基濃度を計算し表1に記載した。
【0041】
(製造例3:分散剤3の製造)
ビスフェノールAに対してプロピレンオキサイド(PO)を付加させて、フェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物を製造した。POの平均付加モル数は5であった。
前記アルキレンオキサイド付加物を500部及び予め窒素気流下で粉砕しておいた固形水酸化カリウム98部を密閉容器に仕込み、攪拌下80℃に昇温した。次いで塩化メチレン74部を約30分かけて投入し、80℃で約3時間反応させた。
この反応物をトルエン500部にて希釈し、水酸化カリウム、塩化カリウムを濾別し、減圧下で揮発分を除去することにより分散剤3を得た。重量平均分子量は560であった。
反応に用いたビスフェノールAの重量とビスフェノールAに付加したプロピレンオキサイドの重量とから、芳香環骨格を構成する炭素原子と炭素原子に結合した水素原子の合計重量のアルキレンオキサイド付加物の合計重量に対する割合、及びアルキレンオキサイド付加物における水酸基濃度を計算し表1に記載した。
【0042】
(製造例4~10:分散剤4~10の製造)
出発物質(フェノール化合物)の種類及びEOの付加モル数を表1に示すように変更した他は製造例1と同様にして分散剤4,5,6,7,8,9,10を製造した。
【0043】
【表1】
【0044】
(実施例1~9、比較例1~3:リチウムイオン電池用正極組成物の作製)
分散剤、バインダー樹脂を表2の重量部に従って秤量し、得られる溶液が固形分濃度60重量%になるようにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加した。遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}による撹拌を2000rpmで4分間行い、バインダー樹脂及び分散剤を完全に溶解した。さらに正極活物質、導電助剤を表2の重量部追加したのちに、あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで4分間行い、リチウムイオン電池用正極組成物を作製した。
正極活物質としては、LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末「HED NCA 7050」(表2中では「NCA」と表記、BTBM製)を使用した。
導電助剤としては、アセチレンブラック「デンカブラックLi100」(表2及び表3中では「AB(Li100)」と表記、デンカ(株)製)を使用した。
バインダー樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(表2中では「PVDF」と表記、キシダ化学製)を使用した。
なお、表2に記載の各材料の配合量は、リチウムイオン電池用正極組成物の固形分を基準とした重量(重量%)で示した。
【0045】
<電極組成物(電極スラリー)の粘度の測定>
上記正極組成物及び下記負極組成物の粘度はレオメーター[MCR302、[Anton Paar社]]を用い、コーンプレートCP25、せん断速度0.1~100s-1、25℃の条件で測定し、せん断速度10s-1における粘度を記録して表2及び表3に記載した。
【0046】
【表2】
【0047】
(充放電試験用電池の作製:正極用)
前記リチウムイオン電池用正極組成物を、大気中でワイヤーバーを用いて集電体(アルミ箔、宝泉(株)製)の片面に塗布し、一晩予備乾燥させた後、15mmφに打ち抜き、更に減圧下(1.3kPa)、120℃で4時間乾燥して、プレス機で狙いの電極密度(電極厚み)までプレスして評価用正極を作製した。
正極側から、前記正極、セパレータ[商品名「#3501」、セルガード社製]、リチウム箔をこの順に重ね合わせ、電解液(キシダ化学製、EC:DEC(1:1v/v%)、LiPF濃度:1mol/L)を注入したのち酸素が入らないように真空ラミネートし、充放電試験用電池を作製した。
【0048】
(実施例10~18、比較例4~6:リチウムイオン電池用負極組成物の作製)
分散剤を表3に記載の配合量に従って秤量し、得られる水溶液が固形分濃度45重量%になるように水を添加し、遊星撹拌型混合混練装置「あわとり練太郎」((株)シンキー製)による撹拌を2000rpmで2分間行った。さらにカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCNa:富士フィルム和光純薬(株)製)を表3に記載の配合量に従って秤量、添加し、遊星撹拌型混合混練装置「あわとり練太郎」((株)シンキー製)による撹拌を2000rpmで5分間行い、CMCNaを溶解した。ついで、負極活物質及び導電助剤を表3に記載の配合量で追加したのちに、あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで4分間行った。最後にスチレンブタジエンゴム(表3中ではSBRと表記、日本ゼオン(株)製)を表3に記載の配合量に従って秤量し、遊星撹拌型混合混練装置「あわとり練太郎」((株)シンキー製)による撹拌を2000rpmで10秒間行いリチウムイオン電池用負極組成物を作製した。
負極活物質としては、黒鉛粒子「SNG-WXA1」(表3中では「黒鉛」と表記)を使用した。
導電助剤としては、アセチレンブラック「デンカブラックLi100」(表2及び表3中では「AB」と表記、デンカ(株)製)及び/又はカーボンナノチューブ「NC7000」(表2及び表3中では「CNT」と表記、Nanocyl社製を使用した。
なお、表3に記載の各材料の配合量は、リチウムイオン電池用負極組成物の固形分を基準とした重量(重量%)で示した。
【0049】
【表3】
【0050】
(充放電試験用電池の作製:負極用)
前記リチウムイオン電池用負極組成物を、大気中でワイヤーバーを用いて集電体(銅箔)の片面に塗布し、一晩予備乾燥させた後、16mmφに打ち抜き、更に減圧下(1.3kPa)、100℃で4時間乾燥して、プレス機で狙いの電極密度(電極厚み)までプレスして評価用負極を作製した。
負極側から、前記負極、セパレータ[商品名「#3501」、セルガード社製]、リチウム箔をこの順に重ね合わせ、電解液(キシダ化学製、EC:DEC(1:1v/v%)、LiPF濃度:1mol/L)を注入したのち酸素が入らないように真空ラミネートし、充放電試験用電池を作製した。
【0051】
<正極ハーフセル充放電試験>
25℃下、充放電測定装置「HJ-SD8」[北斗電工(株)製]を用いて、以下の方法により作製した充放電試験用電池(正極用)の初回性能の評価を行った。
定電流定電圧充電方式(CCCVモードともいう)で0.05Cの電流で4.2Vまで充電した後4.2Vを維持した状態で電流値が0.0025Cになるまで充電した。10分間の休止後、0.05Cの電流で2.5Vまで放電した。
このとき充電した容量を[初回充電容量(mAh)]、放電した容量を[初回放電容量(mAh)]とした。
【0052】
<負極ハーフセル充放電試験>
25℃下、充放電測定装置「HJ-SD8」[北斗電工(株)製]を用いて、以下の方法により充放電試験用電池(負極用)の初回性能の評価を行った。
定電流充電方式(CCモードともいう)で0.05Cの電流で0Vまで充電し、10分間の休止後、0.05Cの電流で1.5Vまで放電した。
このとき充電した容量を[初回充電容量(mAh)]、放電した容量を[初回放電容量(mAh)]とした。
【0053】
以下の式で初回クーロン効率を算出し、結果を表2及び3に示した。
初回クーロン効率(%)=[初回放電容量]/[初回充電容量]×100
また、放電開始及び10秒経過時の電圧から、以下の式で電気抵抗値(10sDCR)を算出した。
10sDCR(Ω・cm)=([放電開始前の電圧(V)]-[放電開始後10秒経過時の電圧(V)])/[放電時電流値(A)]×1.77(1.77cm
【0054】
上記充放電を10回繰り返した。この時の初回充電時の電池容量(初期放電容量)と10サイクル目充電時の電池容量(10サイクル後放電容量)を用いて、下記式から放電容量維持率を算出した。結果を表2及び3に示す。なお、数値が大きいほど、電池の劣化が少ないことを示す。
放電容量維持率(%)=[10サイクル目の放電容量]/ [1サイクル目の放電容量]×100
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のリチウムイオン電池用電極組成物から得られる電極を備えるリチウムイオン電池は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター及びハイブリッド自動車、電気自動車用に用いられるリチウムイオン電池として有用である。