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特開2024-144272ポリエステル系熱収縮フィルム、及び、ポリエステル系熱収縮フィルムの保管方法
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  • 特開-ポリエステル系熱収縮フィルム、及び、ポリエステル系熱収縮フィルムの保管方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144272
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ポリエステル系熱収縮フィルム、及び、ポリエステル系熱収縮フィルムの保管方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 61/06 20060101AFI20241003BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241003BHJP
   B29K 67/00 20060101ALN20241003BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
B29C61/06
C08J5/18 CFD
B29K67:00
B29L7:00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024046390
(22)【出願日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2023053164
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106404
【弁理士】
【氏名又は名称】江森 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 有子
(72)【発明者】
【氏名】金子 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】弓削 秀太
(72)【発明者】
【氏名】入船 達也
(72)【発明者】
【氏名】海野 竜馬
【テーマコード(参考)】
4F071
4F210
【Fターム(参考)】
4F071AA46
4F071AB26
4F071AD02
4F071AE11
4F071AF15
4F071AF28Y
4F071AF30
4F071AF46
4F071AF61Y
4F071AG28
4F071AH04
4F071AH06
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB07
4F071BC01
4F210AA24
4F210AH54
4F210AR06
4F210AR20
4F210QC05
4F210QG01
4F210QG17
4F210RA03
4F210RC02
4F210RG01
4F210RG04
4F210RG43
4F210RG67
(57)【要約】
【課題】所定温度で、所定時間、冷凍保管したような場合であっても、優れた機械的特性等を発揮するポリエステル系熱収縮フィルム等を提供する。
【解決手段】ポリエステル系熱収縮フィルムが、主収縮方向をTD方向とし、それに直交する方向をMD方向とした場合に、下記構成(a)及び(b)を満足する。
構成(a):0℃以下であって、製造直後を基準として、1か月以上経過した後、冷凍保管したポリエステル系熱収縮フィルムの、JIS K 7127:1999に準拠して測定されるMD方向の引張破壊呼びひずみをC1を300%以上の値とする。
構成(b):製造直後であって、冷凍保管前のMD方向の引張破壊呼びひずみをC2としたときに、C1/C2を0.85以上の値とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定温度で、所定時間、冷凍保管してなるポリエステル系熱収縮フィルムにおける主収縮方向をTD方向とし、それに直交する方向をMD方向とした場合に、
前記ポリエステル系熱収縮フィルムが、下記構成(a)及び(b)を満足することを特徴とするポリエステル系熱収縮フィルム。
構成(a):前記所定温度が、0℃以下であって、前記所定時間が、製造直後を基準として、1か月以上経過した後、前記冷凍保管してなるポリエステル系熱収縮フィルムにおける、JIS K 7127:1999に準拠して測定されるMD方向の引張破壊呼びひずみをC1としたときに、当該C1を300%以上の値とする。
構成(b):製造直後であって、前記冷凍保管前のポリエステル系熱収縮フィルムにおける、JIS K 7127:1999に準拠して測定されるMD方向の引張破壊呼びひずみをC2としたときに、C1/C2を0.85以上の値とする。
【請求項2】
前記構成(a)における、前記C1を測定する前記所定時間を、製造直後を基準として、3か月以上、12か月以内の値とすることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系熱収縮フィルム。
【請求項3】
前記所定温度を、-30℃以下の値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル系熱収縮フィルム。
【請求項4】
前記ポリエステル系熱収縮フィルムが、下記構成(c)を更に満足することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル系熱収縮フィルム。
構成(c):JIS K 7125:1999に準拠して測定される動摩擦係数を0.15~0.6の範囲内の値とする。
【請求項5】
前記ポリエステル系熱収縮フィルムのTD方向における、70℃、80℃、及び100℃の温水又は沸騰水中で、10秒の条件で収縮させた場合の熱収縮率をA1~A3としたときに、当該A1を10%以上の値とし、当該A2を30%以上の値とし、当該A3を60%以上の値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル系熱収縮フィルム。
【請求項6】
DSCを用いて測定される融解ピークの吸熱量に関し、前記所定時間経過前の吸熱量を100%としたときに、前記所定時間経過後の吸熱量変化を0~25%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル系熱収縮フィルム。
【請求項7】
前記ポリエステル系熱収縮フィルムの熱収縮前におけるJIS K 7136:2000に準拠して測定されるヘイズを10%以下の値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル系熱収縮フィルム。
【請求項8】
所定温度で、所定時間、冷凍保管してなるポリエステル系熱収縮フィルムの保管方法であって、
前記ポリエステル系熱収縮フィルムにおける主収縮方向をTD方向とし、それに直交する方向をMD方向とした場合に、前記ポリエステル系熱収縮フィルムが、下記構成(a)及び(b)を満足することを特徴とするポリエステル系熱収縮フィルムの保管方法。
構成(a):前記所定温度が、0℃以下であって、前記所定時間が、製造直後を基準として、1か月以上経過した後、前記冷凍保管してなるポリエステル系熱収縮フィルムにおける、JIS K 7127:1999に準拠して測定されるMD方向の引張破壊呼びひずみをC1としたときに、当該C1を300%以上の値とする。
構成(b):製造直後であって、前記冷凍保管前のポリエステル系熱収縮フィルムにおける、JIS K 7127:1999に準拠して測定されるMD方向の引張破壊呼びひずみをC2としたときに、C1/C2を0.85以上の値とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系熱収縮フィルム、及び、ポリエステル系熱収縮フィルムの保管方法に関する。
より詳しくは、所定条件で保管した後であっても、安定的に機械的特性等を発揮するポリエステル系熱収縮フィルム(以下、単に、熱収縮フィルムと称する場合がある。)、及び、そのような熱収縮フィルムの保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱収縮フィルムは、PETボトル等のラベル用基材フィルムとして幅広く用いられている。特に、ポリスチレン樹脂やポリエステル樹脂からなる熱収縮フィルムは、透明性や強度に優れていることから、広範に使用されている。
ここで、熱収縮フィルムの発注量等によるが、製造時期が異なり、かつ、複数種の熱収縮フィルムを、同一倉庫内で、製造後、所定期間に渡って、保管することが、行われている。
そのため、通常、室温(23℃)で保管されるものの、保管期間中に劣化し、特に、ポリエステル系熱収縮フィルムの使用時に破断しやすくなる現象が確認されている。
【0003】
そこで、所定組成物を主成分としてなるA層、B層及びC層の少なくとも3層構造の熱収縮性フィルムであって、300nm以下の光線透過率が5%以下であり、JIS K 7128-3に準拠して測定される熱収縮性フィルムの主収縮方向の引裂強度TTDと、それと直交する方向の引裂強度TMDの比TTD/TMDが、0.4以上、1.6以下である熱収縮性積層フィルムが提案されている(特許文献1参照)。
A層:多価カルボン酸残基及び多価アルコール残基を含有する非晶性ポリエステル系樹脂組成物である。
B層:スチレン系樹脂組成物である。
C層:スチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体又はその水素添加誘導体を含み、該共重合体又は水素添加誘導体中のスチレン系炭化水素の含有率が5質量%以上40質量%以下である樹脂組成物である。
そして、JIS K 7127に準拠して測定される30℃、30日保管後の、熱収縮性フィルムの主収縮方向と直交する方向の-5℃における引張破断伸度を100%以上の値としてなる熱収縮性フィルムである。
【0004】
又、55℃、35%RH雰囲気下に、48時間保管した熱収縮性ポリエステル系フィルムを評価することが提案されている(特許文献2参照)。
より具体的には、ポリエチレンテレフタレートを主たる構成成分とする熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、下記要件(1)~(3)を満たすことを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムである。
(1)70℃の温水に10秒間浸漬したときの主収縮方向の温湯収縮率が20%以上、60%以下である。
(2)55℃、35%RH雰囲気下で48時間保管した場合の主収縮方向の自然収縮率が6%未満である。
(3)所定の屈折率差が0.06以上である。
【0005】
又、下記樹脂組成物Aによるフィルムを中間層(A)とし、樹脂組成物Bによるフィルムを両外面層(B)とすることを特徴とする熱収縮性積層フィルムが提案されている(特許文献3参照)。
<樹脂組成物A>
メタロセン触媒による直鎖状低密度ポリエチレン樹脂45~65質量%、低密度ポリエチレン樹脂5~25質量%、環状オレフィン系樹脂5~15質量%及び石油樹脂5~25質量%。
<樹脂組成物B>
環状オレフィン系樹脂70~90質量%及び直鎖状低密度ポリエチレン樹脂10~30質量%。
そして、得られたラベル締着包装のペットボトルに水を充填し、-5℃で24時間冷凍保存し、氷結されたことを確認し、ミシン目部分を目視し、破断の有無を確認するという評価基準である。
すなわち、その時点で、ラベル締着包装に破断があれば問題がある(×)という評価であり、破断がなければ問題無し(〇)という、感覚的な評価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007―160543号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2017―024382号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2006―027052号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の熱収縮フィルムの保管条件は、熱収縮フィルムの種類や形態が厳格に制限され、比較的短期間における機械的特性や、熱収縮率ばかりの評価であって、評価項目は多いものの、未だ信頼性に欠けるという問題があった。
例えば、特許文献1は、30℃、30日保管後の、3層構造(A~C層)の熱収縮性フィルムの-5℃における引張破断伸度を評価基準とするものであり、低温条件で、引張破断伸度を測定する必要があって、煩雑な測定方法を採用しなければならず、かつ、その値がばらつきやすいという問題が見られた。
しかも、3層構造のうち、A層は、所定の非晶性ポリエステル系樹脂組成物、B層は、スチレン系樹脂組成物、C層は、スチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体又はその水素添加誘導体等の樹脂組成物から、それぞれ形成する必要があり、測定試料の形態への制約が極めて大きいという問題が見られた。
【0008】
又、特許文献2は(a)70℃、10秒間、温水浸漬したときの、熱収縮性ポリエステル系フィルムにおける主収縮方向の収縮率、(b)55℃、35%RH雰囲気下に48時間保管した場合の、熱収縮性ポリエステル系フィルムにおける主収縮方向の自然収縮率、更には、(c)熱収縮性ポリエステル系フィルムにおける所定屈折率を評価基準とするものであった。
すなわち、(b)として、ばらつきが相当大きい自然収縮率等を評価基準としていた。
【0009】
更に、特許文献3は、所定樹脂からなる3層構造の熱収縮性積層フィルムを、-5℃で24時間冷凍保存し、氷結させた場合のミシン目部分の破断の有無を評価する方法を採用しており、煩雑な測定方法を実施しなければならず、かつ、その評価結果が極めてばらつきやすいという問題が見られた。
しかも、3層構造のうち、両外面層(B)を、所定割合の環状オレフィン系樹脂及び直鎖状低密度ポリエチレン樹脂からなる樹脂組成物から形成しなければならず、かつ、中間層(A)を、所定の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂と、低密度ポリエチレン樹脂と、環状オレフィン系樹脂と、石油樹脂とからなる樹脂組成物から形成する必要があり、測定試料の態様への制約が極めて大きいという問題も見られた。
【0010】
その上、従来の熱収縮フィルムの場合、ポリエステル系熱収縮フィルムであっても、その種類や構造が多岐にわたり、かつ、製造してから、実使用するまでに、同一倉庫等に、所定期間保管することになるが、その保管時間の差異によって、熱収縮フィルムの機械的特性のばらつきが大きくなりやすいという問題が見られた。
すなわち、複数種のポリエステル系熱収縮フィルムであって、特に、単層構造のポリエステル系熱収縮フィルムを、ロール状にて、異なる製造時期に作成し、同一倉庫に保管したような場合には、上記特許文献1~3の評価基準は、信頼性に欠けることから使用することができず、新たな評価基準が求められていた。
【0011】
そこで、本発明の発明者らは、ポリエステル系熱収縮フィルムであっても、製造してから、所定温度で、所定時間経過後の熱収縮フィルムにおけるMD方向の引張破壊呼びひずみ(C1)の値、及び、かかるC1と、製造直後に測定されるMD方向の引張破壊呼びひずみ(C2)との比率(C1/C2)等を制御することによって、劣化程度を、精度良く検知できることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明は、ポリエステル系熱収縮フィルムの劣化品を簡易条件で排除し、ひいては、優れた機械的特性等を安定的に発揮する熱収縮フィルム、及び、そのような熱収縮フィルムの保管方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、所定温度で、所定時間、冷凍保管してなるポリエステル系熱収縮フィルムにおける主収縮方向をTD方向とし、それに直交する方向をMD方向とした場合に、下記構成(a)及び(b)を満足するポリエステル系熱収縮フィルムが提供され、上述した問題を解決することができる。
構成(a):所定温度が、0℃以下であって、所定時間が、製造直後を基準として、1か月以上経過した後、冷凍保管してなるポリエステル系熱収縮フィルムにおける、JIS K7127:1999に準拠して測定されるMD方向の引張破壊呼びひずみをC1としたときに、当該C1を300%以上の値とする。
構成(b):製造直後であって、冷凍保管前のポリエステル系熱収縮フィルムにおける、JIS K 7127:1999に準拠して測定されるMD方向の引張破壊呼びひずみをC2としたときに、C1/C2を0.85以上の値とする。
すなわち、ポリエステル系熱収縮フィルムの製造後、所定条件で冷凍保管した後のMD方向の引張破壊呼びひずみ(C1)の値と、製造直後であって、冷凍保管前(通常、製造してから24時間以内)のMD方向の引張破壊呼びひずみ(C2)との比率(C1/C2)を所定範囲に制御することによって、ポリエステル系熱収縮フィルムの劣化品を簡易条件で排除し、引張破断等を有効に防止することができる。
より具体的には、所定比率(C1/C2)と、機械的特性との間で、良好な相関関係があって、ポリエステル系熱収縮フィルムの保管条件(温度や時間等)のばらつきや、熱収縮フィルムの形態等にかかわらず、優れた機械的特性等を安定的に発揮することができる。
【0013】
又、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムを構成するにあたり、構成(a)における、C1を測定する所定時間を、製造直後を基準(通常、製造してから24時間以内)として、3か月以上、12か月以内の値とすることが好ましい。
このように所定時間を制限することにより、保管温度にもよるが、熱収縮フィルムの劣化品を排除しやすくなり、種類や形態にかかわらず、引張破断等を有効に防止することができる。
【0014】
又、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムを構成するにあたり、冷凍保管する所定温度を、-30℃以下の値とすることが好ましい。
このように所定温度を制限することにより、長期間にわたって、熱収縮フィルムの劣化品を排除しやすくなり、種類や形態にかかわらず、引張破断等を有効に防止することができる。
【0015】
又、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムを構成するにあたり、ポリエステル系熱収縮フィルムが、下記構成(c)を更に満足することが好ましい。
構成(c):JIS K 7125:1999に準拠して測定される動摩擦係数を0.15~0.6の範囲内の値とする。
このように、動摩擦係数を制御することによって、熱収縮フィルムをロール状に加工したような場合であっても、更に良好な取り扱い性を発揮し、かつ、熱収縮率の制御についても容易に行うことができる。
【0016】
又、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムを構成するにあたり、ポリエステル系熱収縮フィルムのTD方向における、70℃、80℃、及び100℃の温水又は沸騰水中で、10秒の条件で収縮させた場合の熱収縮率をA1~A3としたときに、当該A1を10%以上の値とし、当該A2を30%以上の値とし、当該A3を60%以上の値とすることが好ましい。
このように構成すると、通常、熱収縮フィルムで評価されている、70℃~100℃、10秒の熱収縮特性と、比較し、本発明との対応関係を判断することができる。
なお、熱収縮フィルムの熱収縮率A1~A3が所定値を満足するのは、製造時から経過した所定時間が経過する前はもちろんのこと、所定時間が経過後に満足することが好ましい。
【0017】
又、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムを構成するにあたり、DSCを用いて測定される融解ピークの吸熱量に関し、所定時間経過前の吸熱量を100%としたときに、所定時間経過後の吸熱量変化を0~25%の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成すると、熱収縮フィルムにおけるエンタルピー緩和に基づく吸熱量変化を制限することによって、熱収縮特性等の劣化を推定することができ、ひいては、定量的に、熱収縮フィルムの劣化を確認することができる。
【0018】
又、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムを構成するにあたり、ポリエステル系熱収縮フィルムの熱収縮前におけるJIS K 7136:2000に準拠して測定されるヘイズを10%以下の値とすることが好ましい。
このように構成すると、熱収縮フィルムの汎用性が高まって、広範な用途に使用することができる。
なお、熱収縮フィルムが所定のヘイズ値を有するのは、製造時から経過した所定時間が経過する前はもちろんのこと、所定時間が経過後においても満足することが好ましい。
【0019】
又、本発明の別の態様は、所定温度で、所定時間、冷凍保管してなるポリエステル系熱収縮フィルムの保管方法であって、ポリエステル系熱収縮フィルムにおける主収縮方向をTD方向とし、それに直交する方向をMD方向とした場合に、ポリエステル系熱収縮フィルムが、下記構成(a)及び(b)を満足することを特徴とするポリエステル系熱収縮フィルムの保管方法である。
構成(a):所定温度が、0℃以下であって、所定時間が、製造直後を基準として、1か月以上経過した後、冷凍保管してなるポリエステル系熱収縮フィルムにおける、JIS K 7127:1999に準拠して測定されるMD方向の引張破壊呼びひずみをC1としたときに、当該C1を300%以上の値とする。
構成(b):製造直後であって、冷凍保管前のポリエステル系熱収縮フィルムにおける、JIS K 7127:1999に準拠して測定されるMD方向の引張破壊呼びひずみをC2としたときに、C1/C2を0.85以上の値とする。
このように、所定条件を満足するように冷凍保管することによって、不良品の判別が容易になるばかりか、同一倉庫等で、熱収縮フィルムを、1か月程度の短期間はもちろんのこと、例えば、6月以上の長期間の保管後であっても、所定の熱特性や機械的特性を再現性良く発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1(a)~(c)は、それぞれ熱収縮フィルムの形態を説明するために供する図である。
図2図2(a)~(b)は、それぞれ熱収縮フィルムにおけるMD方向の引張破壊呼びひずみの測定方法、及び、得られたSSチャート(応力-歪曲線)を説明するために供する図である。
図3図3は、ポリエステル系熱収縮フィルムにおける、保管温度条件(23℃、0℃、-35℃、-60℃)を変えた場合のMD方向の引張破壊呼びひずみ(C1)と、経過時間(月)との関係を説明するために供する図である。
図4図4(a)は、熱収縮フィルムにおける、保管条件を変えた場合のMD方向の引張破壊呼びひずみの比率(C1/C2)と、経過時間(月)との関係を説明するために供する図であり、図4(b)は、保管条件を変えた場合のMD方向の引張破壊呼びひずみの比率(C1/C2)と、フィルム破断割合(相対値)との関係を説明するために供する図である。
図5図5(a)~(b)は、それぞれ熱収縮フィルムにおける動摩擦係数の測定方法及びその測定結果を説明するための図である。
図6図6は、熱収縮フィルムの保管条件の差異による動摩擦係数と、経過時間と、の関係を説明するための図である。
図7図7は、熱収縮フィルムにおける冷凍保管前と、-60℃及び23℃で、それぞれ12か月間、冷凍保管した後のDSCチャートである。
図8図8(a)~(c)は、それぞれ熱収縮フィルムにおける冷凍保管状態を説明するために供する図(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、図1(a)~(c)に例示するポリエステル系熱収縮フィルム10であって、所定温度で、所定時間、冷凍保管してなるポリエステル系熱収縮フィルムにおける主収縮方向をTD方向とし、それに直交する方向をMD方向とした場合に、ポリエステル系熱収縮フィルムが、下記構成(a)及び(b)を満足することを特徴とするポリエステル系熱収縮フィルムである。
構成(a):所定温度が、0℃以下であって、所定時間が、製造直後を基準として、1か月以上経過した後、冷凍保管してなるポリエステル系熱収縮フィルムにおける、JIS K7127:1999に準拠して測定されるMD方向の引張破壊呼びひずみをC1としたときに、当該C1を300%以上の値とする。
構成(b):製造直後であって、冷凍保管前のポリエステル系熱収縮フィルムにおける、JIS K 7127:1999に準拠して測定されるMD方向の引張破壊呼びひずみをC2(以下、初期値と称する場合がある。)としたときに、C1/C2を0.85以上の値とする。
以下、第1の実施形態の熱収縮フィルムの構成に分けて、適宜、図面を参照しながら、具体的に説明する。
【0022】
1.構成樹脂
(1)種類
熱収縮フィルムの構成樹脂として、ポリエステル樹脂を主成分とした樹脂であれば適宜用いることができる。
従って、熱収縮性、耐熱性、機械的強度、透明性等がより優れていることから、全体量に対して、ポリエステル樹脂を50重量%以上とすることが好ましく、80重量%以上とすることがより好ましく、95重量%以上とすることが更に好ましい。
【0023】
(2)ポリエステル樹脂
熱収縮フィルムの構成樹脂として、ポリエステル樹脂を用いる場合、基本的に、その種類は問わないが、通常、ジオール及びジカルボン酸からなるポリエステル樹脂、ジオール及びヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル樹脂、ジオール、ジカルボン酸、及びヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル樹脂、あるいは、これらのポリエステル樹脂の混合物であることが好ましい。
【0024】
ここで、ポリエステル樹脂の化合物成分としてのジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、1,4-ヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、芳香族ジオール等の少なくとも一つが挙げられる。
そして、これらの中でも、特に、エチレングリコール、ジエチレングリコール、及び1,4-ヘキサンジメタノールが好ましい。
【0025】
又、同じくポリエステル樹脂の化合物成分としてのジカルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪酸ジカルボン酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、あるいは、これらのエステル形成性誘導体等の少なくとも一つが挙げられる。
【0026】
そして、これらの中でも、特に、テレフタル酸が好ましい。
又、同じくポリエステル樹脂の化合物成分としてのヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン等の少なくとも一つが挙げられる。
【0027】
又、非結晶性ポリエステル樹脂として、例えば、テレフタル酸少なくとも80モル%からなるジカルボン酸と、エチレングリコール50~80モル%及び、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール及びジエチレングリコールから選ばれた1種以上のジオール20~50モル%からなるジオールよりなる非結晶性ポリエステル樹脂を好適に使用できる。必要に応じ、フィルムの性質を変化させるために、他のジカルボン酸及びジオール、あるいはヒドロキシカルボン酸を使用してもよい。又、それぞれ単独でも、あるいは、混合物であっても良い。
【0028】
一方、結晶性ポリエステル樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等があるが、それぞれ単独であっても、あるいは混合物であっても良い。
【0029】
又、ポリエステル樹脂が、非結晶性ポリエステル樹脂と、結晶性ポリエステル樹脂との混合物である場合、良好な耐熱性や収縮率等を得るために、ポリエステル系熱収縮フィルムを構成する樹脂の全体量に対し、非結晶性ポリエステル樹脂の配合量を、90~100重量%の範囲内の値とすることが好ましく、91~100重量%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0030】
2.構成(a):引張破壊呼びひずみC1
構成(a)は、製造後、所定温度(例えば、23℃)で、所定時間(例えば、1か月以上)、保管後の熱収縮フィルムにおける、JIS K 7127:1999に準拠して測定されるMD方向の引張破壊呼びひずみをC1としたときに、C1を300%以上の値とする旨の構成である。
すなわち、ダンベル状に成形した試験片を、所定条件で保管後に引張荷重を加えて、試験片が破断したときの最大荷重を断面積で割った値を引張破壊応力、試験片が降伏したときの最大荷重を断面積で割った値を引張降伏応力として定義している。
よって、このように試験片が破断したときの現象は、熱収縮フィルムのMD方向の引張破壊呼びひずみと対応しており、所定の熱収縮特性と、比較検討することができる。
従って、構成(a)である、引張破壊呼びひずみC1を310~800%の範囲内の値とすることがより好ましく、320~600%の範囲内の値することが更に好ましい。
【0031】
ここで、図2(a)~(b)に言及して、JIS K 7127:1999に基づいて、熱収縮フィルムにおけるMD方向の引張破壊呼びひずみの測定方法を説明する。
すなわち、図2(a)は、JIS K 7721:2009に準拠してなる引張試験機の概要図である。
そして、本体に対して、平行に取り付けてあるバーの中央付近に取り付けてある、上下方向のチャック12a、12bの間に、測定試料(所定ダンベル形状)としての熱収縮フィルムを挟み込み、所定スピード(例えば、300mm/分)で、チャック12aを上昇させる構成である。
そして、チャック12aに接続してなるロードセル12cによって、測定試料の伸び(ひずみ)に対応した応力を測定し、それを計測装置(図示せず。)によって、外部出力する構成の引張試験機である。
【0032】
次いで、図2(a)に示す引張試験機を用いて、図2(b)に示すような、測定試料についてのSS曲線(応力ー歪曲線)を得ることができる。
そして、かかるSS曲線上の測定試料が破断した時点の応力に対応して、熱収縮フィルムにおけるMD方向の引張破壊呼びひずみ(初期値がC1)と定義することができる。
【0033】
次いで、図3に言及して、熱収縮フィルムにおけるMD方向の引張破壊呼びひずみ(C1)と、経過時間(月)との関係を説明する。
すなわち、図3の横軸に、異なる保管条件における経過時間が採って示してあり、縦軸に、ポリエステル系熱収縮フィルムにおけるMD方向の引張破壊呼びひずみ(C1)が採って示してある。
そして、図3中、ラインA1が、-60℃の保管温度条件に対応しており、ラインB1が、-35℃の保管温度条件に対応しており、ラインC1が、0℃の保管温度条件に対応しており、更に、ラインD1が、23℃の保管温度条件に対応している。
これらのラインA1~ラインD1のプロフィール変化の比較より、保管温度条件の違いに起因して、少なくとも1~3か月経過後には、MD方向の引張破壊呼びひずみ(C1)が、差異が生じ始めており、より具体的には、保管温度条件が低いほど、保管前の初期値を維持している傾向がみられている。
次いで、6か月経過後には、保管温度条件の違いに起因して、MD方向の引張破壊呼びひずみ(C1)において、明確に差異が確認でき、少なくとも0℃、-35℃及び-60℃の保管温度条件であれば、それぞれ、保管前の引張破壊呼びひずみ(C1)についての初期値の85%以上の値を維持している傾向がみられている。
更に、12か月経過後には、-35℃及び-60℃の保管温度条件であればそれぞれ、少なくとも、引張破壊呼びひずみ(C1)につき、保管前の初期値の50%以上の値を維持している傾向が見られている。
よって、保管温度条件が、0℃~-約60℃の範囲内、より好ましくは、-35℃~-60℃の範囲内、特に好ましくは、-60℃前後であれば、経過時間が少なくとも1~3か月以上の時期に、ポリエステル系熱収縮フィルムにおける引張破壊呼びひずみ(C1)の劣化度合を確認し、ポリエステル系熱収縮フィルムとしての劣化状態を推定できると言える。
【0034】
3.構成(b):引張破壊呼びひずみの比率(C1/C2)
構成(b)は、所定条件で所定時間保管する前、すなわち、製造直後等の熱収縮フィルムにおける、JIS K 7127:1999に準拠して測定されるMD方向の引張破壊呼びひずみをC2としたときに、C1/C2を0.85以上の値とする旨の構成である。
すなわち、引張荷重を加えて、試験片が破断したときの最大荷重を断面積で割った値を引張破壊応力、試験片が降伏したときの最大荷重を断面積で割った値を引張降伏応力として示している。
よって、このように試験片が破断したときの現象は、熱収縮フィルムのMD方向の引張破壊呼びひずみと対応することから、所定の熱収縮特性と、比較検討することができる。
なお、所定条件で所定時間保管後のC1の数値や比率、更には、実用上の使い勝手や用途等との関係で、具体的には、C2を300%以上の値とすることが好ましく、400~800%の範囲内の値とすることがより好ましく、450~600%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0035】
ここで、図4(a)に言及して、ポリエステル系熱収縮フィルムにおけるMD方向の引張破壊呼びひずみの比率(C1/C2)と、経過時間との関係を説明する。
すなわち、図4(a)の横軸に、実施例1~2及び比較例1~2以外も含むが、異なる保管温度における経過時間(月)が採って示してあり、縦軸に、熱収縮フィルムにおけるMD方向の引張破壊呼びひずみの比率(C1/C2)が採って示してある。
そして、図4(a)中、特性曲線A2が、経過時間を変えて、熱収縮フィルムを-60℃の温度条件に保管した場合の特性曲線であり、特性曲線B2が、同様に、経過時間を変えて、23℃の温度条件に保管した場合に対応している。
これらの特性曲線A2及びB2の比較より、保管温度の相違に起因して、MD方向の引張破壊呼びひずみの比率(C1/C2)に関し、1~3か月経過後には、差異が生じ始め、6か月経過後には、明確に差異が確認でき、12か月経過後には、更に明確に差異が確認することができる。
【0036】
よって、保管温度等によるものの、経過時間が少なくとも1~3か月であれば、熱収縮フィルムにおける引張破壊呼びの比率(C1/C2)の差異が判断でき、熱収縮フィルムの劣化の一旦を精度良く推定できると言える。
なお、かかる熱収縮フィルムの引張破壊呼びの比率(C1/C2)の変化は、熱収縮フィルム中におけるアンチブロッキング剤や低分子量物等の表面移行が原因と考えられ、ひいては、結晶状態の変化の影響も原因の一つと推認される。
【0037】
次いで、図4(b)に言及して、ポリエステル系熱収縮フィルムにおけるMD方向の引張破壊呼びひずみの比率(C1/C2)と、フィルム破断割合(%)に基づく相対評価との関係を説明する。
すなわち、図4(b)の横軸に、実施例1~2及び比較例1~2以外も含むが、MD方向の引張破壊呼びひずみの比率(C1/C2)が採って示してあり、縦軸に、フィルム破断割合(%)に基づく相対評価(-)が採って示してある。
【0038】
そして、図4(b)中の特性曲線によれば、C1/C2の比率が、約0.1~0.8までは、フィルム破断割合(%)に基づく相対評価が0であって、極めて悪い評価結果である。
次いで、C1/C2の比率が約0.8~0.83程度までは、フィルム破断割合(%)に基づく相対評価が1であって、未だ不十分な評価結果である。
それに対して、C1/C2の比率が0.85以上になると、急激に、フィルム破断割合(%)に基づく相対評価が良好になることが理解される。
更に、C1/C2の比率が0.95以上になると、ほぼフィルム破断割合(%)に基づく相対評価が最高点の5となることも理解される。
よって、かかる特性曲線の傾向から、良好なフィルム破断割合(%)を得るためには、C1/C2の比率を0.85以上の値とすることが好ましいと言える。
逆に言えば、製造時等のMD方向の引張破壊呼びひずみの値を所定値(300%以上)とすることを前提として、C1/C2の比率を所定値(0.85以上)とすることにより、フィルム破断割合(%)を低下させ、安定的な機械的強度を制御することができる。
【0039】
4.構成(c):動摩擦係数
構成(c)は、所定温度で、所定時間保管後のポリエステル系熱収縮フィルムにおける、JIS K 7125:1999に準拠して測定される動摩擦係数に関する構成であって、かかる動摩擦係数を0.15~0.6の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる動摩擦係数が0.15未満の値になると、過度に表面が滑りやすくなって、取り扱いが困難となったり、ロール状に席巻しにくくなったりする場合があるためである。
一方、かかる動摩擦係数が0.6を超えた値になると、表面平滑性が低下し、熱収縮率等の値の調整が困難となる場合があるためである。
従って、かかる動摩擦係数を0.25~0.55の範囲内の値とすることがより好ましく、0.3~0.5の範囲内の値とすることが更に好ましい。
なお、構成(c)に関し、所定温度で、所定時間、冷凍保管する前のポリエステル系熱収縮フィルムにおいても、かかる動摩擦係数を0.15~0.6の範囲内の値とすることが好ましい。
すなわち、所定温度で、所定時間、冷凍保管した場合であっても、その前後において、動摩擦係数が変化しないことが好ましく、より具体的には、冷凍保管後の動摩擦係数/冷凍保管前の動摩擦係数の割合が、0.5~1.2の割合となることが好ましく、0.8~1.1の割合となることがより好ましく、0.9~1.05の割合となることが更に好ましい。
【0040】
ここで、図5(a)に示すように、動摩擦係数は、200gの荷重18をのせたすべり片16につき、測定するポリエステル系熱収縮フィルム10上を100mm/minの速度で滑らせた時の摩擦係数を、ロードセル24にて測定するものである。
そして、動摩擦係数の場合は、静摩擦係数と異なり、ロードセル24が動き始めるときの衝撃を吸収するためのスプリング22を用いず、静摩擦力のピークを無視し、図5(b)に示すように、接触面間の相対ずれ運動を開始した後から60mmまでの平均荷重が摩擦力FDであって、具体的には、下記式(1)より動摩擦係数μD(-)を求めることができる。
【0041】
【数1】
【0042】
μD:動摩擦係数(-)
D:動摩擦力(N)
P:すべり片の重量によって生じる法線力(1.96N)
【0043】
ここで、図6に言及して、ポリエステル系熱収縮フィルムにおける動摩擦係数と、経過時間との関係を説明する。
すなわち、図6の横軸に、経過時間(月)が採って示してあり、縦軸に、熱収縮フィルムにおける動摩擦係数(-)が採って示してある。
そして、特性曲線A3が、-60℃の保管条件に対応し、特性曲線B3が、室温(23℃)の保管条件に対応している。
これらの特性曲線A3及びB3とも、動摩擦係数に関し、約1~3か月経過後で、差異が生じ始め、6か月経過後には、明確に、初期値との差異を確認することができる。
よって、保管条件の差異によらず、経過時間が少なくとも3か月以上であれば、初期値と、所定時間経過後の動摩擦係数の差異を判断し、熱収縮フィルムとしての劣化程度を精度良く推定できると言える。
【0044】
5.構成(d)~(f)(熱収縮率)
(1)又、構成(d)~(f)は、それぞれ熱収縮フィルムで評価されている、一般的な熱収縮率である。
従って、所定時間保管後の熱収縮フィルムにつき、70℃、10秒、80℃、10秒、更には、100℃、10秒の熱収縮率(A1、A2、A3)を、下記式(2)よりそれぞれ測定し、他の熱収縮フィルムの熱収縮率と比較判断することができる。
【0045】
【数2】
【0046】
L:加熱処理前の測定サンプル長さ(cm)
0:加熱処理後の測定サンプル長さ(cm)
【0047】
(2)構成(g):ヘイズ
又、構成(g)は、所定時間保管後のポリエステル系熱収縮フィルムのJIS K 7136:2000に準拠して測定されるヘイズを10%以下の値とする構成要件である。
この理由は、このようにヘイズを所定値以下の値に制限することにより、熱収縮フィルムの透明性についても、定量性をもって制御しやすくなり、かつ、透明性が良好なことから、汎用性を更に高めることができるためである。
【0048】
より具体的には、熱収縮前のヘイズが、10%を超えた値になると、透明性が低下し、PETボトルに対する装飾用途等への適用が困難となる場合がある。
一方、熱収縮前のヘイズが、過度に小さくなると、安定的に制御することが困難になって、生産上の歩留まりが著しく低下する場合がある。
従って、構成(g)として、所定時間保管後のフィルムのヘイズを0.1~7%の範囲内の値とすることがより好ましく、0.5~3%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0049】
(5)構成(h):エンタルピー変化
又、構成(h)は、所定時間保管後の熱収縮フィルムにつき、DSC(示差走査熱量計)を用いて測定されるエンタルピー緩和(結晶融解)に基づく、吸熱ピークに対応した吸熱量変化(エンタルピー変化と称する場合もある。)を、所定時間経過前の吸熱量を100%としたときに、0~25%の範囲内の値とする構成要件である。
すなわち、DSCを用いて、空気気流中、昇温速度10℃/minの条件で、吸熱ピークのエンタルピー値を測定し、熱収縮フィルムの劣化状態を判断することができる。
【0050】
ここで、図7に言及して、ポリエステル系熱収縮フィルムにおける、DSCで測定した吸熱ピークに対応したエンタルピー値と、経過時間との関係を説明する。
すなわち、図7中、ラインL1が、製造直後(通常、24時間以内)のポリエステル系熱収縮フィルム(実施例1に相当)に対応したDSC曲線である。
同様に、ラインL2が、製造直後から、-60℃で12か月保管した後のポリエステル系熱収縮フィルムに対応したDSC曲線であり、ラインL3が、製造直後から、23℃で12か月保管した後のポリエステル系熱収縮フィルムに対応したDSC曲線である。
明らかに、ラインL2のDSC曲線は、ラインL1のDSC曲線と、吸熱ピークを含めて形態上の顕著な差はないが、ラインL3は、結晶転移付近のDSC曲線の吸熱ピークの形態が変化し、かつ、所定のエンタルピー値も小さく変化していることが理解される。
よって、かかる熱収縮フィルムにおける、DSCで測定したDSC曲線や、その吸熱ピークに対応したエンタルピー値から、熱収縮フィルムにおける劣化状態が推認できる。
従って、DSCで測定した吸熱ピークに対応した吸熱ピークにおける吸熱量変化を、製造直後のそれを100%としたときに、20%以下とすることが好ましく、15%以下とすることがより好ましく、10%以下とすることが更に好ましいと言える。
【0051】
(6)その他1
第1の実施形態の熱収縮フィルム中、又は、その片面、あるいは両面に、各種添加剤を配合したり、それらを付着させたりすることが好ましい。
より具体的には、加水分解防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、着色剤、有機フィラー、無機フィラー、有機繊維、無機繊維等の少なくとも一つを、ポリエステル系熱収縮フィルムの全体量に対して、通常、0.01~10重量%の範囲で配合することが好ましく、0.1~1重量%の範囲で配合等することがより好ましい。
【0052】
又、図1(b)に示すように、これらの各種添加剤の少なくとも一つを含む他の樹脂層10a、10bを、ポリエステル系熱収縮フィルム10の片面、又は両面に、積層することも好ましい。
その場合、ポリエステル系熱収縮フィルムの厚さを100%としたとときに、追加で積層する他の樹脂層の単層厚さ又は合計厚さを、通常、0.1~10%の範囲内の値とすることが好ましい。
【0053】
そして、他の樹脂層を構成する主成分としての樹脂は、熱収縮フィルムと同様のポリエステル樹脂であっても良く、あるいは、それとは異なるアクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、ゴム系樹脂等の少なくとも一つであることが好ましい。
【0054】
更に、熱収縮フィルムを多層構造にして、加水分解防止効果や機械的保護を更に図ったり、あるいは、図1(c)に示すように、熱収縮フィルムの収縮率が、面内で均一になったりするように、ポリエステル系熱収縮フィルム10の表面に、収縮率調整層10cを設けることも好ましい。
かかる収縮率調整層は、熱収縮フィルムの収縮特性に応じて、接着剤、塗布方式、あるいは加熱処理等によって、積層することができる。
【0055】
より具体的には、収縮率調整層の厚さは、0.1~3μmの範囲であって、所定温度における熱収縮フィルムの収縮率が過度に大きい場合には、それを抑制するタイプの収縮率調整層を積層することが好ましい。
又、所定温度における熱収縮フィルムの収縮率が過度に小さい場合には、それを拡大するタイプの収縮率調整層を積層することが好ましい。
よって、熱収縮フィルムとして、収縮率が異なる各種熱収縮フィルムを作成することなく、収縮率調整層によって、所望の収縮率を得ようとするものである。
【0056】
(7)その他2
第1の実施形態の熱収縮フィルムの製造方法は特に制限されるものではないが、典型的には、下記工程に沿って製造することが好ましい。
【0057】
1)原材料の準備及び混合工程
まずは、原材料として、結晶性ポリエステル樹脂、非結晶性ポリエステル樹脂、ゴム系樹脂、帯電防止剤、加水分解防止剤等の、主剤や添加剤を準備することが好ましい。
次いで、攪拌容器内に、秤量しながら、準備した結晶性ポリエステル樹脂や非結晶性ポリエステル樹脂等を投入し、攪拌装置を用いて、均一になるまで、混合攪拌することが好ましい。
【0058】
2)原反シートの作成工程
次いで、均一に混合した原材料を、絶乾状態に乾燥することが好ましい。
次いで、典型的には、押し出し成形を行い、所定厚さの原反シートを作成することが好ましい。
より具体的には、例えば、押出温度260℃の条件で、L/D24、押出スクリュー径50mmの押出機(田辺プラスチック機械株式会社製)により、押し出し成形を行い、所定厚さ(通常、10~300μm)の原反シートを得ることができる。
【0059】
3)熱収縮フィルムの作成
次いで、得られた原反シートにつき、熱収縮フィルム製造装置を用い、ロール上やロール間を移動させながら、加熱押圧して、熱収縮フィルム(ポリエステル系熱収縮フィルム等)を作成する。
すなわち、所定の延伸温度、延伸倍率で、フィルム幅を基本的に拡大させながら、加熱押圧しながら、所定方向に延伸することにより、熱収縮フィルムを構成する分子を所定形状に結晶化させることが好ましい。
そして、その状態で固化させることによって、装飾やラベル等として用いられる熱収縮性の熱収縮フィルムを作成することができる。
【0060】
4)熱収縮フィルムの検査工程
作成した熱収縮フィルムにつき、連続的又は間断的に、下記特性等を測定し、所定の検査工程を設けることが好ましい。
すなわち、所定の検査工程によって、下記特性等を測定し、所定範囲内の値に入ることを確認することによって、より均一な収縮特性等を有する熱収縮フィルムとすることができる。
・外観についての目視検査
・厚さのばらつき測定
・ガラス転移点の測定
・融点及び融解熱の測定
・引張弾性率測定
・引裂強度測定
・SSカーブによる粘弾性特性測定
【0061】
(8)その他3
熱収縮フィルムの使用方法に関する実施形態は特に制限されるものではないが、公知の熱収縮フィルムの使用方法を、いずれも好適に適用することができる。
例えば、熱収縮フィルムの使用方法を実施するに際して、まずは、熱収縮フィルムを、適当な長さや幅に切断するとともに、長尺筒状物を形成する。
次いで、当該長尺筒状物を、自動ラベル装着装置(シュリンクラベラー)に供給し、更に必要な長さに切断する。
次いで、内容物を充填したPETボトル等に外嵌する。
【0062】
次いで、PETボトル等に外嵌した熱収縮フィルムの加熱処理として、所定温度の熱風トンネルやスチームトンネルの内部を通過させる。そして、これらのトンネルに備えてなる赤外線等の輻射熱や、90℃程度の加熱蒸気を周囲から吹き付けることにより、熱収縮フィルムを均一に加熱して熱収縮させる。
よって、PETボトル等の外表面に密着させて、ラベル付き容器を迅速に得ることができる。
【0063】
ここで、本発明の熱収縮フィルムによれば、少なくとも構成(a)~(b)を満足することを特徴とする。
そうすることで、熱収縮時の熱収縮フィルムにおいて、所定条件下で、相当長い保存安定性を得ることができる。
従って、当該フィルムから作られたラベルを、ボトルの胴部に被せて熱収縮させても、ボトル周囲の形状に追従して装着させることができ、更には、微細なシワの発生も抑制することができる。
【0064】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、所定温度で、所定時間、冷凍保管してなるポリエステル系熱収縮フィルムの保管方法であって、ポリエステル系熱収縮フィルムにおける主収縮方向をTD方向とし、それに直交する方向をMD方向とした場合に、ポリエステル系熱収縮フィルムが、下記構成(a)及び(b)を満足することを特徴とするポリエステル系熱収縮フィルムの保管方法である。
構成(a):所定温度が、0℃以下であって、所定時間が、製造直後を基準として、1か月以上経過した後、冷凍保管してなるポリエステル系熱収縮フィルムにおける、JIS K 7127:1999に準拠して測定されるMD方向の引張破壊呼びひずみをC1としたときに、当該C1を300%以上の値とする。
構成(b):製造直後であって、冷凍保管前のポリエステル系熱収縮フィルムにおける、JIS K 7127:1999に準拠して測定されるMD方向の引張破壊呼びひずみをC2としたときに、C1/C2を0.85以上の値とする。
以下、適宜、図8(a)~(c)を参照しつつ、第2の実施形態のポリエステル系熱収縮フィルムの保管方法を、より具体的に説明する。
【0065】
1.熱収縮フィルムの準備工程
第1の実施形態において述べたように、所定工程に沿って、熱収縮フィルムを製造し、準備することが好ましい。
すなわち、原材料の準備及び混合工程、原反シートの作成工程、及び熱収縮フィルムの作成工程を経て、所定の熱収縮特性や、機械的特性を有する収縮性の熱収縮フィルムを作成することができる。
なお、冷凍保管するような場合には、図8(a)に、準備してなる熱収縮フィルムを、防湿材料からなる、袋状の被覆材中に、挿入することが好ましい。
【0066】
2.熱収縮フィルムの保管工程
(1)保管温度
次いで、熱収縮フィルムを、保管温度として、0℃以下で保管することが好ましい。
すなわち、図4(a)に示すように、所定温度以下であれば、所定期間(例えば、6か月以下)経過した後であっても、熱収縮フィルムの劣化程度が低く、実用上、問題が少ないと言えるためである。
逆に言えば、所定温度で、保存期間が1~6か月の保管条件であっても、温度条件や保管時間等のばらつきによって、C1/C2が0.85未満となる場合は、熱収縮フィルムが劣化したと判断することができる。
そして、0℃以下で保管し、C1/C2が0.85未満となったような場合には、劣化部分を熱収縮フィルムから除去したり、あるいは、劣化部分を含む熱収縮フィルムのロールを排除することにより、優れた破断強度を発揮する熱収縮フィルムとして提供することができる。
【0067】
一方、仮に、製造直後の、初期値としての機械的特性をそのまま維持したいような場合には、熱収縮フィルムの保管温度を、通常、-60℃~-30℃の範囲内の値として、保管工程を実施することが好ましい。
すなわち、図8(b)~(c)に示すような冷凍ストッカー等を準備し、その内部温度(冷凍保管温度)を、-60℃~-30℃の範囲内の値に制御して、被覆材中に挿入した熱収縮フィルムを、保管することが好ましい。
この理由は、かかる保管温度が-30℃を超えると、周囲の酸素量や水分等にも影響するが、熱収縮フィルムが、経時変化で、多少劣化する場合があるためである。
一方、かかる保管温度が-60℃を下回ると、冷凍保管装置の負荷が大きくなったり、保存コストが高くなったりする場合があるためである。
従って、熱収縮フィルムの種類や用途によるが、保管温度を-55℃~-35℃の範囲内の値とすることがより好ましく、-50℃~-40℃の範囲内の値とすることが更に好ましい。
なお、-60℃程度の保管温度になると、熱収縮フィルムが事実上、冷凍されており、含まれる水分等も冷凍していることから、熱収縮フィルムの温度を室温に戻してから、各種測定を行うことが好ましい。
【0068】
(2)保管時間
又、保管時間は、熱収縮フィルムの製造後、所定温度(-60℃~0℃)で、1か月以上とすることが好ましい。
この理由は、逆に、かかる保管期間が、1か月未満になると、保管温度にもよるが、製造した熱収縮フィルムの劣化が生じにくくなって、C1/C2を所定範囲に制限する意味合いが乏しくなるためである。
すなわち、図3及び図4(a)に示すように、0℃~室温(23℃)程度の保管温度であっても、1か月以上経過した時点で、熱収縮フィルムの熱収縮特性や機械的特性が、それなりに低下する傾向があるためである。
但し、かかる保管時間が過度に長くなると、保管温度の維持や管理に、多大なコストが、かかる場合がある。
従って、熱収縮フィルムの製造後、所定温度における保管する所定時間を1.5か月~12か月とすることがより好ましく、2~6か月の範囲内とすることが更に好ましい。
【0069】
(3)保管装置
又、保管装置(保管方法を含む。)の種類や構成は特に制限されるものではないが、冷凍保管する場合には、例えば、図8(b)~(c)に示すような冷凍ストッカーや、全体を所定温度条件に維持する冷凍倉庫、あるいは、冷却空気や冷却液体の吹き付けや、それらへの浸漬をする方法を用いることが好ましい。
かかる保管装置が、冷凍ストッカーであれば、より均一な低温温度を保持できるとともに、比較的小型化が容易になる場合があるためである。
従って、保管条件や、その内部に収容する熱収縮フィルムの測定や検査等には好適である。
更に、冷凍倉庫であれば、より広範な保管面積を有しており、比較的大量の熱収縮フィルムであって、それらの保管や運搬等が容易になるためである。
従って、ロール状の熱収縮フィルムであっても、スペース的に、相当量の保管が可能となる。
【0070】
一方、図示しないものの、冷却空気や冷却液体(ミストを含む。)の吹き付けや、それらへの浸漬方法であれば、比較的コストが安く、経済的に有利である。
但し、比較的長時間保管するような場合には、環境温度のばらつきが小さいことを前提として、一般的な冷凍倉庫や冷蔵庫を用いることが、スペース的、経済的な観点から好ましいと言える。
そして、環境温度等のばらつきに基づく、熱収縮フィルムの劣化を更に防止すべく、連続的、又は断続的に、倉庫内の温度や湿度等の環境条件を記録、管理することが好ましいと言える。
【0071】
(4)保管方法
又、必要に応じて、不活性ガス中、或いは、不活性ガスを所定量以上含む空気中で、保管することが好ましい。
すなわち、保管温度を-60℃~0℃の範囲内であれば、通常は、相対湿度は、0%であって、ポリエステル系熱収縮フィルム等であっても、加水分解等による劣化は、ほとんどないと言える。
しかしながら、保管装置が、冷凍倉庫等の場合、保管期間の間に、保管した熱収縮フィルムの搬入や、新たに製造した熱収縮フィルムの搬出のために、何度も開閉する場合がある。
よって、熱収縮フィルムにつき、より完全かつ安定的な保管状態とするためには、不活性ガス、例えば、窒素を少なくとも、空気に混合し、単位体積あたり、25vol%以上とすることが好ましく、30vol%以上とすることがより好ましく、50vol%以上とすることが更に好ましいと言える。
【0072】
3.熱収縮フィルムを室温状態へ戻す工程
保管温度を-60℃~0℃の範囲内とした場合には、コスト等の観点から、例えば、室温(23℃)、50%RH、24hの条件で、ポリエステル系熱収縮フィルムを室温状態へ戻すことが好ましい。
又、上記の条件で熱収縮フィルムを室温状態に戻す場合に、結露したり、あるいは、吸湿して、熱収縮フィルムの熱収縮特性や機械的特性が低下する場合がある。
従って、熱収縮フィルムを、所定保管温度から、通常、12~24時間かけて、室温に戻すことがより好ましい。
すなわち、室温に戻す際の温度勾配を、-60℃/12時間~0℃/24時間の範囲内の値とすることが好ましく、-40℃/12時間~-5℃/24時間の範囲内の値とすることがより好ましい。
しかも、空気中の水分による結露の影響防止のために、通常、相対湿度0~30%の範囲内の環境で、室温に戻すことが好ましく、相対湿度0~20%の範囲内の環境で、室温に戻すことが更に好ましい。
従って、熱収縮フィルムがロール状で、相当の体積を有する場合は、熱収縮フィルムの全体あるいは、部分的に、防湿材料や防湿部材(乾燥剤等も含む。)で被覆した後、更には、乾燥空気等を吹き付けながら、室温に戻すことが好ましい。
【0073】
4.熱収縮フィルムの検査工程
第1の実施形態で詳細に説明したように、少なくとも、下記工程(a)~(c)を実施することが必要である。
すなわち、熱収縮フィルムの種類に応じて、工程(a)において、所定条件で、所定時間保管後の熱収縮フィルムにおける、MD方向の引張破壊呼びひずみであるC1を測定する工程である。
次いで、工程(b)において、C1を測定する所定時間経過前の熱収縮フィルムにおけるMD方向の引張破壊呼びひずみC2との比率である、C1/C2を測定する工程である。
次いで、工程(c)において、動摩擦係数を測定する工程である。
【0074】
5.熱収縮フィルムの他の検査工程
次いで、第1の実施形態において説明したように、熱収縮フィルムにつき、連続的又は間断的に、工程(a)~(c)以外に、所定の熱収縮特性や機械的特性を測定し、所定範囲であることを確認する検査工程を実施することが好ましい。
すなわち、所定の検査工程によって、下記特性等を測定し、所定範囲内の値に入ることを確認することによって、より均一な収縮特性等を有する熱収縮フィルムとすることができる。
【実施例0075】
以下、本発明を実施例に基づき、詳細に説明する。但し、特に理由なく、本発明の権利範囲が、実施例の記載によって狭められることはない。
なお、実施例等において用いた樹脂は、以下の通りである。
【0076】
(PETG1)
ジカルボン酸:テレフタル酸100モル%、ジオール:エチレングリコール67モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノール19モル%,ジエチレングリコール11モル%からなる非結晶性ポリエステル樹脂(ガラス転移点:69℃)
【0077】
(PETG2)
ジカルボン酸:テレフタル酸100モル%、ジオール:エチレングリコール63モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノール24モル%,ジエチレングリコール13モル%からなる非結晶性ポリエステル(ガラス転移点:69℃)
【0078】
(PETG3)
ジカルボン酸:テレフタル酸100モル%、ジオール:エチレングリコール59.9モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノール27.7モル%,ジエチレングリコール12.4モル%からなる非結晶性ポリエステル(ガラス転移点:69℃)
【0079】
(PETG4)
ジカルボン酸:テレフタル酸100モル%、ジオール:エチレングリコール70モル%、ネオペンチルグリコール28モル%、ジエチレングリコール2モル%からなる非結晶性ポリエステル(ガラス転移点:69℃)
【0080】
(APET)
ジカルボン酸:テレフタル酸100モル%、ジオール:エチレングリコール100モル%なる結晶性ポリエステル樹脂(ガラス転移点:無し、固有粘度:0.65dL/g)
【0081】
(PCR)
ジカルボン酸:テレフタル酸98.6重量部、イソフタル酸1.4重量部、ジオール:エチレングリコール97.3重量部、ジエチレングリコール2.7重量部からなるリサイクル結晶性ポリエステル樹脂(ガラス転移点:無し、固有粘度:0.72dL/g)
【0082】
(PBT)
ジカルボン酸:テレフタル酸100重量部、ジオール:1,4-ブタンジオール100重量部からなる結晶性ポリエステル樹脂
【0083】
(添加剤)
マトリクス樹脂:PET、シリカ含有量:5重量%、シリカの平均粒径:2.7μmからなるシリカマスターバッチ
【0084】
[実施例1]
1.熱収縮フィルムの作成
攪拌容器内に、非結晶性ポリエステル樹脂(PETG1)を100重量部と、添加剤を1重量部の割合で用いて、この原料を絶乾状態にしたのち、押出温度260℃の条件で、L/D24、押出スクリュー径50mmの押出機(田辺プラスチック機械株式会社製)により、押し出し成形を行い、厚さ100μmの原反シートを得た。
次いで、表1に示す条件で、熱収縮フィルム製造装置を用い、厚さ200μmの原反シートから、延伸温度82℃、延伸倍率(MD方向:101%、TD方向:500%)で、厚さ40μmのポリエステル系熱収縮フィルムを作成した。
得られたポリエステル系熱収縮フィルムにつき、被覆材に封入した状態で、冷凍ストッカー(JCM製、JMCC-60)に、-60℃、6か月の条件で保管したものを試験サンプルとした。
【0085】
2.熱収縮フィルム(試験片)の評価
(1)評価1:C1
冷凍ストッカーからポリエステル系熱収縮フィルムを取り出し、23℃、50%RH条件に、24時間保管した。
次いで、JIS K 7127:1999に準拠して、ポリエステル系熱収縮フィルムのMD方向の引張破壊呼びひずみ(C1)を、所定温度条件(-60℃)で、製造直後を基準として、所定期間(6か月間)保管した後の値として、測定した。
【0086】
(2)評価2:C2
得られたポリエステル系熱収縮フィルムにつき、JIS K 7127:1999に準拠して、ポリエステル系熱収縮フィルムのMD方向の引張破壊呼びひずみ(C2)を、初期値として、製造直後を基準とし、24時間以内に、測定した。
【0087】
(3)評価3:C1/C2
評価1で得られたC1と、評価2で得られたC2とから、得られたポリエステル系熱収縮フィルムのMD方向の引張破壊呼びひずみの変化率を示すC1/C2の値を算出した。
【0088】
(4)評価4:フィルム破断割合
得られた試験サンプル(サンプル数=5)を、冷凍ストッカーから取り出して、23℃、50%RH条件に、24時間保管した。
その後、JIS K 7127:1999に準拠して、引張試験機を用いて、SSカーブを測定する際に、弾性領域において、破断したフィルム数の割合を測定し、以下の基準に準じて評価した。
◎:5%以下である。
〇:20%以下の値である。
△:60%以下の値である。
×:60%超の値である。
【0089】
(5)評価5:動摩擦係数
得られた試験サンプルを、冷凍ストッカーから取り出して、23℃、50%RH条件に、24時間保管した。
その後、JIS K 7125:1999に準拠して、試験サンプルの動摩擦係数を測定した。
【0090】
(6)評価6~8:熱収縮率
得られた試験サンプルを、冷凍ストッカーから取り出して、23℃、50%RH条件に、24時間保管した。その後、恒温槽に収容してある、70、80、及び100℃の温水又は沸騰水に、それぞれ10秒間浸漬し、熱収縮させた。
次いで、各温度における加熱処理前後の寸法変化(TD方向)から、式(2)に準じて、熱収縮率(A1、A2、A3)を算出した。
【0091】
(7)評価9:ヘイズ
得られた試験サンプルを、冷凍ストッカーから取り出して、23℃、50%RH条件に、24時間保管した。
その後、JIS K 7136:2000に準拠して、ヘイズ値を測定し、以下の基準に準じて評価した。
◎:3%以下の値である。
〇:7%以下の値である。
△:10%以下の値である。
×:10%を超えた値である。
【0092】
(8)評価10:エンタルピー変化
得られた試験サンプルを、冷凍ストッカーから取り出して、23℃、50%RH条件に、24時間保管した。
その後、DSCを用いて、エンタルピー値を測定し、製造後24時間以内のエンタルピー値を100%としたときのエンタルピー変化(吸熱量変化)を、以下の基準に準じて、評価した。
◎:15%以下の値である。
〇:25%以下の値である。
△:50%以下の値である。
×:50%を超えた値である。
【0093】
[実施例2]
実施例2において、表1に示す条件で、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成し、その保管条件を、-60℃、12か月とした以外、実施例1と同様に、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0094】
[実施例3~12]
実施例3~12において、表1に示すように、使用するPET樹脂の種類や配合比、更には、一部製造条件を変えて、実施例1と同様に、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成した。
次いで、所定条件で冷凍保管した後、MD方向の引張破壊呼びひずみ(C1)等を評価した。得られた結果を、表2に示す。
【0095】
[比較例1]
比較例1において、表1に示す条件で、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成し、保管条件を室温(23℃)、6か月とした以外、実施例1と同様に、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0096】
[比較例2]
比較例2において、表1に示す条件で、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成し、保管条件を室温(23℃)、12か月とした以外、実施例1と同様に、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、構成(a)として、製造直後(通常、24時間以内)から、所定時間、冷凍保管した後のポリエステル系熱収縮フィルムの引張破壊呼びひずみ(C1)の値と、構成(b)として、製造直後、すなわち、冷凍保管前の引張破壊呼びひずみ(C2)との比率(C1/C2)を所定範囲に制御することによって、ポリエステル系熱収縮フィルムの劣化を防止して、フィルム破断等を有効に防止できるようなった。
又、本発明によれば、構成(a)及び構成(b)のみならず、構成(c)として、所定の動摩擦係数を所定範囲に制御することによって、熱収縮フィルムの劣化を更に検知して、フィルム破断等や表面劣化についても、有効に防止できるようなった。
従って、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムによれば、簡易構成(a)等を満足することによって、室温条件で、所定時間経過後であっても、安心して、各種PETボトル等のラベルに好適に適用することができることから、その産業上の利用可能性は極めて高いと言える。
【0100】
その他、本発明は、ポリエステル系熱収縮フィルムに関する発明であるが、ポリスチレン樹脂に由来してなるポリスチレン系熱収縮フィルムにおいても、同様の作用効果が得られることが判明した。
すなわち、製造直後(通常、24時間以内)から、所定時間、冷凍保管した後のポリエステル系熱収縮フィルムの引張破壊呼びひずみ(C1)の値と、製造直後、すなわち、冷凍保管前の引張破壊呼びひずみ(C2)との比率(C1/C2)を所定範囲に制御することによって、ポリスチレン系熱収縮フィルムの劣化を防止して、フィルム破断等を有効に防止できるようなった。
【符号の説明】
【0101】
10:ポリエステル系熱収縮フィルム
10a:他の樹脂層1
10b:他の樹脂層2
10c:収縮率調整層
16:すべり片
18:荷重
24:ロードセル

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8