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特開2024-144315空気調和機及び空気調和機の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144315
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】空気調和機及び空気調和機の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F25B 6/02 20060101AFI20241003BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20241003BHJP
   F25B 7/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F25B6/02 H
F25B1/00 399Y
F25B1/00 351K
F25B7/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024049982
(22)【出願日】2024-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2023055266
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】須田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】平野 浩史
(72)【発明者】
【氏名】島野 太貴
(72)【発明者】
【氏名】舟木 智之
(57)【要約】
【課題】冷媒が空気と熱交換を行う熱交換器と、冷媒が空気よりも熱交換しやすい流体と熱交換を行う熱交換器とが並列に接続された空気調和機であって、暖房運転の開始時において圧縮機の内部で冷媒が凝縮することによって圧縮機の吐出圧力の上昇が阻害される場合に、圧縮機から冷凍機油の吐出を抑えつつ速やかに圧縮機の吐出圧力を上昇させて所望の空調能力を発揮させる。
【解決手段】圧縮機11を備える室外機1と、少なくとも1台の一次室内機2と、一次室内機2と並列に接続される少なくとも1台の中継ユニット3と、一次室内機2、及び、中継ユニット3のそれぞれが備える減圧機構22,34とが冷媒配管で接続され、一次冷媒が循環する一次冷媒回路C1と、圧縮機11、及び、減圧機構22,34を制御する制御装置5と、を備え、制御装置5は、一次室内機2、及び、中継ユニット3が暖房運転を開始した場合に、一次室内機2の暖房運転を優先する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機を備える室外機と、少なくとも1台の一次室内機と、前記一次室内機と並列に接続される少なくとも1台の中継ユニットと、前記一次室内機、及び、前記中継ユニットのそれぞれが備える減圧機構とが冷媒配管で接続され、一次冷媒が循環する一次冷媒回路と、
前記圧縮機、及び、前記減圧機構を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記一次室内機、及び、前記中継ユニットが暖房運転を開始した場合に、前記一次室内機の暖房運転を優先することを特徴とする空気調和機。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記空気調和機の運転状態を判定する判定部と、
前記減圧機構をフィードバック制御により制御する通常制御と、前記通常制御を行う前に前記減圧機構を所定開度率に設定する起動制御とを実行し、前記判定部が、少なくとも1台の前記一次室内機、及び、少なくとも1台の前記中継ユニットが暖房運転を開始したと判定した場合に、前記圧縮機における吐出冷媒の状態を示す吐出冷媒状態値が予め設定された設定値となるまでの間、前記一次室内機が備える減圧機構の所定開度率である第一開度率が、前記中継ユニットが備える減圧機構の所定開度率である第二開度率よりも大きくなるようにそれぞれの前記減圧機構を制御する第一起動制御を前記起動制御として実行する減圧機構制御部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の空気調和機。
【請求項3】
前記判定部が、前記一次室内機が暖房運転を開始せず、少なくとも1台の前記中継ユニットが暖房運転を開始したと判定した場合に、
前記減圧機構制御部は、前記吐出冷媒状態値が前記設定値となるまでの間、
前記一次室内機が備える前記減圧機構の所定開度率を前記第一開度率よりも小さな開度率である第三開度率とし、
前記中継ユニットが備える前記減圧機構の所定開度率を前記第二開度率よりも大きな開度率である第四開度率とする第二起動制御を前記起動制御として実行することを特徴とする請求項2に記載の空気調和機。
【請求項4】
前記判定部が、前記第二起動制御が完了したと判定した場合に、
前記減圧機構制御部は、前記一次室内機が備える前記減圧機構に対する前記第三開度率とする制御を前記第三開度率よりも小さな開度率である停止開度率に変更することを特徴とする請求項3に記載の空気調和機。
【請求項5】
前記判定部が、前記第一起動制御が完了したと判定した場合に、
前記一次室内機が備える前記減圧機構の開度率を前記第一開度率よりも小さな開度率である第五開度率とし、
前記中継ユニットが備える前記減圧機構の開度率を前記第二開度率よりも大きな開度率である第六開度率とする第三起動制御を前記起動制御として引き続き実行することを特徴とする請求項2に記載の空気調和機。
【請求項6】
前記判定部が、予め設定されている所定時間が経過したと判定した場合に、
前記減圧機構制御部は、前記第三起動制御を完了し、前記通常制御を実行することを特徴とする請求項5に記載の空気調和機。
【請求項7】
前記中継ユニットは、二次室内機と、循環ポンプとが冷媒配管で接続され前記循環ポンプの動作によって二次冷媒が循環する二次冷媒回路と接続され、
前記空気調和機の運転状態を判定する判定部と、
前記減圧機構をフィードバック制御により制御する通常制御と、前記通常制御を行う前に前記減圧機構を所定開度率に設定する起動制御とを実行する減圧機構制御部と、を備え、
前記判定部が、前記二次冷媒の温度を測定する二次冷媒温度センサが測定した前記二次冷媒の温度が予め定められた温度値以上の温度であると判定した場合には、
前記減圧機構制御部は、
前記一次室内機が備える前記減圧機構の開度率を前記一次室内機が備える減圧機構の所定開度率である第一開度率よりも小さな開度率である第七開度率とし、
前記中継ユニットが備える前記減圧機構の開度率を前記中継ユニットが備える減圧機構の所定開度率であり前記第一開度率よりも小さな開度率である第二開度率よりも大きな開度率である第八開度率とする第四起動制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の空気調和機。
【請求項8】
前記中継ユニットは、二次室内機と、循環ポンプとが冷媒配管で接続され前記循環ポンプの動作によって二次冷媒が循環する二次冷媒回路と接続され、
前記空気調和機の運転状態を判定する判定部と、
前記減圧機構をフィードバック制御により制御する通常制御と、前記通常制御を行う前に前記減圧機構を所定開度率に設定する起動制御とを実行する減圧機構制御部と、を備え、
前記判定部が、前記一次冷媒の温度を測定する一次冷媒温度センサが測定した前記中継ユニットに流入する前記一次冷媒の温度が前記二次冷媒の温度を測定する二次冷媒温度センサが測定した前記二次冷媒の温度よりも低い温度であると判定した場合には、
前記減圧機構制御部は、
前記一次室内機が備える減圧機構の所定開度率である第一開度率が、前記中継ユニットが備える減圧機構の所定開度率である第二開度率よりも大きくなるようにそれぞれの前記減圧機構を制御する第一起動制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の空気調和機。
【請求項9】
前記判定部が、前記二次冷媒の温度を測定する二次冷媒温度センサが測定した前記二次冷媒の温度が予め定められた温度値未満の温度であると判定し、且つ、
前記一次室内機の要求能力の合計値が、前記中継ユニットの要求能力の合計値以下であると判定した場合には、
前記減圧機構制御部は、
前記一次室内機が備える前記減圧機構の開度率を前記一次室内機が備える減圧機構の所定開度率である第一開度率よりも小さな開度率である第七開度率とし、
前記中継ユニットが備える前記減圧機構の開度率を前記中継ユニットが備える減圧機構の所定開度率であり前記第一開度率よりも小さな開度率である第二開度率よりも大きな開度率である第八開度率とする第四起動制御を実行することを特徴とする請求項7に記載の空気調和機。
【請求項10】
前記吐出冷媒状態値は、前記圧縮機から吐出される前記一次冷媒の吐出圧力、前記圧縮機から吐出される前記一次冷媒の吐出温度、或いは、前記圧縮機の吐出過熱度のいずれか1つであることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の空気調和機。
【請求項11】
圧縮機を備える室外機と、少なくとも1台の一次室内機と、前記一次室内機と並列に接続される少なくとも1台の中継ユニットと、前記一次室内機、及び、前記中継ユニットのそれぞれが備える減圧機構が冷媒配管で接続され、一次冷媒が循環する一次冷媒回路と、
前記圧縮機、及び、前記減圧機構を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記一次室内機、及び、前記中継ユニットが暖房運転を開始した場合に、前記一次室内機の暖房運転を優先する制御を行うことを特徴とする空気調和機の制御方法。
【請求項12】
前記制御装置は、前記減圧機構をフィードバック制御により制御する通常制御と、前記通常制御を行う前に前記減圧機構を所定開度率に設定する起動制御とを実行し、
少なくとも1台の前記一次室内機、及び、少なくとも1台の前記中継ユニットが暖房運転を開始したか否かを判定するステップと、
前記暖房運転が開始されたと判定された場合に、前記圧縮機における吐出冷媒の状態を示す吐出冷媒状態値が予め設定された設定値となるまでの間、前記一次室内機が備える減圧機構の所定開度率である第一開度率が、前記中継ユニットが備える減圧機構の所定開度率である第二開度率よりも大きくなるようにそれぞれの前記減圧機構を制御する第一起動制御を前記起動制御として実行するステップと、
を備えることを特徴とする請求項11に記載の空気調和機の制御方法。
【請求項13】
前記制御装置は、
前記一次室内機が暖房運転を開始せず、少なくとも1台の前記中継ユニットが暖房運転を開始したか否かを判定するステップと、
前記一次室内機が暖房運転を開始せず、少なくとも1台の前記中継ユニットが暖房運転を開始したと判定された場合に、前記吐出冷媒状態値が前記設定値となるまでの間、前記一次室内機が備える減圧機構の開度率を前記第一開度率よりも小さな開度率である第三開度率とし、
前記中継ユニットが備える減圧機構の開度率を前記第二開度率よりも大きな開度率である第四開度率とする第二起動制御を前記起動制御として実行するステップと、
を備えることを特徴とする請求項12に記載の空気調和機の制御方法。
【請求項14】
前記制御装置は、
前記第二起動制御が完了したか否かを判定するステップと、
前記第二起動制御が完了したと判定した場合に、前記一次室内機が備える前記減圧機構に対する前記第三開度率とする制御を前記第三開度率よりも小さな開度率である停止開度率に変更するステップを備えることを特徴とする請求項13に記載の空気調和機の制御方法。
【請求項15】
前記制御装置は、
前記第一起動制御が完了したか否かを判定するステップと、
前記第一起動制御が完了したと判定した場合、前記空気調和機が前記起動制御から前記一次室内機、及び、前記中継ユニットの能力に応じたそれぞれの前記減圧機構の開度率とする通常制御に移行するまでの間、
前記一次室内機が備える前記減圧機構の開度率を前記第一開度率よりも小さな開度率である第五開度率とし、
前記中継ユニットが備える前記減圧機構の開度率を前記第二開度率よりも大きな開度率である第六開度率とする第三起動制御を実行するステップを備えることを特徴とする請求項12に記載の空気調和機の制御方法。
【請求項16】
前記制御装置は、
予め設定されている所定時間が経過したか否かを判定するステップと、
前記所定時間が経過したと判定した場合、前記第三起動制御を完了し、前記通常制御を実行するステップを備えることを特徴とする請求項15に記載の空気調和機の制御方法。
【請求項17】
前記中継ユニットは、二次室内機と、循環ポンプとが冷媒配管で接続され、前記循環ポンプの動作によって二次冷媒が循環する二次冷媒回路と接続され、
前記制御装置は、
前記二次冷媒の温度を測定する二次冷媒温度センサが測定した前記二次冷媒の温度が予め定められた温度値以上の温度であるか否かを判定するステップと、
前記二次冷媒の温度が前記温度値以上の温度であると判定された場合には、前記一次室内機が備える前記減圧機構の開度率を前記第一開度率よりも小さな開度率である第七開度率とし、前記中継ユニットが備える前記減圧機構の開度率を前記第二開度率よりも大きな開度率である第八開度率とする第四起動制御を実行するステップを備えることを特徴とする請求項12ないし請求項16のいずれかに記載の空気調和機の制御方法。
【請求項18】
前記中継ユニットは、二次室内機と、循環ポンプとが冷媒配管で接続され前記循環ポンプの動作によって二次冷媒が循環する二次冷媒回路と接続され、
前記制御装置は、
前記一次冷媒の温度を測定する一次冷媒温度センサが測定した前記中継ユニットに流入する前記一次冷媒の温度が前記二次冷媒の温度よりも低い温度であるか否かを判定するステップと、
前記一次冷媒の温度が前記二次冷媒の温度よりも低い温度であると判定された場合に、前記一次室内機が備える減圧機構の所定開度率である第一開度率が、前記中継ユニットが備える減圧機構の所定開度率である第二開度率よりも大きくなるようにそれぞれの前記減圧機構を制御する第一起動制御を実行するステップを備えることを特徴とする請求項11に記載の空気調和機の制御方法。
【請求項19】
前記制御装置が、前記二次冷媒の温度を測定する二次冷媒温度センサが測定した前記二次冷媒の温度が予め定められた温度値未満の温度であると判定し、且つ、
前記一次室内機の要求能力の合計値が、前記中継ユニットの要求能力の合計値以下であると判定した場合に、
前記制御装置は、
前記一次室内機が備える前記減圧機構の開度率を前記一次室内機が備える減圧機構の所定開度率である第一開度率よりも小さな開度率である第七開度率とし、
前記中継ユニットが備える前記減圧機構の開度率を前記中継ユニットが備える減圧機構の所定開度率であり前記第一開度率よりも小さな開度率である第二開度率よりも大きな開度率である第八開度率とする第四起動制御を実行するステップを備えることを特徴とする請求項17に記載の空気調和機の制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、空気調和機及び空気調和機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機が、例えば、-20℃を下回るような非常に低温な外気温となる状況において長時間停止した場合、圧縮機のシェルや、圧縮機内部の冷凍機油の温度も外気温度に近い温度まで低下する。この状態から空気調和機の運転を開始すると、圧縮機のシリンダから圧縮機内部に吐出された冷媒は、圧縮機のシェルや冷凍機油に放熱して凝縮してしまい、液冷媒となる。また当該液冷媒は、圧縮機の内部に設けられる圧縮機構の潤滑のための冷凍機油と混合される。
【0003】
液冷媒と冷凍機油とが混合した状態において、圧縮機の回転数を上昇させると、液冷媒と混合した冷凍機油が冷媒回路内に多量に吐出される。冷凍機油を含む冷媒が冷媒回路を循環すると、圧縮機内部における冷凍機油が不足し、圧縮機の潤滑性が確保できず、圧縮機の信頼性を低下させるおそれがある。
【0004】
そこでこのような障害が生じないように、例えば、以下に示す特許文献1に開示された技術では、圧縮機の起動時に圧縮機の温度が低いほど、圧縮機の回転数を高くする制御を行い、吐出過熱度が所定値以上となるまで当該高い回転数を維持する。このような制御を行うことによって、圧縮機の内部での凝縮により液冷媒が発生する状態を早期に脱し、冷媒回路内に冷凍機油が混合した冷媒が吐出されることを抑制することができる、とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-226724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、冷媒回路の二次側に水を二次冷媒とする、いわゆる水回路を備え、この水回路を介して居室空間の空調を行うように構成された冷凍サイクル装置がある。空気は水に比べて比熱が小さいことから、冷媒と空気との熱交換において空気の温度は上がりやすい。これに対して、水は空気に比べて比熱が大きいことから、冷媒回路の二次側に二次冷媒として水を用いた場合の、一次冷媒と水との熱交換において当該水の温度は上がりにくい。
【0007】
そのため水回路を有する冷凍サイクル装置の場合、空気との間でのみ熱交換を行う冷凍サイクル装置に比べて、起動後における圧縮機の吐出圧力の上昇は遅い。また、圧縮機において吐出圧力が低い状態が続くということは、圧縮機の負荷が小さく、モータの発熱量が小さい状態が続くことにつながる。
【0008】
従って、水回路を備える冷凍サイクル装置の場合、特に上述したような、非常に低温な状態において起動されると、圧縮機が温まりにくいことから、圧縮機内で凝縮した冷媒が冷凍機油と混合された状態が継続する。また、このような状態で圧縮機の回転数を上げてしまうと冷媒回路に冷凍機油を含む冷媒を多量に吐出することになるため、圧縮機の回転数を上げられず、冷凍サイクル装置における空調能力の発揮に時間が掛かる。
【0009】
このような現象は、例えば、熱源側冷媒回路と利用側冷媒回路とをカスケード熱交換器を介して接続する二元冷凍サイクル装置の場合にも起こりうる現象である。すなわち、熱源側冷媒(例えばR32)と空気が熱交換を行う場合と比べて、熱源側冷媒と利用側冷媒(例えばR1234yf)が熱交換を行う場合の方が熱通過率は高く熱交換しやすい。そのため、上述した水回路を備える冷凍サイクル装置の場合と同様、圧縮機の吐出圧力が上がりにくい状態となる。
【0010】
本発明は上述したような課題を解決するものであり、冷媒が空気と熱交換を行う熱交換器と、冷媒が空気よりも熱交換しやすい流体と熱交換を行う熱交換器とが並列に接続された空気調和機であって、暖房運転の開始時において圧縮機の内部で冷媒が凝縮することによって圧縮機の吐出圧力の上昇が阻害される場合に、圧縮機から冷凍機油の吐出を抑えつつ速やかに圧縮機の吐出圧力を上昇させて所望の空調能力を発揮することができる空気調和機及び空気調和機の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る空気調和機は、圧縮機を備える室外機と、少なくとも1台の一次室内機と、一次室内機と並列に接続される少なくとも1台の中継ユニットと、一次室内機、及び、中継ユニットのそれぞれが備える減圧機構とが冷媒配管で接続され、一次冷媒が循環する一次冷媒回路と、圧縮機、及び、減圧機構を制御する制御装置と、を備え、制御装置は、一次室内機、及び、中継ユニットが暖房運転を開始した場合に、一次室内機の暖房運転を優先する。
【0012】
また、本発明の一態様に係る空気調和機の制御方法は、圧縮機を備える室外機と、少なくとも1台の一次室内機と、一次室内機と並列に接続される少なくとも1台の中継ユニットと、一次室内機、及び、中継ユニットのそれぞれが備える減圧機構が冷媒配管で接続され、一次冷媒が循環する一次冷媒回路と、圧縮機、及び、減圧機構を制御する制御装置と、を備え、制御装置は、一次室内機、及び、中継ユニットが暖房運転を開始した場合に、一次室内機の暖房運転を優先する制御を行う。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、冷媒が空気と熱交換を行う熱交換器と、冷媒が空気よりも熱交換しやすい流体と熱交換を行う熱交換器とが並列に接続された空気調和機であって、暖房運転の開始時において圧縮機の内部で冷媒が凝縮することによって圧縮機の吐出圧力の上昇が阻害される場合に、圧縮機から冷凍機油の吐出を抑えつつ速やかに圧縮機の吐出圧力を上昇させて所望の空調能力を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る空気調和機の冷媒回路図である。
図2】本発明の実施の形態に係る制御装置の内部構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施の形態に係る空気調和機の制御の流れを示すフローチャートである。
図4】本発明の実施の形態に係る空気調和機の制御の流れを示すフローチャートである。
図5】本発明の実施の形態に係る空気調和機の制御の流れを示すフローチャートである。
図6】本発明の実施の形態に係る空気調和機の制御の流れを示すフローチャートである。
図7】本発明の実施の形態に係る空気調和機の制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態に係る空気調和機Aの構造を、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る空気調和機Aの冷媒回路図である。空気調和機Aは、室外機1と、少なくとも1台の一次室内機2と、一次室内機2と並列に接続される少なくとも1台の中継ユニット3とを備えている。また、空気調和機Aは、室外機1と、一次室内機2と、中継ユニット3とが冷媒配管で接続され、一次冷媒が循環する一次冷媒回路C1を備えている。また、空気調和機Aは、圧縮機11、及び、減圧機構22,34を制御する制御装置5と、を備えている。
【0016】
室外機1は、圧縮機11と、四方弁12と、室外熱交換器13と、を備えており、それぞれが一次冷媒回路C1に接続されている。また、図示していないが、一次冷媒回路C1を流れる一次冷媒の全体の流量の調整を担う減圧機構が、室外熱交換器13と、後述する、例えば一次室内機2に設けられている一次室内機減圧機構22との間に設けられている。
【0017】
また、圧縮機11の吐出側には、吐出された一次冷媒の温度を測定する吐出温度センサ14が設けられている。また同様に、圧縮機11の吐出側には、吐出された一次冷媒の圧力を測定する吐出圧力センサ15が設けられている。なお、その他、室外ファン等、室外機1が通常備えている機器については、図1ではその描画を省略している。
【0018】
室外機1の外部であって四方弁12と室外熱交換器13との間には、少なくとも1台の一次室内機2が接続されている。本発明の実施の形態における空気調和機Aの場合、当該一次室内機2は複数、すなわち図1においては2台の一次室内機2A,2Bが並列に接続されている。なお、以下、これら2台の一次室内機2A,2Bについてまとめて説明する場合には、上述したように「一次室内機2」と表す。
【0019】
これらの一次室内機2A,2Bは、いずれも一次室内機熱交換器21と一次室内機減圧機構22を備えており、それぞれが一次冷媒回路C1に接続されている。ここで一次室内機減圧機構22は、例えば、膨張弁である。その他、室内ファン等、一次室内機2が通常備えている機器については、図1ではその描画を省略している。
【0020】
例えば、空気調和機Aにおいて暖房運転が行われる場合、一次冷媒は、室外機1に設けられている上述した圧縮機11、四方弁12、一次室内機2に設けられている一次室内機熱交換器21、一次室内機減圧機構22、室外熱交換器13、四方弁12、圧縮機11の順に一次冷媒回路C1内を循環する。
【0021】
暖房運転時において、室外機の圧縮機11で圧縮されて高温高圧のガス相状態となった一次冷媒は一次室内機熱交換器21に供給される。一次室内機熱交換器21を流れる高温高圧のガス相状態の一次冷媒は、一次室内機2の図示しない室内ファンによって取り込まれた室内の空気と熱交換することによって放熱して凝縮し液相状態となる。一次室内機熱交換器21を通過する高温高圧の一次冷媒と熱交換をした空気は温められて室内に供給される。
【0022】
一次室内機熱交換器21を通過した液相状態の一次冷媒は一次室内機減圧機構22を通過し、減圧され低温の気液二相状態となる。減圧され気液二相状態となった一次冷媒は次に室外熱交換器13に流入する。室外熱交換器13を流れる低温の一次冷媒は、図示しない室外ファンによって取り込まれた外気と熱交換することによって吸熱して蒸発しガス相状態となる。室外熱交換器13を通過したガス相状態の一次冷媒は、再び圧縮機11に戻り、高温高圧に圧縮される。
【0023】
本発明の実施の形態における空気調和機Aは、さらに一次室内機2と並列に接続される少なくとも1台の中継ユニット3を備えている。中継ユニット3は、中間熱交換器32を備えており、中間熱交換器32は一次冷媒が循環する一次冷媒回路C1と後述する二次冷媒が循環する二次冷媒回路C2とを熱的に接続する(中継する)。
【0024】
本発明の実施の形態における空気調和機Aでは中継ユニット3は、図1の回路図に示すように、中継ユニット3A,3Bの2台が接続されている。そして、これら2台の中継ユニット3A,3Bはいずれも一次室内機2と並列に接続されている。なお、以下、これら2台の中継ユニット3A,3Bについてまとめて説明する場合には、上述したように「中継ユニット3」と表す。
【0025】
なお、このように本発明の実施の形態における空気調和機Aでは、一次冷媒回路C1に複数の一次室内機2、複数の中継ユニット3が接続されている。上述したように図1に示す回路図ではいずれも2台ずつ接続されているが、複数であれば、その台数については任意の台数とすることができる。
【0026】
また複数の中継ユニット3には、それぞれ二次冷媒が循環する二次冷媒回路C2が接続されている。当該二次冷媒回路C2には、二次冷媒を循環させるための循環ポンプ31と、二次冷媒と一次冷媒との間で熱交換を行う中間熱交換器32と、二次室内機4とが接続されている。
【0027】
循環ポンプ31は、二次冷媒回路C2内に二次冷媒を循環させるために、二次冷媒を吐出する。二次冷媒としては流体が用いられるが、ここでは、二次冷媒として、例えば、水が用いられる。一方、一次冷媒回路C1を循環する一次冷媒は、例えば、R32等の冷媒である。
【0028】
中間熱交換器32は、一次冷媒回路C1内を循環する一次冷媒と二次冷媒回路C2内を循環する二次冷媒との間での熱交換を行う。中間熱交換器32から流出した二次冷媒は、二次室内機4に流入し、二次室内機熱交換器41において室内の空気との熱交換を行う。ここで二次室内機4は、水を冷媒として使用して暖房、冷房を行う、例えば、ファンコイルユニットである。
【0029】
なお、図1に示す二次室内機4では、二次室内機熱交換器41のみ描画しており、室内ファン等、室内機が備えているその他の機器については、その描画を省略している。
【0030】
また上述したように、二次室内機4は、1台の中継ユニット3に1台接続されている。従って、図1に示す空気調和機Aでは、2台の二次室内機4A,4Bが示されている。但し、二次室内機4A,4Bについて個々に言及しない場合には、まとめて「二次室内機4」と表す。
【0031】
また、中継ユニット3には、中間熱交換器32において熱交換された二次冷媒の温度を検出するための二次冷媒温度センサ33が設けられている。さらに、中継ユニット3の一次冷媒回路C1側であって、室外機1の室外熱交換器13と接続される側には中継ユニット減圧機構34が設けられている。ここで中継ユニット減圧機構34は、例えば、膨張弁である。
【0032】
このような中継ユニット3の働きについて、例えば、空気調和機Aにおいて暖房運転が行われる場合を例に挙げると、以下の通りである。一次冷媒は、室外機1に設けられている上述した圧縮機11、四方弁12、中継ユニット3に設けられている中間熱交換器32、中継ユニット減圧機構34、室外熱交換器13、四方弁12、圧縮機11の順に一次冷媒回路C1内を循環する。
【0033】
一方、二次冷媒は、中継ユニット3の内部に設けられている循環ポンプ31、中間熱交換器32、二次室内機4の二次室内機熱交換器41、循環ポンプ31の順に二次冷媒回路C2内を循環する。
【0034】
暖房運転時において、室外機の圧縮機11で圧縮されて高温高圧のガス相状態となった一次冷媒は中間熱交換器32に供給される。中間熱交換器32を流れる高温高圧のガス相状態の一次冷媒は、二次冷媒回路C2内を循環する二次冷媒である、例えば水と熱交換することによって放熱して凝縮し液相状態となる。中間熱交換器32を通過する高温高圧の一次冷媒と熱交換をした水は温められて二次室内機4に流入する。
【0035】
二次室内機4の二次室内機熱交換器41では、流入した水(二次冷媒)が二次室内機4の図示しない室内ファンによって取り込まれた室内の空気と熱交換することによって放熱する。二次室内機熱交換器41を通過する二次冷媒と熱交換をした空気は温められて室内に供給される。熱交換された二次冷媒は、二次室内機熱交換器41から流出し、再び循環ポンプ31に流入する。
【0036】
中間熱交換器32を通過した液相状態の一次冷媒は中継ユニット減圧機構34を通過し、減圧され低温の気液二相状態となる。減圧され気液二相状態となった一次冷媒は次に室外熱交換器13に流入する。室外熱交換器13を流れる低温の一次冷媒は、図示しない室外ファンによって取り込まれた外気と熱交換することによって吸熱して蒸発しガス相状態となる。室外熱交換器13を通過したガス相状態の一次冷媒は、再び圧縮機11に戻り、高温高圧に圧縮される。
【0037】
制御装置5は、圧縮機11や一次室内機減圧機構22、中継ユニット減圧機構34といった空気調和機Aを構成する各部を制御する。なお図1では、空気調和機Aの中に設けられているように描画されているが、制御装置5は、例えば、室外機1に設けられていても、或いは、一次室内機2に設けられていても良い。
【0038】
図2は、本発明の実施の形態に係る制御装置5の内部構成を示すブロック図である。図2に示すように、制御装置5は、検出部51と、記憶部52と、判定部53と、減圧機構制御部54と、が設けられている。
【0039】
検出部51は、圧縮機11の吐出側に設けられている吐出温度センサ14で測定された一次冷媒の吐出温度や吐出圧力センサ15で測定された一次冷媒の吐出圧力を検出する。さらに検出部51は、測定された一次冷媒の吐出温度や吐出圧力を用いて圧縮機11の吐出過熱度を算出する。具体的には、検出部51は吐出圧力を飽和温度に換算した値を吐出温度から減じることで吐出過熱度を算出する。なお、吐出圧力の検出方法として吐出圧力センサ15で測定する方法を説明したが、吐出圧力の検出方法はこれに限定されない。例えば、一次室内機熱交換器21や中間熱交換器32における一次冷媒の温度を測定する凝縮温度センサを設け、凝縮温度センサで測定された温度を飽和圧力に換算することで算出してもよい。
【0040】
このような吐出温度センサ14で測定された吐出温度や吐出圧力センサ15で測定された吐出圧力、或いは、吐出過熱度については、圧縮機11内で一次冷媒が凝縮する状態が解消されたか否かを判定するためのパラメータとなる値である。そこで、以下このような値をまとめて「吐出冷媒状態値」と表す。
【0041】
なお、後述するように、例えば、判定部53は吐出冷媒状態値を設定値と比較して圧縮機11内で一次冷媒が凝縮する状態が解消されたか否かを判定する。その際に用いる吐出冷媒状態値は、例えば、吐出過熱度であるが、その他、上述したいずれの値を用いても良い。また、いずれの吐出冷媒状態値を用いるかについては、事前に設定されている。
【0042】
さらに、検出部51は、二次冷媒回路C2内に設けられている二次冷媒温度センサ33において測定された中間熱交換器32から吐出された二次冷媒の温度も検出する。
【0043】
なお、吐出温度センサ14や吐出圧力センサ15、或いは、二次冷媒温度センサ33から測定値を検出部51が検出するタイミングは、リアルタイムであっても、或いは、予め定められた時間ごとであっても良い。また、予め定められた時間ごとに検出する場合には、各センサから送信される測定値を検出しても、検出部51が各センサにアクセスして測定値を取得するようにしても良い。
【0044】
検出部51で検出された吐出冷媒状態値については、適宜記憶部52に記憶される。記憶部52では、この他に、例えば、後述する起動制御を実行するか否かの条件や吐出冷媒状態値と比較するために予め定められている設定値等についても記憶されている。また、実際に起動制御を実行するに当たって、一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34の開度率を変化させることになるが、それぞれの起動制御における各減圧機構の開度率についても記憶されている。
【0045】
判定部53は、制御装置5が空気調和機Aに対する制御を実行する際に、空気調和機Aの運転状態を判定する。具体的には、各一次室内機2や各中継ユニット3の暖房運転の開始や停止といった運転状態の判定、空気調和機Aに対して通常制御を行うのか、或いは、起動制御を行うのかの判定、或いは、起動制御の状態の判定等を行う。
【0046】
ここで「通常制御」とは、一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34をフィードバック制御により制御する方法である。例えば、一次室内機熱交換器21、及び、中間熱交換器32の出口における一次冷媒の過冷却度を検出するセンサをそれぞれに設け、当該過冷却度が所定の目標値になるように一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34を制御し、一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34の開度率を調整する。また、通常制御は、後述する起動制御を行う必要がない場合、あるいは起動制御が完了した後に実行される制御である。
【0047】
ここで、「開度率」とは、一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34の最大開度に対する開度の比率である。「開度」とは、例えば、一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34の流路断面積であるが、これに限定されず、開度の変化と相関して変化するパラメータであれば開度率を算出するための開度として置き換えることができる。例えば、所定の出入口圧力で単相流体を流したときの単位時間当たりの流量を開度に置き換えてもよいし、一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34がパルスモータで駆動する電子膨張弁である場合には、パルスモータに与えられるパルス数を開度に置き換えてもよい。
【0048】
これに対して「起動制御」とは、一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34を予め定められた所定開度率に設定する制御である(具体的な制御方法については後述する)。また、圧縮機11の内部で冷媒が凝縮することによって圧縮機11の吐出圧力の上昇が阻害される場合に、圧縮機11から冷凍機油の吐出を抑えつつ速やかに圧縮機11の吐出圧力を上昇させる必要がある場合に実行される制御である。
【0049】
圧縮機11内で一次冷媒が凝縮する状態においては、一次室内機熱交換器21、及び、中間熱交換器32には一次冷媒が十分に流れないため、過冷却度を正しく検出できず、通常制御における一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34のフィードバック制御を正確に行えない。そこで、一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34を所定開度率に設定する起動制御を行う必要がある。
【0050】
ここで、一次室内機2、及び、中継ユニット3は、さまざまな能力のものが混在して接続されることがある。一次室内機2の能力は、一次室内機熱交換器21のサイズや、一次室内機減圧機構22の最大開度、室内ファンの風量等によって決まる。同様に、中継ユニット3の能力は、中間熱交換器32のサイズや、中継ユニット減圧機構34の最大開度、循環ポンプ31の流量等によって決まる。したがって、一次室内機2に設けられる一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット3に設けられる中継ユニット減圧機構34の最大開度は、それぞれの能力に相応して設定されている。そのため、それぞれの一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34の開度率を同じ開度率に設定すれば、一次室内機2、及び、中継ユニット3にはそれぞれの能力に相応した一次冷媒が流れ、それぞれの能力を出力することができる。
【0051】
しかしながら、上述の通り、水は空気に比べて比熱が大きいことに起因して、中継ユニット3に一次冷媒が流れるほど、圧縮機11の起動後の吐出圧力の上昇が阻害され、圧縮機11の温度が低い場合には、圧縮機11の内部で冷媒が凝縮し冷凍機油と混合される状態がなかなか解消されない。
【0052】
そこでこのような状態を早期に脱するために、後述するように、中継ユニット3よりも一次室内機2に対して一次冷媒を優先的に流すように一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34の開度率を変化させる制御を行う。このような制御(起動制御)を行うことによって、一次室内機2、及び、中継ユニット3に流れる一次冷媒の流量を意図的に偏らせて速やかに圧縮機の吐出圧力を上昇させる。
【0053】
減圧機構制御部54は、判定部53の判定に基づいて、一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34の開度率が所定の開度率となるよう制御を行う。なお、一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34の開度率の制御は、通常制御の場合も減圧機構制御部54によって実行される。
【0054】
判定部53が通常制御を実行するか、或いは、起動制御を実行するかの判定を行うのは、一次室内機2、又は、二次室内機4が暖房運転を開始する場合である。なお、以下の説明においては、二次室内機4が運転し、循環ポンプ31が駆動することを、適宜「中継ユニット3が運転する」と表す。
【0055】
一次室内機2、及び、中継ユニット3が暖房運転を開始する場合、上述したように判定部53は起動制御を実行するか否かを判定する。具体的には、例えば、圧縮機11のシェルの温度が所定の閾値より低い場合等、圧縮機11の内部で冷媒が凝縮することによって圧縮機11の吐出圧力の上昇が遅れるような状況になると考えられる場合に、判定部53は起動制御を実行すると判定する。なお、このような条件については、記憶部52に記憶されており、判定部53が上述したようなこれらの条件に合致するか否かを判定する。
【0056】
もし記憶部52に記憶されている条件に照らして、判定部53が起動制御を実行しないと判定した場合、すなわち圧縮機11の吐出圧力の上昇が遅れるような状況にならないと考えられる場合には、通常制御が実行される。反対に判定部53が起動制御を実行すると判定した場合、すなわち圧縮機11の吐出圧力の上昇が遅れるような状況になると考えられる場合には、上述したように起動制御が実行される。
【0057】
起動制御を実行する場合、判定部53はまず、中継ユニット3が暖房運転を開始し、かつ、検出部51が検出した二次冷媒温度センサ33が測定した二次冷媒の温度値が所定の温度値よりも低いか否かを判定する。
【0058】
なお、ここで「所定の温度値」とは、以下に説明する制御を用いた場合に、通常制御よりも速やかに圧縮機の吐出圧力を上昇させて所望の空調能力を発揮することができる二次冷媒の温度の境界値のことである。より具体的には、例えば、実験によって得られる値である。
【0059】
これは、実行する起動制御の動作を決定するためである。上述したように、水は空気に比べて比熱が大きいことから、中継ユニット3に接続される二次冷媒回路C2に水を二次冷媒として用いた場合、中間熱交換器32における一次冷媒と二次冷媒との熱交換を行っても、二次冷媒の温度は上がりにくい。これは、本発明の実施の形態における空気調和機Aのように二次冷媒として水を用いる二次冷媒回路C2が設けられている場合には、空気との間でのみ熱交換を行う冷凍サイクル装置に比べて、起動後における圧縮機の吐出圧力の上昇は遅くなるからである。このような理由から、中継ユニット3が暖房運転を開始したか否か、及び、二次冷媒の温度値が所定の温度値よりも低いか否かによって起動制御の動作は異なる。そのため、判定部53は、中継ユニット3が暖房運転を開始し、かつ、検出部51が検出した二次冷媒温度センサ33が測定した二次冷媒の温度値が所定の温度値よりも低いか否かを判定する。
【0060】
そして、さらに判定部53は、一次室内機2が暖房運転を開始したか否かも判定する。中継ユニット3が暖房運転を開始した場合であって、一次室内機2が暖房運転を開始したか否かによって、後述するように、起動制御の動作が異なるためである。
【0061】
なお、ここで、一次室内機2と中継ユニット3の暖房運転の開始について、一次冷媒回路C1に接続される全ての一次室内機2中継ユニット3が暖房運転を開始する必要はなく、少なくとも1台の一次室内機2、及び、少なくとも1台の中継ユニット3が暖房運転を開始すれば良い。
【0062】
判定部53が、少なくとも1台の一次室内機2、及び、少なくとも1台の中継ユニット3が暖房運転を開始し、かつ、二次冷媒の温度が所定の温度よりも低いと判定した場合に、減圧機構制御部54は、一次室内機減圧機構22の所定開度率である第一開度率が、中継ユニット減圧機構34の所定開度率である第二開度率よりも大きくなるようにそれぞれの減圧機構を制御する。なお、以下このような起動制御を「第一起動制御」と表す。
【0063】
このように、一次室内機減圧機構22の開度率(第一開度率)を中継ユニット減圧機構34の開度率(第二開度率)よりも大きくすることで、一次室内機熱交換器21と中間熱交換器32を流れる冷媒の流量比は、一次室内機2と中継ユニット3の能力比よりも、一次室内機2の方に偏ることになる。言い換えれば、一次室内機2の暖房運転を優先することになる。つまり、比熱が大きい水と熱交換を行う中間熱交換器32を流れる冷媒の流量を相対的に減らし、比熱の小さい空気と熱交換を行う一次室内機熱交換器21を流れる冷媒の流量を相対的に増やすことができる。これにより、より早期に圧縮機11の吐出圧力を上昇させることができる。
【0064】
また、減圧機構制御部54が第一起動制御を実行するのは、圧縮機11における吐出冷媒の状態を示す吐出冷媒状態値が予め設定された設定値となるまでの間である。すなわち上述したように、吐出冷媒状態値は、圧縮機に関して圧縮機内で冷媒が凝縮する状態が解消されたか否かを判定するためのパラメータとなる値である。従って、例えば、検出部51が検出した吐出過熱度が設定値よりも大きな値を示せば、圧縮機内の冷媒が過熱蒸気になったと考えられるため、圧縮機内で冷媒が凝縮する状態が解消されたと判定することができる。
【0065】
なお、当該設定値については、上述したように予め設定されており、記憶部52に記憶されている。また設定値は、吐出冷媒状態値ごとに設定されており、判定の際に選択される吐出冷媒状態値に対応する設定値が用いられる。
【0066】
判定部53が吐出冷媒状態値が設定値よりも大きな値となったと判定した場合には、第一起動制御から段階的に通常制御へと運転状態を移行させる。
【0067】
上述の通り、通常制御においてはフィードバック制御が行われるため、一次室内機減圧機構22の開度率は、一次室内機2の能力に相応する流量が一次室内機熱交換器21に流れる開度率に最終的に安定する。同様に、中継ユニット減圧機構34の開度率は、中継ユニット3の能力相応の流量が中間熱交換器32に流れる開度率に最終的に安定する。しかし、第一起動制御において一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34の開度率は、一次室内機2の方に冷媒の流量比が偏るように設定されている。そのため、一次室内機減圧機構22の第一開度率と、中継ユニット減圧機構34の第二開度率は、最終的に安定する開度率と乖離している。
【0068】
そのため第一起動制御からすぐに通常制御へと運転状態を移行させると、通常制御として一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34開度率が最終的に安定するまでに時間が掛かる。そこで、一次室内機減圧機構22、中継ユニット減圧機構34の開度率について、第一起動制御における開度率を通常制御で最終的に安定する開度率に近いと考えられる開度率とする制御を行うことで、段階を踏んで通常制御に移行ことで、より早く通常制御を安定させるようにしたものである。
【0069】
具体的には、減圧機構制御部54は、一次室内機2の一次室内機減圧機構22の開度率を予め設定されている第五開度率とし、中継ユニット3の中継ユニット減圧機構34の開度率を予め設定されている第六開度率とする制御を行う。ここで、第五開度率は第一開度率より小さい開度率であり、第六開度率は第二開度率より大きな開度率である。つまり、一次室内機2に偏らせていた冷媒の流量比を、能力に相応する冷媒の流量比に近づける方向に開度率を設定する。例えば、第五開度率と第六開度率は同じ開度率であってもよい。このような起動制御を、以下、「第三起動制御」と表す。
【0070】
このように第一起動制御から通常制御に移行する間に第三起動制御を挟むことによって、第一起動制御から通常制御へのスムーズな移行を可能としている。これにより、一次室内機2及び二次室内機4において迅速に暖房能力を出すことができると共に、迅速に消費電力を抑えた効率の良い運転に安定させることができる。
【0071】
なお、第三起動制御は第一起動制御から通常制御へのスムーズな移行を果たすために実行されるものであることから、循環する一次冷媒の温度が安定してきたら第三起動制御を終了して通常制御へと移行させる必要がある。この移行の判断基準として、例えば、所定時間が経過したか否かを挙げることができる。
【0072】
そこで判定部53は、第三起動制御が実行されてからの時間を所定時間と比較し、所定時間が経過したと判定した場合には、第三起動制御を終了させる。そして減圧機構制御部54は、通常制御へと運転状態を移行する。
【0073】
このように、一次室内機2、及び、中継ユニット3の両者が暖房運転を開始し、かつ、二次冷媒の温度値が所定の温度値よりも低いことをもって第一起動制御、及び、第三起動制御が実行される。このように、判定部53が中継ユニット3と一次室内機2が暖房運転を開始したか否かを判定するが、中継ユニット3が暖房運転を開始した一方、一次室内機2は暖房運転を開始していない場合もある。
【0074】
このような場合には、暖房運転を開始していない一次室内機2に冷媒の流量比を偏らせることができないため、上述した第一起動制御を実行することができない。そこで、以下に説明するような第二起動制御を実行する。
【0075】
具体的には、中継ユニット3は暖房運転を開始しているので、まず中継ユニット減圧機構34の開度率を第四開度率に制御する。この第四開度率は、上述した第二開度率よりも大きな開度率である。上述したように、一次室内機2は暖房運転を行っていない。暖房運転を行っていない一次室内機2に多くの一次冷媒を流すと、一次室内機減圧機構22を一次冷媒が通過する際の流動音が使用者に不快感を与える可能性がある。そのため、暖房運転が開始された中継ユニット3に第一起動制御の場合よりも多くの一次冷媒を流す必要がある。なぜなら、暖房運転を行っていない一次室内機2に多くの一次冷媒を流せない中で、中継ユニット3に流れる一次冷媒も少なくすると、圧縮機11に戻る一次冷媒が不足し圧縮機11が損傷する可能性があるためである。
【0076】
但し、暖房運転を開始していない一次室内機2に対しては全く一次冷媒を流さない、ということではない。上述したように、一次室内機2は比熱の小さな空気との熱交換を行うことから、暖房運転を開始していない場合であっても一次室内機2に一次冷媒を流すことで、圧縮機の吐出圧力を上昇させることについて中継ユニット3と併せて対応する。
【0077】
次に、一次室内機減圧機構22の開度率をどのように設定するかについて、通常制御においても、暖房運転が行われている際には、一次室内機減圧機構22の開度率は微開(以下、このような開度率を「停止開度率」と表す)とする制御が行われている。
【0078】
すなわち、空気調和機Aにおいて暖房運転が行われる場合、上述したように一次室内機減圧機構22は、一次冷媒回路C1において一次室内機熱交換器21の下流に配置されている。そのため、通常制御が実行される場合に、暖房運転が開始されていない一次室内機2に一次冷媒を流すと、室内ファンが停止していても一次室内機熱交換器21を含む一次室内機2の内部で一次冷媒が周囲の空気と熱交換し、凝縮する場合がある。
【0079】
このように一次室内機2の内部で一次冷媒が凝縮すると、その内部で当該一次冷媒が溜まってしまう可能性があり、一次冷媒回路C1を循環する一次冷媒の量が不足することになりかねない。そのため、通常制御においても、暖房運転が行われている際に、暖房運転がされていない一次室内機減圧機構22の開度率を停止開度率とし、一次冷媒を流す制御が行われている。
【0080】
そこで、早期に圧縮機の吐出圧力を上げて一次冷媒に冷凍機油が混合するような状態を脱する必要があるという観点から、暖房運転が開始されていない一次室内機2に対しても一次冷媒を流すように制御する。本発明の実施の形態においては、その際の一次室内機減圧機構22の開度率を、停止開度率よりも大きな開度率(以下、このような、第二起動制御における一次室内機減圧機構22の開度率を「第三開度率」と表す)とする。
【0081】
また、減圧機構制御部54は、一次室内機2の一次室内機減圧機構22の開度率である第三開度率について、第一開度率より小さな開度率とする制御を行う。これは、第二起動制御が実行される場合、一次室内機2は暖房運転をしていないからである。
【0082】
以上、中継ユニット減圧機構34の開度率の制御だけではなく、暖房運転を開始していない一次室内機2に対しても第一開度率より小さく、停止開度率よりも大きな第三開度率となるように一次室内機減圧機構22を制御し、一次室内機2に対しても一次冷媒が流れるようにする。このように暖房運転を開始していない一次室内機2も活用して一次冷媒を流すことで、より圧縮機11の吐出圧力を早く上げることができる。
【0083】
減圧機構制御部54が第二起動制御を実行した場合に、判定部53は、吐出冷媒状態値が予め設定された設定値となったか否かを判定する。そして判定部53が吐出冷媒状態値が設定値よりも大きな値となったと判定した場合には、圧縮機11内で冷媒が凝縮する状態が解消されたと判断できるので、第二起動制御を完了させる。その後、減圧機構制御部54は通常制御で一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34の開度率を制御する。
【0084】
減圧機構制御部54は、通常制御における一次室内機減圧機構22の開度率として、第三開度率を停止開度率となるように制御する。上述したように、当該停止開度率は第二起動制御における一次室内機減圧機構22の開度率よりも小さな開度率となるように設定されており、微開とする制御である。
【0085】
このように第二起動制御完了後の通常制御においては、一次室内機減圧機構22に対して微開となる停止開度率となる制御を行う。このような制御を実行することで、暖房運転がされていない一次室内機2に一次冷媒を循環させたとしても一次室内機2の内部で一次冷媒が滞留することを防止することができるので、一次冷媒回路C1を循環する一次冷媒の量が不足することはない。
【0086】
以上で一次室内機2、及び、中継ユニット3の両方が暖房運転を開始した場合における起動制御(第一起動制御、第三起動制御)、及び、中継ユニット3のみが暖房運転を開始した場合の起動制御(第二起動制御)について説明した。
【0087】
上述したように、判定部53は、まず起動制御を実行するか否かを判定するが、判定条件に照らして通常制御ではなく、起動制御を実行すると判定した場合であり、中継ユニット3が暖房運転を開始した場合に、例えば、二次冷媒回路C2内を循環する二次冷媒の温度が高い場合がある。
【0088】
つまり検出部51が二次冷媒温度センサ33から取得した二次冷媒の温度が所定の温度値以上である場合、中継ユニット3に多くの一次冷媒を流すことで圧縮機11の吐出圧力を早期に上昇させることが可能である。また、二次冷媒の温度が所定の温度値以上であれば、中間熱交換器32における一次冷媒との間での熱交換においても、一次冷媒が熱交換され過ぎてしまうこともない。
【0089】
そこでこのような場合には、減圧機構制御部54は、一次室内機減圧機構22の開度率を第七開度率とし、中継ユニット減圧機構34の開度率を第八開度率とする制御を実行する(以下、このような起動制御を「第四起動制御」と表す)。ここで第七開度率は、第一開度率よりも小さな開度率である。一方、第八開度率については、上述したようにより多くの一次冷媒を中継ユニット3に流すことができるように、第二開度率よりも大きな開度率となるように設定されている。なお、例えば、第七開度率と第八開度率は同じ開度率であってもよい。
【0090】
さらに、第四起動制御が圧縮機11の起動直後に実行されることになるため、例えば、上述した第三起動制御の場合と比べて圧縮機11の回転数は低いと考えられる。従って、これらのことを考慮すると、上述した第七開度率を第五開度率よりも小さな開度率とし、第八開度率を第六開度率よりも小さな開度率とすることもできる。
【0091】
減圧機構制御部54が第四起動制御を実行した場合に、判定部53は、吐出冷媒状態値が予め設定された設定値となったか否かを判定する。そして判定部53が吐出冷媒状態値が設定値よりも大きな値となったと判定した場合には、圧縮機11内で冷媒が凝縮する状態が解消されたと判断できるので、第四起動制御を完了させる。その後、減圧機構制御部54は通常制御で一次室内機減圧機構22、及び、中継ユニット減圧機構34の開度率を制御する。
【0092】
なお、ここまで起動制御について説明してきたが、起動制御を行うか通常制御を行うかの判定は、上述したように判定部53が行う。判定部53では、予め設定されている条件に合致するか否かで当該判定を行うが、起動制御を行うとの判定を行って、実際に起動制御を行うまでの間に準備処理を行っても良い。
【0093】
すなわち判定部53が、二次冷媒温度センサ33によって測定された二次冷媒の温度が所定の温度値よりも低く、中継ユニット3が暖房運転を開始したと判定した後、一次室内機2が暖房運転を開始したか否かの判定を行う前に、吐出冷媒状態値と設定値との比較を行う。
【0094】
その結果、もしこの状態で、判定部53が、吐出冷媒状態値が設定値よりも大きな値を示していると判定できたのであれば、起動制御を実行せずに通常制御へと移行する。また、反対に判定部53が、吐出冷媒状態値が設定値以下である場合には、上述したように、一次室内機2が暖房運転を開始したか否かの判定を行う。
【0095】
このような準備処理を起動制御の実行開始前に行うことで、起動制御の実行の要否を的確に判定することが可能になり、空気調和機Aの状態に合わせた制御を実行することができる。
【0096】
以上、本発明の実施の形態における空気調和機Aの基本的な制御について説明した。これまでの制御の流れでは、起動制御を実行する場合、まず二次冷媒の温度値と所定の温度値との比較を行っていた。これは上述したように、二次冷媒として水を用いる二次冷媒回路C2が設けられている場合には、空気との間でのみ熱交換を行う冷凍サイクル装置に比べて、起動後における圧縮機の吐出圧力の上昇が遅くなるからである。そして、二次冷媒の温度値が所定の温度値以上であった場合、中継ユニット3に多くの一次冷媒を流すことで圧縮機11の吐出圧力を早期に上昇させるために第四起動制御が開始される。
【0097】
しかしながら、二次冷媒の温度値が所定の温度値以上であったとしても、一次冷媒の温度値と二次冷媒の温度値との関係で次に説明するような状況が生じかねない。すなわち、二次冷媒の温度値の方が一次冷媒の温度値よりも高い温度値である場合、一次冷媒と二次冷媒との間での熱交換によって、一次冷媒が二次冷媒の温度を低下させてしまうことが考えられる。この場合、低温の二次冷媒が二次冷媒回路C2を循環することになるため、二次室内機4を介して室内を冷やしてしまうことになり、ユーザの快適性を損なう可能性がある。
【0098】
ここで、もし一次冷媒の温度値の方が二次冷媒の温度値よりも高い場合、一次冷媒と二次冷媒との間での熱交換により一次冷媒が放熱することで、一次冷媒が状態変化して凝縮する。これに対して、上述したように二次冷媒の温度値の方が一次冷媒の温度値よりも高い場合、一次冷媒が二次冷媒に放熱できないことから、一次冷媒が凝縮しない。そのため、一次冷媒が液相状態にならず、圧縮機11から一次冷媒と一緒に吐出された冷凍機油が中間熱交換器32内に滞留する可能性がある。そうなると圧縮機11に冷凍機油が戻って来なくなることから、例えば、圧縮機11の潤滑性やシール性が悪化して信頼性が低下することにつながる。
【0099】
そこで、これまで説明してきた制御装置5の処理に加えて、以下の処理を実行することによって、上述した弊害が生ずる可能性を低減させることができる。すなわち、起動制御が実行された後であって、判定部53が、中継ユニット3が暖房運転を開始したか否か、及び、検出部51が検出した二次冷媒温度センサ33が測定した二次冷媒の温度値が所定の温度値よりも低いか否かを判定する前に、一次冷媒の温度値と二次冷媒の温度値との比較を実行する。
【0100】
具体的には、判定部53は、一次冷媒の温度値が二次冷媒の温度値未満であるか否かを判定する。当該一次冷媒の温度値は、中継ユニット3に流入する一次冷媒の温度値のことである。一次冷媒の温度値については、一次冷媒温度センサが検出した温度値を判定部53が検出部51を介して取得する。
【0101】
なお、ここでの「一次冷媒温度センサ」については、暖房運転の起動時であることから、圧縮機11から吐出される冷媒の吐出温度を用いることができる。すなわち、一次冷媒温度センサは図1に示す吐出温度センサ14である。もちろん、当該「一次冷媒温度センサ」自体を吐出温度センサ14とは別に第1の冷媒回路C1に設けても構わない。
【0102】
このように判定部53は、一次冷媒の温度値が二次冷媒の温度値未満であるか否かを判定し、一次冷媒の温度値が二次冷媒の温度値未満であると判定した場合には、一次室内機2が暖房運転を開始したか否かの判定を行った上で、第一起動制御を実行する。すなわち、一次冷媒の温度値が二次冷媒の温度値よりも低い場合には、一次室内機2における一次室内機減圧機構22の第一開度率が中継ユニット減圧機構34の第二開度率よりも大きくなるように制御し、中継ユニット3に流す一次冷媒の量が一次室内機2よりも少なくなるように制御する。
【0103】
一方、判定部53による判定が、一次冷媒の温度値が二次冷媒の温度値以上であるとの判定である場合には、次に判定部53が、中継ユニット3が暖房運転を開始し、及び、検出部51が検出した二次冷媒温度センサ33が測定した二次冷媒の温度値が所定の温度値よりも低いか否かを判定する処理へと移る。
【0104】
判定部53が、二次冷媒の温度値が所定の温度値よりも低いと判定した場合は、上述したように、一次室内機減圧機構22の第一開度率が中継ユニット減圧機構34の第二開度率よりも大きくなるように制御される。但し、例えば、一次室内機2の暖房要求能力が中継ユニット3における暖房要求能力よりも低い場合には、第一開度率が第二開度率よりも大きくなるような制御を行うよりも、むしろ暖房要求能力が大きな中継ユニット3に対して冷媒を多く供給した方が良い。これは、暖房要求能力が大きな中継ユニット3に対して冷媒を多く供給した方が、圧縮機11から冷凍機油の吐出を抑えつつ速やかに圧縮機11の吐出圧力を上昇させて所望の空調能力を発揮させることができると考えられるからである。
【0105】
そこで判定部53が、二次冷媒の温度を測定する二次冷媒温度センサ33が測定した二次冷媒の温度が予め定められた所定の温度値未満の温度であると判定し、且つ、一次室内機2の要求能力の合計値が、中継ユニット3の要求能力の合計値以下であると判定した場合には、第四起動制御を実行する。
【0106】
すなわち、減圧機構制御部54は、一次室内機2が備える一次室内機減圧機構22の開度率をその所定開度率である第一開度率よりも小さな開度率である第七開度率とし、中継ユニット3が備える中継ユニット減圧機構34の開度率をその所定開度率であり第一開度率よりも小さな開度率である第二開度率よりも大きな開度率である第八開度率とする制御を実行する。
【0107】
なお、制御装置5では、複数台接続されている一次室内機2における、個々の一次室内機2ごとの要求能力を把握している。従って、個々に把握されている一次室内機2ごとの要求能力を全て加算して一次室内機2の要求能力の合計値を算出する。また、同様に、制御装置5は中継ユニット3ごとの要求能力も把握している。そこで、個々に把握されている中継ユニット3ごとの要求能力を全て加算して中継ユニット3の要求能力の合計値を算出する。判定部53はこれら合計値同士を比較して、いずれの合計値の方が大きいかを判定する。
【0108】
一方、判定部53が、二次冷媒の温度を測定する二次冷媒温度センサ33が測定した二次冷媒の温度が予め定められた所定の温度値未満の温度であると判定し、且つ、一次室内機2の要求能力の合計値が、中継ユニット3の要求能力の合計値よりも大きいと判定した場合には、第一起動制御が実行される。
【0109】
このように一次室内機2の要求能力の合計値と中継ユニット3の要求能力の合計値とを比較して、合計値が大きな方により多くの一次冷媒を流すように制御することで、圧縮機11から冷凍機油の吐出を抑えつつ速やかに圧縮機11の吐出圧力を上昇させて所望の空調能力を発揮させることができる。
【0110】
[動作]
次に、圧縮機11の吐出圧力を上昇させるための起動制御を実行する際の処理の流れについて、図3ないし図7を用いて説明する。図3ないし図7は、本発明の実施の形態に係る空気調和機Aの制御の流れを示すフローチャートである。
【0111】
判定部53は、まず、起動制御を実行するか否かを判定する(ST1)。判定の条件については、事前に記憶部52に記憶されており、各種センサから検出部51が取得した情報を基に判定する。もし、この時点で起動制御が不要である場合には(ST1のNO)、通常制御を実行する(ST2)。
【0112】
もし判定部53が、起動制御を実行すると判定した場合には(ST1のYES)、次に判定部53は一次冷媒の温度値が二次冷媒の温度値未満であるか否かの判定を行う(ST3)。その結果、一次冷媒の温度値が二次冷媒の温度値以上であると判定した場合には(ST3のNO)、さらに、中継ユニット3が暖房運転を開始し、かつ、二次冷媒回路C2内を循環する二次冷媒の温度が所定の温度値よりも低い温度か否かを判定する(ST4)。
【0113】
判定部53が、中継ユニット3が暖房運転を開始し、かつ、検出部51が二次冷媒温度センサ33から取得した二次冷媒の温度を所定の温度値と比較した結果、二次冷媒の温度の方が低いと判定した場合には(ST4のYES)、判定部53は、一次室内機2の要求能力の合計値と中継ユニット3の要求能力の合計値とを比較する(ST5)。
【0114】
その結果、判定部53が一次室内機2の要求能力の合計値の方が中継ユニット3の要求能力の合計値よりも大きいと判定した場合には(ST5のYES)、次に、一次室内機2が暖房運転を開始したか否かを判定する(図4のST6)。
【0115】
なお、上述したステップST3において判定部53が一次冷媒の温度値が二次冷媒の温度値未満であると判定した場合には(ST3のNO)、上述したように、次に、一次室内機2が暖房運転を開始したか否かを判定する(ST6)。
【0116】
一次室内機2が暖房運転を開始したと判定した場合には(ST6のYES)、判定部53の判定結果を受けて減圧機構制御部54は第一起動制御を実行する(ST7)。当該第一起動制御では、一次室内機2の一次室内機減圧機構22の開度率を第一開度率とし、中継ユニット3の中継ユニット減圧機構34の開度率を第二開度率とする。また、第一開度率は第二開度率よりも大きな開度率である。
【0117】
このように空気との間で熱交換を行う一次室内機2に対して優先的に一次冷媒を流す制御を行うことによって、速やかに圧縮機11の吐出圧力を上昇させる。判定部53では、当該第一起動制御が実行されている間、圧縮機11内で冷媒が凝縮する状態が解消されたか否かを判定するために用いられる値である吐出冷媒状態値と設定値とを比較する(ST8)。
【0118】
その結果、判定部53が、吐出冷媒状態値は未だ設定値以下の値であると判定した場合には(ST8のNO)、引き続き第一起動制御が実行される。一方、判定部53によって吐出冷媒状態値が設定値よりも大きな値であると判定された場合には(ST8のYES)、減圧機構制御部54は次に、第三起動制御を開始する(図5のST9)。
【0119】
第三起動制御は、第一起動制御から通常制御へと移行する間の、いわば移行準備段階に該当する。そこで、スムーズに通常制御へと移行することができるように、一次室内機減圧機構22の開度率を第五開度率とし、中継ユニット減圧機構34の開度率を第六開度率とする。また、第五開度率は第一開度率よりも小さな開度率であり、第六開度率は第二開度率よりも大きな開度率である。
【0120】
判定部53は、当該第三起動制御が所定時間実行されたか否かを判定し(ST10)、所定時間経過前であれば(ST10のNO)、引き続き第三起動制御が実行される。一方、判定部53が、所定時間が経過したと判定した場合には(ST10のYES)、減圧機構制御部54は第三起動制御を完了し(ST11)、通常制御へと移行する(ST12)。
【0121】
次に、ステップST6において、判定部53が一次室内機2が暖房運転を開始していないと判定した場合(ST6のNO)処理の流れについて説明する。
【0122】
この場合、減圧機構制御部54は起動制御処理として第二起動制御を実行する(図6のST21)。第二起動制御は、一次室内機減圧機構22の開度率を第三開度率とし、中継ユニット減圧機構34の開度率を第四開度率とする。また、第三開度率は第一開度率よりも小さな開度率であり、第四開度率は第二開度率よりも大きな開度率である。
【0123】
このように暖房運転を開始している中継ユニット3に対して一次冷媒を流す制御を行う。このとき、暖房運転を行っていない一次室内機2に対しても停止開度率よりも大きな第三開度率で一次冷媒を流すこととしてより早期に圧縮機11の吐出圧力を上昇させる。
【0124】
そして判定部53では、当該第二起動制御が実行されている間、吐出冷媒状態値と設定値とを比較する(ST22)。その結果、判定部53が、吐出冷媒状態値は未だ設定値以下の値であると判定した場合には(ST22のNO)、引き続き第二起動制御が実行される。一方、判定部53が吐出冷媒状態値が設定値よりも大きな値であると判定した場合には(ST22のYES)、減圧機構制御部54は当該第二起動制御を完了させる(ST23)。
【0125】
なお、この後通常制御へと移行することになるが、その前に減圧機構制御部54は、一次室内機減圧機構22の開度率を第三開度率から停止開度率とする制御を実行する(ST24)。そしてこの一次室内機減圧機構22の開度率を停止開度率とする制御を行ってから、通常制御へと移行する(ST12)。
【0126】
最後に、ステップST4において、判定部53が、中継ユニット3が暖房運転を開始していないか、二次冷媒の温度が所定の温度値以上であると判定した場合(ST4のNO)の処理の流れについて説明する。また判定部53が、二次冷媒の温度を測定する二次冷媒温度センサ33が測定した二次冷媒の温度が予め定められた所定の温度値未満の温度であると判定したものの(ST4のYES)、一次室内機2の要求能力の合計値が、中継ユニット3の要求能力の合計値以下であると判定した場合(ST5のNO)も同様の処理となる。これらの場合、減圧機構制御部54は第四起動制御を実行する(図7のST31)。
【0127】
第四起動制御の場合、暖房運転が開始した中継ユニット3により多くの一次冷媒を流し、一次室内機2に対して流す一次冷媒の量を偏らせない起動制御である。そのため、一次室内機減圧機構22の開度率を第七開度率とし、中継ユニット減圧機構34の開度率を第八開度率とする。また、第七開度率は第一開度率よりも小さな開度率であり、第八開度率は第二開度率よりも大きな開度率である。
【0128】
そして判定部53では、当該第四起動制御が実行されている間、吐出冷媒状態値と設定値とを比較する(ST32)。その結果、判定部53が、吐出冷媒状態値は未だ設定値以下の値であると判定した場合には(ST32のNO)、引き続き第四起動制御が実行される。一方、判定部53によって吐出冷媒状態値が設定値よりも大きな値であると判定された場合には(ST32のYES)、減圧機構制御部54当該第四起動制御を完了させる(ST33)。そして、通常制御へと移行する(図5のST12)
【0129】
以上説明したような空気調和機の運転制御方法を採用することによって、冷媒が空気と熱交換を行う熱交換器と、冷媒が空気よりも熱交換しやすい流体と熱交換を行う熱交換器とが並列に接続された空気調和機において、暖房運転の開始時に圧縮機の内部で冷媒が凝縮することによって圧縮機の吐出圧力の上昇が阻害される場合に、圧縮機から冷凍機油の吐出を抑えつつ速やかに圧縮機の吐出圧力を上昇させて所望の空調能力を発揮することができる。
【0130】
なお、この発明は、上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、本発明の一例を示したものである。実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化でき、また、上記実施の形態には種々の変更又は改良を加えることが可能である。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成できる。
【0131】
例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施の形態に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよく、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0132】
例えば、本発明の実施の形態においては、一次室内機と並列に接続される対象が、中間熱交換器で二次回路とを中継する中継ユニットであり、二次回路に循環ポンプを有し、二次冷媒として水を用いる場合を例に挙げて説明した。但し、このような構成ではなく、例えば、二次回路に圧縮機を有し、二次冷媒として圧縮性の冷媒を用い、中間熱交換器としてカスケード熱交換器を用いた二元冷凍サイクル装置においても上述した制御を実行することが可能である。
【0133】
また上述したように、本発明の実施の形態においては、複数の一次室内機が接続されており、それぞれ一次室内機減圧機構が設けられている。これらの一次室内機減圧機構については、元々それぞれの開度率が設定されているが、上述した制御を行うに当たっては、全ての一次室内機減圧機構の開度率を同じ開度率としても良く、或いは、個々に開度率を設定しても良い。また、複数の中継ユニットが備える中継ユニット減圧機構についても同様である。
【符号の説明】
【0134】
1・・・室外機、2・・・一次室内機、3・・・中継ユニット、4・・・二次室内機、5・・・制御装置、11・・・圧縮機、12・・・四方弁、13・・・室外熱交換器、14・・・吐出温度センサ、15・・・吐出圧力センサ、21・・・一次室内機熱交換器、22・・・一次室内機減圧機構、31・・・循環ポンプ、32・・・中間熱交換器、33・・・二次冷媒温度センサ、34・・・中継ユニット減圧機構、41・・・二次室内機熱交換器、51・・・検出部、52・・・記憶部、53・・・判定部、54・・・減圧機構制御部、A・・・空気調和機

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7