(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144329
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】導電性基材の製造方法、電子デバイスの製造方法、電磁波シールドフィルムの製造方法、面状発熱体の製造方法および導電性組成物
(51)【国際特許分類】
H05K 3/10 20060101AFI20241003BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20241003BHJP
B05D 5/12 20060101ALI20241003BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20241003BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241003BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20241003BHJP
H01B 1/24 20060101ALI20241003BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20241003BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H05K3/10 Z
C23C26/00 B
B05D5/12 B
B05D3/12 F
B05D7/24 303C
H01B13/00 503Z
H01B1/24 A
H01B1/00 E
H05K1/09 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024050931
(22)【出願日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2023054827
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000130581
【氏名又は名称】サトーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】柴田 剛
(72)【発明者】
【氏名】小川 孝之
【テーマコード(参考)】
4D075
4E351
4K044
5E343
5G301
5G323
【Fターム(参考)】
4D075AC41
4D075AC51
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4E351AA02
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5G301DA03
5G301DA06
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5G301DD02
5G301DE01
5G323AA01
(57)【要約】
【課題】超音波により基材上に導電性層を形成して導電性基材を製造する場合において、形成される導電性層の導電性を高めること。
【解決手段】基材の表面に、導電性組成物を用いて膜を形成する膜形成工程と、その膜に超音波を印加して導電性層とする超音波印加工程と、を含む、導電性基材の製造方法。この製造方法において、導電性組成物は、銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子(A)と、導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、導電性組成物を用いて膜を形成する膜形成工程と、
前記膜に超音波を印加して導電性層とする超音波印加工程と、
を含む、導電性基材の製造方法であって、
前記導電性組成物は、
銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子(A)と、
前記導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、
を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電性組成物が、さらに、重合性化合物(C1)および樹脂(C2)からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性基材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記化合物(B)は、前記導電性粒子(A)中の銅または銀に配位可能な配位子(B1)を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記配位子(B1)は、アミン、イミン、ホスフィン、アゾールおよびカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1以上の化合物を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記配位子(B1)は、単座配位子および二座配位子からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性基材の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記化合物(B)は、還元剤(B2)を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記還元剤(B2)は、アスコルビン酸、シュウ酸およびギ酸からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性基材の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記化合物(B)は、分散剤(B3)を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項9】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記化合物(B)は、ニトリル化合物(B4)を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項10】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電性粒子(A)の体積基準におけるメジアン径が10nm~50μmである、導電性基材の製造方法。
【請求項11】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記膜形成工程は、前記導電性組成物を前記基材上に塗布または印刷する塗布工程と、前記基材上に塗布または印刷された前記導電性組成物を硬化させる硬化工程と、を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項12】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記超音波印加工程では、前記膜に圧力を加えながら超音波を印加する、導電性基材の製造方法。
【請求項13】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記基材がフィルム状、シート状または板状である、導電性基材の製造方法。
【請求項14】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記基材が可撓性を有する、導電性基材の製造方法。
【請求項15】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電性層は、パターン構造を有する、導電性基材の製造方法。
【請求項16】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて電子デバイスを製造する、電子デバイスの製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の電子デバイスの製造方法であって、
前記電子デバイスが、RFタグである、電子デバイスの製造方法。
【請求項18】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて電磁波シールドフィルムを製造する、電磁波シールドフィルムの製造方法。
【請求項19】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて面状発熱体を製造する、面状発熱体の製造方法。
【請求項20】
銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子(A)と、前記導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、を含む導電性組成物であって、
基材上に、当該導電性組成物を用いて膜を形成し、当該膜に超音波を印加することで導電性基板を製造する用途に用いられる導電性組成物。
【請求項21】
請求項20に記載の導電性組成物であって、
さらに、重合性化合物(C1)および樹脂(C2)からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性組成物。
【請求項22】
請求項20または21に記載の導電性組成物であって、
前記化合物(B)は、前記導電性粒子(A)中の銅または銀に配位可能な配位子(B1)を含む、導電性組成物。
【請求項23】
請求項22に記載の導電性組成物であって、
前記配位子(B1)は、アミン、イミン、ホスフィン、アゾールおよびカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1以上の化合物を含む、導電性組成物。
【請求項24】
請求項22に記載の導電性組成物であって、
前記配位子(B1)は、単座配位子および二座配位子からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性組成物。
【請求項25】
請求項20または21に記載の導電性組成物であって、
前記化合物(B)は、還元剤(B2)を含む、導電性組成物。
【請求項26】
請求項25に記載の導電性組成物であって、
前記還元剤(B2)は、アスコルビン酸、シュウ酸およびギ酸からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性組成物。
【請求項27】
請求項20または21に記載の導電性組成物であって、
前記化合物(B)は、分散剤(B3)を含む、導電性組成物。
【請求項28】
請求項20または21に記載の導電性組成物であって、
前記化合物(B)は、ニトリル化合物(B4)を含む、導電性組成物。
【請求項29】
請求項20または21に記載の導電性組成物であって、
前記導電性粒子(A)の体積基準におけるメジアン径が10nm~50μmである、導電性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性基材の製造方法、電子デバイスの製造方法、電磁波シールドフィルムの製造方法、面状発熱体の製造方法および導電性組成物に関する。
【0002】
金属に超音波を印加することにより、接合界面に存在する酸化皮膜や付着物を破壊・分散し、塑性変形により金属同士を密着させる技術(超音波金属接合)が知られている。この技術の応用として、金属微粒子に超音波を印加することにより、導電性層を形成すること、また、導電性層を備える導電性基材を製造する試みが知られている。
【0003】
超音波により金属を接合する場合、基本的には金属を溶融させるための加熱を要しない。よって、例えば樹脂などの低耐熱性の基材の表面に、金属粒子を含む膜を形成し、その膜に超音波を印加することで、基材(樹脂)の溶融や変形を抑えつつ、導電性層を形成することが可能と考えられる。
このような導電性層の形成に関する先行技術として、特許文献1を挙げることができる。特許文献1には、(i)合成樹脂からなる基材上に、金属微粒子及び樹脂バインダーを含有するインクを塗布するステップと、(ii)インクを硬化させ、基材と樹脂バインダーを密着させるステップと、(iii)硬化したインクの表面に超音波振動を与えながら圧力を加えることにより、金属微粒子同士の接触面積を増加させるステップと、を備える導電性基材の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの知見によれば、従来技術において、超音波により基材上に導電性層を形成して導電性基材を製造する場合、形成される導電性層の導電性の向上になお改善の余地があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の1つは、超音波により基材上に導電性層を形成して導電性基材を製造する場合において、形成される導電性層の導電性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0008】
1.
基材の表面に、導電性組成物を用いて膜を形成する膜形成工程と、
前記膜に超音波を印加して導電性層とする超音波印加工程と、
を含む、導電性基材の製造方法であって、
前記導電性組成物は、
銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子(A)と、
前記導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、
を含む、導電性基材の製造方法。
2.
1.に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電性組成物が、さらに、重合性化合物(C1)および樹脂(C2)からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性基材の製造方法。
3.
1.または2.に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記化合物(B)は、前記導電性粒子(A)中の銅または銀に配位可能な配位子(B1)を含む、導電性基材の製造方法。
4.
3.に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記配位子(B1)は、アミン、イミン、ホスフィン、アゾールおよびカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1以上の化合物を含む、導電性基材の製造方法。
5.
3.または4.に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記配位子(B1)は、単座配位子および二座配位子からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性基材の製造方法。
6.
1.~5.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記化合物(B)は、還元剤(B2)を含む、導電性基材の製造方法。
7.
6.に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記還元剤(B2)は、アスコルビン酸、シュウ酸およびギ酸からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性基材の製造方法。
8.
1.~7.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記化合物(B)は、分散剤(B3)を含む、導電性基材の製造方法。
9.
1.~8.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記化合物(B)は、ニトリル化合物(B4)を含む、導電性基材の製造方法。
10.
1.~9.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電性粒子(A)の体積基準におけるメジアン径が10nm~50μmである、導電性基材の製造方法。
11.
1.~10.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記膜形成工程は、前記導電性組成物を前記基材上に塗布または印刷する工程と、前記基材上に塗布または印刷された前記導電性組成物を硬化させる硬化工程と、を含む、導電性基材の製造方法。
12.
1.~11.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記超音波印加工程では、前記膜に圧力を加えながら超音波を印加する、導電性基材の製造方法。
13.
1.~12.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記基材がフィルム状、シート状または板状である、導電性基材の製造方法。
14.
1.~13.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記基材が可撓性を有する、導電性基材の製造方法。
15.
1.~14.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電性層は、パターン構造を有する、導電性基材の製造方法。
16.
1.~15.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて電子デバイスを製造する、電子デバイスの製造方法。
17.
16.に記載の電子デバイスの製造方法であって、
前記電子デバイスが、RFタグである、電子デバイスの製造方法。
18.
1.~15.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて電磁波シールドフィルムを製造する、電磁波シールドフィルムの製造方法。
19.
1.~15.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて面状発熱体を製造する、面状発熱体の製造方法。
20.
銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子(A)と、前記導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、を含む導電性組成物であって、
基材上に、当該導電性組成物を用いて膜を形成し、当該膜に超音波を印加することで導電性基板を製造する用途に用いられる導電性組成物。
21.
20.に記載の導電性組成物であって、
さらに、重合性化合物(C1)および樹脂(C2)からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性組成物。
22.
20.または21.に記載の導電性組成物であって、
前記化合物(B)は、前記導電性粒子(A)中の銅または銀に配位可能な配位子(B1)を含む、導電性組成物。
23.
22.に記載の導電性組成物であって、
前記配位子(B1)は、アミン、イミン、ホスフィン、アゾールおよびカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1以上の化合物を含む、導電性組成物。
24.
22.または23.に記載の導電性組成物であって、
前記配位子(B1)は、単座配位子および二座配位子からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性組成物。
25.
20.~24.のいずれか1つに記載の導電性組成物であって、
前記化合物(B)は、還元剤(B2)を含む、導電性組成物。
26.
25.に記載の導電性組成物であって、
前記還元剤(B2)は、アスコルビン酸、シュウ酸およびギ酸からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性組成物。
27.
20.~26.のいずれか1つに記載の導電性組成物であって、
前記化合物(B)は、分散剤(B3)を含む、導電性組成物。
28.
20.~27.のいずれか1つに記載の導電性組成物であって、
前記化合物(B)は、ニトリル化合物(B4)を含む、導電性組成物。
29.
20.~28.のいずれか1つに記載の導電性組成物であって、
前記導電性粒子(A)の体積基準におけるメジアン径が10nm~50μmである、導電性組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、超音波により基材上に導電性層を形成して導電性基材を製造する場合において、形成される導電性層の導電性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】膜形成工程について説明するための図である。
【
図2】超音波印加工程について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、(i)同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合や、(ii)特に
図2以降において、
図1と同様の構成要素に改めては符号を付さない場合がある。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0012】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0013】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
【0014】
<導電性基材の製造方法>
本実施形態の導電性基材の製造方法は、
基材の表面に、導電性組成物を用いて膜を形成する膜形成工程と、
上記膜に超音波を印加する超音波印加工程と、
を含む。
ここで、導電性組成物は、銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子(A)と、導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、を含む。
【0015】
本発明者らは、独自の検討を通じて、例えば特許文献1に記載されているような従来の超音波金属接合技術によって導電性層を形成する場合、(i)導電性粒子表面に存在する酸化膜が、高い導電性を有する導電性層を形成する妨げになったり、(ii)導電性粒子の意図せぬ凝集が、高い導電性を有する導電性層を形成する妨げになったりするのではないか、と考えた。
この考えに基づき、本発明者らは、導電性組成物が含む導電性粒子として、導電性が高く、超音波金属接合に適している「銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子」(導電性粒子(A))と、この導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、を併用することとした。そして、導電性粒子(A)および化合物(B)を含む導電性組成物を用いて、超音波印加により導電性層を設けることで、導電性層の導電性を向上させることができた。
【0016】
ちなみに、超音波印加工程において、導電性粒子(A)の表面またはその近傍に化合物(B)が存在すると、導電性粒子(A)同士の金属結合が妨げられてしまうようにも思われる。しかし、本発明者らの知見によれば、おそらくは、導電性粒子(A)の表面またはその近傍に存在する化合物(B)の少なくとも一部は、超音波印加工程における超音波の作用により、導電性粒子(A)の表面またはその近傍から「離れる」。よって、導電性粒子(A)の表面またはその近傍に化合物(B)が存在したとしても、導電性粒子(A)同士は結合することができ、そして良好な導電性の導電性層を得ることができると考えられる。
【0017】
以下、膜形成工程については
図1を、超音波印加工程については
図2を、それぞれ参照しながら、各工程について説明する。また、これら工程以外の任意工程についても説明する。
【0018】
(膜形成工程(
図1))
膜形成工程では、基材1の表面の少なくとも一部に、導電性組成物を用いて膜3を形成する。
【0019】
・基材1について
基材1は、通常、フィルム状、シート状または板状である。工業的な生産性の観点から、基材1の形状はこれらのいずれかが好ましい。
基材1は、好ましくは可撓性を有する。可撓性を有する基材1を採用することで、フレキシブル基板(FPC)を製造することができる。
また、可撓性を有する基材1は、後述の押圧工程において、ロールプレス法による押圧を行いやすいというメリットも有する。
念のため述べておくと、基材1は、可撓性を有しないリジッドな基材であってもよい。
【0020】
コストや最終用途を考慮し、基材1は、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)などのポリエステル、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリイミドおよび紙からなる群より選択される少なくともいずれかであることが好ましい。ここで、紙は、コート紙(紙表面がコート剤でコーティングされた紙)であってもよいし、コート紙ではない通常の紙であってもよい。また、基材1としては、PETなどに限らず、一般の樹脂フィルムを採用することができる。
【0021】
本実施形態においては、後掲の超音波印加工程を通じて膜3を導電性層に変換する。すなわち本実施形態において「加熱」は必須ではない(もちろん、何らかの目的のために加熱を行ってもよい)。よって、低耐熱性の樹脂フィルム(例えばポリエステルやポリオレフィン)や、紙などの、低耐熱性の基材1も、基材として好適に用いることができる。もちろん、ポリイミドなどの高耐熱性の基材1も用いることができる。
【0022】
・導電性組成物について
前述のように、導電性組成物は、導電性粒子(A)と、化合物(B)と、を含む。
【0023】
導電性粒子(A)は、銀を主成分とする粒子、および、銅を主成分とする粒子からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含むことが好ましい。ここで、「銀を主成分とする」との表現は、粒子中の全構成元素中の銀元素の比率が、好ましくは50mol%以上、より好ましくは75mol%以上、さらに好ましくは90mol%以上、特に好ましくは95mol%以上であることをいう。同様に、「銅を主成分とする」との表現は、粒子中の全構成元素中の銅元素の比率が、好ましくは50mol%以上、より好ましくは75mol%以上、さらに好ましくは90mol%以上、特に好ましくは95mol%以上であることをいう。
念のため述べておくと、所望の導電性が得られる限り、導電性粒子(A)は、銀および銅以外の元素を含んでもよいし、実質的に含まなくてもよい。銀および銅以外の元素としては、金、アルミニウム、白金、パラジウム、イリジウム、タングステン、ニッケル、タンタル、鉛、亜鉛等を挙げることができる。ここで、「実質的に含まない」とは、導電性粒子(A)中の銀および銅以外の元素の比率が例えば1質量%以下、具体的には0.5質量%以下、より具体的には0.1質量%以下であることをいう。
【0024】
導電性粒子(A)は、1のみの元素を含んでもよいし、2以上の元素を含んでもよい。例えば、銅粒子の表面に銀めっきがされている導電性粒子(銀コート銅粒子)などは本実施形態で好ましく用いられる。銀コート銅粒子は、銅を主成分とする粒子であり、例えば粒子の全質量を基準として最大35質量%までの量の銀が、銅粒子の表面にめっきされている。
【0025】
導電性粒子(A)の粒径分布を調整することにより、最終的に得られる導電性層の導電性を一層高められる場合がある。
一例として、導電性粒子(A)の、体積基準におけるメジアン径D50は、好ましくは10nm~50μm、より好ましくは50nm~40μm、さらに好ましくは100nm~30μmである。適度に大きいメジアン径D50を有する導電性粒子を用いることで、単位体積あたりの導電性粒子間の粒界の数が少なくなるため、導電性が一層高まると考えられる。また、導電性粒子のメジアン径D50が大きすぎないことにより、導電性粒子間に大きな「すき間」が空くことが抑えられて、導電性が一層高まると考えられる。
【0026】
導電性粒子(A)として用いることが可能な粒子は、例えば、DOWAエレクトロニクス社、福田金属箔粉工業社、古河ケミカルズ社などから購入可能である。
【0027】
導電膜の比抵抗を一層小さくする観点から、導電性組成物中の導電性粒子の比率は大きいことが好ましい。具体的には、導電性組成物の全不揮発成分中の導電性粒子の比率は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
【0028】
化合物(B)としては、導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する機能を有する化合物を、特に制限なく用いることができる。
【0029】
好ましい化合物(B)の一例として、導電性粒子(A)中の銅または銀に配位可能な配位子(B1)を挙げることができる。配位子(B1)が導電性粒子(A)中の銅または銀に配位することで、導電性粒子(A)の表面の酸化を抑えることができる。これにより、超音波印加を経て形成される導電性膜の導電性をさらに高めることができる。
後述する超音波印加工程においては、導電性粒子(A)に配位した配位子(B1)の少なくとも一部は、超音波の作用により導電性粒子(A)から脱離して、導電性粒子(A)の表面に「酸化されていない部分」ができると考えられる。この「酸化されていない部分」同士が超音波により接合することにより、高い導電性を有する導電性層が形成可能となると考えられる。
【0030】
配位子(B1)として、好ましくは、アミン、イミン、ホスフィン、アゾールおよびカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1以上の化合物を挙げることができる。
アミンの具体例としては、2-{[(2-ジメチルアミノ)エチル]メチルアミノ}エタノール、1,2-プロパンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどを挙げることができる。
イミンの具体例としては、ジイミン、エチレンイミン、プロピレンイミン、ヘキサメチレンイミン、ベンゾフェノンイミン、メチルエチルケトンイミンなどを挙げることができる。
ホスフィンの具体例としては、ホスフィン酸や、有機金属化学の分野においてホスフィン配位子として知られている各種化合物を挙げることができる。ホスフィン配位子は、例えば一般式PRR'R''で表される。この一般式において、R,R'およびR''は、それぞれ独立に、水素原子または1価の有機基であり、1価の有機基としてはアルキル基やアリール基等が挙げられる。
アゾールの具体例としては、トリアゾール、テトラゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、アミノトリアゾール、アミノベンゾイミダゾール、ピラゾール、イミダゾール、アミノテトラゾール、これらの誘導体などを挙げることができる。
カルボン酸の具体例としては、アジピン酸、グルコン酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グリコール酸、マロン酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、乳酸、これらの誘導体などを挙げることができる。
もちろん、上記以外の化合物であっても、導電性粒子(A)に配位可能な化合物は、特に制限なく配位子(B1)として用いることができる。
【0031】
配位子(B1)として、特に好ましくは、単座配位子および二座配位子からなる群より選ばれる少なくともいずれかを挙げることができる。
前述のように、後述する超音波印加工程においては、導電性粒子(A)に配位した配位子(B1)の少なくとも一部は、超音波の作用により導電性粒子(A)から脱離して、導電性粒子(A)の表面に「酸化されていないか、酸化が軽微な部分」ができると考えられる。そして、この「酸化されていないか、酸化が軽微な部分」同士が超音波により接合することにより、高い導電性を有する導電性層が形成可能となると考えられる。単座配位子および二座配位子は、導電性粒子(A)との相互作用が大きすぎないため、超音波印加の際に導電性粒子(A)の表面から脱離しやすいと考えられる。このため、酸化していない導電性粒子(A)の表面同士が一層接触しやすくなると考えられる。このような機構により、配位子(B1)として単座配位子または二座配位子を用いることで、導電性層の導電性を一層高めたり、弱い超音波でも十分に導電性粒子(A)同士を接合したりすることができると考えられる。
【0032】
単座配位子および二座配位子の具体例としては、上記の配位子(B1)として挙げた例の中から、単座配位子または二座配位子に該当するものを挙げることができる。
ちなみに、π電子が絡む配位においては、「ハプト数」に基づき、ある配位子が単座配位子であるか多座配位子であるかを判断することとする。つまり、ハプト数が1である配位子は、単座配位子として分類する。また、ハプト数が3である配位子は、多座配位子の一種である三座配位子として分類する。
【0033】
化合物(B)の別の例として、還元剤(B2)を挙げることができる。還元剤(B2)の作用により、導電性粒子(A)の表面の少なくとも一部は、酸化されていないか、酸化が軽微な部分となると考えられる。
還元剤(B2)は、アスコルビン酸、シュウ酸およびギ酸などであることができる。ここで、還元性を有するカルボン酸については、配位子(B1)ではなく還元剤(B2)に分類する。
その他、還元剤の具体例としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ホウ酸ナトリウム、亜硫酸塩等も挙げられる。
【0034】
化合物(B)のさらに別の例として、分散剤(B3)を挙げることができる。分散剤(B3)の使用により、超音波印加工程を行う前における導電性粒子(A)の意図せぬ凝集を抑えうる。この結果、超音波印加工程において、導電性粒子(A)間の「すき間」を少なくすることができるため、導電性層の導電性を一層高めることができると考えられる。
【0035】
分散剤(B3)としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアルキレングリコール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂およびエポキシ系樹脂などを挙げることができる。
また、分散剤(B3)としては、公知の界面活性剤の中から分散剤として機能しうるものをエランで用いてもよい。
【0036】
化合物(B)のさらに別の例として、ニトリル化合物(B4)、すなわちニトリル基を有する化合物を挙げることができる。ニトリル化合物(B4)は、ニトリル基の部分において導電性粒子(A)の表面に吸着することで、導電性粒子(A)の酸化を抑制すると推測される。
ニトリル化合物(B4)としてはニトリル基を有する種々の有機化合物などを挙げることができる。具体的にはアルカンニトリルが好ましい。アルカンニトリルの炭素数は例えば1~20であることができる。
別観点として、アルカンニトリルなどのニトリル化合物(B4)の常圧下での沸点は340℃以下であることが好ましい。沸点が低いニトリル化合物(B4)は、超音波印加工程における超音波の作用により、導電性粒子(A)の表面またはその近傍から離れやすいと考えられる。そして、このことにより、一層良好な導電性の導電性層を得ることができると考えられる。
【0037】
導電性組成物は、1のみの化合物(B)を含んでもよいし、2以上の化合物(B)を含んでもよい。
異なる2種以上の化合物(B)を用いることで、何らかの相乗作用または相補的作用が働いて、導電性粒子(A)の表面の酸化抑制効果がより高まり、結果として得られる導電膜の導電性が一層高まることがある。例えば、(i)ニトリル化合物(B4)と、(ii)配位子(B1)、還元剤(B2)および/または分散剤(B3)と、の併用は好ましい態様として挙げられる。
【0038】
化合物(B)の使用量を最適化することで、最終的に得られる導電性層の導電性を一層高めうる。ある程度多い量の化合物(B)を用いることで、導電性粒子(A)の表面の酸化を十分に抑えたり、導電性粒子(A)の凝集を十分に抑えたりすることができる。一方、化合物(B)の量が多すぎないことにより、最導電性層中の「導電性成分」(銅、銀)の比率が高まるため、最終的に得られる導電性層の導電性を一層高めうる。また、超音波印加工程において導電性粒子(A)表面における、酸化されていないか、酸化が軽微な部分が露出しやすくなって、最終的に得られる導電性層の導電性を一層高めうる。
具体的には、化合物(B)の量(2以上の化合物(B)を用いる場合は合計量)は、導電性粒子(A)100質量部に対して、好ましくは1~10質量部、より好ましくは1~8質量部である。
【0039】
導電性組成物は、導電性粒子(A)および化合物(B)以外の成分を含んでいてもよい。
【0040】
導電性組成物は、溶剤を含むことができる。導電性組成物が溶剤を含むことにより、導電性組成物の基材への膜形成性が向上する。溶剤は、典型的には有機溶剤を含む。
溶剤の種類は特に限定されない。溶剤は、導電性組成物中の各成分を実質的に変質させないものであればよい。
溶剤の使用量は、導電性組成物の膜形成方法などに応じて適宜調整すればよい。溶剤の使用量は、導電性組成物の全体中、例えば3~30質量%、好ましくは5~25質量%、さらに好ましくは10~25質量%である。
【0041】
導電性組成物は、基材1との密着性、膜形成性、印刷性などの観点で、重合性化合物(C1)および樹脂(C2)からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0042】
重合性化合物(C1)としては、例えば以下を挙げることができる。
・重合性炭素-炭素二重結合を含む化合物、具体的には単官能または多官能(メタ)アクリレート化合物、単官能または多官能ビニルエーテル化合物、など
・エポキシ基を有する化合物
・オキセタニル基を有する化合物
【0043】
重合性化合物(C1)を用いる場合、重合開始剤(熱または光の作用により活性種を発生し、重合性化合物(C1)を重合させる化合物)を用いてもよい。重合性化合物(C1)が重合性炭素-炭素二重結合を有する化合物を含む場合には、重合開始剤としてはラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。重合性化合物(C1)がエポキシ基またはオキセタニル基を有する化合物を含む場合には、重合開始剤としてはカチオン重合開始剤が好ましく用いられる。
【0044】
樹脂(C2)としては、バインダーとして用いることが知られているポリマー等を好ましく挙げることができる。具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリエステル、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール、セルロース系樹脂(例えばエチルセルロースなど)、フェノール樹脂などを好ましく挙げることができる。
【0045】
導電性層の導電性を高いレベルとする観点からは、導電性組成物の全不揮発成分中の重合性化合物(C1)および樹脂(C2)の量((C1)と(C2)の両方を含む場合は、合計量。以下同様。)は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。(C1)および(C2)の量の下限は0であってもよい。ただし、(C1)および(C2)の一方または両方を用いることにより密着性向上などの効果を積極的に得ようとする場合には、(C1)および(C2)の量は、導電性組成物の全不揮発成分中、1質量%とすることが好ましく、2質量%以上とすることがより好ましい。すなわち、諸性能のバランスの観点からは、(C1)および(C2)の量は、導電性組成物の全不揮発成分中、好ましくは1~5質量%、より好ましくは2~5質量%である。
【0046】
導電性組成物は、その他、従来のインク組成物や導電性ペーストにおける各種添加成分を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0047】
・膜形成方法について
導電性組成物を用いて基材1の表面に膜3を設ける方法は、塗布、印刷、その他の方法であることができ、特に限定されない。
導電性組成物は、基材1の表面の全体に膜形成されてもよいし、基材1の表面の一部にのみ膜形成されてもよい。前者の場合、ブレードコーター、エアナイフコーター、ドクターコーター、ロールコーター、バーコーター(ロッドコーター)、カーテンコーターなどの装置を用いて膜形成(塗布)を行うことができる。後者の場合、各種の印刷法、例えばスクリーン印刷法、グラビア印刷法、凸版印刷法、平板印刷法(オフセット印刷法)、インクジェット法など適用することができる。膜形成の「パターン」を適切に設計することで、回路として働くことができる導電膜(回路パターン)や、電磁波シールド能を有するメッシュパターンなどの、パターン構造を備えた基材を製造することができる。導電性組成物を基材1の一面の一部にのみ膜形成する場合、膜の「パターン」は、最終的に得られる導電性層の用途に応じて適切に設計されることが好ましい。
所望の場所以外に導電性組成物が膜形成されないように、例えば孔をくりぬいたフィルムを基材1の上に置き、その上から導電性組成物による膜を形成し、その後フィルムを除去するという工程を行ってもよい。
【0048】
導電膜としたときの十分な導電性を得る観点と、膜形成のしやすさの観点から、膜3の厚み(導電性組成物が溶剤を含む場合は乾燥厚み)は、好ましくは5~100μm、より好ましくは10~50μmである。
【0049】
特に導電性組成物が溶剤を含む場合、溶剤を乾燥させるための加熱処理を行うことが好ましい。加熱処理の条件は、溶剤が十分に乾燥する限り特に限定されないが、溶剤の十分な乾燥と、過度な加熱による導電性粒子の変質抑制の観点から、加熱処理の温度は好ましくは50~150℃、より好ましくは80~120℃である。加熱処理の時間は好ましくは1~60分、より好ましくは3~30分である。
溶剤を乾燥させるための加熱処理は、具体的には、膜3に対して熱風を当てることで行うことができる。もちろんこれ以外の方法で加熱処理を行ってもよい。
【0050】
また、基材1上に、塗布・印刷等により膜形成された導電性組成物を硬化させる硬化工程を行ってもよい。硬化工程は、特に、導電性組成物が熱硬化性を有するときに好ましく行われる。硬化工程は、基材1上に膜形成された導電性組成物を、例えば50~200℃、好ましくは70~180℃で、例えば1~60分、より好ましくは3~30分加熱することで行うことができる。基材1上に膜形成された導電性組成物が適切に硬化することで、後掲の超音波印加工程で超音波が印加されて形成される導電性層の導電性を一層高めることができる。
【0051】
(押圧工程(不図示))
本実施形態においては、膜形成工程と超音波印加工程との間に、膜3を押圧する押圧工程を行ってもよい。押圧工程を行うことで、膜3中の導電性粒子間のすき間がより小さくなるため、その後の超音波印加工程を経ることで導電性が特に良好な導電性層を得やすい。
【0052】
押圧は、例えばロールプレス法により行うことができる。すなわち、膜3が設けられた基材1を、対向して回転する2本のロールの間に挟んで搬送することにより、膜3に圧力を加えることができる。また、押圧は平面プレス法により行ってもよい。
押圧工程を行う場合、膜3を、例えば2~150MPa、好ましくは5~100MPaの圧力で押圧する。
【0053】
押圧工程においては、膜3を加熱しながら押圧してもよい。このようにすることで、膜3中の導電性粒子間のすき間が一層小さくなり、超音波印加工程後に得られる導電性層の導電性が一層高まると考えられる。この場合の加熱の温度は、基材1の耐熱性などを考慮して適宜設定すればよい。加熱の温度は、70~180℃、より好ましくは80~150℃である。
【0054】
(超音波印加工程(
図2))
超音波印加工程では、基材1における少なくとも膜3の部分に、超音波を印加する。これにより、膜3中の導電性粒子同士が接合する。そして、膜3は、導電性層となる。
【0055】
超音波印加工程においては、超音波振動するホーン10を膜3に接触させた状態で、基材1とホーン10とを相対運動させながら、膜3に超音波を印加する。より具体的には、超音波印加工程は、基材1を搬送しながら行われる。
超音波を用いる従来の接合技術では、主として、超音波振動子(ホーン)を、接合対象に「単純に押し当てて」いた。しかし、従来のやり方は、量産や、大面積の導電性層の形成には不向きである。本実施形態においては、基材1とホーン10とを相対運動させながら、膜3に超音波を印加するようにすることにより、量産や、大面積の導電性層の形成をしやすくしている。
【0056】
基材1とホーン10とを相対運動させやすくする、具体的には基材1を搬送しながら超音波を印加しやすくするため、ホーン10は円形であり、円の中心を軸として回転可能であることが好ましい。このようなホーン10を用いることで、円形のホーン10の円周部を膜3に接触させつつ、基材1を搬送し、かつ、基材1の搬送速度にあわせてホーン10を回転させる、というやり方で超音波印加工程を行うことができる。このようなやり方は、量産性や、大面積の導電性層の形成を考慮したときに好ましい。
【0057】
ホーン10における軸は、通常、超音波振動子20と連結している。また、超音波振動子20は、通常、超音波発振器(不図示)と連結している。ただし、装置の具体的構成は、ホーン10が膜3に接触した状態で、基材1とホーン10とが互いに相対運動しながら、膜3に超音波を可能である限り、特に限定されない。
【0058】
ホーン10に対する基材1の相対速度(基材1を搬送する場合には搬送速度に相当)や、超音波を印加する時間は、量産性、膜3に十分な超音波を印加するための時間、基材1の損傷抑制などを考慮し、適宜設定すればよい。あくまで一例であるが、相対速度(搬送速度)は、好ましくは1~100m/min、より好ましくは2~50m/minである。また、超音波印加時間は、好ましくは0.01msec~1sec、より好ましくは0.1msec~100msecである。
【0059】
また、超音波印加工程においては、超音波として、基材1の表面と平行な方向に振動する超音波を印加する。ここで「平行な方向」とは、厳密に平行な方向であってもよいが、基材1の損傷が抑えられ、導電性が良好な導電性層が得られる限り、必ずしも厳密に平行な方向でなくてもよい。ちなみに、もし基材1が曲面を有し、その曲面部分に膜3が形成され、その膜3の部分に超音波を印加する場合には、曲面におけるホーン10が接している点の接平面と平行な方向に振動する超音波を印加する。
【0060】
特許文献1の段落0013には、超音波振動の振動方向は、硬化したインクに対して(すなわち、基材の表面に対して)垂直方向であることが好ましい旨が記載されている。しかし、本発明者らの予備的検討によれば、基材1の表面に対して垂直方向の超音波を印加すると、超音波の作用により基材1が損傷してしまう場合があった。
本発明者らは、基材1の表面に対して平行な方向に振動する超音波であれば、基材1を損傷させにくいことを見出した。そして、上述の「基材1とホーン10とを相対運動させる」超音波印加工程において、超音波として、基材1の表面と平行な方向に振動する超音波を印加することとした。詳細は不明であるが、膜3の表面に平行な方向で振動する超音波が膜3に直接印加されることにより、振動エネルギーが下層の基材1に対してよりも膜3に伝わりやすいことが、基材1の損傷低減につながっていると考えられる。なお、このことは、膜3の厚みが基材1の厚みよりも小さい場合に特に顕著となると考えられる。
一方、膜3の表面に垂直な方向で振動する超音波を用いた場合には、膜3と基材1とがほぼ同様に振動してしまうため、基材1の損傷が起こりやすいと考えられる。
【0061】
ちなみに、得られる導電性層の導電性向上の観点からは、超音波の振動方向は、基材1の表面に対して垂直な方向が良いようにも思われる。基材1の表面に対して垂直な方向の超音波は、導電性粒子を「押し込む」方向に働くためである。しかし、本発明者らの検討の限り、基材1の表面に対して平行な超音波であっても、得られる導電性層の導電性は良好である。
【0062】
超音波は基材1の表面に対して平行な方向に振動する超音波であればよい。ただし、特に、
図2に示すような、基材1をホーン10に対して相対運動させることを考慮すると、超音波の振動方向は、基材1の表面に対して平行な方向であって、かつ、基材1がホーン10に対して運動する方向(基材1の搬送方向)と垂直な方向であることが好ましい。これは、主として、ホーン10が回転体である場合、ホーン10の回転軸を搬送方向と垂直にする必要があるという装置上の制約に基づく。超音波は、超音波振動子20からホーン10へ直線的に伝達するため、超音波の振動方向は搬送方向と垂直であることが好ましい。
ちなみに、ここでの「垂直な方向」とは、厳密に垂直な方向であってもよいが、必ずしも厳密に垂直な方向でなくてもよい。
【0063】
超音波印加工程における超音波の周波数は、導電性粒子の接合性や、基材1の損傷を一層抑える観点などから適宜選択すればよい。超音波の周波数は、例えば10~100kHz、好ましくは12~50kHzである。
【0064】
<導電性組成物>
上記では、導電性基材の製造方法という「方法」に焦点を当てて本発明の実施形態について説明した。これとは別に、本発明の実施形態は、導電性組成物として捉えることもできる。
すなわち、以下の導電性組成物は、高い導電性を有する導電膜の形成に好ましく用いられる。
「銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子(A)と、導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、を含む導電性組成物であって、
基材上に、導電性組成物を用いて膜を形成し、膜に超音波を印加することで導電性基板を製造する用途に用いられる導電性組成物。」
【0065】
上記組成物の具体的態様については、<導電性基材の製造方法>の項で説明済みである。よって改めての説明は省略する。
【0066】
<導電性基材の用途>
上記のようにして得られた導電性基材を用いて、電子デバイスを製造することができる。例えば、膜形成工程において膜形成の「パターン」を適切に設計することで、電気回路として働くことができる導電性層を備えた基材を製造し、この基材と他の電子素子とを組み合わせることで電子デバイスを製造することができる。
【0067】
ここで、「電子デバイス」の例をいくつか記載するが、本実施形態の導電性基材の製造方法で得られた導電性基材を含む電子デバイスは、当然、これらのみに限定されない。
・センサー:例えば感圧センサー、バイタルセンサー等のセンサー中の、導電性部材/回路について、本実施形態の導電性基材の製造方法で得られた導電性基材を適用することができる。
・太陽電池:例えば太陽電池の集電配線について、本実施形態の導電性基材の製造方法で得られた導電性基材を適用することができる。
・メンブレンスイッチ:メンブレンスイッチとは、薄いシート状のスイッチでフィルムに回路と接点を印刷して貼り重ねたものである。これの回路や接点を形成するために、本実施形態の導電性基材の製造方法を適用することができる。
・タッチセンサー・タッチパネル:例えばタッチセンサー・タッチパネルにおける引き出し配線を形成するために、本実施形態の導電性基材の製造方法を適用することができる。また、タッチセンサー・タッチパネルにおける透明電極を形成するために、本実施形態の導電性基材の製造方法を適用することも考えられる。
・フレキシブル基材:従来は、まず可撓性フィルムの全面に金属膜をコーティングし、その後、薬剤を使って金属膜の不要な部分を取り除くことで回路を形成している。このような従来の方法の代わりに、本実施形態の導電性基材の製造方法で回路を形成することが考えられる。
【0068】
特に、従来は導電ペーストを用いて回路を形成していた電子デバイスにおいて、回路形成を本実施形態の導電性基材の製造方法を利用することで、回路の導電性が向上し、電子デバイスの性能向上を期待することができる。
【0069】
とりわけ好ましい電子デバイスとしては、RFタグを挙げることができる。すなわち、RFタグにおけるアンテナ部等の導電回路を製造するために、本実施形態の導電性基材の製造方法は好ましく用いられる。
RFタグの具体的構造については、例えば特開2003-332714号公報、特開2020-46834号公報などを参考にすることができる。
【0070】
電子デバイスとは別の応用として、本実施形態の導電性基材の製造方法により、電磁波シールドフィルムを製造することが考えられる。具体的には、膜形成工程において、導電性組成物を膜形成する際のパターンを、電磁波シールドフィルム特有のパターン(メッシュパターンなど)とすることで、電磁波シールドフィルムを製造することができる。
【0071】
さらに別の応用として、本実施形態の導電性基材の製造方法により、面状発熱体を製造することが考えられる。面状発熱体とは、基材上に電気配線が設けられ、その配線に電流を流すことで発熱するもののことをいう。面状発熱体の具体例としては、例えば乗用車のリアガラスなど、防曇や防寒のための面状発熱体を挙げることができる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0073】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0074】
<導電性組成物の調製>
後掲の表1に示される成分を、遊星式攪拌機を用いて攪拌した。これにより均一なペースト状の導電性組成物を得た。表1において、各成分の量の単位は質量部である。
【0075】
表1中の一部成分について情報を補足しておく。
銅粒子1:メジアン径D50 10.3μm
銀粒子1:メジアン径D50 6.1μm
銅粒子2:メジアン径D50 4.3μm
バイロン240:東洋紡社製の非晶性ポリエステル樹脂
アルカンニトリル:炭素数が1~18の範囲内にある数種のアルカンニトリルの混合物(沸点は340℃以下)
【0076】
<導電性基材の製造>
(膜形成工程)
それぞれの導電性組成物を用いて、厚さ75μmのPETフィルム上に、15mm×5mmの大きさの膜(ベタ膜)を形成した。具体的には、PETフィルム上にセロテープ(登録商標)を貼って15mm×5mmの大きさの「くりぬき部」を設け、そのくりぬき部の上から導電性組成物を塗布した。その後、スキージーを用いて、膜の厚みをセロテープの厚みとほぼ同じとした。さらにその後、セロテープを剥がした。このときの膜の厚みは20μm程度であった。
膜を形成したフィルムを、熱風循環式大気オーブンに入れ、130℃で10分間加熱した。これにより溶剤を乾燥させた。
【0077】
(超音波印加工程)
以下のような装置および手順で超音波を印加した。
・装置
超音波発振器としては、日本アビオニクス社製SW-D900S-20(周波数20kHz)または日本アビオニクス社製SW-D900S-39(周波数39kHz)を用いた。
ホーンとしては、SUS(ステンレス)材質の、厚さ12mm、直径150mmの円板が、円板の中心に取り付けられた直径20mmの軸で振動子に接続されているものを用いた。
・超音波印加の具体的手順
概略としては
図2に示すような装置を構成して、膜に超音波を印加した。
具体的には、ホーンの円板平面が地面に対して実質的に垂直にセットされ、円板外周の厚さ12mmの面が、フィルム上の膜に接し、フィルムの搬送にあわせてホーンが回転する装置を用いた。
ホーンからは、超音波振動子に接続されている軸方向に振動する超音波が発振された。すなわち、超音波の振動方向は、フィルム(基材)の表面と平行な方向であって、かつ、搬送方向に対して垂直な方向であった。周波数については後掲の表に記載のとおりとした。
フィルムの搬送速度は約2m/min、ホーンの回転速度は約17rpmとした。
【0078】
<評価:導電性>
得られた導電性層について、4端子抵抗測定器で抵抗値を測定し、また、膜厚計で膜厚を測定した。測定された抵抗値および膜厚から、比抵抗を算出した。
【0079】
評価結果を含む各種情報をまとめて表1に示す。
表1中、指数表記を記号「E」で表している。例えば2.0.E-03とは2.0×10-3を意味する。
また、表1中、'over'の表記は、4端子抵抗測定器による測定でオーバーレンジであった(つまり抵抗値が極めて大きかった)ことを表す。
【0080】
【0081】
表1に示されるとおり、銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子(A)と、導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、を含む導電性組成物を用いて基材上に膜を形成し、その膜に超音波を印加することで、導電性が良好な導電性層を有する導電性基材を製造することができた。