(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144330
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】導電性基材の製造方法、電子デバイスの製造方法、電磁波シールドフィルムの製造方法、面状発熱体の製造方法および導電性組成物
(51)【国際特許分類】
H05K 3/10 20060101AFI20241003BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20241003BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20241003BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20241003BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20241003BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20241003BHJP
B05D 5/12 20060101ALN20241003BHJP
B05D 7/24 20060101ALN20241003BHJP
B05D 3/12 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
H05K3/10 Z
C23C26/00 B
H01B13/00 503Z
H01B1/22 A
H01B1/00 E
H05K1/09 A
B05D5/12 B
B05D7/24 303C
B05D3/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024050933
(22)【出願日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2023054831
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000130581
【氏名又は名称】サトーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】小川 孝之
(72)【発明者】
【氏名】柴田 剛
【テーマコード(参考)】
4D075
4E351
4K044
5E343
5G301
5G323
【Fターム(参考)】
4D075BB05Z
4D075BB26Z
4D075BB28Z
4D075BB29Z
4D075BB33Z
4D075CA22
4D075CA33
4D075DA04
4D075DB48
4D075DB53
4D075DC18
4D075DC21
4D075DC24
4D075EA14
4D075EB19
4D075EC10
4D075EC31
4D075EC53
4D075EC60
4E351AA02
4E351AA04
4E351AA16
4E351BB01
4E351BB31
4E351CC11
4E351DD04
4E351DD05
4E351EE12
4E351EE13
4E351EE14
4E351EE15
4E351EE16
4E351EE24
4E351GG06
4K044AA16
4K044AB02
4K044BA06
4K044BA08
4K044BB03
4K044BB11
4K044BC14
4K044CA55
5E343AA02
5E343AA14
5E343AA16
5E343AA33
5E343BB24
5E343BB25
5E343BB72
5E343DD01
5E343DD03
5E343ER60
5E343GG13
5G301DA03
5G301DA06
5G301DA42
5G301DD02
5G301DE01
5G323AA01
(57)【要約】
【課題】比抵抗が小さい導電膜を形成可能な導電性基材の製造方法を提供すること。
【解決手段】基材上に、導電性組成物による膜を設ける膜形成工程と、その層を少なくとも加圧して導電膜を形成する導電膜形成工程と、を含む導電性基材の製造方法において、導電性組成物として、銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子(A)と、導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、を含むものを用いる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、導電性組成物による膜を設ける膜形成工程と、
前記膜を少なくとも加圧して導電膜を形成する導電膜形成工程と、
を含み、
前記導電性組成物は、
銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子(A)と、
前記導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、
を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記基材は可撓性を有する、導電性基材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電膜形成工程では、前記膜を加熱しながら加圧する、導電性基材の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記化合物(B)は、前記導電性粒子(A)中の銅または銀に配位可能な配位子(B1)を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記配位子(B1)は、アミン、イミン、ホスフィン、アゾールおよびカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1以上の化合物を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記配位子(B1)は、単座配位子および二座配位子からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性基材の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記化合物(B)は、還元剤(B2)を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記還元剤(B2)は、アスコルビン酸、シュウ酸およびギ酸からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性基材の製造方法。
【請求項9】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記化合物(B)は、ニトリル化合物(B3)を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項10】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電性粒子(A)をレーザー回折散乱法により粒子径測定したときに得られる体積基準累積粒子径分布曲線において、累積頻度が50%となる粒子径D50は、0.6~50μmである、導電性基材の製造方法。
【請求項11】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電性組成物の全不揮発成分中のバインダーの量は、5質量%以下である、導電性基材の製造方法。
【請求項12】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電膜形成工程は、前記膜が設けられた基材を、対向する2本のロールの間を搬送させるロールプレス工程を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記ロールプレス工程において、前記2本のロールのうち前記膜が接触するロールは、加熱されていないか、または400℃以下に加熱されている、導電性基材の製造方法。
【請求項14】
請求項12に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記ロールプレス工程において、前記膜が設けられた基材には10~150MPaの圧力が加えられる、導電性基材の製造方法。
【請求項15】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電膜はパターン構造を有する、導電性基材の製造方法。
【請求項16】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて電子デバイスを製造する、電子デバイスの製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の電子デバイスの製造方法であって、
前記電子デバイスが、RFタグである、電子デバイスの製造方法。
【請求項18】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて電磁波シールドフィルムを製造する、電磁波シールドフィルムの製造方法。
【請求項19】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて面状発熱体を製造する、面状発熱体の製造方法。
【請求項20】
基材上に膜を形成し、前記膜を少なくとも加圧して導電膜を形成する用途に用いられる、導電性粒子を含有する導電性組成物であって、
銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子(A)と、前記導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、を含む導電性組成物。
【請求項21】
請求項20に記載の導電性組成物であって、
前記化合物(B)は、前記導電性粒子(A)中の銅または銀に配位可能な配位子(B1)を含む、導電性組成物。
【請求項22】
請求項21に記載の導電性組成物であって、
前記配位子(B1)は、アミン、イミン、ホスフィン、アゾールおよびカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1以上の化合物を含む、導電性組成物。
【請求項23】
請求項21または22に記載の導電性組成物であって、
前記配位子(B1)は、単座配位子および二座配位子からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性組成物。
【請求項24】
請求項20または21に記載の導電性組成物であって、
前記化合物(B)は、還元剤(B2)を含む、導電性組成物。
【請求項25】
請求項24に記載の導電性組成物であって、
前記還元剤(B2)は、アスコルビン酸、シュウ酸およびギ酸からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性組成物。
【請求項26】
請求項20または21に記載の導電性組成物であって、
前記化合物(B)は、ニトリル化合物(B3)を含む、導電性組成物。
【請求項27】
請求項20または21に記載の導電性組成物であって、
前記導電性粒子(A)をレーザー回折散乱法により粒子径測定したときに得られる体積基準累積粒子径分布曲線において、累積頻度が50%となる粒子径D50は、0.6~50μmである、導電性組成物。
【請求項28】
請求項20または21に記載の導電性組成物であって、
全不揮発成分中のバインダーの量は、5質量%以下である、導電性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性基材の製造方法、電子デバイスの製造方法、電磁波シールドフィルムの製造方法、面状発熱体の製造方法および導電性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
基材上に導電性粒子を含有する導電性組成物を塗布して塗布層を設け、その塗布層を加熱・加圧等して、導電膜を備える導電性基材を形成する技術が知られている。
一例として、特許文献1の実施例には、平均一次粒径7nmの銀微粒子を、水/エチレングリコールに分散させたものを、PETフィルムに塗布して塗膜とし、その塗膜を150℃で加熱・加圧したこと、そしてこのような工程により導電層を形成したこと、が記載されている。
別の例として、特許文献2の実施例には、メジアン径が約40nmの銅微粒子(銅ナノ粒子)と、分散媒と、分散剤とを有する銅微粒子分散液(銅ナノインク)を、ガラス基材上にスピンコートして塗膜とし、その後焼成することで導電膜を形成したこと、が記載されている。
さらに別の例として、特許文献3には、(A)オキシカルボン酸、(B)含窒素化合物、(C)銅粒子、及び(D)分散媒を含有する導電性インク組成物を基材上に塗布して塗布膜とし、その塗布膜を処理して導電性層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6181608号公報
【特許文献2】特開2021-044308号公報
【特許文献3】特開2017-191723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
導電性粒子を含有する導電性組成物を用いて導電膜を形成する際には、導電膜の比抵抗ができるだけ小さくなることが好ましい。また、比抵抗が小さい導電膜が、簡便で、さほど複雑ではないプロセスにより製造可能であることがより好ましい。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明は、比抵抗が小さい導電膜を形成可能な導電性基材の製造方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0007】
1.
基材上に、導電性組成物による膜を設ける膜形成工程と、
前記膜を少なくとも加圧して導電膜を形成する導電膜形成工程と、
を含み、
前記導電性組成物は、
銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子(A)と、
前記導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、
を含む、導電性基材の製造方法。
2.
1.に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記基材は可撓性を有する、導電性基材の製造方法。
3.
1.または2.に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電膜形成工程では、前記膜を加熱しながら加圧する、導電性基材の製造方法。
4.
1.~3.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記化合物(B)は、前記導電性粒子(A)中の銅または銀に配位可能な配位子(B1)を含む、導電性基材の製造方法。
5.
4.に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記配位子(B1)は、アミン、イミン、ホスフィン、アゾールおよびカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1以上の化合物を含む、導電性基材の製造方法。
6.
4.または5.に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記配位子(B1)は、単座配位子および二座配位子からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性基材の製造方法。
7.
1.~6.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記化合物(B)は、還元剤(B2)を含む、導電性基材の製造方法。
8.
7.に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記還元剤(B2)は、アスコルビン酸、シュウ酸およびギ酸からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性基材の製造方法。
9.
1.~9.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記化合物(B)は、ニトリル化合物(B3)を含む、導電性基材の製造方法。
10.
1.~9.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電性粒子(A)をレーザー回折散乱法により粒子径測定したときに得られる体積基準累積粒子径分布曲線において、累積頻度が50%となる粒子径D50は、0.6~50μmである、導電性基材の製造方法。
11.
1.~10.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電性組成物の全不揮発成分中のバインダーの量は、5質量%以下である、導電性基材の製造方法。
12.
1.~11.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電膜形成工程は、前記膜が設けられた基材を、対向する2本のロールの間を搬送させるロールプレス工程を含む、導電性基材の製造方法。
13.
12.に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記ロールプレス工程において、前記2本のロールのうち前記膜が接触するロールは、加熱されていないか、または400℃以下に加熱されている、導電性基材の製造方法。
14.
12.または13.に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記ロールプレス工程において、前記膜が設けられた基材には10~150MPaの圧力が加えられる、導電性基材の製造方法。
15.
1.~14.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電膜はパターン構造を有する、導電性基材の製造方法。
16.
1.~15.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて電子デバイスを製造する、電子デバイスの製造方法。
17.
16.に記載の電子デバイスの製造方法であって、
前記電子デバイスが、RFタグである、電子デバイスの製造方法。
18.
1.~15.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて電磁波シールドフィルムを製造する、電磁波シールドフィルムの製造方法。
19.
1.~15.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて面状発熱体を製造する、面状発熱体の製造方法。
20.
基材上に膜を形成し、前記膜を少なくとも加圧して導電膜を形成する用途に用いられる、導電性粒子を含有する導電性組成物であって、
銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子(A)と、前記導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、を含む導電性組成物。
21.
20.に記載の導電性組成物であって、
前記化合物(B)は、前記導電性粒子(A)中の銅または銀に配位可能な配位子(B1)を含む、導電性組成物。
22.
21.に記載の導電性組成物であって、
前記配位子(B1)は、アミン、イミン、ホスフィン、アゾールおよびカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1以上の化合物を含む、導電性組成物。
23.
21.または22.に記載の導電性組成物であって、
前記配位子(B1)は、単座配位子および二座配位子からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性組成物。
24.
20.~23.のいずれか1つに記載の導電性組成物であって、
前記化合物(B)は、還元剤(B2)を含む、導電性組成物。
25.
24.に記載の導電性組成物であって、
前記還元剤(B2)は、アスコルビン酸、シュウ酸およびギ酸からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性組成物。
26.
20.~25.のいずれか1つに記載の導電性組成物であって、
前記化合物(B)は、ニトリル化合物(B3)を含む、導電性組成物。
27.
20.~26.のいずれか1つに記載の導電性組成物であって、
前記導電性粒子(A)をレーザー回折散乱法により粒子径測定したときに得られる体積基準累積粒子径分布曲線において、累積頻度が50%となる粒子径D50は、0.6~50μmである、導電性組成物。
28.
20.~27.のいずれか1つに記載の導電性組成物であって、
全不揮発成分中のバインダーの量は、5質量%以下である、導電性組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、比抵抗が小さい導電膜を形成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】膜形成工程について説明するための図である。
【
図2】導電膜形成工程について説明するための図である。
【
図3】導電膜形成工程について説明するための図である。
【
図4】導電膜形成工程について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、(i)同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合や、(ii)特に
図2以降において、
図1と同様の構成要素に改めては符号を付さない場合がある。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0011】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0012】
<導電性基材の製造方法>
本実施形態の導電性基材の製造方法は、
基材上に、導電性粒子を含有する導電性組成物による膜を設ける膜形成工程と、
膜を少なくとも加圧して導電膜を形成する導電膜形成工程と、
を含む。
以下、図面を参照しつつ、各工程について具体的に説明する。
【0013】
(
図1:膜形成工程)
膜形成工程においては、基材1の上(基材1の少なくとも片面の表面)に、導電性粒子を含有する導電性組成物を、塗布・印刷などして、膜3を設ける。
ここで、導電性組成物は、銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子(A)と、導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、を含む。
【0014】
本発明者らは、独自の検討を通じて、従来の方法で導電膜を形成する場合、(i)導電性粒子表面に存在する酸化膜が、高い導電性を有する導電膜を形成する妨げになったり、(ii)導電性粒子の意図せぬ凝集が、高い導電性を有する導電膜を形成する妨げになったりするのではないか、と考えた。
この考えに基づき、本発明者らは、導電性組成物が含む導電性粒子として、導電性が高く、押圧による導電膜形成に適している「銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子」(導電性粒子(A))と、この導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、を併用することとした。そして、導電性粒子(A)および化合物(B)を含む導電性組成物を用いて、少なくとも加圧により導電膜を設けることで、導電膜の導電性を向上させることができた。
【0015】
ちなみに、導電膜形成工程において、導電性粒子(A)の表面またはその近傍に化合物(B)が存在すると、導電性粒子(A)同士の金属結合が妨げられてしまうようにも思われる。しかし、本発明者らの知見によれば、おそらくは、導電性粒子(A)の表面またはその近傍に存在する化合物(B)の少なくとも一部は、導電膜形成工程における加圧力により、導電性粒子(A)の表面またはその近傍から「離れる」。よって、導電性粒子(A)の表面またはその近傍に化合物(B)が存在したとしても、導電性粒子(A)同士は結合することができ、そして良好な導電性の導電膜を得ることができると思われる。
【0016】
以下、膜形成工程についてより具体的に説明する。
【0017】
・導電性粒子(A)の粒子径分布
導電性粒子(A)をレーザー回折散乱法により粒子径測定したときに得られる体積基準累積粒子径分布曲線において、累積頻度が50%となる粒子径(メジアン径)をD50、累積頻度が10%となる粒子径をD10、累積頻度が90%となる粒子径をD90とする。
【0018】
D50は、好ましくは0.6~30μm、より好ましくは0.7~20μm、さらに好ましくは0.7~15μmである。適度なメジアン径を有する導電性粒子(A)を用いることにより、圧力をかけたときの粒子同士の一体化のしやすさと、粒子間の境界が少なくなることによる抵抗の減少とのバランスがよくなるため、得られる導電膜の導電性を一層高めることができる。
【0019】
また、(D90-D50)/D50は、好ましくは0.55~3.0、より好ましくは0.55~2.5、さらに好ましくは0.55~2.0である。(D90-D50)/D50の値が3.0以下であるとは、D50を基準として、相対的にD90が小さく、粗大粒子が比較的少ないことを意味する。導電性粒子(A)中の粗大粒子の比率が小さいことにより、導電性粒子(A)間に「すき間」が生じにくくなり、導電膜の一層の導電性向上を期待することができる。ちなみに、下限値である0.6は、工業的に入手容易な導電性粒子の粒子径分布を鑑みて設定した値である。
【0020】
さらに、(D50-D10)/D50は、好ましくは0.4~0.8、より好ましくは0.4~0.7、さらに好ましくは0.5~0.7である。導電性粒子(A)を含む膜を少なくとも加圧して得られる導電膜の導電性の向上のためには、膜中の導電性粒子(A)の密度を高めることが好ましい。このための方法として、径が相対的に大きい粒子の「すき間」に、粒子径が相対的に小さい粒子が適量存在するように、導電性粒子(A)の粒子径分布を調整・最適化することが考えられる。(D50-D10)/D50は、粒子径がD50付近にある粒子よりも、粒子径が相対的に小さい粒子が、導電性粒子(A)中に適量存在していることに対応していると解釈することができる。
また、サブミクロンサイズの導電性粒子(A)が「ある程度の量」含まれることで、ある程度の焼結促進効果が働くとも考えられる。
【0021】
ある導電性粒子(A)のD50等の値は、その導電性粒子(A)が購入品であり、購入元からその導電性粒子(A)の体積基準累積粒子径分布曲線が提供される場合には、その曲線に基づきD50等の値を求めればよい。購入元からD50等の値そのものが提供される場合にはその値を採用してもよい。
一方、上記のようにしてD50等の値を知ることができない場合には、導電性粒子(A)をレーザー回折散乱法により粒子径測定して、体積基準累積粒子径分布曲線を求める。測定は通常湿式で行う。この際、分散媒としては、界面活性剤を含む水やイソプロパノールが挙げられる(導電性粒子(A)の表面処理剤状態などを考慮して適切な分散媒を選択することができる)。測定装置の例としては株式会社島津製作所のSALDシリーズ(SALD-2300など)を挙げることができる。装置としてSALDシリーズを用いる場合には、付属の超音波ユニットを用いて、超音波を発生させながら、分散媒を循環させつつ粒子径を測定することが好ましい。
【0022】
・導電性粒子(A)の化学組成
前述のとおり、導電性粒子(A)は、銀および銅からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含むことが好ましい。
具体的には、導電性粒子(A)は、銀を主成分とする粒子、および、銅を主成分とする粒子からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含むことが好ましい。ここで、「銀を主成分とする」との表現は、粒子中の全構成元素中の銀元素の比率が、好ましくは50mol%以上、より好ましくは75mol%以上、さらに好ましくは90mol%以上、特に好ましくは95mol%以上であることをいう。同様に、「銅を主成分とする」との表現は、粒子中の全構成元素中の銅元素の比率が、好ましくは50mol%以上、より好ましくは75mol%以上、さらに好ましくは90mol%以上、特に好ましくは95mol%以上であることをいう。
念のため述べておくと、所望の導電性が得られる限り、導電性粒子(A)は、銀および銅以外の元素を含んでもよいし、実質的に含まなくてもよい。銀および銅以外の元素としては、金、アルミニウム、白金、パラジウム、イリジウム、タングステン、ニッケル、タンタル、鉛、亜鉛等を挙げることができる。ここで、「実質的に含まない」とは、導電性粒子(A)中の銀および銅以外の元素の比率が例えば1質量%以下、具体的には0.5質量%以下、より具体的には0.1質量%以下であることをいう。
【0023】
導電性粒子(A)は、1のみの元素を含んでもよいし、2以上の元素を含んでもよい。例えば、銅粒子の表面に銀めっきがされている導電性粒子(銀コート銅粒子)などは本実施形態で好ましく用いられる。銀コート銅粒子は、銅を主成分とする粒子であり、例えば粒子の全質量を基準として最大35質量%までの量の銀が、銅粒子の表面にめっきされている。
【0024】
・導電性粒子(A)の入手法
本実施形態で使用可能な導電性粒子(A)は、例えば、DOWAエレクトロニクス社、福田金属箔粉工業社などから購入可能である。
ちなみに、粒径分布の調整・最適化のため、2以上の異なる導電性粒子(A)を混合して用いてもよい。
【0025】
・導電性組成物中の導電性粒子(A)の比率
導電膜の比抵抗を一層小さくする観点から、導電性組成物中の導電性粒子(A)の比率は大きいことが好ましい。具体的には、導電性組成物の全不揮発成分中の導電性粒子(A)の比率は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
【0026】
・化合物(B)
化合物(B)としては、導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する機能を有する化合物を、特に制限なく用いることができる。
【0027】
好ましい化合物(B)の一例として、導電性粒子(A)中の銅または銀に配位可能な配位子(B1)を挙げることができる。配位子(B1)が導電性粒子(A)中の銅または銀に配位することで、導電性粒子(A)の表面の酸化を抑えることができる。これにより、形成される導電膜の導電性をさらに高めることができる。
後述する導電膜形成工程においては、導電性粒子(A)に配位した配位子(B1)の少なくとも一部は、圧力の作用により導電性粒子(A)の表面から脱離して、導電性粒子(A)の表面に「酸化されていない部分」ができると考えられる。この「酸化されていない部分」同士が接合することにより、高い導電性を有する導電膜が形成されると考えられる。
【0028】
配位子(B1)として、好ましくは、アミン、イミン、ホスフィン、アゾールおよびカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1以上の化合物を挙げることができる。
アミンの具体例としては、2-{[(2-ジメチルアミノ)エチル]メチルアミノ}エタノール、1,2-プロパンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどを挙げることができる。
イミンの具体例としては、ジイミン、エチレンイミン、プロピレンイミン、ヘキサメチレンイミン、ベンゾフェノンイミン、メチルエチルケトンイミンなどを挙げることができる。
ホスフィンの具体例としては、ホスフィン酸や、有機金属化学の分野においてホスフィン配位子として知られている各種化合物を挙げることができる。ホスフィン配位子は、例えば一般式PRR'R''で表される。この一般式において、R,R'およびR''は、それぞれ独立に、水素原子または1価の有機基であり、1価の有機基としてはアルキル基やアリール基等が挙げられる。
アゾールの具体例としては、トリアゾール、テトラゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、アミノトリアゾール、アミノベンゾイミダゾール、ピラゾール、イミダゾール、アミノテトラゾール、これらの誘導体などを挙げることができる。
カルボン酸の具体例としては、アジピン酸、グルコン酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グリコール酸、マロン酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、乳酸、これらの誘導体などを挙げることができる。
もちろん、上記以外の化合物であっても、導電性粒子(A)に配位可能な化合物は、特に制限なく配位子(B1)として用いることができる。
【0029】
配位子(B1)として、特に好ましくは、単座配位子および二座配位子からなる群より選ばれる少なくともいずれかを挙げることができる。
前述のように、後述する導電膜形成工程においては、導電性粒子(A)に配位した配位子(B1)の少なくとも一部は、圧力の作用により導電性粒子(A)から脱離して、導電性粒子(A)の表面に「酸化されていないか、酸化が軽微な部分」ができると考えられる。そして、この「酸化されていないか、酸化が軽微な部分」同士が圧力により接合することにより、高い導電性を有する導電膜が形成されると考えられる。単座配位子および二座配位子は、導電性粒子(A)との相互作用が大きすぎないため、導電膜形成工程における加圧の際に導電性粒子(A)の表面から脱離しやすいと考えられる。このため、酸化していない導電性粒子(A)の表面同士が一層接触しやすくなると考えられる。このような機構により、配位子(B1)として単座配位子または二座配位子を用いることで、導電膜の導電性を一層高めたり、加圧力が比較的小さい場合であっても十分に導電性粒子(A)同士を接合したりすることができると考えられる。
【0030】
単座配位子および二座配位子の具体例としては、上記の配位子(B1)として挙げた例の中から、単座配位子または二座配位子に該当するものを挙げることができる。
ちなみに、π電子が絡む配位においては、「ハプト数」に基づき、ある配位子が単座配位子であるか多座配位子であるかを判断することとする。つまり、ハプト数が1である配位子は、単座配位子として分類する。また、ハプト数が3である配位子は、多座配位子の一種である三座配位子として分類する。
【0031】
化合物(B)の別の例として、還元剤(B2)を挙げることができる。還元剤(B2)の作用により、導電性粒子(A)の表面の少なくとも一部は、酸化されていないか、酸化が軽微な部分となると考えられる。
還元剤(B2)は、アスコルビン酸、シュウ酸およびギ酸などであることができる。ここで、還元性を有するカルボン酸については、配位子(B1)ではなく還元剤(B2)に分類する。
その他、還元剤の具体例としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ホウ酸ナトリウム、亜硫酸塩等も挙げられる。
【0032】
化合物(B)のさらに別の例として、ニトリル化合物(B3)、すなわちニトリル基を有する化合物を挙げることができる。ニトリル化合物(B3)は、ニトリル基の部分において導電性粒子(A)の表面に吸着することで、導電性粒子(A)の酸化を抑制すると推測される。
ニトリル化合物(B3)としてはニトリル基を有する種々の有機化合物などを挙げることができる。具体的にはアルカンニトリルが好ましい。アルカンニトリルの炭素数は例えば1~20であることができる。
別観点として、アルカンニトリルなどのニトリル化合物(B3)の常圧下での沸点は340℃以下であることが好ましい。沸点が低いニトリル化合物(B3)は、導電膜形成工程における圧力により、導電性粒子(A)の表面またはその近傍から離れやすいと考えられる。そして、このことにより、一層良好な導電性の導電膜を得ることができると考えられる。
【0033】
化合物(B)のさらに別の例として、分散剤(B4)を挙げることができる。分散剤(B4)の使用により、導電膜形成工程を行う前における導電性粒子(A)の意図せぬ凝集を抑えうる。この結果、導電膜形成工程において、導電性粒子(A)間の「すき間」を少なくすることができるため、得られる導電膜の導電性を一層高めることができると考えられる。
【0034】
分散剤(B4)としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアルキレングリコール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂およびエポキシ系樹脂などを挙げることができる。
また、分散剤(B4)としては、公知の界面活性剤の中から分散剤として機能しうるものを選んで用いてもよい。
【0035】
導電性組成物は、1のみの化合物(B)を含んでもよいし、2以上の化合物(B)を含んでもよい。異なる2種以上の化合物(B)を用いることで、何らかの相乗作用または相補的作用が働いて、導電性粒子(A)の表面の酸化抑制効果がより高まり、結果として得られる導電膜の導電性が一層高まることがある。例えば、ニトリル化合物(B3)と、配位子(B1)および/または還元剤(B2)と、の併用は好ましい態様として挙げられる。
【0036】
化合物(B)の使用量を最適化することで、最終的に得られる導電膜の導電性を一層高めうる。ある程度多い量の化合物(B)を用いることで、導電性粒子(A)の表面の酸化を十分に抑えたり、導電性粒子(A)の凝集を十分に抑えたりすることができる。一方、化合物(B)の量が多すぎないことにより、導電性組成物中の「導電性成分」(銅、銀)の比率が高まるため、最終的に得られる導電膜の導電性を一層高めうる。また、導電膜形成工程において導電性粒子(A)表面における、酸化されていないか、酸化が軽微な部分が露出しやすくなって、最終的に得られる導電膜の導電性を一層高めうる。
具体的には、化合物(B)の量(2以上の化合物(B)を用いる場合は合計量)は、導電性粒子(A)100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.03~5質量部である。
【0037】
・その他成分
導電性組成物は、導電性粒子(A)および化合物(B)以外の成分を含んでいてもよい。
【0038】
導電性組成物は、溶剤を含むことができる。導電性組成物が溶剤を含むことにより、導電性組成物の基材への膜形成性が向上する。溶剤は、典型的には有機溶剤を含む。
溶剤の種類は特に限定されない。溶剤は、導電性組成物中の各成分を実質的に変質させないものであればよい。
溶剤の使用量は、導電性組成物の塗布・印刷方法などに応じて適宜調整すればよい。溶剤の使用量は、導電性組成物の全体中、例えば3~35質量%、好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは10~30質量%である。
【0039】
導電性組成物は、基材1との密着性、膜形成性、印刷性などの観点で、バインダーを含んでもよいし、含まなくてもよい。
バインダーを用いる場合、バインダーの種類は特に限定されないが、ポリビニルピロリドン、ポリエステル、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール、セルロース系樹脂(例えばエチルセルロースなど)、フェノール樹脂などを好ましく挙げることができる。
導電膜の導電性を維持する観点からは、導電性組成物の全不揮発成分中のバインダーの量は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。バインダーの量の下限は0であってもよい。ただし、バインダーを用いることにより密着性向上などの効果を積極的に得ようとする場合には、バインダーの量は、導電性組成物の全不揮発成分中、1質量%とすることが好ましく、2質量%以上とすることがより好ましい。すなわち、諸性能のバランスの観点からは、バインダーの量は、導電性組成物の全不揮発成分中、好ましくは1~5質量%、より好ましくは2~5質量%である。
【0040】
導電性組成物は、その他、従来のインク組成物や導電性ペーストにおける各種添加成分を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0041】
・基材1
基材1は、通常、フィルム状、シート状または板状である。工業的な生産性の観点から、基材1の形状はこれらのいずれかが好ましい。
基材1は、好ましくは可撓性を有する。可撓性を有する基材1を採用することで、フレキシブル基板(FPC)を製造することができる。
また、可撓性を有する基材1は、後掲の導電膜形成工程において、ロールプレス工程による導電膜形成を行いやすいというメリットも有する。
念のため述べておくと、基材1は、可撓性を有しないリジッドな基材であってもよい。
【0042】
コストや最終用途を考慮し、基材1は、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)などのポリエステル、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリイミドおよび紙からなる群より選択される少なくともいずれかであることが好ましい。ここで、紙は、コート紙(紙表面がコート剤でコーティングされた紙)であってもよいし、コート紙ではない通常の紙であってもよい。また、基材1としては、PETなどに限らず、一般の樹脂フィルムを採用することができる。
後述するように、本実施形態においては、導電膜形成工程において、加熱なし、または比較的低温の加熱においても、十分に比抵抗が小さい導電膜を得ることができる。よって、ポリエステル、ポリオレフィン、紙などの、低耐熱性の基材1も、基材として好適に用いることができる。また、ポリイミドなどの高耐熱性の基材1を用いた場合、導電膜形成工程において高温の加熱を行うことで、比抵抗を一層小さくすることができる。
【0043】
・膜形成方法
導電性組成物の膜形成方法は、特に限定されない。
導電性組成物は、基材の一面の全体に膜形成されてもよいし、基材の一面の一部にのみ膜形成されてもよい。前者の場合、ブレードコーター、エアナイフコーター、ドクターコーター、ロールコーター、バーコーター(ロッドコーター)、カーテンコーターなどの装置を用いて膜形成(塗布)を行うことができる。後者の場合、各種の印刷法、例えばスクリーン印刷法、グラビア印刷法、凸版印刷法、平板印刷法(オフセット印刷法)、インクジェット法など適用することができる。膜形成の「パターン」を適切に設計することで、回路として働くことができる導電膜(回路パターン)や、電磁波シールド能を有するメッシュパターンなどの、パターン構造を備えた基材を製造することができる。導電性組成物を基材の一面の一部にのみ膜形成する場合、膜形成の「パターン」は、最終的に得られる導電膜の用途に応じて適切に設計されることが好ましい。
所望の場所以外に導電性組成物が膜形成されないように、例えば孔をくりぬいたフィルムを基材1の上に置き、その上から導電性組成物を膜形成し、その後フィルムを除去するという工程を行ってもよい。
【0044】
導電膜としたときの十分な導電性を得る観点と、膜形成のしやすさの観点から、膜3の厚み(導電性組成物が溶剤を含む場合は乾燥厚み)は、好ましくは5~100μm、より好ましくは10~50μmである。
【0045】
特に導電性組成物が溶剤を含む場合、溶剤を乾燥させるための加熱処理を行うことが好ましい。加熱処理の条件は、溶剤が十分に乾燥する限り特に限定されないが、溶剤の十分な乾燥と、過度な加熱による導電性粒子の変質抑制の観点から、加熱処理の温度は好ましくは50~150℃、より好ましくは80~120℃である。加熱処理の時間は好ましくは1~60分、より好ましくは3~30分である。
溶剤を乾燥させるための加熱処理は、具体的には、膜3に対して熱風を当てることで行うことができる。もちろんこれ以外の方法で加熱処理を行ってもよい。
【0046】
(
図2:導電膜形成工程)
導電膜形成工程においては、膜3を少なくとも加圧して導電膜を形成する。
図2は、加圧手段としてロールプレスを採用した場合を模式的に示している。
加圧手段としてロールプレスを採用した場合、導電膜形成工程において、膜3が設けられた基材1は、対向する2本のロール10Aおよび10Bによって挟持される。挟持された基材1は、ロール10Aおよび10Bの回転(
図2中に矢印で示す)の力などにより、
図2の左方向から右方向に搬送される。
【0047】
ロールプレス工程において、膜3が設けられた基材1には10MPa以上の圧力が加えられることが好ましい。この圧力は、より好ましくは10~5000MPa、さらに好ましくは20~300MPa、特に好ましくは30~250MPaである。圧力が10MPa以上であることにより、得られる導電膜の比抵抗を一層小さくすることができる。また、圧力が5000MPa以下であることにより、基材1や膜3の損傷を抑えることができる。ちなみに、基材1の強度が十分であれば、圧力を大きくして、導電膜の比抵抗を一層小さくすることができる。
【0048】
導電膜形成工程では、膜3を加熱しながら加圧することが好ましい。
膜3を加熱する場合、加熱の温度は、基材1の耐熱性や、用いる導電性粒子の種類などに応じて適宜設定すればよい。例えば、基材1が、ポリエステル、ポリオレフィン、紙などの、低耐熱性の素材で構成されている場合には、加熱温度は、使用する基材の耐熱温度を考慮しつつ、例えば50~200℃、より好ましくは70~180℃、さらに好ましくは70~150℃、特に好ましくは80~125℃の範囲内で、基材が実質的に軟化や融解しない温度を設定することが好ましい。ただし、加熱時間が短い場合には、これより高い温度(例えば400℃)での加熱が許容される場合もある。
一方、基材1が、ポリイミドなどの高耐熱性素材で構成されている場合には、加熱温度は50~400℃とすることができる。すなわち、膜3を加熱する場合、その温度は400℃以下で適宜調整することが好ましい。
加熱の時間も、基材1の耐熱性や、用いる導電性粒子の種類などに応じて適宜設定することができる。加熱時間は、例えば0.01~1秒、好ましくは0.04~0.6秒である。ちなみに、「加熱の時間」とは、導電膜形成工程においてロールプレスを採用した場合には、膜3がロールと接触して加圧されつつ加熱されている時間のことである。一例として、対向して回転する2つのロールが接触する幅を1mm、2本のロール間を基材が通過する速度をvとすると、加熱時間(加圧されている時間と等しい)は、v=0.1m/分では0.59秒、v=1.5m/分では0.04秒、v=1.0m/分では0.06秒、v=5.0m/分では0.012秒となる。
【0049】
導電膜形成工程においてロールプレスを採用した場合には、膜3を加熱しながら加圧するため、2本のロールのうち、少なくとも膜3に近い側のロール10Aは、加熱されていることが好ましい。ロール10Aの加熱温度は、上記説明のとおり、基材1の耐熱性や、用いる導電性粒子の種類などに応じて、400℃以下で適宜設定することができる。また、加熱の時間は、ロール10Aおよびロール10Bの回転速度(すなわち搬送速度)を変えることで調整することができる。搬送速度は、例えば0.1~10m/分の間で、十分な加熱加圧時間の確保や、量産性などを考慮して適宜調整すればよい。
また、均一な加熱や、加熱時間の短縮のため、ロール10Aだけでなくロール10Bも加熱されていてもよい。
【0050】
一方、十分に比抵抗が小さい導電膜が得られるならば、ロール10Aは加熱されていなくてもよいし、ロール10Bも加熱されていなくてもよい。
【0051】
ちなみに、十分に比抵抗が小さい導電膜が得られるならば、導電膜形成工程で膜3を加熱しなくてもよい。具体的には、導電膜形成工程がロールプレス工程を含む場合には、ロール10Aは加熱されていなくてもよいし、ロール10Bも加熱されていなくてもよい。特に導電性粒子として銀を主成分とする粒子を用いる場合、加圧のみによっても十分に比抵抗が小さい導電膜を得やすい。
【0052】
図2においては不図示であるが、ロールプレス工程においては、例えば膜3とロール10Aとの間に樹脂フィルムを挟みながら、ロール10Aおよびロール10Bを回転させてもよい。膜3とロール10Aとの間に樹脂フィルムが介在することで、膜3が剥がれてロール10Aに付着することを抑えることができる。また、膜3とロール10Aとの間に樹脂フィルムが介在することで、膜3にかかる圧力が適切に分散されるため、より均質で一定の性能の導電膜を得やすくなる傾向がある。
膜3とロール10Aとの間に挟む樹脂フィルムの素材は特に限定されない。耐熱性や耐久性の点では、ポリイミドフィルム等を好ましく用いることができる。
【0053】
(
図3および
図4:導電膜形成工程の変形例)
上記では、導電膜形成工程の具体的方法として、ロールプレス工程を説明したが、念のため述べておくと、膜3に十分な圧力(および場合によっては熱)が加えられる限り、ロールプレス以外の方法により導電膜形成工程を実施してもよい。ただし、大量生産のしやすさを考慮すると、導電膜形成工程は、ロールプレス工程を含むことが好ましい。
【0054】
以下、念のため、ロールプレス工程以外の、導電膜形成工程に適用可能な工程について説明しておく。
【0055】
導電膜形成工程は、
図3に示されるように、膜3が設けられた基材1を、平坦面を有する台20の平坦面20A上に置き、その上からロール12を用いて膜3を少なくとも加圧する工程を含んでもよい。なお、適切な加圧が可能である限り、平坦面を有する台20は、台ではなく平板であってもよい。要は基材1が平坦面上に置かれ、ロール12で適切な加圧ができればよい。
【0056】
導電膜形成工程は、
図4に示されるように、第1の平坦面31Aを有する第1の押圧部材31の、第1の平坦面31Aと、第2の平坦面32Aを有する第2の押圧部材32の第2の平坦面32Aと、により、膜3が設けられた基材1を挟む工程を含んでもよい。このような工程の実施に好ましく用いられる装置として、例えば新東工業株式会社製のプレス装置「CYPF-400」などを挙げることができる。
【0057】
<電子デバイスの製造方法>
上記の膜形成工程および導電膜形成工程を経て得られた導電性基材を用いて、電子デバイスを製造することができる。例えば、膜形成工程において塗布または印刷の「パターン」を適切に設計することで、回路として働くことができる導電膜(回路パターン)を備えた基材を製造し、この基材と他の電子素子とを組み合わせることで電子デバイスを製造することができる。
【0058】
ここで、「電子デバイス」の例をいくつか記載するが、本実施形態の導電性基材の製造方法で得られた導電性基材を含む電子デバイスは、当然、これらのみに限定されない。
・センサー:例えば感圧センサー、バイタルセンサー等のセンサー中の、導電性部材/回路について、本実施形態の導電性基材の製造方法で得られた導電性基材を適用することができる。
・太陽電池:例えば太陽電池の集電配線について、本実施形態の導電性基材の製造方法で得られた導電性基材を適用することができる。
・メンブレンスイッチ:メンブレンスイッチとは、薄いシート状のスイッチでフィルムに回路と接点を印刷して貼り重ねたものである。これの回路や接点を形成するために、本実施形態の導電性基材の製造方法を適用することができる。
・タッチセンサー・タッチパネル:例えばタッチセンサー・タッチパネルにおける引き出し配線を形成するために、本実施形態の導電性基材の製造方法を適用することができる。また、タッチセンサー・タッチパネルにおける透明電極を形成するために、本実施形態の導電性基材の製造方法を適用することも考えられる。
・フレキシブル基材:従来は、まず可撓性フィルムの全面に金属膜をコーティングし、その後、薬剤を使って金属膜の不要な部分を取り除くことで回路を形成している。このような従来の方法の代わりに、本実施形態の導電性基材の製造方法で回路を形成することが考えられる。
【0059】
特に、従来は導電ペーストを用いて回路を形成していた電子デバイスにおいて、回路形成を本実施形態の導電性基材の製造方法を利用することで、回路の比抵抗が小さくなり、電子デバイスの性能向上を期待することができる。
【0060】
とりわけ好ましい電子デバイスとしては、RFタグを挙げることができる。すなわち、RFタグにおけるアンテナ部等の導電回路を製造するために、本実施形態の導電性基材の製造方法は好ましく用いられる。
RFタグの具体的構造については、例えば特開2003-332714号公報、特開2020-46834号公報などを参考にすることができる。
【0061】
<電磁波シールドフィルムの製造方法>
電子デバイスとは別の応用として、本実施形態の導電性基材の製造方法により、電磁波シールドフィルムを製造することが考えられる。具体的には、膜形成工程において、導電性組成物を膜形成する際のパターンを、電磁波シールドフィルム特有のパターン(メッシュパターンなど)とすることで、電磁波シールドフィルムを製造することができる。
【0062】
<面状発熱体の製造方法>
さらに別の応用として、本実施形態の導電性基材の製造方法により、面状発熱体を製造することが考えられる。面状発熱体とは、基材上に電気配線が設けられ、その配線に電流を流すことで発熱するもののことをいう。面状発熱体の具体例としては、例えば乗用車のリアガラスなど、防曇や防寒のための面状発熱体を挙げることができる。
【0063】
<導電性組成物>
上記では、導電性基材の製造方法および電子デバイスの製造方法という「方法」に焦点を当てて本発明の実施形態について説明した。これとは別に、本発明の実施形態は、導電性組成物として捉えることもできる。
すなわち、以下の導電性組成物は、比抵抗が小さい導電膜の形成に好ましく用いられる。
「基材上に膜を形成し、その膜を少なくとも加圧して導電膜を形成する用途に用いられる、導電性粒子を含有する導電性組成物であって、
銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子(A)と、前記導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、を含む導電性組成物。」
【0064】
上記組成物の具体的態様については、<導電性基材の製造方法>の項で説明済みである。よって改めての説明は省略する。
【0065】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0066】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
以下において、指数表記を記号「E」で示す場合がある。例えば、1.3.E-06とは、1.3×10-6を意味する。
【0067】
<導電性組成物の調製>
後掲の表1に示される成分を、遊星式攪拌機を用いて攪拌した。これにより均一なペースト状の導電性組成物を得た。表1において、各成分の量の単位は質量部である。
【0068】
表1中の一部成分について情報を補足しておく。
銅粒子1:メジアン径 10.3μm
銀粒子1:メジアン径 6.1μm
アルカンニトリル:炭素数が1~18の範囲内にある数種のアルカンニトリルの混合物(沸点は340℃以下)
【0069】
(膜形成工程および導電膜形成工程)
以下手順により膜形成工程および導電膜形成工程を行い、導電膜を備える導電性基材を製造した。
(1)導電性組成物を用いて、基材上に、15mm×5mmの大きさの塗布膜(ベタ膜)を形成した。具体的には、まず、基材上にスリーエム社のスコッチテープを貼って15mm×5mmの大きさの「くりぬき部」を設けた。そして、そのくりぬき部の上で、スキージーを用いて導電性組成物をスキージングして、くりぬき部に導電性組成物を充填した。その後、スコッチテープを剥がした。このときの塗布膜の厚みは40μm程度であった。
基材としては、ポリイミドフィルムを用いた。
(2)塗布膜を設けた基材を、熱風循環式大気オーブンに入れ、100℃で15分間加熱した。これにより溶剤を乾燥させた。
(3)溶剤が乾燥した塗布膜を、基材と一緒に、荷重調節式のロールプレス機(テスター産業社製、大まかな構造は
図2に模式的に示されるとおり)を用いて、以下条件でロールプレスした。
・ロール10Aの温度:200℃に加熱
・圧力:121MPa
・搬送速度:0.1m/分
【0070】
ちなみに、上記の圧力については、以下の計算により求めた値である。
・ロール幅:165mm、ロール間の接触幅:1mmに基づき、圧力がかかる面積は165mm2とした。
・加圧は20kNとした。
・165mm2の領域に20kNの力がかかったことから、20kN÷165mm2の計算により、圧力:121MPaと算出。
【0071】
(比抵抗の測定)
上記で得られた導電膜について、4端子抵抗測定器で抵抗値を測定し、また、膜厚計で膜厚を測定した。測定された抵抗値および膜厚から、比抵抗を算出した。
【0072】
導電性組成物の組成情報および評価結果尾をまとめて表1に示す。
【0073】
【0074】
表1に示されるとおり、銅および銀からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含有する導電性粒子(A)と、導電性粒子(A)の腐食および凝集の一方または両方を抑制する化合物(B)と、を含む導電性組成物を用いて基材上に膜を形成し、その膜に圧力を加えることで、導電性が良好な導電膜を有する導電性基材を製造することができた。
実施例をより詳細に分析すると、同じ銅粒子1を用いた例において、化合物(B)として、ニトリル化合物(B3)と、配位子(B1)および/または還元剤(B2)と、を併用した実施例3~11の比抵抗は、化合物(B)としてニトリル化合物(B3)のみを用いた実施例1の比抵抗よりも小さかった。このことから、異なる2種以上の化合物(B)を用いることで、得られる導電膜の導電性を一層高められることが理解される。