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特開2024-144333カルシウムアルミネートスラグの処理及び利用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144333
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】カルシウムアルミネートスラグの処理及び利用方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/00 20060101AFI20241003BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B5/00 C
C04B28/02
C04B22/08 Z
C04B18/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024051101
(22)【出願日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2023054527
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長塩 靖祐
(72)【発明者】
【氏名】小林 久美子
(72)【発明者】
【氏名】丸田 浩
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112JD03
4G112JE02
4G112JE04
4G112MB00
4G112PA29
4G112PB05
4G112PC01
4G112PC04
(57)【要約】
【課題】副産物として発生するカルシウムアルミネートスラグをセメント混和材として使用できるようにするための、カルシウムアルミネートスラグの処理方法を提供することである。
【解決手段】金属精錬時に副産物として発生するカルシウムアルミネートスラグを粉砕してカルシウムアルミネートスラグ粉末とした後、加水処理することによって、当該粉末表面が水和物で被覆された粉末とすることを特徴とするカルシウムアルミネートスラグの処理方法。また、前記処理方法により得られたカルシウムアルミネートスラグ粉末をセメント混和材として用いることを特徴とするカルシウムアルミネートスラグの利用方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属精錬時に副産物として発生するカルシウムアルミネートスラグを粉砕してカルシウムアルミネートスラグ粉末とした後、加水処理することによって、当該粉末表面が水和物で被覆された粉末とすることを特徴とするカルシウムアルミネートスラグの処理方法。
【請求項2】
前記カルシウムアルミネートスラグが、CaOとAlの含有モル比(CaO/Alモル比)が0.9~1.5であることを特徴とする請求項1記載のカルシウムアルミネートスラグの処理方法。
【請求項3】
前記カルシウムアルミネートスラグが、鉱物相としてクロタイト及びマイエナイトを含み、かつCaOとAlの含有モル比(CaO/Alモル比)が0.9~1.5であることを特徴とする請求項1記載のカルシウムアルミネートスラグの処理方法。
【請求項4】
前記マイエナイトの含有量が1~20質量%である請求項3に記載のカルシウムアルミネートスラグの処理方法。
【請求項5】
前記カルシウムアルミネートスラグが、鉱物相としてクロタイト及びマイエナイトを含み、かつCaOとAlの含有モル比(CaO/Alモル比)が0.9~1.5であり、ガラス化率が20%未満であることを特徴とする請求項1記載のカルシウムアルミネートスラグの処理方法。
【請求項6】
前記カルシウムアルミネートスラグが、MgO含有量が5質量%以下であることを特徴とする請求項1記載のカルシウムアルミネートスラグの処理方法。
【請求項7】
請求項1~6いずれか1項に記載の処理方法により得られたカルシウムアルミネートスラグ粉末をセメント混和材として用いることを特徴とするカルシウムアルミネートスラグの利用方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属精錬時に副産物として発生するカルシウムアルミネートスラグの処理及び利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属精錬時に副産物としてカルシウムアルミネート系のスラグが発生することが知られている。例えば、ステンレス鋼の製鋼工程において副産される鉄鋼スラグにおいて、鉄鋼の脱酸剤としてアルミニウムを使用した時に、カルシウムアルミネート系のスラグが発生することが知られている。また、酸化クロム、アルミニウム、及び石灰を装入する工程を含む金属クロムの製造方法において、その一次スラグとしてカルシウムアルミネートが生成することが開示されている(特許文献1)。さらに、特許文献2によれば、脱硫廃触媒等の使用済触媒よりV、Ni、Mo等の有用金属とカルシウムアルミネートをシンプルなプロセスにより安価に製造する方法が提案されている。このような副産物として発生する副生カルシウムアルミネートは、製鉄会社等の精練工程で蛍石代替の焙溶剤として、あるいは精練スラグの成分調整として広く利用されている。この他、有効活用方法として、アルミナセメントの製造時のCaO-Al原料として使用することが提案されている(特許文献3)。副生カルシウムアルミネートの有効活用は、省エネルギーの点からも、またCO削減の点からも現在求められている重要な技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2013/187348
【特許文献2】特開2004-35995号公報
【特許文献3】特開2006-282486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カルシウムアルミネートスラグは、アルミナセメントの化学組成に近いことから、アルミナセメントと石膏類等から構成される急硬性材料において、アルミナセメントの代替物として使用できる可能性があるが、これまでほとんど利用されてこなかった。そこで、本発明者らは、副生カルシウムアルミネートを粉砕処理した粉末を、アルミナセメントに代替して調製したセメント用の混和材を作製し、これをセメントに添加して検討を行った。しかしながら、カルシウムアルミネートスラグをセメント用混和材として使用した場合、モルタルコンクリートの凝結が速くなり、凝結調整剤を多量に添加しても十分な施工時間(可使時間)が確保できないことが判明した。また、強度発現性も必ずしも十分とはいえるものではなかった。本発明の課題は、副産物として発生するカルシウムアルミネートスラグをセメント混和材として使用できるようにするための、カルシウムアルミネートスラグの処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するためカルシウムアルミネートスラグの処理方法を鋭意検討した結果、セメント混和材として用いることができる方法を見出し、本発明を完成した。すなわち、〔1〕~〔7〕に示す。
〔1〕金属精錬時に副産物として発生するカルシウムアルミネートスラグを粉砕してカルシウムアルミネートスラグ粉末とした後、加水処理することによって、当該粉末表面が水和物で被覆された粉末とすることを特徴とするカルシウムアルミネートスラグの処理方法。
〔2〕前記カルシウムアルミネートスラグが、CaOとAlの含有モル比(CaO/Alモル比)が0.9~1.5であることを特徴とする〔1〕に記載のカルシウムアルミネートスラグの処理方法。
〔3〕前記カルシウムアルミネートスラグが、鉱物相としてクロタイト及びマイエナイトを含み、かつCaOとAlの含有モル比(CaO/Alモル比)が0.9~1.5である〔1〕記載のカルシウムアルミネートスラグの処理方法。
〔4〕前記マイエナイトの含有量が1~20質量%である〔3〕に記載のカルシウムアルミネートスラグの処理方法。
〔5〕前記カルシウムアルミネートスラグが、鉱物相としてクロタイト及びマイエナイトを含み、かつCaOとAlの含有モル比(CaO/Alモル比)が0.9~1.5であり、ガラス化率が20%未満であることを特徴とする〔1〕記載のカルシウムアルミネートスラグの処理方法。
〔6〕前記カルシウムアルミネートスラグが、MgO含有量が5質量%以下であることを特徴とする〔1〕~〔5〕いずれかに記載のカルシウムアルミネートスラグの処理方法。
〔7〕〔1〕~〔6〕いずれかに記載の処理方法により得られたカルシウムアルミネートスラグ粉末をセメント混和材として用いることを特徴とするカルシウムアルミネートスラグの利用方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、カルシウムアルミネートスラグを使用して、良好なセメント混和材が得られる。これにより、副産物として発生するカルシウムアルミネートスラグを有効に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<カルシウムアルミネートスラグ>
本発明におけるカルシウムアルミネートスラグは、金属精錬時に副産物として発生するカルシウムアルミネートスラグである。例えば、ニッケル、モリブデン、バナジウム等、あるいは鉄との合金であるフェロニッケル、フェロバナジウム等の精錬時に発生するカルシウムアルミネートスラグが挙げられる。
【0008】
上記カルシウムアルミネートスラグの主な化学成分はCaO及びAlである。その含有量は特に限定されるものではないが、CaO含有量が30~45質量%、Al含有量が45~65質量%であることが好ましい。また、CaO/Alモル比としては0.9~1.5であることが好ましい。モル比が0.9未満の場合は、セメント硬化体の初期強度発現が十分に得られない虞がある。一方、モル比が1.5を超える場合は、セメント混錬物の可使時間に影響を及ぼす虞がある。
【0009】
また、カルシウムアルミネートスラグに含まれる鉱物相としては、クロタイト(CaO・Al)、マイエナイト(12CaO・7Al)、ゲーレナイト(2CaO・AlO・SiO)、ペリクレース(MgO)、オケルマナイト(2CaO・MgO・2SiO)等が挙げられる。これらの中で、クロタイトを主成分(50質量%以上)として含むものが好ましい。
【0010】
さらに、初期の強度発現性の点から、マイエナイトを含むことが好ましい。マイエナイトは、初期の水和活性が高く初期の強度発現に寄与する。しかしながら、多量に含むと、モルタルコンクリートの凝結を速め、可使時間の確保を困難にする虞がある。このため、含有量としては1~20質量%であることが好ましく、2~10質量%がより好ましく、3~8質量%がさらに好ましい。なお、マイエナイトの含有量は、X線回折装置を用い、検量線法、リートベルト法等により測定することができる。
【0011】
カルシウムアルミネートスラグの化学組成におけるMgOの含有量としては、5質量%以下であることが好ましい。MgOの含有量が5質量%を超えると、モルタルコンクリートの凝結が遅れ、短時間強度の発現性が低下する虞がある。4質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。また、TiOの含有量としては、強度発現性の点から1質量%以下であることが好ましい。
【0012】
この他、カルシウムアルミネートスラグには、少量の金属及び金属酸化物が含まれていてもかまわない。例えば、鉄、ニッケル、モリブデン、バナジウム、クロム、コバルト等の金属及び金属酸化物が挙げられる。金属及び金属酸化物の含有量としては、金属酸化物換算で5質量%以下であることが好ましい。
【0013】
なお、カルシウムアルミネートスラグの強熱減量は通常増加(+表記)になる。ここで、強熱減量とは、大気中で950℃1時間加熱処理した場合の減量値である。強熱減量が増加になるのは、含まれる遷移金属が金属の状態、あるいは価数の低い化合物の状態で存在していることに起因するものと考えられる。
【0014】
また、カルシウムアルミネートスラグは、通常、自然放冷されることから、生成物は結晶質であり、非晶質のカルシウムアルミネートはほとんど含まれない。ガラス化率については、特に限定されるものではないが、通常のカルシウムアルミネートスラグのガラス化率は20%未満である。ガラス化率については、X線回折装置を用いた検量線法、リートベルト法で測定することができる。
【0015】
<カルシウムアルミネートスラグの処理方法>
副産物として発生するカルシウムアルミネートスラグは、通常数cm程度の塊状の形態で得られる。このため、粉砕して粉末とする。粉砕方法は特に限定されるものではないが、例えば、クラッシャーミル等で粗砕後、ボールミル、振動ミル等で微粉砕することができる。粉末度としては、ブレーン比表面積で3000~8000cm/gに調整されることが好ましい。より好ましくは、4000~7000cm/gである。
【0016】
次に、粉砕されたカルシウムアルミネートスラグの粉末を加水処理する。これにより、粉末粒子表面にカルシウムアルミネート水和物の被覆層が形成されるため、接水時の水和反応が抑制され、モルタルやコンクリートに使用した場合でも、十分な可使時間を確保することが可能となる。あるいは良好な流動性を確保することが可能となる。加水処理の方法としては、例えば、粉体混合機を用いて、所定量の水を噴霧器で少しずつ噴霧添加して混合することが、比較的均一に水和物相を被覆できるので望ましい。粉体混合機としては、レーディゲミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、VH粉体混合機等を使用することができる。混合時間は、混合量や装置に応じて適宜調整されるが、2~30分が好ましい。水の噴霧量としては、カルシウムアルミネートスラグの重量に対して、0.2~3.5質量%が好ましい。なお、噴霧添加する水の代わりに、カルシウムアルミネートと反応し水和物を形成するものであれば、他の液体(含水有機溶媒、炭酸水等)でも使用することができる。
【0017】
カルシウムアルミネートスラグの粉末粒子表層に形成される水和物としては、例えばCaO・Al・10HO、2CaO・Al・8HO、3CaO・Al・6HO、3CaO・Al・8HO、4CaO・Al・13HO、4CaO・Al・19HO、CaO・HO、Al・HO、Al・3HO、3CaO・Al・CaSO・12HO、3CaO・Al・3CaSO・32HO、3CaO・Al・CaCO・12HO、3CaO・Al・3CaCO・30HO等を挙げることができる。この他、カルシウムアルミネートスラグ中に含まれる遷移金属やその他の不純物元素を含む水和物が挙げられる。
【0018】
<セメント混和材>
本発明の製造方法により処理されたカルシウムアルミネートスラグは、セメント混和材として好適に用いることができる。すなわち、このセメント混和材をセメントに添加して使用されたときに、十分な可使時間や良好な流動性を確保することができ、また良好な強度発現性を得ることができる。
【0019】
セメント混和材としては、上記カルシウムアルミネートスラグの他に、石膏類を含むことが好ましい。石膏類としては、無水石膏、二水石膏、半水石膏が挙げられる。強度発現性の点からは無水石膏が好ましい。また、天然、副産品として生成する化学石膏いずれも使用することができる。石膏類のブレーン比表面積は3000~12000cm/gが好ましく、4000~10000cm/gがより好ましい。石膏類の含有量は、カルシウムアルミネートスラグ100質量部に対して、20~400質量部が好ましく、30~300質量部が好ましく、40~200質量部がさらに好ましい。
【0020】
また、セメント混和材には、さらにアルカリ金属又はアルカリ土類金属の硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、炭酸塩及び水酸化物、あるいはアルミニウム硫酸塩の金属塩の群から選択される一種又は二種以上を含有することができる。これら金属塩の含有量としては、カルシウムアルミネートスラグ100質量部に対して、1~20質量部が好ましく、2~10質量部がより好ましい。
【0021】
また、セメント混和材には、さらに有機酸又はその塩から選ばれる一種以上の遅延剤を含むことができる。有機酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸等が挙げられ、その塩としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、ロッシェル塩等が挙げられる。カルシウムアルミネート系物質(カルシウムアルミネートスラグ)に対する遅延効果並びに強度発現性との相性の点から、特にクエン酸、酒石酸等のオキシカルボン酸、あるいはそれらのアルカリ金属塩が好ましい。遅延剤の配合量は、セメント混和材中0.5~5質量%が好ましく、1~3質量%がより好ましい。
【0022】
なお、カルシウムアルミネートスラグの一部を工業的に製造されるアルミナセメントや非晶質カルシウムアルミネートに置き換えて使用することもできるが、カルシウムアルミネートスラグの有効利用の観点からはできるだけ少ない量に留めることが望ましい。
【0023】
上記セメント混和材は、ポルトランドセメント等の各種セメントに添加して使用される。セメント混和材の添加量としては、用途に応じて適宜調整されるが、セメントとセメント混和材の合計100質量部に対して、5~50質量部が好ましく、10~40質量部がより好ましい。
【0024】
また、上記セメント混和材を使用したモルタルやコンクリートには、可使時間を調整するために、凝結遅延剤を用いることができる。凝結遅延剤としては、例えばクエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸などの有機酸又はその塩、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、リン酸塩、糖類等が挙げられる。凝結遅延剤の添加量は、セメントとセメント混和材の合計100質量部に対して、0.1~5.0質量部の範囲で適宜調整される。さらに、流動性を調整するために、一般的なモルタルやコンクリートに用いられる減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤等のセメント分散剤を用いることができる。
【実施例0025】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
〔実施例1〕
金属精錬時に発生するカルシウムアルミネートスラグ(CAS)として、フェロバナジウムを精錬後のスラグとして生成したカルシウムアルミネートスラグを使用した。カルシウムアルミネートスラグの化学組成を表1に示す。このカルシウムアルミネートスラグは、バナジウムを酸化物換算で0.66質量%含むものであった。また、CaO/Alモル比は1.1、強熱減量は+0.25質量%(増量)であった。鉱物組成としては、クロタイトを80質量%、マイエナイトを5質量%、ゲーレナイトを10質量%、ペリクレースを2質量%含むものであった。また、ガラス化率は2%であった。鉱物の含有量及びガラス化率についてはX線回折装置を用いリートベルト法により算出した。このカルシウムアルミネートスラグを粗粉砕後、ボールミルで粉砕し、ブレーン比表面積が5020cm/gの粉末とした。
【0027】
【表1】
【0028】
加水処理を行ったカルシウムアルミネートスラグの粉末100質量部に対して、無水石膏(市販品;ブレーン比表面積7100cm/g)100質量部、硫酸ナトリウム(試薬、関東化学社製)6質量部、炭酸リチウム(試薬、関東化学社製)6質量部配合し、粉体混合機で10分間混合し、セメント混和材(AD1)を得た。このセメント混和材を用いてモルタル試験体を作製した。セメント(C)は普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製、密度:3.16g/cm)を、骨材(S)はJIS標準砂を、水(W)は上水道水を使用した。セメント混和材の含有量は、セメントとセメント混和材の合計100質量部に対して30質量部とした。また、凝結遅延剤としてクエン酸(市販試薬1級)を、セメントとセメント混和材の合計量に対して0.6質量%添加した。モルタル配合を表2に示す。モルタル試験体の作製及び養生は20℃環境下で実施した。
【0029】
【表2】
【0030】
(試験方法)
(1)可使時間
JIS A 1147「コンクリートの凝結時間試験方法」に準じ、始発時間を測定し、その始発時間を可使時間とした。
(2)圧縮強度
土木学会基準JSCE- G541「充填モルタルの圧縮強度試験方法」に準じ、各時間材齢の圧縮強度を測定した。
【0031】
(試験結果)
加水処理を行っていないカルシウムアルミネートスラグを用いたセメント混和材を使用した場合、20分以上の可使時間を確保できなかったが、加水処理を行ったカルシウムアルミネートスラグ粉末を用いたセメント混和材を使用した場合は、80分の可使時間を確保することができた。また、4時間材齢で32N/mm、24時間材齢で44N/mmの圧縮強度が得られ、初期強度発現性も良好であった。
【0032】
〔実施例2〕
実施例1と同様に作製したカルシウムアルミネートスラグ粉末を用いて、中性化促進用のセメント混和材を作製し、評価した。以下に詳細を記す。
【0033】
カルシウムアルミネートスラグ粉末70質量部と無水石膏(市販品、ブレーン比表面積7100cm/g)30質量部を混合し、セメント混和材(AD2)とした。このセメント混和材を用いてモルタル試験体を作製した。セメント(C)は普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製、密度:3.16g/cm)を、骨材(S)はJIS標準砂を、水(W)は上水道水を使用した。セメント混和材の含有量は、セメントとセメント混和材の合計100質量部に対して20質量部とした。モルタル配合を表3に示す。モルタルの混練は、モルタルミキサを用いて3分間混練し、各種試験に供した。
【0034】
【表3】
【0035】
(試験方法)
(1)モルタルフロー
「JIS R 5201 モルタルの物理試験」に準拠して試験した。
(2)圧縮強度試験
「JIS R 5201 モルタルの物理試験」に準拠して、材齢1及び14日の圧縮強度を試験した。養生温度は試験直前まで20℃とした。
(3)中性化深さ
「JIS A 1152 コンクリートの中性化深さの測定方法」に準拠して試験した。
材令3日まで封かん養生し、その後脱型し温度20℃、湿度60%、CO濃度5%の中性化槽で材齢28日間試験を実施した。
【0036】
(試験結果)
試験結果を表4に示す。表中の圧縮強度比(材齢14日)は、セメント混和材無添加のモルタルの圧縮強度に対する強度比を示している。加水処理を行ったカルシウムアルミネートスラグを用いたセメント混和材を使用した場合、未加水のものに比べ、流動性、強度発現性とも良好であることが分かる。そして、中性化速度は、セメント混和材未添加のものに対して、速くなっていることが分かる。
【0037】
【表4】
【0038】
〔実施例3〕
化学組成の異なる4種類のカルシウムアルミネートスラグを用いて試験を実施した。使用したカルシウムアルミネートスラグの化学組成を表5に示す。いずれのカルシウムアルミネートスラグも、主成分としてクロタイトを含み、かつ1~8質量%のマイエナイトを含むものであった。また、ガラス化率は3%以下であった。
【0039】
【表5】
【0040】
これらのカルシウムアルミネートスラグを粗粉砕後、ボールミルで粉砕し、ブレーン比表面積が5000±100cm/gとなるよう調製した。調製したカルシウムアルミネートスラグの粉末50kgをレーディゲミキサーに投入し、ミキサーを回転しながら250gの水を噴霧器によって噴霧添加した。10分間混合し、加水処理してなるカルシウムアルミネートスラグの粉末を得た。
【0041】
加水処理したカルシウムアルミネートスラグの粉末、無水石膏(市販品、ブレーン比表面積7000cm/g)、無水硫酸ナトリウム(試薬1級、市販品)及びクエン酸(試薬1級、市販品)を混合し、セメント混和材とした。各セメント混和材の配合を表6に示す。
【0042】
【表6】
【0043】
表6に示すセメント混和材と、高炉セメントB種(太平洋セメント社製)からなるセメント組成物450gに対して、細骨材(JIS標準砂)1350g、水(上水道水)225gを混合し、モルタルを作製した。混練はモルタルミキサを用いて、3分間練り混ぜた。このモルタルを型枠に入れて評価試験のための供試体を作製した。評価試験の試験方法を下記に示す。
【0044】
(試験方法)
(1)可使時間
φ5×10cmの供試体の中心温度を測定し、練り上がりから1℃温度が上昇した時間までを可使時間とした。
(2)圧縮強度試験
土学会基準JSCE- G541「充填モルタルの圧縮強度試験方法」に準じ、各材齢の圧縮強度を試験した。養生温度は試験直前まで20℃とした。
【0045】
(試験結果)
試験結果を表7に示す。本発明のセメント組成物は、30分以上の可使時間を設定可能であり、24時間における初期強度発現性も良好であった。また、材齢14日の圧縮強度も良好であった。
【0046】
【表7】