(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144348
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ポリアミドイミド多孔体形成用溶液
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20241003BHJP
C08J 9/28 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08G73/10
C08J9/28 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024051726
(22)【出願日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2023051764
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森北 達弥
(72)【発明者】
【氏名】吉野 文子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 健太
【テーマコード(参考)】
4F074
4J043
【Fターム(参考)】
4F074AA74
4F074CB34
4F074CB47
4F074DA02
4F074DA23
4F074DA47
4F074DA49
4J043PA05
4J043QB26
4J043QB64
4J043RA34
4J043SA67
4J043SB01
4J043TA55
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4J043UA121
4J043UA132
4J043XA16
4J043XA19
4J043ZA05
4J043ZA33
4J043ZA44
4J043ZB47
(57)【要約】
【課題】ポリアミドイミド(PAI)の良溶媒よりも高沸点の貧溶媒の比率の低い混合溶媒組成であってもゲル化が抑制され、また、乾燥効率が向上した、PAI多孔体形成用溶液の提供。
【解決手段】酸成分としてTMA、イソシアネート成分としてTODIとMDIをTODI/MDI=85/15~95/5(モル比)で含むPAIと、含窒素極性溶媒(A)と含窒素極性溶媒より5℃以上沸点の高い貧溶媒(B)とを(A)/(B)=80/20~50/50(質量比)の割合で含む混合溶媒と、からなるPAI多孔体形成用溶液。この溶液から得られたPAI多孔体は、スピーカ振動板、低誘電性のフレキシブル基板、電極用バインダー、リチウム2次電池用セパレータ、リチウム2次電池電極用保護膜等として好適に用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸成分としてTMA、イソシアネート成分としてTODIとMDIをTODI/MDI=85/15~95/5(モル比)の範囲で含むPAIと、含窒素極性溶媒(A)と含窒素極性溶媒より5℃以上沸点の高い貧溶媒(B)とを(A)/(B)=80/20~50/50(質量比)の割合で含む混合溶媒と、からなるPAI多孔体形成用溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高気孔率のポリアミドイミド(PAI)多孔体を形成することのできる溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐熱性に優れた多孔質PI系フィルムとして、特許文献1、2には、酸成分として無水トリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたPAIからなる多孔質PAIフィルムが開示されている。このPAIは、ガラス転移温度が300℃程度と高く、耐熱性に優れている。また、特許文献3には、酸成分として無水トリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたポリアミドイミド(PAI)からなる多孔質PAIフィルムであって、気孔率が75体積%以上のものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-152675号公報
【特許文献2】特開2005-281668号公報
【特許文献3】特開2022-031177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した各技術は、PAIの良溶媒と貧溶媒との混合溶媒を用い、基材上に、PAIと溶媒とを含む溶液(PAI溶液)を塗布して塗膜を形成した後、塗膜中の溶媒を揮発させて除去する際、塗膜内で相分離を起こさせて、基材上に多孔質PAI被膜を形成させるものである。多孔質PAIの気孔率は、特許文献3の実施例1、実施例4、実施例5を比較するとわかる通り、PAI溶液に対する貧溶媒の比率が高いほど気孔率は上がる。しかしながら、この方法において、多孔質PAI被膜の気孔率を上げようとして貧溶媒の割合を高くすると、溶液がゲル化するため、均一な塗膜の形成が困難になるという問題があった。また、アミド系溶媒よりも高沸点の貧溶媒の比率を高くすると、乾燥に時間がかかるため、乾燥効率が低下してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は前記課題を解決するものであって、PAIの良溶媒よりも高沸点の貧溶媒の比率の低い混合溶媒組成であってもゲル化が抑制され、また、乾燥効率が向上した、PAI多孔体形成用溶液の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために鋭意研究した結果、酸成分としてTMA、イソシアネート成分としてTODIと4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とを用いたPAIにおいて、TODIとMDIのモル比率を特定の範囲とし、特定の溶媒組成と組み合せることにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
本発明は以下を趣旨とするものである。酸成分としてTMA、イソシアネート成分としてTODIとMDIをTODI/MDI=85/15~95/5(モル比)で含むPAIと、含窒素極性溶媒(A)と含窒素極性溶媒より5℃以上沸点の高い貧溶媒(B)とを(A)/(B)=80/20~50/50(質量比)の割合で含む混合溶媒と、からなるPAI多孔体形成用溶液。
【発明の効果】
【0008】
本発明のPAI多孔体形成用溶液は、良溶媒である含窒素極性溶媒よりも高沸点の貧溶媒の割合が高いため、多孔体形成時の乾燥効率に優れている。この溶液は、ゲル化することなく光学的に均一な溶液であるので、この溶液から表面状態や厚みの均一性に優れた多孔体を得ることができる。得られたPAI多孔体は、スピーカ振動板、低誘電性のフレキシブル基板、電極用バインダー、リチウム2次電池用セパレータ、リチウム2次電池電極用保護膜等として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の多孔質PAIフィルムを構成するPAIは、酸成分としてTMA、イソシアネート成分としてTODIおよびMDIが用いられていることが必要である。TODIとMDIの比率は、TODI/MDI=85/15~95/5(モル比)とすることが必要である。TODIが85モル%未満としてPAI多孔体形成用溶液を作製した場合、貧溶媒比率を低減すると多孔体は得られない。また、95モル%を超える場合には、本発明の混合溶媒比の範囲では光学的に均一な溶液が得られない。
【0011】
多孔体の大きさに制限はないが、厚みとしては、通常、0.1μm以上、500μm以下程度であり、50μm以上、300μm以下とすることが好ましい。また、この多孔体の平均孔径に制限はないが、通常、個数基準で、0.01μm以上、15μm以下程度であり、0.1μm超、10μm未満が好ましい。ここで、厚みはJIS K7130、密度はJIS Z8807の規定に基づき、25℃で測定することにより求めることができる。平均孔径は、多孔質PIフィルム断面のSEM(走査型電子顕微鏡)像を倍率2000~100000倍で取得し、Image-J等の画像処理ソフトで解析することにより確認することができる。
【0012】
PAI多孔体は、例えば、以下のような方法で得ることができる。すなわち、基材上に、PAIと溶媒とを含む溶液(PAI溶液)を塗布して塗膜を形成した後、例えば80~200℃で塗膜中の溶媒を揮発させて除去する際、塗膜内で相分離を起こさせて、基材上に多孔質PAI被膜を形成させ、しかる後、基材から多孔質PAI被膜を剥離する。
【0013】
多孔体形成用のPAI溶液は、例えば、以下のような方法で得ることができる。すなわち、先ず、TODIおよびMDIと、これらの合計量に対して略当モルのTMAとを、含窒素極性溶媒(PAIに対する良溶媒)中、重合反応させることによりPAI溶液を得た後、これにPAIに対する貧溶媒を配合することにより、PAI多孔体形成用の、光学的に均一な溶液を得ることができる。
【0014】
このPAI溶液には、PAIに対する貧溶媒が配合されているので、この貧溶媒の作用により、塗膜を乾燥した際に塗膜内で相分離が誘起される。含窒素極性溶媒(A)としては、アミド系溶媒、尿素系溶媒が好ましい。アミド系溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP 沸点:202℃)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc 沸点:166℃)を挙げることができる。尿素系溶媒としては、例えば、テトラメチル尿素、ジメチルエチレン尿素を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、NMP、DMAcが好ましい。なお、これらの溶媒は、その水分率が100ppm以下に脱水されていることが好ましい。
【0015】
PAIに対する貧溶媒(B)としては、含窒素極性溶媒の沸点よりも5℃以上高いものであることが必要である。溶媒の種類としては、エーテル系溶媒が好ましい。エーテル系溶媒としては、トリグライム(TRGM 沸点:216℃)、テトラグライム(TEGM 沸点:275℃)が好ましく、これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、PAIに対する貧溶媒とは、25℃におけるPAIの溶解度が1質量%未満の溶媒をいう。
【0016】
溶媒(A)と溶媒(B)の混合割合は、(A)/(B)=80/20~50/50(質量比)であることが必要である。(B)の割合が50質量%を超えると、溶液のゲル化が起こる。(B)の割合が20質量%未満であると、乾燥時における相分離の誘発が困難となり、多孔体として十分な空孔率が得られない。
【0017】
多孔質PAIの不溶率を向上させる、あるいは物理物性を向上させることを目的として、PAIに架橋構造を導入することも可能である。架橋構造を導入する手法は特に限定されず、熱架橋法、架橋剤添加法などが挙げられる。架橋剤としては、2官能以上の架橋可能な官能基を構造中に有する化合物が好ましく、ジアミン、トリアミン、ジイソシアネート、トリイソシアネート、多官能ブロックイソシアネート、ポリカルボジイミド、ポリ無水マレイン酸共重合体、多官能エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等を用いることができる。 これらは、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その中でも、多官能エポキシ樹脂、多官能ブロックイソシアネートが好ましく、多官能ブロックイソシアネートがより好ましい。架橋剤の配合割合は、PAI樹脂成分に対して0.1質量%以上10質量%以下とすることが好ましく、1質量%以上5質量%以下とすることがより好ましい。
【0018】
ジアミンとしては、例えば脂肪族ジアミンとしてはエチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,2-プロパンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、メチルビス(3-アミノプロピル)アミン、1,5-ジアミノ-2-メチルペンタン(MPMD)、2,5-ジメチル-1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、2-メチル-1,2-プロパンジアミン、1,3-ブタンジアミン、1,3-ジアミノペンタン(DAMP)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン(TMD)、1,5-ジアミノ-2-ブチル-2-エチルペンタン、ビス(2-アミノエチル)エーテル、3,6-ジオキサオクタン-1,8-ジアミン、4,7-ジオキサデカン-1,10-ジアミン、4,7-ジオキサデカン-2,9-ジアミン、4,9-ジオキサデカン-1,12-ジアミン、5,8-ジオキサデカン-3,10-ジアミン、ポリオキシアルキレンジアミン、ポリオキシアルキレンジオール、ダイマージアミンなどが挙げられる。脂環式ジアミンとしては1,3-及び1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3-エチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3,5-ジメチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3-エチル-5-メチルシクロヘキシル)メタン(M-MECA)、2-メチル-1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,3-および1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、2,5(2,6)-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(NBDA)、3(4),8(9)-ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3-及び1,4-キシリレンジアミン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(すなわち、イソホロンジアミンあるいはIPDA)、及び1,4-ジアミノ-2,2,6-トリメチルシクロヘキサン(TMCDA)などが挙げられる。ジアミン化合物は、市販のものであってもよく、例えばHuntsmanChemicals社製Jeffamine(登録商標)の、商品名D-230、D-400、D-2000、D-4000、XTJ-511、ED-600、ED-900、ED-2003、XTJ-568、XTJ-569、XTJ-523、XTJ-536、XTJ-542、XTJ-559、BASF社製Polyetheramineの、商品名D230、D400、D2000、Nitroil社製PC Amine(登録商標)の、商品名DA250、DA400、DA650、DA2000などが挙げられる。
【0019】
トリアミンとしては、例えば脂肪族トリアミンとしては、4-アミノメチル-1,8-オクタンジアミン、1,3,5-トリス(アミノメチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(アミノメチル)シクロヘキサン、ポリアルキレントリアミン、ポリアルキレントリオールなどが挙げられる。トリアミン化合物は、市販のものであってもよく、例えばHuntsmanChemicals社製Jeffamine(登録商標)の、商品名T-403、T-5000、BASF社製Polyetheramineの、商品名T403、T5000、Nitroil社製PC Amine(登録商標)の、商品名TA403、TA5000などが挙げられる。
【0020】
ジイソシアネートとしては、例えばシクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、エチルシクロヘキサンジイソシアネート、プロピルシクロヘキサンジイソシアネート、メチル-ジエチル-シクロヘキサンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトフェニル)メタン、プロパンジイソシアネート、ブタンジイソシアネート、ペンタンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1,5-ジイソシナト-2-メチルペンタン(MPDI)、ヘプタンジイソシアネート、オクタンジイソシアネート、ノナンジイソシアネート、1,6-ジイソシアナト-2,4,4-トリメチルヘキサン、1,6-ジイソシアナト-2,2,4-トリメチルヘキサン(TMDI)、デカンジイソシアネート、ウンデカンジイソシアネート、ドデカンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ビス(イソシアナトメチルシクロヘキシル)メタン(H12MDI)、イソシアナトメチル-メチルシクロヘキシルイソシアネート、2,5(2,6)-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(NBDI)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(1,3-H6-XDI)、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(1,4-H6-XDI)、ベンゼンジイソシアネート、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、o-トリジンイソシアネート(TODI)、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、トリス(4-イソシアナトフェニル)メタン、1,5-ジイソシアナトナフタレン、水素化トルエンジイソシアネート、1-イソシアナトメチル-5-イソシアナト-1,3,3-トリメチルシクロヘキサン、1,3,5-トリス(6t-イソシアナトヘキシル)ビウレットなどが挙げられる。
【0021】
トリイソシアネートとしては、例えばノナントリイソシアネート、デカントリイソシアネート、ウンデカントリイソシアネート、ドデカントリイソシアネートなどが挙げられる。
【0022】
多官能ブロックイソシアネートは、イソシアネート化合物とイソシアネートブロック剤の反応生成物である。使用できるイソシアネート化合物は、イソシアヌレート型、ビュレット型、アダクト型などが挙げられ、それぞれ構造として芳香族イソシアネート、脂肪族イソシアネート、脂環式イソシアネートが用いられる。イソシアネートブロック剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、クロロフェノール及びエチルフェノールなどのフェノール系ブロック剤;ε-カプロラクタム(ε-CAP)、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム及びβ-プロピオラクタムなどのラクタム系ブロック剤;マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル及びアセチルアセトンなどの活性メチレン系ブロック剤;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルエーテル、グリコール酸メチル、グリコール酸ブチル、ジアセトンアルコール、乳酸メチル及び乳酸エチルなどのアルコール系ブロック剤;ホルムアルデヒドオキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系ブロック剤;ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノールなどのメルカプタン系ブロック剤;酢酸アミド、ベンズアミドなどの酸アミド系ブロック剤;コハク酸イミド及びマレイン酸イミドなどのイミド系ブロック剤;キシリジン、アニリン、ブチルアミン、ジブチルアミンなどのアミン系ブロック剤;イミダゾール、2-エチルイミダゾールなどのイミダゾール系ブロック剤;メチレンイミン及びプロピレンイミンなどのイミン系ブロック剤;メチルピラゾール、エチルピラゾールなどのピラゾール系ブロック剤などが挙げられる。多官能ブロックイソシアネート化合物は市販のものであってもよく、例えばBaxenden社製ブロックイソシアネートの、商品名BI7683、BI7642、BI201、BI220、BI7950、BI7951、BI7960、BI7961、BI7963、BI7981、BI7982、BI7990、BI7991、BI7992、住友バイエルウレタン株式会社製ブロックイソシアネートの、商品名スミジュールBL-3175、BL-4165、BL-1100、BL-1265、デスモジュールTPLS-2957、TPLS-2062、TPLS-2078、TPLS-2117、デスモサーム2170、デスモサーム2265、日本ポリウレタン工業株式会社製の、商品名コロネート2512、コロネート2513、コロネート2520、三井武田ケミカル株式会社製の、商品名B-830、B-815、B-846、B-870、B-874、B-882、旭化成ケミカルズ株式会社製の、商品名TPA-B80E、17B-60PX、E402-B80T、MF-B60B、MF-K60B、SBN-70Dなどが挙げられる。
【0023】
ポリカルボジイミドとしては、例えばp-フェニレン-ビス(2,6-キシリルカルボジイミド)、テトラメチレン-ビス(t-ブチルカルボジイミド)、シクロヘキサン-1,4-ビス(メチレン-t-ブチルカルボジイミド)などが挙げられる。ポリカルボジイミドは市販のものであってもよく、例えば日清紡ケミカル社製カルボジライト(登録商標)の、商品名V-02、SV-02、V-02B、V-03、V-04,V-05、V-07、V-09、V-09GBV-10、E-02、E-03A、E-05などが挙げられる。
【0024】
ポリ無水マレイン酸共重合体としては、例えばスチレン-無水マレイン酸共重合体、オレフィン-無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。ポリ無水マレイン酸共重合体は、市販のものであってもよく、例えば積水化成品工業株式会社製の、商品名ダイラークD332、Polyscope製の商品名Xiran SZ08250などが挙げられる。
【0025】
多官能エポキシ樹脂としては、市販のものを使用できる。例えば、三菱ケミカル株式会社製jER828、jER834、jER1001、jER1004、jERYL903、jER152、jER154、DIC株式会社製エピクロン840、エピクロン850、エピクロン1050、エピクロン2055、エピクロン152、エピクロン165、エピクロンN-730、エピクロンN-770、エピクロンN-865、エピクロン830、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYD-011、YD-013、YD-127、YD-128、エポトートYDB-400、YDB-500、エポトートYDCN-701、YDCN-704、エポトートYDF-170、YDF-175、YDF-2004、エポトートST-2004、ST-2007、ST-3000、ダウ・ケミカル社製D.E.R.317、D.E.R.331、D.E.R.661、D.E.R.664、D.E.N.431、D.E.N.438、T.E.N.、EPPN-501、EPPN-502、D.E.R.542、住友化学株式会社製スミ-エポキシESA-011、ESA-014、ELA-115、ELA-128、スミ-エポキシESB-400、ESB-700、スミ-エポキシESCN-195X、ESCN-220、旭化成株式会社製A.E.R.330、A.E.R.331、A.E.R.661、A.E.R.664、A.E.R.711、A.E.R.714、A.E.R.ECN-235、ECN-299、日本化薬株式会社製EPPN-201、EOCN-1025、EOCN-1020、EOCN-104S、RE-306、株式会社ダイセル製セロキサイド2021P、東都化成株式会社製YR-102、YR-450、日産化学工業株式会社製TEPIC、日本油脂株式会社製ブレンマーDGT、CP-50S、CP-50M、などが挙げられる。
【0026】
メラミン樹脂としては、例えばイミノ基型メチル化メラミン樹脂、メチロール基型メラミン樹脂、メチロール基型メチル化メラミン樹脂、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂などが挙げられる。メラミン樹脂は、市販のものであってもよく、ダイセル・オルネクス株式会社製サイメル303、サイメル254、サイメル1170、サイメル235、サイメル238、サイメル1123、マイコート715、住友化学株式会社製スミマールM-40S、DIC株式会社製スーパーベッカミンJ-820-60、スーパーベッカミンL-121-60、三井化学株式会社製ユーバン20SE-60が挙げられる。
【0027】
フェノール樹脂としては、市販のものを使用できる。例えば、田岡化学工業株式会社製タッキロール201(アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂)、タッキロール250-I(臭素化率4%の臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂)、タッキロール250-III(臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂)、群栄化学工業株式会社製PR-4507、Hoechst社製Vulkaresat510E、Vulkaresat532E、VulkaresenE、Vulkaresen 105E、Vulkaresen 130E、Vulkaresol 315E、Amberol ST 137X、住友デュレズ株式会社製スミライトレジンPR-22193、Anchor Chem.社製Symphorm-C-100、Symphorm-C-1001、荒川化学株式会社製タマノル531、Schenectady Chem.社製Schenectady SP1059、Schenectady SP1045、Schenectady SP-1055、Schenectady SP-1056、U.C.C社製CRR-0803、昭和ユニオン合成株式会社製CRM-0803、Bayer社製Vulkadur Aなどが挙げられる。
【0028】
PAI溶液におけるPAIの固形分濃度は、5質量%以上、15質量%以下とすることが好ましく、8質量%以上、13質量%以下とすることがより好ましい。
【0029】
PAIの重合は、例えば、以下のようにして行うことができる。すなわち、TMAとTODIおよびMDIとを、含窒素極性溶媒中、100~200℃、好ましくは、120~180℃の温度で重合反応させる。この反応において、モノマーおよび溶媒の添加順序は特に制限はなく、いかなる順序でもよい。また、酸成分としては、無水トリメリット酸(TMA)のみを用いることが好ましいが、TMAの一部は、他の酸成分で置換されていてもよい。具体的には、TMAの10モル%以下であれば、ピロメリット酸無水物、フタル酸無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸無水物、ダイマ酸等で置換されていてもよい。この置換率が10モル%を超えると、多孔質PAIフィルムとした場合、良好な力学特性が得られにくいことがある。ここで、ダイマ酸とは、植物系油脂を原料とするC18不飽和脂肪酸の二量化によって製造されたC36ジカルボン酸の二塩基酸を主成分とする脂肪酸であり、クローダジャパン社、築野食品工業社等から市販品として入手することができる。酸成分と、イソシアネート成分の合計とのモル比は、1/1.01~1.05とすることが好ましい。このように、イソシアネート成分をTMAに対し小過剰用いたPAI溶液とすることが好ましい。重合反応に際しては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO)等の塩基性化合物をTMAに対し、0.01~1モル%配合することが好ましい。このような重合条件とすることにより高粘度のPAI溶液とすることができる。重合後のPAI溶液(貧溶媒配合前)の溶液粘度としては、PAI濃度を20質量%とした場合の、30℃における溶液粘度として、50Pa・s以上とすることが好ましい。
【0030】
PAI溶液の基材への塗布は、任意の塗布機を用いて行うことができる。塗布機としては、ダイコーター、リップコーター、グラビアコーター、バーコーター、ドクターブレードコーター、コンマコーター、リバースロールコーター、バーリバースロールコーター等を挙げることができる。また、多層塗布することも可能であり、その際、各層のPAI溶液の組成は同じであっても異なっていてもよい。
【0031】
基材としては、金属箔(銅、アルミニウム、鉄、銀、パラジウム、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステンまたはそれらの合金等)、ポリエステル系フィルム(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、芳香族ポリイミド系フィルム、フッ素樹脂系フィルム(ポリテトラフルオロエチレン等)等を挙げることができる。これらの中で、ポリエチレンテレフタレートフィルムまたはアルミニウム箔が好ましい。これらの基材は、表面が平滑であることが好ましい。また、表面に耐熱性の離型層が形成された離型用の金属箔またはプラスチックフィルムも好ましく用いることができる。これらの離型用金属箔またはプラスチックフィルムは、市販品を用いることができる。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらの実施例によって限定されるものではない。実施例にて使用する原料は、以下の通りである。
(モノマー)
TMA:無水トリメリット酸
TODI:o-トリジンジイソシアネート
MDI:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート
(触媒)
DABCO:トリエチレンジアミン
(含窒素極性溶媒(A))
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
(貧溶媒(B))
TRGM:トリエチレングリコールジメチルエーテル
TEGM:テトラエチレングリコールジメチルエーテル
【0033】
実施例にて行う塗膜乾燥工程は、以下の条件で行った。乾燥機:イナートオーブン(DN411I、ヤマト科学社製)基材:100μmPETフィルムWET膜厚:200μm乾燥温度:160℃なお、乾燥時間については塗膜の残留揮発分が10重量%以下となるように適宜調整した。残留揮発分は、得られた多孔質PAIフィルムを250℃で10分乾燥して、乾燥前後の重量を測定し、以下の式を用いて算出した。残留揮発分(重量%)=(A-B)/A×100式中のAは250℃乾燥前の重量、Bは250℃乾燥後の重量を示す。
【0034】
(気孔率)多孔質PAIフィルムの気孔率は、以下の式を用いて算出した。気孔率(体積%)=100-100×(W/D)/(S×T)式中のSはPAI多孔質フィルムの面積、Tはその厚み、Wはその質量、Dは対応する非多孔質PAIフィルムの密度を示す。
【0035】
<実施例1>
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、TMA:1.00モル、TODI:0.92モル、MDI:0.10モル、DABCO:0.0005モルを固形分濃度が20質量%となるように脱水されたNMP(水分率80ppm)と共に仕込み、攪拌しながら150℃に昇温して5時間反応させさせることにより、30℃における溶液粘度が210Pa・sで、PAI固形分濃度が20質量%のPAI溶液を得た。このPAI溶液に、含窒素極性溶媒(A)と貧溶媒(B)の比率が表1の比率となるようにTEGMを加え、その後表1の溶媒比率の混合溶媒で希釈することで、固形分濃度が10質量%のPAI多孔体形成用溶液を得た。このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で10分乾燥することにより、厚みが41μmの多孔質PAIフィルム(A-1)を得た。A-1の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0036】
<実施例2>
表1に示すように溶媒比率を変更した以外は実施例1と同様にして、PAI多孔体形成用溶液を得た。このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で15分乾燥することにより、厚みが65μmの多孔質PAIフィルム(A-2)を得た。A-2の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0037】
<実施例3>
表1に示すように溶媒比率を変更した以外は実施例1と同様にして、PAI多孔体形成用溶液を得た。このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で20分乾燥することにより、厚みが50μmの多孔質PAIフィルム(A-3)を得た。A-3の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0038】
<実施例4>
表1に示すようにイソシアネートモル比率と溶媒比率を変更した以外は実施例1と同様にして、PAI多孔体形成用溶液を得た。このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で15分乾燥することにより、厚みが58μmの多孔質PAIフィルム(A-4)を得た。A-4の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0039】
<実施例5>
表1に示すようにイソシアネートモル比率と溶媒比率を変更した以外は実施例1と同様にして、PAI多孔体形成用溶液を得た。このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で15分乾燥することにより、厚みが58μmの多孔質PAIフィルム(A-5)を得た。A-5の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0040】
<実施例6>
表1に示すように溶媒種類と溶媒比率を変更した以外は実施例1と同様にして、PAI多孔体形成用溶液を得た。このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で15分乾燥することにより、厚みが65μmの多孔質PAIフィルム(A-6)を得た。A-6の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0041】
<実施例7>
表1に示すように溶媒種類と溶媒比率を変更した以外は実施例1と同様にして、PAI多孔体形成用溶液を得た。このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で15分乾燥することにより、厚みが35μmの多孔質PAIフィルム(A-7)を得た。A-7の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0042】
<比較例1>
表1に示すようにイソシアネートモル比率と溶媒比率を変更した以外は実施例1と同様にして、PAI多孔体形成用溶液を得ようとしたところ、全イソシアネート成分中のTODI成分が95モル%を超えるため、光学的に均一な溶液が得られなかった。
【0043】
<比較例2>
表1に示すようにイソシアネートモル比率と溶媒比率を変更した以外は実施例1と同様にして、PAI多孔体形成用溶液を得た。このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で15分乾燥することにより、厚みが20μmのPAIフィルム(B-2)を得た。B-2の気孔率の測定結果を表1に示す。全イソシアネート成分中のTODI成分が85モル%未満であるため、貧溶媒(B)比率が含窒素極性溶媒(A)よりも低いと多孔化しなかった。
【0044】
<比較例3>
表1に示すように溶媒比率を変更した以外は実施例1と同様にして、PAI多孔体形成用溶液を得た。このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で10分乾燥することにより、厚みが20μmのPAIフィルム(B-3)を得た。B-3の気孔率の測定結果を表1に示す。貧溶媒(B)の比率が20モル%未満であるため、多孔化しなかった。
【0045】
<比較例4>
表1に示すように溶媒比率を変更した以外は実施例1と同様にして、PAI多孔体形成用溶液を得ようとしたところ、貧溶媒(B)の比率が50%を超えるため溶液がゲル化して均一な溶液が得られなかった。
【0046】
本発明の多孔体形成用PAI溶液から得られた多孔質フィルムは、スピーカ振動板、低誘電性のフレキシブル基板、電極用バインダー、リチウム2次電池用セパレータ、リチウム2次電池電極用保護膜などとして好適に用いることができる。