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特開2024-144352流動性向上剤ならびに樹脂組成物およびその用途
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  • 特開-流動性向上剤ならびに樹脂組成物およびその用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144352
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】流動性向上剤ならびに樹脂組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/08 20060101AFI20241003BHJP
   C08K 5/3412 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L71/08
C08K5/3412
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024051886
(22)【出願日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2023053315
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智也
(72)【発明者】
【氏名】大内 祐輝
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CH091
4J002EU016
4J002EU026
4J002FD206
4J002GB00
4J002GN00
4J002GQ00
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】ポリエーテルケトン系樹脂の流動性を向上できる流動性向上剤を提供する。
【解決手段】ポリエーテルケトン系樹脂の流動性を向上するための流動性向上剤として芳香族イミド化合物(A)を用いる。前記芳香族イミド化合物(A)は下記式(1)で表されるイミド化合物(A1)および/または下記式(2)で表されるイミド化合物(A2)であってもよい。
(式中、Xは芳香環含有基を示し、RおよびRは独立してアリール基を示し、Xは芳香環含有基を示し、R~Rは独立して炭化水素基を示し、RとRとは環を形成していてもよく、RとRとは環を形成していてもよい)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルケトン系樹脂の流動性を向上するための流動性向上剤であって、芳香族イミド化合物(A)を含む流動性向上剤。
【請求項2】
前記芳香族イミド化合物(A)が、下記式(1)で表されるイミド化合物(A1)および/または下記式(2)で表されるイミド化合物(A2)である請求項1記載の流動性向上剤。
【化1】
(式中、
は芳香環含有基を示し、RおよびRは独立してアリール基を示し、
は芳香環含有基を示し、R~Rは独立して炭化水素基を示し、RとRとは環を形成していてもよく、RとRとは環を形成していてもよい)
【請求項3】
前記式(1)において、Xがベンゼン環またはナフタレン環を含む基であり、前記式(2)において、Xがフルオレン環を含む基である請求項2記載の流動性向上剤。
【請求項4】
前記式(2)において、RとRとがアレーン環を形成し、かつRとRとがアレーン環を形成している請求項2または3記載の流動性向上剤。
【請求項5】
前記芳香族イミド化合物(A)の分子量が100~1000である請求項1~3のいずれか一項に記載の流動性向上剤。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の流動性向上剤およびポリエーテルケトン系樹脂を含む樹脂組成物。
【請求項7】
前記流動性向上剤の割合が、ポリエーテルケトン系樹脂100質量部に対して0.1~10質量部である請求項6記載の樹脂組成物。
【請求項8】
炭素繊維、ガラス繊維および金属酸化物からなる群より選択された少なくとも1種のフィラーをさらに含む請求項6記載の樹脂組成物。
【請求項9】
炭素繊維をさらに含む請求項6記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記炭素繊維の割合が、ポリエーテルケトン系樹脂100質量部に対して、5~60質量部である請求項9記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項6記載の樹脂組成物を含む添加剤。
【請求項12】
強度向上剤、弾性率向上剤、耐衝撃性向上剤、密着性向上剤または相溶性向上剤である請求項11記載の添加剤。
【請求項13】
請求項1~3のいずれか一項に記載の流動性向上剤をポリエーテルケトン系樹脂に添加してポリエーテルケトン系樹脂の流動性を向上する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリエーテルケトン系樹脂の流動性を向上できる流動性向上剤ならびにこの流動性向上剤を含む樹脂組成物およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などのポリエーテルケトン樹脂は、耐熱性、機械的特性、耐久性、耐熱水性、耐薬品性、耐放射線性に優れるスーパーエンジニアリングプラスチックであり、宇宙・航空、自動車、医療機器、3Dプリンタ、食品、半導体などの各種分野で成形体として利用されている。また、成形体を形成するためのPEEK組成物としては、用途に応じてガラス繊維や炭素繊維などのフィラーと混入した強化樹脂組成物も汎用されている。
【0003】
国際公開第2018/079700号(特許文献1)には、PEEK樹脂付着繊維束を含むPEEK樹脂組成物からなる成形体であって、前記PEEK樹脂付着繊維束が、長さ5~20mmの繊維束にPEEK樹脂が付着されたものであり、前記PEEK樹脂付着繊維束中の繊維含有割合が10~70質量%であり、前記成形体中の重量平均繊維長が0.4~3mmである、PEEK樹脂組成物からなる成形体が開示されている。この文献には、PEEK樹脂付着繊維束に、滑剤として脂肪酸アミド、脂肪酸エステルを含有してもよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/079700号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリエーテルケトン系樹脂は、耐熱性が高いため、成形温度も高くなり、PEEKで400℃近くにもなる。一般的に樹脂の成形温度が高温になると、寸法や形状などにおいて精密な成形が困難となるため、ポリエーテルケトン系樹脂では、流動性などの面から成形性を向上することが求められている。しかし、特許文献1のPEEK樹脂組成物では成形性は充分ではなかった。
【0006】
従って、本開示の目的は、ポリエーテルケトン系樹脂の流動性を向上できる流動性向上剤ならびにこの流動性向上剤(または流動性改善剤)を含む樹脂組成物およびその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、芳香族イミド化合物を用いることにより、ポリエーテルケトン系樹脂の流動性を向上できることを見出し、本発明または本開示を完成した。
【0008】
すなわち、本開示の態様[1]としての流動性向上剤(流動性改善剤)は、ポリエーテルケトン系樹脂の流動性を向上するための流動性向上剤であって、芳香族イミド化合物(A)を含む。
【0009】
本開示の態様[2]は、前記態様[1]において、前記芳香族イミド化合物(A)が、下記式(1)で表されるイミド化合物(A1)および/または下記式(2)で表されるイミド化合物(A2)である態様である。
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、
は芳香環含有基を示し、RおよびRは独立してアリール基を示し、
は芳香環含有基を示し、R~Rは独立して炭化水素基を示し、RとRとは環を形成していてもよく、RとRとは環を形成していてもよい)
【0012】
本開示の態様[3]は、前記態様[2]の前記式(1)において、Xがベンゼン環またはナフタレン環を含む基であり、前記態様[2]の前記式(2)において、Xがフルオレン環を含む基である態様である。
【0013】
本開示の態様[4]は、前記態様[2]または[3]の前記式(2)において、RとRとがアレーン環を形成し、かつRとRとがアレーン環を形成している態様である。
【0014】
本開示の態様[5]は、前記態様[1]~[4]のいずれかの態様において、前記芳香族イミド化合物(A)の分子量が100~1000である態様である。
【0015】
本開示には、態様[6]として、前記態様[1]~[5]のいずれかの態様の流動性向上剤およびポリエーテルケトン系樹脂を含む樹脂組成物も含まれる。
【0016】
本開示の態様[7]は、前記態様[6]において、前記流動性向上剤の割合が、ポリエーテルケトン系樹脂100質量部に対して0.1~10質量部である態様である。
【0017】
本開示の態様[8]は、前記態様[6]または[7]において、炭素繊維、ガラス繊維および金属酸化物からなる群より選択された少なくとも1種のフィラーをさらに含む態様である。
【0018】
本開示の態様[9]は、前記態様[6]または[7]において、炭素繊維をさらに含む態様である。
【0019】
本開示の態様[10]は、前記態様[9]において、前記炭素繊維の割合が、ポリエーテルケトン系樹脂100質量部に対して、5~60質量部である態様である。
【0020】
本開示には、態様[11]として、前記態様[6]~[10]のいずれかの態様の樹脂組成物を含む添加剤も含まれる。
【0021】
本開示の態様[12]は、前記態様[11]の添加剤が、強度向上剤、弾性率向上剤、耐衝撃性向上剤、密着性向上剤または相溶性向上剤である態様である。
【0022】
本開示には、態様[13]として、前記態様[1]~[5]のいずれかの態様の流動性向上剤をポリエーテルケトン系樹脂に添加してポリエーテルケトン系樹脂の流動性を向上する方法も含まれる。
【0023】
さらに、本明細書および特許請求の範囲において、置換基などの炭素原子の数をC、C、C10などで示すことがある。例えば「Cアルキル基」は炭素数が1のアルキル基を意味し、「C6-10アリール基」は炭素数が6~10のアリール基を意味する。
【0024】
また、本明細書および特許請求の範囲において、「独立して」とは、2つの構成要素が、それぞれ独立した構成要素であることを意味し、例えば、アリール基RおよびRの場合、RとRとが互いに同一のアリール基であってもよく、異なるアリール基であってもよいことを意味する。
【0025】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「A~B」を用いて数値範囲を示す場合、端の数値AおよびBを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本開示の流動性向上剤をポリエーテルケトン系樹脂に添加すると、ポリエーテルケトン系樹脂の流動性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、合成例1で得られたBAF-AmのH-NMRスペクトルである。
図2図2は、合成例3で得られたBAF-ImのH-NMRスペクトルである。
図3図3は、合成例5で得られたTetAni-ImのH-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[流動性向上剤]
本開示の流動性向上剤は、芳香族イミド化合物を含むため、耐熱性に優れており、高温でのポリエーテルケトン系樹脂の成形過程においても、安定して作用するためか、ポリエーテルケトン系樹脂の溶融流動性を高めることができる。さらに、ポリエーテルケトン系樹脂に対する相溶性にも優れるためか、樹脂特性、特に曲げ強度、曲げ弾性率、耐衝撃性などの機械的特性を大きく損なうことなく、ポリエーテルケトン系樹脂の溶融流動性を高めることができ、ポリエーテルケトン系樹脂の成形性を向上できる。本開示の流動性向上剤は、芳香族イミド化合物(A)を含んでいればよいが、芳香族イミド化合物(A)であるのが好ましい。芳香族イミド化合物(A)は、芳香環を有するイミド化合物であればよく、特に限定されないが、芳香環とイミド環とが縮合した構造(または芳香環にイミド基が置換した構造)を有するのが好ましく、前記式(1)で表されるイミド化合物(A1)および/または前記式(2)で表されるイミド化合物(A2)が特に好ましい。
【0029】
(A1)式(1)で表されるイミド化合物
前記式(1)において、芳香環含有基Xに含まれる芳香環(芳香族炭化水素環またはアレーン環)は単環式アレーン環と多環式アレーン環とに大別できる。
【0030】
単環式アレーン環としては、例えば、ベンゼン環、トルエン環、キシレン環などのC1-4アルキルベンゼン環などが挙げられる。
【0031】
多環式アレーン環としては、縮合多環式アレーン環(例えば、ナフタレン環、インデン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、ナフタセン環、9H-フルオレン環などの縮合二ないし四環式C10-18アレーン環など);環集合アレーン環(例えば、ビフェニル環、フェニルナフタレン環、ビナフチル環などのC12-20ビアレーン環;テルフェニル環などのC16-20テルアレーン環;9,9-ジフェニルフルオレン環、9,9-ジナフチルフルオレン環、9,9-ビス(フェニルフェニル)フルオレン環などの9,9-ジC6-18アリールフルオレン環;9,9-ビス(C1-3アルキルフェニル)フルオレン環などの9,9-ビス(C1-3アルキルC6-18アリール)フルオレン環などの環集合C6-30アレーン環など)などが挙げられる。
【0032】
なお、本明細書および特許請求の範囲において「環集合アレーン環」とは、2つ以上の環系(アレーン環系)が一重結合(単結合)か二重結合で直結し、環を直結する結合の数が環系の数より1つだけ少ないものを意味し、例えば、上述のように、フェニルナフタレン環、ビナフチル環などは縮合多環式アレーン環骨格を有していても環集合アレーン環に分類され、ナフタレン環(非環集合アレーン環)などの「縮合多環式アレーン環」と明確に区別される。
【0033】
これらの芳香環は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの芳香環のうち、単環式アレーン環(特に、ベンゼン環など)、縮合多環式アレーン環(特に、ナフタレン環などの縮合二ないし四環式C10-18アレーン環など)などのC6-20芳香族炭化水素環(特にC6-18芳香族炭化水素環)が好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。
【0034】
で表される芳香環含有基は、前記芳香環のみで形成された芳香族炭化水素基(ベンゼンテトライル基などの芳香族炭化水素から4つの水素原子を除去した基)であってもよく、芳香環を含むケトン、芳香環を含むエーテル、芳香環を含むスルホキシド、芳香環を含むスルフィドおよび芳香環を含むアルカンなどから芳香環の4つの水素原子を除去した基(四価の基)であってもよい。
【0035】
芳香環含有基Xに対応するケトンは、一般式[X1a-C(=O)-X1b]で表すことができ、基X1aおよびX1bは、前記Xの芳香族炭化水素として例示の芳香族炭化水素から水素原子を1つ除いた一価の基から選択できる。基X1aおよびX1bの種類は、異なっていてもよいが、ポリエーテルケトン系樹脂との相溶性の観点から、同一であるのが好ましい。これらのケトンは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0036】
芳香環含有基Xに対応するケトンの好ましい基X1aおよびX1bは、ベンゼン、C1-4アルキルベンゼン(トルエンなど)、ナフタレンなどのC6-20芳香族炭化水素から水素原子を1つ除いた一価の基(C6-20芳香族炭化水素基)である。すなわち、芳香環含有基Xに対応する好ましいケトンとしては、ジアリールケトン、具体的には、ジフェニルケトン(ベンゾフェノン)、ジナフチルケトン、1,3-ジフェニル-2-プロパノン、2-ナフチルフェニルケトンなどのジC6-20アリール-ケトン(好ましくはジC6-16アリール-ケトンなど)などが挙げられる。
【0037】
芳香環含有基Xに対応するエーテルは、一般式[X1c-O-X1d]で表すことができ、基X1cおよびX1dは、前記Xの芳香族炭化水素として例示の芳香族炭化水素から水素原子を1つ除いた一価の基から選択できる。基X1cおよびX1dの種類は、異なっていてもよいが、ポリエーテルケトン系樹脂との相溶性の観点から、同一であるのが好ましい。これらのエーテルは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0038】
芳香環含有基Xに対応するエーテルの好ましい基X1cおよびX1dは、ベンゼン、ナフタレンなどのC6-20芳香族炭化水素から水素原子を1つ除いた一価の基(C6-20芳香族炭化水素基)である。すなわち、芳香環含有基Xに対応する好ましいエーテルとしては、ジアリールエーテル、具体的には、ジフェニルエーテル、2,2’-ジナフチルエーテルなどのジC6-20アリールエーテル(好ましくはジC6-16アリールエーテルなど)が挙げられる。
【0039】
芳香環含有基Xに対応するスルホキシドは、一般式[X1e-S(=O)-X1f]で表すことができ、基X1eおよびX1fは、芳香環含有前記Xの芳香族炭化水素として例示の芳香族炭化水素から水素原子を1つ除いた一価の基から選択できる。基X1eおよびX1fの種類は、異なっていてもよいが、ポリエーテルケトン系樹脂との相溶性の観点から、同一であるのが好ましい。これらのスルホキシドは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0040】
芳香環含有基Xに対応するスルホキシドの好ましい基X1eおよびX1fは、ベンゼン、C1-4アルキルベンゼン(トルエンなど)などのC6-20芳香族炭化水素から水素原子を1つ除いた一価の基(C6-20芳香族炭化水素基)である。すなわち、芳香環含有基Xに対応する好ましいスルホキシドとしては、ジアリールスルホキシド、具体的には、ジフェニルスルホキシド、ビス(o-トリル)スルホキシドなどのジC6-20アリールスルホキシド(好ましくはジC6-16アリールスルホキシドなど)が挙げられる。
【0041】
芳香環含有基Xに対応するスルフィドは、一般式[X1g-S-X1h]で表すことができ、基X1gおよびX1hは、芳香環含有前記Xの芳香族炭化水素として例示の芳香族炭化水素から水素原子を1つ除いた一価の基から選択できる。基X1gおよびX1hの種類は、異なっていてもよいが、ポリエーテルケトン系樹脂との相溶性の観点から、同一であるのが好ましい。これらのスルフィドは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0042】
芳香環含有基Xに対応するスルフィドの好ましい基X1gおよびX1hは、ベンゼン、C1-4アルキルベンゼン(トルエンなど)などのC6-20芳香族炭化水素から水素原子を1つ除いた一価の基(C6-20芳香族炭化水素基)である。すなわち、芳香環含有基Xに対応する好ましいスルフィドとしては、ジアリールスルフィド、具体的には、ジフェニルスルフィド、ビス(p-トリル)スルフィドなどのジC6-20アリールスルフィド(好ましくはジC6-16アリールスルフィドなど)が挙げられる。
【0043】
芳香環含有基Xに対応するアルカンは、一般式[X1i-A-X1j]で表すことができ、基X1iおよびX1jは、芳香環含有前記Xの芳香族炭化水素として例示の芳香族炭化水素から水素原子を1つ除いた一価の基から選択できる。基X1iおよびX1jの種類は、異なっていてもよいが、ポリエーテルケトン系樹脂との相溶性の観点から、同一であるのが好ましい。これらのアルカンは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。基Aは、アルカンジイル基であり、例えば、イソプロピリデンなどのC1-6アルカンジイル基などである。
【0044】
芳香環含有基Xに対応するアルカンの好ましい基X1iおよびX1jは、ベンゼン、C1-4アルキルベンゼン(トルエンなど)などのC6-20芳香族炭化水素から水素原子を1つ除いた一価の基(C6-20芳香族炭化水素基)である。すなわち、芳香環含有基Xに対応する好ましいアルカンとしては、ジアリールアルカン、具体的には、ジフェニルメタン、ジフェニルプロパンなどのジC6-20アリールアルカン(好ましくはジC6-16アリールアルカンなど)が挙げられる。
【0045】
好ましい芳香環含有基Xは、ベンゼン、ナフタレンなどのC6-16芳香族炭化水素、ジフェニルケトンなどのジC6-16アリールケトン、ジフェニルエーテルなどのジC6-16アリールエーテルなどから炭素原子を4つ除いた四価の基であり、特に好ましい芳香環含有基Xはベンゼンから炭素原子を4つ除いた四価の基である。
【0046】
前記式(1)において、RおよびRで表されるアリール基としては、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基が挙げられる。アルキルフェニル基としては、例えば、メチルフェニル基(またはトリル基)、ジメチルフェニル基(またはキシリル基)などのモノないしトリC1-4アルキル-フェニル基が挙げられる。RおよびRの種類は、異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0047】
好ましいアリール基RおよびRは、フェニル基、ナフチル基などのC6-12アリール基であり、特に好ましいアリール基RおよびRはフェニル基である。
【0048】
好ましいイミド化合物(A1)としては、前記式(1)において、芳香環含有基Xがベンゼンテトライル基であり、かつアリール基RおよびRがフェニル基であるイミド化合物、芳香環含有基Xがベンゼン-テトライル基であり、かつアリール基RおよびRがナフチル基であるイミド化合物、芳香環含有基Xがジフェニルケトン-テトライル基であり、かつアリール基RおよびRがフェニル基であるイミド化合物などが挙げられる。
【0049】
好ましいイミド化合物(A1)は、下記式(1a)で表される化合物であってもよい。
【0050】
【化2】
【0051】
(式中、Arはベンゼン環またはナフタレン環を示し、RおよびRは前記式(1)に同じ)
【0052】
(A2)式(2)で表されるイミド化合物
前記式(2)において、Xに含まれる芳香環(芳香族炭化水素)としては、前記式(1)の芳香環として例示された芳香環などが挙げられる。前記芳香環は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。前記芳香環のうち、縮合多環式アレーン(特に、ナフタレン、フルオレンなどの縮合二ないし四環式C10-18アレーンなど)などのC6-20芳香族炭化水素(特にC6-18芳香族炭化水素)、環集合アレーン[特に、9,9-ジフェニルフルオレンなどの9,9-ジC6-18アリールフルオレン;9,9-ビス(C1-3アルキルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C1-3アルキルC6-18アリール)フルオレン]が好ましく、9,9-ジフェニルフルオレンが特に好ましい。
【0053】
で表される芳香環含有基は、前記芳香環のみで形成された芳香族炭化水素基(フェニレン基などのアリーレン基)であってもよく、芳香環を含むケトン、芳香環を含むエーテル、芳香環を含むスルホキシド、芳香環を含むスルフィドおよび芳香環を含むアルカンなどから2つの水素原子を除去した基(二価の基)であってもよい。
【0054】
芳香環含有基Xに対応するケトンとしては、前記芳香環含有基Xに対応するケトンとして例示されたケトンなどが挙げられる。前記ケトンは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。前記ケトンのうち、好ましいケトンとしては、ジアリールケトン、具体的には、ジフェニルケトン(ベンゾフェノン)、1,3-ジフェニル-2-プロパノン、2-ナフチルフェニルケトンなどのジC6-20アリール-ケトン(好ましくはジC6-16アリール-ケトンなど)などが挙げられる。
【0055】
芳香環含有基Xに対応するエーテルとしては、前記芳香環含有基Xに対応するエーテルとして例示されたエーテルなどが挙げられる。前記エーテルは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。前記エーテルのうち、好ましいエーテルとしては、ジアリールエーテル、具体的には、ジフェニルエーテル、2,2’-ジナフチルエーテルなどのジC6-20アリールエーテル(好ましくはジC6-16アリールエーテルなど)などが挙げられる。
【0056】
芳香環含有基Xに対応するスルホキシドとしては、前記芳香環含有基Xに対応するスルホキシドとして例示されたスルホキシドなどが挙げられる。前記スルホキシドは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。前記スルホキシドのうち、ジアリールスルホキシド、具体的には、ジフェニルスルホキシド、ビス(o-トリル)スルホキシドなどのジC6-20アリールスルホキシド(好ましくはジC6-16アリールスルホキシドなど)などが挙げられる。
【0057】
芳香環含有基Xに対応するスルフィドとしては、前記芳香環含有基Xに対応するスルフィドとして例示されたスルフィドなどが挙げられる。前記スルフィドは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。前記スルフィドのうち、ジアリールスルフィド、具体的には、ジフェニルスルフィド、ビス(p-トリル)スルフィドなどのジC6-20アリールスルフィド(好ましくはジC6-16アリールスルフィドなど)などが挙げられる。
【0058】
芳香環含有基Xに対応するアルカンとしては、前記芳香環含有基Xに対応するアルカンとして例示されたアルカンなどが挙げられる。前記アルカンは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。前記アルカンのうち、ジアリールアルカン、具体的には、ジフェニルメタン、ジフェニルプロパンなどのジC6-20アリールアルカン(好ましくはジC6-16アリールアルカンなど)などが挙げられる。
【0059】
好ましい芳香環含有基Xは、9,9-ジフェニルフルオレンや9,9-ジナフチルフルオレンなどの9,9-ジC6-18アリールフルオレン、ジフェニルエーテルなどのジC6-16アリールエーテルなどから炭素原子を2つ除いた二価の基であり、特に好ましい芳香環含有基Xは9,9-ジフェニルフルオレンから炭素原子を2つ除いた二価の基である。
【0060】
前記式(2)において、R~Rで表される炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。
【0061】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル基が挙げられ、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基である。
【0062】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基が挙げられる。
【0063】
アリール基としては、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基が挙げられる。アルキルフェニル基としては、例えば、メチルフェニル基(またはトリル基)、ジメチルフェニル基(またはキシリル基)などのモノないしトリC1-4アルキル-フェニル基が挙げられる。
【0064】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基が挙げられる。
【0065】
好ましい基R~Rとしては、R~Rの少なくとも一つの基がフェニル基やナフチル基などのアリール基であるか、RとRとの組み合わせおよび/またはRとRとの組み合わせが環(特に、アレーン環)を形成するのが好ましく、RとRとは置換基を有していてもよいアレーン環(特に、ベンゼン環)を形成し、かつRとRとは置換基を有していてもよいアレーン環(特に、ベンゼン環)を形成しているのが特に好ましい。
【0066】
好ましいイミド化合物(A2)としては、前記式(2)において、芳香環含有基Xが9,9-ジフェニルフルオレン-ジイル基であり、かつ炭化水素基RとRとがベンゼン環を形成しているイミド化合物、芳香環含有基Xがジフェニルケトン-ジイル基であり、かつ炭化水素基RとRとがベンゼン環を形成しているイミド化合物などが挙げられる。
【0067】
好ましいイミド化合物(A2)は、下記式(2a)で表される化合物であってもよい。
【0068】
【化3】
【0069】
(式中、Ar~Arは置換基を有していてもよいベンゼン環または置換基を有していてもよいナフタレン環を示す)
【0070】
前記式(2a)において、ArおよびArがベンゼン環である場合、ArおよびArで表される連結基としては、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基が好ましく、1,4-フェニレン基が特に好ましい。ArおよびArがナフタレン環である場合、ArおよびArで表される連結基としては、2,6-ナフチレン基が好ましい。
【0071】
流動性向上剤は、フタル酸イミドなどの単官能芳香族イミドを含んでいてもよい。
【0072】
(A3)芳香族イミド化合物(A)の特性および製造方法
本開示では、流動性向上剤としての芳香族イミド化合物(A)は、ポリエーテルケトン系樹脂の溶融流動性を向上できる点から、分子間相互作用が小さい低分子量の芳香族イミド化合物が好ましい。芳香族イミド化合物(A)の分子量は70~1500程度の範囲から選択でき、例えば100~1000、好ましくは200~900、さらに好ましくは300~800である。特に、前記イミド化合物(A1)の分子量は、例えば100~800、好ましくは150~700、さらに好ましくは200~600であってもよい。また、前記イミド化合物(A2)の分子量は、例えば200~1000、好ましくは300~900、さらに好ましくは500~800であってもよい。分子量が小さすぎない適度な範囲にあると、耐熱性や機械的特性を向上し易い傾向があり、逆に大きすぎない適度な範囲にあると、樹脂組成物の流動性を向上し易い傾向がある。
【0073】
芳香族イミド化合物(A)は、慣用の方法で製造でき、例えば、酸無水物とアミンとの反応により得られたアミック酸を加熱して環化または閉環させる方法により製造できる。
【0074】
詳しくは、前記式(1a)で表されるイミド化合物では、芳香環含有基Xに対応する酸無水物と、アリール基R(またはR)に対応するアミンとを反応させてアミック酸を製造でき、前記式(2)で表されるイミド化合物では、炭化水素基RおよびR(または炭化水素基RおよびR)を含む炭化水素骨格に対応する酸無水物と、芳香環含有基Xに対応するアミンとを反応させてアミック酸を製造できる。
【0075】
前記酸無水物と前記アミンとの割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/0.2~1/5程度であってもよく、好ましくは1/0.3~1/3、さらに好ましくは1/0.4~1/2.5である。
【0076】
反応は、反応に不活性な溶媒の非存在下または存在下で行ってもよい。溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノールなどのアルコール類;環状エーテル、鎖状エーテルなどのエーテル類;ジメチルホルムアミド(DMF)などのアミド類;ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホキシド類;脂肪族炭化水素類、脂環族炭化水素類、芳香族炭化水素類などの炭化水素類などが挙げられる。
【0077】
反応は、不活性ガス雰囲気下、例えば、窒素;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどの雰囲気下で行ってもよい。反応温度は、例えば10~50℃、好ましくは15~40℃である。
【0078】
前記アミック酸が閉環する温度は、通常160℃以上、好ましくは180℃以上(例えば180~200℃)である。
【0079】
[樹脂組成物]
本開示の流動性向上剤は、ポリエーテルケトン系樹脂の流動性向上剤として用いられる。すなわち、本開示の樹脂組成物は、前記芳香族イミド化合物(A)およびポリエーテルケトン系樹脂(B)を含む樹脂組成物である。
【0080】
(A)芳香族イミド化合物
本開示の樹脂組成物は、流動性向上剤としての芳香族イミド化合物(A)を含むことにより、樹脂組成物の溶融流動性を向上できる。特に、特定の芳香族イミド化合物(A)を用いることにより、異物である低分子の芳香族イミド化合物(A)を含むにも拘わらず、曲げ強度、曲げ弾性率、耐衝撃性などの機械的特性を低下させることなく、ポリエーテルケトン系樹脂の溶融流動性を向上できる。
【0081】
芳香族イミド化合物(A)の割合は、ポリエーテルケトン系樹脂(B)100質量部に対して0.01~100質量部程度の範囲から選択でき、例えば0.05~50質量部、好ましくは0.1~30質量部、さらに好ましくは1~10質量部、より好ましくは3~8質量部、最も好ましくは4~7質量部である。芳香族イミド化合物(A)の割合が少なすぎない適度な範囲にあると、樹脂組成物の流動性を向上し易い傾向があり、逆に多すぎない適度な範囲にあると、樹脂組成物の機械的特性を向上し易い傾向がある。
【0082】
(B)ポリエーテルケトン系樹脂
ポリエーテルケトン系樹脂(B)としては、慣用のポリエーテルケトン(PEK)やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などのポリエーテルケトン系樹脂(またはポリエーテルケトン樹脂)を利用できる。
【0083】
ポリエーテルケトン系樹脂(B)は、置換基を有していてもよいアリーレン基と、エーテル基と、カルボニル基とで構成された繰り返し単位を含む樹脂であってもよい。
【0084】
アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基などのC6-10アリーレン基;ビフェニレン基などのビC6-10アリーレン基などが挙げられる。フェニレン基としては、o-フェニレン基、m-フェニレン基、p-フェニレン基などが挙げられる。ビフェニレン基としては、例えば、2,2’-ビフェニレン基、3,3’-ビフェニレン基、4,4’-ビフェニレン基などが挙げられる。これらのアリーレン基は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのアリーレン基のうち、p-フェニレン基などのフェニレン基、4,4’-ビフェニレン基などのビフェニレン基が好ましく、p-フェニレン基が特に好ましい。
【0085】
アリーレン基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、カルボキシル基、スルホ基、アミノ基、N-置換アミノ基、N,N-置換アミノ基、シアノ基などが挙げられる。これらの置換基は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの置換基のうち、メチル基、エチル基などのC1―6アルキル基が好ましく、C1-4アルキル基がさらに好ましく、C1-2アルキル基がより好ましい。
【0086】
ポリエーテルケトン系樹脂(B)としては、例えば、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテル-ジフェニル-エーテル-フェニル-ケトン-フェニルなどが挙げられる。これらのポリエーテルケトン系樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンが好ましく、ポリエーテルエーテルケトンが特に好ましい。
【0087】
ポリエーテルエーテルケトンは、ジハロゲノベンゾフェノンとヒドロキノンとの重縮合により得られる式[-Ph-C(=O)-Ph-O-Ph-O-](式中、Phはフェニレンを示す)で表される繰り返し単位を有する樹脂であってもよい。
【0088】
ポリエーテルケトン系樹脂(B)の数平均分子量は、例えば5,000~1,000,000、好ましくは10,000~800,000、さらに好ましくは15,000~500,000である。分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)などの慣用の方法を利用して測定でき、ポリスチレン換算の分子量として評価してもよい。
【0089】
ポリエーテルケトン系樹脂(B)の380℃におけるメルトフローレート(MFR)は、荷重49.07Nの条件で、例えば1~100g/10分、好ましくは5~50g/10分、さらに好ましくは10~40g/10分、より好ましくは14~30g/10分、最も好ましくは15~20g/10分である。
【0090】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、樹脂または樹脂組成物のMFRは、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0091】
ポリエーテルケトン系樹脂(B)の割合は、樹脂組成物中10質量%以上であってもよく、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上であり、90~99質量%であってもよい。樹脂組成物がフィラーを含む場合、樹脂組成物中のポリエーテルケトン系樹脂(B)の割合は、例えば10~99質量%、好ましくは30~98質量%、さらに好ましくは50~95質量%、より好ましくは70~93質量%、最も好ましくは80~90質量%である。
【0092】
(C)フィラー
本開示の樹脂組成物は、機械的特性、例えば、曲げ強さ、曲げ弾性率、衝撃強さなどの観点から、必要に応じてフィラー(C)を含んでいてもよい。一般的に繊維状フィラーなどのフィラー(充填材、補強材または強化材)は、樹脂組成物の前記機械的特性などを大きく向上できるものの、粘度を著しく増加させてしまうため、前記機械的特性と流動性(成形性または加工性)との両立は困難である。特に、前記機械的特性が重要な用途では、繊維状フィラーなどのフィラーを高い割合で添加する必要があり、フィラーの増加に伴う顕著な高粘度化のため、流動性(成形性または加工性)を犠牲にせざるを得ない場合がある。しかし、特定の芳香族イミド化合物(A)と、ポリエーテルケトン系樹脂(B)と、フィラー(C)とを組み合わせると、フィラー(C)を含んでいても流動性を有効に向上できる。しかも、低分子化合物である芳香族イミド化合物(A)を含むにもかかわらず、フィラー(C)に由来する高い機械的特性の低下を意外にも抑制し易く、保持または向上できる場合もあるため、高い機械的特性と高い流動性とを高いレベルで両立し易い。
【0093】
フィラー(C)は、繊維状フィラーと非繊維状フィラーとに大別できる。
【0094】
繊維状フィラーとしては、有機繊維、無機繊維などが挙げられる。有機繊維としては、例えば、セルロース繊維、セルロースアセテート繊維などの修飾又は未修飾セルロース繊維(セルロース又はその誘導体の繊維)、ポリアルキレンアリレート繊維などのポリエステル繊維などが挙げられる。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、金属繊維、ワラストナイト、ウィスカーなどが挙げられる。
【0095】
これらの繊維状フィラーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。好ましい繊維状フィラーは、修飾または未修飾セルロース繊維、無機繊維であり、無機繊維がより好ましく、ガラス繊維、炭素繊維がさらに好ましく、特に炭素繊維が好ましい。
【0096】
ガラス繊維を形成するガラス成分としては、例えば、Eガラス(無アルカリ電気絶縁用ガラス)、Sガラス(高強度ガラス)、Cガラス(化学用ガラス)、Aガラス(一般用含アルカリガラス)、YM-31-Aガラス(高弾性ガラス)などが挙げられる。なかでも、機械的特性などの点から、Eガラス、Cガラス、Sガラスが好ましく、特にEガラスが好ましい。これらのガラス成分で形成されるガラス繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0097】
炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維(例えば、等方性ピッチ系炭素繊維、メソフェーズピッチ系炭素繊維など)、気相成長炭素繊維などが挙げられる。これらのうち、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維が好ましく、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維がさらに好ましく、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維がより好ましい。これらの炭素繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0098】
繊維状フィラーの形態は、用途などに応じて、短繊維または長繊維であってもよく、織布、編布、不織布などの布帛であってもよい。これらの繊維状フィラーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。流動性を向上し易い点から短繊維であるのが好ましい。
【0099】
繊維状フィラーの平均繊維長(布帛の形態である場合は、布帛を構成する繊維の平均繊維長)は、例えば0.1~10mm程度の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に、0.2~8mm、0.5~6mm、1~4mmである。また、組成物または成形体中の繊維状フィラーの平均繊維長は、樹脂組成物を調製する際の混合(混練)や成形加工におけるせん断力などの影響によって混合前より短くなっていてもよく、例えば0.05~5mm、好ましくは0.1~3mm、さらに好ましくは0.2~1mmである。
【0100】
繊維状フィラーの平均繊維径(フィラメント径)は、ナノメータオーダーであってもよく、このような繊維状フィラーとしては、例えば、修飾又は未修飾セルロースナノ繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンナノファイバーなどが挙げられる。機械的強度などの点から、平均繊維径(フィラメント径)はミクロンオーダー、例えば1~200μm程度の範囲から選択してもよく、好ましくは3~100μm、さらに好ましくは4~30μm、特に5~15μmである。
【0101】
繊維状フィラーの断面形状は、例えば、円形状、楕円形状、多角形状などが挙げられる。また、繊維状フィラーには慣用の表面処理が施されていてもよく、例えば、集束剤、シランカップリング剤などの表面処理剤により処理されていてもよい。
【0102】
非繊維状フィラー(または粒状フィラー)としては、例えば、カーボンブラックやグラファイトなどの炭素質材料;酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウム(アルミナ)などの金属酸化物;ケイ酸カルシウムやケイ酸アルミニウムなどの金属ケイ酸塩;炭化ケイ素や炭化タングステンなどの金属炭化物;窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などの金属窒化物;炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩;硫酸カルシウムや硫酸バリウムなどの金属硫酸塩;ゼオライト、ケイソウ土、焼成ケイソウ土、活性白土、シリカ、タルク、マイカ、カオリン、セリサイト、ベントナイト、モンモリロナイト、スメクタイト、クレーなどの鉱物質材料などが挙げられる。
【0103】
非繊維状フィラーの形状は、特に制限されず、球状、楕円球状、多面体状[例えば、立方体状、直方体状、四面体状(ピラミッド状)など]、扁平状(板状、鱗片状または薄片状)、層状、ロッド状、針状、不定形状などであってもよい。また、非繊維状フィラーは多孔質形状であってもよい。これらのうち、略球状などの等方形状が好ましい。
【0104】
非繊維状フィラーの平均粒径(個数平均一次粒径)は、フィラーの種類に応じて、1nm~100μm程度の範囲から選択でき、例えば1~100μm、好ましくは3~80μm、さらに好ましくは5~50μmである。
【0105】
なお、本明細書および特許請求の範囲では、フィラー(C)の平均繊維径、平均繊維長および平均粒径は、走査型電子顕微鏡写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出してもよい。
【0106】
フィラー(C)(好ましくは繊維状フィラー、特に好ましくは炭素繊維)の割合は、ポリエーテルケトン系樹脂(B)100質量部に対して、例えば1~100質量部、好ましくは3~80質量部、さらに好ましくは5~50質量部、より好ましくは10~30質量部、最も好ましくは12~20質量部である。フィラー(C)の割合が少なすぎない適度な範囲にあると、機械的特性を向上し易い傾向があり、多すぎない適度な範囲にあると流動性を向上し易い傾向がある。
【0107】
繊維状フィラー(特に、炭素繊維)の割合は、フィラー(C)中、例えば1質量%以上、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。フィラー(C)中の繊維状フィラー(特に、炭素繊維)の割合が少なすぎない適度な範囲にあると、機械的特性を向上し易い傾向があり、多すぎない適度な範囲にあると流動性を向上し易い傾向がある。
【0108】
(D)他の成分
本開示の樹脂組成物は、必要に応じて、ポリエーテルケトン系樹脂(または第1の熱可塑性樹脂)とは異なる他の熱可塑性樹脂(または第2の熱可塑性樹脂)を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0109】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂(PC)、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、フェノキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリスルホン系樹脂、セルロース誘導体、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、熱可塑性エラストマー(TPE)などが挙げられる。
【0110】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などの鎖状オレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂などが挙げられる。
【0111】
スチレン系樹脂としては、例えば、一般用ポリスチレン(GPPS)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)などのポリスチレン(PS)、スチレン系共重合体などが挙げられる。スチレン系共重合体としては、例えば、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、ゴム成分含有スチレン系樹脂またはゴムグラフトスチレン系共重合体などが挙げられる。ゴム成分含有スチレン系樹脂またはゴムグラフトスチレン系共重合体としては、例えば、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、AXS樹脂、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)などが挙げられる。AXS樹脂としては、例えば、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル-塩素化ポリエチレン-スチレン共重合体(ACS樹脂)、アクリロニトリル-(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)-スチレン共重合体(AES樹脂)などが挙げられる。
【0112】
(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などの(メタ)アクリル系単量体の単独または共重合体などが挙げられる。
【0113】
酢酸ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタールなどが挙げられる。ポリビニルアセタールとしては、例えば、ポリビニルホルマール(PVF)、ポリビニルブチラール(PVB)などが挙げられる。
【0114】
塩化ビニル系樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂などが挙げられる。塩化ビニル樹脂としては、例えば、塩化ビニル単独重合体(PVC);塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などの塩化ビニル共重合体などが挙げられる。塩化ビニリデン樹脂としては、例えば、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体などの塩化ビニリデン共重合体などが挙げられる。
【0115】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられる。
【0116】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、液晶性ポリエステル(LCP)などが挙げられる。ポリアルキレンアリレート系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ1,4-シクロヘキシルジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリエチレンナフタレートなどが挙げられる。
【0117】
ポリアミド系樹脂としては、例えば、脂肪族ポリアミド系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、半芳香族ポリアミド系樹脂などが挙げられる。脂肪族ポリアミド系樹脂としては、例えば、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12などが挙げられる。
【0118】
ポリカーボネート系樹脂(PC)としては、例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネート系樹脂などのビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。
【0119】
ポリケトン樹脂としては、例えば、脂肪族ポリケトン樹脂などが挙げられる。
【0120】
ポリスルホン系樹脂としては、例えば、ポリスルホン樹脂(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)などが挙げられる。
【0121】
セルロース誘導体としては、例えば、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースエステル、エチルセルロースなどのセルロースエーテルなどが挙げられる。
【0122】
熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミドなどが挙げられる。
【0123】
熱可塑性エラストマー(TPE)としては、例えば、ポリスチレン系TPE、ポリオレフィン系TPE(TPO)、ポリジエン系TPE、塩素系TPE、フッ素系TPE、ポリウレタン系TPE(TPU)、ポリエステル系TPE(TPEE)、ポリアミド系TPE(TPA)などが挙げられる。
【0124】
これらの第2の熱可塑性樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて含んでいてもよい。樹脂組成物におけるポリエーテルケトン系樹脂(第1の熱可塑性樹脂)(B)の割合は、「樹脂組成物中の熱可塑性樹脂全体[またはポリエーテルケトン系樹脂(B)および第2の熱可塑性樹脂の合計]」に対して、例えば10質量%程度以上であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、30質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、100質量%である。ポリエーテルケトン系樹脂(B)の割合が少なすぎない適度な範囲にあると、流動性および/または機械的特性を向上し易い傾向がある。
【0125】
また、樹脂組成物は、必要に応じて、各種添加剤、例えば、染顔料などの着色剤、導電剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、低応力化剤などを含んでいてもよい。前記安定剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。添加剤の割合は、樹脂組成物中30質量%以下であってもよく、好ましくは10質量%以下、例えば0.1~10質量%である。
【0126】
本開示の樹脂組成物は、芳香族イミド化合物(A)(流動性向上剤)とポリエーテルケトン系樹脂(B)と、必要に応じて、繊維状フィラー、添加剤などの他の成分とを、乾式混合、溶融混練などの慣用の方法で混合することにより調製でき、樹脂組成物はペレットなどの形態であってもよい。
【0127】
(樹脂組成物の特性)
本開示の樹脂組成物は流動性に優れている。本開示の樹脂組成物の380℃におけるメルトフローレート(MFR)は、荷重49.07Nの条件で、例えば0.1~30g/10分、1~20g/10分、好ましくは3~15g/10分、さらに好ましくは4~12g/10分、より好ましくは5~10g/10分、最も好ましくは6~8g/10分である。
【0128】
樹脂組成物は、流動性および機械的特性に優れるため、高い成形性(または生産性)で機械的特性に優れた成形体を形成できる。成形体の形状は、特に限定されず、用途に応じて選択でき、例えば、線状、糸状などの一次元的構造、フィルム状、シート状、板状などの二次元的構造、ブロック状、棒状、管状またはチューブ状などの中空状などの三次元的構造などであってもよい。
【0129】
成形体は、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などの慣用の成形法を利用して製造することができる。
【実施例0130】
以下に、実施例に基づいて本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に、評価方法および原料の詳細について示す。
【0131】
[評価方法]
H-NMR)
試料を、内部標準物質としてテトラメチルシランを含む重クロロホルムに溶解し、核磁気共鳴装置(BRUKER社製「AVANCE III HD」)を用いて、H-NMRスペクトルを測定した。
【0132】
(MFR)
JIS K 7210-1に準じて、保持時間5分、温度380℃、試験荷重49.07Nの条件で測定した。
【0133】
(曲げ試験)
JIS K 7171に準じて、曲げ弾性率、曲げ強さを測定した。なお、曲げ弾性率は接線法により算出した。
【0134】
(シャルピー衝撃強さ)
JIS K 7111に準じてシャルピー衝撃強さを測定した。
【0135】
[原料]
BAF:9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製
無水フタル酸:富士フイルム和光純薬(株)製、無水フタル酸(和光特級)
無水コハク酸:富士フイルム和光純薬(株)製、無水こはく酸(和光特級)
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド、富士フイルム和光純薬(株)製(試薬特級)
酢酸エチル:富士フイルム和光純薬(株)製(試薬特級)
1,10-デカンジアミン、東京化成工業(株)、>98.0%(T)
DMSO:ジメチルスルホキシド:富士フイルム和光純薬(株)製(試薬特級)
アセトン:富士フイルム和光純薬(株)製(試薬特級)
トルエン:富士フイルム和光純薬(株)製(和光一級)
1,5-ジアミノペンタン:東京化成工業(株)、>98.0%(T)
ピロメリット酸無水物:1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(富士フイルム和光純薬(株)製、規格含量:85.0+% (NMR))
アニリン:富士フイルム和光純薬(株)、試薬特級
PEEK:ポリエーテルエーテルケトン樹脂、EVONIK社(独)製「ベスタキープ4000G」
CF:PAN系炭素繊維、三菱ケミカル(株)製「PYROFIL TR066A」
【0136】
[合成例1]BAF-Amの合成1
【0137】
【化4】
【0138】
窒素雰囲気下、1Lのナス型フラスコに、BAF 81.3g(0.233mol)および無水フタル酸69.1g(0.467mol)を仕込み、フラスコを水浴で冷却しながらDMF 420mLを加えた。得られた溶液を25℃で一晩攪拌しながら反応を行った。反応終了後、反応液に酢酸エチル1500mLとイオン交換水1500mLとを加え、抽出操作を行い、有機相を得た。得られた有機相を50℃で減圧濃縮し、目的物(148g)を得た。得られた目的物について、プロトン核磁気共鳴(H-NMR)装置を使用して定性分析した結果を以下および図1に示す。
【0139】
H-NMR(300MHz、DMSO-d):δ(ppm)=7.11-7.14(d、4H)、7.31-7.66(m、16H)、7.93-7.95(m、4H)、10.36(s、2H)、12.50-13.30(br、2H)
【0140】
[合成例2]BAF-Amの合成2
3Lセパラブルフラスコに、BAF 104.5g(0.3mol)および無水フタル酸29.6g(0.15mol)を仕込み、前記フラスコにおいて、アセトン525gおよびトルエン1050gを加えた。前記フラスコ中の溶液を40℃で無水フタル酸88.8gを3回に分けて投入し、4時間攪拌した。反応後、析出した白色粉末ろ過し、目的物(218.5g)を得た。得られた目的物についてプロトン核磁気共鳴(H-NMR)装置を使用して定性分析し、上記式(3)で表されるアミック酸(9,9-ビス[4-(N-フタリルアミノ)フェニル]フルオレン)(BAF-Am)であることを確認した。
【0141】
[合成例3]BAF-Imの合成
【0142】
【化5】
【0143】
BAF-Am 200.0gを180℃で5時間加熱し、目的物(190.0g)を得た。得られた目的物についてプロトン核磁気共鳴(H-NMR)装置を使用して定性分析したところ、以下のとおり、上記式(4)で表されるイミド(BAF-Im)であることを確認した。得られたNMRスペクトルを図2に示す。
【0144】
H-NMR(300MHz,DMSO-d):δ(ppm)=7.31―7.49(m,12H),7.60-7.62(m,2H),7.88―8.02(m,10H)
【0145】
[合成例4]TetAni-Amの合成
【0146】
【化6】
【0147】
原料としてピロメリット酸無水物およびアニリンを用い、Scientific World Journal(2014), 725981/1-725981/12に記載の合成法に準じて、上記式(5-1)および(5-2)で表されるアミック酸(分子量:404.12)を合成した。得られた目的物について、プロトン核磁気共鳴(H-NMR)装置を使用して定性分析した結果を以下に示す。
【0148】
H-NMR(300MHz、DMSO-d):δ(ppm)=7.09-7.15(m、2H)、7.34-7.40(m、4H)、7.69-7.72(m、4H)、7.73(s、0.5H)、7.99(s、1H)、8.35(s、0.5H)、10.52-10.55(m、2H)、13.54(br、2H)
【0149】
上記NMRスペクトルの結果から、得られた目的物が、上記式(3-1)および(3-2)で表されるアミック酸(4,6-ビス(フェニルカルバモイル)ベンゼン-1,3-ジカルボン酸および2,5-ビス(フェニルカルバモイル)ベンゼン-1,4-ジカルボン酸(ピロメリット酸ジアニリドパラ異性体)(以下「TetAni-Am」と称する)であることを確認した。なお、得られたTetAni-Amは、上記式(5-1)で表される化合物と式(5-2)で表される化合物とのモル比が、前者/後者=50/50程度の混合物であった。
【0150】
[合成例5]TetAni-Imの合成
【0151】
【化7】
【0152】
TetAni-Am 150.0gを180℃で5時間加熱し、目的物(131.0g)を得た。得られた目的物についてプロトン核磁気共鳴(H-NMR)装置を使用して定性分析したところ、以下のとおり、上記式(6)で表されるイミド(TetAni-Im)であることを確認した。得られたNMRスペクトルを図3に示す。
【0153】
H-NMR(300MHz、DMSO-d):δ(ppm)=7.47-7.61(m、10H)、8.56(s、2H)
【0154】
[実施例1]
二軸押出機(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「Process11」)を用いて、温度400℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量500g/時間の条件で、表1に示すとおり、原料のPEEK樹脂99質量部と、添加剤として、上記のように合成したBAF-Im 1質量部とを混練し、ペレット状の樹脂組成物を調製した。
【0155】
得られた樹脂組成物を、射出成形機(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「HAAKE MiniJet Pro」)を用いて、シリンダー温度:400℃、金型温度:200℃の条件で射出成形し、短冊状試験片(樹脂成形体)を得た。得られた試験片を用いて上記方法のとおり各種物性の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0156】
[実施例2~6および比較例1]
原料の種類および割合を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様の方法でペレット状の樹脂組成物を調製し、短冊状試験片(樹脂成形体)を得た。得られた試験片を用いて上記方法のとおり各種物性の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0157】
【表1】
【0158】
表1から明らかなように、実施例1~6の樹脂組成物では、比較例1に比べて、曲げ強度、曲げ弾性率などの機械的強度を大きく低下させることなくMFRを向上できた。特に、実施例2および5では、比較例1と同等の機械特性を保持しつつ、MFRがそれぞれ1.4倍向上した。
【0159】
[実施例7]
二軸押出機(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「Process11」)を用いて、温度400℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量500g/時間の条件で、表1に示すとおり、原料のPEEK樹脂84質量部と、炭素繊維15質量部と、添加剤として、上記合成したBAF-Im 1質量部とを混練し、ペレット状の樹脂組成物を調製した。
【0160】
得られた樹脂組成物を、射出成形機(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「HAAKE MiniJet Pro」)を用いて、シリンダー温度:400℃、金型温度:200℃の条件で射出成形し、短冊状試験片(樹脂成形体)を得た。得られた試験片を用いて上記方法のとおり各種物性の測定を行った。測定結果を表2に示す。
【0161】
[実施例8~12および比較例2]
原料の種類および割合を表2に示すとおりに変更した以外は、実施例7と同様の方法でペレット状の樹脂組成物を調製し、短冊状試験片(樹脂成形体)を得た。得られた試験片を用いて上記方法のとおり各種物性の測定を行った。測定結果を表2に示す。
【0162】
【表2】
【0163】
表2から明らかなように、実施例7~12の樹脂組成物では、比較例2に比べて、曲げ強度、曲げ弾性率などの機械的強度を大きく低下させることなくMFRを向上できた。特に、実施例8および11では、比較例2と同等の機械特性を保持しつつ、MFRがそれぞれ1.4倍、1.5倍向上した。
【0164】
[実施例13]
二軸押出機(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「Process11」)を用いて、温度400℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量500g/時間の条件で、表3に示すとおり、原料のPEEK樹脂69質量部と、炭素繊維30質量部と、添加剤として、上記合成したBAF-Im 1質量部とを混練し、ペレット状の樹脂組成物を調製した。
【0165】
得られた樹脂組成物を、射出成形機(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「HAAKE MiniJet Pro」)を用いて、シリンダー温度:400℃、金型温度:200℃の条件で射出成形し、短冊状試験片(樹脂成形体)を得た。得られた試験片を用いて上記方法のとおり各種物性の測定を行った。測定結果を表3に示す。
【0166】
[実施例13~18および比較例3]
原料の種類および割合を表3に示すとおりに変更した以外は、実施例13と同様の方法でペレット状の樹脂組成物を調製し、短冊状試験片(樹脂成形体)を得た。得られた試験片を用いて上記方法のとおり各種物性の測定を行った。測定結果を表3に示す。
【0167】
【表3】
【0168】
表3から明らかなように、実施例13~18の樹脂組成物では、比較例3に比べて、曲げ強度、曲げ弾性率などの機械的強度を大きく低下させることなくMFRを向上できた。特に、実施例14および17では、比較例3と同等の機械特性を保持しつつ、MFRがそれぞれ2.3倍、2.1倍向上した。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本開示の樹脂組成物は、ポリエーテルケトン系樹脂の優れた特性を過度に低下させることなく、または向上させつつ、溶融流動性などの流動性(または成形性)を大きく向上できるため、成形性を有効に改善できる。そのため、ポリエーテルケトン系樹脂が、耐熱性、機械的特性、耐久性、耐熱水性、耐薬品性、耐放射線性に優れていることを利用して、樹脂組成物を、宇宙・航空、自動車、医療機器、3Dプリンタ、食品、半導体などの各種分野で成形体として利用できる。
【0170】
また、本開示の樹脂組成物は、上記分野などで利用可能な繊維製品を形成することもできる。繊維製品としては、例えば、繊維、糸、ロープ、ネット、布帛(織布、編布、不織布など)などが挙げられる。
【0171】
本開示の樹脂組成物は、添加剤として利用することもでき、例えば、強度向上剤、弾性率向上剤、耐衝撃性向上剤、密着向上剤または相溶性向上剤などの添加剤として好適である。
図1
図2
図3