(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144353
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】軟部組織再生用組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20241003BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20241003BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20241003BHJP
A61K 35/35 20150101ALI20241003BHJP
A61P 41/00 20060101ALI20241003BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241003BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20241003BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20241003BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20241003BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12N5/071
A61K35/28
A61K35/35
A61P41/00
A61P43/00 105
A61K9/10
A61P43/00 121
A61L27/36 100
A61L27/38 100
A61L27/38 200
A61L27/38 300
A61L27/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024051967
(22)【出願日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2023056003
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 柚葉
(72)【発明者】
【氏名】多胡 善幸
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BC06
4B065CA44
4B065CA60
4C076AA22
4C076BB32
4C076CC26
4C076CC50
4C081AB11
4C081BA12
4C081CD34
4C081DA15
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087BB64
4C087MA23
4C087MA67
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZC75
(57)【要約】
【課題】本発明は、脂肪組織の生着率を向上させる方法、並びに脂肪組織の生着率が改善された軟部組織再生用組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、低酸素条件で培養した間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団と脂肪組織を含有する軟部組織再生用組成物、及び低酸素条件で培養した間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団と脂肪組織を混合して生体に移植することにより、脂肪組織の生着率を向上させる方法を提供する。本発明では、低酸素条件で培養した間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団を、脂肪組織と混合して生体に移植することで、脂肪組織の生着率が向上する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低酸素条件で培養した間葉系幹細胞と脂肪組織を含有する軟部組織再生用組成物。
【請求項2】
前記間葉系幹細胞が脂肪組織に由来する請求項1に記載の軟部組織再生用組成物。
【請求項3】
前記低酸素条件が、酸素濃度10%以下である請求項1に記載の軟部組織再生用組成物。
【請求項4】
前記間葉系幹細胞が細胞懸濁液の状態であり、前記軟部組織再生用組成物の総量に対する前記細胞懸濁液の含有量が2.5容量%以上であり、前記軟部組織再生用組成物の総量に対する脂肪組織の含有量が97.5容量%未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の軟部組織再生用組成物。
【請求項5】
脂肪組織1mLあたり2.0×104cells以上、15×105cells以下の前記間葉系幹細胞を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の軟部組織再生用組成物。
【請求項6】
脂肪組織の移植後生着率の向上方法であって、移植用脂肪組織に、低酸素条件で培養した間葉系幹細胞を混合することを特徴とする方法。
【請求項7】
軟部組織の再生方法であって、
低酸素条件で培養した間葉系幹細胞と脂肪組織とを混合し、軟部組織再生用組成物を調製する工程、および
該軟部組織再生用組成物を、対象となる非ヒト動物の陥凹病変部に移植する工程
を含む方法。
【請求項8】
低酸素条件で培養した間葉系幹細胞を含む、脂肪組織の移植後生着率向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟部組織再生用組成物、詳細には培養された間葉系幹細胞と脂肪組織を含有する軟部組織再生用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪注入術は、自己の脂肪組織を回収して陥凹病変に注入することで軟部組織を再生する方法であり、エリテマトーデスなどの膠原病やParry-Romberg症候群などの先天性疾患、癌などの疾病治療を目的とした外科的手術、交通事故などによる外傷などの要因により起こる顔面変性疾患の陥凹変形治療の選択肢の一つである(非特許文献1)。
【0003】
本術式では、脂肪組織の採取は細いカニューレを用い、注入は注射器により行われるため侵襲性が低く、瘢痕が残りにくい。また、自家組織を移植するため、異物移植に伴う後遺症などの問題が発生しないことも大きなメリットである。そのため、脂肪注入術は豊胸などの美容改善目的にも用いられる。
【0004】
脂肪注入術には上述したメリットがあるが、脂肪組織が部分的に壊死するため、脂肪組織の生着率が低下することが問題とされてきた(非特許文献2)。そこで近年、脂肪移植時に、自家脂肪組織内の間質血管細胞群(Stromal Vascular Fraction:SVF)に含まれる間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell:MSC)を混合することで、脂肪組織の生着率を向上させる方法(Cell-assisted lipotransfer:CAL)が考案された(特許文献1)。
【0005】
間葉系幹細胞は、骨髄中に存在する幹細胞として最初に見出された体性幹細胞であり、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞などの間葉系に属する細胞へ分化することが可能である。間葉系幹細胞は、骨髄のみならず、脂肪、歯髄、胎児付属物(胎盤、臍帯、卵膜、羊膜、羊水)等の組織にも存在することもわかっている。脂肪間葉系幹細胞は、脂肪組織から簡単に採取できるというメリットもあることから、再生医療の現場で実用化されている幹細胞の一つである。
【0006】
近年では、脂肪間葉系幹細胞(Adipose-derived stem cell:ASC)を体外で通常条件で培養した後に、脂肪組織と混合する培養CALも活用されている(非特許文献3)。
【0007】
しかしながら、ドナーによって脂肪生着率が大きく異なる(20~80%)ため、脂肪注入術、CAL法や培養CAL法による陥凹変形治療においても、複数回の脂肪移植が必要となり、患者負担が増大する場合があり(非特許文献3)、さらに改善の余地が残されていた。
【0008】
一方、低酸素条件で培養した脂肪間葉系幹細胞は、多量のTNF-αを誘導し、炎症を惹起する可能性があり、移植には適さないと考えられている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2007-507202
【特許文献2】特許第6826744号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Francesco M Egro. et al, Clin Plast Surg. 2020 Jan;47(1):1-6.
【非特許文献2】Coleman SR, Clin Plast Surg. 2001 Jan;28(1):111-9.
【非特許文献3】Ming Li, et al. Aesthetic Plast Surg. 2021 Aug;45:1478-86.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の状況に鑑み、脂肪組織の生着率を向上させる方法、並びに脂肪組織の生着率が改善された軟部組織再生用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、低酸素条件で培養した脂肪間葉系幹細胞を、脂肪組織と混合して生体に移植することで、脂肪組織の生着率が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
従って、本発明は、以下の(1)~(8)の特徴を有する。
(1)低酸素条件で培養した間葉系幹細胞と脂肪組織を含有する軟部組織再生用組成物。
(2)前記間葉系幹細胞が脂肪組織に由来する(1)に記載の軟部組織再生用組成物。
(3)前記低酸素条件が、酸素濃度10%以下である(1)又は(2)に記載の軟部組織再生用組成物。
(4)前記間葉系幹細胞が細胞懸濁液の状態であり、前記軟部組織再生用組成物の総量に対する前記細胞懸濁液の含有量が2.5容量%以上であり、前記軟部組織再生用組成物の総量に対する脂肪組織の含有量が97.5容量%未満である、(1)~(3)のいずれか一に記載の軟部組織再生用組成物。
(5)脂肪組織1mLあたり2.0×104cells以上、15×105cells以下の前記間葉系幹細胞を含む、(1)~(4)のいずれか一に記載の軟部組織再生用組成物。
(6)脂肪組織の移植後生着率の向上方法であって、移植用脂肪組織に、低酸素条件で培養した間葉系幹細胞を混合することを特徴とする方法。
(7)軟部組織の再生方法であって、
低酸素条件で培養した間葉系幹細胞と脂肪組織とを混合し、軟部組織再生用組成物を調製する工程、および
該軟部組織再生用組成物を、対象となる非ヒト動物の陥凹病変部に移植する工程
を含む方法。
(8)低酸素条件で培養した間葉系幹細胞を含む、脂肪組織の移植後生着率向上剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、脂肪組織と混合した間葉系幹細胞の生存率を高く維持することができ、ひいては、脂肪組織の部分的な壊死を抑制し、脂肪組織の生着率を向上させることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】脂肪組織と脂肪間葉系幹細胞を混合してマウス皮下に移植してから3ヵ月後の脂肪組織の重量残存率を示したグラフである。データは、平均値±標準誤差(SE)で示す。各群についてn=9~10での測定を行った。図中の「*」は、各群の比較において、有意差が見られたことを示す(*:p<0.05、***:p<0.001)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、下記の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が下記の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0017】
[1]用語の説明
本明細書における「間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells:MSC)」は、「間葉系間質細胞(Mesenchymal stromal cells)」と区別なく用いられる。本明細書において、「間葉系幹細胞」は「MSC」と記載されることがある。間葉系幹細胞は、プラスチック容器に接着して増殖し、間葉系に属する細胞(例えば、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞)のいずれか1種以上の細胞への分化能を有する。また、間葉系幹細胞を特定するための表面抗原発現パターンとしては、CD44、CD73、CD90、CD105が陽性であり、CD45が陰性である。
【0018】
本明細書における「脂肪間葉系幹細胞」は、脂肪に由来する間葉系幹細胞を指し「脂肪間質細胞 (Adipose stromal cells)」や「脂肪幹細胞(Adipose-derived stem cells)」と区別なく用いられる。
【0019】
本明細書における「間質血管細胞群(Stromal Vascular Fraction:SVF)」とは、脂肪組織を酵素処理することで分離した脂肪細胞を除去して得られる細胞群を指す。間質血管細胞群は、一般に末梢血由来の細胞群(マクロファージ、好中球など)が有核細胞における半数程度を占め、残りは間葉系幹細胞の他、血管内皮細胞、血管壁細胞などを含む脂肪組織由来の細胞群である。本明細書における「間質血管細胞群」としては、完全に分離除去できなかった脂肪細胞が少量含まれてもよい。
【0020】
本明細書における「間葉系細胞を含む細胞集団」とは、少なくとも間葉系細胞を含む細胞集団であれば特に限定されず、他の細胞を含む集団であってもよい。間葉系幹細胞は一つの組織から分離したもののみであっても、複数の組織から分離したものの混合物であっても構わない。また、「間葉系細胞を含む細胞集団」の形態は特に限定されず、例えば、細胞ペレット、細胞凝集塊、細胞シート、細胞浮遊液、細胞懸濁液、これらの凍結物等が挙げられる。
【0021】
本明細書における「軟部組織」とは、体を構成する組織間をつなぐ役割を果たす結合組織であり、脂肪組織、筋肉組織、末梢神経組織、血管などを含む総称である。
本明細書における「軟部組織再生用組成物」とは、軟部組織の損傷を再生・修復するか、又は軟部組織を形成するための成分(例えば、間葉系幹細胞又は脂肪組織等)を含有する組成物である。
【0022】
[2]低酸素条件で培養した間葉系幹細胞を含む軟部組織再生用組成物
本発明の軟部組織再生用組成物は、間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団と脂肪組織を含有することを特徴とし、培養した間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団と脂肪組織とを混合することで調製することができる。
【0023】
本発明の軟部組織再生用組成物に含まれる間葉系幹細胞は、培養した間葉系幹細胞、特に低酸素条件で培養した間葉系幹細胞である。以下に間葉系幹細胞の調製方法を、由来となる組織の分離段階から例示するが、言うまでもなく、任意の段階の間葉系幹細胞を入手して利用することもできる。
【0024】
間葉系幹細胞は、哺乳類の組織から分離したものであれば特に限定されず、例えば、ヒト、イヌ、サル、トリ、ウシ、マウス、ラット、ネコ、モルモット、ウサギ、ネズミなどの哺乳動物由来の間葉系幹細胞が挙げられる。間葉系幹細胞は、本発明の軟部組織再生用組成物を投与する対象に合わせて適宜選択すればよいが、中でもヒト由来の間葉系幹細胞が好ましい。
【0025】
間葉系幹細胞を分離する組織としては特に限定されないが、例えば、脂肪組織、胎盤、卵膜、羊膜、骨髄、又は歯髄に由来する間葉系幹細胞を使用することができ、中でも脂肪組織が好ましい。
【0026】
間葉系幹細胞の由来となる組織を採取する工程(採取工程)は、特に限定されないが、例えば、以下のような手順で行うことができる。脂肪組織の場合、患者の任意の箇所(例えば、腹部、腰部、大腿部)を尖刃のメスで0.5~1cm程度切開し、任意の手術器具(例えば、モスキート鉗子、ピンセット)で脂肪を摘出し、切除する。切開創は1針縫合するか、テープで固定する。このような手段で採取された脂肪組織を一般的に切除脂肪という。一方、患者の任意の箇所(例えば、腹部、腰部、大腿部)からカニューレなどを用いて脂肪を吸引することもできる。このような手段で採取された脂肪組織を一般的に吸引脂肪という。
【0027】
採取された組織から間葉系幹細胞を分離する工程(分離工程)における方法は、特に限定されないが、例えば、そのまま培養容器に播種し浮遊系細胞と接着系細胞を分離するか、細胞分離材、酵素処理、フローサイトメトリー、または密度勾配遠心法などの手法を用いることで、間葉系幹細胞を採取分離できる。
【0028】
脂肪組織の酵素処理は、好ましくは、脂肪組織の細胞外基質層に含まれる間葉系幹細胞を遊離することができ、かつ上皮細胞層を分解しない酵素(又はその組み合わせ)による処理である。かかる酵素としては、特に限定されないが、例えば、トリプシン、コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼを挙げることができる。金属プロテイナーゼとしては、非極性アミノ酸のN末端側を切断する金属プロテイナーゼであるサーモリシン及び/又はディスパーゼを挙げることができるが、特に限定されない。
【0029】
脂肪組織の酵素処理は、生理食塩水やハンクス平衡塩溶液等の洗浄液を用いて洗浄した脂肪組織を酵素液に浸漬し、撹拌手段によって撹拌しながら処理することが好ましい。かかる撹拌手段としては、例えば、スターラー又はシェーカーを使用することができる。
【0030】
本発明において、間葉系幹細胞培養する工程(培養工程)は、少なくとも最終継代については低酸素条件で行う。ここで低酸素条件とは、大気中の通常酸素濃度(約21%)より低い酸素濃度条件を意味する。当該低酸素条件であれば、具体的な酸素濃度は特に限定されないが、好ましくは10%以下、より好ましくは、8%以下、6%以下、4%以下、又は2%以下である。下限は0でなければよいが、好ましくは0.1%以上、又は0.5%以上、より好ましくは1%以上である。酸素濃度は、例えば、0.1%~10%、0.5%~6%、0.5%~2%、又は1%である。
【0031】
当該低酸素条件は、例えば、窒素ガスボンベまたは窒素ガス発生装置をマルチガスインキュベーターに接続することによって実現できる。また、脱酸素剤とガスバリアバッグを用いてバッグ内を低酸素条件(例えば0.1%~10%酸素濃度)に設定し、通常培養用インキュベーターで培養することもできる。
【0032】
培養工程における細胞集団の播種密度は、例えば500~10,000細胞/cm2 が挙げられる。細胞集団を播種する際の密度はさらに好ましくは500細胞/cm2以上、1,000細胞/cm2以上、2,000細胞/cm2以上、3,000細胞/cm2以上、4,000細胞/cm2以上、又は5,000細胞/cm2以上である。細胞集団を播種する際の密度は、さらに好ましくは10,000細胞/cm2以下、9,000細胞/cm2以下、8,000細胞/cm2以下、又は7,000細胞/cm2以下である。
【0033】
間葉系幹細胞を培養する工程(培養工程)で使用する培養容器は、特に限定されず、任意の培養容器(例えば、T-25フラスコ、T-75フラスコ、100mmデッシュ、150mmデッシュ、CellSTACK)を使用することができる。間葉系幹細胞を培養する工程(培養工程)における培養日数は、特に限定されず、コンフルエント率95%以下となるように任意の日数を選択することができる。例えば2~21日を挙げることができ、より好ましくは3~19日、更に好ましくは4~17日である。培地交換の有無は限定されないが、例えば、3~4日毎に培地交換を実施してもよい。
【0034】
上記の培養に用いる培地は、任意の間葉系幹細胞用の液体培地を基礎培地とし、必要に応じて他の成分を適宜添加することにより調製することができる。前記基礎培地としては、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)培地、DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham))等の培地を使用することができるが、特に限定されない。
【0035】
前記基礎培地に対して添加する他の成分としては、例えば、アルブミン、血液由来成分、増殖因子、などが挙げられる。前記基礎培地にアルブミンを添加する態様においては、アルブミンの濃度は0.05質量%以上、5質量%以下が好ましい。また、血液由来成分としては、各種の血清(ウシ胎児血清(FBSやFCS)などの動物由来血清、ヒト血清、各種動物および/またはヒト血液由来の多血小板血漿や血小板溶解物を原料として調製される血清など)、各種動物および/またはヒト血液由来の血小板溶解物、血漿、などが挙げられる。ヒト血清は、接着性細胞を含む組織を取得した個体と同一個体由来の血清であっても、異なる個体由来であってもよい。
【0036】
前記基礎培地に血液由来成分を添加する態様においては、血液由来成分の濃度は2容量%以上40%容量以下が好ましい。より好ましくは3容量%以上30%容量以下である。増殖因子を添加する態様においては、増殖因子を培地中で安定化させるための試薬(ヘパリンなどの抗凝固剤、ゲル、多糖類など)を、増殖因子に加えてさらに添加してもよいし、あらかじめ安定化させた増殖因子を前記基礎培地に対して添加してもよい。増殖因子は例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、及びそれらのファミリーを使用することができるが、特に限定されない。
【0037】
培養温度は、間葉系幹細胞の培養で通常用いられる温度が適用でき、通常は36~38℃である。好ましくは37℃である。
【0038】
間葉系幹細胞を、脂肪組織と混合するまでに複数代培養する場合、前述の通り、最終継代は低酸素条件で培養する必要があるが、それ以前の培養は、通常酸素濃度条件で実施してもよい。
【0039】
培養した間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団を回収するステップ(回収工程)は、既知の任意の手法により行うことができる。本ステップにおいては、培養した細胞を、細胞剥離手段にて処理して培養容器から剥離させて回収する。上記の初代培養の細胞は、例えば、さらに継代し、培養することもできる。また継代時に、回収した細胞をそのまま播種することもできるが、一度凍結保存した後に解凍して播種することもできる。
【0040】
上記のような継代及び培養により取得した細胞は、1回継代した細胞である。同様の継代及び培養を行うことにより、n回継代した細胞を取得することができる(nは1以上の整数を示す)。継代回数nの下限は、細胞を大量に製造する観点から、例えば、1回以上が好ましい。また、継代回数nの上限は、細胞の老化を抑える観点から、例えば、5回以下、3回以下、2回以下であることが好ましい。
【0041】
上記の細胞剥離手段として、例えば、細胞剥離剤を使用してもよい。細胞剥離剤としては、トリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等を使用することができるが、特に限定されない。細胞剥離剤として、市販の細胞剥離剤を用いてもよい。例えば、トリプシン-EDTA溶液(Thermo Fisher Scientific社製)、TrypLE Select(Thermo Fisher Scientific社製)、Accutase(Stemcell Technologies社製)、Accumax(Stemcell Technologies社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
また、細胞剥離手段として、物理的な細胞剥離手段を使用してもよく、例えば、セルスクレーパー(Corning社製)を使用することができるが、これに限定されない。細胞剥離手段は、単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
上記で回収した間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団を必要に応じ洗浄後、脂肪組織と混合して本発明の軟部組織再生用組成物としても良いし、一旦任意の凍結保存液と混合した後、凍結保存する工程(凍結保存工程)をはさんでもよい。間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団を凍結保存する方法は限定せず、緩慢凍結法やガラス化凍結法等から適宜選択すればよい。
【0044】
本明細書において「緩慢凍結法」とは、細胞内に凍結保護剤を浸透させた後、温度を徐々に低下させることにより細胞を凍結させる方法をいう。本明細書において「ガラス化凍結法」とは、ガラス化と呼ばれる現象に基づいて細胞を凍結させる方法をいう。「ガラス化」とは、冷却速度や圧力等の冷却時の条件によって液体が結晶化せず固体となる現象であり、水も条件によってはガラス化することが知られている。
【0045】
本発明における間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団の混合物を凍結保存するための手段は、特に限定されないが、例えば、プログラムフリーザー、細胞緩慢凍結処理容器およびディープフリーザー、液体窒素での凍結保存などが挙げられる。凍結する際の好ましい凍結速度は、例えば、特に凍結の初期段階において、15℃/分以下、11℃/分以下、10℃/分以下、9℃/分以下、5℃/分以下、2℃/分以下、1℃/分以下である。
【0046】
上記の凍結保存手段としてプログラムフリーザーを用いた場合、凍結する際の温度は、好ましくは-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-80℃以下、-90℃以下、-100℃以下、-150℃以下、-180℃以下、又は-196℃(液体窒素温度)以下である。例えば、1℃/分以上2℃/分以下の凍結速度で-50℃以上-5℃以下の間の温度まで温度を下げ、その後凍結速度を上げて-100℃以上-80℃以下の温度まで温度を下げることができる。
【0047】
また、上記の凍結保存手段として細胞緩慢凍結処理容器およびディープフリーザーを用いた場合、凍結する際の温度は、好ましくは-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-80℃以下である。例えば、1℃/分以上2℃/分以下の凍結速度で-85℃以上 -75℃以下の間の温度まで温度を下げることができる。
【0048】
また、上記の凍結手段として液体窒素を用いた場合、例えば、-196℃まで急速に温度を下げて凍結させた後、液体窒素(気相)中で保存することができる。また液体窒素(液相)中で保存することもできる。
【0049】
上記の凍結手段により凍結する際、上記の細胞集団は、任意の保存容器に入った状態で凍結されてよい。上記の保存容器としては、例えば、クライオチューブ、クライオバイアル、凍結用バッグ、輸注バッグなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
上記の凍結手段により凍結する際、間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団は、任意の凍結保存液(本明細書においては「細胞凍結保存液」とも表記する)と混合した状態で凍結される。上記の凍結保存液としては、市販の凍結保存液を用いてもよい。例えば、CP-1(登録商標)(極東製薬工業社製)、BAMBANKER(リンフォテック社製)、STEM-CELLBANKER(日本全薬工業社製)、ReproCryo RM(リプロセル社製)、CryoNovo(Akron Biotechnology社製)、MSC Freezing Solution(Biological Industries社製)、CryoStor(HemaCare社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
上記の凍結保存液は、所定濃度の多糖類を含有することができる。多糖類の好ましい濃度は、例えば、1質量%以上、2質量%以上、4質量%以上、又は6質量%以上である。また、多糖類の好ましい濃度は、例えば、20質量%以下、18質量%以下、16質量%以下、14質量%以下、又は13質量%以下である。多糖類としては、例えば、ヒドロキシルエチルデンプン(HES)やデキストラン(Dextran40など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。またトレハロースや二糖類、例えばスクロースなども使用することができる。
【0052】
上記の凍結保存液は、所定濃度のジメチルスルホキシド(DMSO)を含有することができる。DMSOの好ましい濃度は、例えば、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、又は5質量%以上である。また、DMSOの好ましい濃度は、例えば、20質量%以下、18質量%以下、16質量%以下、14質量%以下、12質量%以下、又は10質量%以下である。
【0053】
上記の凍結保存液は、0質量%より多い所定濃度のアルブミンを含有するものでもよい。アルブミンの好ましい濃度は、例えば、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、又は4質量%以上である。また、アルブミンの好ましい濃度は、例えば、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、又は9質量%以下である。アルブミンとしては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、マウスアルブミン、ヒトアルブミン等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0054】
凍結保存された間葉系幹細胞を解凍する工程(解凍工程)は、既知の任意の細胞解凍手法により行うことができる。典型的には、凍結した細胞集団を含む容器を、凍結温度より高い温度の固形、液状もしくはガス状の媒体(例えば、水)に接触または浸漬したり、ウォーターバス、インキュベーター、恒温器、凍結細胞融解装置(例えばThawSTAR(Astero Bio社))などの機器を用いることにより達成されるが、これに限定されない。
【0055】
上記媒体や機器の設定温度は、細胞集団を所望の時間内に解凍できる温度であれば特に限定されないが、典型的には4~50℃、好ましくは30~40℃、より好ましくは36~38℃である。また、解凍時間は、解凍後の細胞集団の生存率や機能を大きく損なうものでなければ特に限定されないが、典型的には5分以内であり、好ましくは3分以内であり、より好ましくは2分以内である。解凍時間は、例えば、解凍手段または浸漬媒体の温度、凍結時の培養液または凍結保存液の組成もしくは容量などを変化させて適宜調節することができる。
【0056】
本発明においては、間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団は脂肪組織と混合されて軟部組織再生用組成物となり、陥凹変形治療等に用いられる。
【0057】
間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団と混合される脂肪組織は、切除脂肪由来であっても吸引脂肪由来であってもよい。脂肪組織の採取方法、間葉系幹細胞を含む細胞集団との混合前の脂肪組織の処理方法等は、例えば、特許文献1に記載の条件を用いることができる。
【0058】
脂肪組織は、移植される対象と同種由来であっても異種由来であってもよいが、同種由来であることが好ましい。対象がヒトの場合、ヒト由来であることが好ましい。同種由来のうち、自家由来であっても異系由来であってもよいが、自家由来であることが好ましい。
【0059】
間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団は、通常細胞懸濁液の状態で脂肪組織と混合される。したがって、本発明の軟部組織再生用組成物は、間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団を含有する細胞懸濁液と脂肪組織の混合物であってもよい。懸濁液の媒体としては製薬上許容し得る媒体が利用でき、ヒトの治療に用いられる輸液製剤がより好ましい。例えば、生理食塩液、5%ブドウ糖液、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、開始液(1号液)、脱水補給液(2号液)、維持輸液(3号液)、術後回復液(4号液)等を挙げることができる。
【0060】
本発明の軟部組織再生用組成物の間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団の含有量は混合する細胞懸濁液の細胞濃度にもよるため一概には言えないが、例えば細胞懸濁液の容量として2.5容量%以上であり、脂肪組織の含有量は容量として97.5%容量未満である(すなわち、軟部組織再生用組成物の総量に対する間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団を含有する細胞懸濁液の混合量が2.5容量%以上であり、軟部組織再生用組成物の総量に対する脂肪組織の混合量が97.5容量%未満である)。間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団の好ましい含有量は、例えば、細胞懸濁液の容量として2.5容量%以上、5容量%以上、又は15容量%以上である。脂肪組織の好ましい含有量は、97.5容量%未満、95容量%未満、又は85容量%未満である。
【0061】
また、脂肪組織1mLあたりの好ましい間葉系幹細胞の細胞数は、例えば、2.0×104 cells以上、5.0×104 cells以上、又は1.0×105 cells以上である。脂肪組織1mLあたりの好ましい間葉系幹細胞の細胞数は、例えば、15×105 cells以下、10×105 cells以下、又は9.0×105 cells以下である。なお、脂肪組織1mLあたりの重量は、約0.9gである。
【0062】
本発明の軟部組織再生用組成物を投与する対象は、限定されないが、例えば、ヒト、イヌ、サル、トリ、ウシ、マウス、ラット、ネコ、モルモット、ウサギ、ネズミなどの哺乳動物が挙げられる。
【0063】
本発明の軟部組織再生用組成物は、脂肪、筋肉、靭帯などのスポーツや交通事故による外傷、深在性エリテマトーデス、膠原病、癌、Parry-Romberg症候群、強皮症、HIV感染に伴う脂肪萎縮を原因とする顔面変性疾患(顔面脂肪萎縮症)等による陥凹病変の治療剤として使用することができる。
【0064】
また、本発明の軟部組織再生用組成物は豊胸、老化による顔のしわ、たるみの除去などの美容改善目的としても使用することができる。本発明の軟部組織再生用組成物を治療部位もしくは美容改善部位に、効果が認められる量投与することで、脂肪組織の生着率を向上させることができる。
【0065】
本発明によれば、患者又は被験者に、本発明による軟部組織再生用組成物の有効量を投与する工程を含む、患者又は被験者における軟部組織再生方法、患者又は被験者に細胞を移植する方法、患者又は被験者の疾患の治療方法、患者又は被験者の美容改善方法が提供される。また、本発明によれば、前記の陥凹病変治療又は美容改善を目的とした軟部組織再生治療のための、本発明による軟部組織再生用組成物の使用が提供される。
【0066】
本発明の軟部組織再生用組成物は軟部組織に投与されるものであることが好ましく、投与方法は、特に限定されないが、例えば、局所への直接注射、又は局所に直接移植することなどが挙げられる。
【0067】
本発明の軟部組織再生用組成物は、他の疾患治療目的に注射用製剤、或いは細胞塊又はシート状構造の移植用製剤、或いは任意のゲルと混合したゲル製剤として用いることも可能である。
【0068】
本発明の軟部組織再生用組成物は、ヒトの治療の際に用いられる任意の成分を含んでもよい。かかる成分としては、例えば、塩類、多糖類(例えば、HES、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、DMSO、培地成分(例えば、RPMI1640培地に含まれる成分など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。例えば、DMSO、ヒドロキシエチルデンプン及びヒトアルブミンを含有したものであることが好ましく、5~10質量%のDMSO、4~10質量%のヒドロキシエチルデンプン及び5質量%以下のヒトアルブミンを含有したものであることが更に好ましい。
【0069】
[3]脂肪組織の生着率を向上させる方法
本発明はまた、移植用脂肪組織に、低酸素条件で培養した間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団を混合することを特徴とする、脂肪組織の移植後生着率の向上方法である。
【0070】
脂肪組織、低酸素条件で培養した間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団、及び、これを混合して調製される軟部組織再生用組成物の詳細については、特に矛盾のない限り、[2]軟部組織再生用組成物の項に記載の通りである。
【0071】
[4]軟部組織の再生方法
本発明はまた、低酸素条件で培養した間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団と脂肪組織とを混合し、軟部組織再生用組成物を調製する工程、および当該軟部組織再生用組成物を対象の陥凹病変部に移植する工程を含む、軟部組織の再生方法を提供する。
【0072】
脂肪組織、低酸素条件で培養した間葉系細胞又はこれを含む細胞集団、およびこれらを混合して調製される軟部組織再生用組成物等の詳細は、特に矛盾のない限り、[2]軟部組織再生用組成物の項に記載の通りである。本発明の軟部組織の再生方法における対象は、軟部組織再生用組成物の投与対象と同様であり、例えば、ヒト又は非ヒト哺乳動物であり得る。
【0073】
[5]脂肪組織の移植後生着率向上剤
本発明はまた、低酸素条件で培養した間葉系幹細胞又はこれを含む細胞集団を含む、脂肪組織の移植後生着率向上剤を提供する。本発明の脂肪組織の移植後生着率向上剤は、脂肪組織と混合して移植することにより脂肪組織の移植後生着率を向上させ得る。
【0074】
脂肪組織、低酸素条件で培養した間葉系細胞又はこれを含む細胞集団の詳細は、特に矛盾のない限り、[2]軟部組織再生用組成物の項に記載の通りである。
【0075】
[6]軟部組織再生用組成物の調整方法
本発明はまた、低酸素条件下で間葉系幹細胞培養する工程、及び低酸素条件で培養した間葉系幹細胞と脂肪組織とを混合する工程を含む、間葉系幹細胞と脂肪組織を含有する軟部組織再生用組成物の調整方法をも提供する。本発明の軟部組織再生用組成物の調整方法における各工程の詳細は、特に矛盾のない限り、[2]軟部組織再生用組成物の項に記載の通りである。
【実施例0076】
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0077】
<実施例1:脂肪由来間葉系幹細胞を含む細胞集団の調製>
脂肪由来間葉系幹細胞を含む細胞集団を、以下の〔1〕~〔9〕に示す手順にしたがって調製し、本実験に用いた。
【0078】
〔1〕インフォームド・コンセントの得られたドナーより、20mLの吸引脂肪を採取した。採取した20mLの吸引脂肪に、0.1(v/w)%コラゲナーゼ含有のハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg不含有)を等量加え、37℃にて30分間、200rpmの条件にて振盪攪拌することにより酵素処理した。
〔2〕酵素処理後の溶液を遠心分離し、上清を除去した後に洗浄した。前記遠心分離と洗浄の工程を5回繰り返した。
〔3〕上清除去後の細胞ペレットを、hPL (ヒト血液由来の血小板溶解物) 5%、ゲンタマイシン(高田製薬社) 0.1%、0.25mg/mLアンホテリシンB(ブリストル・マイヤーズ社) 0.1%を添加したMEMα(ライフテクノロジーズジャパン社)(以下、「培養液」という)で懸濁し、セルストレイナー(Corning社製)を通し、脂肪由来間葉系幹細胞を含む間質血管細胞群(SVF)を取得した。
〔4〕1段CellSTACK(Corning社)に培養液を加え、得られたSVFを全量播種し、通常酸素条件(5%CO2、21%O2、37℃条件)のCO2インキュベーターにて培養を行った。顕微鏡下で細胞の状態を観察し、サブコンフルエントに達成するまで培養した。
〔5〕培養液を除去し、生理食塩液で洗浄し、吸引除去した。これを2回繰り返した。
〔6〕培養容器にTrypLE Select(Thermo Fisher Scientific社製)を加えて細胞を剥離し、hPL 5%を添加した生理食塩液(大塚製薬工業社)を用いて希釈し、遠心分離(400G、5分間、室温)により回収した。
〔7〕上清を除去し、細胞ペレットをヒト血清アルブミン(CSLベーリング社)5%を添加した生理食塩液を用いて懸濁し、ヌクレオカウンター(Chemometec社)を用いて細胞濃度を測定した。
〔8〕細胞懸濁液を遠心分離(400G、5分間、室温)し、上清を除去した。
〔9〕細胞ペレットにCP-1(登録商標)(極東製薬工業社製):25%ヒト血清アルブミン:生理食塩液=2:1:3の比で混合した凍結保存液を1×107cells/mLとなるように添加し、0.5mLまたは1.0mLずつクライオチューブに分注した後-80℃まで緩慢凍結し、その後、液体窒素タンク内で凍結保存した。
【0079】
<実施例2:脂肪間葉系幹細胞による脂肪組織の生着率向上に向けた検討>
(1)脂肪組織の調製
脂肪組織はヒト脂肪移植術時に生じた余剰脂肪を採取した。コールマン法により患者の腹部、大腿部、臀部などから細分化された皮下脂肪を吸引採取し、洗浄した後、400×G、5分間の遠心処理後、中層の脂肪層のみを回収した。
【0080】
(2)マウス皮下移植用の脂肪間葉系幹細胞混合脂肪の調製
凍結保存していた脂肪間葉系幹細胞を37℃で解凍後、培養液に懸濁し、2段セルスタック(Corning社)および150mmの培養dish(住友ベークライト社)にそれぞれ播種した。2段セルスタックは通常条件のCO2インキュベーターで培養した。150mmの培養dishについては脱酸素剤入れのガスバリアバッグに入れ、バッグ内の酸素濃度を1%O2に設定し、バッグを密閉して、上記インキュベーターに入れ、低酸素条件で培養した。培養5日目に細胞を回収し、脂肪間葉系幹細胞2.5×106 cellsを生理食塩液 325μLに浮遊させ、(1)で調製した脂肪組織2.5mLと混合した後、1mLシリンジ内に0.3mLずつ採取した。
【0081】
(3)マウス皮下への脂肪間葉系幹細胞混合脂肪の移植
採取した脂肪間葉系幹細胞混和脂肪をNude mouse背部皮下に0.3mLずつ注入した。以下、群構成を示す。
G1 対照群 :脂肪間葉系幹細胞を含まない生理食塩液+脂肪組織
G2 通常酸素条件群:通常酸素条件で培養した脂肪間葉系幹細胞を含む生理食塩液+脂肪組織
G3 低酸素条件群 :低酸素条件で培養した脂肪間葉系幹細胞を含む生理食塩液+脂肪組織
【0082】
(4)移植脂肪の重量残存量の測定
移植3ヵ月後に摘出した移植脂肪の重量を測定し、残存率を算出した。対照群と比較して、通常酸素条件群および低酸素条件群ともに、有意な高値を示し、脂肪生着率の向上が認められた。また、通常酸素条件群(p < 0.05)より低酸素条件群(p < 0.001)の脂肪生着率の向上効果が高かった。本測定データを
図1に示す。
【0083】
<実施例3:脂肪間葉系幹細胞と脂肪組織の混合比の検討>
(1)脂肪組織の調製
実施例2の(1)と同様の手順で調製した。
【0084】
(2)発光遺伝子導入脂肪間葉系幹細胞の作製
凍結保存していた脂肪間葉系幹細胞を37℃で解凍後、培養液に懸濁し、24 well plate(Corning社)に播種した。翌日、脂肪間葉系幹細胞に、レンチウイルス粒子(RediFect Lentiviral Particles、住商ファーマ社)でウイルス感染させた後、1 ug/mLピューロマイシン(Sigma社)含有培養液により、発光遺伝子導入脂肪間葉系幹細胞(以下、Fluc脂肪MSC)を選別した。培養を継続した後、<実施例1>の〔5〕~〔9〕の手順で凍結保存した。作製された発光遺伝子導入脂肪間葉系幹細胞は、生細胞数依存的に発光量が変化する(生細胞が産生する酵素と、基質が反応し発光する)ため、脂肪組織と混合した脂肪間葉系幹細胞の生存率を測定することが出来る。
【0085】
(3)Fluc脂肪MSCと脂肪組織の混合
凍結保存していた発光遺伝子導入脂肪間葉系幹細胞を37℃で解凍後、培養液に懸濁し、1段セルスタック(Corning社)2枚に播種した。1枚を、通常酸素条件(5%CO2、21%O2、37℃条件)のCO2インキュベーターにて培養を行った。もう1枚を低酸素条件(5%CO2、1%O2、37℃条件)の窒素ガスボンベを接続したマルチガスインキュベーターにて培養を行った。培養4日目に各条件の細胞を回収し、生理食塩液を用いて1.0×106 cells/mLおよび5.0×106 cells/mLの2種の細胞懸濁液に調製した。調製した細胞懸濁液と脂肪組織をそれぞれ表1の割合で混合し、24時間室温で静置した。
【0086】
【0087】
(4)発光基質を用いたFlucレポーターアッセイ
通常酸素条件Fluc脂肪MSC混合脂肪および低酸素条件Fluc脂肪MSC混合脂肪を96 well白色プレート(Corning社)に50μLずつ播種し、D-ルシフェリンカリウム溶液(富士フイルム和光純薬社)50μLと反応させた。マイクロプレートリーダーで発光量を測定した。
【0088】
(5)通常酸素条件と低酸素条件の比較
通常酸素条件(条件A)に対する低酸素条件(条件B)の発光量を算出した。Fluc脂肪MSCの細胞濃度に関らず、通常酸素条件と比較して、低酸素培養条件では、Fluc脂肪MSCの割合が2.5%以上で24時間後の残存率が高かった。結果を表2に示す。
【0089】
【0090】
<実施例4:脂肪組織と混合する脂肪間葉系幹細胞数の検討>
実施例3の(1)~(4)と同様の実験を行い、脂肪に対するMSCの細胞数で通常酸素条件(条件A)に対する低酸素条件(条件B)の発光量を算出、評価した。通常酸素条件と比較して、低酸素培養条件では、Fluc脂肪MSCの細胞数が2.6×104cells以上の場合に24時間後の残存率が高かった。結果を表3に示す。
【0091】