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特開2024-14436情報処理システム、風速の減衰乱れ効果推定方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014436
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】情報処理システム、風速の減衰乱れ効果推定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   F03D 17/00 20160101AFI20240125BHJP
【FI】
F03D17/00
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117258
(22)【出願日】2022-07-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「洋上風力発電の採算性と耐久性の最適設計に資する日本型ウエイクモデルの開発と大型商用風車を活用した精度検証」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】518425612
【氏名又は名称】ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】馬場 好孝
(72)【発明者】
【氏名】村上 礼雄
(72)【発明者】
【氏名】肥▲高▼ 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 将英
(72)【発明者】
【氏名】内田 孝紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼桑 晋
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 慶一郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 聖矢
(72)【発明者】
【氏名】藤川 凛太郎
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB12
3H178BB31
3H178BB65
3H178CC25
3H178DD12Z
3H178DD52X
3H178DD54X
3H178EE02
3H178EE05
3H178EE10
3H178EE22
3H178EE23
(57)【要約】
【課題】風力発電装置の後方の風況の予測を実態に即したものとすることで、実態に即していない予測に比べて予測結果の利用範囲を拡大させる。
【解決手段】管理サーバ50の制御部51では、風況情報取得部501が、複数枚のブレードを回転させる風車に流入する流入風の状況に関する風況情報を取得し、ウエイク情報取得部503が、ブレードの回転に起因する流入風の風速の減衰、風向、および乱れの効果に関するウエイク情報を取得する。取得された風況情報およびウエイク情報は、教師データとして記憶される。また、制御部51では、モデル生成部504が、入力された風況情報に応じた効果情報を出力する学習モデルを教師データに基づいて生成し、ウエイク推定部505が、学習モデルを用いて、1または複数の風車の各々の風況情報から、流入風の風速の減衰、風向き、および乱れの効果を推定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または複数のプロセッサを備え、
前記1または複数のプロセッサは、
複数枚のブレードを回転させる風車に流入する流入風の状況に関する風況情報と、当該ブレードの回転に起因する当該流入風の風速の減衰、風向き、および乱れの効果に関する効果情報とを教師データとして記憶させる制御を行い、
入力された前記風況情報に応じた前記効果情報を出力する学習モデルを前記教師データに基づいて生成し、
前記学習モデルを用いて、1または複数の前記風車の各々の前記風況情報から前記効果を推定することを特徴とする、
情報処理システム。
【請求項2】
前記1または複数のプロセッサは、
前記学習モデルを用いて、予め定められた領域に設置される複数の前記風車の各々の前記風況情報から前記効果を推定することを特徴とする、
請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項3】
前記1または複数のプロセッサは、
前記領域で前記複数の風車が前後に縦列に並んで設置されている場合、前側に設置された風車の前記効果情報を含む前記風況情報から、後側に設置された風車の前記効果を推定することを特徴とする、
請求項2に記載の情報処理システム。
【請求項4】
前記風況情報および前記効果情報は、前記風速、風向、乱れ、温度、および圧力の各々を示す情報のうち1または複数の情報の組み合わせであることを特徴とする、
請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項5】
前記風況情報および前記効果情報は、前記風車の高さ方向の予め定められた複数の位置の各々について取得されることを特徴とする、
請求項4に記載の情報処理システム。
【請求項6】
前記風況情報および前記効果情報は、前記風車の水平方向の予め定められた複数の位置の各々についてさらに取得されることを特徴とする、
請求項5に記載の情報処理システム。
【請求項7】
前記1または複数のプロセッサは、
前記風車に関する風車情報をさらに含む情報を前記教師データとして記憶させる制御を行い、
前記教師データに基づいて、入力された前記風況情報および前記風車情報に応じた前記効果情報を出力する前記学習モデルを生成することを特徴とする、
請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項8】
前記風車情報は、前記風車の高さ、設置場所、ロータ径、モータ回転数、前記ブレードのピッチ角、ねじり角の各々を示す情報、および当該風車の制御に関する情報のうち1または複数の情報の組み合わせであることを特徴とする、
請求項7に記載の情報処理システム。
【請求項9】
複数枚のブレードを回転させる風車に流入する流入風の状況に関する風況情報と、当該ブレードの回転に起因する当該流入風の風速の減衰および乱れの効果に関する効果情報とを教師データとして記憶させる制御を行い、
入力された前記風況情報に応じた前記効果情報を出力する学習モデルを前記教師データに基づいて生成し、
前記学習モデルを用いて、1または複数の前記風車の各々の前記風況情報から前記効果を推定することを特徴とする、
風速の減衰乱れ効果推定方法。
【請求項10】
コンピュータに、
複数枚のブレードを回転させる風車に流入する流入風の状況に関する風況情報と、当該ブレードの回転に起因する当該流入風の風速の減衰および乱れの効果に関する効果情報とを含む教師データを取得する機能と、
入力された前記風況情報に応じた前記効果情報を出力する学習モデルを前記教師データに基づいて生成する機能と、
を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理システム、風速の減衰乱れ効果推定方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置の前方の風況を入力して、その風力発電装置の後方の風況を予測するための風況モデルを生成する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-218937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の風力発電装置の後方の風況の予測では、風車の羽であるブレードの回転に起因とする風向の変化や風の乱れが考慮されないため、実態に即した予測が実現されず、予測結果の利用範囲が限定されていた。
【0005】
本発明の目的は、風力発電装置の後方の風況の予測を実態に即したものとすることで、実態に即していない予測に比べて予測結果の利用範囲を拡大させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載された発明は、1または複数のプロセッサを備え、前記1または複数のプロセッサは、複数枚のブレードを回転させる風車に流入する流入風の状況に関する風況情報と、当該ブレードの回転に起因する当該流入風の風速の減衰、風向き、および乱れの効果に関する効果情報とを教師データとして記憶させる制御を行い、入力された前記風況情報に応じた前記効果情報を出力する学習モデルを前記教師データに基づいて生成し、前記学習モデルを用いて、1または複数の前記風車の各々の前記風況情報から前記効果を推定することを特徴とする、情報処理システムである。
請求項2に記載された発明は、前記1または複数のプロセッサは、前記学習モデルを用いて、予め定められた領域に設置される複数の前記風車の各々の前記風況情報から前記効果を推定することを特徴とする、請求項1に記載の情報処理システムである。
請求項3に記載された発明は、前記1または複数のプロセッサは、前記領域で前記複数の風車が前後に縦列に並んで設置されている場合、前側に設置された風車の前記効果情報を含む前記風況情報から、後側に設置された風車の前記効果を推定することを特徴とする、請求項2に記載の情報処理システムである。
請求項4に記載された発明は、前記風況情報および前記効果情報は、前記風速、風向、乱れ、温度、および圧力の各々を示す情報のうち1または複数の情報の組み合わせであることを特徴とする、請求項1に記載の情報処理システムである。
請求項5に記載された発明は、前記風況情報および前記効果情報は、前記風車の高さ方向の予め定められた複数の位置の各々について取得されることを特徴とする、請求項4に記載の情報処理システムである。
請求項6に記載された発明は、前記風況情報および前記効果情報は、前記風車の水平方向の予め定められた複数の位置の各々についてさらに取得されることを特徴とする、請求項5に記載の情報処理システムである。
請求項7に記載された発明は、前記1または複数のプロセッサは、前記風車に関する風車情報をさらに含む情報を前記教師データとして記憶させる制御を行い、前記教師データに基づいて、入力された前記風況情報および前記風車情報に応じた前記効果情報を出力する前記学習モデルを生成することを特徴とする、請求項1に記載の情報処理システムである。
請求項8に記載された発明は、前記風車情報は、前記風車の高さ、設置場所、ロータ径、モータ回転数、前記ブレードのピッチ角、ねじり角の各々を示す情報、および当該風車の制御に関する情報のうち1または複数の情報の組み合わせであることを特徴とする、請求項7に記載の情報処理システムである。
請求項9に記載された発明は、複数枚のブレードを回転させる風車に流入する流入風の状況に関する風況情報と、当該ブレードの回転に起因する当該流入風の風速の減衰および乱れの効果に関する効果情報とを教師データとして記憶させる制御を行い、入力された前記風況情報に応じた前記効果情報を出力する学習モデルを前記教師データに基づいて生成し、前記学習モデルを用いて、1または複数の前記風車の各々の前記風況情報から前記効果を推定することを特徴とする、風速の減衰乱れ効果推定方法である。
請求項10に記載された発明は、コンピュータに、複数枚のブレードを回転させる風車に流入する流入風の状況に関する風況情報と、当該ブレードの回転に起因する当該流入風の風速の減衰および乱れの効果に関する効果情報とを含む教師データを取得する機能と、入力された前記風況情報に応じた前記効果情報を出力する学習モデルを前記教師データに基づいて生成する機能と、を実現させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の本発明によれば、風車の後方の風況の予測を実態に即したものとすることで、実態に即していない予測に比べて予測結果の利用範囲を拡大させる情報処理システムを提供できる。また、風向や風速が時々刻々と変化する複雑な風況においても、風車の後方の領域の風況の予測を精度良く行うことが可能になる。これにより、例えば、風車が風力発電装置の風車である場合には、風況の変化が発電量に与える影響や、風力発電装置の故障のリスクをより精緻に評価することができるようになる、その結果、O&M(オペレーション アンド メンテナンス)コストの削減や、風力発電装置の最適な配置を実現させ、経済性を向上させることが可能になる。
請求項2の本発明によれば、学習モデルを用いて、風車の後方の領域に設置される複数の風車の各々の風況の予測を実態に即したものとすることができる。具体的には、例えば、複数の風車が風力発電装置の風車である場合には、複数の風車の後方の領域の風況が相互作用する場合においても、より精緻に年間発電量を評価することが可能になる。また、例えば、風力発電装置の建設現場の的確な選定や、複数の風力発電装置を設置する際の全体的なレイアウト、複数の風力発電装置の大きさ、数量等の的確な選定に寄与させることができる。
請求項3の本発明によれば、学習モデルを用いて、前後に縦列に並んだ複数の風車の各々の後方の風況の予測を実態に即したものとすることができる。
請求項4の本発明によれば、風車の後方の風況として、風速、風向、乱れ、温度、および圧力の予測を実態に即したものとすることができる。
請求項5の本発明によれば、風車の高さ方向の複数の位置の各々にて取得される風況情報および効果情報に基づいて、風車の後方の風況の予測を実態に即したものとすることができる。
請求項6の本発明によれば、風車の水平方向の複数の位置の各々にて取得される風況情報および効果情報に基づいて、風車の後方の風況の予測を実態に即したものとすることができる。すなわち、風車の高さ方向の風況情報と、風車の水平方向の風況情報とを合わせた情報により、3次元空間のウエイクの推定が可能になる。
請求項7の本発明によれば、風車情報が考慮された学習モデルを用いて、風車の後方の風況の予測を実態に即したものとすることができる。
請求項8の本発明によれば、風車情報として、風車の高さ、設置場所、ロータ径、モータ回転数、ブレードのピッチ角、ねじり角の各々を示す情報、および当該風車の制御に関する情報が考慮された学習モデルを用いて、風車の後方の風況の予測を実態に即したものとすることができる。
請求項9の本発明によれば、風車の後方の風況の予測を実態に即したものとすることで、実態に即していない予測に比べて予測結果の利用範囲を拡大させることができる。
請求項10の本発明によれば、風車の後方の風況の予測を実態に即したものとすることで、実態に即していない予測に比べて予測結果の利用範囲を拡大させるプログラムを提供できる。具体的には、例えば、学習モデルをシミュレーションソフトに組み込むことで、風車の後方の風況の変化が考慮された、より精緻な風況解析が可能となる。また、例えば、学習モデルをスクリプトファイルとしてユーザの端末で実行できるようにすることができる。この場合、ユーザは、風況に関する情報や風車に関する情報(例えばロータの径など)を入力するだけで、風車の後方の風況の変化に起因する風速減衰率や乱れの度合いなどを短時間かつ簡易的に知得できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施の形態が適用される情報処理システムの全体構成の一例を示す図である。
図2】本実施の形態が適用される情報処理装置としての管理サーバのハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】管理サーバの制御部の機能構成の一例を示す図である。
図4】ユーザ端末の制御部の機能構成の一例を示す図である。
図5】管理サーバの処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図6】ユーザ端末の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7】ウエイクモデルの生成に必要となる教師データの具体例を示す図である。
図8】ウエイクモデルの具体例を示すイメージ図である。
図9】ウエイクモデルの具体例を示すイメージ図である。
図10】ウエイクモデルの具体例を示すイメージ図である。
図11】本実施の形態のウエイクモデルを用いた風洞試験の結果をグラフで示した図である。
図12】本実施の形態のウエイクモデルを用いた風力発電装置のウエイクの推定結果と、従来モデルを用いたウエイクの推定結果とをグラフで示した図である。
図13】風力発電装置が前後に縦列に複数設置されている場合の具体例を示す図である。
図14】ウエイク情報の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(情報処理システムの構成)
図1は、本実施の形態が適用される情報処理システム1の全体構成の一例を示す図である。
情報処理システム1は、測定装置10-1乃至10-n(nは2以上の整数値)と、ユーザ端末30と、管理サーバ50とがネットワーク90を介して接続されることにより構成されている。ネットワーク90は、例えば、LAN(Local Area Network)、インターネット等である。なお、測定装置10-1乃至10-nの各々を個別に説明する必要がない場合、これらをまとめて測定装置10と呼ぶ。
【0010】
情報処理システム1を構成する測定装置10は、風の性質を計測する装置である。測定装置10としては、例えば、LiDAR(Light Detection and Ranging)等の技術を採用した機器など一般的な機器が用いられる。LiDARは、光を用いたリモートセンシング技術である。具体的には、上空に向けて赤外領域のレーザを照射し、そのレーザが大気中の粉塵や水滴等に反射すると、ドップラー効果による波長のズレを利用して風速や風向等を計測する。LiDARは、高度40m(メートル)乃至300m程度の風の状況を計測する。
【0011】
本実施の形態において、測定装置10は、複数枚のブレードを回転させる風車を有する風力発電装置Wに流入する流入風の状況(以下、「風況」と呼ぶ。)を計測する。測定装置10による流入風の風況の計測結果は、流入風の風況に関する情報(以下、「風況情報」と呼ぶ。)としてユーザ端末30に向けて送信される。風況情報には、例えば、風速および風向の瞬間値(例えば、1秒)、風速および風向の平均値(例えば、10分)、気温、気圧、湿度等が含まれる。
【0012】
また、測定装置10は、風力発電装置Wの風車のブレードの回転に起因する流入風の風速の減衰、風向の変化、および乱れの効果(以下、このような効果のことを「ウエイク」と呼ぶ。)を計測する。すなわち、ウエイクは、風力発電装置Wの前方から流入した流入風が受ける風速の減衰、風向の変化、および乱れの効果であり、風力発電装置Wの後方の領域で発生する。以下、ウエイクが発生している風力発電装置Wの後方の領域のことを「ウエイク領域」と呼ぶ。測定装置10によるウエイクの計測結果は、ウエイクに関する情報(以下、「ウエイク情報」と呼ぶ。)としてユーザ端末30に向けて送信される。ウエイク情報には、風速、風向、乱れ、温度、圧力、渦スケール等の情報が含まれる。
【0013】
情報処理システム1を構成するユーザ端末30は、ユーザが操作するパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等の情報処理装置である。ユーザ端末30は、測定装置10から送信されてきた風況情報およびウエイク情報を取得し、それらの情報を管理サーバ50に向けて送信する。また、ユーザ端末30は、風力発電装置Wの風車に関する情報(以下、「風車情報」と呼ぶ。)を取得し、その情報を管理サーバ50に向けて送信する。風車情報には、例えば、風力発電装置Wの風車の高さ、設置場所、複数のブレードを連結させる回転軸であるハブの高さ、ブレードとハブとで構成される風車の回転部分であるロータの径、風車の出力曲線であるパワーカーブに関する情報、ブレードの回転数、スラスト係数、ブレードのピッチ角、ねじり角、ヨー角等の情報が含まれる。
【0014】
また、ユーザ端末30は、ウエイクの推定の対象として指定された風力発電装置Wの風況情報と風車情報とを入力する操作を受け付け、その風況情報および風車情報を管理サーバ50に向けて送信する。そして、ユーザ端末30は、管理サーバ50から、ウエイクの推定の対象として指定された風力発電装置Wのウエイクの推定に関する情報(以下、「ウエイク推定情報」と呼ぶ。)が送信されてくると、そのウエイク推定情報を取得して表示する。ウエイク推定情報には、風速の低下の度合、風速の回復の度合等の情報が含まれる。なお、ユーザ端末30の構成や処理の詳細については後述する。
【0015】
情報処理システム1を構成する管理サーバ50は、情報処理システム1の全体の管理をするサーバとしての情報処理装置である。本実施の形態において、管理サーバ50は、ユーザ端末30から送信されてきた風況情報とウエイク情報とを取得し、教師データとしてデータベースに記憶する。また、管理サーバ50は、外部から送信されてきた風車情報を取得し、教師データとしてデータベースに記憶する。次に、管理サーバ50は、データベースに記憶されている教師データに基づいて、風況情報を入力するとウエイク情報を出力する学習モデル(以下、「ウエイクモデル」と呼ぶ。)を生成する。
【0016】
また、管理サーバ50は、ユーザ端末30から、ウエイクの推定の対象として指定された風力発電装置Wの風況情報および風車情報が送信されてくると、それらの情報を取得する。そして、管理サーバ50は、生成したウエイクモデルを用いて、ウエイクの推定の対象として指定された風力発電装置Wの風況情報および風車情報からその風力発電装置Wのウエイクを推定する。管理サーバ50は、ウエイクの推定結果をウエイク推定情報としてユーザ端末30に向けて送信するとともに、データベースに記憶する。
【0017】
なお、上述の情報処理システム1の構成は一例であり、情報処理システム1全体として上述の処理を実現させる機能を備えていればよい。このため、上述の処理を実現させる機能のうち、一部または全部を情報処理システム1内の各装置や機器で分担してもよいし協働してもよい。すなわち、ユーザ端末30の機能の一部または全部を管理サーバ50の機能としてもよいし、また、管理サーバ50の機能の一部または全部をユーザ端末30の機能としてもよい。さらに、情報処理システム1を構成するユーザ端末30および管理サーバ50の各々の機能の一部または全部を、図示せぬ他のサーバ等に移譲してもよい。これにより、情報処理システム1全体としての処理が促進され、また、処理を補完し合うことも可能となる。
【0018】
(管理サーバのハードウェア構成)
図2は、本実施の形態が適用される情報処理装置としての管理サーバ50のハードウェア構成の一例を示す図である。
管理サーバ50は、制御部51と、メモリ52と、記憶部53と、通信部54と、操作部55と、表示部56とを有している。これらの各部は、データバス、アドレスバス、PCI(Peripheral Component Interconnect)バス等で接続されている。
【0019】
制御部51は、OS(基本ソフトウェア)やアプリケーションソフトウェア(応用ソフトウェア)等の各種ソフトウェアの実行を通じてユーザ端末30の機能の制御を行うプロセッサである。制御部51は、例えばCPU(Central Processing Unit)で構成される。メモリ52は、各種ソフトウェアやその実行に用いるデータ等を記憶する記憶領域であり、演算に際して作業エリアとして用いられる。メモリ52は、例えばRAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0020】
記憶部53は、各種ソフトウェアに対する入力データや各種ソフトウェアからの出力データ等を記憶する記憶領域である。記憶部53は、例えばプログラムや各種設定データなどの記憶に用いられるHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、半導体メモリ等で構成される。記憶部53には、各種情報を記憶するデータベースとして、例えば、教師データが記憶された教師DB531、ウエイクモデルが記憶されたモデルDB532、ウエイク推定情報が記憶された推定結果DB533等が格納されている。
【0021】
通信部54は、ネットワーク90を介して管理サーバ50および外部との間でデータの送受信を行う。操作部55は、例えばキーボード、マウス、機械式のボタン、スイッチで構成され、入力操作を受け付ける。操作部55には、表示部56と一体的にタッチパネルを構成するタッチセンサも含まれる。表示部56は、例えば情報の表示に用いられる液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイで構成され、画像やテキストのデータなどを表示する。表示部56には、ワークスペース、検索用のユーザインターフェース等が表示される。
【0022】
(ユーザ端末のハードウェア構成)
ユーザ端末30のハードウェア構成は、いずれも図2に示す管理サーバ50のハードウェア構成と同様の構成を備えている。すなわち、ユーザ端末30は、図2の制御部51、メモリ52、記憶部53、通信部54、操作部55、および表示部56の各々と同様の機能を有する、制御部、メモリ、記憶部、通信部、操作部、および表示部の各々を備えている。このため、ユーザ端末30のハードウェア構成の図示および説明を省略する。
【0023】
(管理サーバの制御部の機能構成)
図3は、管理サーバ50の制御部51の機能構成の一例を示す図である。
管理サーバ50の制御部51では、風況情報取得部501と、風車情報取得部502と、ウエイク情報取得部503と、モデル生成部504と、ウエイク推定部505と、送信制御部506とが機能する。
【0024】
風況情報取得部501は、ユーザ端末30から送信されてきた風況情報を、通信部54(図2参照)を介して取得する。風況情報取得部501により取得された風況情報は、教師データとしてデータベース(例えば、図2の教師DB531)に記憶されて管理される。なお、風況情報取得部501により取得される風況情報には、教師データとしてのみ取得されるものと、ウエイクの推定のために取得されるものとが含まれる。教師データとしてのみ取得される風況情報としては、例えば、風洞試験データ、流体解析(CFD/Computational Fluid Dynamics)データ、LiDAR計測データ等が挙げられる。なお、ウエイクの推定のために取得された風況情報も、教師データとしてデータベースに記憶される。
【0025】
風車情報取得部502は、ユーザ端末30から送信されてきた風車情報を、通信部54を介して取得する。風車情報取得部502により取得された風況情報は、教師データとしてデータベース(例えば、図2の教師DB531)に記憶されて管理される。なお、風車情報取得部502により取得される風車情報には、教師データとしてのみ取得されるものと、ウエイクの推定のために取得されるものとが含まれる。なお、ウエイクの推定のために取得された風車情報も、教師データとしてデータベースに記憶される。
【0026】
ウエイク情報取得部503は、ユーザ端末30から送信されてきたウエイク情報を取得する。ウエイク情報取得部503により取得されたウエイク情報は、教師データとしてデータベース(例えば、図2の教師DB531)に記憶されて管理される。
【0027】
モデル生成部504は、データベース(例えば、図2の教師DB531)に記憶されている教師データに基づいて、ウエイクモデルを生成する。モデル生成部504は、ウエイクモデルとして、例えば、勾配ブースティングを使用した機械学習モデル、ニューラルネットワークを用いた深層学習モデル等を生成する。モデル生成部504により生成されたウエイクモデルはデータベース(例えば、図2のモデルDB532)に記憶されて管理される。
【0028】
モデル生成部504がウエイクモデルを生成するために用いる手法は特に限定されない。例えば、モデル生成部504は、教師データに含まれる風況情報、風車情報、およびウエイク情報の相関関係を機械学習する手法等を用いてウエイクモデルを生成する。モデル生成部504により生成されるウエイクモデルは一様ではなく、風力発電装置Wの大きさ、設置環境、設置数、複数の風力発電装置Wのレイアウト(配置の態様、風力発電装置W同士の距離)等に応じた複数種類のウエイクモデルが生成される。
【0029】
ウエイク推定部505は、モデル生成部504により生成されたウエイクモデルを用いて、ウエイクの推定の対象として指定された風力発電装置の風況情報および風車情報から、その風力発電装置のウエイクを推定する。具体的には、ウエイク推定部505は、ウエイクの推定の対象として指定された風力発電装置の風況情報および風車情報をウエイクモデルに入力してウエイク推定情報を出力する。なお、ウエイク推定情報の具体例については、図11および図12を参照して後述する。
【0030】
送信制御部506は、通信部54を介して各種情報を送信する制御を行う。例えば、送信制御部506は、ウエイク推定部505によるウエイクの推定結果であるウエイク推定情報をユーザ端末30に向けて送信する制御を行う。
【0031】
(ユーザ端末の制御部の機能構成)
図4は、ユーザ端末30の制御部の機能構成の一例を示す図である。
ユーザ端末30の制御部では、情報取得部301と、送信制御部302と、表示制御部303とが機能する。
【0032】
情報取得部301は、通信部を介して各種情報を取得する。具体的には、情報取得部301は、測定装置10から送信されてきた風況情報およびウエイク情報を取得する。また、情報取得部301は風車情報を取得する。風車情報は、ユーザ端末30の記憶部に予め記憶されている場合や、外部から取得される場合等がある。また、情報取得部301は、管理サーバ50から送信されてきた各種情報を取得する。管理サーバ50から送信されてくる情報としては、例えば、ウエイク推定情報等が挙げられる。
【0033】
送信制御部302は、通信部を介して管理サーバ50や外部に各種情報を送信する制御を行う。送信制御部302により送信が制御される情報としては、例えば、風況情報、風車情報、ウエイク情報等が挙げられる。
【0034】
表示制御部303は、各種情報を表示部に表示する制御を行う。例えば、表示制御部303は、ユーザインターフェースを表示部に表示する制御を行う。ユーザインターフェースには、例えば、ウエイク推定情報が表示される。なお、ユーザインターフェースに表示されたウエイク推定情報の具体例については、図11および図12を参照して後述する。
【0035】
(管理サーバの処理の流れ)
図5は、管理サーバ50の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
管理サーバ50は、ユーザ端末30から風況情報およびウエイク情報が送信されてくると(ステップ501でYES)、その風況情報およびウエイク情報を取得し、教師データとしてデータベースに記憶する(ステップ502)。これに対して、風況情報およびウエイク情報が送信されてきていない場合(ステップ501でNO)、管理サーバ50は、ユーザ端末30から風況情報およびウエイク情報が送信されてくるまでステップ501を繰り返す。
【0036】
管理サーバ50は、ユーザ端末30から風車情報が送信されてくると(ステップ503でYES)、その情報を取得し、教師データとしてデータベースに記憶する(ステップ504)。これに対して、風車情報が送信されてきていない場合(ステップ503でNO)、管理サーバ50は、ユーザ端末30から風車情報が送信されてくるまでステップ503を繰り返す。そして、管理サーバ50は、データベースに記憶されている教師データに基づいて、ウエイクモデルを生成する(ステップ505)。
【0037】
管理サーバ50は、ユーザ端末30から、ウエイクの推定の対象として指定された風力発電装置の風況情報および風車情報が送信されてくると(ステップ506でYES)、その風況情報および風車情報を取得する(ステップ507)。これに対して、ウエイクの推定の対象として指定された風力発電装置の風況情報および風車情報が送信されてきていない場合(ステップ506でNO)、管理サーバ50は、ウエイクの推定の対象として指定された風力発電装置の風況情報および風車情報が送信されてくるまでステップ506を繰り返す。次に、管理サーバ50は、ステップ505で生成したウエイクモデルを用いて、風力発電装置の風況情報および風車情報からその風力発電装置のウエイクを推定する(ステップ508)。次に、管理サーバ50は、ウエイクの推定結果をウエイク推定情報としてユーザ端末30に向けて送信する(ステップ509)。
【0038】
(ユーザ端末の処理の流れ)
図6は、ユーザ端末30の処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、図6の例では、ユーザ端末30が外部から風車情報を取得して管理サーバ50に向けて送信するものとする。
ユーザ端末30は、ユーザインターフェースを表示部に表示させるための入力操作が行われると(ステップ601でYES)、その入力操作を受け付けて(ステップ602)、表示部にユーザインターフェースを表示する(ステップ603)。これに対して、ユーザインターフェースを表示部に表示させるための入力操作が行われていない場合(ステップ601でNO)、ユーザ端末30は、ユーザインターフェースを表示部に表示させるための入力操作が行われるまでステップ601を繰り返す。
【0039】
ユーザ端末30は、測定装置10から風況情報およびウエイク情報が送信されてくると(ステップ604でYES)、その風況情報およびウエイク情報を取得する(ステップ605)。そして、ユーザ端末30は、取得した風況情報およびウエイク情報を管理サーバ50に向けて送信する(ステップ606)。これに対して、測定装置10から風況情報およびウエイク情報が送信されてきていない場合(ステップ604でNO)、ユーザ端末30は、測定装置10から風況情報およびウエイク情報が送信されてくるまでステップ604を繰り返す。
【0040】
また、ユーザ端末30は、外部から風車情報が送信されてくると(ステップ607でYES)、その風車情報を取得する(ステップ608)。そして、ユーザ端末30は、取得した風車情報を管理サーバ50に向けて送信する(ステップ609)。これに対して、外部から風車情報が送信されてきていない場合(ステップ607でNO)、ユーザ端末30は、外部から風車情報が送信されてくるまでステップ607を繰り返す。
【0041】
ユーザ端末30は、管理サーバ50からウエイク推定情報が送信されてくると(ステップ610でYES)、そのウエイク推定情報を取得する(ステップ611)。そして、ユーザ端末30は、取得したウエイク推定情報をユーザインターフェースに表示する(ステップ612)。これに対して、管理サーバ50からウエイク推定情報が送信されてきていない場合(ステップ610でNO)、ユーザ端末30は、管理サーバ50からウエイク推定情報が送信されてくるまでステップ610を繰り返す。
【0042】
(具体例)
図7は、ウエイクモデルの生成に必要となる教師データの具体例を示す図である。
教師データのうち風況情報は、風力発電装置Wに流入する流入風に関する情報であり、例えば、図7に示す「平均風速」、「乱れ」、「風向」が含まれる。これらの風況情報は、風力発電装置Wの前方の計測位置における、風力発電装置Wの高さ方向の予め定められた複数の位置の各々について計測される。すなわち、図7に示すように、「流入風計測位置」と表記された位置に、図1の測定装置10が設置される。そして、高度の異なる複数の位置(黒丸表示)の各々の風況情報としての「平均風速」(u,u,u・・・)、「乱れ」(u´,u´,u´・・・)、および「風向」(d,d,d・・・)が計測される。
【0043】
また、教師データのうちウエイク情報は、風力発電装置Wに流入した流入風の風速の減衰、風向の変化に関する情報であり、例えば、図7に示す「平均風速」、「乱れ」、「風向」が含まれる。これらのウエイク情報は、風力発電装置Wの後方の計測位置における、風力発電装置Wの高さ方向の予め定められた複数の位置の各々について計測される。すなわち、図7に示すように、「ウエイク計測位置A」と表記された位置および「ウエイク計測位置B」と表記された位置の各々に、図1の測定装置10が設置される。そして、高度の異なる複数の位置(白丸表示)の各々のウエイク情報としての「平均風速」(v,v,v・・・)、「乱れ」(v´,v´,v´・・・)、および「風向」(f,f,f・・・)が計測される。なお、図7の例では、ウエイク情報を計測する位置は2箇所(ウエイク計測位置AおよびB)であるが、1箇所あるいは3箇所以上であってもよい。
【0044】
図7に示す「流入風計測位置」で計測された風況情報と、「ウエイク計測位置A」および「ウエイク計測位置B」の各々で計測されたウエイク情報とは、上述のように教師データとしてデータベース(例えば、図2の管理サーバ50の教師DB531)に記憶される。そして、図1の管理サーバ50が、データベースに記憶されている教師データに基づいて、ウエイクモデルを生成する。
【0045】
図8乃至図10は、ウエイクモデルの具体例を示すイメージ図である。
上述ように、ウエイクモデルは、風況情報を入力するとウエイク情報を出力する機械学習モデルである。図8に示すように、風況情報として、流入風の平均風速、乱れ、および風向がウエイクモデルに入力されると、ウエイク推定情報として、ウエイク領域の平均風速、乱れ、および風向の各々の推定結果が出力される。この入出力を利用したウエイクの推定は、予め定められたタイミング(例えば、10分ごと)で行うことができる。
【0046】
図9には、ウエイクモデルとしての回帰モデルの例が示されている。なお、図9の例、および後述する図10の例において、「流入風」の列の「レコード」は、風況情報の単位を示している。また、「風速[m/s]」の列、「乱れ[m/s]」の列、および「風向[°]」の各々の列の「42」乃至「300」は、いずれも風力発電装置Wの高さ方向の計測位置の高度を示している。例えば、「42」は、高度42m(メートル)の計測位置を示し、「300」は、高度300mの計測位置を示している。また、ウエイク情報の「2Dウエイク」、「3Dウエイク」、および「4Dウエイク」の各々は、風力発電装置Wの後方の複数の位置に設置された、図1の3つの測定装置10の各々のウエイク推定情報を示している。
【0047】
ウエイクモデルが回帰モデルである場合、レコードごとの風況情報として、太枠で囲まれた風速、乱れ、および風向が入力される。すると、入力された風況情報が説明変数となり、レコードごとのウエイク情報のうち1の計測位置のウエイク推定情報が出力される。具体的には、太枠で囲まれた高度42mの計測位置の風速のみが目的変数として出力される。このように、ウエイクモデルが回帰モデルである場合には、計測位置ごとに1のウエイク情報の推定が順次行われる。
【0048】
図10には、ウエイクモデルが多層ニューラルネットワークを用いたディープラーニング(深層学習)モデルである場合の例が示されている。この場合も図9の例と同様に、レコードごとの風況情報として、太枠で囲まれた風速、乱れ、および風向が入力される。すると、入力された風況情報に対し、レコードごとのウエイクの推定値のすべてが出力される。具体的には、太枠で囲まれた高度42m乃至300mの各々の計測位置の風速、乱れ、および風向の推定値がウエイク推定情報として出力される。このように、ウエイクモデルが多層ニューラルネットワークを用いたディープラーニング(深層学習)モデルである場合には、計測位置ごとのすべてのウエイク推定情報が一括で出力される。
【0049】
図11は、本実施の形態のウエイクモデルを用いた風洞試験の結果をグラフで示した図である。
図11のグラフにおいて、横軸は風速の実測値を示し、縦軸はウエイクモデルの推定結果である風速の予測値を示している。また、凡例に記載された「Inflow」は、グラフにプロットされた直線により示される流入風である。具体的には、「Inflow」は、風力発電装置Wのロータの径×1の距離の位置で計測された風況情報(風速)である。また、「Wake 3D」、「Wake 6D」、および「Wake 9D」は、風力発電装置Wの後方の異なる3箇所の各々に設置された測定装置の各々の風速の予測値を示している。図11に示すように、ウエイクモデルの相対誤差率は1.43%であり、誤差の少ない高精度の推定が可能になっている。
【0050】
図12は、本実施の形態のウエイクモデルを用いた風力発電装置Wのウエイクの推定結果と、従来モデルを用いたウエイクの推定結果とをグラフで示した図である。
図12のグラフも上述の図11のグラフと同様に、横軸は風速の実測値を示し、縦軸はウエイクモデルの推定結果である風速の予測値を示している。また、凡例に記載された「Wake 2D」および「Wake 3D」は、風力発電装置Wの後方の異なる2箇所の各々に設置された、図1の測定装置10の各々の風速の予測値を示している。
【0051】
図12に示すように、従来モデルは、実測値に対して予測値が低くなる傾向にあり、相対誤差率は約8.6%となっている。これに対して、本実施の形態のウエイクモデルの相対誤差率は約4.6%であり、従来モデルよりもウエイクモデルの方が誤差の少ない高精度の推定が可能になっている。これは、従来モデルは、構造上ウエイク領域の平均風速以外を予測する事ができないのに対し、本実施の形態のウエイクモデルは、風の乱れ等を予測できるためである。
【0052】
図13は、風力発電装置が前後に縦列に複数設置されている場合の具体例を示す図である。
図13の例では、風力発電装置W1乃至W3が、その順番で前後に縦列に設置されている。この場合、風力発電装置W1に流入した流入風は、風力発電装置W1のブレードの回転によってウエイクが発生し、そのウエイクを含む流入風が風力発電装置W2に流入する。さらに、風力発電装置W2に流入した流入風は、風力発電装置W2のブレードの回転によってウエイクが発生し、そのウエイクを含む流入風が風力発電装置W3に流入する。
【0053】
すなわち、風力発電装置W2およびW3の各々に流入する流入風は、風力発電装置W1およびW2の各々のウエイク領域に発生したウエイクが含まれる。このため、風力発電装置W2およびW3の各々のウエイクを推定する場合、ウエイクモデルに入力される風況情報は、風力発電装置W1およびW2の各々のウエイク領域に発生したウエイクが考慮された情報となる。すなわち、本実施の形態のウエイクモデルによれば、ウエイクの推定を行う際、複数の風力発電装置の各々のウエイクの影響が考慮されるので、実態に即した運用が可能なり、推定結果の利用範囲が広がる。
【0054】
図14は、ウエイク情報の具体例を示す図である。
図14のグラフは、横軸の「Wind speed」が風速(m/s)を示しており、縦軸の「Height」が高度(m)を示している。また、「Rotor diameter D」はロータの径を示し、「Top tip」はブレードの最高地点の高度を示している。また、「Swept area」は流入風を受ける領域を示し、「Hub height」は設置面からロータまでの高度を示している。また、「Bottom tip」はブレードの最低地点の高度を示している。
【0055】
また、凡例に記載された「Inflow」は流入風を示し、「Wake 2D」および「Wake 3D」は、風力発電装置の後方の2箇所にその順番で設置された、図1の測定装置10の各々により計測された風速を示している。図14のグラフからは、風力発電装置の風車の高さにおける風速の低下が確認できる。また、風力発電装置に近い「Wake 2D」よりも、風力発電装置から遠い「Wake 3D」の方が風速が高い。すなわち、風力発電装置から離れるに従い風速が回復していることが確認できる。
【0056】
(他の実施の形態)
以上、本実施の形態について説明したが、本発明は上述した本実施の形態に限るものではない。また、本発明による効果も、上述した本実施の形態に記載されたものに限定されない。例えば、図1に示す情報処理システム1の構成、図2に示す管理サーバ50のハードウェア構成、図3の管理サーバ50の制御部51の機能構成、および図4のユーザ端末30の制御部の機能構成は、いずれも本発明の目的を達成するための例示に過ぎず、特に限定されない。上述した処理を全体として実行できる機能が図1の情報処理システム1に備えられていれば足り、この機能を実現するためにどのようなハードウェア構成および機能構成を用いるかは上述の例に限定されない。
【0057】
また、図5に示す管理サーバ50の処理のステップ、および図6に示すユーザ端末30の処理のステップの各々の順序も例示に過ぎず、特に限定されない。図示されたステップの順序に沿って時系列的に行われる処理だけではなく、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別的に行われてもよい。また、図7乃至図14に示す具体例も一例に過ぎず、特に限定されない。
【0058】
また、上述の実施の形態において、風況情報は、風力発電装置の前方の計測位置における、風力発電装置の高さ方向の予め定められた複数の位置の各々について計測されるが、これに限定されない。例えば、風況情報は、風力発電装置の前方の計測位置における、風力発電装置の水平方向の予め定められた複数の位置の各々について計測されるようにしてもよい。
【0059】
また、上述の実施の形態では、測定装置10において計測された風況情報およびウエイク情報は、ユーザ端末30を介して管理サーバ50に向けて送信されるが、これに限定されない。例えば、ユーザ端末30を介さずに測定装置10から管理サーバ50に向けて風況情報およびウエイク情報が送信されてもよい。
【0060】
また、上述の実施の形態では、ウエイクモデルを生成するための教師データとして、風況情報、風車情報、およびウエイク情報を取得する構成となっているが、これに限定されない。風況情報およびウエイク情報を教師データとするウエイクモデルが生成されてもよい。ただし、風車情報を含なまい教師データに基づき生成されたウエイクモデルよりも、風車情報を含む教師データに基づき生成されたウエイクモデルの方が、より精緻なウエイクの推定が可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1…情報処理システム、10…測定装置、30…ユーザ端末、50…管理サーバ、51…制御部、52…メモリ、53…記憶部、54…通信部、55…操作部、56…表示部、301…情報取得部、302…送信制御部、303…表示制御部、501…風況情報取得部、502…風車情報取得部、503…ウエイク情報取得部、504…モデル生成部、505…ウエイク推定部、506…送信制御部、90…ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2022-12-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または複数のプロセッサを備え、
前記1または複数のプロセッサは、
複数枚のブレードを回転させる風車に流入する流入風の状況に関する風況情報と、当該風車に関する風車情報と、当該ブレードの回転に起因する当該流入風の風速の減衰、風向き、および乱れの効果に関する効果情報とを、複数の当該風車から得られた教師データとして記憶させる制御を行い、
入力された前記風況情報および前記風車情報に応じた前記効果情報を出力する1の学習モデルを前記複数の風車から得られた教師データに基づいて生成し、
前記1の学習モデルを用いて、前記教師データの対象とされた前記風車とは異なる1または複数の前記風車の各々の前記風況情報および前記風車情報の入力情報から前記効果をそれぞれ推定することを特徴とする、
情報処理システム。
【請求項2】
前記1または複数のプロセッサは、
前記1の学習モデルを用いて、予め定められた領域に設置される複数の前記風車の各々の前記風況情報および前記風車情報の入力情報から前記効果をそれぞれ推定することを特徴とする、
請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項3】
前記1または複数のプロセッサは、
前記領域で前記複数の風車が前後に縦列に並んで設置されている場合、前側に設置された風車の前記効果情報を含む前記風況情報および前記風車情報の入力情報から、後側に設置された1以上の風車の前記効果をそれぞれ推定することを特徴とする、
請求項2に記載の情報処理システム。
【請求項4】
前記風況情報および前記効果情報の入力情報は、前記風速、風向、乱れ、温度、および圧力の各々を示す情報のうち1または複数の情報の組み合わせであることを特徴とする、
請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項5】
前記風況情報および前記効果情報の入力情報は、前記風車の高さ方向の予め定められた複数の位置の各々について取得されることを特徴とする、
請求項4に記載の情報処理システム。
【請求項6】
前記風況情報および前記効果情報は、前記風車の水平方向の予め定められた複数の位置の各々についてさらに取得されることを特徴とする、
請求項5に記載の情報処理システム。
【請求項7】
前記風車情報は、前記風車の高さ、設置場所、ロータ径、モータ回転数、前記ブレードのピッチ角、ねじり角の各々を示す情報、および当該風車の制御に関する情報のうち1または複数の情報の組み合わせであることを特徴とする、
請求項に記載の情報処理システム。
【請求項8】
複数枚のブレードを回転させる風車に流入する流入風の状況に関する風況情報と、当該風車に関する風車情報と、当該ブレードの回転に起因する当該流入風の風速の減衰および乱れの効果に関する効果情報とを、複数の当該風車から得られた教師データとして記憶させるステップと
入力された前記風況情報および前記風車情報に応じた前記効果情報を出力する1の学習モデルを前記複数の風車から得られた教師データに基づいて生成するステップと
前記1の学習モデルを用いて、前記教師データの対象とされた前記風車とは異なる1または複数の前記風車の各々の前記風況情報および前記風車情報の入力情報から前記効果をそれぞれ推定するステップと
を含む、風速の減衰乱れ効果推定方法。
【請求項9】
コンピュータに、
複数枚のブレードを回転させる風車に流入する流入風の状況に関する風況情報と、当該風車に関する風車情報と、当該ブレードの回転に起因する当該流入風の風速の減衰および乱れの効果に関する効果情報とを含む、複数の当該風車から得られた教師データを取得する機能と、
入力された前記風況情報および前記風車情報に応じた前記効果情報を出力する1の学習モデルを前記複数の風車から得られた教師データに基づいて生成する機能と、
前記1の学習モデルを用いて、前記教師データの対象とされた前記風車とは異なる1または複数の前記風車の各々の前記風況情報および前記風車情報の入力情報から前記効果をそれぞれ推定する機能と
を実現させるためのプログラム。