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  • 特開-アルミニウム合金 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144362
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】アルミニウム合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20241003BHJP
   C22C 21/12 20060101ALI20241003BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241003BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20241003BHJP
   B22F 1/065 20220101ALI20241003BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20241003BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20241003BHJP
【FI】
C22C21/00 N
C22C21/12
B22F1/00 N
B22F1/05
B22F1/065
B22F10/28
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024052565
(22)【出願日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】23164507
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】518314062
【氏名又は名称】ジー・エフ キャスティング ソリューションズ アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】GF Casting Solutions AG
【住所又は居所原語表記】Amsler-Laffon-Strasse 9, 8200 Schaffhausen, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン ヴィアシュケ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ サルビスバーグ
(72)【発明者】
【氏名】パオロ コロンボ
(72)【発明者】
【氏名】キアラ モンティ
(72)【発明者】
【氏名】コンラート パピス
(72)【発明者】
【氏名】マッテオ トゥラーニ
(72)【発明者】
【氏名】アドリアーン スピアリングス
(72)【発明者】
【氏名】マルクス バンバッハ
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA14
4K018BA08
4K018BB03
4K018BB04
4K018KA01
(57)【要約】
【課題】付加製造のために調整され、製造が経済的且つ持続可能性であり、且つ付加製造において使用される在来の合金よりも堅牢な付加製造プロセスを提供する、高強度アルミニウム合金を提案する。
【解決手段】前記課題は、以下の合金成分:
1~6質量%のチタン、
0.05~2質量%の鉄、
0.5~2.5質量%のクロム、
および残部としてアルミニウムおよび製造に起因する不純物
を含有する、粉末形態での付加製造のためのアルミニウム合金によって解決される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の合金成分:
1~6質量%のチタン、
0.05~2質量%の鉄、
0.5~2.5質量%のクロム、
および残部としてアルミニウムおよび製造に起因する不純物
を含有する、粉末形態での付加製造のためのアルミニウム合金。
【請求項2】
前記アルミニウム合金が、2~4.5質量%のチタンを含有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項3】
前記アルミニウム合金が、2.5~4質量%のチタンを含有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項4】
前記アルミニウム合金が、0.05~5質量%の銅を含有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項5】
前記アルミニウム合金が、1.5~2.5質量%の銅を含有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項6】
前記アルミニウム合金が、1~2質量%のクロムを含有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項7】
前記アルミニウム合金が、0.1~1.5質量%の鉄を含有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項8】
前記アルミニウム合金が、0.3質量%未満のマンガン、0.5質量%未満のケイ素、0.5質量%未満のマグネシウム、および/または0.5質量%未満の亜鉛の1つ以上の元素を含有し、且つそれらの1つ以上の元素の合計の質量%は1質量%未満であることを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項9】
前記アルミニウム合金が、スカンジウム、ジルコニウムおよび希土類元素不含であることを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項10】
好ましくは平均粒径15~75μmを有する、球状粒子からなることを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項11】
前記アルミニウム合金が、加工されたままの条件において、300MPaを上回る高められた降伏強さYS0.2、および5%を上回る破断点伸びAを有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項12】
前記アルミニウム合金の300MPaを上回る降伏強さYS0.2および5%を上回る破断点伸びAは、追加的な熱処理なしで達成されることを特徴とする、請求項11に記載のアルミニウム合金。
【請求項13】
好ましくは航空宇宙、車両の製造およびエネルギー技術における、部品の付加製造のための、請求項1から12までのいずれか1項に記載のアルミニウム合金の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は付加製造のための粉末形態でのアルミニウム合金に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術において、いくつかの高強度合金が公知である一方で、それらは主に、4xxxまたは5xxx Alシリーズからのものであり、その強化能力は、引き続く熱処理における析出硬化のための合金元素としてMgを使用して達成される。しかしながら、それらの合金は付加製造における使用のためには理想的な解決策ではなく、なぜなら、例えばとりわけマグネシウムは付加プロセスの間に蒸発する傾向があるからである。これはプロセス安定性の低下、および低い材料品質、およびMgの損失に起因する硬化能力の低下をもたらす。
【0003】
さらには、そのような在来のAl合金の他の欠点は、それらの微細構造の結果としての、且つ特定の加工条件および合金化概念によって引き起こされる、異方性の機械的挙動である。
【0004】
独国特許出願公開第10 2020 131 823号明細書(DE 10 2020 131 823 A1)は、付加製造のためのアルミニウム合金を開示している。その合金はスカンジウムおよびジルコニウムを含有し、それにより固溶体形成の増加が生じ、さらに、必要性の高い強度が、引き続く必須の熱処理で達成される。
【0005】
その欠点は、スカンジウムおよびジルコニウムは購入するには非常に高価であり、且つ持続可能性の観点に起因して需要調達において重要な元素であることである。さらに、必要な強度を達成するために、通常、引き続く熱処理が必要である。
【0006】
2xxx、4xxxおよび5xxxシリーズからの合金を含む、付加製造のための様々なアルミニウム合金は、Constellium、APWorks、EOSおよびElementum 3Dなどによって市販もされている。しかしながら、高強度アルミニウム合金の降伏強さを達成するために、それらの合金は引き続く熱処理をしなければならず、そのことが合金の経済的実行可能性を低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2020 131 823号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、付加製造のために調整され、製造が経済的且つ持続可能性であり、且つ付加製造において使用される在来の合金よりも堅牢な付加製造プロセスを提供する、高強度アルミニウム合金を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、以下の合金成分: 1~6質量%のチタン、0.05~2質量%の鉄、0.5~1.5質量%のクロム、および残部としてアルミニウムおよび製造に起因する不純物を含有する粉末形態での付加製造のためのアルミニウム合金の発明によって解決される。
【0010】
総質量濃度で存在し且つアルミニウムにおける平衡溶解度を超えるそれらの高いチタン、クロムおよび鉄の含有率は特に、付加製造において使用されるアルミニウム合金に適用可能である。LPBF(レーザー粉末床溶融)プロセスの間のレーザーによる溶融、および非常に急速な冷却に起因して、アルミニウムは薄層で施与されるだけなので、熱は塊状のビルドプラットフォームおよび先に構築された構造へと下向きに流れることがある。この急速な冷却および凝固に起因して、合金元素は固溶体に保たれることができ、合金元素の偏析を回避することができる。
【0011】
本発明のアルミニウム合金の特定の組成に起因して、合金の異方性傾向は、同等の高強度合金(例えばScalmalloy)の異方性値の約半分、または4XXX合金の約1/10に著しく低下され得る。
【0012】
合金中で1~6質量%の高いチタン含有率は、高温準安定な立方晶Al3Ti_L12および安定な正方晶Al3Ti_D022の一次析出物の利点をもたらし、つまり、硬化は結晶粒の微細化作用によって達成される。
【0013】
主成分合金中のマグネシウムに対するチタンの他の利点は、付加製造において使用される場合、チタンが高いプロセス安定性をもたらすことである。これは、LPBFプロセスにおける溶融プロセスがマグネシウム含有アルミニウム合金よりも安定なメルトプールもたらすことに起因し、なぜなら、マグネシウムの蒸発もないので、入射レーザー光線の品質を低下させる邪魔な蒸気がないからである。
【0014】
上述のとおり、付加製造プロセスにおけるクロムの0.5~1.5質量%の高い含有率は、さらなる強化のための、引き続く粒子の析出を介した高い固溶体形成の利点をもたらす。
【0015】
0.05~2質量%の含有率で含有される鉄は、高温安定な金属間Fe含有析出物によって高温性能を改善し、それは微細粒の微細構造にも寄与する。
【0016】
好ましくは、前記アルミニウム合金は2~4.5質量%のチタンを含有する。
【0017】
好ましくは、本発明のアルミニウム合金は2.5~4質量%のチタンを含有する。本発明のアルミニウム合金中の上述の可能なチタンの質量範囲の両方が、上述の利点をもたらす。
【0018】
好ましくは、本発明のアルミニウム合金は0.05~5質量%の銅を含有する。
【0019】
好ましくは、前記アルミニウム合金は1.5~2.5質量%の銅を含有する。銅含有率に起因して、強度をさらに高めるために行われ得る引き続く熱処理において析出硬化が達成される。
【0020】
好ましくは、前記アルミニウム合金は1~2質量%のクロムを含有する。
【0021】
好ましくは、前記アルミニウム合金は0.1~1.5質量%の鉄を含有する。
【0022】
好ましくは、前記アルミニウム合金は0.3質量%未満のマンガン、0.5質量%未満のケイ素、0.5質量%未満のマグネシウム、および/または0.5質量%未満の亜鉛の1つ以上の元素を含有し、且つそれらの1つ以上の元素の合計の質量%は1質量%未満である。
【0023】
前述の元素を含めることは、それらがリサイクルされたスクラップ材料からもたらされることができ、且つ合金中に含められることができるという利点を有し、そのことは経済的な効率に加えて持続可能性の考えを支持する。
【0024】
好ましくは、前記アルミニウム合金はスカンジウム、ジルコニウムおよび希土類元素不含である。それらの元素はめったに存在しないので、それらは高価であり、且つ調達することは環境に有害であり、そのことが合金の経済的実行可能性を低下させ且つ環境への悪影響を高める。
【0025】
スカンジウム、ジルコニウムおよび希土類を回避しているにもかかわらず、本発明による合金を用いた付加製造プロセスによって製造された部品は高温割れに対して鈍感である。これは、a)合金元素としてのマグネシウムの不在、およびb)チタンを添加して結晶粒の微細化を促進することによって得られる。これは、より安定なメルトプールを有する遙かに堅牢なプロセスと、高温割れのリスクの低減とをもたらす。従って、本発明による合金はより速く加工され得る(Scalmalloyに対して約50%高い構築速度、AlSi10Mgに対しても高い)。このさらなる利点は本発明の経済的効率を高める。
【0026】
LPBFプロセスによる付加製造における層厚が少なくとも25μm厚である場合が有利である。
【0027】
好ましくは、本発明のアルミニウム合金の構造は、好ましくは平均粒径15~75μmを有する球状粒子からなる。特に好ましくは、粒径分布パラメータd50は25~50μmの範囲にある。
【0028】
前記アルミニウム合金は好ましくは、加工されたままの条件において、300MPaを上回る高められた降伏強さYS0.2、および5%を上回る破断点伸びAを有する。それらの機械的特性はHPDC鋳造の高強度アルミニウム合金の範囲を遙かに上回り、それらは鍛錬用合金または高価な合金元素を用いて付加製造されたアルミニウム合金のレベルと同等である。
【0029】
好ましくは、前記アルミニウム合金の、300MPaを上回る降伏強さYS0.2および5%を上回る破断点伸びAは、追加的な熱処理なしで達成される。従って、本発明によるアルミニウム合金は、付加製造プロセスによって製造された直後に前述の強さおよび伸びの値を有する。
【0030】
本発明の任務は、本発明のアルミニウム合金を部品の付加製造のために使用することである。その利点は、高い強度値を有する軽量の部材を同様またはより良好に製造できること、例えば鋳造プロセスによって製造された部品よりも肉厚および重量が減少することである。さらに、金型が必要ではなく、そのことは少ないシリーズでも経済的に製造できることを意味する。
【0031】
好ましくは、そのような部品は航空宇宙、車両の製造およびエネルギー技術の分野において使用される。
【0032】
全ての可能な実施態様を互いに自由に組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】種々のアルミニウム合金の降伏強さYS0.2を示す図である。
【実施例0034】
本発明のいくつかの例を挙げるが、本発明はそれらの例のみに限定されるわけではない。
【0035】
いくつかの例の試料は、以下の合金A~合金Eのアルミニウム合金組成を用いた付加製造によって製造された。
【0036】
【表1】
【0037】
上記の表に列挙された、付加製造された部品として製造された種々のアルミニウム合金の測定された特性を以下の表に列挙する。試料の値は追加の熱処理を行わないで得られたことが強調されるべきである。
【0038】
【表2】
【0039】
前記の表は、アルミニウム合金の試料A~Eが破断点伸びAと共に降伏強さYS0.2を有することを示し、これはいかなる熱処理も行っていない。当然、特に本発明によるアルミニウム合金中に銅が含有される場合、付加製造プロセスを使用する本発明のアルミニウム合金製の部品を、前記値をさらに改善する熱処理に供することもできる。
【0040】
前述のアルミニウム合金は、任意の部品のために使用される付加製造プロセスを可能にする。それらの合金は好ましくは、高強度を有する軽量の部品が重要な役割を果たす航空宇宙、自動車、およびエネルギー技術の分野においても使用される。
【0041】
図1は、種々のアルミニウム合金の降伏強さYS0.2の図表を示す。
【0042】
図1における図表は、従来技術から公知であり且つ市販されている付加製造のための材料、および上記の表に列挙された本発明による2つのアルミニウム合金の降伏強さYS0.2を示す。
【0043】
丸の記号で示される本発明による付加製造のための材料の合金Bおよび合金Cは、熱処理なしで(「AB」は「as-built」(構築されたまま)を意味する)、室温で約330~350MPaの降伏強さYS0.2を有することがわかる。四角の記号で示されるConstellium、APWorks、EOSおよびElementum 3Dによって製造された従来技術から公知の材料は、約320~480MPaの範囲の降伏強さYS0.2を有するが、引き続く熱処理を行った場合のみである。
【0044】
さらに、本発明のアルミニウム合金は250℃の温度範囲においても約220~260MPaの降伏強さYS0.2を確実にし、そこでは他のアルミニウム合金は通常、軟化、ひいては強度における決定的な低下、例えばAlSi10Mgは150MPa未満への低下を示す。
図1
【外国語明細書】