(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144368
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】飛行時間型質量分析システム
(51)【国際特許分類】
H01J 49/00 20060101AFI20241003BHJP
H01J 49/40 20060101ALI20241003BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01J49/00 090
H01J49/00 310
H01J49/40 600
H01J49/42 250
【審査請求】有
【請求項の数】29
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024052991
(22)【出願日】2024-03-28
(31)【優先権主張番号】2304506.5
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ハミッシュ スチュワート
(72)【発明者】
【氏名】ベルント ハーゲドルン
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン ホック
(57)【要約】
【課題】TOF型質量分析器を較正する方法を提供する。
【解決手段】本方法は、TOF型質量分析器を使用して、較正物質イオンの複数の較正分析を実行することを含む。各較正分析は、較正物質イオンの飛行時間に影響を及ぼす関連付けられた機器パラメータを有するTOF型質量分析器を使用して、較正物質イオンの飛行時間を測定することを含む。各較正分析はまた、較正物質イオンの既知の質量電荷比と、それぞれの飛行時間とに基づいて、それぞれの較正分析のための機器パラメータに関連付けられているTOF型質量分析器に対する基準較正曲線を決定することを含む。複数の較正分析の各々に対して、機器パラメータの値が異なる。本方法は、TOF型質量分析において使用するための、複数の基準較正曲線と機器パラメータとに基づいて決定される較正曲線を決定することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行時間(TOF)型質量分析器を較正する方法であって、
前記TOF型質量分析器を使用して、較正物質イオンの複数の較正分析を実行することであって、各較正分析が、
前記TOF型質量分析器を使用して、前記較正物質イオンの飛行時間を測定することであって、前記TOF型質量分析器が、前記較正物質イオンの前記飛行時間に影響を及ぼす関連付けられた機器パラメータを有する、測定することと、
前記較正物質イオンの既知の質量電荷比と、それぞれの前記飛行時間と、に基づいて、前記TOF型質量分析器に対する基準較正曲線を決定することであって、前記基準較正曲線が、それぞれの前記較正分析のための前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータに関連付けられており、前記複数の較正分析の各々に対して、前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータの値が異なる、決定することと、
を含む、実行することと、
前記TOF型質量分析器によって実行されるTOF型質量分析において使用するための較正曲線を決定することであって、前記較正曲線が、複数の前記基準較正曲線と、前記TOF型質量分析において使用される前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータと、に基づいて決定される、決定することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記較正物質イオンが、前記TOF型質量分析器に接続されたイオン調製デバイス、好ましくはイオントラップに最初に貯蔵され、前記較正物質イオンの飛行時間を測定することが、前記イオントラップから前記TOF型質量分析器に、前記較正物質イオンを注入することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記較正物質イオンが、RFトラップ電圧を印加することによって、前記イオントラップ内に最初に貯蔵される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
各基準較正曲線に関連付けられた前記機器パラメータが、前記RFトラップ電圧の振幅又は周波数である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
飛行時間シフトモデルが、前記複数の較正分析の各々の前記測定された飛行時間と、前記複数の較正分析の各々に対する前記較正物質イオンの既知の質量電荷比と、前記複数の較正分析の各々に対する前記RFトラップ電圧の振幅と、に基づいて決定され、
各基準較正曲線が、前記較正物質イオンの前記既知の質量電荷比と、前記飛行時間シフトモデルと、それぞれの前記飛行時間と、に基づいて決定される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
各基準較正曲線を決定するために使用される前記飛行時間が、前記飛行時間シフトモデルと、前記測定された飛行時間と、に基づいている、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の較正分析が、
前記較正物質イオンが、質量電荷比の第1のセットを有する第1の較正物質イオンである、第1の較正分析と、
前記較正物質イオンが、前記第1の較正物質イオンの質量電荷比の前記第1のセットとは異なる質量電荷比の第2のセットを有する第2の較正物質イオンである、第2の較正分析と、を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記複数の較正分析が、
第1の基準較正曲線が決定される第1の較正分析であって、前記第1の基準較正曲線が、第1の質量電荷値と第2の質量電荷値との間で定義される、第1の較正分析と、
第2の基準較正曲線が決定される第2の較正分析であって、前記第2の基準較正曲線が、第3の質量電荷値と第4の質量電荷値との間で定義され、前記第4の質量電荷値が、前記第1及び第2の質量電荷値によって定義される範囲の外側にある、第2の較正分析と、を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
較正曲線が、前記TOF型質量分析において使用される前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータに最も近い、関連付けられた機器パラメータを有する、前記複数の基準較正曲線のうちの前記基準較正曲線に基づいて、決定される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
較正曲線が、前記TOF型質量分析において使用される前記機器パラメータを境界付ける、関連付けられた機器パラメータを有する、前記基準較正曲線のうちの2つの間を補間することによって決定される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
TOF型質量分析器を使用する、関心対象の質量電荷比範囲のための飛行時間型質量分析の方法であって、
前記関心対象の質量電荷比範囲内の質量電荷比を有する複数のイオンを提供することと、
前記TOF型質量分析器を使用して、前記イオンの飛行時間を測定することであって、前記TOF型質量分析器が、前記飛行時間を測定するために使用される関連付けられた機器パラメータを有する、測定することと、
前記TOF型質量分析器に対する較正曲線を取得することであって、前記較正曲線が、
複数の基準較正曲線であって、各基準較正曲線が、前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータの異なる値に関連付けられている、複数の基準較正曲線と、
前記イオンの飛行時間を測定するために使用される前記TOF型質量分析器の機器パラメータと、に基づいて取得される、取得することと、
前記イオンに対する質量電荷比を決定するために、前記較正曲線を前記イオンの前記測定された飛行時間に適用することと、を含む、方法。
【請求項12】
前記イオンが、前記TOF型質量分析器に接続されたイオン調製デバイス、好ましくはイオントラップに最初に貯蔵され、前記イオンの飛行時間を測定することが、前記イオントラップから前記TOF型質量分析器に前記イオンを注入することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記イオンが、RFトラップ電圧を印加することによって、前記イオントラップ内に最初に貯蔵され、各基準較正曲線に関連付けられた前記機器パラメータが、前記RFトラップ電圧の振幅又は周波数である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記関心対象の質量電荷範囲及び前記関連付けられた機器パラメータが、ユーザによって指定される、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記関心対象の質量電荷範囲が、関連付けられた第1の機器パラメータを有する第1の部分範囲と、関連付けられた第2の機器パラメータを有する第2の部分範囲と、を含み、前記第1及び第2の機器パラメータが、異なり、
前記飛行時間型質量分析の方法が、
前記第1の機器パラメータを使用して、前記第1の部分範囲内の質量電荷比を有する前記イオンの前記飛行時間を測定することと、
前記第2の機器パラメータを使用して、前記第2の部分範囲内の質量電荷比を有する前記イオンの前記飛行時間を測定することと、を含み、
第1の較正曲線が、前記第1の部分範囲に対して決定され、
第2の較正曲線が、前記第2の部分範囲に対して決定される、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
飛行時間(TOF)型質量分析システムであって、
飛行時間(TOF)型質量分析器と、
コントローラと、を備え、
前記TOF型質量分析システムが、前記コントローラによって制御される機器パラメータを有し、前記機器パラメータが、較正物質イオンの飛行時間に影響を及ぼし、
前記コントローラが、
前記TOF型質量分析器に、較正物質イオンの複数の較正分析を実行させることであって、各較正分析が、
前記TOF型質量分析器を使用して、前記較正物質イオンの飛行時間を測定すること、並びに、
前記較正物質イオンの既知の質量電荷比と、それぞれの前記飛行時間と、に基づいて、前記TOF型質量分析器に対する基準較正曲線を決定することであって、前記基準較正曲線が、それぞれの前記較正分析のための前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータに関連付けられており、
前記複数の較正分析の各々に対して、前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータの値が異なる、決定すること、を含む、実行させることと、
前記TOF型質量分析器によって実行されるTOF型質量分析において使用するための較正曲線を決定することであって、前記較正曲線が、複数の前記基準較正曲線と、前記TOF型質量分析において使用される前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータと、に基づいて決定される、決定することと、を行うように構成されている、飛行時間(TOF)型質量分析システム。
【請求項17】
較正物質イオンを貯蔵するように、かつ前記TOF型質量分析器に較正物質イオンを注入するように構成されたイオントラップを更に備え、
各較正分析に対して、前記コントローラが、前記イオントラップに、前記イオントラップから前記TOF型質量分析器に、前記較正物質イオンを注入させるように構成されている、請求項16に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項18】
前記イオントラップが、前記較正物質イオンを前記イオントラップ内に貯蔵するために、RFトラップ電圧を印加するように構成されており、
各基準較正曲線に関連付けられた前記機器パラメータが、前記RFトラップ電圧の振幅又は周波数である、請求項17に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項19】
前記コントローラが、前記TOF型質量分析器に複数の較正分析を実行させるように構成されており、前記複数の較正分析が、
前記TOF型質量分析器に、前記較正物質イオンが、質量電荷比の第1のセットを有する第1の較正物質イオンである、第1の較正分析を実行させることと、
前記TOF型質量分析器に、前記較正物質イオンが、前記第1の較正物質イオンの質量電荷比の前記第1のセットとは異なる質量電荷比の第2のセットを有する第2の較正物質イオンである、第2の較正分析を実行させることと、を含む、請求項16~18のいずれか一項に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項20】
前記コントローラが、前記TOF型質量分析器に前記複数の較正分析を実行させるように構成されており、前記複数の較正分析が、
前記TOF型質量分析器に、第1の較正分析を実行させることであって、前記コントローラが、前記第1の較正分析から、第1の基準較正曲線を決定し、前記第1の基準較正曲線が、第1の質量電荷値と第2の質量電荷値との間で定義される、実行させることと、
前記TOF型質量分析器に、第2の較正分析を実行させることであって、前記コントローラが、前記第2の較正分析から第2の基準較正曲線を決定し、前記第2の基準較正曲線が、第3の質量電荷値と第4の質量電荷値との間で定義され、前記第4の質量電荷値が、前記第1及び第2の質量電荷値によって定義される範囲の外側にある、実行させることと、を含む、請求項16~19のいずれか一項に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項21】
前記コントローラが、前記TOF型質量分析において使用される前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータに最も近い、関連付けられた機器パラメータを有する前記複数の基準較正曲線のうちの前記基準較正曲線に基づいて、較正曲線を決定するように構成されている、請求項16~20のいずれか一項に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項22】
前記コントローラが、前記TOF型質量分析において使用される前記機器パラメータを境界付ける、関連付けられた機器パラメータを有する、前記基準較正曲線のうちの2つの間を補間することによって、較正曲線を決定するように構成されている、請求項16~21のいずれか一項に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項23】
関心対象の質量電荷比範囲を有する複数のイオンを質量分析するように構成されたTOF型質量分析システムであって、
TOF型質量分析器と、
コントローラと、を備え、
前記コントローラが、
前記TOF型質量分析器に、前記関心対象の質量電荷範囲内の質量電荷比を有する複数のイオンの飛行時間を測定させることであって、前記TOF型質量分析器が、前記TOF型質量分析システムの関連付けられた機器パラメータを用いて、前記飛行時間の前記測定を実行する、測定させることと、
前記TOF型質量分析器に対する較正曲線を決定することであって、前記較正曲線が、
複数の基準較正曲線であって、各基準較正曲線が、前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータの異なる値に関連付けられている、複数の基準較正曲線と、
前記イオンの飛行時間を測定するために使用される前記TOF型質量分析システムの前記機器パラメータと、に基づいて決定される、決定することと、
前記イオンの質量電荷比を決定するために、前記較正曲線を前記イオンの前記測定された飛行時間に適用することと、を行うように構成されている、TOF型質量分析システム。
【請求項24】
イオントラップを更に備え、
測定される前記イオンが、前記TOF型質量分析器に接続されたイオントラップに最初に貯蔵され、前記イオンの飛行時間の測定のために、前記コントローラが、前記イオントラップに、前記イオントラップから前記TOF型質量分析器に、前記イオンを注入させるように構成されている、請求項23に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項25】
前記イオントラップが、前記イオントラップ内に前記イオンを貯蔵するために、RFトラップ電圧を印加するように構成されており、前記イオンの前記測定に関連付けられた前記機器パラメータが、前記RFトラップ電圧の振幅又は周波数である、請求項24に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項26】
前記関心対象の質量対電荷範囲及び前記機器パラメータが、ユーザによって指定される、請求項23~25のいずれか一項に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項27】
前記関心対象の質量電荷範囲が、関連付けられた第1の機器パラメータを有する第1の部分範囲と、関連付けられた第2の機器パラメータを有する第2の部分範囲と、を含み、前記第1及び第2の機器パラメータが、異なり、
前記コントローラが、
前記TOF型質量分析器に、それぞれの前記第1及び第2の機器パラメータを用いて、前記第1及び第2の部分範囲の各々に対する前記イオンの前記飛行時間を測定させることと、
前記第1の部分範囲に対する第1の較正曲線を決定することと、
前記第2の部分範囲に対する第2の較正曲線を決定することと、を行わせるように構成されており、
前記コントローラが、前記イオンに対する質量電荷比を決定するために、前記第1の較正曲線を、前記第1の部分範囲にわたって前記イオンの前記測定された飛行時間に適用するように、かつ前記第2の較正曲線を、前記第2の部分範囲にわたって前記イオンの前記測定された飛行時間に適用するように構成されている、請求項23~26のいずれか一項に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項28】
請求項16~27のいずれか一項に記載のTOF型質量分析システムに、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法のステップを実行させる命令を含む、コンピュータプログラム。
【請求項29】
請求項28のコンピュータプログラムを格納している、コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、飛行時間(Time of Flight、TOF)型質量分析及びTOF型質量分析器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、TOF型質量分析器は、2点間のイオンの飛行時間を測定することによって、イオンの質量電荷比を決定する。質量電荷比決定の精度を改善するために、TOF型質量分析器は、既知の質量電荷比のイオンの飛行時間を測定することによって較正され得る。そのようなイオンは、一般に、較正物質イオンと称され得る。
【0003】
TOF型質量分析器を較正するための1つの方法は、(例えば、較正混合物からの)較正物質イオンの飛行時間を測定することと、測定された時間を多項式に適合させることとを伴う。典型的には、以下の形態の二次多項式関数:
m/z=At2+Bt+C
を使用し得る。
【0004】
そのようなアプローチは、許容可能なレベルの精度を達成することができるが、イオンの飛行時間を較正曲線から逸脱させ得る、TOF型質量分析器内で生じる種々のプロセスが存在する。いくつかの逸脱は、m/z依存性及び/又は高度に非線形であり、これは、較正曲線を用いて捕捉することが特に困難であり得る。
【0005】
1つの既知のアプローチは、より高次の多項式を使用して較正曲線に適合させることである。しかしながら、そのようなアプローチは、飛行時間型質量分析器の基礎となる物理学とはほとんど関係がない。
【0006】
英国特許第A-2426121号は、広いm/z範囲の較正点が利用可能であることを必要とする、測定された較正点間を補間する方法を開示している。
【0007】
シミュレーション又は測定によって知らされるパラメータを有する較正関数、例えば、米国特許第6437325(B1)号、及びChristian,N.P.,Arnold,R.J.,& Reilly,J.P.(2000),「Improved calibration of time-of-flight mass spectra by simplex optimization of electrostatic ion calculations」もまた、既知である。そのような方法は、電子機器又は異なるモデル間の偏差から生じる複雑なm/z依存挙動を説明しない。
【0008】
この背景に対して、本開示は、飛行時間型質量分析器を較正する、改善された、又は少なくとも商業的に関連性のある代替的な方法を提供しようとする。
【発明の概要】
【0009】
第1の態様によれば、飛行時間(TOF)型質量分析器を較正する方法が提供される。本方法は、TOF型質量分析器を使用して、較正物質イオンの複数の較正分析を実行することを含む。各較正分析は、TOF型質量分析器を使用して、較正物質イオンの飛行時間を測定することであって、TOF型質量分析器が、較正物質イオンの飛行時間に影響を及ぼす関連付けられた機器パラメータを有する、測定すること、を含む。各較正分析はまた、較正物質イオンの既知の質量電荷比と、それぞれの飛行時間と、に基づいて、TOF型質量分析器に対する基準較正曲線を判定することであって、基準較正曲線が、それぞれの較正分析のためのTOF型質量分析器の機器パラメータに関連付けられている、判定すること、を含む。複数の較正分析の各々に対して、TOF型質量分析器の機器パラメータの値は、異なる。本方法はまた、TOF型質量分析器によって実行されるTOF型質量分析において使用するための較正曲線を判定することであって、較正曲線が、複数の基準較正曲線と、TOF型質量分析において使用されるTOF型質量分析器の機器パラメータと、に基づいて判定される、判定すること、を含む。
【0010】
機器パラメータの異なる値に対する複数の基準較正曲線を判定することによって、機器パラメータと測定された飛行時間との間の関係が説明され得る。特に、複数の基準較正曲線は、TOF型質量分析器の任意の非線形挙動をより正確に説明し得、単一の較正測定の使用を説明することは困難である。
【0011】
複数の基準較正曲線と、後続の分析で使用される機器パラメータと、に基づいて、TOF型質量分析器に対する較正曲線を判定することによって、第1の態様の方法は、改善された精度でTOF型質量分析器のための較正を提供し得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、較正物質イオンは、TOF型質量分析器に接続されたイオン調製デバイス、好ましくはイオントラップに最初に貯蔵され、較正物質イオンの飛行時間を測定することは、イオントラップからTOF型質量分析器に、較正物質イオンを注入することを含む。いくつかの実施形態では、較正物質イオンは、RFトラップ電圧を印加することによって、イオントラップ内に最初に貯蔵される。いくつかの実施形態では、各基準較正曲線に関連付けられた機器パラメータは、RFトラップ電圧の振幅又は周波数であり得る。したがって、いくつかの実施形態では、RFトラップ電圧の振幅及び/又は周波数は、イオンの測定された飛行時間に影響を及ぼし得る。したがって、各TOF型質量分析とともに使用されるRFトラップ電圧設定を説明するようにTOF型質量分析器を較正することにより、分析の精度を改善し得る。
【0013】
いくつかの実施形態では、飛行時間シフトモデルは、複数の較正分析の各々の測定された飛行時間と、複数の分析の各々に対する較正物質イオンの既知のm/zと、複数の較正分析の各々に対するRFトラップ電圧の振幅と、に基づいて、判定され得る。したがって、RFトラップ電圧の振幅は、既知のm/zの較正物質イオンについて観測された飛行時間のシフトを引き起こし得る。すなわち、観測された飛行時間は、その既知のm/zに基づいて、較正物質イオンの予想される飛行時間にシフトされ得る(すなわち、それと異なり得る)。この飛行時間のシフトは、較正分析から観測された飛行時間シフトに適合させられたモデル(例えば、多項式)によって特徴付けられ得る。いくつかの実施形態では、各基準較正曲線は、較正物質イオンの既知の質量電荷比と、飛行時間シフトモデルと、それぞれの飛行時間と、に基づいて、判定され得る。したがって、飛行時間シフトモデルを利用して、異なるRF電圧振幅の下で判定される基準較正曲線の精度を改善し得る。
【0014】
いくつかの実施形態では、各基準較正曲線を判定するために使用される飛行時間は、飛行時間シフトモデルと、測定された飛行時間と、に基づいている。したがって、いくつかの実施形態では、機器パラメータがRFトラップ電圧の振幅と異なる場合、RFトラップ電圧の振幅の影響は、各基準較正曲線を判定するために使用される飛行時間を補正することによって説明され得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、複数の較正分析は、較正物質イオンが、質量電荷比の第1のセットを有する第1の較正物質イオンである、第1の較正分析と、較正物質イオンが、第1の較正物質イオンの質量電荷比の第1のセットとは異なる質量電荷比の第2のセットを有する第2の較正物質イオンである、第2の較正分析と、を含む。したがって、第1及び第2の較正分析の各々は、関心対象の異なる質量電荷範囲をカバーし得、第1及び第2の較正分析の各々は、異なる機器パラメータを用いて実行される。
【0016】
いくつかの実施形態では、複数の較正分析は、第1の基準較正曲線が判定される第1の較正分析であって、第1の基準較正曲線が、第1の質量電荷値と第2の質量電荷値との間で定義される、第1の較正分析、を含む。複数の較正分析はまた、第2の基準較正曲線が判定される第2の較正分析であって、第2の基準較正曲線が、第3の質量電荷値と第4の質量電荷値との間で定義され、第4の質量電荷値が、第1及び第2の質量電荷値によって定義される範囲の外側にある、第2の較正分析、を含み得る。したがって、いくつかの実施形態では、第3及び第4の質量電荷値によって定義される質量電荷範囲は、第1及び第2の質量電荷値によって定義される質量電荷範囲と部分的に重複し得る。いくつかの実施形態では、第3及び第4の質量電荷値によって定義される質量電荷範囲は、第1及び第2の質量電荷値によって定義される質量電荷範囲と重複しない場合がある。複数の較正分析が提供される場合、較正分析のうちの1つ以上の質量電荷範囲は、他の較正分析のうちの1つ以上と重複し得ることが理解されるであろう。較正分析の各々は、異なる機器パラメータ設定を有し得る。したがって、判定された複数の基準較正曲線は、異なる機器パラメータ設定の範囲及び異なる質量電荷範囲に対する機器パラメータに関連付けられた非線形性に関する情報を提供し得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、較正曲線は、TOF型質量分析において使用されるTOF型質量分析器の機器パラメータに最も近い、関連付けられた機器パラメータを有する、複数の基準較正曲線のうちの基準較正曲線に基づいて、判定される。したがって、いくつかの実施形態では、TOF型質量分析において使用される機器パラメータは、基準較正曲線が存在する機器パラメータに対応しない場合がある。そのような場合、TOF型質量分析器は、関心対象の機器パラメータに最も近い、関連付けられた機器パラメータを有する基準較正曲線に基づいて、較正曲線を判定し得る。したがって、TOF型質量分析器の較正は、測定された飛行時間に対する機器パラメータの影響を考慮に入れ、それによって、TOF型質量分析器の較正の精度を改善し得る。
【0018】
いくつかの実施形態では、較正曲線は、TOF型質量分析において使用される機器パラメータを境界付ける、関連付けられた機器パラメータを有する、基準較正曲線のうちの2つの間を補間することによって判定される。較正曲線を判定するために補間を使用することによって、本方法は、複数の基準較正曲線を考慮に入れ、これにより、TOF型質量分析器の較正の精度を改善し得る。
【0019】
第1の態様の方法は、複数の基準較正曲線の判定及び所与の機器パラメータ設定に対する較正曲線の判定に関することが理解されるであろう。そのような方法は、判定された較正曲線がTOF型質量分析器のユーザによる使用のために利用可能であるように、TOF型質量分析器のセットアップ時に実行され得る。したがって、第1の態様の方法は、較正物質イオンを使用して複数の較正分析を実行することを含む、TOF型質量分析器の較正に関する。基準較正曲線が較正物質イオンを使用して判定されると、較正曲線は、分析されるべき試料のイオンに対して判定され得る。
【0020】
したがって、本開示の第2の態様によれば、TOF型質量分析器を使用する、関心対象の質量電荷比範囲のための飛行時間型質量分析の方法が提供される。第2の態様の方法は、
関心対象の質量電荷比範囲内の質量電荷比を有する複数のイオンを提供することと、
TOF型質量分析器を使用して、イオンの飛行時間を測定することであって、TOF型質量分析器が、飛行時間を測定するために使用される関連付けられた機器パラメータを有する、測定することと、
TOF型質量分析器に対する較正曲線を取得することであって、較正曲線が、
複数の基準較正曲線であって、各基準較正曲線が、TOF型質量分析器の機器パラメータの異なる値に関連付けられている、複数の基準較正曲線と、
イオンの飛行時間を測定するために使用されるTOF型質量分析器の機器パラメータと、に基づいて、取得される、取得することと、
イオンに対する質量電荷比を判定するために、較正曲線をイオンの測定された飛行時間に適用することと、を含む。
【0021】
したがって、第2の態様の方法は、第1の態様に従って判定された基準較正曲線を利用するTOF型質量分析の方法を実行することに関する。TOF型質量分析が行われるたびに基準較正曲線を得る必要がないことが理解されるであろう。しかしながら、いくつかの実施形態では、適用される較正曲線は、TOF型質量分析が機器パラメータに基づいて実行されるたびに、基準較正曲線から判定され得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、イオンは、TOF型質量分析器に接続されたイオン調製デバイス、好ましくはイオントラップに最初に貯蔵され、イオンの飛行時間を測定することは、イオントラップからTOF型質量分析器に、イオンを注入することを含む。いくつかの実施形態では、イオンは、RFトラップ電圧を印加することによって、イオントラップ内に最初に貯蔵され、各基準較正曲線に関連付けられた機器パラメータは、RFトラップ電圧の振幅又は周波数である。したがって、いくつかの実施形態では、RFトラップ電圧の振幅及び/又は周波数は、イオンの測定された飛行時間に影響を及ぼし得る。したがって、各TOF型質量分析とともに使用されるRFトラップ電圧設定を説明するようにTOF型質量分析器を較正することにより、分析の精度を改善し得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、関心対象の質量電荷範囲及び関連付けられた機器パラメータは、ユーザによって指定される。したがって、いくつかの実施形態では、機器パラメータは、ユーザによって指定された関心対象の質量電荷範囲に基づいて選択され得る。例えば、TOF型質量分析器へのイオンの注入に対して、イオンの注入に関連付けられた1つ以上の機器パラメータは、例えば、TOF型質量分析器へのイオンの注入効率を改善するために、分析されるイオンの質量電荷比に基づいて指定され得る。しかしながら、そのような機器パラメータはまた、TOF型質量分析器の較正に影響を及ぼし得る。第2の態様による方法は、分析の精度を改善するために選択された機器パラメータを説明する較正曲線を判定する方法を提供する。
【0024】
いくつかの実施形態では、関心対象の質量電荷範囲は、関連付けられた第1の機器パラメータを有する第1の部分範囲と、関連付けられた第2の機器パラメータを有する第2の部分範囲と、を含み、第1及び第2の機器パラメータは、異なる。いくつかの実施形態では、TOF型質量分析の方法は、第1の機器パラメータを使用して、第1の部分範囲内の質量電荷比を有するイオンの飛行時間を測定することと、第2の機器パラメータを使用して、第2の部分範囲内の質量電荷比を有するイオンの飛行時間を測定することと、を含む。いくつかの実施形態では、第1の較正曲線が、第1の部分範囲に対して判定され、第2の較正曲線が、第2の部分範囲に対して判定される。したがって、質量分析の方法は、関心対象の質量電荷範囲にわたって機器パラメータを変化させ得、使用される較正曲線もまた、機器パラメータの変動に従って更新される。
【0025】
本開示の第3の態様によれば、飛行時間(TOF)型質量分析器が提供される。TOF型質量分析システムは、飛行時間(TOF)型質量分析器と、コントローラと、を備える。TOF型質量分析システムは、コントローラによって制御される機器パラメータを有し、機器パラメータは、較正物質イオンの飛行時間に影響を及ぼす。コントローラは、TOF型質量分析器に較正物質イオンの複数の較正分析を実行させるように構成されている。各較正分析は、TOF型質量分析器を使用して、較正物質イオンの飛行時間を測定することと、較正物質イオンの既知の質量電荷比と、それぞれの飛行時間と、に基づいて、TOF型質量分析器に対する基準較正曲線を判定することであって、基準較正曲線が、それぞれの較正分析のためのTOF型質量分析器の機器パラメータに関連付けられている、判定することと、を含む。複数の較正分析の各々に対して、TOF型質量分析器の機器パラメータの値が、異なる。コントローラはまた、TOF型質量分析器によって実行されるTOF型質量分析において使用するための較正曲線を判定することであって、較正曲線が、複数の基準較正曲線と、TOF型質量分析において使用されるTOF型質量分析器の機器パラメータと、に基づいて判定される、判定すること、を行うように構成されている。
【0026】
したがって、第1の態様の方法を実行するように構成されたTOF型質量分析システム、例えばTOF型質量分析器が提供され得る。第3の態様のTOF型質量分析システムは、第1の態様(及び第2の態様も)に関連して上で考察される任意選択的な特徴のいずれかを実行するように構成され得ることが理解されるであろう。
【0027】
いくつかの実施形態では、TOF型質量分析システムは、イオン調製デバイス、好ましくはイオントラップを備え得、イオン調製デバイスは、較正物質イオンを貯蔵し、TOF型質量分析器に較正物質イオンを注入するように構成されている。各較正分析に対して、コントローラは、イオン調製デバイスに、イオントラップからTOF型質量分析器に、較正物質イオンを注入させるように構成され得る。いくつかの実施形態では、イオントラップは、較正物質イオンをイオントラップ内に貯蔵するために、RFトラップ電圧を印加するように構成されている。いくつかの実施形態では、各基準較正曲線に関連付けられた機器パラメータは、RFトラップ電圧の振幅又は周波数である。したがって、いくつかの実施形態では、RFトラップ電圧の振幅及び/又は周波数は、イオンの測定された飛行時間に影響を及ぼし得る。したがって、各TOF型質量分析とともに使用されるRFトラップ電圧設定を説明するようにTOF型質量分析器を較正することにより、分析の精度を改善し得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、コントローラは、TOF型質量分析器に複数の較正分析を実行させるように構成されており、複数の較正分析は、TOF型質量分析器に、較正物質イオンが、質量電荷比の第1のセットを有する第1の較正物質イオンである、第1の較正分析を実行させることと、TOF型質量分析器に、較正物質イオンが、第1の較正物質イオンの質量電荷比の第1のセットとは異なる質量電荷比の第2のセットを有する第2の較正物質イオンである、第2の較正分析を実行させることと、を含む。したがって、第1及び第2の較正分析の各々は、関心対象の異なる質量電荷範囲をカバーし得、第1及び第2の較正分析の各々は、異なる機器パラメータを用いて実行される。
【0029】
いくつかの実施形態では、コントローラは、TOF型質量分析器に複数の較正分析を実行させるように構成され、複数の較正分析は、TOF型質量分析器に、第1の較正分析を実行させることであって、コントローラが、第1の較正分析から、第1の基準較正曲線を判定し、第1の基準較正曲線が、第1の質量電荷値と第2の質量電荷値との間で定義される、実行させること、を行うように構成されている。コントローラはまた、TOF型質量分析器に、第2の較正分析を実行させることであって、コントローラが、第2の較正分析から第2の基準較正曲線を判定し、第2の基準較正曲線が、第3の質量電荷値と第4の質量電荷値との間で定義され、第4の質量電荷値が、第1及び第2の質量電荷値によって定義される範囲の外側にある、実行させること、を行うように構成され得る。したがって、いくつかの実施形態では、第3及び第4の質量電荷値によって定義される質量電荷範囲は、第1及び第2の質量電荷値によって定義される質量電荷範囲と部分的に重複し得る。いくつかの実施形態では、第3及び第4の質量電荷値によって定義される質量電荷範囲は、第1及び第2の質量電荷値によって定義される質量電荷範囲と重複しない場合がある。複数の較正分析が提供される場合、較正分析のうちの1つ以上の質量電荷範囲は、他の較正分析のうちの1つ以上と重複し得ることが理解されるであろう。較正分析の各々は、異なる機器パラメータ設定を有し得る。したがって、判定された複数の基準較正曲線は、異なる機器パラメータ設定の範囲及び異なる質量電荷範囲に対する機器パラメータに関連付けられた非線形性に関する情報を提供し得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、コントローラは、TOF型質量分析において使用されるTOF型質量分析器の機器パラメータに最も近い、関連付けられた機器パラメータを有する複数の基準較正曲線のうちの基準較正曲線に基づいて、較正曲線を判定するように構成されている。
【0031】
いくつかの実施形態では、コントローラは、TOF型質量分析において使用される機器パラメータを境界付ける、関連付けられた機器パラメータを有する、基準較正曲線のうちの2つの間を補間することによって、較正曲線を判定するように構成されている。較正曲線を判定するために補間を使用することによって、本方法は、複数の基準較正曲線を考慮に入れ、これにより、較正の精度を改善し得る。
【0032】
第4の態様によれば、関心対象の質量電荷比範囲を有する複数のイオンを質量分析するように構成されたTOF型質量分析システムが提供される。TOF型質量分析システムは、TOF型質量分析器と、コントローラと、を備える。コントローラは、TOF型質量分析器に、関心対象の質量電荷範囲内の質量電荷比を有する複数のイオンの飛行時間を測定させることであって、TOF型質量分析器が、TOF型質量分析システムの関連付けられた機器パラメータを用いて、飛行時間の測定を実行する、測定させること、を行うように構成されている。コントローラはまた、TOF型質量分析器に対する較正曲線を判定するように構成されている。コントローラは、複数の基準較正曲線に基づいて較正曲線を判定し、各基準較正曲線は、TOF型質量分析器の機器パラメータの異なる値に関連付けられており、TOF型質量分析システムの機器パラメータは、イオンの飛行時間を測定するために使用される。コントローラはまた、イオンの質量電荷比を判定するために、較正曲線をイオンの測定された飛行時間に適用することと、を行うように構成されている。
【0033】
したがって、第4の態様のTOF型質量分析システムは、本開示の第2の態様の方法を実行するように構成され得ることが理解されるであろう。いくつかの実施形態では、第4の態様のTOF型質量分析システムはまた、第1の態様の方法を実行することが可能であり得る。
【0034】
いくつかの実施形態では、第4の態様のTOF型質量分析システムは、イオン調製デバイス、好ましくはイオントラップを備え得る。いくつかの実施形態では、測定されるイオンは、TOF型質量分析器に接続されたイオン調製デバイスに最初に貯蔵され、イオンの飛行時間の測定のために、コントローラは、イオン調製デバイスに、イオントラップからTOF型質量分析器に、イオンを注入させるように構成されている。いくつかの実施形態では、イオン調製デバイスは、イオントラップ内にイオンを貯蔵するために、RFトラップ電圧を印加するように構成されており、イオンの測定に関連付けられた機器パラメータは、RFトラップ電圧の振幅又は周波数である。
【0035】
いくつかの実施形態では、関心対象の質量電荷範囲及び機器パラメータは、ユーザによって指定される。
【0036】
いくつかの実施形態では、関心対象の質量電荷範囲は、関連付けられた第1の機器パラメータを有する第1の部分範囲と、関連付けられた第2の機器パラメータを有する第2の部分範囲と、を含み、第1及び第2の機器パラメータは、異なる。いくつかの実施形態では、コントローラは、TOF型質量分析器に、それぞれの第1及び第2の機器パラメータを用いて、第1及び第2の部分範囲の各々に対するイオンの飛行時間を測定させること、を行うように構成されている。いくつかの実施形態では、コントローラは、第1の部分範囲に対する第1の較正曲線を判定することと、第2の部分範囲に対する第2の較正曲線を判定することと、を行うように構成されており、コントローラは、イオンに対する質量電荷比を判定するために、第1の較正曲線を、第1の部分範囲にわたってイオンの測定された飛行時間に適用するように、かつ第2の較正曲線を、第2の部分範囲にわたってイオンの測定された飛行時間に適用するように構成されている。
【0037】
本開示の第5の態様によれば、第3又は第4の態様のTOF型質量分析システムに、本開示の第1及び/又は第2の態様による方法のステップを実行させる命令を含むコンピュータプログラムが提供される。
【0038】
本開示の第6の態様によれば、第5の態様のコンピュータプログラムを格納しているコンピュータ可読媒体が提供される。
ここで、本開示は、以下の図を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本開示の実施形態によるTOF質量分析システムの概略図である。
【
図2】本開示によるTOF型質量分析器の概略図である。
【
図4】TOF型質量分析器を用いた同じ較正物質イオンのその後の測定から得られた質量誤差のグラフである。
【
図5】RFトラップ電圧によるm/zシフトの変動を示すグラフである。
【
図6】パルス抽出プロセス中にイオン調製デバイスの電極に印加された信号のオシロスコープトレースを示す。
【
図7】本開示によるTOF型質量分析器を較正する方法のブロック図である。
【
図8】TOF型質量分析の方法のブロック図である。
【
図9a】異なる機器パラメータ設定下でのTOF型質量分析のための既知のm/zの試料イオンの測定されたm/zシフトのグラフを示す。
【
図9b】異なる機器パラメータ設定下でのTOF型質量分析のための既知のm/zの試料イオンの測定されたm/zシフトのグラフを示す。
【
図9c】異なる機器パラメータ設定下でのTOF型質量分析のための既知のm/zの試料イオンの測定されたm/zシフトのグラフを示す。
【
図10】異なるm/zの較正物質イオンに対するRFトラッピング振幅の飛行時間シフトのグラフである。
【
図11】m/z値の範囲にわたる、異なるRFトラップ電圧に対する残留質量誤差の変動を示すグラフである。
【
図12】
図12aは、異なるm/zの較正物質イオンのRFトラップ振幅の飛行時間シフトのグラフを示し、
図12bは、同じ較正物質イオンの残留質量誤差(ppm単位)のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本開示の一実施形態によれば、TOF型質量分析システム1を提供する。TOF型質量分析システムの概略図が
図1に示されている。TOF型質量分析システム1は、イオン源2と、イオン調製デバイス4と、コントローラ6と、TOF型質量分析器10と、を備える。
【0041】
イオン源2は、TOF型質量分析器10による分析のためのイオン源を提供するように構成されている。イオン源2は、試料分子をイオン化して、TOF型質量分析器10によって分析される試料イオンを生成するように構成され得る。いくつかの実施形態では、イオン源2は、エレクトロスプレーイオン化源であり得る。いくつかの実施形態では、イオン源2は、クロマトグラフィ装置(
図1には図示せず)から提供される試料分子の流れをイオン化するように構成され得る。
【0042】
イオン調製デバイス4は、イオン源2からイオンを受け取るように構成されている。イオンは、イオン調製デバイス4に蓄積(貯蔵)され得る。イオン調製デバイス4は、イオンが貯蔵されるイオン貯蔵容積を画定するように配置された複数の電極を備え得る。イオン調製デバイス4は、イオン貯蔵容積からイオンを受け取り、トラップし、放出するために、電極に1つ以上の電圧を印加するように構成され得る。イオン調製デバイス4は、貯蔵されたイオンをイオン調製デバイスから(直接)TOF型質量分析器10に放出するように構成されている。いくつかの実施形態では、イオン調製デバイス4は、イオントラップであり得る。例えば、イオントラップは、線形イオントラップ又は湾曲イオントラップ(Cトラップ)であり得る。
【0043】
イオン調製デバイス4は、所望の数のイオンがイオン調製デバイス4内に蓄積されるまで、又は所定の期間が経過するまで、イオン源2から受け取られたイオンを貯蔵するように構成され得、その後、イオン調製デバイス4は、貯蔵されたイオンをTOF型質量分析器10内に放出し得る。イオン調製デバイス4は、イオン調製デバイス4の電極にRFトラップ電圧を印加することによってイオンを貯蔵するように構成され得る。印加されるRFトラップ電圧は、RF電圧振幅及びRF電圧周波数を有する。トラップされたイオンは、イオン調製デバイス4の電極に放出電圧を印加することによってイオン調製デバイス4から放出され得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、他のイオン輸送デバイス(
図1には図示せず)が、TOF型質量分析システム1の一部として提供され得る。例えば、TOF型質量分析システムはまた、(前駆体)イオンを断片化して、生成イオンを生成するように構成されている、断片化チャンバを備え得る。TOF型質量分析システムはまた、イオン調製デバイス4に提供されるイオンの質量電荷比を選択するように構成されている、質量選択デバイス(例えば、四重極質量セレクタ)を備え得る。断片化チャンバ及び質量選択デバイスは、当業者に周知であり、本明細書ではこれ以上説明しない。
【0045】
TOF型質量分析器10は、イオン調製デバイス4から較正物質イオンを受け取るように構成されている。いくつかの実施形態では、TOF型質量分析器10は、多重反射TOF型質量分析器(MR-TOF)であり得る。MR-TOF型質量分析器10aの概略図が、
図2に示されている。
【0046】
MR-ToF200は、第1集束イオンミラー11と、第2集束イオンミラー12と、を備える。第1及び第2の集束イオンミラー11、12は、第1及び第2の集束イオンミラー11、12の間で多重反射を伴うイオン軌道を画定するために、互いに対向して配置される。
図2に更に示されるように、イオンは、イオン調製デバイス4からMR-ToF10aに入力される。イオンは、集束イオンミラー11、12の間を移動する前に、イオン調製デバイス4から第1の面外レンズ13、第1の偏向器14、第2の面外レンズ15、及び第2の偏向器16を通って移動する。MR-ToF10aを出たイオンは、イオン検出器17によって捕捉される。MR-TOF10aの更なる詳細は、少なくとも米国特許第B-9136101号に見出され得る。
【0047】
TOF型質量分析器10の較正の以下の説明では、
図2のMR-TOF10aの較正について考察するが、本方法は、他のTOF型質量分析器10にも適用され得ることが理解されるであろう。したがって、本開示によるTOF型質量分析器10を較正する方法は、任意のTOF型質量分析器10に適用され得る。
【0048】
TOF型質量分析器10は、一般に、約5ppm(100万分の1)、より好ましくは最大約1ppmの精度内でイオンのm/z比を決定することができる。
【0049】
要するに、イオン飛行時間tは、有効経路長L、電子ボルト単位の加速電圧Uによって電荷当たりに誘導されるエネルギー、及びイオンの質量/電荷比m/zの関数として表し得る。
【0050】
【0051】
したがって、m/z~t2として、TOF型質量分析器を較正するための1つの方法は、既知のm/zの複数の較正物質イオンの飛行時間を測定することを伴う。較正物質イオンは、イオン源2によってイオン化される較正混合物(例えば、Pierce(商標)Flexmix(商標))の一部として提供され得る。次いで、測定された飛行時間を使用して、二次多項式較正関数からのパラメータを適合させ得る。
m/z=At2+Bt+C
【0052】
多項式ベースの較正方法は、
図2のMR-TOF等のMR-TOFを含む、TOF型質量分析器に好適であることが見出されている。これらの機器では、イオン源の変動(例えば、イオン注入中の電圧変動)に起因する測定影響の有意性は、主分析器容積内で費やされる総飛行時間の割合がより大きいために低減される。
図3は、既知のm/zのMR-ToF分析器10aから得られた較正物質イオンの測定された飛行時間に適合させられた較正曲線を示す。
図4は、MR-TOF型質量分析器10a及び決定された較正曲線を使用した同じ較正物質イオンのその後の測定から得られたm/z誤差を示す。実線は、既知のm/zの各較正物質イオンの複数の測定に対する平均m/z誤差を示す。
図4に示されるように、ほとんどの測定に対するm/z精度は、1ppm未満であるが、ショット間ジッタ又はイオン統計的不確実性がいくらかの過剰誤差を加える場合に測定が行われる。
【0053】
図3で得られた較正曲線は、約1ppmの質量精度を有するようにTOF型質量分析器10を較正することができるが、較正は、TOF型質量分析器10が較正測定と同じ条件下で動作される場合に最も正確である。したがって、TOF型質量分析システム1の1つ以上の機器パラメータの変動は、単純な較正曲線からの逸脱を引き起こし得る。これは、較正曲線が、加速/減速、集束、並びにイオンエネルギー及び軌道におけるかなりの逸脱の領域を組み入れた、多くの場合非常に複雑なイオン飛行経路の事実上の近似であるためである。これらの逸脱のうちのいくつかは、かなりm/z依存性である。例えば、パルス化された抽出電圧の立ち上がり時間は、より軽いイオンがその立ち上がり中に加速場を横切って更に移動するので、イオンエネルギーのm/z依存性を誘発する。パルス抽出時のリップルも同様の問題を引き起こす。別の例は、RFトラップ及び空間電荷が、高m/zイオンをイオン源内により広く分散させ、その結果、パルス抽出後により大きいエネルギー拡散を有することである。したがって、TOF型質量分析システム1の較正の以下の考察は、RFトラップ電圧の影響に焦点を当てているが、本明細書で考察される較正の技法は、TOF型質量分析システム1の任意の機器パラメータに関連付けられた任意の非線形効果を説明するために適用され得ることが理解されるであろう。
【0054】
本発明者らは、イオンをRFトラップするとともにイオンをパルス抽出してTOF型質量分析器10に入れるイオン調製デバイス4を備えるTOF型質量分析システムについて、イオン調製デバイスに関連付けられた機器パラメータの変動が高度にm/z依存性であり得ることに気付いた。したがって、本発明者らは、イオン調製デバイス4のトラップRF振幅の変動が、測定されたm/zの非常に実質的なシフトを生成することに気付いた。更に、トラップRF振幅による測定されたm/zの変動は、高度に非線形であり、かつm/z依存性であり、そのため、変動を単一の較正曲線で捕捉することは困難である。
【0055】
図5は、400Vから1800Vまで変動するRFトラップ電圧振幅による3つの異なる較正物質イオンに対して測定されたm/zの変動のグラフである。それぞれ195、524、及び1422の既知のm/zを有する3つの較正物質イオンが、TOF型質量分析システム1を使用して質量分析され、異なるRFトラップ電圧振幅が使用された。異なるRFトラップ電圧に対する質量シフト(ppm単位)を決定するために、各較正物質イオンの測定されたm/zを既知のm/zと比較した。
図5に示されるように、機器パラメータの変動は、分析されるRFトラップ電圧の範囲にわたって約10ppmの質量シフトを引き起こし、これは、1ppmの所望の質量精度よりも約1桁高い。更に、質量シフトの性質は、高度にm/z依存性(例えば、約1000VのRFトラップ電圧付近)であり、高度に非線形であることが理解されるであろう。他のTOF型質量分析システムでは、最大約60ppmの機器パラメータ依存質量シフトが観測されている。これらのパラメータ間の多次元非線形関係は、単一の較正測定を使用してこれらのパラメータを説明するようにTOF型質量分析器を較正することが困難であることを意味することが理解されるであろう。
【0056】
RFトラップ電圧の場合、質量シフトの原因は、パルス抽出プロセスに干渉する残留RFからの干渉に起因すると考えられる。
図6は、パルス抽出プロセス中にイオン調製デバイス4の電極に印加された信号のオシロスコープトレースを示しており、これは、米国特許第B-9548195号においてHockによって詳細に説明されている方法で動作する。RFは、0交差点付近で(任意選択的に、異なる位相に対して異なる点で)最初にクエンチングされ、任意選択的な短い遅延があり、次いで、900Vのパルス抽出電圧が電極に印加される。
【0057】
図6に示されるように、印加される対向するRFトラップ電圧は、イオン貯蔵期間中にイオン調製デバイス4の電極に印加される。イオン放出プロセス中、イオン調製デバイス4に貯蔵されたイオンは、MR-TOF型質量分析器10aに注入される。オーバーシュート及び関連付けられたリンギングは、m/z依存性である質量誤差を導入すると考えられる。特に、抽出波形上のリンギング、並びに抽出波形の立ち上がり時間及び開始点の相対的に小さいシフトが、RFトラップ電圧の振幅とともに変動することが観測される。特に、これらの変動は、RFトラップ電圧のクエンチングにもかかわらず観測される。したがって、RFオーバーシュート及びリンギング(クエンチングなど)を低減するための高度なRF電源設計技法を用いても、RFトラップ電圧と抽出電圧との間の関係を完全に排除することは極めて困難である。異なるm/z範囲のイオンをトラップするために、イオン調製デバイスによって異なるRFトラップ振幅が使用されるので、RFトラップ電圧振幅に対して単一の値を単純に使用することは実現可能ではない。例えば、TOF型質量分析システム1において、RFトラップ振幅は、通常、異なる分析物の対象のm/z範囲に応じてスキャンごとに調整される。したがって、TOF型質量分析システム1のm/z精度を改善するために、特定のTOF型質量分析スキャンにおいて使用される機器パラメータを考慮に入れた、TOF型質量分析システム1を較正する方法が所望される。
【0058】
本開示の実施形態によれば、
図1のTOF型質量分析器10を較正する方法100が提供される。
図7は、本開示の実施形態による方法100のブロック図を提供する。
【0059】
方法100によれば、較正物質イオンの複数の較正分析が、TOF型質量分析器10を使用して実行される。各較正分析に対して、TOF型質量分析器10を使用して、較正物質イオンの飛行時間を測定し、TOF型質量分析器は、較正物質イオンの飛行時間に影響を及ぼす関連付けられた機器パラメータを有する。
【0060】
例えば、方法100において、機器パラメータは、イオン調製デバイス4のRFトラップ電圧振幅である。したがって、方法100のステップ101、102、103、及び104では、複数の較正分析が、異なるRFトラップ電圧振幅を使用して実行される。
【0061】
したがって、ステップ101において、RFトラップ電圧振幅(機器パラメータ)は、測定されるRFトラップ電圧のリストから選択される。一般に、較正は、TOF型質量分析システム1が動作される機器パラメータ値の範囲にわたって実行されるべきである。例えば、TOF型質量分析器10aに対して、較正は、例えば約50Vの間隔で約400Vから約1800VまでのRFトラップ電圧振幅に対して実行され得る。したがって、少なくとも10回、好ましくは少なくとも20回の較正分析が、較正される機器パラメータに対して実行され得る。
【0062】
ステップ102において、較正物質イオンは、TOF型質量分析器10を使用して分析され、選択された機器パラメータは、TOF型質量分析システム1に適用される。
【0063】
ステップ103において、基準較正曲線は、較正物質イオンの既知の質量電荷比と、それぞれの飛行時間と、に基づいて、TOF型質量分析器10に対して決定される。いくつかの実施形態では、決定される基準較正曲線は、多項式較正曲線であり得る。例えば、基準較正曲線は、
m/z=At2+Bt+C
の形態であり得る。
【0064】
したがって、いくつかの実施形態では、基準較正曲線は、少なくとも次数2、3、又は5の多項式であり得る。基準較正曲線を決定することは、較正物質イオンの測定されたm/z比が較正物質イオンの既知のm/z比に当てはまるように、パラメータA、B、及びCを適合させることを含み得る。
【0065】
本方法のステップ104において、TOF型質量分析システム1は、関心対象の全ての機器パラメータ設定について基準較正曲線が得られたかどうかを評価し得る。したがって、ステップ101、102、及び103は、所望の複数の基準較正曲線を得るために、異なる機器パラメータ設定で繰り返され得る。
【0066】
いくつかの実施形態では、各較正分析は、同じm/z範囲にわたって同じ較正物質イオンを使用して実行され得る。
【0067】
いくつかの実施形態では、異なる較正物質イオン及び/又は異なるm/z範囲が較正分析のために使用され得るように、相対的に広いm/z範囲にわたってTOF型質量分析システム1を較正することが望ましくあり得る。
【0068】
例えば、いくつかの実施形態では、較正物質イオンが、質量電荷比の第1のセットを有する第1の較正物質イオンである、1つ以上の第1の較正分析が実行され得る。いくつかの実施形態では、較正物質イオンが、第1の較正物質イオンの質量電荷比の第1のセットとは異なる質量電荷比の第2のセットを有する第2の較正物質イオンである、1つ以上の第2の較正分析も実行され得る。したがって、複数の較正分析は、改善された精度で相対的に広いm/z範囲にわたって基準較正曲線のライブラリを構築するために、異なる較正物質イオン(又は較正物質イオンの異なるサブセット)を使用し得る。
【0069】
いくつかの実施形態では、第1の較正分析は、第1のm/z範囲にわたって実行され得、第2の較正分析は、第2のm/z範囲にわたって実行され得る。したがって、第1の較正分析を使用して、第1の質量電荷値と第2の質量電荷値との間で定義される、それぞれの第1の基準較正曲線を決定し得る。1つ以上の第2の較正分析を使用して、第3の質量電荷値と第4の質量電荷値との間で定義される、それぞれの第2の基準較正曲線を決定し得、第4の質量電荷値は、第1及び第2の質量電荷値によって定義される範囲の外側にある。したがって、第1及び第2の基準較正曲線は、異なるm/z範囲をカバーし得る。いくつかの実施形態では、第1及び第2の基準較正曲線は、m/zにおいて少なくとも部分的に重複し得る。したがって、複数の較正分析は、改善された精度で相対的に広いm/z範囲にわたって基準較正曲線のライブラリを構築するために、異なるm/z範囲をカバーし得る。
【0070】
ステップ105において、基準較正曲線は、後日使用するためにTOF型質量分析システム1によって記憶され得る。いくつかの実施形態では、ステップ105の一部として、TOF型質量分析システム1は、TOF型質量分析器10によって実行されるTOF型質量分析で使用するための較正曲線を決定し得る。較正曲線は、複数の基準較正曲線と、TOF型質量分析において使用されるTOF型質量分析器の機器パラメータと、に基づいて決定され得る。
【0071】
例えば、いくつかの実施形態では、較正曲線は、TOF型質量分析において使用されるTOF型質量分析器の機器パラメータに最も近い、関連付けられた機器パラメータを有する、複数の基準較正曲線のうちの基準較正曲線に基づいて、決定される。したがって、TOF型質量分析において使用される機器パラメータ設定に最も類似する、機器パラメータ設定の下で得られた基準較正曲線が選択され得る。
【0072】
いくつかの実施形態では、較正曲線は、TOF型質量分析において使用されるイオントラップの機器パラメータを境界付ける、関連付けられた機器パラメータを有する、基準較正曲線のうちの2つの間を補間することによって決定され得る。例えば、基準較正曲線が複数のパラメータ(例えば、A、B、Cなど)によって定義される場合、較正曲線は、パラメータの2つのセット間のパラメータの各々の補間によって決定され得る(例えば、パラメータAは、パラメータA1とA2との間の補間によって得られるなど)。
【0073】
上記の説明は、RFトラップ電圧の変動に対してTOF型質量分析器を較正するための方法を説明しているが、他の機器パラメータが同様の方法論を使用して較正され得ることが理解されるであろう。例えば、RFトラップ電圧周波数、TOF型質量分析当たりのイオン集団などの機器パラメータも、同様の技法を使用して較正され得る。
【0074】
いくつかの実施形態では、2つ(又はそれ以上)の機器パラメータの変動を考慮に入れる較正曲線を決定し得る。そのような場合、較正曲線を決定する上述の方法は、基準較正曲線の二次元選択を考慮に入れ得る。例えば、機器パラメータの組合せに最も類似する基準較正曲線を使用して、較正曲線を決定し得る。他の実施形態では、較正曲線を決定するために、パラメータA、B、Cの二次元補間が使用され得る。
【0075】
したがって、TOF型質量分析システム1の較正に対する1つ以上の機器パラメータの影響をより正確に説明する較正曲線が得られ得る。
【0076】
TOF型質量分析器を較正するための方法100に加えて、本開示の更なる実施形態によれば、関心対象の質量電荷比範囲のためのTOF型質量分析の方法200が提供される。
図8は、方法200のブロック図を提供する。方法200は、上で考察されるTOF型質量分析システム1を参照して考察される。
【0077】
ステップ201において、関心対象の質量電荷比範囲内の質量電荷比を有する複数のイオンが提供される。例えば、複数のイオンは、分析される試料イオンであり得る。試料イオンは、クロマトグラフィ装置によって提供され得る。
【0078】
ステップ202において、イオンの飛行時間は、TOF型質量分析器10を使用して測定され得、TOF型質量分析器は、飛行時間を測定するために使用される関連付けられた機器パラメータを有する。例えば、機器パラメータがRFトラップ電圧である場合、RFトラップ電圧は、分析されるイオンのm/z範囲に基づいて選択され得る。イオンを提供し、質量分析するステップ201及び202は、上で考察される較正分析と同様の様式で実行され得、したがって、これらのステップは、更に詳細に考察されないことが理解されるであろう。
【0079】
ステップ203において、TOF型質量分析器に対する較正曲線が得られる。較正曲線は、複数の基準較正曲線に基づいて得られ、各基準較正曲線は、TOF型質量分析器の機器パラメータの異なる値に関連付けられており、TOF型質量分析器の機器パラメータは、イオンの飛行時間を測定するために使用される。基準較正曲線は、上述のTOF型質量分析システムを較正する方法を使用して得られ得ることが理解されるであろう。
【0080】
ステップ204において、較正曲線は、イオンに対する質量電荷比を決定するために、イオンの測定された飛行時間に適用される。
【0081】
いくつかの実施形態では、関心対象の質量電荷範囲は、関連付けられた第1の機器パラメータを有する第1の部分範囲と、関連付けられた機器パラメータを有する第2の部分範囲と、を含み、第1及び第2の機器パラメータは、異なる。したがって、異なるm/z範囲に対して機器パラメータ設定を変更することが望ましいTOF分析の場合、方法200は、それに応じて使用される較正曲線を更新し得る。
【0082】
したがって、方法200のいくつかの実施形態では、ステップ202は、第1の機器パラメータを使用して、第1の部分範囲内の質量電荷比を有するイオンの飛行時間を測定することと、第2の機器パラメータを使用して、第2の部分範囲内の質量電荷比を有するイオンの飛行時間を測定することと、を含む。そのような実施形態では、ステップ203において、第1の較正曲線が、第1の部分範囲に対して決定され、第2の較正曲線が、第2の部分範囲に対して決定される。次いで、イオンのm/zを決定するために、関連付けられた較正曲線がステップ204において適用される。
【0083】
したがって、方法200によれば、TOF型質量分析システム1のために使用される較正曲線は、測定ごとに決定され得る。したがって、機器パラメータが変動する複数のTOF測定を含むTOF型質量分析ワークフローが実行される場合、TOF型質量分析器の較正は、機器パラメータの変動に関連付けられた任意の質量シフトを補償するように調整され得る。
【0084】
図9a、
図9b、及び
図9cは、異なる機器パラメータ設定下でのTOF型質量分析のための既知のm/zの試料イオンの測定されたm/zシフトのグラフを示す。
図9a、
図9b及び
図9cの測定値は、上述のTOF型質量分析システム1を使用して得られた。
図9a、
図9b及び
図9cの例では、変動する機器パラメータは、RFトラップ電圧である。各データポイントについて、飛行時間は、特定のRFトラップ電圧下で関心対象の試料イオンに対して測定された。次いで、較正曲線を適用し、質量シフト(ppm単位)を決定するために、試料イオンの決定されたm/zを試料イオンの既知のm/zと比較した。グラフの各々において、カフェイン915、MRFA524及びUltramark1422に対応するm/z195.87652、524.2649645、及び1421.9778621の試料イオンを分析した。試料イオンは、400Vから1800VまでのRFトラップ電圧の範囲にわたって測定された。
【0085】
図9aの例では、同じ較正曲線が各測定に使用された。使用した較正曲線は、約800VのRFトラップ電圧を使用して得られた。全ての測定に対して単一の較正曲線を使用することは、RFトラップ電圧が変動するにつれて、約+9ppm~-5ppmの範囲(全範囲約14ppm)の質量シフトをもたらすことが理解されるであろう。平均質量シフト誤差は、約5ppmであった。m/zによるm/zシフトの変動は、高度に非線形であることが理解されるであろう。RFトラップ電圧によるm/zシフトの変動もまた、高度に非線形である。したがって、これらの影響を正確に補償する単一の較正曲線を提供することは、極めて困難であることが理解されるであろう。
【0086】
図9bを参照すると、複数の基準較正曲線が提供され、そこから較正曲線が各TOF測定に対して決定された。複数の較正曲線は、600V、800V、1200V、及び1600VのRFトラップ電圧で得られた。
【0087】
図9bにおいて、各較正曲線は、TOF型質量分析において使用されるTOF型質量分析器の機器パラメータに最も近い、関連付けられた機器パラメータを有する、複数の基準較正曲線のうちの基準較正曲線に基づいて、決定された。
図9bの方法について、m/zシフトは、測定の実質的に大部分について約+2ppm~-2ppmの範囲であったことが理解されるであろう。より大きいm/zシフトが約1400VのRFトラップ電圧でm/z195のイオンに対して明らかであったが、これは、そのような大きいトラップ電圧が相対的に低いm/zイオンの正確な測定に特に好適ではないことを反映している。
【0088】
図9cにおいて、複数の基準較正曲線が提供され、そこから較正曲線が補間を使用して、各TOF測定に対して決定された。これらの測定に対して、平均m/zシフトは、約1ppmであり、
図9bの方法に対する更なる改善であった。
【0089】
上で考察されるように、いくつかの実施形態では、RFトラップ電圧の振幅は、少なくとも部分的に、イオンの決定されたm/zのシフトを引き起こし得る。このシフトは、既知のm/zのイオンに対して観測された飛行時間(flight time)におけるシフトとして観測され得る。したがって、いくつかの実施形態では、複数の較正分析を使用して、所与の機器パラメータ(RFトラップ電圧)に対する飛行時間シフトを決定し得る。
図10は、異なるRFトラップ電圧に対する飛行時間シフト(すなわち、測定された飛行時間と既知のm/zのイオンに対する予想飛行時間との間の差)のグラフを示す。
図10は、異なる既知のm/zのイオンに対するRFトラップ電圧による飛行時間シフトを示す。
【0090】
図10から理解されるように、飛行時間シフト挙動は、多項式関数によって特徴付けることができる。例えば、
図10の実施形態では、RFトラッピング振幅(A)による飛行時間シフト(t
s)は、以下の形態のモデルを測定されたデータに適合させることによって見出すことができる。
t
s(A)=c
0+c
1A+c
2A
2+c
3A
3
ここで、c
0、c
1、c
2、c
3は、複数の較正分析から、決定された飛行時間シフトに適合させられるパラメータである。
【0091】
このRFトラップ電圧依存飛行時間シフトは、複数の基準較正曲線を決定するプロセス及び/又はTOF分析で使用するための較正曲線を決定することに組み入れることができる。
【0092】
例えば、いくつかの実施形態では、m/z=At
2+Bt+C形態の基準較正曲線は、飛行時間シフトに基づいて更新される飛行時間値tに基づいて決定され得る。したがって、RF振幅依存モデルパラメータを見つける前に、RF振幅依存飛行時間シフトt(A)を到着時間から減算することができる。このオフセットは、以下の形態
t(m,A)=t
m(m)+t
s(A)
のモデルを既知の質量mの異なる(一価の)較正用イオン種を使用して、かつ既知のRF振幅下Aの下で、得られた較正データに対して適合させることによって、見出すことができる。ここで、t
mは、各既知の較正物質イオン質量に対するオフセットパラメータであり、及びRF振幅依存飛行時間シフトに対するモデルt(A)は、質量非依存性である。
図10において、モデルt(A)は、次数3の単純な多項式として選択された。
【0093】
例えば、いくつかの実施形態では、モデルの初期推定値は、較正データを使用する線形適合に基づき得る。
t(m,A)=a0(t-t(A))2
【0094】
そのような実施形態では、パラメータa0、c0、c1、c2、c3は、較正データの線形適合を使用して最初に推定され得る。いくつかの実施形態では、モデルは、曲線適合アルゴリズムを使用して更に精緻化され得る。例えば、Levenberg Marquardtアルゴリズム(減衰最小二乗法)アルゴリズムを使用して、モデル挙動を改善するために推定パラメータを精緻化し得る。
【0095】
いくつかの実施形態では、次いで、更新された飛行時間値t(m,A)を使用して、上で考察される方法に従って、形態m/z=At2+Bt+Cの関連付けられた基準較正曲線を決定し得る。したがって、各較正物質イオンに対する基準較正曲線は、以下のようにモデル化され得る。
【0096】
【数2】
ここで、a(A),b(A)及びc(A)は、適合されるRF依存パラメータである。
【0097】
図11は、既知の質量電荷比のイオンに対する残留質量誤差(ppm単位)のグラフを示しており、これは、RF依存パラメータa(A)、b(A)及びc(A)を有する1つ以上の基準較正曲線に従って分析される。残留誤差は、40~1900のm/z範囲にわたって±2ppm以下であることが理解されるであろう。
【0098】
代替的に、所与の到達時間t及びRF振幅Aからm/zを得るための各基準較正曲線に対する別の可能なモデルは、以下の形態とすることができる。
【0099】
【数3】
ここで、t
0は、飛行時間/質量依存パラメータであり、a
0は、適合されるRF依存パラメータである。
【0100】
図12aは、RFトラップ電圧振幅による飛行時間シフトの変動の更なるグラフを示す。
図12aから理解されるように、飛行時間シフトは、RFトラップ電圧に依存するが、較正物質イオンのm/z(すなわち、飛行時間)への(あまり有意でない)依存性も有する。
図12bは、
図12aの各データポイントに対する残留質量誤差(ppm単位)を示す。
【0101】
したがって、いくつかの実施形態では、各基準較正曲線の決定は、飛行時間に対するRFトラップ電圧の影響を説明するために飛行時間データが最初にシフトされ、その後、任意のm/z依存挙動を説明する基準較正曲線を決定する、多段階プロセスであり得る。
【0102】
したがって、いくつかの実施形態では、各基準較正曲線を決定するための多段階プロセスは、複数の機器パラメータを考慮に入れ得る。例えば、いくつかの実施形態では、RFトラップ電圧挙動は、飛行時間シフトを計算するステップにおいて説明され得る。基準較正曲線は、次いで、タイムシフトされた飛行時間の測定を使用して、異なる機器パラメータ(例えば、RFトラップ電圧周波数、TOF型質量分析ごとのイオン集団等)に基づいて決定され得る。
【0103】
したがって、本開示の実施形態によれば、TOF型質量分析器を較正し、TOF型質量分析を実行する方法が提供される。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行時間(TOF)型質量分析器を較正する方法であって、
前記TOF型質量分析器を使用して、較正物質イオンの複数の較正分析を実行することであって、各較正分析が、
前記TOF型質量分析器を使用して、前記較正物質イオンの飛行時間を測定することであって、前記TOF型質量分析器が、前記較正物質イオンの前記飛行時間に影響を及ぼす関連付けられた機器パラメータを有する、測定することと、
前記較正物質イオンの既知の質量電荷比と、それぞれの前記飛行時間と、に基づいて、前記TOF型質量分析器に対する基準較正曲線を決定することであって、前記基準較正曲線が、それぞれの前記較正分析のための前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータに関連付けられており、前記複数の較正分析の各々に対して、前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータの値が異なる、決定することと、
を含む、実行することと、
前記TOF型質量分析器によって実行されるTOF型質量分析において使用するための較正曲線を決定することであって、前記較正曲線が、複数の前記基準較正曲線と、前記TOF型質量分析において使用される前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータと、に基づいて決定される、決定することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記較正物質イオンが、前記TOF型質量分析器に接続されたイオン調製デバイス、好ましくはイオントラップに最初に貯蔵され、前記較正物質イオンの飛行時間を測定することが、前記イオントラップから前記TOF型質量分析器に、前記較正物質イオンを注入することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記較正物質イオンが、RFトラップ電圧を印加することによって、前記イオントラップ内に最初に貯蔵される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
各基準較正曲線に関連付けられた前記機器パラメータが、前記RFトラップ電圧の振幅又は周波数である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
飛行時間シフトモデルが、前記複数の較正分析の各々の前記測定された飛行時間と、前記複数の較正分析の各々に対する前記較正物質イオンの既知の質量電荷比と、前記複数の較正分析の各々に対する前記RFトラップ電圧の振幅と、に基づいて決定され、
各基準較正曲線が、前記較正物質イオンの前記既知の質量電荷比と、前記飛行時間シフトモデルと、それぞれの前記飛行時間と、に基づいて決定される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
各基準較正曲線を決定するために使用される前記飛行時間が、前記飛行時間シフトモデルと、前記測定された飛行時間と、に基づいている、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の較正分析が、
前記較正物質イオンが、質量電荷比の第1のセットを有する第1の較正物質イオンである、第1の較正分析と、
前記較正物質イオンが、前記第1の較正物質イオンの質量電荷比の前記第1のセットとは異なる質量電荷比の第2のセットを有する第2の較正物質イオンである、第2の較正分析と、を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記複数の較正分析が、
第1の基準較正曲線が決定される第1の較正分析であって、前記第1の基準較正曲線が、第1の質量電荷値と第2の質量電荷値との間で定義される、第1の較正分析と、
第2の基準較正曲線が決定される第2の較正分析であって、前記第2の基準較正曲線が、第3の質量電荷値と第4の質量電荷値との間で定義され、前記第4の質量電荷値が、前記第1及び第2の質量電荷値によって定義される範囲の外側にある、第2の較正分析と、を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
較正曲線が、前記TOF型質量分析において使用される前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータに最も近い、関連付けられた機器パラメータを有する、前記複数の基準較正曲線のうちの前記基準較正曲線に基づいて、決定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
較正曲線が、前記TOF型質量分析において使用される前記機器パラメータを境界付ける、関連付けられた機器パラメータを有する、前記基準較正曲線のうちの2つの間を補間することによって決定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
TOF型質量分析器を使用する、関心対象の質量電荷比範囲のための飛行時間型質量分析の方法であって、
前記関心対象の質量電荷比範囲内の質量電荷比を有する複数のイオンを提供することと、
前記TOF型質量分析器を使用して、前記イオンの飛行時間を測定することであって、前記TOF型質量分析器が、前記飛行時間を測定するために使用される関連付けられた機器パラメータを有する、測定することと、
前記TOF型質量分析器に対する較正曲線を取得することであって、前記較正曲線が、
複数の基準較正曲線であって、各基準較正曲線が、前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータの異なる値に関連付けられている、複数の基準較正曲線と、
前記イオンの飛行時間を測定するために使用される前記TOF型質量分析器の機器パラメータと、に基づいて取得される、取得することと、
前記イオンに対する質量電荷比を決定するために、前記較正曲線を前記イオンの前記測定された飛行時間に適用することと、を含む、方法。
【請求項12】
前記イオンが、前記TOF型質量分析器に接続されたイオン調製デバイス、好ましくはイオントラップに最初に貯蔵され、前記イオンの飛行時間を測定することが、前記イオントラップから前記TOF型質量分析器に前記イオンを注入することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記イオンが、RFトラップ電圧を印加することによって、前記イオントラップ内に最初に貯蔵され、各基準較正曲線に関連付けられた前記機器パラメータが、前記RFトラップ電圧の振幅又は周波数である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記関心対象の質量電荷範囲及び前記関連付けられた機器パラメータが、ユーザによって指定される、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記関心対象の質量電荷範囲が、関連付けられた第1の機器パラメータを有する第1の部分範囲と、関連付けられた第2の機器パラメータを有する第2の部分範囲と、を含み、前記第1及び第2の機器パラメータが、異なり、
前記飛行時間型質量分析の方法が、
前記第1の機器パラメータを使用して、前記第1の部分範囲内の質量電荷比を有する前記イオンの前記飛行時間を測定することと、
前記第2の機器パラメータを使用して、前記第2の部分範囲内の質量電荷比を有する前記イオンの前記飛行時間を測定することと、を含み、
第1の較正曲線が、前記第1の部分範囲に対して決定され、
第2の較正曲線が、前記第2の部分範囲に対して決定される、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
飛行時間(TOF)型質量分析システムであって、
飛行時間(TOF)型質量分析器と、
コントローラと、を備え、
前記TOF型質量分析システムが、前記コントローラによって制御される機器パラメータを有し、前記機器パラメータが、較正物質イオンの飛行時間に影響を及ぼし、
前記コントローラが、
前記TOF型質量分析器に、較正物質イオンの複数の較正分析を実行させることであって、各較正分析が、
前記TOF型質量分析器を使用して、前記較正物質イオンの飛行時間を測定すること、並びに、
前記較正物質イオンの既知の質量電荷比と、それぞれの前記飛行時間と、に基づいて、前記TOF型質量分析器に対する基準較正曲線を決定することであって、前記基準較正曲線が、それぞれの前記較正分析のための前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータに関連付けられており、
前記複数の較正分析の各々に対して、前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータの値が異なる、決定すること、を含む、実行させることと、
前記TOF型質量分析器によって実行されるTOF型質量分析において使用するための較正曲線を決定することであって、前記較正曲線が、複数の前記基準較正曲線と、前記TOF型質量分析において使用される前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータと、に基づいて決定される、決定することと、を行うように構成されている、飛行時間(TOF)型質量分析システム。
【請求項17】
較正物質イオンを貯蔵するように、かつ前記TOF型質量分析器に較正物質イオンを注入するように構成されたイオントラップを更に備え、
各較正分析に対して、前記コントローラが、前記イオントラップに、前記イオントラップから前記TOF型質量分析器に、前記較正物質イオンを注入させるように構成されている、請求項16に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項18】
前記イオントラップが、前記較正物質イオンを前記イオントラップ内に貯蔵するために、RFトラップ電圧を印加するように構成されており、
各基準較正曲線に関連付けられた前記機器パラメータが、前記RFトラップ電圧の振幅又は周波数である、請求項17に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項19】
前記コントローラが、前記TOF型質量分析器に複数の較正分析を実行させるように構成されており、前記複数の較正分析が、
前記TOF型質量分析器に、前記較正物質イオンが、質量電荷比の第1のセットを有する第1の較正物質イオンである、第1の較正分析を実行させることと、
前記TOF型質量分析器に、前記較正物質イオンが、前記第1の較正物質イオンの質量電荷比の前記第1のセットとは異なる質量電荷比の第2のセットを有する第2の較正物質イオンである、第2の較正分析を実行させることと、を含む、請求項16~18のいずれか一項に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項20】
前記コントローラが、前記TOF型質量分析器に前記複数の較正分析を実行させるように構成されており、前記複数の較正分析が、
前記TOF型質量分析器に、第1の較正分析を実行させることであって、前記コントローラが、前記第1の較正分析から、第1の基準較正曲線を決定し、前記第1の基準較正曲線が、第1の質量電荷値と第2の質量電荷値との間で定義される、実行させることと、
前記TOF型質量分析器に、第2の較正分析を実行させることであって、前記コントローラが、前記第2の較正分析から第2の基準較正曲線を決定し、前記第2の基準較正曲線が、第3の質量電荷値と第4の質量電荷値との間で定義され、前記第4の質量電荷値が、前記第1及び第2の質量電荷値によって定義される範囲の外側にある、実行させることと、を含む、請求項16~18のいずれか一項に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項21】
前記コントローラが、前記TOF型質量分析において使用される前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータに最も近い、関連付けられた機器パラメータを有する前記複数の基準較正曲線のうちの前記基準較正曲線に基づいて、較正曲線を決定するように構成されている、請求項16~18のいずれか一項に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項22】
前記コントローラが、前記TOF型質量分析において使用される前記機器パラメータを境界付ける、関連付けられた機器パラメータを有する、前記基準較正曲線のうちの2つの間を補間することによって、較正曲線を決定するように構成されている、請求項16~18のいずれか一項に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項23】
関心対象の質量電荷比範囲を有する複数のイオンを質量分析するように構成されたTOF型質量分析システムであって、
TOF型質量分析器と、
コントローラと、を備え、
前記コントローラが、
前記TOF型質量分析器に、前記関心対象の質量電荷範囲内の質量電荷比を有する複数のイオンの飛行時間を測定させることであって、前記TOF型質量分析器が、前記TOF型質量分析システムの関連付けられた機器パラメータを用いて、前記飛行時間の前記測定を実行する、測定させることと、
前記TOF型質量分析器に対する較正曲線を決定することであって、前記較正曲線が、
複数の基準較正曲線であって、各基準較正曲線が、前記TOF型質量分析器の前記機器パラメータの異なる値に関連付けられている、複数の基準較正曲線と、
前記イオンの飛行時間を測定するために使用される前記TOF型質量分析システムの前記機器パラメータと、に基づいて決定される、決定することと、
前記イオンの質量電荷比を決定するために、前記較正曲線を前記イオンの前記測定された飛行時間に適用することと、を行うように構成されている、TOF型質量分析システム。
【請求項24】
イオントラップを更に備え、
測定される前記イオンが、前記TOF型質量分析器に接続されたイオントラップに最初に貯蔵され、前記イオンの飛行時間の測定のために、前記コントローラが、前記イオントラップに、前記イオントラップから前記TOF型質量分析器に、前記イオンを注入させるように構成されている、請求項23に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項25】
前記イオントラップが、前記イオントラップ内に前記イオンを貯蔵するために、RFトラップ電圧を印加するように構成されており、前記イオンの前記測定に関連付けられた前記機器パラメータが、前記RFトラップ電圧の振幅又は周波数である、請求項24に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項26】
前記関心対象の質量対電荷範囲及び前記機器パラメータが、ユーザによって指定される、請求項23~25のいずれか一項に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項27】
前記関心対象の質量電荷範囲が、関連付けられた第1の機器パラメータを有する第1の部分範囲と、関連付けられた第2の機器パラメータを有する第2の部分範囲と、を含み、前記第1及び第2の機器パラメータが、異なり、
前記コントローラが、
前記TOF型質量分析器に、それぞれの前記第1及び第2の機器パラメータを用いて、前記第1及び第2の部分範囲の各々に対する前記イオンの前記飛行時間を測定させることと、
前記第1の部分範囲に対する第1の較正曲線を決定することと、
前記第2の部分範囲に対する第2の較正曲線を決定することと、を行わせるように構成されており、
前記コントローラが、前記イオンに対する質量電荷比を決定するために、前記第1の較正曲線を、前記第1の部分範囲にわたって前記イオンの前記測定された飛行時間に適用するように、かつ前記第2の較正曲線を、前記第2の部分範囲にわたって前記イオンの前記測定された飛行時間に適用するように構成されている、請求項23~25のいずれか一項に記載のTOF型質量分析システム。
【請求項28】
請求項16又は23に記載のTOF型質量分析システムに、請求項1又は11に記載の方法のステップを実行させる命令を含む、コンピュータプログラム。
【請求項29】
請求項28のコンピュータプログラムを格納している、コンピュータ可読媒体。
【外国語明細書】