(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144379
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】原料液の濃縮方法及び濃縮システム
(51)【国際特許分類】
B01D 61/00 20060101AFI20241003BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20241003BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20241003BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20241003BHJP
B01D 71/42 20060101ALI20241003BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20241003BHJP
B01D 71/10 20060101ALI20241003BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20241003BHJP
B01D 71/64 20060101ALI20241003BHJP
B01D 71/52 20060101ALI20241003BHJP
B01D 71/76 20060101ALI20241003BHJP
B01D 71/62 20060101ALI20241003BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20241003BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20241003BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B01D61/00 500
B01D69/08
B01D71/68
B01D71/34
B01D71/42
B01D71/26
B01D71/10
B01D71/56
B01D71/64
B01D71/52
B01D71/76
B01D71/62
B01D69/12
B01D69/10
B01D69/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024054112
(22)【出願日】2024-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2023052292
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023217285
(32)【優先日】2023-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100227352
【弁理士】
【氏名又は名称】白倉 加苗
(72)【発明者】
【氏名】高田 諒一
(72)【発明者】
【氏名】大崎 剛裕
(72)【発明者】
【氏名】片山 雄治
(72)【発明者】
【氏名】山本 豊彦
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡文
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA14
4D006HA02
4D006HA18
4D006JA13C
4D006JA25C
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4D006KE01Q
4D006KE03Q
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4D006MA02
4D006MA03
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4D006MA33
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4D006MC09
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4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC29
4D006MC39
4D006MC47
4D006MC54
4D006MC56X
4D006MC57
4D006MC58
4D006MC62
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4D006MC65
4D006NA41
4D006PA04
4D006PB03
4D006PB08
4D006PB14
4D006PB70
4D006PC11
4D006PC41
(57)【要約】
【課題】有機溶媒リッチな原料液を用いた場合に、原料液への誘導溶質の混入を低減させる原料液濃縮方法及び原料液濃縮システムを提供することを目的とする。
【解決手段】原料液を濃縮する方法であって、
前記方法が、原料液と誘導液とを正浸透膜を介して接触させる濃縮工程を含み、
前記原料液が、有価物と、溶媒とを含み、
前記溶媒が有機溶媒を含み、
前記誘導液が、誘導溶質を含み、
前記誘導溶質が、下記(1)及び(2)を満たす、原料液濃縮方法。
(1)分子量30以上100以下の繰り返し単位を少なくとも3つ以上含む高分子である
(2)前記高分子の主鎖に、水素原子、ハロゲン原子以外の原子(原子団)が結合している分岐構造を有する
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液を濃縮する方法であって、
前記方法が、原料液と誘導液とを正浸透膜を介して接触させる濃縮工程を含み、
前記原料液が、有価物と、溶媒とを含み、
前記溶媒が有機溶媒を含み、
前記誘導液が、誘導溶質を含み、
前記誘導溶質が、下記(1)及び(2)を満たす、原料液濃縮方法。
(1)分子量30以上100以下の繰り返し単位を少なくとも3つ以上含む高分子である
(2)前記高分子の主鎖に、水素原子、ハロゲン原子以外の原子(原子団)が結合している分岐構造を有する
【請求項2】
前記溶媒中の有機溶媒の濃度が、50質量%以上である、請求項1に記載の原料液濃縮方法。
【請求項3】
前記溶媒中の有機溶媒の濃度が、80質量%以上である、請求項1に記載の原料液濃縮方法。
【請求項4】
前記誘導溶質の重量平均分子量が300Da以上2300Da以下である、請求項1又は2に記載の原料液濃縮方法。
【請求項5】
前記誘導溶質の重量平均分子量が400Da以上1000Da以下である、請求項1又は2に記載の原料液濃縮方法。
【請求項6】
前記溶媒が、有機溶媒と、水とを含み、
前記誘導溶質に対する水の溶解度が2質量%以上である、請求項1又は2に記載の原料液濃縮方法。
【請求項7】
前記溶媒が、有機溶媒と、水とを含み、
前記誘導溶質に対する水の溶解度が、6質量%以上である、請求項1又は2に記載の原料液濃縮方法。
【請求項8】
前記正浸透膜が中空糸状である、請求項1又は2に記載の原料液濃縮方法。
【請求項9】
前記正浸透膜が、基材層と活性層とを有し、
前記基材層が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース系高分子、ポリケトン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリベンズイミダゾールからなる群から選ばれる1種以上のポリマーを含む、請求項1又は2に記載の原料液濃縮方法。
【請求項10】
前記正浸透膜の活性層がポリアミドを含む、請求項9に記載の原料液濃縮方法。
【請求項11】
前記活性層側に原料液として純水を、前記基材層側に誘導液として3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液を配置し、前記基材層側を正とし20kPaに加圧しながら原料液及び誘導液を流し、20分経過後に正浸透膜の評価を行ったときに、
前記誘導溶質のRSF(g/(m2×hr))を、前記誘導溶液中への水Flux(kg/m2/hr)で除したRSF/水Flux(塩選択性)が0.05g/kg以上1.00g/kg以下である、請求項9又は10に記載の原料液濃縮方法。
【請求項12】
前記塩選択性が、0.10g/kg以上0.90g/kg以下である、請求項11に記載の原料液濃縮方法。
【請求項13】
前記有価物が、医薬品、原薬及び開発パイプライン(医療用医薬品候補化合物)、並びにこれらの中間体及び原料である、請求項1又は2に記載の原料液濃縮方法。
【請求項14】
前記有価物が、重量平均分子量100~3,000,000の化合物である、請求項1又は2に記載の原料液濃縮方法。
【請求項15】
前記有価物が、化粧品、若しくは機能性化学品、又はそれらの原料である、請求項1又は2に記載の原料液濃縮方法。
【請求項16】
原料液を濃縮するための原料液濃縮システムであって、
前記原料液濃縮システムが、原料液と誘導液とを受入れ且つ前記原料液と前記誘導液とが正浸透膜を介して接触するように構成された正浸透膜モジュールを備え、
前記原料液が、有価物と、溶媒とを含み、
前記溶媒が有機溶媒を含み、
前記誘導液が、誘導溶質を含み、
前記誘導溶質が、下記(1)及び(2)を満たす、原料液濃縮システム。
(1)分子量30以上100以下の繰り返し単位を少なくとも3つ以上含む高分子である
(2)前記高分子の主鎖に、水素原子、ハロゲン原子以外の原子(原子団)が結合している分岐構造を有する
【請求項17】
前記溶媒中の有機溶媒の濃度が、50質量%以上である、請求項16に記載の原料液濃縮システム。
【請求項18】
前記溶媒中の有機溶媒の濃度が、80質量%以上である、請求項16に記載の原料液濃縮システム。
【請求項19】
前記誘導溶質の重量平均分子量が300Da以上2300Da以下である、請求項16又は17に記載の原料液濃縮システム。
【請求項20】
前記誘導溶質の重量平均分子量が400Da以上1000Da以下である、請求項16又は17に記載の原料液濃縮システム。
【請求項21】
前記溶媒が、有機溶媒と、水とを含み、
前記誘導溶質に対する水の溶解度が2質量%以上である、請求項16又は17に記載の原料液濃縮システム。
【請求項22】
前記溶媒が、有機溶媒と、水とを含み、
前記誘導溶質に対する水の溶解度が、6質量%以上である、請求項16又は17に記載の原料液濃縮システム。
【請求項23】
前記正浸透膜が中空糸状である、請求項16又は17に記載の原料液濃縮システム。
【請求項24】
前記正浸透膜が、基材層と活性層とを有し、
前記基材層が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース系高分子、ポリケトン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリベンズイミダゾールからなる群から選ばれる1種以上のポリマーを含む、請求項16又は17に記載の原料液濃縮システム。
【請求項25】
前記正浸透膜の活性層がポリアミドを含む、請求項24に記載の原料液濃縮システム。
【請求項26】
前記有価物が、重量平均分子量100~3,000,000の化合物である、請求項16又は17に記載の原料液濃縮システム。
【請求項27】
前記有価物が、医薬品、化粧品、若しくは機能性化学品、又はそれらの原料である、請求項16又は17に記載の原料液濃縮システム。
【請求項28】
溶液から有機溶媒を除去する方法であって、
前記方法が、前記溶液と誘導液とを正浸透膜を介して接触させる工程を含み、
前記溶液が、有機溶媒とを含み、
前記誘導液が、誘導溶質を含み、
前記誘導溶質が、下記(1)及び(2)を満たす、有機溶媒除去方法。
(1)分子量30以上100以下の繰り返し単位を少なくとも3つ以上含む高分子である
(2)前記高分子の主鎖に、水素原子、ハロゲン原子以外の原子(原子団)が結合している分岐構造を有する。
【請求項29】
下記(1)及び(2)を満たす、正浸透による有機溶媒除去用誘導溶質。
(1)分子量30以上100以下の繰り返し単位を少なくとも3つ以上含む高分子である
(2)前記高分子の主鎖に、水素原子、ハロゲン原子以外の原子(原子団)が結合している分岐構造を有する
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料液の濃縮方法及び濃縮システムに関する。
【背景技術】
【0002】
種々の産業において、有価物を含有する有機溶媒リッチな原料液を濃縮することがある。有価物を変質させずに濃縮したい場合には、熱及び圧力を加える必要がない点で、正浸透膜による濃縮が特に有用である。
【0003】
有価物を含有する有機溶媒リッチな原料液を正浸透膜で濃縮する場合、誘導溶質の選定によっては、原料液中に誘導溶質が混入することがある。誘導溶質の混入を最小限にするには、膜に阻止されやすく、かつ、短い時間で濃縮を完了できる誘導溶質を選ぶ必要がある。短い時間で原料液の濃縮を完了するには、濃縮時のFluxが高い、すなわち膜面積当たりの透液量が高いことが求められる。また、膜に阻止されやすいことを期待して、高分子系の誘導溶質がしばしば使用される。
例えば、特許文献1は、PEG-2000を誘導溶質として、正浸透膜を用いてメタノールを濃縮する例を開示している。特許文献1には、メタノール中に混入したPEG-2000について開示されていない。
また、例えば、非特許文献1では、PEG-400を誘導溶質として、正浸透膜を用いて原料液であるアセトン中のレボフロキサシンを濃縮する例を開示している。
さらに非特許文献1では、原料液中にPEG-400が混入したこと(誘導溶質の逆拡散:Reverse solute flux)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Keng Siang Goh, Yunfeng Chen, Daniel Yee Fan Ng, Jia Wei Chew, Rong Wang,Journal of Membrane Science 642 (2022) 119965
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らの検討によれば、従来の方法では、有機溶媒リッチな原料液を濃縮する場合に、誘導溶質の原料液への混入を好適な範囲に抑えることが困難であり、非特許文献1に記載の方法によっても、改善の余地があった。
【0007】
本発明は上記の課題を解決し、有機溶媒リッチな原料液を用いた場合に、原料液への誘導溶質の混入を低減させる原料液濃縮方法及び原料液濃縮システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を包含する。
[項目1]
原料液を濃縮する方法であって、
前記方法が、原料液と誘導液とを正浸透膜を介して接触させる濃縮工程を含み、
前記原料液が、有価物と、溶媒とを含み、
前記溶媒が有機溶媒を含み、
前記誘導液が、誘導溶質を含み、
前記誘導溶質が、下記(1)及び(2)を満たす、原料液濃縮方法。
(1)分子量30以上100以下の繰り返し単位を少なくとも3つ以上含む高分子である
(2)前記高分子の主鎖に、水素原子、ハロゲン原子以外の原子(原子団)が結合している分岐構造を有する
[項目2]
前記溶媒中の有機溶媒の濃度が、50質量%以上である、項目1に記載の原料液濃縮方法。
[項目3]
前記溶媒中の有機溶媒の濃度が、80質量%以上である、項目1に記載の原料液濃縮方法。
[項目4]
前記誘導溶質の重量平均分子量が300Da以上2300Da以下である、項目1~3の何れか1項目に記載の原料液濃縮方法。
[項目5]
前記誘導溶質の重量平均分子量が400Da以上1000Da以下である、項目1~3の何れか1項目に記載の原料液濃縮方法。
[項目6]
前記溶媒が、有機溶媒と、水とを含み、
前記誘導溶質に対する水の溶解度が2質量%以上である、項目1~5の何れか1項目に記載の原料液濃縮方法。
[項目7]
前記溶媒が、有機溶媒と、水とを含み、
前記誘導溶質に対する水の溶解度が、6質量%以上である、項目1~5の何れか1項目に記載の原料液濃縮方法。
[項目8]
前記正浸透膜が中空糸状である、項目1~7の何れか1項目に記載の原料液濃縮方法。
[項目9]
前記正浸透膜が、基材層と活性層とを有し、
前記基材層が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース系高分子、ポリケトン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリベンズイミダゾールからなる群から選ばれる1種以上のポリマーを含む、項目1~8の何れか1項目に記載の原料液濃縮方法。
[項目10]
前記正浸透膜の活性層がポリアミドを含む、項目9に記載の原料液濃縮方法。
[項目11]
前記活性層側に原料液として純水を、前記基材層側に誘導液として3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液を配置し、前記基材層側を正とし20kPaに加圧しながら原料液及び誘導液を流し、20分経過後に正浸透膜の評価を行ったときに、
前記誘導溶質のRSF(g/(m2×hr))を、前記誘導溶液中への水Flux(kg/m2/hr)で除したRSF/水Flux(塩選択性)が0.05g/kg以上1.00g/kg以下である、項目9又は10に記載の原料液濃縮方法。
[項目12]
前記塩選択性が、0.10g/kg以上0.90g/kg以下である、項目11に記載の原料液濃縮方法。
[項目13]
前記有価物が、医薬品、原薬及び開発パイプライン(医療用医薬品候補化合物)、並びにこれらの中間体及び原料である、項目1~12の何れか1項目に記載の原料液濃縮方法。
[項目14]
前記有価物が、重量平均分子量100~3,000,000の化合物である、項目1~13の何れか1項目に記載の原料液濃縮方法。
[項目15]
前記有価物が、化粧品、若しくは機能性化学品、又はそれらの原料である、項目1~14の何れか1項目に記載の原料液濃縮方法。
[項目16]
原料液を濃縮するための原料液濃縮システムであって、
前記原料液濃縮システムが、原料液と誘導液とを受入れ且つ前記原料液と前記誘導液とが正浸透膜を介して接触するように構成された正浸透膜モジュールを備え、
前記原料液が、有価物と、溶媒とを含み、
前記溶媒が有機溶媒を含み、
前記誘導液が、誘導溶質を含み、
前記誘導溶質が、下記(1)及び(2)を満たす、原料液濃縮システム。
(1)分子量30以上100以下の繰り返し単位を少なくとも3つ以上含む高分子である
(2)前記高分子の主鎖に、水素原子、ハロゲン原子以外の原子(原子団)が結合している分岐構造を有する
[項目17]
前記溶媒中の有機溶媒の濃度が、50質量%以上である、項目16に記載の原料液濃縮システム。
[項目18]
前記溶媒中の有機溶媒の濃度が、80質量%以上である、項目16に記載の原料液濃縮システム。
[項目19]
前記誘導溶質の重量平均分子量が300Da以上2300Da以下である、項目16~18の何れか1項目に記載の原料液濃縮システム。
[項目20]
前記誘導溶質の重量平均分子量が400Da以上1000Da以下である、項目16~18の何れか1項目に記載の原料液濃縮システム。
[項目21]
前記溶媒が、有機溶媒と、水とを含み、
前記誘導溶質に対する水の溶解度が2質量%以上である、項目16~20の何れか1項目に記載の原料液濃縮システム。
[項目22]
前記溶媒が、有機溶媒と、水とを含み、
前記誘導溶質に対する水の溶解度が、6質量%以上である、項目16~20の何れか1項目に記載の原料液濃縮システム。
[項目23]
前記正浸透膜が中空糸状である、項目16~22の何れか1項目に記載の原料液濃縮システム。
[項目24]
前記正浸透膜が、基材層と活性層とを有し、
前記基材層が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース系高分子、ポリケトン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリベンズイミダゾールからなる群から選ばれる1種以上のポリマーを含む、項目16~23の何れか1項目に記載の原料液濃縮システム。
[項目25]
前記正浸透膜の活性層がポリアミドを含む、項目24に記載の原料液濃縮システム。
[項目26]
前記有価物が、重量平均分子量100~3,000,000の化合物である、項目16~25の何れか1項目に記載の原料液濃縮システム。
[項目27]
前記有価物が、医薬品、化粧品、若しくは機能性化学品、又はそれらの原料である、項目16~26の何れか1項目に記載の原料液濃縮システム。
[項目28]
溶液から有機溶媒を除去する方法であって、
前記方法が、前記溶液と誘導液とを正浸透膜を介して接触させる工程を含み、
前記溶液が、有機溶媒とを含み、
前記誘導液が、誘導溶質を含み、
前記誘導溶質が、下記(1)及び(2)を満たす、有機溶媒除去方法。
(1)分子量30以上100以下の繰り返し単位を少なくとも3つ以上含む高分子である
(2)前記高分子の主鎖に、水素原子、ハロゲン原子以外の原子(原子団)が結合している分岐構造を有する
[項目29]
下記(1)及び(2)を満たす、正浸透による有機溶媒除去用誘導溶質。
(1)分子量30以上100以下の繰り返し単位を少なくとも3つ以上含む高分子である
(2)前記高分子の主鎖に、水素原子、ハロゲン原子以外の原子(原子団)が結合している分岐構造を有する
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、有機溶媒リッチな原料液を用いた場合にも、原料液への誘導溶質の混入を低減させる原料液濃縮方法及び原料液濃縮システムが提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】正浸透膜を介した溶媒移動の作用機構を示す模式図である。
【
図2】本発明の一態様に係る原料液濃縮方法及び原料液濃縮システムに用いる正浸透膜モジュールの構造の一例を説明するための模式図である。
【
図3】本発明の一態様に係る原料液濃縮システムについて説明する模式図である。
【
図4】本実施形態の原料液濃縮方法で用いるポリケトン中空糸の各測定値である。
【
図5】本実施形態の原料液濃縮方法で用いるポリケトン中空糸の電子顕微鏡画像である。(a)ポリケトン中空糸の内径表面の電子顕微鏡画像、(b)ポリケトン中空糸の外郭表面の電子顕微鏡画像、(c)ポリケトン中空糸の横断面の低倍率での電子顕微鏡画像、(d)ポリケトン中空糸の内径表面近傍の横断面の電子顕微鏡画像、及び(e)ポリケトン中空糸の内径表面近傍の横断面の高倍率での電子顕微鏡画像である。
【
図8】(a)ポリケトン中空糸及び正浸透膜それぞれの内表面におけるX線光電子分光法のデータ並びに(b)ポリケトン中空糸及び正浸透膜それぞれの内表面におけるATR-FTIRのデータである。
【
図9】正浸透膜の内表面の電子顕微鏡画像である。(a)正浸透膜の内径表面の電子顕微鏡画像、(b)正浸透膜の内径表面の高倍率での電子顕微鏡画像、(c)正浸透膜の内径表面近傍の横断面の電子顕微鏡画像、及び(d)正浸透膜の内径表面近傍の横断面の高倍率での電子顕微鏡画像である。
【
図10】圧力下試験における正浸透膜モジュールの性能を示したグラフである。
【
図11】参考例3、4、5及び6に用いたラボ用正浸透膜評価装置の模式図である。
【
図12】スクロースオクタアセテート(SoA)濃度とMeOH Fluxとの関係を示したグラフである。
【
図13】高度濃縮実験における原料液(FS)中の各成分(SoA及びPEG-400)濃度を示したグラフである。
【
図14】高度濃縮実験結果(2)を示したグラフである。(a)供給量の時間経過(mL)及び(b)MeOH Flux(Lm
―2h
―1)を示したグラフである。
【
図15】SoA濃度とMeOH Fluxとの関係を示したグラフである。
【
図16】高度濃縮実験における原料液(FS)中の各成分(SoA及びPPG-400)濃度を示したグラフである。
【
図17】高度濃縮実験結果(2)を示したグラフである。(a)供給量の時間経過(mL)及び(b)MeOH Flux(Lm
―2h
―1)を示したグラフである。
【
図18】参考例7に用いた、浸透圧を算出するために必要なMeOHの蒸気圧を測定するための装置の模式図である。
【
図19】参考例3、4、5及び6に用いた誘導液のMeOH浸透圧の算出結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪原料液濃縮方法及び原料液濃縮システム≫
本発明者らは、有機溶媒リッチな原料液を濃縮する際、理由は定かではないが、先行文献に開示されているような誘導溶質が、原料液への誘導溶質によるコンタミネーションの抑制という観点では好適でないことを実験的に明らかにした。正浸透膜による濃縮で誘導溶質によるコンタミネーションを低減するためには、特定の分子量及び分岐構造を有する高分子が好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明者らは更に検討を行い、特定の誘導溶質を用いることで、有機溶媒リッチな原料液の濃縮において高いFluxが発現され得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明者らは、更に検討を行い、有機溶媒が水を含む場合の有機溶媒リッチな原料液の濃縮において、特定の誘導溶質を用いることで、該原料液から高い水Fluxで水を除き(脱水し)、濃縮原料液を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
本開示では、原料液から水を除く(脱水する)ことを、濃縮の一部として記載する。
【0012】
本発明の一態様は、原料液を濃縮する方法を提供する。一態様において、当該方法は、原料液と誘導液とを正浸透膜を介して接触させる濃縮工程を含む。
また、本発明の一態様は原料液を濃縮するためのシステムを提供する。
一態様において、当該システムは、原料液と誘導液とを受入れ且つ当該原料液と当該誘導液とが正浸透膜を介して接触するように構成された正浸透膜モジュールを備える。
本発明の一態様に係る方法又はシステムにおいて、原料液は、有価物と、溶媒とを含む。溶媒は、一態様において有機溶媒を含む。溶媒は、一態様において水を含む。溶媒は、一態様において有機溶媒と、水とを含む。
誘導液は、一態様において、誘導溶質を含む。誘導液は、一態様において、誘導溶質の溶媒を含む。誘導液は、一態様において、誘導溶質と、誘導溶質の溶媒とを含む。
誘導溶質は、一態様において高分子であり、一態様において分岐構造を有する。
本実施形態の原料液濃縮方法及び原料液濃縮システムによれば、有機溶媒リッチな原料液の濃縮において高いFluxが発現されるため、誘導溶質の原料液への混入を低減することが出来る。
【0013】
<原料液>
本実施形態の原料液濃縮方法及び原料液濃縮システムの濃縮対象となる原料液は、少なくとも有価物及び溶媒を含む、溶液又は分散液である。
原料液としては、例えば、食品;医薬品;海水;ガス田、油田等から排出される随伴水等を挙げることができる。
しかしながら、加熱を要さずに濃縮可能であるとの本実施形態の利点を考慮すると、本実施形態に係る原料液濃縮は、加熱により分解が懸念される物質、特に、医薬品、化粧品、機能性化学品等又はその原料を有価物として含む原料液、その中でも特に医薬品又はその原料を含む原料液に適用することが有効である。
【0014】
本実施形態に係る原料液濃縮に供される原料液の温度は、1℃以上50℃以下の範囲に調整されていることが好ましい。
【0015】
[有価物]
本開示において、有価物とは、経済上の価値を有する有体物全般を意味する。一態様において、有価物は、医薬品、原薬、開発パイプライン(医療用医薬品候補化合物)、及びこれらの中間体である。一態様において、有価物は、化粧品及び機能性化学品並びにこれらの原料及びこれらの中間体である。
典型的には、有価物は、医薬品、原薬、開発パイプライン(医療用医薬品候補化合物)化粧品、機能性化学品並びにこれらの原料及び中間体から選択される1種又は2種以上である。
【0016】
本開示において、原薬とは、最終製品(例えば、医薬品及び製剤)の段階で薬理作用を有する物質(有効成分)であって、医薬品の製造原料となるものをいう。
本開示において、開発パイプライン(例えば、医療用医薬品候補化合物)とは、研究開発の段階から臨床試験(治験)を経て、医薬品として販売されるまでの医薬品候補化合物のことをいい、新薬候補とも呼ばれる。新規化合物探索から臨床試験の各開発断であるフェーズ(フェーズI、フェーズII、及びフェーズIII)を経て承認されたものが医薬品として販売される。本開示における開発パイプラインは、医薬品として承認される以前の、どの開発段階(フェーズ)の化合物であってもよい。
原薬及び開発パイプラインとしては、低分子医薬品、核酸医薬、ペプチド医薬等の中分子医薬品;抗体医薬品、タンパク質医薬等の高分子医薬品;抗体薬物複合体(ADC:Antibody Drug Conjugate)等の抗体に低分子医薬品を結合させたもの;及びこれらの誘導体等が挙げられる。
原薬及び開発パイプラインは、化学合成、発酵、若しくは抽出等、又はこれらの操作の組み合わせによって製造される。
【0017】
本開示において、中間体とは、原薬及び開発パイプラインの製造の中間工程で造られるものであって、更に以後の製造工程を経ることによって原薬又は開発パイプラインとなるものをいう。中間体としては、原薬の構造中の重要な構成部分として組み込まれる原薬出発物質、分子として少なくとも一つの必須の特徴(特定の立体化学的構造又は薬効薬理活性)が分子構造に導入された重要中間体、あと1反応行うことにより原薬が生成される最終中間体等が挙げられる。
【0018】
本開示において、原料とは、原薬及び開発パイプラインの製造に用いられる物質であって、原薬及び開発パイプラインに含有されない化学種、又は化学種を含む混合物をいう。原料として、例えば、原薬及び開発パイプラインを製造するための出発物質、並びに触媒、未精製の原薬及び開発パイプライン等の1種以上を含むものが挙げられるが、これらに限られない。
【0019】
一態様において、有価物としては、例えば、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖、ワクチン、核酸、抗生物質、ビタミン類、天然物及び「ビルディング・ブロック」と呼ばれる合成原料及び中間体等、並びにこれらの誘導体が挙げられる。
【0020】
アミノ酸は、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、及び非天然アミノ酸を包含する。必須アミノ酸としては、例えば、トリプトファン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等が挙げられる。非必須アミノ酸としては、例えば、アルギニン、グリシン、アラニン、セリン、チロシン、システイン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられる。
【0021】
本開示において、非天然アミノ酸とは、同一分子内にアミノ酸骨格を有する、天然に存在しない人工のあらゆる化合物を指し、種々の標識化合物をアミノ酸骨格に結合させることにより合成することができる。
本開示において、「アミノ酸骨格」は、アミノ酸中のカルボキシル基、アミノ基、及びこれらを連結している部分を含有する。
本開示において、「標識化合物」は、当業者には公知の色素化合物、蛍光物質、化学/生物発光物質、酵素基質、補酵素、抗原性物質、及びタンパク質結合性物質を指す。
非天然アミノ酸の一例として、例えば、標識化合物と結合したアミノ酸である「標識化アミノ酸」が挙げられる。標識化アミノ酸としては、例えば、側鎖にベンゼン環等の芳香環を含むアミノ酸骨格を有するアミノ酸に標識化合物を結合させたアミノ酸等が挙げられる。また、特定の機能が付与された非天然アミノ酸の例として、例えば、光応答性アミノ酸、光スイッチアミノ酸、蛍光プローブアミノ酸及び蛍光標識アミノ酸等が挙げられる。
【0022】
本開示において、ペプチドは、2残基以上70残基未満のアミノ酸残基が結合した化合物を指し、鎖状であっても環状であってもよく、分岐構造を有していてもよい。
ペプチドとしては、例えば、L-アラニル-L-グルタミン、β-アラニル-L-ヒスチジンシクロスポリン及びグルタチオン等が挙げられる。
【0023】
本開示においてタンパク質は、一般的にはアミノ酸残基が結合した化合物のうち、ペプチドよりも長鎖のものを指す。
タンパク質としては、例えば、タンパク製剤として適用されるものが好ましい。タンパク製剤としては、例えば、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1~12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G-CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ナトリウム利尿ペプチド、血液凝固第VIII因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子、血清アルブミン及びカルシトニン等が挙げられる。
【0024】
糖としては、例えば、単糖類(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、リボース、デオキシリボース等)、二糖類(例えば、マルトース、スクロース、ラクトース等)及び糖鎖(例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、グルクロン酸、イズロン酸等の他;N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルノイラミン酸、グルコース5酢酸等の、糖類誘導体等)等を挙げることができる。
【0025】
ワクチンとしては、例えば、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、C型肝炎ワクチン及び新型コロナワクチン等が;
核酸としては、例えば、オリゴヌクレオチド、RNA、アプタマー及びデコイ等が;
抗生物質としては、例えば、ストレプトマイシン及び、バンコマイシン等が;
それぞれ挙げられる。
【0026】
ビタミン類としては、例えば、ビタミンA類、ビタミンB類及びビタミンC類が挙げられ、これらの誘導体及び塩等も含む。ビタミンB類には、例えば、ビタミンB6及びビタミンB12等が包含される。
【0027】
本開示の化粧品又はその原料は、一態様において、厚生労働省発行の医薬部外品添加物リスト(より具体的には、令和3年3月25日付薬生薬審発0325第7号「医薬部外品の添加物リストについて」の一部改正について)に記載の化合物又はそれらの修飾化合物であり、パラフィン、安息香酸ナトリウム、オレイン酸及び加水分解コラーゲン等が挙げられる。
【0028】
本開示の機能性化学品又はその原料とは、各種化学種、又はこれらの修飾体、前駆体、原料等を指す。機能性化学品又はその原料としては、金属ナノ粒子、半導体ナノ粒子、金属コロイド、ナノダイヤモンド、多孔質ナノクレイ、金属有機構造体(MOFs)、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェン、酸化グラフェン、カーボンナノホーン、セルロースナノファイバー等の化学種、並びにこれらの修飾体、前駆体及び原料等が挙げられる。
【0029】
有価物の重量平均分子量は、好ましくは、100~3,000,000、又は100~500,000、又は100~50,000、又は100~30,000である。
有価物の重量平均分子量は、分子量が比較的小さい場合(例えば分子量1500以下の場合)には、有価物の化学式からの計算により、求めることができる。
一方、有価物の重量平均分子量が比較的大きい場合(例えば分子量1500超の場合)の重量平均分子量は、GPCによって測定されたポリエチレングリコール換算の重量平均分子量として、求めることができる。
【0030】
[有価物の収率]
本実施形態に係る原料液濃縮によれば、有価物の収率を、例えば、70%以上、又は80%以上、又は90%以上、又は95%以上、又は99%以上とすることができる。有価物の収率は、理想的には100%であるが、現実的なプロセス効率の観点から、一態様においては、99.99%以下、又は99.9%以下であってよい。
本開示で、有価物の収率とは、本実施形態に係る原料液濃縮で得られた有価物の総質量を、原料液濃縮に供した(具体的には正浸透膜モジュールに供給した)有価物の総質量で除した値を、百分率で表した値を指す。
上記収率は、濃縮前後の有価物の質量測定及び成分分析により求めることができる。成分分析の方法は、有価物の種類に応じて公知の方法から選択され、一態様において、ICP-MS(誘導結合高周波プラズマ質量分析)、核磁気共鳴分光(NMR)法、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)法、比色法、蛍光法、及び高速液体クロマトグラフ(HPLC)から選択される。
【0031】
[原料液の溶媒]
原料液は、溶媒(一態様において、有機溶媒)を含む。
本開示において、原料液の溶媒とは、有価物、及び副成分が存在する場合には副成分を溶解又は分散し得る化合物である。
なお、副成分として、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、などの無機塩、
酢酸、トリフルオロ酢酸、塩化水素、硫酸、などの酸、
水酸化ナトリウムなどの塩基等が挙げられる。
本開示で、有機溶媒とは、炭素原子を1つ以上有する有機化合物であり、一態様においては、常圧で-10℃以上50℃未満において液体で存在する化合物であり、親水性有機溶媒及び疎水性有機溶媒が挙げられる。
原料液に親水性有機溶媒を含む場合、用いる正浸透膜の活性層が親水性の場合、高Fluxを実現し易い点で有利である。
本開示で、親水性有機溶媒とは、25℃において、溶媒と水とを50mLずつそれぞれ導入したサンプルを、φ8mm×25mmのスターラーチップとマグネチックスターラーを用いて24時間攪拌したときに、1相状態を保つ有機溶媒を意味する。
【0032】
有機溶媒としては、例えば、アルコール、カルボン酸、エステル、エーテル、非プロトン性極性化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、塩素化炭化水素、ケトン及びアルデヒド等が挙げられる。
【0033】
親水性有機溶媒の具体例としては、
アルコールとして、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ノルマルブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール等が;
エーテルとして、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン等が;
非プロトン性極性化合物として、例えば、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン、スルホラン等が;
芳香族化合物として、例えば、ピリジン等が;
ケトンとして、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等が;
アルデヒドとして、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、アクロレイン、ベンズアルデヒド、フルフラール、バニリン等が;
それぞれ挙げられる。
【0034】
有機溶媒は、1種の溶媒、又は2種以上の溶媒の組合せであってよく、好ましくは、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、クロロホルム、アセトン、メチルブチルケトン、及びピリジンからなる群から選択される少なくとも1種である。
2種以上の有機溶媒の組合せとしては、テトラヒドロフラン(THF)とメタノールとの組合せ、テトラヒドロフラン(THF)とエタノールとの組合せ等が挙げられ、例えば、テトラヒドロフラン(THF)とメタノールとの質量比が1:1である組合せであってよい。
【0035】
また、原料液は、有機溶媒ではない溶媒を含んでもよい。
例えば、原料液は、1種又は2種以上の有機溶媒と、有機溶媒ではない溶媒として水(一態様において、純水)とを含んでよい。
例えば、有機溶媒(2種以上の場合にはその合計)と、水との質量比が、99:1~90:10、又は90:10~80:20、又は80:20~70:30、又は51:49である組合せであってよい。より典型的な例としては、テトラヒドロフラン(THF)と水との質量比が95:5、又は88:12、又は80:20、又は51:49である組合せが挙げられる。
【0036】
原料液に疎水性有機溶媒を含む場合、用いる正浸透膜の活性層が疎水性の場合は高Fluxを実現し易い点で有利である。
本開示で、疎水性有機溶媒とは、25℃において、溶媒と水とを50mLずつそれぞれ導入したサンプルを、φ8mm×25mmのスターラーチップとマグネチックスターラーを用いて24時間攪拌したときに、2相状態を保つ有機溶媒を意味する。
【0037】
疎水性の有機溶媒としては、
アルコールとして、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール等;
カルボン酸として、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、パルミチン酸等;
芳香族炭化水素として、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、イソプロピルベンゼン、トリイソプロピルベンゼン等;
脂肪族炭化水素として、ノルマルヘキサン、ノルマルへプタン、イソオクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン等;
エーテルとして、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル等;
エステルとして、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸t-ブチル等;
等が挙げられる。
【0038】
原料液の溶媒中の有機溶媒の濃度は、一態様において50質量%以上であり、好ましくは、60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上である。上記濃度は、例えば、99.9質量%以下、又は99質量%以下、又は98質量%以下であってよい。
本開示において、有機溶媒リッチな原料液とは、原料液中の有機溶媒の濃度が50質量%以上であることを意味する。
【0039】
<誘導液>
本実施形態の方法で用いる誘導液は、誘導溶質を含む。
また、本実施形態の方法で用いる誘導液は、誘導溶質の溶媒を含んでもよい。
一態様において、誘導液は、誘導溶質及び誘導溶質の溶媒を含む。
【0040】
[誘導溶質]
本実施形態の誘導溶質は、下記要件(1)及び(2)を満たす。
要件(1):分子量30以上100以下の繰り返し単位を少なくとも3つ以上含む高分子である
要件(2):要件(1)を満たす高分子の主鎖に、水素原子、ハロゲン原子以外の原子(原子団)が結合している分岐構造を有する
また、一態様において、本実施形態の誘導溶質は、下記要件(1)及び(2)を満たす。
要件(1):分子量30以上100以下の繰り返し単位を少なくとも3つ以上含む高分子である
要件(2):要件(1)を満たす高分子の主鎖に、水素原子、ハロゲン原子以外の原子(置換基)が結合している分岐構造を有する。
【0041】
一態様において、本開示で誘導溶質として用いる「高分子」は、分子量30以上100以下の繰り返し単位を少なくとも3つ以上100以下、好ましくは、4以上50以下含む。
また、一態様において、本開示で誘導溶質として用いる「高分子の分子量」は、重量平均分子量200Da以上5000Da以下が望ましく、重量平均分子量300Da以上2300Da以下がより望ましく、400Da以上1000Da以下がよりさらに望ましい。
本実施形態の誘導溶質の重量平均分子量は、好ましくは、200Da以上、又は300Da以上、又は400Da以上、又は500Da以上、又は600Da以上、又は700Da以上、又は800Da以上、又は900Da以上、又は1000Da以上、又は1100Da以上、又は1200Da以上、又は1300Da以上、又は1400Da以上、又は1500Da以上、又は1600Da以上、又は1700Da以上、又は1800Da以上、又は1900Da以上、又は2000Da以上である。
本実施形態の誘導溶質の重量平均分子量は、好ましくは、5000Da以下、又は4900Da以下、又は4800Da以下、又は4700Da以下、又は4600Da以下、又は4500Da以下、又は4400Da以下、又は4300Da以下、又は4200Da以下、又は4100Da以下、又は4000Da以下、又は3900Da以下、又は3800Da以下、又は3700Da以下、又は3600Da以下、又は3500Da以下、又は3400Da以下、又は3300Da以下、又は3200Da以下、又は3100Da以下、又は3000Da以下、又は2900Da以下、又は2800Da以下、又は2700Da以下、又は2600Da以下、又は2500Da以下、又は2400Da以下、又は2300Da以下、又は1000Da以下である。
誘導溶質が液状高分子であれば粘度が高くハンドリング上の問題、及び固体高分子であれば溶解性の問題を解決する観点から、誘導溶質の重量平均分子量は上記範囲が望ましい。
【0042】
一態様において、本開示で誘導溶質として用いる「分岐構造を有する高分子」は、水素原子、ハロゲン原子以外の原子(原子団)が前述の高分子の主鎖に、1つ以上結合している構造を意味する。
一態様において、原子団は、主鎖に結合した基であってよく、例えば、水酸基又は炭化水素基を含む基であってよい。原子団は、好ましくは水酸基又は炭化水素基であり、より好ましくは炭化水素基である。
【0043】
本実施形態の「特定の分岐構造を有する高分子」である誘導溶質としては、例えば、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリソルベート、ポリブチレングリコール、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
中でも、トリプロピレングリコール、PPG-400、PPG-700、PPG-1000、PPG-2000、PPG-3000及びPPG-4000などが本実施形態の誘導溶質として好適に使用される。
要件(1)及び(2)を満たすことで、誘導溶質の原料液への混入を抑制し、かつ、有機溶媒リッチな原料液の濃縮において高いFluxが発現される。
【0044】
誘導液中の誘導溶質の濃度は、原料液から誘導液への有機溶媒の移動を確実とし、かつ、正浸透膜近傍の原料液の組成が急激に変わらない範囲の駆動力を発生し得る浸透圧差を生ずるように、原料液の組成、誘導液の誘導溶質の種類等に応じて、適宜に設定されてよいが、一般的に高い方が望ましい。
当該濃度は、好ましくは、10質量%以上、又は20質量%以上、又は50質量%以上であり、好ましい一態様では100質量%であるが、一態様において90質量%以下、又は80質量%以下であってよい。
誘導液は、上記で例示した誘導溶質に加えて、誘導溶質の溶媒として、特に有機溶媒、特に親水性有機溶媒を含んでよい。親水性有機溶媒としては、原料液中の親水性有機溶媒として前述で例示したのと同様のものを例示でき、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、エタノール、等からなる群から選ばれる1種以上を用いてよい。
一態様において、有機溶媒としては、原料液の性状を保持する観点から、原料液の主成分となる有機溶媒と同一であることが望ましい。
なお、原料液の主成分となる有機溶媒とは、本開示では、原料液中の有機溶媒の濃度が50質量%以上であるものをいう。
誘導溶質が室温で液状であると、誘導溶質そのものを誘導液として用いることが出来るほか、高濃度誘導液を調製する場合にも速やかに混合できるため、好ましい。
【0045】
[水に対する誘導溶質の溶解度]
誘導液により濃縮した後の原料液は一般に晶析のような工程でさらに精製されることが想定される。原料液精製の際の水洗浄によって有価物の純度を高めることが容易になる観点から、水に対する誘導溶質の溶解度は、高いほど望ましい。
一態様において、水に対する誘導溶質の溶解度は、好ましくは1質量%以上、又は3質量%以上、又は5質量%以上、又は7質量%以上、又は10質量%以上、又は15質量%以上、又は20質量%以上、又は30質量%以上、又は40質量%以上、又は50質量%以上、又は60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上が好ましい。
また、水に対する誘導溶質の溶解度は、好ましくは、7質量%以上、より好ましくは、10質量%以上である。
なお、水に対する誘導溶質の溶解度は実施例記載の方法で測定する。
【0046】
誘導溶質は、原料液から水を除いて(脱水を伴って)濃縮原料液を得る場合は、誘導溶質の親水性の度合いが高いほど、高い水Fluxで水を除くことができる。水Fluxとは、膜を透過する溶媒のうち、水だけの透過分(一態様において、透水量)のことである。
誘導溶質の親水性の度合いは誘導溶質に対する水の溶解度で評価できる。
【0047】
[誘導溶質に対する水の溶解度]
誘導溶質に対する水の溶解度は、100gの誘導溶質に対して25℃において純水を滴下した時、2相になるときの誘導溶質の含水率として測定できる。
誘導溶質に対する水の溶解度は、好ましくは90質量%以上、80質量%以上、70質量%以上、60質量%以上、50質量%以上、40質量%以上、30質量%以上、25質量%以上、6質量%以上、2%質量以上、1%質量以上である。
誘導溶質に対する水の溶解度は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは6質量%以上である。
なお、誘導溶質に対する水の溶解度は実施例記載の方法で測定する。
【0048】
[誘導溶質の溶媒]
本実施形態の方法で用いる誘導液は、誘導溶質の溶媒を含んでもよい。
本開示において、誘導溶質の溶媒とは、誘導溶質を溶解又は分散し得る化合物である。誘導溶質の溶媒は、1種の溶媒、又は2種以上の溶媒の組合せであってよい。
誘導溶質の溶媒としては、原料液に含まれる溶媒と同じか、あるいは前述の親水性有機溶媒や疎水性有機溶媒等が挙げられる。
誘導溶質の溶媒は、好ましくは、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トルエン、メチル-tert-ブチルエーテル、トリイソプロピルベンゼン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ノルマルヘキサン、ノルマルへプタン、イソオクタン、及びデカヒドロナフタレンからなる群から選択される少なくとも1種である。
2種以上の溶媒の組合せとしては、メチルシクロヘキサンとノルマルヘキサンとの組合せ、メチルシクロヘキサンとイソオクタンとの組合せ等が挙げられ、例えば、メチルシクロヘキサンとノルマルヘキサンとの質量比が1:1である組合せであってよい。
【0049】
誘導液中の誘導溶質の溶媒の濃度は、原料液から誘導液への有機溶媒の移動を確実とし、かつ、正浸透膜近傍の原料液の組成が急激に変わらない範囲の駆動力を発生し得る浸透圧差を生ずるように、原料液の組成、誘導液の誘導溶質の種類等に応じて、適宜に設定されてよいが、一般的に低い方が望ましい。
当該濃度は、好ましくは、10質量%以下、又は20質量%以下、又は50質量%以下であり、好ましい一態様では0質量%であるが、一態様において90質量%以上、又は80質量%以上であってよい。
【0050】
<正浸透膜及び正浸透膜モジュール>
次に、本実施形態の原料液濃縮方法又は原料液濃縮システムに適用できる正浸透膜及び正浸透膜モジュールについて説明する。
【0051】
[正浸透膜]
図1は、正浸透膜を介した溶媒移動の作用機構を示す模式図である。
図1を参照し、正浸透膜(120)の片側では原料液(a)が流れ、反対側では原料液(a)よりも浸透圧が高い誘導液(d)が流れ、両液は正浸透膜(120)を介して接している。このとき、原料液(a)と誘導液(d)との浸透圧差を駆動力として、原料液(a)中の溶媒(b)が、正浸透膜(120)を通過して、誘導液(d)中に移動する。
【0052】
図1を参照し、正浸透膜(120)は、基材層(121)と、この基材層(121)の片面に形成された活性層(122)とを有する。活性層(122)は、小さな分子が透過でき、有価物が透過できない、非常に緻密な構造を有しており、基材層(121)のうちの原料液(a)に接する側の面上に形成されている。
【0053】
正浸透法では、原料液(a)から誘導液(d)へ溶媒(b)が移動する駆動力は、原料液(a)と誘導液(d)との浸透圧差である。そのため、正浸透膜(120)のうちの活性層(122)と原料液(a)との界面、及び正浸透膜(120)のうちの基材層(121)と誘導液(d)との界面の液更新が必要である。したがって、正浸透膜(120)の両側に、原料液(a)と誘導液(d)とを、適切な流速で流す必要がある。
原料液の流通速度は、線速度として0.1cm/sec以上8cm/sec以下とすることが好ましく、例えば、0.3cm/sec以上6cm/sec以下であってよい。
誘導液の流通速度は、線速度として0.1cm/sec以上8cm/sec以下とすることが好ましく、例えば、0.3cm/sec以上6cm/sec以下であってよい。
図1では、原料液(a)と誘導液(d)とが対向流となるように両液を流しているが、両液の流れは並行流でもよい。
【0054】
本実施形態の原料液濃縮方法又は原料液濃縮システムに適用できる正浸透膜及び正浸透膜モジュールは、一態様において、基材層と活性層とを有する。
【0055】
(基材層)
基材層(121)の材質としては、一般に多孔膜が使われる。正浸透膜(120)のうちの多孔膜から構成される基材層(121)の部分には誘導液(d)が浸透しており、活性層(122)を介して、原料液(a)と誘導液(d)とが接している。この場合、浸透圧がより高い誘導液(d)の側に、原料液(a)中の溶媒が移動して、濃縮が行われる。
【0056】
正浸透膜の形態は、例えば、中空糸膜状、チューブラー状、及び平膜状の、いずれの構造でも構わない。中空糸膜は、スペーサー等を用いずに、原料液及び誘導液が通る流路を形成することができ、均一な濃縮を行えることから、好ましい。
【0057】
基材層を構成する多孔膜の材質は、公知の材料から適宜選択できるが、原料液に含まれる有機溶媒に、溶解し、又は膨潤して、膜の細孔形状が維持できないような材質ではないことが適切である。
基材層を構成する多孔膜の材質としては、具体的には、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース系高分子、ポリケトン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン及びポリベンズイミダゾール等のポリマーが挙げられる。
また、基材層を構成する多孔膜の材質としては、これらポリマーからなる群から選ばれる1種以上のポリマーを含み、又はこれらポリマーからなる群から選ばれる1種を主成分(すなわち、基材層を構成する多孔膜中で最も多量に存在する成分)とすることがより好ましく、ポリケトンを含むことが特に好ましい。なお上記ポリマーは架橋体も包含する。
正浸透膜(特に中空糸膜)の基材層を構成する多孔膜の材質としては、耐溶剤性の観点から、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリアミド、及びポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、又はこれらからなる群から選ばれる1種を主成分とする材質が好ましく、中でもポリケトンが特に好ましい。
ポリケトンは、一酸化炭素とオレフィン(一態様において、エチレン、プロピレン等)との共重合体であり、オレフィンは2種以上が共重合されていてもよい。
ポリケトンの分子量は、特に制限は無いが、多孔性中空糸膜への成形のしやすさや機械的強度の観点から、極限粘度にて0.5dL/g以上、5dL/g以下が好ましい。ポリケトンの極限粘度は、例えば特開2015-203048号公報記載の方法にて測定できる。
【0058】
(活性層)
本開示において、活性層と基材層とが接していない方の活性層表面における水の接触角が90°未満の場合は親水性の活性層であり、90°以上の場合は疎水性の活性層である。
正浸透膜における活性層としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、酢酸セルロース等からなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする層であることが好ましい。より好ましくは、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、及びポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とすることであり、更に好ましくはポリアミドを含む層であり、特に好ましくはポリアミドからなる層である。
活性層の材質としては、親水性の有機溶媒を含む原料液に対しては、高い透過性と高い耐溶剤性を有する点でポリアミドが有利である。
【0059】
ポリアミドで構成される活性層は、基材層上で、多官能性酸ハライド等及び/又は多官能性アミンの界面重合を行うことにより、形成することができる。
多官能性酸ハライドとは、一分子中に2個以上の酸ハライド基を有する酸ハライド化合物である。具体的には、例えば、
シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪酸のハライド化合物;
フタル酸、イソフタル酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(トリメシン酸)、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、1,3-ベンゼンジカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸等の芳香族酸の酸ハライド化合物;
等を用いることができる。これらの酸ハライド化合物は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
本実施形態においては、経済性、入手の容易さ、取り扱い易さ、反応の容易さ等の点から、特に、トリメシン酸クロリド単独、又はトリメシン酸クロリドとイソフタル酸クロリドとの混合物、若しくはトリメシン酸クロリドとテレフタル酸クロリドとの混合物が好ましく用いられる。
【0060】
多官能性アミンとは、一分子中に2個以上のアミノ基を有するアミノ化合物であり、芳香族アミノ化合物及び脂肪族アミノ化合物等を挙げることができる。
芳香族アミノ化合物として、具体的には、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルアミン、3,5-ジアミノ安息香酸、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン等を挙げることができる。
本実施形態における芳香族アミノ化合物としては、経済性、入手の容易さ、取り扱い易さ、反応の容易さ等の点から、特にm-フェニレンジアミン及びp-フェニレンジアミンから選ばれる1種以上が好適に用いられる。
【0061】
脂肪族アミノ化合物として、具体的には、例えば、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、2-メチルピペラジン、2,6-ジメチルピペラジン、2,3,5-トリメチルピペラジン、2-エチルピペラジン、2,5-ジエチルピペラジン、2,3,5-トリエチルピペラジン、2-n-プロピルピペラジン、2,5-ジ-n-ブチルピペラジン、エチレンジアミン、ビスピペリジルプロパン等を挙げることができる。
本実施形態における脂肪族アミノ化合物としては、経済性、入手の容易さ、取り扱い易さ、反応の容易さ等の点から、特にピペラジンが好適に用いられる。
【0062】
これらの多官能性アミンは、単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
多官能性酸ハライド及び多官能性アミンの界面重合は、定法に従って実施することができる。
【0063】
活性層の材質としては、疎水性の有機溶媒を含む原料液に対しては、高い透過性と高い耐溶剤性を有する点でシリコーン系ポリマーが有利である。
シリコーン系ポリマーとしては例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリジ-イソ-プロピルシロキサン及びポリジフェニルシロキサンが挙げられる。
【0064】
活性層には、適宜、加熱処理を行ってもよい。この加熱処理は、熱水により、又はオートクレーブのような圧力釜中で高温高圧の水蒸気によって、行われてよい。活性層に加熱処理を施すことによって、理由は定かではないが、誘導溶質の逆拡散が低減されることが期待できる。
【0065】
(中空糸膜の形態)
正浸透膜が中空糸膜である場合、中空糸膜の外径は、例えば、好ましくは300μm以上5,000μm以下、より好ましくは350μm以上4,000μm以下である。中空糸膜の内径は、例えば、好ましくは200μm以上4,000μm以下、より好ましくは250μm以上1,500μm以下である。
中空糸膜の内径が200μm以上であると、中空糸内側空間を液体が流通する際に、高い背圧が発生し難く好ましい。中空糸膜の内径が4,000μm以下であると、単位膜面積あたりのモジュール内の内容積が過度に大きくならないため、効果的な濃縮ができ、好ましい。また中空糸膜の内径が4,000μm以下であると、モジュール内に残った有価物の回収も、より少ない洗浄液で実施することができるため、好ましい。
例えば典型的なスパイラルモジュールであると、そのスペーサー厚みは0.84mmである。スパイラルモジュールにおいては、0.01m2の膜面積あたりに内容積が8.4mL存在することになる。他方、例えば中空糸膜の内径が488μmであれば、0.01m2の膜面積あたりの内容積は1.2mLと計算できる。典型的なスパイラルモジュールよりも、7倍程度少ない洗浄液で、モジュール内の有価物が回収できる計算となる。
【0066】
正浸透膜が中空糸膜である場合の中空糸膜の孔径は、例えば、誘導溶液の拡散の観点で好ましくは0.1nm以上1000nm以下、より好ましくは0.5nm以上500nm以下である。
正浸透膜が中空糸膜である場合の中空糸膜の空隙率は、例えば、誘導溶液の拡散の観点で好ましくは50%以上99%以下、より好ましくは60%以上98%以下である。
なお、中空糸膜の内径、外径、孔径及び空隙率は実施例記載の方法で測定できる。
【0067】
[正浸透膜モジュール]
図2は、本発明の一態様に係る原料液濃縮方法及び原料液濃縮システムに用いる正浸透膜モジュールの構造の一例を説明するための模式図である。
図2の正浸透膜モジュール(100)では、ハウジング(110)内に、複数の中空糸状の正浸透膜(120)が収納されている。正浸透膜(120)の両端は、接着樹脂(130)により、ハウジング(110)に接着固定されている。ハウジング(110)の側面には、2本のハウジング側管がある。これらハウジング側管のうちの片方は誘導液入口(111)であり、他方は誘導液出口(112)である。
ハウジング(110)内は、正浸透膜(120)の外壁及び接着樹脂(130)により、原料液(a)が流れる空間と、誘導液(d)が流れる空間とに、2分割されており、両空間は、正浸透膜(120)の内壁を介して溶媒が行き来できる他は、流体的に遮断されている。
【0068】
正浸透膜モジュール(100)の片端から原料液(a)を導入すると、該原料液(a)は、中空糸状の正浸透膜(120)の内側を流れて行き、もう一方の端面から、濃縮された原料液(c)として流出する。同様に、ハウジング(110)の側管のうちの誘導液入口(111)から誘導液(d)を流すと、誘導液(d)は、中空糸状の正浸透膜(120)の外側空間を流れて行き、誘導液出口(112)から流出する。これらにより、原料液(a)と誘導溶液(d)とは、正浸透膜(120)を介して接することができる。このとき、原料液(a)から誘導液(d)に、両液の浸透圧の違いによって有価物以外が移動する。正浸透膜法では、このような機構により、濃縮が行われる。
【0069】
正浸透膜(120)が、基材層と、この基材層の片面に形成された活性層とを有するものである場合、上述したように、活性層は、基材層のうちの原料液に接する側の面上に形成されている。したがって、原料液(a)が中空糸状の正浸透膜の内側を流れる、
図2の正浸透膜モジュール(100)では、中空糸状の基材層の内側の面上に活性層を有するものであることが好ましい。
原料液(a)の流量、及び/又は誘導液(d)の流量が大きい場合、正浸透膜(120)の、特に活性層、の両側の浸透圧差の影響がより大きくなるため、正浸透膜の膜面積当たりの溶媒の透過量は大きくなる。
図2の正浸透膜モジュール(100)では、原料液(a)と誘導液(d)とが対向流となるように両液を流しているが、両液の流れは並行流でもよい。
【0070】
図2の正浸透膜モジュール(100)におけるハウジング(110)の材質は、原料液(a)及び誘導液(d)に含まれる成分により諸性能が劣化しない耐薬品性、耐圧性、耐熱性、耐衝撃性、耐候性等の観点から、選定される。ハウジング(110)の材質としては、例えば、樹脂、金属等が使用できる。上記の観点からは、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、ABS樹脂、繊維強化プラスチック、塩化ビニル樹脂等の樹脂;及びステンレス、真鍮、チタン等の金属から選択されることが好ましい。
【0071】
図2の正浸透膜モジュール(100)における接着樹脂(130)としては、機械的強度が良好であることが望まれる。接着樹脂(130)として使用できる樹脂としては、例えば、熱硬化性のエポキシ樹脂、熱硬化性のウレタン樹脂、セラミックタイプの接着剤、ポリエチレンや低融点金属等を溶融して得られるシール材等が挙げられる。耐熱性の観点ではエポキシ樹脂が好ましく、ハンドリング性の観点ではウレタン樹脂が好ましい。
ハウジング(110)に正浸透膜(120)を接着固定する方法は、中空糸膜モジュール作製に関する既知の接着方法に従えばよい。
【0072】
[Flux]
本実施形態の原料液濃縮において、膜面積当たりの透液量であるFluxは、好ましくは、5kg/m2/hr以上、又は10kg/m2/hr以上、又は12kg/m2/hr以上、又は15kg/m2/hr以上、又は18kg/m2/hr以上、又は20kg/m2/hr以上、又は25kg/m2/hr以上、又は30kg/m2/hr以上、又は35kg/m2/hr以上、又は40kg/m2/hr以上である。
また、本実施形態の原料液濃縮において、Fluxは、好ましくは、300kg/m2/hr以下、又は250kg/m2/hr以下、又は200kg/m2/hr以下、又は150kg/m2/hr以下、又は100kg/m2/hr以下である。
原料液濃縮の効率に優れるという観点から、Fluxは、好ましくは、12kg/m2/hr以上、より好ましくは、15kg/m2/hr以上、更に好ましくは、18kg/m2/hr以上である。
また、Fluxは、好ましくは、12kg/m2/hr以上30kg/m2/hr以下、より好ましくは、15kg/m2/hr以上27kg/m2/hr以下である。
なお、Fluxは実施例記載の方法で算出できる。
【0073】
[誘導溶質の逆拡散(Reverse Solute Flux:RSF)]
本開示において、RSFは、誘導溶質の原料液中への混入(コンタミネーション)の程度を示す指標である。
なお、RSFは実施例記載の方法で算出できる。
【0074】
[RSF/Flux]
本実施形態の原料液濃縮において、原料液への誘導溶質の混入(コンタミネーション)を抑制する観点からRSF/Fluxは、好ましくは、100.000g/kg未満、又は50.000g/kg未満、又は40.000g/kg未満、又は30.000g/kg未満、又は10.000g/kg未満、又は2.000g/kg未満、又は1.000g/kg未満、又は0.100g/kg未満である。
また、RSF/Fluxは、好ましくは、2.000g/kg未満、より好ましくは、1.000g/kg未満である。
RSF/Fluxが100.000g/kg未満であると、原料液濃縮中に誘導溶質が原料液に多量に混入するコンタミネーションが発生しづらく、かつ、濃縮後の最終的な有価物の純度を高くできるため望ましい。
例えば、有価物100gが溶解した1000gの原料液を200gに濃縮した場合、RSF/Fluxが1.000g/kg未満で濃縮できれば、最終的な濃縮後の原料液は、有価物100g、溶媒約100g、誘導溶質0.8g未満の混合物となり、溶媒を留去した後に得られる有価物の濃度は99質量%以上となる。
【0075】
[水Flux]
本実施形態の原料液濃縮において、膜面積当たりの脱水量である水Fluxは、好ましくは、0.7kg/m2/hr以上、又は1.0kg/m2/hr以上、又は1.2kg/m2/hr以上、又は1.3kg/m2/hr以上、又は1.4kg/m2/hr以上、又は1.5kg/m2/hr以上、又は1.8kg/m2/hr以上である。
原料液濃縮の効率に優れるという観点から、水Fluxは、好ましくは、1.2kg/m2/hr以上、より好ましくは、1.4kg/m2/hr以上、更に好ましくは、1.8kg/m2/hr以上である。
また、水Fluxは、好ましくは、1.2kg/m2/hr以上10kg/m2/hr以下、より好ましくは、1.4kg/m2/hr以上5kg/m2/hr以下、さらにより好ましくは、1.8kg/m2/hr以上3kg/m2/hr以下である。
なお、水Fluxは実施例記載の方法で算出できる。
【0076】
[RSF/水Flux]
本実施形態の原料液濃縮において、原料液への誘導溶質の混入(コンタミネーション)を抑制する観点からRSF/水Fluxは、好ましくは、100.000g/kg未満、又は50.000g/kg未満、又は40.000g/kg未満、又は30.000g/kg未満、又は10.000g/kg未満、又は2.000g/kg未満、又は1.500g/kg未満、又は1.000g/kg未満、又は0.100g/kg未満、又は0.050g/kg未満である。
また、RSF/水Fluxは、好ましくは、2.000g/kg未満、より好ましくは、1.000g/kg未満、更により好ましくは0.100g/kg未満、特に好ましくは0.050g/kg未満である。
【0077】
本実施形態に係る正浸透膜は、有価物と誘導溶質を通さないが、溶媒は多く通す選択性の高いものが望ましい。正浸透膜の選択性は、例えば、以下の方法で算出することができる塩選択性によって評価することができる。
【0078】
(正浸透膜の塩選択性)
正浸透膜の活性層に接する側に4cm/secの線速で原料液として、純水(一態様において、有機物濃度(TOC)10ppm以下及び電気伝導率2mS/cm以下の純水)を流す。また、3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液を誘導液として2.5cm/secの線速で活性層と反対側の基材層側に配置する。
基材層側を正とし20kPaに加圧しながら原料液及び誘導液を流し、20分間が経ったとき、誘導液側に水が移動する一方で、原料液側に塩化ナトリウムが移動する。
前者を誘導溶液中への水Flux(kg/m2/h)、後者を誘導溶質のRSF(g/(m2×hr))としたとき、誘導溶質のRSFを、誘導溶液中への水Fluxで除した値であるRSF/水Flux(g/kg)が正浸透膜の塩選択性の指標となる。
正浸透膜の塩選択性は、好ましくは0.05g/kg以上1.00g/kg以下であり、より好ましくは0.10g/kg以上であり0.90g/kg以下である。
【0079】
<原料液濃縮システムの構成>
図3は、本発明の一態様に係る原料液濃縮システムについて説明する模式図である。
図3を参照し、原料液濃縮システム(1)は、正浸透膜モジュール(100)と、原料液タンク(200)と、誘導液タンク(300)とを有し、原料液タンク(200)から原料液(a)を正浸透膜モジュール(100)に送るための配管と、誘導溶液タンク(300)から誘導液(d)を正浸透膜モジュール(100)に送るための配管とを更に有する。
すなわち、正浸透膜モジュール(100)は、原料液(a)と誘導液(d)とを受入れ且つ当該原料液(a)と当該誘導液(d)とが正浸透膜を介して接触するように構成されている。
【0080】
原料液濃縮システム(1)においては、原料液(a)を満たした原料液タンク(200)の下部より、ポンプ(P)により、正浸透膜モジュール(100)の一方の空間(例えば、中空糸状膜の内側空間)に、適切な流量で原料液(a)を送る。この際に、流量計等(図示せず)により原料液(a)の流量を、手動又は自動で調整する。
一方、誘導液(d)を満たした誘導液タンク(300)から、ポンプ(P)により、正浸透膜モジュール(100)の他方の空間(例えば、中空糸状膜の外側空間)に、誘導溶液(d)が供給される。
原料液(a)と誘導液(d)との浸透圧の違いにより、原料液(a)から誘導溶液(d)側に溶媒が移動し、原料液(a)が濃縮される。濃縮された原料液(a)は、正浸透膜モジュール(100)より出て行き、原料液タンク(200)に戻る。
誘導液(d)は、原料液(a)から溶媒が混入することにより、体積が増える。そのため、誘導液タンク(300)は、容量を十分に大きくするか、一部をオーバーフロー等で誘導液タンク(300)外に排出する等の対応が必要である。
図3では、誘導溶液(d)を誘導液タンク(300)外に排出するための装置等は図示していない。原料液タンク(200)の内部に攪拌装置を設けることも、安定した濃縮を行うために有効である。
【0081】
原料液濃縮のFluxを良好にする観点から、原料液が正浸透膜モジュール(100)に連続的に供給されることが好ましく、また、濃縮された原料液が、正浸透膜モジュール(100)から連続的に送出されることが好ましい。このような連続的な供給及び送出は、前述のポンプ(P)を適切に制御することで実現できる。
【0082】
濃縮された後の原料液(a)は、正浸透膜モジュール(100)より出て行き、原料液タンク(200)に戻って循環する。この戻り位置は、正浸透膜モジュール(100)に供給するための原料液(a)の採取位置から遠い位置であって、かつ、原料液タンク(200)の底部にすることが好ましい。採取位置から遠い位置に戻すと、原料液(a)中の有機溶媒の濃度が、ショートパスによって過度に高められることを抑制することができる。また、原料液タンク(200)の底部に戻すと、原料液(a)中の有価物が、原料液タンク(200)の壁面等で析出して、回収が困難になることを防ぐことができる。
【0083】
原料液濃縮システム(1)においては、比重計(図示せず)によって原料液(a)の比重を追跡することができる。これにより、原料液(a)中の有機溶媒の濃度をモニターすることができる。そして、必要に応じて正浸透膜モジュールの運転条件を変更して、有価物が析出、凝集、及び変性しない範囲で原料液(a)の組成を調整しながら濃縮を行うことが可能である。
【0084】
原料液(a)の濃縮の程度は、液面計(LG)を用いて原料液(a)の容積を測定することによって、知ることができる。そして、最終的に、目標の濃縮倍率になった時点で、濃縮を完了することができる。
原料液(a)の性状(例えば、原料液中の成分の少なくとも1つの濃度)をモニターする項目としては、例示した比重測定の他に、pH測定、導電率測定、旋光度測定、屈折率測定、紫外光分析、可視光分析、赤外光分析、近赤外光分析等を用いることができる。これらの分析から選択される1種以上の測定結果を用いて、例えば、原料液中の成分の少なくとも1つの濃度を決定することができる。この結果と、液面計の測定値、液の重量等とを同時にモニターし、必要に応じて正浸透膜モジュールの運転条件を変更して、原料液(a)中の有機溶媒の濃度を維持しつつ濃縮を行うことができる。
【0085】
更に、原料液(a)中の水溶性有機溶媒の濃度の推定に、回帰分析、クラス分類、クラスタリング、ニューラルネットワークを利用した深層学習(ディープラーニング)等の、公知のAI技術、又はそれらの組み合わせで得られた推定モデルを用いると、より高精度な濃度推定ができるため、より好ましい。こうした方法によって、原料液(a)中の水溶性有機溶媒の濃度を高精度にモニタリングし、適宜運転条件を操作することによって、水溶性有機溶媒の濃度を、より高い精度で好適な範囲で維持しつつ、濃縮を行うことができる。この場合、有価物が析出、凝集、又は変性するリスクを一層減じることができ、好ましい。
【0086】
<有機溶媒除去方法>
本発明の一態様は有機溶媒を除去する方法を提供する。一態様において、当該方法は、溶液と誘導液とを正浸透膜を介して接触させる工程を含む。
一態様において、溶液は、有機溶媒を含む。一態様において、誘導液が、誘導溶質を含む。一態様において、誘導溶質は、下記(1)及び(2)を満たす。
(1)分子量30以上100以下の繰り返し単位を少なくとも3つ以上含む高分子である
(2)前記高分子の主鎖に、水素原子、ハロゲン原子以外の原子(原子団)が結合している分岐構造を有する
【0087】
<有機溶媒除去用誘導溶質>
本発明の一態様は有機溶媒除去用の誘導溶質を提供する。一態様において、誘導溶質は、下記(1)及び(2)を満たす。
(1)分子量30以上100以下の繰り返し単位を少なくとも3つ以上含む高分子である
(2)前記高分子の主鎖に、水素原子、ハロゲン原子以外の原子(原子団)が結合している分岐構造を有する
【0088】
要件(1)及び(2)を満たす本実施形態の誘導溶質は、溶液への混入が抑制され、かつ、有機溶媒リッチな溶液の有機溶媒の除去において、誘導溶質が高いFluxで有機溶媒を除去することができる。
【実施例0089】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的に例示する実施例を更に示すが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0090】
活性層表面に対する接触角の測定は、協和界面科学社製のDMo-602を用いて行った。オートディスペンサで活性層表面に蒸留水を2μL滴下し、滴下後2000msecから3000msecにおいて100msec間隔で測定された動的接触角の平均を、接触角とした。
【0091】
中空糸膜の内径及び外径は、中空糸膜サンプルを輪切りにした切片を、電子顕微鏡を使用して観察することで測定した。
【0092】
中空糸膜の空隙率は、下記数式(1)により算出した。
【数1】
(数式(1)中、Φ (%) は空隙率を、W (g)は10cmに切った10本の中空糸の総質量を、ID (cm)は中空糸の内径を、OD (cm)は中空糸の外径を、ρ(g/cm
3)はポリケトン樹脂の密度をそれぞれ表している。ポリケトン樹脂の密度としては、1.3g/cm
3を用いて計算した。
空隙率測定用の中空糸膜サンプルは、乾燥処理を行ったものを用いた。
【0093】
中空糸膜の孔径は、perm porometer (CFP-1200AX; Porous Materials, Inc., USA)と、Galwick 液(表面張力15.9 dynes/cm)を用いて、JIS K 3832の方法により算出した。
【0094】
中空糸のwater permeanceは、
図6に示す圧力下膜試験装置を用いて、膜間差圧2bar、中空側流量36cc/min(線速4cm/sec)で測定することによって得られた。
【0095】
<正浸透膜モジュール1の作製>
エチレンと一酸化炭素とが完全交互共重合した極限粘度2.2dL/gのポリケトンを、ポリマー濃度が15質量%となるように65質量%レゾルシン水溶液に添加し、80℃において2時間攪拌溶解し、脱泡を行って、均一透明な紡糸原液を得た。二重紡口を装備した湿式中空糸紡糸機に上記の紡糸原液を充填し、二重紡口の内側から25質量%のメタノール水溶液を、外側から上記の紡糸原液を、それぞれ、40質量%メタノール水溶液を満たした凝固槽中に押し出して、相分離により中空糸膜を形成した。
【0096】
得られた中空糸膜を、長さ70cmに切断して束ね、水洗した。水洗後の中空糸膜束を、アセトンで溶媒置換し、さらにヘキサンで溶媒置換した後、50℃において乾燥を行った。
このようにして得られたポリケトン中空糸(HF support)の各測定値を
図4に示す。
また、ポリケトン中空糸の電子顕微鏡像を
図5に示す。
【0097】
上記ポリケトン中空糸膜80本からなる中空糸膜束を、2cm径、10cm長の円筒状のモジュールハウジング(筒状ケース)内に収納し、中空糸膜束の両端部を接着剤で固定した後、接着固定部の両端を切断して両端の中空糸膜を開孔させることで、有効長80mmのポリケトン中空糸支持膜モジュールを作製した。
【0098】
得られたポリケトン中空糸支持膜モジュールを用い、各中空糸膜の内側表面上(基材層上)において、下記のとおりに界面重合を実施した。
1L容器に、m-フェニレンジアミン20.216g及びラウリル硫酸ナトリウム1.52gを入れ、さらに純水991gを加えて溶解させ、界面重合に用いる第1溶液を調製した。別の1L容器に、トリメシン酸クロリド0.6gを入れ、n-ヘキサン300gを加えて溶解させ、界面重合に用いる第2溶液を調製した。
【0099】
界面重合による活性層の形成は、
図7に示す界面重合装置によって実施した。
中空糸支持膜モジュールのコア側(中空糸の内側)に第1溶液を充填し、5分静置した後に、中空糸の内側から第1溶液を抜いた。中空糸の内側が第1溶液で濡れた状態でコア側圧力を常圧に設定し、シェル側(中空糸の外側)圧力を、絶対圧として10kPaの減圧に設定した(コア側圧力>シェル側圧力)。この状態で2分間静置した後、この圧力を維持したまま、第2溶液送液ポンプにより第2溶液をコア側に40mL/分の流量で3分送液し、界面重合を行った。重合温度は25℃とした。
【0100】
次いで、中空糸支持膜モジュールを装置から外して、50℃に設定した恒温槽内に5分静置させ、n-ヘキサンを気化させて除去した。さらに、シェル側及びコア側の双方を純水によって洗浄した。
以上の手順で、有効膜面積約100cm2の正浸透膜モジュール1を得た。
得られた正浸透膜モジュール1は中空糸の内側に活性層を有している。活性層表面に対して接触角を測定したところ、40度であり、したがって親水性であった。
【0101】
正浸透膜モジュール1の塩選択性を以下の方法で算出した。
正浸透膜モジュール1が、活性層側に原料液として、有機物濃度(TOC)10ppm以下及び電気伝導率2mS/cm以下の純水を、基材層側に誘導液として3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液を配置し、基材層側を正とし20kPaに加圧しながら原料液及び誘導液を流し、20分経過後に正浸透膜モジュール1の誘導溶質のRSF及び誘導溶液中への水Fluxを測定した。下記式にRSF及び水Fluxを適用することで、正浸透膜モジュール1の塩選択性を算出した。なお、RSF及び水Fluxは、後述の方法で測定した。
RSF/水Flux(塩選択性)=誘導溶質のRSF(g/(m2×hr))÷誘導溶液中への水Flux(kg/m2/hr)
結果、正浸透膜モジュール1の塩選択性は0.15g/kgであった。
【0102】
得られた正浸透膜と界面重合前のポリケトン中空糸それぞれの内表面に対して、X線光電子分光法での測定を行った。結果を
図8(a)に示す。正浸透膜とポリケトン中空糸(HF)のスペクトルを比較すると、窒素のピークが確認されたため、内表面に対して確かにポリアミド活性層が形成されていることが確認できた。
また、得られた正浸透膜と界面重合前のポリケトン中空糸それぞれの内表面に対して、ATR-FTIRでの測定を行った。結果を
図8(b)に示す。ポリケトン中空糸のスペクトルには1057、1336、1408及び1693cm
-1の波長にピークが見られた。これらの1000~1800cm
-1の波長におけるIRのピークは、正浸透膜のスペクトルにも見られた。その理由は、正浸透膜とポリケトン中空糸が300nm以上の透過性を有しているからである。
正浸透膜のスペクトルには、ポリケトン中空糸由来のピークに加えて、新たに3つの新しいピークが1541、1610及び1663cm
-1に現れている。これらは、C.Y.Tangらの研究(Desalination 242 (2009) 149)によると、それぞれアミドIIバンド、芳香族アミド及びアミドIバンドに帰属することが出来る。これらのピークから、界面重合によってポリアミド層が中空側に形成されたことが確認できた。
【0103】
また、得られた正浸透膜の内表面に対して、電子顕微鏡を用いて観察を行った。内表面上に活性層らしきものが確認できた。結果を
図9に示す。
【0104】
得られた正浸透膜モジュール1を、
図6に示す装置において、feed solutionとして0.1質量%の硫酸マグネシウム水溶液を用いて、膜間差圧2bar、中空側流量36cc/min(線速4cm/sec)で測定したところ、硫酸マグネシウムの阻止率は約100%であった。同様の試験を0.005質量%のブリリアントブルーRのMeOH溶液を用いて実施したところ。同様の阻止率を示した。これによって、正浸透膜モジュール1の活性層が無欠陥で形成され、水中でも有機溶媒中でも機能することが確認できた。以上の結果を
図10に示す。
【0105】
<実施例1>
図3に示した原料液濃縮システムに正浸透膜モジュール1をセットし、室温(23℃)にて濃縮試験を行った。
原料液としては、有価物であるスクロースオクタアセテート(SoA)(重量平均分子量678、東京化成工業株式会社製)0.1質量%を含有するテトラヒドロフラン(THF)溶液を350g使用した。
誘導液としては、トリプロピレングリコールを350g使用した。原料液と誘導液とを、それぞれ36mm/min(線速4cm/sec)、50mm/min(線速0.38cm/sec)で並行流モードで流して60分間循環させた。
【0106】
(Fluxの測定)
誘導液の質量の増加分(kg)を、正浸透膜モジュールの有効膜面積(m2)と循環時間(hr)で除することにより、誘導溶液中へのFlux(kg/m2/hr)を算出した。
【0107】
(誘導溶質の逆拡散の測定)
濃縮試験後の原料液内に含まれる誘導溶質(g)を、液体クロマトグラフィーで測定し、正浸透膜モジュールの有効膜面積(m2)と循環時間(hr)で除することにより、誘導溶質の逆拡散(RSF, Reverse Solute Flux)(単位:g/m2/hr)を算出した。詳細は以下記載の通りである。
【0108】
(RSF/Fluxの測定)
前述のとおり、求めたRSF(g/m2/hr)を誘導溶液中へのFlux(kg/m2/hr)で除することにより、RSF/Flux(g/kg)を算出した。
【0109】
(水に対する誘導溶質の溶解度の測定)
100g当たりの水に対する誘導溶質の溶解度は、以下の通り、測定した。
100gの純水に誘導溶質を25℃で少量ずつ加えていき、2相になる直前の質量を、水に対する誘導溶質の溶解度(質量%)として測定した。
【0110】
(誘導溶質に対する水の溶解度の測定)
100g当たりの誘導溶質に対する水の溶解度(誘導溶質の含水率)は、以下の通り、測定した。
100gの誘導溶質に水を25℃で少量ずつ加えていき、2相になる直前の質量を、誘導溶質に対する水の溶解度(質量%)として測定した。
【0111】
<水Fluxの測定>
1mLのシリンジで原料液約0.5mLを取り、カールフィッシャー水分測定装置(形式CA-200、(株)三菱化学アナリテック製)に約0.1mL注入し、原料液中の水分量を測定した。運転前後における原料液中の水分量から、誘導溶液中への水Fluxを算出した。
【0112】
(RSF/水Fluxの測定)
前述のとおり、求めたRSF(g/m2/hr)を誘導溶液中への水Flux(kg/m2/hr)で除することにより、RSF/水Flux(g/kg)を算出した。
【0113】
(原料液の溶媒の親疎水性)
25℃において、溶媒又は誘導溶質と水とを体積比50:50で混合し、φ8mm×25mmのスターラーチップとマグネチックスターラーを用いて24時間攪拌したときに、目視観察にて1相状態を保った場合には親水性、2相状態を保った場合には疎水性と判定した。
【0114】
<実施例2~7、比較例1及び3>
原料液中の有価物、原料液中の溶媒、誘導液中の誘導溶質及び誘導液中の溶媒を表1に示すとおりとした他は実施例1と同様の手順で濃縮試験を行い、Flux及びRSFを算出した。
【0115】
<参考例1>
有価物を原料液に入れず、原料液の溶媒を水に変更した以外は比較例1と同様の手順で濃縮試験を行い、Flux及びRSFを算出した。
【0116】
<参考例2>
有価物を原料液に入れず、原料液の溶媒を水に変更した以外は実施例2と同様の手順で濃縮試験を行い、Flux及びRSFを算出した。
【0117】
<実施例8>
原料液としては、有価物であるアセチルグルコピラノース(GpA)(重量平均分子量390Da、東京化成工業株式会社製))5質量%を含有するように、原料液の溶媒:テトラヒドロフラン(THF)及び水を88:12の割合で含む溶液を150g使用した。
誘導液としては、ポリプロピレングリコール(PPG-400)を150g使用した。原料液と誘導液とを、それぞれ36mm/min(線速4cm/sec)、50mm/min(線速0.38cm/sec)で並行流モードで流して60分間循環させた。
【0118】
<実施例9>
原料液の溶媒の比率、原料液の量及び誘導溶質を表1に示すとおりとした他は実施例8と同様の手順で濃縮試験を行い、Flux及びRSFを算出した。
【0119】
<実施例10>
図3に示した原料液濃縮システムに正浸透膜モジュール1をセットし、室温(23℃)にて脱水による原料液の濃縮試験を行った。
原料液としては、有価物であるアセチルグルコピラノース(GpA)(重量平均分子量390Da)5質量%を含有するように、原料液の溶媒:テトラヒドロフラン(THF)及び水を95:5の割合で含む溶液を150g使用した。
誘導液としては、ポリプロピレングリコール(PPG-400)を150g使用した。原料液と誘導液とを、それぞれ36mm/min(線速4cm/sec)、50mm/min(線速0.38cm/sec)で並行流モードで流して60分間循環させた。
上記方法に従い、実施例10の水に対する誘導溶質の溶解度、誘導溶質に対する水の溶解度、水Flux、RSF及びRSF/水Fluxを算出した。
【0120】
<実施例11~13、比較例2>
誘導溶質を表2に示すとおりとした他は実施例10と同様の手順で脱水による濃縮試験を行い、水に対する誘導溶質の溶解度、誘導溶質に対する水の溶解度、水Flux、RSF及びRSF/水Fluxを算出した。
【0121】
<比較例4>
原料液中の有価物、原料液中の溶媒及び誘導液中の誘導溶質を表2に示すとおりとした他は実施例10と同様の手順で濃縮試験を行い、水に対する誘導溶質の溶解度、誘導溶質に対する水の溶解度、水Flux、RSF及びRSF/水Fluxを算出した。
【0122】
<参考例3>
正浸透膜モジュール1とラボ用正浸透膜評価装置(
図11)を用いて、原料液中のSoA濃度とFluxとの関係を調査した。原料液として、0質量%、20質量%、40質量%、60質量%のSoAを溶かしたMeOH溶液を用意し、36cc/min(線速4cm/sec)で正浸透膜モジュール1の内表面側に通液した。
一方、正浸透膜モジュールの外表面側に、誘導液として2Mに調整したPEG―400のMeOH溶液を、336cc/min(線速2.5cm/sec)で通液した。20分間の重量変化からFluxを測定した結果を
図12に示す。
図12から、原料液中のSoA濃度が71質量%のときに、MeOHのFluxが消失することが推察できる。したがって、この誘導液を用いると、SoAのMeOH溶液を71質量%まで濃縮できる可能性があることが確認できた。
【0123】
<参考例4>
参考例3と同様の装置、流量、モジュール及び誘導液を用いて、10質量%のSoA/MeOH溶液の高度濃縮を試みた。結果を
図13及び
図14に示す。
結果、SoAが52質量%まで濃縮できた。発明者らの調査によると、これまでの有機溶媒正浸透による高度濃縮事例としては、非特許文献1に記載の16000ppmが最高濃度であり、本参考例の結果から有機溶媒正浸透における高度濃縮のポテンシャルを確認することができた。
L.G. Peevaらの報告(Effect of concentration polarisation and osmotic pressure on flux in organic solvent nanofiltration, J Memb Sci. 236 (2004) 121)によると、医薬品の原薬濃縮における実用的な濃度は5質量%以上の領域にある。したがって、本参考例は、有機溶媒正浸透を医薬品原薬濃縮に適用できるポテンシャルを示した初の事例である。
一方で、最終原料液の中には、誘導溶質であるPEG-400が17質量%も含まれていた。PEG-400は沸点が高く、留去できないため、原薬の不純物としてPEG-400が残留してしまう。有機溶媒正浸透を医薬品原薬濃縮に適用する技術の実用化には、正浸透膜の阻止性の改良か、阻止されやすい誘導溶質の開発が必要である。本実施形態の誘導溶質を用いることにより、高度濃縮時の原料液へのコンタミネーションを、大幅に減少させられる可能性がある。
【0124】
<参考例5>
参考例3と同様の実験を、誘導液として2Mに調整したPPG-400のMeOH溶液を用いて行い、原料液中のSoA濃度とFluxとの関係を調査した。
図15から、原料液中のSoA濃度が71質量%のときに、MeOHのFluxが消失することが推察できる。したがって、この誘導液を用いると、SoAのMeOH溶液を71質量%まで濃縮できる可能性があることが確認できた。
【0125】
<参考例6>
参考例4と同様の実験を、誘導溶液として2Mに調整したPPG-400のMeOH溶液を用いて行い、10質量%のSoA/MeOH溶液の高度濃縮を試みた。結果を
図16及び
図17に示す。
結果、参考例4と同様にSoAを50質量%近くまで濃縮できた。このとき、最終原料液の中には、誘導溶質であるPPG-400はわずか0.04質量%しか含まれていなかった。本実施形態の誘導溶質を用いることにより、高度濃縮時の原料液へのコンタミネーションを、大幅に減少させられることが実験によって示された。
【0126】
<参考例7>
2Mに調整したPEG-400のMeOH溶液と、2Mに調整したPPG-400のMeOH溶液に対して、
図18に示した蒸気圧測定装置を用いてMeOH蒸気圧を測定した。得られた蒸気圧データから下記の数式によってそれぞれの溶液の浸透圧を算出した。
【数2】
(数式(3)及び数式(4)中、Πは浸透圧(bar)、a
MeOHはサンプル中のMeOHの活量、P
MeOHsampleはサンプルの蒸気圧(kPa)、P
*
MeOHは純MeOHの蒸気圧(kPa)Rは気体定数(0.0831 L barK
-1mol
-1)、Tは測定温度(296.15 K)、V
MeOHはMeOHのモル体積(0.0737L mol
-1)である。
【0127】
それぞれの溶液の浸透圧の算出結果を
図19に示す。2Mに調整したPEG-400のMeOH溶液の浸透圧よりも、2Mに調整したPPG-400のMeOH溶液の浸透圧の方が高いことが分かった。参考例3と参考例5とを比較すると、参考例5の方が高いFluxが確認されたが、それと矛盾しない結果であった。
【0128】
なお、実施例等で使用した誘導溶質及び誘導液の溶媒は以下のとおりである。
トリプロピレングリコール:東京化成工業株式会社より入手可能(分子量30以上100以下の繰り返し単位:3)
ポリプロピレングリコール(PPG-400に相当):富士フィルム和光純薬株式会社より入手可能(分子量30以上100以下の繰り返し単位:5~12)
ポリプロピレングリコール(PPG-700に相当):富士フィルム和光純薬株式会社より入手可能(分子量30以上100以下の繰り返し単位:8~18)
ポリプロピレングリコール(PPG-1000に相当):富士フィルム和光純薬株式会社より入手可能(分子量30以上100以下の繰り返し単位:14~26)
ポリプロピレングリコール(PPG-2000に相当):富士フィルム和光純薬株式会社より入手可能(分子量30以上100以下の繰り返し単位:28~46)
ポリエチレングリコール(PEG-400に相当):富士フィルム和光純薬株式会社より入手可能(分子量30以上100以下の繰り返し単位:5~13)
ポリエチレングリコール(PEG-600に相当):富士フィルム和光純薬株式会社より入手可能(分子量30以上100以下の繰り返し単位:8~18)
テトラヒドロフラン(THF):富士フィルム和光純薬株式会社より入手可能
【0129】
[評価方法]
(Fluxのランク付け)
実施例及び比較例の誘導液の濃縮試験は、誘導溶液中へのFluxの数値が大きいほど濃縮時間が短いことを意味し、Fluxのランク付けを以下の基準で評価した。
A:20kg/m2/hr以上
B:16kg/m2/hr以上20kg/m2/hr未満
C:12kg/m2/hr以上16kg/m2/hr未満
D:10kg/m2/hr以上12kg/m2/hr未満
E:10kg/m2/hr未満
評価がA~Dであれば、濃縮性能が高く、本実施形態に係る誘導溶質として好適に使用できる。
【0130】
(RSF/Fluxのランク付け)
実施例及び比較例の誘導液の濃縮試験は、誘導溶質のRSF/Fluxの数値が小さいほど誘導溶質の原料液への混入が少ないことを意味し、RSF/Fluxのランク付けを以下の基準で評価した。
A:1g/kg未満
B:1g/kg以上2g/kg未満
C:2g/kg以上10g/kg未満
D:10g/kg以上100g/kg未満
E:100g/kg以上
評価がA~Cであれば、濃縮性能が高く、本実施形態に係る誘導溶質として好適に使用できる。
【0131】
(水Fluxのランク付け)
実施例及び比較例の誘導液の濃縮試験は、誘導溶液中への水Fluxの数値が大きいほど脱水性能が高い(濃縮時間が短い)ことを意味し、水Fluxのランク付けを以下の基準で評価した。
A:1.5kg/m2/hr以上
B:1.3kg/m2/hr以上1.5kg/m2/hr未満
C:1.0kg/m2/hr以上1.3kg/m2/hr未満
D:0.7kg/m2/hr以上1.0kg/m2/hr未満
E:0.7kg/m2/hr未満
評価がA~Dであれば、濃縮性能が高く、本実施形態に係る誘導溶質として好適に使用できる。
【0132】
(RSF/水Fluxのランク付け)
実施例及び比較例の誘導液の濃縮試験は、誘導溶質のRSF/水Fluxの数値が小さいほど誘導溶質の原料液への混入が少ないことを意味し、RSF/水Fluxのランク付けを以下の基準で評価した。
A:1g/kg未満
B:1g/kg以上2g/kg未満
C:2g/kg以上10g/kg未満
D:10g/kg以上100g/kg未満
E:100g/kg以上
評価がA~Dであれば、濃縮性能が高く、本実施形態に係る誘導溶質として好適に使用できる。
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
誘導溶質の重量平均分子量は、液体クロマトグラフィー-質量分析法で測定した。
液体クロマトグラフィー(ACQUITY UPLC I-Class、日本ウォーターズ株式会社製)と質量分析計(micrOTOF-QIII、ブルカージャパン株式会社製)を用いた。
PEGに対しては、オクタデシリル化シリカゲル(ACQUITY UPLC BEH C18、内径2.1mm、長さ50mm、粒径1.7μm、日本ウォーターズ株式会社製)を充填したカラムを用いた。カラム温度を40℃に設定し、移動相に0.1%ギ酸水溶液と0.1%アセトニトリル溶液の組み合わせを用い、移動相の送液0.2mL/分で0.1%ギ酸アセトニトリルの濃度を5%から40%まで10分間で勾配させた。
PPGに対しては、フェニルヘキシルシリル化シリカゲル(ACQUITY UPLC BEH Phenyl、内径2.1mm、長さ100mm、粒径1.7μm、日本ウォーターズ株式会社製)を充填したカラムを用いた。カラム温度を50℃に設定し、移動相に10mmol/Lギ酸アンモニウムとアセトニトリルの組み合わせを用い、移動相の送液0.25mL/分でアセトニトリルの濃度を40%から99%まで6分間で勾配させた。
質量分析計はエレクトロスプレーイオン化法を用い、正イオンモードにて測定を行った。解析にはソフトウェア DataAnalysis(ブルカージャパン株式会社製)を用いた。
サンプルは50v/v%2-プロパノール溶液を用いて適時適倍し事前調整した。
PEGはプロトン付加分子、PPGはアンモニウムイオン付加分子を基に各繰り返し構造nのm/zを算出し、抽出イオンクトマトグラムから面積値を取得し、以下のような想定で解析を行った。
誘導溶質の繰り返し構造nの面積値より各繰り返し構造nのイオン化率が同じという想定の下で、重量存在比を算出した。標準溶液の各繰り返し構造nの各分子量と重量存在比から、誘導溶質の重量平均分子量を算出した。
以下に一例としてPPG-1000の分析結果を記載する。重量平均分子量Mwは、各繰り返し構造の平均分子量Miと存在比Niとから、下記の計算式により算出した。
【数3】
【0138】
【0139】
【0140】
原料液中に混入した誘導溶質の定量には、重量平均分子量を算出した際と同じ方法で測定・解析したデータを用いた。
得られたデータから、以下のような想定で解析を行った。
高分子誘導溶質と試料中の高分子誘導溶質では繰り返し構造nの分布が異なる場合もあったため、特定の繰り返し構造nの面積値を用いて検量線を作成し定量を行うことは困難と判断した。そこで、標準溶液の繰り返し構造nの面積値より各繰り返し構造nのイオン化率が同じという想定の下で重量存在比を算出した。標準溶液の各繰り返し構造nの標準溶液濃度に重量存在比を乗じることで、各繰り返し構造nの濃度とし各繰り返し構造nの濃度算出を行った。検出した繰り返し構造nの定量結果の総和を試料中の高分子誘導溶質の濃度とした。
【0141】
誘導液中に漏れたSoA濃度は、高速液体クロマトグラフィー質量分析法で測定した。
測定には、液体クロマトグラフィー(製品名:ACQUITY UPLC I-Class、日本ウォーターズ株式会社製)、質量分析計(製品名:micrOTOF-QIII、ブルカージャパン株式会社製)、カラム(ACQUITY UPLC BEH C18 2.1 mm I.D. × 50 mm, 1.7 μm、日本ウォーターズ株式会社製)を用いた。
測定条件は、検出器にフォトダイオードアレイ検出器(スキャン範囲 195 nm~600 nm)と質量分析計を用い、カラムにオクタデシリル化シリカゲル(内径2.1 mm、長さ50 mm、粒径1.7 μm 日本ウォーターズ株式会社製)を充填したカラムを用い、カラム温度は40°C付近の一定温度、移動相に10 mmol/Lギ酸アンモニウム溶液およびエタノール(99.5%)を用い、移動相の送液を0.2 mL/分で混合比を10 mmol/Lギ酸アンモニウム溶液の濃度を80%から10 %、エタノール(99.5%)の濃度を20%から90 %へと14分間で勾配させた。質量分析計はエレクトロスプレーイオン化法を用い、正イオンモードにて測定を行った。解析にはソフトウェア DataAnalysis(ブルカージャパン株式会社製)を用いた。
サンプルは、エタノール (99.5)にて適時適倍し事前調整した。
得られたデータから、以下のような想定で解析を行った。
SoAは、アンモニウム塩付加分子のm/z (696.2296, [M+NH4]+)の抽出イオンクロマトグラムにおける当該ピークの面積値を取得し、事前に取得した標準溶液の検量線を用いて試料濃度を算出した。
GpAにおいても同様に分析を行った。
いずれの実施例、比較例及び参考例においても誘導液中に漏れた有価物は検出されず、有価物の収率は99%以上であることが示唆された。
【0142】
参考例1、2並びに実施例1と比較例2とから、水系のRSFよりも有機溶媒系のRSFの方が大きい。これは、ポリマーからなる活性層は溶媒中で膨潤するためであると考えられる。すなわち、有機溶媒正浸透においては、水系のそれと比べ、誘導溶質の阻止が一層難しくなる。
分岐構造の高分子を誘導溶質として用いることによってRSFが小さくなる理由は定かではないが、発明者は以下のように考察している。
水系においては、高分子誘導溶質と溶媒(水)との親和性が低いため、十分に絡まりあったコイルを形成すると考えられる。この場合、コンフォーメーションが限定される分岐高分子の方が、分子量あたりの回転半径が大きくなるため、RSFが低くなっていると考えている。参考例によると、PEGを用いたときのRSF/Fluxは、PPGを用いた時のそれと、8倍程度異なる。
一方で有機溶媒系においては、高分子誘導溶質と有機溶媒との親和性が高いため、相対的に絡まりが少なく、相対的に引き延ばされたコイルを形成すると考えられる。このような状況においては、高分子誘導溶質の膜を介した移動は、回転半径よりもむしろ、高分子を主鎖方向に引き延ばしたコンフォーメーションにおける断面積に影響されると、発明者らは考察している。
高分子を主鎖方向に対して引き延ばしたコンフォーメーションにおける、主鎖方向と垂直な面の断面積は、線状高分子であるPEGよりも、分岐高分子の方が大きい。したがって、分岐高分子は膜に十分に阻止され、有機溶媒系でのRSFが小さくなると考えられる。実施例1、比較例1によると、PEGを用いたときのRSF/Fluxは、PPGを用いた時のそれと、230倍以上異なる。
また、比較例1のFluxが、実施例1のそれより低い理由としては、発明者らは以下のように考察する。
有機溶媒正浸透において誘導溶質に線状高分子を用いた場合、誘導溶質の阻止が困難であり、原料液側に誘導溶質が漏れることが考えられる。そのため、膜近傍での誘導溶質の濃度差(≒浸透圧差)が低下し、膜透過の駆動力が低下し、Fluxが低下していると発明者らは考えている。
同様の理由で、比較例2において、PEG-400は水との親和性が高いにもかかわらず、膜間に浸透圧差が発生しないため、水を透過させる駆動力が低く、水Fluxも低い結果が得られたと発明者らは考えている。
【0143】
以上の観点から、下記表5に示すように、医薬品添加剤をスクリーニングすることができる。
表5は、医薬品添加剤のうち、分子量が400~2000Daのものを抜き出して並べた表である。浸透圧は誘導液中の誘導溶質のモル濃度に依存するので、溶媒への溶解性も誘導溶質に求められる物性の一つである。表5中にはメタノールに対する溶解度を示した。また、プラントでの取り扱い性を考慮すると、室温で液状であり、かつ粘度が低いものが望ましい。医薬品添加剤の室温での状態及び粘度いずれも表5中に示した。
この結果から、PPGが一様に、医薬品添加剤として望ましい物性を持っていることが分かる。PEG-400も望ましい物性を有しているが、逆拡散(RSF)が大きいことが比較例から分かる。同様に、ポリソルベート20も、ほぼ望ましい物性を持っているが、粘度がやや高いという難点がある。
【0144】