(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014438
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】水分含有組成物の製造方法及びそれによって製造された水分含有組成物
(51)【国際特許分類】
C08J 3/03 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
C08J3/03
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117261
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】518266602
【氏名又は名称】株式会社アトムワーク
(71)【出願人】
【識別番号】501016733
【氏名又は名称】中谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】下村 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼村 修七
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA60
4F070AC15
4F070AC18
4F070AC20
4F070AC22
4F070AC40
4F070AE07
4F070AE08
4F070CA01
4F070CB01
4F070CB12
(57)【要約】
【課題】表面が湿った状態となるのを抑制された水分含有組成物の製造方法及びその製造方法によって製造された水分含有組成物を提供する。
【解決手段】無極性の液体を未硬化の樹脂11に混合して混合物を得る第1工程と、水分を含有する溶解液に一部又は全体が溶解した水溶性物質12が付着した水溶物保持粒子13を混合物に投入して混合する第2工程とを有して、硬化した樹脂11中に水溶性物質12が付着した水溶物保持粒子13が分散した水分含有組成物10を得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無極性の液体を未硬化の樹脂に混合して混合物を得る第1工程と、
水分を含有する溶解液に一部又は全体が溶解した水溶性物質が付着した水溶物保持粒子を前記混合物に投入して混合する第2工程とを有して、
前記水溶性物質が付着した前記水溶物保持粒子が硬化した前記樹脂中に分散した水分含有組成物を得ることを特徴とする水分含有組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の水分含有組成物の製造方法において、前記第2工程で前記混合物に投入される前記溶解液、前記水溶性物質及び前記水溶物保持粒子の合計質量は、前記第1工程で前記樹脂に混合される前記無極性の液体の質量の0.1倍以上20倍以下であることを特徴とする水分含有組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水分含有組成物の製造方法において、粉状の難燃剤を前記未硬化の樹脂又は前記混合物に添加することを特徴とする水分含有組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の水分含有組成物の製造方法において、前記水溶性物質は潮解性を有することを特徴とする水分含有組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の水分含有組成物の製造方法において、前記未硬化の樹脂又は前記混合物に、該樹脂を硬化する硬化剤を投入することを特徴とする水分含有組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の水分含有組成物の製造方法において、前記硬化剤の投入は、前記第1工程の前に前記未硬化の樹脂に対してなされることを特徴とする水分含有組成物の製造方法。
【請求項7】
水分を含有する溶解液に一部又は全体が溶解した状態の水溶性物質が付着した水溶物保持粒子が、硬化した樹脂中に分散した水分含有組成物であって、
表面のISO4287-1997に準拠した算術平均粗さが、20μm以下であることを特徴とする水分含有組成物。
【請求項8】
請求項7記載の水分含有組成物において、前記水溶性物質は潮解性を有することを特徴とする水分含有組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化した樹脂中に水分が分散した水分含有組成物の製造方法及びその製造方法によって製造された水分含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接や溶鋼等が行われる現場では、難燃性のシート等を用いて溶融金属の飛散物が周囲の設備や機器に触れるのを防止している。このようなシートの形成に利用可能な樹脂系組成物の具体例が、例えば、特許文献1、2に開示されている。特許文献1には、耐火性添加剤、熱伝導性物質、金属粒子及び樹脂を含有し、高い熱伝導性によって安定的に耐火性及び消火性を発揮する組成物が開示されている。
【0003】
特許文献2には、樹脂中に水が分散した組成物であって、水の冷却効果や窒息効果等によって耐火性及び消火性を奏するものが開示されている。特許文献2の組成物は、水に溶解した水溶性物質を担持した多孔質粒子を未硬化の樹脂に混合して、多孔質粒子と共に水を樹脂中に分散させた後に樹脂を硬化することによって形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-35611号公報
【特許文献2】特開2020-15840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、未硬化の樹脂に多孔質粒子を混合する際、多孔質粒子に担持されていた水溶性物質が多孔質粒子から離れた状態で樹脂中に混入すると、樹脂が硬化した組成物は内側だけでなく表面にも水溶性物質が分布する。このような組成物は表面が濡れた状態となり取り扱いが煩雑となる。また、水溶性物質が潮解性を有する物質の場合、組成物の表面に分布している水溶性物質は大気中の水分を吸収することから、組成物の表面には常に水滴が付着し、組成物の利用が大幅に制限される。
【0006】
従って、水溶性物質が多孔質粒子に保持された状態で樹脂中に分散させることが重要である。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、表面が湿った状態となるのが抑制された水分含有組成物の製造方法及びその製造方法によって製造された水分含有組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う本発明に係る水分含有組成物の製造方法は、無極性の液体を未硬化の樹脂に混合して混合物を得る第1工程と、水分を含有する溶解液に一部又は全体が溶解した水溶性物質が付着した水溶物保持粒子を前記混合物に投入して混合する第2工程とを有して、前記水溶性物質が付着した前記水溶物保持粒子が硬化した前記樹脂中に分散した水分含有組成物を得る。
【0008】
同水分含有組成物の製造方法によって製造された本発明に係る水分含有組成物は、水分を含有する溶解液に一部又は全体が溶解した状態の水溶性物質が付着した水溶物保持粒子が、硬化した樹脂中に分散した水分含有組成物であって、表面のISO4287-1997に準拠した算術平均粗さが、20μm以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る水分含有組成物の製造方法は、無極性の液体を未硬化の樹脂に混合して混合物を得る第1工程と、水分を含有する溶解液に一部又は全体が溶解した水溶性物質が付着した水溶物保持粒子を混合物に投入して混合する第2工程とを有するので、第2工程での混合処理の際に水溶物保持粒子に付着している水溶性物質が水溶物保持粒子から離れるのを抑制でき、表面が湿った状態となるのが抑制された水分含有組成物を製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る水分含有組成物の説明図である。
【
図2】実施例の表面粗度を計測した結果を示す説明図である。
【
図3】比較例の表面粗度を計測した結果を示す説明図である。
【
図4】重量変化を計測した結果を示す説明図である。
【
図5】重量変化を計測した結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
続いて、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る水分含有組成物10は、水溶性物質12が付着した水溶物保持粒子13が硬化した樹脂11中に分散したものである。以下、詳細に説明する。
【0012】
本実施の形態において、水溶性物質12は、水(H
2O)100gに対する溶解度が50g以上であり、
図1に示すように、水分を含有する溶解液(水やエタノール水等)に一部又は全体が溶解した状態で水溶物保持粒子13に付着している。水100gに対する溶解度が50g以上とは、相対湿度50%、20℃の室内で20℃の水100gに対し50g以上が溶解することを意味する。水溶物保持粒子13に水溶性物質12が付着しているとは、水溶物保持粒子13の表面に水溶性物質12が付着していることを意味する。
【0013】
水溶物保持粒子13が多孔質粒子の場合、水溶物保持粒子13に水溶性物質12が付着しているとは、水溶物保持粒子13の表面に水溶性物質12が付着していることに加えて水溶性物質12が水溶物保持粒子13に形成された孔(貫通孔及び貫通していない穴を含む)内に保持(担持)されていることを意味する。
【0014】
水溶性物質12として潮解性を有する物質を採用することにより、水溶物保持粒子13に付着した状態で樹脂11中に分布した水溶性物質12が空気中から水分を取得することができる。これによって、水分含有組成物10は所定範囲の水分量を保持した状態を安定的に維持可能である。
水分含有組成物10には、一部又は全体が水(水分を含有する溶解液の一例)に溶解した水溶性物質12が水溶物保持粒子13に付着した状態で、硬化した樹脂11全体に万遍なく分布している。嵩容積で、水分含有組成物10は、1cm3あたり平均して0.01~0.70mlの水溶性物質12(溶解する水を含む)を含有している。
【0015】
本実施の形態では、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ピロリン酸カリウム、過塩素酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、尿素及びチオシアン酸カリウムの群から選択される1種類の物質又は複数種類の物質を、潮解性を有する水溶性物質12として採用している。水溶性物質12の代わりに、安息香酸カリウム、トレハロース、グルコース、スクロース、リン酸アルミニウム、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸、水溶性油のような潮解性を有さない水溶性物質を採用してもよいし、潮解性を有する物質及び潮解性を有さない物質を混合した水溶性物質を採用してもよい。
【0016】
本実施の形態では、水溶物保持粒子13として、ゼオライト、珪藻土、シラスバルーン、カーボンブラック、シリカゲル、モンモリロナイト、カオリナイト、軽石、頁岩、メソポーラスシリカ、多孔質ポリマービーズ、黒鉛、セルロースナノファイバー、コルク及びγアルミナの群から選択される1種類の多孔質粒子又は複数種類の多孔質粒子が採用されている。
本実施の形態では、水溶物保持粒子13の平均粒径(レーザー回析・散乱法による計測)が10nm以上100μm以下であるが、攪拌によって樹脂中に分散する水溶物保持粒子であればよく、平均粒径が10nm未満の水溶物保持粒子や平均粒径が100μmを超える水溶物保持粒子を用いてもよい。
【0017】
樹脂11は硬化性樹脂であればよく、使用用途に応じて、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂(ゴムを含む)、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリイミド等の熱可塑性樹脂、水性型アクリル樹脂、クロロプレンゴム系溶剤型接着剤、水性型スチレンブタジエンゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、ヒドリンゴム、ポリ塩化ビニル等を選択することができる。但し、樹脂11として、水溶性のもの(例えば、カルボキシメチルセルロース)は水溶性物質12と一体となった水と反応して溶解するため好ましくない。
【0018】
次に、本発明の一実施の形態に係る水分含有組成物の製造方法について説明する。水分含有組成物10は、以下の工程S1~工程S6によって製造される。
【0019】
工程S1:未硬化の樹脂11に樹脂11を硬化する硬化剤(シリコーンゴムに対する白金を含む触媒等)を投入する。
ここで、未硬化の樹脂11とは、硬化していない状態の樹脂11を意味し、硬化した状態から硬化していない状態となったものも含む。本実施の形態において、未硬化の樹脂11は液体状、水飴状、ワックス状等である。
【0020】
工程S2:無極性の液体(例えば、ベンゼンやアセトン等の無極性溶媒)を未硬化の樹脂11に混合して混合物を得る(第1工程)。従って、本実施の形態では、硬化剤の未硬化の樹脂11への投入は、第1工程の前になされる。なお、第1工程の後に硬化剤を混合物に投入してもよい。また、硬化剤を用いることなく硬化する樹脂を採用する場合、硬化剤の未硬化の樹脂11又は混合物への投入は行われないのは言うまでもない。
無極性の液体(後述する工程S5の無極性の液体も同様)は、疎水性を有する液体であればよく、無極性分子を有する液体、具体的には、ベンゼン、ヘキサン、灯油、植物油、トルエン、キシレン、酢酸ブチル、アセトン、酢酸エチル等が挙げられる。
【0021】
工程S3:工程S2で得た混合物(以下、単に「混合物」と言う)に粉状の難燃剤(水酸化アルミニウムやリン酸アンモニウム等)を添加し攪拌する。難燃剤を混合物に添加したものの粘度は難燃剤添加前の(難燃剤を添加されていない)混合物の粘度より高くなる。
工程S3のタイミングで粉状の難燃剤を混合物に添加する代わりに、工程S2(第1工程)の前に未硬化の樹脂11に粉状の難燃剤を添加してもよい。また、混合物又は未硬化の樹脂11への難燃剤の添加は必須ではない。
【0022】
工程S4:一部(大半を含む)又は全体が水(水分を含有する溶解液の一例)に溶解した水溶性物質12が付着した水溶物保持粒子13を、難燃剤が添加された混合物に投入して混合する(第2工程)。難燃剤が添加された混合物への水溶物保持粒子13の混合により粘性が上昇する。
ここで、水溶物保持粒子13に付着していない溶解した水溶性物質12が水溶物保持粒子13に付着している溶解した水溶性物質12と共に混合物に投入されないように、水溶物保持粒子13及び溶解状態の水溶性物質12の各量を調整して、溶解状態の水溶性物質12が付着した水溶物保持粒子13を作製している。
【0023】
本実施の形態では、最終的に得られる水分含有組成物10が嵩容積で1cm3あたり平均して0.05~0.80ml(好ましくは、0.30~0.50ml)の水溶物保持粒子13を含むように水溶物保持粒子13の量が決定されている。
なお、水溶性物質12及び水を混合して、水溶性物質12の一部又は全体を水に溶解させる処理は、工程S4の前になせばよく、例えば、工程S1の前になすことができる。
【0024】
工程S5:工程S4により得られたもの(溶解状態の水溶性物質12が付着した水溶物保持粒子13、混合物及び難燃剤を混合したもの)に無極性の液体を投入して混合する。
工程S5は、樹脂11が完全に硬化する前に完了する必要がある。
【0025】
工程S6:工程S5により得られたものを成形し乾燥して硬化させ水分含有組成物10を得る。乾燥処理は室温による自然乾燥でもよいし、加熱装置の加熱による乾燥でもよい。乾燥処理により無極性の液体は揮発する。
【0026】
従って、水分含有組成物の製造方法は、無極性の液体を未硬化の樹脂11に混合して混合物を得る第1工程と、一部又は全体が水に溶解した水溶性物質12が付着した水溶物保持粒子13を混合物に投入して混合する第2工程とを有して、硬化した樹脂11中に水溶性物質12が付着した水溶物保持粒子13が分散した水分含有組成物10を得る方法である。
【0027】
ここで、工程S2において、未硬化の樹脂11に無極性の液体を投入しているのは、工程S4で、混合物に投入された水溶物保持粒子13に付着している水に溶解した水溶性物質12が水溶物保持粒子13に付着していない状態となって樹脂11中に混入するのを抑制するためである。水溶物保持粒子13に付着していない水溶性物質12が樹脂11中に増えると、水分含有組成物10内だけでなく、水分含有組成物10の表面にも水に溶解した水溶性物質12が分布するようになり、水分含有組成物10の表面が水で濡れた状態となる。従って、未硬化の樹脂11への無極性の液体の投入によって、水分含有組成物10の表面が水で濡れた状態となるのを防止することができる。
【0028】
水溶性物質12が潮解性を有し、大気中から水分を吸収する物質である場合、水分含有組成物10の表面に水溶性物質12が分布することによって、水分含有組成物10の表面は常に水滴が付着した状態となり、水分含有組成物10の使用は限定的となる。従って、水溶性物質12が潮解性を有する場合、未硬化の樹脂11への無極性の液体の投入は特に重要である。
【0029】
本実施の形態では、工程S4(第2工程)で混合物に投入される水(水溶性物質12の一部又は全体を溶解している水)、一部又は全体が溶解した水溶性物質12及び水溶物保持粒子13の合計質量は、工程S2(第1工程)で未硬化の樹脂11に混合される無極性の液体の質量の0.1倍以上(好ましくは0.5倍以上、より好ましくは1倍以上)20倍以下(好ましくは15倍以下、より好ましくは10倍以下)である。
【0030】
構成S4で投入される水、水溶性物質12及び水溶物保持粒子13の合計質量が、工程S2で樹脂11に混合される無極性の液体の質量の20倍を超えると、水分含有組成物10の表面が濡れた状態となるのを安定的に防止することはできず、同合計質量が工程S2で樹脂11に混合される無極性の液体の質量の0.1倍未満になると、工程S4において水溶物保持粒子13を混合物に投入した際の粘性の上昇が小さくなり、混合処理により安定的に水溶物保持粒子13を分散させることができなくなる。
【0031】
また、工程S2での無極性の液体の投入は、混合物の粘度を予め下げて、工程S4において水溶物保持粒子13を投入する前の混合物の粘度を調整しておく目的も担っている。
【0032】
工程S5における無極性の液体の投入は、工程S4で得られたものに硬い部分及び柔らかい部分が混在する場合、無極性の液体の投入により全体的に粘性を下げた状態にして混合処理を行えるようにするためである。これによって、工程S5の混合処理後に得られるものに硬度のむらが生じるのを抑制できる。なお、無極性の液体の投入は工程S2の一回のみにすることもできる。
【0033】
ここで、工程S2において無極性の液体を投入しない場合、粘性調整や硬度むらの抑制がなされず、成形及び乾燥を経て製造された水分含有組成物の表面は、無極性の液体を投入して製造された水分含有組成物の表面に比べて、滑らかではなく、粗度が大きくなることを確認した。具体的には、工程S2で無極性の液体を投入して製造された水分含有組成物は、表面のISO4287-1997に準拠した算術平均粗さが20μm以下となり、工程S2で無極性の液体を投入せず製造された水分含有組成物は、同算術平均粗さが20μmを超えた値となることを知得した。
【0034】
工程S2及び工程S5でそれぞれ投入された無極性の液体の揮発によって、硬化した樹脂11には、水分含有組成物10の周囲の空気を水分含有組成物10内に取り込める多数の貫通孔及び穴が形成される。従って、水溶性物質12が潮解性を有する場合、水分含有組成物10は、表面に近い領域に水溶物保持粒子13に付着して分布する水溶性物質12に加えて、それより内側に水溶物保持粒子13に付着して(保持されて)分布する水溶性物質12も大気中から水分を吸収可能となる。
【0035】
また、水溶物保持粒子13は多孔質粒子に限定されないことを実験的検証により確認している。例えば、水溶物保持粒子13として、水酸化アルミニウム粒子、水酸化マグネシウム及び酸化ニッケル粒子を採用可能である。水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムは難燃剤であることから、水溶物保持粒子13に水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウム等の難燃剤を採用することもできる。
【実施例0036】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
<表面濡れ確認>
実施例1~11(本実施の形態に係る水分含有組成物)及び比較例1~5を作製し、それぞれが室内雰囲気で表面が濡れた状態になるか否かを調べた。
【0037】
但し、実施例1~11及び比較例1~5は以下に記す物質を使用して製造した。
[実施例1]
水溶性物質:ピロリン酸カリウム18g
水溶性物質を溶解させる水:水13g
水溶物保持粒子:珪藻土28g
樹脂:シリコーンゴム(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製のELASTOSIL(登録商標) M4503)100g
無極性の液体:塗料用シンナー(三協化学株式会社製の塗料用シンナーA(s))25g
硬化剤:白金を含む触媒4g
難燃剤:水酸化アルミニウム5g
【0038】
[実施例2]
実施例1に対し、水溶性物質が第一リン酸アルミニウム18gであり、水溶性物質を溶解させる水が18gであった点が異なり、その他は実施例1と同じであった。
【0039】
[実施例3]
実施例1に対し、水溶性物質がクエン酸18gであり、水溶性物質を溶解させる水が18gであった点が異なり、その他は実施例1と同じであった。
【0040】
[実施例4]
実施例1に対し、水溶性物質がグルコース18gであり、水溶性物質を溶解させる水が18gであった点が異なり、その他は実施例1と同じであった。
【0041】
[実施例5]
実施例1に対し、水溶性物質が水溶性切削油18gであり、水溶性物質を溶解させる水が水溶性切削油18gに含まれている水(具体的な水の量は不明)であった点が異なり、その他は実施例1と同じであった。
【0042】
[実施例6]
水溶性物質:塩化マグネシウム3.2g
水溶性物質を溶解させる水:水1.3g
水溶物保持粒子:珪藻土3.5g
樹脂(トルエン等の無極性溶媒入り):クロロプレンゴム系溶剤形接着剤(コニシ株式会社製のボンド(登録商標)G17)80g
【0043】
[実施例7]
実施例6に対し、樹脂(無極性溶媒入り)がスチレンブタジエンゴム系溶剤形接着剤(コニシ株式会社製のボンド(登録商標)GPクリア)80gであった点が異なり、その他は実施例6と同じであった。
【0044】
[実施例8]
実施例6に対し、樹脂(無極性溶媒入り)がアクリルゴム系接着剤(セメダイン株式会社製のセメダイン(登録商標)スーパーX)80gであった点が異なり、その他は実施例6と同じであった。
【0045】
[実施例9]
水溶性物質:ピロリン酸カリウム11.6g
水溶性物質を溶解させる水:水8.4g
水溶物保持粒子:酸化ニッケル(キシダ化学株式会社製の製品コード020-54045)30g
樹脂:シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製のKE-26)100g
無極性の液体:塗料用シンナー(三協化学株式会社製の塗料用シンナーA(s))20g
硬化剤:白金を含む触媒4g
【0046】
[実施例10]
実施例9に対し、水溶物保持粒子がカーボンブラック(三菱ケミカル株式会社製のMA100)30gであった点が異なり、その他は実施例9と同じであった。
【0047】
[実施例11]
実施例9に対し、水溶物保持粒子が難燃剤である水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製のB153)28gであった点、ピロリン酸カリウムが12.8であった点及び水溶性物質を溶解させる水が9.2gであった点が異なり、その他は実施例9と同じであった。
【0048】
[比較例1]
実施例1に対し、無極性の液体は不使用であった点が異なり、その他は実施例1と同じであった。
【0049】
[比較例2]
実施例1に対し、水溶性物質のピロリン酸カリウム18gを使用せず、サラダ油18gを使用した点及び水が18gであった点が異なり、その他は実施例1と同じであった。
【0050】
[比較例3]
実施例9に対し、無極性の液体は不使用であった点が異なり、その他は実施例9と同じであった。
【0051】
[比較例4]
実施例10に対し、無極性の液体は不使用であった点が異なり、その他は実施例10と同じであった。
【0052】
[比較例5]
実施例11に対し、無極性の液体は不使用であった点が異なり、その他は実施例11と同じであった。
【0053】
対象物の表面を手で触り表面が水で濡れていると感じなかったものを○とし、対象物の表面を手で触り表面が水で濡れている(比較例2については表面に油が染み出している)と感じたものを×とした実験結果を以下に記す。
実施例1:○、実施例2:○、実施例3:○、実施例4:○、実施例5:○、実施例6:○、実施例7:○、実施例8:○、実施例9:○、実施例10:○、実施例11:○、比較例1:×、比較例2:×、比較例3:×、比較例4:×、比較例5:×
【0054】
比較例2の実験結果は、比較例2を製造する過程でサラダ油が無極性の液体と混ざり合って表面に染み出たことによるものと考えられる。
【0055】
<表面粗度計測実験>
実施例1及び比較例1それぞれの表面について、ISO4287-1997準拠による粗度の計測を行った。
実施例1の計測結果は
図2に示すようになり、算術平均粗さが2.823μmであり、最大高さが24.622μmであった。これに対し、比較例1の計測結果は
図3に示すようになり、算術平均粗さが29.763μmであり、最大高さが139.768μmであった。
【0056】
<重量計測実験>
実験では、実施例1及び比較例1を別の容器に載置し、実施例1及び比較例1の各重量を一日一回計測してそれぞれ重量の変化を調べた。実施例1及び容器を含めた重量を計測し、容器分の重量を引いたものを実施例1の重量とし、この点、比較例1も同様であった。但し、実施例1は容器内に水が溜まらなかったが、比較例1は表面に付着した水滴が容器内に溜まったため、比較例1の重量には容器内に溜まった水も含まれた。
計測結果は
図4に示すようになった。
図4において、湿度は気象庁が公表している該当日の平均湿度を表している。
【0057】
計測結果について、計測4日目より実施例1の重量の増減及び比較例1の重量の増減は同じ傾向となり、湿度の増減から1日程度の遅れをとって増減していることが確認された。計測4日目より実施例1の重量の増減及び比較例1の重量の増減にほぼ差が無いこと、及び、
図4に示す比較例1の重量は実際の比較例1の重量及び容器内に溜まった水の重量の合算であることを考慮すると、実施例1は、比較例1よりも内側に含有した水分量の増減が大きいこと、即ち、実施例1は比較例1に比べて多くの水を吸収できたと考えられる。
なお、計測1日目から3日目まで、比較例1の重量がほぼ変化なしであるのに対し、実施例1の重量が減少し続けているのは、計測1日目から3日目にかけて無極性溶液である塗料用シンナーが蒸発していたことが原因と考えられる。
【0058】
また、実施例1及び比較例1それぞれを載置した容器の重量を含まないようにし、更に、比較例1については表面に付着した水分を拭き取った状態で、実施例1及び比較例1の各重量を一日一回計測した。そして、実施例1及び比較例1それぞれの1日目に計測された重量を0gとして換算し、2日目から5日目のそれぞれの重量変化を比較した。なお、実施例1は重量計測1日目の時点で無極性溶液である塗料用シンナーが十分に蒸発した状態(室内雰囲気で塗料用シンナーのこれ以上の蒸発が無い状態)であった。
計測結果を
図5に示す。計測結果より、実施例1が比較例1より日を追うごとに重くなったことが確認できる。これは、実施例1が比較例1と比較して多くの水を内側に吸収したことによるものと考えられる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、水分含有組成物が1cm3あたりに含有する水溶性物質 (水分を含有する溶解液を含む)の平均嵩容積は0.01ml未満であってもよいし、0.70mlを超えていてもよい。
また、水溶物保持粒子は、金属アルミニウム粒子や水酸化アルミニウム粒子や酸化ニッケル粒子のように多孔質粒子以外の粒子であってもよい。水溶物保持粒子が多孔質粒子以外の粒子の場合、単位重量の水溶物保持粒子が溶解した水溶性物質を大量に保持するという観点において、水溶物保持粒子の平均粒径(レーザー回析・散乱法による計測)は30μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、5μm以下が更に好ましい。