(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144381
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ガラス板の少なくとも1つの側の少なくとも1つの領域に施与されたコーティングを含むガラス板、それを含む複合材、並びにそのようなガラス板を製造するためのペースト
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20241003BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20241003BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C03C27/12 Z
B60J1/00 H
B32B17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024054234
(22)【出願日】2024-03-28
(31)【優先権主張番号】10 2023 107 996.4
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(71)【出願人】
【識別番号】522480388
【氏名又は名称】ショット テクニカル グラス ソリューションズ ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT Technical Glass Solutions GmbH
【住所又は居所原語表記】Otto-Schott-Str. 13, 07745 Jena, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテファニー マンゴルト
(72)【発明者】
【氏名】イヴォンヌ メンケ-ベアク
(72)【発明者】
【氏名】マーティン シュピーア
(72)【発明者】
【氏名】フーベアト ヴィーゼケ
【テーマコード(参考)】
4F100
4G061
【Fターム(参考)】
4F100AA20A
4F100AA20B
4F100AA37B
4F100AG00A
4F100AH06B
4F100AJ06B
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA13B
4F100CA19B
4F100CA23B
4F100DJ00B
4F100GB32
4F100JA02A
4F100JA02B
4F100JK01A
4F100YY00A
4F100YY00B
4G061AA03
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB16
4G061CD03
4G061CD18
4G061DA09
4G061DA14
(57)【要約】
【課題】例えば車両のために使用され得るガラス板、殊に部分的に被覆されたガラス板、並びにそのようなガラス板を含む複合材およびそのようなガラス板を製造するためのペーストを提供する。
【解決手段】SiO2およびB2O3を含むガラスを含むガラス板、殊に車両用の部分的に被覆されたガラス板であって、前記ガラス板の少なくとも1つの側の少なくとも1つの領域に施与されたコーティングを含み、前記少なくとも1つのコーティングがSiO2を含む少なくとも1つの結合剤、少なくとも1つの顔料、および有利には少なくとも1つの充填剤として形成される添加剤を含み、且つ有利には前記ガラス板の少なくとも1つの側上で、施与された少なくとも1つのコーティングを有する少なくとも1つの領域において、少なくとも80且つ最高300MPa、好ましくは少なくとも100且つ最高210MPa、特に好ましくは少なくとも140MPaの曲げ強度を有する前記ガラス板において、前記少なくとも1つのコーティングが、それぞれ質量に対して500ppm未満のBi2O3、および/または500ppm未満のZnO、および/または500ppm未満のB2O3、および/または500ppm未満のアルカリ酸化物を含むことを特徴とする前記ガラス板。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2およびB2O3を含むガラスを含むガラス板、殊に車両用の部分的に被覆されたガラス板であって、前記ガラス板の少なくとも1つの側の少なくとも1つの領域に施与された少なくとも1つのコーティングを含み、前記少なくとも1つのコーティングは、
SiO2を含む少なくとも1つの結合剤、
少なくとも1つの顔料、および
有利には少なくとも1つの充填剤として形成される添加剤
を含み、且つ
有利には、前記ガラス板の少なくとも1つの側上で、施与された少なくとも1つのコーティングを有する少なくとも1つの領域において、少なくとも80且つ最高300MPa、好ましくは少なくとも100且つ最高210MPa、特に好ましくは少なくとも140MPaの曲げ強度を有する前記ガラス板において、
前記少なくとも1つのコーティングが、それぞれ質量に対して500ppm未満のBi2O3、および/または500ppm未満のZnO、および/または500ppm未満のB2O3、および/または500ppm未満のアルカリ酸化物を含むことを特徴とする、前記ガラス板。
【請求項2】
前記少なくとも1つのコーティングが1つの結合剤のみを含む、請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
前記結合剤がゾルゲル結合剤として形成されている、請求項1または2に記載のガラス板。
【請求項4】
少なくとも1つの以下の特徴:
・ 前記ガラス板の少なくとも1つの側の少なくとも1つの部分領域または前記少なくとも1つの領域全体において、ガラス板上でさらなるコーティング、好ましくはガラスに基づくコーティング、殊にエナメルコーティングが配置されていること、
・ 前記少なくとも1つのコーティングが少なくとも15質量%且つ最高55質量%、有利には少なくとも20質量%、特に好ましくは少なくとも25質量%の結合剤を含むこと、
・ 前記少なくとも1つのコーティングが、前記少なくとも1つのコーティングに含まれる全ての顔料の合計に対して少なくとも20質量%且つ最高30質量%の顔料を含むこと、
・ 前記ガラス板のガラスが2×10-6/K~6×10-6/Kの線熱膨張係数を有すること、
・ 前記ガラス板のガラスが少なくとも60質量%のSiO2~最高85質量%のSiO2、および/または少なくとも7質量%のB2O3~最高26質量%のB2O3を含むこと、
・ 前記少なくとも1つのコーティングが少なくとも3×10-6/K且つ最高10×10-6/K、好ましくは9×10-6/K未満の線熱膨張係数を有すること、
・ 前記ガラス板が少なくとも1mm且つ最高12mmの厚さを有すること、
を有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載のガラス板。
【請求項5】
前記少なくとも1つのコーティングが微孔質に形成され、且つ/または最高でも1μmの最大側方寸法、例えば直径を有する孔を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載のガラス板。
【請求項6】
ガラス板、有利には請求項1から5までのいずれか1項に記載のガラス板上にコーティングを製造するためのペーストであって、
・ SiO2を含む少なくとも1つの結合剤、
・ 少なくとも1つの顔料、
・ 少なくとも1つの媒体、および
・ 有利には少なくとも1つの充填剤として形成される添加剤
を含む前記ペーストにおいて、前記結合剤が、それぞれ質量に対して500ppm未満のBi2O3、および/または500ppm未満のZnO、および/または500ppm未満のB2O3、および/または500ppm未満のアルカリ酸化物を含むことを特徴とする、前記ペースト。
【請求項7】
前記SiO2を含む結合剤が、少なくとも1つの半有機の酸化ケイ素前駆体相の加水分解および縮合によって架橋された少なくとも1つのSiO2相を含むゾルゲル結合剤として形成されており、半有機の酸化ケイ素前駆体相とは、ケイ素原子に直接的に、または酸素ブリッジ原子を介して有機基、殊にアルキル基が結合されているケイ素化合物と理解される、請求項6に記載のペースト。
【請求項8】
少なくとも1つの充填剤を含み、充填剤はシリカ、有利には熱分解法シリカ、または潤滑剤、グラファイトであるかまたはそれを含み、且つ、充填剤が潤滑剤として存在する場合には、顔料の潤滑剤に対する比が、ペーストに含まれる顔料の合計と潤滑剤として形成される充填剤の合計との総質量に対して、それぞれの構成要素の質量割合に対してそれぞれ、20超:1、有利には30超:1、および殊に有利には40超:1である、請求項6または7に記載のペースト。
【請求項9】
少なくとも1つの以下の特徴:
・ 前記ペーストが、ペーストの総質量に対して、且つペーストに含まれる顔料の合計に対して、少なくとも15質量%且つ最高30質量%の顔料、有利には少なくとも20質量%の顔料を含むこと、
・ 前記ペーストが、ペーストの総質量に対して、少なくとも8質量%且つ最高20質量%の結合剤を含むこと、
・ 前記ペーストが、ペーストの総質量に対して、且つペーストに含まれる添加剤、有利には充填剤の合計に対して、少なくとも10質量%且つ最高40質量%の添加剤、有利には充填剤を含むこと、
・ 前記ペーストが、線熱膨張係数-10×10-6/K~+10×10-6/Kを有する充填剤、殊に有利には、好ましい熱分解法シリカおよび/またはグラファイトである充填剤を含むこと、
・ 前記ペーストが、50質量%までの溶剤、有利には少なくとも130℃且つ好ましくは最高330℃の沸点を有する高沸点溶剤を含むこと、
を有する、請求項6から8までのいずれか1項に記載のペースト。
【請求項10】
セルロース、有利にはエチルセルロースを、ペーストの総質量に対して有利には0.1質量%~1質量%の含有率で含む、請求項6から9までのいずれか1項に記載のペースト。
【請求項11】
請求項1から5までのいずれか1項に記載のガラス板、並びにさらなるガラス板を含む複合材であって、有利には前記ガラス板の間に少なくとも1つのコーティングが配置されている、前記複合材。
【請求項12】
ガラス板、有利には請求項1から5までのいずれか1項に記載のガラス板の製造方法であって、ガラス板の少なくとも1つの側上で、少なくとも1つの領域に少なくとも1つのコーティングが存在するように、ペースト、有利には請求項6から10までのいずれか1項に記載のペーストを前記少なくとも1つの領域に施与して焼き付ける、前記方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、且つ/または請求項6から10までのいずれか1項に記載のペーストを使用して製造されるかまたは製造可能なガラス板、有利には請求項1から5までのいずれか1項に記載のガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、ガラス板、例えば車両のために使用され得る、殊に部分的に被覆されたガラス板、並びにそのようなガラス板を含む複合材およびそのようなガラス板を製造するためのペーストに関する。その際、前記ガラス板はSiO2およびB2O3を含むガラスを含む。従って殊に、本開示はホウケイ酸ガラスからなるかまたはそれを含むガラス板にも関する。
【背景技術】
【0002】
殊に少なくとも部分的に被覆されている、ホウケイ酸ガラスからなるかまたはそれを含むガラス板は、既に長らく知られており、例えばオーブンの扉におけるオーブンの視界窓として用いられている。ここでホウケイ酸ガラスの利点は、従来のソーダ石灰ガラスに比した耐熱性であり、従って例えば熱分解オーブン用のオーブンの視界窓はそのようなホウケイ酸ガラス板を含むことが多い。そのようなホウケイ酸ガラス板を、例えばクックプレートまたは調理面とも称され得る調理器具用のカバープレートとして使用することもできる。
【0003】
しかし、ホウケイ酸ガラスは他の用途のためにも有利であることができ、なぜならそのようなガラスは、公知のソーダ石灰ガラスに対して、例えばひっかき強度もしくは一般に機械的耐性、並びに化学的耐久性に関する固有の利点を有するからである。従って、そのようなホウケイ酸ガラス板はフロントガラスにおいてもますます用いられている。
【0004】
車両の外装のガラスにおいて、例えばホウケイ酸ガラス、例えば商品名Borofloat(登録商標)として市販されているものが用いられることが知られている。そのようなガラスは例えば、貼り合わせガラスのために非常に良く適しており、可視光の範囲における非常に高い透過率を特徴とする。さらに、そのようなホウケイ酸ガラスは非常に良好な耐熱性、高い化学的耐久性、および良好な機械的強度を有する。
【0005】
例えば、国際特許出願第2015/059406号(WO2015/059406 A)は貼り合わせられたガラス板を記載している。この板の1つ、例えば外側の板が例えばホウケイ酸ガラスを含み得る。
【0006】
国際特許出願第2017/157660号(WO2017/157660 A1)は、ヘッドアップディスプレイ用の複層ガラス板を記載している。ここでも、複層ガラスの板の1つがホウケイ酸ガラスを含み得る。
【0007】
コロンビア国出願公開第2017/0005596号明細書(CO2017/0005596 A1)も、高い耐性を有する自動車用ガラス板を記載している。
【0008】
国際特許出願第2019/130285号(WO2019/130285 A1)は、摩耗および環境の影響に対する高い耐性を有する貼り合わせ体を記載している。
【0009】
最後に、国際特許出願第2018/122769号(WO2018/122769 A1)は、高い破壊強度を有する貼り合わせ体を記載している。
【0010】
車両の乗員の安全性のため、フロントガラスは複層ガラス板として形成され、縁部領域に通常はコーティングを有する。このコーティングは、一方では例えば接着部または部品、例えばアンテナを光学的に隠すために役立ち、他方ではUV光線に対する保護のために役立つ。通常、このフレームは複合材の両方のガラス板の間に配置されている。該複合材は、両方のガラス板の間に、それらのガラス板を互いに結合するポリマー層、つまりポリマーを含むか、またはポリマーからなる層をさらに含む。ガラス板は、殊に縁部領域における少なくとも1つの領域においてそれらの間に配置されたコーティングと共に互いに重ね合わせられて、熱間成形プロセスにおいて曲げられる。引き続き、両方の板の間のポリマー層が施与され、それが曲げられたガラス板を互いに結合することにより、最終的に複層ガラス板(本開示の範囲においては単に「複合材」とも称される)が得られる。
【0011】
従って、そのような複合材に含まれるガラス板には多くの要件が課される。曲げプロセスは熱的に行われるので、ガラス板およびその上に施与されるコーティングはこの温度に耐えられなければならない。ガラス板およびコーティングは、安定な複合材が形成され且つガラスとポリマーとの間での剥離が生じないような形でポリマー層と結合を形成できなければならない。最後に、フロントガラスの縁部領域に配置されている部品が邪魔に見えないように、コーティングが充分な光学的な密閉性を有する必要がある。これはドライバーの気が散ることを防ぎ、運転の安全性を高める。コーティングの微細なクラックまたは他の欠陥も、できれば回避されるか、または少なくとも最小化されるべきである。
【0012】
しかしながら、ガラスおよびコーティングの温度耐性、複合材を形成するためのガラスもしくはコーティングとポリマー材料との上記の適合性、光学濃度、および生じ得る欠陥の最小化の他に、被覆されたガラス板の、例えば破壊強度によって特徴付けられる機械的強度も役割を果たす。ここで、コーティング、特に高付着性コーティングが、ガラス板の強度を損なうことがあることが知られている。特に高付着性コーティング、例えばガラスに基づくコーティングはここで、機械的強度、例えば破壊強度または曲げ強度を決定的に低下させることがある。これは原則的に全てのガラス基材に該当するが、基材、つまりここではガラス板が、ホウケイ酸ガラス板の場合のように小さい膨張係数を有する場合によりいっそう該当する。なぜならここで、例えば公知のセラミック塗料を使用する場合、コーティングと基材との膨張係数における違いが生じ、それが、被覆されたガラス板の観察される強度損失についての原因とみなされるからである。
【0013】
ガラス上のいわゆるゾルゲルコーティングまたはゾルゲル層も既に長らく知られている。
【0014】
そのようなゾルゲル層は、最初の市販の用途において、殊に光学的に有効なコーティング系をガラス上に製造するために役立つ薄い酸化層として形成され(例えば市販製品のAmiran(登録商標)、Conturan(登録商標)、およびMirogard(登録商標))、粒子に基づく、または粒子のコーティングの結合剤としてのゾルゲル材料の可能性もますます明らかになった。
【0015】
例えば、独国実用新案第20 2008 003 804号明細書(DE20 2008 003 804 U1)は、ガラス複合材のためのゾルゲルコーティングを記載している。例えば、該コーティングは、多孔質のゾルゲルに基づく単層として形成されることができるか、または該コーティングは、異なる屈折率を有する層の多層系として構築され得る。独国実用新案第20 2008 003 804号明細書によるコーティングは、顔料を含まず、複合材系を通じた光束の改善に明らかに役立ち、殊に単層の形態では反射防止層として理解され得る。独国実用新案第20 2008 003 804号明細書によるガラス複合材が2枚の板の複合材である場合、ゾルゲル層はさらに、外に向いている板の側、つまり複合材のさらなる板と離れている側にも配置される。
【0016】
米国特許出願公開第2013/0266781号明細書(US2013/0266781 A1)は、ゾルゲルベースの結合剤を用いて得られる着色コーティングのコーティング構造を記載している。そのコーティング構造は2つのコーティングを含み、その中の1つの、通常は色を与える、且つ基材上に直接配置されたコーティングが、ゾルゲルベースの結合剤を有する着色コーティングである。この少なくとも1つのコーティングは、流体の通過に対して多孔質に形成されているので、シリコーン結合剤を有するさらなる着色コーティングが封止層として少なくとも1つのコーティング上に施与される。それによって、例えば調理面として使用するための、装飾コーティング系を備えたガラスまたはガラス物品が得られる。複数の板からの複合材には取り組まれていない。
【0017】
米国特許出願公開第2009/0233082号明細書(US2009/0233082 A2)は、装飾コーティングを備えたガラスまたはガラスセラミック物品を記載している。装飾コーティングは、少なくとも1つの装飾顔料を含み、且つゾルゲル結合剤を含み、コーティングの硬化および焼き付け後に装飾コーティングのセラミック質の構造が得られる。従って、コーティングは、高い割合の顔料、殊に、質量に対して結合剤よりも明らかに多くの顔料を含む。複合材は記載されていない。
【0018】
仏国特許出願公開第3084355号明細書(FR3084355 A1)は、エナメル層が多孔質に形成されている、エナメル加工された基材記載している。多孔質エナメル層に加えて、基材はなおもさらなる層、例えば、ケイ素に基づく多孔質ゾルゲルコーティングを有することがあり、それは透明な機能層として形成され、従って顔料を含まない。
【0019】
米国特許出願公開第2015/0225285号明細書(US2015/0225285 A2)は、ガラス上への印刷方法を記載している。この場合、ガラス基材はまず付着促進剤で被覆され、その後すぐ、1つまたは複数の層がインクを用いて印刷される。この印刷後、単数または複数のコーティングが硬化され得る。さらに、このコーティング上にさらなる層を施与し、例えばフィルムを貼り合わせることも可能である。2枚のガラス板を含む複合板は記載されておらず、着色されたゾルゲルに基づくコーティングも記載されていない。
【0020】
米国特許出願公開第2010/0047556号明細書(US2010/0047556 A2)は、ガラスまたはガラスセラミック物品用の装飾コーティングを記載している。該装飾コーティングは小板状の顔料の他に固体の潤滑剤を含み、顔料対潤滑剤の質量比は10:1~1:1である。その物品の用途は殊に、いわゆるクックトップに関する。複層ガラス板には取り組まれていない。
【0021】
米国特許出願公開第2010/0028629号明細書(US2010/0028629 A2)も、装飾コーティングを有するガラスまたはガラスセラミック物品を記載している。コーティングは2つのコーティング層を含み、そのうち基材に施与される層(封止層とも称される)は小板状の顔料の他に固体の潤滑剤を有し、顔料対潤滑剤の質量比は10:1~1:1である。その物品の用途は殊に、いわゆるクックトップに関する。複層ガラス板には取り組まれていない。
【0022】
最後に、欧州特許出願公開第3830046号明細書(EP3830046 A1)は、エナメル層が多孔質に形成されている、エナメル加工された基材記載している。多孔質エナメル層に加えて、基材はなおもさらなる層、例えば、ケイ素に基づく多孔質ゾルゲルコーティングを有し、それは透明な機能層として形成され、従って顔料を含まない。ゾルゲル層は殊に、1.3以下の低い屈折率を有する多孔質の反射防止作用のコーティングとして形成され得る。
【0023】
先述のゾルゲル層は、貼り合わせ体における用途、殊に貼り合わせ体の中間層としての配置について考えられていないか、または着色されずに形成されているかのいずれかである。高い強度を有する複合板にも取り組まれていない。
【0024】
従って、従来技術の上記の弱点を少なくとも軽減する、被覆されたガラス板が必要とされている。そのようなガラス板を製造するためのペースト、およびそのような被覆されたガラス板を含む板複合材も必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】国際特許出願第2015/059406号
【特許文献2】国際特許出願第2017/157660号
【特許文献3】コロンビア国出願公開第2017/0005596号明細書
【特許文献4】国際特許出願第2019/130285号
【特許文献5】国際特許出願第2018/122769号
【特許文献6】独国実用新案第20 2008 003 804号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2013/0266781号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2009/0233082号明細書
【特許文献9】仏国特許出願公開第3084355号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2015/0225285号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2010/0047556号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2010/0028629号明細書
【特許文献13】欧州特許出願公開第3830046号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明の課題は、従来技術の上記の弱点を少なくとも部分的に克服するかまたは少なくとも軽減する、ガラス板、殊に車両用の部分的に被覆されたガラス板、そのようなガラス板を製造するためのペースト、およびそのようなガラス板を含む複合材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
発明の概要
本発明の課題は、独立請求項の対象によって解決される。好ましい実施態様および特定の実施態様は、本開示の明細書、図面、および従属請求項において明らかになる。
【0028】
従って、本開示は一般にガラス板、殊に部分的に被覆されたガラス板、例えば車両用の部分的に被覆されたガラス板に関する。前記ガラス板は一般に、SiO2およびB2O3を含むガラスを含み、つまりホウケイ酸ガラス板として形成され、並びに前記ガラス板の少なくとも1つの側の少なくとも1つの領域に施与される少なくとも1つのコーティングを含む。少なくとも1つのコーティングは、SiO2を含む少なくとも1つの結合剤および少なくとも1つの顔料、並びに有利には充填剤として形成される少なくとも1つの添加剤を含む。少なくとも1つのコーティングは、それぞれ質量に対して500ppm未満のBi2O3、および/または500ppm未満のZnOを含む。
【0029】
この構成は多くの利点を有する。
【0030】
従って有利には、前記ガラス板は、前記ガラス板の少なくとも1つの側上で施与された少なくとも1つのコーティングを有する少なくとも1つの領域において、少なくとも80且つ最高300MPa、好ましくは少なくとも100且つ最高210MPa、特に好ましくは少なくとも140MPaの曲げ強度を有する。
【0031】
一般に、この強度の値はガラス板全体に該当し、つまり例えば完全に被覆されていないガラス板においても特定され得る。ただし、本開示によって記載されるようなコーティングを有する実施態様によるガラス板の場合、この非常に良好な強度は、被覆された領域においても得られることが判明している。
【0032】
SiO2およびB2O3を含むガラスを含む被覆されたガラス板、つまり換言すれば被覆されたホウケイ酸ガラス板のこの非常に良好な強度は、SiO2を含む結合剤と共に、ここでもそれぞれ質量に対して500ppm未満のBi2O3および/または500ppm未満のZnO、および/またはそれぞれ質量に対して500ppm未満のB2O3および/または500ppm未満のアルカリ酸化物を含む、少なくとも1つのコーティングの構成から有利にもたらされる。これはコーティングの特別な構成によるものであり、つまり、好ましい実施態様によればゾルゲルコーティングとして構成されている。
【0033】
従って、本開示によれば、ガラスに基づくコーティング、つまり無機のアモルファスの(殊にX線でアモルファスの)結合剤を有するコーティングの利点と、得られる被覆されたガラス板の良好な強度とを、容易に結びつけることができる。得られる被覆されたガラス板の良好な強度、殊に曲げ強度において示される、有利には先述の制限内で存在する強度は、殊に、存在する少なくとも1つのコーティングがSiO2を含むにもかかわらず、ガラスフラックス(glasfluss)に基づくコーティングとしては形成されておらず、従って殊にガラスフラックスに基づくコーティングに比してあまり高くない温度で硬化もしくは焼き付けられ得ること、有利には硬化もしくは焼き付けられることからもたらされる。例えば、実施態様によるコーティングの場合、400℃までの温度、例えば約380℃の温度が焼き付けのために充分である。これは、コーティングと基材、つまりここではガラス板との間に生じ、強度の低下に寄与することがある熱膨張係数における違いに鑑みて殊に有利である。ガラスフラックスに基づくコーティングはたしかに、使用されるガラスフラックスの正確な組成に応じて、高い耐熱性、機械的耐性および/または化学的耐久性を有するガラスに基づくコーティングの利点も提供するのだが、高温で焼き付けられなければならず、その際、ガラスフラックス自体が溶融するだけでなく、ガラス基材の表面の一部も少なくとも溶融するので、いわゆる「溶融反応領域」が形成される。その溶融プロセスは本開示による少なくとも1つのコーティングの硬化/焼き付けよりもエネルギーを多く消費するだけでなく、ガラス板の表面のこの溶融によって、被覆されたガラス板の強度がその出発強度に対して低下もする。
【0034】
従って、本開示の実施態様によるコーティングの低い焼き付け温度は、ガラスフラックスに基づくコーティングの焼き付け温度に比して有利であり、なぜなら、実施態様によるガラス板が用いられ得る複合材のためによくある曲げプロセスは、通常、コーティングの焼き付け温度に従うのではなく、基材および基材のTg(ガラスの変換温度、ガラス転位温度)のみに依存するからである。
【0035】
高い焼き付け温度の問題に取り組み、且つ/またはその熱膨張係数がかなり低膨張のガラス、例えばホウケイ酸ガラスに良好に適合されている多くのガラスフラックス、殊にBi2O3またはZnOに基づくガラスフラックスはたしかに存在する。それにもかかわらず、この場合にも、ガラス表面の部分的な溶融から生じる固有の強度低下は残ったままである。
【0036】
この問題は、コーティングがSiO2を含む結合剤を含むがガラスフラックスではない、本開示による少なくとも1つのコーティングによって取り組まれ得る。実施態様によれば、本開示による結合剤は、殊にゾルゲル結合剤であり、殊にSiO2に基づく結合剤であることができ、従って大部分、つまり50質量%より多く、有利には90質量%より多くがSiO2から形成される結合剤を有するコーティングが得られる。前記少なくとも1つのコーティングは一般に、ガラスフラックスについて特徴的な成分であるZnOおよびBi2O3を、質量に対してそれぞれ500ppm未満有する。それにもかかわらず、そのようなコーティングを用いて、ガラスに基づくコーティングの有利な特性、殊に良好な耐熱性および化学的耐久性と共に、被覆されたガラスの良好な機械的強度を得ることができる。
【0037】
(被覆された)ガラス板の曲げ強度は、被覆された領域において有利には、被覆されていないガラス板の曲げ強度の少なくとも50%である。機械的強度、例えば曲げ強度は統計的な値であるので、ここで、当然のことながら、同じ板が曲げ強度に関してコーティング前後で調査されたのではなく、上記の記載はむしろ、同じ組成および構成の被覆されていないガラス板と被覆されたガラス板とにおいて実施された調査に関する。本開示の範囲において曲げ強度とは、ダブルリング曲げ引張強度とも称されるガラス板の強度と理解され、それぞれDIN 1288-5に準拠して特定された。本開示の範囲において、それぞれ算術平均が強度値として示される。
【0038】
一般に、SiO2を含むとして結合剤を構成することが有利である。このようにして一般に、結合剤の良好な化学的耐久性および耐熱性が可能になる。一般にそのような結合剤は、シリコーン、ポリシロキサン、ポリシルセスキオキサン、またはシロキサンの部分加水分解物、およびそれらの混合物であるか、またはそれらを含むことができる。挙げられた結合剤はこの文書においてはゾルゲル結合剤との上位語に要約される。これらの結合剤もしくはその前駆体材料(前駆体)が有機成分を含む場合、これは硬化、および場合によっては熱焼き付け後に、得られるコーティング中に残留することがあるが、前駆体材料の正確な組成およびそれぞれの焼き付けプロセスに応じて、大部分は燃え尽き得る。
【0039】
本開示の実施態様によるそのようなコーティングの良好な化学的耐久性は、ホウケイ酸ガラス板のためのガラスフラックスに基づくコーティングの通常の構成要素であり且つ可能な限り低い融点(および相応して可能な限り低い焼き付け温度)を達成するために役立つさらなる成分におけるコーティングが、実施態様による少なくとも1つのコーティングには含まれていないことからももたらされる。
【0040】
従って、本開示によれば、少なくとも1つのコーティングは代替的または追加的に500ppm未満のアルカリ酸化物を含む。アルカリ酸化物とは、本開示においてはアルカリ金属の酸化物と理解される。殊に実施態様によるコーティングは500ppm未満のNa2Oおよび/またはK2Oおよび/またはLi2Oを含む。ここで、ppmでの記述は一般に本開示の範囲において常に質量に対する。
【0041】
代替的または追加的に、本開示による少なくとも1つのコーティングは500ppm未満のB2O3を含む。B2O3はホウケイ酸ガラスからなるかまたはそれを含む板のためのガラスフラックス中で使用されることが多い成分であり、殊にガラスフラックスの溶融温度の低下および/または得られるコーティングの可能な限り小さい熱膨張に寄与するために使用される。従って、この成分が不在であることは、ガラスに基づくが、ガラスフラックスには基づかないコーティングとしての、少なくとも1つのコーティングの形成を強調する。
【0042】
本開示の好ましい実施態様によれば、少なくとも1つのコーティングはゾルゲルコーティングとして形成される。ゾルゲル結合剤とは一般に、少なくとも1つの構成要素が、有機ケイ素前駆体からの加水分解-縮合反応によって、例えば、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)などの化合物、または近いかまたは類似の化合物の酸触媒加水分解および縮合によって得られる構成要素である結合剤と理解され、ここでそのような結合剤の製造に際しては多くのバリエーションがあり、異なる前駆体の混合物、例えば大部分は無機の、粒子に基づくゾルの添加、またはいわゆるポリシロキサンおよび/またはシリコーンの添加も可能であり、それらはこの開示の範囲においては全て「ゾルゲル結合剤」との大きな概念に組み込まれる。
【0043】
SiO2からなるかまたはそれを含むゾルゲル結合剤の利点は、配合における柔軟性が大きいことだけでなく、種々の組成のガラスおよびガラスセラミックなどのガラス質基材との適合性が良好なことでもある。小さい熱膨張係数を有するガラスまたはガラスセラミック基材にとって特に、そのような結合剤は有利であることができ、なぜなら、このようにして、コーティング、例えば本開示によるガラス板の少なくとも1つのコーティングの良好な結合がもたらされるだけでなく、結合剤としてのSiO2によって、コーティングの小さい線熱膨張係数を得ることもできるからである。
【0044】
従って、少なくとも1つのコーティングがゾルゲル結合剤を含む場合が特に有利であることもでき、なぜなら、このようにして、例えば450℃未満またはさらに低い、例えば400℃以下の比較的低い焼き付け温度が、少なくとも1つのコーティングの焼き付けのために充分であることが確実になるからである。
【0045】
このようにしてガラス板が非常に高い曲げ強度を有することが容易に可能になり、それは例えば従来のガラスに基づく、殊にエナメル層では、状況によってはシリコーンに基づくコーティングでも実現され得ない。このために、ゾルゲル結合剤を含む少なくとも1つのコーティングと、SiO2およびB2O3を含むガラス板との組み合わせも有利である。先述のとおり、ガラス板はいわゆるホウケイ酸ガラスを含むか、またはホウケイ酸ガラスであり、換言すれば、ホウケイ酸ガラス板として形成される。この種類のガラス材料(または略してガラス)は化学的に非常に耐性のある材料であり、機械的にも耐性があり、且つ従来のガラス、例えばソーダ石灰ガラスに比して良好な耐熱性、および予め応力を与えられていない状態であっても既に良好な機械的強度を有する。そのようなホウケイ酸ガラスのひっかき強度がソーダ石灰ガラスよりも高いことも判明している。実施態様による少なくとも1つのコーティングと共に、ガラス板の既に良好な強度が維持されるか、もしくは有利には促進され、場合によりさらに改善すらされ得る。
【0046】
一般に、コーティングが複数の結合剤を含む、つまり例えばハイブリッドに形成されることが可能である。例えば、ゾルゲル成分の他に、ガラスフラックスに基づく成分または有機のポリマーに基づく成分を含むコーティングが知られている。これは例えば、特定の特性が1つの結合剤だけでは達成され得ず、例えば得られるコーティングの充分な密閉性を調節するために、有機成分および追加されるさらなる結合剤の形態が必要である場合に必要となり得る。
【0047】
しかしながらこれは本開示の好ましい実施態様によれば想定されていない。この好ましい実施態様によればむしろ、少なくとも1つのコーティングが唯一の結合剤、有利にはゾルゲル結合剤として形成される1つの結合剤のみを含むことが想定されている。
【0048】
実施態様によれば、少なくとも1つのコーティングでのガラス板の少なくとも1つの側の面積被覆率は、板の少なくとも1つのコーティングが施与されている側の全表面積の少なくとも10%且つ最高80%、好ましくは少なくとも15%且つ最高65%である。しかし、さらなる実施態様によれば、一般に、少なくとも1つのコーティングでの全面的な被覆、または80%を上回る被覆率、例えば90%または95%も可能である。これは殊に、ガラス板および/またはそこから製造された複合材が視界窓ではなく、カバー板として用いられる用途のために推奨される。
【0049】
板とは、本開示の範囲において一般に、板状の成形体と理解される。ガラス板(被覆されていても被覆されていなくてもよい)は、ガラスを含む、もしくはガラスからなる板である。成形体は、直交座標系の1つの空間方向におけるその空間寸法が、直交座標系の第1の空間方向に対して垂直な両方のさらなる空間方向における空間寸法よりも少なくとも1桁小さい場合、板状である。換言すれば、成形体の厚さは、その長さおよび幅よりも少なくとも1桁小さい。板の両方の主面または主表面、つまりその大きさが長さおよび幅によって決定される面は、本開示の範囲において略して単に側と称される。
【0050】
さらなる実施態様によれば、少なくとも1つのコーティングが配置されている、ガラス板の少なくとも1つの領域における可視透過率τvisは、最高10%、好ましくは最高7%、および特に好ましくは最高5%、とりわけ特に好ましくは最高1%である。実施態様によれば、τvisは少なくとも0.01%、好ましくは少なくとも0.05%、且つ好ましくは最大0.3%である。これらの値はここで、少なくとも1つのコーティングがガラス板を全面的に覆う領域に関する。
【0051】
少なくとも1つのコーティングは、少なくとも1つの領域を覆って、つまりその領域に関して「全面的に」、つまりコーティングが途切れることなく、ガラス板に施与されることができるが、例えばいわゆるドットパターンの形態で配置されることもできる。それらのバリエーションの組み合わせも可能である。例えば、全面的な、つまりコーティングが途切れることなくガラス板上に配置されたコーティングが、そのコーティングの縁部領域において、通常はガラス板の中心に向かって、ドットパターンに移行することも可能である。これは例えば、少なくとも1つのコーティングの通常の構成であり、つまりこの場合、車両のフロントガラスにおいて用いられるガラス板のために、ガラス板上で構造化されて配置される。
【0052】
さらなる実施態様によれば、ガラス板は、ガラス板の少なくとも1つの側の少なくとも1つの部分領域または前記少なくとも1つの領域全体において、さらなるコーティング、好ましくはガラスに基づくコーティング、殊にエナメルコーティングがガラス板上に配置されるように構成される。
【0053】
そのような構成は、ゾルゲルコーティングの利点が少なくとも1つのコーティングを用いて実現されるべきであると共に、エナメルコーティングの利点も望まれる場合に有利であることがある。従って特に、層構造全体の特に良好な引っかき強度が必要であり且つ/または望まれる実施態様について、少なくとも1つの特にゾルゲル層として形成されるコーティング上にさらなるコーティング、例えばエナメルコーティングが施与されることが有利であることがある。この場合、最初に施与される少なくとも1つのコーティングは中間層として役立ち、且つエナメルコーティングをガラス基板から切り離すので、ガラス板についての非常に良好な強度値はまだ保持されている。同時に、さらなるコーティングは、少なくとも1つの、最初に施与されたコーティングを覆う領域においてカバー層として役立つので、例えば層構造全体の引っかき強度および摩耗強度を本質的に改善することができる。
【0054】
さらなる実施態様によれば、少なくとも1つのコーティングは少なくとも15質量%且つ最高55質量%、有利には少なくとも20質量%、特に好ましくは少なくとも25質量%の結合剤を含む。これは有利であり、なぜならこのようにして、少なくとも1つのコーティングの良好な機械的耐性並びに良好なカバー作用と、被覆されたガラス板の充分な強度との間の最適な歩み寄りが達成されるからである。
【0055】
さらなる実施態様によれば、少なくとも1つのコーティングは、少なくとも1つのコーティングに含まれる全ての顔料の合計に対して少なくとも15質量%且つ最高30質量%の顔料を含む。これは有利であり、なぜなら、このようにして少なくとも1つのコーティングの良好なカバー作用が、特に単層構造、つまり少なくとも1つのコーティングだけが少なくとも部分的にガラス板上に配置されている構造においても達成可能であるからである。
【0056】
コーティングの残部は一般に充填剤、例えばSiO2からなるかまたそれ含むナノ粒子充填剤、または他の充填剤、例えば本開示の範囲に記載されるようなもので形成される。ただし、その際、特にSiO2に基づく充填剤は検出が困難であり、なぜならそれは結合剤のマトリックスと、特にゾルゲル結合剤のマトリックスと良好に結合するからである。
【0057】
その際、少なくとも1つのコーティングは一般に1つだけの顔料を含み得る。顔料とは、本開示の範囲においては一般に、特定の色および/または特定の光学的な印象、例えばいわゆる「メタリック」効果を与える色素、殊にセラミック色素と理解される。従って、顔料との用語には、本願の範囲においては一般に、いわゆる純粋な有色顔料、殊にいわゆるセラミック顔料、有利には酸化物顔料が含まれる。例えばスピネル構造を有する酸化物の混合酸化物顔料がとりわけ特に好ましいことがある。さらに、本開示の範囲における顔料との用語には、例えば雲母に基づくいわゆる効果顔料、並びにその他の効果顔料、殊に酸化物材料製の小板状基材または雲母に基づき被覆されて存在する効果顔料も含まれる。本願の範囲において一般に、コーティング、例えば実施態様による少なくとも1つのコーティング、またはペースト、例えば実施態様によるペーストは顔料を含むという記述は、それが粒子状の色素を含む、つまり粒子を含み、これらの粒子が相応の顔料の組成を有することを意味する。つまり、本開示の範囲においてコーティングまたはペーストが複数の顔料を含むと言われる場合は、そのコーティングおよび/またはペーストが異なる組成の顔料粒子を、即ちコーティングおよび/またはペーストに含まれる顔料の組成に相応して含むと理解される。
【0058】
少なくとも1つのコーティングは唯一の顔料のみを含み得る。しかし、少なくとも1つのコーティングが複数の顔料を含むことも可能であり且つ好ましいこともある。例えば、場合により、使用される顔料の色位置におけるバッチに起因する変動を慣例的に補償できるように、少なくとも1つのコーティングが白色顔料並びに黒色顔料を含むことが想定され得る。有利には、少なくとも1つのコーティングはさらなる顔料、例えば効果顔料を含んでもよく、なぜならそのような効果顔料は小板に基づくことが多く、コーティングの特性、例えばその滑らかさ/表面状態、ひいてはその機械的強度、例えば引っかき耐性および耐摩耗性に有利に影響できるからである。
【0059】
実施態様によれば、ガラス板のガラス、つまり実施態様によればガラス板に含まれるホウケイ酸ガラスは、2×10-6/K~6×10-6/Kの線熱膨張係数を有する。つまり、この場合、それは従来のソーダ石灰ガラスに比して比較的小さい熱膨張を有するガラスである。このようにして、公知の低膨張ホウケイ酸ガラスの1つからガラス板を構成することも可能である。従ってこれは殊に有利であり、なぜならこのホウケイ酸ガラスは既にかなり高いガラス強度を本質的に備えているからである。さらに、そのようなガラスはかなり良好な耐熱性を有し且つ化学的にかなり耐性がある。
【0060】
さらなる実施態様によれば、ガラス板のガラスは少なくとも60質量%のSiO2~最高85質量%のSiO2、および/または少なくとも7質量%のB2O3~最高26質量%のB2O3を含む。そのようなガラスは良好に溶融可能であると共に、例えば従来のソーダ石灰ガラスに比して改善された化学的耐久性、硬さおよび強度を有する。従ってそれらは、特に機械的に応力がかかる領域において、殊に例えば車両の視界窓、例えばフロントガラスとして用いられるために殊によく適している。従って、そのようなガラスも有利であり、なぜならそれらは、一方では良好な機械的耐性、化学的耐久性、および耐熱性と、他方では良好な溶融性との良好な歩み寄りを提供し、ガラス溶融物の偏析傾向および/または高過ぎる粘度が邪魔な作用をすることがないからである。従って、本開示の実施態様によれば、先述の制限内の小さい熱膨張係数を有する、および/または上記の制限内の成分を有する、そのようなガラス、例えばホウケイ酸ガラス製のガラス板が特に好ましい。
【0061】
さらなる実施態様によれば、少なくとも1つのコーティングは少なくとも3×10-6/K且つ最高10×10-6/K、好ましくは9×10-6/K未満、特に好ましくは7.5×10-6/K未満、とりわけ特に好ましくは6×10-6/K未満の線熱膨張係数を有する。その際、有利には、この実施態様は、殊にガラス板のガラスの線熱膨張係数も制限されており且つ2×10-6/K~6×10-6/Kであるようなガラス板の態様と関連付けられる。即ち、このようにして、充分な曲げ強度を有する、SiO2を含むゾルゲル結合剤を含む着色コーティングを含むガラス板を特に容易に得ることができる。ただし一般に、先述の制限内の線熱膨張係数を有するコーティングと、明らかにより高い異なる線熱膨張係数を有するガラス板とを組み合わせることも可能であり、その逆もまた然りである。ただし、ここで膨張係数の違いを補償するための他の措置が取られる。例えばこれは既に先述したとおり、さらなるコーティングとしてのいわゆる適合層または中間層によって行われ得る。
【0062】
本願の範囲において、熱膨張係数に言及される場合、これは線熱膨張係数αと理解される。他に記載されない限り、これは20~300℃の範囲で示される。αおよびα20-300の記号はこの発明の範囲では同義的に理解される。これは殊にガラス質材料についてISO 7991に準拠する方法において特定され得る。その際、コーティングの熱膨張係数とは、相応のコーティングのそれぞれの生じる熱膨張係数と理解され、それはコーティングの個々の構成要素の熱膨張係数から、コーティングにおけるその割合を考慮して得られる。本願の範囲においてガラス板の(つまり基材の)熱膨張係数が指定される場合、常にガラス板のガラス質材料(またはガラス)の熱膨張係数を意味する。
【0063】
さらなる実施態様によれば、ガラス板は少なくとも1mm~最高12mmの厚さを有する。これは、殊にガラス板がさらなる板と組み合わせて使用されることについて特定される場合、充分な強度と、使用されたガラス板の依然として低い重量との間の良好な歩み寄りを表す。
【0064】
さらなる実施態様によれば、少なくとも1つのコーティングは微孔質に形成され、且つ/または最高でも1μmの最大側方寸法、例えば直径を有する孔を有する。意外なことに、少なくとも1つのコーティングと同じ被覆率で被覆されたガラス板の同等の強度を可能にするエナメルに基づくコーティングは、明らかに異なる多孔質構造を有することが判明した。即ち、部分的に被覆されたガラス板の、少なくともある程度匹敵する強度(しかし通常、これは実施態様によるコーティングを有するものよりも常に低い)を可能にするエナメル層は、最大側方寸法として1μmを上回る孔寸法を有し、多くの場合、数マイクロメートルの最大側方寸法を有する、かなり高い多孔度を有することが判明した。つまり、そのようなコーティングはマクロ孔質に形成されている。そのような孔は特にコーティングとガラス板との間の界面、つまりコーティングと基材との間の界面でますます形成され得る。これに対し、実施態様によるコーティングの構造は明らかに異なり、いくつかの小さな孔のみを有する。ここで、孔の最大側方寸法とは、最大の広がりと理解される。通常、孔は楕円形に形成され、球形からわずかにずれているだけであることが多い。従って、最大側方寸法は近似的に孔の直径とも称され得る。
【0065】
なおもさらなる実施態様によれば、ガラス板は少なくとも1つのコーティングが配置されている少なくとも1つの領域において、コーティングの先述の厚さについて少なくとも1、且つ最高4.5、例えば最高3の光学濃度を有する。光学濃度または色濃度はコーティングの吸収挙動を「絶対的な白」に比して特徴付けるために利用される。色の層が濃くなるほど、光はそれを透過できなくなる。光学濃度は以下の式に従って計算される:
【数1】
【0066】
ここでRは拡散反射度(Remissionsgrad)である。光学濃度は濃度計を用いて、殊に本開示の範囲においてはコーティングの、従って被覆されたガラス板の被覆された表面の最大の面状の広がりに対して垂直方向に特定される。光学濃度が高くなるほど、コーティングの透過性は低くなる。これは殊に有利には、少なくとも1つのコーティングにおける高い顔料含有率で、および/または選択された顔料の種類および量によって達成されることができ、特に0質量%~30質量%の顔料の先述の範囲の上のほうの範囲における顔料含有率で達成されることができる。
【0067】
本開示はペーストにも関する。殊に本開示は、少なくとも1つのコーティングとして実施態様によるガラス板上に配置されるコーティングを製造するためのペーストであって、実施態様によるガラス板を製造するために適しており、つまりガラス板の少なくとも1つの側上に少なくとも部分的に配置されるペーストに関する。ペーストは、SiO2を含む少なくとも1つの結合剤、少なくとも1つの顔料、少なくとも1つの媒体、および有利には充填剤として形成される少なくとも1つの添加剤を含む。SiO2を含む結合剤は、少なくとも1つの半有機の酸化ケイ素前駆体相の加水分解および縮合によって架橋された少なくとも1つのSiO2相を含むゾルゲル結合剤として形成され、半有機の酸化ケイ素前駆体相とは、ケイ素原子に直接的に、または酸素ブリッジ原子を介して有機基、殊にアルキル基が結合されているケイ素化合物と理解される。ペーストは、結合剤が500ppm未満のBi2O3および/または500ppm未満のZnOを含むことを特徴とする。実施態様によれば、結合剤はさらに、500ppm未満のB2O3および/または500ppm未満のアルカリ酸化物も有することができ、ここで、ガラス板に関して結合剤について先述されたことは一般に、相応してペーストの結合剤についても該当する。
【0068】
媒体は一般に分散媒体とも称され得る。前述のとおり、そのようなペーストを用いて、実施態様によるガラス板を有利に得ることができる。
【0069】
実施態様によれば、ペーストは一般に、SiO2を含む結合剤が、少なくとも1つの半有機の酸化ケイ素前駆体相の加水分解および縮合によって架橋された少なくとも1つのSiO2相を含むゾルゲル結合剤として形成されるように形成され、半有機の酸化ケイ素前駆体相とは、ケイ素原子に直接的に、または酸素ブリッジ原子を介して有機基、殊にアルキル基が結合されているケイ素化合物と理解される。これは殊に特に有利であり、なぜなら、このようにして、本質的に純粋なSiO2化学物質(有利には結合剤の無機成分の少なくとも90質量がSiO2で形成されると理解される)への限定にもかかわらず、結合剤の組成に関して大きな柔軟性があるからである。即ち、そのような半有機酸化ケイ素前駆体相は、柔軟に使用可能且つ架橋可能であり、且つ、さらなるSiO2前駆体材料、例えば予め凝縮され且つ分散されたSiO2ナノ粒子、例えば市販の商品名「Levasil」として公知であるもの、または他のナノ粒子、殊にSiO2ナノ粒子の分散液と、以下でもさらに述べられるように組み合わせられることもできる。ケイ素原子が4つの酸素ブリッジ原子を有する前駆体相を使用することも、少なくとも1つの有機残基がケイ素原子に直接的に結合している前駆体相を使用することも可能である。その際、上述のとおりアルキル基が特に好ましい。中心のケイ素原子に結合している特にアルキル基、特にメチル基が有利であることができ、なぜなら、このようにしてコーティングが水および水蒸気に対する所定の固有の密閉性および耐久性をもたらすと共に、例えば貼り合わせフィルムの有機の構成要素との適合性が良好であることができるからである。その際、特にメチル基が特に高温耐性を有することが特に重要であり、従って好ましく用いられ得る。代替的に、フェニル基が置換してもよいが、それは温度安定性が低く、分解の際に場合によっては健康上の危険があることがある。一般に、網目形成を効率的に可能にするために、前駆体中でケイ素原子あたり最高2つの有機基が存在する場合が好ましい。例えば前駆体/前駆体相中のメチルトリエトキシシリケートなど、ケイ素原子あたり1つの有機基が好ましい。
【0070】
実施態様によれば、ペーストは、ペーストの総質量に対して、且つペーストに含まれる添加剤、有利には充填剤の合計に対して、少なくとも10質量%且つ最高40質量%、好ましくは少なくとも15質量%且つ最高30質量%の添加剤、有利には充填剤を含む。
【0071】
このようにして、充填剤の添加によるペースト特性および/または得られるコーティングの特性の改善と、得られるコーティングの、濃く、可能な限り暗く且つ中性色の色位置の調節との間の非常に有利な歩み寄りが達成される。多すぎる充填剤は場合により、使用される顔料のカバー作用に悪影響を及ぼすこともある。
【0072】
ここで充填剤に関し、これは粒子状の物質であり、つまり粒子を含み、この粒子は相応の充填剤の組成を有すると理解される。つまり、本開示の範囲においてコーティングまたはペーストが複数の充填剤を含むと言われる場合は、そのコーティングおよび/またはペーストが異なる組成の充填剤粒子を、即ちコーティング/ペーストに含まれる充填剤の組成に相応して含むと理解される。
【0073】
実施態様によれば、ペーストは線熱膨張係数-10×10-6/K~+10×10-6/Kを有する充填剤、つまり有利には比較的小さい線熱膨張係数を有する充填剤を含む。殊に、それは有利な熱分解法シリカ、一般にSiO2に基づく粒子またはグラファイトであることができる。-10×10-6/K~+10×10-6/K、好ましくは-8×10-6/K~+5×10-6/K、特に好ましくは-6.5×10-6/K~+3×10-6/Kであるそのような比較的小さい線熱膨張係数は、実施態様による少なくとも1つのコーティングで使用されるような結合剤、つまりSiO2を含む結合剤にとって殊に有利である。このようにして、コーティング中への充填剤の良好な結合を確保でき、且つこれはコーティング、つまりここでは殊に本開示によるガラス板の少なくとも1つのコーティングの安定性を、例えば引っかき強度および/または摩耗強度に関してさらに改善することができる。
【0074】
ペースト、例えばゾルゲルペーストの構成要素としての充填剤は一般に既に長らく知られている。そのような充填剤は、例えばそれらがゾルゲルマトリックスの架橋を改善できることによって、それらを含むペースト並びにそこから得られるコーティングの特性に多様に影響することができ、殊に改善できる。
【0075】
例えばペースト中でレオロジー添加剤として役立つ充填剤の使用も可能であると共に、これから得られるコーティング中に良好に組み込み可能でもあり、且つここでさらなる機能、例えばコーティングの摩耗の改善を有することもできる。特にゾルゲルペーストおよびそこから得られるコーティングの場合、レオロジー添加剤としての充填剤の使用が知られている。
【0076】
前述のとおり、実施態様によれば、ペーストがさらなる添加剤、例えば充填剤を含むことも可能である。ペーストが2つまたは3つの充填剤を含み、このさらなる充填剤が、前述のとおり、有利にはかなり小さい線熱膨張係数、例えば-10×10-6/K~+10×10-6/K、好ましくは-8×10-6/K~+5×10-6/K、特に好ましくは-6.5×10-6/K~+3×10-6/Kの線熱膨張係数を有する充填剤である場合も有利であることができる。
【0077】
先にも述べたとおり、上記の範囲の熱膨張係数を有する充填剤は一般に、唯一の充填剤として、または複数の充填剤が存在する場合であっても、少なくとも1つのコーティングの特性の形成、および相応してガラス板の特性の形成にも特に有利であることができる。さらに、そのような充填剤は、殊にシリカの場合、それらが例えば粘度、例えばスクリーン印刷などの印刷法を用いた施与のために適している粘度の調節も可能にするか、または促進することによって、ペースト自体に有利な特性をもたらすことができる。さらに、低膨張充填剤としての充填剤の形成も有利であることができる。ただし、充填剤が非常に小さい線熱膨張係数を有することが絶対に必要なわけではない。前述のとおり、充填剤はグラファイトであることができ、それはこの場合、結合剤自体がかなり低い熱膨張係数を有し且つ実施態様によるガラス板の材料自体が2×10-6/K~6×10-6/Kの範囲の線熱膨張係数を有するであろうことを考慮すると殊に、アモルファスシリカに比して比較的高いこの材料の熱膨張係数を補うさらなる利点を有する。
【0078】
つまり一般に、既に先にも述べたとおり、ペースト中で且つ/またはそこから得られるコーティング中で、充填剤は非常に様々な機能を果たすことができる。本開示の実施態様によるガラス板の少なくとも1つのコーティングを製造するために、ペーストが2種類の充填剤を含む場合が特に有利であることができることが判明している。当然のことながら、殊に高温安定な充填剤の場合、得られるコーティングもこれら両方の充填剤を含み得るが、個々の場合において、特に充填剤の含有率が少ない場合、状況によってはコーティング自体の中での検出が困難であることがある。
【0079】
例えば、実施態様によれば充填剤はシリカ、殊に熱分解法シリカであることができる。そのような構成は有利であり、なぜなら熱分解法シリカ、つまり換言すれば化学的に見てアモルファスのSiO2は、入手し易い公知の材料であるだけでなく、ペースト中で例えばレオロジー添加剤として有利な特性も認められ得るからである。このようにして、例えば、場合により得られるコーティングから再度除去することが困難なことがあり、後にガラス板を使用する際に場合によりコーティングの見苦しい着色または他の不具合をみちびきかねない有機変性されたレオロジー添加剤を用いなければならない必要性がなくなる。さらに、熱分解法シリカはコーティング中に残留し、且つ、本開示によるガラス板の場合に存在するようなSiO2に基づくゾルゲルマトリックス中に良好に組み込まれることに基づき、コーティング自体内部での、および基材に対しても、コーティングの良好な架橋もさらに促進され得る。アモルファスSiO2としての熱分解法シリカ自体は低い熱膨張係数を有するのみであり、さらに多数の変形形態であることができ、このようにして得られるコーティングの特性に目標通りに影響を及ぼすことが可能である。従って、実施態様によれば、シリカとして形成された充填剤が特に有利である。特にここで、さらに、充填剤は得られるコーティング中にも存在するが、とりわけ大部分がSiO2から形成されるコーティングマトリックスの場合、それ自体としてはもはや検出可能ではないことが判明している。しかし、充填剤の影響は、そのように得られたコーティングの得られる有利な特性において示される。
【0080】
さらなる分類の充填剤は、特に着色されたゾルゲルコーティングの分野においては、いわゆる「潤滑剤」である。その際、「潤滑剤」とは、本開示に関しては、タルクの作用と同様の「潤滑」作用を有する固体と理解される。この作用は、当該潤滑剤として形成される充填剤自体が小板状の構造を有することによってもたらされる。ゾルゲルコーティングにおいて用いられる有利な公知の充填剤は例えばグラファイトまたは窒化ホウ素である。実施態様によればペーストは充填剤として有利にはグラファイトを含む。これは充分に温度安定性でもあるので、得られるコーティングにも含まれる。ただしそれは、殊に炭素の原子番号が小さいことに基づき、良好に検出可能ではなく、そのため例えばEDX解析において良好に可視化され得ない。
【0081】
特にコーティングの得られる良好な特性において示される、潤滑剤、例えばグラファイトまたは窒化ホウ素の有利な作用は、発明者らによって完全には理解されていない。しかしながら、小板状の構造を有する、殊に考慮される充填剤の結晶構造に関してグラファイト状の構造を有するそのような充填剤は、特に耐久性のあるゾルゲルに基づくコーティングの形成のために有利であることができることが判明している。
【0082】
しかしながら、そのような充填剤はいくつかの欠点も有する。そのような充填剤は殊にゾルゲルコーティングの場合、ペースト中で(および相応して得られるコーティング中でも)、使用される顔料と潤滑剤とが質量に対して10:1~1:1である特定の比である場合、殊に所望の特性をもたらし得ることがこれまでに知られていた。
【0083】
充填剤としてのグラファイトの場合、これは得られるゾルゲルコーティングのいくつかの良い特性をもたらすことができるのだが、いくつかの望ましくない特性もみちびく。グラファイト自体は色を有し、このようにして相応のコーティングの比較的暗い色のみを可能にするが、そのような比較的高い含有率のグラファイトによって本当に暗い黒色を達成することはまた困難である。従来技術により使用される顔料は、効果顔料にも関することが多かったので、これまで潤滑剤としてグラファイトを用いる色の範囲は非常に限られており、「メタリック」な効果を有する明るい灰色から暗い灰色のコーティングを製造するペーストに関することが多かった。さらに、グラファイトの割合が非常に高い場合、層の有利な機械的特性、例えば良好な付着強度、引っかき強度および摩耗強度並びに良好な密閉性の形成について有利であった一方で、その層は伝導性に形成されることも多く、そのことは特定の用途のためには望ましくなかった。
【0084】
潤滑剤としてグラファイトを使用する代わりに、例えば、「白いグラファイト」とも称され得る窒化ホウ素を使用することができる。しかし、これはかなり白い、もしくは明るい層の形成と関連し、そのことはマスクコーティングにとって、例えば、板複合材における自動車の板としての使用が想定されるガラス板の範囲では不利であることがある。さらに、窒化ホウ素は製造が高価であり、従ってエネルギー効率およびコストの理由から不利である。
【0085】
最後に、そのような充填剤を備えるコーティングを濡らすことは困難であり得るも注記すべきである。これは特定の用途にとっては有利であることができる一方で、潤滑剤として形成される充填剤の割合が高過ぎると、公知の従来技術において言及されているとおり、殊に、充填剤を含むコーティングが備えられているガラス板の後の貼り合わせに関して不利であり得ることが懸念される。従って、例えば複合材において使用され、暗い色、殊に暗い黒も達成される、ガラス板のためのコーティングを製造するためのペーストが特に必要とされている。
【0086】
意外なことに、特に好ましい実施態様によれば、ペースト中、および相応して得られる、実施態様によるガラス板の少なくとも1つのコーティング中で、これまでに知られているよりも明らかに少ない量の充填剤で既に充分であることができることが判明した。この好ましい実施態様によれば、充填剤が潤滑剤として存在する場合、顔料対潤滑剤の比は、ペーストもしくは得られるコーティングに含まれる顔料の合計と潤滑剤として形成される充填剤の合計との総質量に対して、それぞれの構成要素の質量割合に対してそれぞれ、20超:1、有利には30超:1、および殊に有利には40超:1である。このようにして、例えば特定の色の提供に際し、得られるコーティングについてより大きな設計の自由度が与えられるだけではない。むしろ、このようにして、意外なことに、相応して製造されたコーティング、例えば本開示の実施態様によるガラス板上の少なくとも1つのコーティングの有利な機械的特性も、依然として充分な引っかき強度も可能になると共に、従来技術の公知の層の欠点が回避され得る。殊に、このようにして得られた少なくとも1つのコーティングを含むガラス板は、貼り合わせ法においてさらなるガラス板と共に、例えば車両の板における要件を満たすしっかりとした複合材にされるためによく適している。
【0087】
実施態様によれば、ペーストは50質量%までの溶剤、有利には少なくとも130℃、且つ好ましくは最高330℃、例えば最高220℃の沸点を有する高沸点溶剤を含む。
【0088】
殊に溶剤はジエチレングリコールモノエチルエーテルであるか、またはこれを含み得る。そのような構成は印刷用インキにとって特に有利であり、なぜなら、このようにして例えばスクリーン印刷を用いて良好に印刷可能なペーストが得られ、その際、ふるいの上でペーストが乾いて固まることがないからである。
【0089】
なおもさらなる実施態様によれば、ペーストは、セルロース、例えばエチルセルロースの溶液を、ペーストの総質量に対して有利には5質量%~10質量%の含有率で含む。セルロースは例えば、高沸点溶剤、例えばジエチレングリコールモノエチルエーテル中で溶解され得る。
【0090】
ペーストのそのような構成は、引用された従来技術文献では言及されていない。即ち、これまで、例えば、スクリーン印刷のために特に有利であるペーストの粘度を調節するために有利であるセルロースは、ゾルゲルに基づくペーストにおいては良好に使用され得ないと考えられていた。これは通常、半有機のSiO2化合物が酸凝縮されていることが多く、つまりそのようなペーストのpH値は比較的低く、殊に7未満であり、従って酸性の範囲であるからである。ただし、セルロースはそのような酸性溶液中では分解するので、このようにして数日の可使時間を有するペーストしか得ることができない。
【0091】
少なくとも1つのコーティングについて既に先に述べたとおり、SiO2を含むゾルゲル結合剤としての結合剤の構成が一般に非常に有利である。SiO2を含む結合剤は、前述のとおり、例えば有機ケイ素前駆体または前駆体化合物からの加水分解-縮合反応によって、例えば、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)などの化合物、または近いかまたは類似の化合物の酸触媒加水分解および縮合によって得ることができ、ここでそのような結合剤の製造に際しては多くのバリエーションがあり、異なる前駆体の混合物、例えば大部分は無機の、粒子に基づくゾルの添加、またはいわゆるポリシロキサンおよび/またはシリコーンの添加も可能であり、それらはこの開示の範囲においては全て「ゾルゲル結合剤」との大きな概念に組み込まれる。
【0092】
SiO2からなるかまたはそれを含むゾルゲル結合剤の利点は、配合における柔軟性が大きいことだけでなく、種々の組成のガラスおよびガラスセラミックなどのガラス質基材との適合性が良好なことでもある。小さい熱膨張係数を有するガラスまたはガラスセラミック基材にとって特に、そのような結合剤は有利であることができ、なぜなら、このようにして、コーティング、例えば本開示によるガラス板の少なくとも1つのコーティングの良好な結合がもたらされるだけでなく、結合剤としてのSiO2によって、コーティングの小さい線熱膨張係数を得ることもできるからである。
【0093】
ゾルゲルに基づくコーティングを得ることができるペーストは、例えば米国特許出願公開第2010/0028629号明細書(US2010/0028629 A2)に記載されている。米国特許出願公開第2010/0047556号明細書(US2010/0047556 A2)も、同様に構成されたゾルゲルペーストに言及している。最後に、米国特許出願公開第2009/0233082号明細書(US2009/0233082 A2)も、ゾルゲルに基づくコーティングを得ることができるペーストを記載している。
【0094】
ただし、先述の特許出願において言及されたコーティングは、実施態様によるガラス板の製造のためには適していない。そこに記載されるペーストはむしろ、多くの場合、非常に小さな膨張を有するガラスセラミック基材、有利には線熱膨張係数2×10-6/K未満を有する基材、即ち、小さな熱膨張を有するLASガラスセラミック、例えばクックトップのためにも使用されるようなものの上のコーティングを製造するために考えられているものである。小さな膨張を有するそのような基材のコーティングに際して生じる特別な困難は、ペースト、および相応してその上で得られるコーティングが、車両のガラス張りの複合材においてガラス板として用いられるためにも適しているべきである実施態様によるガラス板のために適するものとは異なって構成され且つ異なる構造を有することをみちびく。
【0095】
殊に、先述の従来技術文献において言及されている層系は、2つの層を含むことが多く、それらは別々のコーティング方法において施与され、特にペーストの、および相応して得られるコーティングの個々の成分の比に関して明らかな違いを有する。
【0096】
実施態様によれば、ペーストは、ペーストの総質量に対して、且つペーストに含まれる顔料の合計に対して少なくとも15質量%且つ最高30質量%の顔料を含む。有利には、ペーストは少なくとも20質量%の顔料を含む。
【0097】
換言すれば、ペーストの顔料含有率、および相応して実施態様によるペーストを用いて得ることができる少なくとも1つのコーティング中の顔料含有率は、公知のペーストのものとは明らかに異なる。ペーストの、および相応して少なくとも1つのコーティングの異なる組成は、相応してコーティングの異なる構成をみちびく。従って、この場合、実施態様によれば、実施態様によるガラス板が唯一のコーティングだけを有し、つまり少なくとも1つのコーティングが唯一のコーティングであることも可能である。
【0098】
実施態様によれば、ペーストは、ペーストの総質量に対して少なくとも8質量%且つ最高20質量%の結合剤を含む。有利には、ペーストは、ペーストの総質量に対して、ペーストのSiO2含有率の8質量%~20質量%が有機ケイ素前駆体からもたらされるように構成される。
【0099】
このようにして、ペーストを用いて製造された少なくとも1つのコーティングおよびガラス板の充分な付着強度を確保することができる。このようにして、充分な引っかき強度も達成できる。公知のペーストもしくはそのような公知のペーストから得られるコーティングに比したこのかなり高い結合剤の含有率にもかかわらず、実施態様によるガラス板の強度は臨界値未満には低下しない。これは、特に強く架橋する結合剤、即ち、有機ケイ素前駆体相から得られるポリマー状に架橋したSiO2骨格がナノ粒子と結合しているからである。これによって、本開示の実施態様による、得られる被覆されたガラス板の特に高い強度が達成され得る。
【0100】
実施態様によれば、ペーストは、ペーストの総質量に対して、且つペーストに含まれる添加剤、有利には充填剤の合計に対して、少なくとも10質量%且つ最高40質量%の添加剤、有利には充填剤を含む。
【0101】
従って、ペースト中でも、ペースト(相応して少なくとも1つのコーティング)に含まれる顔料の総質量に対しても、ペーストの添加剤、特に充填剤の含有率は比較的高い。実施態様によれば、少なくとも1つの充填剤が潤滑剤として、殊にグラファイトとして形成され、顔料対潤滑剤の比は、少なくとも1つのコーティングに含まれる顔料の合計と潤滑剤として形成される充填剤の合計との総質量に対して、それぞれ構成要素の質量割合に対して、20超:1、有利には30超:1、および殊に有利には40超:1である。ペーストに含まれる顔料の合計対ペーストに含まれる潤滑剤として形成される充填剤の合計の比は、この実施態様によれば、実施態様による少なくとも1つのコーティングにおいても調節される比に相応する。
【0102】
なおもさらなる実施態様によれば、ペーストは50質量%までの溶剤、有利には少なくとも150℃且つ有利には最高330℃の沸点を有する高沸点溶剤を含む。殊に溶剤はジエチレングリコールモノエチルエーテルであるか、またはこれを含み得る。そのような構成は印刷用インキにとって特に有利であり、なぜなら、このようにして例えばスクリーン印刷を用いて良好に印刷可能なペーストが得られ、その際、ふるいの上でペーストが乾いて固まることがないからである。
【0103】
なおもさらなる実施態様によれば、ペーストは、セルロース、例えばエチルセルロースを、ペーストの総質量に対して有利には0.1質量%~1質量%の含有率で含む。セルロースは例えば、高沸点溶剤、例えばジエチレングリコールモノエチルエーテル中で溶解され得る。
【0104】
ペーストのそのような構成は、引用された従来技術文献では言及されていない。即ち、これまで、例えば、スクリーン印刷のために特に有利であるペーストの粘度を調節するために有利であるセルロースは、ゾルゲルに基づくペーストにおいては良好に使用され得ないと考えられていた。これは、半有機SiO2化合物が通常は酸凝縮されていることが多いからである。たしかにペースト中のpH値は特定されることができず、なぜならペーストは多くの有機溶剤を含み、そのような溶液についてpH値の概念が適用可能ではないからである。しかしながら、従来技術の公知のペーストにおいてはセルロースが分解し、このようにして数日の可使時間を有するペーストしか得られないことが判明していた。しかし、意外なことに、本開示による当該ペースト中ではセルロースを使用することができることが判明した。この理由は本発明者らにとって完全に明らかではない。これは、適した溶剤、つまりエーテル、例えばジエチレングリコールモノエチルエーテル中でのセルロースの溶液、および合計で最高1質量%のセルロースの比較的低い全含有率に基づくのかもしれない。
【0105】
その際、セルロースの使用は有利であることができ、なぜならこのようにしてペーストの粘度パラメータを調節でき、セルロースを有さないペーストの粘度パラメータに対してより良好な印刷画像を有するからである。簡単に言うと、セルロース含有ペーストはむしろ「ハチミツ状の」粘度挙動を有するのに対し、シリカのみを用いて粘度調節されたペーストは非常に高いチキソトロピーを有し、そのことは例えばスクリーン印刷法において望ましくない、過度に「ピクセル状の」、スムーズではない印刷画像をみちびくことがある。これはペースト中のシリカの低減によって対処することができるが、全体的に低過ぎる粘度およびふるいを通じた塗料の「滴下」をみちびくことがある。しかし、上記の欠点は、セルロースを先述の制限内で添加することによって、意外にも容易に回避され得る。
【0106】
本開示は複合材にも関する。複合材は実施態様によるガラス板、並びにさらなるガラス板を含み、有利には複合材の両方のガラス板の間に少なくとも1つのコーティングが配置されている。殊に、複合材の両方のガラス板の間にさらに通常通りポリマー層が殊にフィルムの形態で配置されることができ、例えばフロントガラスまたは他の車両のガラス張りとして使用され得る複層ガラスを形成する。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【
図1】本開示の実施態様による複合材もしくは複層ガラス板10の模式図である。
【
図2】本開示の実施態様による複合材もしくは複層ガラス板10の模式図である。
【
図3】本開示の実施態様による複合材もしくは複層ガラス板10の模式図である。
【
図4】本開示の実施態様による板の走査型電子顕微鏡写真である。
【実施例0108】
本発明を以下で例を用いてさらに説明する。実施態様によるコーティングおよび相応して実施態様によるガラス板を得ることができる本開示の実施態様によるペーストの組成を以下の表に要約する。
【0109】
実施態様による、ペーストおよび相応してコーティングの結合剤の構成要素としてのSiO2に基づくゾルの例示的な組成を以下の表1にまとめる。これは、表1における記述から明らかなとおり、半有機ケイ素化合物を含むかもしくはそれからの加水分解および縮合によって形成されるペーストの結合剤の部分である。
【0110】
【0111】
以下の表2からわかるとおり、結合剤、つまり「半有機Si化合物」もしくはより正確にはこれから製造された結合剤には、例示的に先述されたとおり、少なくとも1つの半有機ケイ素有機前駆体相からの加水分解および縮合から得られるこの構成要素の他に、さらなる構成要素が添加され得る。そのように得られる結合剤全体が、本開示の範囲においてゾルゲル結合剤と理解される。次いで、さらなる成分、例えば顔料および/または充填剤と共にペーストが得られ、例示的な組成を以下の表に示す。
【0112】
【0113】
ナノ粒子分散液は、ここでは、体積に関する相当直径に関して1μm未満の平均粒径を有するSiO2粒子と理解されるナノ粒子のジエチレングリコールモノエチルエーテル中の分散液であって、分散液中でのナノ粒子の割合はここでは分散液の質量に対して37質量%である。当然のことながら、ナノ粒子が他の形態、例えば水性ゾル、例えば商品名「Levasil」として入手可能なものの形態で添加されることも可能である。しかしながら、そのようなゾルは特定の含有率のアルカリ酸化物、殊にNa2Oの欠点を有し、従ってそのような構成は好ましくない。従って有利には、ペーストは、有機溶剤、有利には高沸点有機溶剤、有利には少なくとも130℃且つ好ましくは最高330℃の沸点を有する高沸点有機溶剤中のSiO2ナノ粒子の分散液を含むように構成される。
【0114】
カーボンブラックもペーストに添加されることができ、その際、顔料として作用する。有利には、実施態様によれば、例えばCAS番号1333-86-4を有するランプブラックが使用され得る。名目上、グラファイトと同じ化学組成、つまり炭素製であるにもかかわらず、それらは正確な製造およびそこから得られる異なる粒子形態およびグラファイトに比して小さい(もしあれば)結晶化度およびそれに伴う異なる粒子形態に基づき、顔料として考慮され、本開示の意味おいては潤滑剤として作用しない。カーボンブラックの添加は有利であることができ、なぜならこのようにして、特に黒い色の印象を有する特に密な層を得ることができるからである。カーボンブラックの正確な種類に応じて、ペーストの特性、および得られるコーティングの特性も非常に異なり、例えば、「Printex 95」のタイプのカーボンブラックを含む上述のペースト7はふるいから出るのが困難であり、つまり良好に印刷可能ではないことが判明している。
【0115】
先述の表において番号1~5として示されている実施態様によるペーストを用いて、それぞれ微細なふるい(140メッシュ)を用いて、およびより大きなふるい(77メッシュ)を用いて、スクリーン印刷によってガラス板上にコーティングを施与した。カーボンブラックを含むペーストを、77メッシュを有するふるいを用いて印刷した。
【0116】
これらを380℃で1時間熱処理し、即ち乾燥もしくは焼き付ける。
【0117】
図面の説明
図1は、本開示の実施態様による複合材もしくは複層ガラス板10の模式的且つ縮尺通りではない図である。複合材10は2枚の板1、2を含み、ここで板1は本開示の実施態様による車両用のガラス板である。板2はさらなるガラス板であり、例えばソーダ石灰ガラスから、または板1の本開示のガラスからなることもできる。両方のガラス板1、2の間にポリマー層3、並びに、ここでは複合材10の縁部領域にコーティング11が配置されている。これはガラス板1の1つの側(図示せず)上に配置され、且つそれぞれ以下の記載の範囲において、少なくとも1つのコーティングを単独で、または中間層としてのさらなるコーティングと共に含み得る。
【0118】
より良好に示すために、ここではコーティング11を厚く、つまり両方の板1、2と同等の厚さで示したが、前述のとおり、これはより良好に示すために過ぎない。コーティング11は通常、両方の板1、2の各々よりも明らかに薄く、通常、ポリマー層3よりも薄い。ポリマー層3はフィルムであってもよい。
【0119】
ここでわかるとおり、複合材10は、例えばフロントガラスとして使用され得るように、曲げられた複層ガラス板として形成されている。しかしながら一般に、
図1に示された例に限定されることなく、複合材10が曲げられた板1、2を含まず、平坦に形成されていることも可能である。複合材10の曲率が特に
図1に示される図とは逆に形成されていることも可能である。
図1の例においてガラス板1はフロントガラスの外側であるが、一般にガラス板1がフロントガラスの内側に配置されることも可能である。ただし、いずれの場合においても、コーティング3は両方のガラス板1、2の間に配置される。
【0120】
しかし、
図1のような配置が有利であることができ、なぜならガラス板1はガラス質材料の成分としてSiO
2およびB
2O
3を含むからである。そのようなホウケイ酸ガラスは例えばソーダ石灰ガラスよりも引っかき耐性であるため、ガラス板1が
図1に示されるように複合材10において「外」向きに形成される、つまりフロントガラスとして使用する場合には外に向けられている場合に有利であることができる。このようにして、飛石または同様の機械的負荷に対するより良好な保護がもたらされる。
【0121】
実施態様によるガラス板1の構成を明確に示すために、これを
図2および3においてそれぞれ模式的且つ縮尺通りの図の形態で示す。そこで、
図2は側面図を示す。ただしここではガラス板1はまだ曲げられて形成されていない。一般に、ガラス板1の
図1に示された例に限定されることなく、ガラス板が曲がっていることも可能である。しかし、まず平面状の曲げられていない板1が使用され、それが後に例えば熱的な方法において曲げられる場合が有利であることができる。ここでも、より良好に示すために、コーティング11の厚さは現実よりも明らかに大きく示されている。
【0122】
板1の配置は、
図2における板が曲げられていないこと以外は、前述のとおり
図1における配置に相応する。わかるとおり、コーティング11はここでは、複合材10において第2の板2に向いている側102上に形成され得る。複合材において板1と板2との間に配置されているポリマー層3はここでは図示されていない。ここで、ポリマー層3が板の側102に直接的に接触することも、板1(もしくは板1の側102)の1つの領域(または複数の領域)に配置されたコーティング11上に配置されることも明らかに指摘される。
【0123】
コーティング11はここでは、
図2の図のそれぞれ左および右における板1の縁部領域に配置されている。ここで、例えばコーティングが全体として「フレーム」の形態で施与されることができる。
【0124】
これについて、模式的且つ縮尺通りではない図で実施態様による板1の上面図を示す
図3に教示される。ここでコーティング11は板1の縁部を回るフレームとして形成され、コーティングはまず覆って、つまり途切れていない層として形成され、板1の中央に向かってグリッドまたはドットパターン111を介して、被覆されていない領域へと移行する。この被覆されていない領域は、板1が複合材10において使用される場合については、例えばフロントガラスの可視領域である。当然のことながら、一般に、フレームが
図3に模式的に示されるように一様には形成されておらず、例えば突出部、例えばフロントガラスのバックミラーの領域でよくあるような突出部を有することも可能である。
【0125】
図4は、板1の側102上に配置されたコーティング11を備えた本開示の実施態様による板1の走査型電子顕微鏡写真である。コーティングは顔料を含み、ここでは、小板状の顔料、つまりいわゆる効果顔料である例示的な顔料4のみが示されている。
図4における図からわかるとおり、結合剤5とも称され得るコーティングマトリックス5は特に微粒子状に形成されている。それはSiO
2を含むか、もしくはSiO
2から形成され、コーティングは、それぞれ質量に対して500ppm未満のBi
2O
3および/または500ppm未満のZnOおよび/または500ppm未満のB
2O
3および/または500ppm未満のアルカリ酸化物を含む。殊に、結合剤5もSiO
2、およびそれぞれ質量に対して500ppm未満のBi
2O
3および/または500ppm未満のZnOおよび/または500ppm未満のB
2O
3および/または500ppm未満のアルカリ酸化物を含む。結合剤はここでゾルゲル結合剤として形成されている。
【0126】
コーティング11および/または結合剤5は孔6も含み得る。しかしこれらは比較的小さく形成されるので、コーティング11は殊に微孔質に形成されるか、または微孔質であることができ、且つ/または最高でも1μmの最大側方寸法、例えば直径を有する孔を有する。
図4からもわかるとおり、これらは有利には板1とコーティング11との間の界面で、つまり板1の側102の上またはその近傍に配置される。図のスケールは
図4の右下の領域において走査型電子顕微鏡図の下方に配置され、長さ2μmを示す。
【0127】
コーティング11はここで、好ましくは充填剤として形成される少なくとも1つの添加剤も含む。ただし、この添加剤は走査型電子顕微鏡図においては見ることができない。有利には、ガラス板1は、ここではガラス板1の側102の上に配置され且つコーティング11が施与されている少なくとも1つの領域において、少なくとも80且つ最高300MPa、好ましくは少なくとも100且つ最高210MPa、特に好ましくは少なくとも140MPaの曲げ強度を有する。
【0128】
種々のコーティングを有するか、もしくは参照としての印刷されていないホウケイ酸ガラス製の種々のガラス板の曲げ強度を
図5に示す。印刷されていないホウケイ酸ガラスは、強度の結果に関して
図5の左端に示されており、このいわゆる「箱ひげ図」においては、そのような印刷されていないガラス板について得られた強度が示されている。強度はここで平均して200MPaを幾分上回る。これに対し、
図5において左から2番目にプロットされる試料についての値に基づき、従来のガラスフラックスに基づくコーティングを備えるガラス板の強度は低下する。ここでは50MPa未満の強度値が得られる。つまり、そのような従来のコーティングにより、強度は大幅に低下する。
【0129】
これは、「例1~4」として
図5に示されている実施態様によるコーティング11については異なる。ここでも、印刷されていないガラス板に対する強度の低下は発生し得るが(例1および3)、この場合でもまだ140MPaを上回る、ここでは150MPaすら上回る値(平均値)が得られる。例2は印刷されていない板と同等である強度値を有するが、これらよりも幾分高いばらつきを有する。最後に、例4のように、印刷されていないガラス板に対して強度がコーティングによって改善されている実施態様によるコーティングすら可能である(例4参照)。