(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144387
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系樹脂成形材料、ポリオレフィン系樹脂成形材料の製造方法、及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20241003BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20241003BHJP
C08F 210/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L23/00
C08L23/08
C08F210/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024055194
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2023052863
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】小西 宏明
(72)【発明者】
【氏名】吉本 圭一
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BB03W
4J002BB05X
4J100AA02P
4J100AA03R
4J100AA16Q
4J100CA04
4J100CA05
4J100DA11
4J100DA42
4J100FA10
(57)【要約】
【課題】PETボトルキャップの回収品由来のポリオレフィン系回収樹脂を、改質により、柔軟化させ、耐衝撃性と耐久性(耐ストレスクラック性)を向上させたポリオレフィン系樹脂成形材料を提供する。
【解決手段】PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品由来のポリオレフィン系回収樹脂、及び特定のエチレン系共重合体からなる改質材を含み、当該改質材の含有量が、前記ポリオレフィン系回収樹脂及び前記改質材の合計量に対し1~99質量%である、ポリオレフィン系樹脂成形材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品由来のポリオレフィン系回収樹脂、及び、下記(a)、(b)及び(c)の特徴を有するエチレン系共重合体からなる改質材を含み、当該改質材の含有量が、前記ポリオレフィン系回収樹脂及び前記改質材の合計量に対し1~99質量%である、ポリオレフィン系樹脂成形材料。
(a)主成分としてエチレンに由来する構成単位の割合が80~98mol%であり、必須の副成分として炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位の割合が0.1~7mol%であり、任意の副成分としてプロピレンに由来する構成単位の割合が19.9~0mol%であり、前記エチレンに由来する構成単位と、前記α-オレフィンに由来する構成単位と、前記プロピレンに由来する構成単位との合計が100mol%である。
(b)メルトフローレート(MFR)(温度190℃、荷重2.16kg)が0.1~100g/10分である。
(c)密度が0.880~0.940g/cm3である。
【請求項2】
PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの市場回収品を均質化することにより得られたポリオレフィン系回収樹脂、及び、下記(a)、(b)及び(c)の特徴を有するエチレン系共重合体からなる改質材を含み、当該改質材の含有量が、前記ポリオレフィン系回収樹脂及び前記改質材の合計量に対し1~99質量%である、ポリオレフィン系樹脂成形材料。
(a)主成分としてエチレンに由来する構成単位の割合が80~98mol%であり、必須の副成分として炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位の割合が0.1~7mol%であり、任意の副成分としてプロピレンに由来する構成単位の割合が19.9~0mol%であり、前記エチレンに由来する構成単位と、前記α-オレフィンに由来する構成単位と、前記プロピレンに由来する構成単位との合計が100mol%である。
(b)メルトフローレート(MFR)(温度190℃、荷重2.16kg)が0.1~100g/10分である。
(c)密度が0.880~0.940g/cm3である。
【請求項3】
前記改質材が、メタロセン触媒を用いて重合されたエチレン系共重合体である、請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂成形材料。
【請求項4】
環境応力亀裂抵抗(ESCR)が200時間以上である、請求項3に記載のポリオレフィン系樹脂成形材料。
【請求項5】
下記(A)及び(B)の特徴を有する、請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂成形材料。
(A)メルトフローレート(MFR)(温度190℃、荷重2.16kg)が0.1~100g/10分である。
(B)密度が0.880~0.970g/cm3である。
【請求項6】
PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品由来のポリオレフィン系回収樹脂を準備する工程と、
主成分としてエチレンの割合が80~98mol%であり、必須の副成分として炭素数4~12のα-オレフィンの割合が0.1~7mol%であり、任意の副成分としてプロピレンの割合が19.9~0mol%であり、前記エチレンと前記α-オレフィンと前記プロピレンとの合計が100mol%であるモノマー成分を、メタロセン触媒を用いて重合することにより、エチレン系共重合体からなる改質材を調製する工程と、
前記ポリオレフィン系回収樹脂及び前記改質材の合計量に対し、当該改質材の量が1~99質量%となる質量比で、前記ポリオレフィン系回収樹脂と前記改質材とを混合する工程とを含む、ポリオレフィン系樹脂成形材料の製造方法。
【請求項7】
PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの市場回収品を均質化してなるポリオレフィン系回収樹脂を準備する工程と、
主成分としてエチレンの割合が80~98mol%であり、必須の副成分として炭素数4~12のα-オレフィンの割合が0.1~7mol%であり、任意の副成分としてプロピレンの割合が19.9~0mol%であり、前記エチレンと前記α-オレフィンと前記プロピレンとの合計が100mol%であるモノマー成分を、メタロセン触媒を用いて重合することにより、エチレン系共重合体からなる改質材を調製する工程と、
前記ポリオレフィン系回収樹脂及び前記改質材の合計量に対し、当該改質材の量が1~99質量%となる質量比で、前記ポリオレフィン系回収樹脂と前記改質材とを混合する工程とを含む、ポリオレフィン系樹脂成形材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂成形材料を成形してなる、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂成形材料及びその製造方法、並びに、ポリオレフィン系樹脂成形材料を成形してなる成形体に関する。より詳しくは、PETボトルキャップの回収品を好ましくはマテリアルリサイクルの手法で粉砕又はペレット化することにより得られたポリオレフィン系回収樹脂を改質することによって得られる、リサイクルされたポリオレフィン系樹脂成形材料、当該樹脂成形材料の製造方法、及び当該樹脂成形材料を成形してなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック容器、特にPET(ポリエチレンテレフタレート)ボトルは、優れた機械的強度や透明性或いは高いガス遮蔽性や無公害性などにより、飲食品用の容器として認可されてから、清涼飲料などの容器として需要が非常に高くなっている。特に、小型のPETボトルが携帯用の飲料用小型容器として消費者に重用されており、また、PETボトルの耐熱性と耐圧性が改良され、冬季用の携帯高温飲料や長期保存用の高温殺菌処理飲料の容器としても汎用されている。
【0003】
炭酸飲料などの清涼飲料用のPET製の容器においては、従来では、その容器蓋にアルミニウムなど金属製のものが用いられていたが、経済性などからポリオレフィン製のものが多用されるようになっている。清涼飲料用などの容器では、密封性や開栓性及び飲食品安全性や耐久性が必須の要求性能であり、蓋部材では、これらの性能だけでなく、成形性、剛性及び耐熱性などの各種の物性の観点から、ポリエチレン系樹脂製の蓋部材で技術的な改良検討が継続されており、非常に多数の改良が提案されている。
【0004】
PETボトルキャップに適したポリエチレン系樹脂成形材料に関しては、高速成形性、高流動性、剛性、耐衝撃性、耐久性(耐ストレスクラック性)、滑り性、低臭気性、食品安全性、開栓性などの観点で優れていることが必要であり、これまで様々な樹脂成形材料が検討されている(例えば、特許文献1、2及び3)。
【0005】
一方で、近年、環境問題に対する意識が高まっている中で、樹脂製品のリサイクルも注目されており、様々なマテリアルリサイクルの検討が行われている。
例えば、特許文献4には、ポリエチレン系樹脂を主成分とする使用後の農業用フィルムを改質する手法として、粉砕した使用後の農業用フィルムに、エチレン-酢酸ビニル共重合体を加える方法が開示されている。
特許文献5には、主材料としてポリエチレン及び/又はポリプロピレンを含み、副材料として、ポリブチルテレフタレート及び/又はポリアセタール樹脂を含む雑多なポリオレフィン系樹脂であるプラスチック廃材を改質する手法として、当該プラスチック廃材に、添加樹脂として、ポリエチレン及び/またはオレフィン系熱可塑性エラストマーを加える方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4926360号
【特許文献2】特許第4928858号
【特許文献3】特許第6167930号
【特許文献4】特開2022-173177号公報
【特許文献5】特開2022-114370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリエチレン系樹脂製のPETボトルキャップが普及し多用されるようになった一方で、近年、海洋プラスチックに代表されるプラスチックゴミの問題や、サーキュラーエコノミー又はカーボンニュートラル等の考え方に基づいたバージン樹脂の使用量削減など、樹脂製品については、環境及びリサイクルの観点がより重視されるようになってきている。
PETボトルキャップについてもワンウェイで使い捨てるのではなく、リサイクルによりプラスチック資源として有効活用することが強く求められるようになっている。
【0008】
PETボトルキャップはPETボトル容器とともに、分別回収及びリサイクルの取り組みが広く行われており、他の樹脂製品と比べると資源の有効活用が図られている。しかしながら、PETボトルキャップの回収品は、性能の高いものから低いものまで雑多な物性性能を有する製品の集まりであることから、性能面、特に耐衝撃性と耐久性(耐ストレスクラック性)の観点で問題があり、そのままPETボトルキャップとして再度リサイクル使用すること、所謂キャップtoキャップリサイクルすることは困難である。
【0009】
また、PETボトルキャップを含む飲料又は食品向けの包装製品は、安全衛生性が担保されていることが必要不可欠である。分別回収時に汚染されたPETボトルキャップやその他の異物等が混入してしまった場合、キャップtoキャップリサイクルを実施することは安全衛生性の観点から困難である。従って、キャップtoキャップリサイクルを実施するには、厳しい品質管理が必要となることから、全てのPETボトルキャップをキャップtoキャップリサイクルすることは難しく、現実的には飲料又は食品の包装製品以外の用途へのリサイクルも推進されている。
【0010】
しかし、PETボトルキャップの回収品は、PETボトルキャップに適した物性値を有する樹脂成形体であることから、これをそのまま他の用途に転用することは難しい。
特に、PETボトルキャップは剛性に優れているため、柔軟性が求められる用途への適用は難しく、現状のままでは適用可能な用途が限られてしまう。従って、多様な用途に適用させるために、PETボトルキャップの回収品に対して、何らかの他の樹脂材料を添加し改質することにより、性能調整を実施する必要がある。なお、この改質を行う際には、単純に柔軟化させる、或いはその他の性能を調整するだけでは不十分である。先に述べたように、回収されるPETボトルキャップは、耐衝撃性と耐久性(耐ストレスクラック性)にバラつきがあることから、これらの性能が問題にならないレベルにまで、改質によって性能を引き上げる必要がある。従って、添加することで耐衝撃性と耐久性(耐ストレスクラック性)が低下してしまうような改質材を用いることはできない。
【0011】
本発明は、かかる従来技術の状況に鑑み、回収されたPETボトルキャップをマテリアルリサイクルの手法で均質化する、例えば粉砕又はペレット化することにより素材樹脂として再生させたポリオレフィン系回収樹脂を、改質により、柔軟化させ、耐衝撃性と耐久性(耐ストレスクラック性)を向上させたポリオレフィン系樹脂成形材料を提供すること、並びに、当該ポリオレフィン系樹脂成形材料の製造方法、及び当該ポリオレフィン系樹脂成形材料を成形してなる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明者が検討を重ねた結果、回収されたPETボトルキャップを粉砕又はペレット化することにより再生させたポリオレフィン系回収樹脂に対して、特定のエチレン系共重合体からなる改質材を添加して改質することにより、柔軟性を高めることができ、しかも、改質により得られるポリオレフィン系樹脂は、原料であるポリオレフィン系回収樹脂に比べ、耐衝撃性に優れ、耐久性(耐ストレスクラック性)は大幅に優れることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、下記のポリオレフィン系樹脂成形材料を提供する。
[1]PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品由来のポリオレフィン系回収樹脂、及び、下記(a)、(b)及び(c)の特徴を有するエチレン系共重合体からなる改質材を含み、当該改質材の含有量が、前記ポリオレフィン系回収樹脂及び前記改質材の合計量に対し1~99質量%である、ポリオレフィン系樹脂成形材料。
(a)主成分としてエチレンに由来する構成単位の割合が80~98mol%であり、必須の副成分として炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位の割合が0.1~7mol%であり、任意の副成分としてプロピレンに由来する構成単位の割合が19.9~0mol%であり、前記エチレンに由来する構成単位と、前記α-オレフィンに由来する構成単位と、前記プロピレンに由来する構成単位との合計が100mol%である。
(b)メルトフローレート(MFR)(温度190℃、荷重2.16kg)が0.1~100g/10分である。
(c)密度が0.880~0.940g/cm3である。
【0014】
[2]PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの市場回収品を均質化することにより得られたポリオレフィン系回収樹脂、及び、下記(a)、(b)及び(c)の特徴を有するエチレン系共重合体からなる改質材を含み、当該改質材の含有量が、前記ポリオレフィン系回収樹脂及び前記改質材の合計量に対し1~99質量%である、ポリオレフィン系樹脂成形材料。
(a)主成分としてエチレンに由来する構成単位の割合が80~98mol%であり、必須の副成分として炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位の割合が0.1~7mol%であり、任意の副成分としてプロピレンに由来する構成単位の割合が19.9~0mol%であり、前記エチレンに由来する構成単位と、前記α-オレフィンに由来する構成単位と、前記プロピレンに由来する構成単位との合計が100mol%である。
(b)メルトフローレート(MFR)(温度190℃、荷重2.16kg)が0.1~100g/10分である。
(c)密度が0.880~0.940g/cm3である。
【0015】
[3]前記改質材が、メタロセン触媒を用いて重合されたエチレン系共重合体である、[1]又は[2]に記載のポリオレフィン系樹脂成形材料。
[4]環境応力亀裂抵抗(ESCR)が200時間以上である、[1]~[3]のいずれか一つに記載のポリオレフィン系樹脂成形材料。
[5]下記(A)及び(B)の特徴を有する、[1]~[4]のいずれか一つに記載のポリオレフィン系樹脂成形材料。
(A)メルトフローレート(MFR)(温度190℃、荷重2.16kg)が0.1~100g/10分である。
(B)密度が0.880~0.970g/cm3である。
【0016】
また、本発明は、下記のポリオレフィン系樹脂成形材料の製造方法を提供する。
[6]PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品由来のポリオレフィン系回収樹脂を準備する工程と、
主成分としてエチレンの割合が80~98mol%であり、必須の副成分として炭素数4~12のα-オレフィンの割合が0.1~7mol%であり、任意の副成分としてプロピレンの割合が19.9~0mol%であり、前記エチレンと前記α-オレフィンと前記プロピレンとの合計が100mol%であるモノマー成分を、メタロセン触媒を用いて重合することにより、エチレン系共重合体からなる改質材を調製する工程と、
前記ポリオレフィン系回収樹脂及び前記改質材の合計量に対し、当該改質材の量が1~99質量%となる質量比で、前記ポリオレフィン系回収樹脂と前記改質材とを混合する工程とを含む、ポリオレフィン系樹脂成形材料の製造方法。
【0017】
[7]PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの市場回収品を均質化してなるポリオレフィン系回収樹脂を準備する工程と、
主成分としてエチレンの割合が80~98mol%であり、必須の副成分として炭素数4~12のα-オレフィンの割合が0.1~7mol%であり、任意の副成分としてプロピレンの割合が19.9~0mol%であり、前記エチレンと前記α-オレフィンと前記プロピレンとの合計が100mol%であるモノマー成分を、メタロセン触媒を用いて重合することにより、エチレン系共重合体からなる改質材を調製する工程と、
前記ポリオレフィン系回収樹脂及び前記改質材の合計量に対し、当該改質材の量が1~99質量%となる質量比で、前記ポリオレフィン系回収樹脂と前記改質材とを混合する工程とを含む、ポリオレフィン系樹脂成形材料の製造方法。
【0018】
また、本発明は、下記の成形体を提供する。
[8] [1]~[5]のいずれか一つに記載のポリオレフィン系樹脂成形材料を成形してなる、成形体。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品由来のポリオレフィン系回収樹脂を、改質により、柔軟化させ、耐衝撃性と耐久性(耐ストレスクラック性)を向上させたポリオレフィン系樹脂成形材料を提供することができる。
更に本発明によれば、当該ポリオレフィン系樹脂成形材料の製造方法、及び当該ポリオレフィン系樹脂成形材料を成形してなる成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料の特徴を具体的に詳しく記述する。なお、本発明において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0021】
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料は、PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品由来のポリオレフィン系回収樹脂、及び、下記エチレン系共重合体からなる改質材を含み、当該改質材の含有量が、前記ポリオレフィン系回収樹脂及び前記改質材の合計量に対し1~99質量%であることを特徴とする樹脂組成物である。
[エチレン系共重合体からなる改質材]
本発明に用いられる改質材は、下記(a)、(b)及び(c)の特徴を有するエチレン系共重合体である。
(a)主成分としてエチレンに由来する構成単位の割合が80~98mol%であり、必須の副成分として炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位の割合が0.1~7mol%であり、任意の副成分としてプロピレンに由来する構成単位の割合が19.9~0mol%であり、前記エチレンに由来する構成単位と、前記炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位と、前記プロピレンに由来する構成単位との合計が100mol%である。
(b)メルトフローレート(MFR)(温度190℃、荷重2.16kg)が0.1~100g/10分である。
(c)密度が0.880~0.940g/cm3である。
【0022】
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料は、回収されたPETボトルキャップを粉砕又はペレット化することにより再生させたポリオレフィン系回収樹脂に対して、上記特定のエチレン系共重合体からなる改質材を添加して改質した樹脂組成物であり、原料であるポリオレフィン系回収樹脂に比べ、柔軟性が高く、耐衝撃性に優れ、特に耐久性(耐ストレスクラック性)が大幅に優れている。
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料においては、改質材の物性及び添加量を調節することにより、既存の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、或いは剛性がPETボトルキャップよりも低い既存の高密度ポリエチレン(HDPE)等の、柔軟性を有する既存のポリエチレンに類似した物性を有する樹脂成形材料とすることができる。しかも、このような既存のポリエチレンに類似した物性となるように改質された本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料は、目的とした物性を有する既存のポリエチレンに比べ、耐衝撃性は同程度又は優れたものとなり、耐久性(耐ストレスクラック性)は優れたものとなる。
そのため、回収されたPETボトルキャップを粉砕又はペレット化することにより再生させたポリオレフィン系回収樹脂を、本発明の手法によって改質して得られるポリオレフィン系樹脂成形材料は、既存のポリエチレンが使用されている用途や、既存のポリエチレンでは耐衝撃性又は耐久性(耐ストレスクラック性)が不足して使用できなかった用途にも適用可能である。
従って、本発明の改質の手法によれば、改質後のポリオレフィン系樹脂の適用可能用途を、原料のPETボトルキャップ以外に拡大させることが可能であり、幅広い分野において、PETボトルキャップの回収品を活用することが可能となる。
【0023】
1.ポリオレフィン系回収樹脂
本発明では、PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品由来のポリオレフィン系回収樹脂を改質する。例えば、本発明では、PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの市場回収品を均質化することにより得られたポリオレフィン系回収樹脂を改質する。
本発明において、PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品とは、PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの市場回収品であってもよく、具体的には、使用済みPETボトルから分別回収されたポリオレフィン系樹脂製キャップ、或いは、PETボトル用ポリオレフィン系樹脂製キャップの生産段階又は当該キャップを使用したPETボトル飲料の生産段階等で発生したキャップの廃棄品や余剰品を回収したものであり、これらの混合物であってもよい。
PETボトル用樹脂製キャップは、世界的にポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂の成形品であり、特にポリエチレン製キャップが広く用いられている。ポリオレフィン系樹脂製キャップは公知の方法により分別回収することができ、例えば、キャップを形成している樹脂の比重差によって、ポリオレフィン系樹脂製キャップのみ分別、さらに必要であればポリエチレン系樹脂製キャップのみ分別することができる。PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップのなかでも、ポリエチレン製キャップに限定し分別した回収品を用いることが、本発明において得られるポリオレフィン系樹脂成形材料の品質を向上させる観点から好ましい。
【0024】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品由来のポリオレフィン系回収樹脂とは、ポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品を均質化することにより得られたポリオレフィン系回収樹脂であり、例えば、個々の品質が異なる様々なポリオレフィン系樹脂製キャップから構成される回収品が粉砕やペレット化などのマテリアルリサイクルに属する手法により素材樹脂の状態に戻されることによって、樹脂組成や特性等の材質が均質化されたポリオレフィン系樹脂組成物である。よって、本発明に用いられるポリオレフィン系回収樹脂は、例えば、ポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品を粉砕又はペレット化して得られたポリオレフィン系回収樹脂である。
分別回収されたPETボトルキャップを粉砕、均一に混合し、ペレット状に加工されたリサイクル樹脂が一般に市販されている。本発明においては、ポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品由来のポリオレフィン系回収樹脂として、そのような市販品を用いてもよい。
【0025】
PETボトルキャップの回収品から得られるポリオレフィン系回収樹脂の物性値は、どのような品質のキャップ製品がどの程度の比率で混在しているのかによって大きく変動するため、一概にその物性値を示すことはできない。例えば、ほとんどがポリエチレン製のPETボトルキャップ製品から構成される回収品であれば、当該回収品から得られるポリオレフィン系回収樹脂の物性値は、ポリエチレン製のPETボトルキャップの物性値に近くなり、ほとんどがポリプロピレン製のPETボトルキャップ製品から構成される回収品であれば、当該回収品から得られるポリオレフィン系回収樹脂の物性値は、ポリプロピレン製のPETボトルキャップの物性値に近くなる。
また、安価な海外品など、耐衝撃性及び耐久性(耐ストレスクラック性)等の性能が劣るPETボトルキャップが回収品に含まれれば、当該回収品から得られるポリオレフィン系回収樹脂の上記性能は、より劣る方向に引っ張られて低下する。回収品には、一般的に上記性能が劣るPETボトルキャップが一定量含まれるので、PETボトルキャップの回収品から得られるポリオレフィン系回収樹脂の性能は、PETボトルキャップ用としては、耐衝撃性及び耐久性(耐ストレスクラック性)が低いものが多く、特に耐久性(耐ストレスクラック性)が低すぎるものが多い。
【0026】
本発明において改質されるポリオレフィン系回収樹脂は、特に限定はされないが、上述したように、ポリエチレン製キャップに限定し分別した回収品を均質化してなるものが好ましく、例えば、ポリエチレン製キャップに限定し分別した回収品を粉砕又はペレット化してなるものが好ましい。すなわち、主成分としてポリエチレン系樹脂を含むことが好ましい。
ポリオレフィン系回収樹脂に含まれるポリエチレン系樹脂の比率は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。
ポリオレフィン系回収樹脂は、副成分としてポリプロピレン系樹脂を含んでいてもよい。ポリオレフィン系回収樹脂に含まれるポリプロピレン系樹脂の比率は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。
また、性能の安定したポリオレフィン系回収樹脂を用いるという観点から、本発明において改質されるポリオレフィン系回収樹脂は、剛性を示す曲げ弾性率が900~1200MPaであり、且つ、耐久性(耐ストレスクラック性)を示す環境応力亀裂抵抗(ESCR)が15~35時間(h)あることが好ましい。ただし本発明では、キャップtoキャップリサイクルを想定していないため、曲げ弾性率又はESCRが上記を満たさないポリオレフィン系回収樹脂であっても、改質材の種類、量又はこれらの両方を調整することにより使用可能である。
【0027】
2.エチレン系共重合体からなる改質材の特徴
本発明で用いられる改質材は、下記(a)、(b)及び(c)の特徴を有するエチレン系共重合体である。
(a)主成分としてエチレンに由来する構成単位の割合が80~98mol%であり、必須の副成分として炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位の割合が0.1~7mol%であり、任意の副成分としてプロピレンに由来する構成単位の割合が19.9~0mol%であり、前記エチレンに由来する構成単位と、前記α-オレフィンに由来する構成単位と、前記プロピレンに由来する構成単位との合計が100mol%である。
(b)メルトフローレート(MFR)(温度190℃、荷重2.16kg)が0.1~100g/10分である。
(c)密度が0.880~0.940g/cm3である。
本発明においては、改質材として、上記(a)、(b)及び(c)の特徴を有するエチレン系共重合体を、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
上記エチレン系共重合体は、メタロセン触媒を用いた触媒重合法により重合された共重合体であって、実質的に直鎖状にランダムに重合してなるランダム共重合体であることが、耐衝撃性および耐久性(耐ストレスクラック性)改質効果に優れる点から好ましい。
【0029】
(a)エチレン系共重合体のモノマー構成
本発明で改質材として用いられるエチレン系共重合体のモノマー構成は、主成分としてエチレンに由来する構成単位の割合が80~98mol%であり、必須の副成分として炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位の割合が0.1~7mol%であり、任意の副成分としてプロピレンに由来する構成単位の割合が19.9~0mol%であり、前記エチレンに由来する構成単位と、前記α-オレフィンに由来する構成単位と、前記プロピレンに由来する構成単位との合計が100mol%である。
なお、炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位には、1種または2種以上のα-オレフィンを用いることができる。
また、エチレン由来の構成単位等のモノマー由来の構成単位量は、13C-NMRにより測定し、算出した値である。
【0030】
なお、本発明に用いられるエチレン系共重合体は、プロピレンに由来する構成単位を含むことがある。エチレンとプロピレンを構成成分とする共重合体としては、いわゆるエチレンプロピレンゴム(EPM)と呼ばれる、プロピレン成分を20mol%より多く含み、密度も0.870g/cm3以下の溶液重合法により得られるゴム状重合体がエラストマーの分野において用いられているが、本発明に用いられるエチレン系共重合体は、これらエチレンプロピレンゴムとは、密度範囲も、含まれるエチレンやプロピレンの量が異なり、物性等も全く異なる重合体である。
また、プロピレン重合体において、製造過程でエチレン成分を若干量含むプロピレンエチレン共重合体も知られているが、これらもそのプロピレン含有量等の点で本発明に用いられるエチレン系共重合体と大きく異なり、物性等も全く異なる重合体である。
【0031】
本発明に用いられるエチレン系共重合体が、副成分としてプロピレンに由来する構成単位を含まない場合は、エチレンに由来する構成単位の割合が93~98mol%であることが好ましく、炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位の割合が2~7mol%であることが好ましい。なお、副成分としてプロピレンに由来する構成単位を含まない場合は、エチレンに由来する構成単位と、炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位との合計が100mol%である。副成分としてプロピレンに由来する構成単位を含まない場合において、エチレンに由来する構成単位の割合は、より好ましくは94~97mol%であり、炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位の割合は、より好ましくは3~6mol%である。
本発明に用いられるエチレン系共重合体が、副成分としてプロピレンに由来する構成単位を含む場合は、エチレンに由来する構成単位の割合が80~98mol%であることが好ましく、炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位の割合が0.1~7mol%であることが好ましく、プロピレンに由来する構成単位の割合が19.9~0.1mol%であることが好ましい。副成分としてプロピレンに由来する構成単位を含む場合において、エチレンに由来する構成単位の割合は、より好ましくは80~95mol%、さらに好ましくは80~90mol%であり、炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位の割合は、より好ましくは0.5~7mol%、さらに好ましくは1~6mol%であり、プロピレンに由来する構成単位の割合は、より好ましくは15~1mol%、さらに好ましくは14~2mol%である。
【0032】
炭素数4~12のα-オレフィンとしては、特に限定はされないが、具体的には、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ヘプテン、4-メチル-ペンテン-1、4-メチル-ヘキセン-1、4,4-ジメチルペンテン-1などを挙げることができる。中でも、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ヘプテン等の直鎖状のα-オレフィンが好ましい。
また、炭素数4~12のα-オレフィンとしては、炭素数4~10のα-オレフィンが好ましく、炭素数4~8のα-オレフィンがより好ましい。
【0033】
プロピレンに由来する構成単位を含まない上記エチレン系共重合体の具体例としては、エチレン/1-ブテン共重合体、エチレン/1-ヘキセン共重合体、エチレン/1-オクテン共重合体、エチレン/4-メチル-ペンテン-1共重合体などの二元共重合体;及び、エチレン/ブテン/ヘキセンターポリマー、エチレン/ブテン/オクテンターポリマーなどの三元共重合体等が挙げられる。
プロピレンに由来する構成単位を含む上記エチレン系共重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン/ブテンターポリマー、エチレン/プロピレン/ヘキセンターポリマー、エチレン/プロピレン/オクテンターポリマーなどの三元共重合体等が挙げられる。
【0034】
(b)エチレン系共重合体のメルトフローレート(MFR)
本発明に用いられるエチレン系共重合体のメルトフローレート(MFR)(温度190℃、荷重2.16kg)は0.1~100g/10分であり、好ましくは1~80g/10分であり、より好ましくは1~60g/10分であり、さらに好ましくは3~40g/10分である。MFRが0.1g/10分未満であると、PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品から得られるポリオレフィン系回収樹脂とエチレン系共重合体とを混練して改質する際に、混ざりが悪くなってしまう他、改質品のMFRが低下して、改質品の成形性が悪くなってしまうため好ましくない。一方、MFRが100g/10分を超えると、PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品から得られるポリオレフィン系回収樹脂とエチレン系共重合体とを混練して改質する際に、混ざりが悪くなってしまう他、MFRが高いエチレン系共重合体は低分子量であることにより、耐衝撃性及び耐久性(耐ストレスクラック性)の観点で十分な改質効果が得られず好ましくない。
本発明に用いられるエチレン系共重合体のMFRを調節するには、例えば、重合温度、又は共重合反応の際に共存させる水素量(連鎖移動剤量)などを適宜調節する方法が用いられる。重合温度を上げることにより、エチレン系共重合体の分子量を下げて、結果としてMFRを大きくすることができる。一方、重合温度を下げることにより、エチレン系共重合体の分子量を上げて、結果としてMFRを小さくすることができる。また、エチレンとプロピレンまたは炭素数4~12のα-オレフィンとの共重合反応において、共存させる水素量(連鎖移動剤量)を増加させることにより分子量を下げて、結果としてMFRを大きくすることができ、共存させる水素量(連鎖移動剤量)を減少させることにより分子量を上げて、結果としてMFRを小さくすることができる。
【0035】
(c)エチレン系共重合体の密度
本発明に用いられるエチレン系共重合体の密度は、0.880~0.940g/cm3であり、好ましくは0.880~0.930g/cm3であり、より好ましくは0.880~0.920g/cm3である。密度が0.880g/cm3未満であると、工業的に製造するのが困難になるため好ましくない。一方、密度が0.940g/cm3を超えると、エチレン系共重合体の耐衝撃性が不十分となり、またESCRが低くなるため、耐衝撃性及び耐久性(耐ストレスクラック性)の観点で十分な改質効果が得られず好ましくない。本発明に用いられるエチレン系共重合体の密度を調節するには、例えばコモノマー含有量、重合温度、触媒量などを適宜調節する方法が用いられる。
【0036】
(d)その他の物性
本発明に用いられるエチレン系共重合体の曲げ弾性率は、特に限定はされないが、好ましくは300MPa以下、より好ましくは200MPa以下、さらに好ましくは100MPa以下である。この場合、エチレン系共重合体による柔軟性改質効果が特に優れる。エチレン系共重合体の曲げ弾性率の下限は、特に限定はされないが、通常、20MPa以上である。
【0037】
本発明に用いられるエチレン系共重合体のESCRは、特に限定はされないが、1000時間以上であることが好ましい。この場合、エチレン系共重合体による耐久性(耐ストレスクラック性)改質効果が特に優れる。
また、本発明に用いられるエチレン系共重合体は、シャルピー衝撃強度試験において破壊しないことが好ましい。この場合、エチレン系共重合体による耐衝撃性改質効果が特に優れる。
【0038】
本発明に用いられるエチレン系共重合体において、上述の好ましい物性を有するようにするためには、上記(a)を満たすモノマー成分を用いて、重合触媒及び重合方法として後述する好ましいものを採用してエチレン系共重合体を製造することが有効である。
【0039】
3.エチレン系共重合体の重合触媒および重合方法
本発明に用いられるエチレン系共重合体は、上記(a)を満たすモノマー成分を、触媒重合法によって、重合することにより製造される。
上記(a)を満たすモノマー成分とは、すなわち、主成分としてエチレンの割合が80~98mol%であり、必須の副成分として炭素数4~12のα-オレフィンの割合が0.1~7mol%であり、任意の副成分としてプロピレンの割合が19.9~0mol%であり、前記エチレンと前記α-オレフィンと前記プロピレンとの合計が100mol%である、モノマー成分である。
エチレン系共重合体の製造に用いられる触媒は、好ましくはメタロセン触媒である。メタロセン触媒は、特に限定されないが、メタロセン化合物と助触媒とを触媒成分として含むことが好ましい。
メタロセン化合物としては、シクロペンタジエニル骨格を有する基等が配位した、ジルコニウム化合物又はハフニウム化合物などのメタロセン化合物を使用することが好ましい。助触媒としては、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等のホウ素化合物が好ましく用いられる。
メタロセン触媒を用いて重合されたエチレン系共重合体は、直鎖状のランダム共重合体であり、分子量分布やコモノマー組成分布が狭い、低分子量分が少ないなどの特徴を有する。具体的な性能面では、耐衝撃性及び耐久性(耐ストレスクラック性)に優れ、また、ベタつき成分が少ない、溶剤抽出成分が少ないなどの優れた特徴を有している。
【0040】
エチレン系共重合体の製造法としては、特に限定されないが、150~330℃の高温で重合を行うことが望ましいため、高圧イオン重合法を利用するのが好ましい(「ポリエチレン技術読本」第4章、松浦一雄・三上尚孝 編著、2001年)。
【0041】
4.エチレン系共重合体からなる改質材の量
本発明において改質材の含有量は、ポリオレフィン系回収樹脂と改質材の合計量100質量%に対し、1~99質量%の範囲内で適宜調節される。より具体的には、ポリオレフィン系回収樹脂の物性値、改質後のポリオレフィン系樹脂成形材料の目標物性値、及び使用する改質材の物性値に応じて、改質材の含有量は適宜調節される。一般的には、改質材の含有量が多いほど、改質品は柔軟性が向上し、すなわち曲げ弾性率が低下し、耐衝撃性及び耐久性(耐ストレスクラック性)が向上する。
【0042】
特に限定はされないが、ポリオレフィン系回収樹脂の特性を活かしつつ、改質材による十分な改質効果を得て、所望の物性を有するポリオレフィン系樹脂成形材料を得る点から、ポリオレフィン系回収樹脂及び改質材の合計量100質量%に対し、改質材の含有量は、好ましくは10~80質量%、より好ましくは20~70質量%である。
【0043】
5.ポリオレフィン系樹脂成形材料の製造
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料の製造方法としては、特に限定はされないが、例えば、
PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品由来のポリオレフィン系回収樹脂を準備する工程と、
主成分としてエチレンの割合が80~98mol%であり、必須の副成分として炭素数4~12のα-オレフィンの割合が0.1~7mol%であり、任意の副成分としてプロピレンの割合が19.9~0mol%であり、前記エチレンと前記α-オレフィンと前記プロピレンとの合計が100mol%であるモノマー成分を、メタロセン触媒を用いて重合することにより、エチレン系共重合体からなる改質材を調製する工程と、
前記ポリオレフィン系回収樹脂及び前記改質材の合計量に対し、当該改質材の量が1~99質量%となる質量比で、前記ポリオレフィン系回収樹脂と前記改質材とを混合する工程とを含む、製造方法を挙げることができる。
なお、上述のポリオレフィン系回収樹脂を準備する工程、改質材を調製する工程、及びポリオレフィン系回収樹脂と改質材とを混合する工程は、同じ場所で行わなくてもよい。
また、前記製造方法に用いられる、PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品由来のポリオレフィン系回収樹脂は、PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの市場回収品を均質化してなるポリオレフィン系回収樹脂であってもよい。また、前記製造方法に用いられるポリオレフィン系回収樹脂は、例えば、PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品を粉砕又はペレット化して得られるポリオレフィン系回収樹脂である。
【0044】
PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品由来のポリオレフィン系回収樹脂を準備する方法は、特に限定はされず、例えば、PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品をマテリアルリサイクルの手法で粉砕又はペレット化することによりポリオレフィン系回収樹脂を調製してもよいし、そのようなポリオレフィン系回収樹脂の市販品を準備してもよい。
エチレン系共重合体からなる改質材を調製する方法は、上記「3.エチレン系共重合体の重合触媒および重合方法」で説明したとおりである。
【0045】
ポリオレフィン系回収樹脂と改質材とを混合する工程(以下、単に「混合工程」と称する場合がある。)において、混合方法は、特に限定されず、樹脂組成物の製造における常法に従い均一に混合される。
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料は、必須成分として、上記ポリオレフィン系回収樹脂、及び上記エチレン系共重合体からなる改質材を含み、さらに必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。当該他の成分は、通常、上記混合工程の際に添加される。
上記混合工程は、例えば、ポリオレフィン系回収樹脂のペレットと改質材のペレットを、ドライブレンド又はメルトブレンドし、ブレンド中に他の成分を任意の順序で添加することにより行われる。ドライブレンドの場合は、最終的に成形機内においてポリオレフィン系回収樹脂のペレットと改質材のペレットがメルトブレンドされる。ブレンド方法は製造工程に合わせて適宜選択される。メルトブレンドする場合は、得られたポリオレフィン系樹脂成形材料を、ペレタイザーで処理することによりペレット化してもよい。
【0046】
上記他の成分としては、例えば、本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料の各種の物性をより高め又は他の物性を付加するために、常法に従い、上記ポリオレフィン系回収樹脂又は上記エチレン系共重合体からなる改質材以外の重合体を配合してもよく、また、酸化防止剤(フェノール系、リン系又はイオウ系等)、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、加工助剤、着色顔料、架橋剤、発泡剤、無機又は有機充填剤、難燃剤、結晶化速度を促進する造核剤などの添加剤を配合してもよい。
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料が、上記ポリオレフィン系回収樹脂又は改質材以外の他の成分を含む場合、当該他の成分の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜調節され、特に限定はされないが、上記ポリオレフィン系回収樹脂及び改質材の合計量100質量部に対し、上記ポリオレフィン系回収樹脂又は上記エチレン系共重合体からなる改質材以外の重合体の含有量は、通常、30質量部以下であり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下であり、各種添加剤の含有量は、通常、5質量部以下であり、好ましくは3質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。
【0047】
6.ポリオレフィン系樹脂成形材料の用途及び成形体
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料は、柔軟性、耐衝撃性、及び耐久性(耐ストレスクラック性)に優れ、更に、成形性及び高流動性などにも優れる。従って、本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料は、このような特性を必要とする工業用部品や日用雑貨など各種成形体としての用途に適しており、本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料を成形してなる成形体は、柔軟性、耐衝撃性、及び耐久性(耐ストレスクラック性)が必要とされる用途で好適に用いられる。
なお、本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料は、飲料又は食品の包装製品以外の用途を主用途と想定している。しかし、原料である回収したPETボトルキャップ、および、回収されたPETボトルキャップをマテリアルリサイクルの手法で均質化することにより素材樹脂として再生させたポリオレフィン系回収樹脂の安全衛生性が担保されている場合は、本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料を、飲料又は食品の包装製品の用途に適用することも可能である。本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料は、PETボトルキャップ用途としては、剛性が不足するため使用が困難であるが、柔軟性が良好であるため、例えば、柔軟性が要求されるヒンジキャップや各種の容器中蓋などの用途に使用できる。
【0048】
7.ポリオレフィン系樹脂成形材料の特徴
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料は、特に限定はされないが、下記(A)及び(B)の特徴を有することが好ましい。
(A)メルトフローレート(MFR)(温度190℃、荷重2.16kg)が0.1~100g/10分である。
(B)密度が0.880~0.970g/cm3である。
【0049】
(A)ポリオレフィン系樹脂成形材料のメルトフローレート(MFR)
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料のメルトフローレート(MFR)(温度190℃、荷重2.16kg)は、0.1~100g/10分であることが好ましい。本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料は、MFRが前記下限値以上であると、成形性が良好になり、MFRが前記上限値以下であると、耐衝撃性及び耐久性(耐ストレスクラック性)の悪化が抑制される。このような観点から、本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料の前記MFRは、より好ましくは1~80g/10分であり、さらに好ましくは2~50g/10分であり、2~10g/10分であってもよい。
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料のMFRは、例えば、用いる改質材のMFRを変更することや改質材の比率を変更することなどで調節できる。改質材のMFRを高くすることにより、ポリオレフィン系樹脂成形材料のMFRを高くすることができる。一方、改質材のMFRを低くすることにより、ポリオレフィン系樹脂成形材料のMFRを低くすることができる。また、例えば、ポリオレフィン系回収樹脂のMFRより高いMFRの改質材を用いる場合、改質材の比率を大きくすることで、ポリオレフィン系樹脂成形材料のMFRを高くすることができる。
【0050】
(B)ポリオレフィン系樹脂成形材料の密度
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料の密度は、0.880~0.970g/cm3であることが好ましい。本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料は、密度が前記下限値以上であると、成形品の耐熱温度の低下が抑制され、密度が前記上限値以下であると、耐衝撃性及び耐久性(耐ストレスクラック性)の悪化が抑制される。このような観点から、本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料の密度は、より好ましくは0.900~0.950g/cm3であり、さらに好ましくは0.910~0.940g/cm3である。
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料の密度は、例えば、用いる改質材の密度を変更することや改質材の比率を変更することなどで調節できる。
【0051】
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料の物性は、用途に応じて調節され、特に限定はされないが、以下の物性を満たすと、汎用性が高いため好ましい。
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料の曲げ弾性率は、好ましくは800MPa以下、より好ましくは600MPa以下である。曲げ弾性率の下限は、特に限定はされないが、通常、200MPa以上である。
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料の環境応力亀裂抵抗(ESCR)は、好ましくは200時間以上、より好ましくは300時間以上、さらに好ましくは500時間以上、よりさらに好ましくは800時間以上、最も好ましくは1000時間以上である。
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料のシャルピー衝撃強度は、好ましくは10KJ/m2以上、より好ましくは30KJ/m2以上であり、シャルピー衝撃強度の試験において破壊しないことが特に好ましい。
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料の引張衝撃強度は、好ましくは150KJ/m2以上、より好ましくは200KJ/m2以上である。
【0052】
本発明のポリオレフィン系樹脂成形材料を成形してなる成形体において、成形法は特に限定はされないが、主として射出成形法で成形される。
【実施例0053】
以下の実施例及び比較例において本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0054】
〔測定方法及び評価方法〕
実施例、比較例で用いた測定方法、評価方法は以下のとおりである。
(1)温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR):JIS-K6922-2:1997年に準拠して測定した。
(2)密度:JIS-K6922-1,2:1997年に準じて測定した。
(3)曲げ弾性率:試験片として210℃で射出成形した4mm×10mm×80mmの板状体を用い、JIS-K6922-2:1997年に準拠して測定した。
【0055】
(4)シャルピー衝撃強度:JIS-K7111-1:2006年に準拠して測定した。
(5)引張衝撃強度:JIS-K6922-2:1997年に準拠して測定した。
(6)引張降伏応力:JIS-K6922-2:1997年に準拠して測定した。
(7)引張破壊呼び歪:JIS-K6922-2:1997年に準拠して測定した。
(8)ESCR:ASTM D 1693に準拠し、温度50℃で、使用液としてSIGMA―ALDRICH製IGEPAL CO-630の10vol%水溶液を用いて測定した。
【0056】
(9)柔軟性改質効果判断
改質後のポリオレフィン系樹脂成形材料の曲げ弾性率に基づいて、柔軟性改質効果を以下の評価基準で評価した。
[評価基準]
○(良):原料であるポリオレフィン系回収樹脂の曲げ弾性率と比較して低下した。
×(不良):原料であるポリオレフィン系回収樹脂の曲げ弾性率と比較して同等または増加した。
【0057】
(10)耐衝撃性改質効果判断
改質後のポリオレフィン系樹脂成形材料のシャルピー衝撃強度及び引張衝撃強度に基づいて、耐衝撃性改質効果を以下の評価基準で評価した。
[評価基準]
○(良):原料であるポリオレフィン系回収樹脂のシャルピー衝撃強度又は引張衝撃強度と比較して増加した。なお、原料であるポリオレフィン系回収樹脂がシャルピー衝撃強度試験で破壊されていた場合に、改質後のポリオレフィン系樹脂成形材料がシャルピー衝撃強度試験で破壊されなくなった場合は、シャルピー衝撃強度が増加したことを意味する。
×(不良):原料であるポリオレフィン系回収樹脂のシャルピー衝撃強度及び引張衝撃強度と比較して、同等または低下した。
【0058】
(11)耐久性(耐ストレスクラック性)改質効果判断
改質後のポリオレフィン系樹脂成形材料のESCRに基づいて、耐久性(耐ストレスクラック性)改質効果を以下の評価基準で評価した。
[評価基準]
○(良):原料であるポリオレフィン系回収樹脂のESCRと比較して、増加した。
×(不良):原料であるポリオレフィン系回収樹脂のESCRと比較して、同等または低下した。
【0059】
(12)改質効果の総合評価
ポリオレフィン系樹脂成形材料の改質効果の総合評価を、以下の評価基準で行った。
[評価基準]
○(良):改質後のポリオレフィン系樹脂成形材料において、上記柔軟性改質効果判断が〇であり、上記耐衝撃性改質効果判断が〇であり、かつ上記耐久性(耐ストレスクラック性)改質効果判断が〇であった。
×(不良):改質後のポリオレフィン系樹脂成形材料において、上記柔軟性改質効果判断、上記耐衝撃性改質効果判断、または上記耐久性(耐ストレスクラック性)改質効果判断のいずれかにおいて、1つでも×があった。
【0060】
〔ポリオレフィン系回収樹脂の準備〕
PETボトルのポリオレフィン系樹脂製キャップの回収品をマテリアルリサイクルの手法で粉砕し、ペレット化することにより均質化して素材樹脂として再生させたポリオレフィン系回収樹脂として、進栄化成(株)製の商品名「ペットボトルキャップHDPE-白ペレット」(ポリエチレン系樹脂の含有量:99質量%以上)を準備した。後述する全実施例及び比較例で、ポリオレフィン系回収樹脂として当該「ペットボトルキャップHDPE-白ペレット」を用いた。「ペットボトルキャップHDPE-白ペレット」の物性値を表1に示す。
【0061】
〔触媒の調製〕
特開平10-218921号公報に記載された方法で調製した錯体「rac-ジメチルシリレンビスインデニルハフニウムジメチル」0.05モルに、等モルの「N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート」を加え、トルエンで50リットルに希釈して触媒溶液を調製した。
【0062】
〔改質材Aの製造〕
内容積5.0リットルの撹拌式オートクレーブ型連続反応器を用い、反応器内の圧力を80MPaに保ち、原料ガス(モノマー成分)としてエチレン及び1-ヘキセンを、適宜調整しながら40kg/時となるように反応器内に連続的に供給し、また、上記で調製した触媒溶液を反応器内に連続的に供給し、重合温度を150~250℃の範囲内で適宜調整することで、エチレン系共重合体である改質材Aを得た。改質材Aは、上記(a)、(b)及び(c)の特徴を有するエチレン系共重合体であった。改質材Aのモノマー構成及び物性値を表2に示す。なお、表2及び表3において、C2含量とは、エチレンに由来する構成単位の含有量であり、C3含量とは、プロピレンに由来する構成単位の含有量であり、C4-12含量とは、炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位の含有量である。
【0063】
〔改質材Bの製造〕
内容積5.0リットルの撹拌式オートクレーブ型連続反応器を用い、反応器内の圧力を80MPaに保ち、原料ガス(モノマー成分)としてエチレン、プロピレン及び1-ヘキセンを、適宜調整しながら40kg/時となるように反応器内に連続的に供給し、また、上記で調製した触媒溶液を反応器内に連続的に供給し、重合温度を150~250℃の範囲内で適宜調整することで、エチレン系共重合体である改質材Bを得た。改質材Bは、上記(a)、(b)及び(c)の特徴を有するエチレン系共重合体であった。改質材Bのモノマー構成及び物性値を表2に示す。
【0064】
〔改質材Cの製造〕
上述の改質材Bの製造方法に準じて、重合温度を調整することにより、エチレン系共重合体である改質材Cを得た。改質材Cは、上記(a)、(b)及び(c)の特徴を有するエチレン系共重合体であった。改質材Cのモノマー構成及び物性値を表2に示す。
【0065】
〔実施例1〕
上記ポリオレフィン系回収樹脂(ペットボトルキャップHDPE-白ペレット)と、上記改質材Aのペレットとを、50:50の質量比(ポリオレフィン系回収樹脂:改質材)でドライブレンドした後、得られた混合物70gを、容量100mlの小型ミキサーを取り付けた東洋精機(株)製ローラーミキサー(商品名:ラボプラストミル(登録商標)、型式:R100)のチャンバーに投入した。同時に、酸化防止剤(BASFジャパン社製、商品名:IRGANOX B225)0.14gも投入した。チャンバー内を190℃で3分間予熱した後、投入した材料を、190℃、40rpmで2分間混練してメルトブレンドし、実施例1のポリオレフィン系樹脂成形材料を得た。得られた樹脂成形材料の物性値を表2に示す。
実施例1の樹脂成形材料は、表1に示す原料のポリオレフィン系回収樹脂と比較して、柔軟性が向上し、すなわち曲げ弾性率が低下し、耐衝撃性が向上し、耐久性(耐ストレスクラック性)が大幅に向上しており、原料のポリオレフィン系回収樹脂とは全く異なる物性を有するものであった。
実施例1の樹脂成形材料は、日本ポリエチレン(株)製の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のグレードであるUJ960に類似した物性値を示しながら、耐衝撃性はUJ960を上回っており、耐久性(耐ストレスクラック性)はUJ960を大きく上回っていた。UJ960の物性値は表2に示すとおりである。
従って、改質により得られた実施例1の樹脂成形材料は、UJ960が使用されている用途や、UJ960では耐衝撃性又は耐久性(耐ストレスクラック性)が不足して使用できなかった用途にも適用可能であると考えられる。
【0066】
〔実施例2〕
ポリオレフィン系回収樹脂と改質材の質量比(ポリオレフィン系回収樹脂:改質材)を30:70に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2のポリオレフィン系樹脂成形材料を得た。得られた樹脂成形材料の物性値を表2に示す。
実施例2の樹脂成形材料は、表1に示す原料のポリオレフィン系回収樹脂と比較して、柔軟性が向上し、すなわち曲げ弾性率が低下し、耐衝撃性が向上し、耐久性(耐ストレスクラック性)が大幅に向上しており、原料のポリオレフィン系回収樹脂とは全く異なる物性を有するものであった。
実施例2の樹脂成形材料は、日本ポリエチレン(株)製の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のグレードであるUJ460に類似した物性値を示しながら、耐衝撃性はUJ460を上回っており、耐久性(耐ストレスクラック性)はUJ460を大きく上回っていた。UJ460の物性値は表2に示すとおりである。
従って、改質により得られた実施例2の樹脂成形材料は、UJ460が使用されている用途や、UJ460では耐衝撃性又は耐久性(耐ストレスクラック性)が不足して使用できなかった用途にも適用可能であると考えられる。
【0067】
〔実施例3〕
改質材Aの代わりに改質材Bを用い、ポリオレフィン系回収樹脂と改質材の質量比(ポリオレフィン系回収樹脂:改質材)を80:20に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3のポリオレフィン系樹脂成形材料を得た。得られた樹脂成形材料の物性値を表2に示す。
実施例3の樹脂成形材料は、表1に示す原料のポリオレフィン系回収樹脂と比較して、柔軟性が向上し、すなわち曲げ弾性率が低下し、耐衝撃性が向上し、耐久性(耐ストレスクラック性)が大幅に向上し、原料のポリオレフィン系回収樹脂とは全く異なる物性を有するものであった。
実施例3の樹脂成形材料は、日本ポリエチレン(株)製の高密度ポリエチレン(HDPE)のグレードであるHJ260に類似した物性値を示しながら、耐衝撃性はHJ260を上回っており、耐久性(耐ストレスクラック性)はHJ260を大きく上回っていた。HJ260の物性値は表2に示すとおりである。
従って、改質により得られた実施例3の樹脂成形材料は、HJ260が使用されている用途や、HJ260では耐衝撃性又は耐久性(耐ストレスクラック性)が不足して使用できなかった用途にも適用可能であると考えられる。
【0068】
〔実施例4〕
改質材Aの代わりに改質材Bを用い、ポリオレフィン系回収樹脂と改質材の質量比(ポリオレフィン系回収樹脂:改質材)を45:55に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例4のポリオレフィン系樹脂成形材料を得た。得られた樹脂成形材料の物性値を表2に示す。
実施例4の樹脂成形材料は、表1に示す原料のポリオレフィン系回収樹脂と比較して、柔軟性が向上し、すなわち曲げ弾性率が低下し、耐衝撃性が向上し、耐久性(耐ストレスクラック性)が大幅に向上しており、原料のポリオレフィン系回収樹脂とは全く異なる物性を有するものであった。
実施例4の樹脂成形材料は、日本ポリエチレン(株)製の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のグレードであるUJ460に類似した物性値を示しながら、耐衝撃性はUJ460を上回っており、耐久性(耐ストレスクラック性)はUJ460を大きく上回っていた。
従って、改質により得られた実施例4の樹脂成形材料は、UJ460が使用されている用途や、UJ460では耐衝撃性又は耐久性(耐ストレスクラック性)が不足して使用できなかった用途にも適用可能であると考えられる。
【0069】
〔実施例5〕
改質材Aの代わりに改質材Cを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例5のポリオレフィン系樹脂成形材料を得た。得られた樹脂成形材料の物性値を表2に示す。
実施例5の樹脂成形材料は、表1に示す原料のポリオレフィン系回収樹脂と比較して、柔軟性が向上し、すなわち曲げ弾性率が低下し、耐衝撃性が向上し、耐久性(耐ストレスクラック性)が大幅に向上しており、原料のポリオレフィン系回収樹脂とは全く異なる物性を有するものであった。
実施例5の樹脂成形材料は、日本ポリエチレン(株)製の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のグレードであるUJ460に類似した物性値を示しながら、耐久性(耐ストレスクラック性)はUJ460を大きく上回っていた。
従って、改質により得られた実施例5の樹脂成形材料は、UJ460が使用されている用途や、UJ460では耐久性(耐ストレスクラック性)が不足して使用できなかった用途にも適用可能であると考えられる。
また、実施例2の樹脂成形材料もUJ460に類似した物性値を示すが、実施例5の樹脂成形材料は、実施例2と比較してポリオレフィン系回収樹脂の比率が高く、実施例2よりも少量の改質材料を用いて実施例2と同等レベルに柔軟性が向上した材料であった。
また、実施例4の樹脂成形材料もUJ460に類似した物性値を示すが、実施例5の樹脂成形材料は、実施例4と比較してMFRが高く、実施例4と同等レベルの柔軟性と実施例4よりも優れた射出成形性を持つ材料であった。
【0070】
〔比較例1〕
改質材Aの代わりに、改質材として日本ポリエチレン(株)製の一般射出成形用の高密度ポリエチレン(HDPE)のグレードであるポリエチレン樹脂HJ560のペレットを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1のポリオレフィン系樹脂成形材料を得た。得られた樹脂成形材料の物性値を表3に示す。HJ560の構成単位比率及び物性値は表3に示すとおりである。
比較例1の樹脂成形材料は、使用した改質材が炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位を含まず、且つ改質材の密度が0.940g/cm3より大きかったため、表1に示す原料のポリオレフィン系回収樹脂と比較して、柔軟性が悪化し、すなわち曲げ弾性率が増大し、耐衝撃性及び耐久性(耐ストレスクラック性)も悪化していた。
【0071】
〔比較例2〕
改質材Aの代わりに、改質材として日本ポリエチレン(株)製の一般射出成形用の低密度ポリエチレン(LDPE)のグレードであるポリエチレン樹脂LJ802のペレットを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2のポリオレフィン系樹脂成形材料を得た。得られた樹脂成形材料の物性値を表3に示す。LJ802の構成単位比率及び物性値は表3に示すとおりであり、炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位を含まなかった。
比較例2の樹脂成形材料は、表1に示す原料のポリオレフィン系回収樹脂と比較して、柔軟性は向上し、すなわち曲げ弾性率は低下し、耐衝撃性は向上したものの、耐久性(耐ストレスクラック性)が悪化していた。
【0072】
〔比較例3〕
ポリオレフィン系回収樹脂と改質材の質量比(ポリオレフィン系回収樹脂:改質材)を30:70に変更した以外は、比較例2と同様にして、比較例3のポリオレフィン系樹脂成形材料を得た。得られた樹脂成形材料の物性値を表3に示す。
比較例3の樹脂成形材料も、表1に示す原料のポリオレフィン系回収樹脂と比較して、柔軟性は向上し、すなわち曲げ弾性率は低下し、耐衝撃性は向上したものの、耐久性(耐ストレスクラック性)が悪化していた。
【0073】
〔比較例4〕
ポリオレフィン系回収樹脂と改質材の質量比(ポリオレフィン系回収樹脂:改質材)を80:20に変更した以外は、比較例2と同様にして、比較例4のポリオレフィン系樹脂成形材料を得た。得られた樹脂成形材料の物性値を表3に示す。
比較例4の樹脂成形材料も、表1に示す原料のポリオレフィン系回収樹脂と比較して、柔軟性は向上し、すなわち曲げ弾性率は低下し、耐衝撃性は向上したものの、耐久性(耐ストレスクラック性)が悪化していた。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
実施例1~5では、改質材として、上記(a)、(b)及び(c)の特徴を有するエチレン系共重合体を用いたため、実施例1~5で得られた改質後のポリオレフィン系樹脂成形材料は、上述したように、原料のポリオレフィン系回収樹脂と比較して、柔軟性が向上し、すなわち曲げ弾性率が低下し、耐衝撃性が向上し、耐久性(耐ストレスクラック性)が大幅に向上し、原料のポリオレフィン系回収樹脂とは全く異なる物性を有するものであった。従って、本発明の目的である、回収されたPETボトルキャップをマテリアルリサイクルの手法で均質化する、具体的には粉砕又はペレット化することにより素材樹脂として再生させたポリオレフィン系回収樹脂を、改質により、柔軟化させ、耐衝撃性及び耐久性(耐ストレスクラック性)を向上させた、リサイクルされたポリオレフィン系樹脂成形材料を提供し、更に、当該ポリオレフィン系樹脂成形材料を用いて成形された成形体を提供可能という目的が、実施例1~5では達成されていた。
また、実施例1~5で得られた樹脂成形材料は、既存の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、或いは剛性がPETボトルキャップよりも低い領域の既存の高密度ポリエチレン(HDPE)に類似した物性値を示しながら、物性が類似する既存のポリエチレンに比べて、耐衝撃性が同程度又は向上しており、耐久性(耐ストレスクラック性)については大幅に向上していた。従って、実施例1~5で得られた樹脂成形材料は、これらの既存のポリエチレンが使用されている用途や、これらの既存のポリエチレンでは耐衝撃性又は耐久性(耐ストレスクラック性)が不足して使用できなかった用途にも適用可能である。
一方で、比較例1では、改質材として用いたHJ560が、炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位を含まないものであり、かつ密度が高すぎたため、比較例1で得られた樹脂成形材料は、原料のポリオレフィン系回収樹脂と比較して、柔軟性、耐衝撃性及び耐久性(耐ストレスクラック性)が悪化していた。比較例2~4では、改質材として用いたLJ802が、炭素数4~12のα-オレフィンに由来する構成単位を含まないものであったため、比較例2~4で得られた樹脂成形材料は、原料のポリオレフィン系回収樹脂と比較して、柔軟性及び耐衝撃性は向上したものの、耐久性(耐ストレスクラック性)が悪化してしまっていた。