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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144412
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】抗スナッグ性編物
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/00 20060101AFI20241003BHJP
   D04B 1/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
D04B1/00 A
D04B1/20
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024087292
(22)【出願日】2024-05-29
(62)【分割の表示】P 2023053696の分割
【原出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】518381846
【氏名又は名称】東洋紡せんい株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】河端 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 茂
【テーマコード(参考)】
4L002
【Fターム(参考)】
4L002AA07
4L002AB02
4L002AB04
4L002AB05
4L002AC01
4L002AC07
4L002BA04
4L002DA04
4L002EA06
4L002FA02
(57)【要約】
【課題】ユニフォーム用途等に要求される抗スナッグ性とストレッチ性を両立した編物を提供する。
【解決手段】少なくともその一方の面にニット-タック単位構造を有するシングルニットからなる編物であり、ニット-タック単位構造の少なくとも一部が伸縮伸長率40~95%の仮撚糸から構成されており、前記一方の面を構成する組織全体に対する、伸縮伸長率40~95%の仮撚糸から構成されるニット-タック単位構造の比率が25~100%である編物。前記仮撚糸は、コンジュゲート複合繊維であることが好ましい。また、前記一方の面におけるコース密度が50(個/2.54cm)以上、95(個/2.54cm)以下、且つウエール密度が45(個/2.54cm)以上、80(個/2.54cm)以下であることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともその一方の面にニット-タック単位構造を有するシングルニットからなる編物であり、ニット-タック単位構造の少なくとも一部が伸縮伸長率40~95%の仮撚糸から構成されており、前記一方の面を構成する組織全体に対する、伸縮伸長率40~95%の仮撚糸から構成されるニット-タック単位構造の比率が25~100%であることを特徴とする編物。
【請求項2】
前記伸縮伸長率40~95%の仮撚糸がコンジュゲート複合繊維からなることを特徴とする請求項1に記載の編物。
【請求項3】
前記一方の面におけるコース密度が50(個/2.54cm)以上、95(個/2.54cm)以下、且つウエール密度が45(個/2.54cm)以上、80(個/2.54cm)以下であることを特徴とする請求項1に記載の編物。
【請求項4】
少なくとも一方の面がニット-タック単位構造とオールニット単位構造の両方を含むことを特徴とする請求項1に記載の編物。
【請求項5】
前記コンジュゲート複合繊維がポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートからなり、前記コンジュゲート複合繊維の仮撚糸から構成されるニット-タック単位構造が一方の面を構成する組織のうちの40~100%を構成していることを特徴とする請求項2に記載の編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーキングユニフォーム等の衣料品に好適に使用される、ストレッチ性と抗スナッグ性を有する編物に関する。
【背景技術】
【0002】
編物は、織物に比べてソフトな風合いやストレッチ性などの優れた特徴を有しているため、インナー衣料やスポーツ衣料等に幅広く用いられている。しかし、織物に比べて編物にはピリングやスナッグ、更には耐摩耗性等の性能が低い傾向があり、ワーキング等のユニフォーム素材には使い難い素材であった。
【0003】
このため、これまでに編物の抗スナッグ性を改良するための種々の検討がされている。例えば、編物表面に現れた糸条の拘束力を高めるために、編物を構成する糸条を撚糸する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法で得られた編物では、編物本来の特徴であるソフトな風合いやストレッチ性が損なわれるという問題があった。
【0004】
また、S方向のトルクを有する仮撚糸とZ方向のトルクを有する仮撚糸との合糸に交絡を付与することにより得られた低トルクの複合糸を使用した抗スナッグ性を有する編物が提案されている(特許文献2参照)。この方法によれば、十分な抗スナッグ性を有する編物を得ることができるが、S方向、Z方向の別々の仮撚糸を作って、更にそれらを合糸交絡させる必要があり、製造工程が複雑で煩雑な作業を伴ない、経済的に不利であった。
【0005】
また、ストレッチ性と抗スナッグ性があり、且つ優れたハリ腰性、ソフトな風合を持つ編物として、コンジュゲート仮撚糸Aと非コンジュゲート仮撚糸Bを含む糸条からなる複合仮撚糸を含む編物であって、前記複合仮撚糸の交絡数が100ヶ/m以上、トルク撚数が30T/m以下、捲縮発現率差が5~30%である編物が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、この方法は、コンジュゲート仮撚糸と非コンジュゲート仮撚糸の両方の仮撚糸を用いて、それらを強く交絡させる工程が必要であり、製造工程が複雑で煩雑な作業を伴ない、経済的に不利であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-247149号公報
【特許文献2】WO2008/001920号公報
【特許文献3】特開2022-166393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術の問題を解消するために創案されたものであり、その目的は、ユニフォーム用途等に要求される抗スナッグ性とストレッチ性を両立した編物を提供することにある。さらに、本発明は、色が付いた制電糸を配合しても、制電糸が表面に透けて見え難いユニフォーム用途に最適な編物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来、ニット、タック、ウエルトからなる編物において、タックを多用すると編物内のニットループの大きさが大きく変化するので、編物表面の凹凸が大きくなって編物表面が引っかかりやすくなり、スナッグが起こりやすくなると考えられていた。しかし、本発明者らが鋭意検討した結果、高い伸縮伸長率を有する特定の仮撚糸を用いて、編物表面にニットータック基本単位の組織を持たせることで、ストレッチ性を持ちながらも、従来では考えられなかった高い抗スナッグ性を発揮させることができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(6)の構成を有するものである。
(1)少なくともその一方の面にニット-タック単位構造を有するシングルニット又はダブルニットからなる編物であり、ニット-タック単位構造の少なくとも一部が伸縮伸長率40~95%の仮撚糸から構成されており、前記一方の面を構成する組織全体に対する、伸縮伸長率40~95%の仮撚糸から構成されるニット-タック単位構造の比率が25~100%であることを特徴とする編物。
(2)前記伸縮伸長率40~95%の仮撚糸がコンジュゲート複合繊維からなることを特徴とする(1)に記載の編物。
(3)前記一方の面におけるコース密度が50(個/2.54cm)以上、95(個/2.54cm)以下、且つウエール密度が45(個/2.54cm)以上、80(個/2.54cm)以下であることを特徴とする(1)に記載の編物。
(4)少なくとも一方の面がニット-タック単位構造とオールニット単位構造の両方を含むことを特徴とする(1)に記載の編物。
(5)前記コンジュゲート複合繊維がポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートからなり、前記コンジュゲート複合繊維の仮撚糸から構成されるニット-タック単位構造が一方の面を構成する組織のうちの40~100%を構成していることを特徴とする(2)に記載の編物。
(6)前記編物が、ダブルニットであり、且つ他方の面を構成する組織に電気抵抗値10~10Ω/cmの制電糸を含み、編物の摩擦帯電圧が900V以下であることを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の編物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ストレッチ性と抗スナッグ性を両立したワーキングユニフォーム等の衣料に好適な編物を提供することができる。また、本発明の編物は、色が付いた制電糸を用いた場合でも、制電糸が表面に透けて見えにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ニット-タック単位構造のみからなる編目構成図である。
図2図2(a)、(b)は、ニット-タック単位構造と、ニットループ、タックループ、ウエルトと各個数の数え方を説明するための編組織図である。
図3図3は、実施例1の編物の編組織図である。
図4図4は、実施例3の編物の編組織図である。
図5図5は、実施例5の編物の編組織図である。
図6図6は、比較例3の編物の編組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の編物は、シングル又はダブルの針床を持つ編機で編まれたものである。ダブルの編機で編まれたダブルニットでは表裏両面のどちらでも製品の表側として使用できるので、本発明では便宜上、それらを一方の面と他方の面とし、最終製品で表側に使われると想定される側を一方の面と呼ぶことにする。
【0013】
本発明の編物は、編物の少なくとも一方の面に、伸縮伸長率40~95%の仮撚糸(以下、高伸縮伸長仮撚糸ともいう)から構成されるニット-タック単位構造(以下、「ニット-タック基本構造」や「ニット-タック繰り返し構造」とも称する)を有することを特徴とする。ニット-タック単位構造の例を図1に示す。図1は、ニット-タック単位構造のみからなる編目構成図である。編物の一方の面の表面で何かと接触する場合、ニットループの上側が編物表面の凸部になるため、そこで引っかかりが起こりやすいが、ニット-タック単位構造では、前コースのタック糸とニットループの頂点との合わさった部分(図1の矢印部)が、前コースのタックとニットループの頂点、及び次コースのシンカーループが重なって編物表面の凸部になる。このときニットループが十分に小さいと、お互いの糸がお互いに拘束しあうために繊維が引き出されにくくなる。具体的には、本発明では、一方の面に形成するニット-タック単位構造を高伸縮伸長仮撚糸で作ることにより、高伸縮伸長仮撚糸が加工中に大きく縮んで捲縮を発現してニットループの大きさが小さくなり、非常に締まったものとなり、繊維が引き出されにくくなる。これにより、本発明では、抗スナッグ性が高められると考えられる。つまり、高い伸縮伸長率を持つ仮撚糸は、非常に高い捲縮を発現するが、捲縮の発現により見掛け上糸が大きく縮むため、編物が収縮してニットループも小さくなる。また、染色加工中に糸が嵩高になって見かけ上糸の太さも大きくなることでニットループ内の隙間が小さくなる。ニットループが小さくなることで編物に締まりができて抗スナッグ性を向上させることができ、且つ防透け性も向上させることができると考えられる。
【0014】
尚、編物がシングルニットの場合は、ニットループが一層であるが、裏表があり、シンカーループ面、ニットループ面と呼ぶが、どちらの面でも前記の重なった部分が編物表面凹凸の凸部になる。因みに編物がダブルニットの場合、裏面および表面のどちらの面もニットループ面である。
【0015】
本発明で使用する高伸縮伸長仮撚糸の伸縮伸長率は、40~95%、好ましくは50~95%、より好ましくは60~95%である。伸縮伸長率が上記範囲未満では、編物にストレッチ性と抗スナッグ性を両立させることが難しくなり、上記範囲を超えると、伸長性は十分なものになるが、仮撚糸の品質や物性が不安定になりやすく、それにより編物の密度や目付のバラツキが大きくなったり、外観等の品質が安定し難くなりやすい。伸縮伸長率を上記範囲にコントロールすることによって、編物に適度なストレッチ性と抗スナッグ性、さらには防透け性を与えることができる。
【0016】
本発明では、高伸縮伸長仮撚糸の熱水寸法変化率は、好ましくは-15.0%~-4.5%、さらに好ましくは-12.0%~-5.0%である。熱水寸法変化率が上記範囲より低いと、加工中の熱水処理により編物のループ長が短くなり難く、一方の面が緻密な組織になり難くなりやすい。そのため、十分な抗スナッグ性が得られにくくなる。熱水寸法変化率が上記範囲を超えると、編物性量、外観のバラツキが大きくなりやすく、安定な品質を得るのが難しくなりやすい。尚、熱水寸法変化率の-(マイナス)は、サンプルの縮みを示すものであり、-(マイナス)の数字が大きいほど、収縮率が高いことを意味する。
【0017】
本発明では、高伸縮伸長仮撚糸は、コンジュゲート複合繊維であることが好ましい。コンジュゲート複合繊維とは、2種類以上の樹脂が張り合わされた状態で1本の繊維となっているものである。複合繊維としては、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート、又はポリトリエチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとの両成分を含むサイドバイサイド構造、芯鞘構造等の複合繊維が挙げられる。複合繊維は、ポリブチレンテレフタレート(又はポリトリエチレンテレフタレート)とポリエチレンテレフタレートとを合計で90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましく、99質量%以上含むことが更に好ましい。また、複合繊維は、ポリエチレンテレフタレート100質量部に対して、ポリブチレンテレフタレート(又はポリトリエチレンテレフタレート)を40質量部以上、200質量部以下含有することが好ましく、70質量部以上、150質量部以下含有することがより好ましく、90質量部以上、110質量部以下含有することが更に好ましい。芯鞘構造の場合は、鞘の中の芯の配置が偏心していることが捲縮を出すためには望ましい。繊維の断面形状としては、丸断面、楕円断面、三角断面、四角断面等の多角断面、中空断面等が挙げられる。このうち丸断面、楕円断面が好ましく、丸断面がより好ましい。複合繊維は、上記の捲縮特性を生かすことができる範囲で各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0018】
本発明では、高伸縮伸長仮撚糸の総繊度は、好ましくは30dtex~250dtex、より好ましくは50dtex~180dtexである。総繊度が上記範囲未満では、編物が薄くなり過ぎて用途的に使い難くなりやすく、上記範囲を超えると、編物が重く分厚くなり過ぎて使い難くなりやすい。高伸縮伸長仮撚糸の単糸繊度は、0.3dtex~3.0dtexの範囲であることが好ましい。単糸繊度が上記範囲未満では、引っかかりやすくなって抗スナッグ性が低下しやすく、上記範囲を超えると、風合いが硬くなりやすい。また、高伸縮伸長仮撚糸は、チタン粒子等の無機粒子、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤、熱安定剤、抗菌剤、潤滑剤、顔料、染料等の添加剤を含んでいてもよい。
【0019】
本発明の高伸縮伸長仮撚糸の生産に用いる仮撚施撚具は、特に限定されず、多軸外接型、内接型、ピン式、ベルト式など従来公知のいずれのものを用いてもよい。とりわけピン式は、高い伸縮伸長性を得られやすいため好ましい。また、延伸仮撚機は、一般に施撚域に設置する第一ヒーター、及び仮撚施撚具より下流に設置する第二ヒーターの2つの加熱域を有する。いずれのヒーターも熱媒式、若しくは電熱式の加熱によるものであり、本発明の高伸縮伸長仮撚糸を製造するには第二ヒーターを必ずしも使う必要はないが、第二ヒーターを使う場合は、第二ヒーター温度を室温からガラス転移温度までの低温としておくことが望ましい。第二ヒーターは、一般に糸条を過供給で熱処理するため、非接触式の中空パイプヒーターを採用することが好ましい。
【0020】
また、第一ヒーターでは、糸条は、延伸されながら施撚熱固定されるため、糸条温度としては、ガラス転移温度以上融点以下の範囲、具体的には80~220℃の範囲、より好ましくは160~210℃の範囲、更に好ましくは180~210℃の範囲で処理される。第一ヒーターは、非接触式、接触式のいずれでも構わないが、非接触式が機台メンテナンスの観点から好ましく採用される。尚、言うまでもなく上記適正な温度領域として挙げた数値は、糸条の温度であり、ヒーターの設定温度とは異なる。
【0021】
仮撚施撚具は、上記のように特に限定されるものではなく、仮撚操業速度についても仮撚施撚具により異なる。例えばピン式の場合は、80~150m/分程度、ベルト式では350~800m/分程度、フリクションディスク式では、400~1000m/分程度が一般的であり、延伸仮撚機の種類に応じて適宜選定することができる。仮撚を施された仮撚糸は、ワインダーによって紙管に巻き取られるが、パッケージの形状についてもストレートワインド、バイコニカルワインドのいずれも採用することができる。紙管巻取の際には、テール(尻糸)を付けておくことが次工程以降、連続操業を行う上で好ましい。
【0022】
本発明の編物の一方の面を構成する組織における高伸縮伸長仮撚糸の混率は、40質量%以上とすることが好ましい。より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは100質量%である。上記の混率以上で高伸縮伸長仮撚糸が存在すると、ニットループが見掛け上小さくなり隙間が少なくなって抗スナッグ性が向上しやすくなる。一方、上記の混率未満であると、ニットループやタック部での締まりが弱くなることで抗スナッグ性が低下しやすくなる。尚、ダブルニットで高伸縮伸長仮撚糸が一方の面と他方の面の両方の組織を形成するように編みこまれている場合は、一方の面の100Wを構成するだけの連続した高伸縮伸長仮撚糸の重量に対して、一方の面のニットループの数と他方の面を構成するニットループの数の割合を乗じたものを、一方の面を構成する高伸縮伸長仮撚糸の重量として便宜上計算するものとする。
【0023】
本発明の編物では、その目的を達成する限り、前述の高伸縮伸長仮撚糸以外に他の糸を含んでいてもよい。他の糸としては、ポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、アクリル系繊維、アクリレート系繊維、ポリプロピレン等のオレフィン系繊維等の合成繊維、ポリ乳酸繊維等の生分解性繊維、レーヨン、リヨセル等の再生繊維、綿、麻、羊毛といった公知の天然繊維を含んでいてもよい。他の糸の形態としては、フィラメント糸、紡績糸が挙げられ、フィラメント糸が好ましく、マルチフィラメント糸がより好ましい。フィラメント糸としては、フラットヤーン(生糸)、仮撚糸、エアー交絡糸等の糸加工された糸が挙げられるが、本発明の編物の抗スナッグ性を低下させにくくするためには、仮撚糸が好ましい。
【0024】
本発明の編物は、ワーキング用途等のユニフォームに好適に用いられるが、ワーキング用途でしばしば要求される帯電防止機能を満たすために制電糸を使用することができる。制電糸は、灰色等の色が付いていて目立つため、編物の表面から見えないよう工夫することが好ましい。シングルニットの場合は、芯鞘複合糸の芯糸に制電糸を用いたり、プレーティング編によって編物の裏側に制電糸を配置してもよい。ダブルニットの場合は、編物の他方の面を構成する組織に制電糸を用いてもよい。具体的には、裏面の組織を製編するときに組織の一部に制電糸を引き揃えて入れるか、あらかじめ組織を構成する糸と複合したものを製編してもよい。尚、裏組織の一部分、且つ表組織との繋ぎの一部分に制電糸を配置すると、表面の制電性が高まるため好ましい。本発明では、表面のニットータック部に、制電糸を含んだ繋ぎ糸にてタックで表組織と繋ぐのが好ましい。本発明のニットータック組織部分では、ニットループに表組織を構成するタック糸が合わさって見た目に太くなっているため、繋ぎのタックが加わっても制電糸を隠しやすい利点がある。
【0025】
また、本発明の編物に十分な帯電防止性能を付与するため、制電糸を含む糸は、ウェール方向に1本/インチ以上配置することが好ましい。すなわち、タテ方向に1インチ以下の間隔で制電糸が編まれていることが好ましい。尚、制電糸は、導電性微粒子を繊維中に練り込んだものであることが好ましく、具体的には、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂などの繊維形成性樹脂に導電性物質を練り込んだもの(導電性樹脂)で形成される導電性繊維(単一成分系)や、導電性樹脂と非導電性樹脂で形成される導電性繊維(複合成分系)のいずれであってもよい。導電性物質としては、例えば、導電性カーボンブラック;銀、ニッケル、銅、鉄、錫などの金属単体;硫化銅、硫化亜鉛、ヨウ化銅などの金属化合物などが挙げられる。初期及び洗濯後の帯電防止性能に優れたものとするためには、制電糸の電気抵抗値としては、10~10Ω/cmであることが好ましい。制電糸の一例としては、例えば、クラレトレーディング社製「クラカーボ」、KBセーレン社製「ベルトロン」、東レ社製「ルアナ」、東洋紡社製「エミナホワイト」などが挙げられる。
【0026】
次に本発明の編物の構成について、ニットータック単位構造の説明を交えて詳述する。まず、図2(a)を参照しながら、編物の全体組織の全構造に対するニットータック単位構造の比率の算出方法について説明する。図2(a)の組織は、編糸が表裏両面にループを形成する組織であり、(1)、(2)、(3)、(5)及び(6)がニットループであり、(4)がウエルトであり、(7)がタックである。即ち、図2(a)の組織は、ニットループが5個、ウエルトが1個、タックが1個であり、合計7個のループとウエルトとタックからなる。
【0027】
なお、編機のシリンダー針からダイヤル針、又はダイヤル針からシリンダー針に移動する過程の針は、ウエルトにカウントしない。例えば図2(a)の(8)はシリンダーからダイヤルへ、(9)はダイヤルからシリンダへ糸が移動中であるのでウエルトとは数えない。また、図5で説明すると、給糸口F1,F4の組織にタックがあるが、このタックは一方の面の組織と、他方の面の組織を連結するものであり、面の組織を構成するものではないため、このようなタックは、面を構成する組織にカウントしないものとする。
【0028】
本発明では、編物の一方の面におけるニットータック単位構造の比率は、編物の一方の面の組織に存在するニットータック単位構造の個数を、一方の面の組織に存在するニットループ、ウエルト、及びタックの合計個数で除したものの百分率として計算されることができる。この際、ニットータック単位構造一つあたり2個(ニットとタックの各1個)としてカウントするものとする。例えば、図2(a)に示す編組織には、ニットータック構造(6)、(7)が一対含まれるので、この個数を2個とする。そのため、図2(a)の組織においてシリンダ側を一方の面と仮定した場合、シリンダ面のニットータック単位構造の比率は、給糸口bだけでみれば2個/3個となり、構成比率は約66.7%となる。また、図2(b)に示す編組織であれば、ニットータック基本組織が2対あり、ニットループ2個とタック2個の計4個として計算するので、ニットータック単位構造の比率は、4個/4個となり、構成比率は100%となる。
【0029】
本発明の編物は、少なくとも一方の面には、高伸縮伸長仮撚糸から構成されるニット-タック単位構造を有し、その一方の面を構成する組織全体に対する、高伸縮伸長仮撚糸から構成されるニット-タック単位構造の比率が25~100%であることが必要である。ニットータック単位構造とは、上述のようにニットループとタックが連結した編構造であり、コース方向に隣接する糸同士でニットとタックが重なった構造である。このような構造が編物面に均一な間隔で数多く存在することで本発明の抗スナッグ性の向上効果が発揮される。一方の面における、高伸縮伸長仮撚糸から構成されるニットータック単位構造の比率は、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上、更により好ましくは60%以上、特に好ましくは100%である。一方の面における、高伸縮伸長仮撚糸から構成されるニット-タック単位構造の比率が上記範囲未満であると、編物表面で凸部となる締まったニット部が少なくなり、引っかかりが起こりやすくなって抗スナッグ性が低下する。
【0030】
前述の通り、ニットータック単位構造は、一方の面において、編物の長手方向に相当するコース方向にもニット、タックの繰り返しで存在していることが好ましい。この構造では全てのニットループにタックがかかるため、締まったニットループを増やすことができる。一方の面を構成する組織において、ニットータック単位構造は、構成比率として40%以上であることが好ましい。より好ましくは45~100%とすることが好ましい。構成比率が上記範囲未満であると、ニットータックの繰り返し構造が少なくなって、抗スナッグ性の向上効果が低下しやすくなる。
【0031】
本発明の編物の一方の面を構成する組織におけるニット-タック単位構造には、高伸縮伸長仮撚糸以外の糸から構成されるものが含まれていてもよいが、ニット-タック単位構造の集合体の中で、高伸縮伸長仮撚糸から構成されるニットータック単位構造の比率は40%以上とすることが好ましい。より好ましくは50%以上、更に好ましくは60%以上、更により好ましくは70%以上、特に好ましくは100%である。上述のように、高伸縮伸長仮撚糸は、加工中に大きく縮み、捲縮を発現する。これにより、ニットループが見掛け上小さくなり、隙間が少なくなって抗スナッグ性が向上しやすくなる。なお、一方の面における高伸縮伸長仮撚糸の含有率が高い場合は、高伸縮伸長仮撚糸から構成されるニットータック単位構造の比率が60%以下であっても十分な抗スナッグ性が得られやすくなる。
【0032】
本発明の編物の一方の面におけるコース密度は、50(個/2.54cm)以上、95(個/2.54cm)以下であることが好ましい。より好ましくは55(個/2.54cm)以上であり、更に好ましくは60(個/2.54cm)以上である。また、より好ましくは90(個/2.54cm)以下、更に好ましくは85(個/2.54cm)以下である。コース密度が上記範囲未満では抗スナッグ性が向上しにくくなるおそれがある。一方、コース密度が上記範囲を超えると、風合いを向上しにくく、ストレッチ性を維持することができないおそれがある。
【0033】
本発明の編物の一方の面におけるウエール密度は、45(個/2.54cm)以上、80(個/2.54cm)以下であることが好ましい。より好ましくは48(個/2.54cm)以上であり、更に好ましくは50(個/2.54cm)以上である。また、より好ましくは75(個/2.54cm)以下、更に好ましくは70(個/2.54cm)以下である。ウエール密度が上記範囲未満では、抗スナッグ性が向上しにくくなるおそれがある。一方、ウエール密度が上記範囲を超えると、風合いを向上しにくく、ストレッチ性を維持することができないおそれがある。
【0034】
本発明の編物の製造に使用する編機としては、針床における編針の密度(ゲージ)が1インチ(2.54cm)あたり30以上のシングル又はダブルニット編機が好ましい。編機ゲージは30~50針/2.54cmであることが好ましい。編機ゲージが50針/2.54cmを超えるとストレッチ性が低下しやすくなり、使用する糸を細くする必要があり、編物強度も低下しやすくなる。一方、編機ゲージが30針/2.54cm未満になると、密度が甘すぎて抗スナッグ性が低下しやすくなる。
【0035】
本発明の編物のニット-タックを形成する糸の糸長は、好ましくは80mm/100W以上、300mm/100W以下である。糸長が80mm/100W未満では、安定的に生産しにくく、編み欠点を低減することができないおそれがある。一方、300mm/100Wを超えると、ニットループの大きさをコントロールして抗スナッグ性の低下を抑えることができないおそれがある。ニットータックを構成する糸が複数種存在する場合には、複数の組織・糸種の糸長の算術平均値を糸長として考える。
【0036】
尚、本発明では、ニットータックを編成する糸の前コース及び/又は後コースに編成する糸にはオールニット単位の組織にすることも好ましい態様である。ウエール方向にニット-タックとオールニットとを編立順の前後に組み合わせることで編物がより緻密にしやすくなる。緻密になるとストレッチ性は下がる傾向になるが、抗スナッグ性に寄与しやすくなる。オールニットを形成する糸の糸長は、好ましくは120mm/100W以上、350mm/100W以下である。糸長が120mm/100W未満では、安定的に生産しにくく、編み欠点を低減することができないおそれがある。一方、350mm/100Wを超えると、編物のスナッグ低下を防止しにくくなる。なお、他の糸が複数種、複数本使われている場合には、他の糸の算術平均値を他の糸の糸長とする。なお、複数種の高伸縮伸長仮撚糸や、他の糸が使われている場合は、フィーダー別に糸長を測定して、同じ単位組織を持つ糸同士の糸長を算術平均した値を採用する。
【0037】
上記のニット-タック組織、オールニット組織を構成する糸は、高伸縮伸長仮撚糸だけで構成することが好ましいが、必ずしも高伸縮伸長仮撚糸だけで構成する必要はなく、ニット-タック組織やオールニット組織を構成する糸の一部に他の糸を用いても構わない。
【0038】
本発明の編物は、目付が100g/m以上、250g/m以下であることが好ましい。より好ましくは120g/m以上である。また、より好ましくは220g/m以下である。目付が上記範囲未満では、編物の密度を向上することができず、ハリ、コシを向上させてランの発生を低減することができないおそれがある。一方、目付が上記範囲を超えると、生産性を向上することができないおそれがある。目付は、後記する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0039】
本発明の編物のヨコ方向の伸長率は、25%以上、100%以下であることが好ましい。より好ましくは85%以下、更に好ましくは70%以下である。ヨコ方向の伸長率が上記範囲を超えると、ランの発生がしやすくなり、抗スナッグ性の低下を抑えにくくなるおそれがある。一方、ヨコ方向の伸長率が上記範囲未満であると、ストレッチ性が高い編物とは言いにくくなる。
【0040】
ヨコ方向に比べてタテ方向の伸長率を若干低めに抑える方が縫製品の着心物が良い傾向にある。従って、本発明の編物のタテ方向の伸長率は、20%以上、80%以下であることが好ましい。より好ましくは70%以下、更に好ましくは50%以下である。タテ方向の伸長率が上記範囲を超えると、縫製がしにくくなるおそれがある。一方、タテ方向の伸長率が上記範囲未満であると、製品の着心地が低下するおそれがある。上記のヨコ方向及びタテ方向の伸長率は、後記する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0041】
編物の伸長率を上記のように低く抑えるためには、染色加工中に仮撚糸の捲縮を十分に発現させて、かさ高になった糸で作られた編ループ同士の絡み合いを作ってから、更に強い熱処理を編物に加えて熱セットすることが好ましい。この熱セットは、乾熱では180℃以上、湿熱では120℃以上で行うことが好ましく、乾熱では190~210℃、湿熱では125~135℃で行うことがより好ましい。具体的には、生機をリラクサー等の連続リラックス工程を通して捲縮を高めたところで、強い熱セットを行えばよい。また、編物のヨコ方向の伸長率を抑えて、タテ方向とヨコ方向の伸長率のバランスを調整するために、タテ方向に比べてヨコ方向を若干引っ張り気味にして、編ニットループをヨコ長にするように仕上げるのも好ましい。
【0042】
本発明の編物は、抗スナッグ性において、JIS-L1058のD-1法(ダメージ棒法)で4級以上、さらに4.5級以上の性能を満足することができる。
【0043】
本発明の編物は、ダブルニットの場合、前述した構造を有するので、繋ぎ糸が一方の面から隠れやすい構造となっており、色の付いた制電糸を繋ぎに持ってきても、表面(一方の面)に制電糸の存在を目立たなくすることができる。このため、本発明の編物は、ワーキングユニフォーム等の制電作業服に好適に使用することができる。
【0044】
本発明の編物は、ストレッチ性と抗スナッグ性を両立しているため、作業用シャツやパンツ、ジャケット等のアウター衣料用として好適である。特に、快適に活動できる制服、ワーキング等のユニフォーム用の編物として最適である。
【実施例0045】
以下、実施例を挙げて本発明の効果を具体的に示すが、本発明は、下記実施例によって制限されず、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することが可能である。
【0046】
<糸の総繊度、フィラメント数、単糸繊度>
JIS-L1013:2010 8.3の繊度(総繊度)A法に基づいて糸の総繊度を測定してデシテックス(dtex)に換算した。また、JIS-L1013:2010 8.4に基づいてフィラメント数を測定して、総繊度/フィラメント数にて単糸繊度を求めた。
【0047】
<糸の伸縮伸長率(%)>
JIS-L1013:2010 8.11伸縮性 C法に基づいて測定した。前処理として、カセをガーゼで包んで熱水90℃で20分処理した。
【0048】
<糸の熱水寸法変化率>
JIS-L1013:2010 8.18.1熱水寸法変化率(A法)に基づいて測定した。処理条件は100℃×30分とした。
【0049】
<編物の平均糸長>
JIS-L1096:2010 8.8 編目長に基づいて、編み目長を測定した。具体的には、編組織を構成する各種の糸について、測長区間を編目100個分(100ウエール)とし、測長区間の糸をほぐしてから初荷重を加えたときの糸の長さを100で割ることにより各糸の平均糸長を算出した。但し、フィラメント糸の場合は、JIS-L1013の5.1(初荷重)に規定する初荷重を用い、紡績糸の場合の初荷重は、JIS-L1095:6.1(初荷重)に規定する初荷重を用いた。
【0050】
<編物の伸長率(%)>
JIS-L1096:2010 8.16 B法(定荷重)に基づいて測定し、荷重は490cNで行った。
【0051】
<編物の目付>
JIS-L1096:2010 8.3.2 A法の標準状態における単位面積あたりの質量に基づいて編物の目付を測定した。
【0052】
<編物の密度>
JIS-L1096:2010 8.6.2 編物の密度に基づいて、編物の一方の面のコース数(個/2.54cm)、ウェール数(個/2.54cm)を測定した。なお、ウエール数及びコース数とは、編物におけるヨコ方向1インチ間のウェール数及びタテ方向1インチ間のコース数である。
【0053】
<抗スナッグ性>
JIS-L1058:2011 7.3のD-1法に基づいて、編物の外側面のスナッグの等級を求めた。
【0054】
<制電糸の目立ちにくさ>
制電糸を裏に配した編物の仕上がり品(サックス色)を15cm角の正方形に切り取り、白色台紙の中央に貼り付けて、JIS-L1096 8.24洗濯後のシワの判定の観察装置の観察版に前記台紙を立てかけて、観察板から122cm離れたところで制電糸の目立ちにくさを判定した。殆ど見えない◎、かすかに見える○、見える△、目立つ×の4段階評価とした。
【0055】
<摩擦帯電圧>
JIS-L1096-C4M法で洗濯10回して乾燥後の編物にて、JIS-L1094:2014 7.2B法(摩擦帯電圧測定法)により測定した。但し、摩擦面はテクニカルバック(フロント筬側)とした。
【0056】
(実施例1)
30インチ、36ゲージのシングル丸編機(福原精機製作所製JS型)を用いて、図3に示す完全組織F1及びF2の繰り返しからなる生機を製編した。全給糸口には高伸縮伸長仮撚糸として、ポリブチレンテレフタレート(50質量%)とポリエチレンテレフタレート(50質量%)のサイドバイサイド断面のコンジュゲート繊維からなる丸断面繊維84dtex(T)、48フィラメント(f)のピン仮撚糸を用いた。この高伸縮伸長仮撚糸の伸縮伸長率は91.6%、熱水寸法変化率は-7.8%、各給糸口の糸長は175mm/100ウエール(W)とした。
【0057】
出来上がった生機を開反し、下記の処方1で連続精練を行い、その後、下記の処方2で染色を行い、仕上げ加工を行なった。
処方1(精練処方):オープンソーパー型連続精練機、里田加工株式会社製のノニゾールN 1g/l、日華化学株式会社製のネオクリスタルCG1000 0.5g/l、ソーダ灰0.5g/lを用いて、洗浄槽の浴温度は60℃→80℃→80℃とした。
【0058】
処方2(染色処方):日阪製作所製の液流染色機NSタイプを用いて、浴比1:15、130℃×45分で酢酸0.2g/l pH=4、明成化学工業株式会社製のディスパーN700 0.5g/l、日華化学株式会社製のネオクリスタルGC1000 0.5g/l、高松油脂株式会社製のSR1800 1.5%owf、分散染料(C.I Disperse Blue 56)0.3%owfを用いてサックス色で130℃で高圧染色後、常法で洗浄、遠心脱水、120℃で乾燥した。
【0059】
次いで、三洋化成工業株式会社製の帯電防止剤であるサンスタットES-11 1%ows(on the weight of solution)を仕上げ剤として付与した。仕上げ剤のピックアップは70%であった。その後、最終セットをピンテンター170℃×120秒の条件で行ない、性量調整し、最終編物を得た。なお、仕上げではシワが取れる程度にできるだけ幅を広げずに、かつタテ方向も引っ張らずに仕上げた。実施例1の編物の構成と各評価結果を表1に示す。
【0060】
(実施例2)
実施例1と同じシングル丸編機を用いて、同じ図3の編組織で編立を行った。その際、給糸口F1は実施例1と同じ高伸縮伸長仮撚糸を用いて糸長175mm/100Wで編立て、F2にはセミダル丸断面の84T36fのポリエチレンテレフタレート長繊維をフリクション仮撚機で仮撚加工した仮撚糸(伸縮伸長率31.3%、熱水寸法変化率―4.1%)(以下フリクション仮撚糸という)を用いて糸長175mm/100Wで編立てた。出来上がった生機を実施例1と同様に染色加工、仕上げを行った。編物中の高伸縮伸長仮撚糸の混率は50質量%、フリクション仮撚糸の混率は50質量%であった。実施例2の編物の構成と各評価結果を表1に示す。
【0061】
(実施例3)
実施例1と同じシングル丸編機(福原精機製作所製 JS型)を用いて、図4に示す完全組織F1からF4からなる編組織の生機を製編した。その際、給糸口F1~F4ともに実施例1と同じ高伸縮伸長仮撚糸を用いた。給糸口F1、F3の糸長は170mm/100Wとした。給糸口F2、F4の糸長は230mm/100Wとした。出来上がった生機を実施例1と同様に染色加工、仕上げを行った。実施例3の編物の構成と各評価結果を表1に示す。
【0062】
(実施例4)
実施例1と同じシングル丸編機を用いて、実施例3と同じ編組織で製編した。その際、給糸口F1、F3に実施例1と同じ高伸縮伸長仮撚糸を用いて糸長170mm/100Wで編立てた。次に給糸口F2、F4には、実施例2と同じポリエチレンテレフタレートのフリクション仮撚糸を用いて糸長230mm/100Wで編立てた。編物中の高伸縮伸長仮撚糸の混率は40質量%、フリクション仮撚糸の混率は60質量%であった。出来上がった生機を実施例3と同様に染色加工、仕上げを行った。実施例4の編物の構成と各評価結果を表1に示す。
【0063】
(実施例5)
33インチ、32ゲージのダブル丸編機(福原精機製作所製 LPJ型)を用いて、インターロックゲージングで図5に示す完全組織F1~F6からなる生機を製編した。その際、給糸口F1、F4として他方の面の組織を形成し、且つ表裏をタックでつなぐ糸として、セミダル丸断面の56T24fのポリエチレンテレフタレートのフリクション仮撚糸(伸縮伸長率28.9%、熱水寸法変化率―3.5%)を用いた。次に給糸口F2、F5の一方の面の組織を作る糸として、実施例1で用いた糸と同じ84T48fの高伸縮伸長仮撚糸を用いた。更に給糸口F3,F6の一方の面の組織を作る糸として、別の高伸縮伸長仮撚糸であるポリブチレンテレフタレート(50質量%)とポリエチレンテレフタレート(50質量%)のサイドバイサイド断面のコンジュゲート繊維からなる丸断面繊維56T36fのピン仮撚糸を用いた。この高伸縮伸長仮撚糸の伸縮伸長率は87.5%、熱水寸法変化率は-9.9%であった。また、F1、F4の糸長は200mm/100W、F2、F5の糸長は210mm/100W、F3、F6の糸長は155mm/100Wとした。編物中の84T48fの高伸縮伸長仮撚糸の混率は47質量%、56T36fの高伸縮伸長仮撚糸の混率は23質量%、56T24fのフリクション仮撚糸の混率は30質量%であった。出来上がった生機を実施例1と同様に染色加工、仕上げを行った。実施例5の編物の構成と各評価結果を表1に示す。
【0064】
(実施例6)
実施例5の裏組織のタテ方向に15mm間隔で制電糸を交編して生機を製編した。具体的には図5に示す完全組織を12リピートにつき1回、給糸口F1に22T1fの制電糸(KBセーレン製 ホワイトベルトロンB68)をF1の糸に引き揃えて編立てた。出来上がった生機を実施例5と同様に染色加工、仕上げを行った。実施例6の編物の構成と各評価結果を表1に示す。
【0065】
(実施例7)
実施例1と同様に30インチ、36ゲージのシングル丸編機を用いて、図3に示す完全組織F1、F2からなる生機を製編した。その際、使用する糸は、高伸縮伸長仮撚糸としてポリブチレンテレフタレートのセミダル丸断面の84T24fのピン仮撚糸(伸縮伸長率55.6%、熱水寸法変化率―5.4%)を用いて糸長175mm/100Wで編立てた。出来上がった生機を実施例1と同様に染色加工、仕上げを行った。実施例7の編物の構成と各評価結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
実施例1と同様に30インチ、36ゲージのシングル丸編機を用いて、図3に示す完全組織F1、F2からなる生機を製編した。その際、使用する糸は、高伸縮伸長仮撚糸の代わりに、実施例2で交編したセミダル丸断面の84T36fのフリクション仮撚糸(伸縮伸長率31.3%、熱水寸法変化率―4.1%)を用いて糸長175mm/100Wで編立てた。出来上がった生機を実施例1と同様に染色加工、仕上げを行った。比較例1の編物の構成と各評価結果を表1に示す。
【0067】
(比較例2)
実施例6と同様に30インチ、32ゲージのダブル丸編機を用いて、図5に示す完全組織F1~F6からなる生機を製編した。その際、給糸口F2、F3、F5、F6に高伸縮伸長仮撚糸を使わずに,F2、F5は実施例2の給糸口F2で用いた糸と同じフリクション仮撚糸を用いた。またF3、F6には、F1,F4と同じ56T24fのフリクション仮撚糸を用いた。また、実施例6と同じく完全組織12リピートにつき1回、給糸口F1に22T1fの制電糸(KBセーレン製 ホワイトベルトロンB68)をF1の糸に引き揃えて編立てた。出来上がった生機を実施例6と同様に染色加工、仕上げを行った。比較例2の編物の構成と各評価結果を表1に示す。
【0068】
(比較例3)
実施例1と同じ30インチ、36ゲージのシングル丸編機を用いて、図6に示す完全組織がオールニットからなる生機を製編した。全給糸口には高伸縮伸長仮撚糸として実施例1と同じ84T48fの高伸縮伸長仮撚糸を用いた。各給糸口の糸長は260mm/100ウエール(W)とした。出来上がった生機を実施例1と同様に染色加工、仕上げを行った。比較例3の編物の構成と各評価結果を表1に示す。
【0069】
(比較例4)
実施例1と同じ30インチ、36ゲージのシングル丸編機を用いて、比較例3と同様にして図6に示す完全組織がオールニットからなる生機を製編した。使用した糸を高伸縮伸長仮撚糸の代わりに実施例2の給糸口F2で用いた糸と同じ84T36fのフリクション仮撚糸を用いた。出来上がった生機を実施例1と同様に染色加工、仕上げを行った。比較例4の編物の構成と各評価結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1からわかるように、実施例1~7の編物は、一方の面における高伸縮伸長仮撚糸から構成されるニットータック単位構造の比率が本発明の範囲内であるため、優れたストレッチ性と抗スナッグ性を示した。一方、比較例1、2は、ニットータック単位構造を有するが、高伸縮伸長仮撚糸から構成されるものではなく、比較例3,4はそもそもニットータック単位構造を有していないため、ストレッチ性はあるが、一方の面における抗スナッグ性が劣っていた。なお、制電糸を含む場合は、実施例6の編物は、比較例2と比べて、その存在を目立たなくすることができていた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、ストレッチ性と抗スナッグ性を両立したワーキングユニフォーム等の衣料に好適な編物を提供することができる。さらに、色が付いた制電糸を使用しても表面に透けて見え難い編物を提供することができる。従って、本発明は、かかる衣料を製造・販売する業界において極めて有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6