(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144448
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】LNG気化器温水循環システムおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
F04D 15/00 20060101AFI20241003BHJP
F23K 5/00 20060101ALI20241003BHJP
F04B 49/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F04D15/00 D
F23K5/00 307Z
F04D15/00 F
F04B49/06 321B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024116180
(22)【出願日】2024-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000167794
【氏名又は名称】広島ガス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 裕吉
(72)【発明者】
【氏名】木原 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】山岡 直樹
(72)【発明者】
【氏名】谷口 健
(72)【発明者】
【氏名】里岡 誠
(57)【要約】
【課題】循環ポンプの運転台数変更時の給湯ヘッダ内の圧力変動を抑制する。
【解決手段】LNG気化器温水循環システム100は、複数の温水ボイラ40、インバータ32により回転数制御され複数の温水ボイラ40が生成する温水を系内に循環させる複数の循環ポンプ30、複数の温水ボイラ40が生成する温水をLNG気化器200に送る給湯ヘッダ10、LNG気化器200から温水を回収して複数の循環ポンプ30に戻す還湯ヘッダ20、給湯ヘッダ10と還湯ヘッダ20を連結するバイパス管路80に設けられた圧力調整弁50、給湯ヘッダ10内圧力が第1目標値以下となるように圧力調整弁50を制御する弁制御装置60、通常時において給湯ヘッダ10内の圧力が第1目標値よりも若干低い第2目標値となるようにインバータ32に周波数指令値を与えて循環ポンプ30の出力周波数をPID制御し、循環ポンプ30の運転台数が変更された直後から一定期間循環ポンプ30に対して通常時とは異なる制御を行うポンプ制御装置70を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LNG気化器に温水を循環させるLNG気化器温水循環システムであって、
前記温水を生成する複数の温水ボイラーと、
インバータにより回転数制御され、前記複数の温水ボイラーが生成する温水を系内に循環させる複数の循環ポンプと、
前記複数の温水ボイラーが生成する温水を集約して前記LNG気化器に送る給湯ヘッダーと、
前記LNG気化器で熱交換された温水を回収して前記複数の循環ポンプに分配して戻す還湯ヘッダーと、
前記給湯ヘッダーと前記還湯ヘッダーとを連結するバイパス管路に設けられた圧力調整弁と、
前記給湯ヘッダー内の圧力が第1目標値以下となるように前記圧力調整弁を制御する弁制御装置と、
通常時において前記給湯ヘッダー内の圧力が前記第1目標値よりも若干低い第2目標値となるように前記インバータに周波数指令値を与えて前記循環ポンプの出力周波数をPID制御し、前記循環ポンプの運転台数が変更された直後から一定期間前記循環ポンプに対して通常時とは異なる制御を行うポンプ制御装置と、
を備えたLNG気化器温水循環システム。
【請求項2】
前記ポンプ制御装置が、前記循環ポンプが減機された直後から一定期間前記PID制御のゲインを上げ、その後前記PID制御のゲインを元に戻す、請求項1に記載のLNG気化器温水循環システム。
【請求項3】
前記ポンプ制御装置が、減機後の前記循環ポンプの運転台数が少ないほど前記一定期間における前記PID制御のゲインをより上げる、請求項2に記載のLNG気化器温水循環システム。
【請求項4】
前記ポンプ制御装置が、前記循環ポンプが追機された直後から一定期間前記PID制御を停止して前記循環ポンプをオープンループ制御し、その後前記PID制御を再開する、請求項1ないし3のいずれかに記載のLNG気化器温水循環システム。
【請求項5】
温水を生成する複数の温水ボイラーと、
インバータにより回転数制御され、前記複数の温水ボイラーが生成する温水を系内に循環させる複数の循環ポンプと、
前記複数の温水ボイラーが生成する温水を集約してLNG気化器に送る給湯ヘッダーと、
前記LNG気化器で熱交換された温水を回収して前記複数の循環ポンプに分配して戻す還湯ヘッダーと、
前記給湯ヘッダーと前記還湯ヘッダーとを連結するバイパス管路に設けられた圧力調整弁と、を備えたLNG気化器温水循環システムの制御方法であって、
弁制御装置が、前記給湯ヘッダー内圧力が目標値以下となるように前記圧力調整弁を制御し、
ポンプ制御装置が、通常時において前記給湯ヘッダー内の圧力が前記第1目標値よりも若干低い第2目標値となるように前記インバータに周波数指令値を与えて前記循環ポンプの出力周波数をPID制御し、前記循環ポンプの運転台数が変更された直後から一定期間前記循環ポンプに対して通常時とは異なる制御を行う
ことを特徴とするLNG気化器温水循環システムの制御方法。
【請求項6】
前記ポンプ制御装置が、前記循環ポンプが減機された直後から一定期間前記PID制御のゲインを上げ、その後前記PID制御のゲインを元に戻す、請求項5に記載のLNG気化器温水循環システムの制御方法。
【請求項7】
前記ポンプ制御装置が、減機後の前記循環ポンプの運転台数が少ないほど前記一定期間における前記PID制御のゲインをより上げる、請求項6に記載のLNG気化器温水循環システムの制御方法。
【請求項8】
前記ポンプ制御装置が、前記循環ポンプが追機された直後から一定期間前記PID制御を停止して前記循環ポンプをオープンループ制御し、その後前記PID制御を再開する、請求項5ないし7のいずれかに記載のLNG気化器温水循環システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LNG(液化天然ガス)気化器に温水を循環させるLNG気化器温水循環システムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ガスは、LNGにLPG(液化石油ガス)を加えて熱量調整して気化させた天然ガスに付臭して製造され需要者の元へと届けられる。LNGはさまざまな方法で気化させることができるが、その一つにLNG気化器において温水を熱媒として気化させる方法がある。温水でLNGを気化させる場合、冷温水循環送水系であるLNG気化器温水循環システムによりLNG気化器に温水が循環供給される。
【0003】
都市ガスの需要量は時間帯により変動するため、ガスの需要変動に応じてガス製造量を調整しなければならず、そのためにはLNGの気化量を調整しなければならない。LNG気化器への温水流量が多ければ多いほどLNGが大量に気化するため、LNG気化器への温水流量の調整は重要である。そこで、LNG気化器温水循環システムは、複数系統の温水ボイラーおよび循環ポンプの運転台数を増減(すなわち追機あるいは減機)するとともに、給湯ヘッダーから還湯ヘッダーにバイパスする温水量を調整することによりLNG気化器への温水流量を調整できるようになっている。この場合、LNG気化器への温水流量は循環ポンプの運転台数に応じて段階的に大きく変化するため、LNG気化器が必要とする温水流量を超える温水は給湯ヘッダーから還湯ヘッダーへバイパスされる。
【0004】
上記のLNG気化器温水循環システムでは、LNG気化器が必要とするよりも多くの量の温水を循環させることで、ガスの需要変動や瞬間停電時の追従性が高くなり都市ガスを安定的に供給することができるというメリットがある。その反面、ガス需要が少なく温水の必要量が少ない時間帯においても常に一定量の温水を循環させているため、バイパスされる余剰な温水の循環のための電力が必要になるというデメリットがある。この問題について、循環ポンプにインバータを導入して循環ポンプの出力周波数をPID制御するようにすれば、LNG気化器が必要とする量だけ温水を循環させ、余剰な温水をバイパスさせなくてもよくなる。
【0005】
循環ポンプをPID制御する場合、運転台数を変更する際の圧力変動が問題となる。この問題について、PID制御される循環ポンプの運転台数をスムースに変更する技術が知られている(例えば、特許文献1、2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-40593号公報
【特許文献2】特開2011-214442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
LNG気化器温水循環システムにおいて循環ポンプの運転台数を変更すると給湯ヘッダー内の圧力が変動し、その結果、LNG気化器への温水供給量が変動してLNGの気化が不安定になるおそれがある。そこで、本発明は、LNG気化器温水循環システムにおいて循環ポンプの運転台数が変更される際の給湯ヘッダー内の圧力変動を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に従うと、LNG気化器に温水を循環させるLNG気化器温水循環システムであって、前記温水を生成する複数の温水ボイラーと、インバータにより回転数制御され、前記複数の温水ボイラーが生成する温水を系内に循環させる複数の循環ポンプと、前記複数の温水ボイラーが生成する温水を集約して前記LNG気化器に送る給湯ヘッダーと、前記LNG気化器で熱交換された温水を回収して前記複数の循環ポンプに分配して戻す還湯ヘッダーと、前記給湯ヘッダーと前記還湯ヘッダーとを連結するバイパス管路に設けられた圧力調整弁と、前記給湯ヘッダー内の圧力が第1目標値以下となるように前記圧力調整弁を制御する弁制御装置と、通常時において前記給湯ヘッダー内の圧力が前記第1目標値よりも若干低い第2目標値となるように前記インバータに周波数指令値を与えて前記循環ポンプの出力周波数をPID制御し、前記循環ポンプの運転台数が変更された直後から一定期間前記循環ポンプに対して通常時とは異なる制御を行うポンプ制御装置と、を備えたLNG気化器温水循環システムが提供される。
【0009】
本発明の別局面に従うと、温水を生成する複数の温水ボイラーと、インバータにより回転数制御され、前記複数の温水ボイラーが生成する温水を系内に循環させる複数の循環ポンプと、前記複数の温水ボイラーが生成する温水を集約してLNG気化器に送る給湯ヘッダーと、前記LNG気化器で熱交換された温水を回収して前記複数の循環ポンプに分配して戻す還湯ヘッダーと、前記給湯ヘッダーと前記還湯ヘッダーとを連結するバイパス管路に設けられた圧力調整弁と、を備えたLNG気化器温水循環システムの制御方法であって、弁制御装置が、前記給湯ヘッダー内圧力が目標値以下となるように前記圧力調整弁を制御し、ポンプ制御装置が、通常時において前記給湯ヘッダー内の圧力が前記第1目標値よりも若干低い第2目標値となるように前記インバータに周波数指令値を与えて前記循環ポンプの出力周波数をPID制御し、前記循環ポンプの運転台数が変更された直後から一定期間前記循環ポンプに対して通常時とは異なる制御を行うLNG気化器温水循環システムの制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、LNG気化器温水循環システムにおいて循環ポンプの運転台数が変更される際の給湯ヘッダー内の圧力変動を抑制することができる。これにより、LNGの気化安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るLNG気化器温水循環システムの概要図である。
【
図2】循環ポンプ減機時および追機時のタイミングチャートである。
【
図3】循環ポンプ減機時にPID制御のゲインを変更しない場合と一時的に上げる場合の温水圧力変動の例を表すグラフである。
【
図4】循環ポンプ追機時にPID制御を停止しない場合と一時的に停止する場合の温水圧力変動の例を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本発明を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0013】
≪システム構成≫
図1は、本発明の一実施形態に係るLNG気化器温水循環システムの概要図である。本実施形態に係るLNG気化器温水循環システム(以下、単に「システム」と称することがある。)100は、LNG気化器200に温水を循環供給する冷温水循環送水系である。具体的には、システム100は、給湯ヘッダー10、還湯ヘッダー20、3台の循環ポンプ30、3台の温水ボイラー40、給湯ヘッダー圧力調整弁50、PIC(圧力指示コントローラ)60、およびPLC(プログラマブルロジックコントローラ)70を備えている。なお、
図1において、温水を輸送する配管は実線矢印で、制御信号線は破線で示している。矢印は温水の流れる方向を表す。
【0014】
給湯ヘッダー10は、3台の温水ボイラー40が生成する温水を集約してLNG気化器200に温水を送る設備である。給湯ヘッダー10には給湯ヘッダー内圧力を計測する圧力センサー11が接続されている。
【0015】
還湯ヘッダー20は、LNG気化器200で熱交換された温水を回収して各循環ポンプ30に分配して戻す設備である。LNG気化器200で熱交換された後の温水はすぐには還湯ヘッダー20に戻らずに、CGS(コージェネレーションシステム)や廃棄物処理熱交換設備などの熱交換設備300を経由してそこで発生する排熱を回収して還湯ヘッダー20に戻ってくることがある。
【0016】
LNG気化器200は、図略のLNGタンクから転送されるマイナス162℃のLNGを給湯ヘッダー10から供給される温水で熱交換して気化させて天然ガスに戻す設備である。LNGはLNG気化器200の前流で熱量調整用のLPGが加えられて熱量調整されてさらに付臭剤が添加され、LNG気化器200において気化して都市ガスとなって需要者に供給される。
【0017】
給湯ヘッダー10と還湯ヘッダー20とはバイパス管路80で連結されて温水がバイパスできるようになっている。バイパス管路80の経路中に給湯ヘッダー圧力調整弁(以下、単に「圧力調整弁」と称することがある)50が設けられている。圧力調整弁50は、給湯ヘッダー10内の圧力が高まったときに開いて、給湯ヘッダー10からバイパス管路80を経由して還湯ヘッダー20へ温水を直接戻す。
【0018】
循環ポンプ30は、具体的には非容積式のポンプであり、より具体的にはケーシング内でインペラを回してその遠心力で液体を輸送する渦巻きポンプである。循環ポンプ30は図略の電動機で駆動される。当該電動機はインバータ32により回転数制御されて循環ポンプ30の出力周波数が制御される。
【0019】
循環ポンプ30の出力先には温水ボイラー40が接続されている。温水ボイラー40は、循環ポンプ30から送られる水(温度が低下した温水)を所定の温度まで加熱して、LNG気化器200に供給するための温水を生成する設備である。温水ボイラー40は、電気ボイラー、ガスボイラー、石油ボイラーまたはそれ以外のタイプのボイラーのいずれでもよい。
【0020】
このように、本実施形態に係るLNG気化器温水循環システム100では、各循環ポンプ30から送出された温水(温度が低下した温水)が各温水ボイラー40で加熱されて給湯ヘッダー10に集められ、そこからLNG気化器200へと送られて熱交換され、その後熱交換設備300において廃熱を回収した後に還湯ヘッダー20に戻り、還湯ヘッダー20から各循環ポンプ30に分配して戻されることで温水が系内を循環する。
【0021】
≪制御系≫
PIC60およびPLC70は、図略の上位装置から与えられる安全目標値と圧力センサー11の測定値を制御入力として制御対象を制御する制御装置である。PIC60は、圧力調整弁50を制御し、PLC70は、各循環ポンプ30を制御する。
【0022】
PIC60は、圧力センサー11の測定値が安全目標値を超えた場合に圧力調整弁50を開いて、給湯ヘッダー10からバイパス管路80を経由して還湯ヘッダー20へ温水を戻す。これにより、給湯ヘッダー10内の圧力が常に安全目標値以下に保たれ、給湯ヘッダー10からLNG気化器200に過剰量の温水が供給されないようになっている。
【0023】
PLC70は、給湯ヘッダー10内の圧力が目標値になるように循環ポンプ30の出力周波数をPID制御する。具体的には、PLC70は、圧力センサー11の測定値と目標値との誤差に基づいてインバータ32の周波数指令値を決定してそれを各インバータ32に共通に与え、各インバータ32は、与えられた周波数指令値に従って対応する循環ポンプ30の回転数を制御する。これにより、各循環ポンプ30の出力周波数が制御され、各循環ポンプ30から送出される温水流量が制御される。
【0024】
このとき、PLC70は、安全目標値よりも若干低い値を目標値として、例えば、安全目標値が0.45MPaの場合、それよりも0.02MPa低い0.43MPaを目標値として、給湯ヘッダー10内の圧力が0.43MPaに保たれるように循環ポンプ30の出力周波数をPID制御する。このようにPLC70が安全目標値よりも若干低い値を目標値として循環ポンプ30の出力周波数をPID制御することで、通常時において給湯ヘッダー10内の圧力が安全目標値よりも若干低い値に保たれる。このため、通常時において圧力調整弁50は開かれることなく閉じたままとなり、バイパス管路80を経由して給湯ヘッダー10から還湯ヘッダー20へ戻される温水をなくすことができる。
【0025】
LNG気化器200が必要する温水流量が大きく変化して運転中の循環ポンプ30の出力調整だけではその要求に対応できない場合、循環ポンプ30を追機または減機することで循環ポンプ30の運転台数を変更してLNG気化器200に供給する温水を増減することがある。
【0026】
例えば、LNGの需要量が増えて大量のLNGを気化させるためにLNG気化器200が多くの温水を必要とするようになった場合において、現在運転中の循環ポンプ30の台数では必要とされる温水流量が達成できないときには、休止中の循環ポンプ30を再稼働、すなわち、循環ポンプ30を追機することにより系内を循環する温水量を増やしてLNG気化器200に供給される温水量を増やすことができる。
【0027】
一方、LNGの需要量が減ってLNG気化器200に供給される温水が余剰となった場合において、運転中の複数の循環ポンプ30の出力を下限値まで下げてもなおLNG気化器200に供給される温水が余剰となるときには、給湯ヘッダー10内の圧力が高まることで圧力調整弁50が開いて余剰な温水が給湯ヘッダー10からバイパス管路80を経由して還湯ヘッダー20へ戻される。しかしこれではLNGの気化に使用されない無駄な温水が系内を循環することになるため、運転中の循環ポンプ30のいずれか1台を停止、すなわち、循環ポンプ30を減機することにより系内を循環する温水量を減らしてLNG気化器200に供給される温水量を減らすことで、バイパスされる無駄な温水をなくすことができる。
【0028】
PLC70が循環ポンプ30の出力周波数をPID制御しているときに循環ポンプ30が追機または減機されると給湯ヘッダー10内の圧力が変動し、その結果、LNG気化器200への温水供給量が変動してLNGの気化が不安定になるおそれがある。そこで、下記のように、PLC70が、循環ポンプ30の追機または減機の直後から一定期間循環ポンプ30に対して通常時とは異なる制御を行うことで、給湯ヘッダー10内の圧力変動を抑制する。
【0029】
図2は、循環ポンプ減機時および追機時のタイミングチャートである。(a)はLNG気化器200が要求する温水流量を、(b)は安全目標値を、(c)は給湯ヘッダー10内の圧力を、(d)は圧力調整弁50の動作を、(e)はPLC70がインバータ32に与える周波数指令値を、(f)は循環ポンプ30の1台(便宜上、「ポンプA」と呼ぶ)の出力周波数を、(g)は循環ポンプ30の別の1台(便宜上、「ポンプB」と呼ぶ)の出力周波数を、(h)は循環ポンプ30のさらに別の1台(便宜上、「ポンプC」と呼ぶ)の出力周波数を、それぞれ表す。なお、タイミングチャート中に示した各種値はあくまでも例としての値である。
【0030】
図2に例示したタイミングチャートは、ポンプA、ポンプB、およびポンプCの3台運転により温水を循環しているときにLNG気化器200の要求温水流量が低下したことでポンプCを停止させてポンプAおよびポンプBの2台運転による温水循環に切り替え、さらにその後、LNG気化器200の要求温水流量が増大したことでポンプCを再動作させてポンプA、ポンプB、およびポンプCの3台運転による温水循環に戻すというシナリオのものである。
【0031】
時刻t1以前、給湯ヘッダー10内の圧力が目標値(0.43MPa)になるように、ポンプA、ポンプB、およびポンプCの3台がPLC70によりPID制御される。具体的には、PLC70はインバータ32に30Hzの周波数指令値を出し、インバータ32はそれに追従して30Hzの出力周波数で動作している。この通常動作時において、給湯ヘッダー10内の圧力は安全目標値(0.45MPa)よりも低い目標値(0.43MPa)に保たれており、圧力調整弁50は閉じているためバイパス管路80を経由して給湯ヘッダー10から還湯ヘッダー20に温水がバイパスされることなく、ポンプA、ポンプB、およびポンプCの3台から送出される温水がすべてLNG気化器200に供給されている。
【0032】
≪循環ポンプ減機時の制御≫
時刻t1にLNG気化器200の要求温水流量が下がると、時刻t2に、動作中のポンプCに停止の指示が出されポンプCが停止し、残りのポンプAおよびポンプBの2台が給湯ヘッダー10内の圧力が目標値(0.43MPa)になるようにPID制御される。具体的には、PLC70からインバータ32へ出される周波数指令値が45Hzまで上がり、それに追従してポンプAおよびポンプBの出力周波数も上がり、時刻t3に45Hzに達する。
【0033】
時刻t2にポンプCが停止して循環ポンプ30の運転台数がポンプAおよびポンプBの2台に減ったことで、給湯ヘッダー10内の圧力は一時的に下がり、その後、ポンプAおよびポンプBの出力周波数の上昇に伴って上昇し、ポンプAおよびポンプBの出力周波数が45Hzに達する時刻t3にようやく目標値(0.43MPa)に戻る。ここでポンプAおよびポンプBの出力周波数が45Hzに達するまでに時間がかかるほど、給湯ヘッダー10内の圧力が低下する時間が長くなってその分圧力低下量が大きくなり、その結果、LNG気化器200への温水流量が要求量を大きく下回ってLNGの気化量が不安定化してしまう。そこで、PLC70は、ポンプCが停止する時刻t2から一定期間(たとえば、10秒間)PID制御のゲインを上げてポンプAおよびポンプBの出力周波数をより早くPLC70から出される周波数指令値に到達させ、その後PID制御のゲインを元に戻す。
【0034】
PID制御のゲインの上げ方として、Pゲイン、Iゲイン、およびDゲインのすべてを上げてもよいし、これらの中のいくつかを選択的に上げてもよい。
【0035】
運転中の循環ポンプ30を3台から2台に減機した直後は温水循環能力が33%低下するのに対し、運転中の循環ポンプ30を2台から1台に減機した直後は温水循環能力が50%低下することとなり、減機後の循環ポンプ30の運転台数が少ないほど減機直後の温水循環能力が大きく低下して給湯ヘッダー10内の圧力の低下量も大きくなる。したがって、PLC70は、減機後の循環ポンプ30の運転台数が少ないほどPID制御のゲインをより上げるようにすることが好ましい。これにより、減機後の循環ポンプ30の運転台数が少なくて給湯ヘッダー10内の圧力低下量が大きくなる場合において、より高いゲインで循環ポンプ30の出力周波数をPID制御して給湯ヘッダー10内の圧力を素早く目標値に戻すことができる。
【0036】
PID制御のゲインを上げる期間が短すぎると、ポンプAおよびポンプBの出力周波数が目標値に達する前にゲインが元の値に戻ってしまい、ポンプAおよびポンプBの出力周波数が目標値に達するまでに時間がかかってしまう。逆に、PID制御のゲインを上げる期間が長すぎると、ポンプAおよびポンプBの出力周波数が目標値に達してからも高いゲインでPID制御が継続され、過制御によりフィードバック系が不安定になるおそれがある。したがって、PID制御のゲインを上げる期間は、タイムチャートに例示した時刻t2から時刻t4までのように、循環ポンプ30の出力周波数が目標値に達するのに要する時間に若干の余裕を付加した時間にすることが好ましい。
【0037】
図3は、循環ポンプ減機時にPID制御のゲインを変更しない場合と一時的に上げた場合の温水圧力変動の例を表すグラフである。循環ポンプ30の出力周波数のPID制御のゲインを変更しない場合の給湯ヘッダー10内の圧力の変動は0.04MPaであるのに対し、本実施形態のようにPID制御のゲインを一時的に上げた場合には圧力変動は半分の0.02MPaとなる。このように、循環ポンプ30が減機された直後から一定期間循環ポンプ30の出力周波数のPID制御のゲインを上げることで、給湯ヘッダー10内の圧力変動を抑制してLNGの気化安定性を向上させることができる。
【0038】
≪循環ポンプ追機時の制御≫
図2に戻り、時刻t5にLNG気化器200の要求温水流量が上がって時刻t1以前の値に戻ると、休止中のポンプCに動作の指示が出され、ポンプCが動作を開始する。このとき、ポンプAおよびポンプCは45Hzの出力周波数で動作しているのに対し、動作開始直後のポンプCの出力周波数はすぐには45Hzに上がらずに、運転中のポンプA、ポンプB、およびポンプCの3台のうちポンプCのみが異なる出力周波数で動作している。このようにポンプA、ポンプB、およびポンプCの出力周波数が一致していない状態でこれらポンプをPID制御すると制御が不安定になり、給湯ヘッダー10内の圧力変動が大きくなる。そこで、PLC70は、ポンプCが動作を開始する時刻t5から一定期間(たとえば、30秒間)PID制御を停止してポンプA、ポンプB、およびポンプCをオープンループ制御してこれら3台のポンプをPID制御停止時の出力(この場合、45Hz)で動作させて出力周波数が一致したら、ポンプA、ポンプB、およびポンプCの出力周波数のPID制御を再開する。
【0039】
時刻t5にポンプCが動作を開始して循環ポンプ30の運転台数がポンプA、ポンプB、およびポンプCの3台に増えたことで、給湯ヘッダー10内の圧力は上昇し始め、時刻t6に安全目標値を超える。これにより、時刻t6に圧力調整弁50が開いて給湯ヘッダー10からバイパス管路80を経由して還湯ヘッダー20に温水が戻され、給湯ヘッダー10内の圧力は徐々に下がって時刻t7に安全目標値の0.45MPaまで下がり、その後しばらくその値が維持される。この間、ポンプAおよびポンプBはPID制御停止時の出力を維持し、ポンプCはポンプAおよびポンプBの出力に追いつくように徐々に出力を上げることでLNG気化器200が必要とする量以上の温水が系内を循環するが、圧力調整弁50の働きにより余剰な温水はバイバスされて給湯ヘッダー10内の圧力は安全目標値に保たれる。
【0040】
その後、時刻t8にポンプCの出力がポンプAおよびポンプBの出力に追いつき、ポンプA、ポンプB、およびポンプCの出力周波数が一致し、時刻t9に、PLC70は、ポンプA、ポンプB、およびポンプCの出力周波数のPID制御を再開し、インバータ32の周波数指令値を30Hzまで徐々に下げ、それに追従してポンプA、ポンプB、およびポンプCの出力周波数が徐々に下がり、時刻t10に30Hzに戻る。
【0041】
ポンプA、ポンプB、およびポンプCの出力周波数が30Hzまで下がることにより系内を循環する温水量も減り、給湯ヘッダー10内の圧力が安全目標値を下回ることで圧力調整弁50が閉じて給湯ヘッダー10からバイパス管路80を経由して還湯ヘッダー20に温水が戻されなくなる。その後、給湯ヘッダー10内の圧力は下がり続け、時刻t11に、時刻t1以前と同様にPLC10のPID制御の目標値である0.43MPaに戻る。
【0042】
PID制御を一時停止する期間が短すぎると、ポンプA、ポンプB、およびポンプCの出力周波数が一致する前にPID制御が再開されて制御が不安定になるおそれがある。逆に、PID制御を一時停止する期間が長すぎると、圧力調整弁50が給湯ヘッダー10内の圧力を調整する期間が長くなり、その分、給湯ヘッダー10からバイパス管路80を経由して還湯ヘッダー20に温水が戻される期間が長くなり、多くの温水が無駄にバイパスされてしまう。したがって、PID制御を一時停止する期間は、タイムチャートに例示した時刻t5から時刻t9までのように、動作を再開した循環ポンプ30が他の動作中の循環ポンプの出力に達するのに要する時間に若干の余裕を付加した時間にすることが好ましい。
【0043】
図4は、循環ポンプ追機時にPID制御を停止しない場合と一時的に停止する場合の温水圧力変動の例を表すグラフである。循環ポンプ30の出力周波数のPID制御を停止しない場合の給湯ヘッダー10内の圧力の変動は0.07MPaであるのに対し、本実施形態のようにPID制御を一時停止する場合には圧力変動は0.05MPaまで低減される。このように、循環ポンプ30が追機された直後から一定期間循環ポンプ30の出力周波数のPID制御を停止してオープンループ制御することで、給湯ヘッダー10内の圧力変動を抑制して、LNGの気化安定性を向上させることができる。
【0044】
≪効果≫
本実施形態に係るLNG気化器温水循環100では、循環ポンプ30の運転台数が変更される際の給湯ヘッダー10内の圧力変動を抑制することができる。これにより、LNGの気化安定性を向上させることができる。
【0045】
≪変形例≫
循環ポンプ30は3台に限定されず、2台に減らしてもよいし、逆に4台以上にしてもよい。PIC60とPLC70を分けずに1台の制御装置で圧力調整弁50と循環ポンプ60を制御するようにしてもよい。
【0046】
以上のように、本発明における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【符号の説明】
【0047】
100 LNG気化器温水循環システム
10 給湯ヘッダー
20 還湯ヘッダー
30 循環ポンプ
32 インバータ
40 温水ボイラー
50 給湯ヘッダー圧力調整弁(圧力調整弁)
60 PIC(弁制御装置)
70 PLC(ポンプ制御装置)
80 バイパス管路
200 LNG気化器